井口健二のOn the Production
筆者についてはこちらをご覧下さい。

2008年08月31日(日) 悪魔のリズム、かけひきは恋のはじまり、ハピネス、櫻の園、最後の初恋、初恋の想い出

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介しています。     ※
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
『悪魔のリズム』“Arritmia”
キューバ本島の一角に設けられた米軍施設グアンタナモ基地
で行われているテロリスト容疑者の取り調べを題材に、幻想
と現実が入り乱れる作品。題材的にはファンタシーのような
部分もあるが、現実的には、基地で行われているとされる残
虐行為を告発する面も持っている。
物語は、キューバの海岸に1人の若者が打ち上げられている
ところから始まる。その若者は記憶を喪失していたが、その
様子からグアンタナモ基地を脱走してきたと見られる。そこ
でその若者がヒッチハイクした車の運転手は、若者を自分の
妹の家に匿うが…
若者は徐々に記憶を取り戻し、グアンタナモ基地で行われて
いるテロ容疑者虐待の様子が明らかにされて行く。そしてこ
の物語には、踊り子である運転手の妹や、踊り子を庇護する
謎の老人などが介在する。
元々の企画は、1999年の『タイタス』なども手掛けた英国在
住の日本人プロデューサー・吉崎道代が立てたもので、吉崎
自身メッセージによると「世界の政治ゲームの中で翻弄され
る若者の悲劇を描こうとした」とのことだ。
実は吉崎は、その前にカストロ首相を題材にした作品を企画
していたが、本人への取材も済ませたところで9・11、さら
にその後のグアンタナモ基地の模様を報じたCNNの番組な
どを観て計画を変更したのだそうだ。
しかしカストロ本人にまで取材できる立場なのに、キューバ
政府の本作の製作への協力はあまり芳しくなかったそうだ。
それは、キューバがアメリカとの関係悪化を避けている印象
でもあったようだが、その辺にもこの問題の微妙さが伺える
ところのようだ。
そのため映画の撮影は主にスペイン国内で行われているが、
それでも独特の色調で描かれた作品には、最近何本か観てい
るハバナを舞台にした映画の雰囲気がよく出ていた。
出演は、『ヘルボーイ』などのルパート・エヴァンス、『ド
ット・ジ・アイ』などのナタリア・ヴェリベケ、『アンダー
ワールド』などのデレク・ジャコビ。脚本監督は、ゴッサム
・スタジオの創設者のヴィチェンテ・ペニャロッチャ。
なお、本作のアメリカ題名は“Guantanamero”となっている
が、これはスペイン語で「白日夢」という意味だそうだ。

『かけひきは、恋のはじまり』“Leatherheads”
ジョージ・クルーニー監督、主演、レネ・ゼルウィガー共演
で、アメリカン・フットボールのプロリーグ創世期を描いた
作品。クルーニー監督による長編第3作。
1920年代のお話。この時代、カレッジフットボールは、名門
同士の試合には4万人の観客が集まるほどの隆盛だったが、
プロリーグは未だし。チームは設立されても資金難で撤退が
相次ぎ、カレッジの人気者も卒業後は普通の仕事に就くのが
当然だった。
そんな中で主人公のドッジは、フットボールを心から愛し、
カレッジからプロに転向したという選手。しかし以来20年、
年齢もすでに40歳を超え、チームのスポンサーも撤退して岐
路に立たされている。
そんなとき1人のカレッジ選手が注目を集める。彼は選手と
しても優秀だったが、何と名門プリンストン大学を一時休学
して第1次世界大戦中のヨーロッパ戦線に赴き、そこで武勲
を立てて、一躍国民的英雄にもなったのだ。
そんな大学選手のカーターに目を付けたドッジは、自分も関
わったエージェントの伝を頼って接近し、プロにスカウトし
ようとするのだが…実は、彼の武勲はちょっと訳ありのよう
で、そこにはシカゴトリビューンの敏腕女性記者が、目的を
隠して取材に訪れていた。
ところがドッジはその女性記者に一目惚れ、さらにカーター
も思いを寄せている様子。こうしてアメフット・プロリーグ
の設立をかけて、3人の活躍が始まる。
アメフットのファンには堪らない作品だろう。僕も生噛りの
ファンとして、最初から最後まで楽しい笑いの連続だった。
特にドッジが繰り出す作戦は、今やったら永久追放もので、
正に奇想天外。これが通用したのもこの時代ということだ。
共演は、カーター役が『シュレック3』でランスロットの声
優を担当したジョン・クランスキー。他に、『未来世紀ブラ
ジル』などのジョナサン・プライス。また、酒場のピアノ奏
者役で本作作曲家のランディ・ニューマンが出演している。
因に原題は、当時の選手が装着していた革製のヘッドギアの
ことで、アメフットがまだヘルメットを付けていなかった時
代のお話だ。さらに、禁酒法下のモグリ酒場や、女性の社会
進出などの当時の時代背景が描かれる。

『ハピネス』“행복”
9月下旬開催の「韓流シネマ・フェスティバル2008」で
上映される作品の1本。2001年の東京国際映画祭に出品され
た『春の日は過ぎゆく』などのホ・ジノ監督の新作。
都会で放蕩な暮らしをしていた男が、肝硬変の治療のための
山間の療養所にやってくる。そしてそこに先から居た女性と
出会い、愛し合うようになった2人は療養所を出て一緒に暮
らすことになるが…やがて病の癒えた男性は、その暮らしが
退屈になる。
ホ・ジノ監督の作品は、『春の日…』しか観ていないが、監
督デビュー作の『8月のクリスマス』は日本版リメイクを観
ているものだ。そのいずれも、静かに男女の愛の行方を見詰
めるような作品で、その淡々とした映像が魅力の監督と言え
る。
その監督の新作の描く舞台は、療養所という特殊な環境では
あるが、そこで繰り広げられる愛憎劇は普通と変わるもので
はない。しかし、登場人物には病気という事実が重くのしか
かり、そこは、はらはらしたり、ほっとしたりという展開に
なる。
因に、本作は実話に基づく脚本だそうだが、その実話は山間
で静かに暮らす男女の話とのことで、もちろん映画のような
男性の話ではないようだ。元々ホ・ジノ監督の作品でも、こ
のように崩れた男の設定は珍しいようだが、主演のファン・
ジョンミンはそんな男性の2面性のようなものを見事に演じ
切っている。
男性の目で観ると、可憐な女性にこのような仕打ちは単純に
許せないと思うところではあるが、そんな男も居るだろうこ
とは理解の外ではないものだ。物語はその程度にリアルでは
あるし、それでも待ち続ける女性の姿には、憧れも感じてし
まうものでもある。そんな見事な物語と演出が、監督に賞を
もたらしてもいる作品だ。
共演は、ホラー映画『箪笥』で人気を得たイム・スジョン。
薄幸の女性を丁寧に演じている。他に、『M』でも似たよう
な役柄を演じていたユン・ヒョジンも出演している。
難病ものといういうことでは簡単な括りになるが、その病が
癒えることによって始まる悲劇というのは、新たな観点のよ
うにも思える。そんな物語が、ソウルの夜と全羅北道の山村
を舞台に展開される。
なお、本作の10月3日、4日の上映では、ホ・ジノ監督出席
によるティーチ・インも行われるようだ。

『櫻の園』
1985−86年に、白泉社発行の雑誌「LaLa」で連載された吉田
秋生原作・少女漫画の映画化。
同じ原作からは1990年に一度映画化があり、今回はそのとき
と同じ中原俊監督が、物語を現代化してリメイクした。ただ
し、原作そのものがオムニバスでいろいろな物語があるとの
ことで、今回の映画化は1990年版とは全く異なる展開となっ
ているようだ。
本作の主人公は、天才少女ヴァイオリニストとして将来を属
望され、特別な環境で育ってきた。でも、そこは現代っ子、
自分の置かれた環境に反発して、地方都市にある名門の女子
高に編入してくる。
その学校は、伝統を重んじる古風な場所だったが、母親と姉
が優秀な卒業生であり、彼女の音楽の才能も認められて特別
に編入が許されたものだ。しかし、その環境にも最初は馴染
めない主人公だった。
ところがふと立入禁止の旧校舎に潜入した主人公は、そこで
表紙に『桜の園』と書かれた舞台の台本を見付ける。それは
以前は創立記念日に伝統的に上演されてきたものだったが、
11年前に彼女の姉たちが演じようとした直前に中止されたと
いう。
そして、以来、学校での上演は禁止されていると教えられた
主人公は、級友たちに呼びかけて、その上演を試みるが…
本作は、伝統の演劇が中止されているという辺りから大胆な
展開だが、そこから後の展開も見事に現代を反映させて巧み
なものになっている。脚本は、『自虐の詩』も担当していた
関えり香。『赤い…』など往年のテレビドラマのリメイクも
手掛ける脚本家は、なかなか良い感じだ。
出演は、主人公を映画は初出演の福田沙紀が演じ、それを囲
んで『受験のシンデレラ』などの寺島咲、モデル出身の杏、
AKB48の大島優子らが共演。また京野ことみ、大杉漣、富司
純子、柳下大(D-Boys)らが脇を固める。
さらに、映画の製作がオスカー・プロモーションということ
で、米倉涼子、菊川怜、上戸彩らが特別出演している。
行間の無い携帯小説が全盛の時代に、少女漫画の世界がどの
くらい通用するものか判らないが、殺伐とした作品よりは情
緒のある作品の方が良い。本作は、そんな情緒のある作品で
もある。

『最後の初恋』“Nights in Rodanthe”
リチャード・ギア、ダイアン・レイン共演による大人のラヴ
ストーリー。『きみに読む物語』のニコラス・スパークス原
作の映画化。
若い頃の夢をあきらめて結婚、今は10代の2人の子供を抱え
て家事に追われるだけになってしまった女性と、高名な医師
で息子も同じ道に歩むという順風満帆の人生から一転、家族
を顧みて来なかった付けを払わされている男性。
そんな2人が、ハリケーン接近する海辺のホテルで出会い、
嵐の中でお互いの人生を語り合い、それはやがて愛へと昇華
して行く。しかしそれは一時の夢、それぞれの歩むべき道は
別々だったが…
『きみに…』もそうだったが、スパークスの作品は、どこか
先にありそうな物語なのに、そこからの展開がうまいと感じ
る。本作も言ってみれば『マディソン郡の橋』の流れなのだ
けれど、その後の展開がよりメロドラマになっている。
そのメロドラマを、すでに『運命の女』で夫婦役もしている
ギアとレインが演じる訳で、こういう作品が好きな人には堪
らないだろうし、そうでない観客にも案外これなら填るかも
知れないという感じの作品だ。
ギアと同い年で、レインを若い頃から観ている自分としては
こういう作品を観ることに抵抗はない。それに本作では、海
辺というか海岸の砂浜に建っているホテルの景観など、共演
の2人を別にしてもいろいろと楽しめた。
そこをハリケーンが襲うアクション場面は、台風馴れしてい
る僕らの目からすると甘い感じもあるが、カトリーナの後で
作られた作品だから、それは納得ずくのものだろう。それに
しても物語の舞台となるホテルは素敵で、こんなホテルが本
当にあるのなら泊まってみたいものだ。ただしハリケーンの
来ないときに…。
でも、ワーナー版『イルマーレ』の水上の家もセットだった
し、これくらい作ってしまうのも、ハリウッド映画の凄さ…
本当はどうなのだろうか。
共演は、ジェームズ・フランコ、スコット・グレン。その他
には、テレビシリーズ“Law & Order”のレギュラーが何人
か出ているようだ。そういうテーマの作品ではないが。

『初恋の想い出』“情人结”
『山の郵便配達』『故郷の香り』のフォ・ジェンチイ監督の
最新作。
1980年代から現代までを時代背景に、同じ官舎に住み幼稚園
からずっと一緒だった男女の恋物語が、『レッドクリフ』の
ヴィッキー・チャオと、『セブン・ソード』のルー・イーの
共演で描かれる。
1980年代、家族という構造がまだ人々の心の中心にあった時
代。小学校でも美少女といわれるチー・ランと、がき大将だ
が頭脳も明晰なホウ・ジアは、同じ官舎の上下の部屋にそれ
ぞれの家族と共に暮らしていた。
幼馴染みの2人はお互いを意識しあってはいたが、それはた
だ2人が一緒に居られれば楽しいという程度のもの。そんな
ある日、ホウ・ジアの家で事件が起き、母子家庭となった一
家は脚の悪い母親によって支えられて行くことになる。
それでも2人の関係が変わることはなく、高校から大学進学
へと進路を決める時期に差し掛かる。そんな時、ホウ・ジア
は、母親から「父親の仇のチー家の娘とは付き合うな」と言
われてしまう。
突然の申し渡しに驚くホウ・ジアだったが、母親はその詳し
い理由を教えてはくれない。一方、チー・ランも父親に真相
を問い質したことから、理由は言わずにホウ・ジアとの付き
合いを止めるように説得される。
それでも引かれ合う2人は、自分たちを『ロミオとジュリエ
ット』に準えて生きて行く決心をするが…。シェイクスピア
原作の結末を知る観客には、この後はかなり緊張した展開が
続くことになる。

1980年代は、まだ家族が心の中心にある時代ということで、
主人公たちはその家族と自己との板挟みに遭う。その状況が
現代にうまく通じるかというところがキーになるが、本作で
はいろいろな要素を組み合わせて、これなら現代の若者にも
納得できるだろうと思わせるものになっている。
その辺が、ただ純愛劇を観せるだけでないドラマを作り上げ
る監督のうまさとも言えそうだ。その手立ての一つがシェイ
クスピアの悲劇の巧みな引用で、その他にもいろいろな要素
が物語を作り上げている。
それから、同監督で僕が観た前2作は共に大自然を背景にし
ていたが、本作は都会(ハルピン)を舞台にしたもの。背景
は違っても変わらず素敵な物語を作り上げてくれた。
なお、主演のヴィッキー・チャオは、『レッド…』や『少林
サッカー』などでは、アクションやコミカルさに魅力を感じ
ていたが、本作のようにしっとりとした女性らしさも素晴ら
しい。因に、本作の本国公開は2005年で、1976年生のチャオ
は撮影時には20代後半のはずだが、高校生時代から演じてみ
せる演技力も見事だった。
ただし、小学生時代のヒロイン役は、2004年の『玲玲の電影
日記』でもヒロインの10代役に扮していたチャン・ユイジン
が演じているものだ。



