井口健二のOn the Production
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2007年10月31日(水) 再会の街で、鳳凰、黒い家、エンジェル、ザ・シンプソンズ、その名にちなんで、SAW4

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※今回このページでは、東京国際映画祭の特別招待作品と※
※コンペティション作品で日本での公開が迫っているもの※
※及び試写で見せてもらった映画の中から、僕が観て気に※
※入った作品のみを紹介しています。         ※
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<コンペティション作品>
『再会の街で』“Reign Over Me”
アダム・サンドラー、ドン・チードルの共演で、9/11の被
害者を描いた作品。
チードル演じる主人公は、ニューヨークで歯科クリニックを
開業している。しかも患者は引きも切らず繁盛しているよう
だ。ところが、彼が創設したはずのクリニックは、雇い入れ
た他の医者たちの思うが儘になっており、彼は裁量権も奪わ
れている。
そんな彼だったが、表面的には家族と共に安寧な生活を送っ
ていた。その彼が街角で大学時代の同級生の姿を見掛ける。
サンドラー扮するその同級生は9/11で家族を失い。政府の
見舞い金などで暮らしに不自由はなかったが、世間とは隔絶
した生活を送っていた。
そんな彼を励まそうとした歯科医も、最初は拒絶されるのだ
が…。やがて同級生の方から彼に誘いが掛る。そこで歯科医
が見たのは、1970年代の彼らの学生時代を再現したような同
級生の生活態度だった。
正直に言って、いつまで経っても9/11を引き摺っているハ
リウッド映画にはいい加減にしろと言いたくなっている。確
かにテレビで生中継されたあの衝撃は大きかったが、自分の
国がしてきたことを棚に上げて、これ見よがしに被害者面さ
れるのも呆れてしまうものだ。
そんな気持ちで、多少覚めた眼で見た映画だったが、テーマ
をどこに置くかは別にして、人生の辛苦からの立ち直りを描
くこの映画は、確かに優れた作品だった。特に終盤の同級生
が家族に対する想いを語るシーンは、その故が何であれ等し
く理解できるものだ。
一方、歯科医の抱える問題に関しては、勤務先の問題にして
も夫婦仲の問題にしても、自分たちとあまり変わりないとも
思えるもので、それはそれで理解できるというか、いろいろ
考えさせられるものもあった。
その意味では、普遍的に考えさせられる作品であったことは
確かだ。ただあまりに前面に9/11が出てくるのは、アメリ
カ人以外としては一言言いたくなってしまうのだが。
なお、家族への想いを語るシーンで愛犬のことに触れられた
のには、ある程度の予想はしていたが、犬を飼っている者と
しては思わず涙腺に来た。本来なら爆笑のシーンかも知れな
いが、これはしてやられたという感じだった。

<コンペティション作品>
『鳳凰〜わが愛』“鳳凰”
第2次大戦前後の中国東北部を舞台に、それぞれ罪を犯した
男女が刑務所で出会い、時代に翻弄されながらもその純愛を
全うする物語。中井貴一が中国人の役柄での主人公を演じる
と共に、プロデューサーとしても参加した日中合作映画。
主人公は、婚約者に悪戯した男に暴力を振るって15年の刑罰
を受ける。しかも刑務所でも反抗的な主人公は懲罰を受け、
そこで暴力的な夫を殺害した罪で投獄された女性と出会う。
そして互いに生きる望みも失った2人は、徐々に心を引かれ
合って行くが…
最初は封建的な中国、やがて日本軍の進駐から満州国設立、
そして国民政府の支配から中国共産党へと、目まぐるしく変
化する時代の中で、恐らくは民衆もそうだったのだろうが、
それ以上に過酷な運命に晒される男女の物語が綴られる。
しかも映画は、撮影時期の関係もあるのだろうが、ほとんど
が雪景色のシーンで、それも大粒の雪や吹雪が容赦なく襲う
シーンも描かれている。それらがすべて本物であることは見
ていれば判るもので、その過酷さは見事に表現されていたと
言えそうだ。
またその間には、たぶんCGIも使用されていると思われる
幻想的なシーンも挿入され、それが過酷な中での一瞬の和み
にもなっていて観客を落ち着かせてくれる。その描き方や構
成も良い感じだった。
ところで物語の中には、グォ・タォが演じる男性の副主人公
がいて、この男の設定が死体を担いで歩いているところを咎
められ殺人の罪に問われたとされている。そしてこの男が、
友の遺体を故郷に連れ帰ろうとしたと主張しているのだが…
実は今回の東京国際映画祭「アジアの風」部門で上映された
『帰郷』という作品が同じような男を描いていた。
遺体を担いで歩くなんてことは、落語の「黄金餅」以外では
あまり想像できなかったが、『帰郷』を観ていると昔のキョ
ンシー映画を思い出して、なるほど中国では遺体は故郷に帰
すものだと納得した。『鳳凰』の中では台詞しか出てこない
が、その実態は『帰郷』の方で観ることができた。
実は『帰郷』は事情があって全編を観られなかったもので、
このページでの紹介はしない予定だが、映画祭でのちょっと
した相乗効果と言えそうな組み合わせで面白かった。

<特別招待作品>
『黒い家』(韓国映画)
1997年に発表された貴志祐介の日本ホラー小説大賞受賞作を
韓国で映画化した作品。
同じ原作からは1999年に日本でも映画化があり、その作品も
確か東京国際映画祭で観た記憶がある。しかし原作発表から
10年を経て、映像表現の方法も格段に変化した今、この原作
にはピッタリの映画化が実現したと言えそうだ。
保険会社に勤める主人公に、ある日掛ってきた電話は、女性
の声で「自殺でも保険金は出ますか」と尋ねてきた。その質
問に対して幼い頃に目の前で弟に自殺された記憶に苦しむ主
人公は、必要以上に思い止まるよう説得するのだったが…
そんな彼が手掛けている案件は、最初は保険金詐欺のように
始まる。だがそれは、彼を思いも寄らぬ恐怖に引き摺り込ん
で行くことになる。
原作は、日本での映画化の前に読んでいて、日本版の映画を
観たときには物足りなく感じたことを覚えている。その物足
りなさが何なのか当時はよく判らなかったが、結局のところ
サイコパスというテーマの部分が、当時は僕も理解できてい
なかったのかも知れない。
実際、日本映画のときは、出演者は髪を振り乱すような狂気
は演じていても、それはサイコパスを演じていたのではなか
ったようにも思える。それが今回の韓国映画で、同じ登場人
物が一種淡々と演じられる姿には、本当の意味での恐怖が味
わえたものだ。
そしてそれを支える映像演出も確かなもので、上映中には驚
愕の声や、手で顔を覆って指の隙間からスクリーンを観てい
る女性の姿も数多く見られた。基本的にホラー小説の映画化
なのだから、これくらいにはなって欲しいという感じの観客
席の様子だった。
特に、後半の相手が本性を現してから始まるノンストップの
恐怖演出には、久し振りにホラー映画の醍醐味を堪能した感
じがした。
なお監督のシン・テラは、本作が商業映画は初監督というこ
とだが、壺を得た演出には感心した。因に監督は、10数本の
短編作品を手掛けた後、2005年には自主映画で長編SF作品
も製作しているとのことだが、その作品も観てみたいものだ
し、今後もこのような作品を作り続けてくれることを期待し
たい。

<特別招待作品>
『エンジェル』“Angel”
『8人の女たち』などのフランソワ・オゾン監督が、初の英
語作品としてイギリス出身の女流作家エリザベス・テイラー
の原作を映画化した作品。
原作者のテイラーは1912年生まれ75年没。当然映画スターと
は別人だが、結婚後の1945年頃から小説を発表。その作品は
ニューヨーカー誌やEQMMなどにも掲載された人で、没後
30年を迎えた2005年頃から再評価が始まっているようだ。
本作は、そのテイラーが1957年に発表した長編小説に基づい
ている。
時代は20世紀初頭。イギリスの片田舎の雑貨店の2階で母親
と共に暮らすエンジェル・デヴェレルは、いろいろな想像を
広げながら、その想像を文章に綴ることが好きだった。
それは学校では教師の失笑を買い、家でも母親や伯母の理解
は得られないものだったが、ある日ロンドンの出版社に送っ
た原稿に対して、社まで来てほしいとの連絡が届く。そして
出向いたエンジェルに対して、出版社は破格の待遇で出版す
ることを申し出る。
こうして出版された小説は大評判となり、その後も次々に出
版された本は、いずれもベストセラーとなって行く。そんな
彼女は、子供の頃から憧れだった屋敷を購入し、町に絵画を
寄贈したり、作品が舞台化されたり、一躍著名人となるが…
オゾン監督の作品では、『8人の女たち』にしても『スイミ
ング・プール』にしても、聡明な女性たちを主人公としてい
るが、本作も文筆に長けた若い女性を主人公にしている。そ
の女性が、周囲の無理解や恋に破れながらも、自分の決めた
道に邁進して行く物語だ。
そんな女性の姿は、現代にも通じるものだろうし、現代女性
の賛同も得られるものになりそうだ。まあその分、男の姿が
多少だらしなく描かれているのは、男の自分としては哀しい
部分でもあるが、それも仕方のないところだろう。
エンジェルを演じるモローラ・ガライは、2005年5月に紹介
した『ダンシング・ハバナ』でディエゴ・ルナの相手役を務
めていた若手女優で、今回は堂々としたヒロインを演じてい
る。また、オゾン作品には常連のシャーロット・ランプリン
グも出演している。
なお、往時のロンドンの風景や、イタリア、ギリシャ、エジ
プトなどを訪問するシーンには観るからに…という感じの合
成が使われているが、それが何ともクラシカルなのも作品の
雰囲気にマッチして良い感じのものだった。

<特別招待作品>
『ザ・シンプソンズ MOVIE』“The Simpsons Movie”
人気テレビアニメーションの初の映画版。お騒がせファミリ
ーが映画館のスクリーン狭しと大騒動を巻き起こす。
映画祭での上映では、日本人のミュージシャンによるゲスト
トークがあって、そこで映画版のテーマソングのアレンジが
テレビとはちょっと変えてあるという紹介があった。
それもそうなのだろうが、それとは別に僕が気付いたのは、
映画の最初で上映が始まったときには画面の左右に少し黒み
があったのが、本編になると画面が左右にちょっとだけ広が
るということだ。
この広がりは多分、初映画版と言うことで最初が1:1.78の
HDサイズから、本編は1:1.85のアメリカンヴィスタにな
ったものと思われるが、さすがシネマスコープを最初に手掛
けたフォックスの拘わりというか、誰がそんなことに気付く
のか…という代物だ。
そんな事細かな部分に始まって、いろいろな拘わりのある作
品。しかもかなりマニアックというのが、この作品の魅力だ
ろう。後は観客の趣味嗜好によって、それにどこまで気付く
かというところだ。
物語は、シンプソンズ一家の住む町の近くの湖の汚染が進ん
で危機的な状況になる。この事態にシュワルツェネッガーが
大統領を務める政府は町の隔離を断行。ところが、何故かシ
ンプソンズ一家だけは脱出に成功して…というもの。
これに、風刺やら何やらのギャグがふんだんにちりばめられ
て、特に風刺の部分は大人の観客にも充分に楽しめるものに
なっている。
ただ、物語は一見ハッピーエンドのように見えるが、実は根
本の問題は全く解決されていないもので、これを政府の横暴
に対する民衆の抵抗という形で決着させるのには、ちょっと
無理があるようにも思えた。まあ、その辺は観客の取りよう
でもあるが…
なお、シュワルツェネッガー大統領の声は本人ではなかった
ようだが、他に大物ハリウッドスターの本人が声優を務める
ゲストキャラクターも登場して、この辺はテレビシリーズの
魅力がそのまま踏襲されている。
それに物語や映像のスケールも、映画館のスクリーンでの効
果を充分に意識したもので、映画館で観るだけの価値はある
作品と感じられた。

