井口健二のOn the Production
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2008年09月28日(日) そして私たちは愛に帰る、TOKYO JOE、デス・レース、永遠のこどもたち、ティンカー・ベル、ディー・ウォーズ、ラット・フィンク

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※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介しています。     ※
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『そして、私たちは愛に帰る』“Auf der anderen Seite”
ドイツとトルコの関係を背景に描いた親子3組の物語。
ドイツに暮らす270万人とも言われるトルコ移民の老人とそ
の息子。ドイツに出稼ぎに来ているトルコ人女性とその母国
に残された娘。そしてドイツ人の母親とその娘。そんな3組
の親子が、あるときは絆を失い、またそれが再生する。
それぞれ親子が、いずれも親1人子1人で、しかもそれぞれ
が同性というのもポイントかも知れないが、互いを認め合っ
てはいるものの何処かよそよそしさがあり、しかしそこには
信頼関係も結ばれている。
2007年1月に『クロッシング・ブリッジ』という音楽ドキュ
メンタリーを紹介したトルコ系だがドイツ・ハンブルグ生れ
の監督ファティ・アキンの新作は、ドイツとトルコに跨がっ
た数多くの問題を含む作品となっている。
そこには、お互いの国の関係やEUへの加盟問題を重視する
あまり個人の権利を無視する司法の態度、またクルド人の問
題なども背景として明確に描かれている。それはファシズム
の台頭という両国が抱える問題の反映でもあるようだ。
前作『クロッシング…』では、その社会性の部分が意図的な
ものであるかどうかはっきりしなかったが、本作では「政治
は嫌いだ」という監督の発言とは裏腹に、トルコがEU加盟
に向けて覆い隠そうとしている国内の問題点が明確に描かれ
ている。
しかし、本編の物語はそこにテーマを置くものではなく、あ
くまでも親子という絆の深さを描いている。それは口先では
言い争いながらも、最後は抱擁で終わるものだ。それは両国
の関係への監督の願望であるのかも知れない。なお本作は、
2007年カンヌ国際映画祭で最優秀脚本賞を受賞している。
出演は、ファスビンダー作品に多く出演しているハンナ・シ
グラと、トルコのベテラン俳優トゥンジェル・クルティズ。
他に、トルコ系のバーキ・ダヴラク、ヌルセル・キョセ、ヌ
ルギュル・イェシルチャイ、ポーランド出身のパトリシア・
ジオクロースカらが共演。
物語は、プロローグに続いては音楽隊の銅像の建つブレーメ
ンで始まるが、トルコの各地にロケされた風景と、そこに流
れる民俗音楽が素晴らしい映像で描かれた作品でもある。

『TOKYO JOE』
1985年4月に行われた大統領組織犯罪諮問委員会や、その他
裁判所での証言により、シカゴの大ボスたちを含む、政界、
司法界、労働界の大物14人の逮捕、起訴、有罪判決を始め、
マフィアを壊滅に追い込んだとされる日系人ケン・エトーを
追ったドキュメンタリー。
シカゴ警察の統計によれば、1919年以降、2005年1月23日ま
でに1111人のシカゴマフィア関係者の暗殺が実行されたと言
う。その中で、唯一一命を取り留めた男エトーは、その後の
証言によってそのマフィアを壊滅に追い込んだ。
そして彼自身は、その後の17年間に渡り史上最長と言われる
政府の目撃者保護プログラムによって身を隠し、その17年目
には慰労金として25万ドルを授与されたそうだ。
元々は奇しくもシカゴ警察の統計が始まったのと同じ1919年
に、日系人移民の長男としてカリフォルニアに生れ、14歳で
家を飛び出して全米各地の農場や工場などで働き、その間に
覚えた賭博の腕を上げて行く。そして戦後のシカゴに現れ、
マフィアの中で賭博組織の元締めとして台頭する。
そんなエトーは、FBIの中でも東洋人が幹部になることは
ないだろうとされていたが、彼の店に出入りする大物たちの
情報は握る立場にあった。一方、FBIでは2人目とされる
マフィア担当女性捜査官となったエレイン・スミスは、メイ
ンとは言えない賭博の捜査に就いていた中でエトーの存在に
着目して行く。
こうして1983年、賭博容疑でエトーの逮捕状が執行される。
しかし当初のエトーは捜査に対して完全黙秘。ところがその
直後にエトーに対して起きた暗殺未遂事件が彼の態度を一変
させることになる。
という事件の顛末が、主にはスミスへのインタヴューによっ
て明らかにされて行く。この他、エトーの実弟や、息子、さ
らにはエトーが晩年を過ごしたホスピスの近所に住む隣人へ
のインタヴューなども公開される。
しかし、この捜査官以外の人々へのインタヴューはかなり困
難を極めたようで、マフィアに関係するというだけでほとん
どの人は協力を拒否したとのことだ。そんな困難さのせいも
あるのかも知れないが、作品は残念なことに充分なものには
なっていない。
実際、描かれるのはほとんどがスミスの発言だけで、その裏
付けさえも取れてはいない。確かに日本人収容所などの記録
映像などは挿入されるが、それがエトーに直接結びつくもの
ではないし、ましてエトーが収容所に入るのは1942年、20歳
を越えているのに、子供が相撲を取るシーンでもないだろう
という感じのものだ。
そんなことで作品の出来は不満足なものだし、また、証言を
拒否する人たちへの反発なのか、エトーの存在が美化されす
ぎている感じがあるのも気にはなってしまうところだ。

とは言え、やったことの是非はともあれ、このような隠され
た人物に光を当てたことの意義は感じられる作品。次にはこ
の企画をハリウッドに持ち込んで、ドラマで映画化してもら
うのが、取材を活かす上で最良の方法だと思うところだが…

『デス・レース』“Death Race”
1975年に公開されたロジャー・コーマン製作作品『デス・レ
ース2000年』のリメイク版。
デイヴィッド・キャラダインのフランケンシュタイン、シル
ヴェスター・スタローンのマシンガン・ジョー役で製作され
たオリジナルを、ジェイスン・ステイサム、タイリース・ギ
ブスンの共演で再映画化したもの。
オリジナルは、競技の一環として人間を轢き殺すシーンが登
場するなど、当時としてはと言うか、今ではなおさら描写で
きないくらいに過激な作品。その辺が当時のコーマン作品の
魅力だったとも言えるアナーキーな作品だった。
そのリメイク版は、『バイオハザード』や『AVP』のポー
ル・W・S・アンダースンの製作、脚本、監督により作られ
た。オリジナルがただ過激だった作品に対して、本作では設
定をしっかり作り上げているところはゲームの映画化で磨い
た腕と言えそうだ。
その設定は、犯罪者の増加で刑務所が民営化され、その経費
稼ぎのために過激なレースが運営されているというもの。そ
のPPVの実況中継で金を集める訳だが、3日間250ドルの
視聴者が最終的には7000万件というのだから、これはいい稼
ぎだ。
そしてそのコースは監獄島の中を周回するのだが、そこには
仕掛けが一杯と言うことで、マリオカート並の踏んだら武器
が使えたり、障害が飛び出したりといったお話になる。
コーマンのオリジナルは、過激な描写をブラックコメディと
して成立させていたが、本作は純粋にアクション。つまり、
過激な描写をアクションで納得させようとの考えのものだ。
そこに上述の過激シーンがオマージュのように登場するのも
ニヤリとさせられた。
共演は、オスカーに3度ノミネートのジョアン・アレンと、
ゴールデングローブ賞受賞者のイアン・マクシェーン。他に
モデル出身のナタリー・マルティネスが華を添える。
オリジナルに観られた自動車の奇抜な造形のような笑いの要
素は希薄だが、その分、アクションはかなりの迫力で描かれ
る。工場街を突っ走るレースということでは、よく似た日本
映画もあったが、CGIの使い方などはさすがハリウッド映
画という感じがした。
マリオカート的な設定は基本的にお笑いの要素と考えられ、
他にも英語と中国語の字幕の使い分けなど笑いの部分が点々
と設けられている。それから映画の最後には、アンダースン
作品らしく続編への布石も打ってある。クレジットの終わり
まで席は立たないように。

『永遠のこどもたち』“El Orfanato”
ギレルモ・デル=トロの製作によるダーク・ファンタシー。
孤児院の出身で幸せをつかんだ女性が、廃止された孤児院を
再興しようとするが…
主人公は、海辺の孤児院で育った女性。明るく元気だった彼
女はやがて里子に出される。そして夫と子供にも恵まれた彼
女は、医師の夫の力も借りて廃止されていた孤児院を再興す
るために夫と一人息子と共に帰ってくる。
ところが、元々イマジナリーフレンドのいた息子は、その環
境の変化からか新たな想像上の友達を作り出してしまう。一
方、ソーシャルワーカーと名告る老婆が家を訪れた辺りから
何やら不穏な雰囲気が巻き起こり始める。
そして、孤児院の再興を祝すパーティが行われている最中、
息子の姿が消える。その失踪には警察も捜査に入るが、息子
の行方は杳として判らない。しかもその捜査の過程で、主人
公が居なくなって後の孤児院で起きた忌まわしい出来事が浮
かび上がってくる。
という展開に、さらに霊媒師なども登場して物語はオカルト
ホラーの様相を呈してくる。確かにこの辺りでは背筋がぞく
ぞくするような恐怖感も味わえ、その演出テクニックも見所
の作品にもなっている。
しかしこの作品は、飽く迄もダーク・ファンタシーとジャン
ル分けするべきものだ。最終的に物語は、超自然的な部分と
心理劇との狭間に置かれるものとなっている。イマジナリー
フレンドはその触媒のようなものとも言える。
脚本は、セルシオ・G・サンチェスのオリジナルから、ファ
ン・アントニオ・パヨナ監督が自分のテイストに合わせ練り
直したとのことだが、我が子を思う母親の心理を見事に描き
出している。そしてこの脚本を一読したデル=トロが、直ち
に製作を決めたほどの作品だ。
物語は、デル=トロ監督の『パンズ・ラビリンス』に通じる
ところもあるが、全体的には『ピーター・パン』をモティー
フにしたもの(邦題はネタバレ)で、その結末には思わずや
られたという感じもしてしまった。そこには『パンズ…』と
同じ感動も用意されている。
しかも本作には、それなりの現代を反映した部分もあって、
その点では『パンズ…』を越えているとも言えるかも知れな
い。宣伝では、『アザーズ』や『シックス・センス』が引き
合いに出されると思うが、本作はもっと重くやるせない側面
も持っている作品だ。

主演は、『海を飛ぶ夢』や『美しすぎる母』に出演していた
ベレン・ルエダ。また、ジェラルディン・チャップリンが、
2006年2月に紹介した『ブラッドレイン』に続いて謎めいた
役柄でゲスト出演している。

『ティンカー・ベル』“Tinker Bell”
ピーター・パンの相棒ティンカー・ベルを主人公にした新シ
リーズ(四季の4部作が予定されている)の第1話(春編)。
ティンクの誕生から最初の仕事の達成までが描かれる。
赤ん坊が初めて笑うと妖精が1人生まれる。そんな言い伝え
の通りピクシーホローの森の中で、その妖精は赤ん坊の笑い
声によって誕生した。誕生した妖精が最初にするのは女王に
仕事を決めてもらうこと。そしてその妖精はもの作りに任命
され、ティンカー(鋳掛け屋)ベルと名付けられる。
しかしティンカー・ベル(ティンク)は自分の仕事が気に入
らない。もっと外の世界(メインランド)を見てみたいのだ。
ところが外に向かう妖精たちの仕事を手伝ってもなかなかう
まく行かない。しかもその内に大失敗までしてしまって…
原作のティンカーの名前は騒がしい子という意味で付けられ
たと思うが、ここではさらに元の意味に戻って鋳掛け屋(の
打ち鳴らすベル)、だからもの作り担当とはなかなかうまい
設定だ。しかも自分の仕事に不満というのは、現代の若者の
反映でもあるのかな。
でも彼女の持って生まれた才能は紛れもなく、それによって
彼女は妖精たちの危機を救うことにもなり、そして外の世界
に飛び出す日もやってくるのだ。そんな、若者に夢と希望を
与える作品とも言えそうだ。
因に本作では、ティンカー・ベルが初めて台詞をしゃべる。
元々の舞台劇では照明で表現され、アニメーションは絵だけ
で、つまり人間の配役はなかったが、今回は声優が配役され
た。これは1992年『フック』でジュリア・ロバーツ、2003年
『ピーター・パン』でリュディヴィーヌ・サニエが実写で演
じたのに継ぐものだ。
また、最近のディズニー映画の巻頭ロゴでは、3Dアニメー
ションのお城にティンカー・ベルが魔法の粉で金色の輪を架
けているが、本作の最後で、ティンクが登場して画面が変る
のは昔のテレビ番組『ディズニーランド』の巻頭シーンと同
じ仕種。そんなことも懐かしい作品になっていた。
さらに映画は、結末に素敵な仕掛けも用意されている。そし
て物語は、2009年公開予定の第2作“Tinker Bell and the
Lost Treasure”へと続いて行く。

『ディー・ウォーズ』“D-War”
ハリウッド俳優が主演して、ロサンゼルスを舞台に英語で演
じられる韓国製怪獣映画。
韓国の言い伝えでは、天界に住む大蛇があるものを飲み込む
と龍に変身するのだそうだ。そのあるものは500年に一度地
上に現れる。それを尊い大蛇が飲み込めば良いが、邪悪な大
蛇が飲み込むと、人類は滅亡の縁に立たされることになる。
そして500年前、邪悪な大蛇がそれを飲み込む寸前まで行く
が、そのあるものは自ら破滅して人類は難を逃れた。それか
ら500年、そのあるものはロサンゼルスに復活していた。そ
れを護る戦士と共に。
物語の主人公は、その戦士とされた若者。彼は報道番組のレ
ポーターをしていたが、謎の災害現場で戦士の任務を目覚め
させるものに遭遇する。そして彼は、あるものを宿した女性
を護るために立ち上がるが、500年を経た邪悪な大蛇は強力
な軍勢を伴っていた。
こうして、邪悪な大蛇の軍勢と人類の存亡を掛けた戦いが開
幕する。しかもこの戦いが、結構人間側も歯の立つところが
味噌で、市街戦や空中戦など大掛かりに映像化されている。
主演は、テレビシリーズ『ロズウェル』に主演し、アメリカ
版の『呪怨』ではサラ・ミッシェル=ゲラーの恋人役を演じ
たジェイスン・ベアと、『フライトプラン』などのアマンダ
・ブルックス。他に、1997年『ジャッキー・ブラウン』でオ
スカー候補になったロバート・フォスター、新人のエイミー
・ガルシアなどが共演。
ただ、何と言うか見た目はアメリカ映画なのに、何処か韓国
映画テイストなのは微妙なところで、それはもちろん500年
前のシーンの舞台が韓国であることにも拠るのだが、全体的
に不思議な感覚にはなっている。
「アメリカの観客に見せるには、アメリカ人の俳優を使い、
英語の台詞でアメリカを舞台にしなければならない」と言っ
たのは、『ファニーゲーム』を自らリメイクしたミヒャエル
・ハネケだが、僕には、かえってソウルが舞台の方がしっく
りと来たような感じもした。

脚本、監督は、1999年『怪獣大決戦ヤンガリー』を発表した
シム・ヒョンレ。本作はその公開の直後から企画を始め、約
10年掛かりで完成させた作品ということだ。
なお本作は、今年の東京国際映画祭の特別招待作品にも選ば
れている。

