井口健二のOn the Production
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2006年05月31日(水) 深海、タイヨウのうた、日本沈没

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※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介しています。     ※
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『深海』“深海”
昨年の東京国際映画祭・アジアの風部門(台湾‥電影ルネッ
サンス)で上映された作品。
監督チェン・ウェタンの前作は、一昨年の映画祭ではコンペ
ティションで上映され、実はその時はあまり評価しなかった
のだが、今回はそれなりに物語も理解できるものだった。
主人公の女性は、刑務所から出所したばかり。その罪が何だ
ったかは映画の後半で明らかにされるが、取り敢えずは「頭
の中でスイッチが入ると、それを自分では切れなくなるから
薬を飲み続けている」という台詞が紹介される。
つまり、直情的というか、感情の抑制の利かない心の病を抱
えた女性ということだ。その主人公が出所しても行き場が無
く、刑務所で声を掛けてくれた年上の女性の許を訪ね、台湾
南部の港町高雄にやってくる。そして彼女の経営するクラブ
で働き始めるが…
そこで容姿の優れた主人公は、男性たちに言い寄られる。そ
して最初は、彼らの期待通りにことは進むのだが、やがて彼
女の感情は男を独占しなくては済まなくなり、男はそれが煩
わしくなる。
物語では、心の病として顕著化されているが、このような感
情は男女を問わず多くの人が持っていると思うし、それが愛
しく思えるか煩わしくなるかは紙一重のことだろう。このこ
とがこの映画では、心の病ということで強調されているだけ
のようにも感じた。
だからこの映画では、実は普遍的な男女の関係を描いている
のでもあり、逆に心の病とすることで一歩距離を置いて見ら
れる分、その状況がより明白になっているようにも思える。
特に僕は男性として、この物語の女性の立場には同情した。
そして物語は、最後にある種の救いを描き出す。それ自体が
救いであるかどうかは判らないが、それによって周囲の人の
目が開かれて行くことには、きっとその後に救いがあると思
える結末だ。

「深情似海」というのが、監督がこの物語を作り出す切っ掛
けになった言葉だそうが、海のように深い愛情というのは、
当事者にとっては負担であったり捉え方は様々だろう。でも
そんな深い海の中を男女は泳いでいるということだ。

『タイヨウのうた』
XP(色素乾皮症)という紫外線に当たると皮膚癌を発症す
る難病の少女と、サーファー少年の恋を描いた鎌倉七里が浜
が舞台の作品。
音楽の好きな少女は昼間は出歩けないため、夕方まで寝て、
深夜ギターを抱えて駅前でストリートライヴを行っている。
しかし、日の出までには帰宅し、帰宅した少女は寝るまでの
間、紫外線遮断のスクリーンを下ろした窓から早朝のバス停
を眺める。そのバス停にサーフボードを抱えて現れる少年を
見るために。
そしてある夜、ライヴを始めようとした少女の目の前を、そ
の少年が通り過ぎる。咄嗟に少女は少年の後を追い、捕えて
自己紹介をするが…
この手の難病ものは、ここに来て何本も紹介しているように
思えるが、お手軽に感動を呼べるということでは作り手も気
楽なのだろうし、製作資金も出してもらいやすいのかも知れ
ない。それにしても、世の中には実にいろいろな病気がある
ものだ。
この映画のプレス資料には、XPの説明コラムもあり、現在
は国の難病指定も受けられていないという、この病気の現状
も紹介されている。コラムにあるように、この映画でその方
面への働き掛けが進めば、それも良いことと言えるだろう。
しかし、それがプレス資料を読まなければ判らないのは多少
問題だ。その現状は、やはり映画の中でもっと語られるべき
だと考える。その意味では、僕は映画そのものには納得でき
なかったが、紹介はしなければならないと感じるものだ。
また映画は、主演に歌手のYUIを起用して、音楽を前面に
出した作りになっている。このYUIの歌自体は悪いとは思
わないし、ライヴの捉え方も良い。でも、それならもっと別
のテーマの映画でも見たかったという感じもした。
元々は1993年の香港映画のリメイクということで企画された
作品ということだが、特にXPという病気を扱ったのには、
それなりにインスパイアされた実話もあったと想像される。
それならもっとその辺の事実も取り入れて、もっと現実的な
問題も描いて欲しかったようにも感じた。

ただ、映画が意外とウェットにしないで描いていることには
好感が持てた。人は涙を流すと、その涙の部分しか思い出せ
なくなってしまうという話もあるようだから、難病のことを
覚えて置いてもらうためには、これは良いと思えたものだ。

『日本沈没』
原作は1973年3月に発行されて史上最高のベストセラー。映
画の公開はその年の12月で、これも日本の興行記録を塗り替
える大ヒットを記録した作品のリメイクだが…
<以下の記事はこのページの趣旨に反します。いつもは、こ
の種の記事は年末に同人誌に掲載させてもらっていました。
でも今回は、僕自身どうしても納得ができないので公表する
ことにします。読まれる方は注意して読んでください。>
結末の変更のことは事前に知っていた。詳しい内容までは知
らなかったが、こうなるという情報は先に得ていた。それに
去年の『戦国自衛隊』辺りから、この種の改変は日本映画の
常套手段な訳だし、その時に文句を言わなかったのだから、
これはもう仕方のないことだ。
ましてや、その『戦国自衛隊』をジャンル名だと言い放った
原作者の小説の映画化をデビュー作とした監督が手掛けるの
だから、こうなることは分かり切っていたとも言える。だか
らそれに付いてとやかく言うのは止めにしたい。多分『日本
沈没』もジャンル名のつもりなのだろう。
でも本当は、この監督の「実は『さよならジュピター』のリ
メイクを目指した」という言葉を聞いて、そういう発言をす
る人ならと、淡い期待は持ったものだ。だから、結末の変更
をある程度言い訳するような記事を書くつもりでいた。
しかしこの映画は、そんな結末に至る以前から首を傾げたく
なるシーンだらけの作品だった。
ステレオタイプの政治家に、噴飯ものの男女関係。SF映画
を駄目にする2大要素が見事にそろった作品、というのがま
ず最初に見えてくるこの作品の印象だ。国民に伝えるべき事
実を隠したり、保身に走ったりというのは、現代の政治家に
対する批判のつもりかも知れないが、こう底が浅くては批判
にも何もなりはしない。
さらに、幼稚な男女関係の描き方は、「トレンディー・ドラ
マ」を踏襲したつもりなのだろうが、そんなものをべたべた
と描き続けた上に、その男女が出陣を前に抱き合うシーンで
は感傷的な主題歌がかぶさるときたものだ。
多分、作り手はここでお涙頂戴のつもりなのだろうし、実際
にここで涙している観客もいたようだが、そんなものがSF
映画の魅力か? SF映画で涙したと言われると、過去には
『E.T.』や『アルマゲドン』が話題になったが、どちらも
こういうシーンではなかった。
それに、この物語で感動すべきはこんな特攻隊のパクリのよ
うなシーンではなくて、その後に描かれる逃げ延びた人たち
が救助されるシーンのはずだ。ところが、こちらはそこまで
のサヴァイバルが真剣に描かれていないから、ここでは感動
も何もありはしない。
実際、男女がくっついたの離れたのなんて話を、いつまでも
ごちゃごちゃやっているから、肝心のパニックはほとんど描
けていないし、ミニチュアをCGIに替えれば、ビルの倒壊
などは派手にはなるが、所詮はアニメーション、そちらでは
何度も見ているものだ。
SF映画に人間関係は要らないとは言わないが、本筋をじゃ
まするようでは困る。この映画で言えば、主人公の同僚の潜
航艇パイロットが家族と故郷の話をし、艇内に写真を飾る。
その程度で充分なものだ。この映画では、彼だけが俳優の役
作りも含め真剣なように見えた。
結末をぶっちゃけると、日本は沈没しないのだが、そのやり
方にしてからが、潜航艇で海に潜って行く辺りまでは『ジュ
ピター』へのオマージュを感じさせたが、やっていること自
体は『アルマゲドン』と『ザ・コア』のパクリとしか言いよ
うがない。
それに、このやり方自体が、常識的に見て容認できるものか
どうか。第1にあんな程度のことでプレートを断裂出来るも
のとも思えないし、仮に出来たとしても、ほんのちょっとの
歪みの解消でも大地震を引き起こすプレートの変動を、あん
なに大規模にやられて、そのマグニチュードは…? それこ
そ日本沈没級のものだろう。
小説も含めた前作の中では、エネルギーが日本海側に抜ける
トンネル効果の表現が科学的考証では一番の弱点と言われた
ようだ。でも、僕はそこがSF的外挿法として一番好きな部
分でもあった。でも今回のこれはその範疇を超える。これで
は、さぞや竹内均先生も草葉の陰でお怒りのことだろう。
田所が新聞紙を破ったり、国宝の仏像を運び出すシーンがあ
ったり、前作へのオマージュと思われるシーンはいろいろあ
るが、特に後者は前作を見ていないと殆ど意味不明のシーン
になってしまっている。これでは新たな観客に失礼だ。
さらに監督は、脚本の弱さをいろいろなオマージュで糊塗す
ることを製作方針としたようだ。それは、木造家屋の下町風
景やエピローグの政治家の演説などに端的に現れる。これら
は昔の東宝特撮映画のパターンだったものだ。
でもこれは当時から批判の対象でもあったもの。これで特撮
マニアを喜ばせたつもりだろうが、いまさらやられても恥の
上塗りの感じだ。
一方、どうせここまでやるなら、最後に主人公が救出される
エピローグでも付けたらいいという意見もあるようだ。浜松
辺りの海岸に潜航艇の残骸が打ち上げられ、そこから主人公
が出てきてヒロインと抱き合うとか…
実は、『さよならジュピター』の映画化の後で、僕は小松氏
から、「『ジュピター2』は主人公がジュピターゴーストに
救出されるシーンから始まる」と聞かされたことがある。も
ちろん冗談だが、どうせやるならゴジラが潜航艇の残骸を抱
えて浜松に上陸してくるのも良かったように思えた。
結局のところ、この作品の問題点は、監督がオマージュに拘
わりすぎたことと、それで満足してしまったことにあるよう
に思える。最初に用意された脚本がどのようなものかは判ら
ないが、それを読んだ監督がそれでは駄目だと感じたところ
はあったのだろう。
でも、やるべきことはこのような誤魔化しではなかった。努
力の跡は見られるが、その努力を傾注する方向性が間違って
いる。そんな風に感じられる作品だった。

