井口健二のOn the Production
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2008年06月29日(日) 蛇にピアス、おくりびと、ギララの逆襲、ブーリン家の姉妹、窓辺のほんきーとんく、ベティの小さな秘密、背/他2本、P.S.アイラヴユー

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※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介しています。     ※
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『蛇にピアス』
芥川賞を受賞して話題となった金原ひとみ原作から蜷川幸夫
が脚色監督した作品。脚色には蜷川監督の『青の炎』も手掛
けた宮脇卓也が協力している。
タトゥーやボディピアス、スプリットタンなど、マゾヒステ
ィックな身体改造を行う若者の行動を描く。ある種のSM文
学(映画)とも言えそうだが、そこには男女の純愛のような
ものも描かれている。
ただし、原作は読んでいないから文体などの評価は分からな
いが、物語で言えばちょっとハードな描写のある少女マンガ
といった感じで、それが新鮮に見えての賞の評価なのだとし
たら、確かにうまい線を狙い撃ったというところだろう。
それで物語のSMの部分は、タトゥーに関しては、何度も映
画化されている谷崎潤一郎の『刺青』のような名作もあるか
ら、それを超えているとは到底思えないが、ボディピアスか
らスプリットタンに至る辺りはそれなりに現代的で、その映
像化にはCGIも使われるなど面白いものになっている。
特にスプリットタンの描写は、本当にそんなにできたら凄い
わな…という感じで、思わず笑い出してしまうくらいのもの
になっていた。
しかし純愛ドラマの方は、確かに登場人物の1人が秋葉原の
通り魔事件にも象徴されるような、一種異様な若者の生態を
描いているようで、それはそれで評価はできるものの、全体
的には2人の男に愛を捧げられる若い女性の願望充足みたい
なもので、取り立てて新鮮な感じはしなかった。
しかも後半は多少ミステリー仕立てにもなる訳だが、それも
有り勝ちな展開で、あまり評価の対象になるようなものでも
ない。

とは言うものの、そんなある種の古典的とも言える純愛の物
語が、正直に純粋に曝け出されていることは確かな作品で、
その意味では、僕自身が何かほっとするような感覚も覚えた
ことは事実と言える。
最近の若者文化を描いた作品では、作者自身がドラッグに溺
れているのではないかと思うような訳の分からない作品が多
い中で、この作品は、さすがの蜷川監督がいろいろな状況を
踏まえて、大人にも判るように適切に物語を再構築した、と
言えそうだ。

『おくりびと』
死者の身体を清めて棺に納める納棺師という職業を描いた日
本映画。
元々納棺は亡くなった人の親族が行うものだったが、その後
に親族の依頼で祭礼業者に任されるようになり、さらにその
下請けで納棺だけを行う納棺師という職業が出てきたのだそ
うだ。従ってその職業自体にそれほどの歴史があるものでは
ないようだが、本作はその納棺師の協会が監修や技術指導に
も当って製作されているもののようだ。
主人公は、プロの楽団員を目指すチェロ奏者。しかし所属し
ていた楽団が解散し、大枚をはたいて購入したチェロの名器
も手放して新婚の妻と共に故郷に帰ってくることになる。そ
こには親との思い出の家もあったが、その思い出は良いもの
ばかりではない。
そんな主人公は職を探し始め、ふと目にした「旅のお手伝い
をする仕事です」という求人広告に、「旅行代理店かな」と
思ってその会社を訪ねてみる。そしてそこでは速攻採用され
てしまうのだが…そのお手伝いする旅とは。
こうして納棺師としての仕事を始めた主人公だったが、仕事
のことは妻にも言えず、また周囲からは非難の目で観られる
ようになってしまう。それでも主人公は、その仕事に意義を
感じるようになっていくのだが。

脚本はオリジナルのようだが、テレビで「カノッサの屈辱」
や「料理の鉄人」などを手掛けてきた小山薫堂が、テレビ番
組と同様の多彩なエピソードの積み上げと、蘊蓄に満ちた克
明な物語を作り上げている。
しかもそれは、人間に対する深い思いやりとユーモアに満ち
溢れ、極めて特異なシチュエーションの物語でありながら、
見事に感動的な作品に仕上げられている。なお監督は『陰陽
師』などの滝田洋二郎が見事に演出している。
出演は、本木雅弘、広末涼子、吉行和子、余貴美子、笹野高
史、山崎努。特に、本木は、劇中チェロの演奏家と納棺師の
両方に挑戦しており、それを見事に演じているのはさすがと
いう感じがした。
因に、本作の物語の発案は本木からだったそうで、それはた
またま彼が納棺師の仕事を実際に観たことによるそうだが、
そんな彼の思いも込められた作品にもなっているようだ。
また音楽には、久石譲が13本のチェロによる新曲を提供して
おり、その他にもチェロの演奏曲が次々登場して物語を豊か
にしている。
山形県庄内平野の大自然を背景に、見事な人間ドラマが展開
される。物語のテーマは非日常的なものではあるけれど、そ
れはファンタスティックとさえ言えるものになっており、そ
れでいて見事に人間性に溢れた感動的な物語が展開される。
今年観た日本映画の中では出色の作品だった。

『ギララの逆襲〜洞爺湖サミット危機一発』
2006年に『日本以外全部沈没』を発表した河崎実監督のパロ
ディ新作。前作のときは東宝作品の公開中の封切りが妨害さ
れた(?)とかで話題になったが、今回も全国公開はサミット
の開催後、ただし北海道では、サミット開催中に先行上映と
なるようだ。
オリジナルの『宇宙大怪獣ギララ』は、1967年に当時の怪獣
映画ブームに乗って製作された松竹唯一の特撮怪獣映画。そ
の怪獣ギララを復活させた作品で、この復活乃至リメイクの
企画自体はかなり以前からあったようだが、それがこういう
形で実現したものだ。
洞爺湖サミットに世界の首脳が集まった折りも折り、札幌に
宇宙から飛来した宇宙大怪獣ギララが出現する。この事態に
日本政府は各国首脳に避難を要請するが…
この要請に対して、敵前逃亡はしないとアメリカ大統領が発
言したことから、首脳会議は急遽G8大怪獣対策本部に変更
される。ところが各国首脳が次々提案する作戦はことごとく
失敗。さらに首脳会議そのものも、この機に乗じた悪の組織
に乗っ取られる。
その間にもギララは、昭和新山などのエネルギーを吸収して
強大化。ついには地球存亡の危機を迎えるが…

この各国首脳をそれぞれの国の外人タレントが演じて、台詞
はちゃんとした各国語、それに丁寧な字幕が付くというもの
で、これはなかなか良くできていた。こういうところをちゃ
んとやることがこの種の作品では重要で、作者はそれを判っ
ているという感じのものだ。
しかも、次々提案される作戦はどれも支離滅裂ではあるが、
それなりにお国柄を反映し、さらに最近の国際的な話題など
も織り込んだもので、それぞれニヤリとさせるものになって
いる。その上、途中からしゃしゃり出てくる元首相の大泉は
…といった寸法だ。
『日本以外…』同様、特撮はチープ感をもろに出しているも
ので、それもパロディだということを理解してあげないと困
ったことになってしまうが、まあとりあえずは笑って観ても
らえればいいものだ。
とは言え、物語や脚本はそれなりに周到に考えられて作られ
ており、細かいところを観ていくと結構良くできている。そ
れに俳優たちが熱心に演じてくれているところも嬉しいもの
で、特に主演の加藤夏希の頑張りには拍手を送りたいところ
だった。

『ブーリン家の姉妹』“The Other Boleyn Girl”
ナタリー・ポートマンとスカーレット・ヨハンセン共演で、
16世紀のイングランド王ヘンリー8世の時代を描いた作品。
ヘンリー8世は、兄の急死によりイングランド王となると共
にその寡婦であったキャサリンと結婚したが、誕生した子は
娘しか成長せず、男の世継ぎ希望するヘンリーは、離婚を認
めないローマ教会に対してイギリス国教会を設立などして、
ブーリン家の長女アンとの再婚を可能にする。
しかし、アンとの間にも結局は娘しか誕生することはなく、
この母親の違う2人の娘が、後のメアリー1世とエリザベス
1世になって歴史を作って行くことになる。そんな時代を背
景に、さらにもう1人のブーリン家の娘メアリーを絡めた物
語が描かれる。
フィリッパ・グレゴリーの原作は、日本では秋口に翻訳刊行
予定のようだが、原作では、特に姉妹でヘンリー8世を奪い
合うことになるアンとメアリーの愛憎劇が強烈に描かれてい
るようだ。
その原作の映画化ではあるが、映画は比較的そのようなどろ
どろした部分は押さえられていて、それより当時のイングラ
ンドの貴族の生活や、特にブーリン家の置かれた立場のよう
なものが丁寧に描かれている。
まあ、結局ところはそれをちゃんと描かなければ物語全体も
理解できなくなってしまうものだが、その分だけ重苦しさは
軽減されて、特にポートマンとヨハンセンの姉妹関係が、美
しく愛らしく描かれているのは、ファンにとっては喜ばしい
ところだろう。
それにしても、この2人の関係が、実年齢でもポートマンの
方が年上だったのは意外だったもので、僕はてっきりヨハン
センがアン役と思い込んでいたので、観始めではちょっと混
乱してしまった。
でもまあ、アンもメアリーもかなり数奇な運命を辿って行く
物語で、ポートマンとヨハンセンがそれを見事な演技力で見
せてくれるものだ。因にこの2人は、製作中のオムニバス映
画“New York, I Love You”では、一緒に監督デビューも果
たしている。
共演は、エリック・バナ、デイヴィッド・モリッシー、クリ
スティン・スコット・トーマス、ジム・スタージェス。なお
撮影は全編HDで行われたものだそうだ。

『窓辺のほんきーとんく』
社会人になって数年、生活も安定してきて結婚話も出てきた
青年が、突然勤務先が倒産、婚約者との連絡も取れなくなっ
てしまう。そんな主人公の下宿に、大学時代の映画サークル
で監督志望だった先輩が転がり込んできて…
自主映画界で異彩を放つ監督・堀井彩が描く“性春群像劇”
…という見出しのあるプレス資料をもらって上記の内容の作
品と言われると、基本的にただのファン上がりで、いわゆる
映画青年ではなかった自分としては、ちょっと退いてしまう
ところがある。
実際、映画青年の見果てぬ夢というか、リビドーの残り滓み
たいなものがグチャグチャと垂れ流されているだけの作品も
見せられたことがあるし、またそんなものを見せられたら適
わないな…というのが、正直な気持ちだった。
ところがこの作品は、見事にそのグチャグチャした部分を昇
華させてしまって、ある種の純粋な男女の恋愛関係を描いて
いる。それは最近の殺伐とした風潮の漂う現実の中では、ち
ょっと愛しさすら感じさせてくれる作品だった。
物語の続きは、監督志望の先輩が自主映画で一旗挙げようと
企み、スタッフ・キャストをオーディションして人を集める
が、まだシナリオができていないことが判明。メムバーは一
旦解散となるが、そこにいたヒロイン役の女性が部屋に居座
ってしまう。
しかも、監督はシナリオハンティングのために旅に出てしま
い、残った2人は徐々に接近して男女の関係にまでなってし
まうのだが…戻ってきた監督が提示したシナリオは、最後に
ヒロインの本番シーンがあるというものだった。
それを主人公は、助監督として間近に見届けなくてはならな
くなる。つまり主人公にとっては、彼女への愛と映画製作の
夢という究極の選択みたいなことになって、その葛藤の物語
が適度にコミカルに展開される。

映画は悪ふざけもなく、また主人公たちを囲む人々のさまざ
まなエピソードも煩くもなくバランス良く挿入されて、全体
的な構成も良い感じがした。本作はレイトショー公開向けの
小品だが、このレヴェルを保ってくれるなら、監督の次回作
も期待したくなったものだ。
出演は、『バレット・バレエ』などの辻岡正人、元グラビア
アイドルでAV出演もある吉沢明歩、『神様のパズル』の安
藤彰則など。そこそこ個性的な俳優が適度の演技を見せてく
れていた。

『ベティの小さな秘密』“Je m'appelle Elisabeth”
昨年3月10日付ホームページで、フランス映画祭関連作品と
して『CALL ME ELISABETH』の題名で紹介した作品が、この
ように改題されてようやく一般公開されることになった。
前回の紹介は、英語字幕しかないDVD上映だったもので、
今回は内容の再確認も兼ねて再度試写を観に行ったが、台詞
等で誤解していたところはなかったようだ。従って映画の内
容については、前回の記事を参照してもらいたい。
ただ、前回は時代背景のようなものが明確に把握できなかっ
たが、今回は劇中で、父親がPARIS MATCH誌の宇宙飛行士が
表紙になっている号を見ていることに気が付いた。これは、
多分ソ連のガガーリンと思われ、ヴォストーク打ち上げの頃
の物語だったようだ。
この他では、前回も紹介したステンドグラスはやはり素晴ら
しいもので、これをスクリーンで再び観られたのも嬉しかっ
た。
そして何より、ベティ(エリザベス)役のアルバ=ガイア・
クラゲード・ベルージ(というのが正式の名前のようだ)を
再び観ることができたのも嬉しいところ。因に彼女は、前回
も紹介した『ぼくを葬る』では、主人公の姉の幼い頃を演じ
ていたそうだ。
共演は、『ふたりの5つの分かれ路』などのステファヌ・フ
レイス、『アメリ』などのヨランド・モロー、『パルプ・フ
ィクション』などのマリア・ド・メデイルシュ。
また、台詞と脚本を担当したのは、2001年『アメリ』、04年
『ロング・エンゲージメント』などのギューム・ローラン。
ジャン=ピエール・ジュネを支える才人がここでも的確な手
腕を見せている。

