井口健二のOn the Production
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2007年09月30日(日) レディ・チャタレー、レンブラントの夜警、バイオハザード�掘¬損劼侶抻_山畋癲▲�ルラのリスト、アヴリルの恋

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※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介しています。     ※
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『レディ・チャタレー』“Lady Chatterley”
D・H・ロレンス原作『チャタレー夫人の恋人』の映画化。
日本では発禁処分になったり、猥褻論争で有名な原作だが、
今回の映画化は一般に流布されている第3稿ではなく、第2
稿に基づくとされている。ただし、この第2稿は第3稿以上
に描写は鮮烈なようで、映画化はその描写を最高の美しさで
映像化しているものだ。
主人公コンスタンス・チャタレーの夫クリフォードは、第1
次大戦に従軍中の負傷で下半身が麻痺している。従って夫婦
の営みは果たせない夫だったが、炭坑を経営する資産家であ
り、コンスタンスの生活にも不自由はない。
そんな夫婦の暮らす館は深い森に包まれ、その森には猟番の
男パーキン(名前は各稿ごとに違うそうだ)が小屋を建てて
暮らしていた。そしてある日、夫の指示を伝えにその小屋に
向かったコンスタンスは、パーキンが上半身裸で体を拭う姿
を目撃し…
実は、第3稿というのはロレンスが論争になることを予想し
て書いたと言われ、その論争に対処するために、かなり理論
武装に力が入れられているのだそうだ。
それに比べると第2稿は、コンスタンスと猟番の関係に焦点
が絞られ、純粋な愛の姿が描かれている。従って映画化もそ
の視点で描かれているもので、この方が映画化には向いてい
る感じもするところだ。
そして今回の映画化では、自然描写を多用して飛び切り美し
く2人の関係を描いており、その映像にも心を魅かれた。監
督は、本作が長編3作目で、しかも前作からは11年ぶりとい
う女流のパスカル・フェラン。
出演は、2人とも主演は初めてでほとんど新人というマリナ
・ハンズとジャン=ルイ・クロック。この2人の関係が徐々
にエスカレートしていき、最後は全裸で森を走り回るなど、
奔放な姿を大胆に、そして体当たりで演じている。
なお本作は、2006年のフランス・セザール賞で9部門にノミ
ネートされ、作品、主演女優、脚色、撮影、衣装美術の5部
門で受賞している。
それにしても、発禁処分になるほどの描写の過激さで有名な
作品ということで、結末も相当に厳しいものになるのではな
いかと覚悟していたが、こんなにも見事にハッピーエンドな
作品とは思っていなかった。

勿論、不道徳な物語ではあるし、夫人は結局、夫を裏切って
いることは確かだが、彼女の行為自体は当時の貴族社会では
認められていたことであり、その道徳の範疇にある。そう考
えるとこの作品は、美しい映像に彩られた純粋な愛の物語と
言える。それが明瞭に描き出された作品だ。

『レンブラントの夜警』“Nightwatching”
オランダ絵画の巨匠レンブラントの代表作『夜警』に隠され
た謎を追ったイギリス人監督ピーター・グリーナウェイの作
品。
画家というのは、生前は悲惨な生涯を送り、死後評価された
人は多いが、レンブラントの場合は30代で肖像画家として成
功を納め、マネージャーでもあった妻や弟子たちと共に大き
な屋敷に住み、自作を出版するための印刷所まで自前で持っ
ていたということだ。
ところが、ある時を境に彼の人生は暗転し、財産を失い破産
にまで追い込まれる。その原因は、妻の死などの影響も語ら
れるが、ちょうどその頃に描いた『夜警』にその秘密が隠さ
れている…と言うのが、本作の脚本監督を務めたグリーナウ
ェイの主張だ。
その絵は、アムステルダムの自警団の団員を描いた集団肖像
画だが、その絵を描くために自警団に接近したレンブラント
は、その実体を目の当りにする。そこには権力に溺れた男た
ちと共に、陰謀や不正や暴力や歪んだ欲望が渦巻いていたの
だ。
しかも、事故死に見せ掛けた殺人事件まで発生し、レンブラ
ントは絵筆で彼らを告発することを決意するが…
1枚の絵を事細かに検証して、そこに隠された謎を解き明か
す。それが真実であるかどうかは別にして、『ダ・ヴィンチ
・コード』を髣髴とさせる謎解きには、思わずニヤリとして
しまう作品だ。
元々が美術学校で絵画を学んでいたというグリーナウェイ監
督は、実は同時期のオランダの画家では、レンブラントより
フェルメールの方が好みなのだそうだ。しかし、世界3大名
画の一つとまで言われる『夜警』が、何故そこまで人々を引
き付けるのかと言う点に興味を持ち、その興味からこの物語
が誕生したとのことだ。
したがって、レンブラント個人に対しては、あまり深く掘り
下げられてはいないが、彼が正義感だけで猪突猛進してしま
う解釈は、それなりに面白いものがあった。
ただし、本作ではそのレンブラント役を、『銀河ヒッチハイ
ク・ガイド』のマーティン・フリーマンが演じていて、SF
映画ファンにとっては多少違和感があった。しかも、本作は
コメディタッチで描かれた部分も多く、全体的に人間を描く
ことは避けられている感じもする。
実際、謎解きが見事である分、それを真実として描き切るこ
とには、監督自身に多少躊躇があったのかも知れない。だか
ら敢えてこのような撮り方をしている感じも持つ。とは言う
のの、それが多少物足りなくも感じられた。しかし…

舞台面のような画面構成や、スポットライトなど、レンブラ
ントの絵画を思わせる映像も次々登場し、2時間19分の作品
は飽きることなく観ることができた。

『バイオハザード�掘戞�Resident Evil: Extinction”
2002年、2004年に公開されたシリーズの第3弾。
人間の筋力を増大させ、さらに不死身にするT−ウィルス。
最強の兵士を生み出す軍事目的で造り出されたそのウィルス
は、しかし感染した人間の思考力を奪い、本能だけで人肉を
食らう「人」ではないアンデッドにしてしまうものだった。
そのT−ウィルスが、開発したアンブレラ社の研究所から洩
れ出し、感染してアンデッドと化した人間が次々に人を襲い
だす。その物語は、第1作では研究所の中だけの話から、第
2作では都市へと拡がり、そして第3作は…
ゾンビ物の変形と言えばその通りの物語だが、そこに、大本
の研究にも関わりがあるらしいアリスというヒロインを配し
て、単なるゾンビものではない新たな展開を生み出した。
元々は、同名のヴィデオゲームから始まったものだが、その
ゲームにはアリスがいないというのもこのシリーズの味噌だ
ろう。このアリスが、つまりはゲームのプレーヤーであり、
縦横無尽に闘いを繰り広げるものだ。
そして第3作では、第2作のエンディングから数年後。ウィ
ルスの蔓延した地上は砂漠と化し、そこにはわずかに正常な
人々が、大都市を避けて、移動を続けながら生き長らえてい
た。しかしその人々に、アンデッドやアンデッドカラスが容
赦なく襲いかかる。
特に今回は、文字通り空を埋め尽くす多数のアンデッドカラ
スが、ヒッチコックの『鳥』を、CGIを使って無茶苦茶大
規模にした感じで、雰囲気を作り上げていた。
一方、アンブレラ社は、ウィルスの開発意図だった軍事目的
はすでに失われたが、今は自分たちの延命のために研究を続
けており、そこでアリスとの新たな対立が生まれている展開
となる。
なお本作では、前2作の監督のポール・WS・アンダースン
は脚本と製作総指揮に下がり、替って監督はラッセル・マル
ケイが担当している。マルケイは、1986年『ハイランダー』
で人気を確立したが、最初は『レイザーバック』というちょ
っと不思議な感覚のホラー作品で僕らの前に登場した人で、
その感覚は今回の作品にも活かされていたようだ。
主演は、ミラ・ジョヴォヴィッチ。他にも前作からの登場人
物が何人か出ている。また、テレビシリーズ『HEROS』
が評判のアリ・ラーターが、ゲームキャラクターのクレア役
で新登場している。
なお、以前に紹介したジョヴォヴィッチの記者会見では、第
4作の製作は決めていないということだったが、映画の結末
は続きの示唆もたっぷりで、そこにはニヤリとする展開もあ
るようだ。


『迷子の警察音楽隊』(イスラエル映画)
「昔、エジプトの警察音楽隊がイスラエルにやって来たこと
がある。でもそんなことは誰も覚えていない。それほど些細
なことだったんだ」というようなテロップで始まる物語。
些細なことと言われれば確かにその通りだろう。でもその些
細なことが、実はすごく大切なことなのだということを気付
かさせてくれる、そんな感じの作品だ。
主人公は、エジプト・アレキサンドリア市警の音楽隊。物語
は、彼らが演奏旅行に招かれてイスラエルの空港に到着した
ところから始まる。ところが、何かの手違いがあったらしく
到着した空港には出迎えがいない。
ここで大使館にでも連絡すれば良かったのだが、独立心の高
い彼らは手紙に書かれた地名を目指して路線バスで移動を開
始。ところが、これまた何かの間違いで、着いたところは高
層アパートの建ち並ぶ団地の中。しかも寂れた団地に人影は
ほとんどない。
途方に暮れた彼らは、そこに建つ一軒の食堂に立ち寄るが…
エジプトはアラブ諸国の中では比較的イスラエルに寛容のよ
うだが、それでもシナイ半島を巡っての戦いは、まだ記憶に
も残っているところだ。実際、映画の中にも当時の写真が壁
に貼ってあるのが写ったりもする。
そんな状況の許で、国家間は和平しても、民間では真の交流
は有り得るのか、そんな疑問を感じながらも、物語は実に何
でもないことから、自然と交流が進んで行く様子を描いて行
く。
この物語が実話に基づいているかどうかは判らない。元にな
る実話があったとしても、人の記憶にも残らないほどの些細
な出来事だったのかも知れない。そしてそれは、その後に特
別な成果や結果が残るようなものでもなかったのかも知れな
い。
でも、民間人同士が何も強制されずに自然と近づいて行く。
勿論そこには、個人の寛容も重要なポイントにはなるが、そ
んな本当に些細な民間交流が描かれる。そしてこういうこと
が積み重なれば、きっと何か素晴らしいことが起こるに違い
ない、そんな気分にもさせてくれた。
なお、本作は今年の東京国際映画祭のコンペティション部門
に出品される。

『カルラのリスト』“La Liste de Carla”
オランダハーグに置かれた国際刑事裁判所(ICC)。今年
10月1日、日本はその105カ国目の加盟国となる。
犯罪者は、本来その所属する国の法律によって裁かれる。し
かし国家間の紛争における犯罪者を裁く法律は存在しない。
ICCは、それを人道的な見地から裁こうとするものだ。
元はと言えば、東京裁判やニュルンベルグ裁判が戦勝国が敗
戦国を裁くという形式であったことを反省し、より国際的、
普遍的な見地でこれらの犯罪者を裁くための常設機関の設置
が求められた。それがICCで、裁判所は2002年に設置され
た。
一方、1993年に国連によって旧ユーゴ国際刑事法廷(ICT
Y)が設置され、1999年にその検事となったカルラ・デル・
ポンテは、以来10年近くに亘ってその犯罪者を追っている。
しかし、最初は10人以上いた指名手配のリストが現在は6人
にまで減ってはいても、未だ最重要人物であるカラジッチと
ムラディッチの逮捕には至っていない。
この作品は、その旧ユーゴの戦争犯罪人を追うカルラに密着
し、その活動する姿を描いたドキュメンタリーだ。
作品の中では、カルラがセルビアやモンテネグロの首脳と会
談したり、アメリカ国務省や国防総省、さらにEUや国連安
保理にも乗り込んで、協力を要請したり、圧力掛けたりして
犯罪者を追い続ける姿が描かれる。
しかし現実には、元々国家の有力者であった犯罪者たちは、
その後に設立された政府にも影響力を残しており、国家が彼
らを匿っている可能性も高いようだ。そんな状況の中で、そ
れこそ宥めたり賺したりしながら、犯罪者を追って行く様子
を描いている。
ICCへの日本の加盟が遅れたのは、国家国民の無関心が最
大の理由だと言うことだが、この作品を見ていると、無関心
であることに恥ずかしさも覚える。しかし、僕自身こういう
裁判所の存在は知っていたものの、そこで何が行われている
かは、今まで気にしたこともなかった訳で、自分でも反省頻
となったものだ。
なお、カルラ・デル・ポンテは、1947年スイス生まれの女性
で、1994年のスイス司法長官時代にマフィアのマネーロンダ
リングを摘発し、以来、スイスでは唯一の24時間武装警護体
制に置かれる公人ということだ。
また、映画では彼女の任期は2006年末までとなっているが、
それは再任によって2007年9月まで延長され、さらに今年の
年末まで再延長されているようだ。