『ラット・フィンク』“Tales of the Rat Fink”
剥き出したギザギザの歯に、血走って飛び出した眼、ボサボ
サの体毛の周りには無数の蠅が飛び交っている。そんな下品
で凶悪なネズミのキャラクターを1960年代に生み出し、当時
はTシャツから玩具まで一世を風靡したエド“ビッグ・ダデ
ィ”ロスの姿を、絶妙のアニメーションで描いたanimentary
作品。
最初は自動車のカスタムビルダー。1950年代、第2次大戦後
からの好景気に沸くアメリカでは、新車の大量供給によって
捨てられた旧型車に目を着けた若者たちがそれを改造し、レ
ースなどに興じることになる。そんな中でも異彩を放ってい
たのがエド・ロスだった。
彼は、常識破りのアイデアで次々名作を発表し、全米の自動
車ショウを席巻する。そんな活躍に目を着けた玩具業界がそ
のプラモを発売。それも大ヒットして、それがまた次の名車
を生み出すという好循環。しかしいろいろな規制も始まり、
それに反発するロスは、ディズニーへのアンチテーゼとして
凶悪なラット・フィンクを生み出す。
ところがこれも大ヒット。さらにその仲間のモンスターたち
も加わって、そのモンスターたちの乗る改造車のデザインが
玩具化されて行く。こうして人気を博し続けたエド・ロスは
アメリカン・カルチャーの最大の立て役者の1人とも言える
ものだ。
そのエド・ロスの生涯が、当時の記録映像やスチル写真を巧
みにアニメートした映像で綴られる。その中には、ラット・
フィンクが初めて動画で活躍するシーンも登場する。
映画には死去の6カ月前の元気な姿まで登場するが、死ぬ直
前まで成功者であり続けた男の幸せな生涯が描かれる。それ
はともすれば嫌みにもなりがちなものだが、本作のエド・ロ
スは常に反骨の精神を持ち続け、その点では爽やかな感じに
もなっている。
なお、ナレーション=エド・ロスの声を、『スピード・レー
サー』などのジョン・グッドマンが担当。
他にアン・マーグレット、『アメリカン・グラフィティ』の
ポール・ルマット、番組ホストのジェイ・レノ、作家のトム
・ウルフ、ビーチ・ボーイズのブライアン・ウィルスン、W
WFのスティーヴ・オースチンらがエド・ロス作の自動車の
声優で共演している。
アニメートの映像も見事だし、エド・ロス本人の全てを描く
には最良の方法、作品だと言えるかも知れない。
ただ、公開もDVDで行われるようだが、試写会では肝心な
ところで画面が停止し、その間の数10秒がスキップしてしま
った。フィルム上映では停止は明白に判るが、DVDでは映
像を注意して追っていないと、立ち会った配給会社の担当者
も気付かなかったようだ。
一般上映も同じディスクで行うと、同じ障害が発生する恐れ
が強いので、これは気をつけてもらいたい。原因はディスク
の汚れか何かだと思われるが、誰かがプレーヤーのカウンタ
ーを監視していれば判るはずのことなので、よろしくお願い
したいものだ。



2008年09月21日(日) ファニー・ゲームU.S.A.、ぼくのおばあちゃん、むずかしい恋、カフェ代官山2、反恋愛主義、バンク・ジョブ、252(追記)

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※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介しています。     ※
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『ファニー・ゲームU.S.A.』“Funny Games U.S.”
1997年のカンヌ国際映画祭に出品されて賛否両論を巻き起こ
したミヒャエル・ハネケ監督の問題作『ファニー・ゲーム』
を、ハネケ監督自身がハリウッド・スターを起用してリメイ
クした作品。
主演は、製作総指揮も兼ねるナオミ・ワッツ。これに『コッ
ポラの胡蝶の夢』のティム・ロス、『シルク』のマイクル・
ピット、『サンダーバード』のブラディ・コーベット、子役
のデヴォン・ギアハートらが共演している。
ハネケ監督のオリジナルは、初めて観たときには本当に何と
言っていいのか判らない作品だった。正直、嫌悪したくなる
ような作品でもあったし、それは今回このリメイク版を観て
も全く変わらない印象だ。
ただし、これが監督の言うように、現実はこんなものだとい
うことを示している作品であることは確かだし、その監督の
意図を汲み取れば、本作は正に名作と呼べるものだろう。し
かしそれを言うことにはかなりの勇気がいるものだ。
物語は、夫婦と1人息子の一家が湖畔の別荘を訪れることか
ら始まる。その家に着く前に隣家に挨拶した夫妻は、その一
家の態度に多少の違和感も感じるが、あまり気にしない。し
かしその隣家から2人の青年が主人公の家を訪ねてきたとき
から恐怖が始まる。
その青年たちは口調や物腰は柔らかだったが、夫妻に理不尽
な要求を突きつけ、それが叶わないと暴力を振るい始めたの
だ。そしてその暴力行為は次々にエスカレートして行った。
実は今回のリメイクは、俳優は変っているが物語や展開はオ
リジナルと全く変わらない。それは多分カメラアングルまで
もほとんど同じに作られているもので、監督自身はこれを、
「舞台劇のように、俳優を代えても演出は変えなかった」と
しているものだ。
従って、オリジナルを観ている人には、あえてもう1度同じ
ものを観ろとは言えないが、本作のナオミ・ワッツの渾身の
演技は見事だし、またマイクル・ピットは、『シルク』での
誠実さとは裏返しの悪意に満ちた若者を見事に演じ切ってい
る。これは凄い。
因にハネケ作品では、2005年『隠された記憶』(Cache)に
もリメイクの計画があるが、それはロン・ハワード監督が進
めるもの。ハネケ自身がリメイクしたいと思っていたのは本
作だけだそうで、しかもそのリメイクは絶対に自分ですると
決めていたそうだ。

『ぼくのおばあちゃん』
北村龍平監督『VERSUS』などの主演俳優で、2007年『GROW』
という作品で長編デビューしている榊英雄監督の新作。
1926年生れ、今年92歳の菅井きんが主演してギネスブックの
最高齢主演女優の認定を受けた作品。
“326”の名前でも知られるイラストレーターのなかむら
みつる原作による映画化。父親を早くに亡くし、母親とおば
あちゃんによって育てられた主人公が、現代の老人たちに厳
しい世の中で家族について見つめ直す物語。
主人公は住宅建設会社の営業マン。住む人が幸せになれる家
をモットーに営業成績も優秀な彼だったが、その実体は、残
業や日曜出勤の連続で息子の父親参観日にも行くことができ
ず、家族をほとんど顧みることができない生活だった。
そんな主人公だったが、家を新築しようとしている顧客一家
に老人がいることを知り、その老人が新築の家では居場所が
なくなる現実に直面する。そしてその連想から、自分を育て
てくれた祖母との関係に思いを馳せて行く。
事前には菅井きんの主演作という情報ぐらいで試写会を観に
行ったが、作品では、古き良き時代と言ってしまえば実も蓋
もないが、現代では無くなってしまった近所付き合いや他人
を思い遣る心など、素敵な物語が展開されていた。
プレス資料の中で映画監督の新藤兼人氏が、「日本映画にホ
ームドラマが少なくなった」と嘆いていたが、核家族社会の
日本の現実では、親子3代のようなホームドラマを作り難い
のは確かだろう。そのホームドラマの欠如がまた、核家族社
会を生み出しているとも思える。
そんな中で本作では、現代と過去のカットバックという手法
の中でホームドラマを描いているものだが、同じ手法を繰り
返しては使えないにしても、何か方法でホームドラマを作り
続けるのも重要なことのように思えてきた。
共演は、岡本健一、原日出子。また主人公の子供時代を伊澤
柾樹と吉原拓弥が演じている。他に、柳葉敏郎、加藤貴子、
清水美沙、石橋蓮司らが出演。なお、出演者も登壇した試写
会の舞台挨拶では、ギネスの認定証の授与式も行われた。

『むずかしい恋』
行定勲監督の『きょうのできごと』などを手掛けた脚本家の
益子昌一による監督第1作。多分ビルの1室で営業している
らしいバーを舞台に、4組の恋物語が展開する。
その店のバーテンダーは元クラシックバレーのダンサー。彼
は怪我が元で舞台を降りたが、その舞台には実は未だやり残
したことがあるようだ。そんな彼のいるバーには、その日も
いろいろな男女が集まってくる。
最初に来たの女性客。彼女はボックス席で連れの男性を待っ
ていたが、読みかけの本にはあるものが挟まっていた。続い
て来たのは風俗関係らしい女性。彼女はカウンターに座り、
馴れ馴れしい態度でバーテンダーに話しかける。
次に来たのはカップル。ボックス席に座った2人は、男性が
しきりと女性を口説いているが…。そして最初の客の連れが
現れ、さらにカウンターの隅で本を読み続ける女性客と、恋
人に振られて自棄酒に酔い潰れ気味の若者も入ってくる。
こんな男女8人がいろいろな恋模様を描き出して行く。正直
に言って他愛ない話がいくつも並行して語られて行く作品。
だからどうという話でもないし、お話自体も有りそで無さそ
で…そんな緩くて甘いお話のオンパレード。
でもこの作品の根底には、何か人に対する信頼のようなもの
が流れ、それ自体が古臭いかも知れないようなノスタルジー
を感じさせる物語になっていた。それはバーという雰囲気が
醸し出すものかも知れず、そんな世界がまだ有るのなら、い
まさら恋という年でもないけれど、自分も浸ってみたいよう
な感じもしたものだ。
そんなバーの片隅に自分も座って彼らを見ているような、そ
んな何か不思議な雰囲気を持った作品でもあった。
出演は、『愛流通センター』などの水橋研二、『グミ・チョ
コレート・パイン』の璃乃亜と森岡龍、放送中の「仮面ライ
ダーキバ」でヒロイン役の柳沢なな、『風の外側』の安藤サ
クラ。他に、前田綾香、載寧龍二、三浦誠己ら。
水橋と三浦以外は20代前半から半ばの俳優たちだが、良い雰
囲気の演技を観せていた。

『カフェ代官山2』
今年2月に紹介した『カフェ代官山』のパート2。前作で主
人公たちが集ったカフェの誕生までの物語が、前作のキャス
ティング全員の再登場で描かれる。監督は前作と同じく武正
晴。脚本も前作を手掛けた金杉弘子。
物語は前作の3年前が始まる。ディスコで派手に踊っていた
響はチンピラに絡まれ、逃げているところをマスターに救わ
れる。しかし怪我を負ったマスターを背負って辿り着いたの
は、「レーブ・コンティニュエ」という看板の掛けられた古
びたカフェだった。
そこでマスターの様子を看ながら一夜を過ごした響は、マス
ターに煽てられるままにコーヒーを入れ、ケーキを作って、
そのままその店で働くことになってしまう。そして、そこに
は未琴や鈴太郎も集まってくる。
こうしてカフェは活気付いて行くが、マスターと親友の夢は
まだ実現していなかった…。ということで、ここに若き日の
マスターの夢を描いた物語まで登場して、響、未琴、鈴太郎
らの背景の物語と共に盛り沢山に描かれて行く。
しかもその間には、ケーキ作りやダンスや琴の演奏まである
のだから、上映時間68分の中に、よくもまあこれだけ詰め込
んだと言える作品だ。従って個々のエピソードははっきり言
ってかなり薄いが、最近の若者映画の展開は大体がこんなも
のだろう。
ただし本作では、それぞれのエピソードの中に言いたいこと
がしっかりと判るように描かれているは見事だった。
出演は、相場弘樹、桐山漣、大河元気の3人に、中原和宏、
馬場徹。そして2005年『七人の弔い』に出演の中村倫也が若
き日のマスターを演じている。
まあ、他愛ない作品であることは確かだし、イケ面ファンの
女性がターゲットの作品であれば、ただイケ面を写しさえす
れば良いというものではある。しかし、そんな中でもそれぞ
れのキャラクターを過不足なく描くのも、また技術と言えそ
うだ。
なお、前作では琴の演奏シーンであまり手元が写らなかった
と思う桐山が、本作ではそれなりに自分で演奏しているのに
も感心した。

『反恋愛主義』“Csak szex és más semmi”
英語題名は“Just Sex and Nothing Else”というハンガリ
ー製のラヴコメディ。
日本では昨年公開された歴史ドラマ『君の涙ドナウに流れ』
も手掛けて、本作と共に2006年のハンガリー映画興行1位、
2位を独占したというクリスティナ・ゴダ監督の長編デビュ
ー作。
主人公は30歳過ぎの女性脚本家。人気劇団での仕事も順調、
生活環境も充実している彼女だったが、恋愛環境は最悪。昔
からの女友達は早々結婚して出産を控えているのに、彼女は
恋人の弁護士に妻子がいたことが発覚。おまけに半裸でベラ
ンダに押し出され…
そんな彼女の劇団に客演俳優としてプレイボーイで名高い男
優がやってくるが、恋愛に不信感の彼女は、恋愛よりセック
ス=シングルマザーの道を目指すことに。しかし、精子バン
クの実情を見たり、ネットの恋人募集は飛んでもない事態も
引き起こしてしまう。
ということで、かなり過激な大人の恋愛模様が描かれる。し
かも、この作品の演技でハンガリー批評家賞の主演女優賞を
受賞したというユデット・シェルが正に体当たりの演技を見
せてくれるから、これはお楽しみも充分の作品だ。
それにしても、元共産圏のハンガリーからこんなに愉快なラ
ヴコメが登場するとは思いも寄らなかった。ただし共同脚本
も手掛けたゴダ監督は、イギリスの国立映画テレビ学校と、
アメリカのUCLAでも学んだとのことで、欧米式の映画製
作は本物のようだ。
共演は、2002年版『ローラーボール』や『氷の微笑2』にも
出ている国際女優のカタ・ドボーと、2003年の“Kontroll”
という作品で主演を張っているシャーンドル・チャーニ。こ
の2人はゴダ監督の『君の涙…』にも出演している。
携帯電話やインターネットも当然のごとく出てくるし、元共
産圏と言ってもその現在の生活は我々と全く変らないものに
なっているようだ。しかもその中で、この映画のように大人
の楽しめる作品が興行のトップを争うというのも素晴らしい
こと。
聞き慣れないハンガリー語の台詞に最初は多少戸惑ったが、
どこの国にも共通の大人の恋愛模様を丁寧に描いた作品で、
『SEX AND THE CITY』の対抗馬としても面
白い作品に思えた。

『バンク・ジョブ』“The Bank Job”
1971年にロンドンで起きた銀行の貸金庫強奪事件を巡る実話
に基づくとされる作品。
この映画の内容によると、その事件は英国王室のスキャンダ
ルや政界スキャンダルとも連動し、そのため事件の途中から
は報道が一切封じられたとのことだ。その事件の全貌が初め
て明らかにされる。
物語は、南海のリゾートで奔放な女性の姿が撮影されたこと
から始まる。その写真を入手した黒人活動家の男はイギリス
に渡り、そこで麻薬の密輸や暴力事件などを引き起こす。し
かし、写真の公開を恐れるイギリス政府はその男に手出しす
ることができない。
そんな中で英国諜報部(MI-5)は、その写真の保管された銀
行の貸金庫を特定するが、表立ってはその差し押さえを行え
ない。そこでMI-5は策略を巡らし、ある女性を使って街のチ
ンピラにその内容は判らないままそれを強奪させようと計画
する。
そして策略に引っかかった女性は、昔馴染みで金に困ってい
るチンピラの男に、警備会社からの情報としてその銀行の防
犯設備が停止していることを教え、銀行の貸金庫を強奪する
ことを提案するが…
まんまと強奪に成功した貸金庫には、王室のスキャンダルだ
けでないいろいろな闇の情報が隠されていた。そしてそれら
を手に入れた男は、MI-5だけでなく、ロンドン中の悪徳警官
や裏社会の住人たちからも追われることになってしまう。