『背/他2本』
第29回ぴあフィルムフェスティバルで企画賞などを受賞した
作品。上映時間48分の作品だが、同監督の他の2本と併せて
一般公開されることになった。
高校の卒業記念に東京に繰り出した若者が、ふと出会った女
性にちょっかいを出したことから、黄色い靴下の男に追われ
ることになるというサスペンス作品。
スピルバーグの『激突!』から想を得たとのことで、そこに
特徴的な歩き方をする黄色い靴下の男を配して、その足元の
アップ映像で恐怖感を煽るというやり方は、物まねとしては
良くできている。
それにこの種の作品では、その物まねをどこまで捻ってみせ
るかが、後に続くものとして考えなくてはいけないところに
なるが、それも舞台背景を変えるなどいろいろ考えられてい
る感じもして、習作としてはそれなりに評価できるものだろ
う。
ただし物語の展開では、途中何度か時制が飛んでいることに
なるが、その部分のメリハリをもう少して付けて欲しかった
感じはした。特に、クライマックスのシーンは何ヶ月も後の
話になるはずだが、その辺がはっきりしていない。
実際、時制は何ヶ月も飛んで、それでも繰り返される恐怖感
を描いて欲しかったもので、例えば毎回追跡者を倒してほっ
とはするが、重傷を負ったはずのその姿が消えて、それから
しばらくしてまた追跡が始まるとか、そんな見た目の演出も
欲しかったところだ。
それから出演者にはそれなりの人たちを集めているように見
えるが、実はその演技がどれもあまり芳しいものではなく、
監督の技量としてそれを何とかできるようにもなって欲しい
感じもした。

なお同時上映は、じっちゃんの「宝の地図」を巡って中学生
の夏休み最後の冒険を描いた『出発しよう!』(22分)と、
空き巣に入った泥棒が遭遇する恐怖を描いた『闇の巣』(6
分)。
前者にはちょっと素敵な種明かしがあり、後者にはちょっと
スプラッターもある。どちらもそれなりのものは描いる感じ
で、特にファンタシーの志向が見えるところでは、今後の作
品にも期待したいものだ。

『P.S.アイラヴユー』“P.S.I Love You”
2004年にアイルランド元首相の娘が弱冠21際で発表した同名
の処女小説の映画化。
喧嘩もしたが幸せだった若い夫婦の夫が急死し、残されて何
もできなくなった未亡人の許に亡き夫からの手紙が届き始め
る。そこには彼女の境遇を予測し、その時々の彼女を勇気づ
け、未来に希望を持たせようとする亡き夫からのメッセージ
が綴られていた。
そして彼女は、その手紙の指示に従って街に繰り出し、夫の
故郷への旅を決行するが…脚本、監督は、1995年クリント・
イーストウッド監督の『マディソン郡の橋』などを脚色した
リチャード・ラグラヴェネーズによる作品。
原作は全編がアイルランドを舞台にした作品のようだが、映
画化では夫婦の暮らしの場所をニューヨークに移し、さらに
夫の故郷であるアイルランドとの時間と距離を隔てた物語が
展開されている。
その変化の付け方も絶妙で、喧噪の大都会と大自然が広がる
アイルランドがどちらも魅力的に描かれている。そしてこの
物語を、オスカー女優のヒラリー・スワンクと、人気沸騰中
のジェラルド・バトラーが見事に演じて行くものだ。
因にバトラーは、『300』からはガラリと雰囲気を変えて
陽気なアイルランド人を見事に熱演、「The golway girl」
などのパフォーマンスも披露している。その他にも主人公の
設定に合わせてアイルランド系のミュージシャンの演奏がい
ろいろ楽しめる作品になっている。
共演は、オスカー女優のキャシー・ベイツ、ミュージシャン
でウィリアム・フリードキン監督の『BUG』も公開される
ハリー・コニックJr.。さらに『アナライズ・ミー』などの
リサ・クロドー、『ショーガール』などのジーナ・ガーショ
ンらが脇を固める。
というところまで書いて、僕としてはどうしても触れなくて
はいけないのは、1997年製作の韓国映画の存在だ。実は僕は
このオリジナル版は観ていなくて、自分で観たのは2004年の
タイでのリメイク版の方だが、『レター/僕を忘れないで』
と題されたその作品の物語が酷似しているものだ。
かなりユニークな設定の物語だと思うし、本作の原作者が、
どのような経緯でこの小説を書いたかは判らないが、そのあ
まりにも似た設定には、正直驚いてしまったところだ。



2008年06月22日(日) ハード・リベンジ、俺たちダンクシューター、アイアンマン、レス・ポール、能登の花ヨメ、歌え!パパイヤ、The 11th Hour、空想の森

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※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介しています。     ※
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『NEO ACTIONシリーズ
           /ハード・リベンジ,MILLY』
世界に通用するアクション映画というコンセプトで製作され
たそれぞれ45分前後のシリーズ作品の1本。昨年10月に紹介
した『新・女立喰師列伝』でもガンアクションに挑戦した女
優の水野美紀が、さらに過激なアクションに挑んでいる。
20XX年の荒廃した横浜を舞台に、家族を暴漢たちのグループ
に惨殺され、自分も瀕死の重傷を負った女性が、全身に過激
な銃器を内蔵したサイボーグとなって、犯人たちへの復讐を
遂げて行く。
この種の作品では、内蔵される銃器は物語の展開に合わせて
いろいろ考えられることになるが、問題はそれを装備した時
の人体とのバランスで、これがうまくデザインされていない
と、見た目も悪いし、話もつまらなくなってしまう。
その点を本作では、銃器の内蔵を直接絵柄で見せることはせ
ず、日本刀やショットガンが突然いろいろなところから繰り
出されてくる仕組みとして、それはうまく描かれていた。特
に終盤に出てくるメカの描写などはなかなかのものだった。

同趣向の作品では、先に『プラネットテラー』なども登場し
ているが、本作はそのアイデアをうまく消化した作品とも言
える。それに本作ではスプラッターの描写もかなり過激で、
CGIも使った血みどろの描写は、その方面のファンにも評
価が得られそうだ。それはつまり、ファンでない人には多少
危険だとも言えるほどのものだ。
ところで本作の主目的はアクションを見せることで、しかも
上映時間が44分では、お話は取って付けたようなものでしか
ないが、それでも一応の達人らしい人物が心得を述べたり、
その教えを主人公が忠実に守ったりという展開は、あまり浮
くこともなく納得できるように描かれていた。これも『キル
・ビル』の展開をうまく消化したとも言えそうだ。
脚本・監督は、『新・女立喰師列伝』でも水野と組んでいた
辻本貴則。アクションのアイデアも良かったし、この名前は
ちょっと気にしておきたい。共演は、大口広司、虎牙光揮、
中村哲也、紗綾、今村浩継。特に、虎牙と水野の闘いは迫力
もあって良い感じだった。

『俺たちダンクシューター』“Semi-pro”
1967年から76年まで存続したアメリカのプロバスケットボー
ルリーグABAが、NBAに吸収される最後の1年を題材に
したコメディ作品。
ABA(American Basketball Association)は、1967年す
でにあったNBAに対抗して設立され、特にNBAチームの
ない都市を中心にリーグ戦を展開して、地元本位のファンサ
ーヴィスなどで人気を得ていた。
しかし財政基盤の弱いチームが多く、観客動員もままならな
いまま1976年にはNBAとの合併が画策されて、比較的財政
状況の良好だったスパーズ、ナゲッツ、ネッツ、ペイサーズ
の4チームがNBAに吸収され、残りのチームはリーグと共
に解散となったものだ。
この作品は、その最後のシーズンを巡って、万年下位だった
弱小のチームが、NBA参入を目指して飛んでもない頑張り
を見せるという物語。
そのチームは、ミシガン州フリント市に本拠を置くフリント
・トロピックス。地元出身の一発屋の歌手がオーナー兼監督
兼主力選手として君臨し、試合前には彼のミニリサイタルが
催されるという典型的なABAチーム。
ところがABAのNBAへの吸収が決定され、4位以内の順
位と2000人の観客動員をクリアしなければチームは解散とい
う事態になる。そこでオーナーは、元NBAで優勝経験もあ
るという選手を獲得し、チームの立直しを図るが…
基本的にはコメディだが、当時の風俗やダンクシュート、3
ポイントシュートなどのABAが始めてNBAに引き継がれ
た競技のルールなども丁寧に描いて、恐らく当時を知る人に
はノスタルジーで胸が一杯になるような作品に仕上げられて
いる。
といっても、そんな思い出のない日本人にはノスタルジーは
湧かないが、そこはスポーツコメディとしても充分に楽しめ
る作品にもなっているものだ。
主演は、日本公開のアメリカンコメディでは異例のスマッシ
ュ・ヒットとなった『俺たちフィギュアスケーター』のウィ
ル・フェレル。前作はかなり下ネタも多くてちょっと心配し
たが、本作は真っ当なスポーツコメディにして名誉挽回とい
うところだ。
共演は、今年のアカデミー賞を賑わした『ノーカントリー』
にも出ていたウッディ・ハレルソン。シリアスからコミカル
までこなせる才人が見事に物語の要所を締めている。
そして映画では、基本的な練習のあり方やABAのいろいろ
な技なども織り込んで、コメディでありながら、まさにスポ
ーツものの王道という作品を作り上げている。特に身体が自
然に動くまで基本動作を繰り返させるという練習法は、観な
がら納得したものだ。

『アイアンマン』“Iron Man”
『X−MEN』や『スパイダーマン』などでお馴染みのマー
ヴェルコミックスが、独自に製作会社を設立して完成させた
人気コミックスの映画化第1号。
その第1号にマーヴェルは、オリジナルは1963年に誕生した
アイアンマンを選んだ。因にスパイダーマンの誕生は1962年
で、アイアンマンはそれに遅れること1年、しかしその誕生
以来、マーヴェルの人気の双璧として活躍してきたものだ。
ところでこの2作に共通しているのは、共に主人公が元は普
通の人間だったということ。しかもアイアンマンは、その後
も普通の人間の主人公が、自ら開発したパワードスーツによ
って特殊な能力を発揮できるようになるというものだ。
この辺の設定は、DCのバットマンに似たところもある(ど
ちらも主人公の職業が企業人であることも共通する)が、さ
らにアイアンマンでは、背景に軍需産業と実際の戦争の陰を
持つことも、特徴と言えるもののようだ。
そして映画化された物語では、兵器企業のトップとして戦場
に赴いた主人公が、自社製品が敵方にも流れている事実を知
り、自分の誤りに気付くと共にスーツの初号機を完成させて
アイアンマンが誕生して行く姿などを描いている。
この主人公を、『ゾディアック』などのロバート・ダウニー
Jr.が演じ、相手役には『恋におちたシェークスピア』のグ
ウィネス・パルトロー。さらにテレンス・ハワード、ジェフ
・ブリッジスらが共演している。監督は『ザスーラ』などの
ジョン・ファヴロウ。
主人公は、天才的な発明家という設定で、ほとんど何もない
状況からパワードスーツを作り上げていく様子などが描写さ
れる。それはメカマニアには垂涎のシーンという感じで、特
に中学生ぐらいの男の子には待望の作品と言えそうだ。
その一方で、自分の立場に気付いた主人公が、真の愛国者と
は何かを模索して行く姿は、現在のアメリカ国民(それは日
本国民も同様だ)の置かれた立場も反映して、見事な人間ド
ラマを作り上げている。
破壊力満点のアイアンマンスーツによる空中戦など、見事な
アクションの展開される作品ではあるが、このような人間ド
ラマもしっかりしているところが、アメリカでも大ヒットし
た要因でもありそうだ。
脚本は、『トゥモロー・ワールド』などのマーク・ファーガ
ス、ホーク・オストビーと、この後に『ハイランダー』のリ
メイクなどに関っているアート・マルカム、マット・ハロウ
ェイが、骨太のドラマを作り上げている。
なお、本作ではエンドクレジットの後にもドラマが進行する
ので、くれぐれも最後まで席を立たないように…

『レス・ポールの伝説』“Les Paul: Chasing Sound”
“American Masters”という1983年から続くテレビシリーズ
の1本として製作された人物ドキュメンタリー作品。
ギブソンのレスポールというと、エレキギターの代名詞のよ
うにもなっているものだが、最近の若者の中には、それが往
年の名ギタリストの名前だということを知らない人もいるの
だそうだ。
そんな事実の提示から始まる作品だが、映画には、90歳を過
ぎても現役で毎週ライヴ演奏を行っているというレス・ポー
ルの元気な姿が登場して、実は、小学生の頃に初めて買った
LPがレス・ポールとメアリー・フォードだった僕には、嬉
しい限りの作品だった。
レス・ポールは元々カントリー音楽のギタリストだったが、
他にはない音を追求していく内に、単にマイクを繋いだだけ
ではないソリッド・ボディのエレキギターに辿り着き、さら
に多重録音やマルチトラック録音を発明して多彩な音楽を作
り上げて行った。
その業績は、5度のグラミー賞受賞や、後世のロック・アー
ティストに影響を与えた人物として「ロックの殿堂」入りを
果たしている他に、ミュージシャンでは唯一、発明王エジソ
ンらと並んで「発明家の殿堂」入りも果たしているというこ
とだ。
そんなレス・ポールの半生が、現在の映像や1950年代、60年
代のアーカイヴ映像などで再現される。実は僕自身は、レス
・ポールの音楽は聞いているが実際に演奏している姿は見た
ことがなかったもので、特にメアリー・フォードと一緒の姿
は感動的だった。
また、フォードと2人で多重録音の苦労話などを楽しそうに
話している姿も僕には堪らないもので、そのフォードとは後
年離婚したが、その辺の事情が説明されていたのも嬉しいこ
とだった。
そして何よりこの映画では、上記の映像の間に、大ヒット曲
の“How High the Moon”を始め、多重録音が見事な“The
World Is Waiting for the Sunrise”、さらには“Get You
Kicks on Route 66”“Tiger Rag”“Mocking Bird Hill”
“Vaya Con Dios”“My Blue Heaven”など40曲近い名曲の
演奏が聞けるのも嬉しいところで、レス・ポールのファンに
は最高の贈り物と言いたくなる作品だった。