(6月3日更新)



2006年05月30日(火) ポセイドン、ハイジ、僕の世界の中心は君だ、バタリアン4、ウルトラヴァイオレット、王と鳥、サイレントヒル

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※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介しています。     ※
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『ポセイドン』“Poseidon”
ポール・ギャリコの原作で1972年に映画化された『ポセイド
ン・アドベンチャー』のリメイク。大晦日の夜、突然の高波
で転覆し、上下逆さまになった大型客船の中を、船底にある
はずの脱出口を求めて登って行く人たちのサヴァイバルが描
かれる。
前々回、巻頭約20分の特別映像を紹介したが、今回はその完
成披露試写が行われ、全編を大画面で見ることができた。
それで、まず驚いたのは上映時間が99分しかなかったこと。
ペーターゼン監督作品は、前作『トロイ』は2時間42分あっ
たし、それ以外の作品もどれも2時間を超えている。また、
1972年のオリジナルは117分だったから、それに比べてもず
いぶんと短い。
しかし短くなった分、登場人物には迷っている暇もないし、
何しろ物語が一気に進んでしまう。そのテンポにはもの凄い
ものがあった。
オリジナルは、オスカーを受賞したThe Morning Afterとい
う主題歌の題名から判るように、真夜中から翌朝まで掛かる
話で、しかもその後も船は浮いているという展開だったが、
今回の主人公たちは、転覆した船がそんなに長く浮いている
はずはないという認識で、何しろ時間との競争で脱出劇を演
じて行く。そして彼らの背後からは、水や炎が刻一刻と迫っ
てくるのだ。
ジェットコースター・ムーヴィと言えばその通りだろう。細
かなことは言わずに、映像の迫力で、力づくで押し切ってし
まう感じの作品だ。これは言い換えるとゲーム感覚となるか
も知れない。このゲーム感覚は、日本の観客には案外受けそ
うな感じもするものだ。
ただし、上映時間が短い分、人間ドラマはほとんど描かれな
い。人間関係の描写は、父親と娘とその恋人の話などが僅か
にはあるが、その経緯などはほとんど語られない。特に、リ
チャード・ドレイファスが演じる人物の背景などはほとんど
判らないままだ。
事前の情報でドレイファスの役柄は、世間から見捨てられた
ゲイの男となっていたが、実際の作品でもほとんどそれだけ
だった。これだけの人物設定で役者が演じてみたいと思える
ものかどうか、ちょっと疑問にも感じてしまうところだが…
一方、この作品が原作ものである以上、物語の改変や人物設
定の変更がどこまで許されるものか。すでに原作が映画化さ
れて、その続編を原作から離れて映画化するときや、コミッ
クスの映画化のようにキャラクターだけを活かすのなら、そ
れなりに自由な発想の映画化は許されると思う。だが、本作
はあくまでもギャリコの原作そのものの映画化なのだ。
そう考えたときに、敢えて人物を描かないことは、一つの原
作に対する敬意の表し方ではないかと思えてきた。
試写で見なかったり、気に入っていなかったりなので、ここ
には書かなかったが、昨年公開された某日本SFの映画化の
リメイクでは、原作小説の次空を超えた雄大な物語を、ちま
ちまとした現代兵器を戦国時代に持ち込んで大暴れするだけ
の貧しい物語にしてしまっていた。
そんな原作を蔑ろにした作品は、リメイクとは言わずに別の
題名でオリジナル作品として映画化すればいいのであって、
原作の知名度だけを利用した姑息なやりかたには不快感だけ
が残ったものだ。
その点から言えば、今回の『ポセイドン』の映画化では、敢
えて原作とは異なる人物設定の部分は省略することで、原作
の改変を最小限に押さえ、原作を現代化することに挑戦した
という解釈もできそうだ。それはそれで、理解したいとも思
えるところだ。
それと、前作でははっきりとしなかった脱出口が、今回は明
瞭に示されたことも納得できた。

『ハイジ』“Heidi”
ヨハンナ・スピリの名作を映画化したイギリス映画。撮影は
スロヴェニアで行われ、原作の雰囲気にピッタリの素朴なア
ルプスの景観と、首都リュブリアナでは当時のフランクフル
トの町並が再現撮影されている。
主人公のハイジ役は、『イン・アメリカ』などのエマ・ボル
ジャー。ペーターを『耳に残るは君の歌声』などのサミュエ
ル・フレンド、クララを2004年版“Five Children and It”
(砂の妖精)に出演のジェシカ・クラリッジなどの実績のあ
る子役たちが演じている。
また共演は、マックス・フォン・シドー、ジェラルディン・
チャップリン、ダイアナ・リグという顔ぶれ。因に、アルム
爺役のフォン・シドーは、過去に3度この役をオファーされ
たが断り続け、今回は脚本が気に入って初めて出演をOKし
たのだそうだ。
その脚本は、イギリスのテレビ界で1960年代から仕事をして
いるというブライアン・フィンチ。と言っても、原作をそつ
なくダイジェストしているという感じで、特に注目するほど
ではない。アルプスとフランクフルトを舞台に、よく知られ
たお話が展開するものだ。
それより何より、この映画の素晴らしさは、スロヴェニアの
ジュリア・アルプスと呼ばれる山岳地帯で撮影されたロケー
ションの美しさ。6週間の撮影期間に奇跡的に四季が訪れた
という、新緑から紅葉、雪山と変化する景観は見事だった。
実際、雪山のシーンは、当初は人工雪と背景はCGで処理す
る予定だったが、撮影の数日前に突然90cmもの積雪があり、
背景も本物で撮影できたとのことだ。
定番の物語だが、敢えてそれを現代化することなく、恐らく
ロケーションハンティングが一番大変だったのではないかと
思われる捜し抜かれたロケ地と、さらに自然の助けもあって
見事な映像が展開する。
日本では、テレビアニメのお陰で、最も著名な児童文学の一
つと言えると思うが、ハイジ役ボルジャーの雰囲気はそのイ
メージを損なわないし、クララ役のクラリッジも如何にもお
嬢様らしくてよい。
上映時間1時間44分では、物語の展開はあっけないほどに早
いが、変な溜めも無い分、気持ち良く楽しむことが出来た。

『僕の、世界の中心は、君だ。』(韓国映画)
日本では、2004年の映画化、テレビ化が大ヒットした北山恭
一原作『世界の中心で、愛をさけぶ』の韓国製リメイク版。
2005年作品。それにしてもこの原作の題名は、SFファンと
しては気になるところだ。
と言っても僕は、原作は読んでいないし、日本版の映画もテ
レビも見ていない。いまさら純愛と聞いてときめく年齢でも
ないし、正直に言って今回の韓国版の映画を見ても、こんな
程度のお話で何を大騒ぎしていたのだという感じだ。
でもまあ、日本では原作も映画も大ヒットしたのだから、い
かに若い人たちが純愛に飢えているのかというところなのだ
ろう。それはそれで、そういうことなのだから認めなくては
ならないものだ。年寄りがとやかく言うことではない。
それにこの作品は、純愛映画が得意の韓国製ということで、
僕としては日本映画で見せられるよりは距離感もあって、気
楽にというか、邪心無く見られたことは確かだ。また、韓国
特有の葬儀の様子なども紹介されて、その辺は興味を引かれ
もした。
内容は、成績優秀、学園のマドンナ的存在の女子生徒の恋の
相手になってしまった平凡な男子高校生の物語。この女子生
徒役を、『秋の童話』などで各種受賞歴を持つ韓国テレビの
人気女優ソン・ヘギョが映画初主演で演じている。
一方の男子生徒役は、『猟奇的な彼女』などのチャ・テヒョ
ン。4月末に紹介した『君に捧げる初恋』でも同じような境
遇の高校生を演じていたが、『君に…』の製作は2003年で、
よく考えたら『世界の…』より前に、同じような話が韓国で
作られていたということのようだ。
日本製ヒット映画の韓国版リメイクでは、以前に映画祭で、
『リング』を見たことがあるが、韓国版『リング』は実に原
作に忠実で好感を持った。
今回は、上にも書いたように、僕は原作も日本版も見ていな
いので比較はできないが、試写の終映後には、「日本版を思
い出して泣けた」と話している女性の声も聞こえたようだ。
まあ、そういう見方がされれば、製作者は期待通りというと
ころだろう。

『バタリアン4』
       “Return of the Living Dead: Necropolis”
1985年に鬼才ダン・オバノンの監督で第1作が映画化された
ゾンビ・パロディのシリーズ第4作。と言っても前作からは
13年振りのシリーズ再開だ。
物語は、オリジナルを踏襲して死者を甦らせる化学物質トラ
イオキシン5を巡って、一度は地上から完全廃棄されたはず
の化学物質が、何故かチェルノブイリに隠匿されており、そ
れを廃棄にも協力した化学会社の研究者が密かに回収すると
ころから始まる。
そして、お決まりの実験中の手違いでそれが外部に漏れ出し
て…というもの。因にこの科学者を、『E.T.』などのピー
ター・コヨーテが演じている。
第1作の公開当時は、「オバタリアン」などという流行語も
生み出し、個人的にも、ちょうど引っ越したばかりの集合住
宅で、半地下の部屋に後から入居した一家が窓に目隠し用に
シーツを張っていたのを、子供たちが「バタリアンの家だ」
を囃していた記憶もある。それほどまでに、社会現象と言え
るほどのブームになっていたものだ。
それに第1作は、パロディも冴えており、中でも具合の悪く
なった主人公が体温を計ると10度前後、それはその時の室温
で、それを見た別の奴が、「そんな体温で生きているはずが
無い」と発言する辺りは爆笑ものだった。

それに比べると今回は、パロディはかなり薄められ、代って
主人公を若者のグループとすることで、これも最近ブームの
ティーズホラー的な描き方になっている。それに、化学会社
に戦いを挑むという辺りは『バイオハザード』も連想させる
ものだ。
という、いろいろな要素がごった交ぜの作品。後半はゾンビ
の大群相手にマシンガンを撃ちまくってバッタバッタという
辺りはゲーム感覚とも言えそうで、オリジナルを知らない若
い人にはそれも良いかも知れないというところだ。
なお映画の巻頭は、チェルノブイリに現地ロケされていると
いうことで、ロシア訛りの英語やロシア語も飛び交うなど、
それなりにグローバルな感じの作品にもなっていた。また、
本作は2本撮りで製作されており、『バタリアン5』も近日
公開予定だそうだ。
それにしても、今回のゾンビが簡単に倒れるのは、長年放射
能に曝されて化学物質の毒性が弱まったのかな?


