井口健二のOn the Production
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2005年05月31日(火) バットマン・ビギンズ、愛についてのキンゼイ・レポート、クレールの刺繍

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※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介しています。     ※
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『バットマン・ビギンズ』“Batman Begins”       
1997年の“Batman & Robin”から8年、ついにバットマンが
復活した。                      
その復活を指揮したのは、『メメント』『インソムニア』の
新鋭クリストファー・ノーラン。彼は、『ブレイド』のデイ
ヴィッド・S・ゴイヤーと共に綿密な脚本も執筆し、バット
マンの起源に迫る、全く新しい作品を作り上げた。    
バットマンの起源については、幼少時代の事件のことが確か
前のシリーズでも第2作辺で紹介されたと記憶しているが。
今回はさらにそれを掘り下げ、バットモービルやバットケイ
ヴまでもの誕生秘話が語られる。            
従って本作は、前シリーズとは完全に切り離された作品で、
全く新しいシリーズの開幕と言うことができる。     
バットマンことブルース・ウェインは、ゴッサムシティの大
富豪ウェイン家の一人息子として成長する。ウェイン家は不
況下で犯罪のはびこるゴッサムシティの立直しに奔走し、そ
の端緒が見えた矢先に事件が起きる。          
その心の痛みを負ったブルースは世界中を放浪し、自分自身
の向かう道を探究する一方、いろいろ技を身に付けてゆく。
そしてヒマラヤの奥地で巡り会ったラーズ・アル・グールが
きっかけとなり、ゴッサムシティへ戻ってくる。     
しかし彼が舞い戻ったゴッサムシティは、以前にも増して悪
の巣窟と化し、もはや警察もまともには機能しない事態とな
っていた。この現状にブルースは、代々ウェイン家を守る執
事アルフレッドらの力も借りて、バットマンとなって街の浄
化に乗り出すが…                   
この物語に、ブルース・ウェイン=バットマン役クリスチャ
ン・ベール、アルフレッド役マイクル・ケインを初め、リー
アム・ニースン、ゲイリー・オールドマン、モーガン・フリ
ーマンという錚々たる顔ぶれが脇を固め。        
さらにキリアン・マーフィ、トム・ウィルキンスン、ルトガ
ー・ハウアー、渡辺謙、そして紅一点ケイティ・ホームズと
いう布陣が挑む。                   
バットマンは、前のシリーズでは、特にそのダークなイメー
ジが注目されたが、本作もそれは踏襲している。しかしティ
ム・バートンが始めた前シリーズが、時代の要請もあって、
ある意味病的な暗さで描かれていたのに対して、今回は健康
的な暗さという印象を持つ。              
これは、先にも書いたバットモービルの誕生などの説明が、
至って科学的に行われている点にもあるのだろうが、全てが
明快で、何らやましいところを感じさせないというところが
素晴らしかった。ノーラン=ゴイヤーの脚本の勝利と言える
ものだ。                       
ノーランもゴイヤーも以前の作品では、どちらかというと病
的な印象を持っていたが、それを吹っ切った本作は見事。こ
こには“Spider-Man”の影響も微かに感じられるが、良い方
向に活かされているのだからそれも歓迎したいところだ。 
以下、ネタばれを含みます。             
なお、試写会の際に1枚のプリントが配られ、劇中で描かれ
る列車の脱線シーンについての釈明が書かれていた。   
確かにこのシーンの衝撃は物凄いものがあるが、当然このシ
ーンは尼崎の事件の前に製作されたものだし、ましてやこれ
が物語の中で犯罪行為として起きるものではなく、正義のた
めに行われることを考え合せれば、何らこれに文句を言われ
る筋合いのものではない。               
それでもこのシーンに事件を想起する人は多いとは思うが、
郵政民営化の審議に絡んで、民営化先輩格のJRの不祥事を
早く風化させようとする動きが見られる中では、かえってそ
れを思い出させるこのシーンが存在することに意義があるよ
うにも感じた。
                   
                           
『愛についてのキンゼイ・レポート』“Kinsey”     
アメリカ人の性に対する意識を研究した「キンゼイ・レポー
ト」で有名なアルフレッド・キンゼイ博士の生涯を追った伝
記映画。                       
厳格な父親の許に育ち、その父に反発して家を飛び出したキ
ンゼイは、やがて志望した生物学で博士となり、昆虫に対す
る研究では第一人者と呼ばれるまでになる。しかし、大学の
要請で性について学ぶ結婚学の講座を開いたとき、彼は新た
な研究対象を発見する。                
アメリカにおける性の実体の研究。ロックフェラー財団の資
金援助も受けたこの先見的な研究は、実に全米18000人に及
ぶ人々にインタヴューを敢行し、アメリカ人の性の営みを明
らかにする。そして、1948年に刊行された研究レポートは大
ベストセラーとなるが…                
性に対する無知が生み出す因習や、一部の法律にまで矛先を
向けたこの研究は、アメリカ社会を根底から揺るがすことに
なるが、それはキンゼイ自身の人生にも多大な影響をおよぼ
すことになる。                    
こんなキンゼイ博士の生涯が、『シカゴ』などの脚本家ビル
・コンドンによる巧みな脚本と演出によって、ユーモアも交
えて見事に描き出される。そして中で紹介されるレポートの
数々も、キンゼイ博士の遺志を継ぐようで、その描き方も素
晴らしかった。                    
また出演者では、キンゼイ博士役のリーアム・ニースンとそ
の妻クララを演じたローラ・リニーは、壮年期から老境に至
るまでの年齢の積み重ねを見事に演じており、メーキャップ
の力もあるのだろうが、特に壮年期のキンゼイを演じるニー
スンの若々しさには目を見張った。           
また、最後のインタヴューを受ける女性の役でリン・レッド
グレーヴ、キンゼイ博士の母親役でちょっと懐かしいヴェロ
ニカ・カートライトが出演していた。          
なお、年齢制限の指定はR−15になっているが、これはテー
マの都合上そのような画像がスクリーンに登場するためで、
映画の内容が猥褻と言うわけではない。         
                           
『クレールの刺繍』“Brodeuses”            
2004年のカンヌ映画祭国際批評家週間でグランプリを受賞し
たエレオノール・フォーシェ監督作品。女流監督のフォーシ
ェは本作が長編第1作で、脚本も執筆している。     
主演は、『イブラヒムおじさんとコーランの花たち』に出て
いたローラ・ネマルクと、セザール賞主演女優賞受賞者のア
リアンヌ・アスカリッド。つまりこの作品は、女性による女
性のための女性映画というところだ。          
ネマルク扮するクレールは17歳で一人暮しをして自活してい
たが、多分妻子ある男の子供を身籠もってしまう。そのこと
を両親にも打ち明けられない彼女は、匿名出産制度での出産
を決め、妊娠の事実を隠すために勤め先のスーパーも辞めて
隠れ住むようになる。                 
しかし、友人の家を訪れた時に、以前に刺繍の手解きを受け
た夫人が、一人息子を事故で亡くしたことを知り、自作の刺
繍を持って夫人の家を訪ねる。夫人は、今では刺繍だけを生
き甲斐に日々を送っていたが、彼女が手伝うことを認め作業
が始まる。                      
とは言え、心を開かない夫人と、妊娠を隠し通そうとする彼
女の関係はぎくしゃくしたものだったが、やがていろいろな
ことが起こり、2人は心を通わせていくようになる。   
いや、何せ心に傷を負ったり重みを背負った女性の物語で、
しかもそのどちらもが女性特有の事柄に拠っているから、男
性である僕には率直に全てが理解できたとは言い難い。しか
し、何となく理解できる点もいろいろあり、その辺で素直に
良かったと言える作品。                
女性が見れば、多分もっといろいろ見所があるのだろうが、
その評価は女性の方に任せたいと思う。でも男性の目で見て
も、いろいろ得るところはある作品だった。       
ただし、映画の中には沢山の素晴らしい刺繍が出てくるのだ
が、それが一部を除いて全貌が紹介されていないのが残念に
思えた。上映時間が88分しかない作品なのだし、もう少し時
間を割いて刺繍をちゃんと見せてもらいたかった気もした。
                           
『ミリオンダラー・ベイビー』(補足)        
4月14日付の紹介では、この映画の結末について多少の疑問
を記したが、その後5月25日に行われたヒラリー・スワンク
とモーガン・フリーマンの来日記者会見でそれに対するスワ
ンクの発言があった。                 
これは記者団からの「あなたがその立場ならどうしますか」
という質問に対して答えたもので、それまで和やかに受け答
えしていたスワンクの表情が突然引き締まり、「この映画製
作は、私も監督もjobとして行ったものであり、ここには自
分たちのopinionは一切入っていない」と発言していた。  
この会見では結局、彼女自身のopinionがどうなのかは判ら
なかったが、この問題に関しては、アメリカでもかなり微妙
な状況にあるという印象を受けた。



2005年05月30日(月) ナチュラル・シティ、50回目のファースト・キス、バースデー・ウェディング、ジャマイカ/楽園の真実、ダンシング・ハバナ、理想の女

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※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介しています。     ※
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『ナチュラル・シティ』(韓国映画)          
架空の原子力潜水艦による日本攻撃という大胆な内容と、見
事なアクションで話題を呼んだ1999年公開の映画『ユリョン
〜幽霊〜』のミン・ビョチョン監督が、5年の沈黙を破って
発表した近未来SF作品。               
韓国製のSF映画では、昨年『イエスタデイ』という作品が
あったのだが、残念ながら紹介を割愛せざるを得なかった。
まあ、今回宣伝部の人の話を聞いても、元資料には言及がな
かったようだから、本作が韓国SF映画の本格的な夜明けを
告げる作品と言ってよいようだ。            
舞台は2080年、アンドロイドが量産され、兵器や人の享楽に
も奉仕しているが、アンドロイドには暴走を防ぐために一定
の廃棄期限が設けられていた。しかし奉仕してくれるアンド
ロイドに恋をし、その挙げ句に廃棄期限に殉死する者も出る
事態になっていた。                  
一方、アンドロイドの中にも、自らの延命を願い違法に職務
を離脱するものがあった。主人公は、そんな離脱アンドロイ
ドの捜索を行う特別捜査班の刑事。しかし自ら愛するアンド
ロイドの廃棄期限が迫り、違法な延命処理を行うという裏社
会へ足を踏み入れる。                 
離脱アンドロイドとそれを追う刑事という図式は、『ブレー
ドランナー』のそれを思い出させる。描かれた世界はその延
長と言える。しかし本作では、それより1歩踏み込んで、ア
ンドロイドと人間の恋愛関係という新たな局面を描き出して
いる。                        
実は、アンドロイドの感情の存在が微妙に表現されていて、
アンドロイド自身が延命を望んでいるかどうかが正確には判
らないのだが、その分、人間の側の描き方がうまくて、例え
ば不治の病に陥った人間同士のような感じで納得できる仕掛
けになっている。                   
この辺が、廃棄期限に殉死するという説明と合わせて、SF
的設定を理解させ易くしようという努力のようにも思える。
自分は元来がSFファンだから、ここまでの説明は余分のよ
うにも思えたが、確かに最近のSF映画全般の説明不足傾向
の前には、この位はするべきだという必要性も考えさせられ
た。そういった意味でも、この映画の作り手の意識の高さを
感じた。                       
VFXやCGIもかなりの高水準で見事だし、韓国映画特有
の激しいアクションも決まっていて、新たな韓国映画の展望
を感じさせてくれた。                 
                           
