井口健二のOn the Production
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2007年05月31日(木) 卒業写真、ラッキー・ユー、恋愛マニュアル、デス・オブ・ア・ダイナスティ、陸に上がった軍艦、サイドカーに犬、オフサイド・ガールズ

『Watch with Me〜卒業写真〜』
報道写真家だった男性が病で余命半年と宣告され、妻に付き
添われて故郷で終末医療を行う病院(ホスピス)に転院して
くる。その病室には同窓生などの見舞客が次々に訪れる。そ
こで彼は、町の人々を撮影して最後の写真集を作ろうと考え
る。そして妻の協力のもと撮影は続けられるが…そこには彼
の青春の思い出が潜んでいた。
題名は聖書のマタイ伝の言葉で、近代ホスピスの理念を表わ
してるものだそうだ。実は事前に、そんな言葉を題名にした
終末医療の映画と聞いていたので、もっと高邁な話かと想像
していたのだが、映画はちょっとした青春ドラマを織り込ん
で、夫が死に直面している夫婦の、最後の葛藤を描いたヒュ
ーマンな作品だった。
時間の流れを前後させて、その中に謎を潜ませるという構成
は、最近の流行りのスタイルのようにも見えるが、その中で
は比較的成功している作品のようにも思えた。
そして結局は、病人の夫には、本人にその考えがなくても甘
えがあるのだろうし、その甘えに対して妻がどう向き合って
行くか、そんな夫婦の姿があまり感傷的にならずに、程よく
描かれていた。
まあ、この夫婦には子供がいないという設定だから、その部
分で話は重くならずに済んでいるし、観客にとっては落ち着
いて観られる話に仕上がっている。ただしその分、終末医療
の扱いは多少軽くなってしまったかなという感じはしたが、
元々監督が描こうとしたのは夫婦の問題であって、そこでは
なかったようだ。
それに物語では、実は妻の側にも多少の秘密があって、また
彼女は地元の人間ではないという立場もあり、その妻の立場
が微妙に退いた目線でドラマを描くことにもなっている。こ
の状況は実際に起こり得るものだし、その辺りの描き方にも
共感が持てた。
出演は、津田寛治、羽田美智子。他に秋本奈緒美、根岸季衣
らが共演。また、思い出のシーンで中野大地と高木古都とい
う新人が出演しているが、中学生という設定は多少きついも
のの、それぞれ良い感じだった。
実は、この高木の演じる役柄もよそ者という設定で、その設
定が羽田の演じる妻の設定と重なるのもうまい構成に感じら
れ、全体的に納得に行く作品だった。

『ラッキー・ユー』“Lucky You”
ドリュー・バリモアとエリック・バナ共演で、『L.A.コン
フィデンシャル』のカーティス・ハンソン監督が、2003年に
ラスヴェガスで開催されたポーカー・ワールドシリーズに賭
けるギャンブラーたちを描いた作品。
主人公は、多少強引な勝負を続けるポーカープレイヤー。そ
の勝負の仕方は、時に大金も稼ぐが、一瞬で手持ち資金が0
になることも多い。そんな男が、クラブ歌手を夢見てやって
きた女と巡り会う。
彼女は、何度恋をしても最後は自分が傷ついて終わるような
女性。しかし今度の恋には違うものを感じていた。そして、
周囲からは女癖の悪いと忠告されるギャンブラーに付いて行
くことになる。
折しもラスヴェガスでは、ポーカー・ワールドシリーズの開
催が近づいており、1万ドルの参加費を集めるためポーカー
プレイヤーたちの動きも激しくなって行く。そしてそこに、
主人公にポーカーを教えた父親で、今は南フランスで優雅に
暮らしていた伝説のプレイヤーが帰ってくる。その父親と主
人公の間には確執もあった。
ポーカー・ワールドシリーズは、個人競技では最高額の賞金
が贈られるということでも関心が高いようだが、特に2003年
の大会は、テレビ中継用に初めて手札カメラが導入されるな
ど、爆発的にポーカーファンが増加する切っ掛けとなった大
会だそうだ。
その大会を背景に、人を疑うことと騙すことが本性のギャン
ブラーの男と、いくら騙されても真心で一途に男を思い続け
る女の巡り会いが描かれる。
といってもハンソン監督は、やはり男性映画の監督という感
じで、次々にいろんな局面で登場する勝負のシーンの描き方
が見事に感じられた。中でもロバート・デュヴォールが演じ
る父親との勝負のシーンは、勝負のすすめ方の解説も絡めて
良くできていた。
ポーカーの手札の読み合いには推理力も関ってくるし、そこ
に直感力と運も絡んで、単なるギャンブル以上の面白さがあ
るもののようだが、この映画はその面白さも充分に伝える作
品になっていた。
因に、大会のシーンでファイナルテーブルを囲むプレーヤー
は、俳優3人以外はすべて本物のプロたちだそうで、そのチ
ップ捌きやカードの扱い方を見るのも面白かった。
なお共演者で、『アメリカン・グラフィティ』のチャールズ
・マーティン・スミスが久し振りにスクリーンに登場してい
た。またバリモアは、『ラブソングができるまで』に続いて
歌声を披露している。
それからこの作品では、エンディングロールの後にも物語が
続くから、慌てて席を立たないで貰いたい。

『イタリア的、恋愛マニュアル』“Manuale d'amore”
世界的なベストセラー「恋愛マニュアル」のイタリア語版が
発行される…という設定で描かれたイタリア映画。そのマニ
ュアルに沿った4つの物語が順番に登場し、年齢や境遇も異
なる主人公たちが、それぞれの恋愛ドラマを繰り広げる。
1話目は、何をやってもうまく行かない若者がふと町で出会
った女性にアタックを仕掛ける。2話目は、倦怠期に差し掛
かった夫婦が危機を乗り越えようとする。3話目は、信じて
いた夫に裏切られた婦人警官がそれでも夫を信じられるかと
いう物語。そして4話目は、妻に裏切られた初老の男性が新
たな恋に向かうまでが描かれる。
原題に「イタリア的」という言葉は付いていないが、映画を
観ていて感じるのは、イタリア人の恋愛に掛ける情熱のすご
さだ。設定は世界的なベストセラーということになっている
が、イタリア人以外にこのエネルギーは有り得ないのではな
いかとさえ思えた。
また、各エピソードではテーマに沿った格言のようなものが
紹介されて、それがマニュアルという題名の所以でもあるの
だが、果たしてこれが日本人にとってマニュアルとして役に
立つものかどうか…。でも映画は、物語として観るだけで充
分に楽しめる作品だった。
それに、それぞれの物語がそれなりのハッピーエンドなのも
嬉しいところで、さらにそれぞれの物語が巧みに連携されて
いて、しかも最後にそれが輪になる構成も、ちょっと洒落て
いて面白く感じられた。
出演者では、第1話に、ウィル・スミス主演の『幸せのちか
ら』を手掛けたガブリエーレ・ムッチーノ監督の弟で脚本家
でもあるシルヴィオが主演、彼がアタックする女性役には、
2005年に紹介した『輝ける青春』で鍵となる役を演じていた
ジャスミン・トリンカが登場していた。
因に本作は2005年の作品で、2006年にも同じジョヴァンニ・
ヴェロネージ脚本監督による『恋愛マニュアル2』が作られ
たようだ。昨年は韓国製の『サッド・ムービー』があって、
お涙頂戴の作品は日本人には受けが良かったようだが、映画
はやはりハッピーエンドの方が良い。

『デス・オブ・ア・ダイナスティ』“Death of a Dynasty”
Hip-Hopの帝国とも呼ばれる実在のレコード会社ロッカフェ
ラを舞台に、その実体を探るべく潜入した雑誌記者が体験す
る業界の裏側を描いた作品。
ロッカフェラの創設者デイモン・ダッシュが監督した作品だ
が、映画に登場するダッシュやアーチストのジェイ・Zはス
タンダップ・コメディアンが演じており、一方で、実在のア
ーチストも数多くカメオ出演するなど、現実と虚構が入り混
じった作品になっている。
なお配給会社はモキュメンタリーとして売りたいようだが、
2003年に紹介した『みんなのうた』などのクリストファー・
ゲストやユージン・レヴィが提唱するmocumentaryは、もっ
とdocumentaryの手法を取り入れたもので、まずカメラの存
在が明確にされる。
それに比べると、この作品はドラマの要素が強くて、モキュ
メンタリーとするのはちょっと違うかなという感じがした。
まあ記者という設定の登場人物がいるからドキュメンタリー
手法のシーンもありはするが、全体にそれが徹底されている
ものではない。
それにこの作品では、全体が一種のフェイクになっていて、
それも含めてモキュメンタリーになっていたら見事な感じも
するが、物語的にそれが難しかった部分もありそうだ。
自分自身をコメディアンに演じさせるという点では、一種の
セルフパロディかなという感じもするし、実際に映画の中で
は実生活のパロディになっていると思われるシーンも数多く
登場している。
つまり本作はHip-Hop業界の裏側をパロディ化したもので、
その意味での興味も引かれるし、それだけで充分に面白い作
品になっている。それにいろいろなアーチストの本人が登場
するのは、ファンの人には堪らないところだろう。
また本作は、デヴォン青木のデビュー作としても宣伝される
予定だが、主人公たちに絡んで物語の鍵となる役で、役名も
あるそこそこのキャラクターを演じている。当時の彼女はま
だモデル業が中心の頃と思われるが、その後の活躍が予感で
きるものだった。
その他にも、ロバート・デニーロの義理の娘など、多彩な出
演者が出ているようだ。
因に映画では、最後にダッシュとジェイ・Z本人が登場して
仲の良いことを強調しているが、現在の2人は袂を分かって
しまったそうだ。

