井口健二のOn the Production
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2006年02月28日(火) Vフォー・ヴェンデッタ、ファイヤーウォール、SPIRIT、ブラッドレイン、ククーシュカ、南極物語

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※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介しています。     ※
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『Vフォー・ヴェンデッタ』“V for Vendetta”
『マトリックス』のウォシャオスキー兄弟の脚本、製作によ
るパラレルワールド・アンチユートピア作品。イギリス出身
のコミックス作家デイヴィッド・ロイドが1980年代に発表し
たグラフィックノヴェルの映画化。
昨年5月のカンヌ映画祭に、ナタリー・ポートマンが坊主頭
で来場して話題になったが、その原因がこの作品だった。共
演は、『マトリックス』でエージェント・スミス役のウーゴ
・ウィーヴィング。
第2次大戦より後のある時代。アメリカはその後に引き起こ
した第3次大戦で疲弊し、今やイギリスの植民地と化してい
る。そのイギリスの隆盛は、混乱期に導入した全体主義的な
国家体制が功を奏したもの。しかしその体制は、今や独裁主
義へと変貌していた。
そして、ある夜間外出禁止令が発令された夜のこと。主人公
のイヴィーは勤務先であるテレビ局の上司の家に招かれてい
たが、用意に手間取り街頭で外出禁止時間になってしまう。
しかも隠れようとして入った路地で自警団に捕まり、あわや
となるのだが‥
Vと名乗る仮面の男は、イヴィーを自警団から救い出し、彼
女をとある建物の屋上に導く。そしてその夜、ロンドン中に
鳴り響く「序曲『1812年』」の調べと共に華々しい打ち上げ
花火が夜空を彩り、Vの活動が開幕する。
物語のキーワードは11月5日。イギリスではガイ・フォーク
ス・デイと呼ばれ、1603年にガイ・フォークスらによる国家
転覆計画が失敗したことを祝う祝日だが、映画での意味は異
なる。映画でVが被っている仮面はそのガイ・フォークスの
顔を表わしたものだ。
原作の書かれた1980年代は、ヴェトナム戦争で疲弊していた
アメリカが、ソ連のアフガン侵攻失敗などをてこに、地球唯
一の強国に成り上がって行く時代だが、ソ連の失敗が無けれ
ばこんな世界も有り得たかもしれない、そんな物語だ。
いやある意味、今のアメリカがここに描かれたイギリスその
ものではないか、そんな視点も見え隠れする。そんな映画の
作りにもなっている。
実際、映画の中ではマスコミ操作による国家体制維持のため
の姑息な手法なども描かれるが、これなどはアメリカのテロ
対策では当然行っている思われるものだ。しかも国民は、そ
のことを暗に知りながらも全く行動を起こそうとしない。
そんなアメリカ批判とも取れる作品の全体に漂う雰囲気が、
多分Varietyなどの体制派映画マスコミでの批判的論調にも
つながったのだろうが、僕などは見ていて溜飲が下がる思い
がしたものだ。
日本公開は4月29日、アメリカでは3月中旬の公開だが、こ
の作品に対する大衆の反応がその国の健全さの指標にもなり
そうな、そんな問題提起を含んだ作品にも見えた。
なお、映画では巻頭からナレーションや長台詞が満載で、文
字の多いグラフィックノヴェルを髱髴とさせる。特にウィー
ヴィングの台詞は、さすがに舞台役者でもある人らしく朗々
としてリズムがあり、聞いていて心地良かった。もっとも、
彼の顔は終始仮面の陰なので、どんな長台詞でも苦はなかっ
たとは思われるが…
実は本作は、当初昨年秋に公開の予定が爆弾テロ事件などの
影響で公開が控えられた。その理由となったシーンは、かな
り強烈なもので、見る人によっては神経を逆撫でされるだろ
うとは思うものの、思わず見惚れてしまうものだった。

『ファイヤーウォール』“Firewall”
小さな銀行だが世界一のセキュリティを自認する銀行のセキ
ュリティ担当重役が、家族を人質に取られ、がんじ絡らめの
状況の中で、自らの立てたファイアウォールの穴を探しつつ
犯人たちへの反撃を試みるというアクションサスペンス。
主演のハリスン・フォードが久々にアクションに帰ってきた
と言われている作品。フォードのこの前のアクションという
と、1997年の『エアフォース・ワン』辺りになるのかな。前
回はアメリカ大統領、今回は銀行の重役という役柄だ。
主人公は、小さな銀行のネットセキュリティ担当重役。そん
な彼が構築したファイアウォールは、難攻不落の電子の要塞
だったが、ネット犯罪の被害を経費として計上した方が安上
がりと考える同僚重役とは、セキュリティ予算を巡って争い
が絶えない。
ところがある日、彼の許に覚えの無いネットギャンブルの取
立て屋が現れる。そしてその夕刻、彼は友人に誘われセキュ
リティ会社を設立しようとする起業家の誘いを受けるが…そ
の間に彼の住居が襲われ、家族を人質に取られてしまう。
犯人たちの要求は、彼の銀行の大口預金者を選んで、その口
座から一定額づつを指定の口座に振り込むというもの。その
総額は1億ドルに及ぶが、各口座から奪われる金額は少ない
ため発覚までには時間がかかるという計算だ。
その犯行自体は、主人公が指示に従えば雑作もないことだっ
た。しかし、事態は犯人たちの予測していなかった方向に進
んでしまう。そして犯行を焦る犯人と主人公との頭脳戦が繰
り広げられることになる。
フォードの主演作ということでは、絶対に主人公が勝ち、平
和な生活が取り戻せるだろうという安心感がある。しかし犯
行が進み、主人公がどんどん窮地に追い込まれて行くと、彼
は一体どうやってこの窮地を脱するのか…。その辺りでぐい
ぐい引き込まれて行く感じの作品だ。
正直に言って、俳優フォードにとってこのような観客の側の
捉え方が、徳なのか損なのかは難しいところだが、もはやこ
れがブランドになってしまった感があるところでは、これか
らもこの路線を全うしてもらいたいと思うところだ。
相手役には、イギリスからポール・ベタニー、『サイドウェ
イ』のヴァージニア・マドセン、『24』のメアリ・アン・
ライスカブ、『T2』のT-1000役が鮮烈なロバート・パトリ
ック、ロバート・フォースター、アラン・アーキンなど。
特に、ベタニーの知的だが冷酷な犯人像は映画全体に良い味
を付けている。また女優2人の役柄も魅力的だったし、パト
リックの役柄の雰囲気も良い感じだった。なおマドセンのデ
ビュー作が『砂の惑星』だったというのは嬉しい情報だ。
因に本作は、当初は“The Wrong Element”という題名で製
作されていたものだが、その後に原題が変更になっている。
その理由は、ドイツで“Long Elephant”と紹介されたため
だと言うのだが、そんなことで題名を変えてしまうものなの
だろうか。

『SPIRIT』“霍元甲”
霍元甲(フォ・ユァンジア)は、中国武道を統一し、1840年
の阿片戦争に破れてから自信を失っていた中国国民の希望の
星となったと言われる人物。この霍元甲をジェット・リーが
演じ、1910年10月に上海で行われた史上初の異種格闘技戦の
実話に基づく格闘技映画。
霍元甲は、天津で霍流を名告る武芸家の家に育ったが、幼い
頃に病弱だった息子に父親は武芸を禁じ、学芸の道を歩ませ
ようとする。しかし見よう見真似で鍛練を積んだ元甲は、や
がて父の死後にその道場を継いで、天津では並ぶものの無い
武芸者となる。
ところが、ただ強くありたいという思いだけで成長した元甲
は、ある日、弟子の受けた暴行への復讐のために他流の武芸
者を挑発し、その闘いの末に相手を殺してしまう。だが、そ
の復讐はさらに復讐の連鎖を生み、その結果は…
これにより闘いの空しさを知った元甲は天津を出奔し、各地
を放浪して自らの武芸のあり方を見つめ直す。そして道を極
め天津に舞い戻った元甲が目の当りにしたのは、その時代の
中国が西欧や日本などの列強に屈し、その歴史や文化が失わ
れつつある現実だった。
この現実に気づいた元甲は、屈強な西洋人の武芸者を倒し、
中国人の喝采を受けて中国人に自信を取り戻させるが、その
元甲の動きは列強国の反感を買うことになる。そして元甲の
行動を封じるため、史上初の異種格闘技戦の開催となるが…
この異種格闘技戦の日本代表・田中安野役には中村獅童が扮
し、映画のクライマックスを盛り上げている。
監督は、2003年の『フレディvsジェイソン』などのロニー・
ユー。元々は中国出身だが、最近はハリウッドで活躍してい
る監督の久々の中国映画ということだ。
その監督のコメントの中で、マーシャルアートをカットの切
り替えや編集テクニックではなく、ロングで取ることが出来
るキャストという言葉があった。確かに、この作品で演じら
れている闘いのシーンは、それぞれの演技者がほぼ全身を見
せて闘っているものだ。
もちろんそこには、ワイアーワークなども使用されてはいる
が、そのワイアーワークにしても、出演者自身の実際の吊り
によって演じられているもので、CGIなどによる誤魔化し
もなく、見ていてすっきりするものだった。
上映時間は1時間43分。多少のドラマはあるが、全編のほと
んどのシーンが格闘技という凄まじい構成。しかもどの闘い
も変化に富んだ見応えのあるものばかりで、格闘技映画のフ
ァンには堪能できる作品と言えるものだろう。
その分、女性客の反応が気になるところだが、そこはリーと
獅童の人気でカヴァーして欲しいという感じになりそうだ。
なお、エンディングのクレジットではリーと獅童の2人が主
演とされ、それぞれ単独で表記されていたものだ。

