井口健二のOn the Production
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2008年12月28日(日) ブラッド・ブラザーズ、ダウト−あるカトリック学校で−、チェ28歳の革命/39歳別れの手紙(再)

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※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介しています。     ※
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『ブラッド・ブラザーズ』“天堂口”
『レッドクリフ』でアジア復帰を果たしたジョン・ウー監督
が、その前に製作者として関っている中国作品。1930年代の
上海を舞台に、ウーが興した香港ノワールを髣髴とさせる物
語が展開される。
2006年『女帝』などのダニエル・ウーが扮する主人公は、農
村地帯のとある寒村で貧しいけれど堅実な暮らしを続けてい
た。ところが親友の兄に上海でウェイターの仕事が決まり、
一緒に上海に出て一旗上げようと誘われる。その誘いに最初
は慎重だった主人公も、家計を助けるとの名目で上海行きを
決意する。
こうして上海に到着した主人公とその親友の兄弟だったが、
その兄には定職があるものの、弟と主人公は人力車の車夫程
度の仕事しかありつけない。しかし兄の誘いで、兄の勤める
キャバレー「天国」に出入りするようになった彼らは、徐々
に危険な裏社会へと足を踏み入れて行くことになる。
そしてある抗争事件に巻き込まれた主人公は、偶然手にした
拳銃で相手を射殺、これで殺し屋としての手腕を認められて
しまう。これにオーナーの右腕の先輩殺し屋や、オーナーの
愛人のキャバレーの歌姫などが絡んで、派手なアクションの
陰に潜む、切ない物語が展開されて行く。

他の出演は、親友の兄弟役に『王妃の紋章』のリウ・リエと
『僕の恋、彼の秘密』などのトニー・ヤン、歌姫役に『トラ
ンスポーター』などのスー・チー、先輩殺し屋役に『レッド
クリフ』に出演のチャン・チェン、さらにオーナー役に『梅
蘭芳』のスン・ホンレイ、主人公の地元の恋人役に『シュウ
シュウの季節』などのリー・シャオルー。
監督は、台湾出身の写真家で本作が長編映画デビューとなる
アレクシ・タン。写真家出身らしい映像で物語が綴られる。
なお本作は、東京では1月17日〜2月6日に六本木シネマー
トで開催される「香港電影天堂」と題されたシリーズ企画の
中心作品として上映される。
それから本作では、主人公たちが倉庫に押し入る場面でライ
オンの刻印の押された箱を探すというシーンがあり、そこで
見つけるのがウーのプロダクション=ライオンロックのロゴ
マークの付いた箱、その中身は…これにはちょっと笑えたと
ころだ。

『ダウト−あるカトリック学校で−』“Doubt”
本年度ゴールデン・グローブ賞に演技賞など5部門でノミネ
ートされている人間ドラマ。ケネディ大統領暗殺の衝撃も覚
め切らない1964年早春、ニューヨーク・ブルックリンに所在
するカトリック系の私立学校を舞台に、他人を疑うことの恐
ろしさを描き切った作品。
主演は、ゴールデン・グローブ賞主演女優賞ドラマ部門に、
コメディ/ミュージカル部門『マンマ・ミーア!』とダブル
ノミネートを達成したメリル・ストリープ。
その彼女が演じるのは、カトリック系の学校に君臨する厳格
な校長。流行のボールペンも筆跡が乱れるとの理由で使用を
禁止するほどの保守的な考えの持ち主だが、修道女の身分の
彼女は、司祭の地位にいる男性教師を指導することまではで
きない。その中でも進歩的な考えを持つ男性教師は特に目に
付く存在だ。
そんなある日のこと、新任の女性教師がとある状況を目にす
る。それはその男性教師が生徒の少年に不適切な行為を行っ
ていることを疑わせるものだった。そして、その男性教師を
詰問した校長は一層疑いを深めるが…、同席した女性教師は
彼に理解を示す。
果たして男子教師の言い分は正しいのか。校長の疑いは彼を
憎むあまりの妄想なのか。それでも校長は、その男性教師を
排除するための最後の手段に出るが…。
この物語に、生徒が校内で唯一の黒人生徒であるなど、いろ
いろな状況が絡み合って先の見えないドラマが展開される。
共演は、男性教師役にフィリップ・シーモア・ホフマン、新
任の女性教師役にエイミー・アダムス、さらに生徒の母親役
ヴィオラ・デイヴィスの3人がゴールデン・グローブ賞の助
演賞にノミネートされている。
脚本と監督は、本作の元になった戯曲でトニー賞とピュリッ
ツァー賞演劇賞をダブル受賞しているジョン・パトリック・
シャンリー。マイクル・クライトン原作『コンゴ』などの脚
本家が、1990年“Joe Versus the Volcano”以来のメガホン
を取ったものだ。因に、ゴールデン・グローブ賞の脚本賞の
候補にもなっている。
規律について語る憎々しげなストリープの演技は迫力満点だ
し、さらに彼女とホフマンの2人だけの対決シーンは見応え
充分に作られている。

『チェ28歳の革命/39歳別れの手紙』(再)
11月16日付で紹介した作品だが、その後でスティーヴン・ソ
ダーバーグ監督と主演ベニチオ・デル=トロの来日記者会見
が行われ、自分も質問したのでその報告をしておきたい。
会見は、12月18日に東京神田駿河台にある明治大学の記念講
堂を使用して実施されたもので、かなり広い会場の前半分に
マスコミ、後半分には学生と一般も入るという公開形式で行
われた。
その会見の前半はマスコミ対象のものだったが、そこで僕は
2本の作品のスタイルが全く違うことについて監督に質問を
してみた。
その回答は、「監督には2つの人種がいて、その1つは物語
が何であっても自分のスタイルを貫く人、もう1つは物語に
合せてスタイルを変える人。自分はその後者で、今回の2作
品では、『28歳の革命』に関しては、チェ自身が著わした
キューバ革命を総括した本などもあり、その全体を見渡す作
品を作れた。しかし『39歳別れの手紙』では、チェ自身の
日記などを基にしたが、それは1日先の生死も判らないよう
な緊迫したものだった。だからそのような緊迫感や恐怖を描
くスタイルにした」とのことだった。
実はここで、僕は前の質問と一緒に、「この2作品が監督の
フィルモグラフィー上でどちらが先になるか」という質問も
していたのだが、それがはぐらかされそうになった。そこで
マイクを握ったまま質問を繰り返したのだが、これがちょっ
と会見の進行を妨害する形になってしまった。ただし、監督
からは「2作品は常に対比するものとして構想していたし、
色使いも一方は暖色を基調にし、他方は寒色を多くするなど
常に相互関係を考えながら作った。したがって2本は1つの
作品として考えている」との回答を貰えた。
監督の全体像を考えるときに、作品の変遷は足掛かりとなる
もので、2作品の順番というのは情報として重要なものだ。
今回は、作品の構想としては『39歳』が先にあり、その後
に『28歳』が出てきたことはプロダクションノートなどで
も明らかにされているが、その監督としての位置づけが聞き
たかったものだ。同時というのはどう解釈すれば良いのかは
判らないが、とりあえずの情報としては得られた。
なお監督は、会見の中で「芸術の表現手段として、何が一番
観る人に思いを伝えられるかを常に模索している。今は映画
が一番だと思っているが、もっと良い方法が見つかれば将来
的に映画を捨てる可能性もある」とも発言しており、そうな
ったときに、そこに至る作品の変遷は考察してみたくなりそ
うだ。
なお、マイクを放さなかったのは、後ろに一般の観客もいる
場所では、マスコミの意地を見せたかったりもしたもので、
その辺ご了承くださいというところだ。
        *         *
ということで1年が過ぎたが、今年1年はフリーターだった
こともあって、映画は昨年の311本を大幅に越え、試写会+
映画祭のマスコミ上映+サンプルDVDを合せて丁度400本
となった。映画祭の報告はまだ書けていないが、その他の作
品の紹介はかなりの本数を掲載することができた。来年は再
就職の計画もあり、今年ほどにはできないかも知れないが、
とにかく来年も映画は見続けていきたいと思っているので、
よろしくお願いします。
では、最後に私的なベスト10を挙げておきます。対象はこの
欄で紹介した作品で、期間は2008年に東京で一般公開された
ものとし、SF/ファンタシー映画と一般映画に分けてそれ
ぞれで選んであります。なお、選択に洋邦画の区別はしませ
んでしたが、一般映画は洋画のみとなりました。それから、
一般映画とSF/ファンタシー映画で作品が重なっていない
のは、出来るだけ多くの映画を挙げたかったためで、それぞ
れのジャンルで優劣がある訳ではありません。

一般映画           SF/ファンタシー映画
1.潜水服は蝶の夢を見る   1.GHOST IN THE SELL 2.0
2.幻影師アイゼンハイム   2.ダークナイト
3.スウィーニー・トッド   3.アイアンマン
4.イントゥ・ザ・ワイルド  4.ゲットスマート
5.アクロス・ザ・ユニバース 5.真木栗の穴
6.コレラの時代の愛     6.永遠の魂
7.ゼア・ウィル・ビー…   7.ちーちゃんは悠久の…
8.つぐない         8.ダイアリ・オブ・ザ…
9.愛しき隣人        9.センター・オブ・ジ…
10.レス・ポール伝説     10.スピード・レーサー

では良い年をお迎えください。



2008年12月21日(日) チェンジリング、遭難フリーター、花の生涯:梅蘭芳、連獅子/らくだ、パッセンジャーズ、PVC−1、ザ・クリーナー

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※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介しています。     ※
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『チェンジリング』“Changeling”
この作品の製作については、2006年7月15日付の第115回な
どで紹介したが、当初はテレビSFシリーズ『バビロン5』
の企画者でもあるJ・マイクル・ストラジンスキーが脚本を
手掛けたという情報で、ジャンル映画を期待したりもしたも
のだ。因に原題は、妖精が子供をさらった際に置いて行く身
替りのことを指している。
ところが、最初はロン・ハワードの監督とされていた計画に
クリント・イーストウッドが参入し、さらにアンジェリーナ
・ジョリーの主演となって、これは只ものではないという感
じがしてきた。
そして完成された作品は、1928年にロサンゼルスで発生した
少年行方不明事件の実話に基づく、1人の母親の信念の物語
が展開されるものとなっていた。
1928年3月10日、母子家庭の母親が急な仕事で家を離れた隙
に、その家の1人息子の姿が消える。しかし警察は、母親の
訴えに「子供の行方不明は24時間経つまで事件としない」と
回答し、24時間後の訴えにもその対応は鈍いものだった。
一方、当時のロサンゼルス市警は、専横的な市長と警察本部
長の許、警察官には独自の判断で容疑者を射殺する権限を与
えるなど異常な体制となっており、そこには違法捜査や汚職
などの腐敗も噂されていた。
ところが母親の訴えから5か月後、市警青少年課の警部から
少年発見の知らせがもたらされる。そして、多数の報道陣と
共に駅で出迎えた母親の前に1人の子供が現れる。
しかしその少年の姿は、母親には一目で自分の息子ではない
と確信させるものだった。
これに対して逆風の中、自らの手柄と大々的に発表した警察
は後に引くことができない。そして警察は母親に息子と認め
ることを強要し、それでも「子供を探して」と訴え続ける母
親には制裁の手段を選ばなくなって行く。
その結果は…

先月紹介した『ポチの告白』でも、映画の最初の方で警察の
横暴ぶりが紹介され、物語の背景が提示されることで映画の
世界に引き込まれたが、本作の場合も最初に1920年代の異常
な警察の姿が描かれることで、この物語の本質が俄に把握で
きるようになっている。
このように世界観の構築が適切な作品は、その後の物語への
感情移入や展開の理解も容易に行える。この作品はその点で
も見事なものであり、2時間21分の上映時間が全く長さを感
じさせず、むしろ終ったときに短くも感じられたものだ。
映画は1920年代のロサンゼルスの景観の再現も素晴らしく、
また、アンジェリーナ・ジョリーの母親としての演技など、
見終っても心を揺り動かされるような作品だった。