『50回目のファースト・キス』“50 First Dates”   
アダム・サンドラー、ドリュー・バリモア共演で、交通事故
の後遺症による短期記憶喪失障害を背景としたロマンティッ
クドラマ。                      
主人公は、ハワイの水族館に勤める獣医。セイウチの生態研
究でアラスカに行くことを夢見ており、その旅に女性の同行
は無理と考える彼は、女性との付き合いに深入りを好まず、
しかし観光客専門のプレイボーイといった感じで、女性の扱
いには抜群の才能を発揮する。             
そんな彼が、アラスカに行くための船の訓練航行中に事故に
遭い、たどり着いた浜辺のカフェで1人の女性に巡り会う。
現地の人が経営する素朴なカフェで意気投合した2人は、再
会を約束して別れるのだが、翌日訪れた彼を彼女は初対面の
ように拒絶する。                   
実は、彼女は1年前に交通事故に遭い、以来1日の記憶を翌
日に持ち越せない、短期記憶喪失障害となっていた。そんな
彼女を周囲が気遣い、彼女は以来毎日を事故当日の日曜日と
して暮らしていたのだ。                
そんな彼女に本気の恋をしてしまった主人公は、彼女に毎日
新しい恋を仕掛けることになるのだが…彼女の周囲の人々は
彼女を守ろうとし、一方、彼の周囲も研究の夢を捨ててまで
のそんな恋はあきらめろと忠告する。          
正直に言って、短期記憶喪失障害の問題は、アルツハイマー
などとの関係もあって微妙な感じの題材だし、興味本位に扱
われては困るものだが、本作ではその点の扱いも細かく神経
が行き届いている感じで、さすがにハリウッドの作品という
感じのものだ。                    
もちろん映画は主人公の悪戦苦闘が中心となるものだが、そ
こに描かれる彼女の周囲の人々の様々な気遣いの有り様が切
なくて、特に後半はスクリーンが曇ってしまうことも多かっ
た。そしてそんな困難の中を敢然と進んで行く主人公が見事
に描かれていた。                   
2人の周囲の人々のキャラクターもよく描かれている(彼女
の弟役のショーン・アスティンがサムワイズ並の献身ぶりを
見せるのも良い感じだ)し、獣医という職業柄登場する海洋
生物の愛らしさもうまくアクセントになっている。    
前にも書いたかも知れないが、サンドラーのコメディ作品は
アメリカでは大ヒット(ほとんどの作品が1億ドル前後の興
行を記録)するものの、日本人の感覚になかなか合わないよ
うな気がする。特にファンタシー系の作品は僕自身、最悪と
感じているものも多くある。              
しかし本作は、サドラーの作品ではベストのものと僕は考え
る。また本作は、舞台が日本人には馴染みの深いハワイであ
るし、短期記憶喪失障害は最近の映画ではいろいろ登場して
いるテーマということで、日本人にもアピールしやすい作品
と言えそうだ。                    
                           
『バースデー・ウェディング』             
日テレ系『全日本仮装大賞』のADや最近では『東京湾景』
等にも携わっているという田澤直樹監督の映画デビュー作。
父子家庭で育った女性の結婚式の前夜、娘は父親の礼服のポ
ケットに仕舞われた自分の幼い頃のヴィデオテープを見つけ
る。そこには、自分と遊ぶ母親の最後の姿と、自分に宛てた
メッセージが収録されていた。             
1時間13分という上映時間には、正直に言って長編映画とし
ての資格はないのではないかと思う。一般公開はレイトショ
ーということで、それなら逆にこれくらいの長さの方が適当
という感じもするが、やはり充分なドラマの描き込みは難し
い。                         
そんな条件の中で、この作品は観客を泣かせるという単目的
では良く作られた作品と言えるだろう。もちろん極めてあざ
とい作品で、最後などは見え見えで泣きに持ち込まれるもの
だが、まあそれも作品の目的ということでは認めざるを得な
いところだろう。                   
ただ、作り方が余りにストレートで、捻りも仕掛けもないと
ころがちょっと物足りなくも感じられるもので、まあ予算の
関係とか上映時間の制限とかあったのだろうが、何かもう少
し工夫が欲しかった感じもする。            
また、父親役の俳優は若い頃との対比を撮りたかったのだろ
うが、どちらもがちょっと老け過ぎな感じでイメージが合わ
なかった。確かに男手一つで娘を育てたらこんな風になって
しまうかも知れないとは思うが、本来ならもう少し若い姿で
はないかと思う。                   
まあ、監督は映画デビュー作ということで、こんなもんかな
あというところだろう。次回作に期待したい。      
                           
『ジャマイカ/楽園の真実』“Life and Debt”      
国際通貨基金(IMF)及び世界銀行の名の元にジャマイカに
対して行われた“経済支援”の現実を描いた2001年製作のド
キュメンタリー作品。                 
IMFと世銀は、数千億ドルの資金を発展途上国に投入し、
その経済の立直しを支援していると報道されているが、その
実体は高金利の貸し付けで各国の経済を縛り上げ、復興の道
を閉ざしている。                   
また世界貿易機関(WTO)は貿易不均衡の是正の名の下に、
実はアメリカの意向に従い、特に経済発展途上国に対して、
アメリカ経済にとって都合の良い世界の貿易を在り方を押し
つけている。                     
そんなメッセージがジャマイカのレゲエ音楽を伴奏に次々に
写し出されてくる作品だ。               
15世紀末にコロンブスによって‘発見'されたジャマイカは、
アフリカ人奴隷によって開拓され経済発展を遂げるが、やが
て19世紀に奴隷制度が廃止され、20世紀に独立を果たした国
家は、結局アメリカ主導の世界に隷属した存在でしかない。
その現実の姿は、ジャマイカ産バナナについて端的に説明さ
れる。                        
世界で最も美味しいとされるジャマイカバナナは最寄りのア
メリカには輸出されず、元宗主国のイギリスに97%が輸出さ
れている。これはアメリカの輸入規制によるもので、一方、
イギリスは元植民地の経済支援のため関税優遇策を実施して
いるのだ。                      
しかしアメリカは、自国の輸入規制は棚に上げて、イギリス
の採る関税優遇策をWTOに訴え、その廃止を求めている。
だがアメリカ国内ではバナナは生産されておらず、その背景
にはチキータ、デルモンテ、ドール等のアメリカ人経営果実
会社保護の政策があるという。             
しかもこのWTOへの訴えを表明するのが、ブッシュではな
くクリントンだという辺りが笑わせてくれる。クリントンは
カリブ諸国の経済発展を支援する処置の一環だと説明するの
だが…こんな歪んだ世界経済の実体が、いろいろな実例を挙
げて説明される。                   
確かに政治的プロパガンダの強い作品で、その描き方には多
少辟易するところもあるが、日本からは地球の裏側で世界経
済の名の下に行われている迫害の現実は、重く受けとめられ
る作品だった。              
                           
『ダンシング・ハバナ』“Dirty Dancing: Havana Nights”
1987年に公開された“Dirty Dancing”のリメイク。と言っ
ても、本作ではキャラクターも舞台も違えて、全くの新しい
作品になっている。                  
因に本作は、アメリカ版『シャル・ウィ・ダンス?』の振り
付け師の一人ジョアン・ジャンセンの実体験に基づいている
ということで、これはオリジナルとは別の物語だ。    
時代背景は1958年。その年の年末が近い頃、とある一家が父
親の転勤によってキューバに引っ越してくる。そこでの一家
の生活は、高級ホテルの部屋を自宅とし、メイドやボーイの
サーヴィスを受けるリゾート気分の何一つ不自由のないもの
だった。                       
その一家の2人娘の姉ケイティは18歳。学業優秀な彼女は、
転入したアメリカンスクールを半年で卒業したら、アメリカ
の大学に進学することを夢見ていた。          
そんなある日、スクールバスに乗り遅れて徒歩で帰宅しよう
とした彼女は、街角で激しく歌い踊るキューバ人のグループ
に遭遇する。そして、その中にホテルのプールサイドで働く
青年の姿を認め、彼の踊る姿に魅かれて行く。      
しかし、禁止された客との交際が発覚した青年はホテルを解
雇されてしまう。そんな彼を支援したいケイティは、彼と共
に賞金5000ドルが得られる大晦日のダンス大会に出演するこ
とを決意し、彼と共にダンスの練習に励むことになるが… 
実は、彼女の両親は元社交ダンスのプロで、彼女にもその素
養があるという背景もあるのだが、そんな彼女が形式的な社
交ダンスとは全く違う、情熱に満ちたキューバ音楽のダンス
に目覚めて行くという物語だ。             
そして、この主人公をイギリスの新星モローラ・ガライが演
じ、相手役には『天国の口、終りの楽園』のディエゴ・ルナ
が扮して、キューバ音楽に乗せた激しいダンスを見事に披露
している。ダンス自体はカット割りなどでごまかしてもいる
が、見た感じはよかった。               
なお『天国…』では、共演のガエル・ガルシア・ベルナルが
一躍人気者になったが、僕は以前からルナの方が親しみやす
くて良い感じに思っていた。本作は、そのルナの親しみやす
いキャラクターが見事に活かされた作品と言えそうだ。  
他に、1987年作に主演したパトリック・スウェイジが、ダン
ス・インストラクター役で出演して見事なダンスを見せてく
れるのも見所と言えそうだ。また、主人公の妹役で『アトラ
ンティスのこころ』などのミカ・ブーレムが出演している。
一つのことに打ち込んで行く青春の素晴らしさが見事に描か
れた作品で、この作品の感じは、僕の一番好きなタイプのも
のだ。そしてこの作品には、1958年という時代背景も見事に
織り込まれていた。                  
1時間27分の上映時間もこの内容には手頃で、同じくギャガ
配給の『シャル・ウィ・ダンス?』の併映には持ってこいと
いう感じ。2本立てのメッカ早稲田松竹あたりで上映された
らまた見に行ってしまいそうだ。            
                           
『理想の女』“A Good Woman”             
オスカー・ワイルド原作の戯曲“Lady Windermere's Fan”
を、1930年のイタリア南部のリゾート地を舞台に脚色した作
品。                         
大恐慌もどこ吹く風でイタリア南部のリゾート地に集う金持
ちたち。そんな社会に1人の美貌の女性が現れる。その彼女
には、男性問題でニューヨークの社交界を追われた女だとい
う評判が立つが、たちまち男性たちを虜にして1軒の別荘を
借りて住むようになる。                
それからほどなく、その別荘に足繁く通う若い男の姿が噂に
なり始める。彼は、結婚1年目を迎えたばかりの資産家で、
彼女の家には資産管理の相談で行っていると話すのだが、彼
の若い妻は、小切手帳の控えからその女に多額の金を渡して
いることを知ってしまう。               
この美貌の女性をヘレン・ハントが演じ、若い妻をスカーレ
ット・ヨハンセンが演じる。              
原作をご存じの方には今更だろうが、原作を知らずに見てい
た僕は、スリラーやアクションでもないこの作品に、これだ
けドキドキしたのは久しぶりだった。人間模様やその機微が
見事に描かれ、まさに文芸作品という感じの作品だ。   
しかもこれを93分の中にきっちりと納めた演出も見事。監督
は本作が4作目のイギリス出身のマイク・バーカー。これか
らが楽しみになりそうだ。               
ハントが演じる運命に翻弄された女性の姿も見事だし、ヨハ
ンセンの初々しさに溢れる若妻の演技も魅力的だった。特に
ハントの、声も仕種もすべて押さえた演技の中に、必要な情
熱を込めた演じ方が素晴らしかった。          