『ウルトラヴァイオレット』“Ultraviolet”
『バイオハザード』のミラ・ジョヴォヴィッチが再び挑む近
未来アクション。
舞台は近未来の上海。その時代、人類は人工のウィルスによ
り超人類“ファージ”を生み出す。それは感染者の身体的、
頭脳的能力を最大限に引き出すというものだったが、同時に
感染後は12年しか生きられない死のウィルスでもあった。
しかも治療法の発見できないウィルスに対し、政府は感染者
の隔離と抹殺を計画。身体・頭脳共に勝る相手との壮絶な戦
いの末、その計画は成就し掛っていたが、独裁的な政府は、
さらにファージ撲滅のための最終兵器を開発していた。
そして主人公は、ファージの生き残りの一人として、その最
終兵器の奪取を試みるが…
何しろ、身体的、頭脳的能力を最大限に引き出した主人公と
いうことで、そのアクションの華麗で凄まじいこと。しかも
これを、香港映画のスタッフがバックに入って映像化してい
るから、本当に見事に描かれている。
飛んだり跳ねたり、ビルの壁面をバイクで突っ走ったり、も
ちろん「あり得ネー」という感じのアクションの連発だが、
それがこの映画の売り物だ。
脚本監督は、『リクルート』などのカート・ウィマー。物語
自体はかなり緻密に作られているし、上映時間1時間27分は
まさに凝縮しているという感じで、次から次と登場するアク
ションには息つく暇もない感じだった。
『マトリックス』『イーオン・フラックス』の先にあって、
CGゲーム感覚映画の一つの到達点とも言える作品だろう。
なお本作の撮影には、ソニーが映画用に開発した24PのHD
システム=シネアルタが採用されている。ジョヴォヴィッチ
の顔が皺もしみもないCGキャラクター的なのは、ディジタ
ル撮影の映像を後処理した結果のようだ。その他のCGIと
の繋がりも良いように感じられた。
因に、エンドロールでは、シネアルタのCAのロゴマークが
久しぶりに見られたが、確か『ヴィドック』のプロモーショ
ンでは巻頭用のアニメーションロゴも紹介されはず。そろそ
ろ4Kのシネアルタも完成されているだろうし、今後の巻き
返しもあるのだろうか。

『王と鳥』“Le Roi et I'Oiseau”
1952年のヴェネチア映画祭で特別賞を受賞したポール・グリ
モー監督の『やぶにらみの暴君』を、1979年にグリモー自身
が改作・完成させた作品。
実は、52年版は途中で製作資金が尽き、製作者が未完のフィ
ルムを別の監督に委ねて辻褄だけを合せ完成させたもので、
監督の意図とは違うものだったのだそうだ。その作品に特別
賞を贈ったり、キネマ旬報でも1955年度の洋画ベストテン第
6位に選んだのだが…
その52年版の版権及びフィルムを1967年にグリモーが執念で
買い戻し、62分の原版から意図と異なる20分をカット、新た
なフィルムを継ぎ足して87分の作品として完成させたのが本
作ということだ。
僕自身は、多分1967年以前に行われたテレビ放映と、1970年
代に16mmフィルムを借りて行われた上映会で見た記憶がある
が、70年代に見た時には「世界中で見ることが出来るのは日
本だけだ」と聞かされた記憶もある。その理由は、上記の通
りだった訳だ。
その作品を、僕は30数年振りに再見したことになる訳だが、
物語の最初の部分はかなり正確に記憶していた通りだった。
しかし、途中でちょっと自分の持っていたイメージと異なる
シーンがあるように感じた。
それは監督の意図の通りに直されたのだし、今から思い返す
と、確かに物語の流れとは沿わない感じもするシーンだった
から、削除も仕方のないところではあるが、感動的に美しい
シーンでもあったので、ちょっと残念な感じはしたものだ。
それはともかく、本作は、50年以上も前に企画されたとは思
えないほどの現代に通じるところも多い作品で、むしろ現代
の方がこの作品に描かれた世界に近いのではないか、とさえ
思えるほどだった。
特に、キャッチコピーにも使われる「気をつけたまえ。この
国は今、罠だらけだからな。」という台詞は、現代にもピッ
タリと当てはまる言葉だろう。
なお、52年版の羊飼いの娘の声は、当時新進女優だったアヌ
ーク・エーメが当てていたものだが、今回の吹き替えは全面
的に新録音されていたようだ。

『サイレントヒル』“Silent Hill”
コナミ発売で最も恐いと言われるヴィデオゲームの映画化。
映画化に際しては、コナミでゲームの製作を担当した山岡晃
が製作総指揮として参加。また、監督のクリストフ・ガンズ
は、その起用を目指して30分のプロモーションを自主製作。
それをコナミの重役室で見せて了承を得たということだ。
つまり、この映画化にはコナミの影響力がかなり発揮された
ようで、その意味ではゲームのファンにも納得できる仕上が
りになっていると言えるだろう。
物語の発端は、主人公となる女性の一人娘が夢遊病に罹り、
その中でサイレントヒルという言葉を発する。そして、その
病が薬物治療では直らないと知った母親は、その名前のゴー
ストタウンの存在を突き止め、その謎を解くべく娘と共にそ
こに向かうが…というもの。
その町は数10年前に大火災を起し、以来ゴーストタウンと化
していた。しかも町の地下にある鉱山では今も火災が続き、
その灰が絶え間なく降り続いている。そして町に着くや娘は
姿を消し、母親は娘の探索と町の謎を解かなければ、町を脱
出できなくなる。
白い灰が舞い続ける異様な風景の中で、町の過去に隠された
怨念とその復讐の物語が展開する。しかもそれを、ゲームで
成功した恐怖感一杯の映像演出で見せてくれるのだ。その点
では、ゲームと映画の融合もうまくいっている感じがした。
まあ、多少はゲームの演出に引き摺られて、映画的にはちょ
っとぼける感じの部分もあったが、逆にそれが息抜きにもな
っている辺りは、監督も心得ているようにも思えた。
『バイオハザード』など成功しているゲームの映画化の多く
は、どちらかと言うと映画人主導で、ゲームの設定だけを借
りて勝手に映画のストーリーを作っているものだが、この作
品はそれなりにゲームのムードを尊重している点でも好感が
持てるものだ。
主演は、『ネバーランド』で作家の妻を演じたラダ・ミッチ
ェル。そして物語のキーとなる娘を、『ローズ・イン・タイ
ドランド』でローズ役を好演したジョデル・フェルランドが
演じている。12歳で3役を演じ分ける演技力にも感心した。
2時間6分をたっぷりと楽しめる作品だ。



