井口健二のOn the Production
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2007年11月30日(金) 線路と娼婦とサッカーボール、歓喜の歌、ミスター・ロンリー、アディクトの優劣感、裸の夏、カンナさん大成功です!、SS

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※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介しています。     ※
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『線路と娼婦とサッカーボール』
               “Estrellas de La Linea”
グアテマラの首都グアテマラ・シティのリネア(線路)と呼
ばれる貧民街に暮らす娼婦たちが、暴力や差別に苦しむ自分
たちの境遇をアピールするために結成したサッカーチームの
顛末を描いたドキュメンタリー。
バラックのような家並みの間に線路が敷設され、そこを貨物
列車が通り抜ける。こういう風景は過去にも何度か見ている
気がするが、本来なら線路に沿って進むはずの都市開発が、
どうした経緯でこんな貧民街を生み出すのか、いつも疑問に
思ってしまうところだ。
それはともかく、ここに登場する線路の沿線には娼婦たちの
仕事場が並んでいた。そこで仕事をする娼婦たちがサッカー
チームを結成、そのチームはサッカー協会にも登録されて公
式の試合に臨むのだが…
何たって娼婦が選手のチームだから、最初に試合をした女子
高校のチームの父兄からは抗議を受けるし、次の対戦相手は
警察チームだったりと、すったもんだが続いて行く。それで
もスポンサーも付いて遠征ではホテルに宿泊したり、結構夢
のような展開にもなる。
ところが、隣国エルサルバドルに同様のチームが結成され、
国際試合が申し込まれる辺りから形勢がおかしくなる。それ
で圧力も激しくなってきたのかスポンサーが撤退。それでも
彼女たちは、なけなしの物品を集めてバザーを開いて旅費を
造り出す。
そして、その試合のピッチに小さな国旗を持って入場する姿
は本当に誇らしげだ。
職業に貴賤はないと言いながら、この後、選手に逮捕者が出
たり、国外退去処分になったりで、チームはばらばらになっ
てしまったとエンディングでは語られていた。
なお作品中では、選手の娼婦が自分の境遇を語る場面や、一
番のサポーターと称する元娼婦で今は彼女たちに避妊具など
を売り歩いている片目の老女の生活ぶりなども登場して、彼
女らが訴える暴力や差別の実態も紹介される。
結局、彼女たちが起こした行動の結果がどうなったのかも良
くは判らないが、こんな世界があるのだと言うことは伝わっ
てきた。なお作品は、世界中の50カ所以上の映画祭で上映さ
れ、15以上の受賞を果たしているそうだ。

『歓喜の歌』
立川志の輔による新作落語からの映画化。
1998年に井筒和幸監督による『のど自慢』を製作して以来、
庶民と歌の関係を映画にし続けているシネカノンが、昨年の
『フラガール』に続いて、今回は年末恒例「第九」の合唱に
挑戦するママさんコーラスを描く。
物語はとある地方都市の公設ホールが舞台。そこでは毎年、
伝統のあるママさんコーラスが大晦日に発表会を開いていた
ようだ。ところが、その年の4月に私的なトラブルが原因で
左遷されてきた管理主任が、別の女性コーラスの公演をその
時間帯に入れてしまう。
しかも、その2つのコーラスの名称が似ていたことから、そ
のダブルブッキングが発覚したのは12月30日。果たして2組
は無事コンサートを開くことが出来るのか…?
この2組のママさんコーラスが、一方は由紀さおりを中心と
した奥様グループと、他方は安田成美を中心に、根岸季衣、
藤田弓子らが集う庶民派グループということで、その対比も
分かり易く、また互いに一歩も引かないという雰囲気も、見
るからという感じになる。
そして、この2つの女性グループの間で、小林薫扮する主任
と、伊藤淳史扮するその部下が右往左往させられる。
当然、合同でのコンサートも提案されるが、双方の配ったチ
ケットの枚数がホールの定員をはるかに超えているなど、難
問が次々に襲いかかる。しかも、主任の私的なトラブルがま
だ継続中だったりもして、にっちもさっちも行かなくなると
いう展開だ。
裏で人間的な繋がりがいろいろあったり、その辺の展開では
かなり御都合主義ではあるのだが、そんな無茶なという感じ
の解決法は、ある意味ちょっとファンタスティックであった
りもして、それは面白く感じられた。
オリジナルの落語は聞いたことがないが、その原作のことは
映画からは想像もできないというか、それくらいに本作は映
画として成立している。これは原作の脚色としてはなかなか
難しいもので、それを成し遂げたというのは立派なことと言
えるものだ。
脚本監督は『東京タワー オカンとボクと、時々、オトン』
などの松岡錠司。なお、劇中のコーラスは、辻志朗氏の指導
の許、出演者たちによって歌われているようだ。

『ミスター・ロンリー』“Mister Lonely”
結局、自分自身に自信がないというのかな、他人を演じるこ
とが自分のアイデンティティになってしまった人たち。そん
な人たちを描いた物語。
主人公は、パリの街角でマイクル・ジャクスンに成り切って
踊る若者。一応、仕事も斡旋されて老人ホームで営業したり
もしている。そんな営業先で、彼はマリリン・モンローを演
じる女性と出会う。
彼女はチャーリー・チャップリンと結婚して、子供はシャー
リー・テンプル。彼女たちはスコットランドの小さな村で、
他にも同じような人たちと共同生活をしていると語り、彼に
も参加を呼びかける。
そして、一目でマリリンに恋をしたマイクルは、スコットラ
ンドへと向かうのだが…そこにはマドンナや、女王や、法王
や、リンカーンや、あかずきんたちがいて。
脚本、監督は、1995年にラリー・クラークが監督した『KI
DS』の脚本を、弱冠19歳で執筆したハーモニー・コリン。
その後は監督にも進出したが、2002年クラーク監督の『ケン
・パーク』の脚本を発表して以降は、PVや写真集などを手
掛け、映画で目立った仕事はしていなかったようだ。
そんな若き才能が、久々に開花したとも言える作品だ。そし
てそれは、以前の彼が手掛けてきた若者の世界よりもう少し
年上だけれど、しかし今でも迷いから抜け出すことの出来な
い、そんな社会からはみ出した人たちに目を向けていた。
ここに提示される迷いは、もちろん若者に顕著なものだとも
思えるが、もっと大人であってもあまり変わりはしない、た
だそれを隠せるようになっただけのような気もする。そんな
社会に対する疎外感が見事に描かれた作品だ。
出演は、『天国の口、終りの楽園』などのディエゴ・ルナ。
『ダンシング・ハバナ』でも披露したダンスでマイクルに成
り切る。他には、『マイノリティ・リポート』のサマンサ・
モートンらが共演。
また、監督のヴェルナー・ヘルツォークやレオス・カラック
スらが重要な役で登場する。特に、ヘルツォークが神父役を
演じるパナマのFlying Nunの話は意味も深く素敵だった。

『アディクトの優劣感』
アンダーグラウンドでの実体験に基づく作品を発表している
という作家・池間了至の原作に基づき、青山、原宿、六本木
界隈の若者たちの生態を、ディジタル静止画像の連続映像化
(Digital Photomation=デフォメと名付けたようだ)で描
いた作品。
静止画像で物語を描くというと、『12モンキーズ』の元と
なった1962年クリス・マルケル監督の『ラ・ジュテ』を思い
出すが、ディジタル時代にそれが見事に融合した作品と言え
そうだ。なおスチル撮影は、台湾のスチルカメラマン林盟山
が担当している。
自殺した恋人がパソコンに残した遺書。そこには、ドラッグ
への依存症から抜け出すことの出来なかった若者の末路が綴
られていた。
いろいろなドラッグに手を出し、主観的妄想の中に身を置く
若者たち。その仲間の一人が違法薬物の所持で逮捕される。
しかし、警察の目から隠されたドラッグを手に入れた若者た
ちは…
僕自身は、ドラッグは一度も経験したことはないが、描かれ
た映像はその擬似体験のようなものであるらしい。と言われ
てもそれも判断はできないのだが、監督たちの実体験は別と
しても、多分原作者のアドヴァイスくらいはあったのだろう
し、それはその通りなのだろう。
実際、見た目の映像には、1960〜70年代のサイケデリック映
画を多少スマートにしたような…そんな印象も感じられた。
2Dの映像では結局、その辺が限界でもあるのだろうが、そ
の映像自体は、昔に比べれば間違いなく質感やリアルさなど
が向上しているものだ。
しかもその映像は、今回はほとんどがディジタルスチルカメ
ラで撮影されているが。その画素数は恐らく映画の最高水準
である4Kを超えて8Kぐらいの換算になるようだ。実は試
写会は1Kのプロジェクターで行われたものが、それでも画
像の美しさには感心した。
ただし、一部の動画部分が760pで撮影されていて、その部分
との画質の差が歴然としたのも驚きだった。恐らく全てを一
旦HDに変換して画質を調整すれば、動画部分ももう少しは
良くなるはずだが、それにしても静止画の威力は凄いものだ
と改めて実感した。
お話自体は、若者向けの他愛のないものだが、ドラッグを取
り立てて美化するものでもなく、それなりの罪悪感を持って
描いていたのには、見識も感じられた。一方、若者の本音の
ようなものもいろいろ語られていて、それも面白かった。
因に映画製作では、出演者をネット上で募集したり、撮影は
経費の安い台湾で行うなど、いろいろ新しい試みも行われた
ようだ。なお、映像では中国語の看板をCGIで日本語に書
き替えたということだが、これもスチル画像の特性を活かし
たと言えそうだ。

『裸の夏』
麿赤兒主宰の舞踏団・大駱駝艦が毎年夏に長野県白馬村で行
う合宿。そこには、毎年経歴や国籍も異なる30人前後の素人
の若者たちが参加し、大駱駝艦の艦員約20人と共に、基礎訓
練から麿赤兒による舞踏理論の受講、さらに舞踏の実践など
の学習が行われる。そして1週間後には、観客の前で舞踏を
披露するまでになる。
本作は、その合宿の模様を中心に、アーカイヴ映像なども挿
入されて、大駱駝艦そのものの歴史も紐解かれるようになっ
ている。そのアーカイヴ映像では、麿が師事した暗黒舞踏家
・土方巽による1968年の「肉体の反乱」や、1973年の大駱駝
艦「馬頭記」などの映像も見ることができる。
合宿の参加者は、学生からサラリーマン、主婦までといろい
ろだが、参加の動機も、単に「公演を見て面白いと思った」
から、それこそ定番の「自分を変えたい」まで種々。そんな
雑多な集団が朝のランニングに始まって、野口体操と呼ばれ
る全身の筋肉を余すところなく動かすための訓練などを続け
て行く。
また、夜間の麿赤兒による舞踏理論の講義では、麿の数々の
名言と共に、舞踏の本質に迫る理論展開も披露されている。
それにしても、中には舞踏未経験者で見るからに動きがぎこ
ちないと言うか、運動神経が疑われるような参加者もいて、
それが相方を担ぎ上げて振り回すという振り付けを学ぶのだ
が、それが短期の訓練で仕上げられて行くのは、感心すると
ころでもあった。
そして白馬山麓の野外で行われる最終公演は、『裸の夏』の
題名通り股間に小さな布を当てただけのほぼ全裸に金粉を塗
ったものとなるが、その衣装作りや、「予想はしていました
が…」と覚悟を決める様子なども描かれている。
その公演に舞台裏は、麿が用もないのに女性の楽屋を覗いて
は、「××見ちゃった」とはしゃぐシーンなどもあって微笑
ましくも描かれるが、徐々に緊張が高まる様子も丁寧に描か
れている。そして公演後の満足感、解放感なども心地良く伝
わってくる作品だった。
監督は『世界の車窓から』の企画・プロデューサーでもある
岡部憲治、撮影は『ワンダフルライフ』などの是枝作品を手
掛ける山崎裕、音楽は千野秀一。それぞれその道のベテラン
たちの作品でもある。

