井口健二のOn the Production
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2007年06月30日(土) リトル・チルドレン、ミス・ポター、レミーのおいしいレストラン、幸せの絆、フロストバイト、ウィッカーマン、遠くの空に消えた

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※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介しています。     ※
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『リトル・チルドレン』“Little Children”
トム・ペロッタのベストセラー小説を、ペロッタと2001年の
『イン・ザ・ベッドルーム』で絶賛されたトッド・フィール
ドが脚色、フィールドが監督した作品。今年のアカデミー賞
では主演女優、助演男優、脚色の3部門でノミネートを果た
した。
題名の意味は、意訳すると「大人になれない大人たち」とな
るようだ。家庭を持ち子供もいるのにプロム・キングと呼ば
れ続けている男性や、夫の隠し事が許せず自分の感情を整理
できない女性。そんな大人の分別を弁えるべきときにそれが
出来ない人々が描かれる。
舞台はボストン郊外の住宅地。主人公のサラ(ケイト・ウィ
ンスレット)の一家は、夫が企業をブランド化する会社を創
業して成功し、3歳の娘と共に閑静なその町に引っ越してき
た。そして公園では、周りの母親たちと話しはするが、何と
なく馴染めない。そんなサラは、とある夫の秘密を目撃して
から、自分の感情を整理できなくなっている。
一方、その公園にはプロム・キングと呼ばれる父親も来てい
る。彼は高校フットボールの花形だったが、その後は法学校
を出たものの司法試験に合格せず、ドキュメンタリー映像作
家の妻の稼ぎで、本来なら試験勉強に専念しているはずの身
だった。
その閑静な町に衝撃が走る。幼女に対する性犯罪で服役して
いたロニー(ジャッキー・アール・ヘイリー)が釈放され、
町に帰ってきたのだ。そして彼を糾弾するビラが町中に張り
出される。それを行っているのは元警官の男だったが…
このロニーの帰還が触媒のようになって、男女の微妙な行動
がエスカレートして行く。
結局、題名の通りの人々の物語が展開していくものだが、果
たしてそれは、自分にとって他人事と言い切れるかどうか、
その辺の微妙なところが見る側にも心穏やかでない感覚を引
き起こす。
もちろん、個人から社会、政治に至るまで、幼児性が横行す
る現代を背景に描かれた作品ではあるけれど、大人の分別な
んて元々存在するかどうかも怪しいし、自分は大人の分別を
持っていると思い込んでいる人にも、もしかして自分も…と
思わせる作品になっている。
オスカー候補となった上記の2人の他には、パトリック・ウ
ィルスン、ジェニファー・コネリー、フィルス・サマーヴィ
ル、ノア・エメリッヒらが共演。
なお、アール・ヘイリーは、昨年12月に紹介した『オール・
ザ・キングスメン』の前に、この作品で復活したものだ。

『ミス・ポター』“Miss Potter”
「ピーター・ラビット」で知られるイギリスの絵本作家ビア
トリクス・ポターの生涯を描いた作品。ルネ・ゼルウィガー
が主演と製作総指揮を務め、相手役は『恋は邪魔者』で共演
経験のあるユアン・マクレガー。
『フォッシー』などの演出で2度トニー賞を受賞、『ミス・
サイゴン』の作詞も手掛けたリチャード・モルトビーJr.が
脚本を執筆し、1995年公開の『ベイブ』で子ブタを一躍人気
スターにしたクリス・ヌーナンが、同作以来11年ぶりのメガ
ホンを取った。
ビアトリクスは、法廷弁護士の父親の許、ロンドンで裕福な
家の子女として育てられた。そして母親からは結婚して家庭
を持つことが女の勤めと教えられているが、32歳になっても
結婚に興味はない。
それより彼女には、休暇に訪れる湖水地方で、小さい頃から
スケッチを続けてきた小動物の友達を、いつか絵本にして世
に出したいという夢があった。そしてスケッチブックを抱え
てロンドン中を巡っていたが、彼女の企画に耳を貸す出版社
はまだなかった。
そんなある日に訪れた出版社で、ついに出版のOKが出る。
ただしそれは、出版社を営む一家の末弟で、編集の経験もな
いノーマンが仕事をしたいと言い出し、そんな弟に向けての
駄目元の仕事として採用されたものだった。
ところがノーマンは予想外の編集能力を発揮、特にビアトリ
クスの希望した本の売値を安く押さえる方法も効率良く考え
るなど、ビアトリクスの希望を余すところなく取り入れて本
を完成させる。そして売り出された本は、瞬く間にベストセ
ラーとなって行った。
しかもノーマンは、1冊目が出て満足するビアトリクスに直
ちに次の本を要求し、それらは次々に素晴らしい成功を納め
続ける。そんなノーマンの誠意を彼女も感じ始めるが…
この2人に、独身主義のノーマンの姉ミリー(『ほんとうの
ジャクリーヌ・デュプレ』などのエミリー・ワトスン扮)を
加えて、20世紀初頭の男女の姿が描かれる。良家の子女であ
るが故に、平民の男子との恋が認められない。そんな封建的
な面も残る時代の物語だ。
なお、映画にはピーター・ラビットを始めとするポターの描
いたキャラクターたちがアニメーションで登場し、一部は主
人公との共演も果たす。その辺はファンタシーとしても面白
い作りになっている。
ただ、1時間33分という上映時間はちょっとあっけなくも感
じられた。現実がかなり順風満帆の女性の話で、実際にドラ
マティックな展開は少なかったのかも知れない。本編はその
中では唯一ドラマティックな部分が描かれたものだが、でも
山場が1回だけというのは…              
後半の自然保護に乗り出す辺りは、彼女の別の一面としての
興味も湧くし、その辺りをもう少し詳しく描いて欲しかった
気もした。


『レミーのおいしいレストラン』“Ratatouille”
5月に特別映像を紹介した作品の全編が公開された。
2004年の『Mr.インクレディブル』を手掛けたブラッド・
バード監督による新作。記者会見の報告でも書いたように、
彼自身は途中から企画に参加したということだが、最終的な
脚本は彼の名前でクレジットされている。
前半の物語は前回書いてしまったが、そこからの後半の展開
は予想を超えて、本当の意味でのファンタスティックなもの
だった。でもこれ以上書くとネタばれになってしまう。
実は記者会見で、ネズミと厨房という、本来なら相容れない
ものを描くことの意義を聞かれ、監督は、「不可能なことを
描くのが物語だと思う。そのハードルは高ければ高いほど面
白い」という発言をしていたが、その意味でも実にうまくま
とめられた物語だった。
正直に言って常識からはかなりかけ離れた物語にはなってい
るけれど、これが本来お話の楽しさだろう。その意味では、
ディズニーが描き続けてきた世界が、正にここに継承されて
いるという感じのものだ。
それにしても次々起こる事件の多彩さやそこに描かれる映像
の見事さは、アニメーションの真髄という感じもした。ディ
ズニーとピクサーの合体は、正に最高のコラボレーションを
生み出したと言えそうだ。
なお、英語版のヴォイスキャストでは、嫌みなシェフ=スキ
ナーをイアン・ホルム、父親ネズミ=ジャンゴをブライアン
・デネー、辛辣な料理評論家イーゴをピーター・オトゥール
が演じている。
それから映画の結末に絡んでは、いわゆる評論家には多少耳
が痛いかも知れない部分もあるが、僕自身はこの意見には大
いに賛成するもので、気持ちを新たにしてこれからも映画紹
介を続けたいと思ったものだ。
後は、台詞の中でモンテカルロとなっていたものが、字幕で
はラスヴェガスに言い換えられていたが、これは仕方ないか
な。オリジナルはそういう点にも気が使われているというこ
とだけ紹介しておく。
それと、本編にはゲイリー・ライドストローム監督の短編が
併映されるが、その登場キャラクターには本編の主人公と同
じモデルが使われているそうだ。それで、実は短編に描かれ
た事件が原因で彼はパリに出てきた…というジョークの設定
もあるようだ。


『幸せの絆』“暖春”
2003年の中国公開では、何と『HERO/英雄』を押さえて
第1位に輝き、中国メディアでは「大催涙弾」と称されたと
いう感動作品。
人間、歳を食って来ると感動で涙を流すということも少なく
なってきて、この作品でも泣かされることはなかったが、い
たいけな少女と老人の交流を描いたこの作品は、冷静に観て
いても心暖まる素晴らしい作品だった。
物語は、幼い少女が夜道をさ迷い、倒れて動けなくなるとこ
ろから始まる。少女は翌日、近くの村に保護されるが、穀物
もろくに取れていないこの村では、1人少女を育てる余裕の
ある家もない。
ところが1人の老人が保護を申し出て、少女を背負って自宅
に連れて行く。その自宅は老人の1人息子の家と隣接したも
のだが、息子の嫁は子供に恵まれず、連れ帰られた少女に老
人の財産を奪われるのではないかと心配を募らせる。
こうしてその嫁は、尽く少女に辛く当るようになるのだが、
少女はそんな境遇にもめげずに素直に成長して行く。そして
その素直さは、やがて周囲の人々をも巻き込んで行く。
試写後に宣伝担当の人と話していて「『おしん』だね」とい
うことになった。実際、宣伝には当時の女優にもコメントを
もらったそうだが、本編の物語の背景は1980年代に設定され
ているといっても、その風景は日本のもっと古い時代を髣髴
とさせる。
その点では、ある種のノスタルジーも感じさせる作品とも言
えるが、それが今の観客にどう取られるかは興味の湧くとこ
ろだ。でもまあ映画には、いたいけな少女の一所懸命さが見
事に描かれていて、それだけで感動してくれればそれで充分
とも言える。
逆に世界には、今でもこんな境遇の子供たちがいるのだろう
し、そんなことにも思いを馳せてくれれば、それはそれでこ
の映画の価値とも言えるだろう。
監督は、内モンゴル出身のウーラン・ターナという女性で、
自ら脚本を書き映画化を目指すが最終的に200万元だった製
作費もなかなか調達できなかったそうだ。そして映画製作所
の資金援助は得られたものの、半分は自己資金で製作を敢行
したものということだ。
しかしその結果は、中国だけで2000万元を突破する興行収入
が達成され、さらに撮影当時8歳の主演のチャン・イェンに
は、中国映画史上最年少の主演賞も齎されたものだ。