『アヴリルの恋』“Avril”
森の奥深くの修道院で、赤ん坊の時から聖女になるために育
てられた女性が、修道女になるための最後2週間の禊の儀式
を迎えるが…
アヴリルは赤ん坊の時にその修道院に捨てられ、以来21年を
修練女として女だけの世界の中で過ごしてきた。そして正式
な修道女になるため、孤立したお堂の中で2週間の断食と黙
想を続ける最後の儀式の時を迎える。
ところがその直前、1人の先輩修道女が、彼女に外の世界を
見てくることを勧める。そして先輩修道女は、アヴリルには
双子の兄がいて別の孤児院に預けられたことを告げ、誰にも
知られないようにするから2週間の間に、その兄を探すよう
に指示する。
こうして、2週間を期限にアヴリルは外の世界に出て行く。
そこで彼女を待ち受けているのは…
元々この修道院というのがちょっと異端で、本来のキリスト
教会からも認められていないという設定も説明される。確か
『クリムゾン・リバー』にもそんな話があったような気もす
るが、フランスの山間にはこんなカルト的な世界が今でも残
っているようだ。
そんな修道院で、世間と全く隔絶されて育った女性が、初め
て外界に出てくる。そこには当然男もいる訳だが、これがま
あいろいろあって、それなりに納得の行く展開になっている
のが良い感じの物語だった。
そしてその行き着く先が、南仏のまるで地の果てのような海
岸なのだが、これがまた自分の好きな2001年のメキシコ映画
『天国の口、終りの楽園。』にも似た雰囲気があって、その
辺でも気に入ってしまったところだ。
監督は、短編の評価が高く、本作で長編デビューを飾ったジ
ェラルド・ユスターシュ=マチュー。主演は、その監督とず
っとコンビを続けるソフィ・キントン。かなり大胆な演技も
見せてくれる。
また、ベテラン女優のミュウ=ミュウが先輩修道女の役で出
演。他に、ニコラ・デュヴォシェル、クレマン・シボニーら
の若手男優が脇を固める。
なお、劇中の音楽で、僕らの年代には懐かしいアメリカの往
年のポップアイドル=アネット・ファニセロの歌声が聴ける
のも嬉しいところだった。



2007年09月20日(木) 花蓮の夏、ディスタービア、コンナオトナノオンナノコ、ブレイブワン、ここに幸あり、サウスバウンド、ヒートアイランド

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※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介しています。     ※
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『花蓮の夏』“盛夏光年”
男性2人と1人の女性による三角関係の物語。と言ってもこ
の三角形は女性が頂点ではなく、一方の男性がゲイで…とい
う設定のものだ。
昨年11月に『スキトモ』という作品で同じような設定の物語
を紹介しているが、台湾映画の本作は去年本国で公開された
もので、製作はこちらの方が早そうだ。それに日本映画は、
すでにそうなっている状況から始まったが、本作ではそこに
いたる経緯も描かれる。
主人公は、惑星(ジェンシン)、恒星(ショウヘン)、彗星
(ホイジャ)と名付けられた3人。優等生の惑星と、スポー
ツマンの恒星の付き合いは小学生時代に始まる。実は、粗暴
で手を焼く恒星の友達になることを、教師が惑星に命じたの
だ。
こうして惑星は、常に恒星の傍に居るようになり、恒星は惑
星を親友と思うようになって行ったが…この間、惑星の成績
は徐々に低下。そして惑星は大学受験に失敗、一方、恒星は
スポーツ推薦で大学に合格してしまう。
こんな2人の前に、彗星は高校時代に現れる。転校生で友達
のできない彗星に最初に話し掛けた惑星は、2人でデートも
重ねるようになるが、ある日、彼女と入ったラヴホテルで、
惑星は自分の違う感情に気づいてしまう。
その彗星は恒星と同じ大学に合格。予備校に通いながらも恒
星の誘いを断れない惑星と、改めて彗星を見初めた恒星の三
角関係が出来上がる。
主演のブライアン・チャンとジョゼフ・チャンは共に映画は
初主演だが、台湾のテレビなどではすでに人気者のようだ。
本作で2人は台湾金馬奨新人賞にノミネートされ、惑星を演
じたブライアンが受賞している。この2人を含め、本作では
台湾・金馬奨4部門の候補になった。
また彗星を演じたケイト・ヤンは、『The EYE 3』にも出演
している香港、台湾で活躍中の新進女優とのことだ。
ゲイを描く作品は、ハリウッドにもない訳ではないが、中国
や東南アジアの作品ではその設定を見かけることが多いよう
に感じる。中国の独子政策で女子の赤ん坊が間引かれ、若者
の男子比率が高いという俗説もあるが、そんなことも反映し
ているのだろうか。

『ディスタービア』“Disturbia”
“Indy 4”への出演が話題のシャイア・ラブーフ主演による
ティーンズ・サスペンス。
父親の目前の事故死で自暴自棄になった若者が、暴力行為で
自宅拘禁を命じられ、刑期の3カ月を郊外の自宅の中心から
30m以内で過ごすことになる。そして、自室の窓から周囲を
覗いていた若者は、怪しげな隣人の動きに目を留める。
ヒッチコックの名作『裏窓』を、見事に現代に甦らせたとで
も言えそうな快作。骨折で身動きできない『裏窓』の主人公
に対して、本作の主人公は裁判所の命令で足首に監視装置を
装着され、家の前庭より先には出られないという仕組みだ。
そんな主人公が、怪しい隣人の動きに連続殺人犯の疑いを強
め、別の隣に引っ越してきた若い女性や、東洋系の親友の助
けを借りて真相を暴いて行く。そこには、ヴィデオカメラや
監視機材、携帯メールなど現代の情報機器も総動員される。
先に『裏窓』を甦らせたと書いたが、本作は物語を単になぞ
るのではなく、そこに数々のアイデアが盛り込まれている。
それは、もしヒッチコックが現代にいたらこれと同じものを
作ったのではないか、そんなことを思わせるまさに天才のな
せる技が見えるものだ。
「覗き」がテーマの映画も数々あるが、現代人が利用できる
技術の粋を凝らして覗くということでは、かなり良い線を行
っていると思われる作品。同様のテーマでは、1974年に僕が
初めてアメリカに行ったときに観た“Extreme Close-Up”を
思い出す。
“Extreme …”は、ベストセラー作家マイクル・クライトン
のオリジナル脚本を映画化したものだが、当時の一般人でも
ここまでの盗聴や覗きができるのだという限界が描かれてい
たものだ。その限界が、本作ではいともた易く実現されてい
るのには、ちょっと恐ろしくもなった。
共演は、別の隣に引っ越してきた若い女性役にハリウッド版
の『呪怨2』にも出ているサラ・ローマー、東洋系の親友役
に舞台出身のアーロン・ヨー。また、怪しい隣人役を『プル
ーフ・オブ・ライフ』などのデヴィッド・モース、そして主
人公の母親役を『マトリックス』などのキャリー=アン・モ
スが演じている。
題名の感じからはティーンズ・ホラーかとも思ったが、本作
は多少のショックシーンはあるものの全体はまともなサスペ
ンス。有望株の若手スターの主演作だし、映画ファンの鑑賞
には損のない一編と言えそうだ。

『コンナオトナノオンナノコ』
1989年にガロでデビューしたという女性漫画家・安彦麻理絵
の原作を、昨年『パビリオン山椒魚』が話題となった冨永昌
敬監督で映画化した作品。
原作と同じ題名の意味するところは、「女はいくつ(30歳過
ぎ)になっても女の子だ」ということだそうだ。僕は「いく
つになっても大人になれない女」のことかと思っていたが、
多少ニュアンスは違うようだ。
主人公は、30歳前後の2人の女性。2人は元同僚だったが、
1人は25歳で寿退社して子供も産み、以後は専業主婦。もう
1人は独身を通して今やバリバリのキャリアウーマン。
ところが、以前はそれが目標だったはずの生活を送っている
2人にも、それぞれ悩みが欝積してくる。それは何より女で
ありたいということ。そしてそれが頂点に達したとき、彼女
たちは行動を開始する。
別段、彼女たちの悩みが甘えだとは思わないが、男としては
何で自分がこういう悩みを抱えないのかとは思ってしまう。
男にはこのような思考回路が成立しないように作られている
のかも知れないが、不思議な話だ。
そんなことは別として、この映画では、変えようと決めてか
らの女性たちの行動も楽しく描かれる。そして、その行動が
引き起こす波紋や解決も矛盾なく描かれているところには、
作品としての奥行きも感じられた。
それから本筋と関係ないが、トウモロコシの成長の描き方や
幼い女の子の三輪車の映像も丁寧に撮られていて、これも映
画の彩りとして違和感もなく納得できるものになっていた。
実際、こういうさりげない映像が日本映画ではなかなか様に
ならないものだ。
出演は、是枝監督の『ワンダフルライフ』に主演していたエ
リカと、『ロスト・イン・トランスレーション』に出演の桃
生亜希子。それぞれ最近他の作品でも観ているが、本作の演
技は気に入った。他に、河合美智子、津田寛治らが共演。
男としては、女性たちにこんな不満を抱かせない努力をしな
ければいけないのだろうが、それもなかなか難しい。でも、
こんな女性の本音を描く作品がもっと登場してくれば、それ
なりに社会も変わるとは思えるのだが。

『ブレイブワン』“The Brave One”
ジョディ・フォスター製作総指揮・主演、ニール・ジョーダ
ン監督による復讐ドラマ。
フォスターが扮するのは、FM局でパーソナリティを務める
女性。番組の評判も良く、結婚も決まって順風満帆だった彼
女を突然悲劇が襲う。婚約者と犬を連れての散歩中に暴漢の
グループに襲われ、婚約者は死亡、彼女も重傷を負い意識不
明となったのだ。
その彼女が3週間後に目覚めたとき、婚約者の葬儀はすでに
終っていた。一方、目覚めた彼女に警察は当時の状況を聴取
するが、現れた刑事は捜査に熱心とも思えない。
やがて彼女は、当初陥った外出恐怖症も克服して社会復帰を
果たす。だがその時になっても警察の捜査はあまり進捗して
おらず、思い余った彼女は護身用の拳銃を手に入れる。そし
て、偶然入ったコンビニで強盗に遭遇した彼女は…
試写会では、主人公の行為が許せるかという投票が行われ、
僕は躊躇なく「許せる」に投票したのだが、見ていて意外と
「許せない」に投票する人が多いのに驚いた。僕の感覚で、
この作品は「必殺仕事人」なのだが、そうは採らない人が意
外に多かったようだ。
僕自身「許せますか、彼女の選択」という宣伝コピーには、
いろいろ最悪の結末を予想したが、正直に言ってしまえば、
物語は意外なほどクールな結末だった。勿論これをクールと
採らない人が「許せない」に投票しているのだろうが。
実際、僕はこの映画のテーマが復讐一辺倒だったら嫌だなと
も思っていた。確かに物語の主要部は復讐だし、結末もそれ
に関わっているものだが、この映画はそれが全てではない。
映画の全体の流れはそれより先の社会悪との戦いをテーマに
しているものだ。復讐はその切っ掛けでしかない。
その観点で言えば、物語はかなり痛快だし、特に最後の選択
には喝采したくなったくらいのものだが…。でもまあ、いろ
いろな意見の人もいるのだろうし、許せない人には喝采も何
もないのだろう。

9/11以降のアメリカ映画で、特に社会問題を描いた作品
には何か微妙なニュアンスを感じる。それは、政府の中東政
策に対する後ろめたさであったり、被害者意識であったりい
ろいろだが、いずれにしても奥歯にものが挟まったような感
じのものだ。
その中で、ニューヨークを舞台にしたこの作品は、ある種の
その手の風潮への迎合を排したもののようにも感じられた。
そろそろ9/11を過去のものにしなければいけない、フォ
スターとジョーダン監督のそんな見識を感じたものだ。
だから僕にはこの作品が痛快に感じられたのかも知れない。
ハリウッド映画に9/11以前の面白さが戻ってきたように
も感じられた。
共演はテレンス・ハワード。他に、『タイム・アフター・タ
イム』『バック・トゥ・ザ・フューチャー3』などのメアリ
ー・スティーンバージェンらが出ている。

『ここに幸あり』“Jardins en automne”
『素敵な歌と船は行く』『月曜日に乾杯』のオタール・イオ
セリアーニ監督による2006年作品。
イオセリアーニ監督の作品は、上記の2本や、もっと以前に
製作された『群盗、第七章』という作品も見ているが、今ま
で何となく性に合わないというか、評価できないでいた。
基本的に「ノンシャラン」がテーマとされる作風だが、その
無責任さというか、そんなことが今の時代に通用するのか、
というような思いのつきまとうのが、いつも違和感を感じて
しまうところだったように思える。
ところが今回は、主人公が何と政治家(大臣)。実は安倍の
無責任辞任表明のその日に試写を見るという巡り合わせで、
その皮肉さで納得してしまったという感じもしたものだ。
主人公は、何省か判らないが大臣。ところが大臣公舎の前に
はデモ隊が押し寄せており、彼は批判の矢面に立たされてい
るようだ。しかもその沈静化には、彼に全責任を負わせて辞
任させるのが一番と考えられたようで、彼は辞任の書類にサ
インさせられる。
そして、彼が大臣を辞するなり、浪費癖の妻は離婚し、彼が
元の自宅に戻ってみると、そこは見知らぬ有色人種のグルー
プに占拠されていた。家族も家も失い、それでも彼は、自由
を満喫せんとばかりに、昔の友と酒を酌み交わしたり、女の
許を訪れたりする。
大臣だった時の職務が何かも描かれていないから、辞任の理
由も不明だが、後任者もすぐに辞任してしまうようで、何と
も無責任な話が展開している。それはそれとして主人公は、
呑気にふらふらと過ごしているものだが、その割りには権力
を使って自宅の占拠者を追い出したりもしていて、政治家の
腹黒さのようなものも描かれる。
これでは「ノンシャラン」でもないものだが、監督のファン
は、それでもその部分以外に描かれる「ノンシャラン」な内
容で満足しているようだ。