『能登の花ヨメ』
東京育ちの女性が、結婚相手の都合から能登半島の過疎の町
に赴き、そこで花嫁として受け入れられるようになるまでを
描いた人間ドラマ。
主人公は、広告代理店の派遣OLとして第一線でキャリアを
積んできた女性。しかし結婚を機に退職して、海外出張する
婚約者が帰国したら挙式、以後は平凡な主婦の座に付く予定
だった。
ところが、婚約者を出張に送り出そうとしたとき、彼の携帯
電話が鳴り、能登で1人暮らしの母親が交通事故で足を骨折
したことを伝えられる。そこで主人公は、婚約者に代って母
親の世話をするため能登に向かうことにするが…
そこには、地方に特有の因習や、ややこしい近所付き合いが
待ち構えていた。しかも能登には、2007年3月の大地震の傷
跡がそこかしこに残り、その影響や過疎によって伝統の祭り
も行えなくなっているような状態だった。
そんな中で、東京からやってきた1人の女性の行動が、いろ
いろな波紋を広げて行くことになる。そんな女性の主人公を
田中美里が演じ、脇を泉ピン子と内海桂子が固め。さらに松
尾貴史、本田博太郎らが共演している。
映画の企画は2004年に立上げられて、実は能登地震が起きた
のはクランクインの直前だったようだ。しかし、物語はそれ
による状況の変化も巧みに取り入れて、お陰で企画された以
上に骨太な作品が出来上がった感じもするものだ。
この他、地元特産のコケ(茸)鍋の作り方をフィーチャーする
など、地元への目配りは充分に感じられる。そして映画は、
5月に能登で先行公開されており、すでに3万人以上を動員
しているということも理解できるところだ。
ただし、その能登での共感が全国でも得られるかというと、
これがなかなか難しい。作品自体は悪くないし、特に伝統の
祭りを絡めた展開はうまく作られてもいるものだが、それだ
けで全国規模での共感には繋がるものかどうか。
従って、ここは一つ何らかの手を打つ必要がありそうだ。全
国公開は8月下旬に予定されているようだが、それまでに作
品を認知させるには、例えばコケ鍋でアピールするとか、相
当のプロモーションで盛り上げて欲しいところだ。

『881 歌え!パパイヤ』“881”
ゲータイ(歌台)と呼ばれる旧暦7月に行われる祖先の霊を
楽しませる催しを背景にしたシンガポール映画。
旧暦7月に祖先の霊を楽しませるということでは、日本のお
盆に相当するもののようだ。しかしそこで行われるゲータイ
は、これなら祖先の霊も充分に楽しめそうなド派手な歌謡シ
ョウ。そのゲータイの出演を巡って繰り広げられる笑いとア
クションのエンターテインメントムーヴィが展開される。
主人公はパパイア・シスターズと名乗る女性デュオ。2人は
本当の姉妹ではないが、それぞれある事情を持って憧れのゲ
ータイ歌手を目指すことになる。しかしそれは簡単にできる
ことではない。
そんな2人は、彼女らを見出した衣裳作りの名手リンおばさ
んの指導によって、真のゲータイ歌手の座を目指すことにな
るが…そこにはドリアン・シスターズと名告るライヴァルも
現れる。
こんな2人と、彼女らを巡る周囲の人たちの物語が、ド派手
なゲータイステージの再現と共に描かれて行く。
脚本と監督は、2004年のアジア版「TIME」誌で、ドラえもん
など共に「アジアのヒーロー20人」にも選ばれたというロイ
ストン・タン。世界の映画祭で60以上の受賞に輝くという監
督が、ガン死したゲータイの伝説的歌手に捧げるために作っ
た作品ということだ。
という作品の背景もあってか、実は物語は最後にちょっと尋
常ではない結末を迎える。それはゲータイの本来の目的を反
映したものでもあるが、ゲータイのイメージのない我々には
多少衝撃的な結末でさえあった。
しかし、本国では国民の10人に1人が観たというほどの大ヒ
ット作とのことで、その辺はカルチャーの違いを理解しなけ
ればならないところのようだ。

ゲータイというシンガポール特有の文化が、多少の誇張はあ
るにしてもかなり丁寧に描かれている。そんな異国の文化を
理解する上でも参考になる作品と言えそうだ。

『The 11th Hour』“The 11th Hour”
レオナルド・ディカプリオの製作、脚本、ナレーションによ
るエコロジカルドキュメンタリー。温暖化などの地球が直面
する事象を踏まえて、スティーヴン・ホーキング博士や、ゴ
ルバチョフ元ロシア大統領など、50人以上の世界の賢人たち
が意見を述べて行く。
本作は、昨年のカンヌ映画祭でプレミア上映されて話題を呼
んだものだが、ドキュメンタリーとは言いながら、ほとんど
の場面が発言者の姿だけというかなり思い切った構成で、正
直、観る側にもかなりの覚悟が要求される作品だ。
しかし興味を持って観ていれば、各自の言っていることは極
めて判りやすく、誰もが危機感を抱くほどの説得力に溢れた
ものになっている。この辺はさすがに各界のトップの人々と
いうのは意見の述べ方も判っているという感じがした。
しかもこの作品では、恐らくは一度に撮ったであろう映像を
テーマごとに小分けにして、それも判りやすくなるように編
集されており、その辺の構成力にも感心させられるところが
あった。
ただしその編集が、多少作為的に観えてしまうのは残念なと
ころで、さらには題名についても、発言の中ではちょっとそ
の意味のすり替えがあるような感じもして、その辺は策を弄
しすぎたような印象を受けるところもあった。
それに日本版では、それぞれが滔々と喋っているものを字幕
に訳すというのもかなり無理があるところで、できれること
なら吹き替えか、ヴォイスオーヴァのナレーションにして、
発言の内容を正確に理解できるようにして欲しいところもあ
った。
とは言え映画の全体は、危機的な状況をかなり強烈に印象づ
けるもので、その製作の意図は明白に理解できる。しかも、
そこにディカプリオの名前が冠されているのもうまいところ
で、もしかして名前に釣られて観に来た人の目を開かせるこ
とができたら、それは大成功と言えるものだろう。
なお、映画には何点か世界地図が出てくるが、これがいずれ
もヨーロッパが中心のもの。しかしその右端の日本を注目し
て観ていると、例えば海洋汚染では日本近海のレヴェルはか
なり高いものの、森林破壊ではほとんど日本列島は破壊され
ていないとなっていた。
宅地開発などで日本の森林破壊も相当進んでいると思ってい
たが、世界の破壊の規模はそんなものではないようで、その
ギャップを知るだけでも価値のある作品のように思えた。
なお、本作は日本では一般公開はされず、今後は学園祭など
でイヴェント的に上映されるとのことだ。ディカプリオ自身
もちゃんと画面にも出てくるので、興味のある人には観ても
らいたいものだ。

『空想の森』
北海道の開拓村に生きる人々の生活を7年の歳月に亙って追
ったドキュメンタリー作品。
監督の田代陽子は、1996年、北海道のほぼ真中に位置する上
川郡新得町で開催された映画祭(SHINTOKU空想の森映画祭)
で初めてドキュメンタリー映画を観て、この作品を撮ってみ
ようと思い立ったのだそうだ。
その題材は、元々が開拓者の村である新得町に暮らす人々を
写すというものだが、そこには取り立ててドラマになるよう
なものは考えていなかったようだ。しかし撮り進めて行くう
ちに、淡々とした農業の暮らしの中にもあるいろいろなドラ
マが見えてくる。
その中心に描かれるのは、共働学舎と呼ばれる農場。そこで
は心や体に障害を持つ人や社会に馴染めない人たちが、農業
に携わりながら共働生活を送っている。そこで13年暮らしな
がら、結婚し子供も儲けた女性を中心に映像は進んで行く。
そこには、健常者である彼女の一家が学舎から独立するべき
か否かの問題なども描かれるが、基本的には土を相手にした
農業の生活が、苦労も多いのだろうなあと思わせつつ、楽し
げに描かれているものだ。
日曜日の夕餉時に男性タレントのグループが農業をしている
テレビ番組が、かなり長期のシリーズになっているが、都会
に暮らすものにとっては、このような農業の生活というのは
ある種の憧れのようにも映る。
でも、現実の厳しさもすぐに見えてしまうもので、それは特
に男のロマンではあっても、現実的には実現は難しいものの
ようにも見える。しかしここでは、女性たちがそれを実行し
ている。その裏にある事情などは、あまり克明には描かれな
いが、それでもそこに満足している彼女たちの姿には、女性
監督の目が活きている感じもした。
その他にも、共働学舎の近くで独立して農業を営んでいる一
家や、映画祭の様子なども織りまぜながら、厳しい自然に囲
まれた、それなりに豊かな生活が描かれる。
ただ、映画を観ながら監督の立場が気になった。それは、部
外者であるほどにはドライではなく、また部内者のようにべ
ったりしたところもない。それがほぼ中庸で良い感じの面も
あるが、逆に現実を捉え切れていないのではないかという不
安も感じられた。
もう少し監督の立場を明確にしたら、どういう作品ができた
のだろうか。