『フロストバイト』“frostbiten”
2006年スウェーデン製のヴァンパイア・ホラームーヴィ。
スウェーデン映画というと、イングマール・ベルイマンの芸
術作品から、『長くつしたのピッピ』まで、いろいろなジャ
ンルの作品が日本でも公開されてきたが、ヴァンパイア・ホ
ラーというのは珍しいものだ。
でも、世界的なホラーブームの波は北欧にも押し寄せてきた
ようで、本作の他にも、幽霊ものと伝えられているデイヴィ
ッド・ゴイヤー監督の新作“Invisible”も、オリジナルは
スウェーデン映画からのリメイクとなっていた。
という前置きはこのくらいにして、本作は30日以上夜が連
続する極夜(と呼ぶようだ)の北欧の冬を背景に、太陽光が
弱点のヴァンパイアを描くという趣向。実はアメリカでも同
旨の作品が製作中だが、さすが本場では一足お先に作られて
いたようだ。
物語の発端は、1944年、第2次世界大戦の最中。北欧義勇軍
の兵士たちが敵に追われて逃げ込んだ家でヴァンパイアに遭
遇する。
そして、時代は現代、1人の女医が娘を連れて北極圏にほど
近い村に建つ総合病院へとやってくる。そこで女医は、遺伝
子医学の権威とされる教授に師事するつもりだったのだが…
その教授は、交通事故で昏睡状態の続く少女に赤色のカプセ
ルを飲ませていた。
そのカプセルを1人の研修医が盗み出し、試みに服用してし
まう。その効果はてきめんで、研修医は聴覚の鋭敏化や運動
能力の向上、さらに動物と話せるようになったり、顔も変え
られるようになるが…
一方、女医の娘は転校した高校の同級生からハウスパーティ
に誘われる。そのパーティでは新しいドラッグと称して赤色
カプセルが置かれており、やがてそれを飲んだ若者たちに異
変が起き始める。
カプセルでヴァンパイアが広まるというのは新機軸のようで
はあるが、去年10月に紹介した『バタリアン5』も同じよう
な展開だったし、最近の風潮で思いつきやすいアイデアでは
あったようだ。
でもその後が、ヴァンパイアには伝統の咬みついて血をすす
るのではなく、食い千切って血をすすることになるもので、
正しい方法で伝えていないと、伝統も失われるという考えは
面白かった。
ただ、夜が30日も続くと言っていながら本作は1日だけの
話で、せっかくの設定は充分に活かされてはいない。これな
らアメリカの同旨の映画も安心というところだ。
動物と話せたり、顔が自由に変えられたり、運動能力が向上
したり、これで前髪で名刺交換ができて、嘘が見破れたら、
どこかの新聞のCMと同じだが、これは偶然だろうか。
なお、女医の娘役で1992年からの『ロッタちゃん』シリーズ
に、当時5歳で主演していたグレーテ・ハヴネショルドが成
長した姿を見せている。
また、エンディングロールの中でShino Kotaniという名前を
見つけた。どう見ても日系人のようだが、データベースで検
索すると、1990年代にアメリカとイギリスの映画でメイクア
ップを担当しており、その後、ノルウェーでも2本程仕事を
しているとあった。本人の経歴は判らないが、ここにも頑張
っている日系人がいるようだ。

『ウィッカーマン』“The Wicker Man”
1973年にクリストファー・リーの出演で映画化されたイギリ
ス作品のリメイク。
主人公は警官。ある日、元婚約者で事情も告げずに彼の元を
去った女性から、救援を求める手紙を受け取る。その手紙に
は、その女性は故郷の島に帰っていたが、そこで誕生した娘
が突然姿を消したと書かれていた。
主人公は、手紙を頼りにその島に向かうが、そこは個人所有
で外部者の立ち入りは禁止。それでも警察バッジを翳して上
陸した主人公は、島に漂う怪しげな雰囲気の中、元婚約者に
会う。そして彼女からは自分以外の島民の言葉を信じてはい
けないと忠告される。
こうして捜査を始めた主人公だったが、島民たちは娘などい
なかったと主張するばかり、ところがその主張に綻びが見え
始め、さらに島では生け贄の儀式が準備されていることが判
明する。果たして娘の安否は…
オリジナルの脚本は、これも現在リメイク中の『探偵<スル
ース>』で1971年のトニー賞を受賞したアンソニー・シェー
ファー。
『スルース』のオリジナルは1972年の製作。シェーファーは
その後にアガサ・クリスティの映画化を手掛けるなど、人気
脚本家と言われる存在だった。因にオリジナルのDVDは、
現在は“Anthony Shaffer's The Wicker Man”と題されて売
られているそうだ。
そんな人気脚本家のちょっと毛色の変った作品というところ
だが、オリジナルは、いわゆるカルト宗教を描いた先駆的な
作品としても注目を浴びたもので、その作品がカルト宗教が
横行する今の時代にリメイクされるというのも、それなりに
意味のあることなのだろう。
そしてそのリメイクは、主演のニコラス・ケイジが自ら主宰
するサターン・フィルムで製作したもので、脚本監督には、
『ベティ・サイズモア』などの鬼才ニール・ラビュートが起
用され、特に、脚本の現代化は巧みに行われたものだ。
いろいろとショッキングなシーンやシュールレアルなシーン
なども挿入されていて、その意味ではホラーの味わいも堪能
できるが、いずれにしても、マニアにはアピールする感じの
作りになっている。
エレン・バーンスティン、ケイト・ビーハン、モリー・パー
カー、リリー・ソビエスキーといった共演者の顔ぶれも、観
るとマニアにはなるほどと思わせるところだろう。

『遠くの空に消えた』
『世界の中心で、愛をさけぶ』『北の零年』『春の雪』の行
定勲監督が、『義経』の神木隆之介、『SAYURI』の大
後寿々花、『鉄人28号』のささの友間という人気子役3人を
主演に起用して、7年越しで温めてきたオリジナル脚本を映
画化した作品。
ちょっと昔のお話。空港建設に揺れる農村を舞台に、東京か
ら現地建設事務所の所長として赴任してきた役人の父子家庭
の息子と、地元の母子家庭の少年、それに父親がUFOに連
れ去られたと言い張る少女の交流が描かれる。
「最後の夏休み、史上最大のいたずらを!」というキャッチ
コピーと、人気子役の共演。これで「文部省特選」のような
ノスタルジックな「児童劇映画」を期待していると、そうで
ないことはすぐに判明する。
物語はいきなり神木とささのの立ちションという、PTAが
観たら眉をひそめそうな描写から始まってしまうのだ。
それから後も、西部劇のサロンを思わせるようなバー(ただ
しホステスはロシア人)や、画面の端から端まで続く建設反
対派の砦など、ちょっと尋常でない風景が次々に登場してく
る。さらに、人工の羽根で空を渡ってくるチャン・チェン扮
する男など…
とにかくこの映画は変だ、と思い始めた辺りで、この映画は
その「変」を楽しむ作品だということにも気付かされる。そ
して、その変な映画をもっと変にするために、小日向文世、
伊東歩、長塚圭史、石橋蓮司、大竹しのぶ、三浦友和らが奮
闘している。
でもここまで書いて気が付くのは、結局変なのは大人たちだ
けであって、子供たちはそんな大人の「変」を後目に常に純
粋さを持って物事に対処して行く。その子供の純粋さが、中
心となる3人を始め、多くの子供たちによって見事に描かれ
た作品でもある。
大人たちの「変」を観ているときには、黒澤明監督の『どで
すかでん』が思い浮かんだ。どちらも大人の世界を戯画化し
て描いたものだが、日本映画にありがちな不自然さは押さえ
られ、自然な演技の中での戯画化には、本作も成功している
と思えた。
そこに子供たちの自然な描写が融合されたもので、このかな
りトリッキーな構成を本作は実現している。そこでは子供た
ちの演技を野外シーンに置き、大人の演技を室内シーンとす
ることでもメリハリをつけているが、バランスを崩さずに実
現した演出は見事だ。
物語はファンタシーであり、メルヘンだ。そこには現実の厳
しさも見え隠れするが、子供たちの純粋さによってそれは緩
和される。大人に子供の純粋さを再確認させる、そんな作品
に思えた。



2007年06月20日(水) ジャンゴ(特)、オーシャンズ13、厨房で逢いましょう、クレージーストーン、傷だらけの男たち、Perfect Stranger、不死鳥の騎士団

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※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介しています。     ※
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『スキヤキウェスタン・ジャンゴ』(特別映像)
三池崇史監督が全編を英語台詞で撮り上げた和製西部劇のク
ランクアップ記者会見が行われ、一部の映像が披露された。
特別映像と言っても正味8分足らずで、そこから全貌が見え
てくるようなものではなかったが、雰囲気的には、ハリウッ
ド西部劇と言うよりは、グループが対峙するシーンなどには
黒澤明演出を巧妙に再現しているような感じもあり、『七人
の侍』→『荒野の七人』、『用心棒』→『荒野の用心棒』と
いった流れを意識している感じが見えた。
配布された資料によると、物語は、壇之浦から数100年後、
とある寒村に隠されたお宝を巡って義経率いる源氏(白軍)
ギャングと、清盛率いる平家(赤軍)ギャングが対立し、そ
こに流れ者のガンマンや二重人格の保安官らが絡むというも
のになるようだ。
この物語について、上映後の会見で三池監督は「源平の物語
は、日本の芝居その他のルーツであるし、昔からやりたかっ
た」としていたが、確かに極めて明確に対立の構図を示すに
は判りやすい手段だと言える。
ただしそれは、日本人にとってはある種パロディに近いもの
にも採られやすいし、一方、海外ではそのようなルーツが判
らない中で、如何にシンプルな物語として理解され得るもの
か、これは本当に蓋を開けてみないと判らないギャンブルの
ような気もした。
いずれにしても、完成品を見ないことには何とも言えないこ
とは確かだが、このような大博打を出来るのも、それ自体が
楽しいことのようにも感じられたものだ。
出演は、伊藤英明、佐藤浩市、伊勢谷友介、安藤政信、石橋
貴明、木村佳乃、香川照之、堺雅人、小栗旬、桃井かおり、
そしてクエンティン・タランティーノ。普段の三池作品とは
ちょっと違った顔ぶれだが、この内の伊勢谷と木村はバイリ
ンガル、石橋、桃井はハリウッド作品に出演歴がある訳で、
全編英語台詞を意識したキャスティングのようだ。
中でも、会見でタランティーノと並んで座った桃井は、終始
2人で言葉を交わすなど、本人のキャラクターも含めて本作
には適当な配役に思えた。
その桃井は会見で、「『SAYURI』だけには負けたくな
いの」と発言して会場を湧かせた。桃井曰く、「彼女たちが
悪いんじゃないけど、なんで日本の話に中国人の子たちが主
演してるよ!」と言うことで、その思いをぶつけた作品にな
っているようだ。
会見は、正に撮影が午前3時に終ったその日に行われたもの
で、監督からは「(看板の)クランクアップ会見が嘘になる
ところだった」という発言もあったが、その最後の撮影に出
演したタランティーノも、「イーストウッドやジェンマのよ
うな役で光栄だった」と御満悦の様子で、後は期待半分、心
配半分の気持ちで完成を待ちたいところだ。