『ブラッドレイン』“Bloodrayne”
ドイツ出身でハリウッドに渡ったウーヴェ・ボル監督による
2005年作品。
この作品の製作に関しては、2004年8月15日付の第69回でも
紹介しているが、先に製作された『ハウス・オブ・ザ・デッ
ド』などの成功でヴィデオゲームの映画化に関して定評を得
たボル監督が、今後も継続する同様の作品群の中で手掛けた
作品と言えるものだ。
物語の舞台は、18世紀のトランシルヴァニア。主人公のレイ
ンは、吸血鬼の父親が人間の母親を犯したことによって生ま
れたが、その存在は吸血鬼を滅ぼすものとされる。そして、
その誕生を知った吸血鬼が襲ったときには母親の機転で救わ
れるが、母親は目の前で惨殺されてしまう。
こうして命を存え成長したレインだったが、ある日、吸血鬼
の血が目覚め、周囲の人々を襲ったことから、吸血鬼と闘う
「業火の会」のハンターたちからも追われることになる。
一方、吸血鬼の魔手は「業火の会」の中枢を襲い、最後の闘
いの日が迫っていた。こうして父と娘の対決となるが、その
闘いの鍵として、吸血鬼の力を究極に高める3つの遺物の存
在があった。
この3つの遺物という辺りは、如何にもゲームという感じの
ものだが、オリジナルのゲームは第2次大戦のナチスドイツ
が舞台となっていたようだ。しかし、ドイツ出身の監督の意
向かどうかは知らないが、映画化では舞台が変えられたもの
だ。とは言え、全体にクラシカルな雰囲気は、往年のホラー
映画の再来という感じにも仕上がっている。
実際、ハリウッドでも同様の舞台設定による『ヴァン・ヘル
シンク』は作られているが、VFX満載の作品とはまたちょ
っと違った味がこの作品には漂っていた。それは換言すると
安っぽさとも言えるかも知れないが、そんな雰囲気はホラー
には似合っているものだ。
出演は、レイン役に『T3』のクリスティーナ・ロケン、父
親の吸血鬼役に『サウンド・オブ・サンダー』にも出ていた
アカデミー賞スターのベン・キングズレー、そして吸血鬼ハ
ンター役に『バイオハザード』のミシェル・ロドリゲス。
他に、『処女の生血』のウド・キアー、『フィラデルフィア
・エクスペリメント』のマイケル・パレなどホラーSF映画
ファンに懐かしい名前も並んでいる。また、預言者役でジェ
ラルディン・チャップリンも出演していた。
この一見豪華なキャスティングは、ボル監督の作品では今後
も継続されるようで、その点でも注目して行きたいものだ。

『ククーシュカ』“Kukushka”
第2次大戦末期のソ連−フィンランド戦線となったラップラ
ンドを舞台に、フィンランド人青年と、ロシア人の兵士と、
そして現地のサーミ人の女性の織り成す物語。
2002年のロシア映画で、同年のモスクワ国際映画祭では監督
賞、主演男優賞など5部門を受賞したということだ。
第2次大戦中、フィンランドはドイツと同盟を結び、以前に
ソ連に奪われた領土を奪還するため、ラップランドでの闘い
を繰り広げていた。
そんな第2次大戦も末期の頃。主人公のフィンランド人青年
は、大学から学徒動員されてラップランド戦線で狙撃兵とな
っていたが、反戦思想の持ち主であったために他の兵士たち
によって岩に鎖でつながれ、わずかな食料と共に置き去りに
されてしまう。
対するロシア人の兵士は、彼も反戦的な通信を送ったことを
疑われて本部に護送中だったが、友軍機に誤爆され、護送し
ていた上官と兵士は死亡、彼だけが重症で生き存える。
そしてそんな戦場のラップランドで、徴兵された夫の留守を
護り一人で暮らしてきた女性が、最初にロシア人の兵士を発
見して自宅に連れ帰り、看護を始める。一方、鎖を逃れた青
年も援助を求めて女性の家にたどり着く。
こうして3人の生活が始まるのだが、フィンランド語しか話
せない青年と、ロシア語しか話せない兵士、それにサーミ語
しか話せない女性の間では、言葉によるコミュニケーション
は全く出来ず、わずかにジェスチャーのみで意志を通じさせ
ることになる。
しかもいろいろな誤解が、特に2人の男性の間では確執とな
るのだが、一方の女性は、実は夫が徴兵されてから4年間を
男なしに暮らしていたのだった。こんな3人の間での可笑し
くも悲しい物語が展開する。
もちろん反戦思想が色濃く打ち出された作品ではあるが、そ
こにはもっと根元的な人間が生きることへの賛歌のようなも
のが歌い上げられている。それはリアルなサヴァイヴァルで
あったり、ある面ではファンタスティックであったりもする
が、それらが見事に融合して物語を作り上げている。
特に、前半のリアルから後半のファンタスティックな展開へ
の移行の巧みさが見事に作品の完成度を高めているものだ。
また、四季を通じてのラップランドの大自然の美しさも見事
に写し出されていた。
なお題名は、ロシア語で鳥のカッコウの意味だが、狙撃兵の
隠語でもあるようだ。それともう一つ別の意味も含まれてい
る。

『南極物語』“Eight Below”
1983年に公開されたフジテレビ製作『南極物語』のハリウッ
ドリメイク。
クレジットでは、Suggested by the Film:“Nankyoku Mono-
gatari”と表記され、当時の蔵原監督の名前も掲げられてい
たようだ。
オリジナルは1958年の南極越冬隊での出来事を描いたものだ
ったが、今回は物語の背景を1990年代とし、数あるアメリカ
の基地の一つで起った物語としている。天候の急変によって
犬を置き去りにしなければならなかったという物語は変えら
れないが、現代にマッチさせるためにはこの程度の改編は仕
方がないというところだろう。
そして主人公は、全米科学財団の南極基地に駐在しNo.1と言
われる山岳ガイド。その基地に隕石調査の学者が現れるとこ
ろから物語は始まる。その調査地は先陣争いのために学者の
到着まで曖昧にされおり、その学者が告げた目的地は主人公
が当初聞いていた方角とは違うものだった。
しかし上司の命令でガイドを引き受けた主人公は、氷の状態
を判断して8頭立ての犬ぞりを使うこととし、目的地である
メルボルン山に向かう。ところが現地に到着した直後に天候
の悪化が報告され、基地には放棄脱出の命令が伝えられる。
この事態の中、ぎりぎりの調査で成果を得た主人公たちは基
地への帰還を開始するが、アクシデントで帰還が遅れ、基地
に着いたときには天候の悪化が始まってしまう。そしてまず
怪我人のいる人間の避難が優先され、後続便で犬を運ぶこと
が決められるが…
凍傷で意識を失った主人公が目を覚ましたときには、後続便
が飛ばなかったことが明らかにされる。
一方、基地の残された8頭の犬たちは、最初はただ飛行機の
飛び去った方角を見つめているが、やがて人間が戻ってこな
いことを悟ると、首輪を抜け出し、リーダー犬の許で食料を
捜し、生き抜く道を捜し始める。
20年以上も前に見たオリジナルの記憶は曖昧だが、残された
犬たちがオーロラを見るシーンなどは印象的なものだった。
そのシーンは今回もちゃんと再現され、その他にも端々のシ
ーンはかなり忠実に作られていたようにも思える。
それに加えて、オリジナルでは映像化できなかったカモメを
狩るシーンや、オットセイとの闘いなどが、ILMのCGI
やスタン・ウィンストンのアニマトロニクスで映像化され、
当然、人間によって作られたストーリーではあるにせよ、そ
れなりにうまく物語になっていた。
日本映画での感動大作のような作りにはなってはいないが、
淡々とした中にも犬たちの頑張りや主人公の救出に賭ける努
力なども描かれ、日本映画とは違う側面での娯楽作としての
完成度の高い作品になっていた。それが、アメリカでの公開
1週目に第1位の記録にもつながったのだろう。
なお、字幕の中で「イタリア基地にあるランボルギーニばり
の雪上車」というような訳があったが、ランボルギーニ社は
元々トラクターのメーカーで、この時代のイタリア基地には
実際にランボルギーニ社製の雪上車があったはず。原語の台
詞は聞き逃したが、この翻訳はちょっと疑問に感じた。



