井口健二のOn the Production
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2005年12月29日(木) リバティーン、転がれ!たま子、ウォレスとグルミット、沈黙の追撃、アブノーマル・ビューティ、僕の彼女を知らないとスパイ、ジャケット

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※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介しています。     ※
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『リバティーン』“The Libertine”
王政復古期の英国の放蕩詩人、第2代ロチェスター伯爵こと
ジョン・ウィルモットの生涯を描いた舞台劇の映画化。
オリジナルの舞台ではジョン・マルコヴィッチが主演したよ
うだが、自身で製作も手掛けた映画化では、彼は国王の役に
下がって、主人公はジョニー・デップが演じている。
1660年代のイギリス、王政復古の時代。ウィルモットは国王
とのいさかいから地方に追放されていたが、3カ月でその罪
を解かれてロンドンに戻ってくる。そこで久しぶりに舞台小
屋を訪れたウィルモットは、実力を発揮できない一人の女優
バリーに目を止める。
観客のブーイングの中、楽屋に戻ったバリーを訪ねたウィル
モットは、彼女に演技指導を申し出る。これに対して、最初
はウィルモットの放蕩の噂に及び腰だった女優も、次第に彼
の熱意を感じて演技論を闘わせる。そして彼の指導が実を結
び、彼女の演技が開花して行く。
一方、ウィルモットの放蕩ぶりには手を焼きながらも、その
才能は認めている国王は、フランス大使を迎える重要な会で
上演される芝居の脚本を彼に依頼する。そしてバリーには彼
の見張り役を命じる。
ところが彼が書き上げた戯曲はとんでもない代物で、舞台稽
古では主演俳優が次々に離脱を表明。それでも芝居は何とか
完成して、フランス大使を招いた会が催されるが…
アメリカではRレイトで公開され、映画自体も巻頭で主人公
が画面に向かって「諸君は私を好きになるまい」と語りかけ
るなど、かなり奇を衒った始まり方をする。しかし、物語は
至って真面で、放蕩の烙印を押された男の切ない生涯が見事
に描かれている。
また舞台劇らしく台詞も多彩で、シェークスピアの引用など
も含めたいろいろな警句や名台詞が次々に登場する。それを
デップや、相手の女優役のサマンサ・モートンが見事な芝居
で見せてくれる作品だ。実際エンディングでは涙を拭う人も
いるような作品だった。
ただし、Rレイトにせざるを得ない卑猥な台詞や際どい描写
も満載の作品で、まあそれが最近のデップを目当ての観客に
どう受け取られるかというのが興味津々のところだろう。
後は、ロウソクの灯りだけだった当時の芝居小屋を忠実に再
現しようとした映像はかなり暗めで、それなりに映像は捉え
られてはいるが、多少気になった。また後半のデップのメイ
クは多分舞台ならこれでも良いのだろうが、映画では…とい
う感じのものだった。
以下ちょっとネタばれです。
実はエンドクレジットで、「思い出に」というようなテロッ
プが出て、どうせ製作者か監督の思い出だろうと気にせず眺
めていたら、その2枚目にマーロン・ブランド、3枚目にハ
ンター・S・トムプスンの名前がそれぞれ1画面1人ずつの
名前で表示された。
1枚目は見過ごして誰だか判らないが、この2人は何れもデ
ップの関係者と言える。特にトムプスンに関しては、今回の
役柄は同じように飲んだくれの作家の役でもあった訳で、デ
ップがどのような気持ちでこの役を演じたか考えてジンと来
てしまった。
デップの人柄も感じさせるクレジットだった。


『転がれ!たま子』                  
新藤兼人監督の孫で、2000年に『LOVE/JUICE』と
いう作品でベルリン映画祭のフォーラム部門新人賞を受賞し
ている新藤風監督の第2作。
24歳になっても世間に出て行くことのできない女性が、ある
切っ掛けで外に出て行くまでを描いた作品。これにかなり寓
話的なエピソードや現代風俗のようなものも織り込んで、多
分若い人には納得できるのではないかという作品に仕上げて
いる。
主人公のたま子は24歳。母親は美容院を営み、高校3年生の
弟がいて就職活動も始めているが、彼女自身は自分の部屋に
閉じ込もって甘食さえあれば満足という生活。そして彼女の
頭には、彼女が幼い頃に家出した父親の作った鉄兜が被せら
れている。
そんな彼女に手を焼いた母親は、自分の甘食代ぐらい自分で
稼げと宣言し、彼女の幼馴染みの住職の世話で配送会社に勤
めるが、仕事はできずお荷物になるばかり。
ところがいつも甘食を買っていたパン屋の主人が入院し、好
物の甘食が手に入らなくなったことから、彼女は行動を起こ
さざるを得なくなる。そして…
鉄兜に重ね着という主人公のファッションがちょっと奇を衒
い過ぎで、最初はなかなか乗れなかったが、他にもいろいろ
ドぎついキャラクターが登場してくると、だんだん気になら
なくなった。演じている山田麻衣子の個性が親しみ易く、そ
れに救われている面もあるかもしれない。
ただ後から考えると、この鉄兜がいろいろ象徴している感じ
で、特に鉄兜から連想されるRPGにのめり込んだニートの
姿が浮かんできたのは考え過ぎだろうか。結局、その辺の監
督の思い入れがストレートに理解できないことが、本作の問
題のようにも感じられた。
ただし見ている間は、全体的にメルヘンチックな雰囲気が、
若い(と言っても1976年生まれ)女性監督の感性なのかなと
いう感じもして、自分とは違う感覚が珍しくもあり、面白く
もあって、それなりに楽しめた作品だった。

『ウォレスとグルミット/野菜畑で大ピンチ!』
“Wallace and Gromit in The Curse of the Were-Rabbit”
1989年に第1作が作られた「ウォレスとグルミット」シリー
ズの第4作にして、初めての長編作品。ちょっとお惚けの天
才発明家ウォレスと、彼の忠実な愛犬グルミットは、今回は
恐ろしい巨大ウサギとの闘いを繰り広げることになる。
年に1度、トッティントン家のお屋敷で開催される巨大野菜
コンテスト。そのコンテストに出品するため、人々は丹精込
めて巨大野菜を作っている。ところがその野菜を狙うウサギ
たちが現れ、その被害から守るためウォレスとグルミットが
立ち上がる。
まずウォレスは、電子的な監視装置を作って各畑に設置し、
ウサギが現れると彼の家の警報装置が働いて、直ちにグルミ
ットと共にウサギの捕獲に向かうシステムを作り上げる。し
かしウサギは増え続け、それだけでは埒が開かなくなる。
次にウォレスが考案したのはウサギ吸引装置。折しもトッテ
ィントン家の庭を荒らすウサギをこの装置で一網打尽にした
ウォレスは、当主レディ・トッティントンの信用を勝ち得る
が、そこに婚約者と自称する男が現れ、ウサギ退治には猟銃
が一番と主張する。
そしてもう一つ、ウォレスの新発明が登場するのだが、実は
これがとんでもない事態を引き起こしてしまう。そして誕生
した巨大変身ウサギから巨大野菜は守り切れるのか…お屋敷
でのフェスタを舞台に大騒動が巻き起こる。
映画は巻頭で、警報装置が働いてからウォレスとグルミット
が出動するまでの機械仕掛けが登場し、いつもの起床装置に
も増して手の込んだ装置が見事に描かれる。これだけでも彼
らの世界に引き摺り込まれてしまう感覚だ。
正直に言って、物語もテンポも短編映画そのまま、特に長編
だから何かしているということもなく、短編のままの世界が
1時間25分に亙って展開しているという感じのものだ。その
雰囲気がファンには堪らなく嬉しい。
ドリームワークスがアードマン作品を配給するのは、2000年
の『チキンラン』に続いて2作目だが、前作が力の入った作
品であることは認めるものの、やはり今回の普段着という感
じの作品の方が魅力的だ。
ただし、このすでに人気のキャラクターを長編にする方が、
よっぽど勇気の要ることだったのは容易に想像できる。その
勇気が見事に実を結んだ作品。これならファンも納得して見
ていられるというものだ。
なお、製作では一部にCGIも使用されたようだが、全体の
クレイアニメーションの味わいはしっかりと保たれている。
映画の完成後スタジオが焼失するという事態になったが、幸
い人的被害はないようで、次の作品もぜひとも楽しみたいと
思ったものだ。

『沈黙の追撃』“Submerged”
スティーヴン・セガール主演のアクション映画。セガールの
アクション映画は、10月末にかなりの珍品を紹介したばかり
が、今回はやや真面目な物語だ。
舞台は南米のウルグアイ。奥地のダムに隠された秘密がスパ
イヘリからアメリカ大使館に送られた映像で明かされようと
した瞬間、3人のシークレットサーヴィスが大使を射殺、自
分たちも互いに銃を向け同時に発射して果てるという事件が
起きる。
この事態を重く見たCIAは、過去の作戦での命令違反を問
われて服役中だったコーディを復帰させ、彼の仲間に秘密の
暴露と事態の収拾を命じるのだが、現地に向かった彼らは最
初から作戦を変更し、独自の作戦を展開し始める。
このコーディをセガールが演じ、一癖も二癖もありそうな部
下たちと猛烈なアクションを展開するという物語だ。
実は背景には、高度な洗脳技術を開発した博士がいて、その
博士が大企業の資本の許、ウルグアイ政府の転覆計画や諸々
の事件を引き起こしているのだが、それをコーディ達が見事
に粉砕するというお話になる。
そしてこのお話に、ジャングルからダムサイト、研究所、潜
水艦からオペラ劇場など様々なシチュエーションを使って、
銃撃戦から格闘技までの多彩なアクションが展開する。結局
のところセガール映画の観客はそれが期待だし、その期待に
は充分に応えている作品だ。
とは言うものの、巻頭などに登場する洗脳のシーンのVFX
はそれなりに凝っていたし、他にもおやと思わせるシーンも
あって、以前のセガール映画からみると、多少はいろいろな
ことをし始めた感じはしてきた。
なお、宣伝はアメリカ映画となっているが、エンドクレジッ
トではUKとブルガリアの共同製作となっていた。ウルグア
イが舞台なのに、撮影はブルガリアとは…それ自体ファンタ
スティックな感じがしたものだ。

『アブノーマル・ビューティ』“死亡冩真”
『the EYE』などで香港・タイを股に掛けて活躍するパン兄
弟の製作、兄オキサイド・パンの脚本監督によるサスペンス
作品。
主人公は大学で美術を専攻する女子学生。生活環境にも才能
にも恵まれた彼女の作品は、学校の内外で高い評価を受けて
いたが、彼女自身は物足りないものを感じていた。
そんなある日、彼女は起きたばかりの交通事故の現場に遭遇
し、そこで死んで行く女性の姿を夢中になって撮影してしま
う。これにより彼女は、自分の作品に足りなかったものが死
であったことに気づくことになる。
そして彼女は、大量に購入した死を撮影した写真集に共感を
覚え、自ら同様の作品の撮影にのめり込んで行く。ところが
その頃から、彼女の回りに不穏なものが届き始め、彼女自身
が異常な世界を彷徨うことになる。
この物語に、背景となる親子の断絶や子供の頃の性的なトラ
ウマなどを盛り込んで、普段見慣れた香港映画とはちょっと
違ったテイストの作品が生み出されている。ただしパン兄弟
の作品は、相当複雑な物語でも結末をうやむやにせず、ちゃ
んと終わらせるところが見終ってすっきりするものだ。
特に日本映画では、たまに妙な感じを映画館の外まで引き摺
ってしまうような作品も見掛ける。その善し悪しは見る人間
の精神状態にも拠りそうだが、娯楽映画である以上は、僕は
パン兄弟のようにすっきりする作品の方が好きだ。それによ
り多少テーマ性が希薄になるのは仕方がないと考える。
なお、主演はシンガポール出身で香港で活躍する人気姉妹デ
ュオ2Rの妹のレース・ウォン。姉のロザンヌもクラスメー
トの役で重要な役どころを演じている。基本的には人気アイ
ドルという2Rだと思われるが、それにしてはかなり際どい
作品だ。特に後半のアブノーマルな世界に入ってからの体当
たりの演技はよく頑張っている。
他にはアンソン・リョン、ミシェル・ライらが共演、2004年
の作品で香港での公開時には初登場第1位に輝いたそうだ。