監督の意図が何方にあるのかは判らないが、政治家を扱うと
結局こうなってしまうのか。現在はフランス在住だが、元々
はグルジア出身で、初期作品は母国では発表できなかったと
いう作家の政治感は、「ノンシャラン」では済まされないの
かも知れない。こういう路線に踏み出した監督の次の作品に
も興味を引かれるところだ。
なお、監督の作品は、いつもは配役に自分の友人たちを起用
するノンスターだが、今回は何故か『昼顔』→『夜顔』など
のミシェル・ピコリが特別な役で出演している。

『サウスバウンド』
直木賞作家奥田英朗の原作を、『間宮兄弟』の森田芳光監督
が映画化。常に正義感を振り回す元学生活動家の父親の許に
暮らす一家が、東京での生活に行き詰まり、西表に引っ越す
が…
主人公の父親は、三里塚闘争に参加していたようだ。当時の
現場写真に主演の豊川悦司を合成した写真も登場する。そん
な父親と天海祐希扮する母親の間には、すでに社会人の長女
と、小学生の長男、次女の3人の子供がいる。
その一家は東京の下町に暮らしているが、長男の通う小学校
では、かつあげが行われていたり、学校運営にも不正がある
ようだ。そして長男が正義感ゆえに問題を起し、一家は一念
発起、父親の故郷でもある西表に移住することになる。
ところがその島は、開発と自然保護の間で揺れており、一方
で父親の祖先はその昔、島の住民の権利を守るために戦った
英雄であったことが判明する。やがて、一家の暮らし始めた
古民家に、開発業者が裁判所の決定書を持って現れる。
正義感ゆえに、いつもトラブルに巻き込まれる。そんな父親
が、それでも正義のために戦う姿を息子に見せつける。
自分も70年安保闘争頃の大学生で、自分はその頃からSFの
活動を始めていたから直接闘争には参加できなかったものだ
が、傍でシンパとして見ていた立場としては、この主人公の
父親の姿には共感を覚えてしまうところだ。
その後、こんな風に一途に生きられた人間がどれだけいるか
は判らないが、無責任な政治家や資本家がはびこる現代を見
ていると、昔と全く変わっていない世情には、ふつふつと正
義感が沸き上がってくるのも理解できる。
そんな自分に極めて近い心情が、沖縄の自然を背景に、美し
く、そして気高く描かれる。なお映画は、ユーモアもたっぷ
り、痛快に描かれており、結末も大らかで良いものだ。
長男役は新人の田辺修斗、長女役は『間宮兄弟』にも出てい
た北川景子、次女役は松本梨菜。他に、松山ケンイチ、平田
満、吉田日出子、加藤治子、村井美樹らが共演。
因に、撮影は沖縄本島とは橋で繋がっている島で行われたよ
うだが、自然の残る風景には憧れも感じてしまうものだ。

『ヒートアイランド』
垣根涼介の原作を、テレビの『女帝』などを手掛ける片山修
が劇場映画デビューで撮った作品。東京渋谷を舞台に、若者
のグループとプロ強盗団と、東西やくざとの抗争を描く。
主人公は渋谷で若者たちを束ねるアキ。彼らは渋谷のクラブ
でファイトパーティーを開催して金を稼いでいたが、地元の
やくざから見か〆料を要求されるようになっている。一方、
関西やくざが経営する地下カジノが強盗団に襲われ1億円が
強奪される。
ところが、アキのグループの1人が強盗団の1人に絡み、そ
うとは知らずに分け前の入った鞄を奪ってきてしまう。そし
て鞄の中の大金を見たアキは、強盗団と関西やくざ、両方の
標的になることを覚悟するが…。この難局を如何にして切り
抜けるか…というお話。
善人は1人も登場しないお話で、言ってみれば『オーシャン
ズ』のような物語。誰が誰の金を奪おうと、良心の咎めなど
は一切関係なし、その点では気楽に観ていられる作品という
ことになる。
それにしても、主な登場人物が16人。映画の最初の方で、
登場人物に役名のテロップの付くシーンがかなり続き、こん
なにいて大丈夫かと心配もしたが、展開は見事に明快で、金
と人の動きも解り易く、これをちゃんと描ける日本人監督が
いたというのも嬉しかった。
脚色は、劇団主宰者でもあるサタケミキオ。後半の展開は原
作とは異なるようだが、このアンサンブル劇のように多様な
登場人物と入り組んだ展開の物語を、見事に一点に集約して
纏め上げている。この脚本の力もかなり大きそうだ。
主演は、『ワルボロ』に出ていた城田優。その仲間役で同じ
く『ワルボロ』の木村了、『サウスバウンド』の北川景子。
他に、豊原功補、井原剛志、松尾スズキ、近藤芳正らが脇を
固める。
渋谷の街もそれなりに良く描けているし、前半はカットバッ
クを多用して感覚的に映画に引き込み、それでいて途中から
はじっくりとドラマを描き込む。さらにその間を違和感なく
繋いで行けるテクニックもしっかりしていると感じた。
原作には同じ主人公の続編もあるようで、このまま同じスタ
ッフ・キャストで、その映画化も期待したいところだ。