2006年02月15日(水) 第105回

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※このページは、キネマ旬報誌で連載中のワールドニュー※
※スを基に、いろいろな情報を追加して掲載しています。※
※キネ旬の記事も併せてお読みください。       ※
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 今回は、前回予告した通り、アカデミー賞候補について最
初にまとめようと思ったのだが、まあなんと言うか、今年は
SF/ファンタシー映画のファンにはあまり面白味のないも
のになってしまった。下馬評でも、SF/ファンタシー系の
作品はおろか、ハリウッドの大手映画会社の作品もほとんど
題名が挙がらなかったから、これは仕方がないところだが、
それにしても、5本の作品賞候補の中に大手映画会社の作品
が1本だけというのは1996年度以来のことだそうだ。
 とまあぼやいてばかりでも仕方がないので、数少ないSF
/ファンタシー系の作品を見て行くことにすると、まずは、
例年確実な視覚効果賞部門の候補には、“The Chronicles
of Narnia: The Lion, the Witch and the Wardrobe”と、
“King Kong”“War of the Worlds”の3本が挙げられた。
 ここで前々回に紹介したVES Awardsの候補と比較する
と、VESの作品賞候補4本の中には“War of the World”
は入っていなかった。代りにVESでは“Harry Potter and
the Goblet of Fire”“Star Wars: Episode III Revenge
of the Sith”が入っていた訳だが、この違いはちょっと微
妙なところだ。因に、2月15日はVES Awardsの受賞式が
行われる日だが、その結果は次回紹介しよう。
 話をアカデミー賞に戻して“Narnia”は他にメイクアップ
と音響ミキシング、“King Kong”は美術と音響ミキシング
と音響編集、“War of the Worlds”は音響ミキシングと音
響編集の各賞の候補にもなっている。
 この他の候補は一つずつで、“Batman Begins”が撮影、
“Charlie and the Chocolate Factory”が衣裳デザイン、
“Harry Potter”が美術、“Star Wars: Episode III”がメ
イクアップの候補になっている。ここで“Star Wars”は、
シリーズの最終作が1部門の候補にしか選ばれなかった訳だ
が、一昨年の“Lord of the Rings”の最終作が史上最多の
受賞を果たしたのに比べると、28年掛けたシリーズが有終の
美を飾れなかったのは寂しいところだ。
 一方、長編アニメーションは、“Howl's Moving Castle”
と“Tim Burton's Corpse Bride”“Wallace & Gromit: The
Curse of the Were-Rabbit”の3本が候補になった。この
内、“Corpse Bride”と“Wallace & Gromit”は予想した通
りだったが、3本目に“Howl”が来るとは思ってもみなかっ
た。確かにこの作品は事前のアニー賞などでも評価が高かっ
たようだが、それにしてもこの3本は、何れも流行りのCG
アニメーションではないもので、まあ無理矢理CGを外した
結果がこうなったという感じだ。
 なお、短編アニメーション部門には、2005年8月1日付第
92回で紹介した“9”も5本の候補の中に入っており、僕と
してはこの辺の結果が一番楽しみになりそうだ。
 受賞式は3月5日(日本時間6日)に行われる。
        *         *
 以下は、いつものように製作ニュースを紹介しよう。
 まずは、『シン・シティ』の撮影には特別監督という肩書
きで参加したクェンティン・タランティーノ監督と、ロベル
ト・ロドリゲス監督が、今度は2人で2本立ての映画を監督
する計画を発表している。
 この計画は、全体が“Grind”若しくは“Grindhouse”と
いうタイトルで進められるもので、それぞれロドリゲス監督
は“Planet Terror”というゾンビホラー、タランティーノ
監督は“Death Proof”というスプラッターホラーを撮ると
いうもの。そしてこれらの作品は1時間ずつの上映時間で、
その間にはインターミッションが設けられ、タランティーノ
監督による“Cowgirls in Sweden”というピンク映画か、カ
ンフーアクション映画の偽予告編と、偽のコマーシャルフィ
ルムも併せて製作して挿入されるというものだ。
 計画の全体は、両監督が映画を見て育った1970年代の雰囲
気を再現したものにしたいとのこと。因に、grindhouseとい
うのは、アメリカの俗語で下町に建てられた2本立てや3本
立て専門の映画館のことだそうだ。
 キャスティング等は未発表だが、撮影は近日中にテキサス
州オースティンのトラブルメーカー・スタジオで開始され、
撮影監督は両作品ともロドリゲスが担当する。ザ・ワインス
タイン Co.の配給で、アメリカでは今年後半の公開が予定さ
れている。
        *         *
 お次は、2002年に『マイ・ビッグ・ファット・ウェディン
グ』を自らの脚本と主演で成功させた女優のニア・ヴァルダ
ロスが、ユニヴァーサルで進められているトム・ハンクスの
主演作“Talk of the Town”の脚本を執筆することが発表さ
れた。
 ヴァルダロスは、『マイ・ビッグ…』の実現に当ってはハ
ンクスの製作という協力を得ているが、基本的には自分以外
の俳優のために脚本を書くことには抵抗があったそうだ。し
かし今回は、ハンクス自身がもたらしたアイデアに彼女が共
鳴し、「自らの意志に反して人生を変えなければならなくな
った男の物語」をハンクスのために執筆することにしたもの
だ。なおこの作品に、彼女自身の出演の予定はないとされて
いる。
 一方ヴァルダロスは、現在はリヴォルーションで彼女の主
演による“I Hate Valentine's Day”という作品の脚本を執
筆中だが、実はこの作品は、彼女が契約を結んだ際に題名だ
けが会社側から提案されたもので、この題名が気に入ったヴ
ァルダロスが、現在はその題名に合ったエピソードを取材中
とのこと。しかしその脚本が完成するまでは、会社側は静観
というところのようだ。
 また、彼女はヒット作の続編が大いに期待されていること
も判っているそうで、「だって、自分の家族からもしょっち
ゅう聞かされるし、町でスターバックスに入っても、皆から
そう言われるの」ということだ。
        *         *
 2005年6月16日付第89回で紹介した“Pan's Labyrinth”
のアメリカ配給がニューラインとHBOの共同会社ピクチャ
ーハウスと契約されたメキシコ出身のギレルモ・デル=トロ
監督が、次回作をニューラインで撮ることが発表された。
 この作品は、トラヴィス・ビーチャムという新人脚本家の
“Killing on Carnival Row”と題されたファンタシー・ス
リラーを映画化するもので、脚本は昨年の秋に争奪戦の末、
ニューラインが獲得したというもの。物語は、人間と妖精と
エルフ達が一緒に住む都市を舞台に、そこで起きた連続殺人
事件の謎を追うというものだ。最近この手の作品の話題はよ
く登場するが、なかなか実現には至らないもので、今回は監
督まで決まったことでは期待が持てる。
 因に、アルフォンソ・キュアロンとチームを組んで、スペ
インで撮影された“Pan's Labyrinth”も、スペイン内戦後
の同国の社会状況を背景にしたダークファンタシーと紹介さ
れていたもので、これも早く見てみたいものだ。それにして
もデル=トロは、リヴォルーションで“Hellboy II”の計画
もあったはずだが、そちらはどうなっているのだろうか。
        *         *
 ドイツの製作会社コンスタンティンから、ソニーが配給し
た恐怖シリーズ『バイオハザード』の第3弾を、“Resident
Evil: Extiction”の題名で、ミラ・ジョヴォヴィッチの主
演、ラッセル・マルケイ監督により2006年中に製作開始する
ことが発表された。
 因に、このシリーズの前2作はポール・WS・アンダース
ンの脚本監督で製作されたものだが、実はアンダースン監督
からは“Resident Evil: Afterlife”の題名で第3弾を作る
ことも公表されていた。しかし今回は監督も変わり、題名も
変更になっているもので、その辺の経緯がどのようになって
いるのかも気になるところだ。
 また、アンダースン監督が発表していた計画では、シリー
ズの第1作はゲームを始める前、第2作はゲームそのものを
映画化したもので、第3作ではゲームを終えた後の世界を描
くとしていた。そこで題名も“Afterlife”と付けられてい
たものだが、今回の題名に付けられた“Extiction”には、
「火事の鎮火」あるいは「絶滅」という意味もあるようで、
アンダースンの思惑とはちょっと違っているような気もする
ところだ。
 さらにこのシリーズに関しては、2005年7月1日付第90回
で“Resident Evil 4”の計画も報告しているが、それとの
関係も明確ではないもので、報告通りなら東京での撮影とい
う話も出てくるはずだが、その辺の情報もなかったようだ。
なお、最近届いたSPE(Japan)のlineupでは、『バイオ
ハザード3』のアメリカ公開は2007年10月とされていた。
 一方、1986年の『ハイランダー』シリーズ第1作などでお
馴染みのマルケイ監督の情報では、これもアンダースン監督
が1995年に第1作を手掛けた『モータル・コンバット』シリ
ーズの第3弾として“Mortal Kombat Domination”という作
品を手掛ける計画も発表されており、ニューラインで進めら
れているその計画では、『ハイランダー』の主演で、『モー
タル・コンバット』の第1作にも主演したクリストファー・
ランバートが復帰して、アンダースンの路線に戻した映画化
を行うということで期待もされていたようだが、どうなった
のだろうか。この計画では“Mortal Kombat: Devastation”
という第4弾の情報もあったようだが。
        *         *
 2005年6月1日付の第88回で紹介した1982年公開の人形劇
ファンタシー『ダーク・クリスタル』の続編“Power of the
Dark Crystal”の計画に、“Samurai Jack”“Star Wars:
The Clone Wars”などのアニメーションシリーズを手掛けた
ジンディ・タータコフスキーの起用が発表された。
 オリジナルは、『セサミ・ストリート』や『マペットショ
ー』などでお馴染みのマペッツの創始者ジム・ヘンスンとフ
ランク・オズの共同監督で製作されたもので、異世界を闇の
力で支配するクリスタルを、異形の主人公たちが封じるまで
の冒険が描かれたもの。そして今回の続編では、再び力を持
ち始めたクリスタルを永久に葬るまでの冒険が描かれるとい
うことだ。
 脚本は、オリジナルと同じくデイヴィッド・オデルと、新
たにアネット・ダフィーという人が参加。また、今回新たな
登場もあるというキャラクターのデザインには、オリジナル
を担当したブライアン・フラウドが復帰することも発表され
ている。
 なお、オリジナルはマペッツで操演される人形劇をほぼ実
写で撮影したものだったが、今回はCGIも活用されるとい
うことで、そのCGIの製作はタータコフスキーが主宰する
オーファンエイジ・アニメーションが担当することになって
いる。具体的には、主にグリーンバックで撮影されるマペッ
ツの演技に、CGの背景を組み合わせることになるようだ。
 製作は故ジム・ヘンスンの跡を継ぐヘンスン Co.が行うも
ので、撮影は今年の夏後半に開始の予定だが、その前にベル
リン映画祭のマーケットで海外配給権がセールスされ、資金
調達が行われることになっている。またアメリカ国内の配給
権は既に確定しているようだが、会社名は製作が開始される
まで公表されないということだ。
        *         *
 『ヒストリー・オブ・バイオレンス』のデイヴィッド・ク
ローネンバーグ監督が、次回はハリウッドを舞台にした作品
を計画していることが発表された。
 この作品は“Maps to the Stars”という題名で、内容は
ダークコミックとされている。脚本は、1999年にクローネン
バーグが製作総指揮を担当した“I'm Losing You”という、
やはりハリウッドを描いた作品で監督デビューしている作家
/脚本家のブルース・ワグナーが執筆したもので、俳優やマ
ネージャー、エージェントなどが登場人物となる作品という
ことだ。監督の言によると「ハリウッド映画」だそうだが、
ロバート・アルトマン監督が1992年に発表した『ザ・プレイ
ヤー』のようにはならないとしている。
 またクローネンバーグは、脚本家のワグナーについては、
「彼は人物を描かせたら最高の脚本家だ。自分はそれにちょ
っとだけ年の功を加えるだけだ」とのことで、題名通りなら
スター街道を目指すいろいろな人間模様が描かれることにな
りそうだ。と言ってもクローネンバーグ監督なら、一筋縄の
作品とは思えないが。
 ということで、この新作はハリウッドを舞台にするものだ
が、実はクローネンバーグ監督は、今までの作品でもアメリ
カを舞台にした作品はあったが、『ヒストリー…』も含めて
これらの作品は全てカナダ国内で撮影を行っていた。しかし
今回はハリウッドが舞台ということで、さすがにそれをカナ
ダで代替することは出来なかったようだ。
 従って、撮影は一部をロサンゼルスで行うことになる訳だ
が、これはクローネンバーグ監督にとっては初の合衆国内で
の撮影になるもの。撮影クルーがどのように組まれるかは不
明だが、アメリカでも人気の高い監督の許での仕事には応募
者が殺到しそうな感じだ。ただしセット撮影は、カナダのト
ロントで行うとしている。
        *         *
 お次は、映画だけの話題ではないが、『シン・シティ』な
どに出演している女優のロザリオ・ドースンや、ジョニー・
デップ、それに監督のピトフらが原作を担当するコミックス
が発行され、さらにその映画化を彼らの手で行うことが計画
されている。
 この計画は、スピークイージーという出版社が進めている
もので、元々は同社の出版しているコミックスの映画化権を
ハリウッドに売り込んでいたが、なかなか良い結果が得られ
ないでいた。そこで発想を転換して、ハリウッド人種を直接
コミックスに関わらせることにしたというもので、その発想
に上記の面々が反応したということのようだ。
 そこで、まずドースンが手掛けるのは、“Occult Crimes
Taskforce”と呼ばれるミニシリーズで、ニューヨークを舞
台に彼女自身をイメージした女刑事ソフィア・オーチスが活
躍する物語。彼女は父親が謎の死を遂げたことから大都市を
襲う邪悪な存在のことを知り、それに立ち向かって行くとい
うもの。このコミックスにドースンは、共同で原作の執筆か
らコミックスを描く画家の選定にまで関っているそうだ。
 また、デップが関わっているのは“Caliber”というコミ
ックスで、これはデップのアイデアに基づくもの。題名から
予想されるようにアーサー王伝説を下敷きにしたものだが、
舞台はアメリカの西部で、アーサー王が町の保安官、ランス
ロットは拳銃使い、そしてグウィネヴィアは酒場の女将にな
るということだ。まあ、後は捻り方次第ということになりそ
うだが、映画化されたらデップは保安官と拳銃使いのどちら
をやるのだろう。なお、この映画化の監督はジョン・ウーが
担当することになるそうだ。
 因にこの2作は、今年の5月に刊行が始まるようだ。
 さらに6月には、『インディペンデンス・デイ』や『アイ
・ロボット』などの特撮マンのパトリック・タトポウロスの
企画で“Caeadas”というシリーズも予定されている。この
作品は、考古学者が古代ローマの戦士養成所の遺跡を発掘、
そこから不死身の古代戦士を甦らせてしまうというもの。地
下で繰り広がられる『エイリアン』のような物語ということ
だ。そしてこの映画化では、タトポウロスが監督デビューも
計画しているようだ。
 そしてもう1本、ピトフの計画は、題名は不明だが未来の
ボニーとクライドの物語ということで、この作品もピトフが
映画化も視野に入れて進めているものだそうだ。
 皮算用はいろいろありそうだが、いずれにしてもコミック
スは発行されることになりそうで、とりあえずは5月が楽し
みというところだ。
        *         *
 もう1つ、ジョニー・デップ関連の情報で、2003年2月に
紹介したドキュメンタリー『ロスト・イン・ラ・マンチャ』
の元となったテリー・ギリアム監督の“The Man Who Killed
Don Quixote”の映画化で、ドン・キホーテ役にクリストフ
ァー・リーが出演を希望しているそうだ。
 これはリー自身がインタヴューに答えたもののようだが、
現在83歳のリーは、「70歳から90歳の間ぐらいのドン・キホ
ーテ役にはちょうど良い」と思っているそうだ。ギリアムも
ことあるごとに再開を希望していることを表明しているし、
デップも再開されれば出演を確約しているようで、リーの発
言で障害が取り除かれることを期待したい。ただし、この役
には、2000年当時出演していたジャン・ロシュフォールも、
昨年12月13日付で紹介した『美しき運命の傷痕』のプレス資
料によるとまだ意欲を持っているようで、このまま行くと、
2人ドン・キホーテということにもなってしまいそうだ。
        *         *
 後は続報をまとめて紹介しよう。
 まずは、2005年10月15日付の第97回で紹介したローランド
・エメリッヒ監督の次回作“10,000 B.C.”について、当初
予定されていたソニーが配給を降り、替ってワーナーが配給
権を獲得したことが発表された。
 これは監督サイドが2007年夏の公開を希望したのに対し、
その時期には“Spider-Man 3”を予定しているソニー側が難
色を示したもので、ソニーとしては2008年夏にして欲しかっ
たようだが、結局は物別れになってしまったようだ。因に、
ワーナーがエメリッヒ作品を配給するのは初めてになるが、
実は前作の『デイ・アフター・トゥモロー』は、当初ワーナ
ーで進められていたが最後はフォックスになったということ
で、今回はようやく思いが叶うことになるようだ。
 一方、“Spider-Man 3”には追加の配役で、ブライス・ダ
ラス・ハワードが演じているグウェン・ステイシーの父親役
に、ジェームズ・クロムウェルの出演が発表されている。こ
の役は前回紹介したようにスパイダーマンとドク・オクの闘
いに巻き込まれて英雄的な死を遂げるというものだが、今回
その役柄の登場があるということは、別の闘いに巻き込まれ
ることになるのか、それとも前回の闘いが再現されるのか、
いずれにしてもクロムウェルほどの俳優の登場なら、相当の
シーンが用意されるとは思われるが。
 最後に、2月15日に行われた『ナルニア国物語』の来日記
者会見の報告だが、この会見に出席のプロデューサーから、
第2作の製作は「希望はしているが、まだ未定である」こと
が発言された。この第2作については、前回監督が決定した
と報告したが、この情報については当初ウェブ情報だったも
のが、その後にVariety紙などでも報じられ、確度は高いと
思われた。
 しかし今回の発言では、まだその状況には至っていないと
いうことで、大ヒットの様子から見ると、続編は間違いない
とは思うが、とりあえず前回の報告は誤報ということにしな
ければならないようだ。なおこの件に関しては、また動きが
ありしだい報告することにしたい。