<特別招待作品>
『その名にちなんで』“The Namesake”
『モンスーン・ウェディング』などのミーラー・ナーイル監
督による2006年作品。
ピュリツァー賞受賞作家ジュンバ・ラヒリの原作に基づき、
母国を離れてニューヨークに移り住んだインド人女性を中心
に、異国の地で環境や文化の違いに戸惑いながらも健気に暮
らして行くインド人一家の姿を描く。
特に、夫婦の間に生まれ正式名は別にあるが親にはゴーゴリ
と名付けられた息子が、自分の名の由来を含めて、自らのア
イデンティティーに目覚めて行く姿が描かれる。しかもこの
息子が、親族に反対されることは承知で白人女性を好きにな
ったりという、いろいろな出来事が女性監督らしい細やかな
演出で描かれて行く。
昔は人種の坩堝と言われた合衆国で、インド人の立場がどん
なものかは全く判らないが、映画ではインド人同士の横のつ
ながりの強さは明確に描かれていた。「付き合うだけならど
んな女性でもかまわないが、結婚はインドの同じ地方出身者
に限る」という台詞は、映画の中で何度も出てきたものだ。
ただし、主人公にとってそれはさほど重要な問題ではなく、
そんな民族的な話よりもっと普遍的な家族の問題が描かれて
いる。ナーイル監督は、『モンスーン…』でも家族の問題を
見事に描いていたが、その流れの先にある作品というところ
だろう。
因にゴーゴリは、ロシア作家に因んで名付けられているが、
大学で名告るたびに「『外套』の作家だね」と返される。し
かもその後に「天才だけれど人格的には破綻者だった」など
と続けられるもので、恐らく日本の大学では、名前も聞いた
ことのない学生がほとんどだと思われるが、西洋人の教養の
レヴェルの高さを改めて認識した。
なお、本作の製作者には小谷靖、木藤幸江という日本人の名
前が並んでいる。彼らの名前をデータベースで調べると『輪
廻』や『予言』といった題名が並んでいて、日本ではジャパ
ニーズホラーを手掛けていた人たちのようだが、見事な転身
という感じだ。
それから、ナーイル監督の名前はいろいろに表記されるが、
今回の表記はこのようになっていたものだ。ただし舞台挨拶
に立った木藤プロデューサーは、「ナイール」と呼んでいた
ようにも聞こえたが、聞き違いだろうか。
因に監督は、ジョニー・デップ主演による“Shantaram”の
撮影開始を年末に控えており、その準備のため今回の映画祭
への来日はなかった。今後来日があったら、名前を確認した
いものだ。

『SAW4』“Saw IV”
毎年この時期になると登場するホラーシリーズの第4弾。
シリーズの第1作は、ソリッドシチュエーション・スリラー
という新ジャンルを創設したとまで言われたものだが、実は
そこから続く2作はそのジャンルへの拘わりが、それはそれ
で面白いものではあったが、多少マンネリ化の様相も呈して
きていた。
それが本作では、勿論ジャンルの特性は保ったままで、新た
な展開に挑んでいる。
実は、第3作の公開時に行われた来日記者会見で、ダーレン
・リン・バウズマン監督は第4作以降の継続シリーズは他の
監督に任せたいと語っていたものだが、この脚本を見せられ
たらこれはやりたくなる、そんな感じの見事な展開を繰り広
げた作品だ。
物語は、ある死体の司法解剖から始まる。これがまず、過去
にここまで丁寧に解剖を描いた映画はないだろうと思わせる
位に見事なもので、そしてその遺体の中から物語の進行の定
番となっているある物が発見される。
一方、前作の事件を捜査していた刑事が2人行方不明となっ
ており、遺体から発見された物は、行方不明の刑事の生命を
賭けた殺人鬼ジグソウからの挑戦状だったという展開だ。そ
して今回の主人公となる刑事が、それに挑むことになるが…
まあ、それにしてもこの映画の製作者たちは、毎回々々よく
ぞここまで手の込んだ人間の殺し方を考えつくものだと思わ
せる。今回も、奇妙なからくりを五万と用意して楽しませて
くれる。そして今回は、それに加えて背景のドラマもしっか
りと描かれているものだ。
脚本は、「プロジェクト・グリーンライト」という新人登竜
門において、初めてホラー作品で受賞を果たしたパトリック
・メルトンとマーカス・ダンスタン。その直後から大量のオ
ファーが舞い込んだというコンビが、シリーズ本来のシチュ
エーションをしっかりと踏まえて、見事な展開を作り上げて
いる。
これは正に、シリーズを見続けてきたファンへの最高の贈り
物という感じの作品だ。
なお、エンディングクレジットの部分で、YOSHIKI作
曲によるXジャパンの楽曲が流れる。YOSHIKIの楽曲
は先に紹介した『カタコンベ』でも使われていたが、独特の
雰囲気の曲がこの映画にもマッチしていた。
因に、バウズマン監督の次回作では、YOSHIKIが製作
総指揮を勤めることにもなっているようで、2人の繋がりは
深そうだ。



2007年10月20日(土) すんドめ、ユゴ、アニー・リーボヴィッツ、アース、ペルセポリス、眠れる美女、ぜんぶフィデルのせい、俺たちフィギュアスケーター

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※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介しています。     ※
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『すんドめ』
岡田和人原作、「ヤングチャンピオン」に連載中の人気コミ
ックスの実写映画化。
成績優秀でもなく、スポーツ万能でもない普通の男子高校生
を主人公にして、隣の席に美少女転校生を迎えたことから始
まる青春物語。しかも、その美少女から耳元で、「オナニー
厳禁」と言われてしまったことから主人公の苦悩が始まる。
原作は、連載が好評なだけでなく、3巻まで出ている単行本
は10万部を突破、さらに携帯配信コミックスのダウンロード
数でも記録を作っているとのことだ。
そんな人気コミックスの映画化だが、そのヒロイン役にはグ
ラビアアイドルの鈴木茜を起用して、官能シーンはないが、
かなりエッチなシーンは見事に演じさせている。と言っても
R指定になるようなものではないが、まあ男性なら楽しめる
という程度には描かれているものだ。
そして映画化では、美少女系のヒロインの対抗馬として巨乳
アイドルの次原かな扮する京子の役柄を膨らませて、二宮敦
扮する主人公との三角関係を展開させ、それなりの物語を作
り上げている。実は、最近の日本のコミックスはキャラばか
り立って、物語の弱いケースが多いと聞いていたが、この映
画化ではその辺にも注意は払われていたようだ。
ヴィデオ制作のインディーズと言うか、DVD売りが主目的
と思われる作品ではあるが、試写会の上映前に行われた監督
と、主演3人の挨拶でも、制作態度は真面目なように見えた
し、これだけやってくれれば文句はないという程度には仕上
がっている。
なお、試写会は、渋谷のアップリンクという比較的狭い会場
で、しかも上映は挨拶をした監督と主演者も一緒に見ること
になったため、僕の直ぐ後ろには、鈴木茜が映画の衣装その
ままで座っているという状況だった。これは僕としては意外
と緊張してしまうもので、上映後に席を立って目が合ったと
きに、「頑張ったね」と一声くらい掛けてあげられれば良か
ったのだが、それもできなかった。
でもまあ、そう言ってあげたいくらいには頑張っているよう
に見えたし、続編にも期待したい。

『ユゴ|大統領有故』(韓国映画)
1979年10月26日に起きた朴正煕・韓国大統領暗殺事件をフィ
クションとして描いた作品。
この暗殺事件は、韓国大統領府が運営する秘密料亭で起きた
ために、酒の席での口論が発展して偶発的に起きたものか、
この映画が描くように、KCIAの部長によって周到に準備
されたものかは、首謀者も処刑されて謎に包まれたまま現在
に至っている。
映画の中では閣下と呼ばれる大統領(映画では朴正煕という
名前は出てこないが、高木正雄という日本名は出てくる)。
韓国の近代化を成し遂げたとされる閣下だったが、急進的な
改革は国内に歪みを呼び、デモ隊への弾圧も武力行使が通常
になっている。
そして、長髪やミニスカートの取り締まり、日本の歌謡曲の
放送禁止など、学生民衆への弾圧は日に日に高まっている。
ところが、閣下の実態は、酒と女に明け暮れ、その秘密料亭
でもミニスカートの若い女性を侍らせ、呼び寄せた人気歌手
には日本の歌謡曲を日本語で歌わせているという始末。そん
な閣下の尻拭いが主な仕事のKCIAの部長はストレスの塊
になっていた。
そして…という物語が描かれるが、韓国では繁栄の記憶だけ
が残る朴政権時代は、ナショナリズムの象徴でもあり、今で
も国民の支持率は高いのだそうだ。従ってこの映画に対する
批判も強く、特に遺族からの訴えに対しては裁判所が、憲法
で禁じられている事前検閲を容認して、映画の一部削除を命
じる結果にもなっている。
その削除された部分は、主には巻頭で、今回の日本公開でも
その部分は画面全体が黒く塗りつぶされて上映される。因に
削除されたのは、閣下と若い女性の官能シーンだそうで、そ
の直後に女性の母親が捜査官に向かって語るシーンが映像で
描かれていたようだ。
でも、そのシーンをカットしたからと言って、映画の描きた
かったことが損われているものではない。学生逮捕者に対す
る拷問シーンの再現なども含みながら、当時の韓国の実態が
再現されて行く。
監督は、1998年の『ディナーの後に』が鮮烈な印象を残すイ
ム・サンス。主演はペク・ユンシク、ハン・ソッキュ、ソン
・ジェホら。また、人気歌手のキム・ユナが現場に居合わせ
た歌手役で出演して、「悲しい酒」「北の宿から」などを日
本語で聞かせてくれる。
描かれた物語は真実かどうか。監督は「日本人にはコメディ
として観てもらっていい」と発言しているそうだ。