『陸に上がった軍艦』
94歳の映画監督新藤兼人が、自らの体験に基づいて軍隊生活
を描いた作品。
新藤は、原案、脚本の執筆と共に証言者として画面にも登場
し、その証言の間に、新藤脚本による再現ドラマが描かれる
構成となっている。監督は、新藤作品も手掛けるフリー助監
督の山本保博が担当した。
新藤が召集されたのは1944年3月28日。すでに脚本家として
松竹大船撮影所で仕事を始めていた新藤は当時32歳。戦争末
期になって30代の男子にも召集が掛けられるようになり、そ
の一員となってしまったものだ。
最初の任地は広島県の呉。そこで帝国海軍二等水兵となり、
その後、奈良天理、兵庫宝塚へと移動するが、その間に最初
100人いた同期兵はくじ引きで戦地へと送り出され、輸送船
の撃沈などの不運もあって、終戦まで生き延びたのは6人だ
けだったという。
しかし、内地に残って生き延びた彼らも、人を人と思わない
過酷な軍隊生活で、心身共にぼろぼろにされて行く。そんな
理不尽な軍隊生活が、再現ドラマではユーモアというより、
馬鹿々々しさを一杯に描かれて行くものだ。
実際、入隊したのは海軍であるから本来なら軍艦に乗るはず
なのだが、当時すでに彼らの乗る軍艦はなく、彼らに宛てら
れた任務は予科練での雑用。しかし兵舎を軍艦に見立てて、
「甲板磨き」などの無意味な作業が繰り返される。題名の由
来はここにあるものだ。
また、年若い上官による殴る蹴るの暴行は日常茶飯時で、敬
礼を忘れただけで公衆の面前で謝罪を繰り返しながら気を失
うまで殴られた者もいたという。
その一方で、本土決戦の準備として池に食用の鯉の稚魚を放
流(食べられるまでには4、5年掛かる)したり、その稚魚
の餌となる蠅を1000匹捕えたものには外泊が許されたりと、
とにかく阿呆らしい出来事が次々に紹介される。
極め付きは、靴を前後逆に履いて(理由は映画を観てのお楽
しみ)行う夜襲の訓練や、木製の戦車と木製の地雷(最後ま
で本物を見たことはなかったそうだ)を使った上陸部隊襲撃
などの戦術訓練で、これにはもはや司令部も本気ではなかっ
たと思えてくるものだ。
とにかく、命令一下の軍隊という組織の愚かしさが徹底して
描かれる。僕ら戦争を知らない世代は戦争映画を作戦や戦術
で見てしまうが、その戦争を行っているのは人間であって、
そこには人間特有の醜さが存在する。そういうことがよく判
る作品だった。

『サイドカーに犬』
一昨年に出品された『雪に願うこと』では、東京国際映画祭
史上初の4冠獲得を達成した根岸吉太郎監督による新作。
受賞作は骨太の力作と呼べる作品だったが、それに比べると
本作は、上映時間も1時間34分と少し短く、内容的にも少し
肩の力を抜いた作品と言えるかも知れない。しかし、その和
らいだ雰囲気が観客にも心地よく伝わって来る素敵な作品だ
った。
薫は、現在30歳の独身キャリアウーマン。でも少し人生に疲
れ始めた彼女の許に、離婚した両親のために別々に暮らして
きた弟が結婚式の案内状を持ってやってくる。その披露宴に
は両親も顔を揃えるという。
その話を聞いた薫は、ふと20年前の両親が離婚した夏を思い
出す。そこには、一夏を一緒に過ごしたヨーコさんの思い出
があった。
夏休みの初めに母親が家出し、父親だけではどうにもならな
くなった家にヨーコさんはドロップハンドルの自転車に乗っ
てやってきた。そして彼女は、まだ10歳の薫を対等に扱い、
自転車の乗り方も教えてくれた。
原作は、芥川賞受賞作家・長嶋有の同名の小説。1980年代を
背景に、当時のいろいろな風俗を織り込みながら、1人の少
女の成長を描いて行く。
ヨーコさんを演じるのは、映画出演は久々の竹内結子。いろ
いろスキャンダルの最中で、その方面の注目も浴びることに
なってしまいそうだが、本作では人間の強さ弱さが交錯する
役柄を丁寧に演じて、好感が持てた。
そして、10歳の薫を演じるのは、1998年生まれの松本花奈。
まだ映画出演2作目ということだが、多感な少女が徐々に成
長して行く姿を見事に演じていた。撮影は、去年の夏と思わ
れるが、8歳でこの演技力はすごいものだ。
この他、古田新太、鈴木砂羽、山本浩司、ミムラ、トミーズ
雅、椎名桔平、温水洋一、樹木希林、寺田農らが共演。
山口百恵やRCサクセションの歌が聞こえたり、パックマン
が登場したり、1980年代はまずまず再現されていたように思
える。それから、缶コーラの飲み口がプルトップで、取った
口金を小指に引っ掛けて飲むシーンがあったが、まだそんな
時代だったのかな?
なおこの作品も、エンディングロールの後にワンショットあ
るから、慌てて席を立たないで貰いたい。

『オフサイド・ガールズ』(イラン映画)
2005年6月8日、イランの首都テヘランにあるアサディ・ス
タジアムでは、2006年のW杯ドイツ大会に向けたアジア最終
予選イラン対バーレーンの試合が行われようとしていた。こ
の試合は、イランが勝つか引き分ければ2度目の出場が決ま
る大事な試合だった。
そのスタジアムに向かうサポーターで満載のバスは、勝利を
信じる人々の歓声に溢れている。しかし、そのバスに人目を
避けるように乗車している人物もいた。黒い帽子を目深に被
ったその体つきは、何となくふくよかだ。
イスラム原理主義を社会の規範とするイランでは、女性によ
る男性スポーツの観戦が許されていないのだそうだ。しかし
生涯に一度あるかないかの大試合。どうしてもそれを観戦し
たい少女たちの奮闘が始まる。だがそれは、最悪死刑もあり
得る大冒険だった。
監督のジャファル・パナヒは、過去にデビュー作の『白い風
船』がカンヌで新人賞、『チャドルと生きる』がベネチアで
グランプリを受賞した名匠。そして本作は、ベルリンで審査
員特別賞を受賞し、3大映画祭制覇を達成した作品だ。
女性のスポーツ観戦を禁止することに関して、政府側には、
「場内で男性が発する汚い言葉が教育上よろしくないから、
それを女性に聞かせる訳には行かない」という大義名分があ
るようだ。
確かに、自分も競技場では人格が変わると言われている方だ
から、それもあり得るかなとも思えるが、でもどうせ本人た
ちも大声で声援を挙げていれば、周りの声など聞こえないの
も事実と言えるところだ。
なお、本作の撮影は、実際にイラン対バーレーンの試合が行
われているスタジアムの内外で行われており、かなりドキュ
メンタリーな要素もあって、面白い構成になっている。
実は、撮影の許可はすぐに下りたが、当然女性が中に入るこ
とは禁止。ところがその事実がマスコミに流れて、軍隊から
フィルム提出の命令も出たそうだ。そんな困難を乗り越えて
完成された作品ということだ。
それにしても、あの手この手の少女たちの侵入作戦も、機智
に富んだものや演技力抜群のものもあって、実際、当日の場
内にはかなりの数の女性がいたと言われている。そんな少女
たちの姿が、映画ではユーモラスにも描かれている。
もちろん日本とは文化の違う世界の話だが、物語のテーマと
して描かれる彼女たちの姿は共感を呼ぶ。実際この試合はイ
ランが1−0で勝つものだが、その瞬間の喜びあう姿には、
思わず目頭が熱くなった。



2007年05月20日(日) インランド・エンパイア、レミーのおいしいレストラン(特)、屋根裏の散歩者/人間椅子、ゴースト・ハウス、消えた天使

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※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介しています。     ※
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『インランド・エンパイア』“Inland Empire”
2001年『マルホランド・ドライブ』以来となるデイヴィッド
・リンチ監督の新作。上映時間3時間の作品。
再起を狙う女優が、ポーランド映画のハリウッドリメイクで
主演の座を獲得する。しかしそのポーランド映画はある事情
で未完に終ったもの。そしてその状況をなぞるかのように、
彼女を取り巻く現実と虚構の世界が乱されて行く。
そんな彼女の状況と、オリジナルのポーランド映画、さらに
兎人間が登場するテレビ番組や、それを見続ける女性の姿な
どが交錯し、謎に満ちたリンチワールドが展開して行く。
物語はあってないようなもので、それぞれのシーンの脈絡も
付いているのかいないのか…しかし描かれているのは、間違
いなく『ツイン・ピークス』なども髣髴とさせるリンチの世
界で、アメリカでリピーターが続出したという情報も頷ける
作品だ。
多分、描かれているのはリンチの内的世界なのだろうし、そ
れを他人がとやかく言えるようなものではない。ただ、その
世界に浸ってそれを楽しめればそれで良いとも言えそうだ。
少なくとも僕は、それでこの作品を楽しむことができた。
それに、「この監督は何時までも初心を忘れていないなあ」
という感じで、それが嬉しくもなる作品だった。
主演は、共同プロデュースも兼ねるローラ・ダーン。その脇
を、ジャスティン・セロー、ジェレミー・アイアンズ、ハリ
ー・ディーン・スタントン、ウィリアム・H・メイシー、ジ
ュリア・オーモンド、メアリー・スティンバーゲン、ダイア
ン・ラッドらが固める。
さらに兎人間のエピソードでは、ナオミ・ワッツが声の出演
をしている。
また、映画の後半でたどたどしい英語を話す東洋人の女性が
登場し、どこかで観たなあと思ってクレジットを注目してい
たら、俳優名はNae、これが裕木奈江なのだそうだ。
考えてみたら、彼女は『硫黄島からの手紙』にも出演してい
たし、リンチの後にイーストウッドとは、良いキャリアを積
んでいる感じだ。この後には、アメリカで暮らす東洋人の一
家を描いた作品も予定されているようなので、頑張ってほし
いとも思った。
それから試写会では、リンチのプロデュースというコーヒー
が振舞われた。僕はコーヒーは詳しくはないが、後口の良い
飲みやすいブレンドで、しかも映画の中でもコーヒーの振舞
われるシーンがあり、同じコーヒーなのかと思うとちょっと
嬉しくもなった。コーヒーの宣伝ということなら、ぜひとも
このサーヴィスは映画館でも行って欲しいものだ。
3時間の上映時間は確かに長いし、さらにリンチの映画はど
こに何が隠されているか判らないから、観ている間は緊張の
し通しとなる。でもそれがリンチファンには堪らない訳で、
そういうファンには最高の贈りものと言える作品だ。

『レミーのおいしいレストラン』(特別映像)
ディズニー=ピクサーの新作で、アメリカは6月23日、日本
では7月28日の封切りになる作品の、最初から51分までがお
披露目された。
シェフを夢見るネズミが、パリの一流レストランの厨房に入
り込み、料理のできない見習い料理人を助けるというお話。
実はそのレストランには陰謀が渦巻いており、ネズミが助け
る見習い料理人もその渦中にあるようだ。
ネズミは人間の言葉を理解できるが、人間にネズミの声はた
だキーキーと聞こえるだけ、そんな設定をうまく活かして、
さらにレストランの先代シェフのゴーストなども絡んで、物
語が展開して行く。
と言っても、観たのはまだ前半だけなのだが、そこからの展
開にも大いに期待を抱かせるものだった。それにピクサー作
品は、過去の例を見ても期待が裏切られたことはないから、
これは全編の上映される日が楽しみというところだ。
実は、昨年10月に紹介した『マウスタウン』の興行が多少期
待に添わない成績に終って、同じくネズミの登場する本作が
危惧されたところだが、キャラクターの創り過ぎで話にまと
まりがなかったアアドマン作品に比べると、本作は途中まで
は物語に芯が通っている感じがした。
やはりアニメーションには、こういう判り易さが肝心のよう
な気もする。もちろんそこからの捻りが話を面白くする訳だ
が、それが後半どうなって行くか、楽しみなところだ。
なお、ディズニーの作品では、5月25日に“Pirates of the
Caribbean: At World's End”の公開があるが、この作品で
はマスコミ試写会が行われないことになった。従ってこのサ
イトでは扱わないことになる。悪しからず。

