井口健二のOn the Production
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2006年01月31日(火) ウォ・アイ・ニー、送還日記

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※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介しています。     ※
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『ウォ・アイ・ニー』“我愛你”
愛し合って結婚したはずの男女が、結婚によって微妙なすれ
違いが生じるようになる姿を描いたドラマ。
堕胎の手術も行える看護士の女性と企業に勤める男性が、お
互いに理想の相手であることを確かめ合って結婚して新生活
を始めるが、間も無く2人は心の隙間を感じ始め、お互いの
言葉もすれ違いを生じるようになり、喧嘩が絶えなくなって
しまう。
自分も結婚してン10年になるが、所詮は育った環境も違う男
女が一緒に暮らすのだから、考え方の違いもあるし、いさか
いが生じないことの方がおかしいと言うものだろう。ただ時
が経ればそれは乗り越えられるものだし、それが家庭と言う
ものだ。
しかし若いうちはそうも言っていられないし、実際この物語
の主人公の場合では、男性は勤め先でも周囲との折り合いが
取れていないのだから、これはもう破綻して行くしかないの
かもしれない。
一方、本作の場合は最初に事件があり、主人公の女性にとっ
てこの男性が、本当に理想の相手であったかどうかにも問題
があるのだが、その辺の経緯は、劇中の迫真の夫婦喧嘩の描
写に圧倒されて、どこかで消えてしまったようにも感じる。
結局この女性の立場が明確でないことから、夫婦の愛憎とい
うテーマが際立ってしまっており、監督がこの映画で本当に
言いたかったことがそれで良いのかどうかも、ちょっと心配
になるのだが、夫婦の愛憎と言うことではかなり見事に描か
れている。
まあ、自分にも身に詰まされるところは多々ある作品で、そ
れを乗り越えられるかどうかが夫婦を続けられるかどうかの
瀬戸際となるものだが、その点でこの映画は見事に描かれて
いるし、反面教師として若い夫婦の参考になるところも多い
ようにも感じられた。
なお、原題は“I love you”の意味だったと思うが、映画
のタイトルに出る現代中国語の文字では「愛」の中の「心」
が省かれているのは面白いところだ。

『送還日記』“送還”
韓国で逮捕収監され、30年以上の長期間の服役の後、非転向
のまま釈放、太陽政策により送還された北朝鮮スパイの姿を
12年間に渡って記録した韓国製ドキュメンタリー。
韓国と北朝鮮の緊張状態の中で、北は数多くのスパイを南に
送り込み、そのスパイは逮捕されると共産主義から南の思想
に転向することを強いられた。そしてそれにより転向する者
もゼロではなかったが、しかし数多くの北のスパイがそれを
拒み続けた。
その転向工作は、韓国政府は否定し続けるが拷問的なもので
あったことは明らかであり、また、戦時捕虜は速やかに送還
するとのジュネーブ条約にも関わらず、45年間の長期収監囚
(ギネス認定)が存在したことも事実のようだ。
そんな転向を拒否し続けた信念のスパイたちの姿を描いた作
品。と言っても、彼らも人の子であり、直接付き合えばユー
モアも解し、周囲の人々には暖かく接する。ところが、時に
北の将軍様を称える歌を歌い、一旦議論になると共産主義の
優位を唱え始める。
監督のキム・ドンウォンは思想的には左寄りの人のようで、
実際に本作の製作中に当局の取り締まりを受けるシーンも登
場するが、その監督もこのスパイたちの信念には戸惑いを見
せる。その姿は、確かに尋常なものではない。
しかも、その信念を作り上げたのが、結局のところは北の教
育のお陰と言うよりも、南に来てからの厳しい取り調べの結
果に見えてしまうところが、第三者として見ている我々には
可笑しく思えるところだ。
そしてそのスパイたちが北に送還されたときの北朝鮮の熱烈
歓迎ぶりは、当然予想されるものではあったが、北の政府の
異様性も見事に描き出している。またそれに満足し切ってい
るスパイたちの姿も、人間とは所詮そんなものだという感じ
がしたものだ。
しかしその一方で、南出身でありながら北のスパイとなり、
家族から拒絶されて北に行かざるを得ない人や、転向したた
めに北に帰ることのできない人の問題も描かれており、分断
国家の悲劇が全く終っていないことも明らかにされる。
韓国映画を見るといつも感じてしまうことだが、隣国であり
ながらその実体を全く知らされていない国。この映画もそん
な隣国の姿を垣間見せてくれた。



2006年01月30日(月) ダンサーの純情、コルシカン・ファイル、ワル、カースド、ミュンヘン、モルタデロとフィレモン、マンダレイ

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※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介しています。     ※
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『ダンサーの純情』(韓国映画)
『マイ・リトル・ブライド』のムン・グニョンと、韓国の若
手ミュージカルスターとして人気の高いパク・コニョン共演
によるダンスコンテストを競う若者たちを描いた作品。
パク扮するヨンセはプロのダンサーであり、優秀なトレーナ
ーでもあったが、以前のコンテストの直前に自らが育て上げ
たパートナーをダンス協会々長の息子に奪われ、さらに脚に
怪我を負わされてダンスの道を諦めかけていた。
ところが先輩から、中国北部延辺自治州在住の朝鮮族でトッ
プダンサーの女を偽装結婚して呼び寄せ、新たなパートナー
としてコンテストに再挑戦することを勧められる。そして渋
々女を迎えに行ったヨンセは、まだ幼さの残る少女(ムン)
に巡り会うが…
社交ダンスコンテストへの挑戦ということでは、『Shall We
ダンス』を連想させるが、この作品では韓国特有の社会情勢
や、一方でプロダンサー同士の熾烈な闘いなども描かれて、
かなり趣の違う作品になっている。
社会情勢の点では、偽装結婚に対する取り締まり等はかなり
コミカルに描かれているが、国としてのシビアな対応や、ま
た延辺自治州の存在などは、日本人では考えも及ばないとこ
ろだろう。
また字幕では判りにくいが、少女が何度も北の訛りを止めろ
と言われるのは、日本映画での地方出身者を馬鹿にするよう
な訛りの描き方とはかなり違うニュアンスが感じられる。
この種の社会情勢の違いは、韓国映画では常にどこかで感じ
られるものだが、隣国でありながらお互いを深く知ることの
できない日韓の間柄には、歯がゆさも感じるところだ。
ということはさて置いて、映画そのものは実はダンス初心者
だった少女をダンスコンテストのパートナーに仕上げるまで
のいろいろな経緯が描かれる。そこには、本当の初歩からの
鍛練やプロ特有の大技なども織り込まれて、大技には多少や
りすぎの感じもあったが、全体はテンポも良く判りやすく描
かれている。
もっともこの辺は、『Shall We…』とも被るところではある
が、そこは韓国の妹と呼ばれるムンの可憐さというか、健気
さが前面に押し出されて、ファンには堪らない魅力というと
ころだろう。しかも、ダンサーのパクらがそれをしっかりと
支えるから、ダンス自体もかなりの見所になっている。
因にムンのダンスは、全くの初心者からの猛特訓の成果だそ
うだ。一方のパクは、本来はミュージカルダンサーだが、そ
の癖がスポーツダンス(社交ダンス)の邪魔になったという
辺りは、バレリーナの草刈民代が苦労したのと通じるところ
もありそうだ。
この作品で韓国にダンスブームが起きたかどうかは知らない
が、とりあえずは、『マイ・リトル…』でムンを気に入った
人には絶対お勧めと言える作品だ。

『コルシカン・ファイル』“L'Enquête corse”
『おかしなおかしな訪問者』などのジャン・レノとクリスチ
ャン・クラヴィエ共演によるコルシカ島を舞台にしたアクシ
ョン・コメディ。
クラヴィエ扮するパリの探偵ジャック・パーマーは、コルシ
カ島在住の遺産相続人のアンジュ・レオーニ(レノ)を探す
依頼を受け、コルシカ島に降り立つ。そして街でレオーニの
所在を訊ねるが、人々は口を噤むばかり。それもその筈、レ
オーニは島の民族主義者のリーダーで、警察が血眼になって
所在を追っていたのだ。
そうとは知らずパーマーは、シャイでよそ者を嫌う島民たち
の間で聞き込みを続け、徐々に信頼を得て、ついにレオーニ
の元に辿り着くが…これに、レオーニら民族主義者の活動も
絡めて描かれる。
コルシカ島は、ナポレオンの生地として知られるが、元々フ
ランスに占領されたという意識が強く民族運動も盛んで、公
用語はフランス語だが独自のコルシカ語の教育や放送も行わ
れているということだ。
というコルシカ島で全編撮影された作品で、レノが民族主義
者を演じ、しかも都会から来た主人公が右往左往するという
内容は、島民にはどうだったのか思うところだが、さすがに
レノとクラヴィエのコンビというのは強力だったようで、エ
ンディングに流れる島民へのインタヴューでもすんなりと受
け入れられていたようだ。
一方、映画には、主人公が雑種かと疑うコルシカ犬の純血種
(?)が登場したり、これはかなり迫力のある民俗芸能の男
声コーラスがフィーチャーされるなど、異国情緒は一杯で、
部外者の観客にはそれだけで楽しめる作品でもある。
ただし、『ル・ブレ』のアラン・ベルベリアンの演出は、前
作と同じく今回も、溜めと言うか情感を感じさせるところが
ほとんど無く、かなり荒っぽい印象を受ける。おかげで92分
という短い作品になってはいるが、何か物足りなさを感じて
しまうものだ。
もっとも、この作品はフランスで大ヒットしたそうだから、
それなりに受け入れられてはいるのだろう。これには強力な
主演コンビのおかげもあると思うが、詳しい動員の状況は判
らない。でも、僕はもう少し何かが欲しい気がしたのだが…