『オーシャンズ13』“Ocean's Thirteen”
ジョージ・クルーニー、ブラッド・ピット共演による『オー
シャンズ』シリーズ第3弾。
1960年にシナトラ一家が共演した往年の作品が,2001年にリ
メイクされ、そこからスタートしたシリーズが3作目となっ
た。前作はヨーロッパ各地を舞台に観光旅行気分の作品だっ
たが、今回は舞台をラスヴェガスに戻して再び大作戦が展開
される。
物語は、オーシャンズのメムバーでエリオット・グールド扮
するルーベンが危篤、との知らせに、目前にしたお宝の山も
放り出して仲間たちが馳せ参じるところから始まる。実はル
ーベンは、独自に進めていたホテル事業で共同経営者に裏切
られ、そのショックで心筋梗塞になったのだ。
裏切ったのはアル・パチーノ扮するバンクという男。バンク
はルーベンから資産を巻き上げた上に、グランドオープン目
前のホテルから彼を追い出したのだ。そこでまずオーシャン
は、バンクに会ってルーベンの資産を返すよう話すが、バン
クは聞く耳を持たない。
この事態にオーシャンズの面々は、バンクから根こそぎ彼の
資産を奪うことを決めるが…
何せ今回は、人工知能搭載のセキュリティも完備した、正に
難攻不落のホテルカジノが相手ということ.しかも同時に、
そのホテルのシンボルでもあるダイヤも盗み出せという難題
が山積み、それを賭博のイカサマから物理的な強奪まで絡め
て描くのだから、これはオールスターキャストも顔負けの大
盤振舞という感じの作品だ。
正直なところは、『ミッション・インポッシブル』の大作戦
を、さらに一歩も二歩も進めたような感じのものだが、映画
版の『M:I』が個人プレイに特化してオリジナルのチーム
プレイの魅力を失ってしまったのに対して、本作は見事にチ
ームプレイの面白さ描いている。
しかも、政府が後ろ楯の『M:I』に対して、本作は個人事
業だからお金を奪わなければ話が完結しない訳で、その辺の
設定もしっかりと描かれている点にも感心したところだ。
ただし、今回の作戦にはかなり荒唐無稽な面もあって、多少
やり過ぎかなと感じる部分もあった。今回は納得できたが、
すでに“Ocean's Fourteen”も決定したという噂の中で、次
回はその辺のバランス感覚も問われることにはなりそうだ。
出演者では、紅一点にエレン・バーキン。彼女は『12』に
もカメオ出演していたが、上映版ではカットされたのだそう
で、今回の出演は再挑戦だそうだ。なお、登場しない前作ま
での女優陣に関しては、映画の前半などで何度も言い訳があ
るのも面白かった。

『厨房で逢いましょう』“Eden”
最近ブームになっている感じもする料理を題材にした作品。
実は、映画を見るまでフランス映画かと思っていたら、何と
ドイツ映画だった。ドイツで料理とは…と思っていたら、ち
ゃんとハンバーグステーキやソーセージも出てきたのには、
なるほどドイツだと思わせてくれて嬉しくもなった。
物語の主人公は、半年先まで予約で一杯というレストランの
シェフ。フランスで修業を積み、同じレストランにいた給仕
長と共に店を開いているが、彼の料理にはエロティック・キ
ュイジーンという異名がある。
そんなシェフが足繁く通うのは、とあるカフェ。そこで彼は
1人の女性を見初めているのだが、彼女はそのカフェの若き
主人の妻だった。しかし、幼い彼女の娘が取り持つ縁で、2
人は急速に接近し、彼が料理を研究する厨房で関係が育まれ
て行く。そしてそれが事件を引き起こす。
実は、物語は少々殺伐としたところもあって、ジャン・レノ
とジュリエット・ビノシェが共演した『シェフと素顔と、お
いしい時間』のようなロマンティックムード一杯の作品とは
行かないが、でも何となく心温まる結末には、ちょっとほっ
としたものだ。
脚本・監督のミヒャエル・ホーフマンは本作が3作目のよう
だが、本作ではロッテルダムとペサロの映画祭で観客賞を受
賞している。特にロッテルダムでは、5点満点で4.73点とい
う高い支持を受けたそうだ。
出演者は、シェフ役に監督の作品には常連のヨーゼフ・オス
テンドルフ。本人が美食家で「楽しむことに重きをおく」と
いう巨漢が、見事に役柄にマッチしている。一方、ヒロイン
役にはドイツで音楽番組などの人気司会者というシャルロッ
ト・ロッシェ。演技は全くの素人だそうだが、初々しさがこ
ちらも物語にマッチしていた。
なお監督は、「この映画は料理を見せるのが目的ではない」
としているが、複数のレストランガイドで「若くワイルドな
料理人」と賞賛され、2005年からは5星ホテルの料理長も務
めるフランク・エーラーが監修して、見事な創作料理が登場
する。
ただし、映画には「チョコ・コーラ・ソース」なるものが登
場してかなり気になったのだが、実はこれは監督の創作で、
エーラーからはふざけた代物だと怒られたそうだ。でも、映
画にはちゃんと登場していたようが。

『クレージーストーン〜翡翠狂奏曲〜』“瘋狂的石頭”
今年の2月20日付で紹介した『モンゴリアン・ピンポン』の
ニイ・ハオ監督による2006年の作品で、中国本土と香港では
歴史的な大ヒットを記録したということだ。
舞台は四川省重慶市。破産寸前の工場でトイレの解体工事中
に高価な翡翠のペンダントが発見される。そのペンダントは
破産寸前の工場を救えるか…?
そのペンダントを展示して一稼ぎを企む工場長と、再開発の
ためにその土地を買収しようとしている業者の確執や、その
警備に雇われた元刑事、業者の依頼でペンダントを狙うプロ
の盗賊、噂を聞きつけた地元のこそ泥グループなどが入り乱
れて騒動が勃発する。
家が立て込んで人口も多そうな重慶市。『モンゴリアン…』
の素朴な風景からは一転して都会的な、と言ってもアメリカ
や日本とはまた違った風景の中での物語、話は実に中国らし
いし、異国情緒とは違うが何か異世界を見るような、そんな
感じで楽しめた。
『モンゴリアン…』の紹介の時にも触れたように、アンディ
・ラウが進めているアジアの若手監督を抜擢するファースト
・カットシリーズの1本として製作された作品で、最初から
世界視野で製作されているものと思われるが、判りやすい物
語と適度のアクションは、ハリウッド的な作品とも言えそう
だ。
ハリウッド映画のパロディのようなシーンも登場して、それ
がまたことごとくドジを踏んで行くという展開は、かなり自
嘲的な面も感じられるが、これからハリウッドへも雄飛しよ
うとしている監督には、一種の挑戦状という意味も込められ
ているかも知れない。
なお、コカコーラの缶が未だにプルトップでステイオンでな
いのが意外というか、最近の日本映画でも登場したプルトッ
プ缶が、こういうところで調達できると判ったことは面白か
った。それにしても、プルトップに印刷された懸賞は一体な
んだったのだろう?
なお本作は、7月21日から東京新宿のK's cimemaで開催され
る「中国映画の全貌2007」で上映される。

『傷だらけの男たち』“傷城”
『インファナル・アフェア』を手掛けた監督アンドリュー・
ラウとアラン・マック、脚本A・マックとフェリクス・チョ
ンのトリオが、『インファナル…』のトニー・レオン、『L
OVERS』の金城武の共演で描く警官たちの物語。
金城扮するボンは、ある事件の犯人を検挙した日、長年の恋
人に自殺を遂げられる。その傷心で刑事を辞めたボンは、私
立探偵をしながら酒浸りの生活を続けていた。
そんなある日、警察時代の上司だったレオン扮するヘイの婚
約者の屋敷で、彼女の父親と執仕が惨殺される。その事件は
ほどなく屋敷から金品を盗み出した男たちが互いに殺しあっ
て発見され、事件は解決したかに見られたが…
『インファナル…』に続いて、すでにハリウッドで、レオナ
ルド・ディカプリオ主演によるリメイクも決定しているとい
う作品。物語は、事件の真犯人も早い内に明かされるが、何
故、彼がそのような犯罪を犯したのかという点で、謎が謎を
呼ぶ展開となって行く。その複雑かつ巧みな構成は、『イン
ファナル…』と同様に観客の心を鷲掴みにするものだ。
特に本作では、主人公2人を取り巻く男女の関係が見事な緊
張感を持って描かれており、正しく「傷だらけの男たち」の
哀しみが見事に描かれていた。
共演は、『トランスポーター』などで国際的にも活躍してい
るスー・チーと、昨年1月に紹介した『ウォ・アイ・ニー』
に主演していたシュー・ジンレイ。シューは、現代中国4大
女優の一人とも呼ばれているそうだが、1997年の『スパイシ
ー・ラブスープ』での初々しい演技も忘れられない。他に、
『頭文字D』などのチャップマン・トウ。
ラウ監督は、5月にハリウッド進出作『消えた天使』を紹介
したばかりだが、『風雲・ストームライダーズ』や『頭文字
D』なども含めて見事にジャンルの違う作品を描き挙げる。
基本的には男性を描くのが得意と思われるが、本作でもその
資質は見事に発揮されているものだ。

『パーフェクト・ストレンジャー』“Perfect Stranger”
ハリー・べリーとブルース・ウィリス共演のサスペンス。
べリーが演じるのは敏腕な女性事件記者ロウィーナ。今日も
政治家のスキャンダルをものにするが、その記事は上層部の
圧力によって握り潰され、その仕打ちに怒った彼女は職を辞
すことになる。
そんなとき、幼馴染みの女性が彼女にスクープを持ち込んで
くる。それはウィリス扮する大手宣伝会社社長ハリソン・ヒ
ルの不倫に関するものだった。そしてその幼馴染みが惨殺死
体で発見されたことから、物語は新たな局面を展開すること
になる。
匿名のチャットルームでの電子メール会話やセキュリティな
どITが絡む展開は、ニューヨークを舞台にして現代を象徴
するような物語を創り出す。一方、殺人にベラドンナが使わ
れたり、ロウィーナが身分を隠してヒルの会社に潜入、ヒル
に近づいて行くなど、古典的な展開も活用される。
しかもその展開では、主人公の恋人や協力者までもが、実は
裏切っているのではないかという疑念も生じさせて行く。人
は皆、隠したい秘密を持っており、その全てが明るみに出た
とき、事件は意外な真実を暴露する。
オリジナルの脚本はニューオリンズを舞台に描かれたものだ
ったようだが、ハリケーン災害の影響で舞台がニューヨーク
に移されたということだ。しかしこの舞台の変更は、現代人
の闇を描き出すには好適だったとも言える。
人々が自己を消して仮面で働き続ける大都会は、この物語に
最適な舞台だ。この舞台で、登場人物たちが何を隠し、隠そ
うとしているのか、その謎が一気に解かれる展開は、正に圧
倒される迫力で演出されていた。
監督は『摩天楼を夢見て』などのジェームズ・フォーリー、
脚本は『泥棒成金』のリメイクなども手掛けるトッド・コマ
ーニキ。
共演者では、ジョヴァンニ・リビシ、ゲーリー・ドーダン、
ダニエラ・ヴァン・グラス、ポーラ・ミランダ、ニッキー・
エイコックスらが一癖も二癖もあるキャラクターたちを演じ
ている。
なお、ヒルのオフィスのシーンは、グラウンドゼロに新築さ
れたビルで行われたもので、その景観は見事に映画にも写し
出されている。その他、最先端のレストランや、由緒あるグ
リニッジヴィレッジのバーなど、多彩なニューヨークの風景
も楽しめる。