2006年05月15日(月) 第111回

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※このページは、キネマ旬報誌で連載中のワールドニュー※
※スを基に、いろいろな情報を追加して掲載しています。※
※キネ旬の記事も併せてお読みください。       ※
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 今回はこんな話題から。
 “Spider-Man”や“X-Men”など、ヒット映画のスーパー
ヒーローキャラクターを輩出するコミックス出版社マーヴル
コミックスが、投資会社メリル・リンチから5億2500万ドル
の資金調達に成功し、10作品の映画化を自社で製作すること
が発表された。またそれらの作品の配給は、1作品を除いて
パラマウントが行うということだ。
 そしてその第1弾として、2008年の公開を目指し、実写版
“Iron Man”の映画化を、『ザスーラ』のジョン・ファヴロ
ウ監督で行うことも併せて発表された。実は、この計画につ
いては2004年5月1日付第62回で紹介したように、以前には
ニュー・ラインと契約が結ばれて、数年前から進められてい
たものだったが、結局その計画は実現せず、昨年秋にはマー
ヴル社に権利が返却されていた。その計画を今回は自社で進
めるもので、すでにアーサー・マルカムとマット・ハロウェ
イという脚本家が契約されて作業が開始されているようだ。
 また2008年向けにはもう1本、“The Incredible Hulk”
の計画も発表されている。この計画は、2003年のアン・リー
監督作品“Hulk”の続編となるものだが、あまり芳しい成績
を残さなかった前作に対し、マーヴル側からは「あの作品で
我々は、ハルクの基本の何かを掴み損ねたようだ」との発言
もされている。そこで今回は、“X-Men: The Last Stand”
を手掛けたザック・ペンを脚本に起用して、その何かを取り
戻すことになるようだ。ただし、製作予算は前作より縮小さ
れる見込みで、物語もあまり複雑なものにはしない方針だそ
うだ。なお、この作品のみ前作の契約の関係からユニヴァー
サルが配給を担当することになっている。
 さらに、マーヴルでは2009年の公開を目指して“Captain
America”の計画も進めている。星条旗の連想するコスチュ
ームを纏うこのスーパーヒーローの起源は、1941年に初登場
というコミックスの歴史の中でも初期に属する。物語の発端
は、第2次世界大戦々時下という時代を背景に、入隊を希望
したものの体格審査で拒絶された少年が、軍の秘密研究で開
発された血清を投与されてナチと戦うsuper soldiersに変身
するというもの。しかし、その研究開発に従事した科学者は
ナチのスパイに暗殺され、彼は唯一のsuper soldierになっ
てしまったという設定だ。そしてその能力は、通常の人間の
10倍の反射神経を持ち、力は1/4トンの重量を持ち上げ、時
速30マイルで走ることができるとなっている。
 因に、このキャラクターは、最初はジャック・カービーと
ジョー・サイモンという原作コンビで始められたが、1年後
彼らがDCに移籍したために、当時若手だったスタン・リー
が引き継ぎ、リーが初めて手掛けた作品とも言われている。
そしてこのシリーズは終戦と共に一旦は消滅するが、1960年
代にリーの手で“The Avengers”の一員として再登場し、今
度は共産主義者を相手に活躍を続けたというものだ。
 また映像化では、1944年に15エピソードの連続活劇作品が
製作されている他、1979年、80年にTVムーヴィと、1989年
にはメナハム・ゴーラン製作による劇場映画も製作されてい
る。そして今回は、このスーパーヒーローを、『13デイズ』
『ロード・トゥ・パーディション』のデイヴィッド・セルフ
の脚本で進めることになっているものだ。
 この他には、蟻を自由に操る能力を持った“Ant-Man”の
映画化を、ゾンビ映画のパロディとして異例の評価を受けた
“Shaun of the Dead”のエドガー・ライトとジョー・コー
ニスのコンビを起用してコメディタッチで行うことが検討さ
れている。さらに、『エア・フォース・ワン』のアンドリュ
ー・マーロウの脚本で、軍事スーパースパイを主人公にした
“Nick Fury”と、『ポセイドン』のマーク・プロトセヴィ
ッチの脚本で、北欧の神の化身“Thor”の計画も進められて
いる。
 今回は、以上の6本が紹介されていたが、これらは5000万
ドルから1億6500万ドルの製作費で映画化が検討されている
ものだ。従って、10作品の実現にはメリル・リンチからの資
金だけでは足りないことになるが、マーヴルでは、取り敢え
ず最初の2本(“Iron Man”“Hulk”)が上手く行けば、後
はその収入を当てることで賄えると考えているようだ。そし
てさらに脚本家などは未定だが、7つのシリーズの計画も進
めているとしている。
 なお、マーヴルのスーパーヒーローでは、“Spider-Man”
がSPE、“X-Men”と“Fantastic Four”がフォックス、
“Blade”がニューラインでそれぞれシリーズ化されている
が、これらは各映画会社との間でキャラクターの映像化権が
契約されているもので、各社に優先権があることから今回の
計画からは除外されているようだ。
 元々マーヴル社は、過去の自社キャラクターの映画化でも
トップのスタン・リーやアヴィ・アラドが製作者に名を連ね
たり、自前の巻頭ロゴも用意するなど映画製作には熱心だっ
たが、今までは映画各社との共同製作に限られていた。この
ため映画会社側の意向で製作が思い通りに行かないことや、
収入が期待通りに上がらず映画会社とはトラブルになること
もあったものだ。しかし今後は、自社製作により、思う存分
スーパーヒーローたちを活躍させることができそうだ。
        *         *
 トピック記事はこのくらいにして、ここからはいつもの製
作ニュースを紹介しよう。
 まずはウィル・スミス主演で、リチャード・マシスン原作
“I Am Legend”(邦訳題・吸血鬼)のリメイクを、来年夏
公開に向けて進めることがワーナーから発表された。
 この原作からは、1964年にヴィンセント・プライス主演の
“The Last Man on the Earth”(未公開)と、1971年には
チャールトン・ヘストンの主演で“The Omega Man”(オメ
ガマン)と、20世紀の内に2回も製作されているが、今回の
計画も、最初は1997年にリドリー・スコット監督、主演アー
ノルド・シュワルツェネッガーで立上げられた。しかし当時
1億2000万ドルと言われた製作費は、直近のシュワルツェネ
ッガー作品の不振などで調達が困難となって断念。その後、
2002年にはマイクル・ベイ監督とスミス主演で再度計画され
るが、これも不調に終っていた。
 今回は、この計画に脚本家・製作者のアキヴァ・ゴールズ
マンが参加して脚本をリライト、『コンスタンティン』のフ
ランシス・ローレンス監督、主演スミスで進めるものだ。
 因にスミスの主演では、スーパーヒーロー物の“Tonight,
He Comes”がコロンビア製作で今年の夏の撮影予定になっ
ていたが、4月1日付第108回で報告したようにジョナサン
・モストウ監督が降板を表明。その後釜には年末公開予定の
スミス主演作“The Pursuit of Happyness”を手掛けたガブ
リエル・マッキノ監督の起用が決まったものの、撮影スケジ
ュールは来年にずれ込むことになってしまった。
 それに替って本作品の製作が急浮上したものだが、実は両
作ともゴールズマンが脚本製作を担当しており、その関係で
調整は上手く行ったようだ。なお、ゴールズマンとスミスの
コンビでは、2004年に『アイ、ロボット』を成功させている
もので、その実績から彼らの要請には会社側も従わざるを得
なかったのかもしれない。
        *         *
 ウィル・スミスの話題に続いては、昨年公開『Mr.&Mrs.
スミス』での共演が話題になったアンジェリーナ・ジョリー
とブラッド・ピットに、再度共演の噂が広まっている。
 作品は、昨年のアカデミー賞で主演男優賞ほかを受賞した
『Ray/レイ』のハワード&カレン・ボールドウィン夫妻
が製作準備を進めている“Atlas Shrugged”で、この計画に
はライオンズゲートの配給契約も発表されているものだ。
 この作品は、ロシア生まれのアメリカの女流作家エイン・
ランドが1957年に発表した近未来小説の映画化。物語は社会
主義に屈伏したアメリカが疲弊して行く姿を描いており、か
なり強い政治思想の盛り込まれた作品と言われている。ただ
し、小説そのものは鮮やかにドラマティックで、政治思想を
受け入れない人にも評価は高いそうだ。
 そして今回の計画は、ボールドウィン夫妻が数年前からニ
ューヨークの企業家などを巻き込んで準備を進めてきたもの
で、その間には、クリント・イーストウッドやロバート・レ
ッドフォード、フェイ・ダナウェイらが参加していたことも
あったとされている。
 その計画がいよいよ実現に近づいている訳だが、この計画
でジョリーは以前から主人公となる企業家の孫娘ダグニー・
ターガートの役を狙っており、一方、ピットも原作の愛読者
で、話があれば相手役のジョン・ガルト役で出演の意向があ
るとのことだ。因にランドの原作からは、“Fountainhead”
(摩天楼)という作品が、1949年にゲイリー・クーパー主演
で映画化されており、この作品は現在オリヴァ・ストーン監
督でリメイクが計画されている。そしてピットはそのリメイ
クの主演にも予定されているもので、従ってその関係で今回
の原作にも接触があったようだ。
 なお原作は1100ページの大作、製作者は元々はミニシリー
ズ化を狙っていたようだが、映画化でも2部作を希望してお