2006年02月14日(火) ナルニア国物語・第1章ライオンと魔女、ニュー・ワールド、ウォーターズ、イーオン・フラックス

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※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介しています。     ※
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『ナルニア国物語・第1章ライオンと魔女』
“The Chronicles of Narnia:
        The Lion, the Witch and the Wardrobe”
1950年に発表されたC・S・ルイス原作ファンタシーシリー
ズの第1巻の映画化。『指輪物語』と並び称せられる原作だ
が、同じ原作からは1989年にBBCでミニシリーズ化された
ことがあるのみで、本格的な映画化は今回が初めてだったよ
うだ。
第2次世界大戦の頃の物語。主人公は、ナチスの空襲を避け
て田舎の屋敷に疎開してきた4人の兄弟姉妹。
ある日、末っ子のルーシーは、隠れんぼで隠れたタンスの奥
が広大な雪国ナルニアに続いていることを発見する。しかし
次に行こうとしたときにはナルニアに続く道は開かれず、兄
姉に直には信じてもらえない。
しかしある日、再び偶然が重なって4人は揃ってナルニアを
訪れることになる。そしてそこは、魔力によって100年の冬
に閉ざされ、その禍いを解く2人のアダムの息子と2人のイ
ヴの娘の到来が待たれている場所だった。
僕にとってこの原作は、確か高校生の時に初めて原書で読み
切った本で、その意味でもこの映画化は待ち望んでいたもの
だ。実はこの後のシリーズはいろいろな事情で読まなかった
ものだが、これをきっかけにまた読む機会を与えられたよう
な感じもする。
物語は勧善懲悪。主人公たちが乞われて悪に立ち向かって行
く姿は、特に子供が主人公ということでも、子供の読者、観
客には最高の贈り物という作品だろう。そしてそれは大人に
なってからでも存分に楽しめるものだ。
ただ、原作からの印象で言うと、弟エドマンドはもっと陰湿
で、魔女に取り入ろうと画策する様子が描かれていたように
思ったが、映画化でそこをさらっと流しているのは、今の時
代にはそぐわないと判断されたのだろうか。もっとも僕はそ
の描写に耐えられずに何度も読書を止めようとした記憶があ
るから、無くてほっとしたところでもあるが。
映画の巻頭で、空襲の様子が丁寧に描かれるのは、観客に時
代背景を理解させる意図と思われるが、後半のナルニア国で
の戦いとの対比でも効果があったようにも感じられた。子供
向けの映画に戦争を描くことの是非はあるが、結局は『最後
のたたかい』まで続く物語だから、これは仕方がない。
シリーズの映画化は、続けて第2作『カスピアン王子のつの
ぶえ』の製作が発表されており、全7巻に続く物語は、これ
からしばらく楽しめそうだ。

『ニュー・ワールド』“The New World”
『シン・レッド・ライン』のテレンス・マリック監督による
イギリス人とアメリカ先住民の交流を描いた作品。1995年に
ディズニーがアニメーションで描いた『ポカホンタス』の物
語の実写による再映画化。
1607年。アメリカ大陸北部の海岸にイギリスから新大陸の開
拓を目指す船団が到着する。しかしそこには先住民たちが暮
らしていた。そんな状況の中、船で反乱罪に問われていたジ
ョン・スミスは、船長からその勇気を買われ先住民との交渉
役に任命される。
こうして先住民との交渉に向かったスミスだったが、辿り着
いた集落で先住民の王の前に引き出された彼は危うく殺害さ
れそうになる。ところがその時、王の娘ポカホンタスが彼の
命乞いをし、命を救われたスミスは先住民との交渉を始める
のだが…
実はディズニーのアニメーションは見ていないのだが、紹介
文によるとジョン・スミスとポカホンタスの恋は、民族間の
争いの中で成就されないとされている。しかし今回の映画化
された物語はそこでは終わらない。その後のポカホンタスの
生涯が描かれたものだ。
実は映画の最後にテロップが表示され、時間が短くて全部は
読めなかったが、物語は歴史的事実と記録に基づくと書かれ
ていたようだ。実際、後日ネットを検索してこの物語が真実
であるらしいことが判ったが、ちょっと意外な展開には心が
踊ったものだ。
事実は小説より奇なりとはよく言うが、この物語の真実は、
確かにディズニー・アニメーションで語るにはドラマティッ
クではなかったかも知れない。しかしこの映画に描かれたこ
とで、真実を知ることができたのは喜ばしい。
それにしても、スミスとポカホンタスのその後にこんなこと
があったとは…。ここに描かれた真実の愛の姿は、単なる悲
劇以上に感動的に思えたものだ。
出演は、ポカホンタス役に、ペルーに大家族を持つというイ
ンディオ出身の新星クオリアンカ・キルヒャー。スミス役に
コリン・ファレル。
他にはクリストファー・プラマーとクリスチャン・ベールが
イギリス人の役で登場。またウェス・ステューディ、オーガ
スト・シェレンバーグらのインディアンの俳優が脇を固めて
いるのも嬉しいところだ。