『ハリー・ポッターと不死鳥の騎士団』
     “Harry Potter and the Order of the Phoenix”
人気シリーズの第5弾。いよいよ宿敵ヴォルデモートが正体
を現し、最後の戦いへの火蓋が切られる。
原作を読んだのはもう数年前になってしまう訳だが、前作の
『炎のゴブレット』の辺りから物語はどんどんダークになっ
ており、正直、本作の読んでいたときには、後半の対決の部
分が延々続いて、いい加減に主人公たちを開放してやろうよ
と思ったりもしたものだ。
そんな、読了にかなり苦労させられた原作の映画化だが、さ
すが映画ではそのような苦労は感じさせず、実にスピーディ
に物語が進んで行く。しかも見せ場はバランスよくたっぷり
と描かれており、見事な映画化と感じさせるものだった。
もちろん、あれだけ分厚い本だから、映画化ではかなり省略
されている部分も多いが、原作を読んでいる自分としてはそ
れなりに満足できたし、恐らく原作を読んでいなくても、物
語の流れは理解できるように作られていると思えた。
物語は、ハリーが夏休み中のロンドン郊外の町でデスイータ
ーに襲われ、止む負えず魔法で撃退するところから始まる。
しかしそれがマグルの目の前であったことから、未成年者の
魔法使用の罰により魔法省からはホグワーツ退校処分が出さ
れるのだが…魔法省で行われるその査問会は、一学生の処分
のためには大袈裟な、実に不可解な開催となる。
そして、その査問会を切っ掛けに魔法省は新たな教師をホグ
ワーツに派遣、ホグワーツは異常な体勢へと変貌して行く。
この事態に危機感を持ったハリーたちは密かにグループを結
成し、学校が禁止した魔法防御の術を独自に学習して行くこ
とにするのだが…
今までは、特にダンブルドア校長の庇護のもと、どちらかと
いうと大人の思惑で動かされていたハリーたちが、いよいよ
自らの決意で行動を始める。原作では魔法省の動きなどがい
ろいろあって不明確だった物語のテーマが、映画化ではより
明確になっている感じもした。
その点では、特に若年の観客には感情移入もしやすい描かれ
方になっているし、その点は大人の読者にも納得して観ても
らえると思えるものだ。
なお、登場人物は前作を踏襲しているが、本作から新登場の
ルナ・ラヴグッドには、全くの素人のイバナ・リンチが選ば
れている。
1991年生まれのリンチは、実は原作の大ファンで、特にこの
キャラクターに親近感を持って自らオーディションテープを
作って製作者に送り付けたりしていたが、当然それは無視さ
れていたようだ。
しかしこの役の公募が始まったとき、彼女は両親を説得して
父親と共に空路ダブリンからロンドンに向かって15,000人の
応募者の列に並んだ。その最終選考には26人が選ばれたが、
キャスティングディレクターはすでにその時に彼女を第1候
補と考えていたそうだ。
前作から登場のチョウ・チャンを演じるケイティ・リューン
グも公募選出だが、今回のリンチのような行動をしたもので
はなく、実際、彼女は父親の勧めで応募したされている。こ
れに対してリンチの行動は特筆に値するもので、つまりリン
チは、初めて読者の代表としてこの映画に出演したというこ
とになるものだ。
残念ながら映画のルナは、原作ほど明確には描かれていない
が、プレス用に配られた資料には、ラドクリフ、ワトスン、
グリント、ゲーリー・オールドマンと並んで1枚写真が添え
られており、映画会社も注目しているようだ。
今回は他に、ベラトリックス・レストレンジ役で、ヘレナ・
ボナム=カーターも新登場している。
騎士団の隠れ家の出現も良い感じに描写されていたし、ロン
ドンを疾駆するシーンも美しく描かれていた。



