井口健二のOn the Production
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2004年08月31日(火) ヴィレッジ、ビハインド・ザ・サン、モンスター、キャットウーマン、バイオハザードII、酔画仙、ブラインド・・、ハッスル、春夏秋冬・・

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※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介しています。     ※
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『ヴィレッジ』“The Village”             
M・ナイト・シャマラン監督の最新作。         
試写の前に、物語中の謎に関しては口外しないという契約書
にサインをした。                   
僕は、元々物語のネタばらしは好きではないし、ここでも極
力ネタばれはないようにしているつもりだが、それでもうっ
かりしてしまうことはある。後で気が付いて文章を削除した
こともあるが、今後もネタばれには気をつけたいと思う。 
ということで、物語について詳しくは書かないが、一応の設
定は、周囲を完全に森で閉ざされた村が舞台。先祖がその土
地に移住してきてから、人々は自給自足で平穏に暮らしてい
るが、その森には何かの存在がいて、先祖は彼らと、森に入
らない代りに平穏な暮らしを得る契約を結んでいた。   
このため村にはいろいろなタブーがあるが、その一方で、子
供たちの中には、森を肝試しの対象にした遊びも流行り始め
ていた。そして…。                  
シャマランは、『シックスセンス』がものの見事にはまった
作品で評価も高いが、僕には究極のオタクを描いた『アンブ
レイカブル』も、SF映画のアレンジの『サイン』も楽しめ
る作品だった。実際、後の二者については評価しない人も多
いようだが、これが楽しめない人は可哀想だと思っているく
らいだ。今回もそういう作品、だから楽しめる人には存分に
楽しんでもらいたい。                 
出演者は、ホアキン・フェニックス、エイドリアン・ブロデ
ィ、シガニー・ウィバー、ブライス・ダラス・ハワード、ウ
ィリアム・ハート。特に、本作が本格映画デビューとなった
ハワードが良かった。                 
                           
『ビハインド・ザ・サン』“Behind the Sun”      
『セントラル・ステーション』などのウォルター・サレス監
督の2001年作品。なお、監督の名前は、従来はヴァルテルと
表記されていたが、今回から変えるようだ。       
1910年のブラジルを舞台に、隣組同士が血を血で洗う抗争を
繰り広げる物語。                   
しかも、一方の一家はそれなりの暮らしをしているが、他方
の一家はすでにほぼ根絶やしとなり、生活も困窮してしまっ
ている。そんな他方の一家の幼い末弟を語り手に、物語は進
んで行く。                      
その年の2月、困窮した一家の長兄が射殺される。犯人は裕
福な一家の長兄。このため、困窮した一家の次兄には、兄殺
しの犯人の射殺の義務が課せられる。それはシャツに付いた
血痕が黄色く変色した時が開始の合図となる。      
義務が果たされれば、それは次の義務を生み、裁ち切れぬ恐
怖の連鎖はいつまでも続くことになる。しかし、父親は家名
をかけて義務の全うを要求する。元々は土地争いなどの大義
があったはずだが、すでにそれは忘れられ、名誉のための戦
いだけが続いて行く。                 
この作品の作られたのが、2001年のいつかは定かでないが、
サレス監督がこの物語に込めた寓意は誰に目にも明らかだろ
う。しかし結局2001年9月11日は起こり、米=イラク戦争は
泥沼化してしまっている。人間の愚かさを見事に描き出した
作品。                        
困窮した生活の中で、唯一の収入源である砂糖を作り続ける
一家。そこに現れて、子供たちに楽しい世界を見せようとす
るサーカスの2人。いろいろな寓意が物語を彩っている。 
主演は、本作の後に、『ラブ・アクチュアリー』や『チャー
リーズ・エンジェル/フルスロットル』にも出演したブラジ
ルの新星ロドリゴ・サントロ。             
また、サーカスの若い女性クララを演じたフラヴィア=マル
コ・アントニオが魅力的だった。            
                           
『モンスター』“Monster”               
シャーリズ・セロンがオスカー主演女優賞に輝いた作品。 
1989年11月から90年11月までの略1年間に7人の男性を殺害
したとして91年に逮捕され、内6件の裁判で死刑判決を受け
て、2002年10月9日に処刑されたアイリーン・ウォーレス。
その連続殺人事件の背景を追った物語。         
父親は自殺、母親はアルコール依存などの恵まれない環境に
育ち、13歳の時から売春をしていたというアイリーン。しか
し、ある日一人の若い女性との交流が始まったことから生活
が変り始める。                    
その若い女性セルビー・ウォールは、レズビアンの兆候が見
えたことから、厳格な家を追われ、両親の知人の家に身を寄
せていた。そして巡り会った2人は一緒の生活を始め、それ
を機に、アイリーンは堅気の暮らしをしようとするのだった
が…。                        
刹那的な快楽に溺れ、余りにも愚かな行動を取ってしまう2
人。もちろん彼女たちは特別な存在であるのだが、ただ誰も
が求めるようなほんの少しの欲望が、とんでもない結果を生
み出してしまう、そんな展開の物語だ。         
脚本・監督のパティ・ジェンキンスと、製作者でもあるシャ
ーリズ・セロンは、ウォーレスが獄中で幼馴染みに宛てて書
いた書簡を読み、映画作りの参考にしたということだ。その
書簡を読むことの許可は、ウォーレスが処刑の前夜に出した
ものだとされている。                 
つまり作品は、ウォーレスの側に寄って作られている。しか
し映画は、彼女に同情を寄せることはしていない。もちろん
不幸な生い立ちや、事件の発端が偶然の成せる技だったこと
は描いているが、それよりも彼女たちの愚かさが際立つよう
な構成になっている。                 
実はセロンには、自分の母親が、暴力を振るいセロンらを殺
そうとした父親を射殺したという過去があるそうだ。その事
件は正当防衛として母親に罪は問われなかったそうだが、セ
ロンには自分のせいで母親を殺人者にしたという思いがある
という。                       
はたまた、父親のいない環境に育ったセロンには、自分もウ
ォーレスと同じようになってしまったかも知れないという思
いもあったのだろう。                 
それだからこそ、この自らの女優生命を絶つかも知れないよ
うな究極の汚れ役への挑戦ができたのだろうし、それが彼女
にオスカーをもたらす結果になった。          
なお、共演したセルビー役のクリスチーナ・リッチの存在感
も見事だった。                    
                           
『キャットウーマン』“Catwoman”           
『バットマン』の敵役キャラクターからスピンオフして登場
した作品。                      
テレビシリーズではジュリー・ニューマーやアーサー・キッ
トが演じ、映画版のシリーズでは、『バットマン・リターン
ズ』でミシェル・ファイファーが演じたハリウッド女優の憧
れの的とも言われるキャラクターに、オスカー女優のハリー
・ベリーが挑んだ。                  
正直に言って、アメリカではあまり芳しい成績が上がらず、
ベリーが希望しているという続編も難しいのではないかと言
われている。でも映画の作りは悪くないし、僕には、もう1
本くらいは挑戦して貰いたいと思える作品だった。    
結局、『ハルク』でもそうだったが、その誕生に経緯のある
キャラクターの登場のさせ方には難しいものがある。作る側
にはその部分をしっかりと押さえなければならないという思
いがあるし、一方、観客は最初からキャラクターの活躍を期
待する。                       
それを上手く処理したのは『スパイダーマン』だが、それで
も発端が長いという声は聞かれたものだ。しかも『スパイダ
ーマン』では、その後のビルの間を跳ぶ爽快感が救ってくれ
るのだが、残念ながら本作にはそれの作りようがなかったと
いうところだろう。                  
しかし、多少暗めの物語は、ある意味現代を象徴しているも
のだし、その中でのハリー・べリーの存在感も見事に描かれ
ている。特に20代後半ぐらいからの女性が見れば、共感する
ところも多いと思うのだが…。             
お話は、化粧品会社の新商品のキャンペーンを担当した宣伝
部のデザイナーの女性が、ふとしたことからその新商品の秘
密を知り、そのために殺されてしまう。しかし彼女は猫の持
つ神秘の力で甦り、キャットウーマンとなって復讐に乗り出
すというものだ。                   
共演は、化粧品会社の代表にシャロン・ストーン。他に、デ
ザイナーのボーイフレンドとなり、その一方でキャットウー
マンを追跡する刑事役にベンジャミン・ブラットなど。  
監督は、フランスで『ヴィドック』を手掛けたピトフ。雰囲
気などの映像の描き方は抜群だと思えるが…。      
                           