『ワル』
真樹日佐夫原作、影丸穣也作画の劇画を、真樹の製作脚本出
演、三池崇史監督、哀川翔の主演で映画化した作品。
剣道家を父に持つ氷室(哀川)は、広域指定暴力団との闘い
で犯した罪を咎められ、その服役中の刑務所で更級(真樹)
と出会う。そして出所後は、更級が主宰する世直し組織「地
平同」に参加。極東マフィアの資金源となる暴力組織を叩い
ては隠し金を吐き出させていた。
そんな氷室と更級に手を焼いた極東マフィア上層部は、2人
に対する絶対暗殺命令を発し、ついに更級が殺られる。そし
て氷室は弔い合戦を開始、湖上での決闘の末に更級殺しの犯
人を倒すが、氷室も一緒に湖底に沈んでしまう。
そして時が流れたある日。来日中の合衆国大統領夫人が誘拐
され、イラク派遣中の海自艦隊を撤収させる要求が首相官邸
に届けられる。ところが極秘でその対策が練られる中、一人
の男が夫人の奪還に成功してしまう。そして…
これに、最後は「ジャパン・アルカイダ」なる組織まで登場
して、氷室と極東マフィアとの壮絶な闘いが描かれる。まあ
元々劇画が原作ということで、かなり荒唐無稽にアクション
が繰り広げられる作品だが、悪意無く見ていれば結構楽しめ
るものだ。
それにアメリカ追従の現日本政府を批判する下りなどは、国
会議事堂の上に仁王立ちしたゴジラと同じで思想の左右に関
係なく溜飲が下がるものだ。そんなところも含めて、痛快と
言うには多少トーンが暗いが、それなりに見応えはあった。
それに剣道を主体にしたアクションも、哀川翔以下、かなり
頑張っている感じのものだ。三池監督作品は、僕にとっては
当たり外れが大きいように感じるが、今回は当たりだったと
言える。
またヴィデオ撮影の画像も、良好とは言い難いが劣悪と言う
ほどではなく。まあこんなものかなという程度だが、この辺
はプロジェクターの性能によるところも大きいようだ。

『カースド』“Cursed”
『エルム街の悪夢』『スクリーム』のウェス・クレイヴン監
督と、『スクリーム』の脚本家ケヴィン・ウィリアムスンが
再び組んだ作品。主演はクリスティーナ・リッチ、特殊メイ
クをリック・ベイカーが担当している。
テレビ局に勤めるエリー(リッチ)は、ある夜、内気な弟と
犬を載せて車で帰宅中、マルホランド・ドライヴで大型の獣
がフロントグラスにぶつかり、その弾みで対向車と接触。対
向車は崖下に落ちてしまう。
幸い対向車を運転していた女性は運転席に挟まれているだけ
で無事だったが、その直後、女性を救出しようとした彼らに
何者かが襲いかかる。そしてその何者かの攻撃で負傷した主
人公と弟と犬は、その血によって呪いを掛けられてしまう。
そして呪いの掛けられた姉弟と犬は、満月の晩に自らの意志
とは無関係に変身してしまう恐怖におびえながらも、その謎
を解き、呪いを解こうと試みる。
主人公自身が呪いに掛かって、その呪いの効果を利用しなが
ら呪いを解こうとする展開は、ちょっと新機軸かな。一方、
銀器の使い方など設定は筋が通っているし、展開にも問題は
なさそうで、この辺はさすがベテランコンビの作品という感
じだ。
また、物語の背景になるのがロサンゼルスのテレビ業界とい
うことで、テレビの人気者の登場や、ハリウッド大通りの蝋
人形館ホラールームが舞台になるなど、楽屋落ちからクレイ
ヴン流のショッカーまで、いろいろとヴァラエティに富んだ
お楽しみも満載となっている。
特に、呪いが掛かると女性はセクシーに男性は敏捷になると
いう設定が設けられていて、最初は多少ダサい雰囲気の主人
公と弟が見る見る内に輝いてくる辺りは、あのリッチが…と
いう感じもあって見事に演出されている。
それにしてもリッチは、『モンスター』の好演でシャーリズ
・セロンの主演女優賞受賞をサポートしたかと思えば、ウデ
ィ・アレン作品に主演したり、それでいてこういうホラー作
品にもしっかり出てくれるのはうれしい限りだ。
『アダムス・ファミリー』『キャスパー』も懐かしいホラー
・プリンセスから、いよいよホラー・クイーンを襲名かな…

『ミュンヘン』“Munich”
1972年9月に発生したミュンヘンオリンピック選手村襲撃事
件に対して、イスラエル軍の特殊部隊モサドが行った復讐暗
殺事件の全貌を描いた作品。
と言っても、物語は史実に基づくとされてはいるが、モサド
の実体が現実に明らかにされたことはなく、実行犯の特定な
どもされてはいない。従って、映画に描かれている人物像や
人間関係などはすべてフィクションによるものだ。
ただし、現実にイスラエル政府が下したという<神の怒り作
戦>では、少なくとも13人が暗殺されたと言われている。と
言う実話に基づく作品を、ユダヤ人であることが公表されて
いるスティーヴン・スピルバーグ監督が映画化した。
この時点で僕は、この映画を見ることを大いにためらったも
のだ。がしかし、今の時点で脳天気に復讐劇が描けるはずも
なく、ではどんな作品になったのかというところが、この映
画の試写会に向かう際の最大の興味だった。
その作品は、上映時間2時間44分。最近は3時間を超える作
品も少なくないから、上映時間自体はこのような大作として
は普通だと思うが、見終えての疲労感をこれほどに感じた作
品は、他にないものだ。
しかもそれが、映画の不出来などで疲労するのではなく、描
かれた内容の重みによるものであるから、これはこの作品を
見ようとした者の宿命としか言いようの無いものだ。実際に
映画は、最初から最後まで肩にずっしりと錘を置かれたよう
な作品だった。
しかし今の時代に、我々はこの映画に描かれた現実から目を
逸らせてはいけないものだ。
映画の物語は、選手村襲撃によって開幕する。その様子は当
時のニュース映像をフェイクした映像なども交えて克明に再
現されて行く。そして悲劇の結末は、ニュース映像によって
紹介される。
この悲劇に対してイスラエル政府は、メイア首相の決断の下
に復讐作戦を開始する。このシーンでは、首相に扮した女優
が何の躊躇いも無く命令を下すことで、この復讐作戦がイス
ラエル政府の犯行であったことが明示される。
つまりこの映画では、かなり早い時点でこの復讐劇の主体が
イスラエル政府の命令であったことを明らかにして、罪がい
ずれにもあること、特に以下に描かれる犯罪はイスラエル政
府の責任であることを明白にしたものだ。
そしてこの視点が明白にされたことで、この映画が描くべき
こと、つまりテロ行為に対して報復で応えることの空しさ、
愚かさが明瞭に描かれて行くことになる。
従って主人公たちは、最初こそ大儀に基づく成功を喜ぶが、
やがて必要もない殺人にも手を染め自滅して行ってしまう。
そしてそんな愚かの行為の末路は、映画の結末で見事に描き
切られていたように思えた。
その他、選手村襲撃事件の再現では、いまだに謎とされてい
る部分には、上手い仕掛けが施されるなど、全体的には各方
面からの文句が付け難いように仕組まれている。この辺りは
さすがにハリウッド映画の知恵という感じもした。
政治的な対立を背景にした作品だが、今のところ正式の抗議
はイスラエル側からだけというのは、全体的に上手く納得で
きるように作られているということなのだろう。
重いし、疲れる映画だが、見終えて間違いなく何かが残る作
品だ。