2008年08月24日(日) ウォーリー、ハンサム★スーツ、弾突、M、ウォーダンス、ファム・ファタール、私の恋

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介しています。     ※
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
『ウォーリー』“Wall-E”
ディズニー=ピクサーの最新CGアニメーション。両社が合
併してからの第1号とされる作品。
環境汚染が進み、人類が地球を捨てて宇宙に旅立ったとき、
地球には、地表の汚染を除去して人類が戻れるようにするた
めのロボットWaste Allocation Load Lifter,Earth class=
WALL-Eが残された。
それは最初、膨大な台数で共同作業を行っていたが、やがて
人類の調査隊が来ることもなくなり、徐々にその機能を停止
していった。そして映画の始まりでは、地球に残された最後
の1台だけが与えられた任務を遂行し続けていた。
その最後の1台は、嵐の来襲時に避難する小屋の中に、機能
を停止した仲間から回収したスペア部品と、何故か自分の気
に入った宝物を集め。作業の出来ない夜間には『ハロー・ド
ーリー』のヴィデオを鑑賞しながら暮らしていた。
やがてそのロボットは、自らをウォーリーと呼び、ゴキブリ
と友情を分かち合う。そこには、感情に似たものが芽生え、
さらにヴィデオの出演者たちが手を繋ぐシーンに、いつの日
か自分も誰かと手を繋ぎたいと思うようになっていく。
そんなある日、ロボットがいつものように作業を続けている
と、突然上空からロケットが飛来し、純白に輝くロボットを
放出。その姿を観たウォーリーは、それこそが自分の手を繋
ぐ相手と確信するが…
地表にはウォーリーが処理して積み上げた瓦礫が蟻塚のよう
にそびえ、その中をロボットと地上で唯一の動く生物である
ゴキブリが行き来している。そんな大らかな世界から、一転
ウォーリーの思いもかけぬ冒険が繰り広げられる。
その物語の展開は、僕の予想とは多少違ったが、ピクサーの
今までの作品から観ればこれかなという感じのもの。つまり
これは安心して観ていられるというものだ。しかもそこから
結末への展開にも、心暖まるものが感じられた。
そしてエンディングクレジットに添えられた映像は、その解
釈がいろいろに出来るものだ。その辺にもうまさを感じた。
なお本作の劇場公開には、『マジシャン・プレスト』という
スラップスティックの短編アニメーションが併映される。

『ハンサム★スーツ』
それを着ると不細工な男がハンサムになるという魔法のスー
ツを巡って、塚地武雄と谷原章介が2人1役を演じるファン
タシー・コメディ。
男であれ女であれ、ハンサム/別嬪であれば人生が変わると
思っている人が、世間にどのくらい居るのかは知らないが、
そういう人たちにとってこの映画は、正に夢のような物語と
言えるものだろう。
塚地扮する不細工だが人の良い男が、そのスーツを着ること
によって谷原扮するハンサムに変身し、男性モデルにスカウ
トされ、トップモデルの女性と一時を共にする。確かに、こ
んなことになれば男冥利という生活が実現するものだ。
でも本当の幸せは何処にある…?当然、本作のテーマはそこ
に行くものだが、ただまあ、人生を60年近くも生きてきた自
分としては、かなり微妙に感じるテーマではある。その微妙
さが、他の人にどう採られるかが判らない部分だ。

脚本は、「ブスの瞳に恋してる」で話題になった構成作家の
鈴木おさむ。最近、この手の構成作家の映画を観る機会があ
るが、得手してつまらないギャグの羅列に辟易するものだ。
しかし本作は、意外と言っては失礼だが、予想以上にしっか
りした脚本になっていた。
もちろんそこにはつまらないギャグの羅列もあるのだが、そ
れが塚地演じるキャラクターに合っていて、一種のアンチテ
ーゼのようになっているのもうまいところだ。しかもそれを
谷原のシーンに振っているのもうまいし、それを谷原もよく
演じていた。
実際、谷原というタレントはテレビの司会程度でしか知らな
かったが、案外まじめにコメディと取り組んでいるのには好
感が持てた。因に映画は初主演だそうだ。
共演は、女優陣が北川景子、佐田真由美、大島美幸(脚本家
夫人)、本上まなみ、佐々木希。男優陣は池内博之、山本裕
典、ブラザートム、温水洋一、中条きよし、伊武雅刀。それ
ぞれ臭い部分もあるが、この物語には合っていたようだ。
監督はCMディレクター出身の英勉。長編映画は初作品のよ
うだが、全体的なバランスも良い感じだし、こちらもこの手
の人材としてはまともで良い感じだった。
テーマ的にはどうかなあと思う作品ではあるが、まじめに作
っている感じは良かったし、細かいところではいろいろ引っ
掛かる部分もありはするが、映画の全体としては悪くない作
品だった。

『弾突DANTOTSU』“Pistol Whipped”
スティーン・セガール主演による格闘技アクション映画。
セガールアクションでは、1992年『沈黙の戦艦』以降、正式
の続編は1本だけなのに『沈黙』シリーズと称された作品が
多数あるが、2001年『DENGEKI電撃』頃からローマ字
+漢字2文字の日本公開題名もあったものだ。
また今回は、1988年『刑事ニコ』で主演デビューから20周年
の作品とも称されており、「もう『沈黙』しないで」という
娘・藤谷文子の言葉も添えられている。これで『沈黙』が終
わるかどうかは知らないが。
物語は、元は殺人許可証を持つ政府機関の暗殺者で、その後
は地元の刑事になったものの酒とギャンブルに身を持ち崩し
た主人公が、その借金(123万ドル)を謎の男に肩代わりさ
れ、それと引き換えに暗殺を指令されるというもの。
その標的は、地元の顔役など裏社会にいる人間たちで、法律
では裁けない悪を倒すある種の『仕事人』のようなものだっ
たが…
過去のセガール作品では、主人公は常に清廉潔白、敵も間違
いなしの悪人で、ただバッタバッタと打ち倒していたが、今
回の主人公はアル中でギャンブル狂など、ちょっと今までと
は違う雰囲気も出している。
それに、指令される暗殺も、必ずしも納得は出来ないものだ
し、その他のプレッシャーも掛けられる。特に実の娘との関
りを含めての謎の男が繰り出す心理的な部分は、それなりに
うまく描かれていたような感じもするところだ。
とは言え、アクション映画であることには変わりなく、一旦
ことが始まればいつも通りのセガールが出現する。それは、
格闘技と銃撃戦のオンパレードで、一時期スタントマンも使
ったようなド派手なアクションではないが、それなりに堅実
に作られたものだ。
共演は、ランス・ヘンリクセン、レネ・ゴールズベリー、ポ
ール・カルデロン、それにブラチャード・ライアン。スター
級ではないが脇役としてはそこそこの顔ぶれが集められてい
る。
監督はオランダ出身のロエル・レーヌ、脚本は、『RONI
N』などのジェイ・ディー・ザイク。典型的なB級アクショ
ン映画で、それが目当ての観客には、これで充分と言えるだ
ろう。

『M』“엠”
9月下旬開催の「韓流シネマ・フェスティバル2008」で
上映される作品の1本。新作の執筆に行き詰まった作家が、
ふと訪れた路地裏のバーで不思議な体験をする。
その前には、その作家をストーカーする若い女性がいたり、
その女性や主人公が鏡の中の存在であることを暗示したり、
街角の風景が歪んだり、油絵のような感じになったりなどな
ど、いろいろ摩訶不思議な映像も登場する。
バーの名前がLupinであったり、全体的にサスペンス調で展
開されるが、実は本当の物語はそうではなかったりもする。
何にしろ目眩ませのような展開続出の作品で、物語も作家が
書き掛けの新作なのか、あるいはただの妄想なのかも判然と
はしない。
ただしその物語の全体には、何処か懐かしさや、青春の想い
出のようなものも忍び込んできて、そこには心地よさも感じ
られる。そして結末では、一応の纏まりは付けられるが、そ
れがその通り終わっているかどうかも明白ではない。
つまり、物語の解釈は観客に委ねられる部分が多く、このよ
うな作品を好む人には、かなりの高評価も得られそうな作品
だ。
監督は、2006年『デュエリスト』などのイ・ミョンセ。主演
は『オオカミの誘惑』などのカン・ドンウォン。他に、『百
万長者の初恋』のイ・ヨニ、『火山高』のコン・ヒョジンら
が共演している。
主人公の住居や、路地裏の風景、さらにバーLupin、編集者
と打ち合わせをする料亭などのヴィジュアルもかなり鮮烈に
描かれており、そういった部分の面白さでも満足できる作品
にもなっている。
因に、題名の『M』は主人公の名前のミヌによるものだが、
当然その他の意味も持つものだ。また、物語の間に挿入され
るナレーションは、完成された映像を観て詩人のチェ・ホギ
が書いたものだそうで、その手法も面白く感じられた。
それから、主人公が作家ということで、大量のタバコを吸う
シーンが登場するが、主演のカンは禁煙しており、これらの
シーンで使われているのは全てヨモギの葉。本来のタバコよ
り煙の量は多いそうだが、それはかえって雰囲気を出してい
たようだ。

『ウォーダンス/響け僕らの鼓動』“War Dance”
内戦の続くウガンダで、年に1回開催される小学生による音
楽祭。そこに、現在も紛争地域である北部難民キャンプから
初めて参加することになった小学生たちを記録したドキュメ
ンタリー作品。
300kmを2日間かけて移動する生徒たちの乗ったトラックに
は、常に銃を構えて警備する政府軍の兵士も同乗している。
そこに乗っている子供たちは、片親や両親を失った子たちも
多く、生まれてから銃声を聞かなかった日はないとも言う。
取材はその大会の2週間前、子供たちに最後の指導をするた
め、専門の2人の音楽教師が訪れるところから始まる。もち
ろんこの2人の教師にとっても命懸けの仕事だ。しかし、彼
らは子供たちに子供らしさを取り戻させるためにその仕事を
買って出たのだ。
そして子供たちは、伝統の民俗舞踊や民俗音楽、西洋風の賛
美歌のコーラスなど8部門の課題に挑んで行くことになる。
その子供たちの中には、「木琴ならウガンダ1だ。その実力
を見せてやる」と豪語する子もいるが、その実力のほどは未
知数だ。
一方、両親を殺された女子は預けられている親戚の理解を得
られなかったり、父親の殺された場所を初めて訪ねて出場を
報告する子供の姿なども描かれる。彼女らの家はキャンプか
らさほど離れていない場所だが、今は反政府軍の支配地域で
居住は許されない。
つまり彼らは自国内で難民生活を送っているもので、それは
本来なら5家族ぐらいが住む土地に5万人以上が押し込めら
れて暮らしているのだという。その伝統的な住居がぎっしり
と並ぶ風景は、昔に観た大らかなサバンナの風景からは想像
もつかなかったものだ。
そんな中でも彼らはたくましく生きて行こうとしている。そ
してそのためにも、音楽祭でのトロフィーは絶対に必要なも
のになって行く。しかし、初めて観る平和な首都の姿や、高
層ビルや車の渋滞、そんなカルチャーショックも彼らには襲
いかかる。
そして競争相手の生徒たちからは、「人殺し」と罵られたり
もしたようだ。
映画はあくまでも前向きに子供たちの未来を向いた姿を描こ
うとしている。しかし、そこに垣間見られる現実の恐ろしさ
も、しっかりと捉えている作品だ。こんな現実が、世界中に
はまだたくさん残っているのだ。

『ファム・ファタール』“무방비도시”
9月下旬開催の「韓流シネマ・フェスティバル2008」で
上映される作品の1本。大阪で発生した韓国スリ団による傷
害事件を題材に、韓国広域捜査隊の刑事とスリ団の女首領と
の暗闘を描いた作品。
主人公は、広域捜査隊の特捜班の刑事。彼の班はある犯罪者
を追っていたが、新たに班長が着任し、日本の警察からの要
請によるスリ団の捜査に変更されることになる。しかし主人
公には、その捜査をすることに苦い思い出があった。
一方、スリ団の女首領は大阪での事件の後に帰国して、ソウ
ルで新たな事業を始めようとしていたが、そこは彼女と確執
のある別の組織の縄張りだった。そして、その縄張りを取り
仕切るボスはなかなか彼女にその場所を与えようとしない。
こうして、警察と2つの組織の暗闘が始めるが…
物語が進むに従って、刑事の立場が明らかにされて行き、彼
の苦渋に満ちた人生が描かれて行く。そして、それに対する
女首領の背景にもドラマが隠されている。
そんな物語が、韓国版『白い巨搭』などのキム・ミョンミン
と、2002年『酔画仙』などのソン・イェジンの共演で描かれ
る。特に、清純派女優と言われるソンの妖艶なファム・ファ
タールぶりが見事だった。
監督は、『リベラ・メ』などの助監を務め、本作がデビュー
作のイ・サンギ。
凶悪な韓国スリ団の手口が克明に描かれる。その手口は、映
画や小説で芸術とまで称される日本のスリとは異なり、被害
者を傷つけることも厭わない凶暴なもので、その恐ろしさも
目の当りにさせられる。
そんなスリの様子は、イ監督が6ヶ月間、捜査隊に同行して
取材したものだということだ。この韓国スリ団の犯行は報道
などでも聞いてはいたが、ここまで恐ろしいものとは思わな
かった。
しかも大阪の事件の描写では、女首領が日本人の群集に向か
って言い放つ台詞も見事に決まってその恐ろしさを描き切る
が、それを曝け出す監督の見識にも感心した。その他、警察
とスリ団の闘いも、日本映画にはないリアルさで見事に描か
れていた。

『私の恋』“내 사랑”
9月下旬開催の「韓流シネマ・フェスティバル2008」で
上映される作品の1本。『青春漫画』で有名なイ・ハン監督
による青春群像劇。いろいろな状況の男女の恋愛模様がグラ
ンドホテル形式で描かれる。
大学に復学した先輩に片思いの後輩女子大生、ちょっと奇矯
な女性と彼女を愛してしまった男性、妻に先立たれたコピー
ライターと広告代理店の女性チームリーダー、久し振りに帰
国して6年前の約束の電話を待つ男性…
この内の一つは回想であったり、細かな構成が巧みに織り込
まれて、全体として素敵な物語が展開される。同じ形式の韓
国映画では2006年8月に『サッド・ムービー』を紹介してい
るが、この形式には正に映画を感じさせてくれるものだ。
しかも今回は「サッド」な物語ばかりではなく、中には微笑
ましいものもあって、心地よく観終えることができた。それ
に物語が全体的に前向きで、未来への展望を感じさせるエン
ディングにはほっとするところもあった。
しかも、全て物語が最後に一気にクライマックスを迎える構
成は、映画的に見事にやられたという感じもさせてくれた。
この辺は、脚本監督ともに見事なものだ。
出演は、1970年生まれのカム・ウソンから、1988年生まれの
イ・ヨニまで幅広い年齢層に股がっており、その辺もそれぞ
れの世代の登場人物に感情移入ができて、自分の思い出など
にも重ねて楽しむことができた。
特に、『M』にも出演していたイ・ヨニの演じる清純さとコ
ミカルさを兼ね備えたヒロインは、両作品を併せると際立つ
面白さだった。他に、チェ・ガンヒ、オム・テウン、チョン
・イル、リュ・スンニョン、イム・ジョンウンらが出演。
なお、物語の一つで8月20日がキーの日付となっているが、
実は先に紹介した『M』でも8月20日がキーになっていた。
韓国では何か特に意味のある日付なのだろうか。因に、本作
では皆既日食もキーになっているが、2001年以降のソウルで
はないようだ。
それから本作では、車窓の風景や学生街、オリンピック公園
など、ソウルのロケーションも楽しめるものになっている。