『遭難フリーター』
仙台出身の男性が、大学卒業後に東京に憧れて派遣社員とし
て埼玉県本荘市のキャノンの工場で働く。その1年間をヴィ
デオで綴った67分の作品。
時給1250円、ボーナス、昇給なし。これで月収は19万円ほど
になるが、派遣会社からあてがわれた住居費などが天引きさ
れて手取りは12万円。そこから借金の返済などに6万円が充
てられ、その残りで飲食を含めた生活が賄われる。
もちろん借金の返済が済めば多少は楽にはなるのだろうが、
それにしてもぎりぎりの生活だ。これが大学も出た現代の日
本の若者の姿。それは仙台に実家に帰ればまた別の面もある
かもしれないが、彼自身は東京に居たいと言う。
試写会は主演もしている監督の質疑応答付きで行われたが、
そこの発言でも、仙台で仕事が保障される訳でもないし、む
しろ東京の方が可能性は高いと考えてもいるようだ。そんな
現代の若者が置かれた現状が、かなり鮮烈に描かれた作品と
も言える。
映画の中で主人公は、お盆などの工場が休業の時は現金収入
が減るので、他に日雇い労働に出かける。そして憧れの東京
に足を踏み入れる。しかし、土日の仕事では間で埼玉に帰る
交通費も乏しく、マンガ喫茶などで夜明かしをする。
先日もそんな場所での火災が事件になったが、現実の厳しさ
は計り知れないもので、そんなことも今更ながらに目の当り
にさせられる思いがした。
また映画の中では、キャノンが史上最高4000億円の利益を上
げたという新聞記事も紹介される。その時の正社員と派遣社
員の数は併せて約3万人。単純な頭割でも1人当り1千万円
以上となるが、彼らにそんな賃金が支払われることはない。
さらに主人公は、派遣社員の待遇改善を求める街頭行動に参
加したり、それによってマスコミに取り上げられたり、トー
クイヴェントに参加したりもするが、何をしても八方塞がり
の感じは否めない。
それでも最後に主人公は、高円寺での深夜までの仕事の後、
宛もなく雨の環状七号線を南下し始め、平和島に辿り着く。
そこで進入禁止の看板に行く手を阻まれたとき、ここが自分
の出発点だと宣言する。
八方塞がりの社会でも何かを始めようとする言葉には希望を
感じるし、そのコンセプトがこの作品自体を救ってもいるの
だろう。だから見終っても、何処か気持ちがすがすがしいも
のになっていた。
なお一般公開は、来年2月に東京で開始の予定だが、作品中
の実名部分などは表現上で一部変更の可能性はあるようだ。

『花の生涯/梅蘭芳』“梅蘭芳”
2002年『北京ヴァイオリン』などの陳凱歌監督が、1993年の
『さらば、わが愛/覇王別姫』以来15年ぶりに中国京劇の世
界に挑んだ作品。
『覇王別姫』は全くのフィクションだったが、今回は20世紀
初頭に実在した女形の名優を主人公に、当人が「俳優の王」
と謳われるようになるまでの経緯や男形女優との悲恋、海外
公演の様子や日本軍による占領などのエピソードを交えてド
ラマが展開される。
そしてそこには、主演のレオン・ライ及び主人公の青年時代
を演じた新星ユイ・シャオシェンによる梅蘭芳の名舞台の再
現なども織り込んで、見事な歴史絵巻が展開されるものだ。
特にこれらの舞台では梅蘭芳の息子による歌声の吹き替えも
聞き物になっている。
共演は、梅蘭芳の妻役に監督夫人のチェン・ホン、後見役に
スン・ホンレイ、ライヴァルの老優役にワン・シュエチー、
日本軍の将校役に安藤政信。そして男形女優役にはチャン・
ツィイーが登場。女形の主人公との共演シーンは演技以上に
芸術的なものになっている。
映画の物語は、実話では複数の人物を1人に纏めるなど判り
易くはしているが、ほぼ史実に基づくもの。それを実の息子
が歌声を吹き替えるほどの関係者の全面協力の許で映画化し
ているものだが、その中で悲恋の部分にまで触れられたのは
監督の力にもよるようだ。
その物語は、西太后が君臨する清朝末期に始まる。両親とは
早くに死別し、京劇俳優だった祖父に育てられた主人公。し
かしその祖父は皇后の怒りに触れて処刑されてしまう。その
遺言では、京劇の道は目指すなとされるが、主人公は一族の
血を継いでその跡取りとなる。
そして10年後、清朝は崩壊して中華民国となった社会で、京
劇俳優として頭角を現す主人公は、講演会で巡り会った官吏
の男性と義兄弟の契りを結び、そのアドヴァイスの許、京劇
界に新風を吹き込む活動を始める。
それは当然ヴェテラン俳優たちの反感も買うが、そこには挑
戦状を突きつけて意志を貫き通す。そして民衆の支持も勝ち
取って行く。そんな彼には、やがて「俳優の王」の扁額も贈
られるようになるが…
監督は、2005年『PROMISE』では武侠ものにも挑戦して見せ
たが、やはり本作のような人間ドラマの方が似合っているよ
うだ。その人間ドラマを、大掛かりなセットや見事な演出で
綴った作品。その見応えは充分なものだった。

『連獅子/らくだ』
8月に『人情噺・文七元結』を紹介しているシネマ歌舞伎の
第7作。今回はこれも落語からの『らくだ』と、山田洋次監
督による『連獅子』が2本立てで上映される。因にタイトル
は上記の表記だが、上映は『らくだ』が先になっていた。
その『らくだ』は、長屋の嫌われ者の駱駝こと馬太郎が河豚
に当って急死し、それを弔おうとする仲間の手斧目半次と、
来合わせた紙屑買久六が、長屋の大家から通夜の酒肴をせし
めるため、ついには死人にカンカンノウを踊らせる…という
もの。
元は上方落語で、大正時代に東京に持ってこられたもののよ
うだが、落語では真打ちも手こずる大ネタとされているそう
だ。僕自身は、演者が誰だったかは覚えていないが口演を聴
いた覚えはあり、特に後半の踊りの場面は死人と踊らせる側
の2役が見事だったと記憶している。
その落語が、昭和初期には歌舞伎としても上演されていたと
のことで、今回はそれを久六を中村勘三郎、半次を坂東三津
五郎の人気者に、馬太郎は片岡亀蔵という配役で演じられた
舞台面の映像となっている。
因にこの3名は、1993年と94年にも同じ配役で演じており、
今回は2008年8月に14年ぶりに再演したときのもの。息もピ
タリと合った名演となっている。特に死人役の亀蔵が、ほと
んど胸の動きも押さえ込んで横たわっている姿や、三津五郎
との踊りは見事だった。
そして後半の『連獅子』は、中村勘三郎の親獅子に、2人の
息子が子獅子で共演という3人の獅子舞となるもので、普通
とは違う振り付けも見所となっている。
これも僕は、妹が以前に花柳流を習っていた関係で、当時の
花柳徳兵衛の踊りを観ているが、日本舞踊の中でも華やかさ
では群を抜くものと認識している。その踊りがさらに華やか
に演じられるものだ。
しかも今回は、その地方で歌われる長唄の歌詞が字幕になっ
ており、これは作品を理解する上でも貴重なものとなってい
る。もちろん物語自体は親獅子が子獅子を谷底に突き落し、
這い上がってきた児だけを育てるという故事に基づくものだ
が、歌詞が判ることで一層楽しめるものになっていた。

『パッセンジャーズ』“Passengers”
今秋公開された『ゲット・スマート』の映画版で99号に扮し
たアン・ハサウェイ主演によるサスペンス・スリラー。
パイロットの操縦ミスとされる航空機事故で、その被害者の
心理治療担当者となった女性が、機体製造会社の陰謀とも思
える事件に立ち向かって行く。
その事故では5人が奇跡的に生き残った。その心理治療の担
当者となった主人公は彼らのカウンセリングを開始するが、
そのうちの1人は妙に健康で、カウンセリングへの参加も拒
絶する。
ところがカウンセリングの過程で事故の模様を聴取し始めた
彼女は、被害者たちの発言に食い違いがあることに気づく。
それは、パイロットの操縦ミスとされる事故原因に疑問を生
じさせるものだった。
そして、事故前に機体に爆発があったと発言した被害者が、
次のカウンセリングから姿を現さなくなる。その発言は、機
体の製造ミスを疑わせるものであった。さらに被害者が次々
姿を消して行く。
果たして事件の真相は何だったのか…
同様の展開では、2000年の『ファイナル・デスティネーショ
ン』が思い浮かぶところだが、本作もそれと同じようなテー
マの展開となるものだ。つまりそれなりにファンタスティッ
クな展開となるということ。
これ以上の紹介ができないのが残念なところだが、まあ悪く
ない結末は設けられている。ただ、僕自身としては何となく
物語の辻褄に疑問も生じているところで、できたらもう1回
観てその疑問を解消したい気持ちにもなっている。

とは言え悪い結末ではないし、ハサウェイも体当たりでがん
ばっているのは評価したいところだ。
共演は『オペラ座の怪人』などのパトリック・ウィルスン、
『ポセイドン』のアンドレ・ブライアー、『ゾディアック』
のクレア・デュヴァル、『チャンス』のダイアン・ウィース
ト、『ディスタービア』のデイヴィッド・モースなど。
脚本は、テレビシリーズ『ダーク・エンジェル』などのロニ
ー・クリステンセン。監督は作家ガルシア=マルケスの息子
で、テレビシリーズ『ザ・ソプラノズ』も手掛けたロドリゴ
・ガルシアが担当した。

『PVC−1[余命85分]』“PVC-1”
かつて世界で最も殺人が多発している国とされたコロンビア
で、反政府軍の仕業とされたダイナマイトネックレス事件。
富裕層の女性が首にダイナマイトを巻かれて脅迫され、多額
の「税金」を要求された事件を参考に、85分ワンカットの映
像で演出された作品。
映画は犯罪者の1団がジープで乗り付け、農場に住む一家を
襲うところから始まる。彼らの1人は慎重にある物を運んで
おり、メジャーで一家の主人と妻の首回りを測ると、妻の首
に運んできた物=塩化ビニール管を繋げた首枷を付け、スイ
ッチを入れる。
その首枷にはダイナマイトが内蔵されており、彼らはそれを
いつでも爆発できると宣告、そして多額の金を要求するのだ
が…
彼らが立ち去ると主人は直ちに行動を起こし、親戚を通じで
警察に事件を報告すると、爆発物処理班と落ち合う場所に向
かって行軍を開始する。それは、山中を行き交うトロッコ列
車に乗ったり、野越え山越えの厳しい行軍だ。
そしてそれを成し遂げた彼らは爆発物処理班と落ち合い、警
察隊や救護隊の見守る中、首枷除去の作業が始まる。しかし
それは予想以上に困難な作業だった。

この物語が全編ワンカットで描かれる。
全編ワンカットの映画というと、2002年11月に紹介した『エ
ルミタージュの幻想』や、昨年の東京国際映画祭で上映され
た『ワルツ』などが話題になったが、実はこの2作とも、途
中で何か所かカットを疑うシーンがあったものだ。
しかし本作は間違いなしのワンカット。ただし今回の上映は
フィルムに変換されていたので、プロジェクターの切り替え
があるのだが、逆にそこは切り替えが目立っても撮影は一連
と判るシーンが選ばれており、他のシーンもカットは不可能
な場面ばかりだった。
その撮影は、脚本、監督のスピロス・スタソロプロスが自分
で行っているものだが、正に1発勝負の撮影を見事に達成し
ている。ただまあちょっと不要なものが写っていたような気
のする場面はあったが、それはご愛嬌。映画全体は見事に完
成されたものだ。
とは言うものの、実は映画は極めて後味の悪い内容、だがこ
れが現実。エンディングで幼い娘の抱えている赤い物が痛々
しいが、その痛々しさが現実の恐怖を見事に訴えている。 
『ソウ』はフィクションだが、これはリアルだ。