『バイオハザードII/アポカリプス』          
             “Resident Evil: Apocalypse”
著名ゲームの映画化で2002年にヒットした作品の続編。前作
に主演したミラ・ジョヴォヴィッチが、同じ役を再演する。
原作ゲームの第1作は一度始めたことがあるが、もはや僕の
手におえるものではなかった。しかしこのゲームの面白さは
判るもので、この映画には、そのゲームを上手いゲーマーが
攻略して行くのを見ているような楽しさがある。     
物語は、前作でゾンビを封じ込めた扉が開かれ、ゾンビが街
に溢れ出すことから始まる。そして前作で脱出に成功した主
人公は、再びゾンビと戦わなくてはならなくなる。しかも今
回は、その街に取り残された少女を救出するという任務が加
わる。                        
タイムリミットは、街が核ミサイルで消滅させられるまでの
4時間。協力者は、特殊部隊のメムバー=ジル・バレンタイ
ンら数人。そして、今回は事件を引き起こした病原体T−ウ
イルスに隠された謎も明らかにされる。         
ジョヴォヴィッチのアクションも見事だったが、今回新登場
のジルを演じたシエンナ・ギロリーが、最初はCGキャラク
ターかと思うほどの見事なクールビューティで感心した。 
登場する強敵ネメシスやゾンビ犬ケルベロスの造形もそうだ
が、何しろゲームの味を損なわないことに最大限の努力が払
われ、その意味でも納得できる作品になっている。    
監督は、『ブラックホークダウン』などのアクション監督を
務めてきたアレクサンダー・ウィット。製作・脚本は、前作
の脚本・監督を手掛けたポール・W・S・アンダースンが担
当。『モータル・コンバット』や『イベント・ホライズン』
の監督でもある彼のSFマインドが見事に開花してきた感じ
だ。                         
なお本作は、前作を見ていなくても充分に理解できるように
作られている。                    
それと、やっぱりゾンビはゆっくりと動くのが良い。   
                           
『酔画仙』(韓国映画)                
19世紀後半の激動の朝鮮時代に生きた絵師の物語。    
清と日本、両国の拡大政策の狭間で揺れ動く朝鮮国。しかし
その中で、酒と女を生き甲斐として、賤民の出身でありなが
ら宮廷画家にまで上り詰めた絵師・張承業の生涯が、総製作
費60億ウォンをかけて再現される。           
クレジットには、Sponsored by Hana Bankとあり、多分企業
が宣伝活動の一環として出資した作品と思われる。それでも
なければ、これだけの製作費を掛けての歴史大作は、そう簡
単に作れるものではない。               
しかし映画は、僕の知らない朝鮮国のこの時期の歴史を描い
ており、いろいろ勉強になる作品だった。特に、必ずしも日
本が悪者に描かれていないのも、ちょっと面白いところで、
映画には日本語のせりふも登場していた。        
描かれた絵は水墨画のようで、映画の登場する絵がどこまで
本人の絵を再現したものかは判らないが、絵の制作には200
人以上の美術家や、現代韓国画壇の画家、書道家などが協力
したということだ。それらの作品が見られるのも素晴らしか
った。                        
ただこの作品がR−18指定というのは残念なところだ。それ
だけの理由はあるのだが…。              
主演は『パイラン』などのチェ・ミンシク。監督のイム・グ
ォンテクは、本作でカンヌの監督賞を受賞している。   
                           
『ブラインド・ホライズン』“Blind Horizon”      
ヴァル・キルマーの主演で、大統領暗殺に絡めたサスペンス
・ミステリー。                    
国境に近いニュー・メキシコの小さな町ブラックポイント。
その郊外の砂漠で、銃撃され崖から突き落されたらしい一人
の男(キルマー)が発見される。            
男は収容された病院で意識を取り戻すが、記憶喪失。しかし
その男の脳裏に、フラッシュバックのように記憶が甦り始め
る。それは選挙遊説中の大統領をその町で暗殺するという周
到に用意された計画を示すものだった。         
男は保安官(サム・シェパード)にそのことを告げるが、保
安官はこんな小さな町に大統領が遊説に来るはずが無いと一
笑に付す。やがて男の婚約者と名乗る女性(ネーヴ・キャン
ベル)が現れ、彼の面倒を見始める。そして…。     
上映時間99分の作品だが、上記の他にフェイ・ダナウェイや
『バーシティ・ブルース』のエイミー・スマートらが登場。
これだけの配役ががっぷり四つに組んでいるから、結構見応
えがある。                      
遊説中の大統領の暗殺計画というのも時期的にタイムリーな
感じだし、国境に近いニューメキシコの雰囲気も程よい感じ
に出ていた。物語が、記憶の甦りか予知なのか判らない感じ
の展開なのも気に入った。               
監督はミュージックヴィデオ出身で、これが第2作のマイク
ル・ハウスマン。                   
また、本作の製作者の中には、MGM/ディメンションの共
同で進められている“The Amityvill Horror”のリメイクを
手掛けるなど、最近活躍が目立ってきているランドール・エ
メットとジョージ・ファーラの名前があり、彼らのコンビが
結成されるきっかけとなった作品のようだ。       
                           
『ハッスル』“Los Debutantes”            
チリの首都サンチャゴを舞台に、南部の田舎町からやってき
た2人の兄弟が、都会の裏社会と繋がりながら、徐々に変っ
て行く姿を描いたチリ製作の青春映画。         
中南米の国では、メキシコとブラジルの映画は最近日本での
公開作品数も多く、評価も高くなっているが、チリの映画と
いうのは記憶にない。                 
プレス資料によると、『オープン・ユア・アイズ』などのア
レハンドロ・アメナバル監督がチリ出身で、他にも亡命中の
映画作家もいるようだが、実際にチリで製作されたチリ映画
を見るのは、僕自身は多分初めてだと思う。       
といっても、本作の内容は別にチリでなくても、東京でも成
立しそうな物語。チンピラの兄が17歳の弟を男にしようとし
てストリップバーに連れて行くが、そこで弟は1人の女性に
興味を魅かれる。一方、兄はそのバーで腕の立つところを見
せ、ボスに気に入られる。そして弟が興味を魅かれた女の正
体は…、という物語だ。                
ただし構成には少し捻りがあって、最初は弟の立場から物語
が展開され、次に兄の立場で同じ物語が語られ、最後に女の
立場から物語が進み、クライマックスへ雪崩れ込む。   
最近、このような時間軸をばらばらにした映画は流行りのよ
うだ。僕自身は知らずに見ていて最初はちょっととまどった
が、結構手際よく編集されているのでこの構成に気がつくの
に手間はなかった。それなりに語り口は巧く作られていると
いうことだろう。                   
それから、主人公の1人のグラシアという女性を演じたアン
トネーリャ・リオスが、ストリップからベッドシーンまで文
字通りの体当たりの艶技をする。日本公開はR−18指定にな
るようだが、それだけのシーンを見事に演じているのには感
心した。                       
他に、青森のチリ人妻として話題になったアニータ・アルバ
ラードが娼婦の役で出演。日本で何をやっていたかよく判る
艶技も見せている。                  
僕は、基本的にこの手のチンピラものは好きではないが、本
作はそれなりに納得できる展開で、悪くはない感じだった。
                           