『屋根裏の散歩者』『人間椅子』
江戸川乱歩が共に1925年に発表した短編2作品の映画化。
なお試写会は一緒に行われたものだが、公開は1本ずつ独立
に行われるようだ。
僕は多分、両作品とも原作は読んでいないと思うので、ここ
では原作との比較はできないが、雰囲気などはそこそこおど
ろおどろしい感じだし、エロティックな部分もあるし、舞台
は現代の設定だが、妙な現代化はしていないから、その点は
違和感なく楽しめた。
監督は、『屋根裏の散歩者』が昨年11月に『スキトモ』を紹
介している三原光尋。『人間椅子』は短編作品で海外での受
賞歴を持つ佐藤圭作の長編第1作。それぞれ俊英の作品とい
う感じのものだ。
それに俳優も、『屋根裏の散歩者』は嘉門洋子、窪塚俊介、
『人間椅子』には宮地真緒、小沢真珠といった面々で、それ
ぞれがまずまず気合いの入った演技をしてくれている。特に
嘉門は体当たりの演技で頑張っている。その意味では合格点
の作品と言えるだろう。
でも、観ていて何かが物足りないのだな。つまり観ていて、
「おおこれは…」と思わせるようなものがない。元々レイト
ショウで上映されるような扱いの作品だから、製作費などが
潤沢でないことは想像できるが、それはお金だけの問題では
ないような気がする。
何か工夫で、「これはやってくれたな…」と感じさせてくれ
るようなもの、そんなものが欲しい感じがしたところだ。実
は、映像的には多少テクニックを使っているような部分もあ
るのだが、それも、「これは…」というほどの効果になって
いない。
そういう何かが描けてないというか、あったとしてもアピー
ルできていないから、全体的に印象が平板で、物足りなく感
じさせてしまうのだろう。でも、そういうものが描けたとき
には、観る側を納得させて満足させることのできる余地は充
分にあるように思えた。
まあ正直に言って、何か一発コケ脅かしがあるだけでも良い
ような感じもしたが…
それから『屋根裏の散歩者』では、人里はなれたという設定
なのに、背景にさほど遠くなさそうな別の家が写っていたり
して、興ざめになる部分もあった。こういうところは気をつ
けてほしいものだ。


『ゴースト・ハウス』“The Messengers”
『スパイダーマン』シリーズのサム・ライミ監督が主宰する
映画プロダクション=ゴースト・ハウスピクチャーズの製作
で、『the EYE』のダニー&オキサイド・パン兄弟が、ハリ
ウッド監督デビューを飾った作品。
ノースダコタの広野に建つ人里離れた農場。廃屋だったその
農場を買って、シカゴから来た一家が住み始める。その一家
は、両親と10代の娘と幼い息子の4人家族。息子は何故か口
が利けず、娘と母親の関係はうまく行っていないようだ。
父親はその農場でヒマワリの栽培を行おうとしている。とこ
ろがその種を狙うカラスが集まってくる。そして、そのカラ
スを手際よく追い払ってくれた男が、納屋に住み込むことに
なるが…その農場を襲う災厄はカラスだけではなかった。
家庭内の不和を解決するために都会を離れて、静かな農場に
移住した一家。しかし、そのコミュニケーションの無さが一
家を危機に追いやって行く。この話の展開が、もちろん話の
中心は超常現象にあるのだけれど、人間の話も丁寧に作られ
ていて納得できた。
原案はトッド・ファーマー、脚本はマーク・ウィートンとク
レジットされている。因に、ファーマーは『13日の金曜日』
などの脚本家。またウィートンは、映画雑誌の「SFX」や
「ファンゴリア」などのライターから転身した脚本家だそう
だ。
とは言え、この作品を作り上げたのは、やはりパン兄弟だろ
う。何しろ『the EYE』でも見せた見事な恐怖演出を、これ
でもかとばかりに打ち出してくる。
『リング』などの中田秀夫監督は、要所で極限の恐怖演出を
繰り出すが、パン兄弟は一度恐怖演出を始めると止め途がな
くなる。その恐怖演出のつるべ打ちが、久しぶりにホラーを
堪能させてくれる感じだった。
主演は、2002年の『パニック・ルーム』でジョディ・フォス
ターの娘役を演じていたクリスティン・スチュワート。彼女
は他に05年の『ザスーラ』にも出ている。共演は、ディラン
・マクダーモット、ペネロピー・アン・ミラー、ジョン・コ
ーベット。
幼い子供が部屋の一点を凝視する。その無気味さは実生活で
もよく体験する。そんな実体験に基づく恐怖を描くことに抜
群の才能を発揮するパン兄弟。本作は、そんなパン兄弟の特
質がハリウッドでも存分に活かされたと言える作品だ。

『消えた天使』“The Flock”
香港映画のアンドリュー・ラウ監督によるアメリカ進出第1
作。リチャード・ギア、クレア・デインズの共演で、アメリ
カの性犯罪者登録制度をテーマにした社会派ドラマ。
性犯罪は再犯率が極めて高いとされ、犯罪者の移動などの報
告を義務づける登録制度は、日本でも導入が取り沙汰されて
いるようだ。しかしこの映画は、制度の有効性を描くのでは
なく、むしろその問題点が指摘されているような作品だ。
現在アメリカで、この制度により登録されている人数は50万
人以上。これにより、監察官1人当りの担当する登録者の数
は1000人にも上るという。そしてその監察を、監察官という
人間が行っている以上、その弊害は数多くありそうだ。
ギアが演じるのは、退職を間近にした監察官バベッジ。彼は
独自の方法で登録者の監察に当っているが、そのやり方は時
に行き過ぎであり、同僚からも冷たい目で見られ、実は退職
勧告も、行き過ぎを訴える登録者の声が原因だった。
そんなバベッジが、後任となるデインズ扮する女性監察官ラ
ウリーの教育を命じられる。このためラウリーは、バベッジ
に同行することになるが、ラウリーはバベッジのやり方に反
発しながらも、彼の実力は認めざるを得なくなって行く。
そんなとき若い女性の誘拐事件が発生する。犯人からの連絡
もなく、家出の可能性も考えられたが、バベッジは自分の担
当する登録者の中に犯人がいると確信する。しかし、警察に
も同僚にも賛同を得られず、ラウリーとバベッジは独自に捜
査を開始するが…
映画はその捜査の状況を描いて行くが、そこにはバベッジ自
身の葛藤も織り込まれ、見事なドラマが展開される。そして
それを演じているのがリチャード・ギアであることが、いろ
いろな意味でドラマに深みを与えている感じがした。
それにしても、筆者は自分がギアと同い年であるから余計に
感じてしまうのかも知れないが、ここに描かれる主人公の姿
はやたらリアルで、ちょっと衝撃を受けた。
ラウ監督は、『インファナル・アフェア』から『頭文字D』
まで、いろいろなタイプの作品を描き出す人だが、この作品
は見事にアメリカ映画になっており、そうと知らされていな
ければ、普通にアメリカ映画として認識してしまうような出
来栄えだ。
それでも、主人公の内面への掘り下げなどは、言葉のコミュ
ニケーションが存分とは思えない状況で、よくぞここまで演
出したと思う位のもので、そこにはギアの理解もあったのだ
ろうが、それは見事な出来だったと言える。
他の出演者は、『アナコンダ2』のケイティ・ストリックラ
ンド、『ツイン・ピークス』でローラの父を演じたレイ・ワ
イズ、人気歌手のアヴリル・ラヴィーン。さらに、ラッセル
・サムズ、マット・シュルツ、クリスティーナ・シスコらが
出演している。
なお映画の中で、ギアが写真を示してpornoと言うシーンが
ある。字幕も単純にポルノと訳しているが、英語でpornoと
いうと雑誌や映画などの媒体を指すことが多い。つまりここ
では、写真がポルノ雑誌からの複写だという意味の発言で、
これを単純にポルノとすると、誤解を招くというか、意味が
不明になっている感じがした。