2008年08月17日(日) パティシエの恋、恋愛上手…、ボディJ、花は散れども、6年目も恋愛中、センターオブジアース、ダイアリーオブザデッド、ブラインドネス

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介しています。     ※
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
『パティシエの恋』“後備甜心”
10月中旬から開催される「中国映画の全貌2008」で上映
される内の1本。この映画祭では、日本公開済みの作品も含
め66番組の上映が予定されているようだが、その中で本作は
日本未公開とのことで試写が行われた。
香港のイタリアンレストランを舞台にしたラヴ・コメディ。
相手が他の女と付き合っていることを知りながら、その男と
別れられない女性パティシエのいる職場に、やはり二股を掛
けられている男性シェフが現れる。
と来れば、この2人が一緒になればことは簡単だが、人の心
はそう簡単なものではない。しかもこの2人には、最初の出
会いで多少行き違いがあったりして…そんな男女の物語が開
幕する。
昨年8月に紹介した『幸せのレシピ』など、レストランの厨
房を舞台にした恋物語が最近流行のようだ。これにはテレビ
のグルメ番組などの影響も考えられるが、いろいろな料理が
観られたりするのは、それなりに面白いことは確かだ。
お話は、正直に言って他愛ないものではあるが、まあ普通に
ラヴコメとはそういうものだろう。ただし本作では、2人の
接近は意外と早くて、間怠っこしいところが余りない。それ
でもいろんな出来事が生じる展開は、案外上手く作られてい
た感じがした。
しかも、女性の主人公にはイマジナリー・ペットがいたり、
ちょっと捻ったところもある。それもまた面白くて結構気に
入ってしまった。もちろん、傍から観ればいろいろ言ってあ
げたくなるような展開だが、それでも男女の恋はこんなもの
だとも納得できる。
出演は、2002年12月に紹介した『カルマ』(異度空間)に主
演のカリーナ・ラムと、『風雲ストームライダーズ』などの
イーキン・チェン。さらに、『カンフー・ダンク』などのエ
リック・ツァンがよく似た役柄で登場している。
監督は、アメリカ出身でフランシス・フォード・コッポラの
下にもいたことがあるというアンドリュー・ローと、『アン
ナマデリーナ』などの編集者で受賞の経験もあるモーリス・
リー。物語の分り易さは、この2人の力にもありそうだ。

『恋愛上手になるために』“The Good Night”
グウィネス・パルトロウの実弟ジェイクの初監督作品で、姉
とペネロペ・クルスの共演でも話題になっている作品。
ただし物語の主人公は、『ホット・ファズ』などのマーティ
ン・フリーマン扮するミュージシャンで、同じ『ホット…』
のサイモン・ペグ、さらにダニー・デヴィート、マイクル・
ガンボンらが共演している。
主人公は、以前には人気のあったミュージシャン。ちょっと
した勢いでバンドを解散し、当時のバンド仲間には実社会で
出世した奴もいるが、彼自身の現在はくすぶっている。そし
て当時から一緒に暮らす女性との仲も倦怠期だ。
そんな主人公がある夜、理想の女性が登場する夢を見る。そ
して夢を自在にコントロールして希望の夢が見られるように
する「明晰夢」の実践セミナーに参加した主人公は…
同じような題材の話では、昨年2月にミシェル・ゴンドリー
脚本監督の『恋愛睡眠のすすめ』を紹介しているが、発想は
似ていても展開はかなり違う。特に本作は、出演者からも想
像できるかなりセレブな雰囲気なども楽しめる作品だ。
因にゴンドリー作品の初上映は2006年2月のベルリン映画祭
で、本作の初上映は2007年1月のサンダンス映画祭だから、
その前の製作期間などを考えると想を得たということでもな
さそうだ。
このような夢と現実の交錯する話は過去にもいろいろあると
思うし、これからも次々作られそうだが、映画の中で夢と現
実とをしっかりと区別するのが良いか悪いか。本作では、夢
の世界を35mm、現実をスーパー16で撮影しているようだが、
ネタバレにもなってしまうし、その映像自体もあまり効果的
とは思えなかった。

それにしても、グウィネスとペネロペの共演というのも豪華
なもので、特にペネロペの如何にもセレブな感じがよく出て
いた。一方、グウィネスは実生活でもロックミュージシャン
と結婚しているから、弟はそんな姉を念頭に書いた脚本でも
あるのかな。
なお監督は次回作の脚本も進行中だそうで、同じような傾向
の作品ならそれも楽しみだ。

『ボディ・ジャック』
幸福の科学出版から2006年5月に刊行された光岡史朗原作の
小説の映画化。
最近多発している通り魔事件。それは過去の霊に身体を乗っ
取られた者たちの仕業だった。そして主人公の身体が幕末の
土佐藩士の霊に乗っ取られ、乗っ取った藩士は通り魔の真犯
人(霊)を発見し、犯行を止めようとするのだが…
この乗っ取った藩士の割り出しや真犯人の割り出しなど、そ
れぞれ推理的な要素も絡めた物語が展開される。
ところで主人公には、実は元学生運動の活動家という過去も
あって、その社会改革に賭けた思いと、幕末の藩士たちの思
いが重なってボディ・ジャックが起きたという設定もあるの
だが、実はそれがどうにも時代設定の辻褄が合わない。
実際、主人公が学生運動をしているは明らかに70年安保で、
その主人公が壮年になっているとは言っても演じているのが
高橋和也では明らかに40歳前後。それなら描かれている現代
が1990年頃かというと、その辺も明確ではない。
原作も2年前の発表だから、その辺は同じなのかも知れない
が、映画で観せるなら、ここはそれなりに気を使ってほしい
感じはしたものだ。僕は自分の中で解釈して辻褄を合わせた
が、それでも宣伝の人に確認するまで釈然とはしなかった。
まあその辺に引っ掛かりつつも、お話は現代の事象を上手く
反映しているものだし、それはそれで納得はするのだが…。
やはり一般の観客に対してはそれなりの手は打ってほしいと
ころだ。

共演は、土佐藩士役に故田宮二郎の息子の柴田光太郎。お父
さんを思い出させる風貌は役柄に良く合っていた。他に『さ
くや妖怪伝』などの安藤希。さらに、小林且弥、美保純、笠
智衆の孫の笠兼三らが出ている。
監督は、『真木栗ノ穴』などのプロデューサーの倉谷宣雄。
初監督作品のようだが、70年安保当時の映像にエコマークは
気を付けてもらいたかったものだ。もっとも、闇市に掲げら
れた星条旗に、平気で星が50個付いていたりするのが日本の
映画だが。

『花は散れども』
1912年生まれ、今年96歳の新藤兼人監督作品。
大正期の田舎の尋常小学校の様子と、戦後しばらく経っての
同窓会、さらにその後の物語が描かれる。その間の戦時中の
ことは、昨年5月に紹介した『陸に上がった軍艦』に描かれ
ており、それも観ておくと分り易いが、観ていなくても問題
はなさそうだ。
主人公は没落した一家の末弟。土地屋敷は人手に渡り、今で
は土蔵に住んでいる。それでも成績は優秀で級長も務めてい
るが、希望する上の学校には行けそうにない。そんな彼を、
担任の先生は上手く指導し、また副級長の女子も心に掛けて
くれている。
しかし、高等小学校で2年間学んだ後の主人公は、町に出て
そのまま音信不通となってしまう。そして30年が経ち、担任
の先生の定年を祝って開かれた同窓会に、脚本家となった主
人公も呼ばれるが…
この同窓会で級友たちの語る戦時中の苦難の歴史には、新藤
監督の思いが明確に現れている感じがする。それは前作から
引き継がれた今の日本に対するメッセージのようでもあり、
その監督の思いはしっかりと受け止めたいと感じた。
ただし物語はここから急展開を始める。そしてそれは深く人
間的なものになって行く。この転換の上手さが脚本家として
も大ベテランである新藤監督の面目躍如という感じのもの。
つまり、己が思想を観客に押し付けることなく納得させる。
その辺にも上手さを感じてしまった。
物語の全体は、今ではなかなか見つけられない全身全霊を教
育に捧げた教師の姿であり、一方、戦前戦後を生きた日本人
の物語でもある。今の時代にこのような人々には滅多に出会
えないが、これこそ良き日本人の姿が描かれている作品だ。
そんな日本人の姿を懸命に残そうとしている新藤監督の心に
も触れる感じのする作品だった。
出演は、柄本明、豊川悦司、六平直政、川上麻衣子、大竹し
のぶ。他に、角替和枝、根岸季衣、りりい、渡辺督子、大杉
漣、吉村実子、原田大二郎、田口トモロヲ、大森南朋、麿赤
兒。
正に日本映画の良心とも言える作品を見せてもらった。

『6年目も恋愛中』“6년째 연애중”
9月下旬開催の「韓流シネマ・フェスティバル2008」で
上映される作品の1本。現代文化の最前に生きている男女が
繰り広げる恋愛模様。
主人公は、出版社で「恋愛マニュアル」の編集者の女性と、
テレビ局でホームショッピング番組を担当するプロデューサ
ーの男性。2人は大学のサークルで知り合ってから6年目、
1年半前からはマンションの隣同士の部屋に住んで半同棲の
間柄になっている。
しかし、2人にはそれぞれ結婚より優先する目標があるよう
で、そのため現在の状況を維持しているが、徐々に倦怠期の
足音が聞こえてくる。そんなとき、女性は才能豊かな男性デ
ザイナーとの仕事上の交渉を任され、男性の傍には若い女性
の姿が現れる。
主演は、韓国でラヴコメの女王といわれるクム・ハヌルと、
元ラッパーで今は人気俳優のユン・ゲサン。共に1978年生ま
れの2人が初共演で、正に等身大の男女を演じているという
物語だ。
半同棲といっても他人は他人、ベッドや食事は共にしても、
結婚=運命共同体ではない間では最終的に話せないこともあ
る。そんな気持ちの擦れ違いが徐々に心の溝を広げて行く。
そしてそこには、他人の立ち入る隙もできてしまう。
6年間も半同棲という状況が、最近では普通なのかどうかも
判らないが、女性のキャリアも増えている昨今では、こんな
男女の姿も数多いのかも知れない。既婚者の自分には、正直
余り理解はできないが、あってもおかしくはないのだろう。
しかも通常なラヴコメなら、ここにお節介な先輩や同僚が出
てきたり、2人の仲を取り持つ関係者が登場するものだが、
本作ではそれも皆無で、2人は2人だけで事を解決しなくて
はならない。この辺も現代的と言えば現代的だが、何とも寂
しい人間関係だ。
従って、それも見事に現代社会を反映していると言えるかも
知れないところで、韓国では今年2月に公開されて、興行の
第1位を記録したということは、それだけの共感も得られた
のだろう。
監督は、韓国総合芸術学校を2002年に卒業して、本作が長編
デビュー作となるパク・ヒョンジン。つまり監督も同世代の
人が描いた正に現代の恋愛ドラマということだ。

『センター・オブ・ジ・アース』
        “Journey to the Center of the Earth”
3月に特別映像を紹介したジュール・ヴェルヌ原作冒険映画
の日本公開が10月25日に決定し、試写が開始された。
この試写は3Dで行われているが、今回はまだ日本語字幕も
吹き替えも準備されていないもので、英語のオリジナル版で
上映された。とは言っても、物語の骨子はヴェルヌ原作の通
りだし、ギャグなどに多少不明なところはあったが、物語の
理解には問題なかった。
ただし本作では物語を現代化してるが、それはちょっと面白
い仕掛けになっていた。なお、前回の紹介で同行者を主人公
の息子としたが、それは甥だったようで、その点だけ訂正し
ておく。
そこから先は、いろいろ新しい仕掛けなども登場はするが、
基本的にはヴェルヌの原作通りの物語が展開されている。従
ってその映像も、原作本の挿絵や1959年の映画化とほぼ同じ
となるが、それが今回は見事な3Dで展開される。
そして映画には、その3Dを最大限に活かすためのいろいろ
な仕掛けやアイデアも盛り込まれており、その仕掛けなどは
観てのお楽しみとしておくが、それは日本公開のキャッチコ
ピーにあるように、「映画館がテーマーパークに変わる!」
ものだ。
出演は、前回も紹介したようにブレンダン・フレーザー、ジ
ョッシュ・ハッチャースン、それにアイスランドの新星アニ
タ・ブリエム。プロローグとエピローグの少しを除いて、ほ
とんどこの3人だけの演技となる。
監督は、『キャプテンEO』などディズニーランドの3Dア
トラクション映像のVFXを手掛けてきたエリック・ブレヴ
ィク。実写の監督は初めてだが、永年培ってきた3Dの技が
見事に冴え渡っている。
因に今回の試写は、六本木にあるギャガ試写室を期間限定で
3Dシアターにして行っているものだが、そのシステムには
Dolby 3Dが用いられていた。この試写室は元々ディジタル対
応ではあったが、Dolby 3Dというのは本当に簡単に3D化で
きるもののようだ。
それから一般公開は吹き替えになると思われるが、その声優
には沢村一樹、入江甚儀、矢口真理が決まっているようだ。

『ダイアリー・オブ・ザ・デッド』“Diary of the Dead”
ジョージ・A・ロメロ監督による本家ゾンビ映画。
それぞれリメイクされたNight-Dawn-Dayに続いては、2005年
に“Land of the Dead”を発表したロメロ監督だが、前作が
有名俳優も揃えて大作風に作ったのに対して今回は、学生の
自主映画というスタイルで、原点に戻ったような作品に仕上
げている。
ただし、映画に登場する報道の音声には、ウェス・クレイヴ
ン、スティーヴン・キング、サイモン・ペグ、クウェンティ
ン・タランティーノ、ギレルモ・デル=トロら、ファンには
豪華な顔ぶれが登場しているようだ。
物語は、学生たちが山中で卒業制作のホラー映画を撮ってい
るところから始まる、凝り性の監督のお陰でスケジュールも
オーヴァーして、他の学生たちにも嫌気が差していたとき、
携帯ラジオから異様な報道が流れ始める。
それは、死体が甦って生きている人間を襲い始めたというも
のだ。最初は半信半疑だった彼らも事態を信じざるを得なく
なり、急遽学校へと戻るがすでにそこは藻抜けの殻。そして
恐ろしい状況に直面することになる。
そこで監督役だった学生は、後世にその事実を残すため、全
てを映像で記録することを決意するが…
ヴィデオカメラで撮られた学生映画という設定では、1999年
公開の『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』を思い出させる
が、同趣向の作品の中では、『クローバーフィールド』がわ
ざと稚拙感を出したような姑息なこともせず、プロの作品に
仕上げている。
そしてそこに、インターネットから拾ってきたという映像を
挟み込むことで、物語の視点を拡大させ、世界が直面した未
曾有の危機を見事に描き出して行く。特に、このインターネ
ットを挟むという手法が、批判的な部分を含めながら見事に
機能しているものだ。
その他にも監視カメラの映像など、現状有り得る映像を巧み
に織り込んで、物語をヴァラエティに富んだものに仕上げて
いる。ただし、1つのシークェンスでは本来ないはずの映像
が出てくるが、これはどうしたことだろうか。ちょっとロメ
ロの遊びかな。
「ゾンビは走れない」という台詞が出てきたり、リメイク作
品への批判とも取れる部分もあるが、ロメロのゾンビへの思
い入れは強く感じられた。なお、他の台詞で‘shoot me’に
は2重の意味を持たされていることは、気づいて欲しいもの
だ。そして結末では、現在の闇が見事に描き出されていた。
なお最新の情報によると、“Diary of the Dead 2”の製作
が9月に開始のようだ。

