井口健二のOn the Production
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2006年04月30日(日) ドラゴン・プロジェクト、ポセイドン、君に捧げる初恋、13歳の夏に僕は生まれた、ロシアン・ドールズ、ジャスミンの花開く、デストランス

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※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介しています。     ※
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『ドラゴン・プロジェクト』“精武家庭”
『ジェネックス・コップ』などのスティーヴン・フォンが監
督主演したカンフーアクション作品。製作総指揮ジャッキー
・チェン、武術指導ユエン・ウーピン。
主人公の父親は男やもめの平凡な整骨医、本人は元特務機関
員を自称して色々な手柄話を周囲に聞かせるが、誰もそれを
信じてはいない。しかし父親は、主人公とその妹には幼い頃
から武術の手解きを繰り返していた。
そんなある日、父親の整骨院が襲われ、父親が連れ去られて
しまう。そして兄妹の許にも暴漢が現れ…
元スパイの親が連れ去られ、その子供が活躍するというお話
は、『スパイキッズ』などにもあったが、それを香港映画で
やると、こんな風になりますという見本のような作品だ。
物語は他愛ないし、基本的にはアクションを見せるための作
品だが、次々繰り出される見事なアクションには、本当に溜
め息を吐きたくなる。日本映画でも同じようなアクション作
品は見せられるが、その違いがどこにあるのだろうと思って
しまうところだ。
それは多分、長年培われた本物の歴史の厚みにも拠るのだろ
うが、その見せ方のうまさというか、何より演者の身体の動
かし方の一つ一つが違うという感じだ。
フォン以外の出演は、『頭文字D』のアンソニー・ウォン、
アイドルユニットTwinsのジリアン・チョンとシャーリーン
・チョイ、『香港国際警察』のダニエル・ウー、そして大ベ
テランのウー・マ。全員ちゃんと身体が動いている。
特に、妹役のジリアンが演じる見事なアクションは気分をす
かっとさせてくれるものだ。元はティーンモデル出身という
ことだが、カンフーの基礎は身に付けているということなの
だろうか。ワイアーも使用されてはいるが、華麗な身のこな
しは見事だった。
CGIやVFXを使ったアクションも違和感なく織り込まれ
ているし、それでいて肝心のところでは間違いなく生身の闘
いが繰り広げられる。そのバランスも良い感じだった。

『ポセイドン』(特別映像)
1972年公開で、パニック映画の先駆けとも呼ばれたポール・
ギャリコ原作『ポセイドン・アドベンチャー』を、1981年の
『Uボート』、2000年の『パーフェクト・ストーム』などで
海洋ものには定評のあるウォルフガング・ペーターゼン監督
がリメイク。
作品は5月12日全米公開で、現在は製作の最終段階にあると
いうことだが、ペーターゼン監督が緊急来日しての記者会見
と、特別映像の上映が行われた。
記者会見で監督は、「『Uボート』も『パーフェクト・スト
ーム』も登場人物は、兵士であったり漁師であったり、ある
意味覚悟を決めたプロたちの行動を描いた。しかし最近は、
津波やカテリーナ、9/11など一般人が災害に巻き込まれ
る出来事が多く発生し、そういうときの普通の人々の行動を
描くべきだと考えた」と製作意図を語っていた。
製作時期から言うと、カテリーナに関しては後追いになって
しまうが、確かに9/11以降の、我々自身がいつ何時災害
に巻き込まれるかも知れないという時代の中で、今この物語
をリメイクすることには意義があるのかも知れない。
で、上映された特別映像は、ワーナーのロゴに始まる巻頭の
19分30秒(映画館で上映時の1巻目のフィルムに相当)がそ
のまま流されたものだ。
その本編の最初では、海中から写された航行するポセイドン
号の船底の映像から、カメラが海上に出て、途中で登場人物
の一人が甲板をジョギングする姿を織り込みながら、船の廻
りをぐるり1周して、彼が夕日を眺めるまでの約2分半が一
気に映し出される。
このシーン、実は本物の船を借りて撮影した方が安上がりな
のだが、その後で転覆する船の撮影にはどこも貸してくれる
ところが無かったのだそうで、登場する俳優ジョッシュ・ル
ーカスの姿を除く全てをCGIで作り上げたもの。このシー
ンの仕上げには、ILMのコンピューターを18昼夜連続で稼
動して処理が行われたということだ。
実はカメラが海上に出た途端の夕日に映える船影が奇麗すぎ
て、多少リアルさを減じている感じもしたが、そこから船の
周囲を廻るシーンには思わずニヤリとさせられ、この後に続
くはずの物語のリアルさに対してちょっと夢見心地の感じも
心地よかったものだ。
1997年の『タイタニック』の中でも、船上をカメラがなめる
CGIのシーンはあったが、その規模、リアルさでは、技術
はここまで来ているのだということが感じられもした。
そして物語は、登場人物たちの紹介のドラマを挟んで、ボウ
ルルームでのカウントダウンパーティ。それと同時に進む巨
大波の来襲と、船の転覆へと進んで行く。
実は、船の転覆までがちょうど19分30秒で、最初の1巻でそ
こまで見ることができた。来襲する巨大波の映像は、『パー
フェクト・ストーム』でも充分に迫力を感じたが、今回はそ
れを数倍する規模のもので、記者会見場に置かれたスクリー
ンよりもっと大画面で見たいと思わされたものだ。
特に、甲板のプールの水と、船体を乗り越えてくる波の対比
などが見事に描かれていた。またそれによって巻き起こる船
内の描写も、1972年の映画化ではここまで克明には描けなか
ったアクションが存分に映像化され、その迫力は充分に味わ
えた感じがした。
というところで、実はこの作品の本当の物語は、この後に繰
り広げられるサヴァイバルが重要なのであって、ここまでは
前哨戦。考えてみたら2本立ての1本目が終ったところとも
言えるものだが、ここから始まる2本目が早く見たいという
期待感が否応無く高まる感じがした。

『君に捧げる初恋』“初恋死守決起大会”(韓国映画)
IQは高いが問題児の若者が繰り広げる恋人獲得大作戦。
主人公は釜山の高校生。彼には幼馴染みで思いを寄せている
初恋の女性がいた。彼女の母親は彼女の出産時に亡くなり、
彼の母親の乳を分け合った言わば乳兄弟なのだが、高校教師
の娘でもある彼女は、学業成績が全国で3000番以内の才媛。
一方の彼の順位は30万台でとても太刀打ちできる順位ではな
い。しかし彼は、実はIQ=148の頭脳の持ち主で、それを
知る彼女の父親は、遂に司法試験の1次に合格したら結婚を
認めると宣言する。そこから彼の猛勉強が始まるのだが…
映画の前半は、何しろベタなギャクのオンパレードで、正直
に言って、最後までこのままだったらどうしようと思ったく
らいだ。しかし、その予想を完璧に覆してくれるのが映画の
面白さで、これが最後は落涙の感動作になるのだから見事な
ものだ。
しかもそれが、わざとらしいお涙頂戴でではなく、人が人と
してお互いが気遣い合っての展開が無理無く作られている。
その脚本の巧みさにも感心した。
そこには、韓国的な倫理観など、日本とは違うところもいろ
いろあるが。それがまた、現代日本が失った物を見せてくれ
るようでもあって、良さを感じるところでもあった。
今さら日本映画でそれを見せられても困ってしまうところだ
が、韓国映画だから許される?そんな部分もあるようにも感
じた。これが、韓国映画ブームの根底にあるのかも知れない
とも思ったものだ。
出だしとはかなりギャップのある後半の展開だが、そこに至
る微妙な変化も、思い返すとそれなりに丁寧に描かれていた
ように思われる。それに、最後の希望を感じさせる終り方も
良い感じだった。

主演は、『猟奇的な彼女』のチャ・テヒョンと、『私の頭の
中の消しゴム』のソン・イェジン。脚本・監督は韓国テレビ
出身でこれが映画デビュー作のオ・ジョンノク、「マニュア
ルやテクニックではない恋愛を描く」というのが本作のコン
セプトだそうだ。