『僕の彼女を知らないとスパイ』(韓国映画)
略して『僕かの』ということで、ちょっとパクリ気味の題名
から想像されるように、韓国の若者を主人公にしたラヴ・コ
メディ。元祖の『紹介します』は一種のファンタシーだった
が、本作はそうではない。でも、実は見ていていろいろ考え
させられる作品だった。
主人公は、大学受験に2年連続で失敗した若者と、彼が通う
予備校の近くのハンバーガーショップで働くちょっと訳あり
な感じの女性。女性は彗星のごとく現れ、その美貌で一躍シ
ョップの顔になったものだ。
そんな彼女に一目惚れした若者がいろいろ接近の手立てを講
じ、ついにデートに漕ぎ着けるのだが…その時、彼には義務
兵役の入隊の日が近付いていた。そして彼女にも、その町か
ら消えなくてはならない理由があった。
ちょっとネタばれになるけれど、実は彼女は北朝鮮から潜入
したスパイで、先に潜入して軍資金を持ち逃げしたスパイの
捜索に来ていたのだ。そしてそんな行き違いがいろいろな笑
いを生み出して行く。
ここで登場する兵役とスパイというシチュエーション。この
状況は日本ではとうてい考えられないお話だ。しかもこれが
コメディになっている。その上、北朝鮮がコケにされるのは
当然としても、兵役もかなり笑いにネタにされているのは驚
きだった。
そんな近くてもあまり理解できていない隣国=韓国を見事に
教えてくれる作品とも言えそうだ。しかもその結末には、な
んとなく南北間に架かる夢が感じられるのも素敵な作品だっ
た。と言っても、それが平和ぼけの日本人にどれだけ伝わる
かは疑問だが。
大体題名にしても、この意味が果たして現代の日本人に理解
できるものかどうか。実は、これは北からのスパイの発見法
で、最近有名になっている物を知らなければ、それは潜入し
たばかりスパイかも知れないということなのだ。
昔、大島渚の日本海側を舞台にした映画の中で、主人公の一
人が値上がりしたばかりのタバコを旧値段で買おうとしてス
パイに疑われるシーンがあったが、韓国では今もそれが生き
ているということなのだろう。そんなこともいろいろ考えて
しまう作品だった。
とは言っても、本作の基本がコメディであることに変りはな
い。また、本作ではスパイの彼女が演じるアクションもかな
り見事に決まっていて、その面でも充分に楽しめるものだ。
だから笑って見てくれればそれでいいという作品ではある。
ただ、上記のこともちょっと頭の隅に置いて見て欲しい。そ
んな感じもしたものだ。

『ジャケット』“The Jacket”
エイドリアン・ブロディ、キーラ・ナイトレイの共演で、と
ある実験により1992年の現在と2007年の未来を行き来できる
ようになった男の姿を描いた物語。
主人公は1991年の湾岸戦争で負傷。そのため記憶が徐々に失
われる症状が現れるが、他には異状もないことから退院は許
可される。そして雪道でエンジンの停止した車と酔い潰れた
母親と幼い少女に遭遇し、エンジンを修理した彼は少女に請
われて認識票を与える。
ところが、その後、若い男性の車にヒッチハイクした彼は、
警官殺しに巻き込まれ、記憶が曖昧な彼はその罪を負ってし
まう。そして収容された精神病院で、ありもしない彼の犯罪
性向を矯正するための秘密の実験が施される。
その実験は、被験者に精神安定剤を投与し、拘束衣(ジャケ
ット)を着せて死体安置所のような引き出しに閉じ込めると
いうもの。その実験により、彼の脳裏にはいろいろな記憶が
甦り始めるが、その最中、ふと彼は自分が寒空の下、小さな
ドライブインの前に立っていることに気づく。そして中から
出てきた女性の車に同乗させてもらうが…
マンダレイとセクション8の製作で、アメリカではワーナー
が配給した作品だが、見ていて1980年のケン・ラッセル監督
作品『アルタード・ステーツ』を思い出した。25年前の作品
は瞑想タンクを使って人類の新たな進化を求めるものだった
が、今回は正反対の拘束衣を使用。しかし、副次的に時空を
超えた作用が起きるという点では共通点を持つ物語だ。
そして主人公は、訪れた未来の世界で、自分の運命と幼かっ
た少女の悲惨な未来を知ってしまうが…ということで、以下
は典型的なタイムトラヴェル物の物語が展開する。
タイムトラヴェルものでは、先月『サウンド・オブ・サンダ
ー』を紹介したばかりだが、本作はあのような大掛かりな話
ではない。もっと個人的なレヴェルでのタイムパラドックス
に挑戦する物語だ。
そのパラドックスは、かなり早くにネタは割れてくるが、そ
の中でしっとりとした素敵な物語が展開するのは、タイムト
ラヴェル物の魅力の一つでもある。そしてその物語を、MT
Vでも活躍するイギリスのジョン・メイブリー監督が見事に
描き出している。
若い主演2人を囲んで、クリス・クリストファースン、ジェ
ニファ・ジェイスン=リー、ケリー・リンチ、ブラッド・レ
ンフロ、それに次期007のダニエル・クレイグらが共演。
また、『アメリカン・グラフィティ』のマッケジー・フィリ
ップスも出演していた。

ということで、今年も最後にベスト10。例年通り試写で見た
2005年度公開の洋画作品から一般映画とSF/ファンタシー
映画に別けて選んでみました。なお選考の基準は、単純に面
白かった作品と、自分の中に何かが残った作品です。

<一般>
1.エレニの旅
2.世界
3.輝ける青春
4.ナショナル・トレジャー
5.シンデレラマン
6.皇帝ペンギン
7.ランド・オブ・プレンティ
8.ディア・ウェンディ
9.セブンソード
10.50回目のファーストキス

<SF/ファンタシー>
1.ナショナル・トレジャー
2.銀河ヒッチハイクガイド
3.バタフライ・エフェクト
4.コープス・ブライド
5.チャーリーとチョコレート工場
6.レモニー・スニケットの世にも不幸せな物語
7.サスペクト・ゼロ
8.エターナル・サンシャイン
9.ザスーラ
10.エコーズ