2007年09月15日(土) 第143回

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
※このページは、キネマ旬報誌で連載中のワールドニュー※
※スを基に、いろいろな情報を追加して掲載しています。※
※キネ旬の記事も併せてお読みください。       ※
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
 今回も、最初は高精細度(High-def)DVDに関するBlu-
rayとHD-DVDの規格の覇権争いの話題で、また1つ面白い発
表が行われた。
 ニューラインが今夏のヒット作『ヘアスプレー』のDVD
を11月20日に全米発売するのに当たって、同社が初めて発売
するHigh-defのフォーマットを、当面はBlu-rayだけとする
と発表したのだ。ここで、ニューラインはファミリー会社の
ワーナーと一緒でHigh-defのフォーマットはまだ両陣営に参
加しており、従ってBlu-rayとHD-DVDの両方を出せる体制と
なっている。それなのに今回Blu-rayだけとしたことに関し
ては、その理由を、リージョン制限のないHD-DVDでは、まだ
劇場公開中の地域で興行の妨害になるのを避けるためと言っ
ているのだが…
 実は現在、主要国の中でこの作品がまだ一般公開されてい
ないのは、10月26日に公開予定の日本くらいのもの。そこに
11月20日の発売では、公開から1カ月以内はまだロードショ
ウも継続中と考えられ、従って、この発言は日本を考慮した
ことのようにも取れる。ところが、Blu-rayのリージョンコ
ードは従来のDVDに比べて大幅に簡略化され、北中南米と
日本、南北朝鮮、香港、東南アジアは同じリージョンAとな
っているのだ。このため、アメリカで発売されたBlu-rayの
ディスクは、日本でも観られることになってしまう。
 一方、リージョンBのヨーロッパとフランスの支配地域、
中東、アフリカ、オーストラリア、ニュージーランドや、リ
ージョンCのインド、バングラディシュ、ネパール、中国本
土、パキスタン、ロシア、中央および南アジアの状況を考え
ると、問題になりそうなヨーロッパはほとんど公開が済んで
いるし、その他の国・地域ではHigh-defの普及率はさほど高
いとも考えられない。
 こうなると、今回の発言はただの言訳のようにも思われ、
当面出さないとされたHD-DVDのディスクは果たして発売され
るのか、少なくともクリスマスシーズンには間に合いそうも
ないが、その成り行きは面白いことになりそうだ。
 なお、今年のクリスマス向けのHigh-defディスクの全米発
売では、11月13日に『シュレック3』(HD-DVDのみ)と『オ
ーシャンズ13』(両方)、12月4日に『パイレーツ・オブ
・カリビアン3』(Blu-rayのみ)などとなっており、いよ
いよ規格の覇権争いは熾烈になってきそうだ。
        *         *
 以下は、いつもの製作ニュースを紹介しよう。
 最初の情報は、1999年の『ファイト・クラブ』で共演した
エドワード・ノートンとブラッド・ピットが、再びスクリー
ン上で戦いを繰り広げることになった。
 作品は“State of Play”。元々はポール・アボットの脚
本から、後に『ハリー・ポッター』を手掛けるデヴィッド・
イェーツが監督、2003年にイギリスで放送された全6時間の
ミニシリーズを劇場版にするもの。内容は、ノートン扮する
政界で一躍頭角を顕した政治家が、愛人の死によって警察の
捜査を受けることになる。対するピットが演じるのは、元政
府関係者からジャーナリストに転じた男。彼は最初は政治家
との個人的なつながりから事件報道を抑えていたが、やがて
捜査は殺人事件へと発展して行く。そしてジャーナリストは
政治家の別居中の妻に接近して行くが…というものだ。
 リング上の殴り合いではなさそうだが、ノートンとピット
の腹の探り合いの芝居が観られそうだ。
 因に、この計画はかなり以前からあったもので、ピットは
その当初から参加していたようだ。ところが、“Lions for
Lambs”などのマシュー・マイクル・カーナハンが執筆した
脚本から、『ジェイソン・ボーン』シリーズのトニー・ギル
ロイがリライトを始めたものの、そのリライトがなかなか出
来ず、ピットはそれを待つ間に別の作品にも出ていたと発言
している。しかしそのリライトが遂に完成して、11月に撮影
が開始されることになったということで、ピットもかなり乗
っている作品のようだ。
 なお、劇場版の監督には、2004年公開『運命を分けたザイ
ル』などのケヴィン・マクドナルドの起用が決定している。
またノートンは、6月13日全米公開予定の“The Incredible
Hulk”の撮影の完了後、直ちに本作に入るようだ。
        *         *
 1997年に公開、ヒットを記録したティーンズ・サスペンス
『ラストサマー』(I Know What You Did Last Summer)の
原作者としても知られるロイス・ダンカンが、1971年に発表
した児童書“Hotel of Dogs”の映画化を、ドリームワーク
スが計画し、それに『ホテル・ルワンダ』のドン・チードル
の出演が発表された。
 物語は、2人の10代の孤児が、廃業したホテルの中に何10
匹もの野良犬を隠して保護していたが…というもの。この孤
児の1人を、“Nancy Drew”の映画版などに主演したエマ・
ロバーツが演じる。一方、チードルは、孤児たちをトラブル
から開放しようと奔走する保護司の役を演じるようだ。
 脚色は『スピン・シティ』のジェフ・ローウェルが担当。
また監督には、『ホーンテッド・マンション』の第2班監督
や、『スチュアート・リトル』のVFX開発、および続編の
コンセプトアーチストなどを務めたトー・フロイデンタール
が起用され、この作品で長編監督デビューすることになって
いる。なお、監督には短編映画の経験はあるようだ。
 撮影は11月初めに開始される。
        *         *
 大都会の孤児ものをもう1本。
 2000年公開の『ペイ・フォワード』や『U−571』には
俳優として出演したミュージシャンのジョン・ボンジョヴィ
が、今度は製作者として映画界に進出することになり、その
第1作としてジェシカ・ブランクの作家デビュー作“Almost
Home”という児童書の映画化権の獲得を発表した。
 物語は、ロサンゼルスを舞台に、10代のホームレスたちの
グループが、自分自身を探すために苦闘する姿が描かれると
いうもの。原作は、10月23日にディズニー傘下のヒューペリ
オーン・ブックスから出版予定とのことだ。
 そして映画化は、原作者のブランクと、彼女の夫のエリッ
ク・イェンセンの脚本で進められることになっており、その
執筆作業は開始されているようだ。なお、夫妻はESPN放
送の“The Bronx Is Burning”などには俳優として出演して
おり、また2人で手掛けた舞台劇の“The Exonerated”とい
う作品はすでに映画化されているそうだ。
 監督やキャスティングは未発表だが、配給はディズニーの
可能性が高い。それにしても、ストリートチルドレンの問題
は、今までは南米や東欧の映画で時々観ていたが、アメリカ
映画でこのような作品が出てくるとは、ちょっと意外な感じ
もしてしまうところだ。それが現実なのだろうが…。
        *         *
 『幸せのちから』(The Pursuit of Happyness)を大ヒッ
トさせた主演のウィル・スミスと、イタリア人監督のガブリ
エレ・ムッチーノが、再び組む計画が発表された。
 作品の題名は“Seven Pounds”。自殺しようとした男が、
偶然の恋に落ちて…というお話だそうだ。脚本は、テレビで
“Sabrina, the Teenage Witch”などを手掛けるグラント・
ニーポーティ。なお映画に息子の役があるかどうかは不明。
 因にスミスとムッチーノは、先に“Hancock”という作品
で再結集することになっていたが、監督が創造上の意見の相
違を理由に降板し、この作品が新たに登場してきたものだ。
撮影開始は来年2月、スミスがワーナー配給『アイ・アム・
レジェンド』のクリスマスシーズンを掛けたプロモーション
を終えた後に進められる。
 一方、“Hancock”はピーター・バーグを後任監督として
すでに撮影が行われており、クリスマスシーズン前に完了さ
れる予定。“Hancock”“Seven Pounds”の2作品は、いず
れもコロムビアが配給し、“Seven Pounds”の公開は2008年
末となっている。
        *         *
 ここからは、SF/ファンタシー系の映画の話題を中心に
紹介する。
 まずは、上の記事にも登場した年末公開の『アイ・アム・
レジェンド』は、リチャード・マシスンが1954年に発表した
同名の原作からの3度目の映画化となるものだが、この他に
も往年のSF映画のリメイク計画が続々と発表されている。
それらを纏めて紹介しておこう。
 その1本目は、1966年にリチャード・フライシャー監督、
ラクウェル・ウェルチ、ドナルド・プレザンス共演で映画化
された“Fantastic Voyage”(ミクロの決死圏)のリメイク
が、ローランド・エメリッヒ監督で計画されている。
 オリジナルは、物体ミクロ化の研究を進める米軍機関が、
研究完成への鍵を握るソ連の研究者を亡命させるが、襲撃さ
れて亡命者は脳に損傷を負ってしまう。その損傷は外側から
は手術できず、未完成のため時間が限定されるミクロ化技術
を使って医師を体内に送り込むが…というもの。当時は大掛
かりなセットを使った特撮で映像化したが、CGI/VFX
でどのようにリメイクされるか楽しみだ。
 またこのリメイクの脚本を、『ナショナル・トレジャー』
を手掛けたマリアンヌ&コーマック・ウィバリーのチームが
担当するのも期待される。
 因にこの作品は、エメリッヒとフォックスでは、『インデ
ィペンデンス・デイ』『デイ・アフター・トゥモロー』に続
く3度目のコラボレーションになるものだ。
 一方、エメリッヒの新作の“10,000 B.C.”は、ワーナー
配給で来年3月7日に全米公開される。
        *         *
 2本目もフォックスから、キアヌ・リーヴス主演で1951年
公開の“The Day the Earth Stood Sill”(地球の静止する
日)のリメイクが、早ければ年内、遅くとも2008年初旬の撮
影開始で計画されている。
 オリジナルは、後に『ウェストサイド物語』『サウンド・
オブ・ミュージック』から、『アンドロメダ…』『スター・
トレック』へと進むロバート・ワイズの監督作品で、突然地
球を訪れた異星人が、究極の破滅兵器となるロボットを従え
て地球のリーダーたちに恒久平和の達成を訴えるが…という
もの。51年当時は第2次大戦が終結し、冷戦が始まろうとし
ている時代に作られた作品を、如何に現代化しているかにも
興味を引かれるところだ。
 脚本はデイヴィッド・スカーパが執筆、監督を『エミリー
・ローズ』のスコット・デリクスンが担当する。因に、この
リメイクでは、VFXを多用したテントポール作品を目指す
ともされているようだ。
 なおリーヴスは、ジェームズ・エルロイ原作、デイヴィッ
ド・ゴイヤー監督による“The Night Watchman”の撮影を終
えたところで、それに続けてのフォックス作品となる。
        *         *
 3本目はディズニーで、1975年に公開された“Escape to
Witch Mountain”(星の国からきた仲間)に基づく“Witch
Mountain”という作品が、ドウェイン“ザ・ロック”ジョン
スンの主演で計画されている。
 オリジナルはジョン・ホフ監督、エディ・アルバート、レ
イ・ミランドらの出演で映画化されたものだが、超能力を発
揮する2人の子供を巡って、彼らを助けようとする人々や、
その超能力を利用しようとする連中が交錯する物語。元々は
アレクザンダー・キーの児童書を原作としたものだ。
 そのオリジナルから今回は、超能力を持った子供たちを乗
せてしまうラス・ヴェガスのタクシー運転手をザ・ロックが
演じるということで、善人悪人交錯する中、子供たちを守っ
てザ・ロックが活躍することになりそうだ。
 撮影は、来年3月開始の予定。監督は、先にディズニーで
“The Game Plan”というコメディ作品を、ザ・ロックと共
に完成したばかりのアンディ・フィックマン。また最新の脚
本はマット・ロペスが担当している。
 なおザ・ロックは、スティーヴ・カレラ、アン・ハサウェ
イ共演のワーナー作品“Get Smart”の公開が控えている。
        *         *
 4本目はワーナーから、1969年公開の“The Illustrated
Man”(いれずみの男)のリメイクを、『300』のザック
・スナイダー監督で進める計画が発表された。
 オリジナルの映画化は、ジャック・スマイト監督で、ロッ
ド・スタイガー扮する全身にいれずみを施された男が、その
中に描かれた女性(クレア・ブルーム)を求めて彷徨うとい
う設定の許、レイ・ブラッドベリが1951年に発表した同名短
編集の中から“The Long Rains”“The Veldt”“The Last
Night of the World”の3話がいずれもスタイガー、ブルー
ムの主演で映像化された。
 ただし、原作の短編集には全部で18篇が納められており、
再映画化では同じ作品が選ばれるとは限らないが、実はスナ
イダー監督自身は“The Veldt”がお気に入りで、それには
再挑戦するかも知れないとのことだ。正直に言ってオリジナ
ルの映画化は、全体としてはあまり高い評価は受けていない
ものだが、スナイダー監督の力量で新たな評価を勝ち取って
もらいたい。
 なおスナイダー監督は、現在は“Watchman”という作品を
ワーナーで準備中で、今回の計画は直ちには取り掛かれない
ようだ。しかし、脚本は同じアレックス・ツァが担当する予
定になっており、準備は並行して進めることができそうだ。
        *         *
 リメイク情報の最後は、第112回でブライアン・シンガー
監督の降板を報告した1976年公開“Logan's Run”(2300年
未来への旅)のリメイクに関して、ワーナーでは新たにジョ
セフ・コジンスキーという監督と契約して計画を継続するこ
とに決めたようだ。
 因にコジンスキー監督は、次の記事で紹介する“Tron”の
監督にも起用が発表されており、こちらはリメイクでも続編
でもなく‘the next chapter’という位置付けだそうだが、
いずれにしてもいろいろ問題を抱える作品を相次いで引き継
ぐことになる。どういう経緯かは知らないが、しっかり頑張
ってもらいたいものだ。
        *         *
 ということで、お次は1982年公開のサイバースペース映画
『トロン』を脚本監督したスティーヴン・リスバーガーが、
“Soul Code”という新作の脚本監督で映画界に復帰するこ
とになった。
 物語は、人間の記憶を完璧にコピーして他人に移植する技
術の開発を巡って、若い女性に移植された他人の記憶との戦
いを描くというもの。因にこのストーリーは、ウェブサイト
IGN.comでホステスを務めるジェシカ・ショボットという女
性と会った際に、彼女に触発されたものだそうで、「彼女は
映画界の人でないから、見方が全然違う。彼女は観客が何を
望んでいるかを考えるのではなく、彼女自身が観客なのだ」
とのこと。新たな見方で脚本が執筆されたようだ。
 そして、その脚本はすでに完成して、アライド・アイリッ
シュ銀行を資金源とするリライアント・ピクチャーズと6桁
($)半ばの契約が結ばれ、同社で製作が進められることに
なっている。また同社のトップからは、「『トロン』は時代
の先端を行くものだったが、この作品も時代の先端を捉えて
いる」として製作への抱負が語られていた。
 なお、リスバーガーは『トロン』以後も、1989年の『スリ
ップストリーム』などを監督しているが、その後に何本か書
き上げた脚本はいずれも実現に至らなかったようだ。また、
最近では『トロン2』の脚本も執筆し、この脚本では2003年
発売のビデオゲームは成功したものの、肝心の映画化はディ
ズニーが別の脚本で進めることを発表している。そしてその
監督に、前の記事のコジンスキーが決まったものだ。
 正直に言って、89年の作品は僕自身あまり評価はしていな
いが、『トロン』が当時の時代の最先端だったことは確かな
もので、その感覚をさらに研ぎ澄ませた作品を期待したいも
のだ。
        *         *
 ドウェイン“ザ・ロック”ジョンスンの出演計画は上でも
報告しているが、その一方で彼の映画界での人気を一躍高め
た『スコーピオン・キング』の続編が、彼抜きで製作される
ことになった。
 と言っても、実はこの計画で“The Scorpion King: Rise
of the Akkadian”と題された作品は、オリジナルよりさら
に以前の時代の物語だそうで、ポリネシアの戦士と彼の長年
の恋人ライラとの関係が描かれるとされている。したがって
映画に登場するのは、若い頃のマサイアスになるもので、そ
のイメージに合う俳優捜しが行われているようだ。
 因に必要な俳優は、ザ・ロックに似ていなくても良いが、
ポリネシア系で髪はブルネットで、ブロンドは不可。また、
ザ・ロックが作り上げたカリスマ性やコメディックな要素、
特に彼の醸し出す暖かさや和やかさのようなものを感じさせ
る人材が求められているそうだ。
 一方、監督には『ハイランダー』、そして『バイオハザー
ド3』を手掛けたラッセル・マルケイが参加しており、アク
ションも重視した映画化がされそうだ。撮影は、10月1日に
南アフリカで開始される。
        *         *
 後は短いニュースを纏めておこう。
 まずは、“Indy 4”の正式題名が、“Indiana Jones and
the Kingdom of the Crystal Skull”になると発表された。
この題名については、第136回では別の題名を紹介していた
が、どうやらこちらが正式のようだ。また、新登場のシーア
・ラブーフの役柄については、当初の情報よりはかなり曖昧
にされており、それが物語の鍵を握っているのか、来年5月
22日の全米公開までは秘密になるようだ。
 “James Bond 22”(正式題名の発表はまだない)につい
て、脚本を手掛けるポール・ハギスから少し情報が漏れてい
る。もちろん全体の物語は極秘のままだが、ハギスの発言に
よると、物語は『カジノ・ロワイヤル』の結末の2分後から
始まるそうだ。そして彼の考えるボンド像は、何より暗殺者
であって、シャワーを浴びている女性がいてもそこに入って
行って抱くようなことはしない。しかし、彼女が「指先に付
いた血が取れない」と言ったら、その血を取ってやるような
男、だそうだ。そしてこれは、イアン・フレミングの原作の
ボンド像に合うものだ、としている。“James Bond 22”の
公開は、来年11月7日となっている。
 最後はかなりショックな情報で、第129回で紹介したロマ
ン・ポランスキー監督が製作費1億3000万ドルを投じるとし
た大作“Pompeii”の製作が中止されることになってしまっ
た。この製作では、来年8月に南イタリアでの大掛かりな撮
影が計画されていたのだが、すでに何度か触れている来年夏
のアメリカ俳優組合及び監督組合のストライキで、6月30日
以降の仕事は一切できないとされ、一方この撮影は天候条件
などとの兼ね合いで時期を動かすことができず、ついに中止
とせざるを得なくなったということだ。まあ、権利を守るた
めとはいえ、すでに数100万ドルを注ぎ込んだ準備も無駄に
なってしまったもので、ポランスキーも「将来に影響が残り
そうだ」と発言するなど、ショックを隠せないようだ。



2007年09月10日(月) 未来予想図、ロンリーハート、僕のピアノコンチェルト、夜顔、僕がいない場所、めがね、インベージョン、Mayu

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※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介しています。     ※
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『未来予想図』
Dreams Come Trueの同名の楽曲を原案として、現代に生きる
若者の恋模様を描いた作品。
学生時代からつきあっていた男女が、自分の夢を全うするた
めに別々の道を歩まざるを得なくなる。そのための別れは、
厳しい痛みを伴うことになるが…
今更ながら、女性の社会進出が進む中では、こういう男女の
物語も数多く発生しているのだろうなと思わせる作品だ。
脚本は、狗飼恭子と志羽竜一という2人が手掛けているが、
古典的なすれ違いのストーリーの中に、バルセロナを訪れた
り、伝統的な打ち上げ花火職人の話を織り込んだり、さらに
そこにウェブを介在させるなど、現代社会の状況を巧みに反
映させている。
主人公の2人は、大学の映画サークルで結婚式シーンの新郎
新婦役に駆り出されたことから付き合いが始まる。そして、
2人は卒業後も付き合いを続けていたが、女性が当初の希望
だった編集の職場に再就職が叶い仕事を始めた矢先、彼に長
期の海外での仕事が決まる。
彼の赴任先はスペイン・バルセロナ。2人は卒業旅行でその
地を訪れており、10年後にまた一緒に来ようと誓いあった場
所だった。そして、一緒に来て欲しいと望む彼に対して、彼
女は別れを告げる。こうして別々の道を歩み始めた2人だっ
たが…
主演は、去年9月に『アジアンタムブルー』を紹介している
松下奈緒。相手役は『仮面ライダー剣(ブレイド)』の竹財
輝之助。他に、原田泰造、西田尚美、加藤雅也、石黒賢、松
坂慶子らが脇を固めている。
監督は、平山秀幸監督作品や先に紹介した田壮壮監督の『呉
清源』の助監督を務め、今回が長編デビューの蝶野博が担当
している。
元々の楽曲が、未来予想図を思い描いて、それを思い続けて
いれば、何時か願いは叶うというような内容のようで、映画
も2人の未来予想図が結実するまでを描いている。
もちろん映画は、バルセロナに行ってしまったり、夢物語の
ような部分も有りはするが、そこには、現在にどんな困難が
待ち構えていても、それを乗り越えて行く勇気が必要である
ことも描いていて、その辺の描き込みはなかなか巧みなよう
にも感じられた。