『13歳の夏に僕は生まれた』
    “Quando sei nato non puoi più nasconderti”
昨年6月に『輝ける青春』を紹介しているマルコ・トゥルオ
・ジョルダーナ監督による最新作。
監督は、前作では6時間を超える上映時間で、1960年以降の
イタリア現代史を見せてくれたが、本作では13歳の少年の目
を通して現代イタリアが抱える社会問題の一つ、不法移民の
問題が提示される。
主人公の少年は、工場を営む両親の下で何不自由なく育ち、
短期のイギリス留学も経験するなど恵まれた環境に暮らして
いた。
しかし、13歳の夏の日、父親と共に父親の友人のヨットで出
発した船旅で夜の海に転落。そして力尽きようとしたとき、
通りかかった不法移民を載せた密航船に救助される。
その密航船には、アフリカから旧東欧、中近東からインドま
でさまざまな国籍の人々が足の踏み場もないほどに載せられ
ており、彼らはやたらと止まるおんぼろエンジンを頼りにイ
タリアを目指していた。
イタリア人の子供と判ると身代金の人質になる恐れもあるそ
の環境で、少年は機転を利かしたルーマニア人の兄妹に助け
られる。こうして何とかイタリアにたどり着いた少年だった
が、その船での経験は少年に今までとは違った社会への目を
開かせる。
イタリアでは、未成年の不法入国者は保護するが、18歳以上
は強制送還という法律があるようで、その狭間を巡ってドラ
マが展開する。その一つ一つの出来事が、少年に新たな社会
の仕組みを見せつける。
不法入国者は日本でも問題になっているが、暴力団などが絡
む日本と違って、イタリアではもっと普通に行われているこ
とのようだ。その事実は大人にとっては周知のことなのだろ
うが、子供の目には隠されているものなのかも知れない。
そんな大人が見て見ぬ振りをしている事実に、13歳の少年の
目を通すというやり方で改めて問題提起をしようとしている
作品のようにも感じられた。しかも、決してきれいごとだけ
でない部分も描いているところも、監督の真摯な気持ちの現
れと言えそうだ。
根の深い問題に見て見ぬ振りをしているのはどこの国も同じ
だが、それに少しでも陽を当てようとする動きも共通と採れ
る。もちろん法律などは違うが、考えなければいけないこと
は同じのようにも思われた。

『ロシアン・ドールズ』“Les Poupées russes”
2001年に公開された『スパニッシュ・アパートメント』の主
人公のその後を追った続編。と言っても、実は僕は前作を見
逃しているので、前作との繋がりはよく判らないのだが…
主人公は作家を夢見ながらも、食べるためにテレビのメロド
ラマの脚本なども執筆しているという状況。そんな中で昔の
仲間の一人がロシア人と結婚することになり、その結婚式に
招かれた彼は、この5年間の自分を振り返る。
この5年間で彼は、脚本や自叙伝の代筆などで実績を残し、
作家への足掛かりは掴んでいる。しかし恋愛の面では、5年
前の恋人とは別れても連絡は持ち続け、一方、仕事上で付き
合った女性や、行き摩りの女性とも関係を持つ。
本人は理想の女性を探しているつもりなのだが、30歳を迎え
た今、そんな生活を何時までも続けて良いものかどうか疑問
に感じ始めている部分もある。そんな人生の岐路を迎えた主
人公を、ユーモアたっぷりに描いた作品。
セドリック・クラピッシュ監督の作品では、その前の『猫が
行方不明』という作品が自分の中で消化し切れなかったとこ
ろがあり、納得できていなかった。本作も実は同じで、正直
に言って主人公の我儘さには退いてしまう感じもする。
でもまあ、最近の若者を見ていると、こんなものかなあと言
うのも判るような気がしてきたし、特に本作では、それでは
いけないという自覚も芽生えてくる部分もあって、それなり
に納得して見ることができた感じだ。
因に本作には、主人公のロマン・ディリス(真夜中のピアニ
スト)以下、オドレイ・トトゥ、セシル・ド・フランス(8
0デイズ)、ケリー・ライリー(リバティーン)ら、前作の
後ブレイクした配役がそのまま再出演している。
また、パリ、ロンドン、サンクトペテルブルグの3都市にロ
ケーションされた風景も美しく。さらに、パリ、ロンドン間
をユーロスターで往復しながら仕事をこなしている主人公行
動など、現代ヨーロッパ社会をよく描いた作品にも思えた。

『ジャスミンの花開く』“茉莉花開”
本作は2004年の東京国際映画祭で上映され、同年11月にも紹
介しているが、日本公開が決まって改めて試写が行われた。
まず、当時の紹介文を再録しておくと、
チャン・ツィイーが、ジャスミンの中国名に準えて茉、莉、
花と名付けられた三代の母子を演じ分け、ジョアン・チェン
が、それぞれの母親または祖母(ツィイーの成長した姿)を
順番に演じて、第2次世界大戦前から現代にいたる中国を描
いたエピックドラマ。
戦前の映画スターを夢見る少女や、戦後を力強く生き抜く女
性などを、ツィイーが可憐にまた骨太に演じ分ける。特に、
映画の巻頭での夢見る少女の姿は、『初恋のきた道』の頃を
思い出させてファンには堪らないところだ。
その発端で、ツィイーは女手一つで切り盛りしている写真館
の一人娘。ある日映画のプロデューサーに誘われてスタジオ
を訪れ、スクリーンテストを受けて女優になるのだが…。こ
のスクリーンテストでの余りにも下手糞な演技も見ものだっ
た。
また、映画では主人公の暮らす写真館の名前が時代ごとに変
って行くのも、面白く時代の変化を表わしており、その辺の
端々にも良く気の使われた作品という感じがした。
監督は、チャン・イーモウ作品の撮影監督などを務めたホウ
・ヨンのデビュー作。カメラもしっかりしているし、それ以
上に戦前戦後の中国の風物が見事に再現されている。
物語も、ほぼ同じ話が3回繰り返されるにも関わらず、それ
ぞれの時代背景や社会情勢でまったく違う展開になる。その
辺の面白さも見事な作品だった。
以上が当時の紹介文だが、見直しても印象はあまり変わらな
かった。映画祭では1日何本も見るので、印象は散漫になり
がちだが、やはりしっかりした作品は印象もはっきりしてい
るというところだろう。
なお、主人公が暮らす写真館の名前は、途中の文化大革命の
時代は「紅旗写真館」というものでこれはなるほどと思わせ
たが、他の時代の名前の由来はよく判らなかった。
また今回見直していて、特に第二章での労働者階級と、主人
公の実家での生活振りの違いが丁寧によく描かれていること
も理解できた。この他、髪型や衣裳なども、時代背景に合わ
せてかなり丁寧に描かれているようだ。
何故か中国本土でも、製作から3年経ってこの春ようやく公
開されたようだが、その間に古びてしまうような作品ではな
いし、運命に弄ばれはするが、常に前向きに進んで行くヒロ
インの姿は今の時代にも共感を呼ぶものだ。

『デス・トランス』
2000年の『VERSUS』、昨年の『SHINOBI』など
のアクション監督・下村勇二の初監督作品。出演は、『VE
RSUS』の坂口拓、『ウォーターズ』の須賀貴匡、他に剣
太郎セガール、竹内ゆう紀、藤田陽子。
とある寺で数百年に亙って厳重に守られてきた棺が、一人の
男に強奪される。男はその棺を西の森へと引き摺って行く。
そこでその棺を開くと全ての望みが叶えられるという噂が流
れていたのだ。その道中ではいろいろな連中が男を襲うが、
男は滅法強い。
しかし寺の僧正は、その棺には世界を破滅させる災厄が封じ
込められているのだと言う。そこで寺では、棺の奪還のため
一人の修行僧を送り出す。彼には抜く者を選ぶという剣が託
され、その剣を抜く者を見付け出して、棺を取り戻させよう
というのだが…
元々アクションだけが売りの作品で、物語はどうでもいいと
いうか、まあアクションの繋ぎでしかない。多分、作者はそ
れで割り切っているのだろうが、観客の立場で見ると、何と
言うかアクションの羅列に滅り張りが利かず、見終って物足
りなさが残った。
アクションそれ自体も、一所懸命にやっていることは画面か
らも判るのだが、結局のところそれを繋ぐドラマが弱いと、
ただ殴り合っているだけにしか見えて来ない。VFXなども
そこそこ使ってはいるが、あまり有効という感じはしなかっ
た。
確かにアクションには、トリッキーな振り付けや、面白い動
きなどもあるのだが、それが印象として残らない。それは、
『VERSUS』の時にも同じような印象だった記憶のある
もので、やはり何か一味足りないような感じがしてならない
のだ。
ただし本作は、海外のファンタスティック映画祭などに招待
もされているようだから、それで良いのかも知れないが、や
はりもう一歩高みを狙ってもらいたい感じもする。上映時間
89分の作品だが、これを100分前後にする程度の何かがあれ
ば良いようにも感じたが…