2005年12月15日(木) 第101回

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※このページは、キネマ旬報誌で連載中のワールドニュー※
※スを基に、いろいろな情報を追加して掲載しています。※
※キネ旬の記事も併せてお読みください。       ※
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 今回はちょっと愉快なこの話題から。
 Forbesと言えば、毎年、世界の大金持ち400人を発表する
ことでも有名な経済雑誌だが、そのForbesから12月1日付で
フィクションの世界の大金持ち15人というのが発表された。
 まずはそのリストを紹介しておくと
1.Santa Claus………………………………$∞
2.Oliver Warbucks…………………………$27.3 billion
3.Richie Rich………………………………$17.0 billion
4.Lex Luthor ………………………………$10.1 billion
5.Charles Montgomery Burns ……………$ 8.4 billion
6.Scrooge McDuck …………………………$ 8.2 billion
7.Jed Clampett ……………………………$ 6.6 billion
8.Bruce Wayne………………………………$ 6.5 billion
9.Thurston Howell III……………………$ 5.7 billion
10.Willy Wonka………………………………$ 2.3 billion
11.Arthur Bach………………………………$ 2.0 billion
12.Ebenezer Scrooge ………………………$ 1.7 billion
13.Lara Croft ………………………………$ 1.0 billion
14.Cruella De Vil …………………………$ 1.0 billion
15.Lucius Malfoy……………………………$ 0.9 billion
ということで、さて皆さんはどれだけの人物をご存じかとい
うところだが、正直に言って僕は、9位と11位が即座には判
らなかった。しかしそれ以外は、比較的自分の守備範囲に近
い人たちばかりで、単純に面白いと感じてしまった。そんな
訳でここに取り上げることにしたものだ。
 なお、金額などには当然根拠は全くないものだが、それな
りにForbesが考えた数字ということなのだろう。ただし発表
の行われているForbesのサイトには、一応、人物紹介は掲載
されているが、数字の根拠は書かれていなかったようだ。
 それにしてもこのリストは、フィクションということで、
小説からテレビ、映画、コミックス、ゲームまでいろいろな
ジャンルから採られてはいるが、実際のところは映画に偏っ
ている感じは否めない。まあアメリカ人のやることだからそ
れも仕方がないが、5位と9位以外はすべて映画に登場した
ことがある人たちで、やはり目に付くところから採って来て
いるという感じはしてしまうものだ。
 またこのリストは、3年前にも発表されたことがあって、
その時からは5人が入れ代わっている。因に今回落選したの
は、J.R.Ewing、Auric Goldfinger、Charles Foster Kane、
Gordon Gekko、Jay Gatsbyの5人で、代りに7位、11位、12
位、13位、15位が新登場ということだ。特に13位、15位など
は時代の流れという感じだ。
 ただし個人的には、前回Goldfingerが入っているのなら、
Ernst Stavro Blofeldの方があれだけ繰り返し挑めたのだか
ら資金力はあるように思えるし、“Billion Dllar Brain”
のMidwinter将軍(石油成金)も、少なくとも電子頭脳だけ
で10億ドルの資産はあったはずだ。さらにマニアとしては、
やはりJeff Tracyは入れて欲しいところだが…とは言っても
この人たちは、基本的に活躍の場がイギリス中心だから、や
はりアメリカ人の選出では難しいかもしれない。
 と言うことで、最初にForbesの話題を紹介したが、毎年と
は言わなくても、また3年後ぐらいには新しいリストを公表
してもらいたいものだ。
 さて以下は、いつもの製作ニュースを紹介しよう。
        *         *
 まずは、今回は続報がいろいろと入ってきている。
 最初は、2004年10月15日付の第73回で紹介したジョニー・
デップ主演の“Shantaram”の映画化で、この監督を、『マ
スター・アンド・コマンダー』などのピーター・ウェア監督
が担当することが発表された。
 この作品は、以前に紹介した時には、デイヴィッド・グレ
ゴリー・ロバーツというオーストラリア人の新人作家の原作
に、ワーナーが200万ドルの映画化権の契約を結んだことで
も話題になったものだが、その内容は、窃盗容疑で捕まった
麻薬中毒の男が、オーストラリアで最も厳重と言われた刑務
所を脱獄し、インドへ密航してムンバイで医者となり、さら
にアフガニスタンに潜入して当時のソ連と戦っていたゲリラ
に身を投じるというものだった。
 そしてこの波乱万丈の物語に対して今回の発表では、ウェ
アはエリック・ロスと共同で脚色し、ワーナーでは2006年後
半の撮影を期待しているということだ。因に、この世界を股
に掛けた物語に対してウェアは、単なる冒険物語ではなく、
初期の『誓い』や『危険な年』のような政治色の強い戦争を
描いた作品にしたいとしており、デップの主演作ではかなり
異色のものになりそうだ。
 またこの作品は、デップが自ら設立したインフィニタム・
ニヒルという映画製作プロダクションの第1回作品となる予
定のものだ。
 なお、デップは『リバティーン』の全米公開が、ワインス
タインCo.の配給で11月25日に開始されたところだが、もし
この作品でアカデミー賞候補になると、3年連続となって、
これはマーロン・ブランド、アル・パチーノ、スペンサー・
トレイシー、ゲイリー・クーパー、グレゴリー・ペック、リ
チャード・バートン、ジャック・ニコルソン、ウィリアム・
ハート、ラッセル・クロウに並ぶ記録ということだ。
        *         *
 お次は、10月15日付第97回で書いたばかりのクリストファ
ー・ノーラン監督作品“The Prestige”に、強力な助っ人の
登場が発表されている。この作品には、先にマイクル・ケイ
ンの出演も発表されていたが、さらに歌手で『地球に落ちて
きた男』などのデヴィッド・ボウイと、スカーレット・ヨハ
ンセンも共演することになった。
 この内、ボウイの役柄は、19世紀に実在した電気研究家の
ニコラ・テスラということで、クリスチャン・ベイル、ヒュ
ー・ジャックマンが演じる2人のマジシャンに、科学を応用
した新たなマジックのテクニックを提供するという役柄のよ
うだ。なおボウイは、最近では『ズーランダー』にゲスト出
演していたが、元々ノーラン監督とは友人関係ということで
出演が決まったそうだ。また、ボウイが演じるテスラは来年
が生誕150周年に当るということで、その役の登場自体も話
題になりそうだ。
 一方、ヨハンセンは、2人の闘いの原因となる女性の役の
ようだが、ヨハンセンについては前々回の第99回でも動きを
紹介したばかりで、その上、2004年4月15日付第61回で紹介
した“Napoleon and Betsy”も監督にベンジャミン・ロスの
起用が決定して早急に動き出すことになっている。ただし、
“Napoleon…”の撮影は4月頃からということで、その前に
1月撮影開始の本作が挟み込まれたということのようだ。 
 なお“The Prestige”の製作は、ディズニーとワーナーの
共同で行われるもので、配給はアメリカ国内をディズニー、
海外はワーナーが担当することになっている。
        *         *
 続いては、“Deja Vu”のトニー・スコットに続いてまた
また監督復帰の情報で、9月15日付第95回で紹介したパラマ
ウント+ドリームワークスの共同製作による“When Worlds
Collide”(地球最後の日)のリメイクに、当初予定されて
いたスティーヴン・ソマーズ監督の復帰が発表された。
 この計画については、4月15日付の第85回でも報告したよ
うに、当初はパラマウントが1951年の自社作品の再映画化を
ソマーズ監督で進めていたものだった。しかし、その後に監
督はフォックスの“A Night at the Museum”という作品へ
の参加を表明し降板が発表された。このためパラマウントで
は、この夏『宇宙戦争』を成功させたドリームワークスとの
共同で計画を再構築することにしていたものだ。
 ところが9月になって、ソマーズは「創造上の相違」を理
由にフォックス作品からの降板を表明、再度リメイク作への
参加が希望されたもので、パラマウント+ドリームワークス
側もそれを受け入れてソマーズの復帰が決まったものだ。た
だし、実は先にリメイク作からの降板を決めたときも、パラ
マウントとの間で「相違」はあったもので、今回はその点を
どのように解消するかなのだが、ソマーズ側は以前の脚本は
破棄し、新たに脚本を作り直すということで、そのための新
たな素案を練るために2、3カ月の時間を要求している。従
って脚本の執筆は2006年早々に開始するとしているものだ。
 因に、ソマーズとドリームワークスの間では、本作の他に
“The Argonauts”という作品も進めており、協力体制は充
分なようだ。また一時噂されたスピルバーグ監督は、パラマ
ウントでは“Indiana Jones 4”の要求が先のようだ。 
 なお、ドリームワークスとパラマウントの間では、全面的
な業務提携の交渉も進められているようだが、このまま行け
ば、本作がその象徴とも言える作品になりそうだ。
        *         *
 以下は少し短いニュースを紹介しよう。
 5月15日付の第87回で紹介した1980年代のテレビシリーズ
“The Equalizer”(ザ・シークレットハンター)の映画化
がザ・ワインスタインCo.(最近はTWCという略称も使わ
れるようになって来たようだ)で行われることになった。
 この計画では、オリジナルのテレビシリーズを製作したマ
イクル・ソローンが映画版の検討を進める内、前回の報告で
は『サハラ』などの製作者のメイス・ニューフェルドが参加
して各社への売り込みが行われるということだった。その売
り込みにTWCが応じたもので、ハーヴェイ・ワインスタイ
ンは、この作品について「常にスマートで予想もできない展
開が描かれたもので、80年代のテレビシリーズで一番好きな
ものの一つだった」と、映画化への期待を語っている。ただ
し、キャスティングや監督もまだ未定のものだ。
        *         *
 3月1日付の第82回で紹介した“Tonight, He Comes”に
ついて、前回紹介した通り、ウィル・スミス主演、ジョナサ
ン・モストウ監督による撮影を、来年の夏にロサンゼルスで
開始することが発表された。
 この作品は、中年になって人々からは期待もされず、賞賛
もされなくなってしまった元スーパーヒーローをスミスが演
じるもので、元々はヴィンセント・ヌゴのオリジナル脚本が
アーチザンで進められていた。しかしそこにオスカー受賞脚
本家のアキヴァ・ゴールズマンが参加したことから事態が一
変、脚本を気に入ったゴールズマンはマイクル・マンを監督
に引き入れて準備を進めたが、アーチザンでは製作規模が大
きくなりすぎて断念となってしまった。ところがゴールズマ
ンとマンは、さらにスミスとモストウを引き入れて各社にオ
ファーを掛け、スミスの『最後の恋のはじめ方』が大ヒット
を記録したばかりのコロムビアがそれに応じたものだ。なお
脚本は『X−ファイル』などのヴィンス・ギリガンがリライ
トしている。
 因に、スミスはコロムビア製作で息子のジェイドと共演し
た“The Pursuit of Happyness”の撮影を完了したところ。
一方、モストウはこの作品に参加を決めたことによって、デ
ィズニーで進めていた“Swiss Family Robinson”のリメイ
クと、“Terminator 4”の計画は先送りになるようだ。
        *         *
 2004年8月15日付第69回で紹介したワーナーが進めている
往年のテレビシリーズの映画化“Get Smart”の計画も実現
の可能性が高まってきた。
 この情報では、前回主演に『ブルース・オールマイティ』
などのスティーヴ・カレルの起用を紹介したものだが、今回
はさらに監督と脚本家の名前が発表されている。それによる
と、まず監督には、『50回目のファーストキス』や『N.Y.
式ハッピーセラピー』などのピーター・シーガルと、脚本家
はテレビ出身のトム・アステルとマット・エムバーの起用が
発表されている。因に、シーガル監督の前2作は、コメディ
でありながら、それなりに理詰めと言うか結構大掛かりな仕
掛けも上手く決まっていた作品の印象がある。
 一方、この作品のオリジナルは、メル・ブルックスとバッ
ク・ヘンリーが創造した傑作スパイパロディだが、パロディ
と言っても多分夏向けの大作を目指すとなれば、それなりに
仕掛けも大きなものになりそうで、そういった意味でも今回
の監督起用は丁度良い感じのものだ。ただしこの計画では、
当初はウィル・フェレルの主演予定が超多忙になったために
カレルに変更になったものだが、そのカレルも最近は、9月
1日付第94回で紹介したように多忙になってきており、ここ
は時期を逃さず早めに実現を期待したいものだ。
        *         *
 ここからは新規の情報で、まずは前の記事の流れで往年の
テレビシリーズの映画化の情報を一つ。
 1977−83年に放送された“CHiPs”(白バイ野郎ジョン&
パンチ)の劇場版が、これもワーナーで計画され、ブラウン
管ではエリック・エストラーダが演じたパンチことヒスパニ
ック系のパンチョレロの役を、テレビ出身のウィルマー・ヴ
ァルデラマが演じることが発表された。
 このシリーズはカリフォルニア・ハイウェイパトロール、
通称CHiPsに所属する2人の白バイ警官パンチとジョンの公
私にわたる活躍を描いたもので、シリーズの製作及び撮影は
ハイウェイパトロールの特別協力の下に行われたということ
だ。このためシリーズでは、ロサンゼルスのフリーウェイを
舞台にしたかなり派手なカーアクションも描かれていた。そ
して当時の製作者のリック・ロスナーは、現在もその関係を
保っているのだそうで、このため劇場版はロスナーの製作総
指揮の下で行われることになっている。これによって、映画
版の撮影もCHiPsの全面協力の下で行うことができそうだ。
 なお脚本は、テレビ出身のポール・カプランとマーク・ト
ーゴフが担当。また、テレビではラリー・ウィルコックスが
演じたジョン・ベイカー役の俳優と、監督はこれから決定さ
れるということだ。
 因にヴァルデラマは、テレビの“That '70s Show”という
番組で人気者になったということだが、最近は映画にも進出
して、彼が主演した“Darwin Awards”という作品は、来年
1月のサンダンス映画祭で上映されることになっている。
        *         *
 またまたヤングアダルト・ファンタシーの計画が2本届い
ている。
 1本目は、リック・ヤンシー原作の“The Extraordinary
Adventures of Alfred Kropp”という作品の映画化権をワー
ナーが獲得し、その映画化をアキヴァ・ゴールズマン主宰の
ウィード・ロードというプロダクションで進めることが発表
されている。
 この作品は、15歳のちょっと無器用な少年が、叔父さんの
指示に従って古代の剣を盗み出すが、実はこの剣がエクスカ
リバーであることが判明し、これによってアーサー王の冒険
に巻き込まれることになってしまうというもの。何かちょっ
と強引な展開のようにも感じるが、原作は10月に出版されて
いる。そしてこの脚色を、『サタデー・ナイト・ライヴ』を
手掛けるデイヴィッド・アイサーソンが担当しているという
ことだ。なおウィード・ロードはワーナーに本拠を置くプロ
ダクションで、『コンスタンティン』『Mr.&Mrs.スミス』
などの映画化も担当しているところだ。
 2本目は、『ネバーランド』でオスカー候補になったデイ
ヴィッド・マギーが、エリザベス・コストヴァの小説“The
Historian”の脚色を担当することになった。
 この原作は、実はコロムビアが2005年5月に7桁($)で
映画化権を獲得したもので、内容は、ブラム・ストーカーが
『ドラキュラ』の元にしたと言われる串刺し王=ヴラドの墓
の探索に向かったまま行方不明となった父親を探す若い女性
を主人公にしたもの。そして彼女は、父の足跡を追う内に謎
の一団からその墓に向かうことへの妨害を受けるようになる
という展開で、吸血鬼が今も存在することを実証する物語と
いうことだ。そしてこの映画化は、コロムビア傘下のレッド
ワゴンで行われるが、前作でも『ピーター・パン』の原作者
の実像を描きつつも、後半はかなりファンタスティックな展
開を見せてくれた脚本家が、どのような脚色をしてくれるか
楽しみだ。
        *         *
 お次はコミックスの映画化で、“The Psycho”という作品
の映画化がユニヴァーサルで進められ、その脚色を、今年1
月に作品を紹介した『セルラー』のクリス・モーガンが担当
することが発表された。
 この作品は、究極のドラッグの出現によって、誰もがスー
パーパワーを持てることになった世界を背景に、CIAのエ
ージェントの主人公が、自らが“サイコ”と呼ばれる究極の
状態になる危険を冒して、自分のガールフレンドの救出と政
治的な陰謀の暴露を目的にした行動を起こすというもの。か
なり壮絶な物語になりそうな感じだが、原作はダン・ベレト
ンとジェイムス・ハドノールという作家が創造したものだ。
 そしてこの映画化を、ユニヴァーサル傘下のサークル・オ
ブ・コンフュージョンというプロダクションで行うことにな
り、その脚色をモーガンが担当することになっている。なお
モーガンは、6月15日付の第89回でも紹介したように“Fast
and Furious: Tokyo Drift”の脚本も手掛けているもので、
それに続けて大作が任されるということは、彼の才能が注目
されると共に、前作の“Tokyo Drift”にも期待が持てると
いうことになりそうだ。
 因に、サークル・オブ・コンフュージョンではこの他に、
“Jinx”“Outcast”という作品と、3月1日付第82回で紹
介した“Magic Kingdom for Sale”、さらに題未定のSF作
品もユニヴァーサルで進めているそうだ。また、“Fast and
Furious: Tokyo Drift”の全米公開は2006年6月16日に予
定されている。                    
        *         *
 最後はゲームからの映画化、と言っても流行りのヴィデオ
ゲームではなく、RPGのボードゲームからということで、
“The Mutant Chronicles”という計画が『ウォール街』な
どのエドワード・プレスマンの製作で進められている。
 この物語は、23世紀を舞台にしたもので、地上は4つの巨
大企業によって支配され、資源は彼らによって食い尽くされ
ようとしていた。ところがそこに地下世界からミュータント
部隊が現れ、報復のために人類に襲いかかる…という展開に
なるようだ。そして、このミュータント部隊を迎え撃つ人類
軍のリーダー役に、『パニッシャー』などのトーマス・ジェ
ーンが主演が発表された。また、脚本はロス・ジェイムスン
という脚本家が執筆し、監督にはイギリスのサイモン・ハン
ターが起用されるということだ。
 なおプレスマンは、10年以上に亙ってこの企画を温めて来
たそうで、それがようやく動き出したということだ。ただし
プレスマンには1994年にヴィデオゲームを映画化した“The
Street Fighter”などという作品もあって、多少不安は残る
が、良い作品を期待したい。
 ということで、ニュースページは年内は最後となる。皆さ
ん良いお年をお迎えください。