り、その意向に沿って『コンタクト』などのジェームズ・V
・ハートが脚色、現在は最終的な撮影台本に向けてそのリラ
イトが行われているようだ。結末が政治的にかなり過激とい
う話もあるようだが、ジョリー、ピットの共演で華麗なドラ
マを期待したいものだ。
        *         *
 昨年“Chicken Little”の3D上映を成功させたディズニ
ーから、今年10月20日にも3D作品を公開することが発表さ
れた。
 その作品は“The Nightmare Before Christmas”。1993年
にティム・バートン企画、ヘンリー・セレック監督で製作公
開され、一昨年にも再公開が行われた人形アニメーションの
名作を、今度は3D化して再公開するというものだ。
 昨年の3D上映では、当初2Dで製作された作品を、完成
後に3D化したとされているが、元々CGアニメーションで
作られた作品では、映像の3D化はそれなりに出来そうな感
じはする。ところが今回は、2Dで撮影されたフィルムから
3D化を行う計画で、これにはいろいろ難しい問題もありそ
うだ。しかし、昨年4月15日付第85回でも報告したように、
すでに“Star Wars”や“Lord of the Rings”の一部で3D
化のテストも行われており、技術的な評価は完了している。
 またオリジナルを監督したセレックは、「スタジオを見学
に来た誰もが撮影に使われたミニチュアセットの精巧さに目
を見張るが、従来の2Dの映像ではその素晴らしさが半減し
ていた。3D化によってその魔法が甦ると良い」と語って、
3D化への期待を表明しているものだ。
 一方、3D作品の上映館に関しては、昨年の公開は残念な
がら日本では2館でしか実施できなかったものだが、すでに
上映設備のデジタル化が進んでいるアメリカの映画館では、
かなりのスクリーンで3D上映が可能ということで、今回の
上映で昨年以上に3D化が進むことにもなりそうだ。昨年の
3D上映については、昨年12月14日付の映画紹介の中でも報
告しているが、僕自身はかなり高く評価をしているもので、
今回の上映にも大いに期待したい。
        *         *
 今回は、製作ニュースの最初に“I Am Legend”リメイク
の話題を報告したし、上記の3D化もリメイクに近い話題だ
が、他にもリメイクの話題がいろいろ届いているので、続け
て紹介しておこう。
 1981年の公開で人形アニメーター=レイ・ハリーハウゼン
の最後の作品と言われる“Clash of the Titans”(タイタ
ンの戦い)を、今年2月15日付第105回で紹介した“Killing
on Carnival Row”のトラヴィス・ビーチャムの脚本で再映
画化する計画がワーナーから発表されている。
 オリジナルは、ローレンス・オリヴィエ、クレア・ブルー
ム、マギー・スミス、ウルスラ・アンドレス、バージェス・
メレディスという、当時の特撮映画では考えられない豪華の
顔ぶれで製作されたものだが、ギリシャ神話を題材に、神々
の王ゼウスの息子ペルセウスが、王女アンドロメダを救い出
すまでの物語の中で、試練としてゼウスが与えたペガサスの
捕獲や、メデューサとの対決などが描かれていた。
 そしてハリーハウゼンは、これらのペガサスやメデューサ
を駒撮りの人形アニメーションで描き出したものだが、特に
蛇の髪を持つメデューサの造形や動きは、人形アニメーショ
ンの特徴をよく表わしていた。しかしすでに“Star Wars”
で緻密化された特撮を見た目には、いかにも大時代的な人形
アニメーションの動きはもはや一般的な映画ファンを魅了す
ることは出来なかった。
 と言うことで、この作品では興行的な評価は得られず、結
局それがハリーハウゼンを引退に追い込む切っ掛けにもなっ
たものだが、その作品を今回はCGIなど最新の技術を使っ
てリメイクしようということだ。
 なおこのリメイクの計画も、実は数年前から検討されてい
たもので、2002年にはジョン・グレン、トラヴィス・アダム
・ライトらによる脚本が作られていた。しかしその計画は実
現せず、今回ビーチャムは新規に脚本を執筆し、物語の全体
の流れは同じとするものの、よりダークでリアリスティック
な物にするとしている。
 因にビーチャムは、前回紹介したようにまだ新人の脚本家
だが、今回の起用に当っては、「オリジナルは子供の頃に見
たものだが、今でもその神秘性には魅了され続けている」と
のことで、新鮮な感覚の神話物語を期待したい。
        *         *
 お次は、前回は『地底旅行』のリメイク“Journey 3-D”
を紹介したジュール・ヴェルヌの原作で、1954年にディズニ
ーが映画化した“20,000 Leagues Under the Sea”(海底2
万哩)を現代版リメイクする計画がニュー・ラインから発表
された。
 この計画は、クレイグ・ティトリーという脚本家の脚色を
映画化するものだが、その製作をサム・ライミが担当するこ
とでも注目を集めそうだ。ただし、今回の契約ではライミの
監督は含まれておらず、監督には別の人が起用されることに
なっている。また物語は、ディズニー版よりネモ船長の背景
に迫ったものになるようだ。
 因に原作では、ネモ船長は小国の出身とされ、母国が大国
の圧迫を受けていることに抗議する目的でノーチラス号を建
造、大国の軍艦を攻撃していることになっていたと思うが、
ネモ船長の背景に迫るというのは、その辺のことを指してい
るのだろうか。
 なお、話は映画とは関係ないが、ネモという名前は「誰で
もない」という意味だと原作の中で紹介されていたものだ。
ところが、先日、ナショナル・ジオグラフィック誌で「ユダ
の福音書」発見の記事を読んでいたら、その所有者がネモと
名告っており、途中でそれが「誰でもない」という意味だと
判って研究者たちが慌てる下りがあった。子供の頃にヴェル
ヌを読んでいた僕には常識のように思えることだったが…
        *         *
 1985年にリチャード・フライシャー監督、ブリギッテ・ニ
ールセン、アーノルド・シュワルツェネッガーの共演で映画
化されたロバート・E・ハワード原作による“Red Sonja”
(レッドソニア)のリメイクが、アクション映画で頭角を現
すエメット/ファーラの製作、ミレニアム・ピクチャーズの
配給で行われることになった。
 この物語は、シュワルツェネッガーの最初の当たり役と言
われた“Conan”と同じく、ハワードが創造した剣と魔法の
時代を背景にしたもので、元々のハワードの原作小説では独
立したものだったようだが、その背景はコナンと同じ時代に
設定されていた。そしてこのキャラクターは、マーヴル・コ
ミックスで1970年にスタートした“Conan the Barbarian”
のシリーズで73年に登場、その後すぐに独立したシリーズと
なって人気を博したものだ。
 そこで以前の映画化でも、シュワルツェネッガーの共演と
なっていたものだが、ところがどうもキャラクター権の問題
があったらしく、映画に登場したのはコナンではなく、別の
蛮族の王ということになっていた。そしてその影響があった
のかどうか、映画は興行的にもパッとせず、あまり話題にも
ならなかった。しかし当時は珍しい女性中心のアクション映
画(敵役もサンダール・バーグマン扮する女性剣士)として
その失敗を惜しむ声もあった。
 そして今回の製作発表に当って、ミレニアムのトップは、
「最初の映画化は良いものではなかった。それが今回リメイ
クを行う最大の理由だ。このキャラクターは素晴らしいもの
だし、大きなブランドになり得る」として、シリーズ化にも
期待を寄せているようだ。また、ヴィデオゲームなどへの展
開も念頭に置いて映画化が進められる。なお製作費は2500万
ドルが予定されているようだ。
        *         *
 最後は、その他の短いニュースを紹介しておこう。
 21世紀になってからのNYタイムズ・ベストセラーリスト
に載った3人のアフリカ系アメリカ人女流作家の1人ゼイン
(名前は一語で表記される)が、“Lady Sings the Blues”
(ビリー・ホリデー物語)などの脚本家スザンヌ・デ=パッ
セとの共同製作で自作を映画化し、その作品をライオンズゲ
ートが公開する契約が発表されている。
 題名は“Addicted”。ゼインの他の作品と同様、黒人女性
が人種や性の差別と戦いながら、成功を掴むまでを描いたも
ので、その間のいろいろな出来事が描かれる。因にゼインの
作品は、最初はその内容の過激さから出版社に拒否され、や
むなく2000年に自ら出版社を設立して自費出版したものが全
米の読者をつかみ、現在その出版社は大手に買収されたとい
うことで、今回はその買収で得た資金を基にプロダクション
を設立したようだ。
 なお原作には、今秋全米55都市を巡業する舞台化の計画も
進んでいるということだ。
        *         *
 『ダ・ヴィンチ・コード』のロン・ハワード監督が、年内
に撮影を開始する次回作の主人公に娘のブライス・ダラス・
ハワードの起用を希望している。
 作品は“The Look of Real”という題名で、ブロードウェ
イで上演されている“Wicked”などのウィニー・ホルツマン
のオリジナル脚本の映画化。内容は、衣料品会社に勤める若
い女性たちのグループを巡るアンサンブル劇だそうだ。なお
現在は、脚本に対するハワードと製作者ブライアン・グレイ
ザーのコメントが返信され、ホルツマンがリライト中とされ
ている。
 因にブライスは、以前から父親の作品には小さい役で出て
いたが、『ヴィレッジ』で本格的にデビューしてからは初め
ての出演になる。また彼女の新作では、“The Lady in the
Water”が今年の夏に公開される他、スーパーヒーローの新
たな恋人役を演じる“Spider-Man 3”は来年5月の公開予定
となっている。