『ザ・クリーナー』“Cleaner”
2006年11月15日付の第123回で製作ニュースを紹介している
レニー・ハーリン監督、サミュエル・L・ジャクスン主演に
よるサスペンス作品。
殺人現場などの掃除を専門に行うスペシャリストの男性が、
依頼された明らかな殺人現場のクリーニングを行う。しかし
その現場はまだ警察がタッチしていないものだった。さらに
その家の主人と思われる男の失踪事件が報道され、しかも失
踪したのは警察汚職事件の鍵を握るとされる人物。
ジャクスンが演じる主人公は元刑事で、ある事件をきっかけ
に警察を辞めて今の仕事を始めたが、そこにも汚職事件との
関わりはあるようだ。そして彼は、自分にも嫌疑のかかる恐
れのある事件を独自に調査し始めるのだが…
この主人公の調査に協力する元同僚刑事役にエド・ハリス、
主人公が掃除した邸宅の女主人役にエヴァ・メンデスを配し
て見事な犯罪劇が展開される。
レニー・ハーリンというと、『クリフハンガー』や『カット
スロート・アイランド』など、派手なアクション演出が話題
になる監督だが、本作ではそのようなアクション演出は抑え
て、指先の映像で人物の心理状態を表現するなど細かな演出
を展開している。
実はハーリンは、最近ではブライアン・デパルマ監督の『ブ
ラック・ダリア』の製作を担当するなど、監督以外の経歴も
増やしており、その一環として今までとは違った傾向の映画
にも挑戦をしているようだ。そんな監督の新たな面も見せて
くれる作品となっている。
因にこの脚本は、マシュー・オルドリッチという新人脚本家
が執筆したものだが、最初にジャクスンには初監督作品とし
てオファーがされたようだ。しかし脚本を読んだジャクスン
は主演を希望し、親友のハーリンに脚本を送って監督が実現
したとのことだ。
ただしこの脚本は、最初に観終えたときにはかなり呆気にと
られた。正直この結末はこれでいいのかという感じすらした
ものだ。でも思い返すうちに、徐々にこの作品の意図が掴め
る感じがしてきた。
先日の厚労省元幹部連続襲撃事件ではないけれど、ド派手に
見える事件が実は…というのはありそうな話で、今までド派
手なアクション映画を手掛けてきたハーリン監督の新境地に
は、ピッタリと言えそうな作品だ。そしてそこには見事な人
間ドラマも描かれている。



2008年12月15日(月) 第173回

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※このページは、SF/ファンタシー系の作品を中心に、※
※僕が気になった映画の情報を掲載しています。    ※
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 今回で制作ニュースは年内最後の更新となるので、纏めも
含めて賞レースの話題から始めることにしよう。
 まずは、アカデミー賞VFX部門の第1次候補15本が発表
された。この15本は、この後にVFX部会の幹部会で7本に
絞られ、年明けからその7本の抜粋版が部会の全員に回覧さ
れて1月22日発表の最終候補3本が決定されるもの。つまり
ここでは、今年のVFXの全貌が明らかにされるものだが…
その15本は、
“Australia”
“The Chronicles of Narnia: Prince Caspian”
“Cloverfield”
“The Crious Case of Benjamin Button”
“The Dark Knight”
“The Day the Earth Stood Still”
“Hancock”
“Hellboy II: The Golden Army”
“The Incredible Hulk”
“Indiana Jones and the Kingdom of the Crystal Skull”
“Iron Man”
“Journy to the Center of the Earth”
“The Mummy: Tomb of the Dragon Emperror”
“Quantum of Solace”
“The Spiderwick Chronicles”
となった。
 以上の作品が今年のVFXの全貌とされたものだが、まず
Variety紙の見解では、“Speed Racer”“Wanted”が落ちた
のはどうした訳だ…?ということになっているようだ。僕と
してはこれに“10,000BC”“Eagle Eye”“Jumper”なども
加えたいと思うが、上記の15本のVFXは、これらの作品を
上回っているということなのだろうか? 特に“10,000BC”
は、ローランド・エメリッヒ監督が来日記者会見で、VFX
に力を入れたと強調しているのを直接聞いていただけに残念
な感じもした。
 とは言え、いずれにしても上記の作品の中からオスカーが
選ばれる訳で、Variety紙の記事では“Australia”の景観と
“Benjamin Button”の若返りが特記されていたようだ。僕
としては、過去に『フォレスト・ガンプ』が受賞しているこ
となども考えると“Benjamin Button”に1票投じたいとこ
ろだが…。来年のアカデミー賞最終的な受賞式は、2月22日
午後5時(西部時間)から行われる。因に受賞式の司会は、
『X−メン』のウルヴァリンことヒュー・ジャックマンが務
めるようだ。
        *         *
 もう1つ賞関係では、ハリウッド外国人記者協会が選出す
るゴールデングローブ賞の候補が発表されている。その映画
部門だけ観ておくと、ドラマ作品賞に“The Crious Case of
Benjamin Button”がノミネート。またこの作品は、主演男
優、監督、脚本、音楽の各部門の候補にもなっており、5部
門の候補は“Doubt”“Frost/Nixon”と並ぶ最多で、かなり
の注目度となっているようだ。
 この他では、助演男優賞候補に“Tropic Thunder”のトム
・クルーズ、ロバート・ダウニーJr.と並んで、“The Dark
Knight”のヒース・レジャーの名前が挙がっているのが何と
も言えないところで、1月22日に発表されるアカデミー賞の
ノミネーションと併せて気になるところだ。因にゴールデン
グローブ賞の受賞式は1月11日行われる。
 一方、ワーナーは、来年1月23日に“The Dark Knight”
の全米再公開を行うと発表している。これは、同作品の興行
収入が国内で5億3030万ドル、海外で4億5690万ドルの合計
9億9620万ドルに達しており、あと400万ドルで10億ドルの
大台に乗ることから、一気に達成を目指すというもの。過去
の全世界10億ドル突破は、“Titanic”“LotR: The Return
of the King”“PotC: Dead Man's Chest”の3作だけで、
達成すればそれに続くものになる。残り金額からして達成は
間違いないと思われるが、故レジャーが受賞してその一助に
なってくれたら嬉しいものだ。
 上記以外では、特に今年はSF/ファンタシー系はあまり
ノミネートされなかったようだが、元々スーパーヒーローも
のは賞には似合わないという意見は根強いようで、それも仕
方ないところだろう。
 なおアニメーション賞候補には、ディズニーの“Bolt”、
ドリームワークスの“Kung Fu Panda”、ディズニー=ピク
サーの“Wall-E”が挙げられており、“Bolt”と“Wall-E”
は主題歌賞の候補にもなっている。“Wall-E”は期待の作品
賞候補にはなれなかったが、オスカーはどうだろうか。
        *         *
 ここからは制作ニュースを紹介しよう。
 その最初は新しい情報で、ジョニー・デップ主宰の製作会
社インフィニタム・ニヒルが、ニック・トーシュ原作による
“In the Hand of Dante”という作品の権利を獲得し、デッ
プ主演で映画化すると発表した。
 原作は、ジャーナリスト、詩人でもある作家のトーシュが
2002年に発表した長編小説で、シチリア島で発見されたダン
テの遺稿かも知れない文書を巡って、その真贋鑑定を依頼さ
れた作家(トーシュ)とギャングらによる文書の争奪戦、さ
らに13世紀、失意の中で最後の作品『神曲・天国編』の執筆
に挑むダンテの姿が描かれているとのことだ。なお原作は、
2005年『ダンテの遺稿』の邦題で翻訳もされている。
 その作品をデップの主演=トーシュ役で映画化するという
計画で、デップは自己資金で映画化権を獲得したとのこと。
従って映画化はデップの希望通りに行えるものだが、一方、
ニヒル社はワーナー及びグラハム・キングのプロダクション
と優先契約を結んでおり、映画が完成すれば配給はワーナー
で行われることになるものだ。
 ただし、原作は時間軸が縦横に交錯するなど、かなり難解
な構成を採っている作品のようで、それを映画の構成に変換
するためには相当の手腕が必要とされている。監督、脚本家
などはまだ発表されていないが、その人選にはかなり慎重を
要することになりそうだ。
 因に、デップの出演計画では、ティム・バートン監督によ
る“Alice in Wonderland”の撮影は完了しているようで、
続いて3月からこれも作家の役に扮する“The Rum Diary”
の撮影が予定されている。そしてその後には、またもやバー
トン監督で、今年6月15日付第161回などで紹介した“Dark
Shadows”の映画化計画が急浮上してる。
 この最後の情報は、映画製作者リチャード・D・ザナック
の発言によるもので、1960年代の人気テレビシリーズの映画
化に関しては、『チャーリーとチョコレート工場』などのジ
ョン・オーガストによる脚本がすでに出来上がっているとの
こと。そしてザナックの口振りでは、“The Rum Diary”に
続いての製作が実現しそうな感じのようだ。
 なおデップには、この他に“The Lone Ranger”のトント
役、ゴア・ヴァビンスキー監督のアニメーション“Rango”
の声優、さらに“Sin City 3”“Shantaram”に、“Pirates
of Caribbean”の続きなど、発表されている計画は枚挙に暇
のないものだ。
        *         *
 5月15日付第159回でも紹介したホラー映画の老舗ハマー
・フィルムスの復活に関して、新たに“The Resident”とい
う作品を来年5月に撮影することが発表された。
 同社からは、すでに復活第1作となる“The Wake Wood”
という作品の撮影完了も報じられているようだが、さらに、
今回はその第2作となる計画が報告されたものだ。そしてそ
の作品に、アカデミー賞2度受賞ヒラリー・スワンクの主演
が発表されている。
 この作品“The Resident”は、フィンランド出身で、ウィ
ル・スミスやエミネム、ビヨンセ、セリーヌ・ディオンなど
のMTVを手掛けた映像作家アンティ・J・ジョキネンが、
1998年にオリヴァ・ストーンが製作した『セイヴィア』の脚
本も手掛けたロバート・オアと共に執筆したオリジナル脚本
を、ジョキネンの長編監督デビューとして進めるもの。
 内容は、スワンク扮する女医がニューヨーク・ブルックリ
ンのロフトに引っ越してくるが、そこで彼女は新居にいるの
が自分だけでないことに気付く…。典型的なサスペンスもの
と言えそうだが、スワンク主演の『P.S.アイラヴユー』
が公開された直後にこの内容はニヤリとするところだ。
 なおスワンクは、2007年7月に紹介したホラー作品の『リ
ーピング』にも主演していたが、案外この種のジャンル作品
が好きなのかな? 因に、共同脚本のオアはすでに撮影完了
したシリーズ第4作“Underworld: Rise of the Lycans”の
原案にも名を連ねている人のようだ。
 製作は、以前にも紹介したハマー+スピットファイア共通
の出資会社HSメディアが製作費を調達し、撮影はアメリカ
東海岸で行われることになっている。ハマーではこの他に、
今年10月1日付の第168回で紹介したスウェーデン映画“Let
den ratte komma in”の英語リメイクという計画も発表され
ており、老舗の復活は順調に進んでいるようだ。
 それから第1作として紹介された“The Wake Wood”は、
娘を失った両親を巡る物語とのこと。2005年にニール・ジョ
ーダン監督、キリアン・マーフィ主演で映画化された『プル
ートで朝食を』などの製作総指揮を務めたブレンダン・マッ
カーシーが脚本と製作を手掛けているものだ。
        *         *
 ここからは続報で、その最初は2007年3月1日付第130回
で紹介した実写版“The Sorcerer's Apprentice”のタイト
ルロール、つまり「魔法使いの弟子」役に、“Knocked Up”
(無ケーカクの的中男)に出演していたジェイ・バルチェル
の起用が発表された。
 『ナショナル・トレジャー』のジョン・タートルトーブ監
督によるこの作品では、すでにニコラス・ケイジが魔法使い
役で出演することも発表されているものだが、『マイティ・
ジョー』などのローレンス・コナーとマーク・ローゼンター
ルのオリジナル脚本から、日本では来年3月公開予定の『ベ
ッドタイム・ストーリー』を手掛けたマット・ロペスが最終
稿を担当した物語は、現代ニューヨークを舞台に、魔法使い
が弟子を求めて彷徨う話が展開されているようだ。
 なおバルチェルは、“Knocked Up”のセス・ローガンと共
に“Jay and Seth vs.the Apocalypse”という作品を進めて
いる他、2006年11月15日付第123回で紹介したドリームワー
クス・アニメーション作品“How to Train Your Dragon”の
声優も務めており、何となく頼りない感じの役柄がお似合い
の俳優ということだ。
        *         *
 お次は、2005年11月1日付第98回に別記事の関連で題名だ
け紹介した“Atlantis Rising”の映画化が、ドリームワー
クス製作で進められることになり、その計画に、『アンダー
ワールド』シリーズを手掛けるレン・ワイズマン監督との契
約が発表された。
 原作は、プラティナム・スタジオ刊行による全5巻のミニ
シリーズとのことで、その物語は、深海深くに生き残ってい
た古代の大陸アトランティスの末裔が、今までは地表に棲む
人類との競合は避けてきていたものの、人類の無秩序な海洋
開発に耐え切れず、ついに人類に反攻を始めるというもの。
今まで宇宙からの地球侵攻を描いた作品はいろいろあるが、
地球内部からの驚異というのは珍しいとのことだ。
 しかもアトランティスは、古代ギリシャ時代に記述された
プラトンの原典でも、強大な軍事力を持った超文明国家とさ
れているもので、これは凄いことになりそうだ。水を表現す
るCGIもかなりリアルになってきているし、面白い作品を
期待したい。
 因に深海からの驚異ということでは、1989年ジェームズ・
キャメロン監督の『アビス』が思い浮かぶが、このときは超
高圧の星から来た異星人という設定になっていた。またアト
ランティスものでは、人間がその地を訪問するという物語は
過去にもいろいろあるようだが、軍事力による全面対決とい
う展開は新機軸のようだ。
 なおワイズマン監督とドリームワークスでは、本作の前に
“Motorcade”というスリラー作品の準備も進めており、今
回の計画はその後に進められることになっている。
        *         *
 2006年5月1日付第110回で紹介したイギリスの詩人ジョ
ン・ミルトン原作による“Paradise Lost”(失楽園)の映
画化について、『地球の静止する日』のリメイクを手掛けた
スコット・デリクスン監督が本腰を入れ始めたようだ。
 この情報は、デリクスン監督が雑誌のインタヴューに答え
たもので、それによると監督は、ギレルモ・デル=トロの最
近の2作品『パンズ・ラビリンス』と『ヘルボーイII』には
大いに触発されたそうで、特に、『ヘルボーイII』で提示さ
れた世界観に圧倒されたそうだ。しかもそれを製作費の予算
内で仕上げていることに衝撃を受けたとしている。
 そして監督は、「12月中にデル=トロ監督とディナーをす
る予定があり、そこで、彼が如何にしてこのような作品を作
り上げたかリサーチしたい。彼やピーター・ジャクスン監督
は、まさにSF/ファンタシー映画を作り上げる全ての要素
を把握しており、それを観客に提示する手段を心得ている。
それは他の誰にも真似できないものだが、僕はそれを彼らか
ら学び取って、“Paradise Lost”の製作に役立てたい」と
語っているものだ。
 このインタヴューはリメイク作品の公開前に行われたもの
のようで、同作品がヒットで受け入れられた後に彼の考えに
変化があるかどうかは判らないが、監督が次回作にかける意
気込みには、違うものがあるようだ。キリスト教の聖書を背
景に神々と悪魔たちの究極の戦いを描く物語を、正にファン
タシーの感覚で撮りたいとしているデリクスン監督の次回作
には大いに期待したいところだ。
        *         *
 ここからは続編の話題をいくつか紹介しよう。
 まずはちょっと意外な続編で、ウィル・スミスがこの夏公
開されたスーパーヒーロー『ハンコック』の続編を検討して
いるようだ。その情報によると、実はスミスには別のスーパ
ーヒーローものとして“Captain America”の打診があった
そうなのだが、その際スミス自身が、「『ハンコック』の宇
宙には、もっと描かれていないキャラクターがいたはずだ。
それを続編で描きたい」と回答したとのことで、数年以内に
“Hancock 2”が作られることはほぼ確実なようだ。
 因に、オリジナルの『ハンコック』は、日本の興行はそれ
ほど目立つものではなかったが、アメリカでは最終的に2億
2800万ドルの興行収入を上げており、続編が作られることに
は全く問題の無い水準に達しているものだ。
 なおスミスは、新作の“Seven Pounds”が12月19日に全米
公開されるところで、今回の情報はそれに関連して報告され
たものだが、スミスにはこの他“I,Robot 2”“I Am Legend
Prequel”などの計画も噂されており、その中では、今回の
情報が最新で一番確度も高いようだ。
 それにしても、『ハンコック』ではスーパーヒーローの最
後の生き残りというようにも語られていたと思うが、それが
他にいたとしてもその設定も今回と同じなのだろうか…それ
だと関係はかなり複雑になりそうだが。
        *         *
 お次は前回報告した“Twilight”の続編“New Moon”に関
して、前作を監督したキャサリン・ハードウィックの降板が
発表され、代って『ライラの冒険・黄金の羅針盤』を手掛け
たクリス・ウェイツの起用が発表されている。
 因に“Twilight”の興行収入は、アメリカ国内1億4400万
ドル、海外3300万ドルに達しており、原作本が1700万部以上
発行されているというシリーズの威力は発揮されているよう
だ。この原作本の威力に関しては、前回宗教的な背景も報告
したものだ。
 一方、『ライラの冒険』は、アメリカ国内は7000万ドルに
終ったものの、海外では3億ドル突破の成績を残している。
しかし元々の製作会社だったニューラインがワーナーに吸収
合併されて消滅したことから、ワーナーでは続編の計画はま
だ立てられていないようで、ウェイツにはその悔しさもぶつ
けた作品を期待したい。
 なお発表に際してウェイツからは、「ステファニー(原作
者)が作り出した素晴らしい世界は、数多くのファンの心を
捕えている。自分の仕事は、その世界や主人公たちや彼らの
愛の物語を護ることだ。美しい本の傍に立てる美しい映画を
作り上げる」というステートメントが紹介されたそうだ。
 脚本は前作と同じメリッサ・ローゼンバーグが担当し、撮
影は来年早々に開始。続編の全米公開は、2009年11月20日と
発表されたようだ。
        *         *
 McG監督によるシリーズ第4作“Terminator Salvation”
の全米公開は来年5月22日に予定されているが、新3部作の
開幕とされる作品の続編の計画が早くも発表された。
 これは先に行われた中東ドバイの映画祭で製作者らによっ
て報告されたもので、それによるとシリーズ通算第5作は、
2011年の公開を目指すとのことだ。因にこの発表は、当初は
来年の公開に併せて行う計画だったが、すでに流され始めた
予告編の評判が良いのと、それに呼応したファンの発言が活
発なことを考え併せて前倒しの発表となったようだ。
 そして、監督のMcGはすでに製作者らと一緒に作業を始め
ているそうで、今回主人公のジョン・コナーを演じたクリス
チャン・ベールも3部作の全てに出演する契約になっている
とのこと。第5作は第4作と全く同じ体制で製作されること
になりそうだ。ただし今回、第4作の配給でアメリカ国内を
ワーナー、海外をソニーとした契約は1作限りとのことで、
第5作の配給は新たに契約交渉がされる。
 いずれにしてもこの勢いなら、3部作全ての映画化も間違
いなさそうだ。
        *         *
 最後も第5作となる話題で、1994年にアレックス・プロイ
アス監督によってスタートした『クロウ・飛翔伝説』シリー
ズが、『ブレイド』などのスティーヴン・ノリントン監督の
手で再開されることが発表された。
 このシリーズでは、その後は1996年“The Crow: City of
Angels”、2000年“The Crow: Salvation”、さらに2005年
“The Crow: Wicked Prayer”と続いているものだが、今回
の計画は、以前からの製作者エド・プレスマンに、『ハムナ
プトラ』から『ハンコック』『チェンジリング』『ヘルボー
イII』も手掛けるリレイティヴィティ・メディアが交渉して
再開を進めているもので、新たなシリーズとしての再出発が
検討されている。
 そしてノリントン監督も、「プロイアスのオリジナルは、
ゴシック風のゴージャスなものだったが、僕はもっとリアル
なものを目指す。切れ味が鋭くミステリアスで、もしかした
らドキュメンタリータッチなものになるかも知れない」とし
ており、作品のイメージもかなり違ったものになりそうだ。
 因にノリントン監督は、2003年の『リーグ・オブ・レジェ
ンド』以来の監督復帰となるが、この間は“Exorcist: The
Beginning”のFXや、“Feast”のクリーチャーFXなどに
も関わっていたようだ。そして一時は、ワーナーが進めてい
るリメイク版“Clash of the Titans”での復帰を目指した
ものの不調に終ったとのことで、今回は監督も再出発となる
ものだ。