2005年05月16日(月) 第87回(後)

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※このページは、キネマ旬報誌で連載中のワールドニュー※
※スを基に、いろいろな情報を追加して掲載しています。※
※キネ旬の記事も併せてお読みください。       ※
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《昨日の続き》
 『キングダム・オブ・ヘブン』では12世紀の十字軍の姿を
描いた脚本家のウィリアム・モナハンが、続けて13世紀の冒
険家の生涯を描く計画が発表された。その冒険家の名前は、
マルコ・ポーロ。ヨーロッパ人の東洋観を変えたとまで言わ
れる彼が口述した『東方見聞録』に基づいて、24年間に及ぶ
ポーロの冒険を、マット・デイモン主演で描く計画だ。
 この計画は、元々は『オーシャンズ12』の脚本を手掛けた
ジョージ・ノルフィとマイクル・ハケットのコンビが思い付
いたもので、彼らが優先契約を結んでいるワーナーにアイデ
アが提出された。それと同時に、モナハンとデイモンにも計
画が提示され、彼らがそれに乗ってきたということで、監督
は未定だが、計画は順調に進んでいるようだ。
 因にマルコ・ポーロは、1254年の生まれで、1270年に当時
の中国・元を再訪する宝石商の父親と叔父に伴われて生地の
ヴェネチアを出発。74年にはクビライ・カンに謁して任官、
以後中国各地を見聞した後、95年に海路インド洋、黒海を経
て帰国。しかしジェノヴァとの海戦に敗れ、その獄中で『東
方見聞録』を口述したということだ。
 この『東方見聞録』には、日本が「黄金の国ジパング」と
紹介されているということで、歴史教科書にも載せられてい
るが、その他にも、ポーロが見聞した当時の中国や蒙古の卓
越した科学技術などが紹介され、東の蛮国と思っていた東洋
に対するヨーロッパ人の考えを大幅に変えたというものだ。
なおこの書物の題名は、今回の報道では単に“Travels”と
紹介されており、欧米ではそういう名称で知られているよう
だ。
 そしてその映画化が、モナハンの脚本で進められる計画だ
が、元々モナハンは、アメリカ軍人のウィリアム・イートン
がアフリカに渡って、現在のリビアの基礎を築いた王の許で
軍を指揮したという史実に基づく“Tripoli”と題された作
品をリドリー・スコットの監督で進めていたものの、この計
画が製作費の膨張などで実現困難となり、代ってスコットか
ら十字軍の物語を依頼されたということで、元々はこういう
異国での冒険が描きたかったようだ。今回はその思いをぶつ
けてほしい。
 なおモナハンは、現在はリドリー・スコット監督で、映画
製作者のスコット・ルーディンがパラマウントからディズニ
ーに移籍後の最初の作品となる、コーマック・マッカーシー
原作による“Blood Meridian”を脚色中で、今回の計画はそ
の後になるようだ。
 一方、マット・デイモンは、すでに2003年3月1日第34回
で紹介の“The Brothers Grimm”と、2004年6月15日第65回
で紹介の“Syriana”の撮影が完了し、この後には『インフ
ァナル・アフェア』のアメリカ版リメイク“The Departed”
に出演の他、2002年12月15日の第29回に紹介したロバート・
デ=ニーロ監督の“The Good Shepherd”への出演(主演が
交替になった)も予定されている。また彼自身は、ジェイソ
ン・ボーンシリーズの第3作“The Bourne Ultimatum”への
出演も希望しているということで、このラッシュの中で今回
の作品は一体何時実現するのだろうか。
        *         *
 続けてワーナーの話題を後2本で、まずは『アバウト・ア
・ボーイ』などの原作者ニック・ホーンビイの新作“A Long
Way Down”の映画化権を獲得したことが発表された。
 この映画化は、グラハム・キングとデイヴィッド・ヘイマ
ン、それに“Charlie and the Chocolate Factory”の全米
公開が迫っているジョニー・デップの製作で計画されている
もので、現時点でデップの映画化への関わりは製作に限定さ
れているそうだが、今後、脚本の出来次第で出演もあるかも
知れないというニュアンスのようだ。
 因に原作は、イギリスで出版されたばかりで、アメリカで
は6月に刊行予定のもののようだが、大晦日に出会い、自分
らの救いを求めて一緒に暮らすようになった4人の男女が、
多難なクリスマスを過ごす姿を描いた作品ということで、以
前の作品でも、人生の困難に直面した人々を軽妙なタッチで
描いてきたホーンビイの期待の新作ということだ。
 そしてこの原作についてデップからは、「この本には、今
までに楽しみながら読んだ作品の中では、最も多くの素晴ら
しいキャラクターが溢れている。映画化が生み出す可能性は
計り知れない」とのコメントが寄せられていた。
 なお、キングとデップは2004年10月15日第73回で紹介した
“Shantaran”の計画も、デップの主演作としてワーナーで
進めている。この計画は、ブラッド・ピット、ブラッド・グ
レイ、それにジェニファー・アニストン主宰のプランBとの
提携で進められていたものだが、今回の報道にも題名が上が
っており、現在も計画は生きているようだ。
        *         *
 もう1本ワーナーからは、『マイノリティ・リポート』を
手掛けた脚本家のゲイリー・ゴールドマンが、1959年に出版
されたカート・シオドマク原作のSF作品“Skyport”の映
画化を進めることが発表された。
 シオドマクは2000年に亡くなっているが、1902年の生まれ
で、小説では1943年に発表した“Donovan's Brain”(ドノ
バンの脳髄)が日本にも紹介されている。この作品は1944年
に“The Lady and the Montter”の題名で映画化され、さら
に53年と62年にもリメイクが行われているもので、68年には
続編の“Hauser's Memory”(ハウザーの記憶)という小説
も出版されている。
 その一方で、シオドマクは主にユニヴァーサルの脚本家と
しても有名で、その中の1941年製作“The Wolfman”では、
ウェールズの伝説に基づいて、満月を見ると変身するなどの
基本設定を作り上げた人物とも言われている。
 そのシオドマクの“Skyport”という作品は、日本での紹
介の有無は不明だが、衛星軌道上に宇宙都市を建設しようと
する科学者たちの姿を描いたもので、ちょうどスペースシャ
トルの運行も再開されて、国際宇宙ステーションの建設が進
む今の時期には良い題材と言えそうだ。ただし、ゴールドマ
ンは、この原作の中の災害が発生する状況に注目していると
いうことで、1974年のワーナー作品『タワーリング・インフ
ェルノ』のような作品にしたいと語っているようだ。
 映画化には、250本以上の映画化権を管理していると言わ
れるIntellectual Properties Worldwide(IPW)という
会社が関係しており、同社の社長が製作を務めるとのこと。
またゴールドマンの脚本では、ニコラス・ケイジ、ジュリア
ン・モーア共演で、リー・タマホリが監督する“Next”とい
う作品が、この秋の撮影予定でリヴォルーションで進められ
ている。
        *         *
 以下は続報で、
 まずは、このページの2001年11月1日付第2回で紹介した
アルフォンソ・キュアロン監督の“Children of Men”が、
ユニヴァーサル製作、クライヴ・オーウェン主演で実現され
ることになった。
 この作品は、イギリスの女流作家P・D・ジェイムズの原
作を映画化するもので、人類が子孫を残せなくなった未来を
背景にした物語。この世界で、18歳の地上最年少者の死亡が
報道され、そのショックで人類が混乱する中、20数年ぶりに
妊娠した女性の存在が明らかになる。その女性を巡る物語と
いうことで、オーウェンが演じるのは彼女を守る男性の役。
ただし、彼が妊娠の原因ということではないようだ。
 因にキュアロンには、先にフォックスから、M・ナイト・
シャマラン監督が降板した後の“Life of Pi”という作品の
オファーもあったようだが、長年温めてきた作品との関係で
は、さてどうなるだろうか。
 一方、オーウェンは、『クローサー』に続いて、アメリカ
ではロベルト・ロドリゲス他監督の“Sin City”の公開が始
まっているが、この後には“Derailed”という作品と、ユニ
ヴァーサル製作でデンゼル・ワシントン、ジョディ・フォス
ター共演のスパイク・リー監督作品“Inside Man”の撮影が
今年の夏に予定されており、今回の作品の撮影が何時になる
のかは、ちょっと曖昧なようだ。
        *         *
 お次は、2003年12月1日付第52回等で紹介したジェイスン
・レスコー原作“Zoom's Academy for the Super Gifted”
の映画化が“Zoom”の題名で進められ、7月に撮影開始され
ることになった。
 この作品は、元アニメーターの原作者が発表したグラフィ
ック・ノヴェルを映画化するもので、以前の紹介ではアダム
・リフキンの脚色を報告したが、その後に『ギャラクシー・
クェスト』等の俳優ティム・アレンが参加して、アレンのア
イデアも入れた脚本がデイヴィッド・ブレンバウム、マット
・キャロルらと共に作られている。
 そして監督には、オリジナルより評価の高い続編として有
名な“Bill and Ted's Bogus Journey”(ビルとテッドの地
獄旅行)を手掛けたピート・ヒューイットを起用。また出演
者では、アレンが元スーパーヒーロー=キャプテン・ズーム
だったが、今は超能力は失ったジャックを演じる他、諜報機
関から派遣された科学者マーシャの役で、『スクリーム』の
コートニー・コックスが発表されている。
 なお、今のところ子役の発表がないようだが、以前に紹介
されたストーリーでは、超能力を持った子供たちの学校が舞
台で、そこに訳も判らずやってきた少女が主人公となってい
た。しかし、それでは余りに“Harry Potter”や“X-Men”
と似ている感じがして気になったものだが、その後の脚色に
はかなりの時間が掛けられたようで、その辺で少し内容に変
更があるのかも知れない。
 映画はコロムビアの配給で、来年公開が予定されている。
        *         *
 続いては、2004年7月1日付第66回で紹介したニューライ
ンの製作で、デイヴィッド・ジェロルドの原作による“The
Martian Child”の撮影が5月3日に開始された。 
 物語は、死別した婚約者の息子を引き取って育てることに
なったSF作家の主人公が、引き取った義理の息子の異常な
行動に気付き、やがて彼が火星人ではないかと疑い出すとい
うもの。これだけでは、唯のちょっとおかしな男の話だが、
原作者が『スター・トレック』等も手掛けたSF作家という
ところがミソの作品だ。なお以前の紹介では、『E.T.』と
1989年のロン・ハワード監督作品“Parenthood”(バックマ
ン家の人々)を合わせたような作品とも書かれていた。
 そしてこの作品は、以前の紹介ではニック・カサヴェテス
監督、ジョン・キューザック主演となっていたが、その後カ
サヴェテスは降板した模様で、監督は、キューザック主演の
2002年作“Max”(アドルフの画集)を手掛けたメノ・メイ
エスが発表されている。
 また出演者では、キューザック扮する作家のエージェント
役でオリヴァー・プラット、火星人と自称する義理の息子役
にボビー・コールマン、それに主人公と関わるソーシャルワ
ーカー役で、“Hotel Rwanda”で今年のオスカー助演女優賞
にノミネートされたソフィー・オコネドが共演している。
 なお、プラットは今年公開されるキューザック主演のブラ
ックコメディ“Ice Harvest”に出演しており、コールマン
も今年公開のワーナー作品“Must Love Dogs”でキューザッ
クと共演しているということで、つまり監督も含めてキュー
ザックとは旧知の人たちで周りを固め、そこにオコネドを招
いたという形のようだ。そのオコネドは、シャーリズ・セロ
ン、フランシス・マクドーマンド共演の“Aeon Flux”にも
出演しているが、オスカー候補になって後に結ばれた出演契
約では、本作が最初のものということだ。
        *         *
 最後に、今年2月1日の第80回で紹介したワーナー、パラ
マウントの共同製作、デイヴィッド・フィンチャー監督によ
る“Zodiac”の配役が固まり出した。
 1972年公開の『ダーティハリー』シリーズの大元になった
とも言われる、1966−78年にサンフランシスコ地区で発生し
た連続殺人事件を描くこの作品は、当時のサンフランシスコ
・クロニクル紙の編集員(連載漫画の執筆者だった)ロバー
ト・グレイスミスが1986年に発表し、全米で400万部のベス
トセラーになった同名のドキュメントと、2002年に発表した
その続編“Zodiac Unmasked: The Identity of America's 
Most Elusive Serial Killer Revealed”を映画化するもの
で、脚色は、『閉ざされた森』のジェイミー・ヴァンダービ
ルトが担当している。
 そして今回報告された配役では、まず原作者のグレイスミ
ス役に、『ドニー・ダーコ』のジェイク・ギレンホール。事
件の捜査に当るサンフランシスコ市警察の主任捜査官役で、
『コラテラル』のマーク・ラファロ。さらに新聞記者役に、
『ゴシカ』のロバート・ダウニーJrというかなり魅力的な顔
ぶれが揃うことになった。
 またもう1人、捜査官の同僚役に『ER』のグリーン先生
ことアンソニー・エドワードの出演も発表されている。エド
ワードは、『ER』で4度のエミー賞候補に挙げられた他、
最近では『サンダーバード』や『ゴーガットン』等の映画作
品での活躍も目立ってきたところだが、フィンチャー作品へ
の出演は良いキャリアになりそうだ。
 なお撮影は、8月中旬開始の予定になっている。