『ウォーターズ』
小栗旬、松尾敏伸、須賀貴匡、桐島優介らイケメンと呼ばれ
る7人の若手男優が共演するホストドラマ。
最近は、テレビもマンガもホストの話で溢れているが、現実
にも歌舞伎町には年間1万人の若者がホスト志望で面接に訪
れるなど、国民総ホストブームなのだそうだ。
僕は、別段自分が硬派だとは思っていないが、それにしても
テレビから流れる客を取ったの取られたのなどといった話を
聞いていると、何とも軟弱な物語にいらいらするところはあ
る。無意味な殴り合いシーンの挿入で硬派ぶるのは、さらに
いらいらするところだ。
そんな訳で、この作品の試写会にも二の足を踏んだのだが、
小栗旬は昨年公開の『隣人13号』を多少気に入っていたりも
したので、見る気になった。
で作品は、ホストものの体裁は採っているが、内容は業界を
描いたものではなく、はっきり言って主人公はホスト素人と
いう面々の物語だし、目標に向かって突き進んで行く若者の
姿を清々しく描いていて、ホストとは関係なく楽しく見られ
た。
物語は、新開店するホストクラブに応募の一団がやってくる
ところから始まる。そこで彼らは面接を受けるが、ホストと
して勤めるには無断転職防止の保証金が必要だと言われてし
まう。しかしそれもなんとか工面した彼らは、開店の日に勇
んでやってくるが…
これに、その店のオーナーや、オーナーの娘で心臓疾患に苦
しむ少女、ヴェンチャー起業で成功を納めながらも違和感を
抱く女性実業家などが絡んで物語は進んで行く。
集まった若者たちには、それぞれ過去の経緯や未来への夢が
あり、彼らが過去の経験を活かしたり、またそれで挫折した
りという辺りが、配役ごとにそれなりにバランス良く描かれ
ている。
もちろん、全体的にはうまく行き過ぎる面はあるし、中でも
最後に主人公が女性実業家と賭けるものはそれではないだろ
う…というような脚本に対する疑問もあるが、そんなことは
どうでもいいだろうと言ってしまえそうな、甘酸っぱい青春
群像というところだ。
以下、ネタバレあります。
実は、映画には最後にどんでん返しがあって、それが必要か
どうかに議論があるようだ。
僕が試写を見たときに聞こえてきた女性の発言では、無い方
が良いという意見だったようだが、僕はこれが無くては、物
語の良さが際立たないと感じた。それに、これで主人公たち
が挫折してしまう訳でもないし、逆にこれくらいあるのが人
生と言うものだ。
その意味では脚本も良く書けていると思うが、やはり女性実
業家と賭ける一番大事なものは、それではないという感じは
残る。


『イーオン・フラックス』“Æon Flux”
オスカー女優になったシャーリズ・セロンが、オスカー受賞
の次に選んで主演した作品。原作は1995年に1年間だけ放送
されたアニメーションシリーズということで、内容は未来を
背景にしたSFアクションとなっている。
西暦2011年、人類は麦の品種改良によって生じたウィルスの
ために絶滅に瀕し、その瀬戸際で科学者グッドチャイルドに
よって救われる。さらに科学者は生き残った500万人の人々
を外界から隔離された都市に集め、科学者の管理による理想
の社会を作り上げた。
そして時が流れた西暦2415年。人々は理想郷の中で安全に暮
らしていたはずだったが…
世襲で引き継がれる科学者たちの政策はやがて圧制となり、
それに対抗する反乱組織が結成される。そして組織は状況を
打破するため、ついに支配者である第8代グッドチャイルド
の暗殺命令を、過去を持たない女暗殺者イーオン・フラック
スに発令した。
オリジナルのシリーズでは、グッドチャイルドは謎の黒幕だ
ったようだが、映画化はそのグッドチャイルドとの最後の対
決を描くものだ。従って、この作品はシリーズの完結編とい
う側面も持つようだ。
外界から隔離された世界というと、昨年は『アイランド』が
公開されたし、古いものでは1976年の『2300年未来への旅』
(Logan's Run)なんて作品も思い浮かぶが、まあ定番とい
う感じのものだ。
その中で今回の作品は、圧制者を狙う暗殺者という設定が目
新しく、またその暗殺のテクニックには、原作のアニメーシ
ョンではかなりアクロバティックなアクションも描かれたと
されていて、それなりの期待感も持った。
その点でいうと、セロンのアクションはかなり頑張っている
し、元バレリーナの身体能力はさすがと思わせる。しかし、
実は撮影中に負傷したという情報がどのように影響したのか
が気になるところで、実際、映画の上映時間93分はこの手の
作品では短いものだった。
また、そんな先入観を持って見ているせいもあるかも知れな
いが、映画の全体は何となく舌足らずで、実は科学者の圧制
の理由などはそれなりに面白いテーマなのだが、その辺りが
描き切れていないような感じもした。
とは言え、映画はセロンの容姿と美貌がアクションとファッ
ションで前面に押し出されたもので、観客はそれを楽しめれ
ばいいと言うものだろう。ただしそれを純粋に楽しむには、
僕にはオスカー女優の肩書きがちょっと邪魔なようにも感じ
られた。
同じような状況では、ハリー・べリーがオスカーの受賞後に
『X−メン2』に出ているが、ベリーの場合とセロンの場合
とでは、その受賞作の重みが違いすぎるようにも感じる。そ
れほどまでにセロンは『モンスター』になり切っていたし、
それが賞に値したものだ。
従ってその重みを吹っ切るには、この程度の作品では物足り
なく感じられてしまうのかも知れない。逆にもっと軽すぎる
くらいに軽い作品のほうが吹っ切れたのではないかという感
じもするが…意欲が感じられるだけに、ちょっと残念な感じ
もした。でも、ファンならこれを支援するくらいの気持ちは
持ちたいものだ。
製作は、元ジェームズ・キャメロン夫人のゲイル・アン・ハ
ード、監督カリン・クサマ、共演はフランシス・マクドーマ
ンドとソフィー・オコネド。2004年6月15日付第65回の製作
ニュースでは女だらけの作品と紹介したが、出来ればこのメ
ムバーで再度アクション映画に挑戦してもらいたいとも思っ
た。



2006年02月13日(月) SPL、プリティ・ヘレン、ヒストリー・オブ・バイオレンス、沈黙の脱獄、シムソンズ、トム・ヤム・クン!、スカイ・ハイ

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※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介しています。     ※
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『SPL狼よ静かに死ね』“SPL殺破狼”
『ブレイド2』などのハリウッド映画や、『セブンソード』
などの大型中国映画でも活躍するドニー・イェンと、ブルー
ス・リー時代からの大ベテラン=サモ・ハン共演の格闘技ア
クション作品。
殺破狼(シャ・ポー・ラン=SPL)とは、中国占星術で反
乱を司る七殺・破軍・貧狼の3星を示す。それらはそれぞれ
悪の象徴であるが、その組み合わせによっては人を豊かにす
ることもできるという。この映画はそんな宿命を背負った3
人の男の物語だ。
主演の1人サモ・ハンが演じるのは、極悪非道な裏社会の帝
王ポー。しかしついに、ポーを終身刑にできる証人が現れ、
ポーは収監されて裁判を待つ身となるが、その証人を乗せた
警護車が襲われ、証人の居ない裁判ではポーは無罪放免とな
る。
それから数年後、警察ではチャン刑事(『トゥームレイダー
2』などのサイモン・ヤム)をリーダーとするチームがポー
をマークし続けているが、ポーの権勢は変らないまま。しか
もチャン刑事には、脳腫瘍で余命1年との診断が下される。
そこでチームは、格闘技の達人で容疑者を廃人にしてしまっ
た過去を持つマー刑事(イェン)を迎えることになる。しか
しチームとの融和は難しい。そしてチャン刑事の退職の前日
チームにポーの殺人を立証する新たな証拠が提供されるが…
画面外から衝突の音響が響き、カメラが移動すると大破した
自動車が画面に入ってくるなど、映画の前半は音響を利用し
た演出で観客を引きつける。特にイェンが参加してからの最
初のサモ・ハン登場シーンでの音響による導入演出は見事だ
った。
観客は、当然イェン対サモ・ハンの新旧格闘技対決を期待し
てくる訳だが、そう簡単に安売りはしない。勿論そこまでを
引っ張るアクションシーンはいろいろ提供されるが、それに
緩急をつけるかのような音響の演出は、特に効果的に使われ
ていた。
そして、最後の対決へと雪崩れ込む展開だが、その前哨戦に
は4度の中国武術チャンピオンに輝くという新時代のアクシ
ョンスター=ウー・ジンとイェンとの激烈な対決が描かれる
など、特に後半のアクションの強烈さは、さすが香港映画と
いう作品だった。
監督は、『トランサー・霊幻警察』などのウィルソン・イッ
プ。また、原題タイトルの筆文字をアンディ・ラウが手掛け
ている。

『プリティ・ヘレン』“Raising Helen”
1990年にジュリア・ロバーツを一躍トップスターにした『プ
リティ・ウーマン』(Pretty Woman)のゲイリー・マーシャ
ル監督による2004年作品。
マーシャル監督+タッチストーン作品では、『プリティ』の
冠がつけられる。原題を見れば判る通り別段シリーズという
訳ではないが、いわゆるラヴ・コメとはちょっと違って、男
女の恋愛よりも女性自身の生き方を主題にしているという共
通点があり、その意味ではブランドの意味はありそうだ。
そして今回の主人公は、モデル業界で社長の右腕と目される
敏腕エージェント=ヘレン。ファッション雑誌の表紙を飾る
トップモデルを次々に誕生させ、その選出眼や売り込みの上
手さは超一流だ。そしてその生活も、マンハッタンに住み独
身を謳歌していた。
ところが、主人公を3女とする3人姉妹の長女夫妻が事故で
亡くなり、3人の子供が残される。しかも母親の遺書には、
子供の親権を結婚して子育ての経験もある2女ではなく、主
人公に委ねると書かれていた。
これには主人公も2女も猛反発だったが、2人は姉の残した
手紙を手渡され、なぜか納得してしまう。そして突然3人の
子持ちとなった主人公は、最初は大張り切りだったが、子供
にかまけてトラブルを頻発させ、ついに職場を馘になってし
まう。
しかも思春期を迎えた子供たちの長女は非行に走り…そんな
どん底から、主人公が自らの生きる道を見出し、立ち直って
行く姿を描いた作品だ。
まあ元々がモデルエージェントとか、一般庶民とはちょっと
違うところで始まる作品で、しかもその後の展開も都合よく
行き過ぎるが、最初から夢物語と言われればそんなものだろ
う。とは言え、こんな夢物語には男の僕でも羨望を持つし、
それがこの映画の目的でもあるところだ。
主演のケイト・ハドソンは、女優ゴーディ・ホーンの娘。彼
女には『あの頃ペニー・レインと』から注目しているが、少
し大人になった本作では、最後に笑顔になる瞬間がお母さん
にそっくりなのも懐かしく感じられた。
共演は、『マイ・ビッグ・ファット・ウェディング』のジョ
ン・コーベットと、『スクール・オブ・ロック』のジョーン
・キューザック。さらにディームの称号を持つヘレン・ミレ
ン。それに子供の長女役を、『レーシング・ストライプス』
のヘイデン・パネッティーアが演じている。