『春夏秋冬そして春』(韓国映画)           
『悪い男』のキム・ギドク監督の2003年の作品。     
韓国の周王山国立公園の中の注山池に浮かぶ水上寺刹を舞台
に、春夏秋冬を人生の4つの節目に準えて描いたドラマ。 
春、幼い主人公は小動物を虐め、住職から未来に続く罪を諭
される。夏、少年の主人公は寺を訪れた女性に恋し、寺を出
て行く。秋、恋に破れた主人公は寺に戻ってくるが…。冬、
老境の主人公に赤ん坊が託される。そして春。      
ギドク監督の作品は、『悪い男』を見ているだけだが、その
人間を見つめる鋭さには心を打たれるものがあった。本作も
それは同じ、しかし前の作品では物語を暴力を中心に展開し
たのに対して、本作では大自然を背景に静けさの中に描いて
行く。                        
国立公園の大自然の中に撮影用のセットを立て、1年間を掛
けてじっくり撮られた作品。カメラは池とその周辺をほとん
ど離れることなく、季節ごとの自然の移り変わりを丹念に捉
えて行く。そしてその自然と愚かな人間のドラマとの対比が
実に見事だった。                   
なお、4つの季節の主人公はそれぞれ違う俳優が演じている
が、最も厳しかったと思われる冬の分では、ギドク監督自身
が扮して見事な演技を見せている。           
そして池に浮かぶ水上寺刹は、素晴らしくファンタスティッ
クな雰囲気を出しているが、実はこれは撮影用に作られたセ
ットで、撮影後は現状復帰のために取り壊され、現在の注山
池に行っても見ることはできないそうだ。        