『アニー・リーボヴィッツ』
       “Annie Leibovitz: Life Through a Lens”
初期のRolling Stone誌の表紙を飾り続けた女流写真家を題
材にしたドキュメンタリー。実の妹が監督となって製作され
た作品で、功なり名を遂げた姉の姿を、そのまま撮影した作
品という感じのものだ。
1949年生まれ。1967年に軍人だった父親の赴任により家族で
フィリピンに渡り、そのとき手にしたカメラで家族写真から
撮影を始める。1970年に単身サンフランシスコに移住して、
絵画と写真を学びながら、当時は新興雑誌だったStone誌の
仕事を開始、同年ジョン・レノンのカヴァーストーリーを手
掛けて評判となる。
1975年のローリングストーンズのツアーに同行。彼らがバッ
クステージでくつろぐ写真は、友人にしか撮れないとも言わ
れ、一躍名声を得る。そして1980年、レノンの死の数時間前
に撮ったヨーコとのポートレートはStone誌の追悼号の表紙
を飾ることになる。
1983年Vanity Fair誌に移籍。ロックミュージシャンだけで
なく、映画スターやセレブを被写体にした写真を撮り続け、
Fair誌を飾ったデミ・ムーアの妊婦ヌード写真では論争も巻
き起こした。
そして現在は、ファッション誌からCMまで手広く扱い、特
にその被写体に合わせて創造される背景の巧みさには、他の
追随を許さないものがあるようだ。
こんな彼女の人生が描かれているものだが、映像ではオノ・
ヨーコを始め、ミック・ジャガー、キース・リチャーズ、ベ
ッド・ミドラー、ウーピー・ゴールドバーグらへのインタヴ
ュー。さらに、ジョージ・クルーニー、キルスティン・ダン
スト、キーラ・ナイトレー(「オズの魔法使い」の写真スト
ーリーのようだ)の撮影風景なども織り込まれていて、それ
は観ていると面白い。
ただ、例えばローリングストーンズのツアーへの同行では、
当然あったはずのドラッグの問題は言及はされるが実態はぼ
かされている感じだったり、また戦火のサラエボ取材にも同
行し、死も看取ったスーザン・ソンタグとの関係が、本当は
どうだったのかという点も中途半端な感じで、その辺は身内
が監督していることの限界も感じられた。
まあ、全体的にはきれいごとに終始してしまっている感じだ
が、1970年代から現代までのポップカルチャーの流れを垣間
見られるところは、それなりに面白くも描かれていた。

『アース』“Earth”
BBCの製作で、地球の生態系の現時点での姿を描いたドキ
ュメンタリー。
北極圏の白熊の子育てから始まり、その部分は先に紹介した
『北極のナヌー』とも似ているが、北極から南極までを網羅
的に描いている点では、本作の方が見所も多いし、映像も堪
能できる。またそれは、地球にはまだ自然がこんなに残って
いるのだと思わせる反面、その自然が最早風前の灯火である
ことも明確に伝えている。
地球の温暖化は、北極の氷を蝕むだけでなく、雨季乾季によ
って司られてきたサバンナの気候を不安定にし、また海水温
の上昇によってクジラの餌であるプランクトンを減少させる
など、ざまざまな影響を生じさせているようだ。そんな地球
の自然の、今置かれている状況が見事に描かれている。
因に本作は、あらかじめ作られた構成に沿ってスタッフが世
界各地に飛び、5年間、延べ2000日の撮影によって製作され
たもので、『北極のナヌー』がアーカイヴの映像を編集して
作られているのとは、根本的に手数の掛け方が違っている。
そしてその撮影は、全編をHDのヴィデオシステムで統一さ
れており、画質の安定性や均一さなどでは、鑑賞にも違和感
を生じることが少なく、快適に観ることができた。
さらに見事なのは、自然の移り変わりをディジタル処理で一
気に見せるなどのVFXの素晴らしさ。もちろん慎重に観て
いればその繋ぎは観えてくるものだが、雪に埋もれたランド
スケープがあっと言う間に花に満ち、新緑から紅葉に変化し
ていく様子には、思わず息を呑まされた。そんなテクニック
も随所に見せながら、地球の自然の今が描かれる。
ただし、シネラマや70mmの大画面を知っている自分にとって
は、ヴィスタサイズのHDはどうしても横への広がりに物足
りなさも感じられた。今の映画ファンには理解できないかも
知れないが、シネラマの大画面は、このような題材を写すの
にこそ適していたものだ。
BBCの製作ではHDは当然だが、できることなら上下を多
少切ってでも70mmフィルムに変換し、湾曲スクリーンに包ま
れてこの映像に浸りたいという思いにも駆られた。
なお、オリジナルのナレーションはパトリック・スチュアー
トが担当している。

『ペルセポリス』“persepolis”
題名はギリシャ語でペルシャの都市という意味だそうだ。
「リベラシオン」誌や「ニューヨーカー」誌などの誌面も飾
っているというイラン出身、フランス在住の女性イラストレ
ーター=マルジャン・サラトピが、2000年から発表している
半自伝的なグラフィックノヴェルを、原作者自身の脚本、共
同監督によりアニメーション化した作品。
主人公の少女マルジは、ペルシャ=イランに生まれ育ち、パ
ーレヴィ国王時代からイスラム原理革命までを体験する。そ
して、革命後は14歳で単身ウィーンに留学、そこでもいろい
ろな体験をした後に一時帰国。革命政権下での一般市民の生
活も体験する。
物語の中では、パーレヴィ時代には学校での教えの通りに、
シャーは神に指名されたと信じて崇拝していた偶像が革命で
打ち砕かれたり、また革命政権下の生活では、闇で売買され
ている西欧音楽のカセットや酒の取り締まりなどが、皮肉込
めて描かれている。
一方、ウィーン留学中は1980年代の若者カルチャーの洗礼を
受け、その風俗が多少ノスタルジックに描かれたりもしてお
り、その辺りのノスタルジーや、革命政権下のイランの市民
生活がある意味生の声で語られる点など、いろいろな面での
興味の引かれる作品だ。
ただ、原作に忠実すぎるのか、本来の描かれている物語は起
伏に富んだものであるはずなのに、映像化された作品に起伏
があまり感じられない。現象だけを綴っているものだから平
板になるのは仕方はない面もあるが、もう少し何か一工夫欲
しかった感じはした。
なお声の出演者では、マルジ役をマルチェロ・マストロヤン
ニとカトリーヌ・ドヌーヴの娘のキアラ・マストロヤンニが
演じ、母親役のドヌーヴと母娘共演を果たしている。また祖
母役を、『ロシュホールの恋人たち』などでドヌーヴの母親
役を5度も演じているダニエル・ダリューが演じているのも
話題を呼びそうだ。
因に、マルジャン・サラトピは、6月に紹介した映画『オフ
サイド・ガールズ』のオリジナルポスターのデザインも担当
していたそうだ。

『眠れる美女』“House of the Sleeping Beauties”(ドイ
ツ映画)
川端康成が1961年、62歳の時に発表した原作を、『4分間の
ピアニスト』などにも出演の俳優で、監督経験もあるヴァデ
ム・グロウナが、脚色、監督、主演で映画化した作品。
ベルリンの街角に立つその家には老人たちが通って行く。女
主人の許可なしには入れないその家の中では、若い女性が深
い眠りに落ちたまま一糸纏わぬ姿で提供される。老人たちは
その眠ったままの女性と共に一夜を過ごす。
三島由紀夫が、「デカダンス文学の逸品」と評価した原作が
ドイツで映画化された。時代は変われど老人の性の問題は、
恐らくは昔以上に重要になっているとも思える今の時代に、
この作品の映画化は意味があるようにも思える。
同じ原作は、1968年に新藤兼人脚本により日本でも映画化さ
れたことがある。当時の僕は未成年で観ることができなかっ
たが、老人が裸の女性の乳房を鷲掴みにして突っ伏している
スチル写真が印象に残っている。
日本映画の主演は田村高廣だったようだが、当時のスチル写
真では、老人のやせた姿が「枯れ果てた」という感じを持た
せていた。その老人がそれでも性欲にさいなまれているとい
う姿が不思議な感じでもあった。
それが今回の映画化では、主人公はでっぷりとしたビール腹
で、まだまだ性欲もありそうなのが、物語的には判りやすい
感じにはなっている。ただし、そこに至るまでの経緯があっ
て、それが本来のテーマを描くようにもなっていたようだ。
また当時の日本映画では、一糸纏わぬ姿といっても映像上は
限界があったものだが、それも、今回は男性の一部に塗り潰
された部分はあるものの、女性に関しては規制もなく描かれ
ている。
ただ物語の進行の中で、女主人が「今夜は女性を2人用意し
ました」と言っているシーンと、実際に2人の女性が寝てい
るシーンとが繋がっていなかったように思え、確認はしてい
ないが、ちょっと奇異に感じられた。
なお主人公にその家を教える友人役で、マクシミリアン・シ
ェルが共演している。
因に、監督は1941年生まれ、2005年製作の本作は64歳の時の
作品のようだ。

『ぜんぶ、フィデルのせい』“La faute a Fidel”
ドミティッラ・カラマイ原作‘Tutta Colpa di Fidel’を、
『Z』などの名匠コスタ=ガヴラスの娘のジュリー・ガヴラ
スが長編監督デビュー作として映画化した作品。なお監督に
は、子供を題材にしたドキュメンタリー作品などで受賞歴が
あるようだ。
1970年パリ。スペインの名門一家の出身でフランスで弁護士
をしている父親と、ジャーナリストの母親を持ち、裕福な環
境で、学校は名門ミッションスクールに通っていた9歳の主
人公アンナの生活が激変する。
フランコ政権下のスペインで反政府運動を続けていた伯父が
処刑され、父親の姉の伯母と従兄弟が難を逃れて彼女の家に
やってきたのだ。そんな2人を疎ましくも思っていたアンナ
は、さらに家政婦のキューバ難民の女性から、フランコと戦
っている反政府活動家は共産主義者で、赤くて髭を生やし、
核戦争を起こそうとしていると教えられる。
ところが、その出来事を切っ掛けに父親の心情が変化し、ア
ジェンデ政権樹立を目指すチリの反政府運動への支援を開始
する。一方の母親は、中絶問題の取材から女性開放を目指し
て行動に出始める。そのため住まいは小さな家に引っ越し、
その家には髭を生やした男たちやいろいろな人々が出入りす
ることに…
さらに家政婦はギリシャ人やヴェトナムの女性に替り、アン
ナはミッションスクールへの通学は許されるが、キリスト教
教育は禁止されるなどなど…、生活は根底から覆されてしま
う。そして、それもこれも「ぜんぶ、フィデル(カストロ)
のせい」と思うようになるのだが…
監督は1970年生まれとのことで、当時のことをどれだけ実感
しているのかは判らないが、父親が『ミッション』を監督し
たときの体験や知識から、この原作に興味を持ったとのこと
だ。従って、物語は多少極端に走りすぎる感じもあって、そ
の辺が当時を実体験している自分としては多少面はゆいとこ
ろもあったが、当時の自分の周囲を思い起こすと、確かにこ
んな時代だったなあと言う感じは思い出させてくれた。
実際に、大学で学生運動をしていた同級生から聞かされた彼
の一家が、父親が労働運動家でこんな風だったようだ。映画
は戯画化風に描かれているが、現実もこれからそう遠くはな
かったものだ。
父親役を『息子の部屋』のステファノ・アルコシ、母親役を
ジェラール・ドパルデューの娘のジュリー・ドパルディーが
演じ、この両親に振り回されるアンナ役を500人の中から選
ばれた新星ニナ・ケルヴェルが演じている。