2006年05月14日(日) ココシリ、奇跡の夏、ブギーマン、ハチミツとクローバー、ビースティ・ボーイズ、ダ・ヴィンチ・コード

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※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介しています。     ※
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『ココシリ』“可可西里”
前回紹介した『ジャスミンの花開く』に続き、2004年の東京
国際映画祭で上映された作品の公開が決定したので、改めて
紹介する。これも当時の紹介文から再録すると…
コンペティション部門で審査員特別賞を受賞した作品。
ココシリとはチベットの地名で、中国語では「可可西里」と
書くらしい。映画の中の説明によると、チベット語では「美
しい山」、モンゴル語では「美しい娘」の意味だと言う。映
画は、この地域で1996年から97年に掛けて起きた実話に基づ
くものだそうだ。
この地域でのチベットカモシカの個体数が、毛皮を狙った密
猟で激減し、それを守ろうとした人たちが民間で山岳パトロ
ールを組織して密猟団のボスを追跡する。その行動が同行し
た新聞記者によって報道され、最終的には政府を動かしたと
いう物語だ。
物語は、パトロール隊員の一人が密猟団に殺され、それを記
事にしようとした新聞記者がココシリを訪れるところから始
まる。ちょうどその時、密猟団の動きが察知され、記者も同
行してそれを追跡することになるのだが…
彼らは民間組織ゆえに資金もなく、人材も乏しいままで、荒
野を追跡して行く。これに対して密猟団は、当然資金も豊か
で人材や武器も揃っている。しかもそこには、過酷な自然条
件や高山病、さらに流砂などの危険が待ち構えているのだ。
以前に紹介した『運命を分けたザイル』も今回(映画祭)の
特別招待作品として上映されているが、それにも増して過酷
なサヴァイヴァルが繰り広げられる。
それにしても、ここまでしてカモシカを守ろうとした彼らの
原動力は何だったのか…。それが映画の中にもほのめかされ
ているように、決してきれいごとだけではなかったという辺
りも、映画の真実味を増しているように感じた。
以上が当時の紹介文だが、実は、映画祭のカタログでは上映
時間が102分と記録されているのに対し、今回の公開版は88
分に短縮されている。
しかし、どこが削られたのかと言われると、具体的には思い
出せない。多分、それぞれのシークェンスが少しずつ短くな
っているものと思われるが、そのせいか物語の進行は速く、
サクサク進んで行くような印象は受けた。
とは言えこの作品は、上映時間が短くなったからといって軽
くなるような内容のものではない。実話に基づく壮絶な物語
は、2度目に見ても充分に心に響くものだった。上映時間が
短くなった分、より多くの人に見てもらいたいとも思った。


