井口健二のOn the Production
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2005年06月30日(木) シンデレラマン、せかいのおわり、マダガスカル、8月のクリスマス、ハービー 機械じかけのキューピッド、頭文字D

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※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介しています。     ※
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『シンデレラマン』“Ciderella Man”          
アメリカ大恐慌時代に、人々に希望の灯をともしたヘヴィ級
ボクサーの実話に基づく物語。             
ジム・ブラドックは過去には数々の栄光に輝いたボクサー。
しかし大恐慌の最中で、彼自身も疲れ果て、リングではクリ
ンチを繰り返し満足な試合をすることもできない。そしてつ
いに、試合を没収され、ライセンスも剥奪されてしまう。 
彼には、妻と3人の幼い子供がいる。彼は生活のため波止場
の荷役に日雇いを求め、試合での負傷を隠しながらわずかな
金を稼ぐ。そして無料の給食に並び、生活保護の給付を受け
るまでに落ちぶれる。                 
しかしその給付でも家族を守れなくなったとき…     
大恐慌時代の希望の星というと、2003年に公開された『シー
ビスケット』を思い出すが、今回は題名通りシンデレラマン
の話なので背景の人間の話も詳細に描かれ、その辺では話も
身近で、日本人の僕らにも判りやすい感じだ。      
実際、主人公の心情も直接的に理解できるし、まあボクサー
という天職があっただけ幸運だったと言うことはできるが、
それが世間の人々の希望になって行くまでを描き出すうまさ
は、さすが脚本アキヴァ・ゴールズマン、監督ロン・ハワー
ドというところだろう。                
主演はラッセル・クロウ、彼を支える妻役をレネー・ゼルウ
ィガー、そしてマネージャー役を『サイドウェイ』のポール
・ジアマッティが演じている。             
それにしても、大恐慌時代の庶民の生活振りはかなり衝撃的
で、さらに後半描かれるフーヴァー村の風景は、つい先日ま
での新宿中央公園を思い出して、その規模の違いに驚くと共
に、こんな時代もあったのだという感じがした。現在のアメ
リカ人の不況感がどんなものか判らないが、日本人にはまだ
まだ現実的な風景のようにも感じた。          
そんな中で、人々が心を一つにして応援できる希望の星、そ
んな希望が今の日本にも必要になのだとは思うが、多様性の
時代にはなかなか難しいという感じもした。人々がもっと素
直だった時代の物語かも知れない。でもそんな素直さが、現
代に一番必要なのかも知れない。そんなことも考えた。  
なお、映像的には、作品のかなりの部分を占める試合の迫力
が素晴らしい。試合はもちろんフェイクだが、特にクレイグ
・ビアーコ扮する悪役ボクサーとの死闘は見事に描かれてい
た。それに、主人公が結構科学的に試合を分析していたこと
を示す描写も興味深かった。              
                           
『せかいのおわり』                  
先回、ジャ・ジャンクー監督の『世界』を紹介したときに、
「こんな青春、今の日本にはあるのだろうか」と書いたが、
ちょうどそれに答えるような作品だった。でも、今の日本の
青春の悩みの線はかなり違うようだ。          
主人公の女性は、美容師の見習いだったり、カラオケの街頭
宣伝員だったり、つまりは定職を持たないフリーター。その
女性が彼氏に振られて、幼馴染みの男性が住む植物デリヴァ
リーの店に転がり込んでくる。             
その店は、ゲイの店長と男性によって営業されていたが、そ
の男性もプレイボーイ気取りで腰が落ち着かない。そんな女
性と男性の、ちょっと奇妙な関係が描かれる。      
結局、男性は彼女が好きなのだが、彼女には「世界が終りに
なって、2人だけになってしまった世界」の幻想があり、そ
の幻想に捕われて現実を直視できない性癖がある。それが2
人の関係をあやふやなものにしている。         
先の中国映画に比べると、甘っちょろいなあとも思えるが、
でも日本の現実はこんなものだろう。両者を比較してそんな
ことも感じた。その意味では、今の日本の青春をうまく描い
た作品とも言えそうだ。                
幸せは、本当は自分のすぐそばにあるのに、それに気付かな
い、気付こうともしない。このような症例を青い鳥症候群と
いうのだそうだ。精神病の半分以上は医者が勝手に作ったも
のと言われ、これもまたその一つなのだろうが、この物語を
理解するには便利な言葉だ。              
主人公の女性を演じた中村麻美は、この女性に「ムカツク」
と感じたそうだが、「病名」になるくらいだから結構多い症
例ということなのだろう。そういう「現代病」をテーマにし
た作品とも言える。                  
なお本作の撮影は、パナソニック製の24PDVで行われてい
る。実は、『世界』はHDで撮影したものをシネスコに焼き
込んだものだったが、その画質の差が歴然だった。元来が日
本人が開発した技術なのだから、外国人より巧く使いこなし
てもらいたい、そんな感じもした。           
                           
『マダガスカル』“Madagascar”            
『シャーク・テイル』に続くドリームワークス・アニメーシ
ョンの最新作。アメリカでは公開第2週に『エピソード3』
を押さえて週末興行第1位に輝いた。          
ニューヨークの中心に位置するセントラル・パーク動物園。
そこで優雅に暮らしていたライオンのアレックスとシマウマ
のマーティ、それにカバのグロリアとキリンのメルマンの仲
良し4頭組が、ひょんなことからマダガスカル…そこで騒ぎ
が巻き起こる。                    
大体、肉食獣とその餌であるはずの草食獣が親友というあた
りから胡散臭い話なのだが、これが実に巧く物語になってい
て、見事なドラマを展開する。さすがに『シュレック』のド
リームワークスという感じだ。             
しかも、『シュレック』がちょっとレベルの高いパロディを
繰り広げていたのに対して、こちらはアクションが主流で、
『トムとジェリー』や『ロードランナー』のような往年の動
物を主人公にしたカートゥーンの雰囲気を見事に再現してい
る。                         
また、前作『シャーク・テイル』の主人公も動物だったが、
あのキャラクターは、日本人にはちょっと人面魚のイメージ
で無気味に感じたもので、それに比べても、この作品の如何
にもアニメーションという感じのキャラクターは抵抗なく受
け入れられそうだ。                  
また、物語の展開に合わせて、『野性のエルザ』のテーマか
ら、『ニューヨーク・ニューヨーク』、『イッツ・ア・ワン
ダフルワールド』と挿入される音楽も、日本人にも親しみの
あるものが多く、その辺も分かり易い。         
そして物語のテーマは友情、上にも書いた肉食獣と草食獣の
友情が如何に発揮されるか、これが実に大人の鑑賞にも耐え
る見事な表現で展開される。他にも、大人向けのパロディや
風刺も見事に利いていて、それも素晴らしいところだ。  
なお、試写会には一般招待客も来ておりお子様もかなり入場
していたのだが、字幕なのに騒ぎもせず観ていたのは、アク
ション主体の展開が判り易かったせいだろうか。     
ドリームワークス・アニメーションでは、初の大人も子供も
一緒に楽しめる作品と言えそうだ。           
                           
『8月のクリスマス』                 
1999年に公開されたホ・ジノ監督、ハ・ソッキュ主演による
同邦題名の韓国映画を、山崎まさよしの主演で、北陸・富山
を舞台にリメイクした作品。学校を卒業後も故郷を離れるこ
となく、家業を継いで静かに生きてきた男の、最後の仄かな
恋が描かれる。                    
主人公は、小さな町で写真館を開業している。それは親の仕
事を継いだもので、その父親との2人暮らしは、たまに言い
争いもするが平穏そのものだ。また外で所帯を持っている妹
が世話を焼きに来たり、昔の恋人が訪ねてきてもその生活が
変わることはない。                  
しかしある日、息を切らせた若い女性が店を訪れ、至急の焼
き増しを頼んだときから、彼の生活に変化が訪れる。彼女は
近くの小学校の臨時教員で、夏休みの登校日に生徒に写真を
渡そうとしていたのだが…               
こうして店を訪れた女性は、その後も店に度々やって来ては
話をするようになり、心の交流が続いて行く。そして彼は、
彼女の悩みを聞いてやったり、成長を見つめて行くことにな
るが、彼には、彼女に打ち明けられない秘密があった。  
山崎は、SMAPがカバーした『セロリ』などでも知られる
ミュージシャンだが、1997年に『月とキャベツ』という映画
作品に主演している。その後にはテレビドラマの主演もある
ようだが、本作が8年振りの映画主演だそうだ。     
本作は、その演技力がどうこうと言える役柄ではないが、多
分8年前からは歳も経て役柄も変わってはいるものの、その
歳相応にそつ無く丁寧に演じている感じで、悪い感じはしな
かった。少なくとも下手ではないし、嫌みでもなかった。 
それより注目は、若い女性を演じた関めぐみで、彼女の演技
は先に『恋は五・七・五』でも見ているが、僕としては映画
の内容がちょっと評価できなかった前作でも、彼女の演技は
評価したもので、今回紹介できることを嬉しく思うものだ。
本作では、如何にも現代っ子的キャラクターがよく活かされ
ており、肝心のところで涙が流せなかった演技経験の不足は
否めないものの、体格の良さも従来の日本人の女優にはなか
なかない特徴で、これからも頑張ってもらいたいものだ。 
他に、西田尚美、戸田菜穂、井川比佐志、大倉孝二らが共演
している。                      
                           