『ヒストリー・オブ・バイオレンス』
               “A History of Violence”
『ロード・トゥ・パーディション』などのパラドックス社発
行のグラフィック・ノヴェルを、『スキャナーズ』のデイヴ
ィッド・クローネンバーグ監督で映画化した作品。
片田舎に暮らして20年、弁護士の妻と2人の子供にも恵まれ
た主人公。ところが、彼の経営する食堂に2人組の強盗が押
し入ったときから生活が狂い始める。
主人公からはカウンターを挟んで銃を構える1人目の男と、
その後ろで女性に銃を突きつける2人目。その2人を一瞬の
うちに倒した主人公は、一躍地元の英雄として全国ニュース
にもなるのだが…
仕事に復帰して、主人公の人気で大繁盛となった食堂に、怪
しげな風体の男たちが現れ、主人公には普段とは異なる名前
で話しかける。そして最初は取り合わなかった主人公に、男
たちは暴力的な脅しを掛けるようになってくる。
長く平和だった男の人生が、そして家庭が崩壊して行く。
クローネンバーグ監督は、今まで家族というものを描いたこ
とがないのだそうだ。しかし本作では、この異様な事態に巻
き込まれる家族を描いた脚本に共鳴したという。その脚本は
アカデミー賞の脚色部門にもノミネートされたものだ。
しかし映画は、導入部から強烈なヴァイオレンスに彩られ、
これが普通の家族の映画ではないことを鮮明にしている。と
ころが描かれているのは本当に普通だった家族、その辺りの
ギャップの捉え方が、クローネンバーグの視点に完全に活か
されている。
という家族を描いた作品ではあるが、映画は題名通りヴァイ
オレンスで綴られたものだ。特に秒殺、瞬殺とでも言えそう
なアクションの見事さは、最近のアクション映画を見慣れた
目にも衝撃的なものだった。
最近の映画のアクションというと格闘技系のものが多いし、
肉弾相打つ格闘技の面白さは実に映画的なものだと思うが、
本作の中心はガンプレイ。しかも、正に一瞬で終る銃による
射殺を、ここまで見事にアクションに仕立てた演出は見事な
ものだ。
銃社会とまで言われるアメリカでしか描けない、そんな現実
が見事に反映された作品とも言えそうだ。
主演は、ヴィゴ・モーテンセンとマリア・ベロ。エド・ハリ
スとウィリアム・ハートの共演で、ハートはオスカー候補に
もなっている。

『沈黙の脱獄』“Today You Die”
題名で説明するまでもなくスティーヴン・セバール主演のア
クション作品。ついこの間も紹介したばかりだが、よくもま
あ作り続けられるものだと感心もするところだ。
お話は、裏の社会を相手に義賊的な仕事を続けてきた主人公
が、恋人のために危険な稼業から足を洗うことを決意し、警
備会社に現金輸送の運転手として就職する。ところが最初の
勤務で輸送車が襲われ、現金は紛失。主人公は強盗犯として
逮捕収監されてしまう。
こうして荒野のど真中の刑務所に入れられた主人公は、自分
を填めた奴を見つけ出し、自らの無実を証明するために、刑
務所を脱獄することに…これに警察内の汚職や、いろいろな
要素が絡まって物語が展開する。
と言っても、まあセガールアクションだし、それほど深い話
がある訳でもなく、気楽に楽しめばいい作品だろう。紛失し
た2000万ドルの行方など、多少辻褄の合わないところもある
が、そんなこともアクションが決まれば問題はない。
脱獄アクションというと、ちょっと前にジャン=クロード・
ヴァンダム主演でも1本あったように思うが、アクション俳
優としてはやっておきたい題材なのだろうか。といっても本
作では多少あっけない作戦ではあるが。
僕自身は、どちらかというと前作の『沈黙の追撃』の方が好
きだが、物語としては本作の方が現実味はある。元々セガー
ルは現実の武術家である訳だから、物語は現実に近い方が似
合っているし、その意味では本作の方を好む人も多いかも知
れない。
ただ本作でも、主人公の恋人に予知能力を想像させる部分が
あるなど、そういう要素を入れてくるのは、果たしてセガー
ルの好みなのだろうか。そうだとするなら、僕としてはそう
いう面をもう少し深めた作品も見てみたいものだ。
それと、セガールアクションは、最後は格闘技で決めて欲し
い。マンネリになるのを嫌ったのかも知れないが、銃撃戦や
爆破シーンは途中に挟み込まれるのは構わないが、最後はや
はり…。前作でもあったような真剣勝負のシーンが最後に欲
しかった気がした。

『シムソンズ』
2002年のソルトレーク冬季オリンピックに日本代表として出
場した女子カーリングチーム「シムソンズ」をモデルにした
ガールズムーヴィ。
舞台は北海道・登呂町。その町の高校2年生和子のカーリン
グ経験は授業でやった程度にもの。ところがある日、憧れの
君である町出身のカーリング選手の凱旋大会を見に行き、そ
こで思いがけずもその本人からカーリングチームを作ること
を勧められてしまう。
これに有頂天になった和子は、言われるままに友達2人を誘
ってチームを結成。そこに、経験者の4人目の選手と本業は
漁師のコーチが現れて練習が開始される。しかし初参加の大
会は0封コールド負けと惨敗。そして仲間割れが始まって…
とまあ、スポーツものの定番を絵に書いたような物語が展開
する作品だ。勿論これはモデルの「シムソンズ」の実話では
なくフィクションで、どうせフィクションならもう少しは捻
って欲しいとも思うものだが…正直なところは今回はそれが
あまり気にならなかった。
と言うのも僕は、カーリングという競技の名前は知っていた
がルールもよく判らず、実体はほとんど知らなかった。これ
は日本人の多くが同じだと思うものだが、その日本人に対し
てこの作品では、実にうまくルールから見所までを解説して
くれるものだ。
実際に、今年のトリノ冬季オリンピックにも日本代表は参加
しているようだが、ルールを知らなくては応援のしようもな
いと思っていた。それがこの映画のお陰で判るようになって
しまったという訳だ。
これで実際に応援するかどうかは別としても、聞きかじりの
ルールで変に思っていたところも納得できたし、氷上のチェ
スと言われるほど緻密な競技であることもよく理解できた。
そういう知識が増えるだけでもうれしいと思うところだ。
製作総指揮は、格闘技の「PRIDE」などを運営している
榊原信行。実はこの人の映画製作は2作目だが、僕は前作を
あまり気に入らずホームページでも紹介しなかった。しかし
今回は啓蒙という意味で理解もしたし、その意味では気に入
った作品と言えるものだ。
脚本と監督はそれぞれテレビ出身者で、それなりにそつなく
作っている。また主演の加藤ローサは、今までテレビのヴァ
ラエティ番組でしか見たことがなかったが、思いのほか良い
と言うか、このままコメディエンヌとして育って欲しいとい
う感じも持った。
公開は2月18日で、オリンピック絡みではちょうど良いタイ
ミングの作品と言えそうだ。

『トム・ヤム・クン!』(タイ映画)
『マッハ!』のプラッチャヤー・ピンゲーオ監督、トニー・
ジャー主演、アクション監督パンナー・リットグライによる
新作。前作が世界各地で公開され、収入を挙げた彼らが、海
外(シドニー)ロケまで敢行した大型作品。
前作の主人公は、盗まれた村の守り神を探してバンコクの町
をさ迷ったが、今回は、幼い頃から一緒に育った象の親子を
探してシドニーの町をさ迷う。物語の展開は、同じと言えば
その通りだが、アクションは格段にスケールアップしている
し、新たな見所は満載だ。
数100年に亙って国王に献上する象を育ててきたタイ東部の
村。そこには、象と共に国王を護って闘うムエタイ兵士チャ
トウラバートの末裔が暮らしていた。
その村で象と共に育ってきたカーム(ジャー)は、ある日、
父親と共に王に献上する象を選ぶと称する品評会に親子の像
を連れて行くが…それは象の密売組織が仕組んだもので、父
親がそれに気づきカームが後を追ったものの、育てた象の親
子は行方不明になってしまう。
しかし、密売組織のルートがオーストラリアに向かっている
ことを察知したカームは、単身シドニーに乗り込み、そこで
「トム・ヤム・クン」という店名のタイ料理店が、その根城
であることを突き止めるが…
これに、在シドニーの中国マフィアの内部抗争やそれに蔓む
汚職刑事などのストーリーが絡むが、まあ正直に言ってそん
なストーリーはどうでも良く、見所は何と言ってもジャーの
格闘技アクションの見事さだ。
登場するのは、インラインスケーターやモトクロスライダー
らを相手にしたものや、カポエラからカンフーまでの各種格
闘技、さらに身長212cmの巨漢との対決など。そしてその白
眉は、4階建てのセットで進む4分間のノーカット長回しに
よる大アクションだ。
セットの建設に1カ月、リハーサルに1週間を掛けたと言う
このシーンでは、4階建てを駆け上がるだけでも大変だと思
われるところを、次々に襲いかかる敵や投げ込まれる家具な
どを打ち破りながら突進で、これ自体が映画史に残ると言っ
ても過言ではない。
前作の時には試写会でジャーの生の演武を見せられて、トリ
ックのないことを信じなくてはいけないと思わされたが、今
回はこの大アクションを見れば、全てが信じられるようにな
ると言えるもの。それにしても途轍もないアクションスター
が誕生したものだ。
共演は、前作にも登場したタイの人気コメディアンのペット
ターイ・ウォンカムラオ。彼の演技は、昨年東京国際映画祭
で上映された『ミッドナイト、マイ・ラブ』でも気に入った
ところだが、今回も人情味あふれる役柄は良い感じだった。