物語のどこまでが真実かは判らないが、まああってもおかし
くない話ではある。それで映画の展開では、犯人たちがかな
りの幸運に恵まれたりもするのだが、それは事実は小説より
も奇なりということなのだろう。
それにしても、あってもおかしくはないと言ってもかなり奇
想天外なお話だし、主人公と各組織との正に綱渡りの攻防が
緊張感一杯に描かれる。その展開は映画として極めて面白い
ものになっており、それがこの映画の優れていると言えると
ころだ。
主演は、『トランスポーター』シリーズなどのジェイスン・
ステイサム。また『フリーダ』のサフロン・バロウズ、『プ
ロヴァンスの贈り物』のダニエル・メイズ、『ブリジット・
ジョーンズの日記』のジェームズ・フォークナーらが共演し
ている。
監督は、『世界最速のインディアン』などのロジャー・ドナ
ルドスン。イギリスでは初登場第1位、全米でも4週に渡っ
て興行ベスト10に食い込んだという作品だ。
        *         *
『252』(追記)
この作品の完成記者会見でちょっと面白いことがあったが、
ネタバレに繋がる話なので、ここに伏せ字で報告させて貰う
ことにする。
日本映画の記者会見では滅多に質問をしないが、今回は最初
に手を挙げる人がいなかったので質問してしまった。でも本
当は、もっと真面な質問が出た後でジョークとして質問した
かったものだ。
その質問は、「主演と原作者が同じ『海猿』がフジテレビ=
東宝で製作公開され、今回は日本テレビ=ワーナーでの製作
公開だが、その映画の中で、お台場のフジテレビが打っ飛ぶ
シーンがあるのに汐留が描写されないのは、何か意図があっ
たのか」というもの。
この質問に対して最初にマイクを向けられた原作者・小森陽
一の答えは、「僕も映画を観てびっくりしました。意図は監
督に聞いてください」というもの。ここで場内爆笑となり、
続いてマイクを向けられた主演の伊藤英明は、「余りに強烈
な質問なので、頭の中が飛んでしまった」という回答になっ
てしまった。
そして監督の水田伸生からは、「お台場はランドマークで、
汐留は間に浜離宮があるから」という回答だったが、つまり
これは「お台場はランドマークとして日本全国に知られてい
るが、汐留は未だそれほどの知名度がないから描いても仕方
がなかった」ということのようだ。実際、汐留に波が打ち寄
せるシーンを描いても東京の人間以外はほとんど判らないの
が現状だろうし、それでは全国区の映画にはならないという
ことだ。
という質疑応答だったが、原作者や特に伊藤英明のパニック
ぶりが面白くて会場を沸かせることはできた。とは言え、や
はりこれは半分ジョークのようなものだから、最初の質問で
するものではなかったような気もする。でもまあ僕としては
他人が訊くようなことは訊きたくないし、いつもこんな質問
を用意して会見に臨んでいるものだ。

以上で、記者会見の報告を終ります。



2008年09月15日(月) 第167回

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※このページは、SF/ファンタシー系の作品を中心に、※
※僕が気になった映画の情報を掲載しています。    ※
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 今回は記者会見の報告から。
 9月3日に、『アイアンマン』に主演したロバート・ダウ
ニーJr.の来日記者会見が行われた。例によって今回の作品
に対する質疑応答は採録しないが、全体的には本人が「今年
は25年の俳優人生で最高の1年だ」と語っていたのが印象的
だった。因に、25年前の1983年には“Baby It's You”とい
う作品に出演して、初めてロバート・ダウニーJr.の名前で
クレジットされたものだ。
 そして記者会見では、最後に次回作について聞いてくれた
人がいて、その答えとしては、「“Iron Man 2”は、監督の
ジョン・ファブローと検討を始めている。もっと人間トニー
・スタークとアイアンマンの関係を追求したものにしたい」
と語っていた。
 なおこの“Iron Man 2”については、ジョン・ファブロー
監督の発言も海外から伝わってきているが、それによると、
物語は全3部作で考えられているようだ。つまり“Iron Man
2”の後に“3”もあるということだ。そしてその中には、
原作コミックスに登場する怪人との対決も検討されていると
いうが…。そこには東洋の神秘みたいな存在もあるようで、
現実的なハイテク中心で描かれた第1作との擦り合わせは、
かなり慎重に行う必要がありそうだ。
 また第2作には、原作の中にあるトニーの最も人間的な部
分も描かれることになるそうで、その検討はファブロー監督
と、同じく俳優出身で“Tropic Thunder”の脚本を手掛けた
ジャスティン・セロックス、それにダウニーJr.の3人で行
っていることも明らかにされていた。つまり第2作の検討は
いずれも俳優出身の3人で行われているようだ。
 それからこの会見の後で、僕は次の試写会のために急いで
会場を飛び出したのだが、ちょうど車寄せでダウニーJr.が
ファンへのサインに応じていて、その後ろを高校生ぐらいの
男子数人が歩いていた。そして彼らが「何だ、何だ」と騒い
でいたので、「『アイアンマン』のダウニーJr.だよ」と教
えてやると、「わ、本当だ。あの変身する親父だ」との反応
で、案外プロモーションは浸透していると感じられた。
 本作の最大のターゲットは、正に中高校生の男子だと思わ
れるので、この線での浸透を頑張ってもらいたいものだ。
 記者会見は他にもあったが、ここでの報告は以上にして、
以下は製作ニュースを紹介しよう。
        *         *
 まずは、前回もいくつか紹介したが続編の話題で、最初は
これも前回『リディック』の続編について報告したヴィン・
ディーゼルが、『トリプルX』の続編についてもコロムビア
との交渉に入ったことが報道されている。
 オリジナルの“xXx”は2002年にディーゼルとアーシア・
アルジェントの共演で映画化されたもので、ディーゼル扮す
る過激で違法なXスポーツの英雄ザンダー・ケイジが、3つ
の罪で重罰を受けることが確定し、それを逃れる途として政
府機関の手先となることを要請される…というもの。前年の
『ワイルド・スピード』に続くロブ・コーエン監督とのコン
ビでは、コーエン監督のメカフェチ振りも爆発、ディーゼル
のちょい悪振りも大爆発で、ヨーロッパが舞台のアクション
も見事に決まり、ディーゼルの人気を確定させた作品だ。
 そしてその続編については、実は2005年にも“xXx: State
of the Union”という作品が作られたのだが、元々はディー
ゼルに出演が交渉されたものの断られ、コーエン監督も降板
したこの作品は、『007ダイ・アナザー・デイ』のリー・
タマホリ監督、アイス・キューブ主演で製作されたものの、
日本では未公開に終ってしまった。その第3作というか、正
に第1作の続編となる作品が、しかもコーエン監督の再登板
の交渉と共に進められているというものだ。
 さらにこの製作には、今夏の『ヘルボーイ:ゴールデン・
アーミー』などを手掛けるジョー・ロスが当ることも発表さ
れている。因にロスは、『トリプルX』と“xXx: State of
the Union”を製作した当時のリヴォルーション・スタジオ
のトップだった人で、クレジットに名前は挙がらないものの
事実上の指揮を取っていた。そのリヴォルーションは2006年
10月に活動を停止したが、その後はソニー・ピクチャーズに
所属して、今回の復活劇を仕掛けているものだ。
 という顔ぶれが揃うとされる続編だが、その題名は“xXx:
The Return of Xander Cage”と発表されているものの、脚
本などは未定で、コロンビア側も未だゴーサインを出してい
るものではない。しかし、X世代のジェームズ・ボンドとし
てシリーズ化も期待される計画には、仮にコロムビアで実現
しなくても他の複数の映画会社が権利の獲得を希望している
とされており、Xスポーツのヒーロー=ザンダー・ケイジの
復活は間違いないようだ。
        *         *
 続いてもコロムビアの話題で、1984年と89年にも続編が作
られた『ゴーストバスターズ』の第3作が計画されている。
 オリジナルの“Ghost Busters”(第1作はこの表記だっ
たようだ)は、当時テレビのコメディシリーズ“SCTV”が好
評だったハロルド・ライミスと、同じく“SNL”のダン・エ
イクロイドが共同で執筆した脚本を映画化したもので、この
2人にビル・マーレイを加えた3人の博士がゴースト吸引器
なる装置を開発。ゴーストの巣窟と化しているニューヨーク
を舞台に、声が掛かればどんなところにも参上してゴースト
退治を行うというお話。それで彼らは一躍都会のヒーローに
なるが…という展開のものだ。
 共演には、シゴニー・ウィーヴァー、リック・モラニス、
アーニー・ハドスンらが顔を揃え、また監督は、アクション
コメディ専門のアイヴァン・ライトマンが担当していた。そ
してこのオリジナルは、1997年『メン・イン・ブラック』、
2002年『スパ−ダーマン』公開以前のコロムビア映画では稼
ぎ頭となっていたものだ。なお、第2作も同じ顔ぶれが全員
揃って製作されている。
 その第3作となるものだが、実はこの第3作の情報につい
ては2006年6月1日付第112回でも紹介している。しかし、
ハロルド・ライミス自身が脚本を執筆するとされたその計画
は、実現に至らなかった。
 それに対して今回の計画は、スティーヴ・カレルの主演で
すでに放送4年目を迎えている人気コメディシリーズ“The
Office”を手掛ける脚本家チームのリー・アイゼンバーグと
ジーン・ストプニツキーがアイデアを提出。同シリーズの演
出を担当したライミスと意見が一致したものだ。因にライミ
ス監督と脚本家たちは、すでにジャック・ブラックの主演で
“Year One”と題されたアドヴェンチャーコメディの製作を
完了しており、それに続く作品となる計画だ。
 ただし計画では、ライミス、エイクロイド、マーレイ、ハ
ドスンのオリジナル・ゴーストバスターズが顔を揃えること
になっているそうだが、出演交渉は脚本が完成してからにな
るもので、それぞれ還暦も近い顔ぶれが20年ぶりに再結集す
るかどうかは多少心配。計画が進めばその辺も注目を集める
ことになりそうだ。
        *         *
 コロムビアの話題ばかりになるが、一時はパラマウントで
進められていたデイヴィッド・フィンチャー監督の“Heavy
Metal”の第3作が、同社で進められることになりそうだ。
 この計画については、今年3月15日付第155回でも紹介し
たように、現在雑誌出版元のオーナーをしているケヴィン・
イーストマンとフィンチャーが製作者としても名を連ねてい
るものだが。実は、フィンチャーが先にパラマウントで監督
した“The Curious Case of Benjamin Button”が、一応の
完成はしたものの、上映時間が長いとしてパラマウント側が
再編集を要求。しかしフィンチャー側が応じないことから、
パラマウント側は「お前(フィンチャー)の他の計画にゴー
サインは出さない」との宣告してしまったようだ。
 これに対して、フィンチャーは「f**k You.それなら俺は
“Heavy Metal”を別の会社で立上げてやる」と返答して、
イーストマン共々ソニーへの計画の移動を決めてしまったの
だそうだ。
 この報道では、ソニー側がそれを受けたかどうかは不明だ
が、元々1981年のオリジナル『ヘビーメタル』の配給はコロ
ムビアが手掛けていたもので、まあ元の鞘に納まったという
感じもするところだ。海外のデータベースでは、製作会社は
まだパラマウントのままになっており、具体的な作品の進捗
状況は不明だが、楽しみに待ちたい作品だ。
 ただしこれに関連しては、フィンチャーとパラマウントの
作品が全てキャンセルされるとなると、同社で彼が進めてい
たアーサー・C・クラーク原作“Rendezvous With Rama”に
も影響が出てくることになる。しかしこの作品は、俳優のモ
ーガン・フリーマンが権利を所有してパラマウントでの製作
を契約しているもので、フィンチャーがいくら気に入らなく
ても彼一人の意向では決められない。フリーマン、フィンチ
ャーの双方がお気に入りの計画ということなので、その去就
も気になるところだ。
        *         *
 もう1本、2007年にコロムビアから公開されたニコラス・
ケイジ主演『ゴーストライダー』の続編も、今度はコロムビ
アに、原作権利者のマーヴェル・スタジオも参加して進めら
れることになりそうだ。
 昨年公開された“Ghost Rider”の映画版は、全世界合計
で2億2870万ドルを稼ぎ出したとされている。ところが本作
の製作では、映画が一旦完成した後でVFXシーンが追加さ
れるなどしたために、製作費が1億1000万ドルも掛ってしま
った。このため収支バランスではあまり大ヒットしたとは言
えず、実は続編に関してもあまり期待はされていなかった。
 しかしコミックス王国の覇者を目指すマーヴェルとしては
キャラクターを中途半端なままの状態にはしたくなかったよ
うで、コロムビアとマーヴェルがリスクを分担する形で続編
の検討が進められることになったようだ。
 しかもこの報告は、実はニコラス・ケイジ本人の口からも
たらされたもので、新作の“Bangkok Dangerous”(2001年
東京国際映画祭で上映された『レイン』のハリウッド版リメ
イク)のプロモーションに登場したケイジが、2社による続
編が3ヶ月前から検討中で、彼自身にも主演のオファーがさ
れていることを認めたものだ。
 さらにその発言によると、「続編の舞台は国際的なものに
なる。主人公はヨーロッパ全土をツアー中という設定で、法
王庁との関係も描かれる」とのことだ。その法王庁との関係
は、『ダ・ヴィンチ・コード』的なものになるとの発言もあ
ったが、『ダ・ヴィンチ…』では法王庁との対立が厳しかっ
たコロムビアの製作で、今回は関係修復と行くのだろうか。
 元々この作品は、ケイジの思い入れも強く映画化が実現し
たもので、前作の公開直後にも物語はまだまだ続くという発
言もしていた。監督なども未定で、今回の計画が彼の希望通
りのものになるかどうかは未確定だが、ケイジの口からこの
ような発言があるのは、再主演する希望は強いと思われ、実
現を期待したいものだ。
        *         *
 続編とコロムビアの話題はこれくらいにして、次は続報で
昨年6月1日付の第136回で紹介したアレン&アルバート・
ヒューズ兄弟監督による“Book of Eli”の映画化に、デン
ゼル・ワシントンの主演が発表された。
 この作品は、以前にも紹介したように、最終戦争後の世界
を舞台に、人類を救済する1冊の神聖な本を守ってアメリカ
各地を旅する孤独なヒーローを描くというもの。ゲイリー・
ウィッタという人のオリジナル脚本に基づくものだが、その
後、2001年『サウンド・オブ・サイレンス』などを手掛けた
アンソニー・ペッカムがリライトを加えたとのことだ。
 そして今回は、その映画化の主演にワシントンが発表され
た。なおワシントンは、2007年10月1日付第144回で紹介し
たジョン・トラヴォルタ共演、トニー・スコット監督による
“The Taking of Pelham 123”(1974年『サブウェイ・パニ
ック』のリメイク)の撮影はすでに完了しており、ヒューズ
兄弟監督による『フロム・ヘル』以来となる本作の撮影は、
来年1月に開始の予定とされている。製作はジョール・シル
ヴァ。完成された映画の配給はワーナーが担当する。
 因に、本作のオリジナル脚本を手掛けたウィッタは、現在
は大友克洋原作『アキラ』を2部作で映画化するワーナーの
計画でも脚色を担当しているようだ。
        *         *
 続いて続報は、2007年1月1日付第126回で紹介したワー
ナー版“Tarzan”の計画に、スティーヴン・ソマーズ監督の
名前が挙がってきた。
 この計画では、2003年7月15日付第43回で紹介したように
最初はジョン・オーガストの脚本によるものが検討されたが
実現せず。次いで2007年にはギレルモ・デル=トロ監督によ
る計画が発表されたが、これも頓挫していた。
 その計画に、今回はソマーズ監督が挑戦するもので、監督
は、先にパラマウントで“G.I.Joe: Rise of Cobra”を製作
した際の脚本家スチュワート・ビーティと共に、この計画に
乗り込んできているものだ。因に、脚本家のビーティは、以
前には『POTC』の第1作のストーリーや、2004年の『コ
ラテラル』、2007年の“30 Days Night”などの脚本も手掛
けているということだ。
 なお以前にも紹介したように、E・R・バローズ原作『タ
ーザン』の映画化では、ディズニーでも1999年にアニメーシ
ョンが製作されているが、今回の計画は1930年代にMGMが
製作した実写映画の権利に基づくもの。その縛りが気になる
ところだが、一方、ワーナーでは1984年にシリアス版の『グ
レイストーク』も製作しており、今回の計画がどのような方
向で進むのか、楽しみなところだ。
        *         *
 2006年7月1日付第114回で紹介したヴィデオゲームの映
画化“Clock Tower”の製作が、11月にロサンゼルスで開始
されることが発表された。
 この計画では、以前はチリ人の監督などいろいろな情報が
紹介されたものだが、最終的にはドイツ出身で“The Hills
Have Eyes II”などを手掛けたマーティン・ワイズの監督が
決定。また脚本は、2001年『ジェイソンX』などのトッド・
ファーマーを含めた複数の脚本家の手によって完成されたよ
うだ。
 そしてこの作品に、昨年の『ヘアスプレー』ではミシェル
・ファイファーの娘役を演じていたブリタニー・スノウの主
演が発表されている。因にスノウは、ティーンズホラーの定
番“Prom Night”のリメイク版が9月に全米公開されたとこ
ろで、新スクリーム・クィーンの誕生も期待されそうだ。
        *         *
 ここからは新規の計画で、2002年公開『プロフェッシー』
(The Mothman Prophecies)や、1999年の『隣人は静かに笑
う』(Arlington Road)などを手掛けたマーク・ペリントン
監督が“Solace”という作品の準備を進めている。
 この作品は、超能力を持っているとされる博士が、連続殺
人の犯人を追うため、警察に協力を要請されるというもの。
脚本は、『オーシャンズ11』などのテッド・グリフィンと、
元映画製作者のショーン・ベイリーのオリジナルに基づき、
『ゾディアック』などのジェームズ・ヴァンダービルトがリ
ライトを担当している。超能力というのが具体的にどのよう
なものか明らかにされていないが、監督の前作などから考え
るとかなり捻った作品にもなりそうだ。
 出演者などは未発表だが、ニューライン製作、配給はワー
ナーが担当することになる作品で、毎年6本を製作するとな
っているニューライン=ワーナーの契約に含まれる作品との
ことだ。因にこの契約では、ニューラインの製作本数は以前
から半減しているそうだが、“The Hobbit”などの大作もあ
り、順調に進んでいるようだ。
        *         *
 続けてニューラインシネマは、リチャード・ドイッチ原作
のタイム・トラヴェル小説“The Thirteenth Hour”の映画
化権を獲得したことを発表した。
 物語は、妻を殺された上に、その容疑者とされた男が、妻
を救い自らの容疑も晴らすために1時間だけ時間を遡るとい
うもののようだ。ただし物語の解説には、『ボーン・アイデ
ンティティー』の題名も挙がっていて、ということは主人公
は…になるのだろうか。
 因に原作者のドイッチは、日本ではデビュー作の『天国へ
の鍵』(The Thieves of Heaven)という作品が翻訳されて
いるだけのようだが、この作品がベストセラーになって映画
化も進められている。そして、今回は未発表の原稿に対して
映画化権が設定され、元ニューラインの総師だったベテラン
製作者のマイクル・デルッカが陣頭指揮で映画化を進めると
いうことだ。
 なおデルッカは、退職以来8年ぶりにニューラインに戻っ
ての仕事となるものだが、「自身がタイムトラヴェルしてい
るような感じでは?」という質問に対して、「ここは快適な
居場所だ。作品は元々自分の得意としていた分野だし」とし
て張り切っているようだ。
        *         *
 次はイギリス映画で、2003年に結婚したポール・ベタニー
とジェニファー・コネリーの俳優夫妻が、映画の中でも夫婦
役で共演する計画が発表されている。
 作品は“Creation”と題されたもので、内容は『進化論』
を発表したチャールズ・ダーウィンとその妻エマを描いてい
る。ただし、その一部は幽霊もので、一部は心理スリラー、
そして一部はラヴストーリーとされているものだ。物語は、
夫妻が共に若い頃のお話で、子供を失ったことからの救済な
どが描かれるとされている。そこに幽霊ものというのは…
 脚本は、ベタニーが出演した2003年『マスター・アンド・
コマンダー』などのジョン・コーリーが、ダーウィンの子孫
のランダル・キーンズの発表した“Annie's Box”と題され
た評伝に基づいて執筆。監督は、2003年『ザ・コア』などの
ジョン・アミエルが担当する。撮影は、9月28日からロンド
ン郊外にある実際のダーウィンの住家などを用いて行われ、
公開は来年ダーウィンの生誕200年を記念して行われる予定
とのことだ。
        *         *
 最後はちょっと異色な脚本家の登場で、ワーナーは、イン
ディーズのロックバンドstellastarr*のリードヴォーカル=
ショーン・クリステンセンが執筆した“Karma Coalition”
と題されたSF映画の脚本を、6桁後半から実現時には7桁
($)の契約金で獲得したことを発表した。
 内容は、妻殺しの嫌疑を掛けられて逃亡者となった主人公
が、世界が終る前に妻の死に隠された真実を探り出そうとす
る…というもの。世界が終ってしまうのなら、そんなことを
探り出しても意味がないようにも思えるが、その妻の死が世
界の終りに関っているのだろうか?
 因にクリステンセンは、彼のバンドがニューヨークのスタ
ジオで彼らの3rdアルバムを制作している間にこの脚本を書
き上げたのだそうだ。ロックアーチストにはSFファンが多
いという話は聞いたことがあるが、それにしても脚本家とし
ては新人の作品に6桁後半の契約金はかなり破格と言えるも
のだ。もちろん内容は検討された上での契約だから、それだ
けの作品ということではあるのだろう。
 なお映画の製作は、以前紹介した“Justice League”や、
ガイ・リッチー監督の“Sherlock Holms”なども手掛けるダ
ン・リンが担当しており、ワーナーでは最優先で製作する計
画になっているそうだ。