『奇跡の夏』(韓国映画)
小児ガンの子供を抱える家族を描いた実話に基づく作品。
主人公は小学校低学年の少年。兄が一人いるが、その兄は最
近体調の勝れない日が続いている。これに対して仕事を持つ
母親は、塾をサボってばかりの2人を叱りつけるが、その目
の前で兄が倒れて…
自分も子育てを経験した親として、子供の病気ほど辛いもの
はない。ましてやそれが不治の病では…ということで、普通
はお涙頂戴の感動作になる題材だ。そして、もちろん本作も
感動作ではあるが、主人公の大活躍(?)がそれだけではな
い作品に仕上げている。
この兄の病気によって、弟の主人公はどうしても行動を制限
され、家族からの愛情も半分以下になってしまうのだが、そ
れでもこの少年はめげない。彼は兄のためにいろいろな冒険
をし、それが彼自身を成長させて行く。それがこの作品の真
のテーマでもある。
その冒険は、ある部分ではかなりファンタスティックに描か
れ、また他の部分では現実を背景にしたドリーミーなものに
も描かれる。もちろんそこには御都合主義も散見されるが、
弟の夢物語とも解釈できる展開がそれをカバーしてしまう。
現実をそのまま描くと辛くなりすぎる題材を、夢物語で隠す
のは映画のテクニックだと考えるが、それを絵空事にせずに
無理なく描き切るのは相当に難しい。この作品は、そんな微
妙なところでも成功していると言えそうだ。
小児ガンの現実も、さりげなく、それでいて明確に描かれて
いるようにも思えたし、映画の全体が、足が地に着いた作品
のように感じられた。
脚本は、ハリウッドリメイクされた『イルマーレ』のキム・
ウンジョン。原作は実の姉が書いたものだそうだが、この前
作の題名を見るとファンタスティックな展開も納得できた。
監督は、本作がデビュー作だがそれまでに撮影、照明などの
スタッフ歴を持つイム・テヒョン。
因に、本作は2005年のニュー・モントリオール国際映画祭に
出品され、主演のパク・チビンが男優賞を獲得している。当
時10歳の少年の受賞は世界中で開催されている映画祭史上最
年少ではないかと言われているようだ。

『ブギーマン』“Boogeyman”
クローゼットに隠れて子供たちを襲うブギーマン伝説を題材
にしたサスペンス・ホラー作品。製作は『スパイダーマン』
のサム・ライミが主宰するゴースト・ハウス。アメリカでは
『バイオハザード』などを手掛けるソニー傘下のスクリーン
・ジェムズが配給した。
主人公は、少年の頃に父親がブギーマンによってクローゼッ
トに引き摺り込まれるのを目撃する。しかしそれは、突然父
親が家出した現実に対する自己防衛の妄想と解釈され、誰に
も信じてもらえない。
そして15年が経過。大人になった主人公はジャーナリストと
して成功し、雑誌の副編集長の地位にあるが、今でもクロー
ゼットは恐怖の対象だ。そして事件後は疎遠になった母親が
亡くなり、その葬儀の後、彼は遺品の整理のため生家を訪れ
ることになるが…
物語ではMissing Childrenの現実とブギーマンの伝説が微妙
に絡み合う。ホラーとは言っても、大量の人捜しのポスター
などを見せられると、何となく解決しなければならない使命
感みたいなものも生じる。その辺が旧来のホラーとは違った
描き方と言えるのだろう。
まあ、何か違いが無ければライミも製作はしなかったのだろ
うが…。一種の都市伝説ものとも言えるこの手の作品では、
こういった味付けの違いがニューホラーとでも呼びたくなる
ところだ。その他にも微妙な味付けが随所にあるのも楽しい
作品だった。
脚本は、ジュリエット・スノードン、スタイルズ・ホワイト
という夫妻コンビだが、次回作では超自然現象を扱ったサス
ペンス作品が、ウェス・クレイヴン製作で進められており、
ライミ、クレイヴンの眼鏡に連続して適うとはかなりの実力
のようだ。
監督は、1997年『死にたいほどの夜』などのスティーヴン・
ケイ。なおプレス資料では、1999年にTVシリーズを映画化
した“The Mod Squad”(モッズ特捜隊=映画版は未公開)
の題名が挙がっていたが、アメリカのガイドブックの紹介で
は別名義になっているものだ。
また、VFXを利用したブギーマンの姿は、“Lord of the
Rings”にも参加しているニュージーランドのOKTOBOR社が手
掛けており、スピード感あふれる映像を作り出していた。
なお、試写会の後で、『ナルニア』と併映すればいいなどと
言っている人がいたが、この作品の対称となるのは、どう考
えても『モンスターズ・インク』の方だろう。もう忘れられ
てしまったのかも知れないが。

『ハチミツとクローバー』
羽海野チカ原作の人気コミックスの実写映画化。東京の美大
に通う5人の若者たちの青春が描かれる。
主人公は美大建築科の3年生。その美大には一教授を中心に
した学部を横断するグループがあり、主人公もその仲間だ。
ところがその教授の姪が特待生として絵画科に入学。一方、
8年間彫刻科に在籍する先輩が海外放浪から帰国。そして、
主人公と先輩の2人が、教授の姪に恋をして…
他にも、社会人の先輩女性に片思いしストーカー紛いを続け
ている男子学生や、その男子学生に片思いの女子学生など、
主人公やその周囲でのいろいろな恋愛関係が描かれる。
恋愛関係を描く青春ものは、ラヴコメという言葉で代表され
るように映画でも数多く作られている。しかしそうした作品
の大半は、絵空事というか現実感の無い、僕のような擦れた
ものの目から見れば面白くも何ともない作品ばかりだった。
本作についても、事前のイメージはそんなものだったし、映
画が始まっても、天才画家の少女などという設定では、先が
思いやられると感じていたものだ。
ところが途中から、自分自身の青春を見ているようなそんな
気持ちが湧き上がってきた。
僕も、学生時代はSFを通じて大学や組織を横断したグルー
プに所属し、そんな中で自分のやっていることに自信が持て
ず、ちょうどこの物語の主人公のような感じだった。そんな
気持ちが思い出されてきたものだ。
いやそれだけではなく、年上の女性に憧れたり、年下の女性
をいとおしく思ったり、そんな青春が実に等身大に描かれて
いる。もちろん天才画家であったり、天才彫刻家であったり
というのは現実離れしているけれど、そこに描かれる青春は
現実的に描かれていた。
もっともこれは、年を取ってから青春を考えるときのオブラ
ートに包まれたような思い出の姿なのだけれど、そんな感覚
が見事に描かれている作品のようにも感じられた。多分この
映画の本当の観客層には関係ない話だろうが…
出演は、櫻井翔、蒼井優、伊勢谷友介、加瀬亮、関めぐみ。
どの配役も実に役柄にピッタリなのにも感心した。

『ビースティ・ボーイズ/撮られっぱなし天国』
           “Awesome; I Fuckn' Shot That!”
2004年にマジソン・スクェア・ガーデンで行われたライヴの
模様を、応募した中から選ばれたファン50人が会場の各所で
撮影した映像を素材にして、1年以上掛けて編集、再構成し
た映像作品。今年1月のサンダンス映画祭に出品されて話題
になっていた。
撮影に使われたのは小型のDVカメラで、暗い場内での撮影
は画質が荒れたり、一方、ロングからのステージ面はハイラ
イトがサチュレーションしていたりと、万全とは言えない画
面だが、その迫力は存分に伝わってくる映像の数々だ。
開始前に選ばれたファンたちに伝えられた撮影のルールはた
だ一つ。客席のライトが落ちたときにスイッチを入れ、後は
2時間絶対に収録を止めないこと。お陰で、途中でやむなく
トイレに走った奴はその中も撮影するし、逆に客席では飽き
足らなくなってバックステージに潜り込こもうとする奴が鍵
をこじ開けているシーンなども登場する。
そんなハプニングも織りまぜて、さらに映像はソラリゼーシ
ョンなどのエフェクトから、CGIまで取り込んで見事な映
像作品に仕上がっている。それに何より会場の熱気が見事に
伝えられたものだ。
見始めたときには、小型のDVカメラは日本製だろうし、な
ぜ日本人が先にこのような試みをしなかったのだろうかとも
考えた。しかし、元々このバンドのメムバーの一人が映像作
家であり、その彼の発案ということで納得はした。それにし
ても、という感じではあるが。
原題は、撮影に参加した人たちへのアドヴァイスの一部で、
「40年後に孫と一緒にこの映像を身ながら、“Awesome; I
Fuckn' Shot That!”なんて言えたらいいね」というもの。
参加したファンには最高の思い出だろうなあ、と羨ましくも
なった。
なお、演奏される楽曲はヒップホップなものから、ジャズ風
のものまでさまざまで、一つのバンドなのにその多様さにも
驚くが、最後の曲がジョージ・W・ブッシュに捧げるとして
“Sabotage”というのは恐れ入った。
因に、この曲は9/11直後の放送自粛曲にもリストアップされ
ていたものだそうだが、それを知って、映画の中では歌詞が
翻訳されていないのが残念に思えた。

(5月20日更新)
『ダ・ヴィンチ・コード』“The Da Vinci Code”
ダン・ブラウン原作による世界的ベストセラーの映画化。
この映画化を、アキヴァ・ゴールズマン脚色、ロン・ハワー
ド監督、トム・ハンクス主演という現在ハリウッドが考え得
る最高の陣容で実現した。さらに映画化には原作者自身も製
作総指揮で参加している。
物語は、パリ・ルーブル美術館館長が襲われた殺人事件を発
端に、その容疑を掛けられた主人公が、館長の孫娘と共に真
犯人を追って行く。そしてその過程で、ダ・ヴィンチの絵画
を巡り、キリスト教の根源に迫って行くというものだ。
直前にカンヌ映画祭のプレス試写でブーイングが湧いたとい
う情報が伝わり、かなり心配しながら見に行ったが、映画自
体はアクションと人間ドラマのバランスも良く、またテンポ
も良くて快適に見られた。
ただし、僕は読んでいないが、あれだけの大部の原作からす
ると、2時間30分の映画化ではかなりの省略はあるのだろう
し、原作の読者には不満が残るかも知れない。しかしそれは
映画化に時間制限がある以上は仕方の無いものだ。
一方、僕のような未読の人間には、物語はいろいろな状況説
明も判りやすく、アナグラムなどの謎解きの部分は、脚色、
監督でオスカーを受賞した『ビューティフル・マインド』を
思い出させる手法で、映像的に納得させるやり方がうまくで
きていた。
とは言うものの、「最後の晩餐」から現代に至るキリスト教
の歴史の説明には、特にその信者でない人間には難しい面は
ありそうだ。
幸い僕は、その直前にナショナル・ジオグラフィックの「ユ
ダの福音書」発見の記事を読んで予備知識を得ていたし、そ
の他のことでも最近の映画などで得た情報もあったから、そ
れなりの理解は出来たつもりだが、それがないとチンプンカ
ンプンかも知れない。
でも、基本的な物語は、映画では冒頭で明示される殺人事件
の真犯人捜しと、キリストが残した宝物捜しの謎解きである
わけだし、そう理解して気楽に見ればそれで良いようにも作
られている。
それに、キリスト教総本山バチカンが不快感を表明した、僕
らが知らなかったキリスト教の意外な面が明らかにされるの
も興味の沸くところだ。
なお、カンヌのプレス試写でブーイングが湧いたのは、web
版Varietyの解説によるとちょうどサッカーのヨーロッパ・
チャンピオンズ・リーグ決勝戦が重なったためだそうで、真
に受ける方が間違っているということだったようだ。