『ハービー 機械じかけのキューピッド』        
                “Herbie: Full Loaed”
1969年の“The Love Bug”からTVムーヴィも含めて5作が
製作された自意識を持ったフォルクスワーゲン・ビートルが
活躍するシリーズの第6作。
カーナンバー53のレーシング用ワーゲンが、今回はアメリ
カで大人気のNASCARに挑戦する。         
実は、以前の『ラブ・バッグ』というのは1本も見ていなく
て、今回がハービーとの初遭遇だった。それで僕は、もっと
単純にハービーと人間とが交流するものと想像していたのだ
が、意外と捻りがあって、その辺からのドラマづくりが良く
できている感じがした。                
と言ってもファミリー向けの作品で、アメリカではスラップ
・スティックに分類されているコメディだから、荒唐無稽さ
は基本路線。それにどこまで観客が乗って行けるかが勝負と
いった作品だ。                    
実は試写会の上映後に、2席ほど先に座っていた若い女性が
怒っていて、彼女はハービーの最後に演じる大スタントがレ
ースを馬鹿にしているという意見だった。確かに僕も、少し
やり過ぎかなと感じたもので、NASCARファンなら仕方
のない意見だが…                   
ただし本作の場合は、前半でリンジー・ローハン演じる主人
公のスケート・ボードのテクニックを真似ているという説明
があり、この最後の演技もその延長線のものだ。であれば理
解のできるもので、ただ、その説明をもう一度駄目押しして
欲しかった感じはした。                
まあそういう設定を考えれば、スラップ・スティックとして
認められる範囲の荒唐無稽さだろう。          
なお映画は、NASCARの全面協力の下に製作され、実際
に2004年9月5日にカリフォルニア・スピードウェイで行わ
れた「ネクステイル・カップ・シリーズ」のレースに出演者
たちが参戦して撮影が行われている。そのレースの雰囲気も
楽しめる仕組みだ。                  
また、ジェフ・ゴードンやジミー・ジョンスン、ケヴィン・
ハービックらのNASCARのトップ・ドライバーがカメオ
出演しているのも、ファンにはプレゼントだろう。    
それから、主演は63年型ワーゲンだが、最新型が登場するエ
ピソードも良い感じで挿入されていた。さらに映画のプロロ
ーグでは、過去のシリーズの名場面がダイジェストされてい
て、中で『ナイトライダー』が登場したのには笑えた。  
                           
『頭文字D』“頭文字D”               
しげの秀一原作の人気コミックスを、『インファナル・アフ
ェア』のアンドリュー・ラウとアラン・マック監督で映画化
した香港作品。                    
脚本、監督、撮影などを全て香港スタッフで固めて、出演者
もヒロイン役の鈴木杏を除いてはほとんどが香港俳優。日本
公開は全て吹き替え版で行われるようだが、鈴木杏以外の主
人公たちのせりふは広東語で撮影されている。      
しかし舞台は原作通りの群馬県で、主人公たちの役名も全て
日本名。舞台を香港に置き換えると物語が成立しないという
ことだったようだが、それにしても、口元の合わない吹き替
えの画面に「藤原とうふ店」など書かれた車が出てくると、
何とも不思議な感覚だ。                
ただし鈴木杏のせりふは日本語で、彼女だけ口元が合ってい
るのもまた不思議な感じだった。とまあ、かなり違和感を抱
えて映画はスタートするのだが、これが榛名(秋名)の山路
での走りのシーンになると、そんな違和感は一気に吹き飛ん
でしまう。                      
このカースタントは、日本の高橋レーシングが担当して撮影
されているが、ドリフト走法などの走りの描写だけでなく、
細かいカット割りやマルチ画面などの映像演出で、見事に躍
動感一杯のシーンに仕上がっている。一部にちょっとVFX
の掛ったシーンはあるが、ほとんどが生撮りで、その迫力も
満点と言えそうだ。                  
スタント自体は日本人が演じているのだから、日本映画の感
覚になりそうなものだが、その見せ方のテクニックなどが、
明らかに日本映画とは違う香港映画の感覚になっていた。こ
の辺がさすがアンドリュー・ラウの演出という感じだ。  
ラウは、『インファナル…』で一躍トップクラスの監督にな
ってしまったが、それ以前の『風雲ストームライダーズ』や
『中華英雄』では、VFXの多用などの見せ場はあるものの
どこか中途半端で泥くさい感じがしたものだ(それが魅力で
もあったが…)。                   
しかし、その後の『インファナル…』で見せた洗練ぶりは目
を見張る感じで、その洗練された映像感覚がこの作品にも大
いに発揮されている。といっても、香港映画らしい泥くさい
ドタバタもちゃんと演じられていて、その辺も楽しめるとこ
ろも良い感じだ。                  
ストリートレーシングを描いた映画では、ヴィン・ディーゼ
ル主演の“The Fast and the Furious”が先鞭を付けたが、
本作にはそれに劣らぬ迫力が感じられた。本家はこの秋、東
京を舞台に第3作が作られる予定だが、この迫力に勝てるか
どうか。面白くなりそうだ。              



2005年06月16日(木) 第89回(後)