2007年05月15日(火) 第135回

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※このページは、キネマ旬報誌で連載中のワールドニュー※
※スを基に、いろいろな情報を追加して掲載しています。※
※キネ旬の記事も併せてお読みください。       ※
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 今回はこの話題から。
 2005年にワーナーが配給した青春映画“The Sisterhood
of the Traveling Pants”(旅するジーンズと16歳の夏)の
続編が6月に撮影開始され、前作に主演したアメリカ・フェ
レーラ、アンバー・タンブリン、アレクシス・ブレーデル、
ブレイク・ライヴリーの4人が揃って再登場することになっ
た。
 前作の物語は、今まで何時も一緒に行動してきた高校生の
女子4人組が、初めて夏休みを別々の場所で過ごすことにな
り、全員にフィットする不思議なジーンズパンツを順番にそ
の旅先に送って幸運を共有しようとするもの。それぞれの恋
愛や失恋、将来への期待や不安など、甘酸っぱい青春ドラマ
が観光映画のような素晴らしい風景の中で描かれた。
 この作品は、アン・ブレイシャーズという作家が、2001年
から1年おきに発表している原作シリーズに基づくもので、
原作では今年1月にシリーズ4巻目の“Forever in Blue”
が出版されている。そして今回は、間を飛ばしてその第4巻
が続編として映画化されるものだ。因に今回の主人公たちは
それぞれ大学生となり、トルコ、ギリシャ、ニューヨーク、
ヴァーモント、プロヴィデンスなどで夏休みを過ごす。
 なお、主演の4人では、フェレーラは現在“Ugly Betty”
の主人公を演じて大人気となっており、タンブリンは『呪怨
2』に主演の他、“Babylon Fields”という新作テレビシリ
ーズに主演が予定されている。またブレーデルは、前作当時
すでに『シン・シティ』にも出演していたが、現在は好評だ
ったテレビシリーズ“Gilmore Girls”へのレギュラー復帰
が濃厚とされる。さらに、ライヴリーは“Gossip Girls”に
レギュラー出演中など、それぞれがテレビシリーズで主演や
レギュラーを持つ人気者になっており、今回はその原点とも
言える作品への再結集となるものだ。
 監督は、マライア・キャリーなどのミュージックビデオを
手掛け、すでにフォーカス製作の“Something New”という
作品で長編デビューしているサナナ・ハムリ。脚本は、前作
を共同で手掛けたエリザベス・チャンドラー。
 撮影は、6月3日にギリシャで開始され、その後にニュー
ヨークとコネチカットに移動する。因に前作公開時のレーテ
ィングはPGだったが、今回はPG-13を予定しているそうだ。
        *         *
 またまたレオナルド・ディカプリオの情報で、『マイアミ
・バイス』のマイクル・マン監督、『アビエイター』の脚本
家ジョン・ローガンと組む計画が発表された。
 計画されているのは、題名は未定だが、1930年代のMGM
スタジオを舞台にした作品で、ディカプリオはスタジオ所属
のスターが起こしたスキャンダルを揉み消す私立探偵を演じ
る。そして中心となる事件では、若いスターの卵による夫殺
しを揉み消すことになるようだ。また、映画にはジュディ・
ガーランドや、1991年にウォーレン・ベイティの製作主演で
その人生が映画化されたバグジー・シーゲルの登場もあると
いうことだ。
 脚本は、マンとローガンが昨年9月から検討を重ねてきた
もので、ディカプリオも数ヶ月前からそれに参加してきたと
言われている。なおマンは、当初『アビエイター』も自らの
監督作品としてローガン、ディカプリオと進めていたものだ
が、当時の監督には、『アリ』と『インサイダー』といった
実話に基づく作品が続いていたことと、同様のヒューズの伝
記に基づく企画が競合して早急に製作する必要が生じ、やむ
なくマーティン・スコシージに監督を依頼、自分は製作に下
がったものだ。
 従って本作は、ディカプリオにとっては、念願のマン監督
作品への出演となる。因にマン+ディカプリオでは、それ以
前にもジェームズ・ディーンの伝記映画の企画が進められて
いたこともあったそうだ。
 撮影は来年の2月。リドリー・スコット監督による“Body
of Lies”の撮影完了後に開始の予定になっている。
        *         *
 ついでにもう一つディカプリオの情報で、第133回で報告
した『ブラッド・ダイアモンド』の記者会見にも来日せずに
取り組んでいた環境問題を描くドキュメンタリーが完成し、
“11th Hour”と題された作品の配給について、ワーナーと
契約の結ばれたことが報告された。
 この作品は、レイラ・コナーズ・ペーターゼンとナディア
・コナーズの共同監督によるもので、人類が行っている環境
破壊が手遅れにならないよう行動を改めるべきとしたもの。
ディカプリオは2人の監督と共に脚本を執筆、ナレーション
も務めている。また作品では、スティーヴン・ホーキングら
世界のリーダーとなる科学者、思想家や、元CIAトップの
ジェームズ・ウルセイ、元ソ連大統領のミヒャエル・ゴルバ
チョフら政治的なリーダーへのインタヴューを織り込んで、
人類が今為すべきことを訴えているということだ。
 そして完成された作品は、今月開催のカンヌ映画祭でワー
ルドプレミアが行われているものだが、ワーナーではアメリ
カ国内をワーナー・インディペンデンス、海外をワーナー・
ブラザース・インターナショナルの扱いとして、今年の秋に
全世界で公開する計画としている。
 なお、配給を決めたワーナーのトップは、「異常気象につ
いての問題を論評しているだけのものではなく、現在我々が
直面している世界的な規模の無数の事象を提示して、もはや
認めざるを得ない事実を探究したもの」と、内容を説明して
いる。カンヌでの反響が楽しみだ。
        *         *
 紀元前5世紀のスパルタ人を描いた『300』が予想を超
える大ヒットとなったフランク・ミラー原作のグラフィック
ノベルで、今度は“Ronin”という作品の実写映画化の計画
がワーナーから正式発表された。またこの作品の監督には、
今年初めに公開された“Stomp the Yard”が好評のシールヴ
ァン・ホワイトの起用も報告されている。
 物語は、13世紀というと鎌倉時代の頃になるが、その時代
に汚名を着せられた日本の侍が、2064年のニューヨークに甦
り、同じく未来都市に解き放たれた悪鬼と闘うというもの。
その悪鬼の一人は、神秘の力を宿した刀剣を所持していると
いう設定で、原作はDCコミックスから出版されている。
 侍が時代を超えて甦るという話では、1984年に藤岡弘(こ
の頃は「、」はないのかな)の出演で、“Ghost Warrior”
(SFソードキル)というアメリカ映画が製作されている。
雪洞に冷凍されていた侍が発見され、その侍をアメリカの研
究所で蘇生させるというもので、日本人の目で観ると珍品と
いう感じの作品だったが、藤岡の演技には存在感もあって、
アメリカでの評価は娯楽作品ということではそれなりとされ
ていたものだ。
 今回は、未来都市を舞台に悪鬼と闘うということで、内容
的にはかなり違うが、侍というからにはそれなりの役者が必
要になる訳で、その侍役を一体誰が演じるか、主人公の配役
にも注目が集まりそうだ。
        *         *
 前回に続いて、またまた“The Mummy”(ハムナプトラ)
シリーズ第3弾の続報で、ブレンダン・フレイザーの息子役
に26歳のオーストラリア人俳優ルーク・フォードの出演が発
表された。
 彼は、他に4人いた候補者の中から選ばれたということだ
が、ロブ・コーエン監督からは、「彼がブレンダンと台詞を
読み合わせたときにはマジックを感じた。今回の物語は父親
と息子のリレーションシップを描くことになるが、シリーズ
の将来は彼の双肩に掛かった」との発言も出されており、シ
リーズは主人公を代えて継続されるようだ。
 なお今回の報告によると、以前紹介したジェット・リーは
呪いによって甦った古代の王ということで、その王に呪いを
掛けた魔法使い役をミシェル・ヨーが演じる。また、結局出
演が断念されたレイチェル・ワイズの替役には、6人の女優
がテストされて、マリア・ベロが選ばれたようだ。
 撮影は7月27日にモントリオールで開始。舞台は中国の隠
された墳墓からヒマラヤへと広がる。公開は2008年7月で、
北京オリンピックの開催直前の時期、中国に関心が集まる頃
を狙っているものだ。
        *         *
 ピーター・ジャクスン監督が次回作に予定している“The
Lovely Bones”の脚本が完成し、ハリウッド各社に提示され
て、ドリームワークスがその権利を獲得したようだ。
 この作品については、第124回では題名だけ紹介したが、
アリス・シーボルドという作家が2002年に発表した同名の原
作小説に基づくもので、レイプされ殺された14歳の少女の霊
魂が、彼女の家族と殺人者を見つめ続けているという物語。
1994年にジャクスンがベネチアで受賞した『乙女の祈り』と
同傾向の作品と言われている。そして脚本はジャクスンと、
『LOTR』『キング・コング』にも協力したフィリッパ・
ボウエン、フラン・ウォルシュの共同で執筆されたものだ。
 また、今回の脚本の提示に対しては、ワーナー、ソニー、
ユニヴァーサルも手を挙げたが、スティーヴン・スピルバー
グがジャクスンとの共同作業を希望したこと。元々この原作
は数年前のジャクスンに権利が移行する以前に同社が権利の
獲得を目指したことがある。さらに現在ドリームワークスの
CEOを務めているステイシー・スナイダーが、『キング・
コング』を実現した際のユニヴァーサルの担当だったなど、
いろいろな条件でドリームワークスに決定されたようだ。
 なお、契約に当ってスピルバーグからは、「こんなに心を
動かす魔法のような物語を読んだら、そこにどんな紆余曲折
があったとしても、何時かはその映画化に至る道を見つけた
くなる」と、ここに至った経緯が紹介されたそうだ。
 一方、今回の脚本の提示では、ニューラインだけはその対
象から外されたと言われている。これは『LOTR』の利益
配分を巡って同社とジャクソンが揉めているためだが、元々
今回の作品は、監督が次の大型作品の前に撮りたいとしてい
たもの。これで“The Hobbit”の映画化は、ますます多難に
なってきたようだ。
 さらに“The Lovely Bones”の契約に関連して、ジャクス
ンとスピルバーグの新たなコラボレーションも動き出したよ
うだが、その話は次回に報告する。
        *         *
 久しぶりに“Terminator 4”の話題が登場した。
 この第4作には、アーノルド・シュワルツェネッガーも、
ジェームズ・キャメロンも参加しないことは、既定の事実と
なっているようだが、さらに『T2』『T3』の実現の立て
役者だった製作者のアンディ・ヴァイナとマリオ・カサール
も関わらないことになったようだ。
 元々このシリーズでは、1984年にキャメロンとゲイル・ア
ン=ハードが第1作を作る際に、その製作費を調達する目的
で権利を切り売りし、実際に第1作が完成されたときには、
10数人の権利者がいたと言われている。その分割された権利
を1991年の第2作を製作する際に、一つずつ買収して纏めた
のがヴァイナとカサールで、結局この時点では、権利はヴァ
イナ+カサールとアン=ハードに集約された。
 ところがその後、ヴァイナ+カサールの率いていたカロル
コが倒産、2003年の第3作の時には、そのカロルコの権利が
争奪戦となり、最終的にヴァイナ+カサールが買い戻して、
一緒にアン=ハードの権利も獲得して一元化したものの、こ
のときキャメロンが独占契約を結んでいたフォックスとは対
立、ついにキャメロンは降板となった。一方、シュワルツェ
ネッガーも第3作には主演したものの、その直後にカリフォ
ルニア州知事に当選、さらに再選も果たして、当面は映画出
演の可能性はなくなってしまったものだ。
 という事態にやる気を無くしたのかどうかは知らないが、
今度はヴァイナ+カサールが“Terminator”の全権利をハル
シオンという会社に売却したことが発表された。因に、この
ハルシオン社は、ヴィクター・クビセックとデレク・アンダ
ースンという起業家によって設立されたもので、先にHBO
のコメディフェスティバルで上映された“Cook-Off!”とい
う作品の製作実績はあるようだ。
 ただし、今回『T4』の製作に当っては、実は前インター
メディア社のCEOで、『T3』の製作にも関わったモリッ
ツ・バーマンと、ポリグラム社のマーケティング担当だった
ピーター・D・グレイヴスの2人が参加しており、この2人
の差し金で買収が行われたと考えるのが正しそうだ。
 ということで、第4作は新体制で製作が進められることに
なったものだが、監督や出演者は未定とされているものの、
脚本は『T3』を手掛けたジョン・ブラカトーとマイクル・
フェリスのものが執筆されており、それを基に進められるよ
うだ。また、バーマンからは、「『T3』の製作の際に、数
多くの後に続く物語の種を仕掛けておいた。物語はジョン・
コナーとターミネーターの、人類の未来を掛けた冒険となる
が、これは新たな3部作として製作される」との発表も行わ
れている。
 因に、『T4』の製作は2009年夏の公開を目指して進めら
れることになっており、配給に関してはMGMと日本の東宝
東和が優先権を持っているようだ。
        *         *
 第119回で紹介した“The Alchemyst: The Secrets of the
Immortal Nicholas Flamel”の原作者マイクル・スコットが
新たに提示した15ページの小説の概要に対して、その映画化
権の契約が6桁($)の金額で結ばれたことが報告された。
 この作品は、題名が“Otherworld”とされているもので、
内容は、地球温暖化の影響で古代の魔物が次々に甦ってくる
という現代を背景にしたファンタシー。そしてその契約を結
んだのは、第105回で紹介したギレルモ・デル=トロ監督の
“Killing on Carnival Row”なども手掛けている製作者の
アーノルド&アン・コペルスン。なお今回の契約金は、原作
者による脚本の執筆料も込みということなので、金額的には
特に高額ということではないものだが、実は製作を担当する
映画会社は未だ決まっていないもので、コペルスンは独自の
資金で契約を行っているとのことだ。
 因にコペルスンは、今年3月にも“The Alchemy Papers”
というエジソンが錬金術を発明していたという仮説に基づく
ファンタシーの脚本を契約しており、ファンタシー系の作品
ばかり契約しているということでは、ちょっと気になる製作
者になりそうだ。
 一方、製作者のマーク・バーネットが映画化権を契約した
“The Alchemyst”に関しては、その後、ニューラインでの
製作が決定し、2005年3月に紹介した『バタフライ・エフェ
クト』で共同脚本と共同監督を務めたエリック・ブレスが脚
色を担当することが発表されている。そろそろ映画製作の準
備も進み始めているようだ。
        *         *
 久しぶりの“Mr.Bean's Holiday”が世界各国でスマッシ
ュヒットを記録しているローワン・アトキンスンが、次回作
でチャールズ・ディケンズの古典に挑む計画が発表された。
 計画されているのは“David Copperfield”。最近は『プ
レステージ』にも協力しているマジシャンの方が有名になっ
てしまったが、元々は『オリヴァ・ツイスト』と並ぶ若者を
主人公にした冒険物語で、この原作からは1935年にジョージ
・クーカー監督によるハリウッド製オールスター映画も作ら
れている。しかし、その後はテレビ化は多数されているもの
の、映画としての製作はなかったのだそうだ。
 その計画を進めているのは、アトキンスンとは2003年8月
に紹介した『ジョニー・イングリッシュ』でも組んだことの
ある監督のピーター・ハウィット。元々は1998年にデビュー
作の『スライディング・ドア』がヒットしたときに、ミラマ
ックスで立上げられた企画だったようだが、その後に計画が
放棄されて、権利がハウィットに戻されていた。その計画に
アトキンスンと共に再挑戦しようというものだ。
 なお、アトキンスンが演じるのは、1935年版ではW・C・
フィールズが演じたMr.ミカウバーというキャラクターで、
この役柄は、ディケンズの登場人物の中でも最もコミカルと
言われているものだそうだ。
 製作費は3000万ドルが予定され、カンヌ映画祭でも配給権
のセールスが行われているようだが、英国の映画基金からの
援助対象にもなっているようだ。撮影は2008年の初旬に開始
される。
        *         *
 後は短いニュースをまとめておこう。
 『シュレック3』の公開が近付いているが、それに合わせ
て“Shrek 4”の監督が発表された。第4作の監督を担当す
るのは、昨年2月に紹介した『スカイ・ハイ』のマイク・ミ
シェル。脚本はティム・サリヴァンのオリジナルから、ジョ
シュ・クラウスナーがリライト中だそうだ。前々回に報告し
たように、この作品は3Dで製作されるものだが、『スカイ
・ハイ』も立体で観られたら楽しそうな話でもあったし、期
待したい。
 一方、そのシュレックの声を担当しているマイク・マイヤ
ーズからは、1997〜2002年に発表された“Austin Powers”
の続編を計画していることも報告されている。この計画も、
実現すれば第4作となるものだが、マイヤーズの発言による
と「第4作は、Dr.イーヴルの視点から描いたものになる」
そうだ。この発言はアメリカでの『シュレック3』の記者会
見で出されたもので、それ以上の具体的な話はなかったよう
だが、動き出せば誰も止めるものはいないだろう。
 後はテレビシリーズからの映画化で、第38回で一度紹介し
た“Fantasy Island”を計画しているコロムビアが、この計
画をエディ・マーフィの主演で進めることを発表した。オリ
ジナルは、リカルド・モンタルバンらの主演で1978〜84年に
放送され、1998年にもマルカム・マクダウェルらの主演でリ
メイクされた人気シリーズだが、映画版ではマーフィが複数
のキャラクターを演じることになるようだ。
 続いてワーナーが進めているハナ=バーベラのアニメーシ
ョン“The Jetsons”の実写版の計画で、監督にロベルト・
ロドリゲスの名前が浮上している。この計画では、アダム・
ゴールドバーグがすでに脚本を書き上げており、監督が決ま
ればただちに動き出せる計画のようだ。
 さらにロドリゲスは、ユニヴァーサルが進めている“Land
of the Lost”についても、主演に予定されているウィル・
フェレルと話し合いを持ったとも伝えられており、どちらか
は動き出すことになりそうだ。
 もう1本、メル・ギブスンが1994年に主演したコメディ西
部劇“Maverick”の続編を期待しているようだ。この計画に
は共演のジェームズ・ガーナーも賛同しているそうで、後は
権利を所有するワーナーの意向次第だが、ギブスンは「可能
性はある」と言い切ったそうだ。