2005年05月15日(日) 第87回(前)

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
※このページは、キネマ旬報誌で連載中のワールドニュー※
※スを基に、いろいろな情報を追加して掲載しています。※
※キネ旬の記事も併せてお読みください。       ※
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
 今回はニュースが多いので早速始めることにしよう。
 まずはシリーズの情報で、1998年公開の第1作で全米興行
1億ドルを突破、2001年の第2作では全米2億ドル、全世界
では3億ドル突破の大ヒットを記録したブレット・ラトナー
監督、クリス・タッカー、ジャッキー・チェンの共演による
“Rush Hour”(ラッシュアワー)の第3弾が、順調に行け
ば今秋からロサンゼルスとパリで撮影を行い、来年夏の公開
を目指すことが製作元のニューラインから発表された。
 この計画は、『ラッシュアワー2』も手掛けた脚本家のジ
ェフ・ネイザンスンが提案したアイデアにニューラインの首
脳陣が反応したもので、すでにラトナー監督とチェンも参加
を表明し、タッカーも乗り気になっているということだ。
 因に、『フィフス・エレメント』や『ジャッキー・ブラウ
ン』にも出演しているタッカーは、1998年以降は『ラッシュ
アワー』以外ではスクリーンに登場していないが、これは彼
自身の出自であるスタンダップ・コメディアンの仕事が忙し
いのと、友人のマイクル・ジャクスンの裁判の支援活動を行
っていること、それにビル・クリントン元大統領のアフリカ
訪問に同行するなど社会的な仕事が多いため、とのことだ。
 しかし逆に言えば、これは良い仕事が来るまでじっくり待
てる体制が整っているということで、今回はその待っていた
仕事が、いよいよやって来たというところのようだ。
 そして今回の情報では、並行してタッカーがニューライン
と2本=4000万ドルの出演契約を結んだことも報じられてお
り、その1本目が“Rush Hour 3”になる可能性は高いとい
うものだ。また、もう1本には、やはりラトナー監督とのコ
ラボレーションで、1997年公開の“Money Talks”(ランナ
ウェイ)の続編を狙っているとの情報もある。
 なお今回の契約では、タッカーは2000万ドル〜配給収入の
20%を得るということだが、さらにチェンに対しても2000万
ドルの契約が結ばれるということで、これはアジアスターで
は初めての金額になるようだ。またラトナー監督にも750万
ドルの契約が結ばれるなど人件費の高騰で、総製作費は1億
ドル前後の作品になるということ。まあ、前2作のヒットの
具合を見ればそれも可能なものと言える。
 ただしラトナー監督は、同時期にユニヴァーサルとの間で
“Creature From the Black Lagoon”のリメイク計画も進め
ているそうで、その辺の調整が先に必要になるようだ。そし
てこの調整が完了し、タッカーの出演が正式に決まったら、
ネイザンスンが直ちに脚本の執筆に取り掛かることになって
いる。なお、ネイザンスンは何時の間にか“Indiana Jones
4”の脚本にも起用されていたのだそうで、その執筆はすで
に完了しているそうだ。
        *         *
 続いて、前回はリメイクの情報をまとめて紹介したが、今
回はこれもリメイクと言えないこともないが、テレビシリー
ズからの映画化の情報を3本紹介しよう。
 まず1本目は“Baywatch”(ベイウォッチ)。
 カリフォルニア沿岸のライフガードの活躍を描いた冒険シ
リーズで、全米ネットでは1989−90年シーズンに1年間だけ
NBCで放送されたものだが、その続きが独立局向けのシン
ジケーション番組として10年以上も製作されたという作品。
その映画版の計画がドリームワークスで進められている。
 オリジナルのシリーズは、デイヴィッド・ハッセルホフ扮
するミッチ・ブキャナンという主人公がほぼ一貫して登場す
るもので、後年は舞台をハワイに移したりもしたが、1995−
97年シーズンには、砂とサーフィンと太陽に彩られた本編か
ら独立して、“Baywatch Nights”という同じ主人公の夜の
冒険を描いたスピンオフシリーズ(ジャンルは探偵もの)が
作られるほどの人気番組だった。
 そしてこのシリーズの映画化権は、昨年11月に各社争奪戦
の結果ドリームワークスが獲得したもので、7桁($)後半
と言われる契約金額は、2004年9月15日付第71回で紹介した
ワーナーが進めている“Hawaii Five-O”と並んで、テレビ
シリーズの契約金では最高額とも言われているものだ。
 また、今回はその脚本に、『招かれざる客』のリメイク版
“Guess Who”で全米公開第1週にNo.1ヒットを記録し、す
でに6000万ドル以上を稼ぎ出しているジェイ・シェリック、
デイヴィッド・ロンのコンビの起用も発表されている。
 ジャンル的には、アクションアドヴェンチャー、若しくは
探偵ものということで、脚本自体はそこそこの実力があれば
誰にでも書けそうなもの。後は脚本家のセンスが問われるこ
とになりそうだ。ただし、今回の映画版の製作に関しては、
オリジナルの出演者たちの動向が不明で、果たしてテレビの
人気ものたちが揃って出演してくれるものか否か、特に、シ
リーズの後半では製作総指揮も務めたハッセルホフの登場が
ヒットの鍵となりそうだ。
        *         *
 お次は“The Equalizer”(ザ・シークレットハンター)。
 1985−89年シーズンにCBSで放送されたマンハッタンを
舞台にした探偵もので、元シークレットサーヴィスの主人公
が地元新聞に出す‘Got a problem? Call the Equalizer’
の広告に応募した人々の悩みを解決するというお話。オリジ
ナルの主人公を、今年3月15日付の第83回で紹介した“The
Wicker Man”のオリジナル版に主演の英国人俳優エドワード
・ウッドワードが演じていた。
 そしてこのシリーズの映画版を、『サハラ』が公開された
ばかりのクライヴ・カッスラー原作ダーク・ピットシリーズ
や、トム・クランシー原作ジャック・ライアンシリーズなど
を手掛けるメース・ニューフェルドの製作で進めるもので、
オリジナルシリーズの製作者のマイクル・ソローンも製作総
指揮として参加することになっている。
 なお計画は、最初にソローンがニューフェルドに持ちかけ
たもののようだが、ニューフェルドはまず脚本家と俳優を決
めた上で配給会社の決定を行うとしており、シリーズ得意の
ニューフェルドの企画には、各社の争奪戦が起きそうだ。
        *         *
 そしてもう1本テレビシリーズの映画化は、アメリカでは
1973−77年シーズンに放送された“Land of the Lost”とい
う作品の計画が、ユニヴァーサルで進められている。
 この作品は、“H.R.Pufnstuf”(怪獣島)などで知られる
シド&マーティ・クロフトの製作による子供向けのシリーズ
で、実は本作が日本で放送されたかどうか判らなかったのだ
が、お話は、森林レンジャーの主人公が2人の子供と一緒に
時空の裂け目に落ち込んで恐竜が跋扈する時代に行ってしま
うというもの。この世界からの脱出の道を探るというのが主
テーマになるが、何故か主人公たちに敵対する役柄で、後に
007シリーズでのジョーズ役が話題となるリチャード・キ
ールがレギュラー出演していた。
 またシリーズの脚本には、“Star Trek”を手掛けたD・
C・フォンタナやデイヴィッド・ジェロルド、さらにチェコ
フ役の俳優ウォルター・コーニッグ、SF作家のラリー・ニ
ーヴン、セオドア・スタージョン、ベン・ボーバらも参加し
ていたというものだ。放送は3シーズン44話行われている。
 そして今回の計画では、この夏“Bewitched”(奥様は魔
女)の映画版の公開が予定されているウィル・フェレルの主
演で進めることが発表され、クリス・ヘンシーとデニス・マ
クニコラスの脚本から、フェレルとは“Anchorman”で組ん
だばかりのアダム・マッケイの監督が予定されている。また
製作はクロフト兄弟が行うということだ。
 因にクロフト兄弟は、18世紀から続くアテネの人形劇団の
後継者だそうで、伝統の人形芸が登場するヴァラエティ番組
などを数多く製作しており、その中には“Donny and Marie
Series”“Jimmy Osmond Special”“Pink Lady”という番
組も含まれていたようだ。また、番組は1991年にティモシー
・ボトムズの主演でリメイクが行われており、このリメイク
版は『恐竜王国』の題名で日本にも紹介されている。
        *         *
 テレビシリーズに続いては、ヴィデオゲームからの映画化
の情報を2本紹介しよう。
 まずは、コナミから発売されている“Silent Hill”の映
画版の撮影が、4月下旬にカナダのトロントで開始された。
 この計画については、昨年11月15日の第75回でも紹介して
いるが、前回は未定だったキャスティングで、主人公となる
母親役に『ネバーランド』でジェイムズ・バリの妻メアリー
を演じたラダ・ミッチェル、娘役を2004年5月15日の第63回
で紹介したテリー・ギリアム監督作品“Tideland”に主演の
ジョデル・ファランドが演じている他、ショーン・ビーン、
ローリー・ホールデン、デボラ・カーラ・アンガー、キム・
コーツ、タニア・アレンらが共演している。
 またスタッフでは、『ジェヴォーダンの獣』のクリストフ
・ガンズが監督することは前回紹介したが、実は今回の企画
については、最初にガンズがどのように映画化したいかを示
した30分のヴィデオテープを製作し、これを、『ジェヴォー
ダン…』も製作したサミュエル・ハディダが権利を保有する
コナミに見せて映画化権の交渉を行ったということだ。そし
て、最終的にハディダ主宰のデイヴィス・フィルムスとコナ
ミの共同製作で行うことになったものだが、このエピソード
を読むと、ガンズにはかなり気合いが入っているようだ。
 さらに製作には、『ジェヴォーダン…』の撮影を担当した
ダン・ローストセン、編集のデイヴィッド・ウー、セバスチ
ャン・プランゲーレが再びチームを組む他、衣装デザインを
『ヘルボーイ』のウェンディ・パートリッジ、プロダクショ
ンデザインを『リーグ・オブ・レジェンド』のキャロル・ス
ピア、クリーチャーデザインを『アンダーワールド』のパト
リック・タトポウロスらがそれぞれ担当している。
 製作費には4500−5000万ドルが計上され、この金額はハデ
ィダ製作の今年の作品では、2004年8月15日の第69回で紹介
したトニー・スコット監督、キーラ・ナイトレイ主演による
“Domino”に次ぐものになるということだ。
 なお配給に関しては、前回に記事ではハディダが直轄する
ヨーロッパ以外はフォーカスが扱うとなっていたが、その後
にアメリカ配給は、ソニー傘下で再興されたトライスターが
担当することになったようだ。因にハディダ製作の『バイオ
ハザード』は、同じソニー傘下のジャンル・ブランド=スク
リーン・ジェムズが配給しているが、今回はトライスターで