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※このページは、キネマ旬報誌で連載中のワールドニュー※
※スを基に、いろいろな情報を追加して掲載しています。※
※キネ旬の記事も併せてお読みください。       ※
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≪昨日の続き≫
 続いてはリメイクの話題で、2004年3月1日付の第58回で
紹介した“The Poseidon Adventure”のリメイク計画が本格
的になってきた。
 オリジナルは、『ジェニー』などのファンタシー小説や、
『ハリス夫人』シリーズなどのユーモア小説で知られるポー
ル・ギャリコの原作を、『宇宙家族ロビンソン』などの人気
SFテレビシリーズを手掛けてきたアーウィン・アレンの製
作で映画化したもので、巨大な横波を受けて転覆した大型客
船の船内に取り残された乗客が、一縷の望みを賭けて上下逆
さまとなった船内を船底に向かって上って行くというお話。
 1972年に公開された映画は、転覆シーンの巨大なアクショ
ン(ボウルルームが逆さまになる)や、上下逆さまとなった
船内の時に幻想的な造形で、その後10年以上も続くパニック
映画(disaster film)ブームの走りとも呼ばれた作品だ。
因にアレンは、この2年後の1974年にパニック映画の頂点と
も言える『タワリング・インフェルノ』を製作する。
 この作品のリメイクが、以前からワーナーでウルフガング
・ペーターゼンの製作により計画されていたものだが、この
ほど6月18日からの撮影開始と、キャスティングの第1弾と
してカート・ラッセル、リチャード・ドレイファス、それに
『オペラ座の怪人』のエイミー・ロッサムの出演が正式に発
表された。なお前回の報告では、ペーターゼンは製作のみ担
当するということだったが、今回の情報によると監督も手掛
けることになっているようだ。
 脚本は、マーク・プロトセヴィッチとアキヴァ・ゴールズ
マンが担当し、ギャリコの原作と、1972年のオリジナル映画
化をベースに再構築されている。因に、キャスティングの紹
介によると、ラッセルは元消防士で、ロッサム扮する娘と彼
女のボーイフレンドと共に旅行中に災害に襲われる。また、
ドレイファスは、世間から見捨てられたゲイの男という役柄
だそうだ。キャストはさらに追加されることになっている。
 前にも書いたように、このオリジナルでは大型客船の転覆
シーンなどでアカデミー視覚効果賞を受賞しているが、ペー
ターゼンは『パーフェクト・ストーム』の成功を踏まえて、
さらに見応えのあるシーンを造り出すとしており、期待が持
てそうだ。
 ただし、同じ原作に対してはアメリカNBCテレビでTV
ムーヴィ化も進められており、こちらはスティーヴ・グテン
バーグ、ピーター・ウェラー、ルトガー・ハウアーらの出演
ですでに撮影が完了していて、当然先にテレビ放映されるこ
とになるが、映画館の大画面の迫力で負けないものを作って
もらいたいものだ。
        *         *
 以下は新しい情報で、
 メキシコ出身のギレルモ・デル=トロ監督と、アルフォン
ソ・キュアロン監督がチームを組み、彼らの長年の協力者で
製作者のフリーダ・トレスブランコと共に製作会社を設立し
たことが報告された。
 この新会社はOMMと名付けられたようだが、2人の監督
が相互の協力の下でスペイン語及び英語での映画製作を行う
もので、さらにメキシコやラテンアメリカ、またヨーロッパ
では特にスペインの若手監督の発掘にも取り組みたいという
ことだ。同様の思想では、すでにリュック・ベッソンがエウ
ロパ Co.を設立しているが、ちょうど良い好敵手が現れたと
いうところだろう。
 そしてその新会社の第1作として、デル=トロ監督による
“Pan's Labyrinth”という計画が発表されている。この作
品は、スペイン内戦後の社会を13歳の少女の目を通して描い
たダークファンタシーということで、2002年スティーヴン・
フリアーズ監督の“Dirty Pretty Things”に出演したセル
ジ・ロペスや、1994年のアカデミー賞外国語映画部門を受賞
した“Belle epoque”に出演のマリベル・ヴェルドゥ、アリ
アドナ・ジルらが共演し、7月に北部スペインで撮影開始さ
れることになっている。
 さらにデル=トロは、英語でアレクサンドル・デュマ原作
の“The Count of Monte Cristo”を撮る計画を進めている
他、同社からはスペインの新人監督ホアン・アントニオ・バ
ヨナによるゴーストストーリーで、“El Orfanato”という
作品の製作も計画されているようだ。
 しかし、人気監督の2人にはすでに各社と結ばれた契約も
残されており、デル=トロはリヴォルーションで“Hellboy
II”の脚本を手掛ける他、キュアロンはワーナーとの3年契
約の下で複数の計画が進行中とのこと。当分は大変の状況が
続きそうだが、頑張ってもらいたいものだ。
 なおこの会社にはもう1人、メキシコ出身で“21 Grams”
などのアレハンドロ・ゴンザレス・イナリトゥ監督も参加を
呼びかけるようだ。
        *         *
 次も、個人的な映画プロダクションの話題で、『ヘルレイ
ザー』などの小説家で映画監督のクライヴ・バーカーが、映
画製作者のジョージ・サラレジーと組んで、バーカ−が先に
発表した全6巻の短編集“The Books of Blood”や、彼のオ
リジナルアイデアに基づくホラー映画を、年2作ずつ製作し
て行く計画を発表している。
 そしてその第1作として、短編集に所載の作品から“The
Midnight Meat Train”の映画化が、レイクショアの資金調
達で製作されることになった。この作品は、ニューヨーク在
住の写真家が「地下鉄の殺人鬼」の噂を追求して行く内に、
邪悪な秘密に導かれて行くというもの。ジェフ・ビューラー
の脚色で、クリーチャーデザインのヴェテラン=パトリック
・タトポウロスが監督、この秋の撮影が予定されている。
 さらにバーカー原作の“Pig Blood Blues”がアンソニー
・ディブラシの脚本で、またバーカーのオリジナルアイデア
による“New York Resurrection”がジョン・ヘファーナン
の脚本で、それぞれ2006年に映画化が予定され、続いてバー
カーの原作から“Age of Desire”がチャールズ・カンツォ
ネッリによって脚色が進められているということだ。
 この他、バーカーとセラレジーは、ハル・メイスンバーグ
とティール・ミントンによるオリジナル脚本“The Plague”
という作品を、メイスンバーグ監督でこの夏に撮影を計画し
ており、さらに、ロリ・ラーキンという脚本家のオリジナル
アイデアによる“Revelation”という計画も進めている。 
 そしてこれらの作品では、全ての脚本にバーカーが最終的
な磨きを掛けるということで、バーカーはこれらの作品を全
てRレイトに仕上げるとしている。またバーカーは、「自分
がPG−13の作品を作ったら、遠慮なく外に連れ出して撃って
くれ。我々の望みは、あなたたちが我々はちょっと狂ってい
ると思ってくれることだ」と抱負を述べたということで、か
なり飛んでる映画が作られそうだ。
 またこのプロダクションでは、旧作のリメイクやシリーズ
化も目指すとしているが、それらも単に温め直したような作
品ではなく、常に新鮮なものが盛り込まれた作品を作り出す
ということだ。
 配給会社は、資金調達などの関係で作品ごとにばらばらに
なりそうだが、ちょっと期待して見ていきたい。
        *         *
 最後に短いニュースを2つ。
 まずはソニーから、“Monsters Imc.”の脚本家コンビ、
ロバート・L・ベアードとダニエル・ガースンのオリジナル
脚本による“Monster Hunter”の映画化を、ウィル・スミス
の製作で行うという計画が発表された。 
 この作品は、ビッグスケールの実写によるファミリー・ア
ドベンチャーということで、主演には“Hitch”(最後の恋
のはじめかた)でスミスと共演したケヴィン・ジェイムズの
起用が報告されている。
 そして彼が演じるのは、子供相手の精神科医の役で、実は
彼にはモンスターを見る潜在能力があり、その能力を使って
洋服箪笥やベッドの下に潜むモンスターを見つけ出しては退
治していたのだが、ある日、とんでもないモンスターに遭遇
してしまう…というお話。つまり『モンスターズ・インク』
の流れをそのまま引き継いだような作品ということになりそ
うで、これを実写とVFXで描き出すというものだ。
 なお主演のジェイムズは、8年間主演したテレビシリーズ
を撮り終えたところで、これから本格的に映画界への進出を
狙っているようだが、すでにディズニーで“Field Trip”と
ニューラインで“Man in Unform”という作品に出演してい
るものの、大型作品への主演は初めてとのこと。そして今回
は“Hitch”の出演で意気投合したスミスが製作を担当して、
彼にちょうどいい脚本を捜していたところ、この企画が見つ
かったということだ。
 撮影時期や監督などは未定のようだが、製作を担当するス
ミスは、『インディペンデンス・デイ』から『メン・イン・
ブラック』までこの手の大型作品には何度も主演しており、
その経験が製作に活かされることを期待したい。
        *         *
 もう1本はディズニーで、実写とアニメーションの合成に
よる“Enchanted”という計画がようやく動き出しそうだ。
 この計画については、2003年5月1日付第38回や同年11月
1日付第50回でも題名を紹介しているが、実は1997年から進
められていたもので、準備にはすでに10年近い歳月が掛けら
れている。そして今回は、この計画に1999年の“Tarzan”の
アニメ版や、2000年の“102 Dalmatians”などを手掛けたケ
ヴィン・リマの監督起用が決まったものだ。
 お話は、アンダラシアと呼ばれるアニメーション世界の王
国の王女が、本物の恋を見つけるために王国を抜け出し、現
実世界のニューヨークにやってくる。そこで彼女は本物の恋
を見つけられるか…という展開だが、どうやらこのニューヨ
ークにアニメーションの住人が出没することになりそうだ。
 そして今回監督に決まったリマは、『102』では実写と
CGIの合成を経験済ということで、この計画にピッタリの
人材と考えられたようだ。また、『102』は全米の興行で
1億8300万ドルの数字を上げており、さらに海外の成績は国
内を上回ったということで、この実績も今回の起用につなが
った要因だろう。さらに『ターザン』では、全世界の合計で
4億4900万ドルの興行を記録しているそうだ。
 なお撮影は、ニューヨークで9月開始が期待されている。



2005年06月15日(水) 第89回(前)