『俺たちフィギュアスケーター』“Blades of Glory”
今年3月の全米公開では2週連続の興行成績第1位に輝いた
作品。
『主人公は僕だった』のウィル・フェレルと、日本では『モ
ンスター・ハウス』『サーフズ・アップ』の声優くらいしか
馴染みがないが、アメリカでは若手人気No.1コメディアンと
言われるジョン・ヘダーの共演で、フィギュアスケートの世
界を描いた爆笑コメディ。
主人公の2人は、フィギュアスケート男子シングルスでライ
ヴァル同士だったが、ある競技会でのライヴァル心を発揮し
すぎたトラブルで、アメリカスケート協会を永久追放されて
しまう。そして、1人は町のスポーツショップのインストラ
クター、もう1人はアイスショウの出演で食いつないでいた
が、彼らのレヴェルの高さはそういったところでも他人と噛
み合わない。それに2人には、いつか競技に復帰して栄光に
輝きたいという野望もあった。
そんなある日、彼らに耳によりな情報がもたらされる。実は
彼らが追放されたのは男子シングルスだけで他の競技には出
場できる。そして、フィギュアスケートペアは、男女のペア
に限定されず、男子同士でも可能ということだ。さらに元コ
ーチが、実はペアスケーティングのコーチを目指したことも
あり、しかも北朝鮮で開発された死と隣り合わせの究極の大
技「アイアン・ロータス」を完成させたいと考えていた。
とまあこれだけの設定を作って、そこにフェレル、ヘダーの
ギャグを満載するのだから、これはもう笑えることは間違い
ない。ただし、男子ペアということでは当然その手のギャグ
が中心になる訳で、これは良識のある人たちには眉を顰たく
なるようなものなのだが、テレビでもオカマが大人気の今の
日本では、結構そのまま受け入れられてしまいそうだ。
なお、主人公たちのスケーティングは特訓の賜物とのことだ
が、当然映像は、ワイアー・ワークやVFXが満載で、普通
ではできないような大技が続出する。ところがその振り付け
は、2002年ソルトレイク冬季五輪の開会・式閉会式の総合演
出も勤めたサラ・カワハラが担当しているのだからこれは本
物。そんな遊び心も満載の作品になっている。
また、画面には、スコット・ハミルトン、ナンシー・ケリガ
ン、ブライアン・ボイダノ、ドロシー・ハミル、サーシャ・
コーエン、それにペギー・フレミングなど、現役から往年の
名選手までが続々登場し、フィギュアファンにも注目(?)
の作品になっている。
アメリカのコメディは、全米興行第1位を記録しても日本で
はなかなか劇場公開されることが少ないが、今回は日本でも
受け入れられやすい題材と判断されたのかな?これを突破口
にもっと公開されることを期待したいものだ。



2007年10月15日(月) 第145回

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
※このページは、キネマ旬報誌で連載中のワールドニュー※
※スを基に、いろいろな情報を追加して掲載しています。※
※キネ旬の記事も併せてお読みください。       ※
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
 最初は前回の追補で、前回掲載した中から“Brothers”の
記事をキネマ旬報に送ったところ、「ギレンホールは『スパ
イダーマン2』の代役にも選ばれていましたよね」という返
信メールが送られて来た。
 言われてみれば、確かに“Spider-Man 2”(当時は“The
Amazing Spider-Man”と呼ばれていた)の製作に関しては、
2003年4月1日付第36回で報告しているように、トビー・マ
クガイアがスケジュールの過密を理由に降板を表明し、その
代役にジェイク・ギレンホールが指名されたことがあった。
この騒動は、結局マクガイアの降板が撤回されて、ギレンホ
ールの出演は消えてしまったが、この時も風貌が似ているこ
とは代役の条件だったと思われるし、2人の兄弟役というの
は、正に万人の認めるところと言えそうだ。
 なお、“Brothers”の撮影は11月初旬に開始の予定だが、
さらに追加の配役として兄の妻役をナタリー・ポートマンが
演じることも発表された。オリジナルでは、デンマーク出身
で『グラディエーター』などにも出演のコニー・ニールセン
が演じており、それに比べるとポートマンではちょっと若い
気もするが、兄弟もオリジナルより大分若い感じだし、これ
はこれで順当なところだろう。全体的に若くなっている分、
展開されるドラマもかなり変わってきそうだ。
 以下は、新しいニュースを紹介する。
        *         *
 来年はアメリカ大統領選挙の年だが、その舞台裏を描く映
画の計画がいろいろ発表されている。
 まずはすでに製作されている作品で、“Swing Vote”は、
ケヴィン・コスナー扮する政治には無関心だった労働者階級
のシングルファーザーが、突如大統領選挙のキーパースンに
なってしまうというコメディ。ジョッシュア・マイクル・ス
ターンとジェイスン・リッチマンの脚本から、スターンの監
督により7月にアルバカーキで製作が開始された。
 『JFK』や『13デイズ』など政治的な作品にも出演の
多いコスナーということでは、コメディのオブラートに包ま
れた鋭い映画が期待できる。また、大統領選に出馬する各党
の候補者役には、デニス・ホッパーや『プロデューサーズ』
のネイザン・レインもいていろいろ有りそうだ。他に、スタ
ンリー・トゥッチ、ジョージ・ロペスらが共演している。
 元々はコスナーが自己資金で運営するティグ・プロダクシ
ョンの製作によるインディーズ作品だったが、アメリカ国内
の配給権をディズニー傘下のタッチストーンが契約した。因
にコスナーとディズニーの関係では、2003年に監督主演作の
『オープン・レンジ』の配給を行った他、昨年は『守護神』
が公開されている。
 もう1本は、こちらは本人も未来の大統領候補の噂がある
ジョージ・クルーニーの監督で、“Farragut North”という
作品が、レオナルド・ディカプリオの主演によりワーナーで
計画されている。
 作品は、2004年のハワード・ディーン大統領候補の選挙戦
に関わったとされる脚本家のビュー・ウィリモンが書き下ろ
した新作舞台劇を映画化するもので、主人公は急速に頭角を
現した大統領候補の若き広報担当者。才能ある若者は、選挙
キャンペーンの中で、老練な対立候補からの悪辣な攻撃の標
的にされるが…というもの。脚本は実際の経験から想を得た
ということだが、かなりのものが描かれているようだ。
 そしてこの戯曲に対しては、原稿を送付されたクルーニー
主宰のスモーク・ハウスと、ディカプリオ主宰のアピアン・
ウェイが揃って反応、両社が共に優先契約を結んでいるワー
ナーでの実現となったものだ。
 ただし、この舞台劇、実は来年にマイク・ニコルズ演出、
ジェイク・ギレンホールの主演デビュー作としてブロードウ
ェイで初演されることになっているもので、現状は未公開。
従って映画化のスケジュールも未定とされているものだが、
機を見て敏のハリウッドでは、緊急で映画化される可能性は
あるようだ。
 と言ってもクルーニーは、すでにユニヴァーサルから12月
公開予定だった1920年代のアメリカンフットボールを扱った
コメディの監督作品“Leatherheads”を、ポストプロダクシ
ョンにもう少し時間が欲しいとして4月4日公開に延期を発
表したところで、さらに現在はブラッド・ピットの共演で、
コーエン兄弟の監督作品“Burn After Reading”を撮影中な
ど、来年夏のストライキ前には到底時間は開きそうにない。
 一方、映画用台本の執筆を依頼されているウィリモンも、
先にマーク・フォースター監督が2002年のイギリスのテレビ
ドラマ“The Jury”を映画化する計画に脚色の契約を結んだ
ところで、こちらも直ぐに動けるとは思えないようだ。
 なお、ディカプリオは、サム・メンデス監督、ケイト・ウ
ィンスレット共演の“Revolutionary Road”を撮り終え、続
けてラッセル・クロウ共演、リドリー・スコット監督による
“Body of Lies”の撮影に入っており、ストライキを前にス
ターは本当に大忙しの状況になっている。
        *         *
 次も忙しそうな話題で、まずはモーガン・フリーマン、ア
ントニオ・バンデラス共演で、“The Code”という怪盗映画
の製作が発表され、その監督として、1998年の『ディープ・
インパクト』などを手掛けたミミ・レダーが、2000年公開の
『ペイ・フォワード』以来7年ぶりのビッグスクリーン復帰
を果たすことになった。
 物語は、フリーマン扮する引退を考えているヴェテランの
泥棒が、バンデラス扮する若い詐欺師をリクルートし、詐欺
師が抱えるロシア暗黒街のボスからの借金を帳消しにするた
めの最後の仕事に挑むというもの。フリーマンの先生役には
何の分野でも填りそうだが、特に泥棒というのは味がある。
テッド・ハンフリーの脚本で、撮影はすでに10月中旬からブ
ルガリアのソフィアで開始されている。
 レダー監督は、1994年スタートのテレビシリーズ『ER』
で名を挙げ、1997年の『ピースメーカー』など骨太の作品を
手掛けて来ているので、その手腕には期待したい。
 製作は、シルヴェスター・スタローン監督主演による『ラ
ンボー』の新作(“John Rambo”という題名だったが、改題
されるようだ)や、ロバート・デニーロ、アル・パチーノ共
演、ジョン・アヴネット監督の“Righteous Kill”などを手
掛けるヌ・イメージス。配給はミレニアムが行う。
 ところでフリーマンは、レダー監督とは『ディープ…』に
主演したこともあって気心は知れていると思われ、上記の作
品は順調に進むものと思われるが、実は、最初に忙しそうだ
と書いたのは、もう1本、クリント・イーストウッド監督と
三度組んで、南アフリカ共和国のネルソン・マンデラ大統領
を描く“The Human Factor”という計画が、フリーマン製作
によりワーナーで準備されているものだ。
 この作品は、1995年ラグビー・ワールドカップを主催する
ことで、アパルトヘイト以後の南アにおける人種間の融和の
問題を新たな段階に進展させたとされるマンデラの業績を描
いたもので、原作はジョン・コーリンの著作に基づき、脚色
は南ア出身のアンソニー・ペッカムが手掛けている。
 その映画化では、フリーマンはマンデラを演じる計画で、
すでに今年の春に同国を訪問して、マンデラ大統領とも面会
したとのことだ。また、共演者にはラグビーチームのキャプ
テン役でマット・デイモンの出演も話し合われている。
 そしてこの作品の監督にイーストウッドが招請されている
もので、『許されざる者』『ミリオンダラー・ベイビー』の
コンビが復活する可能性は高い。また、この作品もワーナー
では出来るだけ早い時期の製作を目指しており、ということ
は、上記の作品の終了次第、来年早々の撮影もありそうだ。
 なお、フリーマンは、ジャック・ニコルスンとの共演で、
ロブ・ライナー監督による“The Bucket List”という作品
をすでに撮り終えている。
        *         *
 『Ray/レイ』では、盲目の歌手レイ・チャールズを名
演して2004年のアカデミー賞主演男優賞に輝いたジェイミー
・フォックスが、今度はホームレスの演奏家に扮する作品が
ドリームワークスで映画化される。
 “The Soloist”と題された作品は、LAタイムズに掲載
された実話に基づくもので、街角で暮らすナサニエル・エイ
ヤースという男性が、実は音楽の天才で、夢はディズニー・
ホールで演奏することだった…というもの。実在の男性は、
ジュリアード音楽院で学んでいたが、2学年次に精神分裂症
を患い、ロサンゼルスの下町でホームレスになってしまう。
そして街角でヴァイオリンとチェロのパフォーマンスをして
いたところを、LAタイムズの記者スティーヴ・ロペスに発
見されたということだ。
 映画化は、ロペスが自分との交流も交えて記事を纏め来春
発行される“From Skid Row to Disney Hall”を原作とし、
脚本は、『エリン・ブロコビッチ』のスザンナ・グラントが
執筆。監督はキーラ・ナイトレー主演の『プライドと偏見』
で注目され、同じくナイトレー主演の“Atonement”が今年
ヴェネチア映画祭で上映されたジョー・ライトが担当する。
 撮影は来年1月に開始の予定で、共演者には、ロペス役に
ロバート・ダウニーJr、記者の妻役に、チャーリー・カウフ
マン監督の“Synecdoche, New York”などに出演のキャサリ
ン・キーナーの配役も発表されている。
        *         *
 ここからはSF/ファンタシー系の情報を紹介する。
 まずは、2002年版『ボーン・アイデンティティー』を手掛
けたダグ・リーマン監督が、『ゾディアック』のジェイク・
ギレンホールと組んで、“Untitled Moon Project”という
計画をドリームワークスで進めている。
 物語は、個人的な月遠征と月面の植民地化を題材にしたも
のということで、現在では国家プロジェクトも頓挫している
月面探査に個人で挑むというお話のようだ。リーマン監督と
ジョン・ハンバーグが執筆したオリジナル脚本から、『ブラ
ックホーク・ダウン』の原作者としても知られるマーク・ボ
ウデンが物語を再構築、ボウデンは撮影用の台本も手掛ける
ことになっている。
 1960年代以前のSFでは、個人での月探査の話もよくあっ
たものだが、アポロ以後は、現実を見ながらではなかなかそ
ういう物語も構築しにくい。しかし、そのアポロ計画も終了
してかなりの年月が経ってしまった訳で、ここらで現実の宇
宙計画に渇を入れる意味でも面白い作品と言えそうだ。ただ
し、今の時代にそれを如何に現実的な物語として成立させる
が難しいところで、リーマン監督がどのようなアイデアを出
してくるかにも興味が沸く。それに植民地化という話では、
中国の探査計画のことも考えると、かなりインパクトがあり
そうだ。
 因にドリームワークスでは、本作を最優先計画の1本とし
て進める意向としている。とは言え今回の情報では、最初か
らギレンホールの登場がやたらとある訳で、スケジュールの
調整は大丈夫なのだろうか。
 なおリーマン監督の作品では、2006年4月15日付第109回
で紹介したSF映画の“Jumper”が、来年早期にフォックス
から公開予定になっている。
        *         *
 前回に続いて『ターミネーター』シリーズの情報で、新作
の題名を、“Terminator Salvation: The Future Begins”
とすることが、製作会社のハルシオンから発表された。
 物語は、既報の通り『T3』の続きとなるもので、脚本も
『T3』のジョン・ブラッカトーとマイクル・フェリスが担
当しているが、新作は新3部作の開幕となるものなので、通
し番号は付けないのだそうだ。今後『T4』と呼ぶと、ちょ
っと恥ずかしいことになるかもしれない。
 また、監督にはMcGという情報も流れており、McG側もや
りたい意向は示しているようだが、McGにはここ何回か報告
しているように多数の企画が目白押しで、それを押し退けて
の参加には疑問視する声も多いようだ。ただし、実は今回の
新作のアメリカ国内配給権をワーナーが獲得したという情報
も入って来ていて、そうなると第141回でも紹介したように
ワーナーとの優先契約を結んでいるMcGとしてはやりやすい
ことになる。
 因に、ニック・スタールとクレア・デインズが出るのか出
ないのか、出演者もまだ発表されていないものだが、常識的
には監督を先に決めて、その監督が俳優を決めるのが順当な
流れとも言えるもので、まずは監督を早く決定してもらいた
いものだ。
        *         *
 さて、そのハルシオン社からは、新たにSF映画に関わる
計画が報告されている。
 報告されたのは、SF作家フィリップ・K・ディックの全
著作について、未だ映画化されていない全作品の映画化権を
一括して獲得したというもので、その独占の権利期間は3年
間とされている。
 ディックの著作には、45の長編と120以上の短編があると
いうことだが、この内で映画化されたのは、『ブレードラン
ナー』となった“Do Androids Dream of Electric Sheep?”
を含めた9作品。その中には、『トータル・リコール』(We
Can Remember It For You Wholesale)『マイノリティ・リ
ポート』『スキャナー・ダークリー』を含み、これら作品の
全世界での配給収入は合計10億ドルを超えるそうだ。
 その残る作品の映画化権が一括して契約されたものだが、
因に今回の契約は、1982年のディック死去以来、父親の権利
を守ってきた2人の娘が経営するElectric Shepherd(略称
ESP)が取り交わしたもので、このESP社では、『スキ
ャナー…』の製作に参加した他、第117回で紹介したディッ
クの伝記映画の製作にも関わっているようだ。
 ところで、1990年の『トータル・リコール』は、『T2』
を手掛けた旧カロルコが製作したもので、今回“Terminator
Salvation”の製作を進めるハルシオン社がディックの映画
化を進めるのも歴史の巡り合わせを感じてしまう。そしてそ
のハルシオン社では、多数のディック作品の中から、いくつ
かを選んで進めることになるが、その第1候補には1969年に
発表された長編の“Ubik”が考えられている。
 “Ubik”は、『ブレード…』『トータル…』と共に、ディ
ックが生前に映画化権を設定していた4本の内の1本で、当
時はフランスのプロデューサーが権利を持っていたが、結局
実現しなかった。内容は、巨大企業に支配された地球の未来
を描いており、因に題名は、一時期IT関連で話題になった
ユビキタスの基になった言葉ubiquityに由来している。その
点では、現代に映画化することにも意味を感じるものだ。
 なお、後の1本は“Second Variety”という作品がキャピ
トルと契約されており、『トータル…』と同じダン・オバノ
ンの脚本まで完成していたとされるが、実現していない。
 ということで、ディックの映画化に期待が持てそうだが、
実際の製作スタッフなどはまだ不明な訳で、どのような顔ぶ
れがそこに並ぶかにも注目が集まりそうだ。
        *         *
 前回は、ラッセル・マルケイ監督による“Zen in the Art
of Slaying Vampires”という作品を紹介したが、その後も
Vampireテーマの作品の計画が続々発表されている。
 まずは、ニューラインの製作で“Darksider”という作品
に、テレビで新スタートした“Bionic Woman”を手掛ける脚
本家プロデューサーのリータ・カーログリディスの参加が発
表されている。物語は、FBIの捜査官が吸血鬼一族と組ん
で、生物兵器の取り引きをしようとしている武器商人の逮捕
を目論むというもので、ニューラインでは2001年に権利を獲
得して以来、ジョナサン・ヘンスレイやデイヴィッド・ゴイ
ヤーを招請したものの、実現には至っていなかった。なお、
カーログリディスは、ジェームズ・キャメロン監督の“The
Dive”と“Battle Angel”の脚本も手掛けているそうだ。そ
して脚本が完成次第、再度監督捜しを始めるとしている。
 ニュー・リジェンシーからは、“Hellboy”の原作者で、
『ブレイド2』のコンセプトアートなども手掛けたマイク・
ミグノラの原作による“Baltimore, or The Steadfast Tin
Soldier and the Vampire”という作品を、『ブレイド2』
を手掛けたデイヴィッド・ゴイヤーの監督で進めることが発
表されている。物語は第1次世界大戦を背景に、吸血鬼にな
ったが為に一家を滅亡させた主人公のバルティモアが軍団を
結成し、甦った地上最強の悪魔レッド・キングと戦うという
もの。その悪魔は、全ての悪魔の能力を具現化するというこ
とだ。脚本は原作者が執筆することになっている。
 そしてもう1本はサミットから、ステファニー・メイヤー
原作のヤングアダルト・ファンタシー“Twilight”の映画化
を、『ロード・オブ・ドッグタウン』のキャサリン・ハード
ウィックの脚色監督で進めることが発表された。物語は、父
親と共に小さな町に引っ越してきた17歳の少女ベラが、蒼い
顔をして謎めいたクラスメイトと出会うというもの。そのク
ラスメイトは吸血鬼一族の一員だった…という展開になる。
なお、原作には“New Moon”“Eclipse”という続編も発表
されていて、いずれもベストセラーになっているそうだ。
 Vampireテーマ自体は、最近でも『ブレイド』や『アンダ
ーワールド』などが続いてきたものだが、これらの作品はい
ずれも基本的なVampireのルールには則っていた。それが、
今回はいろいろヴァラエティに富んだ展開が見られそうで、
古典的なテーマにも進化が見られるのは嬉しいところだ。
        *         *
 最後は、続報を短く3本纏めておこう。
 待望久しい“John Carter of Mars”がようやく動き出し
そうだ。この計画に関しては、今年2月1日付の第128回で
ディズニーが契約したことを報告したが、その後ディズニー
とピクサーの担当者が原作者エドガー・ライス・バローズの
遺族と話し合いを続け、ついにCGIアニメーションでの製
作が決まったとのことだ。そして製作はまず3部作で進めら
れ、その第1作は2012年に公開する。また3部作が評価され
れば、その後は全11冊を映画化する可能性もあるとされてい
る。遺族側は実写での映像化を望んでいたようだが、『LO
TR』も最初はアニメーションで、後に実写化された訳だか
ら、取り敢えずは映像化が進んだことを歓迎したい。
 お次は“Barbarella”で、ロベルト・ロドリゲスが進めて
いる撮影準備に関連して、夏に公開されたロドリゲス監督の
『プラネット・テラーinグラインドハウス』で強烈なヒロイ
ンを演じて見せたローズ・マッゴーワンが、VFXのテスト
フッテージ撮影に協力していることが報じられている。元々
マッゴーワンはロドリゲスのガールフレンドということで、
これが即主演に繋がることではないかも知れないが、前作で
あれだけの頑張りを見せた女優には期待したいところだ。ま
たこれだけ準備が進んでいるということは、製作開始も間近
なようだ。
 大ラスは、2005年5月15日付第87回で紹介した“Land of
the Lost”の映画化が、来年3月撮影スタートで実現される
ことになった。この作品は、以前紹介したように『怪獣島』
などのクロフト兄弟が1985−89年のシーズンに発表した子供
向けのファンタシー冒険シリーズに基づくものだが、主演に
はウィル・フェレルが起用されて、製作費1億ドルの大型作
品として製作されるとのことだ。また監督は、『レモニー・
スニケット』を手掛けたブラッド・シルバーリングが担当。
どんな作品になるか楽しみだ。