2004年08月15日(日) 第69回

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
※このページは、キネマ旬報誌で連載中のワールドニュー※
※スを基に、いろいろな情報を追加して掲載しています。※
※キネ旬の記事も併せてお読みください。       ※
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
 今回もトラブル解消…、ということにはならなかったが、
ちょっと意外な展開となった話題で、前回トラブルを報告し
たトム・クルーズ主演の“Mission: Impossible 3”に替っ
て、クルーズ主演、スティーヴン・スピルバーグ監督による
H.G.ウェルズ原作“War of the World”の再映画化が、
突如来年夏の公開を目指して進められることになった。
 この“War of the World”の再映画化の計画に関しては、
2002年6月1日付の第16回でも紹介しているが、当初はクル
ーズの主演作としてパラマウントから発表されたもので、そ
の後に『マイノリティ・リポート』の撮影中に話し合ったと
いうスピルバーグの参加が報告されていた。しかし、総製作
費が1億ドルを越えると予想される計画には、なかなかゴー
サインが出なかったものだ。
 ところが、前回報告した“M:I3”のトラブルで、ジョー・
カーナハン監督の降板の後、前回もお伝えしたJ.J.エイ
ブラムスによる引き継ぎが交渉されたのだが、テレビ界に籍
を置くエイブラムスには、すでに今秋からの新番組の計画が
進行中で交渉は成立せず、結局この計画は来年に延期される
ことになってしまった。因に、一部米誌では来年計画されて
いる撮影は、エイブラムスが行うとしているところもある。
 一方、スピルバーグ監督には、今年5月1日付の第62回で
報告した、1972年のミュンヘン・オリンピックでの事件を題
材にした作品の撮影が6月に計画されていたが、当初はエリ
ック・ロスが手掛けていた脚本に問題が発生、その後トニー
・カシュナーによる書き直しが行われているが、その脚本は
まだ完成されていないようだ。
 そこで“M:I3”のキャンセルで、来年夏のスケジュールに
空白のできてしまったパラマウントが両者との交渉を行い、
48時間の協議の末に、“War of the World”の再映画化に向
けてのゴーサインを出したというものだ。
 なお、撮影は11月に開始の予定で、その前のプレプロダク
ションの期間は10週間しかないが、この計画ではすでにデイ
ヴィッド・コープによる脚本も完成されており、これだけの
メムバーが揃えば、製作は何とかなりそうだ。
 とは言うものの、VFXなどのポストプロはかなり大変に
なりそうだが、報道によるとコープの脚本は現代化されたも
のが採用され、期待された19世紀末が舞台のものではないと
いうことなので、それならVFXの手間も多少は軽減されそ
うだ。因に、そのVFXは、ILMがデニス・ミューレンの
指揮下で担当することも発表されている。
 いずれにしても待望の企画の実現だが、製作期間の短さは
クルーズ、スピルバーグの実力でカバーして、素晴らしい作
品を作り上げてもらいたいものだ。
        *         *
 お次も、再映画化の情報で、『ヴァン・ヘルシング』では
オリジナルの老教授を、一躍スーパーヒーローに仕立て上げ
たスティーヴン・ソマーズ監督が、次なるスーパーヒーロー
の計画として、往年の連続活劇でも有名な“Flash Gordon”
の権利を獲得し、その映画化を目指すことが発表された。
 この作品は、元々は1934年に発表されたコミックブックに
よるものだが、1936年、38年、40年にユニヴァーサルが連続
活劇で映画化して大人気となった。その後は新聞の連載漫画
やアニメーション、テレビシリーズにもなっている。そして
1980年には、ディノ・デ・ラウレンティス製作による大作映
画が公開され、このときはロックバンドのクィーンが手掛け
た主題歌も話題を呼んだものだ。
 その再映画化が計画されているものだが、実は今回の計画
では、全米第3位のコミックス出版社トップ・カウによるコ
ミックスの再開も視野に入っていて、ソマーズは映画化と同
時に、新作コミックスのストーリーにも関わる意向と伝えら
れている。これにより、ゴードンとその恋人のデール・アー
デン、そして科学者ハンス・ザーコフ博士らの活躍が、映画
とコミックスの両方で再開されることになりそうだ。
 ただし、現状ではソマーズは映画の脚本にも未着手のよう
だが、このまま進めば彼の次回監督作となる可能性は高そう
だ。因に、製作費2億ドルをかけた『ヴァン・ヘルシング』
の配給収入は全世界で2億7000万ドルに達しており、期待は
もっと上だったようだが、取り敢えず製作費の回収はできた
ということで、次回作への期待も高いようだ。
 なお、ソマーズの関連では、先にサラー・ダン原作による
ロマンティック・アドヴェンチャー小説“The Big Love”の
映画権を獲得したことが発表されているが、その計画では、
彼は製作のみを担当する予定ということだ。
        *         *
 『キング・アーサー』ではまたまた新たな魅力を発揮した
キーラ・ナイトレイが、『マイ・ボディガード』のトニー・
スコット監督の新作に主演することが発表された。
 作品の題名は“Domino”というもので、1960年版の『アラ
モ』などに出演した俳優ローレンス・ハーヴェイの娘ドミノ
を主人公にした実話に基づく物語ということだが…。ドミノ
は、一時はフォードのモデルなども務めていたが、ある日、
華やかなベヴァリー・ヒルズでの生活を捨てて、何とバウン
ティ・ハンター(賞金稼ぎ)になったというものだ。
 そしてこの物語を、再上映が話題の『ドニー・ダーコ』の
リチャード・ケリーが脚本にし、ニューラインの製作で映画
化するというもの。撮影は、今秋10月4日にロサンゼルスと
ラスヴェガスで開始されることになっている。
 アメリカでの民間による賞金稼ぎの実態がどんなものか、
日本人には今一つピンと来ないところだが、映画化の題材と
もなれば、それなりにドラマティックなものが予想される。
しかも、元モデルからの転身ということでは、華麗と壮絶の
両面が見られる作品になりそうだ。
 なお今回の作品は、スコットとは1993年の『トゥルー・ロ
マンス』と、2002年の『スパイ・ゲーム』で組んだことのあ
るサミュエル・ハディダが製作を担当するもので、いずれも
評価の高い作品を生み出したコンビの復活には、期待の高ま
るところだ。
        *         *
 ちょうど1年前の2003年8月15日付の第45回でも紹介した
ワーナーが進めている往年の人気テレビ番組“Get Smart”
(それ行けスマート)の劇場版計画で、主演俳優に現行のテ
レビの人気番組コメディ・セントラルなどで知られるスティ
ーヴ・カレルを起用することが発表された。
 1年前の記事では、『サタデー・ナイト・ライヴ』出身の
コメディアン=ウィル・フェレルの起用の線で計画が進めら
れていたものだが、その時にも紹介したドリームワークス作
品の“Anchorman: The Legend of Ron Burgundy”が、今年
の7月第1週に全米公開されて『スパイダーマン2』に次ぐ
第2位を記録するなど、その後のフェレルの人気は鰻登り、
このため超多忙となったフェレルの起用が断念されて、同作
品で助演していたカレルに計画が切り替えられたようだ。
 なおカレルは、ジム・キャリーが主演した『ブルース・オ
ールマイティ』にも助演していたが、今回の劇場版計画では
『ブルース…』を手掛けたスティーヴ・コーレンが脚本を担
当しており、早速カレルのキャラクターを取り入れた脚本の
手直しが行われることになっている。
 またカレルは、ウッディ・アレン監督の最新作“Melinda
and Melinda”にも出演している他、NBC放送の人気コメ
ディシリーズ“The Office”にはレギュラー出演しており、
さらにニューラインで初主演作の“Furry Vengeance”の公
開が控えているということだ。
        *         *
 日本でもベストセラーになった『かもめのジョナサン』で
有名なリチャード・バック原作で、こちらも全米で1500万部
のベストセラーを記録した“Illusions: The Adventures of
a Reluctant Messiah”(イリュージョン)の映画化権を、
『タイタニック』などのVFX製作会社のディジタル・ドメ
インが獲得したことが発表された。
 同社は、日本では今年公開された『ウォルター少年と夏の
休日』で劇場映画製作に進出したが、本作はそれに続く作品
になりそうだ。監督には“Love Me If You Dare”という作
品がパラマウント・クラシックスから公開されたばかりのフ
ランス監督ヤン・サミュエルの起用も発表されている。
 物語は、アマチュアパイロットの主人公とメシアを名乗る
男との出会いを描いたファンタスティックなもので、同社の
VFX技術を発揮した作品が期待される。因にバック原作の
『かもめのジョナサン』も1973年に映画化されているが、こ
のときはカモメの視点で撮影された浮遊感あふれる映像に、
ジェームズ・フランシスカスらの台詞が乗せられるという一
風変った作品に仕上げられていた。
 なお今回の製作は、バーネット・ベインという製作者との
共同で行われるが、ベインは1998年にドメイン社が視覚効果
賞のオスカーを受賞した『奇跡の輝き』の製作者でもある。
またドメイン社とベインではこの他にも、ダン・シモンズ原
作のSFシリーズで、“Ilium”と“Olympos”という作品の
映画化も企画しているそうだ。
 因にドメイン社のVFXの近作は、フォックス製作『アイ
ロボット』になるようだ。
        *         *
 またまたヴィデオゲームからの映画化で、“BloodRayne”
という作品が、ドイツのウーワ・ボールという監督の下で進
められることになり、この作品に、『サンダーバード』のベ
ン・キングズレーと、『T3』のクリスティーナ・ロケン、
そして『バイオハザード』のミシェル・ロドリゲスの出演が
発表されている。
 ゲームのオリジナルは、1930年代のナチス統制下のドイツ
を舞台にしたもので、人間と吸血鬼のハーフという境遇に生
まれたヒロインが、アンデッドの軍団を組織して人類征服を
目論む父親の野望を阻止するため活躍するというお話。  
 しかし映画化では、全体の物語は同じだが、設定が変更さ
れ、18世紀のトランシルヴァニアを舞台に、近代兵器や飛行
機、自動車もない状況で、ヒロインの活躍を描くということ
だ。そしてこのヒロインをロケン、父親をキングズレー、さ
らにヒロインの親友で人間の女性をロドリゲスが演じること
になっている。脚本は、『アメリカン・サイコ』などのグネ
ヴィア・ターナーが担当。
 人間と吸血鬼のハーフというのは『ブレイド』の設定にあ
るし、吸血鬼ヒロインも『アンダーワールド』の設定だが、
監督は今回の映画化では舞台背景を近代以前の世界にして、
よりシンプルに物語を作り上げたいようだ。そのためには、
18世紀のトランシルヴァニアは最高の舞台だとしている。 
 なお監督は、本作の製作総指揮も兼ねているが、実は個人
で4700万ドルの映画基金を設立して、すでにアタリのゲーム
に基づく“Alone in the Dark”と、セガのゲームに基づく
“House of the Dead”の映画化にも資金を提供していると
いうことだ。またこの基金はさらに拡充され、監督自身の次
回作で、やはりゲームに基づく“Hunter: The Reckoning”
の映画化も進めることになっている。
 また、この作品はドイツ映画ということになるようだが、
クリスティーナ・ロケンは昨年12月1日付の第52回で紹介し
たドイツ映画“The Ring Cycle”(ニーベルンゲンの指輪)
にもブリュンヒルト役で出演している。そしてこの作品は、
すでに完成して“Kingdom in Twilight”の題名でアメリカ
公開がされるようだ。
        *         *
 ヴィデオゲームの次ぎはおもちゃの話題で、1980年代に一
世を風靡した変身おもちゃ“Transformer”を実写映画化す
る計画が発表された。
 このおもちゃは、自動車やトラック、飛行機や戦車などの
原形が、本体の一部を捻ることによってロボットに変身する
というもので、元々はアメリカのハスボロ社が開発したもの
のようだが、日本のタカラが製造を開始してから、瞬く間に
世界中を席巻し、80年代にはコミックブックのシリーズやテ
レビ番組、長編アニメーション映画なども作られていた。
 なお、1986年に製作されたアニメーション映画では、登場
キャラクターの声を、オースン・ウェルズ、ロバート・スタ
ック、レナード・ニモイらが当てていたということだ。
 その玩具の映画を、今度は実写版で製作するというものだ
が、実は昨年行われたこの映画化権の契約交渉の席には、ド
リームワークスを始め、ニューライン、フォックス傘下のニ
ュー・リジェンシー、パラマウントなどが集まり、このうち
早期に撤退したパラマウントをドリームワークスが取り込ん
で、最終的な映画化権を獲得したというものだ。
 そして今回は、その権利に基づく映画製作の発表が行われ
たものだが、この製作には、スティーヴン・スピルバーグが
製作総指揮でドリームワークスを代表するほか、コミックス
の映画化“Constantine”を手掛けたロレンツォ・デ・ボナ
ヴェンチュラ、『リーグ・オブ・レジェンド』のドン・マー
フィ、『Xメン』のトム・デサントという錚々たる顔触れが
製作者として名を連ねている。
 つまりこれだけの顔触れが、この玩具に関して何らかの思
い入れがあるということのようだが、特にスピルバーグは、
一旦は引いたパラマウントを協力者に招き入れて権利獲得を
強く働きかけたということで、相当のものがありそうだ。
 具体的なストーリーは、キャラクターが善と悪に分かれて
戦うという基本設定以外は明らかでないが、公開は2006年夏
を目指しているということで、後は、船頭多くして…になら
ないことを祈るだけのようだ。
        *         *
 ついでにもう一つ玩具?の話題で、1982年にリチャード・
ドナー監督、リチャード・プライヤーの主演で映画化された
“The Toy”(おもちゃがくれた愛)のリメイクが計画され
ている。
 今回の計画は、実はシド・ガニスという製作者が手に入れ
た“Jack and Jay”という脚本に端を発している。この脚本
は、テレビ脚本家チームのボブ・バーンズとマイクル・ウェ
アが執筆し、ガニスは数年前にこれを手に入れたものだが、
最近になってこの脚本をコロムビアの首脳に見せたところ、
「これは“The Toy”だ。ぜひ“The Toy”として映画化して
ほしい」と言われたということだ。
 そこでバーンズとウェアには、改めて脚本の執筆が依頼さ
れているということだが、実は82年のドナー作品は、さらに
1976年製作のフランス映画“Le Jouet”という作品のハリウ
ッドリメイクだったもので、結局、今回の計画では、フラン
ス版の“Le Jouet”と、アメリカ版の“The Toy”、それに
新版の“Jack and Jay”の3者を加味した脚本が作られるこ
とになるようだ。
 なお、82年作品のお話は、ジャーナリスト志望だが失業中
の主人公が、玩具会社の富豪の息子の遊び相手として雇われ
るが、その少年は金には恵まれているが人の愛には恵まれて
いなかった。そこで主人公は少年に人の愛を教えようとする
が…というもの。これをプライヤーの熱演で描いているが、
正直なところは、ちょっとその熱演が空回りという感じの作
品でもあった。
 今回は、その辺も踏まえてのリメイクということになると
思うが、良い作品を期待したいものだ。
        *         *
 後半は短いニュースをまとめておこう。
 まずは、来年5月19日に全米公開が予定されている“Star
Wars Episode III”の副題が、“Revenge of the Sith”に
決まったようだ。これは7月末にサンディエゴで開催された
Comic-Conの会場で明らかにされたもので、同大会に出席し
たルーカスフィルムの関係者が羽織っていた上着を脱ぐと、
その下から上記のタイトルの印刷されたTシャツが現れたと
いうことだ。
 因に“Revenge”という言葉は、確か1983年に公開された
第3作が最初は“Revenge of the Jedi”と呼ばれていたも
のだが、ジェダイの精神に「復讐」という言葉は相応しくな
いという判断から、“Return of the Jedi”に変更された経
緯がある。しかし邦題では『ジェダイの復讐』のままだった
ものだ。今回は対象がシスなので、復讐も良いだろうという
ことのようだが、さて邦題はどうするのだろうか。
 お次ぎは、来年11月に公開予定の“Harry Potter and the
Goblet of Fire”の配役で、謎に包まれていたポッターの
最大の敵ヴォルデモート卿を、レイフ・ファインズが演じて
いることが発表された。この役には一時はローワン・アトキ
ンスンの名前がスクープされて、Variety紙の製作リストで
もかなり後まで彼の名前が掲載されていたものだが、結局ま
ともな線に落ち着いたようだ。
 この他には、いろいろ嗅ぎ回ってはポッターを困らせるタ
ブロイド紙のレポーター、リタ・スキーター役に『めぐりあ
う時間たち』に出演のミランダ・リチャードスン、またポッ
ターの恋人役となるチョー・チャン役には新人のケイティ・
リューが発表されている。一方、今回の配役では、魔法界の
トップなどの役柄も登場しており、『アズカバンの囚人』の
映画化ではその辺の話が落ちていた分が、いよいよ本格的な
戦いに向けて登場してくることになるようだ。
        *         *
 後は続報で、DGAとのトラブルからロベルト・ロドリゲ
ス監督の降板が余儀なくされた“A Princess of Mars”の後
任監督に、今年9月17日に全米公開が予定されている“Sky
Captain and the World of Tomorrow”を手掛けたケリー・
コンランの名前が浮上している。ジュード・ロウ、アンジェ
リーナ・ジョリー、グウィネス・パルトロウが共演する第2
次世界大戦前を舞台にしたこの作品は、デ・ラウレンティス
一族が製作するファンタシー大作で、コンランは新人である
にも関わらず脚本監督の二役で映画化を実現したものだ。
 このコンランの前作の詳しい内容は判っていないが、冒険
色の強いファンタシーということで、さらに大型映画の製作
を経験をしたということは、E.R.バローズ原作の『火星
シリーズ』の映画化には持ってこいという感じだ。まだ正式
決定ということではないようだが、早期に決定して早く映画
化を実現してもらいたい。
 もう一つ後任監督の情報で、ブライアン・シンガーが降板
した“X-Men 3”の監督に、“Buffy the Vampire Slayer”
のクリエーターとしても知られるジョス・ウェドンの名前が
噂されている。ただしこの情報、ウェドン自身は否定してい
るということだが、実はウェドンはマーヴェルコミックス発
行の“Astonishing X-Men”のストーリーの執筆も手掛けて
おり、映画の脚本も書けることから最適と考えられているよ
うだ。計画では2006年5月5日の公開が予定されている新作
だが、準備期間を考えると監督決定にはちょうど良い時期に
来ているもので、フォックスの早めの決断が期待される。