2006年04月15日(土) 第109回

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※このページは、キネマ旬報誌で連載中のワールドニュー※
※スを基に、いろいろな情報を追加して掲載しています。※
※キネ旬の記事も併せてお読みください。       ※
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 最初は、この話題から。
 昨年3月1日付第82回と、今年の1月15日付第103回でも
報告した“Star Trek 11”=“Star Trek: The Beginning”
のその後について、脚本家のエリック・イェンドルセンによ
る経過報告が公表されたので紹介しておこう。
 この作品は、イェンドルセンの報告によると、昨年終了し
たテレビシリーズ“Enterprise”の物語が完結した2164年か
ら、カーク船長らの物語が始まる2233年までの70年間を時代
背景とし、主にはロミュランとの対立による惑星連邦の設立
と、その発展の歴史を描くもの。中心となるのはタイベリウ
ス・チェイスという名前の人物で、物語の全体は3部作で構
成される。またその物語の全ては、「カークやその末裔たち
に繋がるものになる」とのことだ。
 つまり、その後の物語の基礎となる銀河政争史とも呼べそ
うな壮大な内容だが、しかもこの計画の一番の理解者で推進
者だったのは、パラマウントの共同社長の地位にいるデイヴ
ィッド・デライン。そして昨年の記事の時点では、一度は計
画にゴーサインが点灯していたのだそうだ。
 ところが、その直後のブラッド・グレイのトップ就任によ
って社内の組織が改変され、ゴーサインは一時消灯。さらに
この状況では、新たな組織からは一時的にせよいろいろ新規
のアイデアがもたらされるようになり、そうなると、それよ
り古いアイデアは浮上することが難しくなってしまうのが現
状だということだ。
 またイェンドルセンは、「計画は現在deadの状態とされて
いるが、それは計画が進行していないという意味。鮫と同じ
でハリウッドでは前に進んでいないとdeadと見なされる」と
も語っている。しかし、彼自身は現状を悲観してはいないよ
うで、「このアイデアはStar Trekを再構築し、従来のファ
ンだけでなく、新たなファンも開拓するもの。計画を検討し
ているプロデューサーがいる限り、いつかそれは実現する。
だから、それが実現する日のため、準備は常にしている」と
のことだ。ただし彼は、そのプロデューサーの名前は明らか
にしなかったようだ。
 因に、第103回で紹介したトム・ハンクスの去就について
は今回は触れられていなかったが、実は後で紹介するように
ハンクスのスケジュールは満杯で、もしかするとあの時点で
は、彼の出演が起死回生の必打だったものが実現しなかった
のかも知れない。しかし、ハンクス自身のトリヴィアを読む
と、彼はStar Trekについて語り出すと止まらなくなるほど
のトレッキーだとのこと。また、1996年の『ファースト・コ
ンタクト』でジェームズ・クロムウェルが演じたコクレーン
博士役には、最後まで出演を希望していたということで、何
かの都合でハンクスが動けば、一気に実現、という可能性は
ありそうだ。
        *         *
 ということで、以下はいつもの制作ニュースだが、まずは
上にも書いたトム・ハンクスの情報から。
 ハンクスの主演とガス・ヴァン・サント監督の顔合せで、
“How Starbucks Saved My Life”という計画がユニヴァー
サルから発表されている。この作品は、大企業の重役だった
男性が、ある日リストラで自分の役職を失い、しかも60歳代
だった彼は結婚生活にも終止符を打たれてしまう。こうして
人生のどん底に突き落とされた男性は、ふと立ち寄ったコー
ヒーショップで人生の転機を確信し、その店のマネージャー
として働く道を選ぶというもの。
 ミッチェル・ゲイツ・ギルという元企業重役の実体験に基
づく原作は、今年3月にゴッサム・ブックスから出版され、
現在の世相を最も反映した作品として映画各社の注目を浴び
ることとなった。そしてその映画化権を、ユニヴァーサルが
6桁($)の契約金で獲得、ハンクス主宰のプレイトーンに
オファーされたというものだ。
 アメリカでもリストラの嵐はかなり強烈そうだが、特に、
極一握りのトップを除いては、重役も従業員でしかない競争
社会ではこのようなことも日常茶飯時なのだろう。そんな世
相にいち早く反応した作品と言える。それにしても、題名に
店名とは、スターバックスには良い宣伝になりそうだが、ま
た同チェーンでは、この春からカップホルダーに映画の広告
を入れることも始めたようで、映画が公開されると相乗効果
も生まれることになりそうだ。
 ただし、ハンクスの計画では、マイク・ニコルズ監督、ジ
ュリア・ロバーツ共演による“Charlie Wilson's War”が、
同じくユニヴァーサルの製作で9月15日の撮影開始の予定に
なっており、本作の製作はその後になるものだ。
 一方、ハンクスの予定では、『ナルニア』を製作したウォ
ルデン・メディアの姉妹会社ブリストル・ベイとプレイトー
ンとの共同製作で、息子のコリンが主演する手品師を主人公
にしたコメディ作品“The Great Buck Howard”に、親子の
役で出演することも発表されている。父親の出番は少ないよ
うだが、ケヴィン・クラインが相手役を務めるこの作品は、
7月にニューヨークで撮影の予定ということだ。
 というわけで、ハンクスのスケジュールには、当分空きは
無いようだが…
        *         *
 1997年に公開された“L.A.Confidential”の原作者として
も知られる作家のジェームズ・エルロイが、初めて自作以外
の脚色を手掛けることが発表された。
 この作品は、ニッキー・フレンチという作家の“Land of
the Living”という作品を映画化するもので、原作は2年前
に発表されたものだが、今回はエルロイが脚色を担当するこ
とをセットにして各社に打診が行われ、争奪戦の末にワーナ
ー傘下のニューラインが脚色料込み7桁($)に近い金額で
権利を獲得したということだ。
 物語は、性に多少だらしないと思われている女性が連続殺
人鬼に拉致され、拷問を受けた末に何とか脱出する。そして
彼女はそのことを警察に訴えるが、警察も彼女の友人たちさ
えもが彼女の作り話ではないかと疑うという展開。かなり悲
惨な話にもなりそうだが、エルロイがこれをどのように脚色
するのかも注目されるところだ。
 なお、エルロイの作品では、“The Black Dahlia”がユニ
ヴァーサルで、ブライアン・デパルマ監督、スカーレット・
ヨハンセン、ヒラリー・スワンク、ジョッシュ・ハートネッ
ト、アーロン・エッカートの共演で映画化中。
 またパラマウント製作で、“The Night Watchman”の映画
化が、エルロイ自身の脚色で準備が進められており、今回は
この脚色を完了した直後に、同作の製作者のアレクサンドラ
・ミルチャンからフレンチの原作本が届けられ、エルロイが
脚色をOKしたということだ。しかし、その映画化を同じ会
社で行わないところがこの製作者の強かさのようだ。
        *         *
 お次はテレビシリーズからの映画化で、1997年に公開され
て全世界で2億4000万ドルの大ヒットを記録した『ビーン』
の続編“BeanII”が、もちろんローワン・アトキンスン主演
で5月15日に撮影開始されることが発表された。
 ちょっと常識外れの行動がいろいろなトラブルを巻き起こ
すMr.ビーンの今回の物語は、彼が休暇で南フランスを旅行
し、やはりいろいろなトラブルの原因になってしまうという
もの。しかも映画の結末では、彼の旅行を撮影したヴィデオ
ダイアリーがカンヌ映画祭で上映されてしまうという展開に
なるようだ。
 つまり、5月15日の撮影開始というのは、カンヌ映画祭の
会期中に撮影を行うということのようだ。脚本は、サイモン
・マクバーニーの原案から、前作も手掛けたロビン・ドリス
コールと、新参加のハーミッシュ・マッコール。監督には、
昨年“The League of Gentlemen's Apocalypse”というこれ
もテレビシリーズからの映画化作品を発表しているスティー
ヴ・ベンデラックが起用されている。製作は前作も手掛けた
ワーキング・タイトル。
 因に、前作のアメリカ公開題名は、“Bean: The Ultimate
Disaster Movie”だったようで、あの内容からはちょっと
誇大タイトルのようにも感じるが、アメリカのガイドブック
ではかなり高い評価が付いている。
 テレビシリーズの『ビーン』は一発芸のようなところがあ
るが、前作の映画化はそれなりに人間味のある展開で、それ
に一発芸がうまく組み合わされた感じの面白さだった。特に
ドラマ部分は良い味を出していたものだ。前作の舞台はアメ
リカだったが、今度はフランスで、Mr.ビーンは一体どんな
騒ぎを巻き起こすのだろうか。
        *         *
 ブラッド・ピットとアンジェリーナ・ジョリーの共演で話
題を呼んだ“Mr.and Mrs.Smith”のダグ・リーマン監督の次
回作として、1992年に発表されたスティーヴン・グールド原
作による“Jumper”というSFアドヴェンチャーを3部作で
撮る計画が発表された。
 この原作の元々のお話は、17歳の少年が自分にテレポート
の超能力があることを発見し、最初は父親の虐待から逃れた
り、銀行強盗などに使っているが、やがて司法機関とテロリ
ストとの闘いに巻き込まれて行くというもの。ただし映画化