2007年05月10日(木) ショートバス、選挙、ジーニアス・パーティ、監督・ばんざい!、イラク−狼の谷−、怪談、ベクシル−2077日本鎖国−

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※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介しています。     ※
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『ショートバス』“Shortbus”
2001年12月に紹介した『ヘドウィグ・アンド・アグリーイン
チ』のジョン・キャメロン・ミッチェル監督の第2作。前作
もかなり衝撃の作品だったが、本作も描かれる映像はかなり
衝撃的なものだ。
舞台はニューヨーク。この町で暮らす若者たちの姿が描かれ
る。若者といっても子供ではない。すでに分別もある年代の
者たちが、人生に迷い、今の自分がこれで良いのかと悩む姿
が描かれる。
主人公となるのは、まず1人は、カップルの恋愛コンサルタ
ントをしている東洋系の女性。彼女は芸術家の夫を愛し、セ
ックスにも満足はしているが、実は彼女自身がオーガズムに
達したことがない。
そして、ゲイのカップルが彼女に相談に訪れ、思わず悩みを
口にしてしまった彼女は、彼らに誘われるまま、「ショート
バス」という名のクラブを訪れることになる。そこは男女が
思うが儘のセックスを楽しめる場所。そこで彼女は、自分探
し旅を行うことになる。
一方、ゲイのカップルも、自分たちの関係を見失いそうにな
っている。そしてそこに、彼らに憧れる若者や彼らにストー
カー行為をしている男。さらに初老のゲイや、SMの女王な
ども絡んで物語が展開して行く。
何しろ物語の展開がセックスに絡むものばかりだから、映像
もそういうシーンが次々に登場する。このため画面は暈の連
続なのだが、暈も昔に比べれば画質の劣化も少ないから、そ
れほど気になることはなかった。
でもまあ、普通に見れば、かなり破廉恥な作品ということに
はなってしまうものだ。とは言え、そこに描かれている内容
は、純粋に現代人が抱える悩みのある一面とも言えるものだ
し、その意味では、これは正しく現代を象徴する作品になっ
ているとも言える。
なお巻頭に、自由の女神に始まるニューヨーク・シティの巨
大なジオラマが登場する。このジオラマはその後も何度か登
場するが、何しろ素晴らしいものだし、その撮影テクニック
がまた見事だった。
ところがプレス資料によると、これがCGIなのだそうだ。
正直俄には信じられない気持ちだが、『ヘドウィック…』で
もアニメーションを提供したジョン・ベアの作品とのこと。
『ニューヨーク1997』のCGIシーンが、実は模型で模
擬したものだったことを知る者には、正に隔世の感という思
いだった。

『選挙』“Campaign”
主にNHKで作品を発表しているアメリカ在住のドキュメン
タリー監督・想田和弘による日本の地方選挙の内幕を描いた
作品。2006年10月に行われた川崎市議補欠選挙に立候補した
自民党公認候補の奮闘ぶりを描く。
主人公となるのは山内和彦という1965年生まれ、東大卒で自
営業、と言っても趣味が高じた切手コイン商という人物が、
自民党の候補者公募に応募し、東京の人なのに自民党公認の
落下傘候補で川崎市議補選に出ることになる。
地盤、看板が重要と言われる地方選挙で、彼には当然地盤は
ないのだが、補欠選挙の特性として、政党の公認(看板)が
あれば現職議員たちが応援をしてくれる。そんな訳で、それ
こそ小姑のような地元各議員の後援会の人たちの指導の下、
選挙戦が開始される。
そこでは、ビラの配り方から握手や名前の連呼の仕方、さら
に電柱にもお辞儀しろという理不尽にも思えるアドバイスま
で、実に馬鹿馬鹿しい発言が飛び出してくる。それらを、監
督兼カメラマンの想田が、まさに密着して観察し続ける。
作品は、<観察映画シリーズ>の第1作と称されているもの
だが、それはまさに観察に徹したもので、作品には説明的な
ナレーションも音楽も一切なく、被写体だけが映り続ける。
ところがこれが、見ていて笑いが出るほど滑稽なのだ。
作品は今年のベルリン映画祭に出品され、そこでル・モンド
紙からは「魅惑的な主人公を描いたカリカチュア」という評
価が出されている。僕の観る限りここには戯画化したような
演出もないし、恐らく事実が写されているだけなのだが…。
それが戯画に見えてしまうほどの馬鹿馬鹿しさなのだ。
想田は、多分アメリカでの選挙運動はよく見ているのだろう
が、その日本在住者とは違う目線が、恐らく在住者が撮る以
上に不思議な光景を描き出す。
まあ正直なところは、どうせこんなものだろうと予想してい
た通り部分もあったが、現実に映像で見せられるその異様さ
には改めて驚かされる。認識を新たにもさせてくれたし、見
せてもらって良かったとも感じられた。
因に、川崎市議は今年4月の統一選挙で通常の選挙が行われ
たが、舞台となった選挙区に山内和彦の名前はなかったよう
だ。定数+1で争われたこの選挙区では、山内を除く現職の
他に、元議員秘書という新人が自民党公認で立候補したが、
唯一人落選している。
この辺の事情も<観察>していてくれると面白かったと思う
が、それはないのかな?