『モルタデロとフィレモン』“Mortadelo y Filemon”
スペインでは知らない人はいないという国民的コミックスの
実写映画化。2003年の本国公開時には、スペイン映画史上最
高の興行成績を達成。スペインのアカデミー賞と言われるゴ
ヤ賞でもVFX部門を始め5部門で受賞を果たしている。
スペインの諜報機関TIAが開発した秘密兵器DDTが盗ま
れ、某独裁国に売り渡されてしまう。その秘密兵器とは、人
のやる気を無くさせる電波を発生し、その兵器が作動すると
半径500m以内の人々のやる気が一定期間失せてしまうという
もの。
この事態にTIAでは、最高の秘密捜査官フレディを呼び寄
せ、DDT奪還を命じるのだが、とある事情から落ちこぼれ
コンビのモルタデロとフィレモンも捜索に乗り出すことにな
る。こうして、フレディに対抗意識を燃やす2人の飛んでも
ない活躍が始まるが…
靴底の電話機なんていう懐かしいものから『インディ・ジョ
ーンズ』に至るまで、とにかく手当り次第のパロディやギャ
グが満載の作品。
と言っても、僕自身の感覚では、スペインに限らず、ヨーロ
ッパ製のパロディ映画というのは、どうも波長が合わないと
言うか、爆笑にならないことが多いもので、この作品も残念
ながらその域を出てはいない。
しかし本作は、それに加えてCGIから屋台崩しまでのVF
Xがかなり頑張っていて、それを見ているうちに何となく填
ってきてしまった。正直に言って、ギャグは泥臭いものや時
代後れに感じるものも多いが、それでも良いやという感じに
させられる。
人気コミックスの映画化と言うことだが、例えば『サザエさ
ん』の実写映画を日本人以外が楽しめるかと言うと決してそ
うでない訳で、その辺がこの手の映画の難しいところだ。で
もまあ、この作品ではVFXは頑張っているし、その意味で
は見所が無い訳ではない。
そんな気持ちで見れば、それなりに後半は笑えるようにもな
ってきた。それに物語自体は意外としっかり作られていて、
パロディ映画と言うと、とかくギャグ優先で物語がいい加減
なことが多いが、本作は結構理に叶った展開になっているの
は良い感じだった。
なお、字幕監修をラーメンズ・小林賢太郎が行っているとい
うことだが、固有名詞などにギャグを施している他は、字幕
自体に変な感じは持たなかった。それと、エンディングの歌
に付けられた語感を日本語に置き換えただけの歌詞にはちょ
っと唸らされた。

『マンダレイ』“Manderlay”
2003年に公開された『ドッグヴィル』に続く、ラース・フォ
ン・トリアー監督によるアメリカ3部作の第2話。
時は1933年、春まだ浅い頃。前作で描かれた山間の町ドッグ
ヴィルを離れたグレースと、彼女の父親率いるギャング団の
一行はディープサウスに現れる。そして、ふと立ち寄った農
場で、今しも黒人男性が鞭打たれようとしている現場を目撃
する。
何とそこでは、70年前に法律で廃止された奴隷制度が、まだ
生き残っていたのだ。
この事態に義侠心を燃やしたグレースは、父親と別れて農場
に留まり、奴隷たちの解放を試みる。折しも農場の女主人が
亡くなり、今際の際にグレースは、女主人がベッドの下に隠
し持っていた「ママの法律」と題された奴隷支配の手引書を
託されるが…
以下、ネタばれあります。
フォン・トリアーはこの映画の脚本を書くに当って、『O嬢
の物語』の刊行の際にフランスの作家が寄稿した序文「奴隷
状態における幸福」を参考にしたという。そこには1938年に
バルバドス島で発生した解放奴隷の暴動について書かれてい
たということだ。
つまり、法律によって突然に奴隷状態から開放された人たち
が、自分たちのするべきことも判らず、かえって元の奴隷状
態を羨望するようになるという皮肉な現実が、歴史的にも起
きていたということだ。そしてこの映画の物語もそのように
展開して行く。
しかし、本編の物語はそれだけを描いているのではない。そ
こに介入して、アメリカ民主主義を押しつけようとするグレ
ースの行為が、物語の他方の主題となっている。ここでは、
アメリカ政府が中東などで行っている行為があからさまに非
難されているものだ。
この作品に対しては、Variety紙やThe New York Timesなど
が好意的な評価を載せる一方で、The Hollywood Reporterな
どはかなり批判的な文章を掲載したようだ。
実際に僕が見た感想を言えば、この映画で展開されるアメリ
カ批判は即物的に過ぎるし、これでは神経を逆撫でされる人
も多いだろうと思うものだ。しかし、アメリカを始め多くの
映画製作者が口を噤んでいることを敢えて言おうとするなら
ば、これくらいにあからさまにしないことには、その目的は
達成できないということなのだろう。
因に、前作に主演したオーストラリア人のニコール・キッド
マンは役を降板した訳だが、代りに起用されたブライス・ダ
ラス・ハワードが若い分、アメリカの幼さが強調されたのは
上手いやり方のようにも感じられた。
ただし、前作はキッドマンの堂々たる演技と特異なセット環
境で、あえて芸術的と言える作品になっていたが、今回はセ
ットの風景にも慣れてしまったし、かえって戯画化された雰
囲気にもなって、その点では多少物足りなくも感じられた。
でも、今回は言いたいことが別にあったということで、次回
3部作の完結編には改めて期待したいところだ。