『ブラインドネス』“Blindness”
『シティ・オブ・ゴッド』『ナイロビの蜂』のフェルナンド
・メイレレス監督による人間ドラマ。ノーベル賞作家ジョゼ
・サラマーゴ原作『白い闇』の映画化。
物語の発端は、アメリカの何処かと思われる都市の街角で、
日本人男性の運転する車が立ち往生するところから始まる。
その男性は、突然目の前が真っ白になり何も見えなくなった
と言うのだ。
そこは何とか自宅に辿り着いた男性は、帰宅した妻と共に眼
科医を訪ねるが、目そのものには全く異状がなく原因も治療
法も不明と診断される。そして診断した眼科医は帰宅して文
献などを調べていたが、その眼科医も失明してしまう。
その後も同じ症状の失明者が次々に現れ、政府は伝染病と判
断して隔離対策を始める。ところが日本人の男性らと共に眼
科医が隔離病棟に収容されたとき、眼科医の妻は咄嗟に自分
も失明したと主張して夫に同行してしまう。
こうして、感染を恐れて警備員も近寄らない隔離病棟の中で
は、盲目の患者だけの社会が形成され始めるが…それは現代
の縮図のような世界になって行く。
人類の大半が盲目になるという話では、SFファンは1962年
に『人類SOS!』として映画化された、ジョン・ウィンダ
ム原作の『トリフィドの日』を思い出すところだが、本作が
SFかと言われるとかなり考えてしまう。
実際、物語は人類全体の話より、隔離病棟に閉じ込められた
人々の行動に重きがおかれており、それはSF的なものでは
なくむしろ人間性を問い掛けるものだ。つまりこの作品は、
SFのテーマを被った人間ドラマといった方が良い。
試写会で行われた舞台挨拶で監督も、「盲目はあくまでも象
徴的なものだ」と語っていたが、その通りの作品として考え
たほうが良さそうだ。
出演は、ジュリアン・モーア、マーク・ラファロ、ガエル・
ガルシア・ベルナル。さらに日本人夫妻役で、伊勢谷友介と
木村佳乃。他に、『アイ・アム・レジェンド』などのアリス
・ブラガ、『リーサル・ウェポン』のダニー・グローヴァら
が共演している。
また、『トスカーナの休日』『サイドウェイ』などの韓国系
女優サンドラ・オーが保険省長官の役で顔を出していた。



2008年08月15日(金) 第165回

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
※このページは、SF/ファンタシー系の作品を中心に、※
※僕が気になった映画の情報を掲載しています。    ※
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
 今回は製作ニュースから。
 日本では『竜王伝説』などの題名で知られる故ロバート・
ジョーダン原作によるファンタシー・シリーズ“The Wheel
of Time”の映画化権を7桁($)の契約金でユニヴァーサル
が獲得したと発表した。
 物語は、中世のイギリスを模したとされる架空の世界を舞
台にしたもので、本作執筆以前には『英雄コナン』シリーズ
も手掛けたことのあるジョーダンが、コナンの様ないわゆる
ヒーローの出てこないファンタシーを目指して創作したとさ
れる作品。平和な片田舎に住む平凡な男性が生まれ育った村
を出なくてはならなくなり、その外界には怪物や強大な敵が
待ち構えているというものだ。
 この展開だけ読むと、『ホビット』や『LOTR』、『ナ
ルニア』などにも共通するイギリスファンタシーの香りがす
るが、基本的なアイデアでは、3000年前に男性が支配してい
た世界が崩壊し、以後は絶対力と呼ばれる特別な力は女性だ
けが持って、世界政治の実権を握っているという設定。その
世界で主人公は絶対力を持ったヒーローとして登場するが…
となっている。
 そして物語は、第1巻“The Eye of the Wotld”(竜王伝
説)から、“The Great Hunt”“The Dragon Reborn”“The
Shadow Rising”“The Fires of Heaven”“Lord of Chaos"
“A Crown of Swords”“The Path of Daggers”“Winter's
Heart”“Crossroads of Twilight”“Knife of Dreams”と
続いて、第12巻の“A Memory of Light”で完結予定とされ
ていた。
 ところが、昨年9月にジョーダンが闘病の末に他界。この
ままシリーズは未完に終わるかと思われたが、現在この作品
は“Mistborn”シリーズなどのファンタシー作家ブランドン
・サンダースンがジョーダンの遺稿や創作メモに基づいて執
筆しており、来年秋の刊行が目指されているとのことだ。
 因にシリーズは、総計で4400万部を売り切ったとされ、最
近の4作品はNYタイムズのベストセラーリストの第1位を
獲得。さらにPCゲームやトレーディング・カード、RPG
などにも展開され、Red Eagle Entertainmentという会社か
らはグラフィックノヴェルの刊行も行われている。そして、
今回の映画化は、このグラフィックノヴェルの出版元が製作
にも関わっているものだ。
 なお、この映画化権に関しては、一時期アメリカNBCが
ミニシリーズの製作を目指して契約していたことがあり、そ
のミニシリーズは作られなかったようだが、今回その権利が
ユニヴァーサルに移転されたものだ。
        *         *
 お次は、前に記事にも出てきた『英雄コナン』の計画で、
昨年9月1日付第142回で紹介したミレニアム+ライオンズ
ゲートで進められているロバート・E・ハワード原作の映画
化に、新たな脚本家の契約が発表された。
 新たに参加が決まったのは、2005年6月1日付第88回など
で紹介したヴァイキング時代を背景にして異星人が登場する
というSFアクション“Outlander”などを手掛けるダーク
・ブラックマンとハワード・マッケインのコンビで、彼らは
製作費1億ドルが計上され、ミレニアム、ライオンズゲート
では過去最高額の作品となる新“Conan”の脚本を、オリジ
ナルのハワードの原作に基づいて執筆するとしている。
 因にこの計画では、当初は『ダンシング・ハバナ』などの
ボアズ・イェーキンが脚色を契約し、次いで『サウンド・オ
ブ・サンダー』のトーマス・ディーン・ドネリー、ヨッシュ
ア・オッペンハイマーのコンビも契約したが実現に至らなか
った。そしてこの原作の映画化では、1982年公開オリヴァ・
ストーン脚色、ジョン・ミリウス監督作品が先行するものだ
が、今回はさらに血糊を多くRレイトを目指すとのことで、
新脚本家コンビへの期待も高まる。
 ただし、1982年公開の“Conan the Barbarian”は全米興
行収入約3900万ドル、1984年の“Conan the Destroyer”は
約3100万ドルだったもの。これに海外分も加えると1億ドル
は突破するが、異世界ファンタシーブームもちょっと過剰気
味のこの時期に、特にRレイトを目指すという製作計画での
勝算は如何にというところだ。
 なお同じ脚本家コンビの作品で、上記の“Outlander”は
TWCの製作ですでに完成しており、海外ではこの秋から公
開が始まるようだ。一方、スカーレット・ヨハンソン主演で
計画が進められている“Amazon”に関しては、現状は中断中
となっているようだが、ライオンズゲートで進められている
この計画に脚本家たちが呼ばれたことから、今回の計画への
参加が決まったようで、今回の“Conan”は、それに優先し
て進められるとされている。
 と言っても製作開始は来年となるものだが、すでに紹介し
ている“Red Sonja”、前回紹介の“Thulsa Doom”と合せて
ハワード・ブームの到来を期待したいものだ。
        *         *
 次も脚本家の契約の情報で、今年6月1日付の第160回で
紹介した往年のスーパー・ヒーロー“Flash Gordon”の映画
化計画に、マット・サザマ、バーク・シャープレスの脚本家
コンビの契約が発表された。
 この脚本家コンビの名前は、昨年7月15日付の第139回で
紹介した実録版“Dracula Year Zero”と、SFコミックス
の映画化“Cobalt 60”(核戦争後の未来を背景にした物語
だそうだ)にも挙がっていたが、これらの計画はいずれもユ
ニヴァーサルで進められていたもので、今回はそこを離れて
ソニーとの契約となっている。
 因に1930年代のオリジナルの物語は、若きポロ選手の主人
公フラッシュ・ゴードンが、遠征先のチベットからの帰国の
際に、仲間のデイル・アーデン、ハンス・ザーコフと共に誘
拐され、遠隔の星モンゴに連れて行かれる。そこで、ミン皇
帝と名告る敵を相手に様々な冒険を繰り広げるというもの。
チベット、モンゴ(蒙古?)、ミン(明?)というのは今の
時代にちょっと気にはなるが、どうするのだろうか。
 それに、主人公のやっているスポーツが1980年に映画化さ
れていたときには、アメリカン・フットボールになっていた
と記憶するが、今度はどんなスポーツになるかも楽しみだ。
 なお、ユニヴァーサルで進められている2つの計画はいず
れも中断中とのこと。一方、“Flash Gordon”も以前はユニ
ヴァーサルで進められていたものだが、実は製作のニール・
モリッツ、監督のブレック・アイズナーは、そのときから関
わっており、脚本家コンビもそのころから目を付けられてい
たのかもしれない。
 いずれにしても早期の実現を望みたいものだ。
        *         *
 『300』に続くギリシャ時代に書かれた古代戦記物で、
紀元前4世紀ごろにソクラテスの門人クセノフォンによって
記録された“Anabasis”の映画化を、ソニー=コロムビアで
行うことが発表された。
 物語の背景は、紀元前401年。ギリシャとペルシャの戦い
が続く中、ペルシャ国王に反旗を翻した王の弟を援護するた
め遠征した1万人のギリシャ軍傭兵が、王弟の戦死によって
敵国の只中に取り残される。しかし彼らは、そこから6000km
を踏破してギリシャ圏に帰還。その戦いの様子を傭兵軍に従
軍したクセノフォンが記録したものだ。そしてこの物語は、
1979年にウォルター・ヒルが映画化した『ウォリアーズ』の
基になったとも言われている。
 その映画化を今回は、ソニー傘下モザイク・ピクチャーズ
を率いるジミー・ミラーと、HBOの歴史シリーズ“Rome”
などを手掛けるロビー&ジョナサン・スタムプ兄弟の製作で
進めるとしたもので、脚本の執筆には、ピュリッツァー受賞
者の劇作家ロバート・シェンカンの契約が発表されている。
 因に、シェンカンとソニー・ピクチャーズCEOのマイク
ル・リントンは、共に大学時代に原作を読んだそうで、今回
はその想い出が共鳴し、『300』の大ヒットの余韻の残る
この時期に計画が立上げられたものだ。
 ただし原作では、当時その土地にいた蛮族の様子などが、
かなり詩的にファンタスティック(人狼とか、立って歩く熊
とか…)に描かれているようで、その辺をどう処理するかも
映画化に当ってのポイントになりそうだ。また、1万人の兵
士の行軍というのは、それだけでも絵になりそうだが、さら
にそれが戦闘やアクションを繰り広げるとなると、これはま
さに『300』の流れを継ぐ作品となる。
 なお、モザイク・ピクチャーズは、今までに“Talladega
Night”や“Step Brothers”などコメディのNo.1ヒット作を
連発してきたが、今回の作品を足掛かりに歴史物の分野にも
進出する計画だそうだ。
 またロビー・スタムプは、以前には『銀河ヒッチハイク・
ガイド』などの故ダグラス・アダムスのパートナーとしても
知られていた人物だそうで、この人脈も興味深いものだ。
 ジョン・ウー監督の『レッド・クリフ』でも見事な古代の
戦いが描かれているが、登場するいろいろな戦術はCGIを
使うことでようやく映像化が可能にされたもので、この分野
の作品はこれからも次々登場しそうだ。
        *         *
 2007年デンマーク製作のファンタシー映画“De Fortabte
sjaeles ø”のリメイク権がユニヴァーサルと契約され、オ
リジナルを監督したニコライ・アーセルの手でハリウッド映
画化されることになった。
 物語は、郊外に住むティーンエイジャーの少女が、彼女の
弟に18世紀の魔法使いの精霊が乗り移ったことから、自分が
何世紀も続く善と悪との戦いのキープレーヤーであることを
知って…というもの。典型的な若年向けファンタシーという
感じだが、このオリジナルから、2006年『トゥモロー・ワー
ルド』(Children of Men)などを手掛けたストライク・エ
ンターテインメントの製作でリメイクが行われる。
 また、今回のハリウッド版の脚色には、昨年のサミュエル
・ゴールドウィン脚本賞で第1位を獲得したジェニファー・
オキーフの起用が発表されており、過去にはフランシス・フ
ォード・コッポラらも受賞している学生賞の受賞者から新た
な才能が開花しそうだ。
 因に、本作の英語題名は“Island of Lost Souls”となっ
ているが、1932年に『獣人島』の邦題で公開されたH・G・
ウェルズ原作『モロー博士の島』とは関係ないようだ。
        *         *
 キャロリン・バークハースト原作の全米ベストセラー小説
“The Dog of Babel”の映画化に、2003年のアイルランド映
画『ダブリン上等!』(Intermission)などを手掛けたジョ
ン・クローリー監督の起用が発表された。
 この作品は、言語学者の主人公がある日帰宅すると、自宅
の裏庭で妻が倒れて死んでいる。事故か自殺か、その死因を
探るため言語学者は、事件の唯一の目撃者である夫妻の愛犬
に人間の言葉を教え、真相を聞き出そうとするが…というも
の。そしてこの原作から、2006年“We Are Marshall”など
を手掛けたジェイミー・リンデンの脚色も発表されている。
 これがSFかどうかは意見が分かれると思うが、ファンタ
スティックな作品にはなりそうだ。
 製作は、『ハリー・ポッター』シリーズなどを手掛けるデ
イヴィッド・ヘイマン。彼は、クローリー監督とは、マイク
ル・ケインが主演した“Is There Anybody There?”という
作品で組んだばかりだが、この作品も人の死と死後の世界を
題材にしたものだそうで、「監督の感覚は、この種の題材に
向いている」というのが製作者の考えのようだ。
 製作会社は、2006年『主人公は僕だった』なども手掛ける
マンデイト・ピクチャーズ。製作は同社の最優先計画として
進めるとしている。
        *         *
 元タレントマネージャーのオーレン・シーゲルという人が
中国資本のプロダクション基金を獲得し、2003年ローカス賞
処女作部門の候補になったリサ・ラーナー原作“Just Like
Beauty”の映画化に乗り出すことになった。
 物語は、ギャングやミュータントや自殺教団が蠢く反ユー
トピアの未来社会を舞台に、母親を喜ばせるために美人コン
テストに出場することにした14歳の主人公を巡るもの。映画
のジャンル分けではダーク・コメディと紹介されていた。そ
してこの原作から、2007年にジェームズ・フランコ、シエナ
・ミラーが共演した“Camille”などのニック・パースティ
の脚色が契約されている。
 物語的にはいろいろ作れそうだが、反ユートピアのイメー
ジをどのように映像化するかが問題になりそうな作品で、こ
れから選考される監督が注目になるものだ。
 なお、製作者のシーゲルは、この他にマイクル・ホーンバ
ーグ原作による“Downers Grove”という作品の映画化も進
めているが、そちらは、『アメリカン・サイコ』などの原作
者ブレット・イーストン・エリスが脚色を担当することでも
話題になっているようだ。
        *         *
 ジェイムズ・パタースン原作のヤングアダルト・シリーズ
“Maximum Ride”について、その映画化権をコロムビアが獲
得したと発表した。
 この作品は、遺伝子操作によって98%が人間、2%を鳥と
して誕生した6人の子供たちを巡るもので、彼らは空を飛ぶ
能力を得て彼らを生み出した研究所を脱出。狼の遺伝子を持
つ追跡者を躱しながら逃亡を続けている…というもの。すで
に4巻が出版されていずれもベストセラーとなり、来年5巻
目が発行予定となっている。
 そしてその映画化を、『Gガール』などのドン・ペイネの
脚色により、大ヒット作『アイアンマン』の製作総指揮を務
めたアヴィ&アリ・アラド父子と、父子と共にシーサイド・
エンターテインメントを主宰するスティーヴン・ポールの製
作で行うものだ。
 因に、以前はマーヴェルの一員として『スパイダーマン』
などの映画製作に関ってきたアラド父子だが、今回の計画で
は、「ど派手なコスチュームに身を包んだアメコミ・ヒーロ
ーとは一線を画した、オリジナルなスーパーヒーローを生み
出したい」と抱負を語っているようだ。なお映画化では、ア
ラド父子とポールが製作を務め、原作者のパタースンは製作
総指揮の肩書きを得ることになっている。
 またアラド父子とポールは、すでに『ゴーストライダー』
の製作を手掛けているが、今回の計画は彼らの第3作となる
予定のものだそうで、その前に、日本アニメ『攻殻機動隊』
の3D実写版リメイクの計画が進められるそうだ。従って、
本作の製作はドリームワークスで進められるリメイクの後に
なるもので、さらにその後には、前々回第163回で紹介した
カプコンゲームの映画化“Lost Planet”が、『X−メン』
などのデイヴィッド・ハイターの脚本によりワーナーで予定
されているものだ。
        *         *
 製作ニュースの最後は、ブラジルを舞台にしたアクション
映画の話題で、“Lobo”と題された狼人間を題材とする3部
作映画の計画が紹介されている。
 この計画は、『ペネロピ』や『コレラの時代の愛』などを
製作したストーン・ヴィレッジが進めているもので、ディク
ラン・オーネキアンとライアン・コルチという2人の執筆に
よるオリジナル脚本を映画化するもの。監督には、最近デビ
ュー作を撮り終えたばかりという新人エンザ・サンズの起用
が発表されている。
 物語は、1人の男性が母親から写真の同封された手紙を受
け取り、自分のルーツを探るためにアマゾン奥地の人里離れ
た生地の村に向かうところから始まる。そこで彼は、自分が
狼人間の血を引く者であることを知り、さらに自分の為すべ
きことに目覚めて行く。そして狼人間たちを守るための戦い
に加わって行くが…というもの。
 この脚本に対して監督のサンズは、「モンスター映画とい
うより、セルジオ・レオーネのマカロニウェスタンのような
感覚の物語だ。新ボンドや『ダーク・ナイト』のようなダー
クなヒーロー世界に観客を連れて行く」として、一連の物語
を3本の映画に仕上げる計画としているものだ。
 出演者はこれから選考されるが、製作費には1500万ドルが
計上されて、10月15日からリオ・デジャネイロの郊外での撮
影開始が予定されている。またこの映画化に並行してグラフ
ィックノヴェルの刊行も計画されており、脚本家たちはその
物語の執筆も行うことになるようだ。
        *         *
 突然飛び込んできたニュースで、当初は今年11月21日に予
定されていた“Harry Potter and the Half-Blood Prince”
の公開が、来年7月17日に延期されると発表された。
 この作品に関しては11月17日にロンドンで、イギリス王室
も迎えたワールド・プレミアの開催も発表されていたものだ
が、ワーナー側の発表では、「作品にとってのより良い公開
時期として2009年夏を選択した」とのことだ。つまり、製作
が遅れたというような事情ではなく、純粋に興行的な問題と
しての延期のようで、来年7月の公開ではほぼ全世界一斉の
封切りを行うとしている。
 因に、『ハリー・ポッター』シリーズでは、前作の2007年
『不死鳥の騎士団』も7月公開で、全世界9億3800万ドルの
興行成績を挙げているそうだ。
 なお、来年の7月には、同日17日にウィル・フェレル主演
“Land of the Lost”、前週10日にはローランド・エメリッ
ヒ監督の“2012”、さらに前々週にはジョニー・デップ主演
“Public Enemies”と“Ice Age: Dawn of the Dinosaurs”
が並んでいるものだが、実は脚本家ストライキの影響で充分
な大作が揃えられていないという状況もあり、そんな中での
映画興行を支える究極の判断という見方もあるようだ。
 それから、2部作での公開が発表されている『ハリー・ポ
ッター』の最終話“Harry Potter and Deathly Hallows”に
関しては、2010年秋と2011年夏の公開予定に変更は無いよう
だ。
        *         *
 最後に、これはちょっと嫌な話なので、読みたくない人は
読まないで欲しいが、先日のVariety Japanのウェブサイト
に載ったミシェル・ゴンドリー来日記者会見の記事の中で、
監督が、東京とニューヨークの違いについての質問に怒った
との報道がされていた。実はこれは僕の質問に対してのこと
なので、ここにその顛末を記録しておく。
 この質問で、僕が実施に訊きたかったのは「ニューヨーク
が舞台の原作を東京を舞台に映画化するに当って変更したと
ころがあるか」というものだった。ところが、通訳を通じて
僕の真意が伝わらなかったようで、記事にされた事態になっ
てしまったものだ。
 そこで、僕は再度質問の意図を説明して、監督からは「ヒ
ロインが狭い路地を抜けるシーンなどがニューヨークとは違
う」という答えを得ている。そして会見後には、監督から直
接「誤解して済まなかった」という言葉と一緒に、プレスブ
ックにサインまでして貰ったものだ。
 同様のことは、以前にティム・バートンの記者会見の時に
も質問と答えがちぐはぐになり、以前の会見で僕がしたマニ
アックな質問に嬉しそうに答えてくれたバートンが、このと
きは怪訝な顔で僕を見ていたものだが、通訳を介した質問と
いうのは難しいと改めて思ったものだ。
 因にこの2回の通訳は同じ人だと思うが、この人は『ブラ
インドネス』の舞台挨拶の時も、フェルナンド・メイレレス
監督が“My First Japanese Movie”、つまり「自分の最初
の日本映画」と言っているのに、「初めての日本に関係した
映画」と訳しており、ちょっと疑問に感じたものだ。
 ちょっと嫌な話だったが、事実を報告しておく。