2007年10月10日(水) モーテル、ルイスと未来泥棒、ヒッチャー、肩ごしの恋人、PEACE BED、全然大丈夫、真・女立喰師列伝

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※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介しています。     ※
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
『モーテル』“Vacancy”
『アンダーワールド』のケート・ベッキンセール主演による
サスペンス。
本編の物語より以前の出来事で離婚の危機にあるらしい夫婦
が、ふと立ち寄ったモーテルで恐怖の体験に陥れられる。
ヒッチコックの『サイコ』が嚆矢と呼べるのかな、アメリカ
映画でのモーテルを舞台にした恐怖映画は、『ドラキュラ』
や『フランケンシュタイン』といった古典的な恐怖舞台を現
代化したという意味でも重要なジャンルと言われるようだ。
そんなモーテルの恐怖を描く映画の流れを丁寧に受け継いだ
作品。しかもヴィデオカメラなどの現代機器を小道具に配し
て、さらに現代化を進めている。
モーテルというのは、日本ではラヴホテルと同義語のように
なってしまっているが、自動車社会で、さらに町間の離れた
アメリカでは旅行に必要不可欠なものだろう。それが、一方
ではラスヴェガスのように大発展し、他方ではこの映画の舞
台のように寂れている。
そんな人里離れた寂れたモーテルの経営者が、小遣い稼ぎに
始めた事業。それは、施設内で一番豪華なスウィートルーム
に隠しカメラを仕掛け、泊り客を暴漢に襲わせ、闇ルートに
流す殺人スナッフヴィデオを製作することだった。
しかし、今回そのモーテルの泊り客となった夫婦は、離婚の
危機で常に緊張感を持つ故もあってか、出来事には比較的冷
静に対処し、暴漢たちに対応して行く。
例えば、暴漢たちはヴィデオに映るためにナイフを使わなけ
ればならないが、主人公の側にはそんな配慮はない。そんな
様々なアドヴァンテージを活かして行くことになる。これは
モーテルの主人にとっては、正にF**Kと繰り返したくな
るような事態だろう。