2008年12月14日(日) カフーを待ちわびて、はじめての家出、天使の目・野獣の街、クジラ、エレジー、年々歳々、いのちの戦場、重力ピエロ

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※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介しています。     ※
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『カフーを待ちわびて』
第1回「日本ラブストーリー大賞」を受賞した原田ハマ原作
の映画化。
リゾート開発に揺れる沖縄県の離島を舞台に、左手に障害を
持つ青年と、その青年を訪ねてきた女性の奇跡のラヴストー
リーが展開される。
主人公の青年は島で駄菓子屋を営んでいるが、日中は昼寝ば
かりで商売をやる気が有るのかどうかも判らない。またその
青年は、村の適齢期の男性では唯一の独身者でもあった。
そんな青年がリゾート開発に絡んで本土に視察に行った際、
とある神社で皆にせがまれるまま縁結びの絵馬を書いてしま
う。その絵馬には「嫁に来ないか。幸せにします」と書き、
住む島と自分の名前を記載した。
そして島に帰ってしばらく経ったとき、「絵馬を見ました」
という女性の手紙が届く。当然半信半疑だった青年の前にや
がて1人の女性が現れる。その女性は彼の世話を焼き始める
が、何故か自分の素性はあまり話そうとしない。
その間にも開発計画は進んで行き、村の大半は賛成に回って
青年にも自宅を建て直して近代的なショップにする案が提示
される。その条件は決して悪いものではなかったが、彼には
家をそのままにしておきたい特別な理由が有った。
過疎と開発、日本の土着文化が危機に直面する。恐らく日本
中で行われている出来事が、沖縄の青い海と自然を背景に語
られ、それに翻弄される男女が描かれる。
そのラヴストーリーはあまりに奇跡的であり、決して現実的
なものではないが、まあ夢物語としてはこれで良いのかな…
そんな程度のお話だ。でも、ラヴストーリーの大半はこんな
物かも知れないし、夢物語だからこそ支持される面も有るの
だろう。
主演は玉山鉄二と、今春の東宝映画でデビューしたマイコ。
他に、勝地涼、尚玄、高岡早紀、白石美帆、宮川大輔、ほん
こん、沢村一樹らが共演している。
監督は、昨年の東京国際映画祭に出品された『ハブと拳骨』
の中井庸友。前作と同じ沖縄が舞台の作品だが、随分と違っ
た雰囲気のものを作り出した。風景の美しさや人情の厚さ、
沖縄の風土が思う存分に描かれて、たぶん若い女性には最高
の心に染みる作品と言えそうだ。

『はじめての家出』
avexニュースター・シネマ・コレクションと題するavex製作
による長編作品集の1本。
『容疑者Xの献身』で松雪泰子の娘を演じていた金澤美穂の
主演で、両親が離婚して自分の居場所が判らなくなった少女
の成り行き任せの家出が描かれる。
主人公は両親が離婚し、1人っ子の彼女はそれぞれの家で交
互に暮らすようになる。それぞれの家には個室も与えられ、
それなりの環境は整えられているが、両親は早くも次の相手
と付き合い始めているようだ。
そんなとき、まだ馴染めない転校先の立入禁止の校舎の屋上
で、ちょっと危ない感じのする同級生の女子と一緒になった
主人公は、その同級生が計画している家出に同行しようと思
い立つ。一方、主人公を慕う男子生徒も現れて…
ところがその家出は、行く先々で散々なトラブルに巻き込ま
れる。
主人公は、もちろん両親の離婚に悩んではいるが、作品はそ
れほど深刻ぶって描いているものではない。特に、彼女に振
り回される男子の存在など、むしろその行動はコミカルにも
描かれているものだ。
そんな少女のちょっとした冒険を、いろいろなエピソードを
盛り込んで、それでいてあまり破綻もなく描き切ったのは、
それなりに考えて作られた脚本とも言えそうだ。実際、伏線
の張り方もかなり周到なものだった。
共演は、「午後の紅茶」のCMなどに出ている斎藤リナと、
『赤い糸』に出演の米村美咲、それに男子生徒役の佐川大樹
が、演技は未熟だが良い味を出している。また、小峰麗奈や
下条アトムらもゲスト出演していたようだ。
脚本・監督は、2001年のぴあフィルムフェスティバルグラン
プリ受賞者の菱沼康介。すでに商業作品も手掛けているよう
で、本作も難しい作品ではなかったとは思うが、そつなく丁
寧に作られているのは好感した。
なおこの作品は、札幌、浜松、栃木、讃岐など各地の映画祭
や、東京多摩市で開催の映画祭TAMA CINEMA FORUMでも上映
されたようだ。