2008年09月14日(日) ヘルボーイ2、アラトリステ、草原の女、きつねと私の12ヶ月、252、ロック誕生、ザ・ムーン、ブラインドネス(追記)

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※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介しています。     ※
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『ヘルボーイ・ゴールデン・アーミー』
            “Hellboy II: The Golden Army”
ダークホース・コミックス原作、2004年公開『ヘルボーイ』
続編。ギレルモ・デル=トロ監督の許、ロン・パールマン、
セルマ・ブレア、ダグ・ジョーンズら主要メムバーが再結集
し、さらに新顔のクリーチャーもいろいろ登場する。
という作品だが、実は前作のときは試写状が貰えなくて僕は
観られなかった。でもまあ主人公が悪魔の子で…ということ
ぐらいを知っていれば、別段本作の物語を理解するのに支障
はなかった。それにその点はプロローグでもしっかり説明さ
れる。
それと、主人公と女性のサブキャラが恋仲だが、早くも倦怠
期か?というようなところもあるが、その辺も観ていれば判
るし、それが特に本作の展開に重要な訳でもない。そんな訳
で、僕は前作を観ていなくても、大した支障もなく本作を楽
しむことができた。
それで今回の物語は、古代に起きた人類とクリーチャーたち
の戦いに起因するもの。その戦いは貪欲な人類側が圧倒的な
強さを見せていたが、クリーチャー側は最後にメカニカルな
ゴールデンアーミーを誕生させて人類に反撃を加える。
しかしその容赦の無い反撃の仕方を容認できなかったクリー
チャーの王は、自らその動作を停止させて人類との和解に出
る。こうして人類とクリーチャーたちは、古来より住む場所
を分けて現代に至っていた。
ところが近年になって、古来の事情を知らない人類はクリー
チャーの領分を犯すようになり、その事態に怒ったクリーチ
ャーの王の息子が、再びゴールデンアーミーを始動させよう
と画策するが…
そのキーとなる王冠を形成する3つのパーツを巡って、王の
息子とヘルボーイたちとの闘いが始まる。そしてその闘いの
ため、王の息子は人類社会に向けて、次々に奇っ怪なクリー
チャーを繰り出してくる。
一方、新たなリーダーを得たヘルボーイたちもクリーチャー
の世界に捜査の脚を踏み入れて行くが…
いかにもコミックスの映画化という感じの作品で、それを、
『パンズ・ラビリンス』の好評で勢いに乗るデル=トロが、
思い切り作ったという感じの作品。多少やりすぎの感じもな
いではないが、ここまでやれば観客も楽しくなると言えるも
のだ。
『ダークナイト』の成功で、今後のコミックスの映画化には
いろいろ変化が出てきそうだが、本作に関してはその前の作
品と言える。とやかく言わず、とにかく気楽に楽しみたい。

『アラトリステ』“Alatriste”
17世紀のヨーロッパを舞台に、『LOTR』のヴィゴ・モー
テンセンが剣客となって活躍するアクション作品。2006年に
スペイン映画史上最高の製作費を掛けて製作・公開され、同
年度のゴヤ賞には最多15部門にノミネート、3部門で受賞す
る好評を得た。
1622年、フランドルの戦場を行くスペイン歩兵部隊の中にア
ラトリステの姿はあった。当時のスペインは、フェリペ4世
の治世の下、ヨーロッパの強国の地位を保ってはいたが、ア
ルマダの海戦で無敵艦隊が大英帝国軍に破れて以降、国の内
外には問題が噴出していた。
しかし放蕩を続ける国王は、寵臣オリバーレスに国政を任せ
たままで、その国力は着実に衰えて行く。そんな中、アラト
リステはあるときは国王に仕える傭兵として、またあるとき
はマドリードの闇に潜む刺客として活躍を繰り広げる。
そんな彼の周囲には、フランドルの戦場で命を救ったグアダ
ルメディーナ伯爵や、その戦場に散った仲間の息子イニゴ。
今は人妻だが旧知の美人女優マリアなどの姿があった。そし
て戦いは、オランダ軍が抵抗を続ける要塞都市ブレダの戦い
などに続いて行く。
原作は、戦場ジャーナリスト出身のアルトゥーロ・ペレス=
レベルテが発表した全6巻に及ぶ壮大な作品で、史実に基づ
く戦いや実在の人物の行動に絡めて、物語のヒーローが活躍
するというものだ。
実際、主人公のアラトリステは架空の人物だが、その物語の
スケールと、恐らくは栄光の時代へのノスタルジーなどで、
特にスペイン国民には熱狂的に迎えられた作品のようだ。そ
れが没落に向かう状況であることも物語に深みを与えていそ
うだ。
また映画では、ブレダ開城のシーンにベラスケスの絵画をモ
ティーフにするなど、巧みな構成も用いられている。
その主人公役に、アメリカ人のモーテンセンが全編スペイン
語の台詞で挑んでいるものだが、元々剣客というのは寡黙な
方が似合うし、口元もあまり動かさない台詞をアフレコして
いるから違和感は感じなかった。
そして共演者には、『バンテージ・ポイント』などのエドゥ
アルド・ノリエガ、『コレラの時代の愛』で主人公の青年時
代を演じたウナクス・ウガルデ、『トーク・トゥ・ハー』の
ハヴィエル・カマラ、『美しすぎる母』のエレナ・アナヤ、
『パンズ・ラビリンス』のアリアドナ・ヒルなど多彩な顔ぶ
れが集められている。
なお、監督のアグスティン・ディアス・ヤネスは本作が3作
目。全ての作品でゴヤ賞に最多ノミネートされている才人だ
が、実は第2作として準備中に頓挫したSF大作があるとの
こと、ぜひともその作品も実現してもらいたいものだ。

『草原の女』“珠拉的故事”
今年1月に紹介した『胡同の理髪師』のハス・チョロー監督
による2000年の長編デビュー作。内モンゴル自治区の冬を背
景に、都会に出稼ぎに行ったまま帰ってこない夫を待つモン
ゴル族の女性の姿を描く。
主人公のゾルは、幼い息子とともに草原に建てられたゲルで
暮らしている。彼女の生活は165頭の羊と馬などの世話に追
われているが、牧草地に雪の積もった冬はその牧草を集める
作業などで大忙しだ。しかも雪原には腹を空かせたオオカミ
も出没する。
そんな過酷な暮らしの中でも、彼女は都会に行ったまま何年
も帰ってこない夫を待ち続けている。なおモンゴルの女性に
は、「冬に怠けていると、冬眠して蛇になってしまう」とい
う言い伝えもあるそうだ。
そんな彼女の許を1人の男が訪れる。彼女は、夫の居ない間
に他人を雇うことを拒否するが、男には家族もなく、仕事を
求めて草原を彷徨っている風だった。そして男は、異常に火
を恐れることから逆にガル(火)と村人から呼ばれるように
なる。
やがて男は、ある切っ掛けから彼女のゲルの近くに自分のゲ
ルを建てることを許される。しかし彼の過去にはいろいろな
経緯がありそうだった。
最初は遠方に建てられたゲルが徐々に近づいてくるなど、微
妙な表現も含めて、草原に暮らす男女の生き様が描かれる。
その物語の展開は多少甘いようにも感じられるが、まあそれ
もお話と言うところだろう。
謎めいた小道具がいろいろ登場し、それが最後に収斂して行
く脚本はなかなか見事なものとも言える。
内モンゴル自治区を描いた作品では、最近の砂漠化をテーマ
にした作品を何本か観たが、本作は砂漠化ではないものの、
やはり厳しい冬の生活が描かれている。放牧という生活の糧
のためではあるが、これも大変なことだ。そんな民衆の生活
が丁寧に描かれる。
主演は、実際にモンゴル族のハス・カオワ。出演作も多いベ
テランで、その中には2002年の日中合作映画『王様の漢方』
もあるものだ。

『きつねと私の12ヶ月』“Le Renard et L'Enfant”
前作『皇帝ペンギン』でアカデミー賞長編ドキュメンタリー
部門を獲得したフランス人のドキュメンタリスト=リュック
・ジャケ監督による2007年の作品。
前作ではペンギンの擬人化が多少気になった人もいたようだ
が、本作はさらに1歩進めて、動物の生態は描いているが物
語は完全なフィクションとされている。因に、フランスでの
配給はディズニーが担当したようだ。
そのお話は、1人の少女が森でキツネを見掛け、そのキツネ
と共に冒険を繰り広げるというもの。監督自身が子供の頃に
キツネを見た思い出から発展させたということだが、そのお
話はメルヘンにも満ち溢れた素敵なものになっている。
しかも現実との責めぎ合いもしっかりと描かれていて、なか
なか良い物語になっていた。
キツネを題材にした映画は、日本では『キタキツネ物語』が
有名だが、本作はキツネの生態というより少女との関わりに
重きが置かれて、その冒険の美しさなどが強調される。しか
しフランスではキツネは害獣と認定されているらしく、駆除
や狩りの対象などにもなっている。
それでも少女はキツネを愛しているという筋立てで、その辺
の現実の描き方もしっかりとしていた。
さらにフランスアルプスの風景や、そこに住む動物たちの姿
が見事に美しく捉えられた作品で、それを見ているだけでも
心が洗われるような感じがする。そして、そこに描かれる冒
険の舞台は峡谷や鍾乳洞など、大人にとってもわくわくする
ようなものだ。
ただし、親の目で観るとかなりはらはらもする展開にもなっ
ている。そのくらいに素敵な冒険が描かれているものだが、
その一方で、それを見守る親の立場も相応に描かれており、
その辺には納得もできた。
主演は1995年生まれのベルティーユ・ノエル=ブリュノー。
また、少女の思い出話としてのナレーションを、『チャーリ
ーとパパの飛行機』で母親役を演じていたイザベル・カレが
担当している。因に、英語版のナレーションはケイト・ウィ
ンスレットだったようだ。
大人の目の嫌らしさを感じることもなく、純真な気持ちで楽
しめる作品だった。