に当っては、最初にデイヴィッド・ゴイヤーが脚色したもの
を、現在は『ファイト・クラブ』などのジム・ユルスがリラ
イトしているが、その内容は厳秘とされているものだ。
 まあ、3部作にするというからには、かなりの紆余曲折が
ありそうだが、最終的に司法機関とテロリストとの闘いに巻
き込まれるということは、その時どちらの側に立つかで展開
はずいぶん変わってくることになる。もっともアメリカ映画
でテロリストの側というのは考えにくいが、その前が銀行強
盗というのは引っ掛かるところだ。
 主演は、2004年の“Being Julia”に出演していたトーマ
ス・ストーリッジ。それに今秋公開“The Grudge 2”に出演
のテレサ・パルマーと、『リトル・ダンサー』『キング・コ
ング』のジェイミー・ベルが共演する。製作は“Mr.and…”
のニュー・リジェンシー。
 魔法使いの延長で、超能力ものもいろいろ出てきそうな感
じだが、ぱっと消えたり現れたりのテレポーテーションは、
映画では比較的早くから登場していたもののように思える。
そんなオーソドックスなものを、現代にどうアレンジするか
が注目だが、特に脚本がゴイヤーとユルスというのは今まで
の作品から考えてもかなり過激になりそうだ。しかもそれを
若手の共演で描くというのは…楽しみな作品だ。
        *         *
 受賞経験もある短篇作家で、“20th Century Ghosts”と
いう短編集も出版されているジョー・ヒルの初めての長編小
説“Heart Shaped Box”の映画化権をワーナーが獲得し、ア
キヴァ・ゴールズマンの製作で進めることが発表された。
 物語は、歌手の主人公がeBayで幽霊を購入してしまい、彼
自身の過去にまつわる幽霊と悪魔の攻撃に晒されるというも
の。悪魔にインターネットが関わるなど、現代的なアレンジ
が面白そうな作品だが、実はこのヒルという作家は、あのス
ティーヴン・キングの息子ということで、その点でも注目を
集めそうだ。
 ただし、この原作に最初に目を付けたワーナーの製作トッ
プのケヴィン・マコーミックも、製作を担当するゴールズマ
ンも、実は映画化を決めた時点では彼の父親がキングだとい
うことは知らなかったのだそうで、今回の契約は親の七光で
はないとしている。また、ワーナーでは早速脚本家を選考し
て、ただちに製作に掛かるということだ。
        *         *
 ルーシー・リューの製作、主演による“Beautiful Asian
Bride”という計画が、紆余曲折の末ユニヴァーサルで進め
られることになった。
 この計画は、レス・ファイアスタインとP・J・ペイセの
オリジナルアイデアに基づくもので、誤って殺人容疑を掛け
られた男と、彼の無実を信じたい文通だけでやってきた花嫁
を巡るコメディ。元々はダニー・デヴィート主宰のジャージ
ー・フィルムスで進められていたが、同社が解散したために
宙に浮いていたものだ。
 その計画をユニヴァーサルが引き継ぎ、新たにアイス・キ
ューブ主演の“Are We There Yet?”などに参加しているス
ティーヴン・ゲイリーとクラウディア・グラジオッソの脚本
家コンビを起用して、実現を目指すことにしたもので、さら
に製作には、『ダヴィンチ・コード』などのイマジンの主宰
者ブライアン・グレイザーの参加も発表されている。
        *         *
 “Ice Age: The Meltdown”の大ヒットを受けて、同作で
共同脚本を務めた新人脚本家のジム・ヘクトが、今度はドリ
ームワークスアニメーション(DWA)で、“Punk Farm”
という計画を進めることが発表された。
 この作品は、ジャレット・J・クロソツカの原作に基づく
ものだが、物語はヘクトとプロデューサーのケヴィン・メシ
ックがアイデアを出し合い、完成された概要をジェフリー・
カツェンバーグに提出、それが認められて計画進行となった
ということだ。
 内容は、農園の家畜たちがパンクロックバンドを結成し、
羊、鶏、豚、山羊、牛が一緒になって、Livestockという場
所で開かれる史上初の動物によるロックフェスティバルに参
加するため旅をするというもの。『ブレーメンの音楽隊』が
思い浮かぶ展開だが、題名から連想される『動物農場』的な
捻りはあるのだろうか。
 なお、DWAでは、今夏に“Over the Hedge”(森のリト
ル・ギャング)を公開、秋には『ウォレスとグルミット』の
アードマン製作による“Flushed Away”が公開されて、来年
は“Shrek the Third”の公開が予定されており、今回の作
品の順番はその後ぐらいになりそうだ。
        *         *
 アダム・サンドラー主演“The Longest Yard”のリメイク
を手掛けたピーター・シーゲル監督が、2003年1月1日付第
30回で紹介して以来滞っていたニューライン製作によるDC
コミックスの映画化“Shazam !”に起用されることが発表さ
れた。
 この計画では、同年4月1日付第36回と12月15日付第53回
でも紹介したように、最初はアカデミー賞受賞者でコミック
スファンを自称するウィリアム・ゴールドマンが脚色を担当
したものの挫折。その後は、『トイ・ストーリー』のジョエ
ル・コーエンとアレック・ソコーロフや、ブライアン・ゴル
ボフといった脚本家もリライトに起用されたが、結局、実現
を見なかったものだ。
 一方、今回起用が決まったシーゲルは、「子供の頃から、
主人公のキャプテン・マーヴェルのファンだった。この物語
は『ビッグ』と『スーパーマン』を合わせたようなもので、
それまでのスーパーヒーローとは全く違うものだ」と語って
いるが、実はシーゲルは、今までの監督作品でも自ら脚本の
執筆はしておらず、従って今回も新たな脚本の登場を待つこ
とになるものだ。
 取り敢えずシーゲル自身は、他の作品を1本監督してから
本作の準備に掛かるとしているが、この状況はどのように打
開されるのか。因に、シーゲルは今回の起用では製作も担当
しており、このまま製作が滞ることは製作者の責任にもなる
ものなので、それなりの勝算はあると思われるが、ちょっと
気になるところだ。
 なお、Shazamとは、神話に登場するSolomon、Hercules、
Atlas、Zeus、Achilles、Mercuryの頭文字を集めたもので、
古代エジプトの魔法によって彼らの能力を身に付けた15歳の
少年が活躍する物語。どのようにでも料理は出来そうな感じ
だが、全てのファンの満足を得るのはかなり大変そうだ。
        *         *
 ウェス・クレイヴン監督の1977年作品“The Hills Have
Eyes”(サランドラ)のリメイクを成功させたアレックス・
アジャ監督が、次回作として“Into the Mirror”というホ
ラー・スリラーを手掛けることが発表された。
 この作品は、高度に情報化されたデパートのセキュリティ
ガードの主人公が、店頭の鏡の前で発生した不自然な死亡事
故を調査するうちに、その鏡に隠された死の復讐劇を見付け
出すという物語。元々はジム・ユルスとジョー・ジャンジェ
ミが執筆した脚本を、キーラン&ミシェル・マルローニがリ
ライトしていた。そして、“Hills…”のヒットの後で各社
から殺到したオファーの中から、アジャ本人が気に入って選
んだものだそうだ。
 この脚本についてアジャは、「物語は、人間が鏡の中に自
分を見るときの最悪の見え方を描いたもので、完璧に新しい
コンセプトにしたがっている。誰でもが捕われる恐怖のエレ
メントが見事に描かれたものだ」と語っている。ただし脚本
に付いては、アジャとパートナーのグレゴリー・ラヴァサー
ルがさらに手を加えるとのことだ。
 製作はニュー・リジェンシーで、この秋に撮影される。
        *         *
 最後に、第4作の続報を2つ紹介しておこう。
 まずは昨年6月1日付第88回で紹介したシルヴェスター・
スタローン脚本出演の“Rambo IV”について、ジェームズ・
ブローリンが共演の契約をしたことが発表された。
 この計画については、前回はスタローンが脚本の執筆を契
約したと紹介したが、その脚本はジョブ・スチュアート、ダ
ニー・ラーナーの協力ですでに完成されたようだ。まあ共演
者が決まったというのは脚本の完成を意味しているものだ。
 そしてその物語は、前回はランボーは脇に廻って若い主人
公を新たに立てるということだったが、今回の発表では、妻
と幼い娘と共に平穏に暮らしていたランボーの娘が行方不明
となり、娘の行方とその犯人を追うというもの。
 結局ランボーは主人公に復帰したようだが、その犯人捜査
の過程で、戦争犯罪と誤認されて逃亡した元兵士を救済する
組織と関わって行くことになるということだ。そしてブロー
リンはその組織の人間ということになっている。しかし、物
語では、ランボーは最後にはその逃亡者と闘うことになるよ
うで、そうなるとブローリンの役柄も表面的なものだけでは
なさそうだ。
 製作時期は未発表だが、このまま行くとかなり早く実現す
ることになりそうだ。
 もう一本は、“Terminator 4”の情報で、2004年10月1日
付第72回では2005年中の撮影と紹介したが、結局それは実現
せず、今回は製作者のアンディ・ヴァイナが、撮影をオース
トラリアのワーナー・スタジオで行うことを表明しているも
のだ。またアーノルド・シュワルツェネッガーについては、
“T4”では主演には起用せず、カメオ程度の出演の可能性
が示唆されたようだ。
 脚本は、すでにジョナサン・ブランカートとマイクル・フ
ェリスの手になるものが完成しているが、監督のジョナサン
・モストウはすでに降板しており、現在は監督を選考中。こ
ちらはもう少し時間が掛かりそうだ。