2007年06月15日(金) 第137回

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
※このページは、キネマ旬報誌で連載中のワールドニュー※
※スを基に、いろいろな情報を追加して掲載しています。※
※キネ旬の記事も併せてお読みください。       ※
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
 今回は記者会見の報告から、
 6月前半には、『ショートバス』『300』『ジャンゴ』
『レミーのおいしいレストラン』の記者会見を見に行くこと
が出来た。本当はこの他にもいろいろ行われているのだが、
個人的なスケジュールの都合などで、これだけしか見に行け
なかったものだ。この内、『ジャンゴ』については、邦画だ
し特別映像の上映もあったので、作品紹介の方で報告すると
して、『ショートバス』と『レミー…』では自分で質問もし
たので、その辺から紹介させてもらうことにしよう。
 まず『ショートバス』については、作品紹介でも気にした
アニメーションについて作者のジョン・ベアがどんな人物か
聞いてみた。これに対する監督の答えは、「彼はCM界では
有名な人だ」というあっさりしたもので、特別な関係がある
訳ではなさそうだった。ただし、「彼に仕事を頼むときは、
普通は彼の以前の作品の中から『このようなもの』と言って
頼むらしいが、僕は『何か新しいものを』としか言わなかっ
たんだ。そうしたら素晴らしいものが出来てきた」とのこと
で、その結果には満足そうだった。
 この他に会見では、主演のスックイン・リーが、この映画
への出演が問題にされてカナダのテレビ局を馘になりそうに
なったときに、オノヨーコやジュリアン・モーアらが抗議の
手紙を放送局に送って彼女を支援をしてくれたという話も紹
介された。その辺の経緯はプレス資料にもあまり詳しくは書
かれていなかったが、実はかなり大変な状況だったようだ。
日本でも昔、お天気お姉さんか何かでそんなことがあった記
憶があるが、単なる興味本位ではない本作の評価が伺える話
だった。
 それからこの記者会見では、通訳がsexという言葉を英語
のまま使用しているのを監督が気にして、適当な日本語はな
いのかという質問になった。これに対してはいろいろな言葉
があると答えていたが、実際にその後で、映画の後半の主人
公がベンチで寝ていると潮が満ちてくるシーンの撮影では、
実は周囲でカブトガニが集団で交尾を始めて美しかったとい
う話が出て、ここで通訳がとっさに「交尾」という日本語が
出ず、結局sexと訳してしまい、なるほど日本語は複雑だと
感じたものだ。この作品らしい会見の模様だった。
 次に、『レミー…』の会見では、ネズミが人間を操縦する
というアイデアがどこから生まれたか質問したのだが、監督
の答えは「自分が参加したときにはそのアイデアはすでにあ
った」とのことで、質問は空振りになってしまった。僕とし
ては、監督の以前の作品との絡みなども聞けるのでないかと
期待したのだが、そうではなかったようだ。ただし、監督が
参加したときの計画は完全に行き詰まっていたのだそうで、
「その突破口をいろいろ模索した中で、特に小さなネズミが
大きな人間を操縦するボディアクションでは、よりコミカル
な演出が出来るようになった」とのことだった。
 それからこの会見では、終了後に映画に出てくるコース料
理がブッフェスタイルで振舞われた。記者会見でこのような
食事の提供は、過去にも『スパイダーマン2』などで経験の
ない訳ではないが、特に今回は映画の内容にも合わせたもの
が出されるなど、配給会社の力の入り方を感じたものだ。
 後の『300』については、映画の公開もすでに始まって
いるし、僕も質問しなかったので報告することはあまりない
が、会見の雰囲気は和気藹々として良い感じのものだった。
そしてその中では、原作者のフランク・ミラーが監督のザッ
ク・スナイダーに関して、「見事に原作のイメージを映像化
してくれた。特にグラフィックノヴェルは描き切れなかった
余白の部分を完璧に埋めてくれたのが良かった」と絶賛して
いたのが印象的だった。
 またミラーは、「この映画化の計画はかなり早いうちに決
まっていたのだが、製作を引き受けてくれる映画会社がなか
なか見つからなかった」として、映画製作の難しさを痛感し
たようなことも話していた。その産みの苦しみが大きかった
分、アメリカでの成功が特にうれしく感じられているような
雰囲気だった。
 記者会見の報告はここまでにして、以下は定例の製作ニュ
ースを紹介します。
        *         *
 まずは、ウッディ・アレンがカンヌ映画祭のクーロジング
上映を諦めて、ヴェネチア映画祭でのお披露目を予定してい
る最新作“Cassandra's Dream”について、この作品のアメ
リカと、オーストラリア、ニュージーランドの劇場配給を、
ワインスタイン兄弟のTWCが手掛けると発表された。
 元々ワインスタイン兄弟とアレンとの関係では、1994年の
『ブロードウェイと銃弾』から1998年『セレブリティ』まで
のアレン作品のアメリカ公開を、兄弟が仕切っていた当時の
ミラマックスで手掛けており、今回の発表は約10年ぶりに元
の鞘に納まったという感じのものだ。
 作品は、『マッチ・ポイント』“Scoop”に続くロンドン
3部作の最終章となるもので、内容的にはコメディの要素は
少なく、ダークな感じになっていると言われている。因に、
『マッチ・ポイント』のアメリカ配給はドリームワークスが
手掛けて興行収入は2300万ドル、“Scoop”はフォーカス・
フューチャーズの配給で1050万ドルだったそうで、元々アー
ト系の映画作家だから大きな数字は期待できないものの、ち
ょっと不本意な感じは否めなかった。
 それがワインスタイン兄弟との再会でどう反応するか、そ
の辺にも興味の湧くところだ。また今回の発表に当って兄弟
の一人のハーヴェイからは、「我々はアメリカで最も偉大な
映画作家と再び仕事のできることに興奮している。ウッディ
・アレンは、そのパワフルで追随を許さない映画作りに、再
び彼の途方もない情熱を注ぎ始めた」と、賞賛の言葉が贈ら
れている。
 なおアレン監督の次回作には、今度は舞台をスペインに移
して、第103回などで紹介したスカーレット・ヨハンセンを
3度目の主演に招く作品が計画されている。
        *         *
 1995年の『モータル・コンバット』から、『バイオハザー
ド』、『エイリアンVSプレデター』などのビデオゲームの
映画化では定評のあるポール・WS・アンダースン監督が、
ユニヴァーサルで進められている“Spy Hunter”の計画に参
加することが発表された。
 この計画については、2003年10月の第49回や2005年5月の
第87回でも紹介しているが、オリジナルはミッドウェイ社か
ら発表されているシューティングゲームで、当時はジョン・
ウーの監督で計画が進められていた。しかし、『ワイルド・
スピード2』のマイクル・バンディットとデレク・ハース、
『フレディvsジェイソン』のマーク・スウィフトとダミア
ン・シャノン、『コラテラル』のスチュアート・ビーティ、
それに『エレクトラ』のザック・ペンらも参加した脚本はつ
いに完成せず、頓挫してしまっていた。
 その計画に、新たにアンダースン監督が参加するもので、
アンダースンは先の脚本を参考に脚本の再構築から始めると
のことだ。そして物語では、乗用車からオートバイ、ジェッ
トスキーにも変身するインターセプターと呼ばれるスーパー
カーが登場し、政府系の秘密捜査官という設定の主人公が、
ノストラと呼ばれるテロリスト集団との闘いを繰り広げるも
のとなっている。
 因に、オリジナルのゲームには主人公は登場していなかっ
たものだそうだ。しかし2004年の計画では主演にドウェイン
“ザ・ロック”ジョンスンが予定され、実はミッドウェイ社
では昨年、そのジョンスンを主人公として登場させるゲーム
の最新版“Spy Hunter: Nowhere to Run”を発表、本来なら
映画の公開と一緒にキャンペーンを行う予定だった。
 ところが、映画製作の遅れでその思惑は外されたもので、
さらに今回の監督変更では、キャスティングが踏襲されるか
否かも不明のようだ。ただし、この主演にはジョンスンも大
きな期待を持っているようで、前後の経緯を考えれば、主演
の変更は少なそうだ。
 なお、アンダースン監督の次回作には、第84回で紹介した
1975年のロジャー・コーマン製作作品『デスレース2000年』
をリメイクする“Death Race”が、同じくユニヴァーサル製
作で予定されている。前回の報告ではクルーズ/ワグナーの
製作でパラマウントの企画だったが、移管されたようだ。
        *         *
 お次ぎは映画製作の情報ではないが、ロサンゼルス郊外の
カルヴァシティにあるソニーピクチャーズスタジオが、9月
28日までの期間限定で、毎週木曜日夜6時30分スタートの夜
間スタジオ見学ツアーを実施すると発表した。
 ハリウッドのスタジオ見学ツアーは、巨大アトラクション
と化したユニヴァーサルスタジオが有名だが、その他の各社
でも実施はされている。その中でソニースタジオは、1915年
にD・W・グリフィスとマック・セネットが設立したインス
/トライアングルスタジオを起源とし、1924年にはサミュエ
ル・ゴールドウィンが買収、MGMスタジオとして数々の名
作を生み出した老舗スタジオだ。従って今回は、『オズの魔
法使い』から『スパイダーマン3』までを生み出したスタジ
オという宣伝文句になっている。
 しかもこのツアーは、現在使用中のステージを徒歩で見学
するというもので、実際に映画やテレビの撮影現場に遭遇す
ることもある。また、『オズの魔法使い』のYellow Brick
Roadが作られたステージ15や、1940年代初期にに水着の女王
エスター・ウィリアムスが水しぶきを上げたステージ30など
も見学の対象となっており、さらに『ゴーストライダー』の
バイク、『ゴーストバスターズ』のプロトンパック、『メン
・イン・ブラック』のニューラライザー、『ダヴィンチ・コ
ード』のクリプテックスなどの小道具、さらにオスカー像な
ども展示されているそうだ。
 参加費は25ドル、12歳以上であれば子供もOKということ
で、時間までにカルヴァシティのソニープラザビルディング
のロビーに行けば、予約も特に必要はなさそうだ。因に、月
曜から金曜までの午前と午後2回ずつの昼間のツアーは通年
行われている。また、参加者はプラザの地下駐車場が無料で
使用できるそうだ。
        *         *
 『ブレイド』シリーズや『バットマン・ビギンズ』も手掛
けた脚本家のデイヴィッド・ゴイヤーが、H・G・ウェルズ
原作の“The Invisible Man”(透明人間)を、脚本監督で
映画化する計画を発表した。
 この原作の映画化では、1933年製作のジェームズ・ホエー
ル監督、クロード・レインズの主演作が古典として知られる
ものだが、今回の計画は、その古典の製作会社でもあったユ
ニヴァーサルで進められるもので、正当な後継作品と言えそ
うだ。ただし計画は、原作をそのままリメイクするものでは
なく、オリジナルの科学者の甥に当る主人公が叔父の研究資
料を発見し、自ら透明化の手段を完成させる。そしてその甥
は、第2次世界大戦の戦時下のイギリスで、諜報組織MI5
のメンバーとして活躍する…という展開になるようだ。
 透明人間の物語では、2000年のポール・ヴァホーヴェン監
督作品“Hollow Man”(インビジブル)でも、透明になった
人物は精神的におかしくなるというのが定番だが、ゴイヤー
版はどうなるのだろうか。因にゴイヤー自身は、「僕はウェ
ルズの原作も、ユニヴァーサルの映画化も同じ位に好きだ。
今こそそのイメージを再構築する機は熟したと感じる」と、
計画への意欲を語っていたそうだ。
 なおゴイヤーは、2004年の『ブレイド3』の他、スウェー
デン映画をリメイクした幽霊物の“Invisible”の監督を終
えたところで、さらに『Xメン』からのスピンオフ作品で、
シェルドン・ターナーが脚本を担当した“Magneto”の監督
もフォックスで計画されている。
        *         *
 ワーナーは、全14巻が刊行されているテリー・ブルックス
原作のファンタシーシリーズ“The Shannara”の映画化権の
獲得を発表。製作者ダン・ファラーの許で映画化が進められ
ることになった。
 ブルックスはこのシリーズで、現存の作家では『ハリー・
ポッター』のJ・K・ローリングに次ぐ売り上げを記録して
いると言われているヒットメーカーだが、このシリーズに関
しては今まで映画化の申し入れを拒絶していたのだそうだ。
しかし今回は、原作の大ファンというファラーが非常な熱意
で交渉を行い、ついに原作者が折れたというものだ。
 物語は、最終戦争によって人類の文明が凋落し、エルフと
トロルとノームとドワーフが主な住人となった1000年後の地
球を舞台にしたもので、人間とエルフの混血でちょっとした
魔法と戦士としての能力も持つ主人公の一族が、その能力を
駆使して世界を救わなくてはならなくなるというお話。『ハ
リー・ポッター』より『LOTR』に近い感じだが、冒険と
叙事詩に描かれるような壮大な戦いがぎっしり詰まった作品
だそうだ。
 なおワーナーでは、シリーズでの映画化を狙っているもの
だが、映画化は第2作の“The Elfstones of Shannara”か
ら始められるということだ。通常この種の大型のシリーズだ
と、第1作で全体の設定が紹介されるものだが、そこを飛ば
しての映画化には、何か意味があるのだろうか。
        *         *
 お次もワーナーで、1980年代にアニメーションシリーズと
玩具の展開で人気があったという“Thundercats”の実写に
よる映画化の計画が公表された。
 ワーナーでは、前回も玩具を起源にする“The Masters of
the Universe”の計画を紹介したばかりだが、今回は新人脚
本家のポール・ソウポーシが執筆したスクリプトにスタジオ
が反応したもので、企画だけが先走りしているものとは少し
経緯が違うようだ。
 オリジナルの物語は、故郷惑星Thunderaを破壊された4匹
のヒューマノイド猫(Lion-O、Tygra、Panthro、Cheetara)
が、別の惑星Third Earthに不時着し、その星で彼らを抹殺
しようとする悪の魔法使いMumm-Raとの戦いを余儀なくされ
るというもの。そしてソウポーシのスクリプトでは、オリジ
ナルシリーズの善と悪のキャラクターを活用して、Lion-Oが
Thundercatsのリーダーになって行く、成長物語としても描
かれているということだ。
 因に、オリジナルシリーズは1983年にスタートしたものだ
が、ワーナーでは1989年以降その権利を掌握していたという
ことで、そこに目を付けた現在フォックステレビに勤務中と
いうソウポーシがスクリプトを執筆して、企画を持ち込んだ
ようだ。そしてワーナーでは、『ブラッド・ダイヤモンド』
を担当したポーラ・ワインスタインを製作者に起用して、こ
の企画を進めることにしている。
 映画化は実写で行われることになっているが、何となくフ
ォトリアルなCGIアニメーションも似合いそうだ。
        *         *
 続いてワーナーの計画で、DCコミックスが原作の“Teen
Titans”の映画化に、テレビの『ヤング・スーパーマン』や
“Battlestar Galactica”などを手掛ける脚本家のマーク・
ヴァーハイデンと契約したことが発表された。
 原作のコミックスは、ロビンやキッド・フラッシュ、アク
アラッド、ワンダー・ガール、それにスピーディなど、スー
パーヒーローの脇役たちが集まって活躍を繰り広げるという
もので、ジュニア版ジャスティス・リーグとも呼ばれている
ようだ。そしてこのシリーズは、元々は1964年にスタートし
たということだが、1980年代に再構築され、最初は本当に子
供だったものが、大学生に成長して活躍の規模も大きくなっ
ているそうだ。
 また、再開されたシリーズでは、サイボーグやスターファ
イア、レイヴェンといった新キャラクターも登場し、中でも
ロビンはナイトウィングと名前を変えて、単なるスピンオフ
ではない新たなヒーローとしての活躍も見せているようだ。
 そして今回の映画化の計画では、まだ詳細は発表されてい
ないものの、ナイトウィングを中心にした物語にはなりそう
だということで、『バットマン・ビギンズ』のシリーズにロ
ビンが登場しないうちに、一足お先の登場となるかどうか、
興味の湧くところだ。製作は、アキヴァ・ゴールズマンが担
当する。
 第130回で紹介した本家“Justice League of America”の
計画が、その後どうなっているかは不明だが、それよりは実
現の可能性が高そうだ。
        *         *
 もう1本ワーナーの計画で、2002年6月の第17回などで紹
介した“Ender's Game”はその後どうなっているか判らない
が、同作の原作者のオルスン・スコット・カードが昨年発表
した“Empire”という新作の映画化権もワーナーが獲得し、
ジョール・シルヴァの製作で進めることが発表された。
 物語は、大統領が暗殺され、副大統領がアメリカを内戦に
導こうとしていると噂される近未来の合衆国を舞台に、国家
を窮状を救うべう立ち上がった特殊部隊の活躍を描くという
もので、ちょっと右寄りな感じがしないでもない。これに対
して脚色を担当するオーレン・ムーヴァーマンは、「前提は
娯楽作品としてのバランスだ。暗いものや論争の的になるよ
うなものにはしない」としており、それなりに気を使った映
画化を行うことにはなっているようだ。
 因に、ムーヴァーマンの最新作はボブ・ディランを描いた
“I'm Not There”を共同で執筆した他、フィル・カウフマ
ン監督が『北京の55日』のニコラス・レイ監督について描く
“Interrupted”、重量級チャンピオン=ジャック・ジョン
スンを描く“The Big Blow”などを手掛けており、結構社会
派という感じの作品が並んでいる。その脚本家がSF作品と
いうのも興味を引かれるところだ。
        *         *
 最後に、記者会見の報告にも登場したフランク・ミラーの
情報で、『シン・シティ』の続編についてのインタヴューが
報告された。
 それによると、続編は2本計画されていて“Sin City 2”
は“A Dime to Kill For”、“3”は“Hell and Back”とい
う作品を原作にしたものになっているということだ。そして
ミラー自身は、「あのスタッフたちや素晴らしいキャストと
また仕事をしたい」ということだが、「それが実現するまで
には、自分には理解できない、理解したいとも思わない問題
があるようだ」として、製作の遅れを嘆いていた。
 その問題が何であるかについて、具体的な報告はされてい
なかったが、前作製作時には2人の共同監督が問題にされた
し、いろいろ難関はあるもののようだ。
 それに、前回報告したように、共同監督のロベルト・ロド
リゲスには“Barbarella”の計画も急浮上している訳で、ま
だまだ“Sin City”の前途は多難なようだ。