2004年08月14日(土) 透光の樹、ツイステッド、犬猫、ニュースの天才、クライモリ、トルク、マイ・ボディガード、80デイズ、みんな誰かの愛しい人

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※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介しています。     ※
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『透光の樹』                     
1999年に第35回谷崎潤一郎賞を受賞した高樹のぶ子原作の映
画化。青年期に出会い、25年ぶりに再会した男女が、一気に
関係を深めて行く姿を描く。              
男は、番組製作会社の社長。彼は25年前に一人の刀鍛冶を追
った番組を制作し、当時高校生だったその娘と出会う。そし
て25年後、ふとそのことを思い出した男は、刀鍛冶の消息を
尋ねるが、そこには昔の面影を残す彼女の姿があった。  
しかし病気の父親を抱える彼女の生活は困窮し、その窮状を
訴える女に男は金を渡し、その代償として関係を結んでしま
う。そのため、男には金で買ったという後ろめたさが生じる
が、女は男を求め続ける。やがて男は…、そして女は…。 
この男を永島敏行、女を秋吉久美子が演じる。中年というよ
り、最早初老に域に入ろうとする男女の純愛。これを根岸吉
太郎監督が克明に綴って行く。             
秋吉は1974年日活作品『赤ちょうちん』が本格主演第1作。
その作品を撮った藤田敏八監督に師事していたのが、根岸監
督。また、その製作は本作と同じ岡田裕だった。つまりこの
作品は当時の日活ロマンポルノの流れを純粋に受け継ぐ作品
とも言える。                     
従ってこの作品には、男女の絡みのシーンがふんだんに出て
くる。それを秋吉と永島が演じるのだが、秋吉は、あるとき
は年齢を出し、あるときは若い頃を髣髴とさせる表情で大胆
に、そして見事に演じている。             
そしてその演出も、シーンを重ねるごとに徐々にエスカレー
トさせて行く描き方が素晴らしく、しかもその最後は、まさ
に往年のロマンポルノを思い出させるような懐かしい演出で
締め括る。                      
物語の最後は、さらに15年後の現代で幕を閉じるが、その最
後で彼女の娘の叫ぶ台詞が印象的だった。見事な作品。  
                           
『ツイステッド』“Twisted”              
アシュレイ・ジャド、サミュエル・L・ジャクスン、アンデ
ィ・ガルシア共演、フィリップ・カウフマン監督による殺人
ミステリー。                     
ジャドが扮するのは、殺人課刑事に昇格したばかりの婦人警
官。彼女には、幼い頃に警官だった父親が母親を殺して自殺
したというトラウマがある。その後、彼女は父の相棒だった
ジャクスン扮する警察本部長に育てられたが、今回の昇格に
は、養父のお陰とするやっかみも聞こえる。       
そんな彼女の周囲で殺人事件が起こり始める。被害者は彼女
が関係を結んだ男たち。その事件を彼女はガルシア扮するベ
テラン刑事と追うことになるが、彼女には事件が起きた時刻
のアリバイも記憶もなく、第1容疑者が捜査を行うという奇
妙な図式となってしまう。そして決定的証拠が出て、ついに
彼女は身柄を拘束されることになるが…。        
2002年にサンドラ・ブロック主演で作られた『完全犯罪クラ
ブ』や、先日はアンジェリーナ・ジョリー主演の『テイキン
グ・ライブス』など、ハリウッドはこの手の女性刑事ものが
相当にお好きらしい。そんな中で本作は、さすがにカウフマ
ン監督が付いただけのことはあって、作りもしっかりしてい
た。また、ジャクスン、ガルシアの両ベテランが脇を上手く
締めているのも、心強い感じがした。          
まあ、上映時間1時間37分程度の作品ではあるし、それ相応
の作りの作品ではあるが、特にジャドのファンには楽しめる
ところだろう。                    
                           
『犬猫』                       
2001年のPFFで企画賞を受賞した8mm作品の35mmリメイク
バージョン。                     
幼稚園の頃からの幼なじみだが、性格は正反対。しかし好き
になる相手はいつも同じで、従って仲の良いはずのない2人
の女性が、共通の友人の海外留学中、その住居の留守番で一
緒に暮らすことになった様子を描いた作品。       
この2人を榎本加奈子と、『犬と歩けば』にも出演していた
藤田陽子が演じている。監督、脚本、編集は、企画賞を受賞
した新人の井口奈己。                 
新人監督の作品にしては、等身大の世界を描いているせいか
違和感も無く、見ていて緊張するところはなかった。いや、
正直言って、榎本なんてかなり癖のありそうな女優を使って
大丈夫かとも思ったが、良くやっている感じだ。もっとも、
どちらかというと藤田を中心に捉えて、榎本を脇に回してい
るのは作戦だったのだろうか。             
というか、その藤田が実に良くやっている。『犬と歩けば』
では確か引きこもりの妹の役だったと思うが、今回は外向的
で正反対の役柄だが良い感じだった。今回の新人監督が演技
指導をどこまでやれたかは判らないが、前作の監督の教えを
しっかりと活かしているようだ。            
実は、僕の見た試写会に藤田が来ていて、僕の1つ置いた横
の席に座っていた様なのだが、本人も落ち着いた感じで見て
いて、それも好印象だった。              
                           