『カンナさん大成功です!』(韓国映画)
鈴木由美子の原作を韓国で映画化した作品。昨年の本国公開
では『猟奇的な彼女』などを上回る韓国ラヴコメ史上最高の
興行を達成、さらに韓国大鐘賞では『グエムル』を押さえて
最多12部門にノミネート、主演女優賞を受賞した。
美声を駆使して人気アイドルの影の歌声を支えてきた女性。
彼女はプロデューサーらの信頼も勝ち得ていたが、体重95kg
の巨漢で、舞台裏で歌いながら床を踏み抜いてしまうことも
…そんな彼女が、一念発起、愛するプロデューサーのために
整形美人になるが。
主演のキム・アンジュンは、映画は脇役の経験しかなかった
ようだが、テレビのヴァラエティ番組などを経て抜擢。整形
後の姿が本来の彼女は、毎日4時間の特殊メイクで変身して
この役に挑んだということだ。
因に、この特殊メイクは、『デアデビル』や『チャリーズ・
エンジェル/フルスロットル』などのハリウッドで活躍する
専門家チームが手掛けている。
原作者の鈴木由美子も自らの整形を公言しているそうだが、
日本では多少の違和感のある美容整形も、韓国では、特に映
画俳優は整形が前提というくらいのお国柄とのことで、日本
以上にこの作品への理解度は高かったようだ。
ということで、この作品も最高の条件での映画化になったと
言えそうだが、それ以上に、登場人物たちの感情的な縺れな
どが丁寧に描かれていて、さすがにラヴコメ王国韓国映画の
実力が発揮された作品とも言える。
脚本・監督のキム・ヨンファは本作が長編2作目ということ
だが、特に主人公の内面描写や、認知症の父親との関係など
も丁寧に描かれていて、その視点の鋭さはコメディの中に見
事な味わいを加えている。それに犬の扱いも良かった。
なお、巻頭とクライマックスに登場するコンサートシーンの
撮影は、韓国でもトップクラスのミュージシャンが公演する
オリンピック体操競技場で行われ、その経費に3億ウォンが
掛けられたという本格的なもの。特に舞台裏でのトラブルに
絡めた緊迫のシーンは見事に演出されていた。また、このシ
ーンの歌唱はキム本人のものだそうだ。
『MUSA−武士−』などのチュ・ジンモが共演している。

『SS』
東本昌平原作による同名のコミックスを、哀川翔主演で映画
化した作品。
原作のコンセプトは、“疲れたお父さん”を応援する自動車
マンガなのだそうで、日銀の発表が何を言っているのか…と
いう感じの今の時代に、不況感一杯の中高年にはピッタリの
作品と言えそうだ。
哀川扮する主人公は、町の修理工場で働く自動車修理工。し
かしその修理工場も仕事がなく、閉鎖の時期が迫っている。
そして主人公は、社長から裏にあるクルマを退職金代りに譲
ると言われる。それは、三菱スタリオンだった。
一方、テレビでは遠藤憲一扮する人気自動車評論家の栗原が
自動車と人間の関係を語っている。しかし、彼にもどこか覚
めたところがある。そして彼は恋人から、箱根スカイライン
で新しいラップを刻んだ男の存在を教えられる。
顔を見せないその男の正体は不明だったが、その男の操る車
種が三菱スタリオンだったことから、1981年の映画『キャノ
ンボール』でジャッキー・チェンが乗っていたことの連想で
ジャッキーと名付けられていた。そして栗原には、その男が
誰であるかは明らかだった。
1981年から86年まで実施されたグループBによるラリーレー
ス。それは、各社が研究開発したモンスターマシンで挑む究
極のラリーレースだった。
その舞台を目指して開発された三菱スタリオン4WD。しか
し、開発半ばにしてグループBによるレース競技は廃止され
る。そんな不運の車種を中心に据えて、夢半ばにして潰えた
目標に再度挑戦しようとする男たちを描く。
映画の前半では、主人公と取り巻く日本の不況ぶりが描かれ
て共感を呼ぶ。そんな現実感のある脚本を『交渉人 真下正
義』の十川誠志が描き、『アンフェア the movie』の小林義
則が監督した。2人ともテレビ絡みの脚本家、監督だが、そ
れなりに現実感の伴う仕事ぶりは良い感じだった。
なお、映画には、スタリオンの他に、ポルシェケイマン、ス
バルインプレッサ、フォードフォーカス、トヨタカローララ
レビン、日産スカイラインGT−Rなども登場する。そして
最後は、三菱と外国車の対決となるが、ここで海外仕様の三
菱が左ハンドル、外国車が日本向け仕様の右ハンドルという
のも、現実的で面白かった。


10月20日付で紹介した韓国映画『ユゴ|大統領有故』の日本
公開が、韓国で削除されたシーンを復活した完全版で行われ
ることになったとの連絡があった。僕は時間の都合で完全版
の試写には行けなかったが、日本の映画館では完全版が見ら
れるそうなので報告しておく。



2007年11月20日(火) ディセンバー・ボーイズ、ビー・ムービー、潜水服は蝶の夢を見る、魁!!男塾、スリザー、ベオウルフ、ブラザー・サンタ

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※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介しています。     ※
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『ディセンバー・ボーイズ』“December Boys”
『ハリー・ポッター』のダニエル・ラドクリフが出演するオ
ーストラリア映画。
1921年生れ2000年没のニュージーランド/オーストラリアの
作家マイクル・ヌーナンが、1963年に発表した原作に基づく
少年ドラマ。
孤児院で育った4人の少年たち。彼らは12月生れであること
からディセンバー・ボーイズと呼ばれていた。そんな少年た
ちが、ある年の夏休み(オーストラリアの話なので、クリス
マスや新年が含まれる)を、とある入り江に面した村で過ご
すことになる。
少年たちにとっては、生れて初めて孤児院を出ての生活。そ
こで4人は、スキッパーと呼ばれる妻とその乗組員と自称す
る夫の夫妻の家で寝起きすることになる。その村には、他に
「豪胆」と呼ばれるバイク乗りや漁師がいて、また入り江に
はヘンリーと呼ばれる幻の巨大魚が棲んでいた。
そしてそこには、養子になれるかも知れないという少年たち
の夢や、初恋や、いろいろな出来事が待ち構えている。その
夏休みが終ったとき、少年たちは一歩、大人への道を踏み出
して行くことになる。
原作では少年たちは同年代の設定のようだが、映画化ではラ
ドクリフが演じるマップスだけが少し年上の設定になってい
る。その設定の変更によって、マップスには少女との出会い
が描かれるし、他の少年たちには子供染みた争いも描かれて
おり、それなりにうまい展開にもなっているものだ。
しかし1人だけ年上というのも奇異には感じられるもので、
その辺を納得するまでには少し時間が掛かった。でもまあ、
こういう設定だからこそ成立する部分も多々ある物語になっ
ているので、これはこれでよしということだろう。
撮影はサウスオーストラリアのカンガルー島というところで
行われているが、奇岩が並ぶ山や、入り江の風景などは不思
議な雰囲気もつくりだして、それも魅力的なものだった。
ラドクリフ以外の出演者では、孤児仲間のスパークの役を、
2005年10月に紹介した『ポビーとディンガン』のクリスチャ
ン・バイアーズが演じている。また、マップスが出会う少女
役を、昨年の東京国際映画祭のコンペティションに出品され
た『2:37』(公開題名:明日、君がいない)に出演のテ
リーサ・パーマーが演じていた。

『ビー・ムービー』“Bee Movie”
TVシリーズの『となりのサインフェルド』が大人気を呼ん
だコメディアン=ジェリー・サインフェルドの製作、脚本、
さらに主人公の声優も務めたドリームワークス・アニメーシ
ョン作品。
元々はサインフェルドとスティーヴン・スピルバーグが会食
したときに、サインフェルドが即興でハチの話を思いつき、
それに低予算映画を指すBムーヴィと、ハチのBeeを引っ掛
けた“Bee Movie”という題名だけ決まって誕生した企画と
されている。
何といい加減なと思われそうだが、それから4年以上の製作
期間を掛けてじっくりと作り上げたという辺りがハリウッド
映画というところだろう。
映画の情報を扱っていると、ストーリーを事前に知ってしま
うことが多くなる。と言っても結末などのネタばれは意外と
されないもので、本作の場合は、ミツバチの主人公が人間の
女性と交流し、楽しいときを過ごしていたが、ある日、量販
されているハチミツを発見してしまう…という程度の情報だ
った。
つまり、ミツバチがせっせと集めたハチミツが人間に搾取し
ているされているという現実を、ミツバチの立場から描くと
いうものだ。なるほどこれは、ミツバチの立場からすれば一
大事だろうと思わせたものだが…
さらにそこからの展開は、見事に練られたと言えるものにな
っていた。しかも、かなり現実的な結論を、無理の無い展開
で提示しているもので、さすがにテレビシリーズの人気も伊
達ではないという感じのものだ。
描かれるミツハチの姿は4本脚だったり、家族があったり、
雄バチがミツを集めていたりと問題はいろいろあるが、その
一方でミツバチは針で刺すと死んでしまうとか、女王蜂の存
在が飛んでもないところで明らかにされるなど、上手い展開
にもなっていた。
サインフェルド以外の声の出演は、人間の女性役でレネー・
ゼルウィガー、ハチの親友役でマシュー・ブロデリック。他
に、ジョン・グッドマン、クリス・ロック。また、俳優のレ
イ・リオッタやロック歌手のスティングの登場も笑わせる。
なお、エンディングクレジットに流されるサインフェルドと
ブロデリックの掛け合いの歌も聞き物だ。