2005年12月14日(水) シリアナ、ロード・オブ・ウォー、エミリー・ローズ、ルー・サロメ、メルキアデス・エストラーダ、ディック&ジェーン、チキン・リトル

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※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介しています。     ※
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『シリアナ』“Syriana”
麻薬取り引きの実態を描いた2000年の『トラフィック』で、
アカデミー賞脚本賞を受賞したスティーヴン・ギャガンの脚
本、監督による中東情勢を巡って暗躍するCIAの姿を描い
た作品。映画は、元CIA職員のロバート・ベアの著作に基
づくが、物語はフィクションとされている。
『トラフィック』のスティーヴン・ソダーバーグ監督が主宰
するセクション8の製作で、同プロダクションの共同主宰者
のジョージ・クルーニーが主演と、ソダーバーグと共に製作
総指揮も務めている。
物語の舞台は中東のとある小国。そこでの諜報活動に従事し
ていたバーンズは、指令された武器商人の暗殺には成功する
ものの、売り渡した小形ミサイルの行方が判らなくなり、そ
の報告のため本部に戻ってくる。しかし、そこで彼には別の
任務が与えられる。
一方、スイスに本社を置くエネルギー商社に務めるブライア
ンは、とあるきっかけで中東の小国の王族に近付き、その伝
で大きな利権を得ようとしていた。そしてアメリカでは、大
規模な石油企業の合併を巡ってその間に不正がないか調査が
始まっていた。
この3つの物語と、他に地元のテロリストの動きなどが、互
いにほとんど接触することもなく進んで行く。従って相互の
関係はよく判らないし、本当は何が行われていたのかは、映
画だけではほとんど判然としないものだ。
つまり、その判断は観客の想像に委ねられるのだが、アメリ
カの国益を守ると称して張り巡らされた非情な陰謀の存在は
明白に描かれている。しかもその是非は、最後の主人公の行
動が明らかにしているという作品だ。
因に題名のSyrianaとは、ワシントンのシンクタンクなどで
「中東再建のための仮説」という意味合いで実際に使われて
いた用語だそうだ。
しかしこの言葉は、Siria→Syrian→Sirianaと語尾変化した
ものと考えられるもので、その言葉で考えるとこの用語は、
「シリア化する」というような意味にも取れる。ところが実
際は、シリアという国は親米の国ではない。
従ってこの言葉が使われる理由も判然とはしないものだが、
ただし最近になって、シリアの反米の指導者的存在だった人
物が、突然執務室で自殺したというような報道を見ると、か
なり深い意味合いを感じるのは僕だけではないだろう。
なお、本作はシリアを舞台にしたものではなく、劇中シリア
という国名は出てこなかったと思われる。
また本作は、アメリカでは12月第1週に全米6館だけの限定
公開で封切られたが、その興行成績が1館当り11万ドル以上
という驚異的な数字となったもので、アメリカ人の関心の高
さも伺わせたものだ。

『ロード・オブ・ウォー』“Lord of War”
国際的な武器商人の暗躍を描いた作品。『ガタカ』『シモー
ネ』のアンドリュー・ニコルの脚本監督作品で、ニコラス・
ケイジが主演している。
主人公は、旧ソ連のウクライナで生まれ、幼い頃にユダヤ人
に偽装して一家でアメリカへ移住。その後、父親はユダヤ教
にはまり地道な生活をしていたが、ある日、銃器の売買で自
分の商才に気付いた主人公はイスラエルに飛び、放棄された
兵器の転売で富を得る。
やがてソ連邦の崩壊により、故郷ウクライナでは軍用ヘリコ
プターを含む大部隊を組織できるほどの兵器を手に入れ、富
を膨らませて行く。そして、その富に飽かして美しい妻も娶
り家族にも恵まれる。一方、彼を執拗に追い続ける取り締ま
り官の追求もあるが…
そして彼の行動の過程には、もちろん危険なことも数知れず
あるが、彼の使命は、現在全世界の人口12人に1丁と言われ
る銃器の数を、1人1丁にすることだ!!
上で紹介した『シリアナ』に続けて国際政治の裏で暗躍する
人物たちの物語だが、本作ではそれをかなり戲画化して描い
ている。特にプロローグで、鉄板から製造された銃弾が輸送
され、最後に撃ち出されて…までを描いたシークェンスは見
事だった。
実は、僕は続けて見てしまったせいで、衝撃の度合いは少な
く感じてしまったが、逆に戲画化して描かれた分、観客には
判りやすいし、その意味を考えるには丁度良い作品になって
いたようにも感じる。その意味では好一対という感じの2作
品とも言えそうだ。
脚本監督のニコルは、前作2作はどちらもSFと呼べるもの
で、その意味での興味はあったが、その分この題材には多少
不安も感じていた。しかし、プロローグのシークェンスから
面目躍如という感じで、何しろ全体をテンポよく描き切った
ことは見事だった。
しかもその間にテーマを見失うこともなく、特に結末の付け
方は問題提起の仕方としても明白で良い感じだった。まあ、
見ている間はアクションも適度にあって、『ナショナル・ト
レジャー』のケイジだし、その線で見てもらって…後でじっ
くり考えてもらいたい、という作品だ。         
なお本作は、国際的なNGOのアムネスティ・インターナシ
ョナルと、国際小型武器行動ネットワーク(IANSA)が
提唱する「コントロール・アームズ」のキャンペーンにも協
賛が決まったということだ。

『エミリー・ローズ』“The Exorcism of Emily Rose”
1976年にドイツで行われた実際の裁判に基づく映画化。
ある大学の女子学生が悪魔に憑かれて悪魔祓いの儀式中に死
亡。その事件で過失致死の罪に問われた司祭が裁判に掛けら
れる。しかし、キリスト教会からの依頼で弁護に立った女性
弁護士には、教会の権威を守るため悪魔祓いの事実は争わな
いように要請される。
ところが裁判では、精神医学に基づく治療を怠ったことが争
われ、その裁判に勝つためには、悪魔祓いに言及し悪魔が憑
いていたことを実証するしかなくなってくる。そして被告の
司祭には、この裁判でやり遂げなければならない一つの使命
があった。
描かれた1976年の裁判は、悪魔の存在が裁判所で認められた
近年では初めてのケースとされているもののようだが、最近
では1999年にローマ教皇庁が悪魔祓いの教本を400年ぶりに
改訂するなど、悪魔祓いの需要は高まっているようだ。
実際イタリアでは、悪魔祓いの儀式がここ10年間で10倍以上
に急増、またニューヨークでは、1995年以降40件の悪魔憑き
の事例がカソリック教会によって公式に調査されているとい
う。さらにシカゴ大司教区では公認のエクソシストが任命さ
れたそうだ。
そして、本作の真の主役である女子大生(実話ではAnnelies
Michel)の墓には、今も花が絶えないということだ。
まあ物語としては、いくら実話の映画化だと言われても、僕
らには異世界の話のようなもので、その中でどう考えるかと
いうことになる訳だが、映画ではショックシーンもそこそこ
に織り込まれて、見た目の恐怖感も充分に味わえる。
ただ、映画のテーマとしてそれがどうなのかと言うことでは
問題になるが、まあ、先に紹介したような国際問題を扱った
ものでもでもないし、これはこれでいいという作品だろう。
出演は、女性弁護士役に『キンゼイ』のローラ・リニーと、
司祭役に『イン・ザ・ベッドルーム』のトム・ウィルキンス
ン、また死亡した女子学生役を舞台女優のジェニファー・カ
ーペンターが演じて鬼気迫る演技を見せてくれる。
他に検事役でジョージ・C・スコットの息子のキャムベル・
スコットが出演しているが、彼は『リトル・ランナー』では
コーチの神父役を演じていて、今回は宗教に理解のある検事
役というのはちょっと面白かった。