2008年06月15日(日) 第161回

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
※このページは、キネマ旬報誌で連載中のワールドニュー※
※スを基に、いろいろな情報を追加して掲載しています。※
※キネ旬の記事も併せてお読みください。       ※
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
 今回も記者会見の報告から。
 6月3日の台風が来襲する最中、お台場の未来科学館で、
『ミラクル7号』のチャウ・シンチーと主演シュウ・チャオ
による記者会見が行われた。僕にとってお台場でのイヴェン
トは、以前にも大嵐に見舞われたことがあって、そんな巡り
合わせの場所になってしまいそうだが、それはともかく会見
では、監督の次回作の構想なども聞くことができた。
 その次回作は、一般的な情報では『西遊記』ということに
なっているものだが、この席の発言では先に起きた四川省の
大地震をテーマにした作品も作りたいのだそうだ。それは、
地震そのもの恐ろしさと、その後の人々の救援活動などを描
くものにしたいとのこと。ただし、自分にその資質があるか
どうかを思案中とのことだった。
 あれだけの出来事があれば、それを映画にしたくなるのは
当然のことだが、そこで一歩下がって自分の資質を考えるの
もチャウ・シンチーらしさと言えそうだ。
 なお僕は、宣伝からの依頼もあって映画の中の父子の関係
について質問したが、一緒に最近養子縁組したシュウ・チャ
オをどんな風に育てたいか訊いてみた。その答えは「今はま
ず勉強」とのことで、自分自身の苦労に重ねて、まずは学問
と考えているようだった。また現在10歳のシュウ・チャオの
将来の夢は映画監督だそうで、アクション・コメディを撮り
たいとのこと。その作品に義父を出演させるかどうかは判ら
ないそうだが、それも楽しみに待ちたいものだ。
 以上で記者会見の報告は終りにして、以下はいつもの製作
ニュースを紹介しよう。
        *         *
 最初の情報は、前回もちょこっと書いたが、往年のテレビ
シリーズ“The Dark Shadows”の映画化に関して、昨年8月
1日付第140回で紹介したジョニー・デップ主演予定作に、
何とティム・バートン監督の名前が浮上してきている。
 実はこの計画では、バートン監督の『チャーリーとチョコ
レート工場』や『ビッグ・フィッシュ』を手掛けたジョン・
オーガストが脚本を担当することが報告されており、監督の
盟友とも言える脚本家の参加、さらにデップ主演となれば、
バートンの参加に何の障害もないだろうとのことだ。
 因に物語は、吸血鬼一族に支配された街を舞台にしたもの
で、デップは吸血鬼の首領のバーナバス・コリンズ役を自ら
希望しているものだ。ただしデップには、前回にも紹介した
ように、撮影中のギャング映画“Public Enemies”に続いて
は、インドで“Shantaram”、カリブで“The Rum Diary”、
さらには噂の“Sin City 3”など計画が目白押し、前回紹介
の“The Man Who Killed Don Quixote”も含めたら、一体ど
れができるのやら…という感じになる。
 もっとも脚本家のオーガストの方も、『ゲットスマート』
のピーター・シーゲル監督が、ドウェイン“ザ・ロック”ジ
ョンスン主演で進めているアメリカン・コミックスの映画化
“Billy Batson and the Legend of Shazam”の脚色にも名
前が挙がっており、どちらを先にするかは決まっていないよ
うだ。なお海外のデータベースでは、“Shazam”が2009年、
“Shadows”は 2010年の公開としているものもあり、そんな
順番で進むのが順当のようだが、それにしてもデップのスケ
ジュールは…というところだ。
        *         *
 2005年『エリザベスタウン』などで知られるキャメロン・
クロウ監督の新作の映画化権が、5社による争奪戦の末にコ
ロムビアと契約され、さらにこの作品に、『ナイト・オブ・
ミュージアム』ベン・スティラーと、『キューティ・ブロン
ド』リース・ウィザースプーンの共演が発表されている。
 因に、契約された作品の題名は未定で、さらに内容に関し
ても、権利を獲得したコロンビアからは「現代を背景にした
プロジェクト」としか発表されていないものだが、別からの
情報によるとロマンティック・コメディ・アドヴェンチャー
とのこと。この監督、主演の顔ぶれでコメディ・アドヴェン
チャーとは、相当の規模の作品が期待できそうだ。
 ただしスティラーのスケジュールでは、8月に全米公開の
“Tropic Thunder”に続けて、現在はヒット作の続編となる
“Night at the Museum 2: Escape from the Smithonian”
の撮影に入っており、一方のウィザースプーンも、製作主演
で11月全米公開の“Four Christmases”に続いては、ドリー
ムワークス・アニメーション製作の“Monsters vs.Aliens”
に声優として参加するなど超多忙で、今回の作品の撮影は、
2人の身体が空く来年1月までお預けとなるようだ。
 なおクロウ監督がコロンビアと組むのは、2000年の『あの
頃ペニー・レインと』以来のことになるが、その前の1996年
にはクロウ監督の最大ヒット作『ザ・エージェント』の製作
も同社で行われたものだ。
        *         *
 『ジェイスン・ボーン』シリーズの原作者ロバート・ラド
ラムの遺作とされる“The Sigma Protocol”(邦訳題:シグ
マ最終指令)の映画化が、ユニヴァーサルの最優先計画とし
て進められることが発表された。
 原作の物語は、裕福な家庭に育った若者が双子の弟の事故
死の現場を訪れ、不可解な事件に巻き込まれて行くというも
の。ラドラム全盛期の作品を髣髴とさせる見事な展開の作品
だそうだ。
 そしてこの原作の映画化権は、実はユニヴァーサルでは、
2002年の『ボーン・アイデンティティー』の公開以前に権利
を獲得し、以来7通りの脚本が作られたとされているが、い
ずれも実現には至っていなかった。因に、本サイトでも昨年
4月1日付第132回で、『T3』のジョン・ブランカトーと
マイクル・フェリスが関っていることを紹介したが、それも
実現しなかったものだ。
 それを今回は最優先で進めるとしたもので、脚色には新た
に全米大ヒット作の『アイアンマン』を手掛けたアート・マ
ルカム、マット・ハロウェイのコンビが契約されている。な
おこの脚本家コンビには、前回“Highlander”のリメイクの
計画も紹介したものだが、今回の情報によると本作の方が先
行となるようだ。
 ラドラム原作の映画化では、今年4月15日付第157回でも
“The Matarese Circle”の計画を報告したところだが、そ
の争奪戦にはユニヴァーサルも参加してMGMに破れたもの
で、その2カ月後の今回の発表にはいろいろ理由が考えられ
そうだ。またユニヴァーサルでは、ラドラムの原作が尽きて
継続が注目されている『ジェイスン・ボーン』シリーズの第
4作についても、ポール・グリーングラス監督、マット・デ
イモン主演で進めることを検討中とのことだ。
        *         *
 1980年代にテレビアニメーションで人気を呼んだ森の小さ
な住人スマーフの長編映画化“The Smurfs”が、コロンビア
と『サーフズ・アップ』などのソニー・ピクチャーズ・アニ
メーション(SPA)の共同で進められることになり、その
脚本に『シュレック』の第2、3作を手掛けたデイヴィッド
・スターン、デイヴィッド・ワイズの起用が発表された。
 フランス語では“Les Schtroumpfs”と呼ばれるオリジナ
ルのキャラクターは、1958年にベルギーの漫画家ペヨによっ
て、同じ作家の別のシリーズの中に登場、その後に独立して
原作者ペヨの手では全15巻、さらには他の作家によっても書
き継がれるほどの人気者になった。フランス語圏では同種の
コミックスの古典とも呼ばれているそうだ。
 そしてこのキャラクターは、アメリカでは1970年代後半に
玩具化されたことから人気となり、その人気を受けて1981年
には土曜日の朝の子供番組用アニメとしてハナ=バーベラが
シリーズ化、このシリーズは1990年まで10年に亙って放送さ
れた。また、日本では乳業メーカーのCMキャラクターとし
ても知られていた。
 そのキャラクターの長編映画化となるものだが、この計画
に関しては、まず2002年にパラマウントとニケロディオンで
立上げられたもののなかなか進行せず。しかしこの計画にコ
ロンビアが海外配給権を獲得し共同製作として参加したこと
から、最終的にはパラマウント側が離脱して、今回のSPA
との共同製作となっている。
 なお今回の製作は、実写とCGIアニメーションの合成で
行う計画で、これはSPA作品では初挑戦になるものだが、
同社の母体であるソニー・イメージワークスでは、1999年の
『スチュアート・リトル』などの実績があるので心配はなさ
そうだ。
 因に、本国ベルギーでは1965年と76年にそれぞれ上映時間
90分以下の長編アニメーション作品が作られているようだ。
        *         *
 ここからは、SF/ファンタシー系の情報を紹介しよう。
 いよいよ撮影が開始された“Terminator Salvation: The
Future Begins”で、クリスチャン・ベールが演じる主人公
ジョン・コナーの妻ケイト役に、『ヴィレッジ』などのブラ
イス・ダラス・ハワードの出演が発表された。
 この役柄は、前作『T3』ではクレア・デインズが演じて
いたものだが、今回その再演は実現せず、それに替って一時
は、『恋愛睡眠のすすめ』などのシャーロット・ゲインズバ
ーグの配役が発表されていた。しかしゲインズバーグもスケ
ジュールの都合で出演できなくなり、急遽ハワードへの変更
になったものだ。デインズとハワードではちょっと雰囲気が
違う感じもするが、今回はアクションもかなりきつくなりそ
うで、まずは頑張ってもらいたいものだ。
 なお物語では、最終戦争後とされる2018年を時代背景に、
ジョン・コナーは人類の生き残りを率いてスカイネット及び
ターミネーターとの闘いを繰り広げている。そこにマーカス
と名告る謎の男が現れる。その男は、死刑囚だったという以
外の記憶を喪失しており、彼が過去から送られてきたのか、
未来からなのか、そしてその現れた理由も判らない。しかし
コナーは彼を救世主と信じる。一方、スカイネットは、人類
に対して最後通牒を突き付けてくる…ということだ。
 このマーカス役に、以前紹介したようにジェームズ・キャ
メロン監督の新作“Avatar”に出演し同監督の推薦で決まっ
たサム・ワーティントン。また第1作でマイケル・ビーンが
演じたカイル役に、来年公開の“Star Trek”でチェコフ役
のアントン・イェチン、さらに2006年11月15日付第123回で
紹介した新作“Street Fighter: The Legend of Chun-Li”
に出演のムーン・ブラッドグッドなど、ベールとハワードの
周りには多彩な顔ぶれが揃いそうだ。
 この他、新ターミネーター役には『プラネットテラー』の
ジョッシュ・ブローリンが出演しているとの噂もあり、McG
監督で製作される新3部作の第1弾は、来年5月22日の全米
公開に向けて製作が進められている。因に、スカイネットが
最初のターミネーターを過去に送り出すのは2029年となって
いたそうで、新3部作はそれまでの10年間を描くことになる
ようだ。
        *         *
 テレビシリーズからの映画化で、2004年3月1日付第58回
で1度紹介している“I Dream of Jeannie”(かわいい魔女
ジニー)の計画が久しぶりに報告された。
 この計画について以前の紹介は、『ナショナル・トレジャ
ー』のコーマック&マリアニー・ウィバリーの脚本で、『ベ
ッカムに恋して』のグリンダ・チャーダ監督が進めるという
ものだったが、それはうまく行かなかったようで、今回は新
たに脚本家として、1998年『ムーラン』や、1999年『トイ・
ストーリー2』などを手掛けたリタ・シャウの起用が発表さ
れている。
 オリジナルは、1965年から70年に放送されていたもので、
そのお話は、古代ペルシャの魔法使いの王女が魔法の壺に閉
じ込められ、そのまま現代に来てしまうというもの。そして
その壺が南海の孤島に不時着したNASAの宇宙パイロット
に拾われ、開封されたことから、開封したパイロットを主人
と認めた古代の魔女が最新の科学の粋が集まるヒューストン
に来てしまう。
 こうして、古代ペルシャの魔法と現代科学が共存すること
になるが…オリジナルではこのジニー役を、アーウィン・ア
レン監督の『海底探検』や『気球船探検』にも出演していた
バーバラ・イーデンが演じて、先に映画化された『奥様は魔
女』よりさらに過激なシチュエーション・コメディが展開さ
れていたものだ。因に、当時はイーデンのハーレム風の衣裳
にも人気があった。
 その映画版に新たな脚本家が契約したものだが、実は今回
の契約では、脚本家から映画化に向けた物語の概要が製作者
の許に届けられ、それがジニーのキャラクターを見事に活か
し切ったものだったことから、直ちに契約が行われたとのこ
と。その製作者の1人のシド・ゲインズは、「彼女は、聡明
で、新鮮で、驚くべき方向性をジニーの物語にもたらしてく
れた。それは我々が望んでいた全てのものを網羅していた」
として、そのアイデアを絶賛しているものだ。
 チャーダ監督は既に離れていると思われ、キャスティング
も未定の状況だが、以前の報告の当時には、リンジー・ロー
ハン、ジェニファー・ガーナー、ケイト・ハドスンらがこぞ
って主演を希望し、さらにキーラ・ナイトレーやジェシカ・
シンプスン、ジェシカ・アルバの名前も挙がったもので、今
度はいったい誰の名前が出てくるかも楽しみなところだ。
        *         *
 『ブレイブ・ワン』のニール・ジョーダン監督が、カンヌ
映画祭のマーケットで、新作“Ondine”の製作資金調達に成
功し、7月中旬からの撮影開始を発表した。
 『オンディーヌ』という題名は、日本では劇団四季の公演
でも知られるジャン・ジロドゥの舞台劇が有名だが、今回の
作品はジョーダンのオリジナル脚本によるもの。ただしその
物語は、アイルランド人の漁師が海で魚網に掛かった少女を
救い上げたことから始まり、この少女が水の精オンディーヌ
だったという展開になるようだ。そしてこのオンディーヌの
存在が、漁師自身や彼の住む町の人々を変えて行くというも
のになるそうだ。
 また発表されている配役では、オンディーヌ役をポーラン
ドの新星アリーシャ・バケレーダが演じ、漁師役には“The
Imaginarium of Doctor Parnassus”を撮り終えたコリン・
ファレルが扮することになっている。
 ジロドゥの戯曲は、水界の王との契約など、『人魚姫』に
も似たファンタスティックな要素も一杯の作品だが、そこか
ら想を得たと思われるジョーダンの作品はどのような物語を
描き出すか。1984年『狼の血族』や1994年『インタビュー・
ウィズ・ヴァンパイア』などファンタシー作品の実績もある
ジョーダンの新作には期待したいところだ。
        *         *
 1993年のデビュー作“Boxing Helena”ではいろいろ物議
を醸したジェニファー・チェンバース・リンチ監督が、東洋
の伝説に基づく新作“Nagin”の撮影を7月にインドで開始
すると発表した。
 この作品は、極東の蛇女の伝説に基づくということだが、
その蛇女は人間に化身するとのことで、どうやら中国の説話
『白蛇伝』の映画化のようだ。因に、この『白蛇伝』の映画
化では、1958年公開の東映動画のアニメーション作品が有名
だが、それ以前には1956年に円谷英二の特撮による東宝映画
『白夫人の妖恋』も製作されているものだ。
 その物語を、今回はリンチ監督がインドで撮影するとのこ
とで、まずどんな作品になるか楽しみなところだが、さらに
主演には、ミラ・ナイール監督の『その名にちなんで』や、
“Shantaram”にも出演予定のイルファン・カーンと、ジャ
ッキー・チェン主演の香港映画『神話(The Myth)』などに
も出ているマリカ・シュラワトという2人のインド人俳優が
起用されており、ハリウッドの監督とインド映画(ボリウッ
ド)の俳優がコラボレートする計画としても注目されている
ようだ。
 なお、デヴィッド・リンチ監督の娘でもあるジェニファー
は、デビュー作の後はしばらく作品がなかったが、今年はす
でに“Surveillance”という作品を完成させており、ジュリ
ア・オーモンドとビル・プルマンの主演で、データベースの
ジャンル分けではSFという文字も見えるこの作品は、9月
に全米公開の予定になっている。
        *         *
 2部作が予定されている“The Hobbit”の情報で、『LO
TR』の3部作で白の魔術師サルマンを演じたクリストファ
ー・リーが出演に期待を寄せているとのことだ。
 この他、3部作に出演したケイト・ブランシェット、ウー
ゴ・ウェーヴィング、ヴィーゴ・モーテンセン、オーランド
・ブルームも同様の発言はしているようだ。ただし、原作の
『ホビットの冒険』には、主人公のビルボ・バギンズとスメ
アゴル=ゴラムの他には、イアン・マッケランが演じたガン
ダルフと、ウェーヴィングのエルロンドは登場するものの、
他のキャラクターで共通しているものはいない。
 ところが今回の映画化では、第2部として『ホビットの冒
険』と『旅の仲間』を繋ぐ物語を新たに作り出すことになっ
ており、その参考とされるJRR・トーキンが残した膨大な
下書きの中には、モンドールの勢いが増してきたことを懸念
する会議の模様などがあって、その設定を用いると以後の人
物たちも登場してくることになるようだ。
 ということでいろいろなキャラクターの再登場がありそう
な新作だが、ただキャラクターが顔見せするだけでは物語は
できない訳で、そこからの展開をどうするかが脚本家の腕の
見せ所となるものだ。その脚本は、ピーター・ジャクスンの
監修の許、ギレルモ・デル=トロが執筆中となっている。
 なお、すでに共通しているキャラクターの内で、スメアゴ
ルに関してはアンディ・サーキスが再演することになりそう
だ。しかし若き日のビルボ役ではイアン・ホルムが全部演じ
ることは無理なようで、この役には『ナルニア国物語/ライ
オンと魔女』でタムナスさんを演じたジェームズ・マカヴォ
イが起用されるという噂も出てきている。
 製作のスケジュールとしては、2009年一杯を準備に充て、
撮影は2010年に2作分を一気に行う。そして第1部の公開は
2011年に予定されているものだ。
        *         *
 昨年10月15日付第145回で紹介したダグ・リーマン監督、
ジェイク・ジレンホール主演の“Untitled Moon Project”
に、ダン・マゼウという脚本家の参加が報告された。
 この計画は、リーマン監督と『ブラックホーク・ダウン』
などのマーク・ボウデンが脚本を進めていたものだが、どこ
かで手詰まりになったようで、新たに脚本家が招請されたも
のだ。因にマゼウは、これまでに実現した作品はないようだ
が、現在ワーナーが進めているハナ=バーベラのアニメシリ
ーズを原作とする“Jonny Quest”の実写映画化にも関って
いるとのことで、実力は評価されているようだ。
 なお物語は、個人的な月遠征と月面の植民地化を題材にし
たものとされており、ドリームワークスでの製作が進められ
ている。
        *         *
 最後に、このページの基にしていたキネマ旬報の連載ペー
ジが、今回の対応分となる7月下旬号で終了となりました。
このページは掲載量の少ない連載の補完を目的として始めた
ものですが、今後はそれに囚われずに情報を紹介していきた
いと思っています。今後ともよろしくお願いします。