『潜水服は蝶の夢を見る』
           “Le Scaphandre et le Papillon”
ファッション雑誌ELLEの編集長だったジャン=ドミニク
・ボビーは、ある日突然脳梗塞で倒れ、ロックト・イン・シ
ンドロームと呼ばれる症状に陥る。身体全身の運動機能が麻
痺し、動かせるのはわずかに右目の目蓋だけ。
そんな絶望的な状況の中で、ボビーは、動かせる目蓋だけで
自伝を上梓する。それは使用頻度順に並べ替えたアルファベ
ットを読み上げてもらい、必要な文字になったら目蓋を1回
閉じてそれを報らせ、その繰り返しで文章を綴るという、途
方もない作業で生み出されたものだった。
この背景となった物語は事前に知っていたが、こんな途方も
ない話の重みを如何に観客に伝えるかは、まったく想像でき
なかった。
映画は発表された自伝を原作としている。しかし、映画に描
かれているのはその自伝だけではないのだろう。僕は原作を
読んでいないので正確ではないが、原作に書かれたとは思え
ない本人の焦燥や、絶望や、そこから見いだされた希望など
が映画には見事に描かれている。
実際、映画ではボビーの置かれた状況が観客にも手に取るよ
うに感じられ、自分だったら絶対に耐えられないという感覚
にも襲われた。僕が強いて比較できるのは、睡眠中の金縛り
だが、若い頃に何度か経験したその恐怖もまざまざと蘇って
きたものだ。
同じような状況の物語では、ダルトン・トランボの“Johnny
Got His Gun”が思い出される。反戦が主テーマの1971年の
映画とは内容も全く異なるが、同作を生涯ベスト1の作品と
している自分としては、それに繋がる作品としても評価する
ところだ。
監督は、『バスキア』『夜になるまえに』のジュリアン・シ
ュナーベル。元々が画家であり芸術家の監督らしい、見事な
映像にも彩られている。
なお、本作はジョニー・デップが主演を切望したものだった
が、スケジュールの都合でそれは叶わなかった。しかし本作
の中で、ボビーがマックス・フォン・シドー扮する父親の髭
を剃るシーンが有り、『スウィニー・トッド』と同時期に公
開されたら面白かったとは思えたものだ。
因に本作のボビーは、『ミュンヘン』などのマチュー・アマ
ルリックが演じている。
実際のボビーは、タバコも喫わず、酒もあまり飲まなかった
そうだ。それでもこの状態になった。最近血圧が高めの自分
としては、その病気のことも気になる作品だった。

『魁!!男塾』
週刊少年ジャンプで1985−91年に連載された宮下あきら原作
コミックスの映画化。
2001年に北村龍平監督による自主製作映画『VERSUS』
の主演で衝撃的に登場したアクション俳優=坂口拓が脚本、
監督、主演を務めた作品。
真の男子育成のため設立された全寮制の私塾「男塾」。そこ
では過酷を超えた鍛練によって男に磨きをかける。そんな場
所に、母親の命令で否応なしに入寮させられた軟弱な主人公
が、仲間たちの応援の許、成長して行く姿が描かれる。
しかも、そこに関東豪学連と称する対立組織が登場し、主人
公たちは塾の存亡を賭けた闘いにも巻き込まれる。
この軟弱な主人公というか狂言回しの役を尾上寛之。また、
豪学連と闘う3戦士を坂口と照英、それに山田親太郎が演じ
る。他に麿赤兒、中島知子らが共演。さらにナレーションを
千葉繁が担当し、挿入歌をつじあやの(画面にも登場)が歌
っている。
原作のコミックスは読んでいないが、映画は見事にコミック
ス的な破天荒さを再現している。それはアクションだけでな
く、端々の演出にもよく目配りが行き届いたもので、それぞ
れが良い雰囲気を創り出していることは認められるものだ。
特に、千葉のナレーションの活かし方は、これが定番のもの
なのかも知れないが、上手く雰囲気に填っていた。
それに坂口のアクションは、少林寺拳法やボクシングなどを
基礎から学んでいるとのことで、敵役で登場する『VERS
US』以来のコンビの榊英男との対決は見応えがあった。
また、それ以前の乱闘シーンでもコマ落としなどの小細工を
せず真っ正面で描いていることは、CGIアクション全盛の
時代に特筆しておけるものだ。
その一方で、麿赤兒の登場シーンなどには大袈裟なCGIが
使われていることも、適材適所の効果が良く計算されている
ものだ。日本映画ではこの計算がなかなか上手く行っていな
いことが多いが、その計算が出来る人たちが増えてきている
ことは頼もしい。
坂口の作品にはこれからも注目して行きたいところだ。

『スリザー』“Slither”
2002年に大ヒットを記録した『スクービー・ドゥー』などの
脚本家ジェームズ・ガンが、自らの脚本により監督デビュー
を飾った作品で、宇宙から飛来した謎の生物に襲われた町の
恐怖を描いたホラーコメディ。
その生物は隕石に乗って飛来し、細い針のような形で被害者
の胸から侵入、脳に至ってその人物を支配する。そして次ぎ
なる形態では繁殖のための宿主を捕え、そこで繁殖した膨大
な数の個体が人々に襲いかかる。そして襲われた人々は、ゾ
ンビのごとく動き始める。
この人々を襲うまでの手順が実に論理的で、この辺がこの脚
本家の本領でもあるのだろうが、実に納得して観ることがで
きた。しかも、その間に侵入した生物が宿主の記憶を利用す
る辺りの展開も上手く描かれていて、それなりに笑えるもの
になっていた。
また、襲ってくる生物などの造型もグロテスクではあるがユ
ーモラスで、全体的にホラーコメディとしては高水準の部類
に入れられそうだ。その他、CGIの使い方などもそれなり
にスマートに行われていた。
出演は、2002年放送のSFテレビシリーズ“Firefly”が話
題を呼んだネイサン・フィリオンと、『スパイダーマン』の
シリーズ3作にベティ・ブラント役でレギュラー出演してい
るエリザベス・バンクス。特にバンクスは、人気シリーズで
の役柄とは違った清楚な感じが好ましかった。
他に悪役専門のマイクル・ルーカー、グレッグ・ヘンリー。
さらに『ウィカーマン』に出演のタニア・ソルニアらが共演
している。
なお、ガンは、2004年のリメイク版『ドーン・オブ・ザ・デ
ッド』の脚本でも知られるが、同作の猛スピードで走り回る
ゾンビに呆れたことを考えると、本作でのゆらゆら動く襲わ
れた人々の姿には、反省してくれたのかなとも思ってしまう
ところだ。
それからこの監督の名前からは、1970年に放送された“The
Immortal”(不老不死の男)の原作者としても知られる同じ
名前のアメリカのSF作家が思い浮かぶが、調べた範囲では
係累ではないようだった。

『ベオウルフ』“Beowulf”
紀元6世紀に成立したとされる英国最古の英雄叙事詩に基づ
く映画化。
北欧デンマークを舞台に、怪物の襲撃に手を焼く小国に現れ
た英雄ベオウルフが、その怪物を倒して王位を引き継ぐが…
という物語。
本作を監督したロバート・ゼメキスは、中学の頃にベオウル
フ叙事詩についての宿題が出されて苦労した経験があるそう
だ。それはゼメキスの言に拠れば、古代英語で読み難いし、
内容も支離滅裂で、読んでも全く面白いとは思えなかった…
とある。
実際、オリジナルの叙事詩は6世紀ごろにイギリスに伝わっ
たとされるものだが、最終的に纏められたのは10世紀ごろの
ことで、その間にいろいろな改訂が加えられ、特にキリスト
教的な考えから、その教義に合わない部分が削除されたとい
う説もあるようだ。
このため現在に伝わる叙事詩では、事件の発端や背景もはっ
きりしていないし、話が突然半世紀も飛んでいたり、物語全
体の辻褄も合っていないとのことだ。
その叙事詩に対して、今回の脚色を行ったニール・ケイマン
(映画『スターダスト』の原作者)と、ロジャー・エイバリ
ー(映画版『サイレント・ヒル』の脚本家)の2人は、まず
事件の発端から説き起こし、50年以上に渡る主人公の葛藤を
見事に描き出した。
それは、怪物の母である妖艶な女性を巡る壮大な呪いの物語
として再構築され、さらに先王とベオウルフ、先王の王妃ら
を巡る見事な人間ドラマとしても描かれている。
従って、本来の『ベオウルフ』の物語とはちょっと話が違う
という意見もあるようだが、脚本家たちは、この解釈が学術
的に論議されることも期待しているようだ。
なお、今回の映画化は、ゼメキス監督の『ポーラー・エクス
プレス』と同じくパフォーマンス・キャプチャーで製作され
たもので、それぞれのキャラクターは全て俳優自身の演技を
反映して描かれている。
つまり、ベオウルフ役のレイ・ウインストン、先王役のアン
ソニー・ホプキンス、王妃役のロビン・ライト・ペン、怪物
役のクリスピン・グローヴァ、母親役のアンジェリーナ・ジ
ョリー。さらにアリソン・ローマン、ジョン・マルコヴィッ
チらは、声優だけでなく、自らの演技でキャラクターを演じ
ているものだ。
そしてその演技に、さらにCGIによるアクションが加えら
れて、怪物との壮絶な闘いやドラゴンの飛行シーンなどが描
かれた。
また、今回の製作は3D上映も念頭に行われたもので、実は
試写会は2D上映だったが、随所に3D効果を狙っていると
思われるシーンもあって、3D上映が行われたら再度鑑賞し
たいと思わせた。
その3D上映は、日本ではなかなか進んでいなかったものだ
が、実は本作の公開に合わせてワーナーマイカルが全国20館
の3D化を発表している。本作は、全米では700館を超える
3D上映が実現したそうだが、ようやく日本も少し気運が盛
り上がってきたようだ。

『ブラザー・サンタ』“Fred Claus”
アメリカでは毎年、各社持ち回りのように1本は公開される
クリスマス・ムーヴィ。日本ではなかなか公開の機会はなか
ったが、去年ディズニーの『サンタクローズ3』に続いて、
今年はワーナーからこの作品が公開される。
本作の主人公は、サンタの兄のフレッド・クローズ。サンタ
(ニコラス)に兄弟がいて、それがいろいろ悪さをするとい
う話は過去にもいろいろあったようだが、今回の設定は、実
はその兄も本当は聖人になって良いくらいの善人だったが、
弟の度を超えた博愛主義の前に影が薄かったというものだ。
そしてその確執から、フレッドは両親とニコラスの住む北極
には足を踏み入れず、一人で都会暮らしをしていたが…。因
に、ニコラスがサンタ・クロースとして聖人に列せられたた
め、その家族の彼も不老不死の恩恵に預かっている。
一方、神様の世界も効率化が要求され、この年の北極にはお
もちゃ工場の実態を調査するとして調査員が来ていた。その
調査員は、問題点が3つ見つかったら工場は閉鎖すると告げ
て調査を開始する。
そんな北極に、いろいろな事情から初めてフレッドがやって
来ることになる。その再会を喜びたいニコラスだったが、フ
レッドの引き起こしたトラブルのお陰で、工場は瞬く間に問
題点2つを発生してしまう。そして…
このフレッド役と共同脚本を、2005年“Wedding Crashers”
が全米興行で2億ドル突破の大ヒットを記録したヴィンス・
ヴォーン。ニコラス役を『シンデレラマン』などのポール・
ジアマッティ。フレッドの行為に振り回されるニコラスの役
柄はぴったりだ。
また調査員役のケヴィン・スペイシー。兄弟の母親役でキャ
シー・ベイツ。フレッドの恋人役でレイチェル・ワイズと、
オスカー受賞者が3人も揃う。特にスペイシーの顛末は傑作
だった。
この他、サンタの妻には2度のオスカー候補者で『ハリー・
ポッター』シリーズにも出演のミランダ・リチャードソン。
さらに『スパイダーマン』シリーズのエリザベス・バンクス
などが脇を固める。他にもちょっと驚きのカメオ出演も笑え
た。
そしてサンタのおもちゃ工場と言えば従業員は小人のエルフ
だが、その役はロシアのサーカス団などから本物の小人の俳
優が集められ、さらにその顔だけがVFXで俳優にすげ替え
られているそうだ。その技術も見事だった。