2006年01月15日(日) 第103回

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※このページは、キネマ旬報誌で連載中のワールドニュー※
※スを基に、いろいろな情報を追加して掲載しています。※
※キネ旬の記事も併せてお読みください。       ※
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
 新年の2回目といっても、新春になってからは初めて書い
ている原稿になるので、最初は昨年のまとめの意味も含めて
アメリカの興行成績から見て行くことにしよう。
 まず、昨年度の全米興行ベスト10は、
1.Star Wars: Episode III-- Revenge of the Sith(3億
8027万ドル)
2.Harry Potter and the Goblet of Fire(2億7866万ド
ル)
3.War of the Worlds(2億3428万ドル)
4.The Chronicles of Narnia: The Lion, the Witch and
the Wardrobe(2億3213万ドル)
5.Wedding Crashers(2億922万ドル)
6.Charlie and the Chocolate Factory(2億646万ドル)
7.Batman Begins(2億534万ドル)
8.Madagascar(1億9320万ドル)
9.Mr. and Mrs. Smith(1億8634万ドル)
10.King Kong(1億8006万ドル)
となっている。なお、5位はオーウェン・ウィルスン主演の
コメディ、8位はアニメーション、9位はブラッド・ピット
主演のアクションコメディだが、他はSF/ファンタシー系
の作品で、今年も上位を独占したことになる。因に、この中
で2位と4位、10位は続映中だが、2位が1位を逆転する可
能性は薄い。しかし4位の興行は年明けもハイアヴェレージ
で推移しており、すでに1月の第1週で3位を逆転、さらに
2位を抜く可能性もありそうだ。
 以下は、SF/ファンタシー系の作品で目に付いたところ
をチェックすると、13位“Fantastic Four”(1億5470万ド
ル)、22位“Saw II”(8704万ドル)、27位“The Ring 2”
(7594万ドル)、28位“Constantine”(7553万ドル)と、
29位に“The Exorcism of Emily Rose”(7507万ドル)など
が続いている。中には本当はもっと稼いで欲しかった作品も
あるが、まあこの辺までがスマッシュヒットと呼べるところ
だろう。特に29位は期待以上のヒットと言えそうだ。
 さらに別ページの映画紹介で取り上げた作品では、“Sin
City”が31位(7410万ドル)、“Herbie: Fully Loaded”は
38位(6602万ドル)、“Bewitched”42位(6233万ドル)、
“The Hitchhiker's Guide to the Garaxy”54位(5109万ド
ル)、“The Adventures of Sharkboy and Lavagirl”70位
(3918万ドル)。また“The Island”74位(3582万ドル)、
“House of Wax”85位(3206万ドル)、“Stealth”が87位
(3172万ドル)、“Zathura”は95位(2805万ドル)、“The
Jacket”167位(630万ドル)、“A Sound of Thunder”215
位(190万ドル)などとなっている。
 アメリカの映画興行の全体は、前年比で10%近い下落とい
うことで、SF/ファンタシー系の作品もその影響を受けた
という感じもする。しかしこれらの作品の中では、個々には
いろいろ問題を抱えているもののSFとしては認めたい作品
も多く、特に科学的な捻りの利いた作品が、アメリカで成績
が上がらなかったという理由だけで、日本でも無視されてし
まうのはどうかと思ってしまうところだ。
 今年はそのような作品を応援したいとも思っている。
        *         *
 お次は、昨年も紹介したVESAwardsのノミネーションを
紹介しよう。今年で第4回となるこの賞では、映画だけでな
くテレビやコマーシャル、ゲームソフトなどの部門賞も制定
されているが、ここでは映画関係だけを紹介しておく。
 まず、VFX主導の映画におけるVFX賞候補は、“The
Chronicles of Narnia: The Lion,the Witch and the Ward-
robe”“Harry Potter and the Goblet of Fire”“King
Kong”“Star Wars: Episode III-- Revenge of the Sith”
の4本となっている。
 VFX主導でない映画のVFX賞候補は、“Jarhead”
“Kingdom of Heaven”“Memoirs of A Geisha”の3本。こ
の内、湾岸戦争を描いた“Jarhead”では、爆撃シーンや燃
え盛る油井などは総てCGIで再現されていたそうだ。
 単独のVFX賞候補には、“Charlie and the Chocolate
Factory”のナッツルーム、“Episode III”の開幕の戦闘シ
ーン、“War of the Worlds”の近隣の人々が逃げ惑うシー
ンが選ばれている。
 また、実写映画におけるアニメーションキャラクター賞候
補は、“The Chronicles of Narnia”のアスラン、“Harry
Potter”のドラゴン、“King Kong”のコング。アニメーシ
ョン映画におけるキャラクター賞候補は、“Madagascar”の
キング・ジュリアン、“Robots”のフェンダ、“Wallace &
Gromit: The Curse of the Were-Rabbit”のグルミット。
 さらに背景賞候補には、“Batman Begins”のモノレール
と“Harry Potter”のブラックレイク湖底、“King Kong”
のニューヨークの攻撃シーン、それに“Episode III”。ミ
ニチュア賞候補には、“Harry Potter”のホグワーツ校と、
“Episode III”“War of the Worlds”。合成賞候補には、
“Harry Potter”のヴォルデモートの鼻、“King Kong”の
Tレックスの闘いと、“War of the Worlds”が選ばれた。
 なお、後半の3賞で対象が表記されていないのは、元の発
表にも書かれていないものだが、映画の全体で評価するとい
うことなのだろうか。ただし、表記されていない“Episode
III”と“War of the Worlds”が共にILM単独の作品とい
うのは引っ掛かるところだ。
 VESAwardsは上記を含めた全20部門で争われ、受賞式は
2月15日に催されることになっている。
        *         *
 もう1件、賞絡みの情報で、アカデミー賞のメイクアップ
部門の予備候補が発表されている。
 予備候補は、“The Chronicles of Narnia”“Cinderella
Man”“A History of Violence”“The Libertine”“Mrs.
Henderson Presents”“The New World”“Episode III”の
7本で、この内“The Libertine”については、以前の映画
紹介では「メイクが良くない」と書いてしまったものだが、
専門家の評価は違ったようだ。
 最終候補はこの中から3本が1月31日に発表される。
        *         *
 以下は製作ニュースを紹介しよう。
 まずは、上でも書いたように、12月の公開にもかかわらず
年間興行成績第4位にランクインし、さらに数字を伸ばして
いる“The Chronicles of Narnia”について、続編の情報が
報道されている。
 この続編に関しては、2004年12月1日付の第76回でも報告
しているが、当初の計画では『ライオンと魔女』を製作した
後は、残りの6冊を2〜3本にまとめて映画化するとされて
いた。ところが最近の報道では多少ニュアンスが変化してい
るようで、製作実務を行っているウォルデン・メディア代表
のケイリー・グラナッドは、「続編は“Prince Caspian”の
脚色を進めており、近日中に監督を決定する」と発言してい
るということだ。
 ここで“The Chronicles of Narnia”に関しては、映画化
された『ライオンと魔女』は最初に発表された物語ではある
が、年代記としては2番目になるもので、その前には“The
Magician's Nephew”(魔術師のおい)という物語が存在す
る。一方、続篇として紹介された“Prince Caspian”(カス
ピアン王子のつのぶえ)は年代記では4番目となるもので、
3番目には“The Horse and His Boy”(馬と少年)という
物語があるのだ。
 では、何故続篇が“Prince Caspian”なのかと言うと、そ
れは発表順で2番目だからということに他ならない。つまり
映画化は原作の発表順に行われることを示しているものだ。
しかしそうすると、年代記として残りの6冊を2〜3本にま
とめるのは非常に難しくなる。そこでこれは飽く迄も希望的
観測だが、今回の発言は全7冊を1本ずつ映画化することも
予想させるものになっているのだ。また今回の大ヒットの様
子では、その資格も充分にあると思える。
 ただし、出版順でも年代記でも“Prince Caspian”に続く
“The Voyage of the Dawn Treader”(朝びらき丸、東の海
へ)と“The Silver Chair”(銀のいす)は同じ時代の物語
ということで、これらが一括して“Prince Caspian”の題名
で映画化される可能性はないわけではない。がしかし、そう
すると、残る“The Last Battle”(さいごの戦い)を含む
3作は、年代記では1、3、7の飛び飛びとなってしまうも
ので、これを1本にまとめることもかなり難しいものだ。
 元々今回の計画では、最初に『ライオンと魔女』を映画化
した時点から、年代記にまとめるのは難しいと思われたもの
で、できれば発表順に7本の映画にして、全てが完成した時
に改めて年代記として一挙上映してくれるのが一番と考えて
もいたが、今回の報道を読んでいると、そんな夢も叶いそう
な気もしてきた。そうなることを期待したい。
        *         *
 お次はファンにはビッグニュースで、パラマウントで計画
されているSFシリーズ“Star Trek”の第11作に、トム・
ハンクスの出演が噂されている。
 この計画は、現在は“Star Trek 11: The Begining”の原
題で進められているものだが、この脚本を、2001年にハンク
スが製作総指揮したテレビのミニシリーズ『バンド・オブ・
ブラザース』でハンクスと共に製作に関わり、さらにハンク
スが監督を担当した第5話の脚本も手掛けているエリック・
イェンドルセンが担当していることから、この噂が流れ始め
たようだ。
 なお2人は古くからの友人ということで、互いに話し合い
ぐらいはしているのだろうが、現時点で出演が確定した訳で
はない。しかし、パラマウントではシリーズの興行がじり貧
になっていることは認めており、その立直しのため前作『ネ
メシスSTX』には外部のジョン・ローガンを脚本に起用す
るなど、テレビシリーズの人気に頼らない新しい血の導入を
試みているもので、その一環として実現の可能性はあるよう
だ。後は出演料の交渉次第ということになるのだろう。
 因に報道では、アカデミー賞スターとSFシリーズとの意
外な組み合わせのように報じられていたが、1985年の『カラ
ーパープル』で主演賞候補になり、1990年の『ゴースト』で
助演女優賞を受賞したウーピー・ゴールドバーグは、1987年
に製作開始された『新スタートレック』シリーズでは1988年
から受賞後の1993年まで準レギュラーとして出演しており、
さらに前作『ネメシス』にも顔を出すなど、オスカー受賞者
の出演に前例がないものではない。またこのシリーズは、そ
のくらいの信頼を得ているものなのだ。
 もう一つ、『スタ・トレ』関連の補足情報では、昨年末に
発表されたイギリスのテレビ局の行った人気帳票で、ウィリ
アム・シャトナー、レナード・ニモイらの主演によるオリジ
ナルシリーズが、もう一度見たいテレビシリーズの第1位に
輝いたということだ。それでいて、何故にテレビシリーズも
映画シリーズもじり貧状態なのかが判らないところだが、今
年中に製作が予定されている第11作では、ぜひとも状況を打
破するクリーンヒットを期待したいものだ。
        *         *
 “Pirates of the Caribbean”の2本の続編に続いては、
オーストラリア人作家の原作による“Shantaram”への主演
が予定(第101回参照)されているジョニー・デップが、今
度はスコットランド人作家の小説の映画化に乗り出すことが
報じられている。
 その作品は、ジェイムズ・ミーク原作の“The People's
Act of Love”と題されたもので、昨年7月に発表されて以
来5ヶ月で20ヶ国語に翻訳され、まさに彗星のごとく現れた
作品と評されている。そしてこの原作の映画化権の獲得に、
デップが自ら気に入った企画を立上げるために設立した製作
プロダクション=インフィニタム・ニヒルが乗り出している
ということだ。
 内容は、ロシア革命後の内乱の続く1919年のシベリア奥地
の村を舞台として、外界から孤立したその村を支配するチェ
コスロヴァキア軍の大佐と、その村を開放しようとするロシ
ア赤軍の革命家との対決を描いたもので、ロシア版『地獄の
黙示録』とも評価されている作品のようだ。またそこには、
キリスト教の一会派によるちょっと過激な宗教活動も背景に
描かれているそうだ。
 そしてこの革命家の役にデップと、大佐役にラッセル・ク
ロウの共演が期待されているとも伝えられている。といって
もこの配役は、イギリス人の映画ジャーナリストが期待して
いるもののようで、この2人が“Shantaram”の映画化権を
争ったことを知る者としてはちょっと痛いところだ。
 ただしこの映画化には、ハリウッドの大作というよりも、
ヨーロッパ映画の風格が求められるということで、その意味
でもヨーロッパ文化への理解に優れるデップの映画化権獲得
は、ベストな人材として歓迎されているようだ。また、原作
者のミークは「自作が小説以外の芸術形態に写されることに
興味はない」としながらも、「一つの芸術形態からのインス
ピレイションで、他の芸術形態において作品が生み出される
ことは素晴らしいことだ」としており、直接映画製作に関わ
る気持ちはないものの、映画化への期待も感じさせた。
 因に現状では、数千ポンドの手付け金が交わされただけの
ようだが、インフィニタム・ニヒルでは、先にニック・ホー
ンビー原作による“A Long Way Down”の映画化権の獲得に
際しては200万ポンドを支払ったとも報じられており、今回
もその規模の契約になりそうだ。
        *         *
 『オーシャンズ11』、『オーシャンズ12』に続くシリーズ
第3弾“Ocean's Thirteen”を、スティーヴン・ソダーバー
グ監督と、ジョージ・クルーニーの主演で2006年後半に撮影
することが、ワーナー傘下のプロデューサー=ジェリー・ワ
イントルーブから報告されている。
 この計画は、まだ初期の段階とされているものの、すでに
ブライアン・コッペルマンとデイヴィッド・レヴィーンによ
る脚本は完成しているようだ。そしてこの計画には、前ワー
ナー社トップのロブ・グラルニックも参加して万全の製作体
制が採られるということだ。
 なお、ソダーバーグ+クルーニーのセクション8とワーナ
ーの間では、昨年末の『シリアナ』の公開を巡って多少ギク
シャクしたところがあったようだが、これで関係修復となれ
ば万々歳と言うところだろう。ただし、すでに本拠をパラマ
ウントに移しているブラッド・ピットの去就は未発表だ。
 因に、ワイントルーブのプロダクション(JWP)では、
日本ではNHKが放送したテレビシリーズにもなったことの
ある少女冒険小説“Nancy Drew”の映画化を、1月31日の撮
影開始予定で計画している他、今年の賞レースで注目を集め
る“Brokeback Mountain”の脚本家チームのラリー・マクマ
トリーとダイアナ・オサナがそれ以前に完成させ、小説とし
ても発表している“Pretty Boy Floyd”というアウトローも
のの脚本の映画化権も獲得している。
 さらに、ワイントルーブ自身の回想に基づいて、彼とエル
ヴィス・プレスリーのマネージャーのトム・パーカー大佐と
の関係を描く“The Colonel and Me”という作品も計画され
ており、グラルニックの参加を得て、ますますワーナー傘下
のプロダクションの中核をなすことになりそうだ。
        *         *
 ニューヨークを舞台に数々の名作を発表してきたウディ・
アレンがヨーロッパに渡って、イギリスで撮影した“Match
Point”も好評に迎えられているようだが、さらにスペイン
での映画製作も計画していると伝えられた。
 因にアレンとスペインとの関係は、以前からたびたび同国
を訪れては休暇を楽しんだりジャズの演奏旅行を行ったりも
していたようだが、2004年には“Melinda and Melinda”の
ワールドプレミアを同国のサン・セバスチャン映画祭で行う
など思い入れも高いようだ。また、2002年にはスペイン王室
から芸術賞を授与された他、北部のオヴィエドという町には
等身大の彫像も建てられているそうだ。
 そして現在公開中の“Match Point”は、8週連続で同国
興行トップ10にランクインしており、最終的には全米興行で
11位にランクされたウィル・スミス主演の『最後の恋のはじ
め方』に匹敵するヒットになりそうだと言われている。
 そのスペインで計画されている作品は、脚本も執筆されて
おらず、題名も未定、内容も未発表というものだが、出演者
には国際的な俳優と現地の俳優も起用され、言語は英語で撮
影されるということだ。また、製作費はスペインのメディア
プロというプロダクションとアレンのプロダクションが折半
で負担することになっている。
 なおアレンは、イギリスでの第2作となるスカーレット・
ヨハンスンとヒュー・ジャックマン共演による“Scoop”の
撮影は完了しているということだが、今年中にもう1作品を
イギリスで製作した後の2007年に、今回報告されたスペイン
での製作を計画しているようだ。
        *         *
 2003年11月15日付の第51回などで紹介してきたモーリス・
センダク原作による“Where the Wild Things Are”の製作
がユニヴァーサルで断念され、その後をワーナーが引き継ぐ
ことが発表された。
 この計画は、元々はユニヴァーサルでオールCGIで進め
られていたものだが、トム・ハンクスが主宰するプレイトー
ンが製作母体となって前回の報告では『アダプテーション』
などのスパイク・ジョーンズの監督起用が発表され、同時に
実写とCGIの合成による製作への変更も発表された。しか
しこの変更がユニヴァーサルでは承認されなかったようだ。
 結局のところ、ジョーンズと作家のデイヴ・エッガースが
執筆した脚本をユニヴァーサルが拒否したということだが、
原作者で製作にも加わっているセンダクは、「この脚本が気
に入っている。もしスパイクとデイヴがこの映画に関わらな
くなったら、自分としては直ちに他の人間による映画化を見
たいとは思わない」と発言するなど、センダクとユニヴァー
サルの関係も悪化していたようだ。
 そして、昨年末の段階でユニヴァーサルから計画の断念が
発表され、年が変わった1月8日に『ポーラー・エクスプレ
ス』などでハンクス=プレイトーンとの関係も深いワーナー
がその後を引き継ぐことが発表されたものだ。
 今後のスケジュールは流動的だが、ワーナーではできれば
今年の後半には製作準備を進めて、再来年の夏のテントポー
ル作品としたい意向のようだ。また製作費の調達には、昨年
の『バットマン・ビギンズ』と今年は“Superman Returns”
にも協力しているをレジェンダリー・ピクチャーズの参加も
発表されている。
 因に、プレイトーン=ワーナーで今年8月4日に全米公開
予定のCGIアニメーション“The Ant Bully”も、元々は
ユニヴァーサルで企画されていたもので、2作続けて同じ状
況になってしまったようだ。