『ルー・サロメ』“Al di la del bene e del male”
『愛の嵐』のリリアーナ・カヴァーニ監督により、ドミニク
・サンダの主演で1977年に公開された『善悪の彼岸』という
作品の、以前に公開された英語版ではカットされた部分など
が修復されたオリジナル・イタリア語版による再上映。
以前の公開では見られなかった映像や、ぼかされた映像が初
公開されるということだが、僕は当時の上映を見ていないの
でそれに関する判断は出来ない。しかし、今回の上映でもぼ
かしが複数箇所入るのだからまあ相当の作品ということだ。
と言っても、物語は19世紀末のヨーロッパを舞台にした極め
て文学的なもので、特に自由に生きることを望む女性ルー・
サロメと、彼女に振り回されるニーチェ、パウル・レーらの
男性たちの構図は現代にも通用して面白いものだった。
また、後半に登場するほぼ全裸の男性2人による神と悪魔の
ダンスや、その他の映像にも注目できるシーンは数多くあっ
たように感じられた。さらにローマ、ヴェネツィアなどの遺
跡や町の風景も美しく捉えられていたものだ。
ただし音響は、大時代的な音楽や口元の合わない音声など、
1977年と言えばアメリカでは『スター・ウォーズ』の年に、
イタリアではまだこんなものだったのかと意外な感じもした
が、それも歴史として捉えておきたいところだ。
なお、サンダは1951年のパリの生まれで、ヴォーグ誌のモデ
ルなどを経て1968年に映画デビュー。この作品の当時はイタ
リアに住んでイタリア映画に出演していたが、前年にはカン
ヌで女優賞も受賞している。
一方、本作と同じ1977年にはロジャー・ゼラズニー原作の終
末SF『地獄のハイウェイ』を映画化した『世界が燃えつき
る日』にも出演。本作は、その頃の作品ということだ。
因に、最近のサンダは舞台に専念しているということだが、
今回の作品は26歳の時のもので美しさも絶頂の頃とは言え、
見ていてまた映画にも出てもらいたいと感じられたものだ。
2000年の『クリムゾン・リバー』には尼僧の役でゲスト出演
していたようだが、本格的な復帰を期待したい。
 
『メルキアデス・エストラーダの3度の埋葬』
      “The Three Burials of MELQUIADES ESTRADA”
『アモーレス・ペロス』のギジェルモ・アリアガの脚本を、
トミー・リー・ジョーンズの監督・主演で映画化した作品。
不慮の死を遂げた友人のメキシコ人の遺体を彼の故郷に埋葬
するため、遺体を乗せた馬を引いて国境を渡る老カウボーイ
の物語。
舞台は現代。初老のカウボーイ=ピートは、ふと知り合った
エストラーダを不法入国者と知りつつ友として付き合ってい
た。そんなピートにエストラーダは家族の写真を見せ、自分
が死んだら遺体を故郷に埋葬してくれるように約束させる。
自分の方が年上だからそんなことにはならないと言いつつ、
その約束に応じたピートだったが、その数日後エストラーダ
は何者かによる射殺体で発見される。そしてその犯人は割り
出されるが、保安官はそれ以上の追求をしようとしない。
その事態にピートは、犯人を拉致し、犯人にエストラーダの
遺体を掘り起こさせて、犯人と共に国境を越え故郷として教
えられたメキシコの村を訪ねることにするが…
この物語を、最初にエストラーダの遺体が発見されるところ
から始めて、その後に犯人が町に引っ越してくるところ描く
など、時間軸を交錯させて描いて行く。しかしその展開は、
理路整然として混乱がない。
確かに最初は多少戸惑う感じもするが、判り始めると、その
時間軸を入れ替えた意味がいろいろな点で活かされているよ
うにも感じられる。特に犯人の行動が、エストラーダを殺し
た後なのか、それとも前なのかといった辺りが、物語に実に
微妙な陰影を与えている。
この構成の巧みさは、脚本家アリエガの特徴とも言われてい
るようだが、トリッキーでありながらそれが自然に感じられ
る上手さには脱帽させられた感じだ。そしてそれをジョーン
ズの演出が見事にフォローしている感じの作品だ。
ジョーンズは、映画は初監督のはずだが、その前にTVムー
ヴィは1作手掛けているということで、演出自体はかなり手
堅い感じのものになっている。またこの作品は、今年のカン
ヌ映画祭で男優賞と脚本賞に輝いたものだ。
背景は現代だが、友情のために全てをなげうつ主人公の生き
様などは、正に西部劇という感じのもので、久しぶりに男の
ドラマを見せられた感じがした。
それから、旅を共にするエストラーダの遺体が、あるときは
無気味であったり、あるときは切ない感じがしたり、そんな
造形になっているのも見事な感じだった。

『ディック&ジェーン/復讐は最高!』
              “Fun with Dick and Jane”
1977年にジョージ・シーガル、ジェーン・フォンダの主演で
映画化された『おかしな泥棒/ディック&ジェーン』のリメ
イクを、当代きっての人気コメディアン、ジム・キャリーが
自らの製作、主演で実現した作品。
しかもこのリメイクでは、監督には『ギャラクシー・クエス
ト』のディーン・パリソット、脚本を、初監督の“40 Year
Old Virgin”が全米で大ヒットを記録したばかりのジャド・
アパトゥと、テレビ出身の新鋭ニコラス・ストーラーなど、
最高の布陣が揃えられた。
さらに演技陣では、相手役に『ディープインパクト』などの
実力派ティア・レオーニ、またアレック・ボールドウィン、
ハリウッド版『Shall we Dance?』のリチャード・ジェンキ
ンスなどが脇を固めている。
主人公は、とある企業の広報担当者、郊外の1軒家に住み車
はBMW、しかしお隣さんが特注のメルセデスを買ったのが
羨ましい。そんな彼に広報担当重役への昇進が舞い込む。サ
ラリーマンでは最高の地位に有頂天になる主人公だったが…
CEOの家に招かれ、最初に与えられた指示はテレビの経済
番組への出演。これも大喜びでスタジオに向かうが、待ち構
えいたのは辛辣な質問の数々。そして株価は見る見る下落し
て、会社に戻るとそこは倒産整理の真っ最中。
つまり天国から地獄を1日で味わった主人公だったが、その
間CEOは会社の資産の大半を確保したまま逃亡。しかも倒
産の責任は部下に押しつけ、数10億ドルの資産は誰も手の付
けられない個人のものとなっていた。
最近の研究によると、CEOの平均的な収入は一般従業員の
平均の約400倍。これは10年前の比率の10倍というから、富
の集中、貧富の差の拡大は現実のものになっている。しかも
エンロン、ワールドコムなどのように詐欺まがいの事例も相
次いでいる。
そして、倒産、リストラ、失業など、それに巻き込まれた従
業員の悲哀は、アメリカも日本も同じことだろう。そんな裏
返しのアメリカンドリームを見事に描いているのがこの作品
と言える。
そして主人公は、就職活動もままならないまま失業保険の期
間も満了し、それでも見栄を張って生活を維持していたが、
ついに自宅の差し押さえ令状が送付された日、彼に残された
道は、これしかなかった…
ということで、手っ取り早く夫唱婦随の泥棒稼業に走ってし
まった主人公だが、ここからの描き方が実に上手い。しかも
その結末は見事な大団円という感じで、こんなことは夢のま
た夢と判っていても、最後は思わず拍手喝采したくなってし
まった。
キャリー、レオーニの絶妙のやりとりや、ジェンキンスの日
本映画でも出てきそうなベタな人情味。この辺には普段のハ
リウッドコメディとはちょっと違う味わいがあった。それは
オリジナルの味なのかも知れないが、ちょっと懐かしさも感
じたものだ。
その一方で、途中でキャリー、レオーニに施されるスペシャ
ルメイクは、これが現代ハリウッドの実力という感じで、見
事なものだった。
日米同時公開で、宣伝もキャンペーンもままならなかった作
品だが、描かれているテーマは日米共通のものでもあるし、
特に日本人の大半を占めるサラリーマンには、久々に溜飲の
下がる作品だ。

『チキン・リトル』“Chicken Little”
ディズニーがピクサーとは別に初めて独自に作り上げたオー
ルCGIによるアニメーション作品。しかもそれにILMが
協力して3D化を実現し、一部の劇場では3Dで上映が行わ
れる。ということでその3Dによる上映を見せてもらった。
物語は、落ちこぼれのニワトリの子供が主人公。ある日、彼
は空の欠片が落ちてくるのを目撃し大騒ぎをするが、肝心の
欠片が見つからない。こうして一種の狼少年となってしまっ
た主人公だが、父親は適当な言い訳でその場を凌ぎ、子供の
言い分には耳を貸してくれない。
とは言え、何とか立ち直って、ちょっとしたことでヒーロー
にもなった主人公だったが、ある日、再び空の欠片を見つけ
てしまう。しかも落ちこぼれ仲間の一人がその欠片に乗って
空の彼方に飛んでいってしまう。そして…
まあお話はそんなところだが、これにディズニーの自社作品
から他社作品までのパロディが満載で、それもおおいに楽し
める作品だった。中でも3つ目の****は、事前に情報は
聞いていたが、実際に見るとちょっと唖然の感じがしたもの
だ。まあお子様向けだが、大人も楽しめる。
ということで、2D版の紹介はここまでで、ここからは舞浜
まで出向いて見せてもらった3D版についてだが、その実力
は予想以上のものだった。
方式は、基本的には偏光フィルターを用いているが、従来の
直線偏光板を90度に置いたものとは違って、円偏光の右回り
と左回りで分離を行っており、このため従来は頭を傾けると
左右が混じってしまったものが、そうはならないことも見て
いて楽だった。
また、プロジェクターは毎秒144フィールドのディジタル方
式で、ここから左右の映像が毎秒72フィールドずつ交互に映
写されており、ちらつきも全くない上に、左右が同じ光学系
なのでバランスもよく、81分間連続の3Dでも疲れを感じる
ことがなかった。
それに今回の作品は、元々が2Dで製作された作品を後から
3Dにしているもので、このため従来のこれ見よがしの3D
演出などもなく、自然に3Dが楽しめるのも良い感じだった
と言える。この点は怪我の功名でもあるが…
今後この方式では、ディズニー作品は元より、ソニーやウォ
ルデンメディアからも新作が予定され、さらに『スター・ウ
ォーズ』のエピソードIV〜VIの3D化も計画されているもの
で、これは大いに期待したくなったものだ。



2005年12月13日(火) シャークボーイ&マグマガール3-D、春が来れば、あぶない奴ら、タブロイド、美しき運命の傷痕、リトル・ランナー、PROMISE

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※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介しています。     ※
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『シャークボーイ&マグマガール3-D』         
      “The Adventures of Sharkboy and Lavagirl”
『シンシティ』のロベルト・ロドリゲス監督が、『スパイキ
ッズ3-D』に続けて放つお子様向け3D映画。      
『スパイキッズ』は、普段は衝撃的な作品を作り続けている
ロドリゲス監督が、自分の子供に見せられる作品を作りたい
と言うことで始めた作品だが、今回はそれを見た7歳の息子
のアイデアを映画化したというもので、まさにファミリー映
画という作品だ。                   
お話は、ちょっと落ちこぼれ少年の主人公が、彼のイマジナ
リーフレンドの住む世界の危機を救うために活躍するという
もの。もちろん、子供のアイデアらしく御都合主義満載の作
品だが、それを3D映像でそれなりに映画ファンも喜ぶ作品
に仕上げている。                   
と言っても、特にマグマガールに関しては、本来は触るもの
全てに火が点くという設定のはずなのに、怪我をしたシャー
クボーイに肩を貸したり、もう少しは考えてくれても良いよ
うな場面もあった。でも、大前提は子供の夢ということで…
いずれにしても大人はいろいろ突っ込みたくなる作品だが、
実は日曜日に家族招待で行われた試写会で会場はかなり幼い
子供が満載。しかしその子供たちが、多少はお茶の間感覚の
ところはあったものの最後まで大騒ぎもせず見たのだから、
大したものと言えそうだ。               
なお、3Dは赤青フィルターによるもので、このシステムは
上映に一番手間が掛からない方式ではあるが、ほぼ90分連続
というのは多少目が疲れた。『スパイキッズ3-D』の時は
確か何度か掛けたり外したりしたが、あれも多少煩わしかっ
たし難しい。                     
因に、ディズニーが『チキンリトル』で全米公開で採用した
3Dはディジタル上映によるシャッター方式によるもので、
これなら2D−3Dの切り替えも自在になるはずだが、アメ
リカでも普及には手間取っているようだ。        
一方、撮影に使われた3Dカメラは、ジェームズ・キャメロ
ンとソニーが共同開発したものだが、本作を製作したロドリ
ゲス自前のトラブルメーカースタジオには常備されているも
ののようだから、出来れば今後もいろいろな新作で楽しませ
て欲しいものだ。                   
                           