『ロンリーハート』“Lonely Hearts”
1940年代後半に全米を震撼させた結婚詐欺師にして連続殺人
犯レイモンドとマーサの犯罪を描いた作品。脚本・監督のト
ッド・ロビンスンは、映画でジョン・トラヴォルタが演じる
刑事エルマー・C・ロビンスンの孫にあたるそうだ。
犯罪の手口は、当時は沢山いた戦争未亡人を狙って、新聞の
交際欄「ロンリーハーツ」で住所を捜し、文通で相手の資産
状況を見極めて交際を申し込み、巧みに信用させて結婚、そ
して財産を奪ったら消えるというもの。
軍人の妻であったという自意識の高い当時の戦争未亡人は、
世間の目を気にして、詐欺と判っても警察に被害を訴えるこ
とが少なかったという事情もあったようだ。しかし、レイモ
ンドとマーサが出会ってからは状況が一変し、彼らは短絡的
に殺人を犯すようになる。
このレイモンド役を、『チャプター27』にも出ていたジャ
レッド・レトが演じ、マーサ役をサルマ・ハエックが演じて
いる。特にレトの変貌ぶりは見事で、撮影は当然『チャプタ
ー27』の方が後のものだが、これは実に凄い。ぜひ両者を
見比べてほしいものだ。
トラヴォルタは、近年は饒舌な役柄が多いということだが、
本作では最初は本人も躊躇したというほどの寡黙な役柄で、
過去を背負い、その経緯もあって捜査に熱中してゆく刑事を
熱演している。
他に警察側の共演者は、トラヴォルタとは4回目になるジェ
ームズ・ガンドルフィーニ。また、ローラ・ダーンも出演し
ている。
アメリカ史上最悪の犯罪の一つとも言われ、女性が死刑に処
せられたのも珍しいことのようだが、映画ではその最初から
最後までの克明に描いている。しかも、捜査の様子も丁寧に
描かれていて、そこには監督の思い入れも感じられるところ
だ。
なお試写はソニーの新試写室で観せてもらったが、フィルム
送りの揺れのない画面は非常に見易くて気持ちが良かった。
ただ、打ち込み字幕の左右に滲みのようなものが見られて、
その原因は判らないがちょっと気になった。

『僕のピアノコンチェルト』“Vitus”
またまた少年ピアニストのお話。
主演のテオ・ゲオルギューは1992年生まれ、2004年サンマリ
ノ国際ピアノコンクールなどで優勝歴を持っており、実際、
最後のコンサートシーンの撮影は、製作費削減の為に有料で
入場者を募って行われたが、入場券は即時完売したという程
の人気者ということだ。
また、彼の演奏シーンはこの他にも繰り返し登場し、プレス
資料の解説によれば、それぞれ演奏される楽曲にも意味が込
められているようだ。そして物語では、そんな音楽に天分を
持つ少年が、その天分ゆえに、周囲との軋轢で苦しんで行く
姿が描かれる。
とまあ、普通に書けばこんな内容の映画だが、『山の焚火』
で知られるフレディ・M・ムーラー監督の作品は、そう一筋
縄で行くものではなかった。そして、その物語は子供の姿を
見事に描いて、爽快な結末へと繋げて行く。
ムーラー監督の以前の作品は見ていないが、1940年生まれの
ベテランの作品歴によると、H・R・ギーガーのドキュメン
タリーを手掛けたり、1969年に“2069”という作品が在った
り、さらに1998年の『最後通告』は幻想的なミステリーだっ
たということだ。
そんな監督が、子供の夢を描きたいとして作り上げたこの作
品は、サン=テグジュペリの『星の王子様』に准えた少年の
姿を生き生きと描いている。それにしてもこの展開は、正に
子供だったことを忘れていない大人の作品と言えそうだ。
因に、この映画の主人公について監督は、『ブリキの太鼓』
のオスカルと、『デューン/砂の惑星』のアリアを引き合い
に出している。
共演は、『ヒトラー〜最後の12日間〜』でドイツ系俳優と
して初めてヒトラーを演じたブルーノ・ガンツが、少年に理
解のある祖父の役を楽しげに演じている。また、主人公の幼
少時代を演じたファブリツィオ・ボルサニも、ピアノは自分
で演奏しているそうだ。
演奏される楽曲は、リストの『ハンガリー狂詩曲』『ラ・カ
ンパネラ(鐘)』、ラヴェル『道化師の朝の歌』、モーツア
ルト『ロンド イ短調』『レクイエム』、チェルニー『エチ
ュード』、スカルラッティ『ソナタ』、バッハ『ゴルトベル
グ変奏曲』、シューマンの『ピアノ協奏曲イ短調』などで、
その内の多くはゲオルギュー自身が演奏している。
これらの音楽も存分に楽しめるし、ちょっと捻った物語も期
待以上に楽しめた。

『夜顔』“Belle Toujours”
1976年のルイス・ブニュエル監督作品『昼顔』(Belle de
Jour)の後日談。オリジナルに主演したカトリーヌ・ドヌー
ヴは出演しなかったが、アンリ役のミシェル・ピコリは38年
後の自分の役柄に再挑戦している。
監督は、1908年生れ、今年99歳のマノエル・ド・オリヴェイ
ラ。恐らく現役世界最長老の映画監督は、1957年に短編を映
画祭初出品し、1990年以降は毎年1作ずつを発表して、来年
100歳で発表する作品もすでに製作中とのことだ。
その監督が、ブニュエルと脚本家のジャン・クロード・カリ
エールへのオマージュとして作り上げた作品で、2006年のヴ
ェネツィア映画祭に出品されて喝采を浴びた。
物語の発端は、パリのコンサートホール。クラシックの演奏
会を楽しんでいたアンリは、かつての友人の妻で今は未亡人
のセヴリーヌの姿を発見、その後を追うが、彼女は彼を避け
るようにタクシーに乗り込んでしまう。
しかし、いろいろな偶然から再び彼女を見かけたアンリは、
彼女が出てきたバーのバーテンダーから彼女の宿泊先を聞き
出す。そしてそのホテルを訪ねたアンリだったが…
オリジナルでの2人の関係やその他の出来事が踏襲されて、
微妙な男女の物語が展開して行く。
僕自身、オリジナルはブニュエルの特集か何かで見たはずだ
が、細かいことはあまり覚えていない。でもまあ、夫には貞
淑だが、それでも欲望に抗し切れない女性が昼間だけの娼婦
となり、そこに夫の友人が現れて…という程度のことを知っ
ていれば充分だろう。
そして物語は、オリジナルで生じた謎が核となって行くが、
所詮この作品はオリジナルを壊す訳には行かないもので、そ
の辺は微妙な扱いとなっている。でも本作は、それらを超越
して男女の物語が展開するものだ。
ドヌーヴが出演しなかったセヴリーヌ役には、ブニュエルの
『ブルジョワジーの密かな愉しみ』にも出ているベテランの
ビュル・オジェが扮している。
この状況では、女は逢いたくないだろうし、男には恋慕の情
が再燃する。まあ自分も男としては理解できてしまうところ
だ。上映時間70分の作品は、映画ファンへのちょっとした贈
り物という感じの作品だ。

『僕がいない場所』“Jestem”
ポーランド在住の女性監督ドロタ・ケンジェルザヴスカによ
る2005年の作品。
主人公の少年は、母子家庭に育ち、母親を愛してはいるが、
母親の奔放な生き方にはついていけなくなっている。そんな
少年は、1人で川辺に係留された廃船に住み、空缶や鉄屑を
集めては現金を得て生活を続けている。そして街の人々は、
少年を哀れに思い援助の手を差し伸べようとするが、少年は
施しを受けようとはしない。
しかしある日のこと、少年の暮らしている廃船を1人の少女
が訪れる。彼女は船の係留場所の近くに建つ屋敷の次女だっ
た。しかも少年より年下と思われる少女は酒に酔っていた。
彼女は美しい容姿の姉に劣等感を抱き、親にも疎外感を持っ
て、そんな気持ちを酒で紛らせていたのだ。そんな彼女に、
少年はともに街を逃げ出そうと話をするが…
冒頭で、孤児院に収容された少年が身元を聞かれるが、頑と
して答えないというシーンが登場する。そこで発せられるの
が原題のjestem、英語ではI amという意味のようだ。少年が
身元を明かさないのは、母親の元に戻されるのが嫌なのかも
知れない。でも彼は母親への愛情を失っている訳ではない。
そんな微妙な心の動きが描かれる。
主演の少年と彼の許を訪れる少女の配役は、ポーランド全土
から探し出されたそうだが、特に当時は養護施設にいたとい
う少女役のアギニェシカ・ナゴジツカは、立場は逆だが『禁
じられた遊び』でブリジット・フォッセーが演じた少女を思
い出させて愛しくなった。
しかも彼女は、最初の登場シーンでは酒に酔っているところ
から、徐々に立ち直って行く姿を演じているが、その演技も
的確だったように思える。もちろんそこには監督の指導もあ
るのだろうが、その演技力は素晴らしいものに感じられた。
前回紹介の『この道は母へとつづく』が母親の許へ向かうの
に対して、母親との決別を模索する本作はちょうど逆の立場
の作品に見えるが、実はどちらも母親への絶ちがたい愛情を
描いている点では共通しているものだ。しかしこの作品の母
親は余りにも無責任で、親の立場を描けば描くほどこういう
内容になってしまうのは悲しい話だ。
なお、撮影は監督の夫でテレビ版『デューン』なども手掛け
るアーサー・ラインハルトが担当。また、音楽をマイクル・
ナイマンが手掛けているのも話題になりそうだ。

『めがね』
去年1月に紹介した『かもめ食堂』の荻上直子監督、小林聡
美主演、もたいまさこ共演による新作。
何処とは知れない、多分南の島。そこのとある一角で暮らす
人たちに「来た」という予感が走る。そして島の空港に小型
旅客機が着陸し、そこから2人の女性が降り立つ。その内の
年配の女性は真っ直ぐ海岸へ向かい。用意されていた小屋の
前で人々と挨拶を交わす。
もう1人は、何か都会を逃げ出してきたような雰囲気の女性
で、彼女は旅行鞄を引き摺ってその小屋を通り過ぎ、とある
民宿にたどり着く。そこで大して迷わずに到着した彼女は、
「ここにいる才能がある」と言われてしまう。
そして、観光スポットも何もないその島の民宿を舞台に、人
生の休暇のような物語が開幕する。
小林が演じる後から来る女性は、映画の後半に現れる若い男
には「先生」と呼ばれていたりして、何か文化系の仕事をし
ているようだ。一方、先に現れるもたいが演じる年配の女性
は、映画の中でも全くの謎の人物とされている。
でもそんな人たちが、世間とのしがらみを断ち切って、ある
期間をその場所で過ごす。それが何だと言われると、もうそ
れには全く答えられなくなってしまうのだけれど、まあこん
な話があってもいいかなあという映画だ。
癒しというならその通りのものだし、多分去年の『かもめ食
堂』を楽しめた人なら、その感覚は今回も楽しめる。
僕自身がどちらがより好きかと聞かれれば、『かもめ食堂』
の方を挙げるが、本作の方が主人公の引き摺っている部分が
多いだけ、かえって親しみの湧く人もいるかも知れない。現
実を逃れられない人には、一服の清涼剤になる作品だろう。
他の共演者は、市川実日子、加瀬亮、光石研。それに薬師丸
ひろ子が出演している。
また、映画に登場する食事から、美術、編み物、体操までの
それぞれを、各分野で実績のある女性たちが担当しているの
も話題になりそうだ。

『インベージョン』“The Invasion”
ジャック・フィニーが1955年に発表したSF『盗まれた街』
(The Body Snatchers)の3度目の映画化。
前の2回(1956、78年)の映画化はいずれも“Invasion of
the Body Snatchers”の題名で行われたものだが、今回は、
そのBody Snatchersの部分が取れてしまった。実はその辺に
原作からの改変があるものだが、それを題名で表わしている
のは嬉しいところだ。
物語は、スペースシャトルが軌道上で何かに衝突し、さらに
地球再突入時にばらばらに砕け散り、その破片がダラスから
ワシントンDCまでの広範囲にばらまかれるところから始ま
る。その破片には、再突入時の超高温にも耐える謎の微生物
が付着していた。
ところが、その調査を進める政府機関の発表は要領を得ず。
さらに政府命令によるインフルエンザ対策と称する謎のワク
チンの接種が始まる。そして街には、無表情な人々が出現し
始める。彼らは争うことをせず、その内に国家間の長年の紛
争も終結し始める。
それは宇宙から飛来した微生物が人類に感染したことによる
結果だった。ところが人類の中に、それに免疫を持つものが
いることも判明する。そして微生物に感染した奴らは、免疫
を持つ人間を狩り始める。
主人公の女性は、DCで精神科医を開業していたが、離婚し
た夫が最初に異常を見せ始める。そして彼女の息子が免疫保
持者であることが判明する。一方、感染しても眠らなければ
微生物が活性しないことも判明し、彼女は感染した奴らと、
そして睡魔とも戦いながら、息子を保護して研究施設まで送
り届けなければならなくなる。
この主人公をニコール・キッドマン、彼女の現在の恋人で微
生物の研究者を007後の最初の作品となるダニエル・クレ
イグが演じる。後半はかなりのアクションシーンも登場し、
サスペンスに満ちた物語が展開する。
監督は、『es』や『ヒトラー〜最後の12日間〜』のオリ
ヴァー・シュピーゲル。前2作はドキュメンタリータッチが
かなり重苦しい感じまでしていたものだったが、元々がSF
の本作ではそのリアルさが生きて、かえってバランスが良く
なった感じもした。
結末は皮肉と甘さがちょっと物足りない感じもしたが、オリ
ジナル映画化へのオマージュなども適度に挿入されていて、
その辺は嬉しくも感じられた。