2008年06月14日(土) Movie-High 8、愛流通センター、コドモのコドモ、Made in Jamaica、《a》symmetry、ストリート・レーサー、Sex and the City

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介しています。     ※
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
『Movie-High 8』
ニューシネマワークショップの生徒さんたちの発表会。例年
は2日間ほど出席して相当数のプログラムに観させてもらっ
てきたが、今回は個人的な都合で1日2プログラムのみの鑑
賞となった。観させて戴いた<クリエイタープログラム >
6作品と、<HDプログラム>4作品の個々の感想を書かせ
てもらいます。

<クリエイタープログラム >
「塩ラーメンのレシピ」は、アイデアとしては有り勝ちだと
思います。特に、キーとなる隠し味を先にあそこまで明瞭に
出してしまうと、落ちのネタが割れてしまいます。最後は、
別の隠し味で評価が変わってしまうとか、そんなもう一捻り
が欲しかった感じですね。
「フト気づく女はいない」のアヴァンギャルドな感じは、僕
の好みです。一般的な評価はなかなか得られないものかも知
れませんが、こんな感覚を一般映画の中にスーっと入れられ
ると良いですね。『地下鉄のザジ』とか思い出しました。頑
張って欲しいです。
「ピンクの傘」は、実体験の基づく作品の強みでしょうか、
全体に自然な感じが良いですね。ただ、このような思い出が
関わる傘を、果たして自分で使えるかどうか。ちょっと気に
なりました。作者は平気だった訳でしょうが、気にする人も
いると思います。その辺も気にしてください。
「ドントレットミーダウン」は、何も始まらないし、何も終
わらない、人生の一駒といった感じですね。そんな一駒が丁
寧に捉えられているのは感心しました。でもこれだけで評価
を下すのは難しいです。もっと別の作品を見せてもらいたい
ものです。
「コロッケじゅっ」も前の作品と同じですね。この種の作品
で子役を使うのは、いずれにしても評価は受けやすいでしょ
う。特に本作の女の子は良かったです。ただこの物語では、
調理の前に手を洗うシーンを入れて欲しかったですね。そう
いう基本を押さえるのも、映画の基本だと思います。
「不法投棄の夜」は、観ながら蒼井優主演の新作を思い出し
てしまいました。もちろん関係は全く無いのだけれど、タイ
ミングというのは恐ろしいものです。ただ、運び出す物が多
い割りにそこにドラマがあまり無くて、時間ばかり食ってい
るのはもったいないですね。そこに何か工夫が欲しかった。

<HDプログラム>
「生活」は、今回観せてもらった10本の中では一番注目した
作品でした。物語のアイデアも素晴らしいし、演出、演技も
良かった。それに何よりレクイエムの気持ちが見事に表現さ
れている感じでした。25分は今回観た中では一番長い作品で
すが、一番短く感じられました。
特に、モノクロとカラーで滅り張りを付けたり、ちょっとホ
ラー的な演出もあったり、その辺のバランスも良くて、上映
後の監督のコメントはかなり控え目でしたが、短編映画とし
ては見事に完成されていると思いました。
「猫のひげ」「じっちゃん」。という訳でこの2本は、上の
作品の後に上映されたもので、僕的にはかなり不利だったと
思います。どちらも人生の一瞬という感じの作品で、短編映
画としての面白さは充分だったと思いますが、もう一歩、何
かアピールするものが欲しかった感じです。
「シミル」は、テスト的に撮られた作品ということを上映後
に聞かされて納得できました。ワンアイデアで、短時間で撮
られた作品ということでは良くできていると思います。技術
もいろいろ使っているようですし、特にHDは、これからど
んどん面白くなるはずですから、このプログラム全体も期待
したいものです。
以上、今回のMovie-Highも多いに楽しませてもらいました。
次回もよろしくお願いいたします。

『愛流通センター』
携帯電話向けの投稿サイトに掲載されたケータイ小説からの
映画化。
なおこの投稿サイトは、当初から映画化を目指して設定され
ていたそうで、その映画化が大手芸能プロダクションの協力
で実現したものだ。本作はその第1回作品とされている。
物語は、現在彼氏なしの女子高生が主人公。実は以前につき
あっていた彼氏には、今でも「やり直そう」とメールをして
いたが、彼氏からは返信が無いままだった。
そんな彼女はいつも神社で、「本当の愛が見つかりますよう
に」と願っていたが…。その彼女の携帯電話に、突然「愛流
通センター」と称する勧誘メールが届く。しかも誤って登録
してしまった彼女の許に、稲羽と名告る人の良さそうな営業
マンが現れた。
稲羽は彼女に「失った愛はすぐ取り戻せる」と説明するが、
半信半疑の彼女は直ぐには理解できない。しかし説得されて
稲羽の指示通りのメールを彼氏に送ってみると、何と彼氏か
らいきなりOKの返事が来てしまう。
こうして失った愛を取り戻した主人公だったが、それは彼女
の昔からの親友の愛を奪うことになってしまう。
原作者は執筆当時は10代の女性だそうだ。基本的には他愛な
い話ではあるが、ケータイストラップで相手の気持ちを察す
るなど、今の若者の視点がいろいろ取り入れられていて、そ
ういった点でも興味深い作品だった。
それに本作は、SFとまでは言わないがかなりファンタシー
の要素が強い物語で、それが今の若者にどんな風に受け入れ
られるのか、その辺にも興味を引かれるところだ。なお脚本
は、『アクエリアンエイジ』などのなるせゆうせいが担当し
ている。
実は、稲羽(イナバ)の名前が兎、先輩がサルタヒコ、上司
がスサノオといった具合で、大体その意味は見当が付くもの
だが、ちょっと『ベルリン天使の歌』のような趣があったり
もして、映画ファンとしてもそれなりに楽しめた。
その稲羽の役を、2007年『シルバー假面』などの水橋研二が
良い感じで演じている。

主演は足立梨花。昨年のホリプロスカウトキャラバンのグラ
ンプリ受賞者だそうだ。また、共演の前田公輝、入来茉里ら
もホリプロ所属の新人タレントとのことで、それを応援して
同プロの大物たちもゲスト出演で作品を賑やかしている。
その辺が、あまりこれ見よがしでなく扱われているのも、悪
い感じはしなかった。
ただし、エンディングの主題歌も同じホリプロ所属の森翼が
担当しているが、できたらここにはバンドをやっている設定
の主人公たちの歌も聞きたかった。それは物語の復習にもな
るし、主人公が一所懸命に書き上げた歌詞の歌が欲しかった
ところだ。
でもまあ、出演者の演技などはあまり気にならなかったし、
この線で頑張ってくれれば、この企画は今後もそれなりに楽
しめそうだ。

『コドモのコドモ』
小学5年生女子の妊娠・出産というセンセーショナルな内容
を描いた作品。
双葉社刊「漫画アクション」に2004年5月から05年7月まで
連載されたさそうあきら原作のコミックスの映画化。
実はこの発表媒体名などからは、かなり興味本位の作品を予
想してしまった。正直なところは、「そんな作品だったら嫌
だな」とも思いながらも試写会に向かったものだ。
しかし作品には、特殊だが絶対に無いとは言い切れないシチ
ュエーションの中で、大人と子供、特に子供たちが精一杯の
努力を繰り広げる見事なドラマが描かれていた。
主人公は、ちょっと勝ち気な感じの11歳の少女春菜。そんな
春菜は、内気でいじめられっ子のヒロユキをいつも庇ってい
た。そんな2人は校外でも一緒に遊ぶことがあったが、そん
な遊びの一つが「くっつけっこ」だった。
そんな2人もいるクラスの担任は、以前は東京の進学校にい
たという八木先生。進歩的な考えの先生はクラスで性教育の
授業を始めるが、周囲からは快く思われていない。ところが
その授業の中で、春菜は重大なことに気付いてしまう。
一方、春菜の姉の友達が妊娠中絶するという騒ぎが起こり、
春菜は自分の妊娠を真剣に考えなければならなくなる。しか
し、いろいろな騒ぎの中で家族や周囲の関心は彼女に向けら
れず、どんどん時が過ぎていってしまう。
自分が子育てをした親として、このように無関心でいられる
かということにはいろいろ考えてしまうところもあったが、
実は物語は見事に子供の視点に立っていて、その物語に引き
込まれて行く内に自分が親の立場であったことを忘れてしま
った。
それくらいに見事に子供のドラマが展開し、特にいろいろの
事情から子供たちだけで出産を行わなければならなくなって
しまう状況から、その後の事後処理に至るストーリーは、感
動的ですらあった。

もちろん、現実にはあってはならない物語だし、現実がこの
ようにうまく行くこともないお話ではある。しかし、そんな
言ってみれば反社会的な物語を、この映画は見事にメルヘン
として昇華させている。
しかもそこには、性教育の遅れが招く出来事としての批判的
な精神も明確にされており、全体として納得できる作品にな
っていた。

『MADE IN JAMAICA』“Made in Jamaica”
1970年代にピンク・フロイドなどのドキュメンタリーを手掛
け、80年代以降は第3世界を中心に活動を続けてきたフラン
スのドキュメンタリー監督ジェローム・ラペルザが、カリブ
海に浮かぶ独立国ジャマイカの現状とレゲエ音楽の歴史を追
った作品。
レゲエ音楽を追った作品は既に何本か見ているが、今回は本
格的なドキュメンタリストによる作品とのことで期待した。
しかしそれは、多分監督は「矛盾に満ちたジャマイカの現状
を描いた」と主張するのだろうが、観客にも混乱が避けられ
ない作品になっていた。
確かにジャマイカの現状は厳しいものであるようだ。そこに
は暴力や貧困が蔓延り、貧富の差も広がり続けている。そん
な中でのいろいろな意見を、レゲエ音楽のミュージシャンた
ちの発言と演奏で綴って行く。
だがこの作品で、その矛盾が充分に描き切れたかどうかは、
疑問に感じる。一方、この作品で監督は中立の立場を貫こう
としているようで、それはドキュメンタリーの基本のように
言われることもあったものだが、この作品にそのやり方が良
かったのかどうか。
確かに、マイクル・モーア式の自己主張だけの作品も困りも
のだが、詳しくは知らない国の状況を、このように羅列的に
事象だけを提示されても、一般の観客としてそれをどのよう
に解釈していいのか、それも解らなくなってしまう。
ましてや遠い日本の観客には…というところだが、作品自体
はレゲエの演奏をふんだんに取り入れたもので、それが楽し
みな人たちにはそれで充分なのかも知れない。でも、それが
この作品の評価になってしまうのは、果たして監督の意図な
のだろうか…
歴史の矛盾や宗教の矛盾、社会国家の矛盾までいろいろな矛
盾が描かれている。それが、ジャマイカという国を知る上で
重要なことであることは確かだろう。それを音楽に乗せて描
くと言うのは、方法論としては間違いはないと思う。
しかしこの国には、その矛盾が多すぎたようだ。その全てを
描き切ることには、この作品は必ずしも成功していないよう
に思える。ただ音楽を聴くだけならそれで充分な作品だが、
そこに描かれたものの重さを僕は消化し切れなかった。

『《a》symmetry』
高校時代にお互い写真部で実力を競った2人が、ある切っ掛
けで別々の道を歩んで行く。やがて2人は偶然の再会を果た
すが、そこにはいろいろなドラマが待ち構えていた。
主演の和田正人と荒木宏文は演劇集団のD−BOYSに所属
し、それぞれテレビシリーズの主演や準主演で、特に女性に
人気が高いようだ。そんな2人の共演作ということで、作品
のアピールしようとする観客層にはそれで充分というものだ
ろう。
ただし作品の内容には、現代社会が抱えるある種の矛盾点な
ども描き出して、それなりに観られるものになっていた。特
にジャーナリズムに関わるエピソードなどは、映画の製作が
出版販売の会社であることを考えると、面白くも感じてしま
うところだ。
脚本は、昨年堤幸彦監督の『自虐の詩』などを手掛けた関え
り香。他には『スシ王子』のテレビシリーズなども手掛けて
いるようだが、若い男性の心理なども巧みに描いて、本作で
も良い仕事をしている。
主人公はフリーライターの若者。彼は高校時代に写真コンテ
ストで受賞し、夢はプロカメラマンとして世界を撮影旅行す
ることだったが、現実は程遠く、風俗雑誌でグルメルポなど
を書いている。
そんな彼には、家庭教師をしたことが切っ掛けという恋人が
いたが、その彼女が若年性の乳ガンの疑いで入院。その病室
を見舞った主人公が担当医として紹介されたのは、高校時代
に写真の腕を競い合った親友だった。
こうして再会した2人は、昔通りの付き合いも再開するが、
2人の間には高校時代に秘められたある特別な思い出が存在
していた。そしてそれは、ある報道を巡って事件を起こすこ
とになって行く。
この特別な思い出というのは、最近の作品では有り勝ちで、
自分が男性の立場ではいろいろ考えてしまうものだが、この
作品の目指す女性の観客にはすんなりと受け入れられるもの
なのだろうか…その割りには映画の中での扱いはかなり微妙
にも感じられたが。