 今回は、更新が大幅に遅れて申し訳ありませんでした。お
詫びいたします。



2007年06月10日(日) ヒロシマナガサキ、馬頭琴夜想曲、スピード・マスター、レッスン!、題名のない子守歌、私のちいさなピアニスト

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※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介しています。     ※
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『ヒロシマナガサキ』“White Light/ Black Rain”
アメリカ在住の日系3世で、アカデミー賞ドキュメンタリー
部門に3度ノミネートされ、受賞歴も持つスティーヴン・オ
カザキ監督が、1981年に初めて広島を訪れて以来、25年の歳
月を掛けて完成させた長編ドキュメンタリー。
監督は、英訳された『はだしのゲン』を読んで広島、長崎の
被爆者についてもっと知りたいと思い、広島を訪れて取材を
開始。その結果、1982年に発表された『生存者たち』で最初
のノミネートを果たした。
その後、1995年にはスミソニアンで開催予定だった原爆展が
米国内の猛反発で中止され、それに伴い予定された映画の製
作も中止になるなどの挫折も味わうが、2005年には『マッシ
ュルーム・クラブ』で再びノミネートを勝ち取っている。
そのオカザキ監督が完成させた本作は、今年8月6日の広島
原爆投下の日に、HBOから全米向けに放送予定となってお
り、日本ではそれに先立つ7月23日から岩波ホールでの一般
公開が行われるものだ。
内容は、広島、長崎での被災者や、アメリカに渡った原爆の
乙女の1人の笹森恵子さん、『はだしのゲン』の作者の中沢
啓治氏、韓国人被災者の金判連さんなど原爆を直接体感した
人たちや、さらに原爆投下機エノラゲイの乗員、技術者への
インタヴューと、その間に当時の惨状を撮影した記録フィル
ムなどが挿入される構成になっている。
その構成は、多分にアメリカの視聴者を意識したものになっ
ているが、その中に現在の東京渋谷や原宿などの映像が挿入
され、そこでは1945年8月6日と聞かれて何も答えられない
若者の姿が写し出されると、何とも言えない気分になってし
まうものだ。
4月に紹介した『夕凪の町 桜の国』を観たときにも考えた
が、原爆はその瞬間の破壊力だけでは終わらないということ
を、僕らはあまり教えられてこなかったように思える。最近
ではそれ以前の原爆投下の事実すらあまり教育されていない
ようだが、平然と核軍備を口にするような政府の下ではそれ
も仕方がないのかも知れない。
今回の作品は、その意味でも重要な作品ではあるが、僕自身
はこの作品で不満に感じる点がない訳ではない。それは先に
も書いた、後遺症やその後の差別の問題があまり描かれてい
ないことだ。しかしそれは、アメリカ人の監督に任せるので
はなく、自分たちの問題として日本人の監督が描かなくては
いけないものなのだろう。

『馬頭琴夜想曲』
1918年生まれ、41年日活入社以来、鈴木清順監督の『けんか
えれじい』や、伊丹十三監督の『タンポポ』、熊井啓監督の
『千利休』など、日本映画の歴史を支えてきた美術監督・木
村威夫が、2004年の『夢幻彷徨』から映画監督のメガホンを
取り始めたその第3作。
実は『夢幻彷徨』の試写状も貰っていたが、時間が合わずに
見逃したもので、今回は初めて木村監督作品を鑑賞した。
試写会では先に監督の挨拶があり、そこでこの作品に掛けた
思いなども語られたが、本作まではいずれも短編で、いろい
ろな試みはしているが助走段階のもの。ちょうど初長編を撮
り終えたばかりなので、評価はそれを観てからにして欲しい
というような話だった。
そして本作に関しては、ボーイソプラノとモンゴルの馬頭琴
という2つの題材から作った物語で、撮影では敢えて映画の
セオリーを外しているとの説明もあった。
という作品だが、まずは確かに実験的な要素も多い作品で、
見方によっては他愛ない作品とも言える。テーマの根底には
長崎の原爆があって、その辺りは日本人としてちゃんと受け
とめたいという気持ちにもなるが、全体として強いテーマに
なっている訳ではない。
元々が美術監督であるから、美術的な面ではそれぞれ観られ
るところもあるが、お金が掛けられているというようなもの
でもないし、逆にシンプルさの中に価値が見いだされること
にはなるのだろうが、それが特別に刮目するようなものでも
なかった。
まあ、実験的作品と言うのは評価もしにくいが、漠然と観て
いるだけならそれもいいし、とやかく言うようなものでもな
いようにも感じる。ただ、観ている間はそれなりに楽しくも
あったし、観終えた時には微笑ましくも感じられて気分は悪
くはなかった。
なお、モデルの山口さよこと鈴木清順監督が特別出演してい
て、それも取り立ててどうこう言うようなものでもないが、
お互い楽しそうに観えたのは、それはそれで良いという感じ
がしたものだ。とにかく次の長編作品の完成が早く観たい。

『スピード・マスター』
『ワイルド・スピード』『頭文字D』の対抗馬と自称する和
製ストリートレースムーヴィ。
実は、試写会で隣の席にいた人が、上映中に頻りと携帯電話
を開くので気になって仕方がなかった。その人はどうやら時
間経過を見ていたらしい。僕は映画鑑賞中にそういう他人に
迷惑の掛かるようなことはしないが、隣の人にはそれほど退
屈で時間の経つのが遅く感じられる作品だったようだ。
でも、だからと言って単純に切って捨ててしまっては身も蓋
もない。実は僕もこの紹介文をサイトに載せるかどうか、今
も迷っているのだが、この映画には、何かを始めようという
意欲が多少なりと感じられた。それでその意欲を買って敢え
て苦言を述べさせてもらう。
この作品を観て最初に感じるのは、なぜ『ワイルド・スピー
ド』の直後に、『頭文字D』を日本映画界が作れなかったの
かということに尽きると思う。
日本の警察が撮影許可を出すはずのないストリートのレース
では、『ワイルド・スピード』に勝てるはずがない。それが
山路のレースなら、それなりに誤魔化せたというものだが…
それを香港映画に撮られてしまった。
で、残る日本の不法レースシーンは埠頭ということになって
しまったようだが、元々埠頭レース自体はサーキットの真似
事だから、本物のサーキットレースの面白さに適うものでは
ないし、無理矢理作った倉庫内の爆走シーンも、所詮CGI
アニメーションでは…ということになる。
ただしこのCGIには、多分精一杯頑張ったのであろうこと
は評価したいと思うが、どんなに見事なCGIでも、そこに
つながる実写の部分が弱いと、努力は思うほどには報われな
い。その実写の部分が日本では撮影不可能だった訳だ。
でも、そこは工夫次第だとも思える。『ワイルド・スピード
3』にしても、新宿大ガードの先が道玄坂という、その馬鹿
馬鹿しさだけで観客は湧たものだ。勿論そこにはアメリカで
撮影したスタントシーンも挿入されてはいるが、CGIだけ
でも充分行けたようにも思える。
こんな展開の工夫が、この映画には欠けていたように感じら
れる。埠頭レースは、お台場から品川倉庫の辺りを想定して
いるようにも見えたが、それをもっと上手く表現できなかっ
たかと思うところだ。どうせ夜間のシーンなのだし、誤魔化
しはいろいろ出来たはずのものだ。
一方、映像が無理なら、せめてストーリーで勝負といきたい
ところだが、これが、親父が倒れて潰れかけた修理工場と、
そこに現れた元走り屋。対するは、その土地が目当ての金持
ちの息子が敵役では、いくらなんでも陳腐というか…
こんな陳腐なストーリーを映画化したいと思ったのなら仕方
がないが、『頭文字D』でなくても、レース物のマンガなら
いくらでもあると思うし、ちょっとしたマニアに聞けばいく
らでも候補は挙げてくれたと思える。そんなものを探す努力
をして欲しかった。
それにしても、元走り屋が修理工場に住み込む切っ掛けとい
うのが、その工場の娘に、屈強な男たちが暴力を振るおうと
するというものなのだが、これがいい年の男が少女に向かっ
て拳骨を振り上げるのではリアルさが感じられない。
女同士の喧嘩ならまだしも、大の男が少女に向かって拳骨を
挙げるなんて常識ではあり得ないし、やるならもっと別のこ
とだろうというところだ。もっとも、映画の成功より女優の
イメージが大切なら、これ以上のリアルさは無理なのかも知
れないが…これも工夫次第のものに思える。
他にも言いたいことはいくらでもあるが、言わずもがなの部
分もあるし、敢えて一番気になったポイントだけを書いた。
この意見が次回作のヒントになってくれることを願いたい。

『レッスン!』“Take the Lead”
『Shall We ダンス』にも登場した社交ダンスの聖地ブラッ
クプールで、4年連続優勝という輝かしい記録を持つ実在の
ダンサー、ピエール・デュレインの実話に基づく物語。
デュレインがニューヨークのスラム街の小学校で始めたダン
ス教室は、今では市内120校に拡大し、全米に広がりつつあ
るという。
映画はその活動を紹介したテレビドキュメンタリーにインス
パイアされたもので、実は、実際にデュレインが指導をした
のは小学校だが、映画化ではその舞台を高校に移すことで、
さらにドラマティックな物語に仕立てている。
デュレインは、ある日街角で若者たちが乗用車に危害を加え
ているのを目撃する。彼の姿を見て若者たちは逃走するが、
デュレインは、その車が近くの高校の校長の自家用車である
ことを知る。
翌日デュレインは高校を訪ね、昨日の出来事は伏せたまま、
生徒たちに社交ダンスを教えることを申し出る。彼には、社
交ダンスが若者たちの人生を正しい方向に導く指針になると
いう信念があったのだ。
しかし最初は、そんな考えが他の教師たちに通じるはずもな
く、それでも校長の判断で任されたのは、手に負えない生徒
を他の生徒から隔離するために設置された居残り教室。そこ
ではHip-Hop音楽が鳴り響き、社交ダンスなど見向きもされ
なかったが…
まあ、『Shall We ダンス』で見たようなシーンも登場する
し、全体的には甘さも感じられる話ではあるが、元々リズム
感のある若者たちという設定では、話のテンポの良さも気持
ち良く感じられたものだ。
それに、映画製作者が彼しかいないと考えたというデュレイ
ン役のアントニオ・バンデラスや、『Shall We…』にもダン
サー役で出ていたというカティア・ヴァーシラスらによるダ
ンスシーンは、映画の登場人物でなくても学んでみたくなる
ようなものだった。
さらに、スタンダードのダンス音楽をHip-Hopにリミックス
する面白さや、セオリー通りのダンスとセオリーを外したダ
ンスとを見事に対比させた描き方など、これは本当にダンス
や音楽を判っている人たちが作り出した作品と感じられた。
それにしても、本当に踊れる人たちのダンスは見ていて気持
ちが良いものだ。