『Mayu−ココロの星−』
21歳で乳癌になった女性による実話の闘病記に基づく作品。
主人公は、母親が長年癌と闘病し、自分も健康診断は欠かさ
ず受けていたというが、まさか21歳の若さで乳癌にかかると
は思っていなかったそうだ。そんな希な病気という注釈はつ
くが、患者が1人いるということは、他にもいる可能性は否
定できない。
そんな乳癌の危険性を、原作者は身を持って語っているもの
だ。そして、乳癌は早期に発見できれば完癒率は95%に近い
とのことで、その検診を勧める啓蒙活動であるピンクリボン
運動も登場する作品となっている。
とは言うものの、映画はかなりリアルでシビアな内容も描か
れ、実際に患者の人が見たらショックを受けるのではないか
と心配になるほどのものだ。でも、患者の人にはこのくらい
のことは常識の範囲なのだろうし、その分、啓蒙に繋がれば
作品は成功と言えるものだ。
主演は平山あや。去年は『バックダンサーズ』を見たが、そ
の時にも陰影のある役柄を丁寧に演じている印象を持った。
今回は患者であることや、癌と戦う勇気や、外部からの仕打
ちに対する弱さや、いろいろな側面があって、これもよく演
じていたと思える。
特に、検査のシーンではマンモグラフィーなども実施されて
おり、それを受けたことのある家内に言わせると尋常でない
痛みが伴うという検査も、実際に体験しているようだった。
その頑張りは賞賛したい。
共演は、両親役に浅田美代子と三浦友和。また同病の患者役
で京野ことみが味わいのある演技を見せていた。
ただし映画では、病院内で携帯電話を掛けるシーンが多々あ
り、僕の知っている都内の病院では、検査機器への影響など
の理由で、ほとんどが院内の携帯電話は使用禁止になってい
るものだが、北海道ではそれが許されているのだろうか、ち
ょっと気になった。
それから、患者が他の患者の手術跡に触れるというのは、冗
談にしても絶対にしてはいけないというか、できないことの
ように思えるが、その辺の演出も気になったところだ。

最近では、タレントの山田邦子がテレビ番組の知識で乳癌を
早期発見し、手術も成功したという話題もあったが、まだま
だ検診も充分に行われているとは言えない現状で、この映画
がその啓蒙の一助にでもなれば素晴らしいことだ。



2007年09月09日(日) ヘアスプレー、ある愛の風景、サーフズ・アップ、チャプター27、風の外側、この道は母へとつづく、FLYBOYS

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※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介しています。     ※
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『ヘアスプレー』“Hairspray”
1988年に公開され同名の映画が、2002年にブロードウェイで
ミュージカル化され、さらにそのミュージカルを映画化した
作品。
1962年のボルティモアのテレビ局を舞台に、スターを夢見る
10代の若者たちが、歌や踊りに切磋琢磨する姿が描かれる。
といっても主人公のトレーシーは、ちょっと太めで、身長も
ちょっと低めな女の子。普通に考えたらスターとはちょっと
違うのかも知れないそんな女の子が、「時代は変わるの」と
いう信念の許、世間をあっといわせて行く痛快なお話だ。
ボルティモアのテレビ局で、若者たちに一番の人気番組は、
毎日夕方4時放送開始の「コーニー・コリンズ・ショウ」。
最新の歌や踊りが満載の番組だが、ある日、そのダンサーに
欠員が出て、オーディションの告知が行われる。
そのオーディションに勇んで参加するトレーシーだったが、
番組の実権を握る元ミス・ボルティモアの女性は、自分とは
異なる容姿のトレーシーを容認しない。敢えなく落選した彼
女だったが、それでも学校で黒人の若者たちと親交を結ぶ機
会を得て、ダンスに磨きをかける。
そんなトレーシーを、学校にスカウトに来たコリンズ本人が
見出して…
1962年、まだ人種差別が横行し、テレビの若者番組さえも白
人と黒人は同席できず、週に1回、黒人だけのNegro dayが
決まっているような時代。そんな時代を背景に、正に時代を
変えてしまう女の子の活躍が描かれる。
主演は、1000人のオーディションで選ばれたというニッキー
・ブロンスキー。ちょっと特別な条件のため、オーディショ
ンは難航したようだが、ニューヨーク市のイヴェントなどで
も歌を披露しているという18歳の少女が見事にその座を射止
めた。因に、当時の彼女はロングアイランドのコールド・ス
トーンでアルバイト店員をしていたそうだ。
そして共演は、1978年『グリース』以来のミュージカル映画
出演となるジョン・トラヴォルタを筆頭に、ミシェル・ファ
イファー、クリストファー・ウォーケン、クイーン・ラティ
ファ。
さらに若手は、それぞれ売り出し中のアマンダ・バインズ、
ジェームズ・マースデン、ブリタニー・スノウ、ザック・エ
フロン、イライジャ・ケリー、テイラー・パークス。
一方、ベテランでは、アリソン・ジャネイ、ジェリー・ステ
ィラー。なお、スティラーはベン・スティラーの父親で、オ
リジナルの映画で主人公の父親を演じていた人だ。
これだけのメムバーが、正にスクリーン狭しと歌って踊る。
音楽は、1960年代ポップスを見事にフェイクしたもので、そ
の軽快なリズムも存分に楽しめる。
現代とはちょっと違う時代が背景だが、どんな時代でも元気
一杯に生き抜いて行く若者たちと、それをしっかりと見守る
大人たちの姿を、最高にハッピーな雰囲気で描いている。監
督は、ダンサー出身のアダム・シャンクマン。
なお、Negro dayは、原語ではっきりと発音されていたが、
字幕は「ブラックデイ」とされている。日本人にはニグロと
言われても意味が判らないのかも知れないが、ここで敢えて
Negroと言う単語が使われていることには意味があると思え
る。その意味が「ブラックデイ」で伝わるかどうか。かえっ
て「黒人デイ」とでもした方が、感覚的には意味が掴めるよ
うにも感じるがどうだろうか。本当の訳は「黒んぼデイ」か
も知れないが。

『ある愛の風景』“Brodre”
前回、『アフター・ウェディング』を紹介したデンマークの
女性監督スサンネ・ビアが2004年に発表した作品。
デンマークがアフガニスタンに派兵している現実を背景に、
戦地で行方不明になった兵士の家族を襲う悲劇を描く。
デンマークがどうのような状況で派兵しているのかは、映画
の中では説明されていなかったと思うが、多分、NATOの
一員として派兵せざるを得ない体制なのだろう。そのことが
当然かのように、説明もぜずに済んでしまうことが、まず恐
ろしく感じられた。
原題はbrotherという意味のようだが、物語は2人の兄弟が
中心となる。兄は結婚して子供もおり、親にとっても自慢の
息子。それに対する弟は、未婚で定職もなく、その上、罪を
犯して服役から釈放されたばかりという状態だ。当然親にも
疎んじられている。
そんな弟が釈放された日に、兄には召集令状が届き戦地に向
かうことになる。そしてその戦地で、危険な任務に向かった
兄の搭乗するヘリコプターが撃墜されてしまう。しかし奇跡
的に無事だった兄は、敵の捕虜になっていたのだが…
撃墜時の状況からみて戦死と判断された兄に対して、軍隊に
よる盛大な葬儀が行われる。そして悲嘆にくれる両親や兄の
家族を見た弟は心を入れ替え、過去に犯した犯罪も悔い改め
て、真面目に働くようになる。こうして一種平穏な日々が続
いて行く。
ところが、突然兄が国連軍に救出されて帰ってくる。しかも
その兄は、抑留中のある事件を切っ掛けに、人格が変ったよ
うになってしまっていた。その結果、特に自分が行方不明の
間の弟と妻の関係への疑い強めて行く。
僕の父親もシベリアに抑留されて音信不通となり、母親には
父の弟との再婚話があったというから、戦時中にはこういう
話は儘あることなのかも知れない。それにしても、撃墜が目
撃されているとは言え、この状況で葬儀を行ってしまう軍と
いうのも酷い話だ。
基本的には、反戦の視点で描かれた作品と思われる。日本も
現状は後方支援という名目で可能性は少ないとはいえ、将来
的に国連の許の派兵が行われれば、こういう事態も起こり得
る。日本人にとっても無関係とは言えない話だ。

『サーフズ・アップ』“Surf's Up”
ペンギンの社会を舞台に、サーフィンに賭ける若者の姿を描
いた作品。
アニメーション映画というのは、製作期間も長いし、従って
企画はかなり前に立てられるはずだから、互いを見て2匹目
のドジョウを狙うということは難しいと思うのだが、その割
りには、よく似た企画が同じ時期に登場するものだ。
これはドリームワークスの登場で、特に目立ってきたように
も感じるものだが、今回の作品はソニー・イメージワークス
製作で、アニマルロジックが作った『ハッピー・フィート』
と同じペンギンが主人公になる。
とは言ってもこの2作、同じペンギンが主人公でも、話はか
なり違うものになっていた。
南極に住むイワトビペンギンのコディは、子供の頃に彼の地
を訪れた伝説のサーファー・ビッグZからペンダントを手渡
されて以来、サーフバトルで相手に勝つことだけを考え、氷
のボードでテクニックを磨いてきた。
そんなコディに、サーフィンワールドカップ出場のチャンス
が訪れる。ところが、やってきた会場で権勢を誇っていたの
は、ビッグZに勝利して名を上げたコウテイペンギンのタン
ク。その戦いに破れたビッグZは、そのまま帰らぬ人となっ
たのだ。
したがって、そんなビッグZのペンダントを持つコディは、
当然タンクの目の敵にされるが…これに、五大湖からやって
きたニワトリのサーファーや、ライフガードの雌ペンギンら
が加わって、物語は進んで行く。
ただし、この映画の売りはこの物語だけのものではない、映
画の見所は、プロサーファーの動きを抽出してペンギンの姿
に置き換え、徹底的に拘わって映像化したという波のCGI
に合成したサーフィンの妙技だ。
その演技には、保存映像から取り出されたものの他、チャン
ピオンサーファーたちの動きを直接モーションキャプチャー
したものもあるということだ。そして、普通よりは長いチュ
ーブの中を行くサーファーの姿など、実写ではなかなか観ら
れない映像を、たっぷり観せてくれる。
なお、原語の声優には“Indy 4”への出演が話題のシャイア
・ラブーフ(と読むらしい)や、ズーイー・デシャネル、ジ
ェフ・ブリッジスらが共演。日本語版は、小栗旬、山田優、
マイク真木らが当てている。

『チャプター27』“Chapter 27”
1980年12月8日。ニューヨークに建つダコタハウスの入り口
で、ジョン・レノンを殺害した男=マーク・デイヴィッド・
チャップマン。その犯行に至るまでの3日間を追った作品。
この日のことは、自分ぐらいの年代の人には鮮烈な思い出に
なっている人も多いようだ。僕自身は飲み屋か何かで聞かさ
れた記憶があるが、自分がビートルズの熱烈なファンだった
訳でもないので、その時の気持ちなどは余り定かではない。
でもその時の状況をそれなりに覚えているのは、自分なりに
もそれだけ大きな出来事だったのだろう。
その犯人に関しては、最近、保釈を認めるか否かの問題も話
題になったところだが、人物像など全く知らなかった。この
映画は、そうした背景などを知る上では、興味深くも見られ
たものだ。もちろん作品はドラマであって、真実だけを伝え
るものではないが。
題名は、J・D・サリンジャーの小説『ライ麦畑でつかまえ
て』が全26章であることに由来している。犯人はこの小説を
愛読し、その主人公の第27章を演じた…というのが物語の骨
子となるものだ。
犯人は、生活の困窮などによって生じた社会に対する憎悪の
矛先を、華々しく活躍を続けるレノンに向けている。そして
サリンジャーの小説の主人公を自分に照らし合わせ、その主
人公の行動をなぞっていった。
正直に言って、『ライ麦畑…』も読んでいなかったので、青
春文学の代表とも言われる作品がこんなことに利用されると
は…とも思ったところだ。小説を勝手に解釈するのは、読者
の自由でもあるが、歪んだ解釈。特に最近はそういう傾向が
強く見られるように思えるのも、気になったところだ。
主演のジャレッド・レトは、実は後日『ロンリーハート』と
いう作品も紹介するが、本作の撮影には30kg体重を増やして
臨んだという、その変貌ぶりが見事だ。また、共演者では、
最近いろいろお騒がせのリンジー・ローハンが雰囲気のある
演技を見せている。
なお撮影は、実際のダコタハウスの前で行われており、『バ
ニラスカイ』に一瞬登場するのを除けば、この場所での本格
的な映画撮影は、映画の中でも言及されている『ローズマリ
ーの赤ちゃん』以来ではないかということだ。

