井口健二のOn the Production
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2005年04月30日(土) ライフ・イズ・ミラクル、ワイルド・タウン、HINOKIO、樹の海、マラソン

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※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介しています。     ※
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『ライフ・イズ・ミラクル』“Život je čudo”      
旧ユーゴ(現ボスニア・ヘルツェゴビナ)サラエボ出身で、
1993年には、アメリカで『アリゾナ・ドリーム』という作品
を撮っているエミール・クストリッツァ監督が、フランスと
セルビア=モンテネグロの合作で製作し、昨年のカンヌ映画
祭に出品された作品。                 
1992年のユーゴ内戦が始まったころの物語。主人公は鉄道技
師でボスニアとセルビアの国境付近の山間の町で、新設され
る鉄道工事に従事している。しかし元オペラ歌手の妻と、プ
ロサッカー選手を目指す息子は、こんな田舎に住むことに不
満を持っている。                   
そんなある日、地元の試合で活躍した息子は名門チームの監
督の目に留るが、名門チームからの招請の手紙の前に届いた
のは、兵役への召集令状だった。そして、その壮行会の日に
内戦は勃発し、同時に妻は壮行会で出会った男と駆け落ちし
てしまう。                      
こうして、国境の町の鉄道を一人で守ることになった主人公
には、戦争の裏でうごめく連中との問題など、次々にいろい
ろな災難が降りかかる。そして戦況はどんどん激化し、彼の
住む家にも砲弾が降ってくることになるが…というお話。 
ただし物語は、全体的にはユーモラスに描かれており、戦争
は異なるが、ロベルト・ベニーニの『ライフ・イズ・ビュー
ティフル』を思わせる。因に、本作の英題名は“Life Is a
Miracle”で、その辺も意識している作品だろう。     
と言っても、いろいろ工夫して家族を守り続けるイタリア映
画に対して、本作の主人公はいたって成り行き次第で、それ
が巧く行ってしまう辺りは、映画の中に絶対的な敵を置けな
い難しさも感じられた。                
なお映画は、戦争を背景にはしているが、現実的な戦闘シー
ンはほとんど無く、ただ砲弾が落ちてくる下を人々が逃げ惑
うようなシーンを描くことで、非人間的な戦争の姿を強調し
ているようにも見えた。                

『ワイルド・タウン』“Walking Tall”         
1973年にジョー・ドン・べーカーの主演で映画化され、その
後ボー・スヴェンソンに主役を変えて75年、77年に続編2作
が作られた話題作の再映画化。主人公をザ・ロックこと、ド
ウェイン・ジョンスンが演じる。            
主人公は特殊部隊での兵役を終えて8年ぶりに故郷に戻って
くる。そこは、以前は製材業で賑わった町だったが、製材場
は閉鎖され、替ってカジノが町を支える産業となっていた。
そして町にはポルノショップが建ち、若者にはドラッグが蔓
延していた。                     
その現実を目の当りにした主人公は、正義感に燃えて、町の
浄化のために立ち上がるが…              
実はオリジナルは見た記憶が無い。1973年のMGM映画なら
見ていてもいいはずなのだが、何故なのだろう。それはとも
かく、オリジナルの主人公は元プロレスラーという設定だっ
たようだが、ザ・ロックが演じるのにわざわざ設定を変える
というのも面白いところだ。              
ただ、オリジナルは実話に基づいて、それなりに主人公にも
痛みが伴うものだったようだが、リメイク版はいたって快調
に勧善懲悪を貫くもので、まあエンターテインメントとして
はこれでも良いが、オリジナルを見た人にはちょっと引っ掛
かるかも知れない。幸い僕はそういう立場ではないが。  
その点を除けば、マット上での活躍さながらに、悪人をバッ
タバッタと倒して行くのだから、ザ・ロックのファンにはこ
れで充分というところだろう。因に、オリジナルと異なる片
仮名の邦題は、MGM本社の指示によるという話を小耳に挟
んだ。                        
                           
『HINOKIO』                  
軽量化のため一部が檜で作られたロボット。と言っても、S
Fに登場するような独立した意識を持った物ではなく、不登
校の少年の替りに学校へ行くだけの遠隔操縦の装置に過ぎな
いが…このロボットを通じた少年と小学校の同級生たちとの
交流を描いた物語。                  
このロボットは、歩いたり、釣りをしたりと、そこそこの運
動能力を持ち、見聞きしたものは少年に伝えるが、声は少年
がキーボードに打ち込んだものが音声合成される。つまり少
年からの意思表示は、すべて間接的に行われる仕組みになっ
ている。                       
なるほどこれは巧い設定を考えたもので、この仕組みなら周
囲に対して心を閉ざした少年でも、ゲーム感覚で現実世界と
の接触を行うことが出来そうだ。そして学校では、優等生や
がき大将の同級生が、いろいろな思惑でこの「ロボット」と
つきあうことになるが…                
上記の設定もさることながら、この作品の感心したところを
挙げるのならば、まず、物語が終始徹底して子供の目線で描
かれていることだろう。                
この手の子供を主人公にした作品では、どこまで子供の目線
を保って描けるかが勝負だと考える。それに成功した最高作
は、言うまでもなく『E.T.』なのであって、そこでは、母
親の問題など多少は大人の話も出てくるが、ほとんどは少年
の目線が貫かれていた。                
しかし、大人の脚本家が物語を作っている以上、この少年の
目線を保つことは至難の技のようで、大抵の作品では、結末
近くなると子供が妙に訳知り顔になって、大人の発言や行動
をして終ってしまうことが多く、がっかりさせられてしまう
ものだ。                       
この作品に関しては、事前にシノプシスを読んだ限りでは、
引き籠もりの問題やいじめの問題が扱われていて、正直に言
って大人の論理がまかり通りそうなものだった。しかし、映
画はそのようなものに陥ることなく、見事に子供の論理で進
められていた。                    
確かに大人の論理も其処比処に見え隠れはするが、それがス
パイス程度に押さえられているのは、さすが『水の旅人』の
末谷真澄と、「アンパンマン」シリーズの米村正二が脚本に
協力した成果と言えるのだろうか。特にゲームを絡めた辺り
に巧さを感じた。                   
以下、ネタバレがあります。              
ただ、子供の目線を貫こうとした結果、説明不足の面が生じ
ていることは否めない。そのほとんどは、物語上でいかよう
にも説明がつくもので問題はないが、一点気になったところ
は、ロボットの破壊が自殺を連想させるところだろう。  
上にも書いたように、この作品に登場するロボットは遠隔操
縦の装置に過ぎない。この事実は、操縦している少年が一番
判っているはずで、従ってこのシーンは、別の要素によって
重大な事態にはなるが、本来は少年がロボットを破壊した行
為に過ぎないものだ。                 
しかし、観客にそれを理解させるだけの説明が成されていた
かどうか。確かに実験中のロボットとの会話が、実は助手と
の会話であることが明らかにされるなど、それなりのシーン
は描いているが、このシーンでも別の感覚も描かれていたも
のだ。                        
正直に言って、僕は自殺という行為に対して非常に強く嫌悪
感を持つ。だから、映画の中で自殺を連想させるシーンが登
場することには常に異を唱える。そしてこの作品では自殺は
描いていない。ただこれが自殺でないことを、もっと明確に
して欲しかったところだ。
               
苦言はこれくらいにして、上記以外で僕がこの映画の気に入
ったところでは、ほとんどがCGIで処理されるロボットの
映像は見事なものだ。影の処理などは当然のこととしても、
風景の中によく溶け込んだ丁寧な仕上げには満足した。  
それと、子役の中でジュン役の田部未華子の演出には感心し
た。特に、最初少年にしか見えない雰囲気から、徐々に少女
になって行く微妙な変化は、監督の演出の賜物と思うが、こ
れが第1作の秋山貴彦監督には、次の作品もぜひ期待したい
と思ったものだ。                   
                           
『樹の海』                      
自殺の名所と言われる富士山麓・青木ヶ原樹海を舞台に、自
殺を巡る4つのエピソードを綴ったドラマ。       
上の記事でも書いたように、僕は自殺という行為に対して非
常に強く嫌悪感を持つ。従ってこの試写状を受け取ったとき
にも、見るかどうか迷ったものだ。多分、たまたま時間が合
わなければ、試写会もパスしたかも知れないところだった。
しかし映画は、確かに自殺を描くし、自殺してしまう人間も
登場するが、全体は生きることを描いたもので、自殺という
行為を完璧に否定するものとして、納得して見ることができ
た。実際プレス資料を読むと製作の意図もそちらにあったよ
うだ。                        
映画は、本来は自殺の意志はなかったが犯罪に巻き込まれて
樹海自殺に見せかけて殺されそうになった男(萩原聖人)の
エピソードを狂言回しのように描きつつ、過重債務に陥って
自殺を図った女性を追う取り立て屋(池内博之)、自殺した
女性の過去を検証する探偵(塩見三省)、自らの行為に嫌悪
して自殺しようとする女性(井川遥)、の物語が描かれる。
しかしどれも結末として、希望を見いだし生きようとして終
ることは素晴らしい。                 
実は、久しぶりに不覚を取ってしまった。最近は擦れて、映
画で泣くことが少なくなってしまったが、こんなことで感動
できた自分が嬉しくなったりもした。          
まあ、ここでサッカーネタを出るとは思ってもなかったし、
他の人にはどうという話でもないのかも知れないが、映画の
全体を通しての小さな喜びを大事にしようという思想が、僕
にはここで一番集約されたと感じた。          
それは見る人によって別々かも知れない。ただ、この映画に
は、そういうエピソードがいろいろ織り込まれている。そし
て、それを大切にして生きていこうというメッセージが、見
事に描かれた作品と言えそうだ。            
昨年の東京国際映画祭−日本映画・ある視点部門で作品賞・
特別賞を受賞したことも頷ける作品だった。       
                           