『252』
海底地震の影響で小笠原諸島近海の海水温が急上昇し、それ
により日本近海で未曾有の巨大台風が発生する。その影響で
新橋地区が高潮に襲われ、東京メトロ新橋駅の地下1階部分
が崩落、地下2階ホームに人々が閉じ込められる。
題名は「生存者あり」という東京消防庁の暗号だそうで、閉
じ込められた中に居た元レスキュー隊員の主人公が、パイプ
を2回、5回、2回と打ち鳴らして外部に状況を伝えようと
するが…その外部も、巨大台風の襲来でレスキュー隊の投入
が困難な状況だった。
同様の物語では、1996年の『デイライト』が思い浮かぶが、
かなり荒唐無稽な展開だったスタローン主演作に比べると、
それなりにリアルなレスキュー活動が描かれる。特に、最新
鋭の音響探査装置やレスキュー犬まで登場する描写はかなり
リアルな感じだった。
といっても、これで救出されるには相当の幸運が必要と思わ
れるが、物語は、2004年の中越地震で地震発生から90時間後
に4歳児を救出したレスキュー隊の活動にインスパイアされ
たもので、幸運も時にはあるということだ。
ただまあ、普段からこの駅を利用している者としては、総武
線、都営線に接続する地下街はどうなった?とか、銀座は水
没しているにしても、そちらへのレスキューの派遣状況は?
など、いろいろ考えてしまうところではあるが…
それに、銀座線、丸の内線の場合は、第3軌条への送電の停
止など、危険を伴う部分で描かれていないものもあって、気
になるところはいろいろあったが、救出現場となる新橋駅周
辺の景観などは、見慣れた風景が見事に変貌していて納得も
できた。
出演は、伊藤英明、内野聖陽、山田孝之、香椎由宇、木村祐
一、MINJI、山本太郎、桜井幸子、杉本哲太。
伊藤のレスキュー隊員姿などは様になっているが、中で、情
報伝達のため現場に駆けつける気象予報官を演じる香椎が、
自分の提案から隊員を死地に赴かせてしまった悔悟と、責任
を完うしたことに対する安堵の表情は、良く演じられている
感じがした。
その他、現地の本部となるホテルの中で、従業員たちがかい
がいしく給仕などをしている様子も、多分こんななのだろう
なあと思わされたものだ。
原案と脚本は、『海猿』シリーズの小森陽一。海、都会と来
て、次は何処のレスキューを見せてくれる?

『ロック誕生』
1970年代に巻き起こった和製ロックブームを回顧する作品。
内田裕也、ミッキー・カーチス、中村とうようら当時の仕掛
け人だった人たちの証言や、ミュージシャンの思い出話など
が、当時のライヴ風景を収めた映像と共に再現される。
僕自身は、70年安保前の反戦フォークブームには多少思い入
れがあるが、それ以降の和製ロックにはあまり関心が無かっ
た。実際に今回のフィルムの中では、遠藤賢司はかろうじて
当時のフォークコンサートへの出演で観ているが、その他は
名前を聞いている程度だ。
でもまあ、こんな僕でも名前は知っているグループのライヴ
映像だから、それは懐かしく観ることもできたし、またイン
タヴューの発言では、「なるほどそうだったのか」という思
いのした部分もいろいろあった。
ただ、それを感じられるのが、僕と同じ位かそれより上の世
代ではないかというのが心配なところだが…。挿入された当
時のライヴ映像などには、今観ても充分に面白いものも多い
と思うので、出来るだけ若い人にもアピールしてもらいたい
ものだ。
とは言うものの、折角インタヴューで言及されているのにラ
イヴ映像の登場しないものが多いのは残念なところで、いま
さら「キャロル」はいいとしても、「外道」ぐらいは元メム
バーの加納秀人本人が登場しているなら、ライヴの映像も欲
しかったところだ。
因に、登場しているライヴ映像は、フラワートラヴェリン・
バンド(Make up)、頭脳警察(銃をとれ)、はっぴいえん
ど(はいからはくち)、イエロー(ゴーイングアップ)、遠
藤賢司(夜汽車のブルース)、ファーイースト・ファミリー
バンド(地球空洞説)、村八分(草臥れて)、クリエイショ
ン(ロンリーナイト)、四人囃子(おまつり)など。
中にはかなり画質の悪いものもあるが、当時の雰囲気は存分
に楽しめるものだ。
ただし、この映像にバンド名はあっても曲名が表示されない
のは片手落ちの感じで、特に、「四人囃子」の「おまつり」
は、インタヴューで言及された直後なのに、歌詞に単語が出
てくるまで確認できなかったのは気になった。
その他、インタヴューの中には「まだ話せないこともある」
と言っている発言者も居たようで、その辺は今後もしつこく
追って行って欲しいものだ。

『ザ・ムーン』“In the Shadow of the Moon”
1961年5月25日のジョン・F・ケネディの演説から始まり、
1972年12月19日のアポロ17号の地球帰還で終結するアポロ計
画の全歴史を、10人のアポロ宇宙飛行士へのインタヴューと
当時の映像で再現したドキュメンタリー。
2007年1月のサンダンス映画祭でプレミア上映されて観客賞
を受賞したのを始め、2008年第22回アーサー・C・クラーク
賞など世界各地での受賞に輝いている。
僕は、1969年7月のアポロ11号による人類初の月面着陸を鮮
明に覚えているし、アポロ計画というのは、正に自分の生き
た時代の出来事だったと思えるものだ。しかしアポロ13号の
事故以降は、正直に言って何をやっていたのかもあまり記憶
にない。
実際には、15号で初めて月面車が使用されたり、峡谷部の探
査や長期滞在などいろいろな研究が行われていて、今回この
作品を観ていて「そう言えば…」と思い出すことも多々あっ
たが、ある意味の忘却の彼方という感じもしたものだ。
それくらいにアポロ計画の後期は一般の関心も薄れ、露出も
少なかった。実際1978年の『カプリコン1』は、そんな世間
の宇宙開発への無関心に対して作られたものだ。最近は変な
意味で使われていることも多いようだが。
だからもっと若い人には、本当にこんなことが行われていた
のだと驚くようなものも多いのかも知れない。実際、映画の
中には、今回初めて一般公開される映像もあるとのことで、
いまさらながら人類が行った偉大な冒険を目の当りにするこ
とができるものだ。
もちろんその中には、アポロ1号での悲劇もあるし、アポロ
8号が急遽月周回に向かう状況や、後で問題にされたその際
に聖書を読み上げた経緯、アポロ11号で星条旗を立てた経緯
なども、飛行士たちの生の声で語られる。それらにも興味深
いものがあった。
ただし、アポロ13号の顛末に関しては比較的軽く流されてい
るのは、本作のプレゼンターが『アポロ13』のロン・ハワー
ド監督のせいなのだろうか?
何れにしても、スペースシャトルや国際宇宙ステーションへ
の関心も今一つ盛り上がらない昨今、月への国際協力による
再上陸や、火星への有人飛行は実現するものなのか。本作を
観ながらそんなことも考えさせられた。
この作品の公開で、宇宙への関心が少しでも盛り上がること
を期待したいものだ。
        *         *
『ブラインドネス』(追記)
8月17日付で紹介したこの作品について、試写を見直したと
ころ興味深い話しを教えてもらった。
この作品は、カンヌ映画祭でプレミア上映されたものだが、
実はその時の編集ではダニー・グローヴァーのナレーション
がうざったいほどに挿入されていたのだそうだ。そこでそれ
では駄目ということになり、メイレレス監督がナレーション
を半分以下にする再編集に着手。その結果が今回公開される
ヴァージョンとのこと。
この話を聞いて思い出すのは、『2001年宇宙の旅』が、当初
のクラークの脚本ではナレーションが多数入っていたものを
クーブリックがすべて削除したことだ。今回の作品で原作者
からは、「絶対にSFにしないでくれ」という注文もあった
そうだが、SFであってもなくても、ナレーションを少なく
することが名作への第1歩ということはありそうだ。
そう言えば、チャーリー・カウフマン脚本の『アダプテーシ
ョン』でも、「ナレーションで説明するのは最低のやり方」
というような台詞があったと思うが、それは真理のようだ。
もちろんそれは作品の内容にもよるものだが。



2008年09月10日(水) 臨時号(夏休遠征報告)