『スカイ・ハイ』“Sky High”
これぞディズニー、と言いたくなるようなファミリー向け特
撮アクション映画。
ディズニーと言えばアニメーションの老舗だが、第2次大戦
後の1950年にイギリスでの凍結資産消化のために製作された
という『宝島』を初め、最近にリメイクされた『フラバー』
『ラブバッグ』や、『ボクはむく犬』など特撮を活かした実
写作品にも伝統がある。
これらの作品は、最近のジェリー・ブラッカイマー製作によ
る超大作とは違うけれど、それぞれの時代の要素を敏感に取
り入れながらも子供に夢を与える、そんな楽しさに溢れたも
のだ。全米では昨年夏公開の本作は、その伝統を引き継ぐ最
新作と言える。
物語の舞台は、反重力装置で大空に浮かぶ所在地秘密の高校
スカイ・ハイ。そこには世界を守るスーパーヒーロー(ヒロ
イン)となるべき超能力を持つ子供たちが集められて、日々
スーパーヒーロー養成のための教育が行われていた。
しかしスーパーヒーローの卵といっても、そこは若者たちの
こと、学園生活は普通の高校と同じで、特に、入学直後の能
力判定で選別されるヒーロー組とサイドキック(脇役)組の
間では、ヒーロー組からサイドキック組に対する陰湿ないじ
めも横行していた。
そして主人公は、世界最高のスーパーコンビ、ザ・コマンダ
ーとジェットストリーム夫妻の間に生まれた一人息子だった
が、当然偉大な力があるものと期待された彼の超能力は、未
だに発揮されないでいた(これはよくあることらしい)。
このため彼はサイドキック組とされるが、そこには身体の液
化や小動物への変身、さらにただ身体が光るだけといった地
味な能力の持ち主たちが集まっていた。そして…
両親がスーパーヒーローのため最初は一目置かれていたり、
普通の家庭の出身でちょっと鼻っ柱の強い仲間の女子がいた
り、クラス別けや食堂でのいじめなど、まあ見事に『ハリー
・ポッター』を下敷きにしている。
でもパクリと言うには、そこからの展開はオリジナリティに
溢れているし、パロディとはまた違った面白さを追求してい
る作品だ。実際、次の『ハリー・ポッター』が待ち切れない
人には、その穴埋めになりそうな感じもする。
もちろんスーパーヒーローものということで、アメコミ映画
などのパロディも満載だが、ここでも自社の『Mr.インクレ
ディブル』を中心にしている辺りは、おふざけも抑制が利い
ているという感じで気持ちが良かった。
主演は、『ロード・オブ・ドッグタウン』などのマイクル・
アンガラノ。
また、ザ・コマンダー役をディズニー子役育ちのカート・ラ
ッセルが演じる他、意地悪な体育教師を『死霊のはらわた』
のブルース・キャンベル、校長を『ワンダー・ウーマン』の
リンダ・カーターという配役も、ファンにはニヤリという感
じだった。