『マラソン』(韓国映画)               
マラソンに才能を発揮した自閉症の少年を描く、韓国での実
話に基づく作品。                   
自閉症が脳傷害に基づく病気であることは、先日の日本での
調査でも、それが病気であることへの認知度の低さが問題に
なっていたが、恐らくそれは韓国でも同じようなものなのだ
ろう。ただしこの作品は、そのような問題とは別に、マラソ
ンを通じて患者自身が、そして周囲の人々が変って行く姿が
描かれている。                    
自閉症の患者が特異な才能を発揮するというのはよく言われ
ることだが、この作品の主人公は、記憶力は並み以上らしい
が特別と言えるほどではない。ましてや、マラソンに特別な
才能がある訳ではなく、逆にフルマラソンでは自己管理がで
きないために危険が伴うと考えられるものだ。      
しかし少年の母親は、息子に溺愛するあまり、マラソンの才
能があると信じ、息子にマラソンが楽しいものと信じ込ませ
てしまう。実はこの作品のポイントはそこなのであって、物
語を単純な美談に終らせていない素晴らしさを持つものだ。
そしてこの母親の盲信的な熱意に支えられて、少年はフルマ
ラソン完走3時間以内の記録を達成してしまう。しかもそれ
によって、少年の中に確実に何かの効果が表れる。    
映画のポスターには少年の笑顔が掲げられている。しかし、
映画の中でも説明されているように、自閉症の患者は感情表
現をすることができず、笑顔などありえないものだ。その自
閉症の患者が笑顔を見せる。それが事実だとすれば、これは
大変なことなのだ。                  
なお映画では、コーチ役のイ・ギヨンが指導にのめり込んで
いく過程がうまく描かれていた。また指導の仕方も判りやす
く説明されていたし、特に最後の注意の与え方も納得できる
ものだった。これに疑問を挟む人もいるようだが、彼が完走
したことは事実なのだ。                
物語がどこまで実話に則したものかは知らないが、映画は韓
国に限らず日本でも社会的に考えなければいけない問題を描
いたもので、この作品がしっかりとした問題提起になってく
れることを期待したいものだ。             



2005年04月29日(金) スカーレット・レター、ライフ・アクアティック、サハラ、魁!!クロマティ高校、やさしくキスをして、ピンクリボン

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※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介しています。     ※
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『スカーレット・レター』(韓国映画)         
この作品が遺作となった主演女優のイ・ウンジュさんに哀悼
の意を表します。正直に言って、このような書き方で映画を
紹介したくはないが、この作品の場合は時期的に書かずに済
ます訳にも行かないだろう。              
個人的には、彼女の最近の作品は見ていなかったが、デビュ
ー作の『虹鱒』と主演第1作の『オー!スジョン』は製作当
時に見て、特に映画祭で上映された『オー!スジョン』の大
胆な演技には驚かされた記憶がある。          
改めて冥福を祈りたい。                
さて映画では、残虐な殺人事件を背景の物語として、事件を
追う刑事と、その妻、そして刑事の愛人による痴情に縺れた
男女の関係を描いている。               
題名はナサニエル・ホーソーンの古典作品と同じだが、直接
その物語が描かれる訳ではない。しかし古典作品と同じよう
に、男女の深い関係が克明かつ執拗に描き出され、その意味
ではこの題名を用いたこともうなずけるという作品だ。  
写真店の店主が惨殺される。遺体発見者はその妻、彼女は買
い物に行っていたとアリバイを主張するが、その言動には怪
しいところが散見される。しかし犯行は立証されず、やがて
彼女の周辺には、いろいろ怪しげな人物が登場する。   
その事件を担当する刑事にはチェリストの妻がいる。その一
方でジャズピアニストの愛人と蓬瀬を重ねている。やがて刑
事の妻の妊娠が判明し、その直後に愛人からも妊娠を告げら
れる。そして縺れた男女の関係は、刑事の人生を破滅へと導
いて行く。                      
自殺したイ・ウンジュは刑事の愛人の役を演じているが、確
かに極限状態を描いたこの物語では、精神的なダメージはか
なり大きかったことは予想される。しかし、それだけで自殺
に追い込まれるとは…でも、そんな詮索はしても仕方のない
ことだ。                       
映画は、かなり陰惨な殺人事件を描き、また男女の深い関係
を描いているが、全体として下品な描き方ではない。むしろ
正統的な映像の美しさも感じられるものだ。確かに殺人事件
に絡んでは血糊の量も多い作品だが、この程度は納得できる
範囲だ。                       
その意味では、韓国での公開時の評価も高かったようだし、
普通に見られれば充分に評価できる作品だと思う。ただ、ど
うしても普通には評価できないところが残念だ。     
それから、映画の後半で主人公が陥る極限状態は、僕なら脱
出方法を知っているものだ。その方法を刑事の主人公が知ら
ないとは思えないし、それに携帯電話が近くにあれば、仮に
それに出ることはできなくても、その居場所は判るはずなの
だが…                        
普通に評価できないおかげで、ちょっと要らぬことを考えて
しまった。                      
                           
『ライフ・アクアティック』              
        “The Life Aquatic with Steve Zissou”
『ザ・ロイヤル・テネンバウムズ』のウェス・アンダースン
監督作品。                      
映画のエンドクレジットでは、故ジャック・イヴ・クストー
に献辞が掲げられていたが、クストーを髣髴とさせる海洋ド
キュメンタリー映画作家を主人公に、落ち目のドキュメンタ
リー作家が起死回生の作品を狙うすったもんだが描かれる。
正直に言って、同じ監督の上記の前作は面白さが良く判らな
かった。本作も前作もアメリカでは相当の興行成績を記録し
ているようだが、どうも文化的な面で僕には理解できないも
のがあるようだ。                   
そんな訳で、本作も多少引き気味で見に行ったものだが、今
回は完全な理解とは行かないものの、前作よりは判りやすか
った感じがする。まあ、前作も背景となる事実があったよう
だが、本作は、その部分が僕にとって多少身近だったせいも
あるかも知れない。                  
物語は、映画祭で上映された新作が散々の評価だった主人公
が、その作品に決着を付けるべく次回作の製作に乗り出すの
だが、すでに出資者も着かなくなり始め、製作は困難を極め
る。そこに息子だと主張する若者や、科学雑誌のレポーター
も乗り込んで来るが…                 
文化的な違いを感じると言えば、チャーリー・カウフマンの
作品なども同じだと思うのだが、僕にとってカウフマンは認
められてアンダースンが駄目というのは、多分その底に流れ
る人間味だと感じている。               
例えば『エターナル・サンシャイン』でも、僕は登場人物た
ちへ注がれる愛情が好ましいと感じたものだ。それに対して
アンダースンの作品では、前作も本作も何となく登場人物た
ちを突き放している感じがする。            
もちろんそれは意図的なものだし、それを評価する人が多い
のも理解する。ただ、僕自身は、アンダースンよりカウフマ
ンの方が好きというだけのことだ。           
という次第だが、本作ではその他に、チネチッタスタジオに
建設された船の断面を見せる見事なセットや、『ナイトメア
・ビフォア・クリスマス』などのヘンリー・セリックが手掛
けた人形アニメーションによる不思議な海洋生物など見所は
多数ある。                      
また主役のビル・マーレイ以下、オーウェン・ウィルスン、
ケイト・ブランシェット、アンジェリカ・ヒューストン、ウ
ィレム・デフォー、ジェフ・ゴールドブラム、バッド・コー
ト、マイクル・ガンボンという一癖も二癖もある怪優・奇優
の共演も見事だった。                 
そして僕自身は、多分同じ監督の前作よりは好ましいと感じ
ているものだ。                    
                           
『サハラ』“Sahara”                 
クライヴ・カッスラー原作によるダーク・ピットシリーズか
らの久々の映画化。                  
因にこのシリーズからは、1980年に“Raise the Titanic”
がイギリスで映画化されているが、この作品には原作者が激
怒したということで、以来25年間、映画化が拒否されて来た
のだそうだ。という訳で、ファンには待望の映画化の実現に
なったようだ。                    
実は、今回の映画化が発表されてから原作本を読み始めた。
しかし、全体の4分の1ほど読んだところで、あまりの暴力
シーンの多さに辟易して読むのをやめてしまったものだ。実
際、その部分まででは、登場人物など主要な駒は揃うが、そ
れらの横の繋がりが出てこないという状態だった。    
従って、今回は試写を見て、それらの横の繋がりが理解でき
た訳だが、正直に言うと原作より映画の方が巧く整理されて
いて、原作の過剰な描写が割愛された分だけスッキリと判り
やすく、良い作品になっていたような感じがした。    
といっても、原作がベストセラーということは、この作風が
評価されているということなのだろう。となると、映画は原
作の読者には物足りない感じになっているかも知れない。し
かし長編小説の映画化は所詮ダイジェスト版にしかならない
訳で、その辺は了承してもらわなくてはならないところだ。
それと、やたら都合良く偶然が重なってしまう展開は、原作
よりも目立ってしまう感じだが、それもダイジェスト版では
良くあることとして、了承してもらうことにしよう。   
それらは別として、ここだけで映画1本分ぐらいの製作費が
掛かっていそうなプロローグの南北戦争のシーンもちゃんと
描かれていたし、そのシーンが結末にも活かされてくる構成
は、さすが脚本家が4人も着いただけのことはあるという感
じもした。                      
アメリカでは公開1週目に第1位を記録したし、すでに17巻
が発表されているシリーズの映画化は可能性も高そうだ。た
だし映画の中では、船室の壁に「タイタニック号引き揚げ」
と書かれた新聞の切り抜きが貼られていたようで、というこ
とは…                        
ピット役はマシュー・マコノヒー、その相棒アルにスティー
ヴ・ザーン、NUMAの提督をウィリアム・H・メイシー、
そして今回のピットガール=エヴァ・ロハスはペネロペ・ク
ルスが演じている。                  
                           