2008年08月10日(日) キズモモ、東京残酷警察、シルク、ワイルド・バレット、女工哀歌、春琴抄、ゾンビ・ストリッパーズ、文七元結

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介しています。     ※
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
『キズモモ。』
ユナイテッド・シネマ主催シネマプロットコンペティション
第2回に応募された作品からの映画化。
主演は、今年2月に紹介した『カフェ代官山』に出演の馬場
徹と、舞台『テニスの王子様』に出演の古川雄大。『カフェ
…』の時に書いたのと同様、若い女性向けのイケ面映画とい
う感じの作品だ。
実はマスコミ試写に行けなくて、サイエンスホールで行われ
た舞台挨拶付き完成披露試写会に行ったのだが、これが唯の
舞台挨拶ではないトークショウ、主題歌の生歌付きのしっか
りしたもので、実は入場料3800円と有料だったらしい。
それで、場内は99%が若い女性という感じだったが、彼女ら
がほとんど満足げに帰っていったのだから、『カフェ…』の
時に書いた疑問は解消されたというところだろう。しかも、
帰り道では9月の封切り初日にも行くという声が数多く聞か
れたものだ。
映画のお話は、過去に痛みを背負っているらしい若者の再生
を描いたもので、そこには自転車旅行の旅先での出来事、特
に痛みの原因になった幼馴染みにそっくりな若者が触媒のよ
うに登場する。
題名は、片仮名では判りにくいが、『傷桃』ということで、
桃であったり傷であったりが、青春というブランドの中でい
ろいろなことを象徴しているものだ。そうした物語が、人気
イケ面2人の初共演で描かれるのだから、これはファンには
堪らないものだろう。
さらに物語の舞台は、自然に包まれた山間の町(秩父でロケ
されたらしい)。そこに年配の時計職人とその弟子といった
キャラクター設定は、まさに王道という感じで、これを沃目
もなくやっていられるのも、この分野の利点と言えそうだ。
共演は、河合龍之介、水木薫、小林且弥、甲本雅裕、それに
大ベテランの織本順吉。監督は『さくらん』などの助監督を
務めた山本透が担当した。
まあ、あまり男が1人で観る映画とは思わないけれど、こう
いう世界もあるということは理解できる。男性にはそんなこ
との勉強にはなる作品だ。
それと当日の舞台挨拶では、女性司会者の仕切りの良さに感
心した。若い女性ばかりの観客相手はかなり難しいものと思
われるが、当意即妙の笑いの取り方、間の入れ方で、それは
見事なものだった。舞台では名告らなかったと思うが、どう
いう人なのか気になった。

『東京残酷警察』
TOKYO SHOCKと題された海外資本によって製作さ
れるスプラッターアクションシリーズの第2弾。警察機構の
民営化というかなり微妙な問題を背景にした近未来(?)、
あるいはパラレルワールド物といった感じの作品。
エンジニアと呼ばれる謎の殺戮者が現れる。それは身体が切
断されると、その切断面からさらに凶暴な武器を備えた肉体
が生えてくるという特殊な人体改造を施された犯罪者たち。
その事態に政府は治外法権法を発令して警察を民営化、取り
締まりの強化を目論む。
そして主人公は、警官だった父親を殺され、警察署長の許で
育てられた女性刑事。正義感も強く、優れた身体能力もあっ
てエースとなって行くが、母親の自傷癖も引き継いでいる…
という設定で、とにかく物凄いスプラッターが展開される。
脚本(共同)と監督は、山口雄大監督の『MEATBALL
MACHINE』などの特殊効果を務めた西村喜廣。彼は、
本作の特技監督、残酷効果、クリーチャーデザイン、編集も
手掛けるワンマン映画だ。
この西村監督は、自ら残酷効果請負人とも名告っているそう
で、その面目躍如という感じの作品でもある。とにかく大量
の血糊の中、マシンガンやチェーンソーが振り回され、身体
が切断されては吹き飛び、血飛沫が噴出するという作品。
実際この種の映像は、日本の大手の映画会社では描写が規制
されて、なかなか実現できないそうだが、それを本作では海
外資本の導入によって、規制なしの過激な描写を可能にして
いる…というもののようだ。
ということで、好きな人には堪らない作品となりそうだが、
取り敢えずは思い切りやらせてもらえた監督には嬉しかった
作品のようだ。なお初回の試写会には監督も立ち会っていた
が、終った後も満足そうだった。
それで観客も、その勢いに乗って観ていればいいという感じ
の作品で、七面倒くさいことは考えずに、ニヤニヤケラケラ
と笑っていれば良い。それができない人は、最初からこの作
品の観客対象ではなかったというものだ。
ただし、間に挟まるフェイクのCMなどには、かなり痛烈な
社会批判のようなものも含まれていて、それはそれでこの映
画の気に入ったところでもあった。

『シルク』“詭絲”
8月23日から開催される台湾シネマ・コレクションで上映さ
れる内の1本。2006年台湾映画興収第1位を記録した作品。
『レッド・クリフ』にも出演のチャン・チェンと、日本から
江口洋介の共演で、死後世界に取り憑かれた科学者を描く。
物語は、白人のカメラマンが台湾のアパートで幽霊を撮影す
るところから始まる。その撮影成功の知らせに、直ちにその
周囲には立入禁止の処置が施され、江口扮する科学者を中心
としたチームが乗り込んでくる。
一方、チャンが扮するのは警察の特捜班の刑事だが、彼には
ちょっと特殊な能力があるらしく、捕獲した幽霊の調査のた
めに現場に呼び寄せられる。そして、読唇術なども使って幽
霊の正体を調査して行くことになるが…
物語の背景には、人体の発する精神エネルギーを活用して、
反重力などを開発しようとする日本政府のプロジェクトがあ
り、日本政府の圧力の下で事件が動かされるという特殊な状
況も垣間見させる。
実は作品は、台湾製作のホラー大作として話題になったもの
で、一昨年の東京国際映画祭でも上映されたがスケジュール
の都合で観られなかった。おそらく日本公開もすぐに行われ
るだろうと思っていたが、今になってしまったものだ。
日本の公開が遅れた理由は、ホラーブームが下火になったこ
となどもあると思われるが、本作はチャンによるアクション
の要素もあって、映画全体は観客を飽きさせない面白い作品
になっている。
それに、英語、中国語、日本語などの台詞が次々に発せられ
るのも面白いところで、しかも相互に理解しているという設
定は、それなりに納得もできたものだ。
ただ、物語の展開の中では反重力などのSF的な要素が充分
に消化し切れておらず、その辺がSFファンとしては不満足
なところもあって、ホラーの部分とのバランスが上手く取れ
ていない感じはした。

とは言え、劇中には結構見事なVFXなどもあって充分に楽
しめる作品ではあった。

『ワイルド・バレット』“Running Scared”
『ワイルド・スピード』などのポール・ウォーカー主演によ
るアクション映画。
主人公は、犯罪に使われた銃器の始末をする係のチンピラだ
ったが、ある日、警官殺しに使われ始末を依頼された小型拳
銃が隣家の子供に持ち出され、虐待する親に向けて発砲され
てしまう。しかも、その子供は拳銃を持ったまま行方をくら
ませてしまう。
この事態に、拳銃の取り戻しと証拠の隠滅、さらに息子の親
友でもあるその子の発見救出のために主人公は行動を開始す
るが…。これに、警察や地元のヤクザや、地元に進出を図る
ロシアマフィア、その他の有象無象が関って、事件はあらぬ
方向に進展する。
ヤクザな主人公が子供を救うために活躍するというお話はい
ろいろあると思うが、本作の物語は、その発端は特殊であっ
ても比較的納得できるもので、しかも、現在のアメリカの抱
えるいろいろな問題が見事に描かれた作品でもある。
それはマフィアだけでなく、麻薬、ポン引きから幼児ポルノ
まで、正に現在アメリカの病巣が凝縮されているという感じ
もして、それは物凄い迫力で描かれていた。そのため、上映
時間は2時間2分と多少長目にはなっているが、それだけの
ものは描かれている作品だ。
脚本・監督は、南アフリカ出身のウェイン・クライマー。ハ
リウッドからは距離をおいて活動している監督だそうで、前
作では出演者がオスカー候補になり注目されたが、それでも
本作の製作では、『モンスター』などのメディア8を製作会
社に選んでいる。
因に本作は、ニュージャージーが舞台の物語なのに、主要な
シーンをチェコのプラハで撮影したとのこと。それはもちろ
ん製作費の削減の目的でもあるが、ハリウッドに背を向けて
いるという感じもするものだ。
共演は、2006年8月に紹介した『アダム』などのキャメロン
・ブライト。強烈な印象を残す子役だが、2006年米国公開の
本作の後では、『ウルトラヴァイオレット』『Xメン3』な
どにも重要な役で出演している。
他には、『ディパーテッド』のヴェラ・ファーミガ、『ブロ
ンクス物語』のチャズ・パルミンテリらが登場。特に、ファ
ミーガの女っぷりが良かった。
前半にはちょっと首を傾げるシーンも登場するが、最後には
それがピタリと納まる。そんな脚本も良い感じだった。