そんなまあ、ひねくり回すといろいろ面白い、そんな感じに
仕上がっている。それに主人公たちが現実的に対処するため
VFXはほとんどなく、極めてリアルに描かれているのも本
作の魅力と言える。
因に、撮影はソニーがMGMから買収した撮影所で行われた
が、モーテルとガソリンスタンドの外観セットはそのステー
ジ15、その昔に『オズの魔法使い』を撮影した歴史的なサ
ウンドステージに建てられたそうだ。
それから映画の内容では、確認はできていないが、多分夫婦
の会話が映画の前半では互いに「自分が悪い」とは言っても
相手に対する謝罪の言葉がない。それが後半変化して行く。
そんなところも丁寧に作られた作品だった。

なお、映画の中でソニー製のヴィデオの編集機材が映るが、
コンシューマー用では中途半端に値の張る機材が備えられて
いるのもニヤリとした。
共演は、夫役に『チャーリーズ・エンジェル』『Gガール』
などのルーク・ウィルスン。他に、フランク・ホエーリー、
イーサン・エムブリーらが脇を固める。

『ルイスと未来泥棒』“Meet the Robinsons”
1937年12月21日に『白雪姫』が全米公開されてから70周年の
記念作品。また、ピクサーとディズニーとの合併によって、
ピクサー創設者で『トイ・ストーリー』の監督ジョン・ラセ
ターが、ディズニー・アニメーションのトップの座に着いて
からの最初の作品となる。
絵本作家ウィリアム・ジョイスの原作『ロビンソン一家のゆ
かいな一日』を基に、様々な映像的なアイデアを盛り込んで
作られた作品。なお、ジョイスは原作と共に製作総指揮の肩
書でもクレジットされている。
主人公のルイスは、赤ん坊の時に施設の入り口に置き去りに
され、以来13年間を施設の管理者ミルドレッドの愛情の許で
育ってきた。しかし無類の発明狂のルイスは、里親希望者と
の面接で失敗を繰り返し、ティーンエイジャーの里子は難し
いと言われる年齢になっている。
そんなルイスの最新発明は、人間の記憶の隅っこにある映像
を写し出す記憶スキャナー。それで自分を置き去りにしたと
きの母親の顔を写し出そうと考えたのだ。ところが、その実
験を妨害する奴が現れる。それは未来から来た泥棒だった。
一方、ルイスの危機を助けるため、未来から来たと自称する
少年も現れるが…こうして、タイムパラドックスも絡み、未
来社会も垣間見せる物語が展開される。
まあ、お子様向けと言えば、お子様向けだけれど、最近の妙
に大人の観客を意識し過ぎのアニメーションよりは気楽に楽
しめる。それでいて、自分を置き去りにした親との関係など
は大人の鑑賞にも堪えるドラマも描かれている。
その辺のバランスが、完璧とは言えないけれど、子供の付合
いで観に行く親の世代には、それなりにいろいろ楽しめる感
じにもなっている。
なお、試写会は2Dで行われたが、オリジナルは3Dを念頭
に置いて製作された作品。劇中3D効果を狙ったと思われる
映像演出も随所にあり、3Dの上映が行われたらまた観たい
感じもしたものだ。
それにしても、これから益々3D作品は増える傾向だが、早
く都心にも3D上映館は出来てくれないのかな。

『ヒッチャー』“The Hitcher”
1986年にルトガー・ハウアー主演で映画化された同名作品の
リメイク。若いカップルが週末のリゾートに向かうドライヴ
中、止むを得ず同乗させたヒッチハイカーが、実は殺人鬼だ
ったというサスペンス作品。
ハウアーに代って主演を務めるのは『LOTR』でボロミア
を演じたショーン・ビーン。ハウアーは見るからに危険そう
だったが、ビーンも負けず劣らず最初から無気味な雰囲気を
漂わせる。
ビーンは、正直に言って比較的端正な顔立ちの俳優だと思っ
ていたが、本作ではその裏に潜む無気味さみたいなものがう
まく表現されていた。と言ってもこの作品では、観客側にも
先入観があるから…リメイクというのはその点で有利かも知
れない、とも思ったところだ。
製作はマイクル・ベイ。今夏は『トランスフォーマー』の監
督でヒットを飛ばしたが、CGIスタント満載の監督作品に
対して、本作では実写のカースタントが中心。これが、これ
でもかとばかりに展開するのもかなりの観ものだ。
ただまあ、このカースタントが絢爛豪華になった分、オリジ
ナルはもっと恐かったなあ…と思ってしまうのは仕方ないと
ころで、上映時間1時間24分では、これがバランスというと
ころだろう。これをどちらもたっぷり時間を掛けて描かれて
は、観る方も大変だ。
もっとも、オリジナルへのオマージュ的シーンが、他の映画
に先を越されてしまったのは、不運とも言えるところだが…

なお、作品の中でヒッチコックの『鳥』が時間経過を示す手
段として使われているが、実は製作者たちが次回にそのリメ
イクを検討しているとのことで、それも楽しみなところだ。
もっともこれも、『バイオハザード3』の後でどこまでやれ
るか、興味津々だが…

カップル役のソフィア・ブッシュとザカリー・ナイトンは、
いずれもテレビの人気者のようだ。他に、『マイノリティ・
リポート』『父親たちの星条旗』などのニール・マクドノー
が出ている。

『肩ごしの恋人』(韓国映画)
直木賞受賞の唯川恵の原作を韓国で映画化した作品。なお、
同じ原作からは、日本では米倉涼子、高岡早紀共演でテレビ
ドラマ化がされている。
片や恋愛至上主義、片や結婚至上主義、性格もファッション
や男の好みも全く違う。それでも親友同士の2人の女性が、
人生の曲り角で自分を振り返り、将来を模索する。
9月に紹介した『ソンナオトナノオンナノコ』も同じような
設定の作品だったが、コミックス原作の日本映画がヴィデオ
製作のインディーズ作品であったのに対して、こちらは韓国
トップクラス製作会社の製作で、ソウル観光も楽しめるくら
いにロケ地も多彩な、豪華な作品になっている。
主人公のジョンワンは写真スタジオ所属の女性カメラマン。
その仕事ぶりはそろそろ認められ始めているが、実生活では
恋愛至上主義で目下は妻子のある男性と恋愛中だ。その彼か
らは、2人だけの日本旅行も誘われている。
一方、ヒスは富豪の実業家と結婚。しかし独身時代からセク
シーさがモットーの彼女は、今も夫の金で身体に磨きを掛け
ている。そして、夫の浮気は男の甲斐性と言って意に掛けな
い様子だったが…
このジョンワンを、『恋愛中毒』のイ・ミヨンが以来5年ぶ
りの主演でスクリーンに本格復帰。ヒスはテレビ『噂のチル
姫』で人気沸騰のイ・テランが映画初出演で演じている。
そして、そんな2人がいろいろな出来事の中で自分の人生を
見直す物語が、ソウル各地の豪華なホテルや、ショッピング
モール、カフェ、バーなどを背景に展開する。
日本で言ったらちょっと昔のトレンディドラマといった感じ
なのかな、一般庶民にはあまり縁のなさそうな豪華なお店が
次々に登場して、そんなものに憧れる庶民の心をくすぐる感
覚。まあ日本人としては、観光気分ということでも楽しめそ
うだが。
僕自身としては、身近な感じもする『ソンナ…』の方が好ま
しい感じのところもあったが、映画は夢を売るものでもある
訳だから、その意味では、この韓国映画は数段上を行ってい
る感じもするものだ。
なお、唯川原作の映画化では、2005年2月に紹介した『フィ
ーメイル』の中の1篇が強烈な印象だったが、本作はそれに
比べると大人しい。韓国映画だからといってそれを期待した
方が間違いだったかも知れないが。


『PEACE BED』“The U.S. vs. John Lennon”
1972年のニクソン再選に絡んで、ニクソン政権がジョン・レ
ノンに対して行った国外退去命令と、それに対するレノンの
反抗を中心に描かれたドキュメンタリー。オノ・ヨーコの全
面的な協力により、史上初公開の映像や音源なども挿入され
ている。
1971年12月10日、先に麻薬所持の囮操作で逮捕された反戦詩
人ジョン・シクレアを支援するコンサートに出演したレノン
とヨーコは、全米に生中継された舞台上で、その日のために
作曲した「ジョン・シンクレア」を披露する。
そのコンサートは、ヴェトナム反戦運動家ジョン・ルーヴィ
ン主催によるもので、会場ではFBIの捜査官が歌詞をメモ
取りもしていた。そんなコンサートに登場したレノンとヨー
コは、反アメリカ分子としてFBIにマークされて行くこと
になる。
それより先にレノンとヨーコは、1969年に新婚旅行先のアム
ステルダムでBed Inを敢行し、そこで反戦歌のGive Peace a
Chanceを発表。さらに、世界12大都市にWar Is Over If You
Want Itのポスターを自費で掲出するなど反戦の態度を鮮明
にしていた。しかし、その一方でニューヨークを愛し、アメ
リカ永住も希望していた。
そんなレノンとヨーコに、合衆国政府は1968年のマリファナ
不法所持による逮捕歴を基に国外退去を命じる。しかし、レ
ノンはその逮捕は冤罪だったと主張。法廷闘争を繰り広げる
ことになる。
そしてレノンは、自分がルーヴィンらに利用されていたこと
にも気付いて行く。こんな合衆国と、ジョン・レノンの関係
が描かれる。
作品は、アーカイヴの映像だけでなく、オノ・ヨーコへの現
在のインタビューや、シンクレア、『7月4日に生まれて』
のロン・コーヴィック、アンジェラ・デイヴィス、さらにブ
ラック・パンサー党のボビー・シールや作家のゴア・ヴィダ
ルなどへの取材で構成されるが、当時は見えなかったいろい
ろな事実が明らかにされて行くのは興味深かった。
特にヨーコとレノンの関係については、正直に言って当時、
「なぜ彼女なのか」という風にも思っていた僕にとっては、
2人の本当の関係が理解できて、それも素晴らしかった。
なお映画の中には、レノン作品を中心に39の楽曲が登場し、
これも聴きものとなっている。