2006年01月14日(土) 刺青、かもめ食堂、B型の彼氏、ルート225、トム・ダウド

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介しています。     ※
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
『刺青』
谷崎潤一郎原作の3度目の映画化。同じ原作からは1966年に
増村保造×若尾文子と1984年に曾根中生×伊藤咲子という映
画化があり、今回はこの原作を、ピンク映画監督の佐藤寿保
監督と、グラビアアイドルの吉井怜の主演で映画化した。
僕は過去の映画化を見てはいない。しかし、それぞれが当時
の社会状況の中でそれなりに頑張った作品であると評価され
たことは記憶しているものだ。そこで今回の映画化だが、今
の時代にこの表現内容ではいくらなんでも納得できないと言
うところだろう。
僕は原作も読んではいないが、谷崎文学と言うとエロティシ
ズムという連想を持つ。そんな心積もりで見に行った観客に
とって、この作品の期待外れの度合いは余りに大きすぎるの
ではないかと思われる。
少なくとも今の時代に、女優がバストも露にできないのなら
この映画化への主演は断るべきだし、製作者もそのような女
優を起用するべきではない。監督もそれくらいの説得もでき
なかったのかというところだ。それに見え見えの吹き替えも
やめるべきだろう。
それにもう一つ納得できないのは、この映画化の製作の意図
だ。実は映画のプロローグとエピローグ近くに刺青をした人
物が襲われるシーン登場する。ここでは暗視鏡で衣服の下の
刺青を確認するなど、それなりの描き方がされていた。
これを見ると、この映画の物語の裏では連続猟奇殺人のよう
なものが起きているらしい。そこでこの殺人を契機として物
語が語られたのなら、それなりにこの程度の描写でも許され
るのではないかという気もしたものだ。
つまりこの映画化を、ポルノグラフィーにするかミステリー
にするかというところだが、現在72分の上映時間にあと20分
ぐらい事件捜査などの描写を足して、90分前後のサスペンス
ドラマにすれば、結末も含めてまずまずの作品になったと思
えるのだが…
それにしても、ヴィデオ製作の画質の悪さには今回も辟易し
た。だいたい本作は『刺青』という題名で、女体に描かれた
刺青を売り物にする作品だと思うが、そのシーンが画素不足
のモザイク状態では作品の価値自体が存在しないことになっ
てしまう。
製作者はこんな劣悪な画質になるとは予想していなかったの
かも知れないが、素人映画ではあるまいし、これくらいはち
ゃんとした製作体制を採ってもらいたかったものだ。
(この作品は、今年1本目の試写で見た作品であり、また製
作体制に改良の余地はあると思えるので、批判的ではありま
すが掲載することにします)