『春が来れば』(韓国映画)              
本作が監督デビュー作のリュ・ジャンハによる2004年作品。
ジャンハはホ・ジノ監督の『春の日は過ぎゆく』などに助監
督として付き、脚本にも参加していたということだ。   
主人公は、もう若いとは言えないトランペッター。長年交響
楽団の団員になることを夢見て来たが、その夢は叶わず、そ
の間夢につきあってきたガールフレンドは、彼の許を去って
別の結婚話が進んでいる。               
それでも、母親との2人暮らしで気楽な人生を送っていた主
人公だったが、ある日、彼は一念発起して少し離れた炭坑町
で、全国大会優勝の過去の栄光もある中学校の吹奏楽部の指
導を担当することになる。               
しかし、すでに過疎が始まっている町では吹奏楽部員の数も
減少し、今回入賞を果たせなけれは廃部の噂もある。そして
その他にも、いろいろな現実が彼を待ち構えていた。そんな
中で、彼の人生観が徐々に変わって行く。        
韓国では、独身男性世帯の数が激増しているそうだ。それは
韓国国民に根強い儒教思想の影響や、今だに続く男尊女卑の
傾向が根底にあるなど、いろいろ分析されているようだが、
本作の主人公はまさにそれを地で行く存在のようだ。   
確かに、そう言った意味での主人公の人生観には、日本人と
は多少異なる面もあるかも知れない。しかしこの物語の全体
に流れるのは、ふと異郷に紛れ込んでしまった主人公が感じ
る人との交流の大切さであり、それが現代社会でのオアシス
のように描かれた作品だ。               
そしてそんな現代社会の問題は、おそらく日本でも共通に感
じられるところでもあるし、一方、舞台となる炭坑町トゲの
風景は、日本では忘れられた原風景のようにも感じられるも
ので、日本人の心にも深くしみ入ってくる作品だった。  
それにしても、この作品や以前に紹介した『スタンド・アッ
プ』や『ディア・ウェンディ』でも鉱山町が舞台になってい
たが、今の日本にこのような鉱山町は現存しているのだろう
か。昔は炭坑を背景にした映画もいろいろあったように記憶
しているが…                     
なお、炭坑町ということで町には鉄道が敷設されており、そ
こを走るいろいろな機関車の姿も楽しめた。もちろん『殺人
の追憶』など鉄道が登場する韓国映画も少なくはないが、こ
の作品のようにいろいろな機関車を見られるのは、ちょっと
珍しいように感じたものだ。              
                           
『あぶない奴ら』(韓国映画)             
暴力的な取り立て屋とその標的の若者が繰り広げる大騒動を
描いたアクションコメディ作品。それにIT産業スパイや、
台湾マフィア、国家安全情報局までもが絡んで、話は飛んで
もない方向に進んで行く。               
典型的なアクション・コメディだが、何しろ痛快の一言とい
うような作品。主人公2人は暴力沙汰も引き起こすが、頭は
切れるし、協力してくれる仲間もいろいろいて、巨大な敵に
見事に挑んで行く。                  
しかもその間、味方の側には負傷者は出るが死者はなし、こ
の明解、且つスマートな展開が心地よく決まっていた。しか
も携帯電話やGPS(?)などの現代的な小道具も見事に使
いこなされている。                  
何しろとやかく言う必要は全くなし。見れば面白い。しかも
アクションもかなりハードに決めているし、サーヴィス精神
は満点というところ。まあ、真面目な人には、ばかばかしい
と思われるかも知れないが、これが映画の楽しさだと言える
作品だ。                       
主演は、アン・ソンギとのコンビで韓国映画のバディ・フィ
ルムをリードしてきたというパク・チュンフンと、『猟奇的
な彼女』などで韓国トップ女優の相手を務めてきたチャ・テ
ヒョン。その2人がコンビを組んで、見事に主役を張ってみ
せた作品。                      
また、モデル出身で1999年度のミスワールドユニバーシティ
というコリアンビューティ、ハン・ウンジョンが映画初出演
で華を添えている。他にも、ソウル市内のランドマーク的な
建物も次々登場するようで、ソウルに行ったことのある人に
は、そういう楽しみ方もできるようだ。         
                           
『タブロイド』“Cronicas”              
アルフォンソ・キュアロン製作によるメキシコ、エクアドル
合作による社会派映画。子供ばかりを狙った連続誘拐殺人事
件の謎を追うテレビ番組のレポーターが、思わぬ落とし穴に
引き摺り込まれて行く。                
ジョン・レグイザモが演じる主人公は、マイアミをキー局に
放送されているラテン世界向けのドキュメント番組のレポー
ター。その主人公を含む番組の取材クルー(カメラマンと女
性ディレクター)がエクアドルに降り立つ。       
彼らはエクアドルで発生中の子供ばかりを狙った連続誘拐殺
人事件の取材に来たのだったが、その被害者の葬儀の取材中
にインタビューを試みた被害者の双子の弟がトラックに引か
れる事件が起こる。                  
そして被害者の父親が怒り狂って加害者の運転手に灯油を掛
け、火を付けようとした瞬間に、主人公がその場を制して運
転手を救出、その模様が全て撮影され、番組で放送されたこ
とから人々の間で彼自身が英雄になってしまう。     
ところが、一応逮捕された運転手に同じく逮捕された父親は
執拗に復讐を試み、その様子を取材に行った主人公に、運転
手は釈放に協力してくれたら連続殺人犯の情報を教えると言
い出す。そして、彼が漏らした情報から新たな遺体が発見さ
れてしまうのだが…                  
以下ネタばれがあります。
実は映画では最初に犯人を示唆する重要な描写があり、主人
公が犯人に踊らされている図式が明確に描かれている。従っ
て観客には、主人公のスクープを狙うあまりの行き過ぎた行
動や、その顛末が見事に見えてくる仕組みの作品だ。   
最近、日本で起きている幼女誘拐殺人事件でも、被害者の友
達の子供への取材など、報道の行き過ぎとも言える取材が目
立っているが、そんな報道関係者が一歩間違えれば陥ってし
まうかもしれない奈落の底を見事に描いている。

なお、本作は2002年のサンダンス/NHK映像作家賞の脚本
部門を受賞した作品で、こういう作品の成立に報道機関が関
わっているというのもおかしな話だが、完成された映画は、
カンヌやトロント、サンセバスチャンの映画祭に出品され、
グアダラハラ映画祭では作品賞の受賞も果たしているという
ことだ。                       
また、テレビ映像の中だけだが、番組のホスト役でアルフレ
ッド・モリーナがあくの強い演技を披露している。    
                           
『美しき運命の傷痕』“L'Enfer”            
1996年に亡くなった『トリコロール』などのクシシュトフ・
キェシロフスキが、ダンテの『神曲』に想を得て進めていた
3部作の内『地獄篇』の遺稿脚本を、『ノー・マンズ・ラン
ド』のダニス・タノヴィチ監督が映画化した2005年作品。 
因に、『天国篇』は『ヘヴン』の題名で2002年12月頃に紹介
しているが、物語上のつながりなどはないようだ。    
3人姉妹の物語。父親は22年前にある出来事で亡くなってお
り、老いた母親も施設に預けられている。3人は独立して暮
らしているが、長女は夫の不倫に悩んでおり、三女は逆に妻
子ある男性を恋している。そして次女の許に1人の男性が現
れる。その次女は悲劇の始まりの目撃者でもある。    
原題は「地獄」の意味で、英語題名も“Hell”となっている
ようだが、3人姉妹それぞれが味わされている過去、現在、
未来の地獄が描かれる。しかも自分自身は正しいと思ってし
たことか、あるいは止められなくなってしたことの結果とし
て生み出された地獄。3人の姉妹と母親は、そんな地獄の中
に生き続けている。                  
物語自体はトリッキーなものではないし、監督の前作や、題
材から多少構えて見始めた僕には、むしろ判りやすい物語の
ようにも感じられた。                 
監督の前作『ノー・マンズ・ランド』は、喜劇とも取れる戦
場での出来事が、やがて途轍もない地獄の入り口であること
が判る物語だったが、本作の地獄も、最初はちょっとした出
来事だったのかも知れない。              
しかし、そこで明かされるべき真実が明かされないまま進む
ことで、悲劇が悲劇を生み出し、やがてそれは人々を地獄へ
と陥れてしまう。そんなドミノ倒しのような物語が展開され
る。しかもそれが、正しいと思ってしたことが原因であるが
故に、よけいに大きな地獄になってしまうのだ。     
ただし、監督の前作がどうしようもない絶望で終わるのに対
して、本作には多少の救いが感じられること、つまり3人の
姉妹がそれぞれ前向きに地獄を乗り越えることができそうだ
と感じさせるところは、後味の良い作品ではあった。   
                           
『リトル・ランナー』“Saint Ralph”          
コーマに陥った母親を目覚めさせるために、ボストンマラソ
ンに挑戦しようとする14歳の少年の姿を描いたドラマ。  
時代設定は1953年。カソリック系の私立校に通う主人公は、
問題児というほどではないが、喫煙したり、神を冒涜する言
葉を繰り返したり、さらに自慰に耽ったりで、品行方正とは
言い難く、厳格な校長からは目を付けられている。    
そんな彼にさらなる問題が発生する。長く入院していた母親
が突然コーマに陥ってしまったのだ。そして医者には、母親
を目覚めさせるには奇跡が必要だと言われてしまう。そこで
少年は自ら奇跡を起こすべく行動を始めるのだが…    
宗教的なことが被るので多少判り難いところがあるが、結局
のところ、聖人が奇跡を起こすと、それに伴っていろいろな
ことが起きる。それが奇跡と言うものらしい。だからこの物
語では、少年が奇跡を起こせば、お母さんが目覚めるかも知
れないと言うことなのだ。               
そして少年が目指したのは、ボストンマラソンで史上最年少
の優勝を果たすこと。これが実現したら正しく奇跡というも
のだろう。しかも彼は、あるきっかけで神の啓示を受けたと
信じ込み、それに邁進して行くことになる。       
ということで、1950年代のそれなりに純真なミッションスク
ールの少年には、あってもおかしくはないお話という展開に
なる。                        
実は、試写会の前に舞台挨拶があって、その中で脚本監督の
マイクル・マッゴーワンはこの物語が出来た経緯について、
最初に14歳の少年がボストンマラソンで優勝するというアイ
デアを思いつき、それからそこに至る道筋を考えたと話して
いた。                        
正に本末転倒だが、まあ物語の成立というのは、えてしてそ
んなものだろう。そして本作では、最初に思いついたアイデ
アもさることながら、そこに至るように考えられた道筋(展
開)が実に上手くできていて、この映画を素晴らしいものに
している。                      
因に監督は、デトロイトマラソンでの優勝経験や、東京シテ
ィ駅伝にカナダ代表チームのメムバーとして出場したことも
ある元長距離ランナー。従ってアイデアは、単純にそこから
出てきたものと思われる。               
しかしその後、彼はカナダのテレビ界に転じて、子供向けの
アニメーションシリーズや、コメディシリーズなどの演出家
としても知られており、映画の全体にはその演出家としての
才能が発揮されているようだ。             
なお物語は、単純にはスポ根もののように展開するが、実は
最初は独学で始めた主人公が怪しげな精神論で書かれた古い
教習本を手に入れて実践したり、コーチをしてくれる神父が
ニーチェ被れでトラブルが起きるなど、いろいろ皮肉たっぷ
りな部分もある。                   
多分、配給会社は感動で売りたいだろうし、実際に見れば感
動する物語ではあるが、上記のように、それ以上にいろいろ
考えさせられるところもあって面白い作品だった。    
それから、主演したのはテレビ出身の若手だが、その回りを
『チャイルド・プレイ』で花嫁役のジェニファー・ティリー
や、『シャル・ウィ・ダンス』で夫婦の娘を演じたタマラ・
ホープ。さらに、『シッピング・ニュース』のゴードン・ピ
ンセット、『アンダーカバー・ブラザー』のショーナ・マク
ドナルドら、いずれもカナダ生まれのちょっと捻った配役も
楽しめた。                      
                           