『全然大丈夫』
劇団大人計画で劇中映像などを手掛けていた映像作家、藤田
容介の脚本・監督による作品。大人計画の荒川良々主演、岡
田義徳、木村佳乃共演によるドラマ。
住居一体の古本屋を主な舞台に、ちょっと悪ふざけが好きな
主人公と、それに振り回され続けている友人、そこに現れた
無器用な女性らの関係が描かれる。
荒川良々という俳優は脇役では何本か観ているが、如何にも
良い人という感じが、殺伐とした現代では何か胡散くさくも
見える、そんなキャラクターに感じていた。しかし今までの
作品では基本的に良い人の役柄が多くて、正直その辺が物足
りなくも思えていた。
それが本作では、多分悪気はないのだろうけど、周囲には迷
惑な、一種サイコな人物設定で、それは僕として納得できた
ものだ。実際こういう奴は世間に沢山いるし、そんな現代を
ちゃんと反映したキャラクターにも見えた。
物語は、荒川扮する古本屋の息子で、人を驚かしてはそれを
ヴィデオ撮影するのが趣味というフリーターの主人公と、そ
の主人公と一緒にアマチュア映画の制作などに参加している
が、本業は病院で総務系の仕事をしている岡田扮する友人を
中心に展開する。
一方、木村が演じるのはかなり特異な画風のクレヨン画家。
彼女は川原に住むホームレスの女性などを観察して絵にして
いるが、生活のため病院の清掃員として仕事を求めに来る。
ところが無類の無器用さで失敗続き。見兼ねた友人は、無器
用な彼女への愛しさもあってか、彼女を主人公の古本屋の店
番に紹介するが…
この彼女が描く絵を、悠久斎という人が描いていて、なかな
か面白いものがあった。また主人公の部屋には無気味なフィ
ギュアが多量に置かれているが、こちらは、2006年にテレビ
東京の番組で、「初代フィギュア王」に選ばれた寒河江弘が
造形したもので、これもいろいろ楽しめた。
この他、川原のホームレス女性の造形は映画の美術スタッフ
の作品のようだが、それなりの物にはなっていた。このよう
に、映画は全体的な美術の面でも結構楽しめる。また、挿入
歌を含む音楽もなかなか凝っているようだ。
もちろん映画はそれだけのものではないが、このようなこと
が楽しめる作品というのも、それなりの魅力とは言えるもの
だ。
共演は、田中直樹、蟹江敬三、きたろう、小倉一郎、根岸季
衣、白石加代子ら、これもなかなか楽しめる顔ぶれだった。

『真・女立喰師列伝』
押井守監督作品に時折登場する立喰師と称する無銭飲食常習
者たちの物語。それを発展させた作品では、2006年に『立喰
師列伝』という作品が発表されているようだが、今回はさら
にキャラクターを女性に限定して、6つのエピソードがオム
ニバスで制作されている。
しかも6話中の2話は押井監督によるものだが、他の4本は
それぞれ新進気鋭の若手監督が担当。さらにその主人公を、
ひし美ゆり子、水野美紀、安藤麻吹、藤田陽子、小倉優子、
佐伯日菜子が演じているものだ。
物語は、風俗的なものから西部劇、リアルなものや幻想的な
もの、SFにちょっとしたサスペンスまで種々雑多で、その
ヴァラエティの豊かさも魅力的だった。
各篇のタイトルを列挙すると、「金魚姫・鼈甲飴の有里」
「荒野の弐梃拳銃・バーボンのミキ」「Dandelion・学食の
マブ」「草間のささやき・氷苺の玖実」「歌謡の天使・クレ
ープのマミ」「ASSAULT GIRL・ケンタッキーの日菜子」とな
っている。
中で、僕が面白かったのは、小倉優子主演、神谷誠監督によ
る「歌謡の天使」という一編で、原宿のとあるクレープ屋に
現れたアイドル予備軍の少女が、クレープを食い逃げするた
めに飛んでもないことを語り出すというもの。
この虚実織りまぜた戦後昭和の裏面史とも言える語りが実に
楽しくて、しかも小倉優子のあの口調で、漢字熟語満載のナ
レーションが延々と続くのには大笑いできた。
因に、この一編と水野主演の「バーボンのミキ」は、かなり
奇想天外な食い逃げのテクニックを展開しているものだが、
その他は、食い逃げと言うよりはそこに至る彼女たちの人生
や、あるいはその後の人生が語られるもので、それも意外な
感じで楽しめた。
オムニバスは、数年前ブームのように何本か公開されたが、
意外とそれぞれの作品を短編映画として成立させるのが難し
いように思えた。それに対して本作は、テーマを「立喰師」
で括ることで、それぞれの作品を短編映画として成立させ、
さらに全体もまとまりのある作品になっている。また、本編
中にちょっとした遊び心があるのも嬉しかった。
なおこの作品は、今年の東京国際映画祭「日本映画・ある視
点」部門で上映される。