『かもめ食堂』
2003年ベルリン映画祭の児童映画部門で特別賞を受賞してい
る荻上直子監督の第3作。
その受賞した第1作の『バーバー吉野』は見逃しているが、
実は監督の第2作は去年の同じ1月14日付の映画紹介でかな
り手厳しく批判したものだ。でも今回の作品を見ると、この
監督の良さが何となく判るような気がしてきた。
舞台はフィンランドの首都ヘルシンキ。湊町でもあるこの都
市の片隅に、フィン語でruokala lokkiとその下に日本語で
「かもめ食堂」と書かれたカフェがあった。その店は1人の
日本女性によって営業されていたが、通りかかる人はただ覗
くだけでなかなか入っては来ない。
しかし女性経営者は、毎日コップを磨き、何時の日か客が訪
れるのを待っていた。そしてその店に、ニャロメのTシャツ
を着た日本かぶれの学生が入ってきたことから物語が動き始
める。さらにその店に、その学生の要望を叶えるために町で
話し掛けた日本人旅行者が加わって…
この女性経営者を小林聡美が演じ、日本人旅行者の役に片桐
はいりと、そしてもう1人の旅行者役にもたいまさこ。この
3人だけが日本人で、他はアキ・カウリスマキ監督の『過去
のない男』に主演したマルック・ペルトラなど全てフィンラ
ンド人俳優という作品だ。
そして映画では、日本人3人がいろいろな事情を抱えるフィ
ンランド人と拘り、いろいろな物語が展開して行く。それは
メルヒェンのようでもあり、また現実を反映しているようで
もある。そんな物語が、異国情緒豊かにゆったりとしたペー
スで描かれる。
フィンランド映画は、昨年『ヘイフラワーとキルトシュー』
を紹介しているが、あの作品でも、何か静かでのんびりとし
た泰然自若という言葉がピッタリの雰囲気が気に入ったもの
だ。本作は日本人の手になるものではあるけれど、同じよう
な雰囲気が感じられた。
その感じは、写し出される風景がそうさせるのか、フィンラ
ンド人俳優の演技がそうさせるのか、そこは謎だけれど、そ
の雰囲気が堪らなく心地良いものであることは確かだ。この
映画はそんな心地良さを満喫できる作品だった。
それと特筆されるべきは、小林が喋る見事に流暢に聞こえる
フィン語。女優が演じているのだから、それは覚え込んだ台
詞なのかも知れないが、僕には『ヘイフラワー…』で聞いた
フィン語の心地良さを思い出させてくれた。
群ようこが、映画の企画に共鳴して書き下ろした原作に基づ
く。実は、物語としては大したことが起こる訳ではないのだ
けれど、素敵にファンタスティックで、その後の生活に何か
の糧になる、そんな感じのする作品だ。

『B型の彼氏』(韓国映画)
2004年の後半に韓国では社会問題にもなったと言われる血液
型ブームを背景にした作品。韓国では2005年2月に公開され
て大ヒットを記録したそうだ。
日本でも血液型による相性占いは行われていると思うが、韓
国でのそれはB型男性の問題点だけを挙げつらったかなり過
激なものだったらしい。そしてこの作品は、何事にも慎重な
A型女性と奔放なB型男性という最悪の組み合わせの男女の
恋を巡るものだ。
まあ、血液型相性占い自体が馬鹿々々しいものだと言ってし
まえばそれまでだが、とは言えそれを信じている人も多い訳
で、そのような題材を映画化する場合には、そこをどのよう
に料理するかが映画制作者の腕の見せ所だろう。
この映画では、血液型による性格判断を一面で肯定するよう
でもあり、他面では否定して微妙に擦り抜けている感じだ。
もっともその中途半端さが、映画の全体を温いものにしてし
まっている面はあるが、まあ若年向けのロマンティックコメ
ディとはこんなものだ。
主演のB型男性を演じるのは、深田恭子、ウォンビン共演の
日韓合作ドラマ『フレンズ』に出演していたイ・ドンゴン。
A型女性をハン・ジヘ。さらにA型で血液型信者の従姉をシ
ン・イが演じて、3人は揃って昨年の韓国大鐘賞にノミネー
トされたそうだ。
なお韓国での血液型ブームは、1999年に能見俊賢の「血液型
人間学」が翻訳出版されてからのものだそうで、日本人とし
ては何か申し訳ない感じもした。

『ルート225』
芥川賞作家の藤野千夜が受賞後初書き下ろしで発表した原作
を、『エコエコアザラク』などの林民夫が脚色、崔洋一監督
の『クイール』などの脚本家の中村義洋が監督、『HINO
KIO』の多部未華子の主演で映画化した作品。
ある日、学校からなかなか帰ってこない弟を迎えに行った少
女が、ふと道に迷って両親の居ない世界に紛れ込み、弟と共
に両親の居る世界への帰還路を探す物語。
自宅からは225号線の向こう側にある公園で弟を見つけた
14歳の少女は、帰り道の曲り角で存在しないはずの浜辺を目
撃し、それによって両親の居ない異世界に迷い込む。そこで
は死んだはずの人が生きていたり、疎遠になった友が親友だ
ったりする。
そしてその世界から両親へは、たった一つの連絡手段があっ
たが…
この物語なら確かにファンタシーだと思うのだが、この作品
は典型的にSFとは呼べない作品だろう。恐らくは原作者も
SFを書くつもりはなくて、単純に少女の14歳から15歳への
旅立ちを描いたのだろうし、その意味では余韻もあっていい
と思う。
以下ネタばれがあります。
ところが映画というのは、小説以上に現実的であるところが
問題で、多分小説ではさらりと描かれているであろう姉弟の
帰還路を探す頑張りが、観客にはその望みを叶えてあげたい
という思いを起こさせてしまう。しかし…というところが微
妙に感じられるものだ。
確かに望みが絶たれると判るシーンの描写は、多部と弟役の
岩田力の好演もあって見事だし、この後に解決策が出てきて
はお話が台無しになってしまうから、この結末は了解するべ
きものであることは間違いないのだが…
この映画は、少なくとも僕の中ではSF映画と呼ぶことはで
きないものだ。


『トム・ダウド/いとしのレイラをミックスした男』
         “Tom Dowd & The Language of Music”
1949年のアトランティックレコードを皮切りに、レコード音
楽の録音技術に幾多の革新をもたらし、バイノーラル(ステ
レオ)録音から、マルチトラックのミキシングコンソールの
デザインなども行った録音技術者トム・ダウドの生涯を追っ
たドキュメンタリー作品。
なお撮影はダウドの生前に行われたものだが、作品は2002年
の彼に死後に完成された。
言ってみれば、偉大な功績を残した男の栄光の足跡を辿った
もので、作品自体には文句の付けようもない。特に音楽関係
者のはずの彼がマンハッタン計画にも関わり、ビキニ環礁の
水爆実験にも加わっていたという話は、どうでも良いけど凄
いという感じのものだ。
また、いろいろなテクニックを披露したり、その他ミュージ
シャンたちが彼の偉大さを証言するのも、おそらく音楽関係
者が見たら恐れ入ってしまうものなのだろう。しかもそれを
部外者である僕らが見ても理解できるように描いているのだ
から見事なものだ。
同様のインタヴュー中心のドキュメンタリー作品では、一昨
年11月に日本映画の照明技術者についての作品を紹介してい
るが、日本の作品が今一つ乗り切れなかったのは、やはり対
象人物の人間性の描き方が希薄だったせいもありそうだ。
その点でこの作品は、出身大学を訪ねたり、手掛けた歌手に
直接会わせるなどの演出で、人間性を前面に描き出す。この
辺もテクニックかなと感じたものだ。この種の技術絡みのド
キュメンタリーは今後も作られるだろうが、良い手本を見る
感じの作品だった。