『女工哀歌』“China Blue”
中華人民共和国におけるジーンズ衣料の製造現場を取材した
ドキュメンタリー作品。
スポーツウェアの製造に関るアジア搾取の問題は、2000年の
映画『ズーランダー』の背景にもなっていたから、問題が発
覚したのはその前ということになるが、当時はマレーシアで
行われていた搾取は、今や中国に舞台を移しているようだ。
しかも、スポーツウェアの時はブランドが発注主だったのに
対して、今回の発注元はウォルマート。そのセール品の製造
ということでは、もはや買い叩きは当然で、その原価はどん
どん低下して行くことになる。
実際、作品の中でも、ジャケットとジーパンのセットの価格
交渉のシーンがあったが、その妥結額は$4.10、ジーパンだ
けだと1$台だという。それを製造するのだから、そこから
工員に払われる賃金は押して知るべし。
さらに、納入期日に間に合わせるための徹夜の残業などは日
常だが、それに残業手当が出る訳でもなく、しかもその微々
たる賃金は3カ月以上の遅配となっている。
そんな状況でも、独りっ子政策の下で次女として生まれた少
女たちには、教育を受ける機会もなく、16歳の就労年齢に達
すれば、農村から都会に来てこのような工場で働くのが、唯
一の生きる術となっている。映画の中には、14歳で偽造の身
分証明書を持ち、すでに働いて2年という少女も紹介されて
いた。
そんな過酷な条件の中でも、ベテランになればそれなりの給
料も貰え、中には別の工場で働く少年と共に将来を誓いあっ
ている少女もいる。彼女らの夢は、いつか自分たちの工場を
持つことだというが…
取材対象の工場を経営しているのは、元は地元の警察署長だ
ったという男性。つまりそういうところに利権が集まり、そ
ういう連中だけが超え太っているという図式だ。ボールに一
緒盛りの食事(代金は給料天引き)を食べている少女たちの
姿に並行して、豪華な会食をする経営者の映像が写し出され
る。もちろんそれはより良い契約を得るためのものだが…
搾取というのは、何時の世にも在ることとは思うが、共産主
義を唱える国家の実情がこれでは余りに情けない。オリムピ
ックで浮かれている国のお粗末な実態が描き出される。

『春琴抄』
谷崎潤一郎原作による名作の映画化。過去には著名なものだ
けで5回の映画化があるようだが、今回は1976年山口百恵、
三浦友和の共演作以来、32年ぶりとなる作品。
美貌だが盲目で我儘な師匠と、それに仕える奉公人の男。こ
の2人の崇高の愛を描いた物語を、今回は『スキトモ』など
の斎藤工と、9月公開『ロックン・ロール・ダイエット』な
どの長澤奈央の共演で映画化した。
物語については、改めて書くこともないだろう。谷崎という
ことで耽美的な側面が取り上げられることの多い原作のよう
だが、映画化は飽く迄も崇高な愛を捧げ通す男の物語として
描かれている。
監督はピンク映画出身で2006年『青いうた』などの金田敬。
脚本は『死神の精度』などの小林弘利。どちらもそつなくと
いうか、きっちりと仕上げている感じの作品だ。特に、明治
の時代の雰囲気などはそれなりに出ていたように感じた。
主演の2人については、僕がここで紹介した作品ということ
で上記の作品を挙げたが、特に斎藤に関してはNHKの連続
ドラマの主演などでも人気があるようだ。なお、この原作の
映画化は通常女優の主演で紹介されるが、本作は斎藤の主演
となっている。
という人気者の主演作だが、その公開はモーニング&レイト
ショウのみとのことで、何か勿体無い感じもする。しかし、
元々興行よりもDVD売りが目的の作品ということなのか、
これで商売になるというのもご立派なことだ。
因に、本作DVD売りは先のことになるはずだが、すでに斎
藤工をフィーチャーしたメイキングDVDは発売されている
ようだ。また、完成披露試写会はサイエンスホールで有料で
行われるようで、そういう体制が整ってきているということ
なのだろう。
共演は、『仮面ライダー龍騎』などの松田悟志。さらに語り
手でもある下女役に扮した沢木ルカのちょっと人を食ったよ
うな演技は面白かった。

『ゾンビ・ストリッパーズ』“Zombie Strippers!”
現在、アメリカのポルノ業界で最高人気女優の1人と言われ
るジェナ・ジェンスン主演によるセクシーゾンビ映画。
死者を蘇らせて、死をも恐れぬ兵士を生み出そうというアメ
リカ軍の秘密研究が破綻し、ゾンビが市中に溢れ出す。いつ
もお決まりのような発端だが、本作ではそれが違法な地下ク
ラブのストリッパーに感染して…
映画の巻頭では、ブッシュ大統領が4選を決め、アメリカが
世界中に戦争を仕掛けている状況が説明される。これが結構
ありそうで笑えるが、あまり笑ってばかりいられないような
感じにもさせてくれるものだ。
共演は、地下クラブのオーナー役としてロバート・イングラ
ンド。『エルム街の悪夢』のフレディ・クルーガー役で有名
なホラー俳優が、何故このような作品に出ているのか不明だ
が、裸の女優たちを眺めてにやにや演じている姿は、正に役
得という感じがした。
脚本と監督はジェイ・リー。元々が低予算のホラー映画を量
産してきた人のようだが、その当時から「どんな作品のコン
セプトでも、ゾンビ・ストリッパーよりはまし」と思ってい
たそうだ。それがずばりその作品を作ったのだ。
ただし、脚本の下敷きにはウジェーヌ・イヨネスコの『犀』
があるとのこと。この作品はナチスの台頭を許した民衆の無
関心を描いたとされているものだが、映画の冒頭に置かれた
映像には、それを考えさせるものも含まれている。
そして、ジェンスンもその政治思想に共感して出演を快諾し
たということだが、それはそれとして、本作は彼女の見事な
ポールダンスなど、ストリップティーズの演技も楽しめる作
品になっている。
因に物語の設定では、ゾンビになるとダンスが上手くなり、
より多くの男たちが魅惑される…となっていて、それで率先
してゾンビになろうとするダンサーも現れることになる。そ
んなところも政治的な意図で読み取れる作品ということだ。
もちろんコメディ仕立ての作品だが、意外と深いものも持っ
ている。アメリカ映画界も、そろそろそういう目が強くなっ
てきているようだ。

『人情噺/文七元結』
シネマ歌舞伎と呼ばれる映像作品の第6作。今回は、三遊亭
円朝の原作口演による落語の人情噺を歌舞伎にし、その舞台
面をハイヴィジョン撮影したもので、その撮影の際の監督を
山田洋次が務めている。
江戸時代の庶民の話。左官の長兵衛は仕事の腕は上等だが、
大の賭博好きで酒好き。お陰で借金も積もり積もって後妻の
女房との間に喧嘩も絶えない。そんな大晦日も近いある宵、
娘のお久の姿が見えなくなる。
ところが、娘を捜しに行こうと慌てているところに訪ねてき
たのが吉原の茶屋の男。男はお久が父親の仕事で知っていた
茶屋を訪ね、家の借金を払うために自分の身体を売りたいと
言い出したのだという。
駆け付けた父親に茶屋の女将は、金50両を貸すから今ある借
金を払い。しっかり1年間を働いて貸した金を返すように説
教する。その間は、お久に客は取らせないという条件だ。そ
こで長兵衛は心を入れ替えると誓うのだが…
その帰り道、大川端で若い男が身を投げようとしているのを
発見した長兵衛は、その男が預かった店の金50両をスリに盗
られたと聞かされ、人の命には替えられないと、借りたばか
りの50両をその男に与えてしまう。
元の落語は、僕は故三遊亭円生の高座で聞いているが、「黄
金餅」「紺屋高尾」と並ぶ江戸商家の縁起話の一つで、中で
もこの話は、笑いの中にほろりとさせられる人情が上手く織
り込まれて、僕はいつもそれに行かされてしまった方だ。
それに今回は、演じている歌舞伎役者たちの口調が円生師匠
にそっくりで、それも心地良かった。そんな訳で、話が佳境
に入ってからはスクリーンがぼやけることも多くなったもの
で、知った話を別の形態で観るのも良いと認識できた。
舞台が、歌舞伎としてどのように評価されているかは知らな
いが、落語好きの自分としては、充分に満足できる作品だっ
た。
ということで、作品は気に入ったのだが、実は今回の撮影、
上映に関してはいくつか引っ掛かるところがあった。
まずは上映だが、僕が見た試写会では多分2.35:1のスクリ
ーンに、16:9の映写が行われていた。つまり、スクリーン
の両側に余白があり、マスクがされていなかったもので、こ
れは場末のポルノ館ではあるまいし、プロの上映としてはか
なりお粗末なものだ。
それに撮影がパンフォーカスでないのも気になった。特に座
った全身が写る程度のサイズの時に後ろの役者の表情がぼや
けている。これは舞台面の撮影であることを考えると、観客
は全ての役者に目が行くもので、それがぼけていてシネマ歌
舞伎はおかしなものだ。
今回の作品は題材が好きな話なので目を瞑ることにするが、
今後も続く計画のシリーズでは、特にプロにはプロとしての
仕事を期待したいものだ。



2008年08月03日(日) ラブファイト、フロンティア、その土曜日7時58分、ビバ!監督人生!!、ファン・ジニ、LOOK、レッド・クリフ

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介しています。     ※
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
『ラブファイト』
1992年発表のまきの・えり原作『聖母少女』の映画化。
この原作から2006年の『手紙』などを手掛けた阿部照夫が脚
色。2005年『フライ,ダディ,フライ』などの成島出が監督
した。因に『手紙』の脚色は、前々回紹介した『イエスタデ
イズ』の清水友佳子と共同によるものだ。
主人公は、関西弁でいうヘタレな少年と、その幼馴染みの少
女。しかしその少女は、幼稚園の頃から男子にも平気で喧嘩
を挑んでイジメられっ子の少年を守り続けてきた。この少年
を『DIVE』の林遣都が演じ、少女を『ゲゲゲの鬼太郎』
の北乃きいが演じる。
殴り合うことで心を確かめ合うというかなり過激なテーマの
作品だが、林と北乃は5カ月に及ぶボクシングの特訓を受け
たとのことで、スポーツ物として良くできた作品になってい
る。
特に北乃は、元々が格闘技のファンで、アクション映画に憧
れており、さらにバレリーナでもあるとのことで、その振り
付けも含めたアクションの動きは様になっているように見え
た。中でも廻し蹴りのシーンは見ものだ。
メインの物語はこの高校生2人が中心だが、サイドには本作
のプロデューサーも務めた大沢たかおと、桜井幸子による悲
恋物語などもあって、結構深みのある内容になっている。実
際、脚本の改稿は120稿を越えているとのことで、それだけ
練り込まれた作品のようだ。
他に、波岡一喜、藤村聖子、鳥羽潤、建蔵、三田村周三らが
共演。また、FIBA世界バンタム級チャンピオンの天海ツナミ
がゲスト出演している。
まあ、全体的にはスポ根物の作品だが、主人公たちが結構屈
折していて、その辺がドラマとしても厚みにあるものになっ
ている。それにスタント吹き替えなしで撮影されたというボ
クシングのシーンはかなりの迫力だった。
因に完成披露試写では、メイキングの映像の上映されたが、
その真剣ぶりが良く判る感じだった。また舞台挨拶では、終
始北乃が林をリードしている感じなのが、映画のキャラクタ
ーともマッチして微笑ましかった。

『フロンティア』“Frontière(s)”
リュック・ベッソン主宰ヨーロッパ・コープ提供によるフラ
ンス製スプラッター作品。同様の作品では、2006年6月紹介
の『ハイテンション』があるが、本作では新たにザヴィエ・
ジャンという監督が抜擢されている。
物語は、何時とは知れないフランス大統領選挙が決選投票に
持ち込まれた状況が背景。極右と保守の2候補の決選投票を
前に各地で暴動が発生し、政府は夜間外出禁止令を発令して
民衆の弾圧を始めている。
そんな中で主人公たちは、混乱に乗じた強盗を働き、それで
得た資金で海外へ逃亡を図っている。ところが兄妹で参加し
ていた兄が銃弾を受け、グループの内の2人が現金を持って
国境に向かい、妹とその恋人が兄を病院に搬送することにな
る。
一方、国境に向かった2人は、国境に程近い宿で後続を待つ
ことにするが、そこには魅惑的な2人の女性がいて…
実は、この宿がナチスを信奉する一家のもので、そこではア
ーリア人の純血を残そうとする恐ろしい陰謀が進められてい
た。
因に物語で、主人公たちはアムステルダムに向かっており、
従って舞台はフランス北部と思われるが、こういう風潮が今
も残っているということなのだろうか。地理的には確かにド
イツにも近い訳だが、勝手にそう思ってしまうのも…いけな
いのかな。

とは言え映画は、そんな政治的な話などは全く背景だけで、
この連中が残酷な手口で主人公たちを苦しめて行く様子が、
最近のハリウッド映画では見られなくなった大量の血液その
他の強烈な描写で描かれて行く。
『ハイテンション』もそうだったが、さらにこれが現実的な
痛みを描写しているから、その強烈さがいやが上にも高まる
感じの作品だ。従ってこの作品は、その手の作品がお好きな
人にしか勧められないが、そういう人には満足してもらえる
作品だろう。
出演は、日本では知られていない俳優がほとんどだが、中で
キーとなる役を、2004年1月紹介『いつか、きっと』に主人
公の娘役で出演していたモード・フォルジェが演じている。
なお巻頭タイトルバックには、暴動の様子が描写されるが、
現実のニュースリールの抜粋のような作りで、かなり巧みに
構成されている感じがした。