『天使の目、野獣の街』“跟蹤”
2006年9月30日に紹介した『エレクション』などのジョニー
・トー監督の右腕と言われる脚本家ヤウ・ナイホイが、トー
の製作の許、満を持して挑んだ監督デビュー作。
香港警察刑事部情報課・監視班に配属された新人婦警を中心
に、凶悪な犯罪グループを追う捜査の模様が描かれる。
その婦警は1人の中年男の尾行を続けている。それはその男
の一挙手一投足のすべてを記憶しながら、相手に気付かれず
に行うものだったが…
その任務を完了し、監視班への正式配属が決まった彼女は、
早速、宝飾店連続強奪事件の捜索に駆り出される。
それは最初に監視カメラの映像から容疑者の1人が割り出さ
れ、その尾行から犯人グループのアジトの割り出しまで順調
に進むが、そこでそのグループの背後に隠れた主犯のいるこ
とが判明する。このため、その主犯を特定することが監視班
の新たな目標となる。
監視班にとっては面が割れることが致命傷であり、常に陰の
存在としてあり続ける。このため、必ず1件に総動員で、捜
査中に他の事件に行き合っても、それに関わることは禁じら
れる。その非情さが主人公を苦しめ、そして成長させる。
一方、監視班の捜索は、本部で行われるITを駆使した情報
解析と共に、現場には多数の捜査員が網の目のように配置さ
れて、その見事な連携プレーによって進められる。それでも
現場には思いも拠らぬアクシデントも発生し、ドラマが作ら
れて行く。
捜査の開始と同時に大勢が一斉に出動し、捜査が終了すると
霧か霞のように消えて行く。そんな監視班の活動が見事に描
かれる。
上映時間は90分。余分な描写はほとんど排除され、ドキュメ
ンタリーのようなタッチで鮮烈な物語が展開される。しかも
そこには主人公の感情の爆発やそれを乗り越える成長なども
描き込まれ、正にエンターテインメントの真髄が示されてい
るものだ。
主演は、香港のテレビドラマなどで活躍し、本作で映画初主
演のケイト・ツィ。その脇を、『エレクション』などのサイ
モン・ヤムとレオン・カーファイが固めている。
今年僕が観た中では、2月10日に紹介した『バンテージ・ポ
イント』に匹敵する「映画」を堪能させてくれる作品。この
ヒロインには続編も期待したいものだ。

『クジラ 極道の食卓』
極道マンガで人気の立原あゆみの原作を、松平健主演で映画
化。脚色は「ミナミの帝王」シリーズなどの友松直之、監督
は『そして春風にささやいて』などの横山一洋。
主人公は久慈雷蔵、55歳、ヤクザの濁組の組長。その主人公
がある日のこと、年頃の娘のいる妻に熟年離婚を切り出し、
組には夜間は現れないと言い置いて帰ってしまう。そんな態
度に訝しげな家族や組員だが、組長の指示は絶対だ。
そして主人公は、妻子のいないアパートの1室で自炊暮らし
を開始、さらに詰襟の学生服を着用して、定時制高校にも通
い始める。それは主人公が若い頃に経験できなかった青春時
代の再現だった。
その高校では、当然彼の存在は際立ってしまうが、持前の人
柄で仲間もできて行く。そして「2番目の彼女」と宣言する
女子も現れる。一方、1人暮らしの自宅には子分にしてくれ
という若者が現れ、その若者には在る事情から彼の夜の生活
が露見してしまうが…
そこにいろいろな事件が起きて、どちらかと言うとコミカル
なドラマが展開する。まあ、お話自体は他愛ないものだし、
松平ほどの役者が何で出ているのかとも思うところだが、こ
の映画にはそれ以外のセールスポイントが設けられている。
実はこの映画では、題名の通りいろいろな食卓=料理が登場
して、テレビのヴァラエティ番組などでも披露されている松
平の料理に関する蘊蓄や、包丁捌きなど料理番組さながらの
手際も披露されるのだ。
つまりはそういう乗りの作品なのであって、そこにとやかく
言う筋合いはない。要はその乗りに付いていけるかどうかだ
が、普段から件のヴァラエティ番組を観ている僕の目には、
さほどの違和感もなく気楽に楽しむことができた。
共演は、岩佐真悠子、中村譲、秋本奈緒美、それに『スキト
モ』など、ここでの紹介の機会の多い斎藤工。因に斎藤は、
松平の前で料理をするシーンがあるなどかなりの抜擢だ。
主人公が「素人さんを傷つけちゃいけない」と繰り返すのは
多少ウザイ感じのところではあるが、まあコメディとしては
そつなく作られた作品と言える。宣伝コピーは、「グルメな
大人の青春映画」。その通りの作品だ。

『エレジー』“Elegy”
2003年『白いカラス』などの原作者フィリップ・ロスの短編
“The Dying Animal”から発想されたニコラス・メイヤーの
脚本を、『死ぬまでにしたい10のこと』などのイサベル・
コイシェの監督で映画化した作品。
初老の大学教授と、社会生活を経て大学院に再入学した大人
の女性の切なくも濃密なラヴストーリーが描かれる。
主人公の大学教授は、奔放な生活を楽しむために家庭を捨て
た男。そんな気儘な生活の中で、ある日、彼は自分の授業に
現れた1人の女性に目を留める。そして、恋愛に対しては古
風と思われる彼女に対して、じっくりと愛を育んで行くこと
にするのだが…
そんな2人の関係は、2人の間ではうまく行っているものの
対外的には後ろめたさを感じざるを得ないもの、それが2人
の関係に暗い影を落として行くことになる。この大学教授役
をベン・キングスレーが演じ、女性にはペネロペ・クルスが
扮している。
ちょっと前のこのページで、日本映画の俳優がただ脚本通り
に演じているだけのように見えると書いたが、この作品での
ペネロペ・クルスの演技を見ていると、実に端々まで役にな
り切っていることが判る。
それは細やかな指先や目の動かし方の一つ一つまでもが、役
柄の人物であることを感じさせるものだ。そこには監督の演
出もあるのだろうが、その全てを指示することは不可能。結
局、最後は俳優の演技力ということになるものだろう。
もちろんその演技はベン・キングスレーも素晴らしいものだ
が、さらに本作では、共演のデニス・ホッパーやパトリシア
・クラークソンらも最高の演技を見せてくれる。
そう言えば、ロスの原作では『白いカラス』のアンソニー・
ホプキンス、ニコール・キッドマンも素晴らしかったが、こ
の作家の原作からは俳優の演技も最高のものが引き出される
ことになるようだ。もっとも今回はメイヤーの脚本でもある
ものだが。
ただし物語の結末は、結局これでしか彼らの幸せが達成でき
ないことは理解するのだが、余りに侘しい展開に胸を突かれ
る想いがした。しかもそれが、事が順調に進んでいればそこ
までには至らなかったのではないかという結末であれば尚更
のことだ。
でも主人公らは、その障害を乗り越えて進んで行くのだろう
し、その希望を感じ取りたいものだ。この物語の結末は決し
て悲劇的なものではない。


『年々歳々』
avexニュースター・シネマ・コレクションと題するavex製作
による長編作品集の1本。
過去に起きた悲劇的な出来事のために「自分は幸せになって
はいけない」と思い込んでしまった少女の物語。
少女の住む家の庭には花がない。そこは花好きの父親が丹精
を込めているはずの場所なのだが…そんな少女と母親の住む
家に、両親が遠隔地に赴任したため居候することになった従
姉妹の少女が入居してくる。
しかし、その従姉妹の目に写る主人公と母親の生活はあまり
に異常なものだった。特に、母親は娘を嫌っているようにし
か見えず、娘の誕生日を祝ってやることもしない。そして娘
は従姉妹に向かって「私は幸せになってはいけない」と言い
切ってしまう。
そんな母子の哀しい生活がある要素を加えて淡々と描かれて
行く。
実は、その加えられている要素というのが、父親の存在なの
だが、その姿が主人公以外には見えないものとなっている。
それが彼女の想像の産物なのか、実際の霊魂なのかという辺
りが微妙に描かれている作品だ。
そしてこの存在が、最後には奇跡の展開を描き出すのだが、
さてこの展開が一般の映画ファンの目にはどのように映るこ
とか…。僕は元々ファンタシー系の作品をテリトリーとして
いる人間だから驚くに当たらなかったが、一般の人がこれを
感動としてくれれば嬉しいものだ。
しかし、取りようによってはかなり安易なものではあるし、
逆にその点がマイナス要素になってしまってはもったいない
感じもする。僕としては、もっと別の展開もあるのではない
かという考えも持つものだし、その辺に何かもう一工夫欲し
かった感じもした。

主演の娘役は、「早稲田アカデミー」のCMなどに出ている
江野沢愛美。従姉妹役はドラマ「スクラップティーチャー」
に出演の指出瑞貴。さらに『アキレスと亀』に出演の円城寺
あや、風間トオルらが共演している。
監督は、『リング』『呪怨』の助監督を務め、『エクステ』
の脚本も担当したという安達正軌。ファンタシーは判ってい
る人のように思えるが、他人の脚本の演出とはいえもう1歩
踏み込んで欲しかったところだ。

『いのちの戦場』“L'Ennemi intime”
2002年8月に紹介した『スズメバチ』などのフランス人俳優
ブノア・マジメルが、自らの立案、主演で映画化した1954−
62年のフランス−アルジェリア戦争を描いた作品。
マジメルは1974年生れだそうだから件の戦争は知らない世代
ということになるが、フランス政府が1999年に初めて公式に
認めたという歴史の陰に葬られようとしていた戦争を、ある
種の義憤に燃えて映画化した作品と言えそうだ。
そのマジメルが演じる主人公は、アルジェリアの山岳地帯の
戦場に新たに赴任した志願兵の中尉。
時は1959年7月、その戦場ではゲリラ戦を続ける民族部隊の
フェラガに対する掃討作戦が展開されていた。そのフェラガ
の指揮官を捜索する作戦の最中に前任の中尉が戦死し、その
後任として彼はやってきたのだ。
ところがその戦場では、情報を得るためと称する捕虜の拷問
や民間人への銃撃など、およそ他の戦場では見られない残虐
行為が日常的に行われていた。その現実を目の当りにした主
人公は、直ちにその残虐行為を止めようとするのだが…
フランス−アルジェリア戦争を描いた映画では、僕は1967年
に日本公開されたジッロ・ポンテコルヴォ監督の『アルジェ
の戦い』をその当時に観たものだが、町場でのレジスタンス
の模様と、特に最後の勝利が決まったときのアラブ女性たち
の特有な叫び声が強烈な印象として残っている作品だ。
その映画の中でもフランス兵による残虐行為は描かれていた
とは思うが、アルジェリア−イタリアの合作で製作された作
品では、アルジェリア人の勝利に至る道程が前面描かれてお
り、フランス兵の行為などは添え物でしかなかった。
それが本作では、まずフランス人の目で自らの同胞が犯した
犯罪行為を克明に綴って行く。それは残虐行為だけでなく、
自ら命令が起こした過ちから国際法上の違反行為まで、正に
国家の犯罪を告発しているものだ。
マジメルが何故この映画を作ろうとしたのか、その真意は不
明だが、国家の犯した犯罪を正面から見据えた作品には、そ
れを隠し続けた国家への怒りも感じられるところだ。
なお映画化には、長年フランス−アルジェリア戦争の調査を
続けているドキュメンタリー作家で、同名ドキュメンタリー
作品のテレビ放映では、フランス国内で900万人の視聴者を
獲得したというパトリック・ロットマンが参加。ロットマン
が脚本を執筆し、『スズマバチ』のフローラン=エミリオ・
シリが監督を務めている。