『魁!!クロマティ高校』                
少年マガジン連載中の野中英次原作のマンガを、『地獄甲子
園』の山口雄大監督で映画化した作品。         
原作のマンガは読んだことが無く、山口監督の作品は、実は
昨年1本見たが、あまり気に入った作品ではなかった。とい
うことで、僕自身は部外者的な感覚で見に行った試写だった
が、想いの他というか、予想以上に面白い作品だった。  
映画は、ナレーションと写真構成によるクロ高の歴史の解説
をプロローグとして、この高校には場違いな主人公の学園生
活と、後半は校舎の屋上に宇宙猿人ゴリの空飛ぶ円盤が着陸
して戦闘が起きるなどのエピソードが描かれる。     
原作は多分ギャグマンガだと想像するが、映画は、テレビの
ヴァラエティ番組のショートコントの連続のような感じで、
そのギャグの手法はいろいろだが、全体としては緩急の流れ
の変化もあるし、統一感は計算されていたように感じた。 
正直に言って、ギャグは泥臭いし、合成の空飛ぶ円盤なども
安っぽいものだが、その泥臭さ、チープさが妙に作品にはま
っている。それに、主演の須賀貴匡以下、渡辺裕之や金子昇
といった面々が妙な衒いもなく、真面目に演技しているのも
好感が持てた。                    
昨年見た作品は、何と言うか出演者の演技もなってなかった
し、監督の演出にもそれをカヴァーするだけの力量が不足し
ている感じがした。しかし本作で、俳優たちがちゃんと演技
してくれれば、それなりの作品をものにできる監督であるこ
とは認識できた感じだ。                
なお、登場する宇宙猿人ゴリの着ぐるみは、実際に1971〜72
年に放送された『宇宙猿人ゴリ〜スペクトルマン』のテレビ
シリーズで使用されたものだそうで、これは当時のシリーズ
製作会社ピープロの製作協力によるということだ。    
ということで、怪獣ファンにもちょっと気にしてもらいたい
1作とも言える。なお、ゴリの声は小林清(志)が当ててい
る。他にも、ロボット=メカ沢の声を武田真治が担当してい
たり、多彩な特別出演が登場している。         
非常にマニアックな作品だとは思うが、出演俳優もそこそこ
人気のある連中が揃っているし、それなりの期待は持てそう
な感じだ。それに、この調子でやってくれるなら、監督の次
回作にも期待したくなった。              
                           
『やさしくキスをして』“Ae Fond Kiss...”       
2002年に『SWEET SIXTEEN』を紹介して以来の
ケン・ローチ監督の最新作。              
監督は、この間に各国の監督が協力した『セプテンバー11』
に参加しているが、本格的な作品は上記以来となる。そして
常に社会性を持った作品を発表し続けているローチ監督の新
作は、イギリス国内に住むイスラム教徒との関わりについて
描いている。                     
主人公は、グラスゴーに住むパキスタン人一家の長男。姉の
結婚が決り、自身もパキスタンに住む叔母の娘との結婚が進
められている。しかし、カソリックの学校に通う妹の出迎え
に行った主人公は、音楽教師の女性を見初めてしまう。  
いろいろ世話を焼いてくれる主人公に、離婚経験のある女性
教師も心を許し、やがて2人だけのスペイン旅行を楽しむま
でになるが、その事実が発覚したとき、2人の関係は、彼の
家族をも巻き込む大変な事態に発展してしまう。     
結局、頑なにイスラムの文化を守ろうとする一家と、カソリ
ック学校の教師という立場の女性との間での、宗教、文化、
その他諸々の事柄が見事に凝縮されて描かれる。     
またそこには、イスラム側だけでなくカソリック側の頑なさ
も見事に描かれる。これは僕が試写を見た日が、ちょうど超
保守派と言われる新法皇が決った日であったために、余計鮮
明に見えてしまったのかも知れないが、ローチ監督の目も鋭
くこの点を描いていたように感じた。          
一方、1947年の印パ紛争に始まるパキスタン人の苦難の歴史
も描かれているし、その文化や歴史の重みを背負って、異国
の現代に生きるパキスタン人の若者の苦悩は、懸命にキリス
ト教徒の彼女を愛そうとする美しいラヴストーリーと共に、
見事に描かれていた。                 
なお原題は、劇中で歌われる歌曲の題名でもあるが、「蛍の
光」の原詞などで知られるスコットランドの詩人ロバート・
バーンズの詩の題名によるもので、aeは‘just one’、fond
は「せつない」というような意味だそうだ。       
また、映画の冒頭で主人公の妹が叫ぶサッカーチームのレン
ジャーズは、グラスゴーに本拠のある主にプロテスタントが
応援するチーム。これに対して、男子生徒が怒鳴り返すセリ
ティックは、同じくグラスゴー本拠で主にカソリックが応援
するチームだそうで、それぞれの立場がここに集約されてい
たようだ。                      
                           
『ピンクリボン』                   
アダルトヴィデオが全盛の現在でも、年間90本以上の新作が
作られているピンク映画の歴史を追ったドキュメンタリー。
ピンク映画というのは、一般の商業映画ですらヴィデオ製作
が多くなっている現代で、今だに35mmの撮影を守り、男女の
絡みは撮るが本番は一切無しという、映倫との関係もあるの
だろうが、正直に言って奇妙な規制の中で、しかも低予算で
作り続けられている作品群。              
実はこの業界からは、井筒和幸、高橋伴明、黒沢清といった
映画作家も育っている。なお、本作の監督藤井謙二郎は、黒
沢清監督の『アカルイミライ』の撮影を追ったドキュメンタ
リー『曖昧な未来』の監督でもある。          
ピンク映画の第1作は1962年に製作されたということで、本
作は、その40周年に当る2002年からその翌年にかけて撮影さ
れたインタヴューを中心に構成されているようだ。    
そして中では、大御所とも言える若松孝二監督を始め、上記
の3名の監督に、製作会社のプロデューサーや裏方などのピ
ンク映画の歴史を語る貴重な証言が集められている。また各
人の証言が有機的につながるなどの編集の細工もあり、ピン
ク映画の知識の無い一般の映画ファンにも楽しめる工夫が施
されている。                     
僕自身は、この映画のプレス資料でもピンク映画の全盛期と
いわれる1970年代に映画ファンになった世代ではあるが、な
ぜかピンク映画には足を運んだことなかった。      
実際、自分自身は最初から洋画専門でもあったし、ちょうど
学生の頃にはフィルムセンターで海外の無声映画が連続上映
されたりして、そちらを見るのに忙しかったせいもあるが…
従ってこの作品では、自分の知らない話がいろいろ出てきて
楽しめる内容だった。                 
ただし1時間58分の上映時間は、ちと長い感じがした。特に
若松監督らの話が面白いだけに、後半の現状論になってから
の部分は、先行きの閉塞感のようなものが見え隠れする分、
余計に見ていても辛く長く感じられてしまうところだ。  
歴史ドキュメンタリーは未来を語ることも重要だとは思う。
またもちろん現実の閉塞感を隠蔽してはいけないものだが、
実際に若い人の参入も多いというところで、ここにも何か工
夫をして、もう少しアカルイ話題が欲しいという感じを持っ
た。                         