2007年11月15日(木) 第147回

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
※このページは、キネマ旬報誌で連載中のワールドニュー※
※スを基に、いろいろな情報を追加して掲載しています。※
※キネ旬の記事も併せてお読みください。       ※
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
 今回は記者会見の報告から。
 日本では来年5月ゴールデンウィークに公開予定のローラ
ンド・エメリッヒ監督作品“10,000B.C.”(紀元前1万年)
の抜粋フィルム(フッテージ)を携えて監督が来日し、その
プレゼンテーションが行われた。
 この作品についてはすでに何度か紹介しているが、題名の
通り紀元前1万年の世界を舞台に、原始人の生活を描いたと
いうもの。ただし監督の説明では、「これは歴史レッスンで
はない。叙事詩的かつ神秘的なスペクタクル・エンタテイン
メント作品である」となっている。
 そこで紹介されたフッテージは4本で、全体の上映時間は
17分程度のもの。その1本目は、事前の情報でも流れていた
マンモス狩りのシーンで、マンモスのスタンピードと、それ
を捕えようとする原始人たちの行動が描かれていた。
 ここで監督の解説では、マンモスの毛をCGIで表現する
のが大変だったそうで、最初にCGの担当者に話したときに
は、前作の『デイ・アフター・トゥモロー』で描いた水より
難しいと言下に拒否されたそうだ。しかしそれを実現してし
まった訳で、しかも2本目のフッテージでは、その水の中で
暴れるサーベルタイガーの登場となっていた。
 と、ここまでは事前に情報のあった範囲だったが、この後
に紹介された2本では、物語が意外な展開となるもので…と
言っても、すでに劇場上映の予告編でも一部流れているシー
ンではあるが、自分としてはネタばれは極力避けるつもりな
ので、ここでのフッテージの紹介は以上とする。
 そして、この上映後に改めて監督との質疑応答となった。
そこで、最初に僕が製作の経緯について質問をした。特に、
事前に情報のあった作曲家とのコラボレーションについて聞
いたのだが、その答えは、「元々の構想は、15年ほど前にテ
レビの科学番組を観ていて思いついた。一方、作曲家のハラ
ルド・クローサーとは古くからの友人だが、本来自分は友人
と一緒に仕事をするのは好まなかった。しかし、『デイ…』
で一緒に仕事をしていたときにこの構想を話す機会があり、
それに彼がいろいろなアイデアを出してくれた。友人と一緒
に仕事をするのもいいものだ」とのことだった。
 そして、この答えを受けて次に質問した人が、製作者のデ
ィーン・デブリンとの関係を訊いた。その答えは、「彼とは
今でも一番の親友だが、今は一緒に仕事をする予定はない。
ただし、『インディペンデンス・デイ』の続編だけは別で、
今でも毎年会って構想を話し合っているのだが、それがまだ
まとまっていない」とのことだった。つまり、“ID4-2”の
計画は本当に存在しているようだ。
 その他に、『GODZILLA』との関連についての質問
などもでたが、技術的な質問にも丁寧に答えてくれて、最後
に今回のエンディングクレジットは10分を超えることが表明
された。そして製作はVFXがほぼ90%仕上がっており、こ
れからは録音などのポストプロダクションを並行に行って、
1月中には完成させたいとのことだ。
 物語は、監督の言うように「歴史レッスン」ではないよう
だ。しかも、ちょっとSFファンにも期待できそうな展開と
なるようで、公開が待ち遠しくなってきた。
        *         *
 以下は、いつもの製作ニュースを紹介しよう。
 最初は一般映画からで、まずはロマン・ポランスキー監督
が、イギリス政界を背景にしたポリティカルスリラーの映画
化計画を発表した。
 計画されているのは、今年10月に出版されたロバート・ハ
リス原作の小説“The Ghost”の映画化。物語は、前イギリ
ス首相の「自伝」のゴーストライターを依頼された作家が、
執筆中に政界を揺るがす隠された真実を発見し、それは彼自
身の生命をも脅かす事態になってしまう…というもの。ポラ
ンスキーはハリスと共に脚本を執筆し、撮影は来年秋にヨー
ロッパで行われる。
 発表に当りポランスキーは、「永年ポリティカルスリラー
を撮りたいと思っていた。この原作はそれに最適なものだ」
と、抱負を語っている。
 なおポランスキーは、準備に18ヶ月を掛けた1億ドル企画
“Pompeii”の製作を9月に断念したばかりだが、今回は、
『戦場のピアニスト』などにも協力したサミットが配給を担
当して、万全のバックアップをすることになっている。
 また監督は、近作では『オリバー・ツイスト』など古典も
撮っているが、元々は『チャイナタウン』や『フランティッ
ク』など、現代劇のサスペンスも得意としていたもので、今
回は監督自身が、「本来的なポランスキーの守備範囲だ」と
して、自信を覗かせているものだ。
        *         *
 『しあわせのレシピ』ではキャサリン・ゼタ=ジョーンズ
が見事なシェフぶりを見せてくれたが、今度はメリル・スト
リープが、テレビの料理番組などで活躍する実在のシェフ=
ジュリア・チャイルドに扮する計画が発表された。
 題名は“Julie and Julia”。物語は、1人の女性がチャ
イルドの料理本“Mastering the Art of French Cooking”
に掲載された524のレシピを全部作ることを目標に奮闘した
1年間の出来事を綴るもので、その女性=ジュリー・パウエ
ルが日々の挑戦や挫折をブログで発表、その後に、“Julie
and Julia: 365 Days, 524 Recipes,1 Tiny Apartment Kit-
chen”として纏められた本を原作としている。
 そしてこの原作から、『めぐり逢えたら』『ユー・ガット
・メール』などのノーラ・エフロンの脚本、監督で映画化す
るものだ。なお、パウエル役には、2005年6月15日付第89回
で紹介したディズニー製作のファンタシー“Enchanted”に
主演のエイミー・アダムスが扮する。
 展開から考えて、ストリープが料理をするシーンは少ない
ようにも思えるが、チャイルドはテレビ番組ではエミー賞の
候補にもなっている人で、その名に相応しいシーンは描かれ
ることになりそうだ。
 製作はコロムビア。撮影は2008年に予定されている。
        *         *
 全世界で1億5000万ドルを稼ぎ出した“Rocky Balboa”に
続いて、来夏日本公開予定の“Rambo”の新作(ランボー 最
後の戦場)も好調と伝えられるシルヴェスター・スタローン
が、チャールズ・ブロンソン主演、1974年製作のMGM作品
“Death Wish”(狼よさらば)のリメイクを、自らの監督主
演で進める計画を発表した。
 物語は、普通の男性を主人公に、彼の妻と娘が暴漢に襲わ
れ、その復讐のために男が立ち上がるというもの。スタロー
ンお得意の努力が報われる物語が展開するものだ。リメイク
の脚本は、『T3』、それに“Terminator Salvation: The
Future Begins”を手掛けるマイケル・フェリスとジョン・
ブランカトーが契約している。ただし脚本家は現在ストライ
キ中で、製作のMGMでは、ストが早期に決着した場合には
3月の撮影開始を目指すとしているものだ。
 因に、MGMでは、1985年以降のMGM作品と、ユナイテ
ッド・アーチスツ(UA)、オライオン、ポリグラム。サミ
ュエル・ゴールドウィン、キャノンが製作した4100本と伝え
られるライブラリーを所有しているものだが、今後は、その
中からシリーズ化できそうな作品を選んで順次製作する意向
を表明している。
 しかし現実のMGMの公開予定は、“Lions for Lambs”
“Valkyrie”などトム・クルーズが関わるUA作品が中心に
なっており、さらに来年1月の撮影開始が決まった“Bond
22”の配給はソニー手掛けるなど、今一つ影が薄い。その現
状を打開し、今後の製作配給に本格復帰する計画の一環とし
て、本作をその先陣としたいようだ。
 なおMGMでは、ピアズ・ブロスナンが主人公を再演し、
ポール・ヴァーホーヴェン監督で進められる“The Thomas
Crown Affair 2”の撮影を1月に開始の予定の他、ピーター
・ジャクスン監督の復帰が濃厚となってきた“The Hobbit”
も準備を進めているとのことだ。
        *         *
 “The Hobbit”の話題が出たところで、ここからはSF/
ファンタシー系の情報を紹介しよう。
 まずは、そのピーター・ジャクスンの製作で、マイクロソ
フト社のゲーム“Halo”を実写映画化する計画については、
昨年10月以降頓挫したままの状態になっているものだが、同
作の監督に予定されていたニール・ブロムカンプのアイデア
に基づく別のSFアクション作品が、ジャクソンの製作で進
められることになった。
 作品は、“District 9”と題されているもので、具体的な
内容は一般向けには公表されていないが、実写のSF作品で
あることは発表されている。また、この計画は、“Halo”の
準備作業の傍らで作り上げられたものだそうで、これについ
てジャクスンからは、「私と私のチームは、過去1年間ニー
ルと共に仕事をすることを喜びとしていた。彼は映画という
言語を使ってなすべきことが判っているし、情熱も持ってい
る。それがこの作品が世界中の人々を魅了すると信じる理由
だ」との賛辞も贈られている。
 そして、この新作の配給権が先日開催されたアメリカン・
フィルム・マーケットでセールスされ、北米と英語圏、及び
韓国、イタリア、ロシア、ポルトガルの権利をソニー・ピク
チャーズが獲得したと発表された。因に、このセールスでは
具体的な内容も紹介されたはずだが、その情報はまだ公表さ
れていないようだ。
 撮影は、ストライキ前の完了を目指して、来春に南アフリ
カで行われることになっており、ジャクスン主宰のWETA
ワークショップがVFXの製作を担当する。
 なお、ブロムカンプはコマーシャルと短編映画で知られる
映画作家ということだが、本作が長編監督デビューとなる。
また、監督は“Halo 3”の3本の新作コマーシャルも手掛け
たそうで、この勢いで映画版の製作にも打開策を見つけたい
ところだろう。ただし、ソニー配給という訳には行かないと
思われるが。
        *         *
 お次もPCゲームの映画化で、ディズニーと『ナショナル
・トレジャー』などの製作者ジェリー・ブラッカイマーが進
めている“Prince of Persia: The Sands of Time”の監督
について、『ハリー・ポッターと炎のゴブレット』を手掛け
たマイク・ニューウェルと交渉中であることが公表された。
 この計画については第107回で一度紹介しているが、基本
となる物語は、ペルシャの王子が人類を滅亡させる砂嵐の発
生を食い止めるために、遠隔地の王国を舞台に活躍するとい
うアクションアドヴェンチャー。2005年4月に行われた映画
化権の契約は、7桁($)で行われたものだ。また原作は、
すでに6作が発表された他に、派生作品も何作か発表されて
いるとのことで、ディズニーとしては、当然シリーズ化も視
野に入れた大型作品としての映画化を目指している。
 そして、脚本には『ザ・デイ・アフター・トゥモロー』の
ジェフリー・ナクマノフと原作ゲーム制作者のジョーダン・
メックナーが共同執筆したものがすでに完成しているとのこ
とだ。ただしディズニーでは、来年3月まで7作品の製作予
定が決定済みとのことで、本作の製作はストライキの問題が
解決した後になるようだ。
        *         *
 1991年に公開されたウェズリー・スナイプス主演『ニュー
・ジャック・シティ』などを手掛けたマリオ・ヴァン=ピー
ブルス監督が、“The Uniter”と題されたSF作品の計画を
進めている。
 物語は、未来からやってきた政治犯の逃亡者が現代の世界
で13歳の少年と交流し、迫り来る地球滅亡の日を前に、対立
している人々を融和させ、対抗策を講じるには少年が何をな
すべきかを教えるというもの。『ターミネーター』の裏返し
のような感じもするが、監督は、数年前にインドを旅した時
の印象と、アズテカの暦が2012年で終っているという事象か
ら物語を思いつき、以来数年に亙って計画を練り上げてきた
とのことだ。
 撮影は来年1月に開始の予定となっているが、配役などは
未発表。製作は、2003年の『モンスター』でシャーリズ・セ
ロンにオスカーをもたらしたドナルド・クシュナーとブラッ
ド・ワイマンが担当している。なおクシュナー、ワイマンと
監督は、スナイプス主演の最新作“Hard Luck”という作品
をソニーから発表しているようだ。
 アズテカの暦が2012年12月23日で終っているという話は、
アメリカの情報では最近いろいろ聞くようになってきたが、
『ノストラダムスの大予言』では何年も前からあれだけ大騒
ぎした日本で、まだ盛り上がってこないのが不思議なところ
だ。やはり仕掛け人がいないと駄目なのかな。
        *         *
 テリー・ギリアム監督の次回作として“The Imaginarium
of Doctor Parnassus”という計画が発表されている。
 内容は、他人の想像世界に入り込み、その世界で超現実的
な冒険を繰り広げるというもの。さらにプロットとしては、
旅回りの一座と共に現れたParnassus博士が、集まった観客
に魔法の鏡を抜けて冒険の旅に出ることを勧める…というの
だが。旅回りの一座という辺りから何とも怪しげな雰囲気の
漂うお話で、しかもギリアムが脚本も手掛けているというこ
とでは、相当の物語になりそうだ。
 そしてこのParnassus博士役を『サウンド・オブ・ミュー
ジック』などのクリストファー・プラマーが演じ、他にヒー
ス・レッジャー、トム・ウェイツらが共演している。因に、
レッジャーは『ブラザーズ・グリム』以来の監督とのコラボ
レーションになるものだ。
 製作は、『バイオハザード』シリーズなどのサミュエル・
ハディダが主宰するデイヴィス・フィルム。また、製作者に
はハディダの他に、『カポーティ』を手掛けたウィリアム・
ヴィンスが参加している。
 撮影は、12月にロンドンでスタートし、その後にカナダの
ヴァンクーヴァに移動するそうだ。配給は未定。
 なおデイヴィス・フィルムでは、『コナン』の原作者とし
て知られるロバート・E・ハワードの別の小説で、清教徒の
戦士が活躍する“Solomon Kane”の映画化を進めている他、
“Silent Hill”の続編も進行中だそうだ。
        *         *
 『パンズ・ラビリンス』のギレルモ・デル=トロ監督が、
1968−69年に日本でも放送されたイギリス製の超能力スパイ
シリーズ“The Champions”(電撃スパイ作戦)の映画化を
進めることを発表した。
 オリジナルの物語は、国際的諜報機関に所属する男2人、
女1人の諜報部員を主人公としたもので、彼らが中国での作
戦行動の帰路、搭乗する飛行機がチベット奥地で墜落、彼ら
は未知の文明を持つ人々に救出されるが、そこで超能力を授
かる。そして諜報機関に復帰した彼らは、授かった超能力を
駆使して難事件を解決して行く…というお話だ。
 このオリジナルシリーズは、パトリック・マッグーハン主
演の“Danger Man”(秘密司令)などの製作者のモンティ・
バーマンと、“Stingray”“Thunderbirds”などの脚本を手
掛けたデニス・スプーナによって創造されたもので、それま
での例えば“Supermann”のようなコミックスヒーローとは
一線を画する現実的な超能力者のヒーロー像が描かれたとい
う評価もされている。
 そして今回の計画では、デル=トロが、製作、脚本、監督
の3役で関わるとしているものだが、実は、報道ではデル=
トロ本人のコメントは紹介されておらず、計画に至った経緯
などは明らかではない。そのせいか、『ブレイド2』『ヘル
ボーイ』、それに『パンズ…』と続いた彼の路線からは少し
ずれるのではないかという意見も出されていた。
 しかし、デル=トロクラスの監督が、ましてや脚本、製作
まで含めて意に沿わない仕事をするはずはないもので、彼な
りの勝算が有っての計画ではあるはず。いずれにしても結果
が注目されるところだ。
 製作はUAだが、製作時期などは発表されていない。
        *         *
 次もテレビシリーズからの映画化で、1993−2002年に放送
されて一世を風靡した超常スリラー“X-Files”の映画版の
第2作を、来年7月25日の全米公開日を決定して製作するこ
とが発表された。
 このシリーズの映画版では、1998年に公開された1作目が
全世界の興行収入で1億8700万ドルを稼ぎ出したもので、そ
の直後から第2作の要望は出されていた。
 ところが番組製作者のクリス・カーターと、製作配給元の
フォックスとの間で地方局への配給を巡る訴訟が2005年に提
訴され、その裁判中は製作できないことになってしまってい
た。しかしその裁判がこのほど結審し、晴れて第2作の製作
がOKとなったものだ。
 とは言うものの、放送終了から6年のブランクは大きいも
ので、今回の第2作の製作に当っては単独でもストーリーが
成立するように考慮されるとのことだ。その脚本は、第1作
も手掛けたカーターと、シリーズ全体の脚本を担当し第1作
も手掛けたフランク・スポットニッツが担当し、カーターの
監督の許、デイヴィッド・ドカヴニーとジリアン・アンダー
スンがテレビでの当たり役を再演することになっている。撮
影は12月にヴァンクーヴァで行われる。
        *         *
 後は続報で、まずは第143回で紹介したキアヌ・リーヴス
主演の“The Day the Earth Stood Still”のリメイクに、
ジェニファー・コネリーの共演が発表された。彼女は、オリ
ジナルでパトリシア・ニールが扮したへレン・ベンソン役を
演じる。因にコネリーは、ニューライン製作のアンサンブル
コメディ“He's Just Not That Into You”に出演中で、そ
れを終えた後、12月からヴァンクーヴァで行われる撮影に参
加するということだ。
 もう1本、いよいよ撮影が始まった“Star Trek IX”に、
エリック・バナとウィノナ・ライダーの出演が発表された。
この内、バナはネロという役名の悪役。一方のライダーは、
何とスポックのバルカン星人の母親ということだ。テレビシ
リーズの設定では、スポックはバルカン星人の父親セレック
と地球人の母親の間に生れたとなっていたはずだが、バルカ
ン星人の母親というのは…? 全米公開は来年のクリスマス
に予定されている。
        *         *
 最後に、製作ニュースからはちょっと外れるが、いよいよ
始まるアカデミー賞レースで、まずは長編アニメーション賞
の予備リストが報告された。
 それによると、本年度候補になる資格を持っているのは、
『ザ・シンプソンズ MOVIE』“Alvin and the Chipmunks”
『レミーのおいしいレストラン』『ルイスと未来泥棒』『サ
ーフズ・アップ』“TMNT”“Aqua Teen Hunger Force Colon
Movie Film for Theaters”『シュレック3』『ビー・ムー
ビー』『ベオウルフ』、それにフランスの『ペルセポリス』
と、日本から『鉄コン筋クリート』となっている。
 その数は全部で12本。従って16本未満ということなので、
最終候補は3本が選出される。ヒットや評価の状況から見る
と『レミー…』の最終候補入りは間違いないと思われるが、
後の2本がどれとどれになるか、ノミネーションの発表は来
年1月22日に行われる。
 それにしても、自分がすでに12本中9本見ていたことには
驚いてしまったところだ。