2007年10月01日(月) 第144回

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
※このページは、キネマ旬報誌で連載中のワールドニュー※
※スを基に、いろいろな情報を追加して掲載しています。※
※キネ旬の記事も併せてお読みください。       ※
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
 まずは、この情報から。
 第124回などで報告してきた『LOTR』を巡るピーター
・ジャクスンとニューライン(NL)の訴訟について、審理
を行っていた裁判所の判事から、ジャクスン側の主張をほぼ
認めて、NLに12万5千ドルを支払よう求める裁定の出され
たことが報じられた。
 この裁判では、ジャクスン側がNLに対して適正な興行収
入からの取り分の請求を行っていたものだが、これに対して
NL側は反論の証拠書類などの提出を怠り、結局ジャクスン
側の全面勝利ということになっている。今後は3週間以内に
NL側に再反論の機会が与えられているが、今回の裁定の出
されたのが9月17−21日の週のようで、10月の第2週がその
期限になるものだ。
 それにしても、世界中で何億ドルも稼いだ映画に関する訴
訟の金額が12万5千ドルというのも意外だったが、実はこの
裏には映画テレビのプロデューサー連盟とアメリカ脚本家組
合との間で行われている交渉の関係もあったということで、
お互い面子を掛けた裁判でもあったようだ。その点では予断
を許さない部分もあるが、第142回で紹介したようなNL側
の事情も考えると、このまま決着という可能性も高そうだ。
 ということで裁判が決着すれば、いよいよジャクスン、フ
ィリッパ・ボウエン、フラン・ウォルシュ脚本による“The
Hobbit”3部作が現実味を帯びてくる。JRR・トーキンの
原作から『LOTR/旅の仲間』までを繋ぐ物語は、ジャク
スンらが『LOTR』3部作の映画化の際に行った検討を踏
まえて新たに造り出すもので、その物語が、さらにサム・ラ
イミ監督によって実現されるか…楽しみになってきた。
        *         *
 以下は、いつものように製作ニュースを紹介しよう。
 ダッフルコートに帽子を被り、ウェリントンブーツを履い
て旅行鞄をぶら下げた姿で、欧米では『プーさん』と並んで
人気の高い“Paddington Bear”を実写映画化する計画が、
『ハリー・ポッター』シリーズの製作を進めるデイヴィッド
・ハイマンとワーナーから発表された。
 ロンドンのパディントン駅で迷子で発見された人語を話す
1匹のクマが、ブラウン一家の居候となって、いろいろな騒
動や冒険を繰り広げる。原作は、マイクル・ボンドが1958−
79年に発表した11冊の子供向けのシリーズで、1970年代には
イギリスのBBCテレビでアニメーションシリーズ化もされ
ている。
 この原作シリーズから、今回の計画では、今春公開された
“Mr.Bean's Holiday”が好評のハーミッシュ・マコールが
脚本を書き、実写+クマにはCGIを使って、『スチュアー
ト・リトル』のような映像化を目指すというもの。なおワー
ナーでは、原作シリーズの中の特定の1冊を映画化するので
はなく、シリーズ全体の中からいろいろなエピソードを抽出
して物語を再構築する方針のようだ。
 因に原作には、主人公をロンドンに暮らす海外からの移住
者たちに準えて、異文化間の交流を考える今日的なテーマと
して捉える見方もあるそうだ。
        *         *
 前回はエドワード・ノートンとの共演を報告したばかりの
ブラッド・ピットに、今度はマーク・ウォルバーグとの共演
の計画が発表された。
 題名は“The Fighter”。ウォルバーグ扮するボクシング
ライト級チャンピオンのミッキー・ワードが、チャンピオン
になるまでを描く実話に基づく作品とのことだ。
 この作品でピットは、チャンピオンの異母兄で彼も有能な
ボクサーだったディッキー・エクランドを演じる。しかし彼
は犯罪に走り、収監もされてしまう。その彼が、弟の努力す
る姿を見て再起し、有能なトレーナーとなって共にチャンピ
オンを目指すという物語のようだ。
 因にこの配役は、当初マット・デイモンで企画されていた
が、デイモンのスケジュールが満杯となり、ピットはその代
役での出演となっている。
 それにしても、デイモンの代役にピットとは豪華な交代劇
だが、実のところは来年夏のストライキを控えて、製作現場
はかなり緊急体制になってきたところが伺えるものだ。特に
本作はパラマウントの製作で、ピットは同社のトップを務め
るブラッド・グレイとは切れない間柄だし、その辺で止む無
しというところもありそうだ。
 一方、本作の監督はダーレン・アロノフスキー。アロノフ
スキーは、第59回で紹介したように“The Fountain”の製作
ではピットに降板されてしまったものだが、今回はひょんな
ことから組むことになっている。元々“The Fountain”の製
作は、ピットが監督の才能を認めて進めていたもので、今回
の代役にはこの辺の経緯も絡んでいるのかも知れない。
 撮影は、ノートンとの共演作の“State of Play”に続け
て行われる。今度はリング上で闘う姿も見られるかな?
        *         *
 『ラッシュ・アワー3』が大成功を納めたブレット・ラト
ナー監督と、主演クリス・タッカーのコンビで、次なる計画
が報告された。
 計画されているのは、題名が“Mr.S: My Life With Frank
Sinatra”という作品。1953−68年のシナトラ全盛期を陰で
支えたジョージ・ジェイコブスが、ハリウッド史家のウィリ
アム・スタディエムと共著で2003年に発表した回想録に基づ
くもので、その中には、シナトラとラット・パック、さらに
マリリン・モンローやケネディ兄弟、プレスリー、ディート
リッヒらも登場してくるそうだ。
 その映画化を、タッカーのジェイコブス役で進めようとい
うものだが、すでにタッカーは、今夏にジェイコブス本人に
面会して役作りも行っているとのことで、実現は案外早くな
るかも知れない。
 一方、脚本はスタディエムに依頼されているが、そのスタ
ディエムは、「ブレットは本当に良くラット・パックのこと
を研究している。彼と一緒に仕事をするのは楽しくなりそう
だ。私は、彼が間違いなくシナトラとチャネリングしている
と思うね」と語るなど、かなり好意的な雰囲気で進んでいる
ようだ。
 なお、本業のスタンダップ・コメディアンが超多忙とされ
るタッカーは、『ラッシュアワー3』が久しぶりの映画出演
だったものだが、元々ラトナー監督のデビュー作の“Money
Talks”以来、『ラッシュアワー』の3部作に、“After the
Sunset”など、常に同監督と組んでいるもので、今後も当面
の映画出演は同監督の専属で行くようだ。一方、ラトナーに
は第139回で報告したヒュー・ヘフナーの伝記映画の計画も
あり、こちらも忙しそうだ。
        *         *
 またまたリメイクの話題で、今年9月に作品紹介を掲載し
たデンマークのスサンネ・ビア監督による『ある愛の風景』
(Brodre)を、『スパイダーマン』のトビー・マクガイア、
『ゾディアック』のジェイク・ギレンホール共演で、ハリウ
ッドリメイクする計画が発表された。
 オリジナルの物語は、先月紹介したばかりだが、人格者の
兄と生活破綻者の弟を巡るもので、兄が海外派兵先のアフガ
ニスタンで戦死と報じられ、悲嘆にくれる一家を見た弟は、
心を入れ替え彼らを支える。ところが兄が奇跡的に救出され
て生還。しかし帰還した兄は性格が一変し、自分が居なかっ
た間の弟と妻の関係を疑い出す…というもの。この兄をマク
ガイア、弟をギレンホールが演じる。
 リメイクの脚本は、『X−メン』からのスピンオフで11月
に撮影開始予定の“Wolverine”なども手掛けるデイヴィッ
ド・ベニオフ。監督は『イン・アメリカ』などのジム・シェ
リダンが担当。撮影はこちらも11月初旬に開始の予定になっ
ている。製作は“3:10 to Yuma”が大ヒットを記録したばか
りのリレイティヴィティ・メディア。なおオリジナルは、ア
メリカでは“Brothers”の題名で紹介されているものだ。
 またこの他に、ヨーロッパ映画からは7月に紹介した突然
睡魔に襲われる奇病ナルコレプシーを題材にしたフランス製
の奇想天外コメディ『ナルコ』(Narco)も、“The Secret
Adventures of Gustave Klopp”の英題名で、スパイグラス
社によるリメイクが決まったようだ。
 この作品は、7月の紹介では、もう少し洗練してほしいと
書いたものだが、ハリウッドリメイクということではどうな
りますか。なおこちらのリメイクスタッフはまだ発表されて
いない。因にオリジナルは世界20カ国で公開されたそうだ。
        *         *
 続けて、往年のアクション映画のリメイク情報を2本。
 まずは、日本では1975年にサブウェイ・パニック』の邦題
で公開された作品“The Taking of Pelham One Two Three”
を、『デジャヴ』のデンゼル・ワシントン主演、トニー・ス
コット監督のコンビでリメイクする計画が進められている。
 オリジナルは、ウォルター・マッソー主演、ジョセフ・サ
ージェント監督で、ニューヨークの地下鉄網を背景に、犯罪
者の一味が乗客の乗った地下鉄列車を乗っ取り、環状線をノ
ンストップで走らせたまま身の代金を要求するというもの。
日本では、同年公開の『新幹線大爆破』と前後したために、
スケールの違いなどもあってあまり評判にならなかったが、
マッソーが意外なアクションも披露し、ロバート・ショウら
が演じる犯人たちにも凄味のあったものだ。
 元々はジョン・ゴーディのベストセラーとなった小説の映
画化で、同じ原作からは1998年にテレビドラマ化もされてい
るそうだ。
 その作品を今回は、デイヴィッド・コープの脚色により現
代化してリメイクするもので、ワシントンは、オリジナルで
マッソーが演じた地下鉄の技術担当者ザッカリー・ガーバー
役に挑む。オリジナルの当時とは桁違いに情報化の進んだ現
代で、基本は乗客の安全を最大限に奮闘する姿が描かれる。
 製作は、コロムビア傘下のエスケープアーチスツ。2008年
初旬の製作を目指している。因にコープは“Spider-Man 4”
の脚本をすでに提出したようだ。
 もう1本は、1978年公開のイギリス作品『ワイルド・ギー
ス』(The Wild Geese)のリメイクを、『300』を成功さ
せたハリウッド・ギャングが計画している。
 オリジナルは、アンドリュー・V・マクラクレン監督、リ
チャード・バートン、ロジャー・モーア、リチャード・ハリ
スの主演で、アフリカを舞台に、幽閉された民主化のリーダ
ーを救出するため、ロンドンのアンダーグラウンドから集め
られた傭兵部隊が活躍するというものだ。
 今のところは、ルパート・サンダースという監督が決まっ
ているだけのようだが、配給はワーナーと話し合われている
とのことだ。
        *         *
 後は、SF/ファンタシー系の映画の情報を紹介しよう。
 まずは、第141回で紹介したスーパーマン、バットマン、
ワンダーウーマンなど、DCコミックスのスーパーヒーロー
たちが勢揃いする“Justice League of America”の映画化
計画が急浮上し、2009年夏の公開に向けた製作が決定になっ
たようだ。
 また監督には、前回報告した通り『ハッピー・フィート』
のジョージ・ミラーの起用が発表されている。
 ただし、出演者はシリーズ進行中の作品との兼ね合いでか
なり微妙となっているようで、バットマンのクリスチャン・
ベールに関しては、クリス・ノーラン監督が製作時期の調整
を申し入れたとの情報もあるが、スーパーマンのブランドン
・ラースについては、ドイツで撮影中のブライアン・シンガ
ー監督の意向が掴めず、替りにテレビシリーズからの起用も
噂されている。
 一方、ワンダー・ウーマンの配役には、一時はジェシカ・
ビールの名前が挙がっていたが、これは本人が断ったという
ことだ。この他、フラッシュ役に、『ブレイド3』などのラ
イアン・レイノルズ。グリーン・ランタン役には、『トラン
スフォーマー』などのタイリーズ・ギブスンなど、名前はい
ろいろ挙がっているが、まだどれも正式のものではない。
 そう言えば、以前計画された“The Green Lantern”の映
画化には、ジャック・ブラックが噂されたことがあったが、
今回の情報では全く挙がっていないようだ。
 とは言え、来年のストライキのことを考えると、VFXの
多用される作品ではそろそろ時間が足りなくなる恐れも出て
くるもので、配役は近日中に正式発表になりそうだ。
 脚本は、『Mr.&Mrs.スミス』などのリライトを手掛けた
キアラン&マイクル・マロニーが担当しているもので、この
脚本の評判がかなり良いようだ。
        *         *
 続編の情報で、第135回で紹介した“Terminator 4”の製
作が本気で開始されることになったようだ。
 この続編に関しては、以前の紹介でハルシオンというプロ
ダクションが権利を買収したことを報告したが、さらに今回
は、テレビシリーズの“Sarah Conner Chronicles”を手掛
けるプロデューサーのジェイムズ・マイデルトンが本作の製
作も務めることが報告された。そして10月には、『T3』を
手掛けた脚本家チームのマイクル・フェリスとジョン・D・
ブランカトによるプレプロダクションが開始されるとのこと
だ。
 また、今回の計画では、『T4』は新たな3部作の開幕と
位置付けられており、そこではジョン・コナーによるマシー
ンズに対する戦いが描かれるとされている。ただしそれが、
ジョンと、『T3』に登場したケイト・ブリュスターを主人
公に描くものになるかは、ニック・スタールとクレア・デイ
ンズの出演交渉の如何によるとのことで、出演が叶わなかっ
た場合には、コナーの動きに連動した別の抵抗者たちの物語
として、新たに展開される可能性もあるようだ。
 いずれにしても、この作品も2009年夏の公開を目指すとす
れば、最早時間はあまり残されていない訳で、出演交渉とプ
レプロダクションは早急に進められることになりそうだ。
 一方、前々回にマイクル・ベイ監督がいろいろ物議を醸し
た“Transformers 2”についても、パラマウント=ドリーム
ワークスから、2009年6月29日に全米公開するとの発表が行
われている。
 このスケジュールについては、ベイ監督も主演のシーア・
ラブーフも、契約はほぼ合意に達しているとのことだが、こ
ちらもストライキ前の撮影完了を目指すとなるとかなり忙し
そうだ。しかも、現時点でスティーヴン・スピルバーグとパ
ラマウントの間がいろいろ揉めているとの情報もあり、スピ
ルバーグがパラマウントを離れる可能性もあるようだ。しか
し、仮にそうなっても、この作品へのスピルバーグの影響力
は絶大なものがあり(ベイ監督も、主演のラブーフも、スピ
ルバーグの意向で決まった)、その点ではパラマウント側も
かなり微妙な舵取りが必要になるようだ。
        *         *
 パロディの計画で、クリス・ビショップという脚本家によ
る“Jeff the Immortal”という作品が、ユニヴァーサルで
取り上げられることになった。
 この作品は、ビショップが1986年公開の『ハイランダー』
観た後で思いついたというもので、自分の超自然パワーに気
付いた男が、何とその力を自分のためだけに使ってしまうと
いうもの。まあ、超能力ものではありがちなパターンのよう
にも思えるが、ハリウッドメイジャーが買い上げたというこ
とでは、それなりの作品に仕上がっているのだろう。
 なおビショップは、ワーナー・インディペンデスがリメイ
ク権を獲得した2004年のドイツ映画“Night of the Living
Dorks”のアメリカ版の脚本も手掛けているようだ。
 もう1本、第139回で紹介した“The $40,000 Man”には、
2001年のアカデミー賞脚色賞候補になった『ゴーストワール
ド』のダニエル・クロウズとテリー・ズィワイゴフが参加、
彼らによる脚本のリライトと、ズィワイゴフの監督で進めら
れることが発表されている。因にズィワイゴフは、2003年に
ビリー・ボブ・ソーントンが主演した『バッドサンタ』など
の監督も務めており、このパロディにはかなり強力な助っ人
になりそうだ。
        *         *
 CGIアニメーションの話題で、ザ・ワインスタイン・コ
ープ(TWC)とエクソダス・フィルム・グループという会
社が契約を結び、その第1作として“Navy Seals”という作
品の計画が発表された。
 両社はすでに第106回で紹介した“Igor”という作品を、
10月24日に全米公開することになっているが、これは単発の
契約だった。それが今回は包括契約となったものだ。そして
その第1作の計画が発表されたものだが、この題名何処か記
憶があると思ったら、第81回で同じ題名をディズニーの計画
として紹介していた。
 内容は、海軍で訓練された海洋生物たちの物語ということ
で、たぶん同じ企画と思われるが。だとすると、当時はまだ
ディズニー傘下でミラマックスを仕切っていたワインスタイ
ン兄弟を頼って、企画が流れてきたことになる。正に紆余曲
折という感じのものだ。
 もう1本CGIアニメーションはサミット社から、“Fly
Me to the Moon”という作品を来年2月15日に全米公開する
ことが発表された。
 この作品は、アポロ11号に積み込まれた3匹のハエたちの
物語ということで、ちょっとノスタルジックな宇宙冒険とな
りそうだ。そしてこの作品、実は3Dで製作されていて、公
開は全米1000館以上の3Dシアターでの上映が見込まれてい
る。因に公開はImaxとリアルDの両方で行われるそうだ。
 日本ではなかなか進まないように見える3D化だが、以前
に紹介したナショナル・ジオグラフィックの作品は、横浜で
こっそり上映されていたなど少しずつ進んではいるようだ。
何かのきっかけで一気に拡大してくれることを祈りたいが、
やはり2010年の“Shrek 4”まで待たされるのかな?
        *         *
 最後に、新しい話題をまとめて紹介しておこう。
 『スクービー・ドゥー』を手掛けた脚本家のジェームズ・
ガンが、“Pets”という計画をニュー・リジェンシーで進め
ている。物語は、異星人に拉致された男が、家のペットとし
て育てられるというもので、具体的なお話は不明だが、ちょ
っと気になるところだ。製作はベン・スティラー主宰のレッ
ド・アワーズ、配給はフォックスが担当する。
 『バイオハザード�掘戮魎篤弔靴織薀奪札襦Ε泪襯吋い蓮�
“Zen in the Art of Slaying Vampires”という作品への参
加を発表している。この作品はスティーヴン=エリオット・
オルトマンという作家の原作に基づくもので、マンハッタン
の下流地区を舞台に、カップルが吸血鬼に襲われ、女性は死
ぬが主人公は生き残る。しかし、血を吸う欲望と人としての
理性に苛まれるというもの。そこに「禅」の教えも絡む物語
だそうだ。なお、製作を手掛けるCPプロダクションでは、
本作のヴィデオゲームへの展開も並行して行うようだ。
 もう1本はイギリスから、“Franklyn”という計画が紹介
された。この作品は現代のロンドンと未来の大都市の間で、
4人の孤独な人間たちの魂が交錯するというもの。本作が長
編デビューの監督ジェラルド・マクモローは“Thespian X”
という短編で映画祭などの受賞歴があるようだ。フィルム4
の製作で、製作費は1200万ドル。ライアン・フィリッペ、エ
ヴァ・グリーン、スザンヌ・ヨークらが出演している。


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井口健二