『ニュースの天才』“Shattered Glass”         
1998年。当時の大統領専用機に唯一設置されていた政治雑誌
“The New Republic”で、最年少の記者として数々のスクー
プをものにし、脚光を浴びていたスティーヴン・グラスが引
き起こした捏造事件を描く、実話に基づく作品。     
僕自身、雑誌にニュース記事を寄稿している立場の人間とし
て、この作品は骨身に染みるところと言える。      
僕自身、思い違いや読み間違いによる誤報は儘してしまうと
ころだが、捏造という段になると、さて自分が思い込みで書
いている部分がそうでないと言い切れるものではない。僕が
書いているのは、記事を判りやすくするための補足だし、そ
れまでの経緯などから間違いないと確信を持ってはいるが、
それが想像の産物であることに代りはない。       
多分グラス記者がやってしまったことも、初めはそんなもの
だったのだろうと思う。しかしライヴァル誌があって、社会
に影響のある記事ではそれは許されないことだったのだ。 
そんな訳で、僕はこの主人公に同情的に映画を見ていたのだ
が、この映画の製作者たちはかなり手厳しい。主人公に言い
訳の機会を与えることもなく、逆に主人公が自分の過ちを糊
塗しようとすることによって、どんどん窮地に追い込まれて
行く姿が描かれる。                  
しかし、短期間に27もの捏造記事が、いともた易く雑誌に掲
載されていたとはとても思えない。映画の製作に当っては、
当時の編集長らにも取材したということだが、彼らが全く保
身を考えずに取材に応じたとは思えないところだ。    
特に、先代編集長で昨年イラクで殉職したマイクル・ケリー
は、自分の現在の地位への影響も顧みず協力したということ
だが、美談はそんなところにあるものではないし、事件の核
心もこれでよいものかどうか。             
映画を見ながら、裏の裏を考えたくなってしまった。   
なお映画では、時代の寵児だったグラス記者が、一瞬の内に
そうではなくなる姿が衝撃的に描かれるなど、見事な演出が
見られた。                      
                           
『クライモリ』“Wrong Turn”             
州の面積の75%が森林というウェスト・ヴァージニアを舞台
にしたホラーサスペンス。               
2003年のカナダ製作だが、スティーヴン・キングが同年の年
間ホラームーヴィBest1に選んだ作品ということだ。   
樹海と呼んでも良さそうな深く暗い森。その中を縫うように
走る細い糸のような道路。地図にも微かにしか描かれないそ
の道路に待ち受けているものは…。           
主人公の一人は医者の卵、面接に向かう途中のフリーウェイ
で事故渋滞に巻き込まれ、その渋滞を避けるつもりでその道
に迷い込む。もう一人は最近振られたばかりの若い女性、彼
女を元気づけようとした男女4人の仲間と共にキャンプ場を
探してその道を辿る。                 
しかし、誰かが故意に置いた有刺鉄線で車がパンクし、途方
に暮れているところに、医者の卵の車が衝突する。こうして
移動手段を失った若者たちは、徒歩で救援を求めに行くこと
になるが…。最初は危機感もなく歩く彼らの背後に謎の影が
迫ってくる。                     
道に迷って恐怖体験に巻き込まれるというのはティーズ・ホ
ラーにはありがちが展開だが、その展開が久しぶりにシンプ
ルというか、妙な捻りを加えずにストレートに迫ってくるか
ら、何も考えずに結構楽しめた。            
しかも、謎の影というのが結局はフリークスなのだが、これ
を映画の製作も務めるスタン・ウィンストンが手掛けている
からかなりリアル。また、森林や無気味な小屋を舞台にした
アクションの演出もよくまとまっていた。        
上映時間は1時間24分と短いが、中には恐怖が一杯に詰まっ
ていた感じだ。                    
それにしてもウェスト・ヴァージニアの人は、同じ州の人間
がこんな描かれ方をしても、何も言わないのだろうか。  
                           
『トルク』“Torque”                 
理論上は、最高400km/hも可能というスーパーバイクも登場
するバイカー映画。                  
製作は、『ワイルド・スピード』のニール・H・モリッツ。
これだけで、映画の内容は大体予想が付く。バイカーグルー
プ間の抗争を背景に、主人公が悪の組織を懲らしめるという
お話だ。                       
一人のバイカーが町に戻ってくる。彼は半年前、恋人にも何
も言わずに町を出て行った。それは麻薬取り引きの嫌疑を掛
けられてのことだったが、彼は濡れ衣を晴らすため、そして
真犯人を告発するために戻ってきたのだ。        
しかし、彼が出て行った後の町では、グループ間の抗争が激
化し、まさに一触即発の状態。そして彼に濡れ衣を着せた男
は、この機を利用して町を牛耳ろうとしていた。だが、その
全ての鍵を主人公が握っていたのだ。          
400km/hは、さすがに実写ではなくVFXで描かれるが、そ
れなりに迫力はあるし、ある意味ライドのような感覚で楽し
みたい作品というところだろう。そのためには、座席は出来
るだけ前にとった方が良いが、あまり前だと船酔いになる恐
れもあるからご注意。                 
監督はミュージック・ヴィデオ出身で、本作が劇映画デビュ
ー作のジョセフ・カーン。物まね的なシーンも見られたが、
全体的には良くやっている。主演は『ザ・リング』に出てい
たマーティン・ヘンダースン、共演はアイス・キューブ。 
上映時間は1時間24分、まあさほど肩も凝らせずに見切れて
しまうような作品だ。                 
                           
『マイ・ボディガード』“Man on Fire”         
A.J.クィネル原作『燃える男』の映画化。      
傭兵として数多くの人間を殺し、魂の救いを得る術も失った
男。そんな主人公が、誘拐のはびこるメキシコシティで、幼
い少女のボディガードとして雇われる。         
最初は頑なに少女との交流を避ける主人公だったが、やがて
少女の純粋な気持ちに触れ、徐々に人間らしさを取り戻して
行くことになる。しかし誘拐犯は彼らを襲い、犯人の銃撃で
重傷を負った彼には、少女の誘拐を阻止することができなか
った。                        
しかもこの誘拐事件には現職の警官も関わっていた。その警
官殺しの罪での警察の追求と、警官たちの恨みも買う主人公
に、一人の女性ジャーナリストが援助を申し出る。彼女は、
インターポール帰りの連邦捜査官と協力して警察の腐敗を暴
こうとしていたのだ。                 
こうして協力者を得た主人公は、傭兵として培った能力を最
大限に発揮して、誘拐犯たちを追いつめるべく、壮絶な戦い
を展開して行く。                   
この主人公をデンゼル・ワシントン、少女をダコタ・ファニ
ングが演じる。                    
オスカー俳優のワシントンの名演は当然だが、どの作品で見
ても驚異なのが、9歳のファニングの演技力だろう。誘拐被
害者の役は『コール』ですでに演じているが、今回は誘拐さ
れるまでの自然な少女の振舞いが、本当に見事としか言いよ
うがない。                      
監督はトニー・スコット。実は前作の『スパイ・ゲーム』で
は、ロバート・レッドフォードの主演で、ちょっと?と思っ
たものだが、今回はワシントン、ファニングの主演で良い感
じを取り戻している。特に、多彩に駆使される撮影手法は見
事だった。                      
それにしても今年60歳のスコットが、9歳のファニングをど
のように演出したのか、その風景も見てみたいものだ。  
                           