2007年11月10日(土) シルク、ボビーZ、パルス、ダーウィン・アワード、ゼロ時間の謎、フローズン・タイム、中国の植物学者の娘たち

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※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介しています。     ※
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『シルク』“Silk”
1998年の東京国際映画祭で、コンペティションに出品された
『レッド・バイオリン』のフランソワ・ジラール監督による
同作以来の新作。本作は今年の映画祭のクロージング作品と
しても上映された。
前作は、イタリアで制作された1丁のバイオリンが、数奇な
運命によってヨーロッパからアジア、そしてアメリカまで旅
する物語が、5つのロケ地、5つの言語でオムニバス風に描
かれ、東京国際映画祭では芸術貢献賞を受賞の他、翌年度の
アカデミー賞の音楽賞にも輝いた。
そのジラール監督の新作は、アレッサンドロ・バリッコの原
作に基づき、1人の絹商人が最高の絹を求めてヨーロッパか
ら日本まで旅する話が描かれる。
背景は19世紀。当時のヨーロッパでは蚕に疫病が発生し、中
東までの蚕が全滅している。そんな状況下で健全な蚕の卵を
求めての旅となるものだが、一回の旅で数万個の卵を持ち帰
れば、巨万の富が得られるという実益も兼ねた冒険の旅だ。
しかし、時代は幕末、日本はまだ鎖国中で、異人と判れば死
罪となる。そんな危険を冒した旅が描かれる。しかも、祖国
に妻を残して旅する主人公は、日本でも1人の女性に心を魅
かれ、それが彼の人生を狂わせて行く。
壮大なスケールの物語が、丁寧な情景描写の中で描かれる。
特に蚕の産卵に合わせて日本で過ごす期間は冬となるが、そ
の雪に包まれた山間の風景は、日本ロケでしか描けない見事
な自然が写し出されている。
そして日本側の登場人物として、役所広司、國村隼らが主に
は日本語の台詞で丁寧な演技を見せてくれる。
ただし、主人公を演じるマイクル・ピット、その妻役のキー
ラ・ナイトレイ、絹商人の元締め役のアルフレッド・モリー
ナらは、設定はフランス人のはずだが、台詞は全部英語。
これは、前回映画祭のQ&Aで言語への拘わりを開陳してい
た監督にしてはちょっと残念だったが、でもまあ、映画の興
行を考えるとこれも仕方のないところなのだろう。ナイトレ
イの妻役はそれだけの価値があるということだ。
日本人の俳優では、他に中谷美紀と新星・芦名星、それに、
『HINOKIO』の本郷秦多らが重要な役柄で登場する。
また音楽は坂本龍一が担当し、ヴァイオリン演奏には『レッ
ド・バイオリン』の演奏を担当したジョシュア・ベルが参加
していた。