『その土曜日、7時58分』
        “Before the Devil Knows You're Dead”
シドニー・ルメットによる映画監督45作目に当る作品。奇し
くも、1957年に第1作の『12人の怒れる男』の発表から50年
目の作品ともなっている。そしてその作品は、ルメットの過
去の名作群に勝るとも劣らない作品になっていた。
映画はフィリップ・シーモア・ホフマンとマリサ・トメイ、
2人のオスカー受賞者によるベッドシーンから開幕する。そ
して物語の発端は、とある宝石店の強盗事件。ショッピング
モールの一角にある小さな店が襲われる。しかしその事件の
裏側にあるものは…
ここから、カメラは時間を遡ったり、いろいろな登場人物の
視点を縦横に描写して、出来事の全貌に迫って行く。それは
弱い人間がふと魔が差して起こしてしまったものであり、誤
算の積み重なりが重大な事件を起こしてしまうものだ。
こんな誤算が引き起こす事件の物語では、コーエン兄弟監督
の『ファーゴ』を思い出すが、コーエン兄弟の作品がドミノ
倒しのように事件を拡大させたのに対して、ルメットの作品
では過去を検証することで事件が収斂し、また拡大して行く
様が描かれる。
しかもそこにはいろいろな仕掛けが施されていて、それはあ
る意味、あざとい感じもするくらいなものだが、それこそが
映画でしか味わえない醍醐味とも言えるものだ。
共演は、イーサン・ホーク、アルバート・フィニー。他に、
『スパイダーマン』シリーズのローズマリー・ハリス、『カ
ポーティ』のエイミー・ライアン(本作で助演賞受賞)らが
出演している。
脚本は、劇作家のケリー・マスタースンが1999年にオリジナ
ルの映画用台本として発表したが、その後映画化の機会には
恵まれていなかった。その脚本をルメットが取り上げ、人物
設定などを改変した上で映画化を実現したものだ。
因に原題は、この前に‘May you be in heaven a full half
hour’という言葉が付いて、アイルランドでの乾杯の掛け声
だそうだが、乾杯の時にDevilとは剣呑な話だ。
もっとも同じ言葉の前には、別に‘May you be 40 years in
heaven,’が付くこともあって、これなら判るような気もす
るが、映画の巻頭には前者がテロップとして挿入されていた
ようだ。

『ビバ!監督人生!!』“情非得已之生存之道”
8月23日から開催される台湾シネマ・コレクションで上映さ
れる内の1本。2008年上半期の台湾映画興収第1位を記録し
た作品。
新作に取り掛かった監督の試行錯誤と言うか、いろいろな出
来事を綴った作品。同趣向の作品では、フェリーニ『8½』
や、北野武『監督ばんざい』などが思い浮かぶが、作品の雰
囲気は韓国のホン・サンス監督の『浜辺の女』などが近いよ
うに感じた。
主人公の監督は、今迄アイドルドラマを撮ってきたが、一念
発起、社会派ドラマをモキュメンタリーで撮ることを思いつ
く、そしてその準備を始めるが、主演俳優に逃げられたり、
資金繰りが頓挫したり、さらに監督自身のスキャンダルまで
出てきて…
監督・主演は、2001年『ミレニアム・マンボ』などに主演し
た後、現在はテレビドラマの監督としても活躍しているニウ
・チェンザー。彼の初の長編映画監督作品で、主演も務めて
いるものだ。
物語の途中では、ヤクザが映画の製作に首を突っ込んできた
り、新人女優とのスキャンダルが芸能紙に売られたり、投資
家に対するナイトクラブでの接待など、さもありなんという
お話が展開される。
その展開自体は、正にさもありなんであって、取り立てて感
心するようなものもないが、まあ全体的には上手く纏められ
ているという感じの作品だ。ホン・サンスほどシニカルでも
ないし、北野武ほどおチャラけてもいない。
ただ何と言うか、筋立てが当たり前すぎて、もう少し捻りが
あっても良いような感じもしたが、これで映画祭での受賞や
興行成績第1位と言うのだから、それはそれで認められてい
るということなのだろう。
共演は、後日紹介する『シルク』にも出ているチャン・チュ
ンニン。彼女は監督が演出したテレビドラマにも主演したこ
とがあるようだ。また、監督の母親を演じているのは実母だ
そうで、その他にもクレジットでは役名と俳優名が同じ人が
散見されたようだ。
つまりその辺はかなりドキュメンタリーな訳で、それも台湾
の観客には受けたのかも知れない。因に、台湾で流された本
作の予告編は、エディスン・チャンの謝罪会見をパロディに
したものだそうで、かなり強烈だったようだ。

『ファン・ジニ』“黄真伊”
NHK−BS2で放送中の韓国ドラマと同じ題材を扱った映
画作品。
ただし、テレビドラマの脚本は史実に基づいたオリジナルの
ようだが、映画版は北朝鮮の作家ホン・ソクチュンの原作を
映画化したものとなっている。このため本作の製作では、最
初に北朝鮮との交渉から始まったと言うものだ。
物語の背景は、16世紀の朝鮮王朝時代。男尊女卑、身分差別
も厳しいこの時代に、妓生の身でありながら文芸に優れ、天
才詩人として世に名を残した女性の物語。伝説の中では、そ
の色香によって役人を手玉に取り、修業僧を破戒させたりも
したという。
そんな女性の生涯が2時間21分に纏められている。と言って
も、テレビでは全24回を掛けて放送されるほどのエピソード
の持ち主だから、物語は波乱万丈。とにかく息を付く暇もな
いほどの次から次への展開となる。
現在は朝鮮人民共和国の南部の都市・開城、松都とも呼ばれ
るこの町で両班(貴族)の家に育ったファン・ジニは婚礼を
控えたある日、自分の出自を知ってしまう。そして婚約を解
消された彼女は、自ら妓生の道を選びその最高峰を目指して
行く。
そんな彼女の傍らには、彼女が幼い頃から慕っていた奴婢の
ノミや、乳母であり文芸の師匠であった女性などが従ってい
た。そして彼女は、妓生でありながら相手をする男を選び、
高慢な男には詩作で仕返するなど、思うが儘の人生を送って
行くが…
これに義賊のような強盗団や、それに対する役人たちの政治
的な思惑や、彼女が落とすことのできなかった儒学の高僧な
ど、いろいろな出来事が重なって物語は進んで行く。
主演は、日本映画をリメイクした『僕の、世界の中心は、君
だ。』などのソン・ヘギョ。ノミ役には『リベラメ』などの
ユ・ジテが扮している。またこの作品は、韓国の劇映画とし
ては初めて北朝鮮の金剛山などにロケーション撮影されたこ
とでも話題になったようだ。
監督は、メロドラマからスリラー、アクションと、次々に新
しい分野に挑戦するチャン・ユニョンの第4作。初の歴史ド
ラマへの挑戦では、松都の夜を彩る提灯祭り、当時の遊郭の
様子、さらにいろいろな儀式や様式なども細心の注意を払っ
て再現されている。

『LOOK』“Look”
1997年『マウスハント』や、1998年『スモール・ソルジャー
ズ』などの脚本でも知られるアダム・リフキンによる2007年
脚本監督作品。全編が監視カメラの映像という構成で描かれ
た作品で、画質や色合いも違ういくつもの映像が重なり合っ
て物語を繋いで行く。
そこに登場するのは、ショッピングモールのバックヤードで
女を漁る管理職の男であったり、教師を誘惑する女子高生で
あったり、職場でイジメにあっている男であったり、深夜の
ガスステーションであったり、いろいろなものがすれ違いな
がら描かれる。
これらの役柄を、2007年ドウェイン・ジョンスン主演“The
Game Plan”に出演のハインズ・マッカーサーや、2002年の
ホラー作品“Vampire Clan”に出演のスペンサー・レッドフ
ォード、2000年リーアム・ニースン主演“Gun Shy”に出演
のベン・ウェバーらが演じている。
全編監視カメラの映像ということでは、2004年10月に紹介し
た『三人三色』の中のポン・ジュノ監督による『インフルエ
ンザ』が見事な作品として印象に残るものだ。そのときにも
書いたが、長編映画にはなかなか難しい手法で、その難しさ
をリフキン監督は、複数の物語が並行して進む形式とするこ
とで解消している。
しかも、それらの物語が微妙に接近したり離れたりというと
ころが、いろいろ面白くも描かれているものだ。
映画の巻頭では、監視カメラに関わるかなり厳しい現実が説
明されるが、本編の物語でもそれに呼応するように厳しい現
実が繰り広げられる。実は、リフキン監督の名前から僕は、
お気楽なコメディを予想していたのだが、アメリカの現実は
そんなに生易しいものではなかった。
特に、いくつかの物語が解決もないままに終わってしまうと
ころには、恐怖すら感じてしまうもので、リフキン監督の狙
いもそこにあるのかと感じさせるものだ。
アメリカ国内に3000万代以上設置されているという監視カメ
ラが、一体何の役に立っているのか、そんな現実の恐ろしさ
も描いた作品と言えるものだ。

『レッド・クリフ』“赤壁”
中国の古典『三国志演義』の中から周瑜、諸葛孔明らによる
「赤壁の戦い」を、『M:i−2』などのジョン・ウー監督
が映像化した作品。ただし本作はその前編で、実際の赤壁の
戦いとなる後編は来年正月に公開予定とされている。
同じ題材からは、1989年にも北京電影製作片廠での映画化が
あるが、今回は水戦シーンを『パイレーツ・オブ・カリビア
ン』も手掛けたハリウッドのオーファネイジが担当して、総
勢2000隻と言われる軍船の隊列を見事に映像化している。
と言っても、それが本格的に見られるのは後編になってから
だが、前編の中でも、孔明の奇略と言われた九官八卦の陣な
どもCGIによって見事に再現され、文章で読むだけではな
い迫力で観ることができるものだ。
時は西暦208年、中国は後漢の時代。丞相・曹操は荊州征伐
のため数十万の兵士を従えて南下を始める。対する劉備は、
領民と共に南方への逃亡を図るが、進軍速度が上がらず、曹
操軍に追いつかれてしまう。
そこは趙雲、張飛らの活躍で逃れた劉備軍だったが、このま
までは命運は尽きると判断。そこで劉備の軍師・諸葛孔明は
孫権軍との同盟を進言、自ら孫権のもとを訪れて周瑜らを説
得する。こうして、劉備・孫権の両軍は赤壁で曹操軍と対峙
することとなる。
この周瑜をトニー・レオン、孔明を金城武、曹操を『覇王別
姫』のチャン・フォンイー、孫権を『ブレス』のチャン・チ
ェン。さらに周瑜の妻・小喬を台湾のスーパーモデルで映画
初出演のリン・チーリン、孫権の義妹・尚香をヴィッキー・
チャオ、趙雲をフー・ジェン、甘興に中村獅童らが扮する。
この他にも登場人物の人数はかなり多いが、物語はよく整理
されて2時間25分の上映時間の中に見事に納められている。
もっとも物語はまだ半分だが…この人物紹介が済んだ後で繰
り広げられる「赤壁の戦い」がさらに楽しみになった。
なお、今回の試写会は中国でのオリジナル版に日本語字幕で
行われたが、11月1日からの日本公開では、巻頭に人物相関
図などが付けられてさらに判りやすくされるそうだ。