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※このページは、キネマ旬報誌で連載中のワールドニュー※
※スを基に、いろいろな情報を追加して掲載しています。※
※キネ旬の記事も併せてお読みください。       ※
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 今回は、前回の積み残しの情報もいろいろあるので、早速
始めることにしよう。
 まずは“Star Wars: Episode III-Revenge of the Sith”
の興行成績で、全米3億ドル突破は17日目で達成された。こ
れは前回紹介した“Return of the King”の記録を抜くもの
だが、実は前回紹介したのは実写のみの記録だったようで、
その前にアニメーションでは“Shrek 2”の18日という記録
が在ったらしい。しかし、今回はその記録も破ったものだ。
 ということで、正真正銘の記録達成はめでたいことだが、
僕個人の心情としては、「“Episode VII”以降は最初から
検討されたこともない」と言われて以来、ルーカスには裏切
られたという思いが付き纏っているもので、今回の新記録も
素直には賞賛できないものだ。いずれにしても、この作品の
試写を僕が見ることはないと思うし、このサイトで僕がこの
シリーズについて書くのは、これが最後になりそうだ。
        *         *
 次はちょっと補足で、前回最後に書いた“Outlander”の
紹介に、ウェインスタイン兄弟による新会社ウェインスタイ
ン Co.の第1作としたのは、同社が発足してから発表された
新たな企画の第1号という意味だ。
 実際、同社では独立以前に発表されていた企画もディズニ
ーから引き取って進めており、先日のカンヌ映画祭では、ロ
ベルト・ロドリゲス、フランク・ミラー監督の“Sin City”
が、新会社傘下として兄弟が引き継ぐディメンション社初の
コンペ参加作品として上映されている。また、テリー・ギリ
アム監督、マット・デイモン、ヒース・レジャー、モニカ・
ベルッチの共演による“The Brothers Grimm”の20分間の特
別映像も新会社のプロモーションにより上映されたようだ。
 そして兄弟は、今年から来年夏に掛けて公開される彼らが
手掛けた18作品のスケジュールも発表している。
 それによると
8月12日公開で、ジョン・ダール監督、ベンジャミン・ブラ
ット主演による第2次大戦背景の救出劇“The Great Raid”
9月9日公開で、ロバート・レッドフォード、ジェニファー
・ロペス共演の“The Unfinished Life” 
9月16日公開で、ジョン・マッデン監督、グィネス・パルト
ロー主演の“Proof”
以上の3本は、ディズニーの下で長くお倉入りになっていた
もので、新会社が設立される9月30日以前にディズニーから
公開される。
 そして9月30日に新会社が発足されると、
10月21日公開で、クライヴ・オーウェン、ジェニファー・ア
ニストン共演のサスペンス作品“Derailed”
11月18日公開で、グレッグ・マクリーン監督によるホラー作
品“Wolf Creek”
同じく11月18日公開で、ピアズ・ブロスナン主演のブラック
コメディ作品“The Matador”
12月2日公開で、フェリシティ・ハフマン主演のダークコメ
ディ作品“Trasamerica”
12月16日公開で、チェン・カイコー監督、真田博之、チャン
・ドン・ゴン、セシリア・チャン共演による歴史エピック作
品“The Promise”
クリスマス公開で、スティーヴン・フリアーズ監督の“Mrs.
Henderson Presents” 
2006年1月6日公開で、クリスティーナ・リッチ主演のスリ
ラー作品“The Gathering”(2003年12月31日付紹介:日本
公開済)
1月20日公開で、2004年8月1日付第68回で紹介した「プロ
ジェクト・グリーンライト」の優勝のホラー作品“Feast”
2月初旬公開で、アンソニー・ミンゲラ監督、ジュード・ロ
ウ主演のドラマ作品“Breaking & Entering”  
3月3日公開で、ウェス・クレイヴン監督、クリスティン・
ベル主演による日本製ホラー『回路』のリメイク“Pulse”
3月17日公開で、エルモア・レナード原作、ジョン・マッデ
ン監督による“Killshot” 
4月14日公開で、デイヴィッド・ズッカー監督によるシリー
ズ第4作となる“Scary Movie 4” 
2006年春公開で、クェンティン・タランティーノとロベルト
・ロドリゲスがそれぞれ60分の監督作品を合体して発表する
“Grin House” 
2006年夏公開で、ロベルト・ロドリゲス、フランク・ミラー
が再度手を組む続編の“Sin City 2” 
これらのスケジュールが確定しているということだ。
 ただし10月以降の作品で、“Derailed”“The Matador”
“Breaking & Entering”“Scary Movie4”“Sin City 2”
の5本については、権利関係の都合でディズニーとの共同製
作となり、アメリカ国内は新会社、海外はディズニーの配給
となるようだ。
 以上が発表されたスケジュールだが、これらの作品はいず
れも兄弟がディズニー傘下の間に製作、企画されたもので、
言ってみれば旧体制の名残りの作品ということになる。これ
に対して前回紹介の“Outlander”は、10月の撮影開始で、
正真正銘の新会社の第1作となる予定のものだ。
 この他に同社では、カンヌ映画祭のマーケットに出品され
たドイツ製作のCGIアニメーションで“Hoodwinked! The
True Story of Red Riding Hood”という作品の北米配給権
も契約している。この作品は、ペロー童話の『あかずきん』
をモティーフに、ちょっと飛んでる刑事が事件の捜査を行う
という設定のもので、元ディズニーのアニメーション担当重
役だったスー・ベア・モンゴメリーの協力の下、ドイツの酒
造メーカーのバックアップで2年前に設立されたCGIスタ
ジオが製作に当っている。
 なお作品は、ハーヴェイ・ウェインスタインの発言によれ
ば、「今の時代にマッチした奇妙な作品。ユニークで、目か
ら鱗の落ちるような展開は、子供のイマジネーションを虜に
すること確実なもの」だそうだ。
        *         *
 ということで、前回のフォローアップは終了して、以下は
いつもの製作ニュースを紹介しよう。
 最初は、またまた続編の情報で、2003年公開のリメイク版
が全米1億ドル超のヒットを記録した“The Italian Job”
の続編の計画が発表された。
 この続編については、2004年8月1日付の第68回でも紹介
したものだが、実は前の紹介の時点ではすでに製作リストで
in productionとなっていた製作状況が、その後の9月29日
付でannouncedに変更され、進行がストップされたまま現在
に至っていた。つまりこの計画は一時頓挫していた訳だが、
今回はその計画が再び動き出したものだ。
 そして今回の情報では、“The Chronicles of Riddick”
などのデイヴィッド・トゥーイーが執筆した“The Wrecking
Crew”というオリジナル脚本のキャラクターを入れ替えて、
続編の脚本とするというもので、リオデジャネイロが主な舞
台となるこの続編の題名は、“The Brazilian Job”になる
と発表されている。
 因みにトゥーイーは、1993年公開アンドリュー・デイヴィ
ス監督による“The Fugitive”の脚本も担当しているが、最
近の“Pitch Black”や“Riddick”では自作脚本を自ら監督
しているものだ。そして今回の脚本も、本当は自分で監督す
るつもりでパラマウントに提出したものだったそうだが、製
作者との会見に呼ばれて、その席で続編として映画化するこ
とを説得されたということだ。なお続編の監督には、前作を
手掛けたF・ゲイリー・グレイの担当が契約されている。
 この経緯に関してトゥーイー自身は、「ゲイリーは、先の
リメイクでスタイルを確立しているし、続編という形で作る
なら彼が最適だと思う」と納得して身を退くことを決めたよ
うだ。また、このように他の脚本で続編を作るケースでは、
最近では“Honor Among Thieves”という脚本から“Ocean's
Twelve”が作られた例があるし、1995年のシリーズ第3作
“Die Hard With a Vengeance”が、“Simon Says”という
別の脚本から作られたのも有名な話だ。
 なお、以前に紹介されていた続編では、ヨーロッパを舞台
にするということだったが、今回の舞台は上にも書いたよう
にブラジル。リオデジャネイロの街を舞台に、またまた奇想
天外な強奪劇が展開されそうだが、パラマウントとしては、
この街にマーク・ウォルバーグ、シャーリズ・セロンらオリ
ジナルキャストを再結集させる方針で、これから出演交渉を
進めるということだ。
 一方、今回の続編の計画に対しては、すでに複数の自動車
メーカーから自社の車を登場させてもらえないかとのアプロ
ーチが来ているということで、前作でミニクーパーが演じた
役柄を続編ではどこの車が勝ち取るかも注目になりそうだ。
ただし日本では、大元の1969年のイギリス映画がミニクーパ
ーを使用していたことから『ミニミニ大作戦』という邦題を
付けたものだが、もし車種が替ってしまったら、これは一体
どうなるのだろうか。
        *         *
 ところで、上記の企画では監督から身を退いたトゥーイー
だが、実は別のオリジナル脚本を監督する契約を、パラマウ
ント傘下のニッケルオデオンと結んでいた。
 この作品は、“The Would-Be Warrior”と題されているも
ので、お話は、北欧神話の数100年に及ぶ神々の争いに現代
の15歳の少年が巻き込まれるというもの。トゥーイー自身の
説明では、『ジュマンジ』のようなファンタシーアドヴェン
チャーということだが、「VFXやアクション満載で、剣と
魔法の物語の雄大な雰囲気も取り入れた、目茶苦茶面白い物
語」だそうだ。
 また、この他にトゥーイーの関連では、ソニー傘下のコロ
ムビアで、“The Break”というSF映画の計画も進行して
いる。
 この作品は、実はコロムビアで長年に亙って進められてき
た“Alien Prison”という企画を改題して再検討しているも
ので、元の計画に関しては2003年7月15日付の第43回でも紹
介しているが、“Air Force One”などのアンドリュー・マ
ーロウのオリジナル脚本から、すでに何人もの脚本家が検討
を繰り返してきたものだ。
 お話は、異星人の牢獄に捕えられた地球人の一団が、脱走
して異星人による地球征服に抵抗するというもの。このアイ
デアに今回はトゥーイーが挑戦する訳だが、トゥーイーは、
「(製作担当の)ダグ・ウィックも自分も、1953年の『第17捕
虜収容所』から1967年の『暴力脱獄』までの古典的な脱獄映
画の大ファンで、これらの作品のテーマを再発見できるよう
な作品にしたい」と語っている。
 上記の続編の製作にはタッチしないことが表明されている
トゥーイーだが、さて彼自身の次回作には、ファンタシーと
SFのどちらを先に進めてくれるのだろうか。
        *         *
 続いても続編の情報で、2006年5月26日の全米公開が決定
されている“X-Men 3”について、監督をブレット・ラトナ
ーが担当することが発表された。
 この監督については、イギリス人のマシュー・ヴォーンが
先に発表されていたものだが、新たな出演者の選考や新たな
スタッフの決定が行われ、最後のロケーションハンティング
の開始を目前にした時点で、ヴォーンが家庭の事情を理由に
降板を表明。急遽、交替監督との交渉が行われた結果、ラト
ナーとの契約がまとまったということだ。
 因みにラトナーは、コミックスフリークとしても知られ、
実は“X-Men”の第1作の製作時にも監督候補に挙がってい
たということだ。しかしこのときは、ブライアン・シンガー
にその席を奪われてしまっていた。そして今回は、シンガー
が“Superman Returns”の監督のため降板した後を引き継ぐ
ことになった訳だが、ラトナーは一昨年には“Superman”の
復活計画にタッチしていたこともあり、何となく因果は巡る
という感じになってくる。
 また、フォックスとラトナーの関係では、先にショーン・
コネリー主演による“Josiah's Canon”という怪盗ものの計
画が撮影寸前まで進められていたが、コネリーが降板を表明
したために頓挫したという経緯があるようで、今回はその関
係修復の意味もあるようだ。
 ただしこの計画が進むと、前々回紹介したニューラインで
進められている“Rush Hour”の第3作の計画が実現不可能
になってしまうものだが、実は、前の情報ではジェフ・ネイ
ザンスンのアイデアが気に入っていると伝えられたクリス・
タッカーが、その後に契約を渋り出し、結局降板ということ
になっている。この事態にラトナーとしてはなす術が無く、
ニューラインはマーティン・ローレンスらに代役の交渉はし
ているようだが、当面製作は延期ということのようだ。これ
なら別の作品に行くのも仕方のないところだろう。
 なお“X-Men 3”の撮影は、オリジナルキャストの大半が
再結集し、ザック・ペン、サイモン・キンバーグの脚本によ
り、8月に開始されることになっている。
 それにしても、親友マイクル・ジャクスンの裁判が完全無
罪で終って、クリス・タッカーの気が変わるなんてことはな
いのかな。
        *         *
 お次は、2004年3月15日付の第59回で紹介した“The Fast
and the Furious 3”の情報で、監督を台湾出身のジャステ
ィン・リンが担当することが発表された。
 このシリーズでは、2001年公開の第1作はロブ・コーエン
監督、ポール・ウォーカー、ヴィン・ディーゼル、ミシェル
・ロドリゲスの共演で製作され、“2 Fast 2 Furious”と題
された2003年の第2作はジョン・シングルトン監督、ウォー
カー、タイリーズ、エヴァ・メンデスの共演で製作されたも
のだが、今回発表された第3作では、前作までのキャストは
誰一人出演せず、第1作以来の継続するスタッフキャストは
製作のニール・モリッツだけという状況で、物語のコンセプ
トだけが共通するシリーズがどれだけ通用するか、かなりの
ギャンブルと見られているようだ。
 なお物語は、以前に紹介したように東京を舞台にしたもの
で、違法なストリートレーシングを繰り返したためにアメリ
カを追われた若者が、ドリフトレースのメッカ東京に現れ、
ヘアピンやカーブの連続する東京の街で新たな挑戦を繰り広
げるというもの。前2作のレースは直線コースが主だったか
ら、これは確かに新たな挑戦になりそうだ。
 撮影は、この初秋からアジアとアメリカで行われるという
ことだが、さて警視庁がこのテーマでの映画撮影で、道路の
使用を許可するものか否か。まあ最後の手段は、似た街並の
別のアジアの都市で撮影することになるのだろうが、仕上が
りが楽しみだ。
 それと前2作は、いずれもの警察の潜入捜査が物語の背景
にあったが、今回もそれは踏襲されるのかどうか。そうなる
と警視庁の判断も微妙になってきそうだが、クリス・モーガ
ンの脚本は一体どうなっているのだろう。
 それから、第3作では前作までのキャストは誰一人出演し
ないということだが、第2作には日系女優のデヴォン青木が
出演していたもので、折角日本が舞台なら、彼女ぐらいは繋
ぎの意味で登場させてもいいと思うのだが、キャスティング
はまだ未発表のようだ。
 因にリン監督は、タッチストーンで“Annapolis”という
作品の監督を終えている他、ユニヴァーサルで進められてい
る韓国映画『オールドボーイ』のリメイクの監督も担当して
いるということだ。
        *         *
 今回は第3作の話題が多いが、その最後はフランスから、
2002年製作の第2作『ミッション・クレオパトラ』が日本で
も公開された人気コミックス“Asterix le Gaulois”の映画
シリーズ第3弾として、“Asterix aux Jeux Olympiques”
(Asterix at the Olympic Games)の計画が発表された。 
 この計画については、2003年6月15日付第41回で紹介して
いるように、前2作の国内での大ヒットを受けてフランスの
パテ社が計画を発表していたものだが、実はこのとき用意さ
れた映画化の脚本が原作の権利者の気に入らず、計画を放棄
せざるを得ない状況に陥っていた。
 しかし、18カ月前に前2作を手掛けた前製作者クロード・
ベリの息子のトーマス・ラングマンが新たな計画を発案し、
これを権利者に諮ったところ映画化の許可が得られたという
ことで、晴れて今回の発表となったものだ。これについてラ
ングマンは、「長い道程だったが、今はもう過去のことだ」
と述懐していた。なお以前の計画は、原作の第14巻に基づく
ものだったが、今回の計画は第12巻に基づくようだ。
 撮影は来年3月に開始され、フランスでの公開は2007年の
初頭に予定されている。ただし前回の記事でも書いているよ
うに、アステリックス役のジェラール・ドパルデューは再登
場するものの、オベリスク役のクリスチャン・クラヴィエは
降板の意志が固いようで、ラングマンは新しいオベリスク役
を捜すことになりそうだ。
 また、第1作でロベルト・ベニーニ、第2作でモニカ・ベ
ルッチが務めたゲストスターには、今回はアラン・ドロンと
ジャン=クロード・ヴァンダムが予定されている。因にこの
キャスティングも、権利者の気に入ったようだ。
 製作費は米ドル換算で4000万ドルが予定され、これはシリ
ーズ第1作の“Asterix and Obelix vs.Caesar”が記録した
フランス映画製作費の最高額を更新するものになるそうだ。
≪今回も情報が多いので、明日付で続きを掲載します≫