『ボビーZ』“The Death and Life of Bobby Z”
実在するのかしないのか、西海岸の麻薬組織を牛耳るとされ
るボビーZ。そんな都市伝説のような人物を、ジャーナリス
トから私立探偵、密輸業者など様々なちょっとヤバイ仕事に
も就いてきた作家ドン・ウィンズロが描いた小説の映画化。
原作は、角川文庫から翻訳も出ているようだが、ウィンズロ
ウが西海岸のバーやクラブで聞いた噂話を纏めたというのが
執筆の経緯になっているようだ。
この原作から1997年の『トゥ・デイズ』などで評価されてい
るジョン・ハーツフェルドが監督、ヴィン・ディーゼルをブ
レイクさせた『ワイルド・スピード』では本来主役だったポ
ール・ウォーカーの主演で映画化した作品。
物語は、小さな罪2つで刑務所に入り、そこでいちゃもんを
付けてきた暴走族のリーダーを返り討ちにして3度目の罪と
なり、もはや逃げ場のなくなった男カーニーが主人公。この
ウォーカー扮する主人公の顔付きが、実はボビーZに似てい
たことから始まる。
それに眼を付けた連邦麻薬捜査局DEAの捜査官が、実はタ
イで死去したボビーZの身代りになって捜査に協力すれば、
その後は無罪放免にしてやると提案。その捜査協力とは、ボ
ビーZとは面識がないはずのメキシコの麻薬王とコンタクト
するというのだが…
案の定作戦は失敗。しかもカーニーはメキシコの麻薬王から
追われることになり、そこにカーニーをリーダーの仇と狙う
暴走族の連中も登場。その上、作戦失敗を挽回しようとする
DEAの捜査官まで彼の命を狙い始める。
正に四面楚歌の状況だが、さらにボビーZの恋人だった女性
や、ボビーZの息子までもが絡んできて、メキシコからサン
ディエゴまでを舞台にしたアクションドラマが展開する。
典型的な男性向けアクション映画といった感じの作品だが、
脇役には『マトリックス』のローレンス・フィッシュバーン
や、往年のキース・キャラダインといった連中も顔を揃えて
雰囲気を盛り上げる。
なお、お話では、面子を潰された麻薬王は彼を生きたまま連
れて来いと言い、他の連中は単純に抹殺を企むなど、その辺
の微妙な設定がうまく纏められている。B級アクションとし
て公開される作品だと思われるが、話も案外しっかりしてい
るのは気に入った。

『パルス』“Pulse”
2001年に発表された黒沢清監督の『回路』を、『エルム街の
悪夢』などのウェス・クレイヴンの脚本でハリウッド・リメ
イクした作品。
1997年公開の黒沢監督作品『CURE』は、『リング』に先
行するジャパニーズ・ホラーの嚆矢と呼べる作品で、その恐
怖演出は『リング』以上のものだったと思っている。従って
僕は、『リング』ばかりが持て囃される風潮には多少抵抗も
感じていたものだ。
だからその黒沢監督の『回路』には、当時大いに期待して試
写会に向かった記憶がある。しかし、その作品は何かが違っ
ていた。
発端となるアイデアは素晴らしいと思えた。それに描かれる
映像の一つ一つも見事な雰囲気を作り上げていたものだ。し
かし肝心の物語が、途中から何となく焦点がずれて、前半と
後半で異なる話が展開され、しかもそれぞれが中途半端なよ
うにも感じられた。
これが、僕が『回路』に対して持っていた印象だ。だからこ
の作品のリメイクが発表されたときには、前半と後半の一体
どちらを映画化するのだろうとさえ思ったものだ。しかしリ
メイクされたのは、オリジナルの前後半を見事に融合させた
満足の行く作品だった。
物語は、ハッカーとして有能だった男が、恋人や友人たちの
前に姿を現さなくなるところから始まる。心配した恋人が彼
の住まいを訪ねると、異様に憔悴した彼がいて…
その事件はインターネットを通じて広まって行く。コンピュ
ータの画面に「幽霊に会いたいですか」とのメッセージが現
れ、それをクリックすると、怪しげな人物たちの画像が表示
され、やがてその人物たちがコンピュータを抜け出し人々を
襲い始める。
そして街から人々が消え始める。それは、襲われた人々が消
えたためなのか…
オリジナルの作品の時は、人々を襲う映像のことがいろいろ
説明されて、それがかえって話の辻褄を合わなくしているよ
うな部分もあった。しかし今回の映画化では、その説明は曖
昧にされ、何か判らない恐怖としてうまく表現されていた。
そしてオリジナルでは、ほとんど意味不明になってしまった
結末も、これなら納得できるというものになっていた。これ
で黒沢監督の製作意図が初めて理解できたようにも思えたも
のだ。そして恐怖演出も存分に楽しめた。

『ダーウィン・アワード』“The Darwin Award”
題名の意味は、「最も愚かな死に方をした人に対し、バカな
遺伝子を減らしたことへの感謝の気持ちから贈られる賞」と
いうことで、実在するもののようだ。
そんなバカな死に方をテーマに、それを調査する保険調査員
を主人公に描いた物語。
何しろバカな死に方だから死亡原因も特定できず、保険会社
は保険金を支払わなくてはならないのだが、そこから見事な
プロファイリングで故意や過失を見いだし、保険金の支払い
を免れるようにするというお話が展開する。
この物語を、イギリス出身で『エリザベス』などのジョセフ
・ファインズ(Harry PotterでVoldemort��役を演じるレイ
フの弟)と、ウイノナ・ライダーの共演で、男女2人のコン
ビネーションは、『X−ファイル』のパロディも思わせる雰
囲気も作りながら描いて行く。
映画のプロローグは、恐らく実在の賞の受賞者と思われる有
り得ない死に方のオンパレードで、人間ってこうもバカなの
かという実例が再現される。
そして主人公は、最初はサンフランシスコ市警のプロファイ
ラーとして有能だったが、生来の血液恐怖症で殺人現場には
立ち会えず、いろいろあって警察を馘になった男。
その男が、「ダーウィン賞」に取り付かれて人の死に方の研
究を続けていたことから、保険会社への再就職を試みる。彼
の主張によれば、バカげた死亡原因を的確に突き止められれ
ば、保険会社は年間2200万ドルの保険金を支払わなくて済む
というのだ。
そこで、その理論を証明する試用期間として、保険会社の女
性調査員と共に全米の謎の死亡案件の調査に向かうのだが…
ここで登場する死亡原因というのが、これらも恐らくは事実
に基づいているのだろうが、まあ観客としては笑うしかない
ものばかりとなる。
テーマの関係上、それぞれのエピソードの結末では人が必ず
死ぬ訳で、コメディとしてはかなりブラックなものだ。でも
まあ、呆れながらも笑えるのは、映画自体がかなりスマート
に作られているという点にもありそうだ。
脚本監督は、サンダンス映画祭でコンペティションに2度選
出されたフィン・タイラー。その実績は伊達ではないと言う
ところだ。実際映画には、そう来たか…と思わせるシーンも
多々あったものだ。
その脚本に魅かれて上の2人も参加している訳だが、さらに
共演者には、ジュリエット・ルイス、デイヴィッド・アーク
ェット、クリス・ペンなど錚々たる顔ぶれが並ぶ。また、人
気ロックバンド=メタリカのライヴシーンや本人たちのカメ
オ出演もあるなど、盛り沢山な内容で楽しめる作品だ。

『ゼロ時間の謎』“L'Huere Zero”
アガサ・クリスティが1944年に発表し、本人と江戸川乱歩、
それにファンクラブの3者が揃ってクリスティのベスト作品
の1本に選んでいるという名作『ゼロ時間へ』を、物語の舞
台をブルゴーニュ地方に移して製作されたフランス映画。
監督は、2004年に『親指のうずき』の映画化でクリスティ作
品に実績を持つパスカル・トマ。海辺の崖の上に建つ旧家の
別荘を舞台に、集まったいろいろな思惑を持つ男女が愛憎劇
の末に引き起こす殺人事件の謎を、豪華な雰囲気の中で見事
に描き上げている。
僕自身、クリスティの原作はあまり読んでいないのだが、映
画化作品の印象などからすると、ちょっとクラシックな感じ
に描かれた本作は、過去の名作の雰囲気を忠実に再現してい
ると言えそうだ。特に登場人物たちの描き方には落ち着きが
あって好ましかった。
その出演者は、『僕を葬る』のメルビル・プポー、その妻役
にジョニー・アリディの娘のローラ・スメット、そして前妻
役にカトリーヌ・ドヌーヴとマルチェロ・マストロヤンニの
娘のキアラ・マストロヤンニという若手が中心。特にスメッ
トの演技が見事だった。
この若手に加えてダニエル・ダリューが重厚な演技を披露し
ている。因に、ダリューとマストロヤンニは、先月紹介した
アニメーション『ペルセポリス』に続いての共演だ。
犯罪のトリックは正直に言ってかなり強引に感じられる。そ
れに謎解きも、1時間50分の上映時間の中では多少無理があ
るようにも感じられた。
しかし、それは原作物だからその通りでしかないのだろう。
この辺は原作の読者なら納得できるのかも知れないが、残念
ながら僕は読者ではないということだ。ただし、物語の雰囲
気は楽しめたし、僕にとってはそれで充分だったとも言える
作品だ。
なおプレス資料に寄せられたエッセイで、市川崑監督による
日本を舞台にしたクリスティの映画化を提案している人がい
たが、市川監督が脚本を書くときのペンネームが久里子亭で
あることは押さえておいて欲しかったところだ。
それから、プレス資料のクリスティの年譜では原作の完成が
1965年となっているが、同じ資料の作品リストでは1944年発
表となっており、これは何かの事情があるものと思われる。
この辺についても正確な情報が欲しかった。

『フローズン・タイム』“Cashback”
時間を止める能力を身に付けた美学生を巡る物語。
「時間よ止まれ!」と叫んで時間を止めたのは、古くは手塚
治虫原作の『不思議な少年』、最近では『ヒーローズ』のヒ
ロ・ナカムラというところだが、その能力をR−15指定の映
画で発揮してしまったら、これはちょっとヤバイことになり
そうだ。
そんな期待(?)も半分で観に行ってしまった試写会だった
が、実際の作品は、確かに時間を止めて女性を裸にしたりは
するが、これはあくまでも主人公が美学生として女体をスケ
ッチするために行う理由があるもので、それ自体は猥褻感も
なく問題はないように思えた。
ただし、その他にかなり際どいシーンがあって、R−15指定
はそのせいかとも思われるが、それはここではちょっと説明
できないくらいのものだ。といっても決して猥褻というもの
ではないのだが…
物語全体は、ロマンティックコメディの部類に属する作品。
恋人と別れて以来不眠症となった主人公が、時間の有効利用
と称して24時間営業のスーパーマーケットの深夜シフトに入
る。そこには若もの文化の吹き溜りのような連中が集ってい
た。
しかし、主人公の不眠症は解消されず。ついには時間を止め
る能力を身に付けてしまう。そしてその時間の止まった世界
で、1人の女性と出会う。
元は短編で製作された作品がアカデミー賞短編賞の候補にな
り、そこから長編に拡大された作品ということだが、空想癖
の主人公が過ごす退屈な9時間の深夜シフトを18分で描いた
されるオリジナルの短編はそのまま使用されているそうで、
そこに前後を撮り足したという構成のようだ。
その追加のシーンは、主に深夜シフトの連中の生態を描いて
いているが、これがショートギャグの羅列のような感じで、
しかも下ネタ中心のかなり青い感じのもの。これには観てい
て呆れるというか、微笑ましくも感じてしまった。
脚本監督のショーン・エリスは1970年生まれということで、
そこそこの年齢の人のようだが、それでこの青さはちょっと
驚くところだ。でも、全体としてロマンティックな雰囲気を
打ち壊していないのは、それなりに計算して作られているの
だろう。
そして物語は見事にロマンティックな結末を迎えるもので、
その展開には思わず、「やられた」とつぶやいてしまった。
『ヒーローズ』のタイムフリーズのシーンは見事だが、この
作品も負けてはいない。