『PROMISE』“無極”              
中国映画の第5世代と呼ばれるチェン・カイコー監督による
ファンタシー色の濃い武侠作品。全ての男から望まれる美貌
と引き換えに、真の愛は得られないという運命を受け入れた
女と、その女の運命に翻弄される男たちの物語。     
刺客に襲われ負傷した大将軍の代りに華の鎧を付けて国王の
救出に向かった奴隷の男は、美貌の王妃を救うために王を殺
してしまう。しかし王妃は大将軍に救われたと思い込み、大
将軍は王殺しの汚名を着てまで王妃の思いを受けとめようと
する。そして奴隷の男は、真実を口に出せないまま王妃と大
将軍に仕え続ける。                  
この大将軍・光明を日本の真田広之、奴隷の男・昆崙を韓国
のチャン・ドンゴン、王妃・傾城を香港のセシリア・チャン
の3人が演じる。この3人の国籍の組み合わせはちょっと微
妙な感じだが、そんな小賢しいことを考えるような作品では
ない。                        
特に真田は、比較的若い2人を相手に緩急自在の演技という
感じで、傾城の思いに溺れて行く姿などは中年男の匂いをぷ
んぷんさせて、なるほど適役という感じのものだ。一方、チ
ャン・ドンゴンも一途さを全面に出して、一番の儲け役を見
事に演じている。また、セシリア・チャンの儚い美しさも絶
妙というところだ。                  
この他に、敵役の候爵を香港から『ジェネックス・コップ』
などのニコラス・ツェー、刺客を大陸から『山の郵便配達』
などのリウ・イェ、運命を司る女神を監督夫人で製作も務め
る『北京ヴァイオリン』などのチェン・ホンが演じている。
中国の武侠映画もついにチェン監督まで駆り出されたか、と
いう感じだが、元々第5世代で言えばチャン・イーモウも監
督しているし、特に驚くことではないかも知れない。とは言
うものの、大量のVFXも使ったかなり派手な作品になって
いたのには、ちょっとびっくりした。          
なお、VFXは香港のセントロ・ディジタルが担当。また、
アクションの振り付けには、『バレット・モンク』などのウ
ェイ・トンと、『スパイダーマン2』などを手掛けたディオ
ン・ラムの2人が当っている。             