『重力ピエロ』
「春が2階から落ちてきた」という書き出しで始まる伊坂幸
太郎原作の映画化。
来年5月23日に全国公開の予定で、完成披露試写もまだ先の
作品だが、内覧試写を見せてもらい、情報公開の制限もない
ようなので報告させてもらうことにする。
原作は上記の書き出しが評判のようで、それを書くことが映
画のネタバレにはならないと思うが、特にそれを知った上で
観ているとニヤリとする映画のプロローグとなっている。こ
れは、映画から原作に対する最大の敬意を表したとも感じら
れるものだ。
実は事前の情報では、初号試写を観た原作者が「満足した」
と語っていたそうで、伊坂原作の映画化では、僕は満足でき
なかった作品もあるが、今回は読者も納得できる映画化にな
っているというところだろう。
と言っても僕は原作は読んでいないが、映画はしみじみとし
た親子や夫婦、そして兄弟の情感が見事に描かれたもので、
それが見事に演出され、演じられているものだ。
映画の物語は、宮城県仙台市を舞台に、市内で連続する放火
事件を追って行くもの。その現場近くに常にグラフィッティ
が描かれていることに気付いた大学院生とフリーターの兄弟
が、そこに残されたメッセージの謎を解き明かして行く。
それは兄の専門分野であるDNAの配列を示しているように
も見える。そして兄弟は、徐々に1人の犯罪者を追いつめて
行くことになるが…
出演は、兄弟の兄を加瀬亮、弟を岡田将生、その父親を小日
向文世、母親役に鈴木京香。他に、吉高由里子、岡田義徳、
渡部篤郎らが共演している。
映画の企画と脚本は、元タレントで『大停電の夜に』の脚本
を担当した相沢友子。監督は、2000年のサンダンス−NHK
作家賞の日本部門を受賞している森淳一。
製作は、『K−20』なども手掛けるROBOTと、アスミック
エース。アスミック側のプロデューサーは、『大停電…』や
『博士の愛した数式』の荒木美也子が担当している。この人
の作品は、それぞれにどこかちょっとファンタスティックな
雰囲気を持っているものだ。
なお映画の公開は、原作者が在住し映画の撮影にも協力した
宮城地区では、1か月先行の4月25日から行われるそうだ。



2008年12月07日(日) ラ・ボエーム、ベンジャミン・バトン、GIRLS LOVE、レスキューフォース、ラーメンガール、へばの、うたかた

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※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介しています。     ※
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『ラ・ボエーム』“La Bohème”
ジャコモ・プッチーニによる名作オペラの映画化。
オペラ界ではドリーム・カップルと言われるアンナ・ネトレ
プコとローランド・ビリャソンを主演に迎え、1978年のオス
カー長編ドキュメンタリー賞候補になったこともあるルーマ
ニアの監督ロベルト・ドーンハイムが演出を担当した。
僕はオペラの舞台は見たことが無いが、この作品を見ての印
象は、恐らく演出は舞台のままで、その舞台のセットをスタ
ジオに構築し、その中を縦横に動き回るカメラワークで撮影
したのではないかと思われるものだ。
従って、観客には舞台の客席とは異なる角度から名シーンを
見られることになるし、特に主演者の評判から察すると、オ
ペラファンには最高の贈り物になるものと思われる。
ただし、映画として観た場合の評価は異なるもので、果たし
てこの作品が映画であるかどうかにも疑問が湧く。確かに、
19世紀半ばのパリの街のVFXによる景観など、映画として
の魅力も有りはするが、全体的には舞台の写しに終始してい
るものだ。
元々監督がドキュメンタリーの人だから、それも仕方がない
のかも知れないが、映画的な演出はほとんど見られない。も
っともあまり映画的な演出を加えるのは、逆に舞台のファン
には違和感になる恐れも有る訳で、そこら辺は難しいところ
だとも言える。
最近は「シネマ歌舞伎」というものも有り、地方で舞台を見
られない人には朗報だと言われているものだが、それに比べ
ると本作は、カメラワークなどの演出は加えられているから
舞台面だけを写したものよりは、映画ではありそうだ。
いずれにしても、日本ではほとんど上演不可能、上演しても
高額の入場料になりそうな舞台を気軽に見られるということ
では、オペラファンには価値ある作品であることは間違いな
いのだろう。
ただ、絵と音を別撮りにしたのは多少疑問が残るところで、
名演と名唱がずれてしまっているのは、映画としては多少ぎ
こちなく観えた。しかし舞台俳優ではそれも仕方なかなとは
思え、ディジタル処理で合わせ込めなかったのかとも思うと
ころだが、それも問題かな。逆に『プライド』の満島ひかり
は良くやったと思えたところだ。


『ベンジャミン・バトン−数奇な人生−』
        “The Curious Case of Benjamin Button”
F・スコット・フィッツジェラルドの短編小説から想を得た
とされる数奇な人生を送った男の物語。
物語の発端は1918年。第1次世界大戦が終ったその日にベン
ジャミンは誕生した。しかしその直後に母親は死亡、しかも
生れた子供を見た父親は、その子を抱えて街に飛び出し、と
ある建物のポーチに置き去りにしてしまう。
その建物は黒人の女性が取り仕切る老人ホームで、医師の診
断で80歳の肉体とされたその赤ん坊は、そこで老人たちと共
に世話をされることになる。ところが、すぐにも老衰で死ぬ
と思われた子供は生き長らえ、しかも徐々に若返り始めた。
こうして、普通人とは反対の成長の過程を歩み始めた主人公
は、20世紀のアメリカを密かに見つめ続けることになる。も
ちろんそこには恋や別れや、旅や戦いなどいろいろな喜び悲
しみを体験しながら。
原作短編がどんなものかは知らないが、映画は上映時間2時
間47分、アメリカを中心とした20世紀史が綴られたもので、
そのスケールの壮大さは、さすが『フォレスト・ガンプ』か
ら『ミュンヘン』まで手掛けたエリック・ロスの脚本という
感じのするものだ。
出演は、ブラッド・ピット、ケイト・ブランシェット、ティ
ルダ・スウィントン、ジュリア・オーモンド。主人公を中心
に女性たちとの交流が描かれる。
ただし、ピットが演じた主人公は、年齢ごとに6人ほどで演
じているようだ。またブランシェットの役柄にも、エリー・
ファニング(7歳)とマディセン・ビーティ(10歳)という
名前が挙がっていた。
そして、その主には主人公のエイジングがスペシャルメイク
とCGIで描かれるものだが、老人のメイクはそれなりにで
きるとしても、特にピットの若返りのCGIが見事で、正に
若々しいピットの姿は見ものだった。
確かに長丁場の作品ではあるが、いろいろな細かいエピソー
ドや、それぞれが手を込ませて作り上げられた作品は、見て
いる間は全く飽きさせることが無く、特にいろいろな仕掛け
でヴァラエティに富ませた構成が見事に観客を楽しませてく
る。この長丁場は、ゆっくりと体験する価値ありだ。
全米公開は12月25日。デイヴィッド・フィンチャー監督が、
パラマウント社との関係を決裂させてまで守った作品が映画
ファンからどのように評価されるか、その結果も楽しみだ。
日本公開は来年2月7日に予定されている。

『GIRLS LOVE』
avexニュースター・シネマ・コレクションと題するavex製作
による長編作品集の1本。
将来はピアニストにという親の希望を背負って生きてきた少
女と、母子家庭に育って陸上に打ち込む少女の交流を描いた
作品。
主人公のヨーコは、放課後の音楽室でその日までは唯一の友
達だったピアノに向かっていた。しかし彼女の密かな憧れは
その窓から見える校庭で陸上に打ち込む少女ナツオの姿。そ
してその日、ある勘違いから2人の交流が始まる。
やがて急速の交流を深めた2人は、授業をサボってハイキン
グに出かけたり、ヨーコは親に無断でナツオの家に泊まった
りもしてしまう。それはヨーコにとっては、初めての親への
反抗だった。そしてその行動がヨーコに勇気を与えて行くこ
とになるが…
正直に言って物語はかなり子供染みたものだ。この後に大き
な出来事が起こるが、それもまあ有り勝ちなお話で、いまさ
ら仰々しく描くようなものでもない。でもまあ、新進女優を
売り込むためのプロモーションということでなら、これも有
りかなあという程度のものだろう。
その女優は、ヨーコ役が『蒼き狼』に出ていたという下宮里
穂子と、ナツオ役が「嵐」のMTVなどに出ているという大
石参月。
特に、大石はさばさばした雰囲気が役柄に合ってはいるが、
走る姿などはもう少しコーチしてもらいたかったところだ。
一方、下宮の方はピアノは弾けるようでそれも役柄には合っ
ているものだ。
ただ、2人とも全体として役柄に同化していない感じで、何
となく演じているという感じが付き纏ってしまう。結局、撮
影期間も短くて役作りなども充分にはできなかったのだろう
とは思うが、その辺は監督の演出でもう少しカヴァーして貰
いたかったところだ。
監督の川上春奈も新人のようだが、これではただ脚本を撮っ
ているだけという感じがしてしまった。脚本も自分で書いて
いるようだから、これで良いと言われればそれまでだが、理
想は出来るだけ高く持ってもらいたいものだ。


『トミカヒーロー/レスキューフォース』
玩具ミニカーのトミカから発想されたテレビ愛知発・テレビ
東京系列で放送中シリーズ番組の映画版。世界消防庁という
組織に所属する特別救助機動隊「レスキューフォース」の活
躍を、『ALWAYS三丁目の夕日』などを手掛ける白組のVFX
で描き出す。
「レスキューフォース」の隊員は男女5人。緊急時には特殊
なスーツを装着したり、重機を搭載した乗物が登場したり、
いわゆる戦隊ものの流れという感じの作品だが、闘う相手が
怪獣ではなく災害とのことで、その辺でPTA方面にも受け
は良い番組のようだ。
とは言うものの本作では、謎の組織「ネオテーラ」なるもの
が登場、彼らが仕掛ける妨害工作を排除するという設定で、
そこには敵の雑魚キャラとの戦闘シーンも登場するし、最後
は敵のマシンが竜型に変形しての空中戦も繰り広げられる。
この辺はちょっと微妙なところだが、基本3〜12歳の階層視
聴率が平均10%を越えるという視聴者層では、これくらいは
仕方がないというところだろう。『サンダーバード』を期待
する年齢層はもう少し高そうだ。
その映画版のミッションは、トウキョウ駅を出発した世界一
周超特急が敵に乗っ取られて制御不能の暴走を開始。そこか
ら乗客を救出して、列車が終着のギンザ駅に激突=周囲に被
害を及ぼす前に停止させよ…というもの。
路線を環状線にしておけよという突っ込みは置いておくとし
て、その世界中を疾走する超特急の景観とミッションの様子
が白組のVFXで描き出される。その映像は、お子様向けと
は言えかなり丁寧で、正直2001年版『サンダーバード』より
見られた感じだ。
特に、併映『爆走!!トミカヒーローグランプリ』に登場する
商店街などでの爆走レースシーンは感心できるものだった。
全体はお子様向けの域を出るものではないが、何気なくここ
までできるのは大したものだ。
出演は、2006年公開『紫陽花物語』という作品に主演の猪塚
健太、男性ダンスユニットFLAMEメムバーの野口征吾、渡辺
プロ所属のはるの、今春の『全然大丈夫』に出ていたという
長谷川恵美、モデル出身の岩永洋昭、それに早見優がテレビ
からのレギュラーとして登場する。
それにしても、プレス資料にこれくらいの情報は入れておい
てほしいものだ。
その他、本編のゲストとして、南海キャンディーズの山里亮
太、『少年メリケンサック』に出演の児玉絹世、それに藤岡
弘、らが出演している。

『ラーメンガール』“The Ramen Girl”
2002年の『8Mile』や、2005年『シン・シティ』などの女優
ブリタニー・マーフィが東京でラーメン修業に励むという異
文化交流ドラマ。
主人公は、東京在住の恋人を追って日本にやってきたが、実
はその恋人には煙たがれていていて、恋人はさっさと大阪に
行ってしまう。しかも彼女にはついてくるなと宣告、彼女は
言葉も通じない異国に1人で置いていかれてしまう。
そんな彼女が、アパートのベランダから目に留めたのは、赤
い提灯が揺れ人だかりのするラーメン屋だった。そこに行っ
てみるとすでにその日の営業は終えていたのだが、訳の分か
らない彼女は店内に入り、泣き崩れたところを店主に1杯の
ラーメンを供される。
そのラーメンに救われた心地になった彼女は、その不思議な
魅力に足繁く通うようになるが、ついに両親から帰国命令が
届いた日、彼女は自分でラーメンを作りたいと思い立つ。そ
してラーメン屋の店主に弟子入りを申し出るのだが…
その店主は頑固者で、弟子は取っても3日ともった試しはな
く、彼女は便所掃除から始めさせられることになる。ところ
が、実は彼女の方もその店主を上回る頑固者だった。
この店主役を西田敏行が演じ、他に日本人の配役では、余貴
美子、岡本麗、前田健、石橋蓮司、山崎努らが共演。特に、
山崎は1985年『タンポポ』の主人公がこうなっちゃのかなと
いう役柄だ。
また日本人以外では、2006年『46億年の恋』などのパク・ソ
ヒ、2001年『戦争のはじめかた』などのガブリエル・マン、
2006年『グッド・シェパード』などのタミー・ブランチャー
ドらが共演している。
脚本は、大学時代に日本に短期留学し、日本文化に興味をも
って1年間を過ごしたというベッカ・トポル。自らの経験に
基づいて執筆した作品が、日本の演劇界でも活動する演出家
ロバート・アラン・アッカーマンの協力で実現した。
一方、主演のマーフィはアメリカでの企画立上げの当初から
参加してきたということで、自らロサンゼルスのラーメン店
で作業を体験するなどして役作りをしたとのことだ。
因に、アメリカでの公開は今年予定されていたが実現しなか
ったようで、1月17日からの日本公開が先行となるらしい。
また、オランダでは1月29日公開が予定されている。なお、
アメリカではマーフィの人気でかなり高い期待値となってい
るようだ。