『風の外側』
海外の映画祭での受賞も連続している奥田英二監督の新作。
巻頭、チンピラが女子高生に絡むシーンが登場する。ああ、
また日本映画の典型みたいなシーンだなあと思いつつも、そ
の直後の展開で、何となく掴まれてしまった。
昭和30年代、40年代の青春映画の雰囲気かな。でもそれを、
1950年生まれの奥田監督は、ただ真似ているのではなく、自
分のものにしてこの作品を作り上げている。しかも現代を時
代背景にして、そこに違和感なくこの物語を描いたのは見事
と言えるものだ。
主人公は、名門女子高校に通う将来はオペラ歌手になること
を夢見る少女。そんな少女が冒頭の出来事を切っ掛けに、や
くざの男と交流を深めて行く。対する男は、素人の女性に手
を出してはいけないと判りつつも、その少女の眼差しから逃
れることができない。
一方、その男は夢も希望も失せたこの世の中で、闇金融の取
り立てなどで最底辺の生活を送っていたが、もっと実入りの
良い仕事の話が上層部から下りてくる。それは、彼がそれだ
けには手を出さないと誓っていた仕事だったが…
そして物語は、全く別の局面を見せ始める。
やくざと清純な少女の恋愛というのは、定番中の定番という
ところだろう。それを臆目もなくやっている作品だ。でもこ
の映画は、それなりに捻りもあるし、多分それより、演出の
巧みさに魅かれて、結局最後まで見さされてしまったという
感じもしたものだ。
奥田監督の作品は、実績のある俳優出身にしては浮ついたと
ころが無く、しっかりとしたテクニックも感じられて、どの
作品も観ていて気持ちが良い。本作も、そうした意味では安
心して観ていられたものだ。
ただし、脚本上では多少疑問が生じた。例えば緊急の場面で
咄嗟に学習しただけの言語が出てくるものかどうか。また、
民族的なつながりを考えると、男の行う犯罪が有り得るもの
かどうか。
まあ、2つめに関しては南北問題なども絡むのかも知れない
が、それならそれなりの説明が欲しかったところだ。それに
主人公の2人に血縁が有るのか無いのか、母親の採った行動
についても、もう少し正確な情報が欲しかった。

出演者では、主演した安藤サクラは奥田の次女だそうで、な
かなか頑張っていた。一方のやくざ役はモデル出身の佐々木
崇雄。本業では韓国でも活躍中とのことで、本作には適材だ
ったようだ。
下関フィルムコミッションの協力で、町の各所の風景も心地
よく描かれていた。なお、主人公がオペラの個人レッスンを
受けるシーンは、藤原義江の生家で撮影されているものだ。

『この道は母へとつづく』“Italianetz”
2005年のベルリン映画祭の少年映画部門でグランプリを受賞
した作品。ロシア北部レニングラード州の孤児院を舞台にし
た少年ドラマ。
背景は現代。ロシアの孤児院には子供が溢れている。その一
方で、その子供たちを西側富裕層の子供に恵まれない夫婦に
斡旋することも、日常的に行われているようだ。だから孤児
院にいる子供たちにとって、斡旋されることが夢のようにも
なっている。
そんな中で主人公は、正に金持ちのイタリア人の夫婦の目に
留まり、そこに里子に出されることが決まった運の良い子供
だった。因に原題は、里子が決まってから付いた主人公の仇
名となっている。
ところが、先に里子に出された子供の実の母親が現れ、騒ぎ
を起こす事態が発生する。その母親はアル中で、子供は里子
に出されたことが幸運だったとも言える状況だったが、ある
事情もあって、主人公は実の母親に会いたいとの思いを募ら
せることになる。
そして、その思いを叶えるため、少年は孤児院では教えてい
ない文字を読むことを憶え、孤児院に保管されている自分が
保護されたときの書類を盗みだし、そこに書かれた手掛かり
を許に、母親を探す旅を決行する。
これに対して孤児院側は、斡旋で得たお金を取り戻されては
適わぬとばかり、警察力まで動員して少年の行方を追跡。し
かし少年は、孤児仲間や街の人たちなどの協力もあって、捜
索の網を掻い潜って行く。そして徐々に母親が元いた住所に
近づいて行くが…
主人公を演じるコーリャ・スピリドノフはプロ子役で、その
他にもロシアの若手の俳優がいろいろ出演しているようだ。
一方、撮影は実際の孤児院でも行われて、そこでは本物の孤
児の子供たちも多数出演しているものだ。
物語は、全国紙のコムソモーリスカヤ・プラウダ紙に載った
実話に基づいており、さらに実際の養子斡旋業者などにも取
材して脚本化されたそうだ。多少のフィクションは含まれる
が、ほとんどが現実に起こり得るものとされている。
最近、この種の少年を主人公にした作品を多く観ている感じ
がする。昔の大人なら、まず子供を守ることを最初に考えた
と思うが、最近の大人になり切れていない親たちは、子供を
守ろうとしない。特に政情が不安な世界では、どうしても子
供にそのしわ寄せが来るようだ。そんな現実が、この映画に
も描かれている。

『FLYBOYS』“Flyboys”
航空機が初めて実戦で使われたとされる第1次大戦の物語。
ドイツによるフランス侵攻が始まり、そこには飛行船や開発
されたばかりの飛行機も投入されていた。一方、この戦争に
合衆国は未だ参戦していなかったが、アメリカの若者の中に
は、義勇兵としてヨーロッパに渡る者もいた。
そしてその中にはフランス航空隊に入隊する者もいて、彼ら
は人類史上最初の戦闘機パイロットと呼ばれることになる。
しかしその現実は、極めて高い戦死率を記録に残す危険な任
務だった。
主人公は、アメリカで牧場経営に失敗し、3代に亘った牧場
を手放して戦地にやってくる。そこには、親に疎んじられた
金持ちの息子や、黒人のボクシングチャンピオン、他にもい
ろいろな過去を背負った連中が集まっていた。
彼らが配属されたのは、ジャン・レノ扮するフランス人司令
の許に作戦を展開するラファイエット航空隊。そこには無愛
想な先任士官もいて「友達少なそう」と噂されるが、事実、
彼の戦友はみな戦死していたのだ。
そんな中で、主人公たちは1カ月の訓練の後、大空の戦場へ
と飛び立って行く。
昔、ディズニーランドというテレビ番組で航空機の歴史を扱
った回があり、そこで第1次大戦当時の航空機乗りは貴族が
多く、戦いも騎士道に則ていたという説明がされていた。
この映画でも、騎士道的な部分とそうでない部分が交錯して
いて、その辺は観ていてなるほどという感じがした。確かに
お互いの顔が観えるほどの接近戦を行っていれば、人間同士
の戦いという感じもするものだ。
第1次大戦の航空機ものは、過去に古典的な名作は多々ある
が、最近はあまり作られていなかった。それは航空機を飛ば
すこと自体の技術的な困難さによるところが大きかったよう
だが、CGIの採用でその問題は解消されつつあるようだ。
登場する飛行機は、フランス側が主に複葉機、ドイツ側が三
葉機といった具合で、見た目から判りやすく描かれている。
そしてこれらの飛行機では、多分1機ずつは実機があるよう
で、特に複葉機は、離陸、着陸なども丁寧に写されていた。
ただし、空中戦や飛行船への攻撃、また敵機による爆撃など
のCGIシーンは、ミニチュア特撮に比べると動きなどはス
ムースな反面、何となく全体に現実感が伴わないのは、観て
いる側に先入観があるためだろうか。
主演は、『スパイダーマン』のジェームズ・フランコ。共演
は、『ザ・リング』のマーティン・ヘンダーソンと、フラン
スの新星ジェニファー・デッカーがヒロインを演じる。
監督は『スティング』の製作も務めたベテランのトニー・ビ
ル、脚本も『スティング』でオスカー受賞のデイヴィッド・
S・ウォード、製作は『インディペンデンス・デイ』などの
ディーン・デブリン。
戦争映画だから戦死者も多々出るが、全体的にはちょっと軽
めに作られた作品で、深刻ぶらずに、比較的気楽に観られる
作品になっている。