配給する意味は何なのだろうか。
        *         *
 ヴィデオゲーム映画化の話題は、もう1本も続報で、この
ページでは2002年8月15日の第21回以来、再三再四紹介して
いるドウェイン“ザ・ロック”ジョンスン主演による“Spy
Hunter”の計画に、またまた脚本家の名前が発表された。
 この計画の脚本家では、2003年10月15日の第49回で『ワイ
ルド・スピード2』のマイクル・バンディットとデレク・ハ
ース、2004年1月15日の第55回では『フレディvsジェイソ
ン』のマーク・スウィフトとダミアン・シャノンの名前を紹
介したが、今回はさらに、『コラテラル』の脚本や、『パイ
レーツ・オブ・カリビアン』のストーリーを担当したスチュ
アート・ビーティの起用が発表されている。
 オリジナルは、ミッドウェイ社が1980年代に発表したアー
ケイドゲームで、その後にPS2やXboxにも移植された
ようだが、いろいろな設定は言われているものの基本は単純
なシューティングゲーム、それを長編映画にするにはかなり
の創作能力が要求されるものだ。特に今回は、ユニヴァーサ
ルが物語性よりもゲーム感覚を基調にしたものを期待してい
るという説もあり、その辺でも難しいところはありそうだ。
 監督は、2004年5月1日の第62回で紹介したジョン・ウー
の担当は変っていないようで、現在は2006年夏のテントポー
ルを目指した準備が進められている。早撮りが得意のウー監
督なら、プロダクションデザインなどの準備がちゃんと行わ
れていれば、まだ遅すぎるということはないと思うが、そろ
そろ脚本を完成して、計画通りの公開を願いたいものだ。
        *         *
 後は新しい話題を紹介しよう。
 前回も“Goya's Ghosts”を紹介したナタリー・ポートマ
ンに、またまた新しい計画が発表されている。
 今回の計画は、“Mr.Magorium's Wonder Emporium”と題
されているもので、マーク『ネバーランド』フォースター監
督の新作コメディ“Stranger Than Fiction”(ウィル・フ
ェレル、ジェイク・ギレンホール共演)などを手掛けた脚本
家のザック・ヘルムが、自作のオリジナル脚本を監督する作
品。元ミラマックスの所属で『ネバーランド』も手掛けたリ
チャード・グラッドスタインが製作を担当している。
 内容は、1988年の“Big”(ビッグ)と“Willy Wonka and
the Chocolate Factory”を合わせたようなファンタシーと
いうことで、ポートマンが演じるのは、ちょっとエキセント
リックなオーナーが経営する玩具店のマネージャー。そのオ
ーナーの健康状態が危険になり、オーナーはマネージャーに
店を譲ろうとするが…という物語だそうだ。引き合いに出さ
れている作品は、どちらも子供の心を持った大人の話だが、
ポートマンはこれをどのように演じてくれるのだろうか。
 ただ、上記の発言は脚本家=監督のものだと思われるが、
わざわざ“Charlie”ではなく、“Willy Wonka”と言ってい
る辺りがちょっと気になるところだ。
 なおポートマンのスケジュールでは、日本はオスカー候補
になった『クローサー』の公開がこれからだが、アメリカで
は5月19日に“Star Wars: Episorde III−Revenge of the
Sith”が公開される。また現在は“V for Vendetta”の撮影
中で、秋から前回報告の“Goya's Ghosts”の撮影が開始さ
れ、今回の作品はその後に撮影の予定になっている。
 因に、今回の作品に関連した報道で、“Goya's Ghosts”
を撮影中とする記事があったがそれは誤り。さらに、撮影中
の“V for Vendetta”では、新たにタイトルロールのV役で
ウーゴ・ウェイヴィングの出演も報道されている。
        *         *
 ウェス・クレイヴン監督が、インディーズ系のゴールド・
サークル・フィルムスと組んで“The Waiting”というホラ
ー作品の製作を計画している。
 この計画は、1968年の『ローズマリーの赤ちゃん』や、ニ
コラス・ローグ監督がダフネ・デュ=モーリア原作を映画化
した1973年の“Don't Look Now”のような大人向けホラーの
復権を目指すとするもので、本作は、死亡した我が子の霊に
憑り付かれたと信じている女性を主人公にした物語。今年の
2月4日に全米公開された“Boogeyman”が4000万ドル超え
のスマッシュヒットとなったジュリエット・スノーデンとス
タイルス・ホワイトの脚本を映画化する。
 なお今回の計画では、クレイヴンは製作総指揮のみ担当し
て監督はしないようだが、ティーンズホラー全盛の時代に、
この動きはちょっと注目したいところだ。
 因に、クレイヴンの作品では、2004年9月15日の第71回で
紹介したドリームワークス製作による監督作品“Red Eye”
(キリアン・マーフィ、レイチェル・マクアダムス共演)は
すでに製作が完了しているようだ。また、1977年の監督作品
“The Hills Have Eyes”(サランドラ)のリメイクがフォ
ックス・サーチライトで計画され、こちらはアレックス・ア
ジャ、グレゴリー・ラヴァサールの共同監督で進められるこ
とになっている。
        *         *
 『シャーク・テイル』に続いて、“Madagascar”がこの夏
公開されるドリームワークス・アニメーションの新計画で、
“Bee Movie”という作品を2007年11月2日に公開する計画
が発表された。
 この作品は、テレビの『となりのサインフェルド』などの
人気俳優ジェリー・サインフェルドが2003年12月頃から企画
していたもので、サインフェルドが声優を担当するバリー・
B・ベンソンという名前の蜜蜂が、カレッジは卒業したもの
の蜂蜜採集だけの人生に幻滅し、ふと訪れたニューヨークの
街角で花屋の女性に巡り会う。そして人間との交流が始まる
が、ある日、彼は自分たちの集めている蜂蜜が人間によって
搾取されていることに気付いて…というお話。
 この花屋の女性の声を、『シャーク…』でもヒロインの声
を演じたばかりのルネ・ゼルウィガーが担当し、他にユマ・
サーマン、キャシー・ベイツ、アラン・アーキン、ウィリア
ム・H・メイシー、ロバート・デュヴォールらが声の共演。
さらに“The Producers”の評判が高いマシュー・ブロデリ
ックにも声優の交渉がされているとのことだ。
 いや正直、雄蜂が蜜を集めるというのは、ちょっと???な
設定だが、それを別にすればこれだけのメムバーの声の共演
は楽しみなことだ。またこれだけのオールスター・キャスト
が揃う背景には、最近のハリウッドのアニメーションブーム
が挙げられているが、実はハリウッド式のアニメーション製
作では、声優は事前に台詞を録音し、それに合わせてアニメ
ーションを製作するもので、これなら声優の負担も少なく、
今後のCGIアニメーション量産体制の中で、この傾向はま
すます高まりそうだ。
 脚本は、サインフェルドとバリー・メイダー、スパイク・
フェラステン、アンディ・ロビンの4人が共同で担当し、監
督は、“The Prince of Egypt”のスティーヴ・ヒックナー
と、“Shrek 4”の監督にも予定されているサイモン・J・
スミス。スミスは本作がデビュー作で、ここでの共同監督は
次の大作への足慣らしとなりそうだ。また、製作は『ナショ
ナル・トレジャー』も手掛けたクリスティナ・スタインバー
グが担当している。
 因に、ドリームワークス・アニメーションからは、今年は
“Madagascar”に続いて10月7日に“The Wallace & Gromit
Movie”が公開され、2006年は5月19日“Over the Hedge”
(主人公アライグマ、声ブルース・ウィリス)と、11月3日
に“Flushed Away”(主人公ネズミ、声ケイト・ウィンスレ
ット、ヒュー・ジャックマン)、そして2007年には5月18日
“Shrek 3”が公開された後に本作となり、年2作のペース
で公開が続く。なお、2007年には3月15日の第83回で紹介し
た“Puss in Boots”のDVD発売も予定されている。さら
にカンヌ映画祭でもう1本発表があったようだが、それは次
回紹介する。
 一方、2007年には、昨年9月1日の第70回に紹介のソニー
・アニメーション第2弾“Surf's Up”が6月22日に公開さ
れる他、ディズニーと袂を分かったピクサーからは、題名等
は未発表だが独立後の第1作の公開も予定されており、アニ
メーションの戦国時代はますます激しくなりそうだ。

《今回は情報が多いので、明日付で続きを掲載します》



2005年05月14日(土) 肌の隙間、トラブルINベガス、楳図かずお恐怖劇場、ハッカビーズ、0:34、ヒトラー、逆境ナイン、about love

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※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介しています。     ※
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
『肌の隙間』
『MOON CHILD』等の一般映画でも知られる瀬々敬
久監督による2004年作品。実は、瀬々監督はピンク映画が本
業だそうで、この作品も昨年ピンク映画として公開されてい
る。しかしその評価が高く、今回一般劇場で上映されること
になったというものだ。
ピンク映画については、前に『ピンク・リボン』という作品
を紹介したときに書いているが、今でも年間90本以上の新作
が作られていると言われており、本作はそのうちの1本とい
うことになるようだ。
物語は、引き篭りの男子高校生と、自閉症の叔母との逃避行
を描いたもので、それまで世間との接触をしたことのなかっ
た2人が、ヒッチハイクで襲われて性を意識し、無人の山荘
での獣のような行為や、その後に都会へ戻っての結末が描か
れる。
ピンク映画というので、もっとセックス描写が多いのかと思
ったら、それほどでもなく、逆に、特異なシチュエーション
でのドラマを追う努力が見える。とは言え、77分という上映
時間では余り深くは描けないが、それなりのものはあったよ
うに感じた。
『ピンク・リボン』の中でも、社会性のあるテーマのような
ことも言われていたが、このテーマの捉え方には、昔のゴダ
ールやトリュフォーの雰囲気も感じた。その意味では、その
手の映画に感動していた学生時代の自分も思い出してしまう
ような作品だ。
という言い方の裏には、実はある種の青臭さも感じているも
のだが、1960年生まれで一般映画にも実績のある監督が青臭
いはずはなく、これはテクニックだろうとも思ってしまう。
しかし、そのテクニックは、このテーマを描くのには似合っ
ていた感じもする。
それにしても、『ピンク・リボン』で語られた、何分置きか
セックス描写のルールは守られていないようにも思えるし、
これでピンク映画の観客は満足したのだろうか。評価は高い
というから、多分納得して見ているのだろうが、それも不思
議な感じがした。