2005年04月15日(金) 第85回

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
※このページは、キネマ旬報誌で連載中のワールドニュー※
※スを基に、いろいろな情報を追加して掲載しています。※
※キネ旬の記事も併せてお読みください。       ※
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
 今回はエイプリルフールの話題から。
 前回4月1日付の記事で嘘情報を流したつもりはないし、
このページでは極力そういったまやかしの情報は流さないよ
うにしているものだが、今回のものはちょっと手が込んでい
て面白かったので、あえて紹介することにしよう。
 今年12月の公開に向けて製作が進められているリメイク版
“King Kong”の公式サイト(www.kongisking.net)に、続
編“Son of Kong”の製作が開始されたという情報が紹介さ
れた。これは、サイト内のニュース欄に4月1日付でVideo
Diaryとして掲載されたもので、それを開くと、ピーター・
ジャクスン監督や、主演のナオミ・ワッツ、ジャック・ブラ
ックらも登場して、続編に対する意気込みや、すでに一部始
まっている撮影の内容などが映像で紹介されるというもの。
“Son of Kong”と記された続編の撮影台本はもちろん、デ
ザイン画や模型も登場するという手の込んだものだ。そして
最後に“King Kong: Into the Wolf's Lair”という撮影台
本の表紙が写って、嘘であることが暗示されるというものだ
が、かなりの大作で、監督や出演者もノリノリでこの偽情報
を作ったという感じがした。
 “Son of Kong”というのは、言うまでもなく1933年に製
作公開されたオリジナル版の続編だが、70分の小品で大猿が
都会で暴れることもない作品でありながら、ファンにはそこ
そこの評価を受けている作品。現時点で、いくらヒットを確
信しているからといって、続編の撮影を開始するはずはない
し、ましてや続編を作るにしても、この1933年作をリメイク
をするとは考え難いものだが、それでもジャクスンがこの作
品のことも忘れていないよと言っているようで、何となく嬉
しくなるエイプリルフールといった感じだった。
 それに、紹介されている特撮用のセットなどは、多分本編
の撮影にも使われている本物のセットなのだろうし、そうい
った意味ではかなり貴重な映像も紹介されている感じで、一
見の価値はあるというところだろう。上記のアドレスで無料
で公開されているので、一度覗いてみたらいかがだろうか。
        *         *
 それともう一つ、これはエイプリルフールを狙ったもので
はないが、2007年から“A New Hope”など“Star Wars”の
オリジナル3部作を、3Dで順次再公開するという情報も登
場した。実はこの情報は、3月半ばに開催されたアメリカ興
行界最大のイヴェントShoWestの会場で、ジョージ・ルーカ
スが発言したもので、本来は嘘というものではないのだが、
その後にルーカスフィルムの幹部からそのような計画は全く
無いとの否定報道がされたものだ。
 その経緯を紹介しておくと、このイヴェントではIn-Three
という会社からDimensionalizedという2D映像を3Dに変
換する技術が発表され、その席上で“A New Hope”の巻頭の
6分間の3D版が公開されたということだ。そしてその上映
後にルーカスから上記の発言が飛び出したというのだが…幹
部の発言によると、ルーカスはその数日前に初めて3D版を
見たばかりで、会社として何ら具体的な計画が検討されたこ
とはないということだ。
 ただし、In-Three社の情報では、現状では長編1本を3D
化するには1年程度の時間が掛かっているが、将来はこれを
20日程度に縮めたいということで、現状でも今から作業に掛
かれば2007年5月の公開には充分に間に合うということのよ
うだ。つまり後はルーカスフィルムの意向次第ということに
なる訳で、出来るものなら実現してもらいたいものだ。
 因に、“Star Wars”の3Dに関しては、以前にトレーデ
ィングカードのトップス社から、3Diと呼ばれるレンチキ
ュラー式の3Dカードが発行されたことがある。これは“A
New Hope”と、後に“The Phantom Menace”も登場したが、
特に“A New Hope”に関してはオリジナルの2Dのフィルム
から3Dに変換したもので、全63カットのオリジナルのシー
ンと、プロモーション用に2カット、それにラルフ・マカリ
ーのコンセプトアートも1枚3D化されている。
 そしてこのカードは、僕も一応全部揃えてみたが、単なる
奥行き感だけでなく、例えばダースヴェイダーの胸部のよう
な丸みのある部分にもそれらしい立体感があり、見事なもの
だった。なお、当初は続けて“The Empire Strikes Back”
の発行も計画されたが、売れ行きの都合でキャンセルされた
ようだ。ただし、“The Empire Strikes Back”と“Return
of the Jedi”からも1枚ずつのプロモーションカードが発
行されている。また、“The Phantom Menace”については、
46カットとプロモーションカードが1枚発行された。
 このように、ルーカスは以前から3Dには興味を持ってく
れており、今回、そのルーカスが認めたということは、この
3D版が相当の出来映えということが言えるもので、期待が
膨らむところだ。
 なお、In-Three社のプロモーションでは、他に“The Lord
of the Rings”や、1978年製作“Grease”からジョン・ト
ラヴォルタのダンスシーンなども紹介されたということで、
この“Grease”の上映後には、Disneylandの3Dアトラクシ
ョン“Honey, I Shrunk the Audience”も手掛けているラン
ダル・クレイザー監督から、撮影セットに戻ったようだとい
う感想も聞かれたそうだ。さらに、In-Three社からは、1年
以内に第1作の公開を目指すという計画も発表されている。
 まあ、結果的にルーカスの発言は、現状では嘘ということ
になってしまったものだが、ロベルト・ロドリゲス監督の作
品やImaxなどで3Dへの認知も進んでいるところでもあ
るし、何とか嘘から出た真になってもらいたいものだ。
        *         *
 さて、以下はいつもの製作ニュースを紹介しよう。   
 最初は、ロブ・マーシャル監督“Memoirs of a Geisha”
(SAYURI)では、日本人芸者に扮している中国生まれ
の女優コン・リーが、今年中に2本のハリウッド大作に出演
する計画が発表された。
 その1本目はマイクル・マン監督による“Miami Vice”。
1984年から89年に放送された人気テレビシリーズを、コリン
・ファレル、ジェイミー・フォックスの共演でリメイクする
この作品では、リーはキューバ人と中国人の混血で、多国籍
の犯罪組織の中でその資金を取り仕切る女性=映画の中では
女性の主役を演じるということだ。撮影は5月からマイアミ
と南米で行われ、映画の中でリーは英語とスペイン語を話す
ことになっている。
 因に、オリジナルシリーズでは製作総指揮を担当し、今回
映画版の監督を手掛けるマイクル・マンは、イザベルと名付
けられたリーの役柄について、「心理学的な複雑さと、身体
的な美しさを併せ持ったキャラクターで、リーの持つ雰囲気
そのものだ」と彼女を起用した理由を語っている。
 そしてもう1本は、ディノ・デ=ラウレンティス製作によ
るハンニバル・レクター・シリーズの最新作、“Behind the
Mask”。若き日のレクターの姿を描くこの作品では、リー
は孤児院を脱走したレクターがパリで一時身を寄せる叔父の
妻で、レクターに文化的に高度な知識を教育する日本人女性
レディー・ムラサキという役を演じるそうだが、レクターの
人肉食への興味の引鉄となるのだろうか。
 なおこの作品は、原作シリーズの作者トマス・ハリス自身
が執筆した脚本をピーター・ウェッバーの監督で映画化する
ものだが、リーの起用に関しては、監督自らがエキゾティッ
クなニューフェイスを希望して見つけ出したということだ。
撮影は9月にプラハで開始される予定で、現在は、それぞれ
8歳、14歳、20歳のレクターを演じる3人の若手俳優をキャ
スティング中となっている。
 なおコン・リーは、先日の『SAYURI』の記者会見で
も、英語で応対するミシェル・ヨーとは別に、リーだけのた
めに中国語の通訳が用意されていたもので、英語が堪能とい
う訳ではないようだ。しかし、すでにハリウッドで“Eros”
というオムニバス作品の撮影も終えているということで、こ
れからますます海外での出演作が増えそうだ。
        *         *
 『アルマゲドン』や『パイレーツ・オブ・カリビアン』な
ど、ディズニー映画の中で大型作品を主に手掛けるジェリー
・ブラッカイマー・フィルムスから、トニー・スコット監督
によるロマンティック・スリラーの計画が発表された。
 この作品は“Deja Vu”と題されているもので、『シュレ
ック』や『パイレーツ・オブ・カリビアン』などの脚本を手
掛けたテリー・ロッジオが、ビル・マーシリという脚本家と
共同で執筆したオリジナル脚本を映画化するもの。内容は、
FBIの捜査官がタイムトラヴェルで時間を遡り、難事件を
解決しようとするが、そこで殺人事件の被害者になるはずの
女性に恋をしてしまうというお話。この後がどんな展開にな
るかは判らないが、ディズニーでは、昨年7月に契約された
この脚本に、数100万ドルの契約金を支払っている。
 その脚本の映画化が、トニー・スコットの監督で行われる
ことになったものだ。なおスコットは、兄のリドリーと共に
スコットフリーと呼ばれるプロダクションを経営し、そこで
の作品は基本的にフォックスが優先契約を結んでいるはずだ
が、今回の計画に関しては、長年の付き合いのブラッカイマ
ーからの依頼が優先してディズニー製作で進められることに
なったようだ。
 因に、トニー・スコットとブラッカイマーの関係では、ト
ム・クルーズが主演した『トップ・ガン』『デイズ・オブ・
サンダー』を始め、『クリムゾン・タイド』『エネミー・オ
ブ・アメリカ』など錚々たるヒット作が並ぶが、今回の作品
もそれに続くものとなりそうだ。キャスティングなどは未発
表だが、今年の夏か秋の撮影開始が期待されている。
        *         *
 『スパイダーマン』に続くソニーとマーヴェルコミックス
のコラボレーションで、1970年代に刊行されたあまり有名で
はないコミックスを、一気に夏休み向けの中心作品として映
画化する計画が発表された。
 計画されているのは“Killraven”という題名で、オリジ
ナルは1973年に発刊されたAmazing Adventuresの中の1篇と
してスタートした作品。元々のアイデアは、H・G・ウェル
ズ原作の“The War of the Worlds”の続編を描くというも
のだったそうで、1901年に地球を侵略しようとして失敗した
火星人が、2001年に再び地球侵略を開始して今度は征服して
しまうのが発端。そして火星人に征服された未来の地球で、
主人公は、最初は征服者である火星人の手で戦士として育て
られるが、やがて脱走してフリーマンと名告る抵抗組織のリ
ーダーとなって行くというもので、かなりスケールの大きな
物語となるようだ。
 そしてソニーからは、この映画化の脚本を“The Kentucky
Cycle”という作品でピュリツァー賞受賞の劇作家ロバート
・シェンカンに依頼したことも発表されている。因にソニー
では、『スパイダーマン2』のときも、同賞小説部門受賞者
のマイクル・シェイボンに脚本を依頼しているが、それに続
く大物作家への依頼ということになるようだ。
 ところでウェルズ原作の“The War of the Worlds”は、
今年映画版のリメイクが公開される予定だが、この再映画化
は、1953年の映画化と同じく舞台を現代にしているというこ
とで、ファンが期待したヴィクトリア朝のロンドン・テムズ
河口を火星人のウォーマシンが上陸してくるシーンは描かれ
ないようだ。しかし今回の“Killraven”の映画化が実現す
れば、もしかするとプロローグでそのシーンが映像化される
可能性もある訳で、ここは是非ともソニー・イメージワーク
スの技術で、その映像化にも挑戦してもらいたいものだ。
 なお、ソニーとマーヴェルではもう1本、こちらはコミッ
クも人気の高い“Ghost Rider”の映画化も、ニコラス・ケ
イジ主演、『デアデビル』のマーク・スティーヴン・ジョン
スン監督で進めているが、現状はケイジのスケジュールの空
き待ちというところようだ。
        *         *
 後半は短いニュースを紹介しよう。
 まずは続報で、前回紹介したM・ナイト・シャマラン監督
の次回作“Lady in the Water”の出演者が発表された。  
 発表されたのは、ブライス・ダラス・ハワードとポール・
ギアマッティ。この内、ギアマッティはビル管理人の役だと
思われるが、ハワードが彼の管理するアパートのプールに住
む「海の精」なのだろうか。なおハワードは『ヴィレッジ』
に続いてのシャマラン作品への登場となる。
 一方、ギアマッティは、『サイドウェイ』での主演が記憶
に新しいところだが、奔放に行動する友人に振り回されて、
いつもおろおろしている主人公の姿は、多分飛んでもない状
況に陥るであろう今回の役柄にはピッタリの感じがする。因
に、ギアマッティの次の出演作は、ラッセル・クロウ、ルネ
・ゼルウィガーとの共演で、ロン・ハワード監督によるボク
シング映画“Cinderella Man”だそうで、監督と共演者の違
いはあるが、彼はハワード父子絡みの作品に続けて関わるこ
とになるようだ。
        *         *
 『10日間で男を上手にフル方法』など若者向けのロマンテ
ィックコメディを手掛けているパラマウント傘下のクリステ
ィン・ピータースの製作で、1971年に公開されたホラー映画
“Let's Scare Jessica to Death”(呪われたジェシカ)か
らインスパイアされた作品が計画されている。
 オリジナルは精神病院を退院したばかりの女性が引越し先
のニューイングランドの農園で恐怖の体験をするというもの
だったが、今回計画されている“Let's Scare Jessica”と
題された作品では、コロラドの大学の男子学生が、大学が呪
われているとするガールフレンドのために行動を起こすとい
うお話。どこがインスパイアされたのか良く判らないが、こ
の脚本をベネット・イェーリンとジェームズ・ジョンストン
が担当することも発表されている。
 因に、脚本担当のイェーリンは、1994年の『ジム・キャリ
ーはMr.ダマー』が代表作のようだ。
        *         *
 2004年8月15日付の第69回でも紹介したドリームワークス
とパラマウントの共同製作によるマテル社の玩具からインス
パイアされた作品“The Transformers”の実写映画化で、
監督を『アルマゲドン』『バッド・ボーイズ』のマイクル・
ベイが担当することが発表された。
 この計画については、以前にも紹介したように錚々たる顔
ぶれの製作陣が名前を並べているものだが、その中心にいる
のはスティーヴン・スピルバーグ。そして今回は、ジョン・
ロジャースのオリジナル脚本から、アレックス・カーツマン
とロベルト・オーチが執筆した脚本に、スピルバーグのOK
が出て、ベイへの招請が行われたようだ。
 一方、ベイはドリームワークス製作で今夏公開のアクショ
ン大作“The Island”(2004年2月15日付第57回参照)を製
作中にこの脚本を渡され、即座に参加を決めたと伝えられて
いる。なお“The Island”は、以前紹介したようにドリーム
ワークスとパラマウントとの争奪戦が展開されたものだが、
今回は共同製作の作品に参加することになったようだ。
 以前の紹介では、錚々たる製作陣に船頭多くしてというよ
うなことを書いたが、自ら“The Amityville Horror”のリ
メイク版などの製作も手掛けるベイなら、何とか取り仕切っ
てくれそうな感じだ。
        *         *
 1951年ジョージ・パル製作によるパラマウント映画“When
Worlds Collide”(地球最後の日)を、『ヴァン・ヘルシ
ング』のスティーヴン・ソマーズ脚本監督でリメイクする計
画が発表された。
 このオリジナルは、1998年に公開された『ディープ・イン
パクト』の原作としても記録されている作品だが、元々は、
社会風刺作家としても知られるアメリカの作家フィリップ・
ワイリーが1933年にエドウィン・パーマーと共著で発表した
SF小説に基づくもので、放浪惑星の接近という史上最大の
災厄を前にした人類のさまざまな行動が描かれている。
 そしてパル版の映画化では、最後に人類の生き残りが宇宙
に飛び出し、新世界の創造を目指すという壮大な展開となっ
ているものだ。しかし1998年作では、そのような展開とはな
っていなかった。
 そこで今回発表されたソマーズの計画では、わざわざリメ
イクと名告っているもので、これは間違いなくパル版のリメ
イクを目指してもらいたいものだ。なお、原作者のワイリー
は、1934年に“After Worlds Collide”という続編も発表し
ており、リメイクにはそちらも考慮してもらいたいものだ。
 なおソマーズ自身の製作会社ソマーズCo.は、依然ユニヴ
ァーサルに本拠を置いており、ここでは“Flash Gordon”の
リメイクの他、最近トップカウ・コミックスの“Proximity
Effect”という女性主人公のアクション作品の映画化権も契
約している。しかしこれらの作品では、ソマーズは監督はせ
ずに、製作か、製作と脚本のみ担当する計画のようだ。
        *         *
 製作でもめた『エクソシスト』前日譚で、ポール・シュレ
イダー版のアメリカ公開が決定した。この経緯に関しては、
昨年4月15日付の第61回で紹介したが、先に公開されたレニ
ー・ハーリン版“Exorcist: The Beginning”の前に完成さ
れていたシュレーダー版を、5月20日に全米公開することに
なったものだ。ただし問題は公開題名で、これはハーリン版
と同じにすることは許されない。そこで、実は先に公開され
たオランダでは“Paul Schrader's The Exorcist: Original
Prequel”という題名も使われたようだが、アメリカでの公
開題名は、“Dominion: A Prequel to the Exorcist”とな
るようだ。
        *         *
 昨年6月15日付の第65回でも紹介したハナ=バーベラのテ
レビアニメーションシリーズ“The Jetsons”の実写映画化
で、計画が継続中であることが報告された。すでにサム・ハ
ーパーの脚本も完成し、アダム・シャンクマンの監督も決定
している状態だが、製作配給を手掛けるワーナーでは、主人
公のジョージ・ジェットソン役にスティーヴ・マーティンを
希望して交渉を続けているようだ。また製作は実写とCGI
の合成で行われるということで、オリジナルには傑作な愛犬
が登場するが、ワーナーでは『スクービー・ドゥー』で完成
させた技術を応用することになるようだ。それなら逆にロボ
ットは、着ぐるみでやってもらいたいものだ。
        *         *
 最後に、ファンには嬉しい情報で、来年5月26日の公開が
予定されている“X-Men 3”に、ヒュー・ジャックマン、ハ
ル・ベリー、イアン・マッケラン、パトリック・スチュアー
トに続いて、フェムケ・ヤンセンが契約したことが発表され
た。ヤンセンは、前2作ではジーン・グレイという役で登場
しているが、今回はフェニックスという名前になるようだ。
その理由は…ファンの方ならお判りだろう。