2007年09月01日(土) 第142回

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※このページは、キネマ旬報誌で連載中のワールドニュー※
※スを基に、いろいろな情報を追加して掲載しています。※
※キネ旬の記事も併せてお読みください。       ※
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 まずは、ちょっと気になったこの話題から。
 ハリウッドを舞台に規格の覇権争いが続いているBlu-ray
とHD-DVDについて、突然パラマウントとドリームワークス・
アニメーションから、HD-DVDを単独採用するという発表が行
われた。
 実はこの争いに関しては、すでにアメリカ最大手ヴィデオ
ショップのブロックバスターがHD-DVDの扱いを止めたり、大
手量販店チェーンが、店頭でのプレーヤー販売はBlu-rayに
限定して、HD-DVDプレーヤーはカタログ及びネット販売のみ
とするなど、コンシューマーサイドでは、事実上Blu-rayの
勝利が確定していたはずだったのだ。従ってその状況下での
今回の発表は、極めて不自然な印象を受けた。
 そしてこの発表に対しては、マイクル・ベイ監督が、いち
早くブログで、「彼らは、僕に“Transformers 2”を作らせ
たくないのか」という声明を発表するなど、波紋を広げるこ
とになった。因にベイ監督は、過去のヒット作の『バッド・
ボーイズ』がソニー、『アルマゲドン』『パールハーバー』
がディズニーと、いずれもBlu-ray陣営の映画会社で、彼の
友人にもBlu-ray所有者が多いという状況があったようだ。
 さらに、ドリームワークスの創設者スティーヴン・スピル
バーグの側近からも、「スティーヴンは、基本的にBlu-ray
のサポーター。最近手掛けた『未知との遭遇』のBlu-ray版
の出来にも満足している」という発言が飛び出すなど、内部
の混乱の様子も伝わってきたものだ。
 それなら何故、今の時期にパラマウントとドリームワーク
ス・アニメーションがこのような発表に踏み切ったかという
ことになる訳だが、ここで最初に思いつくのはカツェンバー
グとディズニーの確執。ディズニーが採用するのと同じ規格
には乗りたくないというのはありそうな話だ。しかし、話は
そんな単純なものではなかったようだ。
 実は、Variety紙に載ったレポートによると、今回の決定
に絡んでは、HD-DVDの中心会社の東芝から、パラマウントに
5000万ドル、ドリームワークスには何と1億ドルの資金提供
が行われたということだ。この数字に関しては業界紙の記事
だからまず間違いはないと思われるところだが、さらにこの
金額は、HD-DVDを採用しているマイクロソフトのXbox向けに
『シュレック3』がHD-DVD単独で出るだけでも、充分な効果
があるということで、経済的にも頷ける数字のようだ。
 そしてこの金額は、ドリームワークスの現状からすると断
れないものだったという論評も掲載されていた。
 つまり今回の両社の動きは、お金が絡んでのものというこ
とになりそうだが、実際は収録時間などの仕様の面でもBlu-
rayの方が映画の収録には適しているという意見もあって、
ハリウッドも個人のレベルでは、Blu-ray採用でほぼ意見も
揃ってきているようにも見える。それを両社にユニヴァーサ
ルを加えた3社が企業の論理で覆すことができるか、規格の
覇権争いは大詰めに来ているようだ。
 なおベイ監督に関しては、ブログが話題になるや否やパラ
マウントの担当者がHD-DVD持参で飛んできたそうで、それで
見せられたHD-DVD版『300』の映像には満足したそうだ。
このため前言は取り消して“Transformers 2”は作りたいと
いう声明も出しているが、問題はそこにあるのではないとも
思えるところだ。
        *         *
 続いては、Blu-ray陣営ソニー・ピクチャーズの話題で、
同社の東京オフィスが築地から虎ノ門に移転し、その試写室
に最新鋭の4Kプロジェクターが設置された。その内覧会を
観てきたので報告しておこう。
 4Kプロジェクターというのは、ハリウッドが標準化した
ディジタルプロジェクターの規格のことで、元々ハイビジョ
ンからスタートした現行のディジタルプロジェクターの水平
解像度が約2000でこれを2Kと呼び、これに対して4Kは、
水平解像度が約4000あるというものだ。一応、ハリウッドの
規格では2Kと4Kの両方が認められているが、水平垂直が
2倍ずつで、画面全体では4倍の解像度となる4Kの方が、
画質の優れていることは言うまでもない。
 実はハイビジョンの解像度は、開発当時に16ミリフィルム
程度と言われていたもので、それが2倍になれば32ミリ、画
面の縦横比はヴィスタサイズで、スタンダードに対して上下
に黒みが入ることを考えると、これでほぼ35ミリフィルムに
匹敵する画質になったとも言えるものだ。70ミリやImaxには
及ばないにしても、基本的に映画館で上映される映画の画質
はこれで充分と考えられる。
 それで4Kプロジェクターによる上映も行われたが、特に
巻頭のロゴマークのCGI映像の美しさは、正に息を呑むも
のだった。ただし、映像ソースとして4Kで製作された作品
は、ハリウッド作品でもまだ一部に限られているもので、そ
の実力が完全に発揮されるのは常にということではない。
 一方、東京地区の映画館では、現在の4Kプロジェクター
の設置は、六本木とお台場、それに板橋、東村山などごく一
部に限られているのが現状で、仮に4K製作の作品をこの試
写室で鑑賞すると、一般公開の映画館と画質が同じでないこ
とになるというのは、ちょっと気になるところだ。といって
も今回ネットで調べていたら、いつの間にか郊外のシネコン
では、リアルDの上映館も増えてきているようで、その内、
4Kの上映館も増加してくるのだろう。 
 なお内覧会での説明では、同じ4Kプロジェクターでも、
以前の装置は4Kの映像ソースを内蔵のハードディスクに移
すのに一晩掛かりだったものが、今回の最新鋭機では上映時
間の1.5倍程度で済むのだそうだ。それだけ進化もしてい
るという話だった。
 早く4K製作の作品をこの試写室で観てみたいものだ。
        *         *
 以下は、いつもの製作ニュースを紹介しよう。
 最初は、これは全くの希望的な観測だが、『LOTR』の
前日譚“The Hobbit”の映画化について、ニューライン(N
L)側が折れるのではないかとの噂が広まっている。
 この計画については、昨年12月15日付の第124回などでも
報告したように、元々はピーター・ジャクソンとNLで進め
ていたものだったが、その後の『LOTR』の興行収入を巡
る裁判の提訴で頓挫となっていた。
 ところが、今年の夏の『ヘアスプレー』などは大ヒットし
ているものの、実は経営の安定しないNLにとって、確実に
ヒットの見込めるジャクソン版『ホビット』がどうしても必
要になってきたというのだ。またこれに絡んでは、『LOT
R』で対立したNL創設者のボブ・シャイが、「ジャクソン
の言い分にも一理ある」と発言したとも伝えられ、これはそ
の予兆とも取られている。
 ただしジャクソンの予定では、現在撮影中の“The Lovely
Bones”が終ると、続けては第136回で紹介したスピルバーグ
と共同で製作する“Tintin”の計画が進んでいるもので、こ
れでは何時になったら“The Hobbit”に取り掛かれるか判ら
ない。そこで監督は、第124回で報告したサム・ライミが担
当するとの情報も登場した。
 JRR・トーキンの原作から、『LOTR/旅の仲間』ま
でを繋ぐ3部作というコンセプトは、すでにジャクソンが構
想しているとも伝えられ、それをジャクソンとフィリッパ・
ボウエン、フラン・ウォルシュが脚本化し、ライミの監督で
実現する可能性はありそうだ。
 なおライミは、ワーナーが進めている『タイタンの戦い』
のリメイクからは降板を表明しており、ソニーの『スパイダ
ーマン4』への着手にはまだ尚早のものだ。またもし実現し
たら、“The Hobbit”3部作の製作は、『LOTR』と同様
に3年連続で行われる。
        *         *
 続いては、『プラトーン』などのオリヴァ・ストーン監督
が、ベトナム戦争の真実に迫る4度目の作品を計画。その製
作をユナイテッド・アーチスツ(UA)と交渉していること
が公表された。
 作品の題名は“Pinkville”。この言葉は、アメリカ軍の
戦略地図で共産化している村落を指す用語というものだが、
1968年、実際はそうではなかった村で事件は発生した。日本
ではソンミ村虐殺と呼ばれたが、実際はソンミ地区のMy Lai
(ミライ)村という場所で、米軍による一般住民の虐殺事件
が発生。子供や女性、老人など500人以上の一般人が虐殺さ
れたとされるこの事件は、当時のアメリカ国民に大きな衝撃
を与え、その結果アメリカ政府のベトナム政策転換の切っ掛
けになったとも言われているものだ。
 そして映画は、この虐殺作戦を地上で指揮した米軍司令官
と、上空から作戦に参加していたが途中で間違いに気付き、
最後は味方に銃口を向けて村民の救出を行ったヘリコプター
部隊のパイロットの行動を描く。最終的にこの救出された人
たちが米議会での証言を行って事件を明るみに出すものだ。
 配役は、地上の司令官をブルース・ウィリス、間違いに気
付くパイロットを今春公開されたダンス映画『ステップ・ア
ップ』に主演、テレビ番組のホストなども務めているチャニ
ング・テイタムが演じることになっている。製作費は4000万
ドルが計上され、撮影は来年早々に行われる。
 なおUAは、ストーン監督の『7月4日に生まれて』に主
演したトム・クルーズが事実上主宰しているものだが、今回
の作品への出演は予定されていないようだ。
        *         *
 前回も紹介したMcGとワーナーの契約で、もう1作品が追
加された。追加された作品の題名は、“Maintenance”、Oni
Pressから出版されているコミックスを映画化するものだ。
 物語は、スーパーヒーローと対決する超悪人たちのために
兵器や武器などを提供している世界的企業テラーマックスと
いう会社が舞台。そこで回収された兵器のメンテナンスなど
を担当している2人の技術者が、ある日のことタイムマシン
の修理を担当し、それによって世界を救うことになってしま
うというもの。
 ジム・マッセイ(文)とロビー・ロドリゲス(絵)の原作
から、MGMで“F+”や、ニュー・リジェンシーで“Whitch
Hunters”などを手掛けるジョー・バラリーニが脚色。製作
は、McGが主宰するワンダーランドで行うものだが、McGは
「アクションとコメディとVFXが一体となった『バック・
トゥ・ザ・フューチャー』や『レイダース/失われた聖櫃』
のような作品に憧れて監督を目指したが、この作品は、その
ゴールとも言えるものだ」として実現に熱意を示している。
 因に、McGとワーナーの契約は3年間で、その間の実現が
期待される。
 なお、この他にOni Pressの作品では、“Whiteout”とい
う作品がすでに映画化されて来年ワーナーから公開予定にな
っている他、“Courtney Crumin”と“The Damned”という
2作品の映画化権をドリームワークスが契約したことも話題
にもなっている。
        *         *
 第134回で紹介したロブ・マーシャル監督によるブロード
ウェイ・ミュージカル“Nine”の映画化のキャスティングが
開始され、主人公の監督役にジャヴィア・バーデンと、彼を
取り巻く女性たちとしてペネロペ・クルス、マリオン・コテ
ィヤールの出演が発表された。
 またこの作品には、監督を取り巻く女性は全部で4人登場
するとのことで、マーシャル監督は後の2人を、ソフィア・
ローレンと、キャサリン・ゼタ=ジョーンズにオファーして
いるそうだ。
 因に、女優陣には全員歌と踊りの素養が要求されるとのこ
とだが、クルスは『ボルベール』での見事な歌声が印象に残
るところだし、コティヤールは、『エディット・ピアフ』の
歌唱シーンは歌手の保存音源に演技を合せたものだったが、
2001年には歌手役を吹き替えなしで演じたこともあるとのこ
とで、歌唱には実績があるようだ。さらに『シカゴ』でオス
カー助演女優賞受賞のゼタ=ジョーンズは、すでに監督が歌
と踊りを認めているものだし、ローレンも歌って踊れること
は間違いない。
 なお配役は、コティヤールが監督の本妻でクルスが愛人。
また決定すれば、ローレンが母親で、ゼタ=ジョーンズは監
督が憧れているスター女優となる。以前の紹介では、まず配
役を決めてそれに合せて脚色を進めるとのことだったが、監
督の希望通りの配役の実現を期待したい。
 一方、その脚本には、2002年に公開された『チェンジング
・レーン』のマイケル・トーキンが発表され、そのユニーク
な起用にも注目が集まっている。因に映画化には、かなりセ
クシーなシーンも登場するようだ。
        *         *
 ワーナーが、1939年に製作されたMGM映画の名作“The
Wizard of Oz”(オズの魔法使い)のリメイクを計画してい
る。
 1919年に没した原作者L・フランク・ボウムによる小説の
著作権はすでに消滅している。一方、映画作品の著作権に関
しては、日本国内では先日の裁判で消滅の判決が出たものだ
が、同様の法律が先に成立しているアメリカでは、問題なく
1939年に製作されたMGM映画の著作権は存続している。
 また、MGMは現在ソニー傘下にあるが、2004年5月1日
付の第62回でも書いたような経緯で、1986年以前のMGM作
品の権利に関してはワーナーが所有している。そこで今回の
計画は、この1939年製作のMGM映画のリメイクとなってい
るものだ。
 ただし今回の計画では、1997年に映画化された“Spawn”
(スポーン)などの原作者トッド・マクファーレンが中心に
なって進めているもので、彼の作風からするとかなりダーク
な作品になりそうだ。
 同じ原作からの映画化では、1978年に製作されたミュージ
カル版の“The Wiz”(ウィズ)も、1985年にディズニーが
映画化した“Returen to Oz”(オズ)も、かなりダークな
ものだったが、さらにマクファーレンは、「ドロシーには、
『エイリアン』のリプリーに近いものがある」としてキャラ
クターの設定をしているようだ。そして作品は、PG-13にな
っても良いとしていた。
 それに対して、脚色を担当している『ヒストリー・オブ・
バイオレンス』などのジョッシュ・オルソスンは、1995年の
『セブン』的なダークさではなく、『ハリー・ポッター』の
ようなダークさを目指したいとしており、オルスン自身は、
レーティングPGを目指すとしている。詳しい内容について
は厳秘となっているが、リメイクと言うよりは続編に近いも
のになるとも発言しているようだ。
 いずれにしても、公開後70年間の映画の著作権も、2009年
には消滅するもので、今回の計画はそれ以前に実現しなけれ
ばいけないものだ。
        *         *
 すでに“Iron Man”と“The Incredible Hulk”の製作が
スタートしているマーヴル・スタジオで、新たに“Thor”と
いう作品を、『レイヤー・ケーキ』のマシュー・ヴォーンの
監督により、今冬製作開始するという発表が行われた。なお
この計画は、来年夏に予定されているハリウッド俳優組合の
ストライキ前の撮影完了を目指すものだ。
 映画化の詳しい内容は明らかにされていないが、原作のコ
ミックスは1962年にスタートしたもので、父親オーディンに
よって地球に派遣された主人公が、医学生ドナルド・ブレイ
クとして人類について学びながら、あるときはヒーローThor
となって人類の敵と戦うというもの。つまりは、マーヴル版
のスーパーマンという感じのもののようだ。そしてこの原作
から“I Am Legend”を手掛けたマーク・プロトセヴィッチ
がすでに脚色を済ませているとされる。
 なおヴォーンは、今秋公開される“Stardust”でファンタ
シー映画の監督を務めているものだが、スーパーヒーローも
のでは、実は“X-Men 3”のオファーを一旦受けたものの、
撮影のために長くイギリスを離れることを好まないという理
由で降板した経緯があり、今回は再挑戦となる。でもまあ、
この種の作品が好みであることは間違いないようだ。
 因に、ロバート・ダウニーJr.主演の“Iron Man”は、来
年5月2日にパラマウントから、エドワード・ノートン主演
の“The Incredible Hulk”は、6月13日にユニヴァーサル
からそれぞれ全米公開の予定になっている。
        *         *
 テレビシリーズの“The Shield”で製作総指揮を務めるカ
ート・サッターが、自らの脚本と監督デビューで、“Awaken
the Dragonn”という作品をワーナー・インディペンデスで
進めると発表した。
 この作品、実は“Enter the Dragon”(燃えよドラゴン)
のリメイクというのだが、映画のスタイルは暗黒街もの風、
さらにオリジナルでブルース・リーが演じた主人公は、アメ
リカ人のFBI捜査官となっているものだ。そしてこの捜査
官が、少林寺を装う地下の違法なファイトクラブに潜入し、
さらに少林寺の闘士たちに守られた麻薬組織のボスに迫って
行くという展開になるそうだ。
 因にサッターは、「暗黒街ものの大ファンで、この物語の
リメイクを希望していた。少林寺拳法のファイトクラブとい
う設定は同じだが、『グリーン・ディスティニー』よりは、
『レイジング・ブル』に近いものにしたい」とのことだ。製
作は、1973年のオリジナルを手掛けたジョン・ウェルズとフ
レッド・ヘラーが担当している。
 出演者はこれから探すということだが、どのような作品に
なるか、お手並み拝見というところだ。
        *         *
 次は訂正で、第138回で紹介したロバート・E・ハワード
原作“Conan the Barbarian”の映画化について、ミレニア
ムが新たに契約したことを発表した。
 前回の報告では、ニューラインが契約したように書いてし
まったが、実は前に書いたような状況もあって、同社は手が
出せなくなったようだ。そこで『300』を手掛けたハリウ
ッド・ギャングなども手を挙げたが、最終的に、シルヴェス
ター・スタローン主演による“John Rambo”なども手掛ける
ミレニアムが契約したものだ。
 それにしても、契約金100万ドルで契約期間は1年。以後
毎年の更新に100万ドルずつを支払うというのは破格条件だ
が、原作は、ダークホースが手掛けるコミックス版が今も順
調で、Xbox360やPS3でのゲーム化も進められ、さらにオンラ
インゲームも好評とされていて、シリーズ映画化すればヒッ
トは間違いなしと考えられているようだ。
 なおミレニアムでは、来年春の撮影開始を目指して準備を
進めるとしており、シュワルツェネッガーの再登場は望み薄
だが、『300』のヒットでも注目されるマッチョマン映画
の実現は近そうだ。
        *         *
 最後に、8月末から9月初めに掛けて横浜で行われたアジ
アで初開催の世界SF大会(Worldcon: Nippon 2007)に、
「『さよならジュピター』リメイク推進委員会」というパネ
ルを出展させていただいた。実際はこの作品にリメイクの計
画があるものではなく、他意はないものだったが、小松左京
さんや、『日本沈没』の樋口監督にも出席いただき、また観
客の皆様の暖かい協力で、それなりにまとまったパネルを実
現できたと思っている。出席の方々及び観に来てくださった
皆様に感謝申し上げます。ありがとうございました。


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井口健二