『題名のない子守歌』“La Sconosciuta”
『ニュー・シネマ・パラダイス』『海の上のピアニスト』の
ジョゼッペ・トルナトーレ監督が、2000年の『マレーナ』以
来7年ぶりに発表した作品。
映画は発端で、廃虚のような場所で若い女性を全裸にして品
定めをするという衝撃的な映像から始まる。映画ではこの後
にも、彼女たちを陵辱するシーンが次々に描かれ続ける。
物語の舞台は、イタリアのとある都市、その町に1人の女性
が現れる。彼女はウクライナからの出稼ぎ労働者と称してい
るが、金はかなり持っているようだ。そして彼女は、街角の
比較的家賃の高い賃貸部屋に居を構える。そこからは斜向か
いのアパートが見渡せる。
次に彼女は、その斜向かいのアパートの管理人に清掃人の仕
事を求めに行く。そして、「外国人は困る」という管理人に
破格のリベートを約束してその仕事を受けてしまうのだが…
そこには、彼女の遠大な計画が潜んでいた。
映画では次から次にいろいろな謎が提示されて行く、そして
その謎が徐々に解き明かされて行くのだが、ここから先は何
を書いてもネタばれになってしまいそうな、実に緻密に描か
れた物語だった。
しかも、主人公がその目的のためには手段を選ばない。その
衝撃にも凄まじいものがあった。もちろんそれだけ重要な目
的でもあるのだが、その辺りの描き方も、主人公のそれまで
の人生の哀しみも絡めて、実に心に染みる作品だった。
物語には、幼い少女が登場する。クララ・ドッセーナという
撮影当時5歳の子役が演じているものだが、そのいたいけな
姿にはダコタ・ファニングを超えるとの声も挙がっているよ
うだ。実際、少女と主人公のシーンには、『マイ・ボディガ
ード』でのファニングとデンゼル・ワシントンとの交流を想
わせ、本作特有の背景もあって感動的に描かれていた。
トルナトーレの作品には、ノスタルジックな感覚を楽しませ
てくれるところがあるが、本作はソ連崩壊後の東欧の悲劇の
ようなものも背景に感じられ、ノスタルジーという雰囲気の
ものではない。でも、そこに漂う人間同士の暖か味は見事に
描かれていた。
なお、本作の英語題名は“The Unknown Woman”で、原題も
それに近いもののようだ。しかしその直訳はちょっと日本人
には馴染まない感じもするもので、また今回の邦題にはそれ
なりに含む意味もあって良いと感じられた。

『私のちいさなピアニスト』(韓国映画)
2003年2月に紹介した『北京ヴァイオリン』に続く、幼い頃
から天分を発揮する子供と、その指導者を巡る物語。
主人公のジスは、さほど裕福ではない親の金で音大のピアノ
科を出たものの、最後に留学の夢を果たせず挫折した。留学
から帰国した同期生は、今や母校で教授の職にある。そんな
ジスが、あまり高級とは言えない町の一角にある2階建てア
パートでピアノ教室を開く。
キョンミンはそんな町に暮らす悪餓鬼。母親を幼くして亡く
し、祖母と一緒に暮らしているが、その悪戯ぶりは手に負え
ない。ところが、ふとしたことからジスはキョンミンの面倒
を見ることになり、そこで彼が絶対音感の持ち主であること
に気づく。そして自分で彼を育て上げ、指導者として世間に
認められることを夢見るのだが…
出演は、ジス役に「韓国のマドンナ」とも呼ばれ、歌手とし
ての人気も高いオム・ジョンファ。キョンミン役は、1997年
生まれで、この映画のために1年余を掛けて選び出されたシ
ン・ウィジェ。彼は、7歳の時にピアノコンクールで1位を
獲得しているそうだ。
他に、『シュリ』『MUSA/武士』などのパク・ヨンウ。
また、韓国でクラシック界の貴公子と呼ばれ、テレビドラマ
「春のワルツ」の劇中音楽でも話題を呼んだ若手ピアニスト
のジュリアス=ジョンウォン・キムが、ラフマニノフの「ピ
アノ協奏曲第2番」を演奏するシーンも挿入されている。
物語の全体の流れは、最初にも書いたように他の作品にも描
かれているもの。しかも、それは平生の僕らの生活とは掛け
離れた世界の物語。こうした作品では、如何にして普通の生
活者との共通点を描き出せるかがポイントになると感じる。
そうでないと全くの絵空事になってしまうものだ。
その点、この作品では、過去に挫折を味わった主人公がその
トラウマを克服し、成長して行く姿を描き出すことにその共
通点を置くもので、そこに至る周囲からの台詞などには、実
に共感を呼ぶ上手い演出がされていた。
クラシックの名曲の演奏も数々聞けるし、鑑賞後の満足度は
高い作品と言えそうだ。