2006年05月01日(月) 第110回

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※このページは、キネマ旬報誌で連載中のワールドニュー※
※スを基に、いろいろな情報を追加して掲載しています。※
※キネ旬の記事も併せてお読みください。       ※
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 今回もこの話題から。
 前回は、脚本家エリック・イェンドルセンの期待を込めた
経過報告を紹介した“Star Trek 11”だったが、今回はその
期待を叩き潰すようなニュースが報道された。その報道によ
ると、パラマウント社が近日公開の“Mission: Impossible
III”の監督J・J・エイブラムスに、“Star Trek 11”の
製作と監督を任せることにしたということだ。
 そしてその計画では、エイブラムスと、“MI3”を手掛け
たアレックス・カーツマン、ロベルト・オーチが脚本を担当
し、題名は未定だが、物語はオリジナルシリーズの前日譚、
Starfleet Academyでのジェームズ・T・カーク、Mr.スポッ
クの出会いと、彼らの最初の宇宙への旅立ちが描かれるとい
うものだ。また、公開は2008年とされていた。
 元々、Starfleet Academyの創成期を描くという計画は、
パラマウント社がシェリー・ランシングに率いられていた数
年前から立案されていたものだが、今回はトップがブラッド
・グレイに替わり、さらに“MI3”はグレイが最初にゴーサ
インを出した作品だったということで、その公開に合わせ、
同社最大のシリーズも同じ監督に任せるという発表をしたも
ののようだ。
 ということで、今回の発表は“MI3”の宣伝の一環という
見方もあるようだが、一方、先のイェンドルセンの報告との
関係で言えば、3部作での製作を目指す彼の計画は、そのリ
スクを考えると会社側が簡単にはゴーサインを出せない状況
にある訳で、それを牽制する意味も考えられるところだ。
 ところがこの報道に対して、トレッキーの間からはブーイ
ングの嵐が巻き起こり、これに対してエイブラムスは、急遽
「報道は我々の意向を無視して行われた。記事では製作も担
当するとされているが、自分は監督の依頼を受けただけだ。
そこから噂が広まったようだが、今回の報道では正確なもの
は何一つない」という談話を発表する事態になっている。
 もちろんこの談話は報道を全面否定している訳ではなく、
逆に計画が進んでいることも伺わせているものだが、トレッ
キーの間ではエイブラムスには今一つ信用が置かれていない
ようで、“MI3”にはその不安を払拭する出来が期待される
ところだ。さて、その出来はどうなのだろうか。
        *         *
 以下は、いつもの製作ニュースを紹介しよう。
 まずは、ワーナーとの製作契約では“Superman Returns”
なども手掛けているレジェンダリー・ピクチャーズから、イ
ギリスの詩人ジョン・ミルトンが1667年に発表したキリスト
教文学の代表作の一つと言われる叙事詩“Paradise Lost”
(失楽園)を大作映画として製作する計画が発表された。
 神に叛逆して破れた堕天使ルシファー、イヴの誘惑によっ
て神に背きエデンの園を追われるアダムなど、神と悪魔、そ
して天使たちの姿を活き活きと描いた原作は、ダンテの『神
曲』、ゲーテの『ファウスト』と並び称せられるキリスト教
文学の代表作とされているものだが、他の2作が戦前・戦後
を通じて繰り返し映画化されているのに対し、本作に関して
は1917年にサイレントで映画化された“Conscience”という
作品が同叙事詩に基づくと記録されてはいるものの、以後の
ハリウッドでの映画化は実現していなかった。
 今回、その実現を目指すのはヴィン・ディーゼルの主演で
2003年に公開された“A Man Apart”(ブルドッグ)などの
製作者ヴィンセント・ニューマン。そして計画では、すでに
“The Exorcism of Emily Rose”(エミリー・ローズ)のス
コット・デリクソン監督が参加して、脚色が進められている
ということだ。因にデリクソン監督は、大学では神学を学ん
できたということで、悪魔の存在を実証した前作に続く本作
への参加は、最適の人材と言えそうだ。
 物語には、ミカエル、ガブリエル、ラファエルらの著名な
天使たちも登場し、神と悪魔との戦いも描かれるということ
で、キリスト教徒以外にも楽しめる大型作品が期待される。
また、ミルトンの原作では、“Paradise Regained”(復楽
園)という続編もあるようだ。
 なおこの計画は、当初ハイド・パークで立上げられたもの
だが、そのトップだったジョン・ジャシニがレジェンダリー
に移籍したため、計画も移籍することになった。またレジェ
ンダリーでは、“Superman Returns”の他、同じくワーナー
配給の“Lady in the Water”“10,000 B.C.”などの製作も
手掛けているものだ。
        *         *
 お次は、2月15日付第105回で紹介した“Resident Evil:
Extiction”について、5月にメキシコで撮影開始されるこ
とと、その配役が発表された。
 この新作で、主人公のアリス役は、第1作から続投のミラ
・ジョヴォヴィッチ。さらに第2作で活躍したジル役のシエ
ナ・ギロリー、カルロス役のオデット・フェール、LJ役の
マイク・エプス、アイザックス博士役のイアイン・グレンが
揃って再登場する。特に、原作ゲームの主人公ジル役のギロ
リーの再演はファンの期待に適うものだ。
 そして製作と脚本は、第1作から全作を手掛けるポール・
WS・アンダースン。監督には、前作のアレクサンダー・ウ
ィット(前回の情報は誤り)に替って、ベテランのラッセル
・マルケイが起用される。なお、前回の報告ではアンダース
ンの去就が明確ではなかったために心配したものだったが、
製作と脚本は前2作と同様に手掛けるということで、シリー
ズのコンセプトが変る心配はなさそうだ。
 また、以前の報告では、第3作は副題を“Afterlife”と
して物語を完結させるとしていたが、今回の物語ではバイオ
ハザードを引き起こした悪徳化学企業アンブレラ社との戦い
がまだ続いているようだし、さらに第4作の構想も生まれて
いるということは、お話はまだまだ終りそうにない。原作の
ヴィデオゲームと同様、舞台を広げて何作も作り続けて行く
ことになるのだろうか。
 因に、前2作の興行収入は、アメリカ国内だけで合計1億
2700万ドルを超えているということで、これなら当面やめる
理由はなさそうだ。製作会社はドイツのコンスタンティン。
配給はソニーで、当初の計画では2007年10月の全米公開の予
定だったが、このペースなら早まる可能性もありそうだ。と
言ってもソニーの公開スケジュールは満杯で、すでに完成し
た作品で1年以上待機中の作品もあるようだが…
        *         *
 続けてヴィデオゲーム映画化の話題をもう一つ。
 ダークワークスという会社が開発し、ユビソフトが2005年
3月に発売したサヴァイヴァルホラーゲーム“Cold Fear”
の映画化権を、アヴェイターフィルムスという会社が契約、
劇場向けに製作することが発表された。
 この作品、実はゲームとしてはあまり売れたものではなか
ったようだが、映画の製作者たちは、そのゲームの醸し出す
恐怖の雰囲気と、物語性に注目したとのこと。その物語は、
トム・ハンセンという名の沿岸警備隊の指揮官を主人公に、
彼が、嵐で荒れ狂うべーリング海を漂流するロシアの捕鯨船
の救助に派遣され、その血塗られたデッキや揺れ動く船内を
戦場に知性を持った敵と戦うというもの。またその戦いでは
プレイヤーを圧倒する恐怖が味わえるということだ。さらに
別の紹介では、主人公は自分の娘との信頼回復を模索しなが
らエイリアンに占拠された捕鯨船の奪還作戦を進めるのだそ
うで、確かにゲームの設定というよりは、映画的な物語かも
しれないというところだ。
 そして今回の計画は、同じくユビソフトでゲームを発表し
ているコーリー・メイとドーマ・ウェンドシュというゲーム
脚本家が仲立ちして契約されたもので、映画化は彼らも製作
に参加して進められることになっている。なお、製作者たち
の方針では、これから監督を募り、それが決まった上で、配
給映画会社との交渉を始めるとのことだ。
 ヴィデオゲームの映画化は次々に製作されているが、人気
ゲームの映画化が必ずしもヒットには繋がっていないのが実
情で、その意味ではあまりヒットしていないゲームの映画化
は、逆に映画そのもので勝負ができることになるから面白い
試みと言えるかも知れない。まずは、優秀な監督を捜し出す
ことがポイントになりそうだ。
        *         *
 新しいアイデアに貪欲なハリウッドは、映画の原作として
いろいろなソースをサーチしているようだが、ゲームの次は
何と、大学院に提出された博士論文を原作にしたコメディの
計画が発表されている。
 この作品は、“How to Survive a Robot Uprising”と題
されており、カーネギ・メロン大学ロボット工学部のダニエ
ル・H・ウィルスンという学生が発表した博士論文を原作に
するもの。その内容は、技術管理者である主人公が、ロボッ
トの増加に対する警鐘を鳴らし、また、ロボットによる実効
支配を未然に防ぐ方策を研究するというお話のようだ。
 そしてこの論文の映画化権は、昨年パラマウントによって
契約され、すでにトーマス・レノンとベン・グラントによる
脚色の概要も完成。さらに今回はこの概要が、元ニューライ
ンで『オースティン・パワーズ』などを手掛けた製作者マイ
クル・デルッカの手でマイク・マイヤーズに提示され、それ
に反応したマイヤーズがアイデアを足して、彼の主演による
映画化が進められることになったものだ。
 技術の進歩に対する警鐘では、チャールズ・チャップリン
が『モダンタイムス』を発表している他、ジェリー・ルイス
にも同趣向の作品があり、ウディ・アレンも初期に『スリー
パー』という作品を発表している。つまり、コメディアンは
必ず一度はやりたい題材のようで、今回のマイヤーズがどの
ような作品を作り出すかにも興味が湧くところだ。
 ただしマイヤーズの次回作では、ロックバンドthe Whoの
ドラマー、キース・ムーンの伝記映画に主演する計画が進め
られており、また、大ヒットCGアニメーション“Shrek”
の第3作への声の出演も予定されていて、今回の計画が進む
のは少し先のことのようだ。
        *         *
 ディズニー傘下のミラマックスが、独自にCGアニメーシ
ョンを製作する計画が発表されている。
 この計画は、歌手のエルトン・ジョンが主宰するロケット
・ピクチャーズで進められている“Gnomeo and Juliet”と
題された作品で、題名から想像できるようにシェークスピア
の戯曲『ロミオとジュリエット』を基に、怪物ノームの世界
を舞台に描くというお話。当初はディズニーの製作で進めら
れ、一度は2008年の公開という予定も発表されていたが、先
日のディズニーによるピクサー買収によって同社の作品数が
倍増し、製作計画から外されてしまった。
 ところが、以前にディズニーの海外配給部門ブエナ・ヴィ
スタで代表を勤めていたダニエル・バセックという人物が、
新たにミラマックスの代表に就任するに当って、この作品を
同社の計画として取り上げることにし、ミラマックス初のア
ニメーションとして進められることになったというものだ。
 因にバセックは、ブエナ・ヴィスタにいた当時からロケッ
トとの繋がりがあったということで、この計画も熟知してお
り、さらにイギリス出身の彼には、『モンティ・パイソン』
風味の漂うこの作品には親近感もあったようだ。そしてこの
計画では、新たに主人公の声をケイト・ウィンスレットが担
当することも発表された。
 その他のヴォイスキャストは未発表だが、音楽はジョンと
ティム・ライスの『ライオン・キング』のコンビが手掛ける
ことも発表されており、音楽性も豊かな作品になりそうだ。
またジョンは、「ミラマックスと組むことに大変興奮してい
る。この作品は先鋭的なコンセプトを持っており、ミラマッ
クスはこの作品にとって完璧なホームと言える」との歓迎の
談話を発表している。
 それにしても、ディズニー傘下の会社が独自のアニメーシ
ョンというのも変な感じだが、さらにディズニー社内のアニ
メーション製作では必ず1億ドル以上の製作費が掛かるとい
う体制が、ミラマックスではそれ以下で済むという話も伝え
られており、今後の計画を進める外部の製作者には、多少微
妙なことにもなりそうだ。
        *         *
 続いては続報で、キャスティングの情報を4本まとめて紹
介しておこう。
 最初は今年1月15日付第103回と4月1日付第108回でも紹
介した“Ocean's Thirteen”の配役で、さらにアル・パチー
ノの出演が追加された。
 この配役では、前作までの男性陣12人と、新たに女優エレ
ン・バーキンの登場が先に紹介されていたが、それに加えて
オスカー受賞者の参加となったものだ。まあ、クルーニーも
今年受賞したところで、相手役にはちょうど良いバランスと
いうところかも知れない。なお物語は依然未公表だが、ワー
ナーから漏れた情報では、パチーノの役柄はラスヴェガスの
最新式カジノ・ホテルのオーナーだそうで、これはオーシャ
ンたちが狙う標的ということになりそうだ。
 撮影は7月21日から、ロサンゼルスとラスヴェガスで行わ
れることになっている。
 お次は、3月1日付第106回で紹介したデイヴィッド・ク
ローネンバーグ監督の“Eastern Promises”に、監督の前作
『ヒストリー・オブ・バイオレンス』に主演したヴィゴ・モ
ーテンセンの出演が発表されている。
 この作品は、前回紹介したようにロンドンの底辺社会を背
景に、若い看護婦がクリスマスイヴに産辱で亡くなったロシ
ア人女性の謎を追うものだが、モーテンセンの役どころは、
亡くなった女性がいたロシア人の売春組織に捕えられた男と
いうことになっている。撮影開始は秋の予定だが、キャステ
ィングが決まり始めるということは、本作が監督の次回作と
いうことにもなりそうだ。
 3本目も3月1日付第106回で紹介した作品で、ウォルデ
ン・メディアが製作するファンタシー“The Water Horse”
に、エミリー・ワトスン、ベン・チャップリン、それに昨年
公開のダニー・ボイル監督作品『ミリオンズ』で大金を手に
入れてしまった兄弟の弟を好演していたアレックス・エテル
の出演が発表されている。エテルが謎の卵を手に入れて海竜
を育てる少年の役ということだ。撮影は5月初旬にスコット
ランドとニュージーランドで開始される。
 続報の最後は、これもウォルデン・メディアの製作で、昨
年12月1日付第100回で紹介した“Journey 3-D”の主演にブ
レンダン・フレイザーの起用が発表されている。ジュール・
ヴェルヌ原作の『地底旅行』を現代版にして3D映画化する
この作品では、フレイザーは10代の息子とともに先人が隠し
たメッセージを見つけ出し、未知の世界を探検する地質学者
を演じる。フレイザーは最近では、オスカー作品賞を受賞し
た『クラッシュ』などにも出演しているが、ファンには何と
言っても『ハムナプトラ』の怪演が懐かしいもので、VFX
満載の本作でも怪演振りを見せてもらいたいものだ。
        *         *
 以下は、その他の短いニュースを紹介しておこう。
 待望久しかったリドリー・スコット監督の大作“American
Gangster”の撮影を7月に控えるラッセル・クロウが、そ
の前にインディーズ製作のスリラー作品に出演することが発
表された。
 この作品は、ロバート・コーマイア原作の“Terderness”
という長編小説を、『ハイド・アンド・シーク』のジョン・
ポルソン監督が映画化するもので、内容は粗暴な10代の若者
エリックを巡るドラマ。クロウはこの作品でエリックの過去
と関わる警部の役を演じることになっている。
 ハリウッドでも成功を納めたクロウだが、彼自身は出来る
だけ出身地オーストラリアの才能とのコラボレーションを希
望しているということで、ポルソン監督も同国の出身者。因
に元俳優だった監督は、1991年製作の日豪間の第2次大戦秘
話“Prisoners of the Sun”(アンポンで何が裁かれたか)
で、当時はまだ脇役だったクロウと共演していたそうだ。
        *         *
 北欧出身のポップグループ=アバの往年のヒット曲を使用
して1999年にロンドンで初演され、全世界の累計で16億ドル
を稼ぎ出し、現在も5年目に入ったブロードウェイを始め、
世界11都市でロングランが続いているミュージカル“Mamma
Mia!”の映画化を、トム・ハンクス主宰のプレイトーンで進
めることが公表された。
 この計画は、舞台の製作者ジュディ・クレイマーがハリウ
ッド各社から殺到した映画化の申し入れの中から同社を選ん
だもので、その決め手は、ミュージカルと同様ギリシャ系の
家族を描いて同社が製作した『マイ・ビッグ・ファット・ウ
ェディング』の成功が大きいとされている。
 なおクレイマーは、世界中での舞台と同様、映画化の製作
も直接仕切るということだ。脚本も舞台と同じキャサリン・
ジョンスンが執筆中。ユニヴァーサルの資金調達と配給で、
2007年末公開を目指すとしている。
        *         *
 ルネー・ゼルウィガーが、7月31日に撮影開始されるパラ
マウント製作のホラー作品“Case 39”に主演することが発
表された。
 この作品はレイ・ライトの脚本を映画化するもので、内容
は、ソーシャルワーカーの女性が10歳の少女を問題のある両
親の許から救出するが、実は本当の問題は両親ではなかった
…というお話。ゼルウィガーはソーシャルワーカーの女性を
演じる。
 なお、ゼルウィガーは、1994年の『悪魔のいけにえ4』に
主演したことを公表しているが、本作はそれ以来のホラー作
品への出演になるものだ。因に、彼女は一時パン兄弟による
ハリウッドリメイク版“THe Eye”への出演も発表されてい
たが、その情報は消えたようだ。また、クリス・ヌーナン監
督でイギリスの絵本作家ベアトリクス・ポッターの生涯を描
く“Miss Potter”の撮影はすでに完了。年内にワインスタ
インCo.の配給で公開予定になっている。
        *         *
 『エイリアン』の創案者の一人で、その後も『ブルー・サ
ンダー』や『トータル・リコール』などに関ったダン・オバ
ノンの脚本、監督による“They Bite”というSFスリラー
の計画が発表されている。
 実はこの計画、具体的な内容などは全く紹介されていない
のだが、オバノンの名前だけで期待が集まっているようだ。
そしてこの計画には、前パラマウントの重役で『ロンゲスト
ヤード』や“MI3”も手掛けたブライアン・ウィッテンと、
前ギャガ・アメリカの代表を務めたロブ・ギャラガーが製作
を担当しており、年内に製作が開始されるというものだ。
 話は全く判らないが、取り敢えず名前の挙がった顔ぶれだ
けで期待が高まるというのも、映画の面白いところと言えそ
うだが、オバノンは過去にいろいろトラブルも起しており、
今回はちゃんと最後まで進むかどうか、これからも注意して
見ていきたいところだ。


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井口健二