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
※今回は、夏休み中の8月18日−24日の間に関東−九州の※
※あちらこちらを見学してきましたので、臨時にその報告※
※をします。ページの趣旨とは多少異なりますが、お付き※
※合いください。なお、映像関係の話題も少しあります。※
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
 まず8月18日、19日の両日は、SF作家クラブ・開田裕治
会員のご斡旋で、茨城県東海村と筑波研究学園都市にある高
エネルギー加速器研究機構(KEK)の施設を見学した。
 この内、18日に見学した東海村の施設はまだ建設途中で、
これが年内に完成し来年運用が始まると、一部は放射能を帯
びて立入禁止になってしまう場所へも見学が許可されたもの
だ。従って外部の人間がそれを見るのは、これが最後になる
だろうというものもあり、貴重な体験となった。
 実際この施設では、来年以降、発生させたニュートリノを
岐阜県のスーパーカミオカンデに撃ち込む実験も予定してい
るもので、その地中に設けられた射出口は縦横5m。内面に
冷却用の配管が巡らされて、正に巨大な噴射ノズル。その奥
の方まで入れてもらえたが、こういうものが観られるとは、
思いもしなかった。
 その前に見学した地下20mに巡らされた加速器では、全周
1.6kmの内のカミオカンデに向けた分岐点などを見せてもら
った。その加速器は、大きさでは世界最大ではないが、出力
エネルギーは最強になるとのことで、すでに粒子を周回させ
る試験には成功して、あとは分岐点以降を構築するだけとい
う状況のようだ。そこには、日立、東芝、NEC/トーキン
などのメーカー名の書かれた電磁コイルが並べられ、まさに
日本の強電業界が結集している感じだった。
 因に、一般的に加速器で行われる実験は、原子核などの中
をさらに細かく観ようというもので、それは時計を壁に打つ
けて分解するようなものだとのこと。で、本来なら時計を分
解するにはネジ回しを使うが、原子核などの粒子を分解でき
るネジ回しは存在しないので、粒子を勢いを付けて固い壁に
打つけ、粉々になったものを拾い集めて研究する。その際、
壁に打つけるエネルギーが強いほど細かく分解できるとのこ
とだった。そのエネルギーを世界最強とする装置が建設され
ているものだ。
 またこの装置は、ニュートリノの出力に関しても世界最強
となり、その内のカミオカンデで検出されるのはごく一部だ
が、射出の状態が判っているものを検出することで、ニュー
トリノの研究が進むことが期待されているそうだ。なおニュ
ートリノの研究に関しては、まだ何の役に立つかも判ってい
ないものだが、その特性などを研究してカタログにしておけ
ば、いつか誰かがその中から自分に必要なものを見つけられ
る。そのためのカタログを作る作業をしている段階と称され
ていた。
 さらに今回の実験では、カミオカンデに当らないニュート
リノも大量に発生するが、その一部は射出口の周囲やカミオ
カンデの周囲や後ろでも付帯の実験が行われるとのこと、そ
の実験できる範囲は朝鮮半島にまで及ぶが、韓国からは射出
データの提供は求められているものの、費用負担については
「勝手に届くのだから」と断られているそうだ。さらにそこ
より遠くは、チベットの山中で検出の可能性はあるが、その
後は宇宙空間に飛び出すとのことで、まさに壮大な実験だ。
 その他に東海村の施設では、国際協力で計画されている世
界最大の加速器の建設に向けた技術研究も行われており、加
速器を形成するパイプの内面を微細に研磨する実験なども見
学した。これには日本とドイツが技術を競っているそうで、
それぞれ所定のレヴェルに達したものを要所ごとに採用する
とのこと。ただし、建設場所には日本も立候補しているが、
ロシアが有力になってきているそうだ。
        *         *
 翌19日は、つくばエクスプレスのつくば駅に集合して筑波
研究学園都市の施設を見学した。
 ここには、以前にカミオカンデに向けた射出実験を行った
全周3kmの加速器があり、現在はBelle実験と呼ばれる2重
逆回転の加速器で素粒子を正面衝突させる実験施設や、直線
型加速器、前段加速器などが、当日は夏期のメンテナンス中
とのことで、その研究施設の一部も含め見学できた。
 その中では、高圧施設の付属する前段加速器が、正に鉄腕
アトムに出てくる実験装置そのもので、その側に天馬博士が
立っていそうな雰囲気のもの。手塚氏が何処でそのイメージ
を得たかは知らないが、最先端の科学施設にノスタルジーを
感じるのも不思議な感覚だった。
 この他、Belle実験施設では、正に粒子が衝突する部分と
その周囲に設けられたセンサーの塊のような設備も見せても
らったが、そのデータを記録するためにソニー製の磁気テー
プを使ったデータ記憶装置が設けられており、大量データの
記憶に今でもテープが用いられていることには驚かされた。
小型ベータカムのテープカセットのようなものが大量に用意
されおり、ここではまだテープも有効なようだった。
 以上のような施設を見学した後に、研究者の方との懇談会
となったが、ここではX線の研究者にX線砲の可能性を質問
して、SFは読まないという真面目そうな研究者の方が立ち
往生するというハプニングもあった。しかし、これに対して
SFファンの研究者の方たちが喧々諤々の論議を始めること
になり、その結論は、実用化は難しいとのことだったが、普
段はそのような論議をすることがタブーなのか、勢い込んで
議論している姿は面白かったものだ。
 その後の帰路は、ゲリラ豪雨でつくばエクスプレスが一時
止まるなどのアクシデントはあったが、概ね楽しい見学旅行
となりました。ご案内をいただいた関係者の皆様に感謝申し
上げます。ありがとうございました。
        *         *
 さてその週末22日−25日には、日本SF大会(DAICON-7)
の会場内で行われるSF作家クラブ総会の出席と、日曜日の
鳥栖での試合の応援を目指して、関西−九州方面に向かうこ
とにした。この旅行は、春先に行った熊本遠征と同じく青春
18切符を使ってのものだ。
 そこでまず、今回の往きのムーンライトながらは23日0時
31分の出発となる小田原からの乗り込みとしたが、ゲリラ豪
雨を心配して少し早めに乗った小田急は定刻で、小田原駅で
は同じ目的の旅行者も数人いて改札も順調、その後の大垣、
米原での乗り継ぎも2度目は慣れたものになった。
 そして大阪での最初の目的地は中之島の大阪市立科学館。
ここには、東洋最初のロボットと言われる「学天則」が復元
展示されている他、オムニマックスが常設されていることか
ら、DAICON-7の行われている岸和田に向かう前に寄ってみる
ことにしたものだ。
 この科学館へのアクセスは大阪市営四つ橋線の肥後橋から
となるが、まずその日の夜に乗る博多行き夜行バスの集合場
所を確認してから西梅田駅に行ってみると、何と1駅なの運
賃200円。でも歩くには時間が足りなかったのと、その後に
岸和田に向かうのにもその駅を利用することから場所確認も
兼ねて乗車したが、都営地下鉄以上の料金には驚かされた。
 その市立科学館で、「学天則」は入り口の直ぐ横に設置さ
れており、時間の都合で動くところは観られなかったが、さ
らにその横にあったルービックキューブを早解きするロボッ
トの動きには感心させられた。また展示室には、昔テレビ番
組のディズニーランドで観た「ネズミ取りとピンポン玉」に
似た連鎖反応の説明装置があって、これも懐かしく感じられ
たものだ。
 そしてオムニマックスのシアターでは、『アルプス〜挑戦
の山〜』(The Alps)という作品を鑑賞した。この作品は、
アイガー北壁の登頂を描いたドキュメンタリーで、包み込ま
れるようなドームスクリーンで大自然の景観を鑑賞するのは
格別の趣があった。ただし、ここでは8月1日付第164回で
予告編を報告した3D映画『シーモンスター』も上映されて
いて、本当はそれも観たかったのだが、事前の調べで上映ス
ケジュールの合わないことが判っていた。ところが現地に来
てみると、この設備では2Dしか上映できないようなので、
それならと諦めもついたものだ。
 その後は地下鉄−JRを乗り継ぎ東岸和田駅に着いたが、
ここで駅前にタクシーがいない。先に着いた人はタクシーに
乗ったということだがそれが出払っていたのか、大通りに出
ても流しもおらず、30分近くをテクテク歩いて会場に向かう
ことになった。そのため総会には遅刻したが、重要議題には
間に合ったようで、大過はなかった。
 その後は夕方の親睦パーティまで会場をぶらぶらしたが、
その中で見せて貰った「手作りプラネタリウムと立体映像」
に感心した。これは、工房ヒゲキタという人が自作で投影星
数6000個というプラネタリウムを作り、さらに自作のエアド
ーム式の設備で上映しているもので、プラネタリウムも見事
なものだったが、さらに赤青のランプを使って立体模型の影
を投影し、赤青の眼鏡で観る立体映像もなかなかで、ドーム
スクリーンでの立体映像の迫力を堪能した。
 実際、自分自身のドームスクリーンでの立体映像体験は、
科学博と花博での富士通館しかないが、実は昼間観たオムニ
マックスでもディジタルの上映設備にすれば、Dolby-Dなど
の方式による立体化が可能と言われている。これを踏まえて
8月1日付で紹介した東急レクリエーションが計画している
IMAXシアターの中で、新規に作られる劇場の内の1館くらい
はドームスクリーンにして欲しくなったものだ。集客力など
未知数ではあろうが、実現すれば話題になることは間違いな
い。ぜひともやってもらいたいものだ。
 後は、昨年のワールドコンでも見物したペリー・ローダン
の部屋などを覗いて時間を過ごし、親睦パーティでは乾杯の
発声を担当し、22時大阪駅出発のバスに間に合わせるため、
20時過ぎに会場を後にした。
        *         *
 今回の旅行では、熊本遠征の際に利用した大阪−九州間の
夜行快速ムーンライト九州が1週間前に終了しており、やむ
なくこの間は夜行バスを利用した。
 夜行バスは初めてだが、試写室などで窮屈な座席は慣れて
いるつもりなので、往復には4列スタンダードの路線を利用
した。しかし、往きは乗客もまばらで気楽だったが、満席の
帰りは、平気で座席を倒す者がいてかなり往生した。3列仕
様のバスならいざ知らず、スタンダードの仕様ではもう少し
譲り合いを…今の人は考えないのかな。前列の乗客はそこそ
この年齢にも見えたが。
 その往きのバスは小倉で下車して、ここからは青春18切符
の出番となる。そこでまず下関に戻ることにした。これは熊
本遠征の時に食べ損ねた「ふぐ弁当」を期待したものだが、
残念ながら販売期間は10月−3月のみで今の時期は売ってお
らず、替りに地元の金子みすヾの詩が添えられて、小河豚唐
揚げや鯨竜田揚げの入った「みすヾ潮彩弁当」というものを
食した。味はまあ良かった。しかし「ふぐ弁当」にはまた挑
戦したいものだ。
 その後は、博多で帰りのバスの集合場所を確認し、吉野ヶ
里公園駅に向かった。ここは鳥栖から長崎本線に乗り換えて
3駅目で、近くには言わずと知れた吉野ヶ里遺跡がある。
 その遺跡は駅から700mほどのところにあって、炎天下の
田園地帯を歩くのはかなりの暑さだったが、湿度も低く意外
と爽やかだった。そして辿り着いた公園は、広大な発掘跡地
に何棟もの建物が復元されて何れも入ることが出来、中には
高見櫓のようなものもあって、そこに登るとなかなか壮大な
眺めだった。
 これらの建物は、特に絵が残されていたようなものではな
いが、出土した当時の工具などから推察して、当時あったで
あろう工法に従って建設されたとのこと。「その姿はあくま
でも想像です」と案内の人は強調していたが、実は全体の風
景が手塚氏の「火の鳥」の古代編にそっくりで、これもまた
何となくノスタルジー。1週間の内に未来と過去の手塚さん
のイメージに出会えたのも不思議な感じがした。
 この他、かなりの規模の集団墓所も発掘当時のままに再現
されていたが、解説によると発掘されたのはすべて男性の骨
で、卑弥呼を予想させる女性の埋葬はなかったそうだ。とこ
ろが、墓所を出てみるとその直ぐ脇に鳥居があってその奥に
は神社があるとのこと。その神社の敷地は私有地のため現在
は発掘ができないそうで、そこに一体何があるのか、想像が
膨らむ風景だった。
 何れにしてもこの公園は、古代のロマンを見事に感じさせ
てくれる場所になっており、展示館や古代の生活を体験する
コーナーなどもあって、なかなか充実しているように感じら
れた。
 次は「吉野ヶ里温泉・卑弥呼乃湯」。春の熊本遠征では、
大阪と門司のスーパー銭湯に寄れたが、今回はここだけ。実
は岸和田では会場の近くにスパがあったが、時間の都合で行
けなかった。
 と言うことで今回の唯一の入浴だが、これが駅から歩いて
20分ほど。遺跡は駅の反対側でそこからは30分ほども歩いた
が、前にも書いたように湿度が低いせいか、意外と楽に行け
た。でもせめて駅から、できたら遺跡と駅を巡回するような
送迎バスが欲しいところだ。地元客相手では自家用車も多い
のかも知れないが、食堂でアルコールも出すなら、そのくら
いはした方が集客も上がるように思えた。
 浴場は、日曜昼間だったが混みすぎもせず、がらがらでも
なく、快適に入浴できた。ただし、外の靴箱の鍵は100円硬
貨が返却されるが、中の衣類のロッカーは10円を取られてし
まうもので、洗面具の出し入れなどの度に10円掛かるのは解
せない思いだった。
 入浴後は、路線バスを待たずに駅まで徒歩で戻ったが、そ
の駅入り口直前でバスに追い抜かれ、路線バスの運行は案外
定刻通りだったようだ。そして駅では応援しているチームの
サポーターのご夫婦とも一緒になって、楽しく鳥栖スタジア
ム(ベアスタ)に向かった。
 ベアスタはJR鳥栖駅の目の前にあって、アクセス抜群の
サッカー専用スタジアム。アウェー席の入り口は何処も同じ
裏側になるが、仙台スタジアムほどには周囲を回ることもな
く、簡単に辿り着けた。そして場内は、風通しも良く、この
日の観戦は快適そのものだった。試合が勝てたのも好印象と
いうところだ。因に、仙スタでは一つ手前の駅から歩いても
アウェー入り口までの距離はあまり変わらないようだ。
 試合後はJRで博多駅に戻り、駅前で博多ラーメンを食べ
てバスの出発時間を待った。帰路のバスは上記の通り散々な
目に遭ったが、きつい状況でも寝られる性分なので、何とか
はなった。ただエコノミー症候群は多少心配で、前の座席を
こづきながら体勢は変える努力をしたものだ。因に僕の席は
最後尾なので、座席をあまり倒すことができなかった。
        *         *
 最終日の25日は、三ノ宮駅で下車して、ここからのんびり
ローカル線の旅とした。ただし、前回は早い帰宅を最前提と
したが、今回は帰宅時間を1時間ほど遅らせて、乗り換え回
数を2回減らすことができ、しかも始発の乗り継ぎでさらに
気楽な行程となった。
 また、それぞれの駅での待ち時間も少しずつ長くしてのん
びりできたが、期待した駅弁は、新幹線併設駅のローカル線
構内では売っていないようで、旅の風情も失われていること
を痛感させられた。新幹線の客には便宜があるが、ローカル
線では要望も少ないのだろうか。
 ということで今回は、小田原、小倉、三ノ宮で入鋏スタン
プを押してもらう旅となったが、最後に丹那トンネルを抜け
る辺りから前日の豪雨の影響で快速電車などがなくなり、多
少予定より遅れる帰宅となった。しかもこの間の車内の電光
掲示板に表示される運行状況の説明などがおざなりで、乗り
継ぎをどうすればいいか不明なのは不満に感じたところだ。
 それから、青春18切符の残り2回分は、8月16日に家内と
2人で鹿島スタジアムに行くことで消化していた。この日は
都営地下鉄のワンデーパスも出ていたので、馬喰町での乗り
換えで往復する計画だったが、この行程は18時30分のキック
オフでもかなりきついことが判った。
 しかもこの日は、集中豪雨で帰路の成田線が不通となり、
佐原駅から代行タクシーに乗ることになった。この代行タク
シーは持っている乗車券の下車駅まで送ってくれるというも
のだが、我々の場合は青春18切符なので、事実上JRの駅が
あるところなら何処まででもOKだったようだ。従って馬喰
町ではなく中野駅ということにして、その手前の自宅の近所
まで送ってもらえた。その運賃は高速代も含めて約4万円、
全額JR持ちでかなり貴重な体験をさせてもらったものだ。
 なお、代行タクシーは4人相乗りで行われるもので、運行
が決まったら早目に同方面に向かう同乗者を集めることが肝
要なようだ。
 以上、夏休みの旅について報告させてもらいました。種々
雑多なことを書きましたが、これからの旅の参考にでもなれ
ば幸いです。



2008年09月07日(日) 釣りバカ日誌19、ザ・フー:アメイジング・ジャーニー、中華学校の子どもたち、秋深き、DISCO、懺悔、パリ

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※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介しています。     ※
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『釣りバカ日誌19』
1988年にスタートした西田敏行、三国連太郎共演シリーズの
最新作。やまさき十三原作、北見けんいち画による連載コミ
ックスの映画化。
通し番号は『19』と振られているが、作品リストを見ると
番外編が2本あって、シリーズは21作目となるようだ。これ
は全48作を数える『男はつらいよ』には遠く及ばないが、現
在もレギュラーで製作されているということでは、それぞれ
28作の『ゴジラ』『座頭市』(『ICHI』を含む)を抜く可能
性はありそうだ。
という作品だが、実はスクリーンで見るのは今回が初めて、
以前に社員旅行のバスの中でヴィデオを観た記憶はあるが、
今までに試写状を貰ったこともなく、自分には無縁の作品と
思っていた。しかし今回は、折角初めて試写状を貰ったこと
でもあり、松竹の試写室に足を運んでみたものだ。
で、感想はというと、見事にプログラムピクチャーという感
じの作品で、勤務先のセキュリティー強化など、ごく在来り
の現代描写を除いては、恐らく半世紀以上前からあるであろ
う身分の違う恋物語が展開される。
とは言うものの、この恋物語は極めてあっさりと片づけられ
てしまうのは現代的で、後の物語の本筋は、今回のロケ地で
ある大分県での海釣りの様子や、結婚式のスピーチを頼まれ
た主人公のすったもんだなどが描かれる。
基本の設定が、主人公は大の愛妻家で他の女には目もくれな
いということになっているらしく、女関係を本筋に持ち込め
ないのはドラマ作りをかなり制約しているとも感じるが、そ
の分、釣りや観光の旅行気分を満喫させてくれるのが、本作
の目的なのだろう。
共演は、浅田美代子。他に、常盤貴子、山本太郎、竹内力の
3人が今回のゲストだと思うが、実は初めて観る僕には、ゲ
ストかレギュラーか判らないのは気になった。
なおエピローグでは、次回作にちょっと波乱の起きそうな展
開があって、それが実現したらそれはそれでまた面白くなり
そうだ。ただし、1年後にまた試写状を貰えるかどうかは判
らないところだが。

『ザ・フー:アメイジング・ジャーニー』
       “Amazing Journey: The Story of The Who”
ケン・ラッセルが1975年に監督したロックミュージカル映画
『トミー』の原作アルバムなどで知られるロックバンドThe
Whoの歴史を追ったドキュメンタリー。
映画版の『トミー』は好きな作品の1本だが、僕にとっての
The Whoのイメージは、それ以外にはあまりない。イギリス
のロックバンドで、最近、元メムバーの1人だったキース・
ムーンを題材にした映画の製作が進められているといった情
報を持っている程度だ。
だからこのドキュメンタリーを観て、その歴史というか、バ
ンドを作っていく上での苦悩のようなものを見せられると、
物凄いことを成し遂げた彼らに対する尊敬のようなものも感
じさせてもらえた。多分ファンの人にも、そんなことを再確
認させてくれる作品だ。
リードヴォーカルのロジャー・ダルトリーは、元々は町の不
良だったそうだが、ある日、音楽に目覚めたロジャーはバン
ドを結成。そこに参加したのがベース奏者のジョン・エント
ウィッスルで、さらにその友達でリードギターのピート・タ
ウンゼントも加入する。
こうして基礎の作られたThe Whoには、さらにキース・ムー
ン(ドラムス)が加入することでその姿が完成する。そして
最初は別のバンド名でデビューするが、すぐにThe Whoに戻
して、人気を得て行くことになる。
その曲は、ほとんどがピートの創作で、他にはジョン、キー
スの作品もあるが、リーダーのロジャーはほぼ歌唱に専念し
て曲作りはしていないそうだ。またジョンのベースとキース
のドラムスの独自性は、The Whoの特徴とも言われる。
従ってThe Whoは、3人の天才と1人の歌手で成立したとも
言われるようだが、このためリーダーでもあるロジャーと他
の3人、特にピートとの間にはいろいろな確執が生まれるこ
とになる。それは、特にロジャーだけがドラッグを拒否した
ことにも拠るようだ。
それでも、『トミー』の大ヒットなどでシンガーとしての地
位も確立して行くロジャーだっが、そんな中で1978年にキー
スがドラッグの過剰摂取と思われる状態で死去。1982年には
The Who解散へと事態は進展して行く。
ところが、The Who時代からの浪費癖が収まらないジョンが
破産などを繰り返し、見兼ねたロジャーとピートがその救済
目的で復活コンサートなどを開く。しかしジョンは立ち直ら
ず、2002年にラスヴェガスのホテルで死亡。
その後は、確執も消えたロジャーとジョンを中心にThe Who
は復活し、今年は世界ツアーの中、日本公演も予定されてい
るようだ。
と、まあ何とも壮絶なバンドの歴史が、かなり初期から記録
されているライヴ映像や、その時々のマネージャー、さらに
スティングら、The Whoに影響を受けたと公言するミュージ
シャンたちの証言も交えて、2時間たっぷりと魅せてくれる
作品だ。
監督は、『毛沢東からモーツァルトへ』で1980年のオスカー
を受賞したマーレイ・ラーナーと、2005年11月紹介した『ロ
ード・オブ・ドッグタウン』の基になったドキュメンタリー
“Dogtown & Z-BOYS”のポール・クロウダー。2人の共同で
強力な作品が作られている。