『トラブルINベガス』“Elvis Has Left the Building”  
「1977年エルヴィスが亡くなったとき、エルヴィスのそっく
りさんを名告る人物は3人しかいなかった。それが2002年に
は世界中に5万人いるという。そしてこのペースで増え続け
ると、2012年には、世界の人口の4分の1はエルヴィスのそ
っくりさんになる…」
こんな人を喰ったテロップで始まるこの作品は、『マイ・ビ
ッグ・ファット・ウェディング』のジョエル・ズウィック監
督の2004年作品。キム・ベイシンガーの主演で、『マイ・ビ
ッグ…』のジョン・コーベットが二枚目を演じている。
ベイシンガーが演じるのは化粧品の訪問販売員で、カリスマ
とまで呼ばれている女性。幼い頃に母親がエルヴィスの車の
整備をしていた関係で、エルヴィスに家まで送ってもらった
経験があり、以来エルヴィスが心の導師となっている。
そんな彼女が仕事に少し疲れかけた頃。ふと立ち寄った店で
エルヴィスのそっくりさんに遭遇する。ところが、実際は似
ても似つかないその男にメイクの指導を頼まれて彼の楽屋を
訪れると、事故でその男が死んでしまう事態となる。
その後も、彼女の立ち回る先々にそっくりさんが現れ、目の
前で死ぬ事件が続発する。この事態に何故かFBIも動き出
す(理由は説明される)ことになるが…
そんな彼女の前には二枚目が現れて、好意を寄せてくれるの
だが、彼はエルヴィスの衣装を持っていた。そして舞台は、
ラスヴェガスで開催されるエルヴィスそっくりさん世界大会
の会場へと雪崩れ込む。
その間、要所にはシーンに合ったエルヴィスの歌が流された
り、そっくりさんの怪しげなパフォーマンスなど、エルヴィ
スの歌がふんだんに盛り込まれた作品だ。
それにしても、全部で何人のそっくりさんが死んだのかな?
しかもこの死ぬ役には、監督や、『マイ・ビッグ…』の製作
に力を貸したトム・ハンクスらもカメオ出演していて、死に
方にもいろいろ手を込ませるなど、かなりブラックなユーモ
アに彩られている。
しかし、カルチャーが背景にあるユーモアより、ブラックな
ユーモアの方が万人に判りやすいもので、しかも被害者がそ
っくりさんに限定されているから、話も明解で屈託なく笑う
ことができた。僕としては、今のところ今年一番笑えた作品
と言えそうだ。
なお、主人公の母親役でアンジー・ディキンスンの登場が懐
かしかった。

『楳図かずお恐怖劇場』
「プレゼント/DEATH MAKE」
漫画家楳図かずおのプロデビュー50周年ということで企画さ
れた、それぞれが60分前後の作品6本からなるシリーズの内
の2本で、監督を、『魁!!クロマティ高校』の山口雄大と、
VFXアーティストの太一が担当している。
実は時間の関係でシリーズの全作品を見ることはできなかっ
たが、この2本に関して言えば出来はかなり良かった。
特に、聖夜に不謹慎な行動を繰り広げる若者たちへのサンタ
クロースからの鉄鎚を描いた前半の作品は、物の見事なスプ
ラッターでその描き方も見事なら、物語の途中から視点が変
る構成も秀逸だった。
山口監督については、『クロ高』のときにも観客の期待通り
のものを造り出すバランス感覚の良さを感じたが、この作品
でも、見せるべきものがちゃんと描かれている心地よさが感
じられた。
また、後半の作品は、降霊実験が引き起こす飛んでもない事
態をCGIの合成などVFX満載で描いたもの。実は、試写
の時点ではVFXが未完成で、普段の僕なら未完成で試写を
するなと怒るところだが、これだけでもすでに良い感じで見
られたものだ。
正直に言えば完成品をちゃんと見て評価したかったところだ
が、それでもこれだけの期待観が生まれるのは大したものと
も言えるだろう。
玉石混淆の6本になりそうだが、この2本はとりあえずお勧
め。ただし山口監督作品のスプラッターは覚悟が要ります。

『ハッカビーズ』“I ♥ Huckabees” 
原題の真中はunicodeで入れたので、PCの環境によっては出
ないかも知れませんが、ハートマークです。この部分、海外
のデータベースではHeartとなっていたが、Loveと読むので
はないのかな。
1999年公開されたジョージ・クルーニー主演の戦争コメディ
『スリー・キングス』で高い評価を受けたデイヴィッド・O
・ラッセル監督の6年ぶりの新作。ラッセルの製作脚本監督
というワンマン映画だが、製作には『クローサー』などのベ
テラン製作者スコット・ルーディンも名を連ねている。
一方、出演者には、ジュード・ロウ、ナオミ・ワッツ、ダス
ティン・ホフマン、リリー・トムリン、マーク・ウォールバ
ーグ、それにフランスからイザベル・ユペールという多彩な
顔ぶれが集まっている。
題名のHuckabeesとは、顧客のあらゆる満足を手頃な価格で
提供するスーパーマーケットチェーンの名前。その店舗がと
ある町に進出することになって巻き起こる反対運動などのす
ったもんだが描かれる。
この反対運動を、『シモーヌ』などのジェイスン・シュワル
ツマン扮する主人公の若者が始めるのだが、その運動は、ロ
ウ扮する白い歯を見せるキラースマイルが決め手のチェーン
の営業マンに、徐々に懐柔されて行ってしまう。
そこで若者は、ホフマンとトムリンが演じる「哲学探偵」に
依頼して自分自身の間違いを探ることにするのだが…それは
ウォールバーグ扮する消防士や、ワッツ扮するキャンペーン
ガールをも巻き込んで、飛んでもない事態へと発展して行く
ことになる。
物語は、この「哲学探偵」なるものがキーワードで、ホフマ
ンが実に怪しげな理論を展開して主人公たちを煙に巻く。そ
してこの理論には、ユペール扮するフランス人思想家が対決
することになるが…
それにしてもこの対立する理論が、どちらもいい加減としか
言いようのない代物でありながら、聞いていると何となく納
得できるところがミソで、さすがにホフマンとユペールの演
技力なのか、ラッセルの脚本?それとも演出力?という感じ
の作品だ。もちろんコメディなのだが、笑うと言うより感心
して見てしまった。
なお、反対運動の参加者の女性の役で、『鳥』『マーニー』
などのヒッチコック作品でヒロインを演じたティッピー・ヘ
ドレンが出演していて懐かしかった。

『0:34』“Creep”
終電後のロンドン地下鉄を舞台に、その構内で起きる奇妙な
出来事を描いたイギリス製のスプラッターホラー映画。
主人公の女性は、パーティを抜け出して地下鉄で別の目的地
に向かおうとする。しかし駅のベンチで酔いが廻って眠って
しまい、目覚めたときには終電の出た後だった。しかも駅の
出入り口は施錠され、彼女は構内に閉じ込められてしまう。
ところがそこに無人の電車が到着し、彼女はそれに乗り込む
のだが…
この女性を演じるのが、『ラン・ローラ・ラン』などのドイ
ツ人女優のフランカ・ポテンテで、この作品でも走る走る。
主な舞台はチャリングクロス駅となるが、複雑に入り組んだ
地下駅の通路を、恐怖に追われながら逃げ惑うというのが大
体の物語だ。
この恐怖の元は、最近ではちょっと有り勝ちな感じのものだ
が、実はここにちょっと仕掛けがあって、ファンならニヤリ
とするオマージュにもなっている。これはキャラクターが登
場した瞬間からおや?と思わせるが、途中での演技でそれを
確信したものだ。
因に、このキャラクターの特殊メイクは“The Lord of the
Rings”のスタッフが手掛けたものだそうだ。
それは別としても、映画全体はスプラッターホラーの単目的
で、舞台設定や途中の仕掛けなども申し分なく満足できる。
最近では、『ザ・リング2』でも恐さを感じなくなった身と
しては、久しぶりに背筋がぞくぞくする感覚が味わえて嬉し
くもなった。
登場人物の設定も、さほどの違和感もなく納得できるし、特
に主人公や脇役たちが目立って馬鹿な真似もせずに、それで
も窮地に陥って行く展開は論理的でよく描かれていた。
チャリングクロス駅は以前にロンドンに行ったときに、乗り
換えなどで何度も乗り降りしたが、確かに乗り換えの時など
は通路が複雑で迷った記憶がある。
これは東京も同じだが、地下鉄の駅には何か非現実的な感覚
がつきまとう。この作品は、その非現実的な地下鉄駅の雰囲
気をうまく利用したもので、脚本監督のクリストファー・ス
ミスはこれが第1作のようだが、この調子なら次回作にも期
待したくなった。
それにしても、以前の映画でニューヨーク地下鉄の廃線・廃
駅を舞台にしたものがあったが、ロンドンの地下鉄にこれほ
どの廃駅があるとは知らなかった。東京も謎の地下構造物は
いろいろあるようだが、そういう場所での映画撮影は難しい
のだろうか。

『ヒトラー〜最後の12日間〜』“Der Untergang”
題名通りヒトラーの最後の12日間を描いた2時間35分の大作
で、今年のアカデミー賞外国語映画部門にもノミネートされ
た作品。
映画は、同原題のノンフィクションと、“Bis Zur Letzten
Stunde”と題されたヒトラーの元秘書で2002年に亡くなった
女性の回想録に基づいており、主にはこの女性の目を通した
地下要塞の内情が描かれている。
そこには、『ベルリン・天使の詩』のブルーノ・ガンツ扮す
るヒトラーや、エヴァ・ブラウン、それにゲッペルス、シュ
ペーア、ヒムラーらの要人やその家族もいて、戦況や崩壊寸
前のナチスドイツの将来に関するいろいろな議論が繰り返さ
れるが…
この地下要塞の内部は、ミュンヘン・ババリアスタジオに天
井も含めて正確に再現されたセットで撮影され、その閉塞感
や、手持ちカメラを用いた映像は臨場感を募らせる。また克
明に再現された人物の動きは、歴史の証人になったような気
分にもさせられるものだ。
一方、見事に造形された破壊されたベルリン市街は、サンク
トペテルブルグで撮影されているが、レニングラード攻防戦
では多数の市民に犠牲者を出したこの町で、ロシア人がドイ
ツ兵に扮して撮影が行われたということでは、歴史の重みも
感じさせる。
正直に言って、上映時間を感じさせない構成と演出で、映画
としての出来は優れた作品だと思う。また、当時の状況から
考えて、映画の中でヒトラーにへつらうような発言が数多く
発せられるのは、歴史的な事実として仕方のないところだろ
う。
しかし、映画の中で、アウシュヴィッツを正当化するヒトラ
ーの発言がことさら描かれたり、ドイツ国民も被害者だった
とするような描き方が強調されるのには、やはり疑問を感じ
る。ヨーロッパで批判が強かったのも頷けるところだ。
また、最後に元秘書の女性の映像も登場するが、その中での
罪を感じていなかったという発言には、正直神経を逆なでさ
れたような感じも持った。戦時の罪には問われなかった彼女
は、後年アウシュヴィッツを訪れて、初めて自分の罪深さに
気付いたということだが、結局そうでもしなければ自分たち
のしたことも判らない、そんな高慢さも感じられた。
国家としてのドイツは、戦後補償のやり方などを通じて、日
本以上に戦争への罪の意識を持っていると思っていたが、民
間レヴェルでは、決して万人がそうではないということのよ
うだ。まあ、それ以下の日本人が言えることではないが。