2005年12月01日(木) 第100回

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
※このページは、キネマ旬報誌で連載中のワールドニュー※
※スを基に、いろいろな情報を追加して掲載しています。※
※キネ旬の記事も併せてお読みください。       ※
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
 今回で、ニュースページの更新が100回目を迎えました。
2001年10月にサイトをオープンしてから月2回の更新を途切
れなくやってこられたものですが、これも読んでくださる皆
さんのご支援の賜物と考えています。といっても直接ご意見
などは伺えませんが、最近では1カ月のヒット数も2700程度
となって、その数字の伸びが支えとなっています。拙いペー
ジですが、これからもよろしくお願いいたします。
        *         *
 ということで、今回も製作ニュースから。まずは、普段は
あまり取り上げないテレビの話題で、『ターミネーター』の
テレビシリーズ化が発表された。
 “The Terminator”は、1984年公開のジェームズ・キャメ
ロン監督による第1作を皮切りに、91年の“Terminator 2:
Judgement Day”(T2)、そして2003年のジョナサン・モ
ストウ監督による“Terminator 3: Rise of the Machines”
(T3)と進んできた映画シリーズだが、今回の発表された
テレビシリーズは、仮に“The Sarah Conner Chronicles”
と題されているもので、未来からの刺客に狙われ続けるコナ
ー母子を主人公に、『T2』と『T3』の間を繋ぐ物語にな
るということだ。
 そしてこの脚本に、今夏の『宇宙戦争』を手掛けたジョッ
シュ・フリードマンの起用も発表されている。なおフリード
マンは、パイロット版の脚本とシリーズの製作総指揮も担当
するということだ。また製作は、『T2』以降の全権利を掌
握しているアンディ・ヴァイナとマリオ・カサールのC2が
行い、アメリカでの放映権はFoxTVが契約している。因
に、FoxとC2は、『T3』の製作では権利の争奪戦を展
開し、キャメロンをシリーズから降板させた間柄だが、今回
協力するなら、何故あの時…という感じはしないでもない。
 ところで、今回のテレビシリーズでは、上記のようにサラ
・コナーと息子のジョンを主人公にする訳だが、元々が未来
から来た殺人ロボットをテーマとするこの物語で、毎週続く
シリーズをどのように展開するかは難しいところだ。その点
についてフリードマンは、「映画シリーズにリスペクトした
ものにする」としており、「ほんの少しだけ創作の自由は得
られると思うが、ほんの少しだけだ」とも語っていて、つま
り全体の構成は映画を踏襲したものになりそうだ。
 しかし、映画の主眼となるノンストップチェイスの展開は
テレビの製作費では到底実現できるものではなく、たまにそ
ういうシーンが挿入されるにしても、大半はコナー母子の逃
亡の日々を描くことになりそうだ。そうなると、『逃亡者』
やSFファンなら『インベーダー』といったシリーズが思い
浮かぶが、さてどのような作品が生み出されるのだろうか。
 一方、今回の発表に関連して、C2では映画版の第4作の
計画も進めているということで、ヴァイナの説明によると、
「準備は最終段階に入っている。これは新3部作の開幕にな
る」とのことだ。ただし、『T2』には出演したサラ役のリ
ンダ・ハミルトンはもはや出演の意志はないとされており、
シュワルツェネッガー州知事の出演も厳しそうだ。とは言う
ものの今回のテレビシリーズが、シュワ復帰までの繋ぎとい
うイメージは捨て切れないものだ。
        *         *
 ついでにもう1本、映画からのテレビ化の話題で、こちら
は映画では3部作で完結とされた『ブレイド』のテレビ化も
発表されている。
 この作品は、元々がマーヴルコミックスのマイナーキャラ
を主役に抜擢して映画化するという思い切った企画でスター
トしたものだが、製作も務める主演俳優のウェズリー・スナ
イプスと、脚本家のデイヴィッド・S・ゴイヤーがタッグを
組み、1998年に第1作の“Blade”がスティーヴン・ノリン
トンの監督で映画化。次いで2002年にギレルモ・デルトロの
監督で“Blade II”と、さらに2004年に脚本家ゴイヤーの監
督デビュー作として“Blade: Trinity”が発表された。
 ところが、実はこの第3作の製作を巡っては、元は第2作
の後でテレビシリーズ化を検討してたスナイプスと、映画化
を狙ったゴイヤーの間で行き違いが発生。さらに映画の成績
も思ったほどには伸びなかったことから、2人の亀裂が決定
的となってしまった。
 という経緯でのテレビ化となったものだが、今回の企画で
はゴイヤーが製作総指揮と、コミックスの原作者でもあるゲ
オフ・ジョンズとの共同による脚本も担当し、製作は映画版
を製作したニューラインの子会社のテレビ部門で行うという
もの。そしてテレビ化では、映画版ではスナイプスが演じた
ヴァンパイアと人間のハーフ・ブラッドの主人公を、人気テ
レビ番組の『となりのサインフェルド』などに出演のカーク
・ジョーンズという俳優が演じることになっており、スナイ
プスとは切り離したものになるようだ。
 なお共演者は、ジル・ワグナー、ニール・ジャクソン、ネ
ルソン・リー、ジェシカ・ゴーワーという顔ぶれで、監督は
ピーター・オファロン。製作は、11月14日にカナダのヴァン
クーヴァで開始されている。また、今回製作されているのは
1本だけのようだが、放送は2007年6月にスパイクTVで予
定されているもので、状況によってはシリーズ化の可能性も
高いようだ。
        *         *
 お次は、『チャーリーとチョコレート工場』『コープス・
ブライド』でジョニー・デップとの連続コラボレーションが
好評を博したティム・バートン監督の新作で、今度はジム・
キャリーと組む計画が発表された。しかも、進められている
作品は“Ripley's Believe It or Not”というものだ。
 この題材は、知る人ぞ知るコラムニストのロバート・リプ
リーという人が、1918年に連載を開始した世界の珍談奇談を
集めた新聞記事に基づくもので、最初にラジオ番組で人気を
博し、その後の1949年には、リプリー本人を番組ホストに迎
えて、記事の内容を再現ドラマやリプリー自身が現地に赴く
などして検証したテレビシリーズが“Believe It or Not”
の題名で放送開始された。ところがその開始から間もなく、
リプリーが急死、翌年には別のホストを立て再現ドラマ中心
で継続されたが、そのまま幻の番組となったものだ。
 その番組が、1982年に俳優のジャック・パランスを番組ホ
ストに迎えて“Ripley's Believe It or Not”の題名で再製
作され、この番組は1986年まで4年間に渡って放送された。
因にこの再製作は、題名に名前を冠した通りリプリーの遺族
の了承を得て行われたもので、オリジナルの記事の再現と共
にそのアップデイトも行われ、さらに当時のスペースラボに
カメラを持ち込んで無重量状態の生活を取材したり、また、
『オズの魔法使い』の公開版から削除された場面のフィルム
を発見して放送するなど、硬軟取り混ぜた内容が高く評価さ
れたということだ。
 という題材がバートンとキャリーで映画化される訳だが、
具体的な内容に関しては、計画を進めているパラマウントか
らは「リプリーの足跡を辿る」というだけで詳細には明らか
にされていない。ただし発表によると、ジャンルはアクショ
ン・アドベンチャーで、シリーズ化も目指すとなっており、
さらに本作は、2007年後半の公開を目指して早急に製作を進
めるとのことだ。
 一方、この作品の脚本は、バートンとは『エド・ウッド』
で、キャリーとは『マン・オン・ザ・ムーン』で協力したこ
とのあるラリー・カラゼウスキーとスコット・アレクサンダ
ーが担当しているもので、お互い気心の知れあった仕事にな
りそうだが、この2作はいずれも芸能関係者の伝記を扱った
もので、その線で考えると、今回の計画はリプリーの生涯を
描いたものになりそうだ。
 そしてパラマウントの担当重役からは、「映像的なアクシ
ョン・アドヴェンチャーはジムとティムの両方にピッタリの
企画だ。また、主人公の人物像は、情に脆くて人間性にあふ
れ、コミカルだが繊細で、これもキャリーの希望に合致して
いる」という発言もされている。
 なお、本作の製作は『チャーリー…』も手掛けたリチャー
ド・ザナックの許で行われ、また、現在のパラマウント社の
社長は、『チャーリー…』を製作した当時のプランBのブラ
ッド・グレイが務めているもので、これはバートンにとって
も思う存分力を発揮できる体制と言えそうだ。
        *         *
 『チキン・リトル』が好評のディズニーから、続けて3D
−CGIアニメーションの計画が発表された。作品の題名は
“Meet the Robinsons”というもので、内容は不明だが2006
年12月の公開を目指しているというものだ。
 一方、今回の3D上映に使用されたReal Dというシステム
は、全米でも100館足らずしか実施されていないもので、本
格的に興行を行うにはもっと館数を増やす必要がある。その
ためには各社の協力が不可欠とされるが、すでにソニーでは
2006年6月21日に予定されている“Monster House”の公開
にこの方式を採用するとしており、さらに、ディズニーとは
『ナルニア国物語』等で協力関係にあるウォルデン・メディ
アからも“Journey 3-D”という計画が発表されている。
 因に、ウォルデンの作品は、ジュール・ヴェルヌの『地底
探検』を現代化するもので、『ハイ・フィデリティ』などの
D・V・デヴィンセンティスの脚本から、『トータル・リコ
ール』でオスカー受賞のベテランVFXマン、エリック・ブ
レヴィグが監督。撮影は実写とCGIの合成で行われ、背景
を『ナルニア…』にも採用されている高精度のフォトリアル
CGIで描くもの。また、実写の撮影には、ジェームズ・キ
ャメロンが開発した3Dカメラが使用されるということだ。
        *         *
 2005年5月15日付第87回でも報告したジェフ・ネイザンス
ン脚本、ブレット・ラトナー監督、クリス・ロック、ジャッ
キー・チェン共演によるニューライン作品“Rush Hour 3”
がようやく動き出すことになった。
 この計画では、以前の報告では2005年秋に撮影開始となっ
ていたものだが、その後にネイザンスンが“Indiana Jones
4”に駆り出されたり、ラトナーは『Xメン』第3作“X3”
の監督に起用されるなどで頓挫していた。しかしそれらの仕
事も片づいて、いよいよ本格的に準備作業に掛かれることに
なったようだ。撮影は、2006年夏にアメリカ国内とパリで行
われ、公開は2007年夏のテントポール作品となっている。
 なお、総製作費には1憶2000万ドルが計上されているが、
その内、タッカーの出演料は最低2000万ドルから配給収入の
20%、チェンは1500万ドル〜15%で他に中国と香港の配給権
も得る。さらにラトナーの監督料は500万ドル〜5%で、ネ
イザンスンの脚本料も7桁($)を得るそうだ。
 因に、2001年公開の『ラッシュ・アワー2』は、アメリカ
国内だけで2憶2600万ドルと、海外は3憶2900万ドルの配給
収入を挙げており、これだけ稼ぐことができれば、上記の製
作費も問題ないというところだろう。またタッカーは、その
『2』以来の映画出演となるもので、人気スタンダップ・コ
メディアンの久々の出演にはファンの期待も高そうだ。
 一方、チェンの1500万ドルというのは、アジア出身の俳優
での史上最高額は間違いなさそうだ。
        *         *
 続いては、キネマ旬報では遠慮しているアメリカ以外の話
題をいくつか紹介しておこう。と言ってもここで紹介する話
題は、いずれも米誌に報道されたものなのだが…
 まずは中韓日3国の合作で、“Battle of Wisdom”という
作品が中国で製作されている。この作品は、香港のアンディ
・ラウ、韓国のアン・ソンギ、大陸のファン・ビンビンらの
共演で、中国の戦国時代を背景にした物語とされており、製
作費は中国映画史上最大と言われる1600万ドルを計上。すで
に中国北部の内モンゴル自治区で大掛りな戦闘シーンも撮影
されたということだ。
 そしてこの作品は、原作がwell-known Japanese mangaと
いうのだが、米誌の記事にはその原作の具体的な情報が書か
れていなかった。しかし日本人としてこの報道は気になると
ころで、取り敢えずは上記の英語タイトルで検索をしてみた
のだが、この英語自体が普通に使われる言葉で思わしい情報
は得られず、調査は行き詰まってしまった。
 ところが、実は米誌の記事の中に、この映画の製作に日本
からコムストックが参加しているとの記載があり、普段は映
画会社とは距離を置くようにしている自分だが、今回だけ問
い合わせのメールを送ってみた。その結果、同社の担当の方
から『墨攻』という作品だとの回答をいただいた。
 ということで原作は判明したのだが、ここで『墨攻』とい
う作品は、元々は日本ファンタジーノベル大賞の第1回受賞
者でもある酒見賢一の小説で、これはmangaではない。しか
し文庫本で170ページの小説からその後に全11巻のコミック
スが描かれており、それを考えると、well-known Japanese
mangaという紹介も仕方のないところのようだ。因に、内容
は中国の史実に基づいたものということだが、元々がファン
タジーノベル大賞受賞者の作品であり、しかもアジア各地の
スターを揃えた大作ということで、完成を期待したい。
        *         *
 お次は韓国映画で、『殺人の追憶』などのポン・ジュノ監
督が“The Host”という題名のモンスター映画を制作。その
VFXにアメリカのオーファンエイジ、ニュージーランドで
ピーター・ジャクスンの『指輪』や『キング・コング』を手
掛けるウェタ、そしてオーストラリアから『ベイブ』でオス
カー受賞のジョン・コックスの参加が発表されている。
 この作品は、韓国の首都ソウルの中心を流れる川から、突
然変異のクリーチャーが現れ、人間を襲い始めるというもの
で、このクリーチャーのVFXをオーファンエイジが担当、
さらにアニマトロニクスをコックスのクリーチャーショップ
が手掛け、それにウェタのCGIが加わるということだ。
 それにしても大掛りな体制が採られたものだが、最近のハ
リウッドのVFX大作では複数の会社が参加するのは当り前
になってはいるものの、そう言っては何だがアジア映画でこ
れだけの体制は異例のことだ。それについて製作担当者は、
「我々の野望は、世界中の観客にアピールできるハイエンド
のモンスター映画を作ること」ということで、これに掛ける
製作費の1000万ドルは韓国映画で最大級とのことだ。
 なお、実写撮影は6月に開始されてすでに完了しており、
これから来年7月の公開に向けてVFXの作業が行われる。
因に日本の配給権はハピネットが獲得しており、日本でも早
期に見ることができそうだ。
        *         *
 もう1件、韓国映画の情報で、『JST』などのパク・チ
ャヌク監督が2作品の計画を発表し、それぞれは、ちょっと
捻ったラヴストーリーと、現代を舞台にしたヴァンパイア映
画になるということだ。
 その1本目は、題名を英語に直訳すると“Even If You're
a Cyborg, It's No Problem”というものだそうで、この題
名通りでも面白そうだが、一応内容は、自分をサイボーグだ
と思い込んでしまった女性とその恋人の物語。しかしCGI
も多用されるということで、CGIでは女性のファンタシー
を描きたいとしている。3月に撮影開始して2006年秋に公開
の予定。因にこの作品は、HD-24pのシステムを使って撮影さ
れるもので、韓国のCJエンターテインメントが計画してい
る8本のシリーズの一角をなすものになるということだ。
 そして、もう1本のヴァンパイア映画は、英題名を“Evil
Live”とするもので、この作品では、主演を『JST』の
ソン・ガンホが演じることになっている。ただしこちらはま
だ3ページの概要ができたばかりで、その概要も極秘とされ
ているものだが、情報では韓国のカソリック教徒のグループ
が密かに進める陰謀を描くものになるようだ。元々ヴァンパ
イアはヨーロッパ=キリスト教文化が生み出したものだが、
韓国はキリスト教信者の多い国でもあり、その国でのこの題
材はちょっと面白そうだ。
 なお、紹介した3つの情報は、韓国・中国映画のファンの
人には先刻ご承知のことと思うが、米誌にもかなり大きな記
事で報道されたので、ここに報告しておくものだ。
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 以下は、ニュースを短く紹介しておこう。
 まずはパロディ映画シリーズの『最*絶叫計画』で、デイ
ヴィッド・ズッカー監督が引き継いで2作目となる“Scary
Movie 4”の計画が発表され、シリーズ常連のアナ・フェイ
リス、レジーナ・ホールに加えて、第1作に登場したカーメ
ン・エレクトラと、第3作に登場のサイモン・レックス、そ
れにズッカー映画には欠かせないレスリー・ニールセンの出
演が発表されている。
 なおエレクトラは、今年5月15日付の第87回で紹介した人
気テレビシリーズ“Baywatch”でもレギュラーを務めている
中堅の女優だが、こういう人が再登場してくれるというのは
嬉しいものだ。また今回は、M・ナイト・シャマラン監督の
『ヴィレッジ』を俎上に載せる計画ということだが、その他
にも最近ヒットしたスーパーヒーローやホラー映画のパロデ
ィが仕込まれることになるようだ。さて、どんなお話が展開
されることか。製作はワインスタインCo.傘下のディメンシ
ョンで行われる。
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 お次は続報で、2004年11月15日付第75回で紹介したフィリ
ップ・K・ディック原作の“The Golden Man”を映画化する
“Next”に、主演のニコラス・ケイジの相手役としてジュリ
アン・ムーアの共演が発表されている。
 この作品は、以前にも紹介したようにディックが1954年に
発表した11600ワードの中編を映画化するもので、核戦争後
を舞台に、放射能の影響で誕生したミュータントの男が、超
能力によって普通の人々を支配するようになるが…というお
話。ディック本人の言葉によると、ミュータントという存在
は必ずしも恐ろしいものではないが、同時に人類とは相容れ
ない存在であることを描きたかったというものだそうだ。
 そしてこの原作から、1990年の『トータル・リコール』を
手掛けたゲイリー・ゴールドマンが脚色、監督はリー・タマ
ホリが担当する。
        *         *
 最後に、アメリカでは12月2日に始まったシャーリズ・セ
ロン主演のアクション映画“Aeon Flux”の公開で、事前の
試写会が全てキャンセルされるという事態になった。
 これはパラマウント側が一方的に行ったものだが、その理
由は明らかにされていないものの、情報によると作品が非常
にマニアックな仕上りとなっており、プレスに見せるより、
コアなファンに直接アピールした方が良いという考えになっ
たようだ。それにしても、全米2500館で公開される大型作品
には異例の処置だが、それほどまでにマニアックな作品とい
うのはかなり楽しみだ。
 因にこの作品は、MTVで1996年に放送されたアニメシリ
ーズを映画化したもので、確かにコアなファンは多そうだ。


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井口健二