2005年04月14日(木) ミリオンダラー・ベイビー、バス174、皇帝ペンギン、マイ・リトル・ブライド、初恋のアルバム、ザ・リング2、Little Birds

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※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介しています。     ※
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『ミリオンダラー・ベイビー』“Million Dollar Baby”  
クリント・イーストウッド監督主演で、今年のアカデミー賞
では、作品、監督、主演女優(ヒラリー・スワンク)、助演
男優賞(モーガン・フリーマン)を獲得した作品。    
ただ一人の肉親の娘に会うことを拒否されている初老のボク
シング・トレーナーと、30歳を過ぎて家族とは別れ、ボクシ
ングだけを生き甲斐として暮らしている女性の物語。   
最初は女性のボクサーを否定していた主人公は、彼女のボク
シングにかけるひたむきな情熱に、やがて彼女のトレーナー
となり、ついには世界チャンプを目指すまでになるが…  
以下はネタばれを含みます。              
上記の概要で、単純に『ロッキー』の女性版を頭に描いて見
に行くと、これが大間違い。イーストウッドの監督で、オス
カーも獲るような作品だから、いまさらそんな単純な作品で
はなかろうと思ってはいたが、こういう話が展開されるとは
思わなかった。                    
しかもこの展開が、アメリカでは昨年末に公開されているの
に、見事に報道管制されている。このことからは、この展開
に対するアメリカ人の思いがいろいろ意味で混乱しているこ
とも感じ取れる。                   
僕自身の信条から言うと、この作品の結末は容認できない。
ましてや昨年、現実の同じような出来事が違う形での結末を
迎えたところで、この2つを重ね合わせると、僕自身として
はやりきれない気持ちが残る。             
しかも本来なら、この作品が問題提起となっていろいろな論
争ができるはずなのに、アメリカでそれはなされたという話
もあまり聞かない。そこには、その論争を圧殺するような雰
囲気も感じてしまう。                 
もっとも、イーストウッドが問題提起のつもりでこの作品を
作ったとは考えられないし、現実の出来事が偶然重なっただ
けなのだとは思う。ただし、現実の出来事の方では、その後
に多少の動きも生じたようだが…       
(5月31日付で補足があります)

                       
『バス174』“Onibus 174”             
2000年6月にリオデジャネイロで発生したバスジャック事件
を、当時のテレビ報道の映像と、後日の関係者へのインタヴ
ューでまとめたドキュメンタリー作品。いわゆる再現映像は
用いず、全てが実際の映像で綴られている。       
ストリート・チルドレンだった男が、バス強盗を試みて失敗
し、そのまま乗客を人質にとって立てこもる。そのバスを警
官隊が取り囲むが、報道陣の集結も速く、警備区域の設定の
遅れもあって、テレビカメラが至近距離に置かれることにな
ってしまう。                     
このため、衆人監視のもとでは警官隊もうかつには射殺など
の手を打てなくなり、事件は膠着状態になってしまうが…こ
の事件を、人質だった女性や覆面の特殊部隊の警官、さらに
犯人の叔母や昔の仲間、児童保護局の担当者らの証言などを
交えて検証して行く。                 
犯人は、ストリートチルドレン多数が警官隊によって虐殺さ
れた事件の生き残りであり、警察への恨みがあったとする証
言や、逮捕され刑務所に入れられることによってますます悪
くなるという現実が、刑務所の劣悪な実体の紹介などによっ
て明らかにされる。                  
ということで、この作品はバスジャック事件だけでなく、そ
の背後にある社会問題を炙り出して行く構成になっている。
ただし作品の構成では、バスジャック事件の報道映像と人質
だった女性の証言に多くが割かれており、その衝撃的な結末
に向かっての緊張感あふれる作品になっている。
それは良いのだが、正直な感想を言うと、主張がいまいち不
明瞭な感じの作品にもなってしまっている。    
つまり犯人の実像を追って行く内に、話はどんどん社会問題
の告発に偏って行くのだが、それがバスジャック事件に揺り
戻されて終ることで、せっかく炙り出した社会問題の告発が
中途半端に終ってしまったようにも感じられるのだ。   
刑務所の劣悪な実体などは、それだけで別のドキュメンタリ
ーにしても良いくらいなものだが、それをあえて短く織り込
んで描いたために、逆に舌足らずに感じられてしまう。  
実はこの文章を書こうとしたときに、ブラジルの悪徳警官が
市民数10人を虐殺したというニュースが伝えられた。実際に
ブラジルの一般警官のほとんどは、このような悪徳警官なの
だそうで、それはこの映画で描かれた通りのものだったよう
だ。                         
しかし映画では、その告発も中途半端に感じられた。特にこ
の問題は、犯人の実像に密接に絡むものでもあり、できれば
この問題はもっと克明に描いて欲しかったところだ。   
製作を進める内に内容が膨らんでしまったのかも知れない。
しかし、いろいろな要素を詰め込みすぎた感じも持つ。しか
もそれぞれが重要な問題であるだけに、余計に勿体無い感じ
がするものだ。ただし、こういった事実を知る上で貴重な作
品であることは確かだ。                
                           