『へばの』
青森県六ヶ所村の原子力施設を舞台にしたドラマ。
主人公は核燃料再処理工場の広報に務める女性。父親も再処
理工場の創設期からその仕事に関わり、結婚を間近にした恋
人もそこの従業員だ。そして父子家庭の彼女は、父親が新築
する広い家での新生活に期待を寄せていた。
ところが、その婚約者が作業中の事故で体内被爆を受けてし
まう。その被害は軽微で身体にも異状はなかったが、状況の
判る父親は彼との間に子供を儲けることに反対し始める。し
かし孫は抱きたいという父親の希望を聞いた婚約者は、自ら
姿を消してしまう。
そして3年後、主人公は大きな家に父親と2人暮らしを続け
ていたが、ある日、彼が街に舞い戻っているという噂を耳に
する。そしてその噂を頼りに彼を捜しに来た彼女は、とある
風景を眼にしてしまう。
元々彼女の母親は、原子力施設ができるときに兄を連れて出
ていってしまったとか、施設が引き起こす悲劇が綴られる。
それはもちろん風評や根拠の無い噂が元ではあるけれど、現
実にこのようにして街を去った人は多いのだろう。
実は自分の父親が、土地投機に載せられて六ヶ所村に二束三
文の土地を持っていたこともあって、多少気になって観た作
品だった。でも話自体はそういうものとは関係ないし、有り
得る悲劇として観られるものだった。
だた、上記の物語までは良かったのだが、ここからの展開が
ちょっとあまり予想していなかったもので、そこに至る伏線
が有ったのかどうかも判らなくなってしまった。たぶん伏線
はなかったと思うが、余りに唐突な展開には驚いたものだ。
でもまあ、こういうことが言いたくなるのも判るような気は
するし、これがその場所に住む人たちの全員の考えではない
にしても、ある意味ストレスの解消であるなら、外部の人間
としてそれも受け入れなくてはならないものなのだろう。
原子力施設が背景に有る作品としては、タルコフスキー監督
の『ストーカー』が思い浮かぶが、この作品にも同じような
雰囲気が感じられた。

『うたかた』
今週末に東京渋谷で3日間だけ特別上映されるオムニバス作
品のDVDを送ってもらったので紹介する。
作品はそれぞれが20分ほどの、いずれも少女を主人公にした
5編で構成されている。
それは、それぞれがいろいろな状況の中、多感さ故に自分が
疎まれている(かもしれない)と思っている少女たちの物語。
大人の目から見れば何でもないことかもかも知れないが当事
者たちには切実なものだろう。
そしてそれは、大人になってからは決して再び巡り会うこと
のない物語たち。しかもその物語が、全てファンタシーの語
り口で作られていることが、いろいろな思いを掻き立ててく
れる作品になっていた。
最初の作品「忘れな草」は、妹ばかり可愛がられて自分は疎
まれていると思っている少女の物語。彼女の取った行動が重
大な事態を引き起こしてしまうのだが、それは現か幻か、全
てが少女の幻想であったのかもしれない。
5編の中で一番深刻な物語が最初に置かれてるのは、その深
刻さの度合いが一番辛いからなのだろうか。自分は親として
こうあってはならないとも思う話で、特に結末の衝撃も強烈
なものだった。
2編目の「翳る陽の少女」は八百比丘尼伝説をモティーフに
したもので、少女の孤独感が比丘尼の物語にオーヴァラップ
して語られている。
ただし、比丘尼の物語を字幕で提示してしまうのは少し策が
無い感じで、ここはもう少し工夫がほしかった。それに少女
が孤独であることも、もう少し明確にしたほうが良かったよ
うに感じられた。
以上の2編はかなり深刻な物語だったが、3編目からは語り
口がちょっと変化する。
その3編目「撥恋少女」は、美人になりたいと思っている少
女の物語。思い切って入った美容サロンで彼女は特別な化粧
水を分けてもらう。そしてそれを付けた少女には、男が誰も
引き寄せられるようになるのだが…その化粧水にはその他の
効能も付いていた。
少女の願望充足の物語だが、それなりの落ちがコミカルに描
かれていた。
4編目の「満つ雫」は、これも少女の願望充足型の物語。一
口飲むと願いが叶う魔法の水を手に入れた少女は、それを利
用して願望の全てを手に入れて行くのだが…それが必ずしも
自分の幸せでなかったことに気付かされる。
似た感じの話が連続するのは気になったところだが、考えて
みればどの話も願望充足ではある訳で、仕方のない面もある
かも知れない。ただ本作は結末がかなり深刻で、ここまです
る必要が有ったか、ここはもう少しユーモラスに落としても
良かったようには感じられた。
そして最後「震える月」は、急死した母親の遺品を整理して
いた少女が、母宛の差出人未詳のラヴレターを見つけ、そこ
に書かれた再会の場所に母親に代わって行こうとするもの。
物語としては5編の中では一番現実的でもあり、最後を締め
るにも相応しいものだ。
最初の作品でちょっと呆気に取られ、しかも自分の範ちゅう
の作品でもあるので困惑したが、全作をトータルで見ればそ
れなりのテーマも有るようにも受け取れるし、全体的な構成
も考えられていたようだ。
演技も演出も未完成な感じではあるけれど、ファンタシーに
積極的に取り組もうとしていることには好感を持てるし、次
も期待してみたいところだ。
なお本作は、12月13日から15日までの期間限定で、東京・渋
谷区宇田川町のUPLINK FACTORYにて、それぞれスタッフ・キ
ャストの舞台挨拶付きで上映される。