それはともかく、映画全体の流れは、それらを超越した友情
のような感じで描かれ、それはそれでうまく描かれている感
じがしたものだ。

『ストリート・レーサー』“Стритрейсеры”
『ワイルド・スピード』に触発されたと思われるストリート
レース物のロシア映画。
同様の作品では、先月も『レッドライン』という作品を紹介
したばかりだが、世間にカーマニアというのは相当多いもの
らしく、この手の作品は尽きないようだ。
とは言え本作はロシア映画ということで、その特徴みたいな
ものは出て欲しい訳だが、その初っ端に戦車レースが登場し
たのには恐れ入った。戦車レースと言っても『ベン・ハー』
ではなくて、キャタピラーの付いたタンクが原野でレースを
展開しているのだ。
しかも、その戦車レースが除隊の権利を賭けたものというの
も、如何にもロシアらしいと言うことになりそうだ。
こうして街に戻ってきた主人公が、ストリートレースに参加
して鍛えた腕を披露することになるが、そこにはレースに紛
れた犯罪の匂いもしてくる…と言うのは、まあこの手の作品
では通り相場の展開とも言えそうだ。しかもこの犯罪も、如
何にもロシアらしいとも言えそうなものだった。
ということで、かなりロシア、ロシアした作品だが、映画の
見所はストリートレース、及びそれを取り締まろうとする警
察との対決となる訳で、そのカーアクションがサンクトペテ
ルブルグの市街を背景に展開される。
その他にも、飛行場でのレースシーンや、郊外の自動車道で
の大型トラックを相手にしたアクションなども展開され、そ
れなりにアクション満載の作品になっている。
主演は、2001年のモントリオール映画祭で主演男優賞を受賞
しているというアレクセイ・チャドフ、相手役はハンガリー
出身というマリーナ・アレクサンドロワ。女優は日本人にも
好かれそうなタイプの人だ。
そして登場する車種は、フェラーリF348、トヨタ・セリ
カ、アルファロメオ155、メルセデスベンツ190E、日
産・フェアレディZ、マツダRX−7、BMW−Z3、スバ
ル・インプレッサ、トヨタMR2など。
これに1950年製のロシア車=ガズM20をチューンナップし
た車が、主人公の愛車として登場するのもご愛嬌だった。

『SEX AND THE CITY』
                 “Sex and the City”
1998年から2004年まで、アメリカをセンセーションに巻き込
んだ大人気テレビドラマの映画化。テレビシリーズの主人公
たちが全員再登場して、シリーズでは一応のハッピーエンド
だった物語のその後が描かれる。
実はオリジナルのシリーズは観ていないのだが、映画は予備
知識があまり無くても理解できるように作られている。もち
ろん解っていればもっと面白いのかも知れないが、それなり
に現代女性の本音のようなものも描かれていて、それは楽し
めた。
とは言え、これは間違いなく女性のための作品で、登場する
男性陣はかなりこけにもされるし、男性の観客はかなり自虐
的な思いにもなってしまうものだ。ただし、それが解ってい
て観に行けば、男性もそれなりに楽しめるようにも作られて
いるが…
物語の中心は、テレビシリーズと映画の製作者でもあるサラ
・ジェシカ・パーカーが演じるキャリー。彼女とMr.ビッグ
がついに結婚を決意することからドラマが始まる。この知ら
せに、サマンサ、シャーロット、ミランダの仲間が再結集す
るが…
これに、世間一般でもありそうなエピソードがいろいろ重な
って、人生のある時期に遭遇しそうな物語が展開して行く。
ただし、そこはニューヨークのセレブ社会が背景の物語で、
ファッションから何からが豪華絢爛。
特に、この映画化が発表されるや世界中から申し込みが殺到
したという有名ブランドが提供したファッションの数々は、
その辺に疎い男性としては、エンディングクレジットを観る
だけでも圧倒されるもの。女性にはそれを観るだけでも楽し
める作品となっている。
その為もあってか、ドラマ自体は多少軽めではあるけれど、
でもまあ人生の機微みたいなものもいろいろと描かれている
からそれなりには楽しめる。それに、ここにあまり重いドラ
マがあっても作品の趣旨には沿わないものだろう。
なお、物語の途中で主人公たちがメキシコ旅行をするエピソ
ードがあり、そこでメムバーの1人がMontezooma's Revenge
に遭ってしまうのは、いまだに通用する話なのだと再確認で
きて面白かった。



2008年06月08日(日) ゴーストバスター、クンフーファイター、ファイヤーライン、バグズ・W、赤んぼ少女、幸せの1ページ、R'nRダイエット、超ウルトラ8兄弟

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※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介しています。     ※
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『チャウ・シンチーのゴーストバスター』“回魂夜”
6月28日に開催される香港レジェンド・シネマ・フェスティ
バルの1本として上映される日本未公開作品。
同日に最新作の『ミラクル7号』が日本公開されるチャウ・
シンチーが、幽霊退治のエキスパートに扮して活躍する1995
年製作のホラー・コメディ。
とあるマンションに住む夫婦の息子に、亡くなったばかりの
祖母の霊が取り憑く。そこに幽霊退治のスペシャリストが現
れ、見事霊を追い祓ってくれるが…
『ミラクル7号』は『E.T.』からヒントを得たと公言して
いるチャウ・シンチーだが、本作は、邦題の基になっている
『ゴーストバスターズ』よりは、子供に霊が取り憑いたり、
テレビがそれに関わるなど、スピルバーグが『E.T.』と並
行して製作した『ポルターガイスト』に似ている。
といってもこの作品のチャウ・シンチーは主演しているだけ
で、脚本監督は2003年2月2日付で紹介した『クローサー』
(夕陽天使)の脚本も担当していたジェフ・ラウ。03年作の
ストーリー展開も面白かったが、本作もいろいろ捻りがあっ
て興味深いものだった。
共演は、『少林サッカー』にも出ているウォン・ヤッフェイ
と、『クローサー』に出演のカレン・モク。因に、カレン・
モクは『少林サッカー』にもゲスト出演して、その際にはチ
ャウ・シンチーの元恋人と書かれたが、本作がその恋人だっ
た当時の作品のようだ。
なお、物語は捻りがあると書いたが、実のところはかなりシ
ビアな部分もあって、正直に言ってお笑いばかりの内容では
ない。もちろんコメディの要素も多くはあるし、それだけで
楽しんでも良い作品ではあるが、ちょっと考えさせられるも
のも含んでいた。
全体のテーマは多少くらい感じもするが、チャウ・シンチー
の作品はどれも、ただ面白いというだけではないものを持っ
ており、そのベースみたいなものがここにあるのかも知れな
いとも思わせてくれる作品だった。
なお、原題の「回魂夜」は、死者が7日目に現世に戻ってく
るという中国の言い伝えに基づくようだ。

『裸足のクンフーファイター』“赤脚小子”
6月28日に開催される香港レジェンド・シネマ・フェスティ
バルの1本として上映される日本未公開作品。
2006年9月30日に紹介した『エレクション』(黒社會)など
のジョニー・トー監督による1993年作品。古装アクションと
呼ばれるようだが、ちょっと昔の中国社会を背景にしたカン
フーアクション作品。
主人公は、故郷で父親直伝のカンフーを学んできた若者。し
かし履物も買えないほどの貧乏で、それゆえに学もない。そ
んな若者が、父親の一番弟子で街に出て地位に着いたはずの
男を訪ねて、とある街にやってくる。
その街では、家伝の染色法で他には真似できない製品を作り
出す染色工場を巡って、その工場を買収しようとしている町
の顔役らと工場の女主人との闘いが続いていた。そして主人
公は、その染色工場の用心棒として暮らしている一番弟子の
男と再会するが…
主人公は訪ね先の住所も読めないほど学が無く、それでも純
真無垢な人柄から誰にも愛される。そしてせめて自分の名前
ぐらいは書けるようになろうという努力もするが、しかしそ
の無知を悪人たちに利用され、それが悲劇を生んで行くこと
になる。
元々90年代カンフー映画の傑作として知られていた作品のよ
うだが、いろいろあって日本での公開は見送られていたよう
だ。ただ「泣けるカンフー映画」として、その名のみ有名な
作品だったとされている。
お上に通じている顔役と、そこに送り込まれた非力な官吏な
ど、日本の時代劇を見ているような設定には、単純な勧善懲
悪ものかと思いきや、無学ゆえに悪人に利用されるという悲
劇的なテーマが、かなりに胸に響く作品にもなっている。
それに加えて、『風雲ストームライダース』のアーロン・ク
ォックや、『男たちの挽歌』のティ・ロンらの見事なカンフ
ーアクションも見られるものだ。
2002年のチャン・イーモウ監督『HERO』などに出演の名
女優マギー・チャンが共演。また1978年『少林寺三十六房』
などを監督したラウ・カーリョンが武術指導を務めている。

『ファイヤーライン』“十萬火急”
6月28日に開催される香港レジェンド・シネマ・フェスティ
バルの1本として上映される日本未公開作品。
ジョニー・トー監督による1996年作品。自らの危険を顧みず
火災の中に飛び込んで行く消防士たちの活躍と、その裏にあ
る苦悩を描いて行く。
1991年にハリウッド映画の『バックドラフト』があって、そ
の同工異曲の作品ではあるが、描かれる大掛かりな火災シー
ンが、おそらく本物の火を使って撮影されているもので、そ
の迫力はかなりすごいものになっている。
主人公は、香港のとある消防署に勤務しているベテラン消防
士。昇任試験は受けているが、まず人命救助を優先し、直感
に頼って上司の命令に従わないそのやり方は、上からは良く
は思われていない。
しかし彼の行動は、同僚の消防隊員たちからは信頼されてお
り、彼らは共に窮地に飛び込んで行くことを躊躇しない。そ
んな主人公だったが、ある日、自殺しようとした女医を救助
したことから恋に落ち、ようやく人生の花を咲かせようとす
るが…
そんな時、違法建築された巨大工場で大規模な火災が発生。
その現場に急行した隊員たちは、上司の命令を無視して、取
り残された人々の救助のため果敢に火中へ飛び込んで行く。
だが、そこには想像を絶する困難が待ち構えていた。
この後半約40分間を占める大火災のシーンが見事に映像化さ
れている。しかもここでの展開は、出される上司の指示も状
況を考えれば納得できるものだし、それに対立する主人公た
ちの行動も現実的で無理の無いものになっており、この辺の
脚本は良く練られているように感じられた。
まあ、いろいろやりすぎの感じがする部分もない訳ではない
が、実際の火災の現場も恐らくはこんなものなのだろうし、
その雰囲気は体感できたものだ。
出演は、ラウ・チンワン、レイモンド・ウォン、アレックス
・フォン、カルメン・リー。いずれも日本での知名度は低い
人たちのようで、製作当時に日本公開されなかったのは、そ
の辺にも理由があったようだ。でも迫力満点のアクションは
見事だった。
なお、物語の中で主人公たちの所属する消防署の名前が何か
縁起の悪いことに関わる邪揄の対象になっているようで、そ
れが劇中何度か言及されていた。しかしその辺が字幕ではち
ょっと分り難く、映画を観ながら気になった。これは一体何
だったのだろうか?

『バグズ・ワールド』“La Citadelle assiégée”
西アフリカの内陸国ブルキナファソのサバンナを舞台に繰り
広げられる蟻たちの闘いを描いたドキュメンタリー。
サバンナに巨大な蟻塚を作り上げたオオキノコシロアリ。そ
の近くには別の蟻塚もあって時々襲われるが、白蟻の防御は
固く、中まで侵入されることはない。しかし、嵐の際に近く
の樹に落雷があり、倒木によって蟻塚の上部が崩されてしま
う。
このため雨水の侵入を食い止められなかった蟻塚は、内部か
ら崩壊の危機に陥るが、そこは働き蟻たちの奮闘によって最
悪の事態は回避される。だがその樹には巨大なハゲワシが留
まり、何やら不穏な雰囲気が漂い始める。
一方、サスライアリの大群が食料を求めてその地域に近づい
てくる。奴らは向かうところ敵なしで、巨大な蛇なども集団
で襲って食い尽くしてしまうほどのものだ。そして奴らはシ
ロアリの蟻塚を発見する…
最近流行りのいろいろな演出も含めたネイチャー・ドキュメ
ンタリーで、本作ではボロスコープと呼ばれるファイバース
コープを応用したHDカメラを用いて、蟻塚の内部までレン
ズを入れていろいろな自然界のドラマを写し出して行く。
蟻が登場する映画というと、1954年ジョージ・パルの『黒い
絨毯』(The Naked Jungle)が思い浮かぶところだが、もう
1本、1974年公開の『戦慄!昆虫パニック』(Phase IV)も
SFファンには記憶される作品だろう。
どちらも、社会化された蟻の驚異的な集団生活が実写映像を
絡めて写し出されたもので、人間ドラマを描いたフィクショ
ンの中に、ドキュメンタリーの要素が見事に納められていた
作品だった。
本作はその中から人間のドラマを抜いたものとも言えるが、
蟻の驚異的な生態はいろいろと描かれている。ただまあ、ど
こまでが演出で、どこからが自然かと言うと微妙なところも
あって、特に水害の前後のシーンでは明らかに逆に編集され
ているところも観られた。
とは言え、蟻の生態と言うのはいつ見ても興味深いもので、
この作品を観てそれに興味を持ってくれる子供が増えてくれ
れば、それは嬉しいことだ。因に自宅近くの遊園地に併設さ
れた昆虫館で予告編が流されていたそうで、それは良い宣伝
になりそうだ。