『中華学校の子どもたち』
横浜中華街に在る台湾系の横濱中華學院と、その山手の丘に
在る大陸系の横浜山手中華学校。この内の山手中華学校を中
心に、現代華僑の子供たちを描いたドキュメンタリー。
中華学校は、孫文の思想に基づいて世界中に進出した華僑の
子供たちが中国文化を継承することを目的に設立されたもの
で、日本の学校でも春節の獅子舞など中国独特の文化を伝え
る場となっている。
そんな文化継承の場として設立された学校だが、1949年の中
華人民共和国成立の際には台湾系と大陸系が対立し、1952年
に台湾系による横濱中華學院の封鎖、臨時教室による山手学
校の開校などが起きている。
その対立も今では両陣営の歩み寄りなども在るようだが、依
然として横浜には2つの中華学校が存在しているものだ。
というような内容を描いた作品だが、監督したのは岡山県出
身の日本人だが北京電影学院導演系に学んだという人で、そ
の視点はどちらかというと大陸系に寄っているようにも感じ
られた。
まあ、この種の題材で完全に公平というのはなかなか難しい
とは思うが、特に学校封鎖時の日本官憲の介入を繰り返し述
べる辺りは、多少奇異にも感じられたものだ。
因に撮影は、山手学校の全面協力の下で行われているが、エ
ンドクレジットでは「感謝」として横濱中華學院の名前も挙
がっており、取材は両校に行われているようだ。後は監督の
考えということだろう。
そしてその歴史以外では、主に子供たちの郊外学習などが描
かれているものだが、これが何というか通り一遍な感じで、
その辺の落差も気になった。実際この子供たちを写した映像
は、学校のPR映画を観ているような感じで、作品の全体的
な印象もそれに近い。
学校のPRが目的ならこれでも良いかも知れないが、華僑で
ない日本人を観客とするなら、もっと違う部分も見せて欲し
かった。特に監督自身が北京在学中に感じたと言う反日の部
分も見たかったし、それがなかったのなら、その無いという
事実も踏まえたものを描いて欲しかったところだ。

『秋深き』
「夫婦善哉」などの織田作之助による1942年作品「秋深き」
と1946年作品「競馬」を原作とする映画化。純朴な高校教師
がホステスに恋をし、ホステスも彼の純朴さに曳かれて結婚
するが…
原作は読んでいないが、何時の世にもこういう物語はあると
言うことだろう。物語に織り込まれる霊感商法や怪しげな民
間療法が原作にあるのかどうかも知らないが、この種の物語
なら何か別のものであれ、あってもおかしくはないものだ。
だから物語は予想通りというか、他にもいろいろな作品があ
ったように進む。ただしそこに、霊感商法や民間療法のよう
なものが現代を反映しているようにも思えるし、古来から不
変の純愛物語が現代に蘇っている…そんな感じの作品だ。
実際、ハリウッドでは今でもこんな風な純愛物語が連綿と作
られているが、最近の日本映画は何か今に振り回されている
ような作品も多い中で、この作品は現代性を適度に取り入れ
て、丁寧に純愛物語を撮っていると言えるかも知れない。
ただそれが現代の観客に受け入れられるか否かだが、本作は
そこに八嶋智人、佐藤江梨子という多分人気者の主演を置く
ことでアピール度が上がればいいというところだろう。他に
赤井秀和、佐藤浩市らが共演。
監督は、最近では東宝テレビ特撮なども撮っているという池
田敏春。日活ロマンポルノの出身で、本作でも佐藤の撮り方
にその片鱗は見せるが、全体的にはストレートな人間ドラマ
に仕上げている。
主演の2人は、正直に言って八嶋は普段のテレビのイメージ
のままだが、佐藤は『キューティーハニー』のようなコケテ
ィッシュさに加えて、大人っぽい美しさもあり、特に上背の
大きさが小柄な八嶋と対照的にうまく表現されていた。
ただまあ、霊感商法や民間療法、それにギャンブルなどが全
く否定されずに描かれているのは気になったところで、原作
の時代は知らず現代では、小説では許されても、一般大衆を
相手にする映画の表現として良いかどうか。
自殺の表現も含めて、藁をも掴もうという人たちが何をして
しまうかは、ちょっと考えて欲しいところだ。


『DISCO』“Disco”
フランスで大人気のコメディアン=フランク・ディボスク脚
本、主演による作品。巻頭では「Sunny〜」という歌声が流
れ始めて、正しくディスコ映画が始まるという感じにさせて
くれる。
物語の舞台はフランスの湊町。主人公のディディエは、昔は
地元のディスコで人気のダンスグループ=ビー・キングとし
て鳴らしたアマチュアダンサーだった。
しかしその想い出を忘れられないのか、いまだに浮き草のよ
うな生活で、イギリス人だった妻は1人息子を連れて母国に
帰国してしまっている。そしてその妻から送られてきた息子
との面会を断る英語の手紙も、母親に通訳して貰わなくては
ならないような為体だ。
そんな彼に夢が生まれる。それはジェラール・ドパルデュー
扮するディスコのオーナーが企画したダンス大会で、それに
優勝するとペアのオーストラリア旅行が副賞として与えられ
るというもの。それがあれば、ヴァカンスを息子と過ごすこ
とができるのだ。
そこで昔の仲間を掻き集め、ダンス大会への挑戦を考える主
人公だったが、総勢3人の仲間の1人は妻子持ちの上に勤務
先の昇進試験を控えて、とてもそれどころではない。そして
もう1人は、港湾労働者の争議リーダーでこれもなかなか時
間が取れなかった。
それでも何とか息子のためにと約束を取り付けた主人公だっ
たが…。これにエマニュエル・べアール扮するアメリカ帰り
のバレーのインストラクタらが絡んで、トーナメント形式の
ディスコダンス大会が開幕する。
主人公は、プリントの剥げ掛かったビージーズのTシャツを
着て、自らトラヴォルタと名告るなど、正に『サタデー・ナ
イト・フィーバー』なのだが、正直に言ってそのダンスは、
ノスタルジーを除けばあまり冴えたものではない。
そこにバレーダンスの表現を取り入れるなど、いろいろ考え
るという展開はあるが、それが映像で功を奏しているとも思
えない。だから、元々が主人公にペア旅行を与えるための出
来レースとでも考えれば辻褄は合うが…多少その辺は厳しい
展開だった。

でもまあ、中年男性に夢を与える点がフランスでは受けたの
かな? そんな感じで中年過ぎには、流れるディスコ音楽へ
の懐かしさもあり、それなりに楽しめる作品と言えそうだ。

『懺悔』“მონანიება”
1987年のカンヌ映画祭に出品され、審査員特別賞を受賞した
グルジア(ソ連)映画。ソ連崩壊の直前にその歴史の暗部を
描き出したとして、当時の絶賛を浴びた作品。物語は1937年
のスターリンの粛清に準えているもので、そのスターリンは
グルジア出身者なのだそうだ。
映画は、とある町の市長が亡くなったところから始まる。そ
して軍服姿の参列者や中央からの弔問者などに囲まれて盛大
な葬儀が行われるが、埋葬も終った日の深夜、市長の息子は
父親の遺体が庭に立っているのを発見する。
その遺体は何度埋葬しても庭に戻され、ついには警察の警備
のもと犯人が捕えられるが…その裁判の席で、犯人は亡くな
った市長に対する告発を始める。それは人々に理不尽な仕打
ちをした市長に対する復讐だった。そしてその恐怖の実態が
描かれる。
映画にはかなり戯画化された部分とシリアスな部分とが綯い
交ぜになっているが、この作品が製作から数年後とはいえ国
内で公開できたことがソ連終焉の象徴ともなったし、その歴
史的な価値は疑いのないものだ。
しかしそれを20年も経って観せられると、何か違和感を感じ
てしまう。確かに20年前にはソ連の終焉がこの作品によって
象徴されたが、この作品が観られたことで人々が感じたであ
ろう希望の未来が、果たして実現したものか否か。
それを含めて、何をいまさらと言う感じもしてくるものだ。
実際この作品がなぜ20年間も我々の目に届かなかったのかと
言うことにも疑問を感じるし、それがなぜ今年公開されるの
かと言う点にも何かの意図を感じさせる。
特に、ロシア軍のグルジア侵攻が報道された今の時期の公開
には、皮肉という以上のものを感じさせる。なお20年前に日
本公開できなかったのは、アメリカの配給会社が全世界の権
利を独占したためとされているが、それが20年間も失効しな
かったのだろうか。
因に映画は、アメリカンヴィスタでもない純粋3:4のスタ
ンダードで撮影されている。実はIMaxもこの比率だが、テレ
ビも9:16になっている時代に普通のスクリーンで観ると妙
に縦長に感じるものだ。映画ファンにはそんな歴史的価値も
感じられた。

『パリ』“Paris”
『スパニッシュ・アパートメント』『ロシアン・ドールズ』
などのセドリック・クラピッシュ監督が、故郷のパリに戻っ
て撮影した作品。監督は本作の中で、登場人物の1人に「誰
もが不満だらけの街」と言わせているが、そんなパリを愛情
を込めて描いた作品だ。
主人公のピエールは、ムーラン・ルージュのダンサーだった
が、心臓病で余命わずかと診断される。そんな彼が、心臓移
植のドナーを待つ間の楽しみは自宅のベランダからパリの街
を眺めること。そこにはいろいろな人生が行き交っている。
そんなピエールの生活を案じて、3人の子持ちでシングルマ
ザーの姉のエリーズが、一家を連れて彼と同居を始めること
にする。そして、近くの市場(マルシェ)に買い物に行った
エリーズは、そこに店を構えるジャンに心を引かれる。
そのジャンは、別れた元妻のカロリーヌに未練があったが、
カロリーヌは同じマルシェに店を構えるジャンの同僚と良い
仲になっている。
一方、ソルボンヌの歴史学の教授ロランは、テレビでパリの
歴史シリーズを持つほどの人気者だったが、ある日、教室で
彼の授業を受ける女子学生レティシアに恋心を抱く。そして
年甲斐もなく彼女の携帯にメールを打ってしまった彼は…
そのレティシアは、ピエールのベランダから見えるアパルト
マンに住んでいたが…
その他、カメルーンにバカンスに来たマルジョレーヌと、そ
のカメルーンからパリに住む兄を頼ってフランスへの危険な
密入国を試みる少年ブノアなど、一見接点のなさそうな人々
の人生が巧みに交錯して物語が綴られて行く。
監督の作品は、かなり以前の『猫が行方不明』と『ロシアン
・ドールズ』しか観ていないが、いずれも現代の若者の姿を
感性豊かに描いていた。特に『スパニッシュ…』の続編でも
ある『ロシアン…』では、少し年を取ってしまった若者たち
が見事に描かれていた。
そして本作では、若者とは呼べない人たちも含めていろいろ
な世代の人たちの姿が、素晴らしい愛情を込めて描かれてい
る。それは、パリという街への愛情と重なって見事なハーモ
ニーを見せるものだ。
2006年12月に紹介した『パリ、ジュテーム』も素敵なパリを
見せてくれたが、本作でも、パレ・ロワイアル公園、ソルボ
ンヌ大学、カタコンベ、ペールラシェーズ墓地、ロザン邸な
どなど、パリ観光も楽しめる作品になっている。