2006年01月01日(日) 第102回

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
※このページは、キネマ旬報誌で連載中のワールドニュー※
※スを基に、いろいろな情報を追加して掲載しています。※
※キネ旬の記事も併せてお読みください。       ※
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
 明けましておめでとうございます。
 本年もよろしくお願いします。
 では早速ということで、今年最初の話題は、年末に発表さ
れたアカデミー賞視覚効果賞部門の予備候補の紹介から。
 まずは、今年も7本が選ばれた作品名を紹介すると、
“Batman Begins”
“Charlie and the Chocolate Factory”
“The Chronicle of Narnia: The Lion, the Witch and the
Wardrobe”
“Harry Potter and the Goblet of Fire”
“King Kong”
“Star Wars: Episode III-- Revenge of the Sith ”
“War of the Worlds”
となっている。
 この他では、“Kingdom of Heaven”“The Island”“Sin
City”“Stealth”“Zathura”などが選に漏れたと紹介さ
れていたが、特に“Sin City”に関しては、映像効果という
面では落選を惜しむ声が高いようだ。
 これに対してアカデミー側からは、「物語あってのVFX
であって、物語をサポートするVFXに高い評価が集まった
結果だ」という説明もされたようだが、一方でこの作品に関
しては、3つのエピソードごとに異なるf/xハウスが起用さ
れ、それぞれが競ってVFXを仕上げたものの、クレジット
上では視覚効果監督の表記がなく、全てがベルト・ロドリゲ
スの名前になっていることが問題にされたことも匂わされて
いた。「このようなことは、オスカーのf/x賞レース史上で
前代未聞のことだ」という論評もされていたものだ。
 しかし、1968年度の視覚効果賞は『2001年宇宙の旅』が受
賞しているが、この時の受賞者はスタンリー・クーブリック
となっており、従ってこの論評は事実誤認のものだ。もっと
もこれに関連して、ロドリゲスが監督協会を脱退したことも
影響しているようなことも書かれていたが、これは大いにあ
りそうなことで、所詮アカデミーというのはそんなものだと
いうところだろう。ただし、クーブリックも当時のアメリカ
監督協会には入っていなかったと思うが…
 なお7本の内で、“Narnia”“Potter”“Star Wars”と
“War of the Worlds”の4本はILMが担当した。ただし
“Narnia”はリズム&ヒューズ+ソニー・イメージワークス
との共同、“Potter”はフレイムストア+ダブル・ネガティ
ヴとの共同ということだが、今年もILMの強さが目に付い
たところだ。また、“Batman”はダブル・ネガティヴが主に
担当、“Charlie”はフレイムストアが主に担当している。
そして“King Kong”は言うまでもなくニュージーランドの
ウェタが担当したものだ。
 最終候補は今年も3本が1月31日に発表の予定だが、僕の
予想では、シリーズとしての進化に乏しい“Potter”“Star
Wars”と全体的に弱い感じの“Batman”、それに配給元は
ディズニーでも製作母体がドイツの“Narnia”も不利と考え
る。この考えで行くと“Charlie”“King Kong”と“War of
the Worlds”が順当なように思えるが、去年も予想は外し
ているから、この辺にしておこう。
        *         *
 もう1部門、長編アニメーション作品賞の予備候補には、
“Chicken Little”
“Gulliver's Travel”
“Hoodwinked”
“Howl's Moving Castle”
“Madagascar”
“Robots”
“Steamboy”
“Tim Burton's Corpse Bride”
“Valiant”
“Wallace & Gromit: The Curse of the Were-Rabbit”
の10本が選ばれた。ここで、予備候補が16本未満ということ
は、最終候補は3本ということになる。ただし、インド製作
の2番目の作品は未公開、2005年6月15日付第89回で紹介し
たTWCが配給する3番目の作品は12月23日にプレミアが行
われるが公開は未定のもので、確か10本以下だと候補が選ば
れない事態を回避するために無理矢理の選考のような感じも
否めない。
 なお、“Howl”は海外はディズニーの配給で、ローレン・
バコール、クリスチャン・ベイル、ビリー・クリスタルらが
吹き替えを担当し、アメリカだけで470万ドル稼いでいるそ
うだ。また“Steamboy”はソニーの配給で、アルフレッド・
モリーナ、アンナ・パキン、パトリック・スチュアートらが
吹き替えし、全世界で1100万ドルの収入と紹介されていた。
 で、最終候補の3本は、作品自体が話題になった“Corpse
Bride”と“Wallace & Gromit”、それに、2005年度のアニ
メーションの興行収入ではダントツの5億2600万ドルを稼ぎ
出した“Madagascar”が順当と見るがどうだろうか。
 一方、短編部門には今年は33本がエントリーされ、中には
2005年8月1日付第92回で紹介した“9”や、94歳の大ベテ
ラン、ジョセフ・バーベラがストーリーを手掛けた“Tom &
Jerry”の新作なども入っているようだ。
        *         *
 以下は製作ニュースを紹介しよう。
 歌手ジョニー・キャッシュの伝記映画“Walk the Line”
でゴールデン・グローブ賞の主演女優賞にノミネートされて
いるリーズ・ウィザースプーンの主宰で、ユニヴァーサルに
本拠を置いている製作プロダクション=タイプAフィルムス
から次々に計画が発表されている。
 このプロダクションは2003年に彼女の当り役『キューテ・
ブロンド』の続編の製作を機に発足されたものだが、すでに
進行中の企画としては現代が背景の妖精物語“Penelope”が
プレプロダクションの段階となっている他、スリラー作品の
“The Reckoning”も準備中とのことだ。
 そしてさらにユニヴァーサルから、ウィザースプーンの主
演用としてドン・ウィンストンによるオリジナル脚本“Our
Family Troubles”の権利を獲得したことが発表された。
 この作品は、初めて母親となる女性が妊娠後に不思議な現
象に遭遇し、出産のためテネシー州の実家に戻るが、そこで
伝説の魔女ベルを見てしまう。そして邪悪な精霊が彼女の赤
ん坊を傷つけていると信じ込んでしまうというもの。元々が
テネシー州ナッシュヴィルの出身で、すでに出産経験もある
女優には持ってこいの作品という感じだが、ちょっと恐そう
なお話だ。なお、題名は変更される予定ということだ。
 それにしても、タイプAで進行中の作品は、いずれも妖精
物語であったりスリラーであったりと、ちょっとウィザース
プーンの当り役の路線とは違っているような気がするが、こ
れは彼女自身の希望なのだろうか。単純に流行に乗っている
だけにしては、微妙にいろいろな方向性を持たせているよう
にも感じられて面白いと思えるのだが…
        *         *
 続いては、ジョージ・A・ロメロ監督による本家版の新作
『ランド・オブ・ザ・デッド』を製作したプラティナム・ス
タジオとIDGフィルムス、リレイティヴィティ・メディア
の3社は、共同でコミックスを原作とする“Witchblade”の
映画化を前後編の2部作で製作することを発表している。
 この物語は、神秘的で強力な武器を駆使して犯罪者や邪悪
な敵と闘う女性探偵(刑事)を主人公にしたもので、原作の
権利は、『MiB』などで知られる独立系のトップ・カウコ
ミックスが所有している。また、この原作は一時期テレビシ
リーズ化もされており、放送を行ったTNTでは最も成功し
た作品の一つと言われているそうだ。
 という原作の映画化だが、今回の発表では、これを前後編
の2部作でしかも一時に製作する。これについてプラティナ
ムの首脳は、「あまりしないことだが、この作品はそのやり
方に最適のものだ」と、『ロード・オブ・ザ・リング』など
を例に挙げて説明したそうだ。脚本家や監督等は未定だが、
2006年後半に中国で撮影を行う予定となっている。製作費に
は2作の合計で4000万ドルが計上されているようだ。
 なお、配給会社は未発表だが、最近プラティナムとトップ
・カウでは、“Proximity Effect”という作品をスティーヴ
ン・サマーズの製作でユニヴァーサルで進めてる他、TWC
製作で、ダニー&オキサイド・パン兄弟の監督起用が発表さ
れている“The Darkness”といった企画も発表されており、
さらに『MiB』以来のソニーとの関係も保たれているよう
だ。一方、リレイティヴィティ・メディアは最近ワーナーと
共同出資の契約を結んだところで、配給会社は大体この中か
ら決まりそうだ。
        *         *
 お次は“What Women Want”(ハート・オブ・ウーマン)
などのナンシー・メイヤーズ脚本、監督によるロマンティッ
ク・コメディで、“Holiday”というソニー作品に、ジュー
ド・ロウ、キャメロン・ディアス、ケイト・ウィンスレット
とジャック・ブラックの共演が発表されている。
 この作品は、失恋の回復のため休暇を取ってロンドンを訪
れたアメリカ女性(ディアス)が、やはりどん底にいるイギ
リス女性(ウィンスレット)と友情を交わし、そこにロウと
ブラックが絡む男女4人の恋物語ということだ。因に、ロウ
はディアスのlove interestと紹介されており、そうなると
ウィンスレットの相手役がブラックなのだろうか。撮影は、
2006年の早い時期にロンドンとロサンゼルスで行われること
になっている。
 なおメイヤーズは、2003年に『恋愛適齢期』を脚本、監督