『皇帝ペンギン』“La Marche de L'Empereur”      
南極の厳冬下で行われる皇帝ペンギンたちの産卵と抱卵、そ
して子育ての姿を、1年以上の撮影期間で追ったドキュメン
タリー作品。気温氷点下40℃、時速250kmのブリザード、そ
んな厳しい条件の下で、子孫を残すための壮絶な闘いが繰り
広げられる。                     
映画は、食料豊富な海を出て営巣地へ向かう旅から始まる。
雪原を列を作ってよちよちと歩く姿や、腹ばいでの滑走は愛
らしいものだが、それは取り残されれば死と直面する過酷な
旅。しかし本当の試練はここからだ。          
結局、地上での行動力の弱さで、ペンギンたちは外敵から身
を守る術として厳冬下での産卵を強いられている。だが、厳
寒の環境の下では、卵を外気に曝すことは死を意味する。こ
のため卵は常に親鳥の足の甲に乗せていなければならない。
産卵された卵は、最初は雌の足の甲で抱卵される。しかし産
卵で体力を消耗した雌は直ちに捕食のため海へと向わなくて
はならない。そこで雌から雄へ卵の受け渡しが行われるが、
これに失敗すると卵は直ちに凍結死してしまう。  
さらに卵を受け取った雄は、その後の雌が捕食から戻るまで
の約120日間を絶食、立ち続けで過ごさなければならない。
そこに容赦なく吹きつけるブリザード。防寒のためよちよち
歩きで集団を作ろうとする雄が卵を取り落としてしまうこと
もある。                       
一方、辿り着いた海で開放されたように泳ぎ、捕食する雌た
ち。しかしそこには、アザラシなどの敵も待ち構える。雌の
死は帰りを待つ家族の死をも意味する。         
そして立ち続けで待つ雄の足下では雛が孵り始める。だが孵
った雛はまだ地上に出ることはできない。厳しい自然は雛の
か弱い体力をあっという間に奪ってしまうのだ。雛鳥と雄は
餌を貯えた雌の帰りを待ち続ける。           
このように、次々に襲ってくる苦難の様子が、冷静なカメラ
ワークで捉えられて行く。               
1972年に公開された“Mr.Forbush and the Penguins”(二
人だけの白い雪)というイギリス映画がある。この作品は、
1980年の『復活の日』より10年近く前に、恐らくは南極で本
格的なロケーションが行われた最初の劇映画だと思われるも
のだが、この中で、多分同じ営巣地でのペンギンの子育てが
紹介されていた。                   
ただしこの劇映画では、営巣地に現れるペンギンの到着シー
ンや、孵った雛鳥が外敵に襲われるシーンなどは捉えられて
いたが、今回の作品のような厳冬下のシーンはさすがに無か
ったように記憶している。そんな訳で僕は、ある種の懐かし
さも感じながらこの作品を見たのだったが、今回はその尋常
でない現実の厳しさに、改めて驚かされたものだ。    
なお、今回の作品では、ペンギンの夫婦と子供という設定で
の擬人化されたナレーションが付く。通常このような擬人化
されたナレーションでは、物語を盛り上げようとするのか感
情的になるものが多いが、本作のそれは、淡々とした口調の
中で学術的な内容も捉えつつ、しかもドラマティックに語ら
れているもので見事だった。              
それから、試写会の当日にはかなり幼い観客も来ていたが、
字幕版の作品に騒ぐこともなく鑑賞していたということは、
映像の見事さの現れといえるだろう。また、僕の席の近くに
は、南極でペンギンを撮影したこともあるというカメラマン
の人が座っていたが、この人の上映後の満足そうな笑顔も印
象的だった。                     
                           
『マイ・リトル・ブライド』(韓国映画)        
家が隣同士で、幼い頃から兄妹のように育ってきた16歳の高
校生の少女と、24歳の留学帰りの美大生の男子が、祖父の命
令で結婚式を挙げさせられる。しかも大学生は教育実習で彼
女の高校が赴任先となる。事情を知っているのは祖父の友人
の校長のみ。                     
おやおやどこかで聞いたような設定だが、それで観ないのは
食わず嫌いと言うもので、実際本作では、韓国の実情も踏ま
えてうまくアレンジされた作品になっていた。 
それに本作では、主人公の少女が自分の立場を全く自覚して
いなくて、野球部エースの先輩に憧れてデートを重ねたり、
いろいろなトラブルを起こしてしまうという、かなり無理な
展開となるのだが、それも何となく自然に描かれているのは
見事だった。                     
また、それぞれの両親の思惑や夫である大学生の微妙な立場
なども巧みに描かれている。もちろん特殊なシチュエーショ
ンで通常有り得ない設定のコメディなのだが、よく描き込ま
れた脚本が嫌みの無い作品に仕上げているという感じだ。 
なお、主演のムン・グニョンは、『箪笥』の主人公の妹役な
どを経て本作で初主演だそうだが、まさに妹役がピッタリと
いう雰囲気で、本作1本で韓国では会員8万人のファンクラ
ブができたということだ。相手役はテレビ出身ですでに人気
者のキム・レウォン。                 
また、監督のキム・ホジュンも本作が初の作品だが、東京・
千代田芸術大学映画科卒業で、誰にでも楽しめるシンプルで
“無害”な映画作りを目指すという監督自身の考え方は、本
作で見事に実践されている。              
監督の目指す通り、毒にも薬にもならない作品だが、見てい
る間は楽しめるし、さらに俳優が気に入ればそれで十二分と
いう感じの作品だ。                  
                           
『初恋のアルバム』(韓国映画)            
いがみ合う両親の下で、いっそ孤児の方が良かったと思って
育ってきた少女が、ふとしたことで両親の巡り合いの地を訪
れ、そこで両親の育んだ愛の姿を目撃するという、ちょっと
ファンタスティックな物語。              
主人公は郵便局に勤め、研修でニュージーランドへ行くこと
が決っているが、その直前父親が家出してしまう。その父親
は過去に友人に騙され、母親がこつこつ貯めていたお金も奪
われたことがある。そんな父親を母親は詰り倒して来た。 
そんな父親が行方不明になり、彼女は両親が巡り会ったとい
う島を訪れる。そこには昔は母も働いていたという海女たち
がおり、母親の実家を訪ねた主人公は、自分そっくりの若き
日の母親に出会う。そしてその家で過ごすうち、若き日の父
親が現れる。                     
当時の母親は両親を失い、海女の仕事をしながら弟を都会の
学校に通わせていたが、本人は読み書きができなかった。し
かし弟には手紙を書かせ、その読めない手紙を届けるのが後
の父親である郵便配達員だったのだ。          
やがて父親は、母親が読み書きができないことに気づき、彼
女に小学校の教科書を与えて読み書きを教え始める。こうし
て愛が育まれて行ったが…               
一種のタイムトラヴェルものだが、タイムパラドックスのよ
うなSF的要素は排除して、純粋なラヴストーリーが展開し
て行く。それが多分韓国の人ならもっと強く感じられるのだ
ろうが、日本人にも通じるノスタルジックな雰囲気の中で見
事に語られる。                    
特に主演のチョン・ドヨンは、合成を用いた母娘2役を演じ
ているが、その2つの個性を演じ分けた演技は見事なもの。
また、その成長した母親を演じるコ・ドゥシムの演技も素晴
らしい。そしてこの2人1役も見事に演出されていた。  
なお、チョン・ドヨンは海女として海に潜るシーンも代役な
しで演じており、その海女たちの群舞のような海中シーンも
美しく、素晴らしいものだった。            
                           
『ザ・リング2』“The Ring Two”           
日本作品のリメイクでアメリカでも大ヒットした『ザ・リン
グ』の続編。日本版でも続編は作られたが、本作はアメリカ
で作られたオリジナル脚本に基づく。そしてその監督を、日
本版オリジナル及び続編の監督中田秀夫が担当した。   
物語の骨子は、貞子(サマラ)の呪いが再び活動を始め、そ
の呪いの根源を探るために、貞子(サマラ)の足跡を辿ると
いうもので、その点では共通している。しかし、日本版の続
編では前作の母子は脇役だったのに対して、本作ではその親
子が再び主演している。                
そこで、前作で母子を演じたナオミ・ワッツとデイヴィッド
・ドーフマンの再登場となるが、特にドーフマンの見事な恐
怖演技には感心した。ただし、設定は前作の6ヶ月後という
ことになっているが、明らかにもっと成長してしまっている
のはご愛嬌だろう。                  
そして本作では、この母子の再登場によって、母親が息子を
守るという前作から続くテーマがより鮮明になった点が、日
本版の続編との決定的な違いと言える。本当は日本版でもこ
れをやりたかったが、俳優の都合でできなかったのではない
か、そんな感じも持った。               
実際、中田監督がこの作品に再挑戦した理由も、そこにある
のではないかという感じだ。              
そして、さらにこの母親の存在を際立たせるのが、シシー・
スペイセクの登場だ。2度のオスカー受賞者でありながら、
『キャリー』の印象を拭えないスペイセクが、この恐怖映画
に堂々と登場する。その存在感だけでも見る価値のある作品
と言える。                      
なお中田監督は、上映後の記者会見で、ワッツとスペイセク
に挟まれてモニターを見ている時は、夢見心地だったと述懐
していた。                      
また監督は、記者会見の中で、本作ではショックシーンのつ
るべ打ちのような表現は避けたと証言していた。実際に映画
では、母子の情愛が恐怖に打ち勝って行く訳だが、観客にも
そのイメージは鮮明で、恐怖映画の雰囲気ではない感じもし
た。                         
しかし点描的に襲ってくる恐怖シーンはさすがに鮮烈で、恐
怖映画としても存分に楽しめる。この辺のバランス感覚の良
さが認められたのだろう。すでに次回作は、パン兄弟オリジ
ナルの“The Eye”のリメイクが、早ければこの夏にも製作
開始となるようだ。       
                           