2008年09月01日(月) 第166回

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
※このページは、SF/ファンタシー系の作品を中心に、※
※僕が気になった映画の情報を掲載しています。    ※
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
 今回は、本当はもっと早くに紹介するはずだったこの話題
から。
 ソニーに本拠を置いて、ワーナーの『アイ・アム・レジェ
ンド』なども手掛けるプロデューサーのニール・H・モリッ
ツが、“The Boys”と題されたコミックスの権利を獲得し、
コロムビアで映画化することを発表した。
 物語は、CIAの所属でThe Boysと呼ばれる捜査班の活動
を追うもの。彼らの任務は、現代に出現した数多のスーパー
ヒーローの動静を監視することで、彼らが人類の役に立つか
否かを判定して最終処分を下すのだ。そんな彼らの活動が、
主には2人の捜査官の目を通して語られるとのことだ。
 原作は、『コンスタンティン』などのストーリーライター
のガース・エニスが手掛けているもので、かなり捻ったスー
パーヒーローものと言えそうだが、実は当初DCコミックス
傘下での出版が始まったものの、アンチヒーローものはDC
社の方針に合わないとして第6巻の発行時点でキャンセルさ
れてしまった。しかし、原作者らはそれに納得せず、現在は
新興の会社が引き継いで、全60巻の計画の内の20巻程度が出
版されたところのようだ。
 つまり、原作はまだ全体の3分の1程度しか発表されてお
らず、今後の展開も不明の物語だが、そこを敢えて映画化に
踏み切るというものだ。まあ、内容的にはユニヴァーサルの
“Wanted”に似たところもあって、その作品が大ヒットをし
ているところでの計画進行という面もありそうだ。ただし、
本作の映画化の情報は、最初は今年の2月頃に登場したもの
で、そのときは他のニュースに紛れてしまったが、今回はさ
らに映画用の脚色を行う脚本家の契約が発表されている。
 その脚色に選ばれたのは、『イーオン・フラックス』など
を手掛けたフィル・ヘイとマット・マンフレディのコンビ。
実は前作の興行が思い通りではなかった脚本家の選択には危
惧の声もあるようだが、前作は撮影中のアクシデントなどで
脚本が機能しなかった面もあり、今回は巻き返しを図っても
らいたいものだ。その他に彼らは2002年ジャッキー・チェン
主演の『タキシード』なども手掛けており、純粋にアクショ
ン中心の作品なら期待は持てそうだし、モリッツの製作なら
その可能性は高い。
 また、本作の主人公の1人はスコットランド系ということ
で、原作コミックスが新会社に移って最初の6巻が再刊され
たときには、『ホット・ファズ』などのサイモン・ペグがそ
の巻頭言を寄稿している。ペグ自身もスコットランド系で、
その点の思い入れはありそう(原作の絵も似ているそうだ)
だが、果たして映画化に彼の主演はあるか、もし実現したら
それも話題になりそうだ。
 なお計画は、脚本が完成し次第、監督の選考が開始される
もので、製作は来年前半となりそうだ。
        *         *
 お次は、上の作品をキャンセルしたDCコミックスからの
映画化の情報で、サム・ライミとトム・クルーズというちょ
っと変わった顔合せの計画が発表されている。
 作品の題名は“Sleeper”。2003−05年にDC傘下のワイ
ルドストームから出版されたシリーズで、主人公は痛みに無
感覚でさらにその受けた痛みを肌の触れた他人に転嫁できる
という特殊能力を持った男。その主人公が、潜入捜査官とな
って超悪人たちの犯罪組織に加わるが、そこで組織の女と恋
に落ちるという展開だそうだ。
 オリジナルは、2001年の“Catwoman”の再開やマーヴェル
では“X-Men”のスピンオフなども手掛けているエド・ブル
ベイカーと、イギリス出身画家のショーン・フィリップス。
この2人は、新作の“Criminal”というシリーズで2007年の
アイズナー賞を受賞したコンビとのことだ。
 そして今回の計画は、この映画化をライミのプロデュース
で進めるもので、シリーズ化の可能性も高いその作品にクル
ーズの主演が見込まれている。
 因に、『スパイダーマン』でお馴染のライミは、コロムビ
アと専属契約を結んでいる訳ではないようだが、優先的には
仕事をすることになっている。しかし今回は、直接監督する
ものではなく、プロデューサーという肩書きなので問題はな
い。一方のクルーズは、先にポーラ・ワグナーがUAの社長
を退くと発表した後も、ソニー傘下の同社との関係は保つと
発表しているものだが、この夏にはドリームワークス製作の
“Tropic Thunder”に出演するなど、制約はないようだ。
 とは言うものの、ジャンル映画専門のライミ作品にクルー
ズの主演というのはあまり考えていなかった顔合せで、そこ
から何が生まれてくるか楽しみだ。
        *         *
 DCコミックスの話題のついでに、2大ヒーローの続編の
情報をまとめて紹介しておこう。
 まずは、『ダーク・ナイト』が記録破りのヒットとなった
“Batman”の続きについては、ジョニー・デップのリドラー
(ナゾラー)やアンジェリーナ・ジョリーのキャットウーマ
ン、フィリップ・シーモア・ホフマンのペンギンなど噂はい
ろいろあるようだが、いずれにしてもその構想は、クリスト
ファー・ノーラン監督の頭の中に隠されているもので、その
監督は作品のプロモーションの後はヴァカンスに出かけたま
ま行き先は判らないそうだ。多分、アーロン・エッカートの
トゥーフェイスは登場するのだろうが、全ては監督の帰還を
待つしかない。
 しかも監督には、2002年2月1日付の第8回などで報告し
た“Hughes: The Private Diaries, Memos and Letters”の
計画も進行しており、前回テレビ化の情報を紹介した“The
Prisoner”の映画化の計画もまだ残っているようで、『バッ
トマン・ビギンズ』の後に『プレステージ』を撮っているよ
うに、これらの作品を1本撮る可能性は高い。それがどうな
るかもノーランの帰還を待ってからだ。
 一方、“Superman: Man of Steel”に関しては、ブライア
ン・シンガー監督がまだ関わっていることは確認されている
ものだが、何度も点いたり消えたりしている計画に、また開
始の芽が出てきているようだ。
 ただし、シンガーが以前に用意した物語にはワーナー側が
満足していないようで、新しい物語が提示されるか、監督を
替えることになるかという段階だとされている。しかしワー
ナーとしてはシンガー監督で進めることは重要とも考えてい
るようで、後はシンガーの決断ということにもなるようだ。
 つまり、ワーナーとしては、『ダーク・ナイト』の成功を
引き継ぐような作品が欲しいが、シンガーの構想はそうでは
ないということのようで、元々リチャード・ドナー監督の路
線を継ごうとするシンガーとは対立も厳しそうだ。もちろん
異星人のSupermanと人間のBatmanとでは、キャラクターの背
景から異なるものだが、そこをどのように擦り合わせるか、
シンガー以外の監督になってもそれは難しいところだろう。
 いっそのこと、ティム・バートン監督、ニコラス・ケイジ
主演の計画を復活させたほうが早いような気もするが…
        *         *
 もう1本、DC以外のコミックスの映画化の情報で、ジェ
リー・カー&アラン・グロス原作による“Cryptozoo Crew”
というシリーズの映画化権を、前々回にも別の計画を紹介し
ているワーナー傘下のアルコン・エンターテインメントが獲
得したと発表した。
 物語は、題名の通りcrypt=神秘的な生物を保護する活動
を行う秘密組織の活動を描くもので、美人獣医を中心とした
チームが、イェティやネッシーを初めとする、山奥の寺院や
ジャングルの奥地で発見された神秘生物が悪の手に落ちるこ
とがないように保護する活躍が描かれる。因に、今回の報道
で原作はグラフィックノヴェルとされているものだが、イン
ターネットを検索するとハナ=バーベラのカートゥーンのよ
うな絵柄が出てきて、コミックスに近い感じがした。
 そしてこの映画化の脚色に、ジョン・カーペンター監督が
ニコラス・ケイジ主演で計画している“Scared Straight”
のオリジナル脚本を手掛けたジョー・ガザムの起用が発表さ
れている。因にこの脚本家は、今年5月15日付の第159回で
紹介した“21 Jump Street”にも関わっているようだが、ま
だ新人で過去に実現している作品はないようだ。
 ということで、今回の作品の実現までには、まだ曲折があ
るかもしれないが、差し当たってアルコンはワーナー傘下の
ファミリーピクチャー専門の会社という位置づけで、2005年
の『レイシング・ストライプス』などCGIを使った作品の
実績もあるから、本作に登場する神秘生物は問題なく描かれ
そうだ。楽しい作品を期待したい。
        *         *
 コミックスの話題はこれくらいにして、次はSF名作の映
画化の話題を紹介しよう。
 ロバート・A・ハインラインの原作で、日本では「ジョナ
サン・ホーグ氏の不愉快な職業」の題名で翻訳のある“The
Unpleasant Profession of Jonathan Hoag”を、『アイ・ロ
ボット』などのアレックス・プロイアス脚本、監督で映画化
する計画がフェニックス・ピクチャーズから発表された。
 原作は、ハヤカワ文庫の「ハインライン傑作集2−輪廻の
蛇」と題された短編集に納められているものだが、この作品
だけで200ページを超える中編と言っていい作品。内容は、
探偵事務所を訪れたホーグ氏が自らの尾行という奇妙な依頼
をし、その依頼を引き受けた私立探偵夫婦が奇妙な事態に巻
き込まれる…というもの。初出は1942年ということで、ハイ
ンラインの原作では比較的初期の作品のようだ。
 上記の内容紹介を読むと、何やらフィリップ・K・ディッ
クの原作を思わせるようなお話だが、さらにこれにプロイア
スの脚本、監督では相当の作品ができそうだ。なおプロイア
スは、現在は2005年3月1日付の第82回などで紹介したSF
スリラーの“Knowing”を製作中だが、それを後数週間で完
了させた後、本作に取り掛かるとしている。
因に、ハインライン原作の映画化というと、最近では『ス
ターシップ・トゥルーパーズ』が、アメリカではDVD直売
とはいえ第3作まで作られているものだが、その他に“Have
Space-suit, Will Travell”(スター・ファイター)はワー
ナーが権利を保有して、『ファインディング・ニモ』などの
デイヴィッド・レイノルズが脚色を担当。また以前はヒッピ
ーの聖典などとも呼ばれた“Stranger in A Strange Land”
(異星の客)はパラマウントが権利を保有して、『アイ・ア
ム・レジェンド』などのマーク・プロトセヴィッチが脚色を
担当しているようだ。
 そしてもう1本、2003年4月15日付の第37回などで紹介し
た“The Moon is a Harsh Mistress”(月は無慈悲な夜の女
王)は、『ハリー・ポッター』シリーズのデイヴィッド・ヘ
イマンと、『ゾディアック』などのマイク・メダヴォイの共
同製作で進められているが、この作品にはティム・マイニア
という脚本家の起用が発表されている。この脚本家は、イン
ディーズの出身のようだが、ロバート・デニーロ製作で進め
られている“Artemis Fowl”の脚色にも起用されており、ち
ょっと期待が持てそうだ。
        *         *
 ここからはリメイクと続編の情報をいくつか紹介しよう。
 その1本目は、1982年公開の“Poltergeist”(ポルター
ガイスト)のリメイクが、上記の“Knowing”も担当してい
るスタイルズ・ホワイトとジュリエット・スノードンの脚本
で進められることになった。
 幼い少女が深夜の放送の終ったテレビ画面をじっと見詰め
ている…という無気味な映像で話題となったオリジナルは、
元々がスティーヴン・スピルバーグの原案に拠ったもので、
同じ年度に製作された『E.T.』の真裏の作品を目指したと
された。そして監督には、1974年の“The Texas Chain Saw
Massacre”(悪魔のいけにえ)などのトビー・フーパーが起
用されたことでも話題になったものだ。
 そしてこのオリジナルからは、1986年と88年に続編も製作
されたが、実は第1作の公開直後に、ポルターガイストに襲
われる一家の長女役を演じたドミニク・ダンが男友達に殺害
されるという事件が起き、さらに第3作の完成後には、幼い
少女を演じて3作に連続出演したヘザー・オルークも急死す
るという事態が発生して、以後は続編も作られないまま20年
が経過したものだ。因に、1996−99年の3シーズンに渡って
“Poltergeist: The Legacy”と題されたテレビシリーズも
あるが、オリジナルの一家が登場するものではない。
 という作品に今回は再挑戦をするものだが、ホワイト、ス
ノードンの脚本家コンビは、先に公開された『ブギーマン』
では2006年5月14日付で紹介したように、なかなか丁寧な仕
事をしていたもので、彼らの脚本には期待が持てそうだ。ま
た脚本家の2人は、2006年7月15日付の第115回で紹介した
“The Birde”のリメイクにも参加しており、その他にも、
2003年3月2日付で作品紹介した韓国製ホラー『ボイス』の
ハリウッドリメイクの脚本も担当しているなど、ホラー映画
のリメイクではシェアを高めているようだ。
        *         *
 お次は、2000年の『ピッチブラック』で誕生したヴィン・
ディーゼル主演リディック・シリーズで、2004年の第2作に
続く計画が報告されている。
 このシリーズは、元々はケン&ジム・ウィートの脚本家コ
ンビが創作したオリジナル脚本から、1997年『G.I.ジェー
ン』などの脚本を手掛けたデイヴィッド・トウィーの脚本、
監督で映画化されたもので、翌年『ワイルド・スピード』で
ブレイクするディーゼルの切っ掛けの作品とも言える。そし
てその第2作の『リディック』は、『ワイルド・スピード』
『トリプルX』の続編を断ったディーゼルが敢えて出演した
もので、まさに待望の作品だった。
 ところがこの続編の興行成績は、全世界で1億1580万ドル
を記録したものの、製作費が1億500万ドルにも達していた
もので、その差額の儲けではそれ以上のシリーズ展開は躊躇
せざるを得ず、このまま消えてしまうかとも思われていた。
しかし役柄に惚れ込んでいるディーゼルがこのままで済ます
はずはなく、またトウィーもさらに壮大な構想を持って新た
な展開を目指すとしているものだ。
 そして今回の報道は、ディーゼルがアメリカMTVに登場
して述べたというもので、それによると、「トウィーは現在
2本の脚本を執筆している。問題はそれを同時に製作するか
どうかで、3本を同時製作した『LOTR』のような体制も
考えられる。さらにトウィーの頭の中には別の2作品の構想
もあるようだ」とのことだ。
 因に、2004年『リディック』は、原題が“The Chronicles
of Riddick”とされていたもので、実は2000年『ピッチブラ
ック』の公開前に“Into Pitch Black”というテレビドラマ
と、2004年には“Dark Fury”という短編アニメーション、
さらに2008年に“Assault on Dark Athena”というヴィデオ
ゲームも、全てディーゼルの出演で制作されている。夜目の
利く主人公がいろいろな環境の惑星で大宇宙狭しと活躍する
シリーズは、まだまだ壮大な物語が展開されそうだ。
 なお、ディーゼルの新作は、SF大作“Babylon A.D.”の
全米公開が8月末に開始されたところ。またポール・ウォー
カー、ミシェル・ロドリゲス、ジョーダナ・ブリュースター
と共に、もう1人のちょい悪ヒーロー=ドミニク役に本格復
帰する“Fast & Furious”は撮影を完了して、2009年6月の
公開予定となっている。
        *         *
 続編の情報もう1本は、リヴ・タイラー主演で5月全米公
開された“The Strangers”にその計画が発表されている。
 この作品は、ユニヴァーサル傘下フォーカス・フィーチャ
ーズのジャンルブランド=ローグ・ピクチャーズから発表さ
れたもので、2004年の『チャッキーの種』なども手掛けた同
社では、初めてのブロックバスターヒットとなった作品。因
に製作費は900万ドルで、全米興行収入は5400万ドルを稼ぎ
出したそうだ。
 物語は、人里離れた家にヴァケイションに訪れたタイラー
たちのカップルが、謎の襲撃者たちに襲われるというもの。
典型的なジャンル・ムーヴィという感じだが、取り敢えず最
後まで生き残ったらしいタイラーには、続編への出演も期待
されているようだ。
 脚本と監督はイタリア出身のブライアン・ベルティーノ。
ベルティーノには、まず続編の脚本が依頼されており、前作
で監督デビューを飾った脚本家が、再度続編を監督する可能
性もあるようだ。撮影は2009年の初旬に開始の計画になって
いる。
 なおベルティーノは、現在は監督第2作となる予定の超常
現象の絡むヒーロー物のスリラー“Black”という作品の脚
本を執筆中で、その後には“Alone”という作品も全てロー
グの製作で計画されており、今回の続編はそれらの間を縫っ
て製作されるようだ。
 ただし日本では、ヒットした“The Strangers”の公開は
未定。取り敢えずは東宝東和が優先権を持つものと思うが、
かなり強烈な恐怖シーンの展開される作品のようで、できれ
ばどこかが買って公開して欲しいものだ。
        *         *
 続編の情報の最後は前日譚で、待望の“The Hobbit”の製
作に、ピーター・ジャクスン、フラン・ウォルシュ、フィリ
ッパ・ボイエンスと、ニューラインとの正式契約が公表され
た。
 この計画に関しては、ギレルモ・デル=トロが脚本と監督
を手掛けることはかなり以前に紹介されていたが、ジャクス
ンらとの正式契約はまだだったようだ。そして今回の契約公
表に合わせて、2本の作品の製作が2009年後半に開始され、
公開は2011年と12年に連続して行うことも、正式に発表され
ている。
 また2作品は、その第1部で、若きビルボ・バギンズがガ
ンダルフに促されて失われた宝物を捜しに行く物語(つまり
JRRトーキンの原作に沿ったもの)が語られ、第2部で、
その後の『旅の仲間』までの60年間が語られることも公式に
発表されたようだ。
 なおデル=トロは、この他“Frankenstein”“Dr.Jekyll
and Mr,Hyde”“Slaughterhouse-Five”のリメイクや、ダン
・シモンズ原作で来春刊行予定のスリラー小説“Drood”の
映画化。さらに、H・P・ラヴクラフトの原作を映画化する
“At the Mountain of Madness”の監督計画なども抱えてい
て、すでに2017年までのスケジュールが満杯とのことだ。
        *         *
 最後にもう1本、“The Mountain”という作品の計画が、
レジェンダリー・ピクチャーズから発表された。
 この作品は、都会から山間部に派遣された保安官を主人公
としたもの。彼の任務は、続発するハイカーの行方事件を捜
査するものだったが、そこで怪しげな事態に遭遇する…とい
うお話だ。これだけならただのスリラーというところだが、
その製作者が『ザ・リング』や『呪怨』のアメリカ版を手掛
けた人たちだということで興味を引かれた。
 また脚本家のジェイスン・ロスウェルは、ジョニー・デッ
プ主宰のインフィニタム・ニヒルが、ワーナーで進めている
“The Glass Books of the Dreameaters”というスリラー作
品や、『不思議の国のアリス』の現代化して現在イギリスで
撮影中の“Malice in Wonderland”などを手掛けているとの
ことで、これもちょっと気にしておきたい作品だ。
        *         *
 今回は夏枯れなのか新規な情報があまりなかった。次回は
もう少しいろいろな話題が出てきそうなので、乞う御期待。


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井口健二