『80デイズ』“Around the World in 80 Days”     
ジュール・ヴェルヌ原作の1956年のオスカー受賞作を、ジャ
ッキー・チェン主演でリメイクした作品。        
実は、先に公開されたアメリカでの評価はあまり芳しいもの
ではなく、多少心配だったのだが、どうしてジャッキー映画
として見れば、アクションも適度にあるし、ゲストスターは
そこそこ豪華だし、結構楽しめる作品だった。      
始まりは19世紀末ヴィクトリア朝のロンドン。ロンドン銀行
で盗難事件が発生する。その事件には裏があるのだが、犯人
でチェン扮する主人公は、警察に追われて発明家フォッグの
屋敷に逃げ込み、身を隠すため新発明の実験台を志願する。
こうしてフォッグの召使となった主人公は、主人を80日間
世界一周の賭けに乗せ、その旅を利用して母国中国へ最短日
数の帰還を試みる。こうして始まった冒険の旅だったが、賭
け相手は、カレン・モク扮する中国の女将軍を使ってその妨
害を画策する。                    
物語の発端などは、原作及び前の映画化ともかなり違うが、
単純に紳士同士の賭けという原作の動機も、現代ではあまり
通じそうもないから、これもまた良しとしたいところだ。 
そして、世界10カ国でロケーションが行われたという冒険の
旅が始まる訳だが、その中では原作及び前の映画化にも登場
した日本のシーンがカットされたのはちょっと残念。   
しかし、替りに登場する主人公の故郷という設定の中国山間
の村でのアクションは、チェンの昔の映画を見るような雰囲
気もあり、また助っ人も登場して良い感じだった。    
この他、アーノルド・シュワルツェネッガーから、キャシー
・ベイツまで登場する多彩なゲストもそれぞれ役柄に良くあ
っていて、ただの顔見せでないところも良かった。    
アメリカではともかく、日本のジャッキー・ファンには、充
分に楽しんでもらえる作品に思えるのだが…。      
                           
『みんな誰かの愛しい人』“Comme une Image”      
フランスの女流監督アニエス・ジャウイの脚本、監督、出演
による新作で、今年のカンヌ映画祭に出品され、評論家によ
る星取表では第1位に輝いたという作品。        
主人公は、ちょっと太めの若い女性。彼女の父親は高名な作
家だが、母親とは離婚し、彼女とあまり年の変らない後妻と
の間に5歳の妹も誕生している。そして彼女には、父親が自
分に関心を持っていないという思いもあった。      
そんな彼女は、声楽の練習をしているが成果は芳しくない。
しかも彼女には、自分に近づいてくる人々が、自分の父親に
紹介してもらいたいからであることも不満だった。そして声
楽の先生も、彼女の素性を聞くと手の平を返したように態度
が変ってしまう。                   
そんな不満だらけの環境にいる主人公が、それでもその中か
ら幸せを見つけ出して行く。実はその幸せは、それまでは彼
女の不満に満ちた目が気づかせてくれなかったもの。こうし
て彼女の自立への第1歩が始まって行く。        
環境は違っても、こんな不満は誰もが抱えているものだし、
そんなところがこの物語に共感を呼ばせるのだろう。全体は
アンサンブル劇のような展開だが、何か大きなドラマの起き
るような作品ではない。                
しかし、淡々とした中にも暖かいものが流れている、そんな
感じの作品だった。                  