2006年04月14日(金) タイドランド、ゴーヤーちゃんぷるー、初恋、アローン・イン・ザ・ダーク、迷い婚、恋は足手まとい、ゆれる、春の日のクマは好きですか?

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※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介しています。     ※
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『ローズ・イン・タイドランド』“Tideland”
ミッチ・カリンという作家の原作を、テリー・ギリアムが脚
色、監督した2005年作品。
映画化の経緯は、以前からギリアムの大ファンというカリン
が、この原作を書き上げたときにギリアムに推薦文を頼もう
と本を送ったところ、ギリアムが気に入ったのだそうだ。だ
から最初からギリアム向けに書かれたお話と言うこともでき
そうだが、確かにギリアムワールドそのものといった感じの
不思議な雰囲気の物語だ。
主人公は、『不思議の国のアリス』が大好きな少女。両親共
に麻薬中毒という家庭に育った彼女は、「短い休暇に行く」
と称する父親の麻薬の世話に追われ、バービー人形の頭部を
もいだ指人形の他には話し相手もいない孤独な日々を送って
いた。
ところがある日、母親が麻薬のショックで死亡、慌てた父親
は彼女を連れて金色の草原の中に建つ一軒家の実家へ帰る。
しかしそこは住む人もいない廃屋。しかも帰り着くや否や、
父親は「短い休暇」に行ったまま動かなくなってしまう。
こうして廃屋に一人残された少女は、屋根裏に住む栗鼠や、
色々と怪しげな行動の見て取れるお隣さんの姉弟らと共に、
何故かタイドランド(干潟)と呼ばれる不思議の国を彷徨う
ことになるが…
正直に言ってかなりグロテスクな作品で、奇妙と言うより異
常な世界が展開する。今までのギリアム作品の中でも、ある
種の過激さでは群を抜いていると言えそうだ。
実際にこの作品を見ると、ハリウッドや大手資本で撮られた
作品では、ギリアムが如何に自分を殺していたかが判る感じ
もする。因に本作は、大手に縛られないイギリス+カナダ資
本で製作され、ギリアム本人が「自分自身の映画への情熱を
再燃させたかった」と語っているくらいのものだ。
とは言うものの、本作の物語は実に巧みに作られていて、独
り善がりや辻褄の合わないようなところもなく、納得して見
終えられた。そして、主人公が最後まで希望を失わない展開
には見事に填められた感じもした。
ギリアムが、全く一筋縄では行かない監督ということを再確
認できる作品とも言えそうだ。
主演は、撮影中に10歳の誕生日を迎えたというジョデル・フ
ェルランド。今までは主にカナダのテレビに出ていたようだ
が、この異常な物語の中で実に生き生きとした演技を見せて
くれる。また、父親役を、ギリアム作品は『フィッシャー・
キング』以来となるジェフ・ブリッジス。母親役を、『チャ
ッキーの花嫁』などのジェニファー・ティリー。隣家の姉弟
役をジャネット・マクティアとブレンダン・フレッチャーな
ど、受賞やノミネート歴の並ぶ俳優が揃っている。
観客を選ぶ作品かも知れないが、ギリアムの真価は存分に発
揮されていると思える。それにフェルランドの演技が素晴ら
しくて、僕には最高に面白く見られた作品だった。

『ゴーヤーちゃんぷるー』
くもん出版刊行の『まぶらいの島』という原作の映画化。学
校でいじめに遭い不登校となった少女が、メールを切っ掛け
に沖縄の島に渡り、人生について考える物語。
元々くもん出版の本だし、映画の企画・製作協力が森田健作
事務所ということで、相当に臭い作品を覚悟したが、予想外
に爽やかな作品に仕上がっていた。
主人公は、幼い頃に母親が家を出て祖父母に育てられたが、
最近海洋写真家の父親が事故で亡くなり、自分の道を見失っ
ている。しかも学校ではいじめに遭い、クラス全員から無視
されているが、一緒に暮らす元校長の祖父はしっかりしろと
言うだけで、親身にはなってくれない。
こうして、引き篭りになった彼女の外部とのつながりは電子
メールだけだったが、ある日、彼女はメル友が西表島にいる
ことを知る。そこは、家を出た母親が住んでいる島だった。
そして西表島に到着した彼女を、沖縄の気候と風土は何も聞
かず暖かく迎え入れてくれる。
さらに島では、ホスピスに暮らす末期患者や転地療養の子供
たちの生活に触れる内、彼女は自分自身を見つめ直して行く
ことになる。
主演は多部未華子。昨年『HINOKIO』で注目したが、
その演技では各賞の新人賞なども獲得したようだ。そして今
回も見事に存在感のある演技を見せてくれている。共演は、
風吹ジュン、武田航平、美木良介、下条アトム。
以前にも書いたことがあると思うが、人間が全力で走ってい
る姿というのは、演出不要の映像だと思う。この映画では多
部が走るシーンが2度ほどあり、それを見せられると、他が
多少臭くても、それだけで雰囲気が出来てしまうものだ。
まあ、そんなテクニックに僕が填められているのかも知れな
いが、僕自身は見ていて悪い感じもしなかったし、爽やかな
気分で見終えることが出来た作品だった。

『初恋』
1968年に起きた「府中三億円強奪事件」が、実は18歳の少女
の犯行だったとする2002年に発表された小説の映画化。その
主人公を、原作に惚れ込み、10代最後の作品として主演を切
望したという『NANA』の宮崎あおいが演じる。
主人公のみすずは、父親が死に、母親が兄だけを連れて家を
出て行った後、叔父夫妻に引き取られて成長した。しかし居
心地の良い家ではない。そして16歳の時、訪ねてきた兄に渡
されたブックマッチを頼りに新宿に行き、ジャズ喫茶に集う
仲間達と出会う。
時は1967年。70年安保で日本中が揺れ動く時代を背景に、彼
女と三億円事件との関わりが描かれる。
巻頭、新宿の大ガードを通過するタンク列車が写し出され、
米軍の航空機燃料を運んでいたタンク列車が新宿駅構内で爆
発炎上したことを思い出す。主人公は1969年に大学に入学す
るから、僕より1歳下という勘定になるが、正に自分の時代
が描かれた作品と言える。
見るまでは、テーマもあざといしタイトルもこんななので、
ちょっと不安に感じていたものだ。しかし作品は、実に丁寧
に当時の雰囲気を再現しているし、1965年生まれの監督がこ
こまで出来たことには驚きを感じたくらいだ。
僕自身は、1969年からSFファンの会合に参加し出したが、
この主人公たちのグループは演劇を志しているようだ。しか
し、やっていることは違うとはいえ、この主人公たちの姿に
は当時の自分が写し出されているような感じも持った。
大学紛争や街頭闘争が繰り広げられている中での、当時の自
分の中で交錯した思いが蘇ってきた感じもした。実際、この
映画では三億円事件が下敷きにされるが、描かれる物語はフ
ィクションとはいえ、当時の自分の思いにも合致する感じが
した。
監督は恋愛映画として撮ったと言い、宣伝もそれでされるは
ずだ。それは別に構わない。実際に監督が当時のことを知っ
ているはずもないことだ。
でも、ここに描かれているのは、1960年代末の学生=若者が
本当に元気だった頃の物語。そんな時代は2度と訪れないか
も知れない時代へのノスタルジー。そんな気持ちが自分の中
に鋭く刻み込まれる感じがした。

『アローン・イン・ザ・ダーク』“Alone in the Dark”
2月に『ブラッドレイン』という作品を紹介しているウーヴ
ェ・ボル製作監督によるPCゲーム原作の映画化。
先史時代にアメリカ大陸に文明を築いたとされる民族の遺物
を巡って、その民族の滅亡の謎を探ろうとする博士が行った
禁断の実験。そして、その民族が封じた謎を追って、ARC
AM(Anti Rabidity-Creature Attack Members)713部
隊の元隊員だった主人公が活躍するアクション映画。
巻頭では、ゲームのマニュアルにでも載っていそうな設定が
延々とテロップで流される。そして物語は22年前、主人公を
含む被験者だった子供たちが、保護されていた教会から行方
不明になるという場面から始まる。
ということで、現代に蘇りつつある民族滅亡の災厄を、71
3部隊が防御しているという設定で、エイリアンもどきの怪
物が登場してそれとの死闘が繰り広げられるのだが…
まず最初に、災厄を復活させようという禁断の実験を行った
博士の意図がよく判らない。しかも、封じられている存在と
の関係も不明で、結局のところ物語の全体が意味不明のもの
になってしまっている。
多分ゲームは、エイリアンもどきを倒し続けるアクションゲ
ームなのだろうから、設定などはどうでもいいのだろうが、
映画はそうは行かない。辻褄の合う物語が必要なのだが…僕
には、その辻褄を合わせる物語が思い浮かばなかった。
出演は、クリスチャン・スレーター、タラ・リード、スティ
ーヴン・ドーフ。そこそこ知られた名前が並ぶし、明らかに
ミスキャストのリードは、ラジー賞の候補にもなったという
ことだ。つまりそれなりに注目作だったもので、それでこの
体たらくは、アメリカでの酷評も判る気がするものだ。
とは言うものの、ボルはゲーム原作映画化の大量生産の体制
を整えているようで、暫くはそれにつきあうことになりそう
だ。まあ、以前に紹介した『ブラッドレイン』はそこそこに
仕上がっていたし、それなりの期待は持ちたい。
本作も、設定のいい加減さを無視(!)すれば、713部隊
の突入のシーンなどはそれなりの迫力で演出されていたし、
アクションだけを見るならそこそこだろう。特に、相手構わ
ず撃ちまくるというゲーム感覚は、映画でも充分に描かれて
いたと思える。
ただし、映画の内容と題名とには違和感があり、ゲームの設
定は多少違うのかも知れないという疑問も湧く。それと、結
末がちゃんと描かれていないのは、何かタブーでもあるのだ
ろうか。