『中国の植物学者の娘たち』“植物园”
2002年に発表した『小さな中国のお針子』がカンヌ映画祭の
<ある視点>部門で上映され、ゴールデン・グローブ賞にも
ノミネートされたダイ・シージエ監督の新作。
前作は文化大革命の頃の中国を描いてタブーに挑戦したと言
われ、今回はこれも中国ではタブーとされる女性の同性愛を
描いている。ただし、監督自身はタブーに挑戦するという意
図はなく、どちらも純粋な愛情の物語を描いたとしているも
のだ。
しかし、前作は辛うじて中国国内での撮影が許可されたが、
今回はそれも許されず、撮影は主にヴェトナムで行われてい
る。その風景が実に美しくて魅了された。因に、中国とは同
じ体制のはずの同国で撮影が許可されたのは、内容が中国の
話なので、国家としては問題ないとされたのだそうだ。
その物語は、両親を災害で亡くして孤児院で育てられた女性
が、漢方を研究しているとある植物学者の許に実習生として
招かれる。その学者は、湖に浮かぶ離れ島に作られた巨大な
温室に併設された住居に娘と2人暮らしをしていた。
その場所に実習兼雑用係として招かれた女性だったが、学者
の暮らしは厳格で日々の生活もことごとく学者が定めたルー
ルに従っていた。そんな堅苦しい生活だったが、そこでの息
抜きは学者の娘との交流…そしてそれは許されない関係へと
発展して行った。
他の国でなら問題ないような話が、一部の国では映画にもで
きないほどのタブーになっている。その現実は直接我々に関
係はないのだが、そんな国の物語としたことで映画に一種独
特の雰囲気が醸し出される。その雰囲気が見事に映画を高め
ているものだ。
そしてそれは、タブーであるからこそ美しい物語になってい
る。他の国では、作りたくても作ることのできない作品。そ
ういう作品を作れることが、幸か不幸かは別の問題だ。
出演は、中国とフランスのハーフで2004年公開の『クリムゾ
ン・リバー2』などにも出演していたミレーヌ・ジャンパノ
ワと、今年2月に紹介した『かちこみ!ドラゴン・タイガー
・ゲート』でヒロインを演じていたリー・シャオラン。
なお、シージエ監督は中国の生まれだが、長くフランスに在
住して、フランス語で小説も発表しているという人。そして
本作は、中国を舞台に中国人の俳優を使って、台詞は中国語
で撮影された作品であるが、製作はフランスとカナダ(ケベ
ック)の合作となっている。
このため原題も、公式には“Les Filles du botaniste”と
いうフランス語の題名が付けられているものだが、フィルム
上には上記の漢字題名が表示されていた。