2007年06月01日(金) 第136回

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
※このページは、キネマ旬報誌で連載中のワールドニュー※
※スを基に、いろいろな情報を追加して掲載しています。※
※キネ旬の記事も併せてお読みください。       ※
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
 最初に前回積み残したこの話題から。
 前回は、ピーター・ジャクスン監督の次回作“The Lovely
Bones”について、その製作などの権利をドリームワークス
が獲得したことを報告したが、その報道から間なしに、今度
はジャクスンとスティーヴン・スピルバーグがシリーズ作品
の監督を共同で行うことを発表した。
 発表されたのは、ベルギーの漫画家ジョルジェス・レミが
ヘルゲの筆名で発表した世界的な人気コミックス“Tintin”
の映像化で、これをパフォーマンス・キャプチャーを使った
フルデジタル3Dアニメーションでシリーズ製作するという
ものだ。
 原作は、1929年に最初の作品が発表され、以来1976年まで
に全23巻が発表されたコミカル・アドベンチャーで、全世界
の累計発行部数は2億部以上、現在も毎年200万人の新規な
読者が誕生していると言われる大ベストセラーコミックス。
 スピルバーグは、このシリーズの映画化を25年以上も前か
ら希望していたもので、実は、昨年ドリームワークスがその
権利の獲得に成功、以来ジャクスンと共に密かに映画化の準
備を進めていたそうだ。また今年は、原作者の生誕100周年
ということで、その誕生日(5月22日)の直前に映画化の発
表が行われたものだ。
 そして発表された計画では、ジャクスンとスピルバーグ、
それにキャスリーン・ケネディが製作を担当し、全23巻の原
作の中から、彼らが3話をセレクトして、それぞれが1話ず
つを監督。3作目をどうするかは未定となっている。
 一方、ジャクスンが主宰するVFX工房ウェタでは、すで
に20分のテストフィルムを完成させており、それを鑑賞した
スピルバーグからは、「原作のキャラクターが、生物として
2度目の誕生を迎えた。従来のCGIを超えて、感情と魂が
感じられた」との賛辞が贈られている。また、ジャクスンの
発言では、「映像はフォトリアルなものになる」そうだ。
 原作のキャラクターは、ネットで検索すれば直ぐ出てくる
と思うが、それなりにデフォルメされた主人公が描かれてい
る。それをフォトリアルと言われてもピンと来ないところが
あるものだが、ジャクスンの発言によると「それは着衣から
髪の毛まで正にリアルで、しかもヘルゲのリアルさなんだ」
とのことだ。
 さらにスピルバーグは、「我々は最初この物語を実写で描
きたいと考えていた。しかしピーターも僕も、ヘルゲのキャ
ラクターを変えることは出来ないことに気がついた」とのこ
とで、それでこの手法が選ばれたようだが…。後の論評は、
作品を観るまで待つことにしよう。
 なお、スピルバーグは“Indiana Jones 4”の撮影を6月
に開始。一方、ジャクスンも“The Lovely Bones”の撮影を
今年の夏に行う予定だが、いずれも年内には完了の予定のも
ので、年末には2人揃って“Tintin”の映画化に取り掛かる
ことになりそうだ。
 製作はドリームワークス・アニメーションで行い、配給は
パラマウントが担当する。それにしても、結局のところは、
“The Lovely Bones”の契約は出来レースだったようで、参
加していたソニー、ワーナー、ユニヴァーサルにはちょっと
ショックな結末になったものだ。
        *         *
 『シュレック』シリーズでは声優としても大活躍している
マイク・マイヤーズが、第35回、第68回、それに第91回でも
紹介した1947年公開のダニー・ケイ主演の名作“The Secret
Life of Walter Mitty”(虹を掴む男)のリメイク計画に
参加することが発表された。
 このリメイクは、オリジナルの製作者の息子で『ミニミニ
大作戦』のリメイクなども手掛けたサミュエル・ゴールドウ
ィンJr.が権利を保有して何度も試みているものだが、最初
はジム・キャリーが主演を希望し、当時はニューラインの製
作でスティーヴン・スピルバーグやロン・ハワードらの監督
名も挙がったものの、結局実現はしなかった。その後はパラ
マウントで、『ミーン・ガールズ』などのマーク・ウォータ
ーズ監督が、オーウェン・ウィルスンの主演で計画を進めた
こともあったが、それも立ち消えになっている。
 その計画が今回は、ゴールドウィンJr.がパラマウントか
らフォックスに移籍したのを契機に再び動き出したもので、
脚本には『シンプソンズ』などのジェイ・クーガンが起用さ
れて準備が進められているものだ。因に今回の計画では、今
まで各主演者用に作られた脚本は全て廃棄され、マイヤーズ
用の脚本が新たに作られるとのことだ。
 ただし、マイヤーズの次回作には、“The Love Guru”と
いう作品が9月の撮影開始で決まっており、その後には、ロ
ジャー・ダルトリー製作で、The Whoのドラマー役を演じる
“See Me,Feel Me: Keith Moon Naked for Your Pleasure”
や、第110回で紹介の“How to Survive a Robot Uprising”
などの計画が目白押しになっている。さらに、前回報告した
“Austin Powers 4”の計画も、ジェイ・ローチ監督と初期
の話し合いが持たれたということで、この中から選ばれるの
は大変になりそうだ。
        *         *
 “Transformers”の実写映画化は、ドリームワークス製作
でこの夏公開されるが、同じく1980年代を席巻した玩具を映
画化する計画がワーナーから発表された。
 映画化されるのはマテル社から発売されていたアクション
・フィギアの“The Masters of the Universe”。実はこの
映画化については第74回でも1度紹介しているが、物語の設
定は、地球の中世にも似た魔法世界エターニアを舞台にした
もの。その国の王子が訓練の末に超能力を得て“He-Man”と
呼ばれるヒーローとなり、スケルターと名告る悪漢が率いる
悪の軍団との戦いを繰り広げるというものだ。
 そしてこの玩具シリーズからは、1980年代以降に4本の異
なるテレビアニメシリーズが製作された他、1987年にはドル
フ・ラングレンのHe-Man、フランク・ランジェラのスケルタ
ー役で、ジャンル映画のメッカだったキャノン・フィルムス
による映画化も行われた。
 さらに同じ題材から、以前の紹介ではジョン・ウー監督に
よる計画が発表されていたものだが、2004年に立上げられた
この計画は、映画製作者とマテル社との間で意見が合わずに
頓挫。その権利関係の契約が失効するのを待っての、今回の
発表となったようだ。
 なお、今回の計画では、第133回で紹介した“Super Max”
(“Green Arrow”の映画化と呼ぶ方が通りが良いようだ)
も手掛けるジャスティン・マーカスが脚本を担当。物語の原
案は、マーカスとニール・エリスという製作者が提案したも
ので、これにアンディ&ラリー・ウォシャウスキー監督によ
る“Speed Racer”を製作中のジョエル・シルヴァが反応し
て、実現となったものだ。
 また、シルヴァからは、『300』にも採用されたVFX
テクノロジーを使って、古典的な正義と悪の戦いを描くとい
う提案がマテル社に出され、さらにシリーズ化も視野に入れ
た物語を構築するとして了承を得たとされている。
 一方、この計画に関しては、かなり早い時期からインター
ネット上で噂が盛り上がったということで、それだけ関心の
高さが伺われるようだ。因に、玩具シリーズの発売は1980年
代末に中断されたものだが、マテル社では映画化に合せて再
発売する計画も進めているそうだ。
        *         *
 続いてもシルヴァ=ワーナーの情報で、『フロム・ヘル』
などのアレン&アルバート・ヒューズ兄弟による、2001年の
同作以来となる監督計画が発表された。
 作品の題名は、“Book of Eli”。ゲイリー・ウィッタと
いう人のオリジナル脚本に基づくもので、最終戦争後の世界
を舞台に、人類を救済する1冊の神聖な本を守ってアメリカ
各地を旅する孤独なヒーローの姿を描くということだ。テー
マは多少アナクロな感じもしないでもないが、アメリカ人は
いつまでたってもこの手の作品が好みのようだ。
 なおヒューズ兄弟は、最近では“The Ice Man”や、往年
のテレビシリーズを映画化する“Kung Fu”の監督にも名前
が挙げられたが、いずれもまだ実現に至っていない。しかし
本作に関しては、シルヴァはすでにキャスティングの準備を
進めており、監督が主演俳優を決定すれば、今年末にも製作
に掛かれるとのことだ。
 前作『フロム・ヘル』では、アラン・モーア、エディ・キ
ャンベル原作のグラフィックノヴェルを基に、19世紀末のロ
ンドンを構築して魅せた兄弟が、今度はどんな終末世界を描
くか楽しみだ。
        *         *
 最初の記事でも触れたが、いよいよ撮影開始が目前となっ
た“Indiana Jones 4”について、少しずつ情報が流れてき
ている。
 それによると、まず物語は第2次大戦後の1950年代を背景
にしているようだ。そして、インディの息子役として新たに
キャスティングされたシーア・レイビオフは10代でバイクを
乗り回す暴走族という設定。また物語にはエリア51とソ連
のスパイも絡むということだ。
 さらに脚本はデイヴィッド・コープが執筆したものだが、
その内容には先にフランク・ダラボンが提案した内容も加味
されているとのこと。そして題名は、“Indiana Jones and
the City of the Gods”になるとされている。
 基本的な設定は大体予想通りという感じだが、ここからの
展開がどうなっているかがお楽しみだ。なお“The Mummy”
と同様、こちらも主人公が代替わりしてのシリーズ継続の噂
もあるようだが、さてどうなりますか。
        *         *
 第133回で紹介したブライアン・シンガー製作監督による
第2次大戦秘話の映画化について、題名が“Valkyrie”と報
告され、トム・クルーズの主演に続いて、ケネス・ブラナー
の共演が発表された。
 ブラナーが演じるのはドイツ人将校の役で、クルーズが演
じる主人公の指導者となってヒトラー暗殺を計画する…とい
う物語になるようだ。因に、クリストファー・マクアリーと
ネイザン・アレクザンダーの共同で執筆された脚本は、実話
に基づくとされている。
 なお、ブラナーは、監督としてマイケル・ケイン、ジュー
ド・ロウ共演による“Sleuth”のリメイクを撮り終えたとこ
ろ。一方のクルーズは、ロバート・レッドフォード監督によ
る“Lions for Lambs”に続いて、UA作品に主演すること
になる。
 これでクルーズは、ポーラ・ワグナーがトップとなってか
ら計画が承認されたUAの2作品に、共に主演することにな
った。まあ監督の希望があるなら仕方がないが、そろそろ他
の人の情報も聞きたいところだ。
 撮影は7月19日にベルリンで開始される。『M:I 3』の時
は、予定されたベルリンロケがキャンセルされたが、今度は
大丈夫かな。
        *         *
 ソニー傘下スクリーン・ジェムズから、“Armageddagain:
The Day Before Tomorrow”と題するディザスター映画のパ
ロディの計画が発表された。
 この作品は、先に“Pearl Harbor II: Pearlmageddon”と
いう作品を発表したロバート・モンヨーとトラヴィス・オー
ティスの脚本に同社が契約を結んだもので、内容は…一朝一
夕に紹介できるものではないようだ。
 モンヨーの脚本、監督、編集による前作は、たった2日間
の撮影で作られたものだそうだが、それが注目されて今回の
契約に結びついたとすれば大したものだ。スクリーン・ジェ
ムズは、ソニーピクチャーズがジャンル向けに設立したブラ
ンドだが、契約を結んだとなればそれなりのバックアップも
するのだろうし、それなりの期待は持ちたいところだ。
        *         *
 続いてもディザスター映画の話題で、最近“Barbarella”
の話題を何度も紹介しているディノ&マーサ・デ=ライレン
ティスから、フランク・シャツィング原作でベストセラーを
記録した“The Swarm”という作品の映画化を、ドイツの製
作チームと進めることが発表された。
 この作品は、大洋底に密かに暮らしていた異星人が、人類
による汚染で環境システムが崩壊した後に、人類を抹消する
計画を進めていることが明らかになるというもの。そしてそ
れを回避するための科学者の奮闘が描かれるというお話で、
製作者たちは、『デイ・アフター・トゥモロー』のスケール
の映画化を目指すとしている。脚本は、『羊たちの沈黙』で
オスカー受賞のテッド・タリーが担当する。
 “The Swarm”という題名では、1978年にアーウィン・ア
レンの監督で、殺人蜂が登場するオールスターキャストによ
るディザスター映画(邦題:スウォーム)が製作されている
が、今回の計画とのつながりはなさそうだ。従って、今回の
計画で題名の使用がどうなるかは不明だが、今回は同じ題名
の原作がベストセラーということでは、多少問題になりそう
だ。もっともアレン作品の評価はかなり低いので、下手にこ
の題名を使わない方が良いような気もするが。
        *         *
 それから“Barbarella”の続報で、監督をロベルト・ロド
リゲスが担当して、2008年にユニヴァーサル配給で公開する
ことが発表された。以前の紹介では、別の監督で脚本とキャ
スティングが決まってから配給会社を選ぶとしていたが、ロ
ドリゲス監督の決定で、一気に配給会社まで決まってしまっ
たようだ。
 因にロドリゲスは、「僕はこのキャラクターが昔から好き
だった。このキャラクターと彼女の活躍する宇宙を、新しい
観客たちに紹介するチャンスを貰えたことに、本当に興奮し
ている」と抱負を述べている。
 ただし、デ=ラウレンティス側は、モロッコに買収した撮
影所でこの作品の準備を進めていたはずだが、ロドリゲスは
テキサス州オースティンに自前の撮影所を持っていて、最近
はそこで製作を続けているもので、その辺の調整がどうなる
か、今後がちょっと気になるところだ。
        *         *
 次もディザスター映画なのかな…パラマウントとニッケル
オディオンで、“2012”という計画が進められている。
 この作品は、マヤの古代の暦では2012年12月21日以降の記
載がないという「事実」に基づいて考えられたもので、アメ
リカでは、実際この日で世界が終わるとして終末論を唱える
人たちもいるということだ。そして物語は、2012年の12月に
ヴァケーションに出掛けた一家が、世界の終わりを思わせる
数々の出来事に遭遇するというもの。『ノストラダモスの大
予言』のようなことになるようだ。
 映画化は、『シャンハイ・ヌーン』などのトム・デイ監督
が、先に発表した“Failure to Launch”の脚本家コンビ=
トム・アステル、マット・エムバーと再び組んで進めている
もので、デイ監督としては別の作品の企画が出てくる前にこ
の作品に取り掛かりたいとしている。
 因に、アステルとエムバーのコンビは、ワーナーで製作中
の“Get Smart”の脚本も手掛けており、さらにワーナーで
プレプロダクションが進んでいるDVD用のスピンオフ企画
“Get Smarter: Bruce and Lloyd Out of Control”の脚本
も担当しているそうだ。
        *         *
 次は、若年向けのファンタシーの情報で、ワーナーから、
“Skulduggery Pleasant”という新しいシリーズの映画化権
を契約したことが発表された。
 この作品は、デレク・ランディという、以前はホラー映画
の脚本家だったされるアイルランド人の新人作家のデビュー
作で、この後には全9巻のシリーズ化が計画されているとい
うことだ。
 お話は、現代のダブリンを舞台に、頭蓋骨の研究家とその
若い女性のアシスタントが、その研究で判明したFaceless
Onesと呼ばれる悪魔の復活を阻止しようとするもの。この設
定には、ハリー・ポッターと「名前を呼んではいけない人」
との関係を思わせるところもあるが、この映画化権は、数社
との争いの末にワーナーがロンドンに新たに設立した製作拠
点が獲得したということだ。
 内容的には、かなりダークなウィットに富んだものという
ことだが、ランディの以前の脚本には“Boy Eats Girl”や
“Dead Bodies”という題名が並んでいるそうで、ダークな
ウィットに富んだ作品ではあるようだ。ランディは今回の映
画化の脚本も手掛けるようだが、ハリウッド大作になるよう
に頑張ってもらいたい。
 なお、原作本は英語圏では4月に発売され、現在25ヶ国へ
の翻訳が契約されているそうだ。
        *         *
 後は短いニュースをまとめておこう。
 ブレット・ラトナー監督と、ミュージシャンのクインシー
・ジョーンズが、リオのカーニヴァルを3Dで撮影する計画
を発表した。この計画は、“Carnaval 3D: The Magic & the
Music”と題されているもので、最新の3D技術を使って、
カーニヴァルの全貌を描くものになりそうだ。撮影は今秋に
開始され、公開は2008年後半が予定されている。また撮影は
ニューオリンズでも行われるそうだ。
 以前のこの手の3Dの撮影はIMaxで行われることが多く、
かなり大掛かりな撮影になってしまっていたが、最近のリア
ルDシステムなら、機材も簡単になっているようで、これか
らこの種の3D映画の公開は増えそうだ。
 一方、IMaxではクリストファー・ノーラン監督が、“The
Dark Knight”の撮影の一部をラージフォーマットで行うこ
とを発表している。これは、『バットマン・リターンズ』の
続編の中で、ジョーカーの登場を含む4つのアクションシー
ンをIMaxで撮影するというものだ。もちろんIMaxで撮影され
ても、一般の映画館では通常フィルムになってしまうものだ
が、IMax館では精細な画面が楽しめることになる。3Dかど
うかは不明だが、長編の劇映画でIMaxカメラが使用されるの
は初めてになるようで、その試みは注目を集めそうだ。
 第134回で、ニール・パーヴィスとロバート・ウェイドが
執筆を終えたと報告した“Bond 22”の脚本で、『カジノ・
ロワイヤル』と同様、ポール・ハギスのリライトが入ること
になった。前作もそれで成功したのだから、今回も同じ方法
を採るのは当然だが、一体ハギスの筆はどのくらい入ってい
るのか、興味の湧くところだ。
 最後に“Shrek”について、シリーズはこの後、2010年に
第4作が作られ、さらに第5作が作られて、多分それが最後
になると、製作者のジェフリー・カツェンバーグが発言して
いる。元々このシリーズでは、第1作の来日記者会見の際に
カツェンバーグが、全体は4部作になると発言していたもの
だが、いつのまにか1作増えることになっている。その辺の
事情がよく判らないが、とにかくシリーズは5話まで続くよ
うだ。


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井口健二