『迷い婚』“Rumor Has It...”
1967年の名作『卒業』をモティーフに、実際の噂(?)を基
に作られた物語。
主人公は、ニューヨークで新聞の死亡記事を執筆している女
性ライター。弁護士の婚約者がいるが、結婚や新家庭に夢を
抱けない。そんな彼女が、もう一つ違和感のあるパサデナの
家族の許に、妹の結婚式のため婚約者と共に帰省する。
その町は、1963年に発表された小説『卒業』の舞台となった
場所。そしてそこには、あの小説にはモデルとなった家族が
あるという根強い噂があった。そんな町に久しぶりに帰って
きた主人公は、既に亡くなった母親が、自身の結婚式の直前
に失踪したことがあるという事実を知る。
ひょっとして自分の家族は、その小説のモデルなのか?
そして家族とは性格の全く違う自分の本当の父親は…?
自らの結婚への自信と、納得できる家庭を築くために、彼女
はその謎を解かなければならなくなる。
主演はジェニファー・アニストン。他にロビンソン夫人かも
知れない祖母にシャーリー・マクレーン、ベンかも知れない
男にケヴィン・コスナー。さらに父親をリチャード・ジェン
キンス、妹をミーナ・スヴァーリ、婚約者をマーク・ラファ
ロ。
映画では、ダスティン・ホフマンとアン・バンクロフトの有
名なシーンも挿入されるし、サイモンとガーファンクルの楽
曲も流される。他にもトリヴィア的な話題も登場するし、オ
リジナルを知っている者にはいろいろと楽しめる作品だ。
特に、意外な「ベン」の実像も笑わせるし、それを巡るマク
レーンとコスナーの対決シーンも良い。また本作は、年齢の
設定上、時代背景を1997年にしているが、それも絶妙という
感じがした。
しかし本作の宣伝では、『卒業』のことは表立ってアピール
されていない。日本の映画ファン相手では、なかなか過去の
名作のことは宣伝に使えないようだ。過去の名作を見られる
機会の少ない日本の現状では仕方のないところでもあるが、
これで『卒業』を判っている年代に見過ごされてしまうのは
残念なことだ。
『卒業』を見た人には、本当に面白い作品だということを声
を大にして言っておきたい。

『恋は足手まとい』“Un fil à la patte”
エマニュエル・ベアール主演の艶笑コメディという言い方が
ピッタリのフランス映画。
舞台は19世紀末のパリ。べアール扮する裕福な歌姫リュセッ
トは、何故か一文無しのプレイボーイのエドワールに恋して
いた。ところがエドワールは金持ちの娘との婚約を決め、そ
の日は婚約式の前に別れ話を伝えに来たのだが、なかなか言
い出せない。
一方、リュセットの家にはギャンブル狂の元夫が子供の養育
費をせびりに来たり、信奉者の新聞記者が自分の書いたル・
フィガロの記事を見せに来たり、自称作家の男が自作の歌を
捧げに来たり、大金持ちの若い男性が花を届けさせたり、千
客万来。
そして、結局、別れ話を出来なかったエドワールはそのまま
婚約式に向かうのだが、その式にリュセットが招かれている
ことを知って…
どたばた喜劇ではないけれど、観客だけが知っているお互い
の秘密を隠し通すためのすったもんだが繰り広げられる。
風刺がある訳でもないし、社会問題を反映している訳でもな
い。作品にどんな意義があるのかと言われると答えはあまり
見つからないが、取り合えず見ている間だけは楽しめる、そ
んな感じの作品だ。上映時間は1時間20分。R−15指定。
19世紀末〜20世紀初頭の作家ジョルジュ・フェドーによる同
名の戯曲の映画化だが、何故か古道具屋で買ったと称する携
帯電話が登場したり、ちょっと奔放な脚色もされている。実
際、男女の関係は、特に女性の立場が原作よりもかなり強め
に描かれているようだ。
監督は、1968年カトリーヌ・ドヌーヴ主演『めざめ』などの
ミシェル・ドヴィル。最近はシリアスな作品の多かった監督
が、久々にコメディに立ち返った作品とされている。
また、べアールは本格的なコメディでの主演は初めてなのだ
そうだが、コケティッシュな彼女の風貌からは、もっとこう
いう作品にも出てもらいたいとも思ったものだ。

『ゆれる』
山間の吊橋で起きた事故(事件)を巡って、信頼し合ってい
たはずの兄弟の心のゆらぎを追った人間ドラマ。主演はオダ
ギリジョーと香川照之。西川美和監督のオリジナル脚本によ
る作品。
主人公は、東京でプロのカメラマンとして成功している。あ
る日、母親の一周忌で故郷に帰った彼は、父親と共に田舎町
で家業を継いでいる兄と再会する。父親に反発して故郷を離
れた彼は、頑固な父親の面倒を押しつけた兄に後ろめたさが
ある。
そんな主人公は、兄が経営するガソリンスタンドに勤める幼
馴染みの女性とも再会し、その夜を共にするが、その関係は
家族には知られていない秘密だった。そしてその翌日、兄弟
とその女性で渓谷に遊びに行ったとき、そこに架かる吊橋で
事故が起こる。
対岸に渡った主人公を追って吊橋を渡ろうとした女性に兄が
追いつき、主人公の見ている前で彼女が橋から転落死したの
だ。それは最初、整備不良の橋が原因の事故として処理され
るが、突然の自供で殺人事件として兄が告発される。

そして主人公は、裁判で兄の無実を証明するため奔走するこ
とになるが…
実際は、主人公は事件の一部始終を見ているのだが、その目
撃した内容は観客の目からも巧妙に隠され、それが徐々に明
かされて行く。その他にも、兄弟間のいろいろな確執が実に
見事に見え隠れして、それが明かされるごとにドラマが変化
して行く。
さらに物語では、主人公の心のゆらぎによって、見ていたは
ずのものがさまざまに変容し、それによって事件の状況も変
化していってしまう。しかもそれを、真実しか写さないカメ
ラが見事に描き出して行く。この巧みさには、久しぶりに映
画の醍醐味を感じた。
兄弟を演じた香川とオダギリは、共にその演技力には定評の
ある俳優だが、この作品に関しては、その演技以上に脚本と
演出のうまさが作品をリードしている。実際、日本映画でこ
れほど知的に構成された作品に出会えるとは思っていなかっ
た。脱帽。

『春の日のクマは好きですか?』(韓国映画)
昨年の3月に紹介した日本映画『リンダ・リンダ・リンダ』
にも出演していたペ・ドゥナが主演するラヴ・コメディ。
主人公は、ちょっと夢見がちな女性。作家の父親に育てられ
たせいか、言動や行動が多少エキセントリックで、好きにな
った男性には振られてばかりいる。
ところがある日、父親に頼まれて図書館から借りてきた美術
書に、女性に宛てた愛のメッセージの書き込みを見つける。
そして、そのメッセージに従って次の美術書を借りてきた彼
女は、そのメッセージが彼女の行動に符合していることに思
いつく。
実は彼女には、幼い頃からのボーイフレンドがいて、彼は彼
女のことを思い続けているのだが、彼女はそれに気付こうと
もせず、メッセージの主を追い求める。そして想像はどんど
ん膨らんで…
主人公の目線から見ると、大体上記のような物語だが、実は
裏で動いている物語はかなり複雑。それが結構面白いし、そ
れにある意味乗って振り回される主人公の行動も理解できる
し、楽しめるものだ。
図書館の本に書き込みをするなんてことは許されることでは
ないが、一言こう言っておけば後は許せるような物語。ロマ
ンティックさも程々だし、元々ペ・ドゥナが親しみやすい雰
囲気の女優だから、こんな話も了解できる。
美術書の絵の中に入り込んでしまうシーンなど、多少幻想的
な展開も織り込んで、全体的には物語がちゃんと納まってい
く筋立ても良い。特にサブストーリーが主人公と関係なく進
んで行くところも良くできていた。
なお、本作は2003年の製作、『リンダ…』より前の作品で、
ぺ・ドゥナの初々しさも良かった。また、彼女の次回作は、
ポン・ジュノ監督のVFX大作“The Host”になるようだ。