2008年12月01日(月) 第172回

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※このページは、SF/ファンタシー系の作品を中心に、※
※僕が気になった映画の情報を掲載しています。    ※
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
 まずはホットな続編の話題から。
 11月21日の全米公開で、いきなり初日に3570万ドルを稼ぎ
出し、初日興行では2005年の『ハリー・ポッターと炎のゴブ
レット』に次ぐ歴代第2位を記録。続く第1週の興行成績で
8000万ドルを達成したヴァンパイア・スリラー“Twilight”
に続編の計画が発表された。
 本作“Twilight”の映画化については、2007年10月15日付
第145回で紹介しているが、ステファニー・メイヤーという
女流作家の原作を、2005年『ロード・オブ・ドッグタウン』
などを手掛けた女性監督キャサリン・ハードウィックが映画
化したもの。因に、今回の初日および第1週の興行成績は、
女性監督の作品では第1位の記録になるそうだ。
 そして、その際の情報でも紹介した原作シリーズの第2作
“New Moon”の映画化が進められることになっている。なお
シリーズは、その後“Eclipse”に続く“Breaking Dawn”と
いう第4作がすでに発表され、4作の合計で1700万部を全世
界で売り上げているもの。さらに“Midnight Sun”という第
5作も予定されているようだ。
 というベストセラーシリーズに対して、映画製作元のサミ
ットの発表では、既刊のシリーズ4作の映画化権をすでに確
保しており、そのシリーズ映画化を目指すことになったもの
だ。
 第1作の公開予定が来年4月とされている日本で、第2作
のストーリー紹介は何を書いてもネタバレになりそうだが、
取り敢えずヒロイン役で、『イントゥ・ザ・ワイルド』にも
出ていたクリスティン・スチュアートは、第2作にも出演す
ることになっている。
 なお、Variety紙の情報によると、原作者のメイヤーは敬
虔なモルモン教徒だそうで、原作本のシリーズは同じ教徒か
ら絶大な支持を得ているのだそうだ。モルモン教がヴァンパ
イアを容認しているとは知らなかったが、宗教というのはど
の国でも強いもののようだ。
        *         *
 続けて続編は、2007年公開のミュージカル“Hairspray”
(ヘアスプレー)にも計画が発表されている。
 この計画は、興行成績が2億ドルを突破した前作のヒット
の直後から噂されていたが、今回は、監督のアダム・シャン
クマンの発言でその進行状況が報告されたものだ。それによ
ると、1988年の映画オリジナル版の脚本監督を手掛けたジョ
ン・ウォータースから続編のアイデアが届けられたそうで、
現在その物語が脚本家に回覧されているとのこと。
 そのお話は、前作でニッキー・ブロンスキーが演じたトレ
イシーと、彼女の仲間たちが次の音楽シーンに向かって行く
姿を描くもので、それは1960年代後半が背景になる。つまり
ビートルズなど、イギリス発の音楽の台頭する時期のアメリ
カの若者たちが描かれることになるようだ。
 なお、続編の計画は、2010年の公開を目指して進められる
とされている。
        *         *
 お次は9月15日付第167回でも報告した“xXx: The Return
of Xander Cage”について、その脚本執筆に、“Terminator
Salvation”を手掛けたマイクル・フェリスとジョン・ブラ
ンカトーが交渉されていることが発表された。
 この計画については、前回も紹介したようにジョー・ロス
製作の許、ロブ・コーエン監督とヴィン・ディーゼルの再顔
合せが実現するものだが、その先には若さを武器にした新た
なジェームズ・ボンドの誕生が目指されているものだ。そこ
に、『T3』から“Salvation”へ既存シリーズからの発展
を実現した脚本家コンビの参入は、長寿シリーズの基礎を築
くことができるか、楽しみなことだ。
 なおディーゼルは、2007年11月1日付第146回などで紹介
したシリーズ第4作“Fast & Furious”で、ポール・ウォー
カー、ミシェル・ロドリゲス、ジョーダナ・ブリュースター
と再共演、第3作のクリス・モーガン脚本、ジャスティン・
リン監督によるこの作品は、2009年6月12日の全米公開に向
けて、すでに撮影は完了している。
        *         *
 ジェームズ・ボンドの再来ということではもう1本、ロバ
ート・ラドラム原作の「ジェイスン・ボーン」シリーズに、
第4作の計画が発表された。
 このシリーズに関しては、すでにラドラムが執筆した3冊
の原作本は映画化が完了しており、然りとて2001年に亡くな
った原作者にはその続きを望むこともできないものだった。
そこでここからは、正しくハリウッド的続編を作り出すこと
になるものだが、その映画化の権利について、映画製作元の
ユニヴァーサルとラドラムの遺族との間で交渉がまとまり、
ラドラムが創造したキャラクターをさらに発展させることが
できるようになったというものだ。
 そしてその第4作については、前3作で全世界で10億ドル
を稼ぎ出した主演のマット・デイモンと、前2作を手掛けた
監督のポール・グリーングラスが、前作『ボーン・アルティ
メイタム』を手掛けたジョージ・ノルフィの脚本の許、再結
集する計画となっている。
 ただし、一時は契約が済んだように報道されたデイモンと
グリーングラスについては、まだ契約までには至っていない
ようだが、デイモンは「グリーングラス監督が参加するなら
自分も出る」と明言しており、当初はデイモンの動向が一番
問題とされた計画は、取り敢えず実現に向かう目途は立って
きたようだ。取り敢えずユニヴァーサルでは、2010年夏の公
開を目指して計画を進めるとしている。
 またこの計画では、ラドラムの管財人を務めるジェフリー
・ワイナーという人の設立によるLudlum Entertainmentが、
直接映画製作にも関ることになっており、ワイナーは映画の
プロデューサーとしても名を連ねている。この会社では、ラ
ドラムの原作本に基づく映画化やヴィデオゲーム化を進める
と同時に原作本に基づかない計画も行うとしているもので、
今回はその趣旨にしたがって第4作に計画に参入しているも
のだ。
 そして今回のユニヴァーサルとラドラム側との契約では、
ラドラムが執筆した25作を越える作品についても、Ludlum社
との共同開発で進めることに合意しているとのことで、今後
はそれらの作品の映画化も進められることになりそうだ。た
だし、今年4月15日付第157回で報告したMGM契約の“The
Matarese Circle”と、2005年にレオナルド・ディカプリオ
が権利を獲得した“The Chancellor Manuscript”の2作品
は除かれることになるが、元々が役者・演出家でもあったラ
ドラムの作品は映像化に好適とも言われ、その実現が楽しみ
なものだ。
        *         *
 次は続報で、2007年11月15日付第147回で紹介したギレル
モ・デル=トロ監督による往年のイギリステレビ作品“The
Champions”(電撃スパイ作戦)の映画化について、ブライ
アン・シンガー監督、トム・クルーズ主演の“Valkyrie”な
どを手掛けた脚本家のクリストファー・マカリーの参加が発
表された。
 マカリーは、オスカー脚本賞を受賞した1995年『ユージュ
アル・サスペクツ』の脚本などでも知られるが、元々デル=
トロとは親交が有ったようで、今回の発表に際しては、「テ
レビのオリジナルは、魅惑的な可能性を持った素晴らしい物
語で、私はデル=トロと最初に話し合った瞬間から、この作
品に関りたいと思っていた」と抱負を語っている。
 そのオリジナルの物語は、中国での作戦を終えた男女3人
の秘密諜報員を乗せた飛行機がヒマラヤ山中で墜落し、奇跡
的に一命を取り留めた彼らは、彼らを助けた謎の人々によっ
て特殊な能力を授けられる。そして母国に帰還した彼らは、
その能力を駆使して正義のための戦いを繰り広げるというも
のだ。
 この物語のどこにモンスターが出てくるかは判らないが、
取り敢えずデル=トロは製作、脚本、監督として関る計画と
されており、マカリーはその脚本と製作にも関ることになっ
ている。なお、製作会社は“Valkyrie”と同じくUAが担当
するもので、トム・クルーズ/ポーラ・ワグナーも製作者と
して名前が挙げられている。
 ただしマカリーはもう1本“The Monster of Florence”
という作品もUAで進めることになっている。この作品は、
1997年にペネロピー・アン・ミラー主演で映画化されたホラ
ー作品『レリック』などの原作者としても知られる作家ダグ
ラス・プレストンが、2000年にイタリアに移住して遭遇した
実話に基づく物語で、作家が1968−85年に起きた8つの殺人
事件が同じ殺人鬼の仕業だったことを調査証明して行く内、
もっと恐ろしい真実に突き当たるというもの。
 プレストンが発表した原作は、ニューヨーク・タイムズの
ベストセラーにも登場したとのことで、マカリーはその脚色
と製作も担当している。因に、Variety紙の報道ではこちら
の作品が先行で進められるようだ。
        *         *
 前回ジョー・ジョンストン監督の起用を紹介したマーヴェ
ル作品“The First Avenger: Captain America”について、
予想通り脚本家の追加発表が行われ、この脚本に『ナルニア
国物語』を担当したクリストファー・マーカスとスティーヴ
ン・マクフィリーの起用が報告された。
 この計画については、前回も紹介したようにザック・ペン
による脚色が進められていたものだが、『インクレディブル
・ハルク』が思い通りの成績にならなかったことが問題視さ
れた可能性は有りそうだ。とは言え、『ナルニア』も第2章
の成績はそれほど期待通りではなかったものだが、取り敢え
ず新しい血の導入が図られたということかもしれない。
 何れにしても、2011年5月の公開までには多少の時間的な
余裕は有りそうだし、じっくりと脚本を仕上げてもらいたい
ものだ。キャスティングの発表はまだのようだが、2011年の
マーヴェルは一気に攻勢を掛けてきそうな感じもするもの。
その中でのメイン作品としての期待も掛かるところだ。
        *         *
 マーヴェルの“Captain America”に続いては、DCから
“Captain Marvel”で、以前は“Shazam !”のタイトルで紹
介していたコミックスの映画化が、本来のヒーローの名前で
進められることになったようだ。
 この作品については、2003年1月1日付第30回で最初に紹
介したものだが、その後の紆余曲折の末に、現在は今年6月
15日付第161回で紹介したように『ゲットスマート』のピー
ター・シーゲル監督、ジョン・オーガストの脚本で進められ
ていることが報告されていた。
 そして今回は、『ゲットスマート』の大ヒットを受けたシ
ーゲル監督が、ワーナーと3年間の優先契約を結んだことが
発表され、その契約の一部として“Captain Marvel”の映画
化が正式に公表されたものだ。なお、以前に紹介した計画は
ニューラインで進められていたものだが、姉妹会社だった同
社がワーナーに吸収されたため、改めてワーナー映画として
の製作が進められる。
 ただし今回の発表で、主人公は10代の若者となっており、
以前紹介されたときのドウェイン‘ザ・ロック’ジョンスン
の主演がどうなったかは不明。製作母体が変っていろいろと
変更もあるのかも知れない。
 またシーゲル監督には、この計画の前に“Liam McBain:
International Tennis Star and Proper English Geezer”
と題された1980年代のテニス選手を主人公にした作品や、当
然“Get Smart”の続編の計画も発表されていて、“Captain
Marvel”がいつ実現するかは流動的なようだ。
        *         *
 ここからは新規の情報をいくつか紹介しておこう。
 まずは、ワーナーから“The Day Before”と題されたSF
映画の計画が発表されている。
 この題名からは、1983年の“The Day After”か、2004年
の“The Day After Tomorrow”などを連想しそうだが、本作
の物語は、時間軸を逆向きに進んで行くエイリアンによる地
球侵略を描くとのことで、核戦争や異常気象による災害映画
とはだいぶ違ったものになりそうだ。脚本はチャド・セント
ジョンという新人のオリジナルで、その映画化が『300』
などを手掛けたハリウッド・ギャングの製作で進められる。
 いやあ、何ともタイムパラドックスの塊になりそうな設定
だが、基本的に時間軸が逆向きということをどのように表現
するか、そこに説得力を持たせるだけでも至難の業になりそ
うだ。でもまあ、少なくともハリウッド・ギャングの首脳は
説得できた訳だから、それはそれだけの脚本になっていると
いうことなのだろう。
 それにしても、敵はどんどん過去に遡って人類を破滅させ
ようとしている訳で、その対抗手段としては、敵の過去とな
る未来でその計画を潰すことになるが、それまで人類の文明
が保てるかどうかということになるのかな。それと、映像的
には敵は常に後ろ向きに歩くことになるのだろうか…?何れ
にしても、かなり不思議な雰囲気の作品になりそうだ。
 因にセントジョンは、先に“The Further Adventures of
Doc Holiday”と題されたブルース・ウィリス向けの脚本を
手掛けているとのことで、西部劇とSF、まあ大衆エンター
テインメントとしては王道の作品を目指しているようだ。
 なおハリウッド・ギャングでは、前回紹介したターセム・
シン監督の“War of the Gods”をカントン・プロダクショ
ンと進めている他、『モンゴル』のセルゲイ・ボドノフ監督
による“The Silk Road: The Adventure of Marco Polo”と
いう作品もエンドゲーム・エンターテインメントと進めてい
るそうだ。
        *         *
 次はMGMから、キャスリーン・ライアン原作のヤング・
アダルト小説“Vibes”の映画化権を獲得したことが発表さ
れた。
 内容は、普通の17歳のチアリーダーの主人公がある朝目覚
めると、他人の心が読めるようになっていた…という設定か
ら始まるコメディだそうで、原作は10月に出版されたばかり
のもののようだ。そして映画化の脚色を、2007年版“Nancy
Drew”を手掛けたティファニー・ポールセンが担当すること
も発表されている。
 テレパシー物のコメディというと、2000年にメル・ギブス
ン、ヘレン・ハントが共演した“What Women Want”(ハー
ト・オブ・ウーマン)が思い浮かぶところだが、本作は17歳
の少女が主人公ということで、特に他人が自分をどう思って
いるかなど、人間関係も違ったものになりそうだ。製作は、
2003年『10日間で男を上手にフル方法』などのリンダ・オブ
ストが担当する。
 なお脚本家のポールセンは、ディズニーで1987年の公開作
“Adventure in Babysitting”(ベビーシッター・アドベン
チャー)の続編や、他に“Rocket Ship”と題されたファミ
リー・アドヴェンチャーの脚本も手掛けているようだ。
        *         *
 ゲイル・アン・ハード率いるワルハラ・モーション・ピク
チャーズが、デニス・ホープレス、ケヴィン・メロン原作に
よるグラフィックノヴェル“Gearhead”の映画化権の獲得を
発表した。
 物語は、邪悪なスーパーヒーローたちに支配された合衆国
を舞台に、反乱軍に参加した若い女性を主人公としたもの。
最近のスーパーヒーローブームに対抗する作品ということに
なりそうだ。それにしても、主人公たちが通常の人間だとす
ると、彼らがスーパーヒーローに対抗するには、連携プレイ
か特殊兵器が必要になりそうで、それがうまく決まれば面白
さも期待できるものだ。
 因に原作は、2006−07年にアルカナ・スタディオという出
版社から全4巻で発行されたもので、シェルビーという名前
の主人公が、はぐれた兄弟の所在を捜す内に徐々に反乱軍に
関わるようになり、やがてそのリーダーになって行く姿が描
かれているようだ。
 なおハードは、元ジェームズ・キャメロン夫人で、『ター
ミネーター』の権利の半分を所有していたことでも知られる
が、1986年の『エイリアン2』ではリプリーを一躍闘うヒロ
インに仕上げたり、2005年の『イーオン・フラックス』など
女性主導のアクション映画を常に模索している感じもしてい
るところで、今回の作品ではその方向性が一段と明確になり
そうだ。
        *         *
 ディズニーの新作アニメーション“Bolt”は、全米の900
館を越える映画館で3D上映が行われているようだが、すで
に来年以降の3Dシフトを発表してる同社の計画の目玉とし
て、1991年の“Beauty and Beast”(美女と野獣)を3D化
して再公開する計画が発表された。
 オリジナルは、その舞踏場のシーンで初めてフルCGIア
ニメーションが採用されたことでも話題になった作品だが、
そのCGIを手掛けたPIXARが現在のピクサー・アニメーシ
ョンとしてディズニーの根幹を背負っているものだ。そして
今回の計画では、ディズニーが社内で開発したディジタル技
術を使って3D化を行うとのことで、元々がセルアニメーシ
ョンで制作された舞踏場以外のシーンが、新たにディジタル
3D化されることになる。
 まあ、2D画像の3D化はすでに行われているものだし、
『ナイトメア・ビフォア・クリスマス』では、3D化の手順
として当時の人形のデータ化なども行われたようだが、今回
は舞踏場のシーン用のデータは残されていると思われ、それ
らが利用できれば3D化は順調に行われそうだ。因に公開は
2010年の予定(日付は未定)とされている。
 なお、ディズニーの3D公開の予定は、2009年に“Jonas
Brothers 3D Concert Movie”“Up”“G-Force”“Disney's
A Christmas Carol”“Toy Story”の3D版。そして2010年
には“Alice in Wonderland”“Rapunzel”“Toy Story 3”
“Step Up 3”“Toy Story 2”の3D版、となっており、こ
れに今回発表された“Beauty and Beast”を加えての2年間
11本は、ハリウッド最大規模の大攻勢となるようだ。
        *         *
 もう1本はリメイクで、2006年に日本公開された韓国映画
『グエムル/漢江の怪物』(英題名:The Host)の権利を、
ユニヴァーサルと『POTC』などのゴア・ヴァビンスキー
が獲得したと発表した。
 ポン・ジュノ監督によるオリジナルは韓国で大ヒット、そ
の後に中国でもヒットして、同国での続編が計画されている
ことは7月1日付第162回で紹介したが、今度はハリウッド
でのリメイクが発表されたものだ。ただしヴァビンスキーは
監督はしない模様で、監督にはコマーシャル出身のフレデリ
ック・ボンド、脚本は、今年UAから公開されたデニス・ク
エイド、サラ・ジェシカ・パーカー共演の“Smart People”
を手掛けたマーク・ポアリエが担当しているものだ。
 オリジナルは、怪物の脅威を丁寧に追っている感じもする
作品だが、脚本家の前作の評価もなかなか良いようなので、
ちょっと期待したくなるところだ。
        *         *
 最後に訂正で、前回も紹介した“Airman”について、以前
に来年1月の出版予定と書いたが、オーエン・コルファーの
原作本は今年1月に出ていたものだった。最近の映画化権は
出版前に契約されることが多く、また8月に出版された本の
付録になったりもしていたので誤解したが、Amazonに予約注
文しようとして出版済と知ったものだ。
 ここにお詫びして訂正させていただきます。


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井口健二