『ジーニアス・パーティ』
『アニマトリックス』で話題になったスタジオ4℃の呼び掛
けで、日本のアニメ界で活躍する7人のクリエーターが競作
した短編集。
顔触れは「ポポロクロイス物語」の福島敦子、「超時空要塞
マクロス」の河森正治から、「マインド・ゲーム」の湯浅政
明、「カウボーイビバップ」の渡辺信一郎まで、本来の監督
だけでなく、設定やメカ、キャラクターなどのデザインを手
掛けている人たちが、それぞれオリジナル作品を作り上げて
いる。
作品の内容は、それなりにストーリー性のあるものから前衛
的なものまで種々雑多で、ストーリーもSFから青春ものま
でいろいろだが、基本的には未来もののSF的な題材が多く
なっていたようだ。
中には、どんな宗教にかぶれているんだか、ナレーションで
延々と薄っぺらな御託を並べているような作品もあって、こ
れはどうかと思ったが、その1本を除けば全体的な作品の粒
は揃っている感じがした。
映像は、効果のつもりか、わざとらしくぎくしゃくした描き
方のものもあったが、ほとんどはCGIの効果で、視点移動
などもスムースだし、またデフォルメやメタモルフォーゼな
ども、見ていて気持ちの良い作品が多かった。
ただ、前衛的な作品では、ルネ・ラルーやノーマン・マクラ
ーレン、それに久里洋二などを見てきた世代としては、今の
時代に最新技術を使ってもっと何かできるのではないか、と
いう感じもした。
当時の限定された技術の中で見事な作品を描いていたラルー
やマクラーレンらが、現代の技術を駆使したら、一体どんな
作品が作られるか、そんな作品が見たかったところだが、そ
れはまあ追々生まれてくることを期待したい。
なおストーリーでは、2番目の河森作品『上海大竜』が、設
定などもいろいろ細かく考えられている感じで面白かった。
ただ、敵対する存在というか、その背景が明確に提示されな
いのだが、その辺りも含めて長編に仕上げて欲しい感じもし
たものだ。

『監督・ばんざい!』
北野武監督の第13作。「ウルトラ・バラエティ・ムービー」
と称されていて、いろいろなジャンルの映画がサンプルのよ
うに登場する。
前にも書いたと思うが、北野映画は嫌いではない。ただし初
期の頃は見逃していて、僕が試写で観たのは「キッズ・リタ
ーン」からだと思うが、概ね好きな作品だ。その好きな理由
は、どの作品もそこに生の人間の存在が感じられるところだ
ろう。
特に、たけし本人が主人公を演じているときは、彼自身が醸
し出す人間臭さが好きなのだと思う。それはそれとして今回
の作品には、これも人間臭さではあるのだが、いろいろな意
味での迷いが感じられた。
映画の中でも出てくるが、北野監督は「ギャング映画は二度
と撮らない」と宣言しているのだそうだ。その監督が、最初
に「ギャング映画」のサンプルを提示する。これで「本心は
またやりたいのだろうな」と感じてしまうのは単純かも知れ
ない。でも、そんな下心を感じてしまった辺りから、僕には
この作品が消化し切れなくなってしまった。
映画監督が次回作を模索するというのは、フェデリコ・フェ
リーニの作品を挙げるまでもなく、すでに知られた手法だ。
北野監督がそれに挑戦しようというのなら、それはそれでも
良いのだが、どうもそれが中途半端に終っている。特に前半
のサンプル部分が切れ切れで、ただの自嘲に終ってしまうの
も、観ていて心苦しくなった。
一方、岸本加世子、鈴木杏、江守徹が登場する後半のメイン
の物語も、何かもたもたしていて、最初に感じた消化不良が
最後まで緒を引いてしまった。どうせならこのメイン部分だ
けで、ちゃんと映画を作って欲しかったところだ。そうすれ
ばどんな作品であろうと、評価はし易かったように思える。
つまり前半のサンプル部分がじゃまに思えたものだ。
下心に見えた「ギャング映画」を撮りたいのならまた撮れば
いい。今回も最初にサンプルで提示されるシーンは切れがあ
ったし、観客としてもそれは観たいところだ。その他にもア
クションシーンの出来はどれも満足できるものに思えた。
ただし、こんな下心を見せた直後に「ギャング映画」を撮っ
たら、それこそ「やっぱし」と思われることは必定だろう。
ここはもう1本、奇天烈な「ギャグ映画」を見せてもらって
から、本格的な「ギャング映画」への再挑戦を期待したいと
ころだが。

『イラク−狼の谷−』“Kurtlar Vadis: IRAK”
本国では歴代動員記録を塗り替えたという2006年製作のトル
コ映画。
イラク北部クルド地区を舞台に、アメリカ軍による民間人の
虐殺や捕虜虐待、さらには売買目的の捕虜からの臓器摘出な
ど、実際の事件にインスパイアされたシーンを織り込んで、
トルコから潜入した元特務機関員の男と現地女性の交流と復
讐が描かれる。
クルド地区は、本来のクルド人と、アラブ、トルコの人たち
が入り混じり、アメリカ軍の監視の許、一応の平定が保たれ
ているが、その実態は…という作品だ。
物語は、実際に起きたアメリカ兵によるトルコ兵拘束事件を
背景に、それに抗議する目的でクルドに潜入したトルコ人の
男と、これも実際に起きた結婚式での祝砲をテロと見做され
て新郎を射殺されたアラブ人の女が主人公となる。
もちろん実際の事件は、発生した場所も異なるし、脈絡はな
いものだが、どちらもアメリカ軍が引き起こした事件である
ことは間違いないものだ。そして特に最初の事件がトルコ国
民の心を深く傷つけ、今回の映画製作の切っ掛けになったと
されている。
またこの作品では、ビリー・ゼイン演じる民間人の男(CI
A?)が暗躍して、わざと完全平和が訪れないように画策し
たり、そこでの利権を吸い取ろうとしている姿が描かれて、
反アメリカの意図が明白に見えるようになっている。
その一方で、映画の中では、宗教的な指導者の導師が「自殺
テロはイスラムの教義に反する」と語るなど、イスラム過激
派に対するメッセージも打ち出されている。
実は、映画の製作国のトルコは日本と同じ親米政策を採って
いる国で、その国でこのような作品が作られることは驚きだ
が、映画はゼインの出演でも判るようにエンターテインメン
トで作られたもので、アクション映画としての面白さも充分
に味わえるものだ。
ただし、米軍の機関誌「STARS & STRIPES」では、この作品
に対し「映画を観ないこと、上映館にも近付かないように」
という勧告を行ったそうだが…
なお、映画は元々同じトルコ人秘密諜報員が活躍する人気テ
レビシリーズがあり、その映画版ということだ。本国での動
員記録もそこに一因がありそうだが、映画の中に描かれたト
ルコ人の国民感情も大ヒットの根底にはある訳で、その点も
理解したいところだ。
主演は、テレビシリーズにも主演したネジャーティ・シャシ
ュマズ、他に『キングダム・オブ・ヘブン』に出演のハッサ
ン・マスード、米軍関係では『メンフィス・ベル』のゼイン
の他、『ビッグ・ウェンズデー』のゲイリー・ビジーらが出
演している。

『怪談』
三遊亭圓朝の名作「真景累ヶ淵」を、『リング』の中田秀夫
監督、『しゃべれども しゃべれども』の奥寺佐渡子脚本で
映画化した作品。
物語は、深見新左衞門の皆川宗悦殺しに始まり、富本の女師
匠・豊志賀と煙草売り新吉の恋物語へと続く。しかしそれは
親の代から続く因縁の果てに生じたものであり、やがてそれ
が怨念を生み、お久、お累、お園、お賤へと続く悲劇の連鎖
を描いて行く。
オリジナルは、口演すると8時間に及ぶとされる大作だが、
映画はその全編を2時間に見事にダイジェストしたものだ。
しかも豊志賀の心変わりなどは、映画化では初めて原作に忠
実に描かれていると言うことで、これが見事に現代にマッチ
するものになっている。
残念ながら僕は、「真景累ヶ淵」を通しで聞いたことはない
のだが、この映画に描かれた舞台や風景は一つ一つ納得でき
るものだったし、それはある意味リアルではない部分もある
のだが、それらが見事に作品として統一されたものになって
いた。
それに、最初に一柳斎貞水による講釈を据えることで、虚構
の物語への導入もスムースになっており、そこからはゆっく
り映画の世界に浸れる感じがした。
主演は、新吉役を歌舞伎の尾上菊之助、豊志賀を黒木瞳、お
久を井上真央、お累を麻生久美子、お園を木村多江、お賤を
瀬戸朝香。他に、津川雅彦、榎木孝明、三石研らが共演。特
に、尾上と黒木の堂々とした演技は、日本映画として恥ずか
しくないものだ。
また、撮影:林淳一郎、照明:中村裕樹、美術監督:種田陽
平、衣装デザイン:黒澤和子というスタッフも、完成された
舞台を思わせる重厚な雰囲気を描き出して、映画の完成度を
高いものにしている。
それにしても、物語は宗悦の怨念が許になる訳だが、その怨
みを晴らすために実の娘まで利用してしまうというのも酷い
話だ。しかも相手は、直接自分を殺した本人ではないのだか
ら、こんな理不尽な話もない。
そんな無茶苦茶な話を、この映画では、豊志賀の恋という一
点に集約させて、見事に理に叶ったものにしている。これは
原作の通りの物語だというのだが、その物語をこのように理
路整然と集約させてみせた脚色も見事だし、それを映像化し
た演出も素晴らしかった。
観る前までは、何で今さらこんな古典をという疑問も感じて
いたものだが、映画は確かに今の時代に再話されていいと思
える作品だった。