2005年06月14日(火) ナニワ金融道、七人の弔、メゾン・ド・ヒミコ、輝ける青春、世界、マイ・ファーザー

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介しています。     ※
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
『ナニワ金融道』                   
青木雄二原作からの漫画の映画化。主人公が街金と呼ばれる
違法ぎりぎりの金融道に入って行く過程が描かれる。   
杉浦太陽扮する主人公の灰原達之は、勤めていた会社が、社
長が街金に手を出したために倒産し、大阪に流れてくる。そ
こでふと知り合った男(生瀬勝久)から街金の就職口を紹介
され、上の経緯から最初は躊躇したものの、ガールフレンド
(鈴木紗理奈)も紹介されて仮採用として働き始める。
そして、社長(津川雅彦)や先輩(杉本哲太)の仕事振りを
見ながら、一から金融道を身に付けて行く。さらに、ライヴ
ァル(豊原功補)の出現によって、一世一代の大勝負を受け
て立つことになるが…          
何しろ主人公が素人からスタートする展開なので、観客にも
分かり易くいろいろな裏金融の手口が紹介される。また、そ
れに絡んで詐欺の手口なども紹介され、話には聞いたことが
あっても映像で紹介されると、結構納得できて勉強になった
感じだ。                       
その辺がマニュアル的に整理されていて、分かり易いのも本
作の特徴と言えそうだ。この辺は、昔の伊丹十三映画に通ず
るところもある。                   
脚本、監督は茅根隆史。本作が劇映画第1作の監督は、元々
がドキュメンタリーの出身だそうで、その経験から物事を分
かり易く整理するのは習い性というところもあるのかも知れ
ないが、独り善がりに陥っていないのはさすがという感じも
した。                        
また、人間関係をべたべたと持ち込まないのも良い感じで、
まあ、逆にその辺が完成後2年間もお倉入りしていた原因な
のかも知れないのだが、こういうクールな作品が好きな僕に
は好ましかった。                   
と言っても、日本の観客は泣きが入らないとなかなか見に来
てはくれない訳で、監督にはその辺を第2作までに研究して
もらいたいというところか…。ただしこの監督は、泣きで撮
らせればちゃんとやれる実力はありそうで、僕としては本編
のクールさは保ってもらいたいし、これはかなり難しい注文
になりそうかな?                   
                           
『七人の弔』                     
タケシ軍団のタレントで構成作家でもあるダンカンの初監督
作品。元々が構成作家を目指して弟子入りした人と聞いてい
たので、とっくに監督デビューも果たしているものと思って
いたが、本作が第1作ということで、まさに満を持しての作
品のようだ。                     
山間地のキャンプ場に向かう7組の親子(7人の子供と9人
の親)。一見普通の親子キャンプのように見えるが、だんだ
んそれが尋常でない状況を孕んでいることが説明される。集
まっている親子は、いずれも過去に親による児童虐待が問題
になった家族なのだ。                 
では何故、そのような家族が親子キャンプに集まっているか
というと…監督自身が演じるキャンプ場の案内人によって、
その背景が徐々に明らかにされて行く。         
大括りではこんな話だが、この案内人の悪魔の手先のような
描き方が映画全体を引き締めて、一種のファンタシーのよう
な雰囲気に仕上がっていた。              
児童虐待のニュースが毎日のように報道される今日では、こ
のようなことが行われていても何ら不思議はない。そんなこ
とを思わせる作品。脚本も手掛けたダンカンの着眼点は良い
と思う。しかも、それがかなりブラックに展開して行くとこ
ろはまさに期待通りの作品だった。           
結末は予想通りと言うか、まさにこれしかないのだが、この
場合に一番肝心なのは、この結末に持って行く過程の描き方
だろう。その点でこの脚本は見事にそれを解決している。こ
の脚本のうまさも気に入ったところだ。         
各人の思いや思惑が交錯して、それでもこれしかない結末と
いうのが切なくもあり、これが、この映画の結末だけでは終
らない拡がりのようなものも感じさせてくれた。     
子供たちの初々しい演技に対して、大人たちの泥くさい演技
も演出の方針だろうが、そのコントラストの付け方も良かっ
た。また、その間に入ったダンカンの無表情な演技も壺に填
っているし、最後のほっとしたような表情が、監督(脚本家)
本人の姿勢を表わしている感じもしてよかった。     
                           