2008年08月01日(金) 第164回

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
※このページは、SF/ファンタシー系の作品を中心に、※
※僕が気になった映画の情報を掲載しています。    ※
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
 今回は、東京の五反田にあるイマジカで行われたPrivate
Showに招待され見学してきたので、その報告から始めること
にしよう。
 昔、東洋現像所と呼んでいたイマジカは、子供の頃に父親
が初めてカラー写真を撮ったときには、ここまでフィルムを
郵送して現像してもらっていたものだ。そのイマジカは、現
在では日本の映像産業の中核を担う場所という感じで、DI
(フィルムのディジタル化による処理)からVFX、さらに
Blu-ray Discへのパッケージ化や、HD撮影なども手掛けて
いるそうだ。
 今回のショウはその業務の紹介という感じのもので、まず
第1試写室でのプレンゼンテーションに続いては、各種機材
の展示紹介や、第2試写室に新たに設備されたDolby-3Dによ
る3D作品のデモンストレーションなどを見学した。そこで
このページでは、この3D作品を中心に報告する。
 このページや映画紹介でも、今までに何本か3D作品を紹
介しているが、それらはいずれも円偏光板を用いたReal-3D
システムによるものだった。それに対して今回は、僕自身は
初体験となるDolby-3Dを鑑賞したものだ。このシステムは、
赤・青・緑の光3原色を、それぞれ微妙にシフトさせた2色
ずつを交互に用いて左右画像の映写を行い、それらを多層色
フィルタで左右に分離して鑑賞するもので、旧来の赤青眼鏡
の方式を究極に進化させたものとも言える。
 そして会場では、テレビ局でのイヴェント用に制作された
『スカイクロラ』の空中戦シーンと、10月25日の日本公開が
決定した『センター・オブ・ジ・アース』、及びすでに地方
公開中の『シーモンスター』の予告編が3D上映された。
 この内で一番に注目したのは、『スカイクロラ』の空中戦
シーンだったが、ここでは本編冒頭の約2分間が3D化され
ていたようだ。その映像は2D作品からの3D変換というこ
とだが立体感はなかなかの迫力で良い感じがした。ただし、
元々が3Dは考慮されていなかったのか、本来ならもっと観
客の顔面に向かって飛んでくるような3D演出が欲しかった
ところだが…、まあ全体の試みとしては成功と思えた。
 それで、Dolby-3Dの使用感は、明るさも色彩も問題ない感
じで、Real-3Dとの甲乙は付けがたいという感じだった。た
だし、使用する眼鏡はかなり高価なもののようで、Real-3D
のようにお持ち帰りとは行かなかったが、プロジェクターの
システムはReal-3Dより簡単というメリットはあるようだ。
しかし以前の情報で家庭用にも実施できると書かれたサイト
を見たが、僕の理解ではそうも行かない感じがしたもので、
その辺はもう少し確認したいと思うところだ。
 その他の展示では、最新型の4KカメラDALSA Evolution
が素晴らしい性能を見せてくれていたもので、その横に置か
れたソニー製のCineAltaは完全に時代後れの感じがした。こ
れでいよいよ本格的なディジタル映画時代が到来しそうだ。
それにしてもソニーは、4Kのプロジェクターは宣伝してい
るのに、4Kのカメラの発表がないのはなぜなのだろうか。
 後は、DIによる画面補正や、画像ビットレートのアップ
コンバートの実演なども見学したが、ディジタル映像の最先
端を見せてもらっている感じで、実に有意義なものだった。
ご招待いただいた久保田さんにはこの場を借りてお礼申し上
げます。
 と言うことで、以下は製作ニュースを紹介しよう。
        *         *
 まずは久々にSF名作の映画化の情報で、『アイ・ロボッ
ト』などの原作者アイザック・アジモフが、1941年から49年
に掛けて執筆し、1951年から53年に単行本化された銀河系の
遠未来史“The Foundation Trilogy”(銀河帝国の興亡)の
映画化を、旧ニューラインの創設者ボブ・シェイとマイクル
・リンの製作で進めることが発表された。
 この計画については、実は以前はフォックスが権利を保有
していたものだが、そこでは実現せず。その権利が失効して
ワーナーが獲得。ニューラインの権利をワーナーに譲渡して
独立したシェイとリンが、新たに設立した製作会社のユニー
ク・フューチャーズを通じて、その第1作として製作を進め
るというものだ。
 人類が築き、12000年も存続した銀河帝国が人知れず崩壊
を始めた頃の物語。1人の天才数学者がその事実を予見し、
その後の第2帝国が成立するまでの暗黒時代を少しでも短く
するために、銀河の英知を集めたFoundationと呼ばれる組織
を作り上げる。それは暗黒時代を迎えても、そこには人類の
知識が保存され、それを新たな帝国の礎にしようとするもの
だ。しかしそれはその存在自体が現状の帝国と対立し、また
Foundationも内部崩壊の危機に陥って行く。
 アジモフがエドワード・ギボン著『ローマ帝国衰亡史』に
ヒントを得て構想した人類の未来史は、その他の歴史書など
の影響を受けながらそれを未来の大宇宙に転嫁することで、
壮大な規模の作品群として完成された。その物語は、1980年
代にアジモフ自身によって書き継がれ、またアジモフの没後
にも新たな作家たちによって発展されている。
 その映画化をシェイらとワーナーが進めるとしたもので、
監督や脚本家などは未定なものの、まずは最初のtrilogyの
第1巻の脚色を完成させ、それが上手く行ったら直ちに第2
巻、第3巻と進めて、『LOTR』で成功したのと同じ方法
で3部作の映画化を行うとしている。つまりこれは、実現す
れば3年連続での映画化という計画になるものだ。
 因にこの脚色には、過去には『ザ・コア』のジョン・ロジ
ャース、『スピーシーズ』のデニス・フェルドマン、『アイ
・ロボット』のジェフ・ヴィンターらの名前が挙がっていた
ようだが、現状で誰がタッチしているかは明らかではない。
しかし、3部作が目標となればかなりしっかりしたヴィジョ
ンの持ち主が必要とされる訳で、『LOTR』でのピーター
・ジャクスンやフラン・ウォルシュのような作家の登場が期
待されるところだ。
 一方、アジモフが執筆した原作は、1980年代には前日譚な
ども含む全7巻に拡大されており、将来的にはその映画化も
期待したいし、その他の関連作品も含めた壮大な未来史の映
画化も期待したい。
 なお、シェイとリンが設立したユニーク・フューチャーズ
は、ワーナーと3年間の優先契約を結んで毎年2作品を製作
するとしているもので、今回の計画がその第1作とされてい
る。しかし製作の規模から考えて製作第1号になるとは考え
難く、多分その前に小品の製作はされることになりそうだ。
とは言っても、本作についても契約期間の3年以内に製作の
目処は付ける必要があり、その実現に向けてこれからの情報
が注目される。
        *         *
 続いてはサンディエゴで開催されたComic-Conに関連して
コミックスの映画化の話題をいくつか紹介しよう。
 最初は続報で、2006年2月15日付第105回などで紹介した
“Caliber”の映画化を、ジョン・ウー監督で進めることが
発表された。
 この計画は、以前の紹介では、ジョニー・デップが原案を
担当したコミックスを、デップの主演を視野に入れて映画化
するということだったが、今回の報道ではデップ主宰の製作
プロダクション=イフィニタム・ニヒルが映画製作に関与し
ていることは報じられていたが、原案その他についての情報
は明確にはされていなかった。
 元々この計画は、女優のロザリオ・ドースンの原案による
“O.C.T.: Occult Crimes Taskforce”などと共に、当時は
トロントに本拠のあったSpeekeasy Comicsという出版社から
発表されたものだ。しかし上記の報告の直後にこの出版社が
営業を停止、計画は宙に浮いてしまった。そして“O.C.T.”
に関しては、アメリカのImage Comicsが権利を引き取って出
版を行い、映画化権はディメンションが獲得。ドースンの製
作主演で計画は発表されているが実現には至っていない。
 一方、“Caliber”に関しては、Radical Comicsという出
版社が権利を引き継ぎ、コミックスは今年6月に出版された
ようだ。なおこの出版社は、1970−80年代にはKISSやレッド
・ツェッペリン、ビートルズなども手掛けた元ロック写真家
のバリー・レヴィンが設立。シンガポールに本拠を置くアー
チスト集団Imaginary Friend Studiosとの連携の許、今年の
5月から本格的に始動しており、それに合せての映画化の発
表となったものだ。
 因にジョン・ウー監督は、以前の紹介の時にもすでに報告
されていたものだが、今回の発表ではウー作品を手掛けるラ
イオン・ロック社も製作会社に名前を連ねている。ただし、
ウー監督の予定では、『レッド・クリフ』の後編が来年正月
の公開予定で製作中であり、さらにその後には“1949”と題
された作品も計画されていて、今回の計画が進むのは少し先
になりそうだ。それにデップのスケジュールも目白押しで、
ここは少し待ちたいところでもある。
        *         *
 続けてRadical Comicsでは、『Xメン』や『スーパーマン
・リターンズ』などのブライアン・シンガー監督が主宰する
製作プロダクション=バッド・ハット・ハリーとも提携して
“Freedom Formula”と題された未来物のコミックスの映画
化計画も発表している。
 この作品は、未来型『トップ・ガン』とも紹介されていた
が、実は未来のカーレースを題材にした物語で、遺伝子操作
によって誕生したレースドライヴァーが、自分の血筋が社会
を変える力を持つことに気付く…というもの。これだけでは
何のことかよく判らないが、5巻本の原作コミックスは8月
から出版されるとのことだ。
 そしてこの映画化を、シンガー主宰のプロダクションで行
うというものだが、ただしシンガーはこの計画では製作のみ
担当して、監督にはタッチしないとのこと。なおシンガーは
もう1本、Image Comics発行の“Capeshooters”と題された
スーパーヒーロー専門のパパラッチを描いたコミックスの映
画化にも製作のみで参加するとしており、“Superman”の続
編の映画化が頓挫している状態でこのスタンスは、ちょっと
勘繰りたくなるところだ。
 さらにRadical Comicsでは、ユニヴァーサル及びスパイグ
ラス社とも、“Hercules: The Thracian Wars”と題された
コミックスの映画化(『ハンコック』のピーター・バーグ監
督)を契約しており、それぞれレヴィンが製作者にも名を連
ねる契約では、先にマーヴェル・コミックスが映画製作会社
を立上げて成功した後を追う構えのようだ。ただし実際は、
Speekeasyもそれを試みて失敗している訳で、ここは先人の
轍を踏まぬようにも頑張ってもらいたいものだ。
        *         *
 お次は、前々回“Red Sonja”の計画を紹介したロバート
・E・ハワードの創造によるキャラクターで、『コナン』や
“Kull”のシリーズにも登場する不死身の魔法使いタルサ・
ドゥームを、『ブラッド・ダイヤモンド』などでオスカー候
補にもなっているジャイモン・フンスーの製作主演で映画化
する計画が発表された。
 このキャラクターは、実はハワードの小説よりもコミック
スで活躍しているようで、来年Dynamite Entertainmentとい
う会社が出版を予定しているシリーズでは、ドゥームを主役
にした物語も登場することになっている。そして今回は、こ
のコミックスの出版に合せて映画化が計画されたようだ。
 因に、1982年公開の映画『コナン・ザ・グレート』では、
ダース・ヴェーダーの声でも知られるジェームズ・アール・
ジョーンズがこの役を演じており、確かちょっとひょうきん
な感じで演じられていた記憶がある。その役柄をフンスーが
引き継ぐことになるものだが、今回は主役ということで、彼
がヒーローになり損ねた事情や不死身となった経緯などが描
かれることになるようだ。
 なお、Dynamite Entertainmentは、テレビで人気が再燃し
ている“Battlestar Galactica”や、“Zorro”“The Lone
Ranger”“The Army of Darkness”などのコミックス版も手
掛けているもので、さらにロベルト・ロドリゲスの製作で進
められている“Red Sonja”の映画化にも関わっているとの
こと。今回の計画は、脚本や監督も決まっておらず、製作配
給なども未定だが、この状況では“Red Sonja”と同じく、
ヌ・イメージス/ミレニアムが絡む可能性は高そうだ。ここ
でもまた新興の映画会社の誕生となるのかな。
        *         *
 コミックスの話題はここまでにして、お次は製作ニュース
の最初にも登場したジョニー・デップの別件の情報。それは
ディズニーでティム・バートン監督が進めている“Alice in
Wonderland”のリメイク版のマッド・ハッター役にデップの
出演が噂されているというものだ。
 この映画化は、『ムーラン』などを手掛けたリンダ・ウル
ヴァートンの脚本で今年11月に撮影開始、2010年3月5日の
全米公開が予定されているものだが、主演のアリス役にはオ
ーストラリア出身のミア・ワシコウスカという女優が起用さ
れている。そして今回は、不思議の国で開かれる「マッドな
お茶会」に登場するハッター役をデップが演じるとの噂で、
バートンとデップの関係を考えるとこれはありそうだ。
 なお、ディズニーで製作される“Alice…”は、実写と、
『ベオウルフ』などで使われたパフォーマンスキャプチャー
の合成で撮影される計画で、出演者の内、アリスだけが実写
のキャラクターと予想されているものだが、原作の挿絵でも
2頭身半のように描かれているマッド・ハッターを、果たし
てデップはどのように演じてくれるのだろうか。
 因にデップの予定表では、“The Imaginarium of Doctor
Parnassus”と“Public Enemies”の撮影はすでに完了して
おり、この後に正式に発表されているのは、ミラ・ナイール
監督の“Shantaram”と、ハンター・S・トムプスン原作の
“The Rum Diary”となっている。この内、ナイール作品は
以前の計画では今年の1月からの撮影になっていたもので、
ちょうど1年遅れるとすれば、来年1月の撮影開始となる。
その前に、“Alice…”が11月の撮影ならタイミングは良い
感じのものだ。
 それから、今回のアリス役に発表されたワシコウスカは、
現在ナイール監督がヒラリー・スワンク主演で撮影中の伝記
映画“Amelia”にも出演しているとのことで、面白い巡り合
わせも感じるところだ。
        *         *
 パフォーマンスキャプチャーの次は、アニメーションと実
写の合成で、ワーナーが進めているルーニーテューンズの映
画化に、今度は“Marvin the Martian”をフィーチャーする
計画が発表された。
 このキャラクターは1948年にチャック・ジョーンズによっ
て創造されたものだが、基本の設定は地球を破壊するために
火星から来襲したというもの。しかしその計画は、必ずバッ
グズ・バニーによって頓挫させられてしまうのだ。
 そして今回の映画版の計画は、実写とCGIの合成で進め
られるもので、物語はクリスマスを背景としたもの。火星人
のマーヴィンは、クリスマスを破壊するために地球に現れる
が…という展開になるようだ。
 監督、脚本、人間の出演者などは未定だが、製作はアルコ
ン・エンターテインメントが担当するもので、同社は、『レ
ーシング・ストライプス』や『マイ・ドッグ・スキップ』な
どファミリーピクチャーをお手のものとしている。
 因に、ルーニーテューンズの映画化は、1996年にマイクル
・ジョーダンが出演した『スペース・ジャム』、2003年にブ
レンダン・フレーザーらが出演した『バック・イン・アクシ
ョン』に続くもので、第1作ではアメリカだけで1億ドルを
稼ぎ出している。
        *         *
 お次はまたまたタイムトラヴェル物で、今回はコロムビア
から“Stealing Time”と題された計画が発表されている。
 物語は、3世代に渡る男たちが、世界を舞台にアンチキテ
ラ・メカニズムと呼ばれる古代の装置の秘密を探ろうという
もの。それはタイムトラヴェルを可能にするキーアイテムと
考えられていたが…というお話のようだ。
 計画は、2006年1月1日付の第102回で紹介した教育裁判
映画“The Crusaders”なども手掛けるボブ・クーパーが、
1996年にトライスター映画の経営者だった頃から進めていた
もので、現コロムビアの共同経営者の1人で個人ではヴィデ
オゲーム“Monster Hunter”の映画化なども進めているダグ
・ベルガードと、『ナショナル・トレジャー』の原案と製作
総指揮も務めたチャールズ・セガースらが参加して企画を立
上げたというものだ。
 そして、脚本はドリームワークスで“Tester”という作品
を担当しているコリン・トレヴォローが執筆し、監督はMG
Mで“The Zookeeper”という作品を進めているウォルト・
ベッカーが担当することになっている。この流れからいうと
コメディ作品のようだが、何故かブームになってきているタ
イムトラヴェル物とのことで、注目しておきたい作品だ。
 なお上記の“The Crusaders”に関しては、現在は『シー
ビスケット』のゲイリー・ロス監督、トビー・マクガイアの
製作総指揮・主演によって、ユニヴァーサルで製作準備が進
められているようだ。
        *         *
 アジア発の話題で、韓国のオデッセイ・ピクチャーズと、
フランスのAJOZフィルムスの共同出資による“The Qin
Shi Huang Project”という作品が、総製作費3000万ドルで
進められることになった。
 この作品は、韓国の作家ヨー・ガンスによる受賞作の映画
化ということだが、題名中のQin Shi Huangというのは秦の
始皇帝のことで、彼が追い求めた不老不死の薬草を巡って、
古代の中国と現代の韓国ソウルが交錯する物語とのことだ。
そして現代の物語は、連続殺人事件を追うアジア系アメリカ
人の刑事を主人公に、中国、韓国、日本を縦断する展開にな
るようだ。また台詞は全て英語で行うとされている。
 監督などは未定だが、基本的にはフランスの出資、韓国で
の製作となる計画のようで、物語の展開からは日本の俳優な
どの出演もありそうだ。それに基本となる秦の始皇帝の物語
は、『ハムナプトラ3』で知られたものにもなりそうで、こ
れはタイミングの良い計画となる。できればあまり時間を掛
けずに製作開始に漕ぎ着けれてもらいたいものだ。
        *         *
 最後に映画館の情報で、東京地区では常設館が無くなって
いたIMAXシアターが、新たに東京近郊で少なくとも2館開設
されることが発表された。
 これは、東急レクリエーションが展開する109シネマズ
・チェーンが運営するもので、最新型のIMAX Digitalシアタ
ー・スシテムを導入して、その1館目は年末までに川崎市に
開館、続いて2009年春までに埼玉県菖蒲町と、さらに全国の
109シネマズに順次開館して行くとのことだ。
 因に『ダーク・ナイト』では、一部のシーンがIMAXで撮影
されていて、IMAXシアターでの上映ではそのシーンになると
IMAXスクリーンの一杯に映像が写し出されるとのこと。年末
の開館では多少時間遅れにはなるが、ぜひともそれは上映し
てもらいたいものだ。この他、IMAX-3Dも当然上映可能とな
るもので、以前に紹介した『ブルー・オアシス』などの上映
もお願いしたい。
 最初に書いたReal-3D、Dolby-3Dも含めて、映画館の状況
は極めてお寒い日本だが、これでようやく少し光明が観えて
きたようだ。


 < 過去  INDEX  未来 >


井口健二