『ベクシル−2077日本鎖国−』
2002年『ピンポン』の曽利文彦監督によるCGIアニメーシ
ョン作品。元々曽利監督は、テレビや映画のVFXスーパー
ヴァイザーも努めるCGIアーチストということなので、作
品の成立自体には問題はなったようだ。
物語の背景は、日本が西暦2067年にハイテクを駆使した完璧
な鎖国に入ってから10年後の世界。日本は情報通信の出入り
は勿論、衛星からの光学的な監視も攪乱して、その国内の状
況はまったく不明となっている。
鎖国の原因は、ロボットとバイオ技術に関して原子力と同様
の国際監視が行われることに反対したため。詳しくは、精密
なアンドロイドとバイオ技術を応用した人間の延命技術を日
本が独占しようとし、それを規制しようとする国際社会から
孤立したということだ。
しかし日本からの軍事用を含むロボットの輸出は継続して行
われており、その貨物に隠れて、「近いうちに大変なことが
起こる」という情報がもたらされる。しかもその情報を運ん
だのは、若者そっくりなのに生体反応の検出されないアンド
ロイドだった。
この情報に、ハイテクを駆使する米国の特殊部隊Swordは、
「日本に関わるな」という大統領命令を無視して精鋭部隊を
日本に潜入させることにする。その目的は、内部から特定電
波を発信することで攪乱パターンを解析し、光学監視を復活
させるものだったが…
こうして、Sword隊員のベクシルとレオンは日本に向かうこ
とになる。そこには、鎖国によって強制退去させられるまで
のレオンの恋人マリアもいるはずだった。
鎖国までの経緯などにはかなり強引なところもあるが、それ
はフィクションだから認められる範囲だろう。その他の物語
全体の流れも、多少強引ではあるが、僕にはSFとして許容
できる範囲だった。
映像は3Dアニメーションではなく、3Dの背景の中にモー
ションキャプチャーを使った2Dアニメーションのキャラク
ターが演技をするというもので、フランス映画祭関連で紹介
した『ルネッサンス』などもこの方式だが、僕は多少違和感
を感じてしまうものだ。
でもまあ、アクションなどは見事な迫力で描かれているし、
そのアクションに絡んで時間制限を利用した設定などもうま
く機能していて、作品的には見応えがあった。それに全体の
雰囲気がそれほど重々しく作られていないのも、良い感じが
した。
声優は、ベクシルを黒木メイサ、レオンを谷原章介、マリア
を松雪泰子が担当しているが違和感はなかった。他は、大塚
明夫などプロの声優が担当している。
                   (5月12日更新)