『メゾン・ド・ヒミコ』                 
『ジョゼと虎と魚たち』の犬童一心監督と脚本家の渡辺あや
が再び組んだ作品。                  
と言っても、実は当初は大島弓子原作『つるばらつるばら』
の映画化が計画されていたが、製作費の高騰により挫折。そ
の替りに進められた企画だったが、さらに後にスタートした
『ジョゼ』が先行したのだそうで、本当はそれより先に練ら
れていたものだそうだ。                
ということで、本作は大島作品の流れを引き継いでのゲイの
物語ということになる。                
母子家庭に育ち、母親が死んでからは一人で生きてきた女性
のところに、若い男性が現れる。彼は彼女の父親の愛人だと
名乗り、死の床にいる父親に逢いに来るように要請する。し
かし幼い頃に母と自分を捨て、ゲイとなった父親を彼女は許
すことができない。                  
とは言え、結局彼女はその男性に説得され、父親が設立した
メゾン・ド・ヒミコと名付けられたゲイ専門の老人ホームで
日曜日だけの賄いのアルバイトをすることになる。そして、
父親との再会も果たすのだが…             
その老人ホームには、老いて行き場の無いゲイたちが、行く
末の不安を抱えながら寄り添うように暮らしていた。そして
そのホームで、ゲイ特有の、あるいは一般にも通じるいろい
ろな事件が起って行く。                
以前にも書いたと思うけれど、僕はゲイを描いた映画が基本
的に好きではない。別段、同性愛者を差別するつもりはない
し、その行為をとやかく言うつもりはないが、特に映画の場
合は、そうでない人が演技でしている感じが、嫌悪感につな
がっているような気もする。              
僕の基本姿勢はそういうことであるが、しかしこの映画に関
しては、そういうことを超越して、見ていて感動させられる
作品に仕上がっていた。ある意味『ジョゼ』にも通じる、世
間から特別視されながらも懸命に生きている、そんな人々の
物語だ。                       
また本作では、観客の目として登場する柴咲コウ演じる主人
公の女性の描き方が、見事なメイクダウンでありながら嫌み
でなく、むしろ愛らしく描かれていて、その脚本、演出、メ
イク、演技の全ての面で素晴らしかった。        
その彼女の存在のおかげで、この物語に部外者でありながら
すんなりと入って行ける、そんな脚本が特に見事だ。オダギ
リジョー、田中泯らが共演。なおプロローグのナレーション
を筒井康隆が務めていて、戦後の銀座ネオン街を語っている
のも面白かった。                   
マイノリティに光を当てる犬童=渡辺のコンビの作品には、
今後も注目したい。                  
                           
『輝ける青春』“La meglio gioventu”         
1966年から2003年までのイタリア・ローマに暮らす一家の姿
を追った上映時間6時間5分の大作ドラマ。       
主人公は1948年生まれと49年生まれの兄弟。彼らの学生生活
から社会人となり、初老と言える年代に達するまでの37年間
が描かれる。                     
実際のところ、僕はもろに彼らと同じ年代な訳で、生活環境
にも通ずるところがあるし、また描かれる社会状況なども、
見覚え聞き覚えのあるものばかりで、それらを頷きながら見
ている内に、長丁場をだれることもなく見終えた。    
そこには、大学紛争やヒッピーたちによる自然回帰の行動、
また映画の中では「赤い旅団」によって代表される共産系テ
ロ活動、さらに水害や噴火などの自然災害。その一方で結婚
や離婚など、この時代に起きた様々の出来事が描かれる。 
それにしても、20世紀の前半は戦争に代表される国家レヴェ
ルでの激動の時代だったが、同じ世紀の後半が個人レヴェル
で如何に激動の時代であったのか、それが見事に描かれた作
品とも言える。                    
物語は、兄弟と彼らを挟んで姉、妹と両親の一家を中心に進
められるが、その妻や友人たち、また兄弟が関わる精神病患
者の女性や、さらに兄弟の子供たちの世代へと広がって、壮
大な時代絵巻が描き出されて行く。           
僕自身は、多分この中では兄の存在に一番近いかも知れない
が、ここに登場する人物たちの誰であってもおかしくない。
恐らくは、どこかで一歩違えれば誰か別の存在になったかも
知れない、そんな気持ちにもなった。それくらいに全てが近
しい感じの作品だった。                
21世紀になって4年が経ち、いよいよ20世紀後半を見直す機
会が増えてきそうだが、その一助とするには格好の作品と言
えそうだ。                      
また映画では、ローマ、トリノ、フィレンツェ、ミラノ、パ
レルモ、そしてストロンボリ島などの、イタリア中の風景が
次々に登場し、それらが全て現地ロケで写されているのも、
美しく素晴らしかった。                
                           
『世界』“世界”                   
『青の稲妻』などのジャ・ジャンクー監督による2004年ヴェ
ネチア国際映画祭出品作品。              
監督の2002年の前作はどうも僕にはピンと来ない作品で、評
価もできなかったものだが、本作を見ると、なるほど各国の
映画祭がこぞって出品を求める監督という感じがした。  
舞台は、北京郊外のテーマパーク「世界公園」。世界40カ国
の109カ所の著名な建築物が10分の1縮尺のレプリカで見学
できるこの公園には、園内を巡回するスカイウェイが設けら
れ、中央にはシンボルでもある3分の1縮尺のエッフェル塔
がそびえ立っている。                 
主人公は、この公園のホールで毎日上演されるアトラクショ
ンに出演する女性ダンサー。故郷を離れ、憧れの北京にやっ
てきたが、ショウダンサーの生活は楽ではない。そして、入
れ替わりの激しいダンサーの中では、今や姐さんと慕われる
存在になっている。                  
そんな彼女を中心に、「世界」という名の舞台で働いていな
がら、本物の世界には出て行くこともできない。夢を描きな
がらも、その夢を実現できない若者たちの、ほろ苦い現実が
描かれて行く。                    
もちろん、毛沢東の巨大な肖像画が飾られ、互いを同士と呼
びあう国と、自分の住む国との違いは大きい。しかしそこに
描かれる若者の夢や希望や悩みは、全てが万国共通ではない
にしても通じ合うところは沢山ある。そんな共感を覚える作
品だった。                      
2008年のオリンピック開催を目指して次々に変貌して行く北
京。しかし、その変貌を目の当りにしていても、1歩踏み出
すことをためらう若者たち。そんな切なさが手に取るように
感じられた。こんな青春、今の日本にもあるのだろうか。 
なお、映画の舞台は北京に実在する「世界公園」だが、実際
の撮影は深センにあるさらに大規模な「世界之窓」で行われ
ている。日本にも鬼怒川などに同様の施設があり、僕も見に
行ったことがあるが、そのスケールの差はさすが中国という
感じだった。                     
因みに、本作が監督と3度目のコラボレーションとなった主
演のチャオ・タオは、「世界之窓」でショウダンサーをして
いたことがあるそうだ。                
                           
『マイ・ファーザー』“My Father-Rua Alguem 5555”   
1985年、ブラジル・マナウスの墓地に白骨遺体で発見された
ナチス戦犯ヨゼフ・メンゲレと、彼の息子ヘルマンの姿を描
いたドラマ。息子役に『戦場のピアニスト』でドイツ将校を
演じたトーマス・クレッチマンが扮し、父をチャールトン・
ヘストンが演じる。                  
1976年、メンゲレの息子ヘルマンは、ある手引きによってブ
ラジルを訪れる。その目的は戦犯でありながら逃亡を続ける
父親と会い、自分の考えを父親に告げることだったが…  
1960年代後半の西ドイツ学生運動のリーダー格としても知ら
れたピーター・シュナイダーが、1987年に発表した実話に基
づく小説“Vati”(父)を、イタリア人でドキュメンタリー
出身の監督エジディオ・エローニコが12年の歳月を掛けて映
画化した。                      
ヘストンは、オスカー俳優でありながら1968年『猿の惑星』
に始まって、『ソイレントグリーン』『オメガマン』とSF
映画を連発し、自分の好きなSF映画の隆盛に寄与してくれ
た俳優として感謝している。              
しかし、マイクル・ムーアの『ボウリング・フォー・コロン
バイン』で描かれたように全米ライフル協会々長として反動
的な言動を繰り返し、さらにムーアの直撃インタヴューの有
り様では幻滅を感じざるを得なかった。         
そのヘストンがメンゲレを演じるというのは、一体どんな心
境なのかは計り知れないが、確かに堂々と持論を述べ続ける
メンゲレの姿には、周囲を圧倒する強さがあり、その意味で
このキャスティングは見事と言える。          
そして、その強さがそれに立ち向かうこともできなかった息
子の弱さをさらけだし、それは観客の僕らにも刃を突きつけ
る。今、A級戦犯を祀る神社に毎年参拝する首相の姿を見る
とき、自分らもこの息子と同じなのではないか、そんなこと
を思わされた。                    
先日『ヒトラー』の映画を見たばかりで、今度はメンゲレ。
時代を検証する気運の中での作品とも言えるが、先日の作品
が何か反動的な雰囲気を醸していたのに対して、本作は率直
に過去の罪を告発しているように感じられる。      
ただし本作の製作は、イタリア・ブラジル・ハンガリー合作
で、ドイツは入っていない。敢えて言えば、『ヒトラー』は
ドイツの映画会社の製作だった。そんなドイツと日本が今、
国連で常任理事国入りを目指している。これはまさに茶番と
言えそうだ。                     