2006年02月01日(水) 第104回

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
※このページは、キネマ旬報誌で連載中のワールドニュー※
※スを基に、いろいろな情報を追加して掲載しています。※
※キネ旬の記事も併せてお読みください。       ※
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
 今回は、日本時間でアカデミー賞の候補作が発表された日
付けの更新だが、この候補作については次回にゆっくり検討
することとして、ここではいつもの製作ニュースから紹介し
よう。
 まずは“Spider-Man 3”の撮影が開始されたサム・ライミ
監督に、早くも次回作の計画が発表されている。
 その作品は、テリー・プラシェットというイギリスの作家
が2003年に発表した“The Wee Free Men”と題されたヤング
アダルト小説の映画化で、お話は、農場に住んでいる9歳の
少女が、モンスターの棲む妖精の国の女王に拉致された弟を
救出するため、モンスターに闘いを挑むという冒険ファンタ
シー。その彼女の冒険には、身長6インチで蒼い顔をして、
酷いスコットランド訛りで喋る大酒飲み妖精が協力するとい
うのだが…。因に、原作は“Disc World”というシリーズの
内の1巻だそうだ。
 そして、この原作に『ティム・バートンのコープス・ブラ
イド』などの共同脚本を務めたパメラ・ペトラーが注目し、
自ら脚色してソニーに映画化を持ちかけたもので、これにラ
イミが反応したということだ。なおペトラーは、ソニーでは
ロバート・ゼメキスの監督で、この春に公開されるパフォー
マンス・キャプチャーの第2作“Monster House”の共同脚
本も手掛けている他、2005年8月1日付の第92回で紹介した
ティム・バートンが製作を手掛ける“9”の長編化や、ダグ
・リーマン監督“Nick Tungsten, Nightmare Hunter”のリ
ライト、さらにロアルド・ダール原作“The Twits”の脚色
なども手掛けている。
 なお、製作は“Spider-Man 3”の完了次第ということで、
製作規模がどのくらいの作品になるかは不明だが、早ければ
2008年の夏の公開を目指すということになりそうだ。
        *         *
 一方、“Spider-Man 3”の製作は1月1日に本編の撮影が
開始されているが、トビー・マクガイア、キルスティン・ダ
ンスト、ジェームズ・フランコの主演トリオに、今回はトッ
ファー・グレイスとトーマス・ハイデン・チャーチが敵役で
参加。さらに『KAFKA/迷宮の悪夢』などのテレサ・ラ
ッセルが、チャーチ扮するサンドマンことフリント・マルコ
の妻を演じている。なおこの夫妻には娘もいるようだ。
 そしてもう一人、グウェン・ステイシーの役名でブライス
・ダラス・ハワードの出演が発表された。この役名は、原作
のコミックスでは、メリー・ジェーンの親しい友人で、実は
ピーターの高校時代のガールフレンド=最初の恋人とされて
いるもの。しかし、警官だった彼女の父親がドク・オクとの
闘いに巻き込まれて死亡したことから、スパイダーマンには
恨みを持っているということだ。
 しかも、原作“Amazing Spider-Man”に登場する彼女は、
映画化の第1話に登場したグリーン・ゴブリンに誘拐され、
第121巻で描かれた橋上での闘いの中で悲劇的な最後を遂げ
ているということだが、映画化では、もはや橋上の闘いは過
去のこと。ということで映画の物語では、ピーターを挟んで
MJとの恋の三角関係が演じられ、原作とはちょっと違う結
末が用意されているようだ。
 なおハワードの名前は、このサイトでは2003年6月1日付
の第40回“The Woods”(後に“The Village”に改題)の記
事で初めて紹介したものだが、この時に書いたように、実は
この配役は、“Spider-Man 2”の撮影が延びたためにキルス
ティン・ダンストが降板して急遽決まったものだった。とい
うことで、“Spider-Man 3”ではちょっと因縁のある2人の
共演となるものだ。
        *         *
 お次も、小説シリーズからの計画で、ジェフ・ストーンと
いう作家の“The Five Ancestors”と題された7巻シリーズ
の映画化がパラマウント傘下のニケロディオンで進められる
ことになった。
 この計画は、『レザボア・ドッグ』から『キル・ビル』ま
でのクエンティン・タランティーノ監督と一緒に仕事をして
来たプロデューサーのローレンス・ベンダーが、新たにファ
ミリーピクチャー専門のニケロディオンと結んだ2作品の契
約の一角を成すもので、原作は、全7巻の内の最初の2巻の
“Tiger”と“Monkey”が昨年中に刊行され、さらに第3巻
の“Snake”が3月に刊行予定となっている。
 物語は、17世紀の中国を舞台に、それぞれ異なる動物のカ
ンフーを学ぶ5人の若い僧侶が繰り広げる冒険物語というこ
とで、つまり最初の3巻はそれぞれ虎拳、猿拳、蛇拳という
ことになるようだ。しかし5人の僧侶で7巻は数が合わない
が、実は物語の全体は彼らが修業している秘密の寺院が外敵
の攻撃を受けており、それを撃退するという展開のようで、
最後の2巻はその大団円ということになるのだろう。具体的
な映画化の計画は紹介されていないが、原作が未完では映画
化もシリーズにならざるを得ないところだ。
 それと、ベンダーがニケロディオンと結んだ契約のもう1
本は、“Holy Cow”という題名で、こちらはCGIアニメー
ション長編として製作することが発表されている。
 物語は、モンタナ州の牧場でバンブーと名付けられた若い
雄牛が、友達になった芋虫からインドという国では牛が聖な
る動物として自由に生活していると聞かされ、2匹でその国
を目指して冒険の旅を行うというもの。これに、口煩いニワ
トリも加わっての珍道中が繰り広げられるようだ。昨年公開
されたニューヨークの動物園からアフリカを目指す話と似て
いるような気もするが、脚本はテッド・グレンナンとピータ
ー・カルンバックという脚本家が執筆しているものだ。
 なお、長年タランティーノと仕事をしてきたベンダーは、
実は以前からファミリーピクチャーを手掛けたかったのだそ
うで、今回はもう1人のプロデューサーのカレン・バーバー
と共にニケロディオンとの契約を取り付け、めでたく思いを
遂げることができたということだ。また、1本目の作品は、
2005年3月1日付の第82回などで紹介した“Magic Kingdom
for Sale”なども手掛けるアンディ・コーエンというプロデ
ューサーが原作本をベンダーに紹介したもので、コーエンは
本作では製作総指揮を担当することになっている。
        *         *
 今回はシリーズ物の情報が多いが、もう1本はイザベル・
アレンデ原作の“City of the Beast”という3部作になる
物語の映画化を、『ナルニア国物語』の大成功で意気上がる
ウォルデン・メディアで行うことが発表されている。
 お話は、母親の療養中、エキセントリックな祖母ケイトの
許に預けられた15歳の少年アレクサンダーが、「ビースト」
と呼ばれる背丈9フィートの伝説の生物を探すために南米ア
マゾンに赴くことになり、最初は渋々だったものの大河を旅
する内にその姿に魅せられて行く。そして同じく10代の少女
ナディアと巡り合い、共に超現実的な旅を続けるが、やがて
2人はアマゾン奥地の「霧に棲む人々」に誘拐され、さらに
神秘の黄金都市エルドラドや「ビースト」を発見することに
なる…というもの。実在のアマゾンが舞台なので、いわゆる
異世界ファンタシーとは異なるが、かなりファンタスティッ
クな物語が展開されるようだ。
 そしてこの原作は、2002年にハーパーコリンズから刊行さ
れたものだが、この作品の後には“Kingdom of the Golden
Dragon”“Forest of the Pygmies”という作品が続くとい
うことで、ドラゴンと、それにアマゾンでピグミーとはかな
り不思議な物語が展開することになりそうだ。因に、原作者
のアレンデは、1993年にジェレミー・アイアンズ、メリル・
ストリープらの共演で映画化された『愛と精霊の家』(The
House of the Spirits)と、1994年にアントニオ・バンデラ
ス、ジェニファー・コネリーの共演で映画化された『愛の奴
隷』(Of Love and Shadows)の原作者としても知られる。
 なお、ハーパーコリンズはウォルデン=ディズニーと組ん
で『ナルニア』の映画化を実現したアメリカ大手の出版社。
また本作の製作には、『ロード・オブ・ザ・リング』の3部
作を手掛けたバリー・オズボーンと、本作の脚色も手掛ける
脚本家のデイヴィッド・ローゼンバーグが共同で当るという
ことだ。監督などは未発表で、配給をディズニーが行うかど
うかも未定だが、出版社との絡みでは案外早く実現するかも
知れないものだ。
 一方、ウォルデンとディズニーでは、2005年10月1日付の
第96回で紹介した“Bridge to Terabithia”を共同製作する
ことがすでに決まっているが、この作品には、ソニー配給の
『ザスーラ』と“RV”にも出演しているジョッシュ・ハッチ
ャーソンの主演と、『チャーリーとチョコレート工場』に出
ていたアナ・ソフィア・ロブ、さらに2人の教師役で『あの
頃ペニー・レインと』などのズーイー・デシャネルの出演が
発表されており、2月から撮影の準備が整ってきたようだ。
        *         *
 シリーズ物に続いては続編の話題を紹介しよう。といって
も最近は、続編までのサイクルが短くなって、本編が日本未
公開の内に紹介しなければならないのが辛いところだ。
 ということで最初は、アメリカではオスカー狙いで昨年末
に先行公開されて爆発的な人気を博したワインスタイン Co.
配給のCGIアニメーション“Hoodwinked”に、続編の計画
が発表されている。
 この作品は、コーリー&トッド・エドワーズ兄弟とトニー
・リーチという3人の映画作家が2000万ドル以下の製作費で
作り上げたもので、古典童話の『赤ずきん』を下敷きにハリ
ウッド的なリアリティを加えて物語を再構築。作品は単なる
パロディを超えた面白さと評価されている。
 因に3人は、トニーとコーリーが37歳、トッドが34歳とい
うことだが、実は7年前のサンダンス映画祭に、トッドの脚
本、監督、3人の主演による“Chillicothe”という実写作
品を出品。上映では喝采されてほんの一瞬だけ注目を浴びた
ものの、配給には至らなかったのだそうで、その時の喝采が
ただの雑音だったことを思い知らされたそうだ。
 しかし彼らは映画製作を諦めず、今度は手作りのアニメー
ションに挑んだもの。そして今回は、作品が未完成の段階か
らワインスタイン兄弟が目を留め、その出資によってアン・
ハサウェイ、グレン・クローズ、チャズ・パルミンテリらの
声の出演が決定、一気に話が進んだとのことだ。このことに
ついてコーリーは、「ワインスタインのお陰で人生の全てが
変ったものだ。彼らのやり方には本当に家族のような優しさ
があった」と感謝を語っている。
 そしてその続編は、“Hood vs. Evil”と題されており、
遠く離れた神秘の国で修業を積んだ主人公Red Riding Hood
と、彼女の仲間のSister of the Hood達は、今度は行方不明
になった『ヘンゼルとグレーテル』の謎に挑むことになるよ
うだ。ここで前作をまだ見ていないのが辛いところだが、第
1作は行方不明になったお祖母さんと、きこりの殺人事件の
謎を解く話だったようで、続編も全体的にはそういう乗りの
お話のようだ。
 また、トッドの言葉によると、続編は『T2』のような感
じでシリーズ化も視野に入れているとのこと。さらに内容に
ついては、オオカミが協力者になるのだそうで、つまりこれ
は『ターミネーター』では殺し屋だったサイボーグが、『T
2』では協力者になったというような展開が考えられている
ようだ。
 なお第2作の製作には、前作とは比べものにならない体制
が用意されるということだが、一躍注目を浴びた彼らが本当
に勝負しなければならないのは、多分これからだろう。
        *         *
 お次は、新年第1週に公開されて全米No.1ヒットとなった
スプラッターホラー“Hostel”の続編も計画されている。
 この作品は、一昨年公開の“Cabin Fever”がスマッシュ
ヒットを記録したエリー・ロスの脚本監督によるものだが、
実は前作の後、ロスの許にはハリウッド各社からホラーは勿
論、コメディから一般ドラマのシナリオまで届いたそうだ。
しかしどの作品も彼の気に入るものはなく、そんな時にクェ
ンティン・タランティーノと出会ったロスは、タランティー
ノから「自分でやらなければ駄目だ」という意見をもらい、
作り上げたのが“Hostel”の脚本だった。
 そしてこの作品は、タランティーノの製作総指揮の許で映
画化されたものだが、配給を担当したライオンズゲイトとソ
ニー傘下のスクリーン・ジェムズでは、昨年の『ソウ2』の
ヒットに習って早急に続編を作ることを要望。今回はロスも
それに応えて続編に取り掛っているようだ。ただし、タラン
ティーノが続編も製作総指揮を担当するかは不明のようだ。
 またロスは、“Cabin Fever”の続編についてもすでに10
ページの概要を書き上げているということだが、この続編に
ついては、前作同様メインプロットは人食いの話になるもの
の、人語を喋るアニメーションの鳥が登場し、歌も歌うとい
うことだ。従って“Cabin Fever 2”というよりは、1946年
ディズニー製作のアニメーション+実写作品『南部の歌』の
ような作品になるということだが、メインプロットがあれで
は、ディズニー作品のようにはなりそうにない。
        *         *
 続編の話題、最後は続報で2005年4月1日付第84回で紹介
した“Butterfly Effect 2”が1月12日に撮影開始された。
 この続編では、以前に紹介したように出演者は一新され、
今回の主演は、テレビの“Smallville”に出ているエリカ・
デュランスと“The L Word”のエリック・リヴィリー、それ
に“In the Land of Women”のダスティン・ミリガンとなっ
ている。ただしお話は、前作と同じく自分に備わるタイムト
ラヴェルの能力を発見した人物に関するもので、前回の情報
によれば、「バタフライ効果は、新たな段階を迎えている」
そうだ。マイクル・ウェイスの脚本を、ジョン・レオネッテ
ィが監督する。
 一方、この続編に関連して、製作のニューラインからは、
テレビシリーズ化の計画も報告されている。このテレビシリ
ーズの製作はNBCユニヴァーサルが行うもので、放送はア
メリカのSci-Fiチャンネル。2007年に放送開始の予定という
ことだ。そしてこのテレビシリーズでは、アシュトン・カッ
チャーの出演は予定されていないものの、物語は第1作の続
きになるということで、代役の俳優が演じる主人公は、未だ
に理想の未来を求めて過去との行き来を続けているという展
開になるようだ。
        *         *
 後半はヨーロッパ発の話題を2本紹介しておこう。
 まずはスペイン発の話題で、イカー・モンフォートという
32歳のプロデューサーから、フランスのプロダクションとの
共同製作で“El ojo descarnado”と題されたSFスリラー
の計画が発表されている。
 映画の物語は、スペインの企業家がタイに旅行に行き、そ
こでの乱痴気騒ぎの末に片目を失ってしまう。しかしそのま
ま帰国した彼は、ある日、自分が異常なものを見ていること
に気づく。それは、タイに残してきた目が見ているものだっ
た…というもの。SFと言うよりは、奇妙な味の作品という
感じだが、スペイン映画には、時々こういう奇妙な味の作品
が登場するようだ。
 そしてこの映画の主演には、アレハンドロ・アメナーバル
監督の『オープン・ユア・アイズ』などに出演したエデュア
ルド・ノリエガとフェレ・マルティネスの再共演が予定され
ているということで、これは絶妙な配役と言えそうだ。また
監督は、チリ出身のジオダノ・ゲデリーニ。因にゲデリーニ
監督は2002年にフランスで“Samourai”と題されたカンフー
・コメディを撮った経歴があるということだが、コメディの
監督がこのような作品とは、相性は良いのだろうか。
 製作費には800万ユーロ(970万ドル)が計上され、今年の
前半にスペイン国内の撮影所と、バルセロナ、リオデジャネ
イロ、それにバンコクでのロケーションが予定されている。
 また、プロデューサーのモンフォートは、この他に、ゲイ
リー・オールドマンの主演による“The Blackwoods”という
郊外型スリラーと、『ゴスフォード・パーク』などのデレク
・ジャコビ主演による“Arritmia”というアクション映画も
手掛けており、これらの作品はすでにポストプロダクション
の段階にあるそうだ。いずれも国際的な配役で、ちょっと気
になるところだが、取り敢えずは奇妙な味のSF映画を見て
みたいものだ。
        *         *
 もう1本はフランスからで、実はこの作品はすでに完成し
てサンダンス映画祭に出品されたものだが、『エターナル・
サンシャイン』などのフランス人監督ミシェル・ゴンドリー
が初めて母国で撮ったSF作品に対して、ワーナー傘下のイ
ンディペンデント・ピクチャーズ(WIP)がアメリカ配給
権を獲得したことが発表された。
 この作品は、英語題名が“The Science of Sleep”という
もので、物語は、ガエル・ガルシア・ベルナル扮する主人公
が自分の育った家を訪ね、そこでの幼い頃の思い出が徐々に
実生活を浸食し始める…というもの。『エターナル…』でも
記憶と現実の交錯がテーマに描かれていたが、紹介記事によ
ると、今回はさらに実験的なSF作品だということだ。
 そしてこの作品は、映画祭では1月24日にプレミア上映さ
れたものだが、その上映からわずか20分でWIPが配給権の
獲得に成功した。ところがこの作品には、ユニヴァーサル傘
下のフォーカス・ピクチャーズやパラマウントも目をつけて
おり、特にフォーカスは、前作『エターナル…』や同監督の
ドキュメンタリー作品のアメリカ配給も行った他、ガルシア
・ベルナルのプロダクションとも優先契約を結んでいた。し
かし、それで安心していた訳ではないのだろうが、その目の
前から見事にさらわれてしまったということだ。
 ただし、WIPが配給権を獲得したのはアメリカ/カナダ
とイギリスだけで、その他の地域はこれからフランスの製作
会社ゴーモンが交渉を進めることになっている。
 因に、今年のサンダンス映画祭では、ロビン・ウィリアム
ス主演の“The Night Listener”や、エドワード・ノートン
主演の“The Illusionist”なども出品され、それぞれ配給
権の買い付けが行われたようだ。
        *         *
 最後に、前回報告した『ナルニア国物語』第2章“Prince
Caspian”の計画が早くも動き出している。
 情報によると、『ライオンと魔女』のアンドリュー・アダ
ムスン監督が第2章の監督にも決まったもので、主演の4兄
弟もそのまま出演して秋からの撮影となるようだ。監督の発
言では、「今撮らないと子供たちが成長してしまう」という
ことだが、そうすると“The Voyage of the Dawn Treader”
と“The Silver Chair”も一気に製作することになる訳で、
前回期待した線での製作が行われることになりそうだ。
 ただし、以前にイギリスBBCでテレビシリーズ化が行わ
れたときにも“The Silver Chair”までは作られたが、そこ
で終ったもので、今回はぜひとも“The Last Battle”まで
映画化を進めてもらいたいものだ。第1章の勢いがこのまま
続けば、問題ないところだとは思うが。


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井口健二