2006年04月01日(土) 第108回

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
※このページは、キネマ旬報誌で連載中のワールドニュー※
※スを基に、いろいろな情報を追加して掲載しています。※
※キネ旬の記事も併せてお読みください。       ※
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
 今回は情報が多いので早速始めることにしよう。
 まずは続報からで、今年1月15日付の第103回で紹介した
“Ocean's Thirteen”について、改めて7月21日からの撮影
が正式に発表された。
 この計画について前回は、ブラッド・ピットの去就は不明
と書いたが、スティーヴン・ソダーバーグ監督の下、ジョー
ジ・クルーニー、ピット、マット・デイモン、アンディ・ガ
ルシア、ドン・チードル、バーニー・マック、ケイシー・ア
フレック、スコット・カーン、エディ・ジェミスン、シャオ
ブー・クイン、カール・ライナー、エリオット・グールドの
男優陣は全員の再結集が決まったようだ。
 しかし、女優に関してはエレン・バーキンが新たに参加す
ることになり、ジュリア・ロバーツとキャサリン・ゼタ=ジ
ョーンズは、脚本上では今回は主な配役には入っていないと
のこと。もっとも、ロバーツもゼタ=ジョーンズも、前作、
前々作の役柄では、どちらかというとオーシャンの計画に反
対する立場だったから、物語の流れでは居なくてもいいのか
も知れない。ただしカメオ的な出演が否定されていないよう
だ。一方、新登場するバーキンは、デイモンの役柄に絡むと
いうことだが、年齢的にはバーキンの方が16歳上のはずで、
これは母親的存在なのだろうか。ただし詳しいストーリーは
明らかにされていないものだ。
 また、第1作はラスヴェガス、第2作はヨーロッパを舞台
にして、ほとんどがロケーションで撮影されたものだが、第
3作の撮影は、バーバンクのワーナー撮影所にある5つのサ
ウンドステージをフルに使って大掛かりなセットを組み、そ
れを中心に行うとされている。これは、ソダーバーグ監督と
クルーニーが、現在ポストプロダクション中の戦後混乱期の
ベルリンを舞台にした“The Good German”を、オールセッ
ト撮影で実現して味を占めたためだそうだが、今回組まれる
セットでは、舞台となるカジノ自体にもかなりの仕掛けが施
されることにもなるようだ。
 ところで、『オーシャンズ11』のオリジナルで1960年に製
作された『オーシャンと十一人の仲間』に出演したラット・
パックことシナトラ一家の作品では、1964年に彼らの最後の
結集と言われた“Robin and the 7 Hoods”(7人の愚連隊)
という作品がある。この作品に関しては、2002年2月15日付
第9回で紹介したように、衛星記者会見でクルーニーにその
リメイクはしないのかと質問したことがあるが、そのときの
答えは、「あれは名作だからリメイクは難しい」というもの
だった。しかし、実はその作品には仕掛け一杯のカジノが登
場して観客を楽しませてくれたものだったのだ。その物語で
は、禁酒法時代のシカゴで違法営業のカジノが、警察の手入
れの際に一瞬で別のものに変身する仕掛けだったが、これは
ひょっとして…という感じもしてくるところだ。
 脚本は、1998年にマット・デイモンが主演した『ラウンダ
ーズ』などのブライアン・コペルマンとデイヴィッド・レヴ
ィーン。公開は2007年の夏の予定とされている。
 因に、クルーニーはオスカー受賞記念の休暇の予定だった
ようだが、ソダーバーグ監督もピットもデイモンもスケジュ
ールは満杯。特に、ソダーバーグは上記作品のポストプロダ
クションに並行して、すでに次回作のベニチオ・デル=トロ
主演でチェ・ゲバラの伝記映画“Guerilla”の一部撮影に入
っていたし、デイモンは自分の主演シリーズの第3作“The
Bourne Ultimatum”の準備中だったそうだ。しかし、製作者
のワイントルーブの説明では、「我々5人は本当に親しい友
人だから、何かあると、お互い自己犠牲をしても結集する」
のだそうで、奇跡に近い再結集が、あっと言う間に実現した
ということだ。
        *         *
 お次は、今年のアカデミー賞で作品賞と脚本賞を受賞した
“Crash”の、製作、脚本、監督を担当していたポール・ハ
ギスが、ソニー傘下のコロムビアで進められているリチャー
ド・クラークの著書“Against All Enemies”の映画化につ
いて、製作と監督の契約を結んだことが発表された。
 クラークは、前のホワイトハウスの対テロ戦略顧問という
要職にあった人物で、ベストセラーにもなっている著書は、
2001年9月11日の同時多発テロの数ヶ月前から始まり、ブッ
シュ政権がクラークの警告を無視したために有効な対テロ戦
略が立てられなかった経緯や、9/11以後のイラク攻撃に至る
までの大統領府内部の動きが克明に綴られたものとされ、政
治の内幕物としてはかなり生々しいものになるようだ。そし
てコロムビアでは、昨年この著書の映画化権を獲得、直ちに
2003年公開の“Basic”(閉ざされた森)や、昨年5月15日
付第87回などで紹介している“Zodiac”の脚本家ジェイムス
・ヴァンダービルトを起用して脚色を進めていたものだ。
 ところでハギスは、今回受賞した脚本も手掛けている他、
昨年の“Million Dollar Baby”でも脚色賞にノミネートさ
れていたものだが、今回の契約では製作と監督のみを行い、
脚本はヴァンダービルトの物を使うことになっている。その
理由は明らかにされていないが、上記ハギスの作品はいずれ
もフィクションということで、実録ものではヴァンダービル
トの方が手慣れているということなのだろうか。いずれにし
ても、今回のハギスは製作も担当している訳で、そのハギス
自身が監督のみとしているものだ。因にハギスは“Crash”
が初監督作品だった。
 ただし、今回発表された作品は、ハギスの次回作とはされ
ていない。一方、ハギス自身は、現在ソニー傘下のMGMで
製作中の007の新作“Casino Royale”の脚色を担当して
いるもので、監督と脚本家の両面でソニーとの関係は深くな
っているようだ。
        *         *
 続いては、テレビシリーズの映画化で、1968−70年にロバ
ート・ワグナー主演で放送された“It Takes a Thief”(プ
ロ・スパイ)を、ウィル・スミスの主演で劇場版リメイクす
る計画がユニヴァーサルから発表されている。
 オリジナルのお話は、ワグナー扮する天才的な泥棒が、生
涯たった1度の失敗で逮捕、収監される。ところが、そこに
SIAと称する政府諜報機関の男が現れ、彼を仮釈放する代
りに政府のために盗みの技を活用することが要請されるとい
うもの。主な舞台はヨーロッパで、毎回難攻不落の獲物に単
身チャレンジする主人公が描かれた。そして第2シーズンか
らは主人公の父親役でフレッド・アステアがセミレギュラー
で登場し、ウィットに富んだ物語が展開されていたものだ。
 全体的には“Mission: Impossible”(スパイ大作戦)の
個人版といった感じだが、大掛かりではないが華麗な盗みの
テクニックが当時のファンには高い評価を受けていた。僕の
記憶しているものでは、大通りに面したガラス張りの部屋に
置かれた大金庫を、白昼堂々破るという回があったが、その
テクニックにはなるほどと思わされたものだった。
 そしてその映画化の計画は、実は10年ほど以前から当初は
マイクル・ダグラスの主演で計画されていたものだが、会社
側の意向でスミスの起用が要望され、今回はそのスミスの出
演が決まって一気に進められることとなった。また、これに
伴い脚本には“Four Brothers”のデイヴィッド・エリオッ
トとポール・ラヴェットが起用され、新規の脚本が執筆され
るとのことだ。因に、政府諜報機関はCIAになるようだ。
 スミス主演のテレビシリーズからの映画化では、1999年の
“Wild Wild West”が記憶されるが、あの時はスミス自身よ
りも相手役の方に問題が有ったようにも思われ、今回はその
雪辱を果たしてもらいたいところでもある。
 なおスミスの次回作としては、息子のジェイドと共演した
コロムビア作品“The Pursuit of Happyness”の公開が今年
の12月に予定されている。
 また、昨年12月15日付第101回などで紹介している同じく
コロムビア作品の“Tonight, He Comes”に関しては、6月
の撮影開始が発表されているものだが、実はここに来て監督
のジョナサン・モストウが降板を表明。これはスミスとモス
トウの間で創造上の意見の相違が有るためということだが、
コロムビアでは急遽監督を選考する事態になっている。ただ
し、これに伴ってディズニーで先に進められていたモストウ
監督の“Swiss Family Robinson”のリメイクが再開される
ことになりそうだ。
        *         *
 1998年公開の“Fear and Loathing in Las Vegas”(ラス
ベガスをやっつけろ)などの原作者で、昨年2月21日に亡く
なった作家ハンター・S・トンプスンの生涯を描くドキュメ
ンタリーが製作され、遺族や生前の作家と親交の深かったハ
リウッドスターらの取材が進められている。
 “Buy the Ticket, Take the Ride: Hunter S.Thompson
on Film”と題されたドキュメンタリーでは、トムプスン原
作の映画化に出演したジョニー・デップ、ベニチオ・デル=
トロ、ビル・マーレー(1980年公開の“Where the Buffalo
Roam”に出演)を始め、ショーン・ペン、ジョン・キューザ
ックらのハリウッドスターや、元上院議員のジョージ・マク
ガヴァン、作家のトム・ウルフらが登場、作家の生涯を検証
するということだ。
 構成と監督は、“Sam Peckinpah's West”や“John Ford
Gose to War”など、映画を題材にしたドキュメンタリーで
知られるトム・サーマン。製作は、アメリカでケーブルTV
向けの映画チャンネルを多数所有しているStarz!。従って、