2005年06月01日(水) 第88回

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※このページは、キネマ旬報誌で連載中のワールドニュー※
※スを基に、いろいろな情報を追加して掲載しています。※
※キネ旬の記事も併せてお読みください。       ※
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 今回はこの話題から。
 5月19日に全米で公開された“Star Wars: Episode III-
Revenge of the Sith”について、日本のマスコミは興行記
録の更新と、自分のことのように浮かれているようだが、そ
うなると、いや待てと言いたくなるのがへそ曲がりな自分の
性分で、ちょっとその辺の状況を解説したくなった。
 実は今回の興行記録に関して、公開翌週の火曜日5月24日
にVariety紙のウェブサイトに発表された歴代オープニング
記録では、“Episode III”の数字は1億840万ドル。これは
“Spider-Man 2”の1億1580万ドル、“Spider-Man”の1億
1480万ドルに及ばず、“Shrek 2”の1億800万ドルを漸くか
わして3位に食い込んだに過ぎないものだ。
 しかしフォックスは、封切り3日間の興行成績は1億2470
万ドルの新記録と主張しているのだが、では何故このような
違いが出るのかというと、実はVariety紙などで興行記録と
して残されるのは、封切り後の最初の週末3日間(Opening
Weekend)の記録をいうもので、ここで週末というのは金土
日を指すものなのだ。
 これは、アメリカの映画興行が通常金曜日に封切りになる
ためなのだが、今回“Episode III”の場合では、封切りが
木曜日であったために初日の数字が加算されず、2−4日目
の合計が記録の対象となってしまったのだ。この記録の採り
方が合理的かどうかは議論の余地があるところだが、現実に
そう決められているのだからこれは仕方がない。
 つまりこの記録の採り方では、最近の週半ばに封切る方法
が不利であることは間違いないのだが、実は不動の第1位の
“Spider-Man 2”は、“Episode III”よりさらに早い水曜
日に封切られたもので、それでこの数字を残していると言う
ことは、封切りの方法などに多少のテクニックはあるようだ
が、単純に“Spider-Man”の人気の根強さを物語っていると
も言えるものだ。
 一方、“Episode III”について言えば、初日の5月19日
の1日だけで5000万ドルという途方もない初日の数字が尾を
引いているもので、その後の推移は、1日ごとでは必ずしも
“Spider-Man 2”を上回っているものではない。実際にもう
一つの記録として残される1億ドル突破、2億ドル突破の日
数記録では、いずれも3日目と8日目で“Spider-Man 2”と
並んでいるもので、初日の分を差し引くとその間の数字では
“Spider-Man”を下回っているとさえ言えるのだ。
 さらにこの後の記録では、3億ドル突破の最速が“Return
of the King”の22日目で、“Spider-Man 2”は25日目だっ
たものだが、今後この記録を抜くことが出来るか否か、これ
を抜いたときに初めて、新記録達成と言えることになりそう
だが…、その日限の21日目は6月8日となるようだ。
 以上、“Star Wars: Episode III-Revenge of the Sith”
の興行記録について思うところを書いてみた。なお上記の記
録は、いずれも米国内(カナダを含む)を対象としたもので、
海外分は数字に含まれない。
 以下は、いつものように製作ニュースを紹介しよう。
        *         *
 まずは続編の情報が、今回はまとまって届いている。
 最初は1990年に公開された“Dick Tracy”について、前作
を自らの製作、監督、主演で発表したウォーレン・ベイティ
が、その続編を計画していることが報告された。
 この情報は、実はベイティが起した裁判によって明らかに
なったもので、この裁判では、原作の権利を保有しているト
リビュート新聞出版社に対して、ベイティが同作品の映画化
に関する権利を現在も所有していることの確認を求めるとい
うもの。そしてこの権利が確認されれば、ベイティは同作の
続編を製作する意向ということだ。
 1990年の作品は、ベイティの他にマドンナやアル・パチー
ノ、ダスティン・ホフマンらが共演、全米興行では1億ドル
を達成して同年の第9位にランクされ、ガイドブックなどの
評価も高いものだったが、ベイティが希望した続編の製作に
は配給元のディズニーがOKを出さなかった。この結果、続
編も見込んで準備を行っていたベイティの許には3000万ドル
の負債が生じたということだ。しかし今年になって、ディズ
ニーは配給に伴ってベイティから譲渡されていた各種の権利
を返却し、ベイティはディズニーの許可なしに続編の製作を
できることになった。
 そこで最後の関門がトリビュート社となる訳だが、実は同
社とディズニーの間では同原作のアイスショウの上演権がベ
イティとは無関係に結ばれており、それとの関係が多少問題
として残っているようだ。このためベイティは裁判に訴えて
その権利の所在を確認しようというもので、別段これでこと
を構えようというものではない。できれば裁判が早期に決着
して公明正大に続編が作られることを望みたいものだ。
 ただ、僕個人の印象としては、前回の映画化は原作コミッ
クスに忠実であり過ぎたために、ちょっと予想と違う感じが
した。実際僕が予想したは、テレビアニメーションに基づく
もので、もっとアクションが多いものと思っていた。しかし
最終的にアメリカでの評価の高さを見ると、やはりアメリカ
では原作コミックスの印象が勝っているもので、その点では
僕は自分の評価を変えなければいけないようだ。
 続編が公開されたら、今度はそういう見方で見ることにし
たいと思う。
        *         *
 お次は、“Dogville”に続く“Manderlay”がカンヌ映画
祭で公開されたラース・フォン・トリアー監督のアメリカン
トリロジーで、最終話となる第3作“Wasington”(原綴り
のまま)の計画が発表され、主人公のグレース役にニコール
・キッドマンが復帰することが報告された。
 このシリーズでは、元々は第1作でグレースを演じたキッ
ドマンが3作全てに主演することが計画されていた。しかし
第2作の撮影直前にキッドマンは降板を表明し、替って第2
作の主演はブライス・ダラス・ハワードが演じていた。とこ
ろが第3作の準備段階でフォン・トリアー監督と話し合った
キッドマンは、第3作に再登場することを決意、一方、同様
の話し合いを監督と持ったハワードも出演を希望して、第3
作では2人がグレースの役を分割して演じるということだ。
 この3部作は、壁のないセットや暗幕だけの背景など、元
来が極めて実験的な作品ではあるが、これにさらに1人の主
人公を2人の女優が演じるということでは、まさに前代未聞
の実験映画になりそうだ。ただし監督は、この状況を取り入
れるために脚本の執筆にはさらに多くの時間が必要だとして
おり、また監督には、来年撮影の別の計画も進行中というこ
とで、第3作の撮影は早くて2007年からになるようだ。
        *         *
 続いて、トム・クルーズ主演のシリーズ第3作“Mission:
Impossible 3”が7月にイタリアで撮影開始されることが
発表された。
 この作品では、昨年の夏に監督がジョー・カーナハンから
J・J・エイブラハムズに交替されて、一から計画が再構築
されていたもので、予定より1年近く遅れてようやく撮影開
始となるものだ。
 そして今回の発表では、共演者としてジョナサン・リス=
メイヤースと、ヒロイン役にミシェル・モナハンの起用が発
表されている。因にリス=メイヤースは、2002年の『ベッカ
ムに恋して』に出演しているが、今年のカンヌ映画祭で上映
されたウッディ・アレンの新作“Match Point”にも主演し
ているということで、若手の有望株のようだ。
 一方、本作では、先に出演が予定されていた女優がすべて
キャンセルされたことでも話題になったが、それに替るヒロ
イン役のモナハンは、2004年6月15日付第65回で紹介したジ
ョージ・クルーニー、マット・デイモン主演の“Syriana”
にもヒロイン役で出演しており、こちらも売り出し中の女優
のようだ。
 そしてもう1人、共演女優としてミシェル・ヨーの名前が
挙がっている。ヨーは、007にも出演するなどアジアを代
表する女性アクションスターだが、実はディノ・デ=ラウレ
ンティスが進めているハンニバル・レクターシリーズの前日
譚“Behind the Mask”にも出演が要請されているそうで、
この2作は撮影時期が重なるためにどちらを取るか苦慮して
いるようだ。ただしこの前日譚には、先にコン・リーの名前
も挙がっていたはずだが、その関係はどうなっているのだろ
うか。
 さらに“M: I 3”に関してでは、トム・クルーズの他に、
前2作に出演した相棒役のヴィング・レームの再登場も予定
されているようだが、物語については完全な秘密主義が守ら
れているようだ。
        *         *
 1982年に公開されたマペット主演によるファンタシー作品
“The Dark Crystal”の続編の計画が、ジム・ヘンスン Co.
から発表されている。
 オリジナルは、当時「マペットショウ」などの脚本を担当
していたデイヴィッド・オデルが執筆した脚本を、マペッツ
の創始者ジム・ヘンスンと盟友のフランク・オズの共同監督
で映画化したもので、闇の力で世界を支配していたクリスタ
ルを、ジェンとキラという名前の妖精のようなイメージの異
形キャラの主人公2人が封じるというもの。この主人公から