2007年11月01日(木) 第146回

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
※このページは、キネマ旬報誌で連載中のワールドニュー※
※スを基に、いろいろな情報を追加して掲載しています。※
※キネ旬の記事も併せてお読みください。       ※
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
 まずは一般映画の情報で、最初はダコタ・ファニングと、
『バベル』などに出演した妹エリの共演計画が発表されてい
る。
 計画されているのは“My Sister's Keeper”という作品。
実はこの計画、今年7月末頃にキャメロン・ディアス主演、
ニック・カサヴェテスの監督で発表されていたもので、ジョ
ディ・ピーコルトの原作を、カサヴェテス監督の『きみに読
む物語』も手掛けたジェレミー・リーヴェンが脚色、同じく
『きみに…』のニューラインで製作される。
 そして物語は、最初の発表では、ディアス扮する女性弁護
士が突然実の娘から訴訟を起こされる。その内容は、娘の妹
が血液癌に罹り、その治療のためには適合する血液が必要に
なる。そこで、離婚した父親との間に子供を作って欲しい…
というものだったが、最近の情報では、エリ扮する少女が、
姉の延命のために利用されており、その両親からの開放を求
めて訴えるという内容になっているようだ。
 原作物で、こうも内容が変化するとは思えないところで、
その事情はよくは判らないが、ファニング姉妹の共演が観ら
れることは間違いなさそうだ。なお姉妹は、2001年『アイ・
アム・サム』で同じ映画に出ているが、この時はダコタの幼
い頃をエリが演じたもので、同じ映画に出るのはそれ以来、
本格的な共演は初めてになる。また姉妹の年齢は原作より若
くなっているそうだが、これはディアスに合わせたとのこと
だ。撮影は来年3月に開始の予定。
 『バベル』でエリを見たときも、一目で判るほど良く似た
姉妹だが、初めて同じスクリーンに2人が登場するシーンが
楽しみだ。
        *         *
 前の記事にも影響は見られるが、来年夏のストライキを控
え各社の動きが急になっている。その中でも最大級の作品に
なりそうなコロムビア製作“Angels & Demons”の撮影が、
トム・ハンクス主演、ロン・ハワード監督により来年2月に
開始されると発表された。
 この作品は、2006年6月の第112回でも紹介したように、
この年の全世界興行で7億5800万ドルを稼ぎ出したヒット作
『ダ・ヴィンチ・コード』の続編(原作の順は先だが、アキ
ヴァ・ゴールズマン脚色の映画化では改訂されるようだ)。
ハンクス扮するハーヴァード大学教授ロバート・ラングドン
が、再びバチカンに関わる秘密結社の謎に挑むものだ。公開
予定は2008年12月となっている。
 原作の内容については上記の回でも紹介しているが、映画
化にはいろいろ心配もあったところで、それらがクリアされ
ていることを祈りたい。一方、脚本にはまだ改訂の余地があ
るとのことで、2月の撮影開始までにはゴールズマン以外の
アイデアも注入されることになるようだ。
 ただしハワード監督は、やはり大作で2008年後半公開予定
の“Frost/Nixon”という舞台劇の映画化を撮り終えたとこ
ろで、そのポストプロダクションを行いながらの新作の撮影
となる。これは、状況としては1993年にスピルバーグが『ジ
ュラシック・パーク』と『シドラーのリスト』を製作したと
きや、昨年イーストウッドが硫黄島2部作を製作したのと同
じだが、スケジュールに追われての作業はそれ以上に大変な
ことで、ストライキの影響はかなり深刻なようだ。
 因に、ストライキ前の撮影計画の発表は10月31日がデッド
ラインだったようで、状況はこれで把握できることになりそ
うだ。
        *         *
 またまたマーティン・スコセッシとレオナルド・ディカプ
リオが組む計画が発表されている。
 作品は、『ミスティック・リバー』などの原作者デニス・
ルヘインによる“Shutter Island”という小説の映画化で、
元々の映画化権は2003年に設定されたが、それがようやく実
現に向かうものだ。物語は、1954年の時代背景で、病院から
逃亡して行方不明となった殺人犯を追う保安官を主人公とし
たもの。その犯罪者は、絶海の孤島シャター・アイランドに
隠れていると推測されたが…この犯人を追う保安官をディカ
プリオが演じる。
 撮影は来年3月開始の予定で、マサチューセッツと、コネ
チカット若しくはカナダ東部のノヴァスコシアで行われるこ
とになっている。
 因にこの映画化では、最初に映画化権を設定したのはコロ
ムビアだったが、その後フェニックスに転売され、現在はパ
ラマウントで製作が進められている。しかし権利の一部はコ
ロムビアが保持しているようで、配給はパラマウントがアメ
リカ国内、ソニーが海外を担当することになるようだ。
 なお、スコセッシとディカプリオは、この他に“The Wolf
of Wall Street”という計画も持っていたが、本作では、前
回ラッセル・マルケイ監督の“Zen in the Art of Slaying
Vampires”の話題にも登場したリータ・カーログリディスの
脚色が提示され、それに2人が直ちに反応したとのことだ。
 またディカプリオの予定では、5月15日付第135回で紹介
したマイクル・マン監督との計画も2月撮影開始予定になっ
ていたものだが、今回の計画が実現すると、それはキャンセ
ルになりそうだ。
        *         *
 2005年のアカデミー賞外国語映画部門ノミネートが話題に
なった『パラダイス・ナウ』のパレスチナ人監督ハニ・アブ
=アサドによるハリウッドデビュー作“The Vanished”に、
ニコラス・ケイジの主演が発表された。
 物語は、イスラム教に入信した大学生世代の息子が旅先の
海外で行方不明になり、その探索に向かう父親を描くという
ものだが、ジャンルはスリラーと紹介されている。2005年作
はパレスチナ人の自爆テロを描いて、アカデミー賞のノミネ
ートにはボイコット運動も起きたが、今回もそれと関わりが
あるのだろうか。
 なおケイジの予定では、1月にダーレン・アロノフスキー
監督の“The Wrestler”に出演し、その後の4月から本作の
撮影に入るとなっている。また、ヒット作の続編“National
Treasure: Book of Secrets”の世界同時公開は12月21日。
さらにパン兄弟作品からのリメイク“Bangkok Dangerous”
の撮影は完了してるようだ。
        *         *
 以下は、SF/ファンタシー系の情報を中心に紹介する。
 まずは続報で、2005年5月1日付第86回で紹介した1963年
公開のヒッチコック監督の名作“The Birds”(鳥)のリメ
イクが進められ、監督に『カジノ・ロワイヤル』のマーティ
ン・キャンベルと、主演には『ザ・リング』『キング・コン
グ』のナオミ・ワッツが発表された。
 ダフネ・デュモーリアの短編小説からインスパイアされた
1963年版は、小さな湊町を舞台に、突然鳥たちが人間を襲い
始めるというもの。その恐怖がヒッチコックの演出で見事に
映像化されていたが、ワッツは、オリジナルでティッピー・
ヘドレンが演じた都会から来て事件に巻き込まれるヒロイン
に相当する役柄を演じることになりそうだ。
 製作は、マイクル・マン主宰のプラティナム・デューン。
同社のリメイクでは、『ヒッチャー』(中で『鳥』の映像も
使われていた)も好調だったが、オリジナルでは当時最新の
VFXなども使って見事に映像化されていた上空からの鳥の
襲撃を、『バイオハザード3』も登場した現代の映像技術で
どこまで進化させることができるか、期待したい。
 脚本は、2006年5月に紹介した『ブギーマン』のスタイル
ズ・ホワイトとジュリエット・スノードンによるものがすで
に完成しているはずだが、最終的な決定権を持つユニヴァー
サルは製作を急がないようで、これから脚本のリライトなど
も検討されるとしている。従って、本作の製作は来年のスト
ライキ後になりそうだ。
 因に、キャンベル監督はフォックスで“Unstoppable”と
いう暴走列車物と、パラマウントで“36”という犯罪ドラマ
の製作に関わっているようだ。一方、ワッツは、ワーナーで
“Funny Games”という作品が公開待機中になっており、ま
た“The International”という作品が撮影中。その後には
“Kicked,Bitten and Scratched: Life and Lessons at the
World's Premiere School for Exotic Animal Trainer”と
いうコメディ作品への主演が決まっている。
        *         *
 そろそろクリスマスシーズンだが、『300』の製作を手
掛けたハリウッド・ギャングから、“The Last Christmas”
と題されたサンタ・クロースを主人公にしたグラフィック・
ノヴェルの映画化計画が発表されている。
 ブライアン・ポーゼンとゲイリー・ダガンという2人の作
家がイメージ・コミックスから発表した原作は、何と最終核
戦争によって世界が破壊された後の地球を舞台にしたもの。
この物語でサンタは、人間界を拒絶して北極に閉じ込もって
いたのだが…その北極が攻撃を受け、サンタは、生き残りの
人々を救出し、地球を再生して再びクリスマスを祝うため、
悪魔やゾンビと戦わなくてはならなくなる。
 因に“The Last Christmas”という題名は、「最後のクリ
スマス」か、「去年のクリスマス」かで、訳語を悩むところ
だが、この作品の場合は、「最後のクリスマス」を賭けての
戦いが行われるという意味のようだ。
 以前に紹介したフォーブス誌のランキングでは、世界一の
金持ちとされるサンタ・クロースだが、そのサンタが武装し
て戦うとは…ファンタシーとしてはかなり殺伐とした物語に
なりそうだ。でも最後は、クリスマスを祝えればそれで良い
ということなのかな。アメリカ人らしい発想の物語とも言え
るものだ。
 なお、ハリウッド・ギャングでは、フランク・ミラー原作
の“Ronin”と、ウォーレン・エリス原作の“Ocean”という
グラフィック・ノヴェルの映画化を進めている他、前々回に
紹介した1978年公開のアクション映画“The Wild Geese”の
リメイクも計画している。
        *         *
 “Terminator”の第4作の計画については前回も紹介した
が、その他にも3部作を超えて第4作となる計画が次々発表
されている。
 その1本目は、“Spider-Man 4”に関して、『ゾディアッ
ク』のジェームズ・ヴァンダービルトが脚本の執筆を契約し
たことが報告されている。この第4作の製作については、ほ
ぼ決定済と思われていたものだが、具体的な動きとしては、
今回のヴァンダービルトの契約が最初となる。そしてソニー
からは、第4作の公開を2009年に行いたいという希望も表明
されたようだ。
 因に、監督のサム・ライミからは、「(第4作には)プロ
デューサーとしての参加はあるが、物語にタッチすることは
ない」との発言が報告されており、監督をするかどうかは不
明だが、いずれにしても脚本家が別に用意されることは了解
済みだったようだ。その脚本家にヴァンダービルトなら不足
はないだろう。
 またライミは、“The Hobbit”に関しては、「ピーター・
ジャクスンがやるなら、それに越したことはない」と発言し
ており、一方、自ら映画化権を所有している“The Shadow”
については、まだ準備を進めていない状況とのことで、当面
は“Spider-Man 4”の成り行きを見定めているようだ。
        *         *
 2本目は、“Fast and the Furious”(ワイルド・スピー
ド)の第4作に、ヴィン・ディーゼルとポール・ウォーカー
が戻ってくるかも知れないという情報だ。
 2001年公開のシリーズ第1作が、ディーゼルとウォーカー
のキャリアをブレイクさせたことは間違いないと思われると
ころだが、2003年に公開された第2作では、ウォーカーの再
演は実現したものの、ディーゼルは出演しなかった。ところ
が昨年公開の第3作では、物語の舞台がアメリカを離れたた
めに出演者は総入れ替えとなっていたが、何とディーゼルが
カメオ出演。これにはディーゼルのシリーズに対する愛着を
感じさせてくれた。
 そして第4作について、ディーゼルとウォーカーの2人に
出演の打診があったということで、2人の役柄がどの程度の
大きさになるかは不明だが、カメオ程度でも出てくれれば話
題になることは間違いないものだ。なお第4作に関しては、
第3作を手掛けた脚本のクリス・モーガンと、ジャスティン
・リン監督にも話が行っているとのことで、この脚本、監督
のコンビが再登板すれば、ディーゼルの再度の出演の可能性
は、かなり高くなると考えられているようだ。
        *         *
 そして3本目は、“Mad Max 4”について、“Fury Road”
のサブタイトルの許で、計画が再び動き出したことが報告さ
れている。
 この計画については2006年7月15日付第91回でも報告して
いるが、イラク戦争の勃発で1度は頓挫した計画について、
監督のジョージ・ミラーは当時も諦めていないとしていたも
ので、このほどシドニーのスタジオ内に、撮影準備のための
“Mad Max”オフィスが再オープンしたと伝えられた。
 なおこの第4作については、メル・ギブスンの再演は年齢
的に有り得ないとされており、現在は“Justice League of
America”に専念しているミラー監督としては、その製作が
済み次第、新たな主人公のキャスティングに取り掛かる意向
とされている。撮影は、以前の計画通り南部アフリカのナミ
ビアで行われることになるようだ。
 一方、ミラー監督には“Happy Feet 2”の実現も期待され
ているようだが、監督自身は、「オリジナルの製作には4年
掛った」として、今回も製作を急ぐことはしないと発言。取
り敢えずは、“JLA”に続いて“Mad Max 4”の順番で製
作を進めることになるようだ。
        *         *
 第4作の次は、第3作と言っても前日譚の計画で、2004年
と06年にケイト・ベッキンセールの主演で公開された『アン
ダーワールド』シリーズの第3弾を、“Underworld 3: The
Rise of the Lycans”の題名で製作することが発表された。
 物語は、永くヴァンパイアの僕として支配されてきたリカ
ンズ(ウェアウルフ)が、その支配に反抗し、自由を勝ち取
るまでを描くもので、脚本はダニー・マクブライド。監督に
は、『インディペンデンス・デイ』から“10,000B.C.”まで
のローランド・エメリッヒ作品でVFXを手掛け、『アンダ
ーワールド』でも前2作のクリーチャーを担当してきたパト
リック・タトポウロスが起用されて、実写監督デビューを飾
ることになっている。
 因に、前2作では監督も務めたシリーズ・クリエーターの
レン・ワイズマンは、今回は製作者となっているが、「本作
では初めてリカンズの目を通して物語を描いており、シリー
ズの最初からリカンズの映像化を担当してきたタトポウロス
こそが、この監督にはピッタリの人材だ」と考えているとの
ことだ。
 そして配役では、前日譚と言うことでベッキンセールの出
演はないが、リカンズの若きリーダー=ルシアン役のマイク
ル・シーンと、ヴァンパイアのキング=ヴィクトール役のビ
ル・ナイは再登場。さらにルシアンの恋人ソニア役を、ジム
・キャリー主演『ナンバー23』などに出演のローナ・ミト
ラが演じることになっている。
 撮影は、来年1月にニュージーランドのオークランドで開
始され、製作はレイクショアとスクリーン・ジェムズ。公開
は、北米地区をソニー傘下のスクリーン・ジェムズが行い、
他の地域はレイクショアとソニーの共同で行われる。
        *         *
 2004年8月1日付第68回で題名だけ紹介したDCコミック
ス“Green Lantern”の映画化について、テレビ出身グレッ
グ・バーランティ監督の起用がワーナーから発表された。
 元々の原作は、1940年に最初の作品が発表されているDC
コミックスでも初期の頃の作品ということだが、今回映画化
されるのは1959年にスタートした第2世代の物語で、主人公
の職業は民間航空機会社のテストパイロットとなっている。
 この主人公が、ある日、宇宙船の墜落現場に遭遇し、そこ
でグリーン・ランタンの一員と名告る異星人から偉大な力を
発揮する指輪とランタンを託される。そして宇宙の彼方に導
かれ、そこで訓練を積んだ主人公は、地球に舞い戻って正義
のために戦うというものだ。
 この物語の映画化を、バーランティ監督が進めことになっ
たものだが、これまで監督が手掛けてきた番組はというと、
“Brothers & Sisters”“Dirty Sexy Money”といった題名
だけ見てもヒーロー物とはちょっと違う傾向のものが多い。
このため今回の起用には戸惑いの声も聞かれたようだが、実
は今回の起用は監督の方から希望が出されたとのことだ。
 そして今回の計画では、バーランティは脚本も手掛けるこ
とになっており、それに協力するのがマーク・グッゲンハイ
ムとマイクル・グリーンという2人。この内のグッゲンハイ
ムは、“Brothers & Sisters”の共同脚本、共同製作者でも
あるが、実はマーヴルコミックスで“Amazing Spider-Man”
“Wolverine”“Blade”などを手掛けるライターとのこと。
 一方のグリーンは、バーランティとは“Jack & Bobby”と
いう番組で協力しているものだが、日本でも放送が始まった
“Heroes”の共同総指揮や、“Smallville”の脚本、製作者
でもあるとのことで、こういう顔ぶれなら全く心配はいらな
いようだ。
 なおこの計画では、以前の情報ではジャック・ブラックが
主人公を演じることになっていたものだが、今回は全く名前
は出ていなかった。また“Green Lantern”は、上で紹介し
ている“Justice League of America”の一員でもあるよう
だが、それとの関係も今回は紹介されていなかったようだ。
 いずれにしても、映画化の実現までにはまだ多少時間が掛
りそうだが、ワーナーのスーパーヒーロー路線に新たなシリ
ーズが誕生するかどうか、楽しみなことだ。
        *         *
 最後にちょっと気になる情報を2つ。
 まずは、ロベルト・ロドリゲス監督による“Barbarella”
のリメイクで、製作をバックアップしていたユニヴァーサル
が離脱を発表した。これは、当初6000万ドルの製作費で進め
るとしていたロドリゲスの計画が、準備を進める内に8200万
ドルに膨れ上がったということもあるようだが、さらに前回
紹介した主演をローズ・マッゴーワンで進めるとなると、そ
の製作費ではリスクが大きいという判断もあるようだ。映画
化実現のためには、製作費を削るか主演女優を替えるか、ロ
ドリゲス監督としては難しい局面になっているようだ。
 もう1本、“Superman Returns”の続編“Superman: Man
of Steel”の製作準備で、前作を手掛けたダン・ハリスとマ
イクル・ドウハティの脚本では進めないことが発表された。
ハリスとドウハティは、ブライアン・シンガー監督の“X2:
X-men United”にも協力していたものだが、今回ワーナーで
は、“Justice League of America”との絡みでも慎重に物
語を検討したいとしているもので、彼らが用意した脚本では
問題があったようだ。そしてワーナーからは、Wantedコミッ
クスを手掛けるマーク・ミラーの起用も発表されており、ブ
ランドン・ラースの再演だけは決まっている続編の製作は、
まだ曲折がありそうだ。


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井口健二