2007年05月01日(火) 第134回

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
※このページは、キネマ旬報誌で連載中のワールドニュー※
※スを基に、いろいろな情報を追加して掲載しています。※
※キネ旬の記事も併せてお読みください。       ※
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
 今回はニュースが多いので早速始めよう。
 まずは続報で、第129回で紹介した“Barbarella”のリメ
イクに関して、脚本に、『カジノ・ロワイヤル』のニール・
パーヴィスとロバート・ウェイドの契約が報告された。
 このリメイクは、1968年のオリジナルも製作したディノ・
デ=ラウレンティスが、先に買収したモロッコの撮影所で進
めているもので、以前の紹介でもディノ自身が「女性版ジェ
ームズ・ボンド」と呼んでいたものだから、その思惑通りの
脚本家が決まったというところだ。しかも、『カジノ…』も
シリーズ再構築の第1作として考えられた作品で、今後のシ
リーズ化を期待される本作には最適というところだろう。
 またディノは、イアン・フレミングの初期の作品である原
作を、見事に現代にマッチさせた脚本家の手腕にも期待して
いるとのことだ。そしてリメイクでは、主人公は何事にも自
由な現代女性で、彼女が、自らの知識と、戦いのスキルと、
セクシャリティを駆使して未来世界の中を生き延びて行く物
語にしたいとしている。
 なお、脚本家たちは、『カジノ…』に続く“Bond 22”の
執筆はすでに済ませたとのことで、続けてリメイクに取り掛
かれるようだ。またリメイクの監督には、『ハンニバル・ラ
イジング』のピーター・ウェバーが予定されている。
 具体的な製作のスケジュールや配給会社などは未定だが、
配給会社に関しては脚本の完成と主な出演者の決定を待って
交渉を始めるとしている。因に、『…ライジング』の海外で
の配給権はTWCが獲得したが、これは映画が完成してから
交渉が行われたものだそうだ。
 また配役に関しては、以前の報告ではドリュー・バリモア
が熱心だったことを紹介したが、現在はケイト・ベッキンセ
ールが第1候補として考えられているようだ。
 一方、今回のリメイクに関しては、原作者ジャン=クロー
ド・フォレストの子息との間で映画化権の契約が再締結され
ており、その際、同時に原作のアメリカでの出版も契約され
たようだ。これによって、原作本の最初の2巻の英語版が出
版されるとのことだが、実はこの原作は今まで英語に翻訳さ
れたことがなかったのだそうだ。原作の紹介なしにかなりの
話題となった前の映画化も大したものだが、今回は両面から
の宣伝戦略が繰り広げられることになりそうだ。
        *         *
 前回報告したブライアン・シンガー監督の計画で新たな動
きが生じた。
 実は前回の記事で、元々あった小規模な作品としたのは、
“The Mayor of Castro Street”という作品。アメリカで初
めてゲイを公表して公職選挙に臨み、当選、その後に暗殺さ
れたハーヴェイ・ミルクという人の伝記で、ランディ・シル
ツによる原作は15年前に発表され、以来映画化が期待されて
いた。そしてシンガーは、2年前にこの企画をワーナー・イ
ンディペンデントに持ち込み、クリス・マクアリーによる脚
色もすでに最終段階だった。しかし、内容面で映画会社が製
作に踏み切れないでいたものだ。
 ところが、一昨年の『ブローバック・マウンテン』の成功
で、ゲイに対する映画界の評価が変化し、今ならこの企画も
行けるのではないかと判断されたようだ。しかも、実は以前
に同じ企画に係っていたガス・ヴァン=サントが同様の企画
を他社で立上げることを発表しており、本作はそれより前の
完成が望まれている。
 なお現状では、前回報告したUAの計画はトム・クルーズ
出演で7月8日の撮影開始が決定されており、今回の伝記の
映画化はそれが終り次第となるが…“Superman”の続編は、
2009年の公開が希望されているそうだ。
        *         *
 ロブ・マーシャル監督が、作品賞を含むオスカー6部門を
受賞した2002年の『シカゴ』以来となる旧ミラマックス=ワ
インスタイン兄弟と組むことが発表された。
 作品は、1982年に初演されたブロードウェイミュージカル
“Nine”の映画化。フェデリコ・フェリーニ監督の1963年作
品『8½』(公開時の邦題は、確か分数の間の線は水平だっ
たと思うが、フォントが見付からないので、これでご容赦)
にインスパイアされた物語と言われるこのミュージカルは、
新作の構想を進める映画監督が、人生で関った過去の女たち
の亡霊に振り回されるというものだ。そしてこの作品は、現
実と幻想の境に切れ目のない構成ということで、この構成は
マーシャル監督が最も得意なものとしている。
 オリジナル舞台は、アーサー・コピットの脚本、モウリィ
・イェストンの作詞・作曲で、ラウル・ジュリアが主演した
初演では作品賞を含む5個のトニー賞を獲得、アントニオ・
バンデラス主演の2002年の再演でも2個を受賞している。今
回の映画化では、そのコピットとイェストンも総指揮に名を
連ねての製作が行われるものだ。なお振り付けは、マーシャ
ルと、『シカゴ』でも組んだジョン・デルッカが担当する。
 また、映画化に当っての脚本は新たに執筆されるが、その
脚本家はこれから選考されるとのこと。ただし脚本は、先に
配役を決めてその俳優に合わせた脚色を行うという方針で、
まずキャスティングが話題になりそうだ。製作時期は2009年
頃が予定されている。
        *         *
 ユニヴァーサルが2008年の夏の公開を予定している“The
Mummy”(ハムナプトラ)シリーズ第3弾に、前2作に主演
したブレンダン・フレイザーの再出演が契約され、今年夏後
半の撮影開始に向けて準備が進められている。
 因に今回の計画では、第129回でも報告したように、敵役
にはジェット・リーが登場の予定になっているが、その物語
の舞台も中国になるようだ。
 一方、前2作に出演し、その後に出産とオスカー女優にも
なったレイチェル・ワイズは、現状ではスケジュールの都合
で出演は望めないようだ。ただしこれは本人が拒否している
ものではなく、突然出演が決まったときのために、マイルズ
・ミラー、アルフレッド・ゴーフの脚本は2本用意されてい
るそうだ。因に、彼女のスケジュールでは、フィリップ・ノ
イス監督の“Dirt Music”という作品が8月撮影開始の予定
になっている。
 と言うことで、脚本が最終決定しない段階では映画会社か
ら公式のゴーサインは出せない状況だが、撮影開始の時期は
確定とのことだ。なお監督は、『スティルス』などのロブ・
コーエン。前2作を手掛けたスティーヴン・ソマーズは製作
を担当している。
 なお、フレイザーは、ウォルデン・メディア製作の『地底
探検』の3Dリメイク“Journey 3D”と、ニューライン製作
でイアン・ソフトリー監督のファンタシー作品“Inkheart”
が、いずれも2008年の公開予定となっており、1年間に3本
の大型作品出演は、かなり注目を浴びているようだ。
        *         *
 以前から紹介しているマーヴル・コミックスによる自社作
品の直接映画化が始動され、その第1弾として“Iron Man”
の撮影が、ロバート・ダウニーJr.、グウィネス・パルトロ
ウ出演、ジョン・ファヴロー監督で3月に撮影開始された。
そしてそれに続く第2弾の“The Incredible Hulk”では、
主人公ブルース・バナー役をエドワード・ノートンが演じる
ことが発表されている。
 ノートンは、『レッド・ドラゴン』や『ミニミニ大作戦』
でも記憶されるが、最近では『キングダム・オブ・ヘブン』
での仮面の出演の他は、インディーズに活動の中心を置いて
おり、2005年5月に紹介した『ダウン・イン・ザ・バレー』
などへの出演や監督業も行っているようだ。従ってユニヴァ
ーサルが配給するこの作品では、久々のハリウッド映画への
出演ということになるものだ。
 その他の配役は未発表だが、脚本は、『X−メン』『ファ
ンタスティック・フォー』、それに『エレクトラ』を手掛け
てマーヴル作品の映画化では実績のあるザック・ペン。監督
は、『トランスポーター2』のルイス・ルテリエで、撮影は
今夏にカナダのトロントで開始される。
 因に、アン・リー監督で、エリック・バナが主演した前作
は、主人公が内省的になり過ぎて、『スパイダーマン』から
『ゴーストライダー』まで続くマーヴルコミックスの映画化
の中では希な不成功作とされているものだが、今回は、物語
を原作コミックスや、往年のテレビシリーズの路線に近いも
のにして、人気の巻き返しを図ることになるようだ。
 それで、インディーズに活動中心を置く俳優の主演という
のも不思議な感じだが、マーヴルの代表からは、「ノートン
は、現在の映画界の中で、最も多才で、天賦の才能に恵まれ
た俳優だ。このマーヴルの中でも最も人気があり、重要なキ
ャラクターを映画化するにあたって、彼ほど最適な人物はい
ない」との発表もされており、『ハルク』の映画化は、やは
りそれなりの覚悟を持って行うことになりそうだ。
 なお、全米公開は“Iron Man”が2008年5月2日、“The
Incredible Hulk”は続く6月13日に予定されている。
        *         *
 続いてマーヴルの情報で、『X−メン』からのスピンオフ
第2弾“Magneto”の監督に、『ブレイド』3部作や『ゴー
ストライダー』、さらに『バットマン・ビギンズ』の脚本を
担当し、『ブレイド3』の監督も努めたデイヴィッド・ゴイ
ヤーの起用が発表された。
 この作品は、第77回でも紹介したように『X−メン』3部
作ではサー・イアン・マッケランが演じた敵役マグニトーの
生い立ちを描くもので、第2次大戦末期のアウシュヴィッツ
強制収容所での超能力の発現や、そこに救出部隊の兵士とし
て現れたザヴィア(プロフェッサーX)との出会い。さらに
は、救出後にその超能力を使ってナチ残党狩りを始めたマグ
ニトーとザヴィアの対立などが描かれる、とのことだ。
 因に、描かれるマグニトーとザヴィアは、共に20代とのこ
とで、さらにナチ残党狩りを描くということでは、かなりの
アクションも演じられることになる。従って、マッケランも
ザヴィア役のパトリック・スチュアートもそのままでの出演
は難しそうだ。また、ナチ残党狩りということでは、『ブレ
イド』にも似た展開になりそうで、その点でのゴイヤーの起
用は面白い。なお脚本には、以前に紹介したシェルドン・タ
ーナーのものが使用される。
 一方、スピンオフ第1弾の“Wolverine”は、デイヴィッ
ド・ベニオフの脚本と、ヒュー・ジャックマンの主演がすで
に発表されているが、こちらはまだ監督が決定していないよ
うだ。ただしこれも近日中に発表されると思われるが、今年
は、『ゴーストライダー』『スパイダーマン3』に続いて、
“Fantastic Four: Rise of the Silver Surfer”の全米公
開も6月15日に行われるマーヴル作品の映画化は、来年はさ
らに強化されることになりそうだ。
        *         *
 そしてもう一つマーヴルの情報で、日本では今日世界最速
公開された『スパイダーマン3』の後続の計画が、本格的に
動き出しているようだ。
 この情報では、ソニー・ピクチャーズが、すでに“Spider
-Man 4”“5”“6”の製作を決定したという報告に始まり、
その作品には、サム・ライミ監督とトビー・マムガイア、そ
れに一番の難関と思われていたキルスティン・ダンストの出
演も確実となっているそうだ。
 ただしダンストの発言では、「次回の作品までには、少な
くとも4年は間を開ける」としており、その計算で行くと、
シリーズ再開は2011年ということになる。またその場合は、
3年連続の公開という可能性もあるものだ。
 一方、ライミ監督には“The Hobbit”の計画もオファーさ
れていたものだが、実はこの計画では、権利の一部をMGM
が所有していて、現在共にソニー傘下の兄弟会社の関係にあ
るコロムビアとの関係も良いという状況もあった。
 しかし、2011年の“Spider-Man”シリーズ再開となると、
同じく3部作の計画されている“The Hobbit”はスケジュー
ル的に難しくなるもので、ライミ監督には、もっと小規模な
作品の可能性はあるものの、ちょっと“The Hobbit”までは
手が回らなくなりそうだ。後は監督の判断次第だが、どう結
論が出ることになりますか…。因に監督は、「このシリーズ
(Spider-Man)を離れるのは、自分にとって非常に辛いこと
だ」と発言しているそうだ。
 また、関連の情報でマーヴル社からは、“Spider-Man”を
ミュージカル化して、ブロードウェイに懸ける計画を進めて
いることも発表された。
 発表によるとブロードウェイ版は、トニー賞受賞の『ライ
オン・キング』のミュージカル版や、映画では『タイタス』
『フリーダ』などを手掛けたジュリー・テイモアが演出を担
当し、U2のボノが作詞作曲を手掛けるというもの。上演の
時期などは未定だが、今年の夏にオーディションを開始する
としている。
 映画ではCGIで再現されたシーンをどのように実演で表
現するか、ワイアエフェクトが多用される作品にはなりそう
だが、一体どのように完成されるか楽しみだ。それに原作の
物語では、MJはブロードウェイスターを目指しているもの
だが、それがその舞台で演じられるのも面白いところだ。
        *         *
 この夏公開される“Harry Potter and the Order of the
Phoenix”で、Imaxでの同時上映が行われ、その中の約20分
を3D化することが発表された。
 このImaxによるパート3Dは、昨年の『スーパーマン・リ
ターンズ』でも行われたものだが、全米の公開ではImaxだけ
で3100万ドルの興行成績を上げたとのことで、今年は『ハリ
ー・ポッター』でそれが行われることになったものだ。
 因に、Imaxでのハリウッド作品の3D化上映では、2004年
の『ポーラー・エクスプレス』が大成功を納めた他、『アン
ト・ブリー』『オープン・シーズン』などのアニメーション
作品では全編の3D化が行われている。一方、実写作品の場
合は、一般公開との同時封切りを目指すと、映画の完成から
公開までの短期間での全編の3D化は困難で、20分程度が限
界とされる。
 しかし昨年は、アニメーションの『ハッピー・フィート』
の3D化が間に合わず、その公開が断念されたことが、Imax
社全体の業績不振に繋がったとも言われ、今年は『ハリー・
ポッター』のパート3Dで、その巻き返しを図ることになる
ようだ。因にImaxでは、全米は『300』に続いて、『スパ
イダーマン3』の上映も予定されているが、これらはラージ
フォーマットではあるが2Dで上映されるものだ。
 ハリウッド作品の3D上映では、後発のドルビーリアルD
が公開規模や作品数で着々とリードを広げており、Imaxは、
以前からの実績でワーナーとの協力体制は得られているもの
の、その前途は多難なようだ。
        *         *
 2005年10月の第96回と第104回でも紹介したファンタシー
“Bridge to Terabithia”が先に行われた全米公開で8100万
ドルを記録、海外でも2700万ドルと、合計では1億ドル突破
となっているガボール・クスポ監督が、同作に出演のアナソ
フィア・ロブを主演に起用して、さらに2作品の監督計画を
発表した。
 その1本目は、“The Moon Princess”と題されているも
ので、1946年にエリザベス・グージが発表した“The Little
White Horse”という児童向け作品を映画化するもの。内容
は、13歳の少女による魔法世界での冒険を描くもので、そこ
で彼女は古代の呪いと闘うことになるようだ。撮影は夏に開
始の予定で、少女のエキセントリックな叔父さん役をコリン
・ファースが演じることになっている。
 また、2本目は“The White Giraffe”という作品で、ロ
ーレン・セントジョンという作家の、イギリスでは昨年8月
に出版されたが、アメリカはウォルデン・メディアの出版部
門でこれから出版される作品を映画化するもの。イギリスか
らジンバブエに渡った少女の体験を描いた作品で、その地で
神秘的な白キリンに巡り会うという物語だが、原作者自身の
体験に基づいているとのことだ。
 因にロブは、『チャーリーとチョコレート工場』、それに
『リーピング』に出ているが、かなり違う役柄を見事に演じ
ており、これからが楽しみな若手女優だ。またクスポ監督に
関しては、“The Rugrats”の製作者だったということで、
以前の紹介を訂正しておく。
        *         *
 ちょっと短いニュースで、1970年公開の“Colossus: The
Forbin Project”(地球爆破作戦)にリメイク計画が持ち上
がっている。
 作品は、イギリスのSF作家D・F・ジョーンズが1966年
に発表した原作“Colossus”に基づくもので、西側世界の防
衛のために作られた大型コンピュータが、同様の目的で東側
に作られたコンピュータと結託して人類に刃向かうというお
話。前の映画化はジョセフ・サージェントの監督で、そこそ
この評判を得ていた。因にこの作品は、『ターミネーター』
の元ネタとも言われているものだ。
 その作品を、今回はロン・ハワードの監督作品として計画
が進められているもので、脚本にはブラッド・ピット主演で
ワーナーが進めている“The Sparrow”のジェイスン・ロー
ゼンバーグが起用されている。なお、原作にはジョーンズ自
身が執筆した続編が2作あるそうで、今回の脚本はそれも加
味して作られているとのことだ。
 ただし、ハワード監督には前回最後に紹介した作品も含め
て計画が目白押しで、実現が何時になるかは不明のようだ。
        *         *
 後は続報をまとめて紹介する。
 まずは、第111回で紹介した“Clash of the Titans”のリ
メイクに関し、脚本をローレンス・カスダンと契約したこと
が発表された。オリジナルは、ゼウスの息子ペルセウスが、
アンドロメダ姫救出のため、ペガサスを捕えたり、メデュー
サと闘ったりという物語が描かれたが、『レイダース/失わ
れた聖櫃』『SW帝国の逆襲』『SWジェダイの復讐』の脚
本家がどのような物語を造り出すか楽しみだ。監督は未発表
だが、カスダンには監督の経験もある。
 第107回で紹介したジェリー・ブラッカイマー製作による
“Prince of Persia: The Sands of Time”の監督に、マイ
クル・マンの契約が発表された。この作品はヴィデオゲーム
に基づくもので、以前の報告では『デイ・アフター・トゥモ
ロー』のジェフリー・ナチマノフが脚色を担当することにな
っていたが、マンの起用で物語は大幅に変更されるという噂
もあるようだ。公開は2009年に予定されている。
 『ナルニア国物語』の第3章となる“The Voyage of the
Dawn Treader”の監督に、『ワールド・イズ・ノット・イナ
フ』のマイクル・アプテッド監督の起用が発表された。物語
は、再びナルニアを訪れたエドマンドとルーシーの冒険を描
くもので、『愛は霧のかなたに』や『ネル』の監督がどのよ
うな展開を見せてくれるか楽しみだ。なお、第2章“Prince
Caspian”まではアンドリュー・アダアムスンが監督してい
る。また第4章には、“The Silver Chair”の映画化が決定
したようだ。


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井口健二