敵怪物までの全てのキャラクターをマペットで演じるという
ことでも異色の作品だった。
 ただし当時の感覚では、この作品が大人向けなのか、「セ
サミ・ストリート」でお馴染みのマペッツの人気を見込んだ
子供向けなのか判然とせず、結局、作品としての評価は高い
ものの、興行的にはあまり力を発揮できなかったと記憶して
いる。しかし“The Lord of the Rings”が評価を勝ち得た
今の時代なら、前以上の力を発揮できると思われる作品だ。
 そして今回計画されている続編は、題名が“The Power of
the Dark Crystal”とされているもので、脚本はオリジナ
ルを担当したオデルと、アネット・ダフィーという人が執筆
している。お話は、前作のジェンとキラは今や王国のキング
とクィーンになっていたが、彼らの王国を再びクリスタルの
力が脅かし始める…というものになるようだ。
 監督は未定だが、今年の秋に撮影を開始して、2007年の公
開を目指すとしている。製作は、マペッツが演じる実写と、
CGIの合成で行われるということだ。因に、ジム・ヘンス
ン Co.は同年に創立50周年を迎えるのだそうで、本作はその
記念作にしたいとのこと。また、続編の公開後にはテレビ用
のアニメシリーズ化やヴィデオゲームなどへの展開も検討さ
れているそうだ。
        *         *
 この他の続編の情報では、まずシルヴェスター・スタロー
ンの当たり役“Rambo”シリーズを復活させる動きがある。
 このシリーズでは、1982年の“First Blood”を第1作と
して、1985年に“Rambo: First Blood Part II”、1988年に
“Rambo III”の3作が作られているが、このシリーズの権
利は一時ミラマックスが保有して、実は数年前から再開の動
きはあったようだ。しかしミラマックスでは継続の意志をな
くしていたものだが、このほど“Blind Horaizon”(2004年
8月31日付紹介)などを手掛けるNuイメージが権利の譲渡を
受け、シリーズの再開を目指すことになったということだ。
 因に、再開第1作の題名は“Rambo IV”となるようだが、
この計画ではすでにスタローンが脚本執筆の契約を結んでお
り、さすがに主演はしないものの、若い俳優をランボー役に
仕立てて共演はする予定になっている。撮影は、来年1月か
らブルガリアで行う計画とのことだ。さらにNuイメージでは
第5作も検討しているそうだ。
 続いて“Indiana Jone 4”について、パラマウントから、
先に提出されたジェフ・ネイザンスンの脚本に対して、ジョ
ージ・ルーカスとスティーヴン・スピルバーグが了承したと
の発表があった。また同社では、ハリスン・フォードに対し
ても脚本の了承を得る方向で進めているということだが、実
はフォードはまだ脚本を読んでいないということだ。
 因にネイザンスンの脚本については、前回の“Rush Hour
3”の記事の中でも紹介したが、まさかこんなに速く動くと
は思わなかった。ただし、ここで“Indy 4”の製作が始まる
と“Rush Hour 3”の製作に支障を来すことになるのだが、
実はスピルバーグには1972年のミュンヘン・オリンピックの
映画と、リンカーンの伝記映画の計画もあり、このままフォ
ードが了承しても直ぐにということにはならないようだ。
 もう1本はドリームワークスから、“The Ring 3”の計画
が発表されている。この計画は製作者のウォルター・F・パ
ークスが発表したものだが、実は脚本家も決っておらず、ま
た製作規模も前2作より縮小して、ナオミ・ワッツの出演も
計画されていないというものだ。つまりケラー母子の物語は
一旦終了して、呪いのヴィデオテープを巡る新たな物語を作
る計画のようだ。
 それはそれでいいと思うのだが、『リング』に関しては、
鈴木光司の原作には『らせん』と『ループ』の続編があり、
この内『らせん』は日本版が映画化されたが、『ループ』に
ついては到底日本映画のスケールでは無理な作品だった。そ
こで『リング』のハリウッド版が決ったときには、なんとか
『ループ』までと思ったものだが、この状況では、その期待
には応えてもらえないのだろうか。
        *         *
 続編の情報はこれくらいにして、以下は通常の製作情報を
紹介しよう。
 まずは、これも続編と言えばそんな感じでもあるが、俳優
のジョニー・デップが先日亡くなった作家ハンター・S・ト
ムプソン原作の“The Rum Diary”の映画化に乗り出すこと
になった。
 この計画は、1998年に公開された“Fear and Loathing in
Las Vegas”でトムプソン原作に登場する作者自身の役を演
じたデップが、自ら映画化権を獲得して製作を希望していた
もので、すでにニック・ノルティやベネチオ・デル・トロら
の協力も取り付け、マイクル・トーマスによる脚色も進めら
れていた。そして今回は、監督に“The Killing Fields”な
どの脚本でも知られるブルース・ロビンソンが決定し、さら
に“The Butterfly Effect”を手掛けたフィルム・エンジン
の資金提供で製作が進められることになったものだ。
 内容は、1950年代末頃のプエルトリコを舞台に、酒浸りの
ジャーナリストの生活を綴ったもので、デップが再びこの主
人公に挑戦することになっている。因にデップは、トムプソ
ンの死去に当っては葬儀で友人代表としての挨拶をしたり、
これから行われる散骨の儀式にも中心的に行動するなど、作
者との交流の深さを見せているが、残念なのは、彼の生前に
この映画化が実現しなかったことだろう。
 また監督のロビンソンとも、過去4度のアプローチの末、
ようやく本作の監督に招請できたということで、デップにと
っては本望の作品と言えそうだ。
 なお、今後のデップの出演作品では、“Charlie and the
Chocolate Factory”が7月15日、2004年1月15日付第55回
などで紹介した“The Libertine”が9月16日にそれぞれ全
米公開される他、9月23日には声優を務めたクレイアニメー
ション作品“Corpse Bride”の公開も行われる。そして現在
は、“Pirates of the Caribbean”の2本の続編を撮影中だ
が、この撮影が終りしだい、今回の“The Rum Diary”の撮
影を開始する意向のようだ。
        *         *
 お次は、ホラー専科のジョン・カーペンター監督が、次回
作の企画を映画とビデオゲームの両方で進めていることが発
表された。
 この計画は“Psychopath”と題されているもので、物語は
元CIAの捜査官が連続殺人鬼の捜査のために現場に復帰す
るが、自らの…というもの。そしてこの計画では、ゲームと
映画の両方の指揮をカーペンターが執るというもので、ゲー
ム開発会社のタイタンの手でビデオゲーム化が行われると共
に、カーペンターは『ジェイソンX』のトッド・ファーマー
との共作でシナリオを執筆し、自らの監督で映画化を進める
ことになっている。
 因みにタイタン社は、元々はジョン・ウー監督の下でゲー
ム会社を運営していたブラッド・フォックホーヴェンという
人物が独立して興した会社で、この他にもヴィン・ディーゼ
ルのプロダクションとも提携するなど、ハリウッドへのアプ
ローチを積極的に行っている会社ということだ。
 なお、映画監督によるゲーム進出では、先にジョン・ミリ
ウス監督もゲーム向けのシナリオの執筆を契約していたが、
さすがに70歳のミリウスはヨーロッパ戦線を舞台にした戦争
ものといわれるそのシナリオを映画化する計画は持っていな
かったようだ。従ってゲームと映画の両面で進める計画では
カーペンターが先駆者となりそうだ。
        *         *
 最後は短い情報を2つ紹介しよう。
 今年10月に“Wallace & Gromit: The Curse of the Were-
Rabbit”が公開されるドリームワークスとアアドマン・スタ
ジオから、さらに“Crood Awakening”という作品の計画が
発表されている。
 この計画は、元モンティ・パイソンで、最近では007や
ハリー・ポッターにも登場している俳優のジョン・クリース
が原案を提供したもので、原始時代を舞台に穴居人同士の文
化の衝突を描くというもの。実はこれがイギリスとフランス
の文化的な衝突からヒントを得ているということで、かなり
モンティ・パイソン的な笑いを目指した作品のようだ。
 なお、ドリームワークスとアアドマンでは、2006年11月公
開で、アアドマン初のフルCGI長編作品“Flushed Away”
の製作も進めており、今回の作品が提携3作目ということに
なる。現状では2007年の公開を目指すとされており、毎年秋
にアアドマン作品という路線になりそうだ。
 もう一つは、ディズニーからの独立が迫ってきたウェイン
スタイン兄弟の情報で、新会社で製作される記念すべき第1
作として“Outlander”という作品の計画が発表された。 
 この作品は、ハワード・マッケインという監督が、ダーク
・ブラックマンという脚本家と共同で執筆したシナリオを映
画化するもので、ヴァイキング時代の地球に墜落した異星人
の冒険を描くというもの。2002年版“Ghost Ship”などのカ
ール・アーバン主演で10月にニュージーランドで撮影開始さ
れることになっている。また映画に登場するMoorwenと名付
けられたエイリアンの造形は、“Godzilla”や“I, Robot”
を手掛けたアンドレアス・シュミドが担当しているというも
のだ。
 注目の新会社の第1作ということになりそうだが、それに
してもこの題材でスタートとは、かなり先が楽しみな会社に
なりそうだ。


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井口健二