『赤んぼ少女』
楳図かずお原作のホラーコミックスを、『魁!!クロマティ高
校』などの山口雄大監督が、野口五郎、浅野温子、生田悦子
らの出演で映画化した作品。
第2次大戦が終って10数年が経った頃の物語。戦時の混乱で
生き別れになり孤児院で育てられた少女が家族に発見され、
山里に建つ洋館の屋敷に帰ってくる。そこには、女性の執事
と美術品コレクターの父親と、子供を失ったショックで気が
変になった母親とが暮らしていた。
そんな家で少女は必ずしも歓待されてはおらず、父親だけが
庇護者のように見えた。そして少女は、その家に何かがいる
気配を感じ始める。それは最初はただの思い出だけが残って
いるようにも見えたが…
脚本は、『Sweet Rain』『L change the World』なども担当
した小林弘利。1986年『星空のむこうの国』以来観ている脚
本家で、まあ多少の当たり外れはあるが、概ねSFファンに
は納得できる作品を手掛けている。
山口雄大監督は、2005年5月にも楳図原作の『プレゼント』
の映画化を紹介しているが、今回は前回ほどのスプラッター
ではないものの、そこそこの描写も含めながら恐怖映画の演
出を手堅く見せている感じのものだ。
ということで、どちらも期待している脚本家と監督の、多分
初顔合せとなる作品のはずの作品だが、その出来は手堅く、
特に楳図作品に欠かせない薄幸の少女の存在が、丁寧に描か
れているのは好ましく感じられた。
この少女役を演じているのは水沢奈子。「制コレGP」出身
の雑誌モデルだそうだが、すでにテレビドラマや映画の経験
もあるようで、ちょっと古風な顔立ちも物語にマッチして、
なかなか良い雰囲気で演じていた。
とは言えこの作品の登場人物では、タイトルロールの「赤ん
ぼ少女」の存在が最重要で、これを、2006年7月に紹介した
『MEATBALL MACHINE』でも山口監督に協力している西村善廣
が、造形から特殊メイクまでの技術を使って描いている。
この哀愁の込められたキャラクターは、ちょっと続編も期待
したくなるものだった。

『幸せの1ページ』“Nim's Island”
オスカー女優のジョディ・フォスターと、2006年『リトル・
ミス・サンシャイン』の演技で、11歳でオスカー助演賞の候
補になったアビゲイル・ブレスリンの共演作品。
フォスターが演じるのは、世界を巡る冒険家アレック・ロー
バーの活躍を綴ったベストセラーシリーズを生み出した人気
作家。ところが本人は、戸口の郵便受に行くこともできない
ほどの大の広場恐怖症だった。
一方、ブレスリンが演じるのは、南太平洋の絶海の孤島に住
む少女。海洋生物学者の父親と2人暮らしだったが、ある日
のこと、父親がヨットで外海に出たまま無線が途切れ、帰港
予定を過ぎても帰って来ない事態になる。
そんな時、1通のメールが届く。それは新作の構想に行き詰
まった作家が、少女の父親の論文を目にし、ヒントを求めて
アレックス・ローバー名義で送信したものだった。そして、
そのメールに父親に代って答えようとした少女は、誤って怪
我をしてしまう。
そこで、ローバーを実在と信じている少女は、怪我の手当の
方法を尋ねたメールを彼宛に打つが…そのメールを見た作家
は、怪我をした少女が1人ぽっちで絶海の孤島にいることに
気付いてしまう。
この作家が止むに止まれず始めた行動と、島に訪れる飛んで
もない危機の様子が並行して描かれて行く。果たして作家は
島にたどり着き、少女を危機から救うことはできるのか…
お子様向けという意識なのか、上映時間が1時間36分と短く
て、その分変な溜めもなく、物語はサクサクと進んで行く。
それが多少物足りなくもあるが、何しろフォスターもブレス
リンも楽しそうで、特にブレスリンは、元々動物好きとのこ
とで、トカゲやアシカとの共演も嬉しそうだった。
共演は、『オペラ座の怪人』のジェラルド・バトラー。映画
には、ツリーハウスや森に作られた仕掛けなど、1960年のデ
ィズニー映画『南海漂流』を思い出させる楽しさもある。
脚本と監督は、夫妻コンビのジェニファー・フラケットとマ
ーク・レヴィン。2004年キルスティン・ダンスト主演の『ウ
ィンブルドン』の脚本でも知られる彼らは、この後、日本で
はお正月公開予定の『センター・オブ・ジ・アース3D』の
脚本も手掛けている。

『ロックンロール・ダイエット』
コラムニストの中丸謙一郎著による同名のダイエット本を原
作とする映画化作品。なお原作は、半年間で約15kgやせたと
いう筆者のダイエット実践本だそうだ。
ただし、原作は物語ではなくマニュアル本だそうで、映画化
ではそのタイトルから物語を作り出している。その脚本は、
2003年に原口智生が監督した『跋扈妖怪伝・牙吉』なども手
掛けている神尾麦。神尾は他にシリーズアニメの『銀河鉄道
999・外伝』なども手掛けているようだ。
物語は、昔は格好良いロックンローラーだったが、妻と2人
の娘の家庭が生み出す幸せ太りで、今や完全にヘヴィ・メタ
ボリックになっている主人公が、一念発起ダイエットに挑戦
すると言うもの。そこに長女のデビューライヴや謎のロック
娘などの話が絡む。
主人公を演じるのは嶋大輔。元ロッカーで、しかも現在はヴ
ァラエティ番組などでメタボを邪揄されている体型だから、
これは正に適役というところだろう。それに劇中にはギター
の演奏シーンもあるから、これもできる人でないといけない
ところだ。
そしてこのバンド演奏シーンでは、共演の長澤奈央がかなり
良い雰囲気で、今年2月に紹介した『Girl's BOX/ラバーズ
・ハイ』にも出演していた元東映戦隊シリーズのヒロインが
頑張ってくれている。
その他の出演者は、妻役に三原じゅん子と、2人の娘役に波
瑠と紗綾。またバンド中間の役でウガンダ・トラが出演して
いて、これが遺作になったようだ。
まあ、音楽を中心とした家族ものということでは、在来りの
ストーリー展開というところではあるが、演奏シーンはさす
がだし、特に、長澤も入って途中から替え歌になるライヴの
シーンは、主人公と似た環境にいる者にはちょっと身につま
されるところもあった。
ただし、原作が実践本という割には、ダイエットのシーンが
断食と過酷な運動だけというのはちょっと物足りないところ
で、これでは、プレス資料にある「ダイエットは正真正銘の
ロックなのだ」という原作のスピリットがあまり出ていない
ような気がした。
原作本が再刊もされるほど実践的なものであるなら、もっと
特別なロックなダイエット術が描かれているのではないかと
思えるものだが、映画にもそれに則したシーンを描いて欲し
かったところだ。
つまりこの映画では、ダイエットのマニュアルの部分も示し
て欲しかったもので、それが、本来この映画の狙うべき中高
年男性層の観客も望むところだったと思うのだが。


『大決戦!超ウルトラ8兄弟』
1966年に放送開始された『ウルトラマン』から4代目『エー
ス』までの『セブン』を含む最初の4人と、1996年に放送開
始された『ティガ』から、『ダイナ』『ガイア』までの平成
ウルトラマンの初期3人、それに一番新しい『メビウス』の
8人が揃う劇場作品。
因に、最初の4人と『メビウス』が登場する作品は2006年に
あるようだが、今回はさらにそれに平成の3人が加わってい
るものだ。しかも、その8人の人間としてのキャラクターと
『メビウス』以外のヒロインたちも、全員がオリジナルの配
役で勢揃いしている。
物語の主人公は、横浜市観光課職員のマドカ・ダイゴ。彼の
周囲には、子供の頃一緒にテレビで『ウルトラマン』を観た
幼馴染みのアスカや我夢がいて、さらにその周りには、ハヤ
タ、モロボシ、郷、北斗といった人たちがいた。
しかしここは、ウルトラマンが空想の物語でしかない世界。
そんな世界で、ダイゴは子供のころ抱いていた宇宙船の船長
の夢を忘れ、アスカや我夢もまた子供の頃の夢を果たせずに
いた。そしてハヤタたちも普通の人間の生活を送っていた。
ところがその世界に、突如巨大生物が出現し、それを追って
ウルトラマンメビウスが登場する。
このダイゴをV6の長野博が演じ、アスカはつるの剛、さら
に黒部進、森次晃嗣、団時朗らが出演。そして、桜井浩子、
ひし美ゆり子、榊原るみ。その他、二瓶正也、佐原健二、木
之元亮がカメオ出演して、ナレーターは石坂浩二が担当して
いる。
まあ、ここまで来るとある種のお祭り騒ぎで、昔からの視聴
者としては、それぞれの顔を見るだけでも嬉しくなってくる
ものだ。特に、万城目淳がSF作家として登場したのは笑え
た。他にも、いろいろなオマージュが捧げられている。
対する怪獣は、『マン』のゲスラ、『セブン』のパンドン、
それに『ティガ』のシルバゴンとゴルドラス。さらにそれら
を操るヒッポリト星人は『エース』、影法師は『ティガ』か
らの登場で、新旧取り混ぜてあるようだ。
そしてこれらの闘いの背景を、ミニチュアセットやCGIも
使ってかなり豪華に作り上げている。特に、巻頭で1966年の
横浜の風景をCGIで再現したシーンや、後半の闘いの場と
なる横浜倉庫街のミニチュアは嬉しくなるものだった。
お話の設定もなかなか洒落ているし、特にベテラン出演者た
ちの同窓会のような楽しさは、こんな場を用意してくれた円
谷プロにも拍手を贈りたいところだ。
なお、『ウルトラマンティガ』の主題歌をヒットさせたV6
新曲の主題歌がエンディングを飾っている。