『逆境ナイン』
島本和彦の原作漫画を、『SMAP×SMAP』等の構成作
家・福田雄一が映画初挑戦で脚色し、昨年監督デビュー作の
『海猿』が話題を呼んだ羽住英一郎が第2作として手掛けた
作品。
部員はぎりぎり9人で、勝知らずの高校野球部が、校長から
勝てないなら廃部の条件を突きつけられ、その逆境の中で甲
子園を目指して進んで行く姿を描いた青春ギャグドラマ。主
人公の不屈闘志を玉山鉄二、マネージャーの月田明子を掘北
真希が演じる。
何しろ1戦でも負ければ廃部という条件の中で、名門校に練
習試合を申し込んだり、部員が赤点で試合日に追試となった
り、と常識では考えられない逆境に次々に見舞われ、それを
また奇想天外な手段で乗り越えて行く。
そして極め付きは、9回裏112対0の大ピンチ、しかも動け
るのは主人公だけという絶体絶命の状況で、主人公はこれを
如何にして克服するのか…
『海猿』は見ていないが、それなりに感動的な正統派のドラ
マだったと聞いている。その監督が次に選んだ作品がギャグ
漫画の映画化というのは…他にも企画は目白押しだったろう
と想像されるところで、これは確かに冒険だろう。
しかし作り手の熱意というのはこういうところに発揮される
もので、本当に作りたかったのはこれだ…というような感じ
が、見事に伝わってくる作品だった。多分『海猿』は、この
作品のための足掛かりだったのだろうな…とも思わせる。
この手のギャグ作品で、VFXの多様は定番になってきてい
るが、クライマックスの試合シーンやモノリスの飛来シーン
以外にも、前景と後景がスローモーションの間で主人公がノ
ーマルスピードでのたうち廻っているような、ちょっとした
描写にセンスを感じた。
漫画原作ということで、演技は大げさだし、出演者にも素人
同然の人もいたようだが、全体のトーンは統一されていて、
見ていて気になることはなかった。その辺の監督の手腕は確
かなように思える。
学園ギャグ作品では、前に『魁!!クロマティ高校』を紹介し
ているが、ちょっとマニアックな『クロ高』とは対極の、真
っ当な線を狙った作品で、こういう作品が正当に評価される
ことを期待したいところだ。

『about love』“関於愛”
東京、台北、上海を舞台に、異邦人と現地の人の交流を描い
た3つの物語からなるオムニバス映画。それぞれの街と恋の
物語を、東京=下山天、台北=易智言、上海=張一白という
3人のそれぞれ現地の監督が演出した。
物語は、相互に少しずつの繋がりはあるが、それぞれは独立
しており、それぞれのシチュエーションに合わせたストーリ
ーが展開する。その共通のテーマはコミュニケーションで、
言語の違いで直接にはつながらない意志を、伝え合って行く
物語だ。
東京では、アニメーションを学ぶ台北からの留学生が、街で
行き交った女性に恋をし、その意志を伝えようと努力する。
台北では、思いの違う男女が漢字で意志を伝えようとする。
上海では、互いに英語で意思の疎通は図れるが、それでも伝
わらない思いもある。
そんな男女の微妙な物語が、全体で102分の上映時間の中に
3つ見事に納められている。
表現の手法としては、時間の緩急を巧みに映像化した東京編
がテクニック的には一番凝っているが、台北編の噛み合わな
い会話がどんどん違う意味になって行く脚本も見事だし、上
海編の変化して行く風景の描写も見事だった。
それぞれが淡い恋の物語で、伝えようとしても伝わらない、
しかし伝えようとしないことが妙な具合に伝わって行く。そ
んなどこにでもありそうな物語が、極々自然に描かれる。 
小難しい話ではないし、心優しく楽しみたい作品だ。