『Little Birds』             
テレビ朝日系列のニュース番組などで、イラク戦争開戦前後
の現地レポートを担当していたフリージャーナリスト綿井健
陽が撮影した映像を元に編集されたイラク戦争の実体を描く
ドキュメンタリー。                  
開戦直前の意外と平静な市内の様子から、空爆、戦闘、そし
てその爆撃によって幼い兄弟を失った父親や、非人道的なク
ラスター爆弾によって片目に障害を負った少女、あるいは片
腕を失った少年などのエピソードが時系列で綴られる。  
また、人間の盾となった女性が進駐してきた米兵に抗議する
姿や、綿井自らが米兵に詰め寄る姿(フレーム外の音声だが)
なども写し出される。                 
このページの読者の人はお判りと思うが、僕は基本的に反戦
の立場を取る。従ってこの作品は自分の信条に近いものと言
える。しかし上記したような、作者自らが詰め寄る姿が写し
出されると、ドキュメンタリーとして正しいことか疑問を持
つ。                         
この手法は、最近のマイクル・ムーアの作品で認知された感
があるが、本来の報道ジャーナリストは、自らの信条はどう
であれ、写し出される中では冷静に中立を装って伝えるのが
正しい姿ではないだろうか。              
もちろん、中立を装って偏向した報道をされるのが最も危険
な訳で、それに比べればこの方が判り易くて結構という意見
もあるだろうが。この作品では作者自ら詰め寄る姿が、何か
幼稚に見えてしまった。                
実は上映後にトークイヴェントがあり、そこで米兵に詰め寄
るシーンは、最初に米兵側から話しかけてきて、その過程で
意地悪質問として発したものだということだ。そうであるな
ら、そこまでの流れを見せた方がより良いものになったよう
な気がする。                     
100時間以上の映像を2時間ほどにまとめることの苦労は理
解するが、この作品の造り方では、かえって主張が反感を買
ってしまうような、そんな危険も感じてしまった。    
なお、試写会ではプレス資料が貰えなかったので、上記は自
分の記憶だけで書いている。従って誤解などあるかも知れな
いが、その点のご了承をお願いします。         