本来この作品は、テレビ放送用に製作されているものだが、
今回は8月までに完成して劇場でも公開し、アカデミー賞を
目指すことも検討されているようだ。
 因に、Starz!では、昨年のカンヌ映画祭で唯一公式上映さ
れたドキュメンタリー作品の“Midnight Movies: From the
Margin to the Mainstream”を製作した他、“Pirates of
the Caribbiean”のスタッフキャストの一部も参加した世界
一周帆船レース“The Volvo Ocean Race”の模様を収録した
シリーズや、『13金』『エルム街』『スクリーム』を題材に
した“Going to Pieces: The Rise & Fall of the Slasher
Film”、さらにトーキー初期から現在までの性格俳優と呼ば
れる人々を題材にした“The Face Is Familiar”といった作
品が製作されているとのことだ。
 一方、トムプスン原作の映画化では、昨年6月1日付の第
88回で“The Rum Diary”の映画化をジョニー・デップが進
めていることを紹介したが、この計画は現状ではプレ・プロ
ダクションの段階で止まっているようだ。つまりデップの身
体の空き待ちというところだろうが、デップの計画では12月
15日付第101回で紹介した“Shantaram”が先に進みそうで、
先行き不透明だ。因に、2004年3月1日付第58回で紹介した
“The Diving Bell and the Butterfly”は、もうこれ以上
待てないということでデップの起用が断念され、別の俳優の
選考を進めることが発表されており、本人が希望しながら出
演が叶わないというのも、人気スターの辛いところになりそ
うだ。
        *         *
 1950年代の絶頂期のアメリカSFを代表する作家の一人と
言われるアルフレッド・ベスターが、1956年に発表した長編
小説“The Stars My Destination”(別名“Tiger Tiger”
=邦題:虎よ!虎よ!)の映画化権をユニヴァーサルが獲得
し、“Doom”を手掛けたロレンツォ・ディ=ボナヴェンチュ
ラの製作で進めることが発表された。
 物語は、宇宙船の事故で唯一の生存者となった男が、事故
後に近くを通りながら救出活動をしなかった宇宙船の関係者
に復讐を誓い、その真相を追う内に人類の歴史を揺るがす秘
密に近づいて行くというもの。『巌窟王』に準えたとも言わ
れる作品だが、さらにこれに惑星表面上を自由に移動する超
能力を身に付けた人類が作り出す奇妙な未来社会の様子や、
それが引き起す惑星間戦争など、SF6冊分のアイデアと、
6冊分の悪趣味をブチ込んだとも言われる作品だ。
 そしてこの原作の映画化に関しては、1996年頃にドイツの
コンスタンティンとフォックスの共同製作が立上げられ、こ
の計画は2002年頃までは生きていたようだが、結局実現しな
かった。今回はその映画化権をユニヴァーサルが獲得したも
ので、脚本家や監督などは未定だが、実績のある製作者の参
加は期待が膨らむところだ。
 ところでべスターの作品では、もう1作“The Demolished
Man”(分解された男)という作品の映画化が以前から計画
されている。こちらは1953年に発表された原作だが、当時俳
優のホセ・ファーラーが映画化権を設定するなど、実は今回
紹介した作品より以前から、何度も映画化の計画が発表され
ては消えていたものだ。
 そして現在、この作品に関しては、実は昨年2月1日付第
80回で紹介したブラッド・ピット主演“The Assassination
of Jesse James by the Coward Robert Ford”のアンドリュ
ー・ドミニク監督が計画を進めており、本当はこのピット作
品がなければ今頃撮影が開始されていたはずだったものだ。
今後のドミニク監督のスケジュールがどうなっているかは不
明だが、取り敢えずは現在もプレ・プロダクションの状態に
はなっているようだ。
 ということで、べスター原作の映画化が相次ぎそうな情勢
だが、実は両原作とも盛り込まれたアイデアは物語だけでな
く、活字のデザインに工夫が施されるなど表現上でも実験的
な要素を含んでいたもの。そのため今まで映像化が見送られ
た経緯もあったとされている。これに対して、今回の計画で
どのような映像化が試みられるかは不明だが、現代のVFX
技術を駆使した挑戦が期待されるところだ。
        *         *
 モンテ・ヘルマンという名前を聞いて「わっ」と言う人が
どのくらいいるか知らないが、ロジャー・コーマンの門下生
の一人で、1953年製作の“Beast from Haunted Cave”(魔
の谷)という作品が、日本公開もされている同監督の新作の
計画が紹介された。
 作品は、直ぐ上の記事でも触れたブラッド・ピット主演作
“The Assassination …”の原作者でもあるロン・ハンセン
の小説を映画化するもので、題名は“Desperadoes”。やは
り西部劇でダルトン・ギャングを描いたものということだ。
キャスティングは未定だが、撮影は今秋アラバマで行われる
ことになっている。またこの作品の製作総指揮には、マーテ
ィン・スコセッシが名を連ねているものだ。
 因にヘルマンは、コーマン製作で3本を監督した後、やは
りコーマン門下生のジャック・ニコルスン製作で西部劇など
を監督、その後も1970年代まではぽつぽつと作品はあるが、
80年以降では、89年製作のホラーシリーズ“Silent Night,
Deadly Night”の第3作の監督に名前が出ている程度。しか
し、実はその他にも名前を出していない作品が数多くあるよ
うで、またクェンティン・タランティーノ監督の出世作『レ
ザボア・ドッグス』では、製作総指揮に名前を連ねるなど、
映画界では実力者だったようだ。
 なおヘルマン監督は、すでに全4話からなるデニス・バー
トック原作の超自然ホラーアンソロジーの1話で“Trapped
Ashes”という作品を完成させ、公開待機中ということで、
データによると1932年生まれ、今年73歳のベテランは、これ
からもう一と花咲かせることになりそうだ。
        *         *
 1999年に話題を呼んだ“The Blair Witch Project”では
共同で監督及び脚本を担当したダン・マイリックが、それ以
来の脚本監督作品となる“Solstice”の撮影を、ニューオル
リンズで行うことが発表された。
 内容は、双子の妹を自殺で亡くしたばかりの若い女性が、
友達と一緒に湖畔の家で夏至の夜を過ごすときの出来事を描
くホラー・スリラーということで、夏至の夜というのは元々
不思議な現象が起き易いと言われているから、それなりのこ
とが起こりそうだ。なお撮影は、当初は去年の秋に予定され
ていたものだったが、ハリケーンの影響で遅らされ、ようや
く可能となったもののようだ。
 主演は、ワーナー傘下インディペンデンスから近日公開の
“Chaos Theory”などに出演しているエリザベス・ハーノイ
ス。それに、2002年の『ロード・トゥ・パーディション』で
トム・ハンクスの息子に扮したタイラー・ホークリンが共演
している。製作は、『ロード・オブ・ウォー』『プルーフ・
オブ・マイ・ライフ』などを手掛けるエンドゲーム。
 因に、エンドゲーム社は“Stay Alive”などホラー映画の
製作者が個人資産で設立した製作会社ということで、確かに
この他にもゾンビ物などの計画も発表されているが、上に書
いた2作とはちょっとギャップを感じるところだ。
 また、“The Blair Witch…”で共同監督、脚本を手掛け
たもう一人のエド・サンチェスも、ユニヴァーサル傘下フォ
ーカス・フューチャーズのジャンル・レーヴェル=ローグ・
ピクチャーズで、“Altered”という作品がポストプロダク
ション中になっている。内容は、恐怖の夜を体験する男たち
の物語ということで、2人は別れても同じような作品を作っ
ているようだ。
        *         *
 最後は、続編の話題を2本まとめて紹介しておこう。
 1本目は、昨年6月15日付の第98回で紹介した映画化シリ
ーズの第3作“Asterix aux Jeux Olympiques”(Asterix at
the Olympic Games)の製作が、スペインの配給会社トライ
ピクチャーズの参加で行われることになった。
 この計画では、前回は製作費を米ドル換算4000万ドルと紹
介したものだが、その後、これがヨーロッパ映画史上最高と
言われる9520万ドルに急騰し、結局フランスだけでは賄い切
れなくなったようだ。そこでスペインでNo.1の配給会社とい
われるトライ社の参加が必要になったもので、同社は製作費
の拠出と引き換えに、スペイン国内の全配給収入と海外配給
収入の一部も得ることになる。
 監督は、製作者でもあるトーマス・ラングランとフレデリ
ック・フォレスティアの共同で行われ、出演はオベリスク役
のジェラール・ドパルドューと、今回のアステリックス役は
クロヴィス・コーニラックという俳優が演じることになって
いる。なお、前回報告したジャン・クロード・ヴァン=ダム
とアラン・ドロンの出演は今回は紹介されていなかった。撮
影は6月18日から20週間の予定で行われるということだ。
 2本目は、2004年に日本公開されたトニー・ジャー主演の
タイ製アクション映画“Ong bak”(マッハ!)の続編“Ong
bak 2”に関し、アジア、イギリスを除く世界配給権をTW
Cが獲得したことが発表された。因にTWCは、ジャーの新
作『トム・ヤム・クン』のアメリカ配給も手掛けており、そ
の流れで今回も決まったようだ。
 撮影は今秋に予定され、監督には前作の原案とアクション
監督を担当したパンナー・リットグライに要請が行われてい
る。また、ジャーには今回はアクション監督の肩書きも付く
ことになるということだ。物語は、旅する若者のジャーが、
その旅の出来事の中で、格闘技に関するスキルと内面的な意
味を学んで行くというもの。要するに武者修行を行う若者を
描く作品になりそうだ。


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井口健二