2005年05月01日(日) 第86回

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
※このページは、キネマ旬報誌で連載中のワールドニュー※
※スを基に、いろいろな情報を追加して掲載しています。※
※キネ旬の記事も併せてお読みください。       ※
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
 このページでは、基本的にテレビ番組の情報は扱わないこ
とにしているが、この話題は映画ファンも気にしていると思
うので、今回はこの情報から。
 いよいよ5月19日に最終話の“Revenge of the Sith”が
全米公開される“Star Wars”の、その後についての計画が
公表された。これは4月中旬にインディアナポリスで開催さ
れたルーカスフィルム公認のファン大会に18年ぶりに出席し
たジョージ・ルーカス本人がファンの質問に答えたもので、
それによると、ルーカスフィルムでは“Star Wars”を題材
にした2本のテレビシリーズを計画しているとのことだ。
 その1本目は、すでにCartoon Networkで放送されたミニ
シリーズ“Clone Wars”を拡張するもので、3Dアニメーシ
ョンによる30分物のシリーズが計画されている。また、この
シリーズの製作は、ルーカスフィルムが先にシンガポールに
設立したCGIスタジオで行われるということで、このため
スタジオには、“Aeon Flux”のピーター・チャンを始め、
世界中から最優秀のクリエーターが集められているそうだ。
 そしてもう1本は実写によるシリーズで、“Star Wars”
に登場した複数のキャラクターに関して、映画では描き切れ
なかった部分に焦点を当てたシリーズの計画も発表された。
 この計画は、ルーカスフィルムとしては1992−93年に放送
された“The Young Indiana Jones Chronicles”以来の実写
テレビシリーズになるようだが、同作の時と同じく、少なく
とも第1シーズンについては全話のストーリーを作り上げて
から製作に掛かりたいとのことで、現在はそのための準備を
始めたところということだ。従って、製作開始までにはまだ
多少の時間が掛かりそうだが、さらにルーカス本人は、その
第1シーズンのストーリーが完成したら、後はシリーズの製
作からは離れる意向を表明しており、それだけしっかりした
物語の構築が要求されることになりそうだ。
 ただしこれらの2シリーズは、いずれも“Revenge of the
Sith”の終りから、“A New Hope”の始まりまでの数年間
を描くものになるということで、特に実写シリーズについて
は、複数のキャラクターとされてはいるものの、シリーズの
中では最も知名度が高いと言われるDarth Vaderが中心にな
ることは、必然と考えられているようだ。
 ところで前回このページでは、ルーカスの早とちりの発言
について紹介したが、今回の発言はちゃんと準備されたもの
だったようだ。実際、実写シリーズについては、昨年の秋ぐ
らいからウェブ上で噂が広まっていたもので、その意味では
新鮮味には乏しい情報だったが、取り敢えずはルーカス本人
の口から公式に発言されたということで、シリーズの製作は
間違いなく行われることになりそうだ。
 とは言え、今回の製作発表はルーカス側が一方的に行った
もので、これらシリーズを放送するテレビ局はまだ決まって
いない。ここでアニメーションシリーズに関しては、ミニシ
リーズを放送したCartoon Networkで放送するのが順当と考
えられるようだが、問題は実写シリーズの方で、これも順当
なら映画シリーズを配給しているフォックス系のFoxネット
ワークなのだが…ルーカスとの関係を深めたい他社の巻き返
しも熾烈なものになるだろうというのが、業界紙の予想のよ
うだ。いずれにしても、この2シリーズで“Star Wars”の
ファン層は次世代にも引き継がれ、さらにグッズなどの売り
上げも保証されると業界紙は伝えていた。
 なお今回は、前回紹介した3D版の製作についての発言は
なかったようだ。また、“Return of the Jedi”以降の第3
トリロジーについての発言も報告されていなかった。しかし
今回の発言によれば、実写シリーズの第1シーズンのストー
リー構築が済んだら、ルーカス自身はやることが無くなって
しまう訳で、ルーカス本人のその後の計画は一体どうなって
いるのだろうか。
        *         *
 さて、以下はいつものように映画の製作ニュースを紹介し
よう。
 『ミリオンダラー・ベイビー』で、今年度のアカデミー賞
助演男優賞を受賞したばかりのモーガン・フリーマンが、自
らのプロダクションの製作と主演で、当たり役の殺人課刑事
Dr.アレックス・クロスに三度挑戦する計画が発表された。
 この作品は、“Roses Are Red”という題名で、1997年公
開の“Kiss the Girls”(コレクター)、2001年の“Along
Came a Spider”(スパイダー)に続く第3作。元広告マン
のジェームズ・パタースンが手掛けるベストセラーシリーズ
をパラマウントが映画化しているもので、前2作は、それぞ
れアメリカでは6000万ドルと7400万ドルの手堅いヒットにな
っている。第1作では連続殺人事件、第2作では上院議員の
娘の誘拐事件を鋭い推理で解決したクロスは、今回は人質事
件の絡んだ連続銀行強盗犯と対決することになるようだ。
 そしてこの脚色に、1998年公開の『ビッグ・ヒット』など
のベン・ラムゼイの起用が発表されている。なおラムゼイに
ついては、2004年7月15日付の第67回でも紹介しているが、
マーヴェルコミックスの原作をジョン・シングルトン監督で
ソニーが製作する大型アクション作品“Luke Cage”の脚本
を手掛けている他、フォックスで進められている日本製アニ
メの実写映画化“Dragonball Z”も担当している脚本家だ。
        *         *
 2007年5月に“Spider-Man 3”の公開が予定されているト
ビー・マグワイアの出演作の計画が2本発表されている。
 1本目はワーナー製作で、スティーヴン・ソダーバーグ監
督、ジョージ・クルーニー、ケイト・ブランシェット共演に
よる“The Good German”。ジョセフ・カノン原作による第
2次大戦後のベルリンを舞台にした殺人ミステリーで、この
秋にLAのワーナースタジオを使って、全編モノクロでの撮
影が行われるということだ。なお物語は、クルーニー扮する
ジャーナリストの主人公が、ブランシェット扮する謎の女性
の探究を進めるというもので、マグワイアはジャーナリスト
の捜査に協力する駐留米軍の係官の役とされている。
 そして2本目は、ソニー製作で“Tokyo Suckerpunch”。
この作品は、アイザック・アダムスンの小説を映画化するも
ので、東京在住のコラムニストの主人公が自らをヒーローに
した作品を発表し、その作品が映画化されるが、それがとん
でもないトラブルを引き起こすというお話。『メン・イン・
ブラック』『チャーリーズ・エンジェル』などソニー製作の
ヒットシリーズを手掛けるエド・ソロモンが脚色を担当して
いる。ただし本作は、シリーズものではないようだ。
 なお2本目は、マグワイア自身が製作にもタッチしている
作品で、現状で監督などは発表されておらず製作時期は未定
のようだが、マグワイアは『スパイダーマン2』のプロモー
ションでも「東京で映画を作りたい」と言っていたもので、
それがちょっと違う形で実現しそうだ。
        *         *
 『クローサー』の演技でアカデミー賞にノミネートされた
ナタリー・ポートマンが、『カッコーの巣の上で』と『アマ
デウス』で2度の監督賞に輝くミロス・フォアマンと、同作
品賞受賞のソウル・ゼインツ製作のコンビによる次回作に出
演することが発表された。
 この作品は“Goya's Ghost”と題されたもので、1792年の
スペインを舞台に、すでに高名になっている画家のフランチ
ェスコ・ゴヤが巻き込まれたスキャンダルを描く内容。フォ
アマンとジャン=クロード・カリエリの脚本を映画化する作
品だ。共演には、『海を飛ぶ夢』のハビエル・バルデムが予
定されている。
 因に、バルデムが演じるのはゴヤではなく、当時のスペイ
ンで行われていた宗教裁判を陰で操っていた聖職者というこ
とで、彼がポートマン扮するゴヤが愛した女性に恋心を持っ
たことから始まる物語のようだ。また、ポートマンは本作の
中では2役を演じるという情報もある。
 ただしこの計画は、実はまだ製作資金の調達が済んでいな
いのだが、共演の2人はすでに秋からのスケジュールを空け
て待っているそうだ。なおポートマンは、現在はウォシャウ
スキー兄弟脚本、製作の“V for Vendetta”を撮影中となっ
ている。また、ポートマンとバルデムは“Paris,Jet'aime”
というオムニバス作品に、別々のエピソードではあるが共に
出演したことがあるそうだ。
        *         *
 グラフィックノヴェル作家のリチャード・ケリー脚本、監
督による作品で、2008年7月4日のロサンゼルスを舞台にし
た終末映画“Southland Tales”に、ザ・ロックことドウェ
イン・ジョンスンとショーン・ウィリアム・スコット、それ
にサラ・ミッシェル・ゲラーの共演が発表されている。
 物語は、社会的、経済的、そして環境的に危機を迎えた近
未来の大都会が舞台で、そこでジョンスンが扮するのは、記
憶喪失症のアクションスター。しかし彼の人生が、テレビで
リアリティ番組に出演するアダルト映画スターと交錯したと
き、巨大な陰謀の存在が明らかになる。そしてその鍵を握る
のは、ハルモサ・ビーチの一警官…というお話のようだ。
 なおケリーは、全9話からなる原作も執筆しており、この
原作はそれぞれが100ページの6巻本として来年早々に出版
されるが、その最後の3話分を映画化した本作を、原作本の
刊行に合わせて公開するという計画だそうだ。果たしてこの
マルチメディア戦略はうまく行くのだろうか。
 またケリーは、ジョンスンに関して「すばらしい俳優」と
評しているが、本作では何人かの出演者には音楽が絡むシー
ンもあるということで、ジョンスンがその対象かは明らかで
はないが、仮にそうだとするとその辺は未知数のようだ。
 映画は、チェリーロード・フィルムスという会社が、ユニ
ヴァーサルと、フランスのワイルドバンチなど数社の出資を
受けて製作するもので、今年8月1日からロサンゼルスでの
撮影が予定されている。
        *         *
 またまたリメイクの計画が大量に発表された。今回はその
中からサスペンス/ホラー系の作品を中心に紹介しよう。
 まずは“Strangers”という題名で、アルフレッド・ヒッ
チコック監督の1951年作品“Strangers on a Train”(見知
らぬ乗客)のリメイクがワーナーで計画されている。
 オリジナルは、パトリシア・ハイスミスの原作をハードボ
イルド作家のレイモンド・チャンドラーが脚色したもので、
妻と別れたがっている男が、列車に乗り合わせた見知らぬ乗
客から交換殺人の話を持ちかけられるというもの。アメリカ
のガイド本では、どこも最高の星数を表示している作品で、
数あるヒッチコックの名作の中でも最高作と呼ばれているも
のだ。また、すでに“Once You Kiss a Stranger”の題名で
1969年にリメイクされた他、ダニー・デヴィート監督主演の
“Throw Momma From the Train”はインスパイアされた作品
として認定されているようだ。
 この作品を今回の計画では、コマーシャル監督のノーアム
・ムロの監督でリメイクするというもので、脚本にはデイヴ
ィッド・セルツァーの脚色から、さらにランド・ラヴィッチ
がリライトしたものが使用される。なおムロは、昨年“The
Ring 2”を途中降板したことでも話題になった監督だが、今
年1月に発表されたDGA賞では、コマーシャル監督部門の
最優秀監督に選ばれており、また、『ザ・リング』と同じド
リームワークスで、“All Families Are Psychotic”という
作品の監督も担当しているそうだ。
        *         *
 さらにヒッチコック作品では、1963年に公開された“The
Birds”(鳥)のリメイク計画も発表されている。
 このオリジナルは、1940年に映画化された『レベッカ』の
原作者でもあるダフネ・デュ=モーリアの短編小説に基づく
もので、小動物パニック映画のはしりとも言える作品だが、
今回はこの原作から、昨年の『テキサス・チェーソー』に続
き、今年は“The Amityville Horror”のリメイクも好調な
マイクル・ベイ主宰プラチナム・デューンが参加して、リメ
イクが行われるというものだ。
 因に、ヒッチコックの映画化は、鳥が人を襲うという基本
設定以外は、原作からはかなり離れた内容で、映画化という
よりはインスパイアされた作品と言った方がいいくらいのも
のだったが、今回の映画化も、脚本家はまだ発表されていな
いが大幅な現代化が行われるものと思われる。なお、製作は
ピーター・グーバー主宰のマンダレイ・ピクチャーズとの共
同で行われ、ユニヴァーサルが配給する。
 なお、プラチナム・デューンからはもう1本、ルトガー・
ハウアー主演で1986年に公開された“The Hitcher”(ヒッ
チャー)のリメイク計画も発表されている。
 このオリジナルはヒッチコックではないが、C・トーマス
・ハウェル扮する10代の少年が、ハウアー扮するヒッチハイ
カーを同乗させたことから起きる恐怖物語。ベイは、「スタ
ッフの1人がこの題名を思い出したときに、今こそこれをリ
メイクすべき」と思ったそうだ。なおリメイクのストーリー
には、オリジナルよりクールな捻りを加えたいとしている。
        *         *
 『ポーキーズ』と言っても、日本では覚えている人も少な
いだろうが、1980年代の前半に若者向けのコメディ作品で一
世を風靡したこのシリーズで、特に評価の高い第1作、第2
作を監督したボブ・クラークは、元々はティーンズホラーで
デビューした監督だった。
 そのクラーク監督が、新たにヴィクター・ソルニッキーと
いうプロデューサーと組んで、製作費1000〜4000万ドル規模
の作品を継続して製作する計画が発表され、その第1作とし
て、1972年に製作されたクラーク監督の事実上のデビュー作
とされる“Children Shouldn't Play with Dead Things!”
(日本未公開)のリメイクが予定されている。
 この作品は、日本ではヴィデオで紹介されてカルト人気が
高いそうだが、離れ島にキャンプに来た若者のグループが遊
び半分で死体を甦らせてしまうというもので、ゾンビ物とし
ては比較的早い時期に作られた作品と言える。そして今回の
リメイクでは、クラークは新たに脚本を書き直し、1200万ド
ルの製作費で、近日中にカナダのブリティッシュ・コロムビ
アで撮影が開始されるということだ。
 因に、クラーク監督は1941年生まれということだが、若々
しい作品を期待したいものだ。
 そしてもう1本、クラーク監督作品では日本に最初に紹介
された“When a Strangers Call”(夕暮れにベルが鳴る)
のリメイク計画も発表されている。
 1979年に製作されたこの作品は、女子学生の主人公がベビ
ーシッターのために訪れた家で、謎めいた電話を受けるが、
その電話が、家人の居ないはずの同じ家の中から掛ってきて
いることが判明するというもの。いわゆるティーンズホラー
としてはうまい設定の話だと思うが、今回発表されたリメイ
クでは、監督を『トゥーム・レイダー』のサイモン・ウェス
トが担当し、ソニー傘下のジャンルブランド=スクリーン・
ジェムズで製作されるということだ。
        *         *
 後半は短いニュースをまとめておこう。
 まずは続報で、2006年5月19日の全米公開予定で6月に撮
影開始される“The Da Vinci Code”の映画化に、国際色豊
かな共演陣が発表されている。この作品は、ブライアン・グ
レイザー製作、アキヴァ・ゴールズマン脚色、ロン・ハワー
ド監督という2001年のアカデミー賞を独占した『ビューティ
フル・マインド』のトリオで進められているものだが、主人
公を演じるトム・ハンクスの他に、舞台となるフランスから
はオドレイ・トトゥーとジャン・レノ。そしてイギリスから
発端の情報を提供する貴族の役でイアン・マッケランと、メ
キシコからはスペイン系の僧侶の役でアルフレッド・モリー
ナの共演が発表されている。なお、マッケランは同時期に撮
影と公開が予定されている“X-Men 3”にも出演が発表され
ているが、調整は大丈夫なのだろうか。
        *         *
 次もキャスティングで、前回紹介したジェリー・ブラッカ
イマー製作、トニー・スコット監督のロマンティック・スリ
ラー“Deja Vu”の主演に、『クリムゾン・タイド』に主演
したデンゼル・ワシントンへの出演交渉が発表された。因に
スコット監督とワシントンは、昨年全世界で1億ドル突破の
大ヒットとなった『マイ・ボディガード』でもコラボレーシ
ョンを展開したばかりだが、実は今回の計画でも、スコット
監督は当初からワシントンの主演を希望していたようだ。し
かし、ワシントンがブロードウェイでシェークスピア劇への
出演を目前にしたタイミングで、その公演が始まるまで交渉
が控えられていた。そして公演が始まって晴れて交渉が行わ
れたもので、タイムパラドックスに悩むFBI捜査官をワシ
ントンがどのように演じてくれるか、楽しみだ。
        *         *
 もう一つは本気かどうか判らないのでここに廻したが、ジ
ョン・タートルトーブ監督が『ナショナル・トレジャー』の
続編として“International Treasure”という作品を中国で
撮影する計画を公表した。この公表は、実は3月半ばに中国
での公開を控えて行われたプレミア上映の挨拶の中で発言さ
れたもので、多分にリップサーヴィスの可能性はあるが、監
督本人のウェブサイトでも、以前から続編は、「ロマンティ
ックで、ミステリアスな国で作りたい」と発言していたとい
うことで、監督にとって中国がリストのトップであることは
間違いないようだ。因にこの2つの題名に関しては、過去に
エリザベス・テイラー主演の“National Velvet”(緑園の天
使)の続編が、テイタム・オニール主演で“International
Velvet”の題名で製作されたことがあるものだ。
        *         *
 最後に訃報で、シルヴェスター・スタローン主演の1985年
作品『ランボー/怒りの脱出』などを手掛けたジョージ・パ
ン・コスマトス監督が、4月半ばに肺ガンにより64歳で亡く
なった。
 コスマトス監督はイタリアの出身で、本名のファーストネ
ームはヨーゴだったということだが、オットー・プレミンガ
ー監督の『栄光への脱出』の助監督を務めたのが始まりで、
その後『その男ゾルバ』にちょい役で出演したり、映画誌に
寄稿したりした後、1977年の鉄道パニック作品『カサンドラ
・クロス』で注目された。またスタローンの主演では、1986
年の『コブラ』も撮っている。しかし僕にとって懐かしいの
は1989年の『リバイアサン』で、当時海洋パニックものが量
産された中に埋もれた作品ではあるが、アクションアドヴェ
ンチャーとしての出来は良かったと記憶している。
 最後の作品は、1993年にカート・ラッセル、ヴァル・キル
マー主演で撮った『トゥーム・ストーン』だったそうだが、
実はこの作品は、別の監督が降板した後を急遽引き継いだも
ので、そういった職人芸も発揮できる監督だった。訃報はリ
チャード・ドナー監督によって伝えられたもので、最後まで
そのような人が側に居たことは嬉しい。冥福を祈りたい。


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井口健二