した際にソニーとの間で優先契約を結んだということで、今
回の作品はその契約に従ったものだそうだ。
 またロウは、TWC製作で『コールド・マウンテン』のア
ンソニー・ミンゲラ監督による“Breaking and Entering”
が次の公開作品で、さらにウィンスレット、ショーン・ペン
と共演したスティーヴ・ザイリアン監督によるリメイク版の
“All the King's Men”の公開が2006年の後半に予定されて
いる。それにしても、ロウ主演でロンドンを舞台にした男女
4人の物語は、つい最近もソニーであったように思うが…
        *         *
 2001年にケヴィン・スペイシー主演で映画化されたちょっ
と不思議な感覚のファンタシー作品“K-PAX”(光の旅人)
などで知られるイアン・ソフトリーの監督で、“Inkheart”
という計画がニューラインから発表されている。
 この作品は、ファミリー・ファンタシーという紹介がされ
ていたが、ドイツ人の作家コーネリア・ファンケの原作を映
画化するもので、原作はNYタイムズのベストセラーリスト
の児童書部門に19週に亙ってランクインしたものだそうだ。
 お話は、本の登場人物を声に出して読み上げることで現実
世界に呼び出すことのできる能力を持った父親と、その娘を
主人公として、父親がうっかり呼び出してしまった犯罪者の
一味によって誘拐され、娘は現実世界とイマジナリーの両方
の友だちの協力を得て父親の救出に向かわなくてはならなく
なるという展開。そしてこの脚色を、劇作家のデイヴィッド
・リンゼイ=アベアリが手掛けて、その映画化が行われると
いうものだ。
 児童書の映画化で、少女が主人公、さらにイマジナリーの
キャラクターも登場するというかなりファンタスティックな
作品になりそうだが、1997年の『鳩の翼』などの作品でも知
られるソフトリー監督がどのように仕上げるかも興味深い。
因にソフトリーは、「想像力という偉大な力を中心に描いた
もので、その点に共感した。いろいろな全く異種のキャラク
ターたちが協力して、ファミリーを作り上げて行く点にも面
白さがある」と意欲を語っているそうだ。
 2006年の春〜初夏の撮影開始で、2007年の復活祭シーズン
(3月)の公開が予定されている。
        *         *
 “Lemony Snicket's A Series of Unfortunate Events”
(レモニー・スニケットの世にも不幸せな物語)のブラッド
・シルバーリング監督が、2006年には3作品を監督する計画
が発表されている。因に、1人で年間3本の監督をするのは
最近では珍しいことだが、シルバーリングは『レモニー…』
の製作には2年間掛かり切りになり、その後にリフレッシュ
休暇を取れたということで、鋭気は充分なようだ。
 その1本目は、監督自身が脚本を執筆した“Ten Items or
Less”と題された作品で、モーガン・フリーマンとパッツ
・ヴェガの共演により、1月からの撮影が予定されている。
 この作品は、監督の周囲でよく見掛ける成功へ道の閉ざさ
れたマイノリティ社会の人々を描いており、そこからの脱出
を図る主人公を中心にした物語ということだ。そしてこの脚
本は、実は『レモニー…』の前に完成されていたもので、ヴ
ェガにはその時点で出演が依頼されていたようだ。その計画
がようやく実行されるものだ。製作は、フリーマン主宰のリ
ヴェレイションで行われる。
 2本目は“Juno”という作品で、ディアブロ・コーディと
いう脚本家による青春コメディ。自らの妊娠を知った10代の
女性が出産を決意し、そのために周囲のいろいろな既成概念
と闘って行く姿を描いたものということだ。製作費は800万
ドルで春からの撮影が予定されている。製作はマンデイトと
いうインディーズの映画会社だ。
 因に、1本目の作品も製作費1000万ドル以下ということだ
が、シルバーリングは大型の作品の間には、こういうインデ
ィ系の作品を監督して本来の姿を取り戻したいのだそうだ。
 そして3本目に予定されているのが、“The Crusaders”
というニューライン製作による作品で、この映画が次の大型
作品ということになるようだ。
 この作品は、合衆国初のアフリカ系の最高裁判事となった
ターグッド・マーシャルを描いたもので、ジャック・グリー
ンバーグの回想録“Crusaders in the Courts”に基づき、
1954年に最高裁判所で争われたブラウン対教育委員会の裁判
を描いている。この裁判では、学校における人種分離の問題
が争点となり、ダヴィデとゴライアスの戦いと評されたこの
裁判で、グリーンバーグはマーシャルと共に歴史的な勝利を
納めたというものだ。
 そしてこのマーシャル役を、“Crash”(クラッシュ)の
演技でオスカーの呼び声も高いテレンス・ハワードが演じる
ことが発表されている。因にハワードは、この役を得るに当
って、自身が表紙を飾っている映画雑誌とマーシャルが表紙
の1950年代のタイム誌を監督に送って、その熱意を表明した
そうだ。また本作の脚色には、テレビの“West Wing”を手
掛けるポール・レッドフォードとローレンス・オドネルの起
用も発表されている。
 そしてこの作品が、2006年後半に予定されて年間3本目と
なるものだが、実はこの計画自体はまだ初期の段階というこ
とで、決定には人気者のハワードのスケジュール次第という
面があるようだ。なおハワードには、他にスパイク・リーの
脚本監督によるヘヴィ級チャンピオン=ジョー・ルイス伝記
映画の計画もあるそうで、スケジュールは流動的なようだ。
        *         *
 ワーナーは、パラマウントが計画を放棄したアクション作
品“The Watchmen”の権利を獲得して映画化を目指すことに
なった。
 この計画は、元々はDCコミックスの原作を映画化するも
ので、アラン・モーアとデイヴ・ギボンズにより1980年代に
発表された全12巻のシリーズに基づく。このシリーズでは、
1950年代に似た現実とは異なるアメリカを舞台に、ヒーロー
の大半が引退したり、無法者になってしまった時代を背景と
して、その世界で普通の男性がスーパーヒーローの衣装を身
に付け、悪に立ち向かって行く姿を描いたもの。やがて彼は
様々な事件を追う内に、ヒーローたちがいなくなった謎に迫
って行くというお話のようだ。
 そしてこの計画は、最初は2001年にユニヴァーサルがデイ
ヴィッド・ハイターと7桁($)の契約を結び、脚色と監督
を行う計画だったが頓挫。その後パラマウントが権利を獲得
して、昨年の夏にイギリス人監督のポール・グリーンバーグ
を起用してロンドンで撮影する計画も立てられた。しかし、
これも製作費の高騰などで断念されたということだ。
 この権利をワーナーが獲得したもので、同社では新たな脚
本家と監督を起用して実現に向かうとしている。ただし、現
時点ではパラマウントは共同製作に加わる権利を留保してい
るようだ。なお、製作はラリー・ゴードンとロイド・レヴィ
ンが担当している。
 それにしても、『スーパーマン』や『バットマン』などの
DCコミックスのキャラクターはワーナーが独占しているも
のと思っていたが、そうでないものもあったようだ。
        *         *
 ディズニーの親会社でもあるブエナ・ヴィスタの資本で、
中国映画の製作が行われることになった。
 この計画は、“The Secret of the Magic Gourd”という
英題名が付けられているもので、チャン・ティアン・イーと
いう作家の児童向けの作品に基づいているようだ。内容は、
現代を背景にしたアクションもので特殊効果も多用されると
している。そしてこの特殊効果を、『カンフー・ハッスル』
などを手掛ける香港のセントロ・ディジタルが担当するとい
うことだ。なお、撮影は昨年10月に開始されていて、年明け
早々に完了の予定になっている。
 因に、ディズニーの中国関連作品では、2004年11月15日付
の第75回で“Snow and the Seven”という作品を紹介してい
るが、この作品は当時のミラマックスで進められたものの、
現在はブエナ・ヴィスタの担当で計画段階となっている。
 この他ブエナ・ヴィスタでは、イギリスで2003年の東京国
際映画祭に出品された『カレンダー・ガール』の製作を手掛
けたり、ラテンアメリカにも共同出資による製作拠点を置く
など、国際化はかなり進んでいるようで、その次の段階とし
てアジアへの進出が始められたということのようだ。
        *         *
 最後はドイツから、“Night of the Living Dead”の3D
リメイクの計画が報告されている。
 この計画は、ドイツでも新興のラックス・ディジタル・ピ
クチャーズというところが進めているもので、脚本はロバー
ト・ヴァルディングという人が担当している。なお製作者の
言葉によると、作品は「ジョージ・A・ロメロの1968年作品
に敬意を表しているが、同作の題名は一般化しているので、
特に権利の獲得などはしていない」とのことだ。それで本当
に良いのだろうかという感じだが、まあ作られてしまったら
仕方がないというところなのだろうか。
 因にこの会社は、2004年に設立されてドイツ国内の映画に
興味を持つ資本家の出資を受けているということだが、実際
に製作計画が発表されたのは今回が初めてのようで、一緒に
同じヴァルディングの脚本による“Earth Creature”という
SF作品と、デイヴィッド・シュモエラーという脚本家によ
る“Summer Love”という1970年代のキューバを舞台にした
青春映画の計画も発表している。
 また製作費には1本当り200万ドルが計上されているが、
これは500万ドルまでは引き上げ可能だそうだ。それと社名
にディジタルとあるのは、必要なら使うこともできるという
意味で、特にその種の組織が背景にあるということではない
ようだ。それにしても、本当にこんなことで良いのかという
感じだが、一応はVariety紙にも記事が載っているので、ま
あ少し先行きは見てみたいというところだ。
 では、今年もよろしくお願いいたします。


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井口健二