2008年06月01日(日) 第160回

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※このページは、キネマ旬報誌で連載中のワールドニュー※
※スを基に、いろいろな情報を追加して掲載しています。※
※キネ旬の記事も併せてお読みください。       ※
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
 今回も記者会見の報告から。
 まずは5月19日に、『カスピアン王子の角笛』の出演者及
び監督と製作者による記者会見が行われた。この会見では、
新しい情報はあまりなかったが、会見中ルーシー役のジョー
ジー・ヘンリーから、「次の撮影では監督も年長の兄姉もい
なくなるけど頑張りたい」との発言があった。この発言は、
第3作では原作通り4兄弟の内の年長の2人は登場せずルー
シーとエドマンドが中心になることを示しているが、同時に
監督のアンドリュー・アダムスンの降板も明白になった。
 因に次回作の監督には、『007/ワールド・イズ・ノッ
ト・イナフ』のマイクル・アプテッドの起用が報告されてい
るものだが、今回の発言でそれは確定と考えていいようだ。
しかし、物語についてはまだ情報が交錯しており、第3作の
映画化が、“The Voyage of the Dawn Treader”の単独にな
るか、あるいは“The Silver Chair”を併せたものになるか
は明瞭ではない。実は会見では製作者からのその辺の発言も
期待したが、それは出なかった。なお第3作の全米公開は、
2010年5月7日の予定になっているものだ。
        *         *
 記者会見はもう一つ、5月28日に『シティ・オブ・メン』
の監督パウロ・モレッリの会見も行われた。ここでは、自分
で気になっていた前作『シティ・オブ・ゴッド』及びテレビ
シリーズとの関係について質問してみた。その回答は「製作
会社は同じだが、2本の映画は別々の物語だ。また前作では
背景でしか描かれなかった家族の問題を、本作では主に描こ
うとした。メイレレスの作品はhopelessだったが、自分の作
品には希望を込めた」とのことだった。この回答は先に掲載
した映画紹介でも予想していた通りだったが、その裏付けが
取れた感じがしたものだ。
 なおこの質問では、一緒に1959年のマルセル・カミュ監督
作品『黒いオルフェ』(Orfeu Negro)との関連についても
聞いてみたが、監督は「リオのファヴェーラは文化の一つと
言えるものだ。しかしその文化も変化して行く」と答えたの
みで、あまり一緒には論じて欲しくない雰囲気だった。確か
に50年も昔の作品を引き合いに出されるのも迷惑なことかも
知れず、これは当然反応だろう。以後は気を付けたい。
 以上で記者会見の報告は終りにして、以下はいつもの製作
ニュースを紹介しよう。
        *         *
 まずは、ディズニーandジェリー・ブラッカイマー製作の
アクション・アドベンチャーで、昨年11月15日付の第147回
でも紹介したPCゲームの映画化“Prince of Persia: The
Sands of Time”の主演に、ジェイク・ジレンホール(この
ように発音するのが正しいらしい)の起用が発表された。
 ゲームの物語は、古代ペルシャの王子が、人類を滅亡させ
る砂嵐の発生を止めるために、地の果ての王国で大活躍する
というもの。そこには「時の砂」と呼ばれる時間の流れを司
る神秘の存在も関わってくるというものだ。
 この物語から、原作ゲームの制作者のジョーダン・メック
ナーと、2005年に第2次大戦を描いたオーストラリア映画の
“The Great Raid”を手掛けたキャロル・バーナードとダグ
・マイロのコンビ、それに2004年『ダンシング・ハバナ』な
どのボアズ・イェーキンが加わって脚本が書かれたようだ。
 なお、以前の紹介では、脚本家に『ザ・デイ・アフター・
トゥモロー』のジェフリー・マクマノフの名前が挙がってい
たが、その脚本はキャンセルされたらしい。デザスタームー
ヴィの脚本家から、戦争映画と風俗映画の脚本家への交替に
はどんな意味があるのだろうか。
 監督は、『ハリー・ポッターと炎のゴブレット』や、今夏
公開の『コレラの時代の愛』などのマイク・ニューウェル。
文芸作品の演出が続いた監督に、ゲームの映画化は期待した
いところだ。また、相手役には『007』の新作にも出演し
ているジェマ・アータートン、さらにベン・キングスレー、
アルフレッド・モリーナらの共演も発表されている。撮影は
7月開始、公開は来年夏の予定だ。
 因に『ゾディアック』でも注目されたジレンホールだが、
以前はインディーズ系の人気スターという感じが強かった。
しかし、2004年の『スパイダーマン2』製作時には、撮入直
前に負傷したトビー・マクガイアに代って主演が噂されたこ
ともあり、スーパーヒーロー役もおかしくはない。お姉さん
のマギーも“The Dark Knight”に登場したところで、そろ
そろ姉弟揃ってのブレイクを期待する時期のように思える。
この作品がその切っ掛けになれば素晴らしいことだ。
 なお原作のPCゲームは、1989年に第1作が発表され、以
来傍系作品を含めて6作以上が発表されているもので、ディ
ズニーでは映画版のシリーズ化も期待しているとのことだ。
        *         *
 14年前に計画が発表されて以来の懸案となっていたパオロ
・コエーリョ原作“The Alchemist”の映画化が、TWCを
率いるハーヴェイ・ワインスタイン自らの製作により進めら
れることが発表された。
 この作品については今まで紹介のチャンスがなかったもの
だが、原作の物語は、スペイン人の若者がエジプトのピラミ
ッドに隠された財宝を追跡するというもの。原作本は1988年
に発表以来、世界150ヶ国で出版され、累計で4000万部以上
が発行されているとのことだ。
 その映画化の計画は、14年前にワーナーで始められたが実
現せず。その後は俳優のローレンス・フィッシュバーンが、
インディーズ系のAマーク社と共同で権利を買収して、彼の
監督主演で計画。しかしこれもなかなか進まなかった。その
計画に今回はワインスタインが参画したもので、6000万ドル
とされる製作費はTWCが全額負担するとしている。
 またワインスタインは発表の中で、「西洋と中東との懸け
橋となる作品。原作は中東でも成功を納めているものだが、
西洋人はもっと中東を知らなくてはいけないし、懸け橋をさ
らに伸ばさなければいけない」として、この映画化の意義を
語っているものだ。
 なお、監督はフィッシュバーンがそのまま担当する予定だ
が、脚本には新たにオスカー受賞者の起用が考えられている
そうだ。また撮影は、スペイン、ヨルダン、モロッコ、エジ
プト、アブダビなどで行うとしている。因に以前の計画では
1億ドル以上掛かると言われていたこともあったようだが、
VFXの発達でこの種の作品の製作費が軽減されているとい
う状況もあるようだ。
        *         *
 1994年に映画化された『依頼人』などの作家ジョン・グリ
シャムによる最新ベストセラー小説“Playing for Pizza”
の映画化権が、7桁($)の金額で契約された。
 契約したのはマイク・メダボイ主宰のフェニックス・ピク
チャーズ。物語は、アメリカンフットボール(NFL)のベ
テラン選手が引退後にイタリアのセミプロチームに招かれる
というもので、正にタイトル通りのお話になりそうだ。
 グリシャムといえば、1993年映画化の『ザ・ファーム』か
ら2003年映画化の『ニューオーリンズ・トライアル』まで、
法廷/弁護士ものが有名で、特に1996年に映画化された『評
決のとき』では映画化権料が600万ドルで契約されるなど、
破格の契約金でも話題になっていた。
 その新作の内容は上記のものということで、従来のテーマ
からはちょっと外れている気もするが、それでもこの金額の
価値があるのだそうだ。因に契約したメダボイは、1988年に
ケヴィン・コスナーが主演した『さよならゲーム』のような
ハートに訴える作品になるとしている。
 しかしその一方で、通常6桁の原作料に対して、今回の契
約は「高過ぎる」という意見は依然根強いようで、これから
選ばれる脚本家には、かなりのプレッシャーになりそうだ。
 なお、グリシャム原作の法廷もの以外の作品では、2004年
に“Christmas with the Kranks”というコメディ作品が、
クリス・コロンバス脚本、ジョー・ロス監督で映画化された
が、日本では未公開で終っている。基本的にコメディの日本
公開は厳しいところがあるが、本作はどうだろうか。
        *         *
 『ランボー』や『ソウ』シリーズなども手掛けるライオン
ズゲート社が、スチュアート・ギブスという作家のデビュー
長編“The Last Equation”の映画化権獲得を発表した。
 小説は、E=MC²の方程式などでも知られるアルバート
・アインスタインが最後に考察していたとされる「パンドラ
方程式」の謎に迫るもの。その方程式は、原子力の利用を容
易にして、エネルギー問題を根本的に解決できるものだが、
その一方で原爆の製造も簡単にし、その悪用を恐れたアイン
スタインは、一旦解いた方程式を死の直前にすべて破棄した
とも言われているものだ。
 そして小説では、その方程式が再発見され、それを悪の組
織より先に解くために、逃亡中の犯罪者と数学の天才に助け
が求められるとなっており、『ダ・ヴィンチ・コード』のよ
うな一種知的なゲームが描かれることにもなりそうだ。
 またこの脚色には、前回ワーナーと宇宙SFのオリジナル
脚本“The Ditch”の契約を紹介したサッシャ・ペンの起用
が発表されている。因にペンは、2006年に“Unknown”と題
した別の脚本をライオンズゲート社に売り込んだことがある
そうで、それを気に入っていた同社の幹部が今回の起用を決
めたとしている。
 元々はドキュメンタリーの製作者という紹介のペンだが、
ホラー作品のリメイクを手掛けたり、SF/ファンタシー系
にも詳しいようだ。ちょっと期待して見ていたい。
        *         *
 テリー・ギリアム監督が、2000年に撮入後、挫折した映画
“The Man Who Killed Don Quixote”の撮影を、2009年に再
開するとの情報が伝えられた。
 この挫折に至る経緯は、ドキュメンタリー映画“Lost in
La Mancha”にもなったが、当時紹介された挫折理由の一つ
には、ドンキホーテ役で出演していたフランス人俳優ジャン
・ロシュホールの体調不良が挙げられていた。そして今回の
情報は、その役柄をイギリス人俳優のマイケル・ペイリンと
話し合っているというものだ。
 なおギリアムとペイリンはモンティ・パイソン時代からの
盟友でもあるが、実はペイリンは今年2月に映画界からの引
退を表明しているそうで、今回の情報ではその去就も注目さ
れている。しかし情報源のイギリス紙によると、ギリアムは
「ペイリンは映画にカムバックして、最高のドンキホーテを
演じてくれるはずだ」として、実現を確信している様子だと
いうことだ。
 この計画の再開の噂に関しては、クリストファー・リーが
ドンキホーテ役に立候補したなど、過去にも何度も報じられ
てきたが、いつも空振りだったもので、今度こそ実現となっ
て欲しいものだ。
 なお相手役には、もちろんジョニー・デップの再登場が予
定される計画だが、デップは、急遽出演したギリアム監督の
“The Imaginarium of Doctor Parnassus”に続いては、予
定通りマイクル・マン監督の“Public Enemies”の撮影に入
っており、その後は“Shantaram”“The Rum Diary”、また
“Sin City 3”“Dark Shadows”(ティム・バートン監督?)
など噂の計画も目白押しで、全ての計画が実現したら、その
スケジュール調整も大変になりそうだ。
        *         *
 お次は、往年のスーパーヒーローの映画化で、1930年代に
コミックスと連続活劇でも人気を博した“Flash Gordon”の
映画化権を、現在版権を所有しているハースト社からソニー
が争奪戦の末に獲得したことが発表された。
 この計画については、2004−05年頃にスティーヴン・ソマ
ーズ監督、ユニヴァーサル製作で進められていたことがあっ
た(第69回、第85回等参照)が、どうやらその時の契約の期
限が切れたようで、新たに権利の争奪戦が行われてソニーが
獲得したとのことだ。因に、契約金の金額は6桁($)で、
映画が完成したら7桁が支払われるとされている。
 またこの計画には、『サハラ』を監督したブレック・アイ
スナーの参加も発表されており、製作はソニーに本拠を置く
『バンテージ・ポイント』などのニール・モリッツの担当で
進めることになるようだ。
 オリジナルは、1934年にアレックス・レイモンドによって
始められたコミックスだが、1936年、38年、40年にバスター
・クラブ主演の連続活劇として映像化されて人気を博した。
また映像化では、1980年にディノ・デ・ラウレンティス製作
による大作映画化も話題になったもの。そのヒーローが装い
も新たに再登場することになりそうだ。
        *         *
 一方、同じくバスター・クラブ主演による連続活劇が評判
を呼んだ“Buck Rogers”にも映画化の計画が持ち上がって
いる。
 このオリジナルは、1928年のアメージング・ストーリー誌
にフィリップ・F・ノーランが発表した2篇の中編小説によ
るものだが、1929年に新聞の連載コミックスとして登場する
や絶大な人気を博し、33年にラジオドラマ化、そして39年に
はユニヴァーサルによる連続活劇が製作されている。なお、
33−34年に開催されたシカゴ万博に10分間のプロモーション
映画が上映されたという記録もあるそうだ。
 さらにこの原作からは、1950−51年と、79−81年にテレビ
シリーズ化もされているが、実は今回の映画化の切っ掛けと
なっているのは、1990年代にゲーム作家としても知られるフ
リント・デイルが発表したグラフィックノヴェルの存在で、
そのデイルの脚色と製作で計画が進められているものだ。
 そしてこの計画に、アクション映画専門のヌ・イメージス
/ミレニアムの参加が発表されて、本格始動となっている。
 またこの計画には、“Sin City 3”も進めているフランク
・ミラーの監督情報もあり、『300』の成功にも貢献した
ミラーの参加には期待が膨らむところだ。
 因に、ミラーの参加は以前から噂されていたものだが、つ
い先月にも否定のコメントが出されるなど、情報は交錯して
いた。しかし今回は、ヌ・イメージスの幹部が、「契約には
至っていないものの、最有力の候補だ」と発言しており、可
能性は高くなっているようだ。なお、映画の製作費には4000
万ドルが想定されているそうだ。
        *         *
 ところで、今回このようにスーパーヒーロー物の計画が相
次いだのは、『アイアンマン』のヒットの影響が大きいそう
だが、その製作会社のマーヴェルからは前回紹介したのとは
別の計画が発表されている。
 その作品は“Runaways”という題名のもので、本国の情報
でもあまり知られていないシリーズとされていたもの。しか
も、この映画化の脚色には、オリジナルのコミックスを手掛
けるブライアン・K・ヴォーンが起用されるとなっている。
つまり、あまり知られていないシリーズだから、原作者が脚
色するのが一番だが、特に映画の専門家でない人材を起用で
きるのも、ヒット作を生み出した自信の現れと言えそうだ。
 物語は、10代の若者たちのグループが自分たちの家族の秘
密に気付く。それは彼らの両親たちが、実は人類を敵とする
超悪人だったというもの。そこで彼らは家を飛び出し、彼ら
の両親の起源と自分たちに課せられた使命を探す旅を始める
…というものだ。かなり面白そうなお話だが、実はコミック
スの開始が2002年で、それでまだ知名度も低いのだそうだ。
 因にマーヴェルには、凡そ7500のコミックスシリーズがあ
るのだそうで、その多くは著名なものではない訳だが、今回
の“Runaways”のケースが成功したら、今後はそれらの作品
にも光が当たるチャンスが多くなりそうだ。
        *         *
 2005年12月紹介の『ジャケット』や、新作『告発のとき』
なども手掛けるサミット・エンターテインメントが、1986年
にラッセル・マルケイ監督でスタートしたファンタシー・シ
リーズ“Highlander”のリメイク権獲得を発表した。
 オリジナルは、クリストファー・ランバート、ショーン・
コネリーの共演で、謎の賞品を目指して永遠の戦いを繰り広
げる不死者たちの争いが描かれた。その後、物語はシリーズ
化され、その経緯は2004年9月15日付の第71回でも紹介した
ものだ。因にこのとき紹介した“Highlander: The Source”
とアニメーション作品は、それぞれ昨年6月と8月にイギリ
スで一般公開されており、この内“Highlander: The Search
for Venegeance”と題されたアニメーション作品は、今年の
7月に日本公開も予定されているようだ。
 そのシリーズのリメイク権だが、つまり計画はシリーズを
継続するのではなく1から始め直すもので、その脚本家に、
『アイアンマン』を手掛けたアート・マルカム、マット・ホ
ロウェイとの契約も発表されている。そして物語は、オリジ
ナルと同じく現代と中世のスコットランドを背景にするが、
オリジナルよりも広く世界中が舞台になるような展開が考え
られているそうだ。
 因にサミット社では、年間10−12本程度の中規模の作品を
配給して行く計画とのことで、本作もその一環となる作品だ
が、本作には特にシリーズ化の期待も持たれているものだ。
        *         *
 後は短いニュースをまとめておこう。
 2006年のヒューゴー賞長編部門を受賞したロバート・チャ
ールズ・ウィルスン作“Spin”の映画化権が、『最高の人生
の見つけかた』で主治医役を演じていたロブ・モロー主宰の
プロダクションと契約されたことが発表された。原作の物語
は、火星での生命の発見によって引き起こされた『スピン』
と呼ばれる人類滅亡の危機に対抗する若い科学者を描いたも
のとのことで、これだけでは何かさっぱり判らないが、原作
はこの後に“Axis”“Vortex”と続く3部作の第1話のよう
だ。因にモローは、2000年に“Maze”という作品の脚本、監
督、主演で映画祭の受賞なども果たしており、本作でも同様
の関わりが考えられる。
 フィリップ・K・ディック原作“Ubik”の映画化権が、昨
年10月に紹介した『ペルセポリス』などを手掛けるセルロイ
ド・ドリームスと契約され、2009年の製作を目指して進めら
れることになった。この原作の映画化については、昨年10月
15日付の第145回でも報告しているが、その時の状況とはち
ょっと違ってきているようだ。しかし、製作にディックの娘
さん達が参加していることは変わりないもので、その1人の
アイサ・ディック・ハケットからは「この作品は父が最も映
像化を希望していたもので、実現できることになって最高に
幸せ」というコメントも発表されていた。前回の報告との関
係がどうなっているか不明だが、問題ないことを祈りたい。
 今年のカンヌ映画祭コンペティションで上映されたアルゼ
ンチン映画“La Mujer sin cabeza”(The Headless Woman)
で脚本、監督を手掛けたルクレシア・マーテルが、次回作に
エイリアン侵略ものを計画している。“El eternauta”と題
された物語は、ブエノスアイレスが大雪に襲われるところか
ら始まり、それを生き延びた人々がエイリアンの侵略者や、
彼らが繰り出す巨大昆虫との戦いを繰り広げるというもの。
大掛かりなセットとVFXが駆使された作品になるそうだ。
南米の映画界もいろいろ面白そうで、日本でもぜひ公開して
欲しいものだ。
        *         *
 3月23日付で少し書いた熊本遠征記を、4月13日と20日付
の最後に掲載しましたので、興味のある方はご覧ください。


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井口健二