2005年04月01日(金) 第84回

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
※このページは、キネマ旬報誌で連載中のワールドニュー※
※スを基に、いろいろな情報を追加して掲載しています。※
※キネ旬の記事も併せてお読みください。       ※
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
 今回は、まず誤報のお話から。
 前回クェンティン・タランティーノ監督の次回作として紹
介した“The Ultimate Jason Vorhees Movie”の情報が、全
くの誤報であったことが判明した。
 前回紹介した情報の元は、Variety紙のWeb版3月8日付に
報道されたものだったが、噂としては、その数週間前から流
されていたようだ。それがVarietyt紙に載ったということで
一気に大々的に報道されたのだったが、前回のページの更新
を行った直後の3月15日(現地の報道は14日付)に、タラン
ティーノ本人による否定の発言が行われてしまった。
 このタランティーノの発言によると、ニューラインからの
打診はあったものの、それにOKをしたことはなく、報道は
全くのでっち上げだということだ。確かに前回の報道では、
ニューライン側の発言はあったが、タランティーノ側の反応
は報告されていなかったもので、多分、ニューライン側の期
待を込めた発言が、そのまま確定情報にすり替わってしまっ
た可能性はあるようだ。
 ただ、誤報を擁護する訳ではないが、こういう報道がされ
ることで滞っていた計画が進み出すこともある訳で、ニュー
ライン側の発言には、その面での期待もあったのかも知れな
い。しかしタランティーノ相手では、そういう作戦は利かな
かったという可能性は考えられるところだ。また今回、タラ
ンティーノ側が直ちに否定コメントを出さず、約1週間を置
いたことにも何か意図的なものが感じられるところだ。
 因に、タランティーノ本人は、2003年12月15日付の第53回
でも紹介している第2次世界大戦を背景にした冒険活劇映画
“Inglorious Bastards”が、次にやろうとしている作品だ
そうで、戦闘中に最前線の敵陣側に孤立してしまった部隊が
窮地を脱出するまでを描く脚本の執筆を進めているとのこと
だ。そして現在は、この作品の実現に傾注しているために、
他の作品のことは考えられないということだそうだ。
 なお“Inglorious Bastards”については、すでにシーン
割りなどの作業は完了していて、次は脚本家を交えて撮影に
用いる撮影台本の作成に取り掛かる段階とのこと。そしてそ
の撮影台本が完成したら、いよいよ製作準備に取り掛かる段
取りのようだ。ただしこの映画の製作は、現状ではミラマッ
クスで行われることになっている。これに対してタランティ
ーノ自身は、前回報告したワインスタイン兄弟の問題では兄
弟側に付くとも伝えられており、それだと製作開始は、兄弟
の離脱が確定する9月以降ということにもなりそうだ。
 一方、タランティーノに関しては、2月15日付の第81回で
紹介したジェームズ・ボンド第21作“Casino Royale”を進
めているマーティン・キャンベル監督が、タランティーノに
俳優としてのオファーを出しているとの情報もあるようだ。
まさか未決定のボンド役ということはないだろうが、タラン
ティーノの風貌ならクリストファー・リーも演じたことのあ
るボンドの敵役には面白そうだ。これも期待を込めた情報と
いうことで紹介しておく。
        *         *
 さて、以下はいつもの製作ニュースだが、今回は異様に情
報が多いので、さっさと始めることにしよう。
 まずはワーナーから、2004年12月15日付の第77回でも紹介
したDCコミックス原作“Wonder Woman”(ワンダー・ウー
マン)映画化の計画が、公式に発表された。
 この計画については、前回にも紹介したように“Firefly/
Serenity”や、“Buffy the Vampire Slayer”(バフィー/
恋する十字架)などのクリエーター=ジョス・ウェドンに、
脚本、監督のオファーがされていたものだが、今回はその起
用が正式に決定したということだ。因にウェドンには、前回
も書いたようにブライアン・シンガーが抜けた後の“X-Men
3”への起用も噂されていたが、これでその可能性はなくな
ったことになる。
 また、ウェドンはこれも前回紹介したように、自作の短命
だったテレビシリーズ“Firefly”の劇場版“Serenity”の
映画化をユニヴァーサルで進めていたが、この作品はすでに
ポストプロダクションが完了しているということだ。
 なお“Wonder Woman”の計画は、『マトリックス』などの
ジョール・シルヴァが長年進めてきたもので、実は2001年に
最初に企画が立上げられたときには、サンドラ・ブロックが
主演する計画だったとも伝えられている。しかし今回の発表
では配役は未定となっており、星条旗のコスチュームを一体
誰が身に付けるかは、これからいろいろな情報が飛び交いそ
うだ。前回報告したようにミニー・ドライヴァーが選ばれれ
ば、それも面白いと思うが。
        *         *
 一方、ウェドンに振られた“X-Men 3”の監督には、イギ
リス人監督のマシュー・ヴォーンの名前が発表された。
 ヴォーンについては、これも第77回で紹介した“The Man
from U.N.C.L.E.”の監督に抜擢されたことを報告している
が、今回の情報との関係がどうなっているかは明確でない。
しかし“X-Men 3”の製作に関しては、2006年5月26日の全
米公開が決定されているということで、これが事実とすると
“The Man from U.N.C.L.E.”の計画は一先ず置いといて、
ということになりそうだ。
 なお“X-Men 3”の製作では、前2作の出演者の内、ヒュ
ー・ジャックマン、イアン・マッケラン、パトリック・スチ
ュアートの再登場はすでに決定しているとのこと。また、ハ
リー・べリーに関しては交渉中ということだが、べリー自身
は、キャラクターの設定をもっと原作コミックスに近づけて
くれたら交渉に応じるという発言を公にしており、希望が叶
えば出演は決まりのようだ。
 X-Menのメムバーからは、すでにサイクロプス役のジェー
ムズ・マースデンの“Superman”への出演が発表されている
が、上記の4人が揃えば、他は何とかなるだろうという感じ
だ。ただスチュアートについては、シンガーがスーパーマン
の実父ジョー・エル役をオファーしているという情報もあっ
たものだが、今回の発表でそれはなくなったようだ。
 因に、このジョー・エル役には、1978年の第1作の製作で
撮影されたマーロン・ブランドの未使用の映像を使うという
情報もあるようだが、第2作での使用も拒否したブランドの
遺志はどうなってしまうのだろうか。
        *         *
 この夏にワーナーが配給するロアルド・ダール原作、ティ
ム・バートン監督、ジョニー・デップ主演の映画“Charlie
and the Chocolate Factory”の公開に関連して、チョコレ
ートメーカーのNestleから、総額500万ポンドに及ぶ大々的
なタイアップキャンペーンの実施が発表された。
 実は元々Nestleでは、ダールの原作に因んだ「ウィリー・
ワンカ・チョコレートバー」という商品を2年前まで発売し
ていたということで、今回は映画の公開に合わせて、この商
品の再発売を絡めたキャンペーンが行われるということだ。
因にこのチョコレートバーの味は3種類あって、それぞれ、
Whipple Scrumptious Fudgemallow Delight、Nutty Crunch
Surprise、Triple Dazzle Caramelと名付けられているもの
だが、さてそのお味は…他にNestleからは、映画に登場する
お菓子の詰め合わせのセットなども売り出されることになっ
ている。
 また、Nestleは映画の撮影にも全面協力し、工場の中を流
れるチョコレートの川などのセットの建造の他、映画に登場
するチョコレートの包装は、同社の工場で商品の包装に使っ
ている実際の機械で行われたそうだ。
 大作映画のタイアップは決まりものになってきているが、
子供嗜好の商品でこれだけ映画に密接なタイアップも珍しい
もので、面白い展開を期待したい。なおこの他に、ペンギン
ブックスからは原作本の表紙の変更、また玩具メーカーのフ
ァンライズトイからは、模型セットやフィギュア、ゲームの
発売も予定されているようだ。
        *         *
 先日のアカデミー賞で2度目の主演女優賞に輝いたヒラリ
ー・スワンクが、ジョール・シルヴァ、ロバート・ゼメキス
主宰によるホラー専門プロダクション=ダーク・キャッスル
の作品に主演することが発表された。
 この作品は“The Reaping”と題されているもので、宗教
の関わるいろいろな謎を解き明かすスペシャリストの女性を
主人公にした物語。本作では、この女性が宗教的な10の災厄
に襲われたテキサスの小さな町に、その調査に訪れるところ
から、お話が始まるということだ。ブライアン・ルーソのオ
リジナル脚本を、チャド&カーリー・ヘイズがリライトし、
2003年にヴァル・キルマーが主演した“Wonderland”のジェ
ームズ・コックスが監督する。
 因みに、1999年に発足したダーク・キャッスルでは、ほぼ
年1作の割合で作品を製作しているが、2003年にはオスカー
受賞直後のハリー・べリー主演で“Gothika”(ゴシカ)を
発表しており、今回のスワンクといい、本当に女優の気持ち
を掴むのが巧いようだ。
        *         *
 昨年再公開された『ナイトメア・ビフォア・クリスマス』
や『ジャイアント・ピーチ』などで知られる人形アニメーシ
ョン監督ヘンリー・セリックが、所属しているヴィントン・
スタジオのスタッフと共に、“The Wall and the Wing”と
題された児童向け小説のCGアニメーション化を手掛けるこ
とが発表された。
 この原作は、2006年にハーパーコリンズから出版される予
定のもので、魔法を使った冒険物語と紹介されているが、セ
リックの発言によると、長編映画化するのにピッタリの作品
だということだ。ただし、原作者の名前は、今回の報道では
紹介されていなかった。
 因みにヴィントン・スタジオは、1974年のアカデミー賞短
編アニメーション部門を受賞した粘土を使ったアニメーショ
ン=クレイメーション作品“Closed Mondays”などのウィル
・ヴィントンが創始したアニメーションスタジオで、その後
は1985年にディズニーが製作した“Return to Oz”(オズ)
などにも参加して一世を風靡したものだが、近年はテレビの
番組中で公開される作品などの製作が中心で、大きな作品は
手掛けていなかったようだ。
 しかし2003年に、前Nikeの社長だったフィル・ナイト氏が
スタジオのスポンサーとなり、同氏が全製作費の半額を出資
するという契約で、長編作品の製作への道が開けたというこ
とだ。また今回のセリックの参加も、潤沢になった資金の関
係と思われる。そして本作では、4〜6千万ドルの製作費の
半額が同氏から出資されることになっているものだ。
 なおセリックは、2004年10月1日付の第72回で紹介したニ
ール・ゲイマン原作“Coraline”の脚本監督を手掛けている
他に、前回は不明確だったティム・バートン企画の“Corpse
Bride”にも参加しているようだ。また、日本では初夏に公
開される“The Life Aquatic with Steve Zissou”(ライフ
・アクアティック)に登場する海洋生物のアニメーションも
担当している。
        *         *
 “Alien vs.Predator”(エイリアンVSプレデター)のポ
ール・W・S・アンダースン監督が、1975年にロジャー・コ
ーマン製作、ポール・バーテル監督で発表されたカルトSF
“Death Race 2000”(デスレース2000年)のリメイクを手
掛ける計画が発表された。
 オリジナルは、デイヴィッド・キャラダインの主演で、シ
ルヴェスター・スタローンが出演していたことでも知られる
作品だが、重装備のレーシングカーの爆走する迫力が売りの
反面、人を跳ねるとポイントが上がるというようなかなりエ
グイ設定だったと記憶している。しかしそのブラックなユー
モアセンスが評価され、ガイドブックなどの評価はそこそこ
高いものだ。また1978年には、同じくキャラダインの主演で
続編の“Deathsport”という作品も作られている。
 その作品を今回は、コーマンとC/Wのトム・クルーズ、
ポーラ・ワグナーの製作で、パラマウントがリメイクするも
ので、タイトルは“Deathrace 3000”と発表されている。 
 そして脚本も担当するアンダースンは、「オリジナルでは
歩行者をひき殺すシーンなどが強調されているが、これは実
際のレースでは有り得ないことなので、その点は少し改善し
たい。本作では2020年を背景として、重装備のGMエスカレ
ーダやフェラーリ、アストン・マーティンなどが、超暴力的
なルール無視のレースを展開する内容になる」と発言してお
り、さらに、多少『マッドマックス』的な要素も入れた物語
にしたいということだ。
 因にアンダースンは、この企画には復帰なのだそうで、実
は1995年に彼が“Mortal Kombat”を発表した当時にもこの
企画が進行していたようだ。しかしこの時は実現に至らず、
今回は『バイオハザード』などの成功を引っ提げての復帰と
なったものだ。まあ上記の発言から見ると、多分当時はコー
マンの力も今より強かったろうし、その辺での対立があった
のかも知れない。しかし今回は…というところだろう。
 なお、アンダースンに関しては、前々回に“Man With the
Football”という計画を紹介しているが、彼自身は今回の
作品の方が長年気になっていた作品ということで、本人は直
ちにこの脚本に取り掛かりたい意向のようだ。ただし、現在
は“Resident Evil”(バイオハザード)の第3作の脚本を
執筆中だそうだ。
        *         *
 『シックス・センス』などのM・ナイト・シャマラン監督
の新作がワーナーで製作されることになった。新作の題名は
“Lady in the Water”というもので、内容は、自分が管理
しているアパートのプールに、「海の精」が住んでいるのを
見つけたビル管理人を主人公にした物語ということだ。
 シャマランは監督デビュー以来の4作をディズニーで発表
してきたが、別段優先契約等を結んでいた訳ではなく、以前
から他のスタジオからのアプローチもあったようだ。そして
今回は、ワーナーの数年に亙るアプローチに応えたもので、
シャマランは今回の経緯を、「彼らの私の映画に対する個人
的な繋がりを感じ取った」と説明している。なおシャマラン
は、監督デビュー以前に、コロムビア製作の『スチュアート
・リトル』の脚色を担当したことがある。
 新作の撮影は今年の8月にフィラデルフィアで開始され、
公開は来年6月の予定ということだ。
 一方、今回の動きに関連してディズニーでは、「我々は、
シャマランと強い絆で結ばれており、将来に向かって新たな
計画も持っている」とのことで、関係は今まで通り継続され
るようだが、これでシャマラン監督の製作のペースが上がる
ものなのかどうか、また、さらに他社での製作があるのかな
ど、この後の動向も気になるところだ。
        *         *
 昨年8月1日付の第68回で紹介したProject Greenlightか
ら、また1本映画化の計画が発表された。
 このプロジェクトからは、すでに優勝したパトリック・メ
ルトンとマーカス・ダンストンの共作による“Feast”とい
う脚本の映画化が、主催者のマット・デイモン、ベン・アフ
レックの製作により、監督部門の優勝者ジョン・ガラガーの
監督で進められていて、この作品は今秋、ミラマックス傘下
のディメンションから公開されることになっている。
 また、他の2本のファイナリストの中からは、第74回で紹
介したようにマーシャル・モスリーが応募した“Wildcard”
という犯罪ものの作品が、ウェス・クレイヴンの製作監督で
進められることも発表されていた。
 そして今回は、残る1本のリック・カー応募によるタイム
トラヴェルコメディ作品“Does Anyone Here Remember When
Hanz Gubenstein Invented Time Travel?”の脚本が、アフ
レックとアート&ロジックというプロダクションによってオ
プション契約がされたもので、これで昨年の第3回Project
Greenlightからはファイナリストの3作全ての映画化が計画
されることになったものだ。
 まあ、オプション契約というのは、必ず実現されるという
ものではないが、これで作者には契約金が支払われるものだ
し、今回の契約は大手の製作会社相手ではないから、実現の
可能性は高いと見られる。
 それにしても、『グッド・ウィル・ハンティング』でオス
カー脚本賞を受賞したデイモンとアフレックが、自分らの受
けた恩恵を後輩たちに分かち合いたいとして始めたProject
Greenlightは、着実にその成果を挙げてきているようだ。
        *         *
 そろそろ紙面が残り少なくなってきたが、最後に続編の話
題をまとめて紹介しておこう。
 まずは3月14日付の映画紹介に掲載した“The Butterfly
Effect”の続編が計画されている。この計画はフィルムエン
ジンというプロダクションが提出したもので、前作を配給し
たニュー・ラインが優先契約を結んで製作がスタートされる
ことになった。なお脚本はマイクル・ウェイスという脚本家
が新たに執筆したもので、関係者の発言では「バタフライ効
果を新たな段階に高める」ものになっているそうだ。また、
登場人物は一新され、従ってアシュトン・カッチャーの出演
はないとされている。監督は『モータル・コンバット2』の
ジョン・レオネッティが担当。オリジナルの脚本監督を手掛
けたエリック・ブレスとJ・マッキー・グラバーの2人は、
ストーリーでクレジットされるようだ。
 “Saw”の続編については、昨年11月15日付の第75回でも
紹介したが、この続編の脚本と監督をミュージック・ヴィデ
オ出身のダーレ・リン・ボウスマンが担当することが発表さ
れた。なお、ボウスマンはすでに脚本を書き上げているよう
だが、この脚本は前作を手掛けたリー・ワネルとジェームズ
・ワンの協力の下に執筆されたということだ。キャスティン
グなどは未定だが、撮影は5月2日にトロントで開始され、
今年のハロウィンの公開を目指すことになっている。
 “Final Destination”の第3作“Cheating Death: Final
Destination 3”が、オリジナルを手掛けたジェームズ・ウ
ォンとグレン・モーガンの脚本と、ウォンの監督で実現され
ることになった。なお、オリジナルは全米で1億1200万ドル
の興行成績を上げ、第2作も8900万ドルを稼いでいるが、こ
の続編の出来は僕には納得できないものだった。それが今回
第3作ではオリジナルの2人が復帰するということで、期待
が増すところだ。なお登場人物は一新され、今回はライアン
・メリマンとマリー・ウィンステッドの2人が死神と対決す
る高校生を演じることになる。この2人は“The Ring Two”
にも出演しているそうだ。撮影は4月4日にヴァンクーヴァ
ーで開始され、公開は2006年の予定。
 もう1本、“Spider-Man 3”の敵役に、『サイドウェイ』
でオスカー助演賞候補のトーマス・ヘイデン・チャーチの出
演が決まったようだ。第3作の敵役は果たして噂のザ・リザ
ードとなるのだろうか。


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井口健二