2004年08月01日(日) 第68回

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※このページは、キネマ旬報誌で連載中のワールドニュー※
※スを基に、いろいろな情報を追加して掲載しています。※
※キネ旬の記事も併せてお読みください。       ※
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 前回はトラブルの話題をいくつも紹介したので、今回はト
ラブル解消の情報からお伝えしよう。
 1992年のヒット作“Basic Instinct”(氷の微笑)の続編
の製作に関して、女優のシャロン・ストーンと製作者のアン
ディ・ヴァイナ及びマリオ・カサールとの間で争われていた
裁判が結審し、晴れて“Basic Instinct 2”が実現すること
になりそうだ。
 オリジナルは1992年3月に全米公開され、今回Variety紙
の報告によると、米国内だけで1億1700万ドル、全世界では
4億ドルの興行収入を上げたとされている。そして同年4月
には早くも続編の情報も流されていた。
 ところがその後にオリジナルを製作したカロルコが倒産、
その所有資産の処分を審議したロサンゼルス破産裁判所は、
1997年2月に、この続編とリメイクの映画化権をMGMが獲
得したことを発表した。しかしこのとき、オリジナルに主演
したストーンはパラマウントに映画化権の獲得を要請してお
り、同社が獲得に失敗したことから、ストーンの去就も注目
されることになった。
 一方、MGMでは、オリジナルのスタッフキャストを再結
集させるべく交渉を開始、そして1998年1月には、ストーン
もそれに参加することが発表された。さらにこの頃からは、
カロルコ倒産後は個別に行動していたオリジナルの製作者の
ヴァイナとカサールが再び手を結び、C−2プロダクション
を設立して『ターミネーター3』の製作が開始された。
 そして2000年6月、MGMはC−2を製作プロダクション
に招き、ストーンを主演に据えた続編の製作を正式に発表し
たのだが…。その後にオリジナルに続いて共演するはずだっ
たマイクル・ダグラスが降板を表明、これに対してC−2は
共演者にベンジャミン・ブラットを指名、しかしこれにスト
ーンが反対を表明して、このときC−2側が、「まだストー
ンとは正式契約を結んでいない」と発言したことが裁判に発
展してしまった。
 なお、ストーン側の主張は、彼女とC−2が会った際に、
口頭で出演料1400万ドル、または興行収入の15%という約束
がされており、ハリウッドでは、このoral agreementが有効
だとするものだ。確かにこの口約束というのは、以前に別の
映画製作でも問題になったことがあるが、契約書社会とも言
われるアメリカの中で、ハリウッドだけは別世界のようだ。
 その裁判が2001年に提訴され、それがようやく決着したも
ので、決着の具体的な内容は明らかにされていないものの、
これにより映画製作への障害はなくなったとして、MGMで
は早速その準備を始めたとされている。
 因に、今回の裁判はストーンとC−2の間で争われたもの
で、MGMはその当事者ではなかった訳だが、MGMではそ
の間、“Risk Addiction”という題名も用意して、ストーン
の出演がなくなった場合には、独立の作品として映画化する
ことも検討していたということだ。しかし今回の結果で、ま
だ正式な契約書へのサインはないものの、彼女の復帰の可能
性はかなり高くなったとし、晴れて“Basic Instinct 2”と
して製作ができそうだとしている。
 監督(一時は、ジョン・マクティアナンやデイヴィッド・
クローネンバーグの名前もあった)や、他の共演者の名前も
未発表だが、脚本は、ノンクレジットで『ミニミニ大作戦』
のリメイクなどにも関わり、2001年製作の監督デビュー作品
“The Believer”が好評を得ているヘンリー・ビーンと、レ
オーラ・バリッシュによるものが予定されているようだ。
        *         *
 お次もトラブル解消の続報で、前回報告したMcG降板に
よる“Superman”の後任監督に、前回も噂を紹介したブライ
アン(Xメン)シンガーの契約が発表された。
 そしてこの発表の席で、シンガーは、「何年も前からスー
パーマンには興味を持っていた。実際リチャード・ドナーの
作品には、『Xメン』の世界を映像化する上でいろいろな示
唆を与えられたものだ。自分ではスーパーマンの復活はもっ
と早くても良かったと思うが、今こそ彼を再び舞い上がらせ
るときになった」と抱負を語っている。因に、彼の意志はか
なり早くから固まっていて、McGの降板が発表されるや、
直ちに契約となったようだ。
 ところでこの情報については、その1週間ぐらい前から噂
が流されていて、結局それが現実のものになったものだが、
前回も紹介したように、その実現のためにはいくつもの障害
があった。しかし、その内の“Logan's Run”のリメイクに
ついては、同じワーナーの製作ということで、シンガー本人
は今でも希望しているという説もあるが、すでにワーナー製
作のコミックスの映画化“Constantine”を手掛けたフラン
シス・ローレンスが後任監督に噂されているようだ。
 一方、問題はフォックスでシリーズの前2作を手掛けてき
た『Xメン』の第3作だが、これについてはシンガーと同社
との間では包括的な契約はあったものの、シンガーはそのプ
ロジェクトからは降板することになるようだ。この作品は、
2006年5月5日の公開予定で、このまま進めば“Superman”
のライヴァルとなるものだが、フォックスではこれから後任
監督の選考などが大変になりそうだ。
 また、今回の監督交替で、ワーナーでは今までに用意した
脚本などはすべて白紙に戻すとしており、シンガーの下で、
『Xメン2』も手掛けたマイクル・デュガーティ、ダン・ハ
リスとの共同による新たな脚本が、年末にオーストラリアで
予定されている撮影開始に向けて準備されることになるよう
だ。さらに、前々回報告した製作者の問題も白紙に戻され、
ジョン・ピータースの復帰もないとされている。
 従って、以前から報告されていたJ.J.エイブラムス脚
本による「スーパーマンの誕生から、地球に飛来してのレッ
クス・ルーサー及びクリプトン星からの謎の刺客との闘い」
という物語もどうなるかは判らない情勢で、さらにMcG監
督の下で行われた主役のスクリーンテストの結果も採用され
るかどうかも判らなくなってきた。なおこの主役について、
1週間前に臨時ニュースを掲載したが、この件は僕の誤解の
基づくものだったので削除しました。悪しからず。
 ということで、“Superman”の2006年夏の復活はほぼ決定
になったようだが、ワーナーでは今夏の“Catwoman”の後、
来年夏には“Batman Begins”、さらに“Superman”と続け
て、2007年にはやはりDCコミックスの原作から、ジャック
・ブラック主演による“The Green Lantern”の計画も進め
られているということで、このスーパーヒーロー路線は当分
継続することになりそうだ。
        *         *
 以上、トラブル解消の話題を2つ紹介したが、トラブルの
種は尽きないのが映画製作。続いては新たな問題の発生で、
トム・クルーズの製作主演で進められているシリーズ第3作
“Mission: Impossible 3”から、監督ジム・カーナハンの
降板が発表された。
 この往年のテレビシリーズの劇場版では、1996年の第1作
をブライアン・デ=パルマ、2000年の第2作をジョン・ウー
と、いずれもスタイリッシュな演出をする監督が起用され、
今回の第3作の製作に当っても、当初はデイヴィッド・フィ
ンチャーの起用が発表されていた。しかし、フィンチャーに
他の作品の計画が発表され、その後任として『ナーク』で鮮
烈なデビューを飾ったばかりのカーナハンの大抜擢が発表さ
れたものだ。
 この起用はクルーズの意向が強く働いたもので、このため
クルーズは、『ナーク』の公開に向けて自分の名前を製作者
として冠させるなど、いろいろな協力を行ってきた。とは言
うものの、いきなりのVFX多用の超大作の監督は、如何に
クルーズの後ろ楯があろうとも、かなり厳しいのではないか
という心配は最初からささやかれていた。
 しかも、今回の製作では、春先から開始される計画だった
撮影が遅れ、配給担当のパラマウントは、公開を当初予定の
2005年5月6日から、7週間遅らせて6月29日にするなどし
たものの、製作スケジュールが極めてタイトなものになるこ
とは明らかになってきていた。
 その状況で監督の降板となったものだが、これは新人監督
の立場としては、ある意味仕方なかったという感じもする。
なお、カーナハンには、パラマウント/ドリームワークス共
同製作による犯罪ドラマ“Killing Pablo”や、ユニヴァー
サル製作の“Void”などの計画も進められており、今後はそ
ちらで頑張ってもらいたいものだ。
 という状況だが、実は本作の製作では、すでに脚本はフラ
ンク・ダラボン、ダン・ギルロイによるものが決定され、配
役も、クルーズの他に、ヴィング・レイム、キャリー=アン
・モス、ケネス・ブラナー、スカーレット・ヨハンソンが契
約済み、さらに製作スケジュールでは、今月8月4日にプラ
ハ、ベルリンなどで撮影開始と発表されている。
 となると、これを引き継げるのは相当に修羅場に強い監督
になりそうだが、噂では、テレビで“Alias”というスパイ
シリーズを手掛けるJ.J.エイブラムスの名前も挙がって
いるようだ。この名前は、“Superman”の脚本家としてすで
にお馴染みになっているが、果たしてこの修羅場を乗り切れ
るものかどうか。場合によっては、クルーズの監督兼任も面
白いと思うのだが。
        *         *
 2002年の“Stolen Summer”(夏休みのレモネード)に続
いて、昨年は“The Battle of Shaker Heights”という作品
が製作されたベン・アフレック、マット・デイモン主催の新
人発掘イヴェント=プロジェクト・グリーンライトの第3回
が行われ、初めてホラー作品の選出が発表された。
 選出された作品は“Feast”という題名のもので、パトリ
ック・メルトンとマーカス・ダンストンの共作による作品。
内容は、過去の数多のホラー作品の中から、ステレオタイプ
のキャラクターとシチュエーションを借りまくってパロディ
化し、それを息もつかせぬ勢いでまとめ上げた作品というこ
とで、スプラッタホラーの最高作といわれるサム・ライミ監
督の“Evil Dead 2”(死霊のはらわたII)を髣髴とさせる
ものになっているということだ。
 なおこの脚本、興味のある方には、Project Greenlightの
公式ウェブサイトで読むことができるようになっている。
 そして映画の製作に当っては、第2回からは併催されてい
る短編映画部門の受賞者が監督する決まりになったようで、
今回は、俳優でカメラマンでもあるというジョン・ガラガー
が監督を担当する。さらに製作者として『エルム街の悪夢』
や『スクリーム』の監督のウェス・クレイヴンが参加して、
映画作りの全般の指導に当るということだ。
 完成作品は、商業映画としてミラマックスで配給も行われ
るものだから、アマチュアの映画製作とは規模も全く違った
ものになるが、これを、クレイヴンらがしっかりとサポート
するというのもうれしいところだ。
 因に、今回の選考で最終選考には3本がエントリーされて
おり、後の2本は、リック・カー応募の“Does Anyone Here
Remember When Hanz Gubenstein Invented Time Travel?”
というタイムトラヴェルコメディと、マーシャル・モスリー
が応募した“Wildcard”という犯罪ものだった。今回、この
2本は選から漏れた訳だが、最終選考の3作では、それぞれ
プロのアドヴァイスに基づくリライトも行われており、脚本
としては完成されているようなので、いつかはこれらの作品
も陽の目を見ることを期待したいものだ。
        *         *
 今回は“Basic Instinct 2”の情報から始めたが、この他
にも続編の計画がいろいろ発表されている。後半は、それら
をまとめて紹介しよう。
 まずは、昨年夏に公開されて1億600万ドルの興行収入を
記録し、パラマウント社の年間トップの成績を収めた“The
Italian Job”(ミニミニ大作戦)の続編計画で、すでに前
作を手掛けた夫婦脚本家チーム、ウェイン&ドナ・パワーズ
に草稿の執筆が依頼されたということだ。
 計画は、前作をパラマウントのトップとして手掛けた製作
者のジョン・ゴールドウィンと、現同社トップのドナルド・
デ=ラインの間で進められているもので、物語の詳細は極秘
とされているが、前作でヴェニスとロサンゼルスで展開され
た作戦は、次回はサントロペ、パリ、そしてスイスアルプス
で展開されるという情報もあるようだ。
 また、この続編では、前作を監督したF・ゲイリー・グレ
イや、主演のマーク・ウォルバーグ、シャーリズ・セロンら
の去就も注目されるが、特にセロンは、前作の次に主演した
『モンスター』でオスカーを受賞。さらにパラマウント製作
“Aeon Flux”の契約では、彼女自身の出演料の記録を900万
ドルに伸ばしたところで、さて、彼女の再登場は一体いくら
で決着するかというところも話題を呼びそうだ。
 製作時期などは未定だが、脚本ができれば、後は速そうな
感じもする。因にゴールドウィンは、彼の祖父のサミュエル
・ゴールドウィンが製作した“The Secret Life of Walter
Mitty”(虹を掴む男)のリメイクも進めているところだ。
        *         *
 お次もパラマウントで、これは続編ではなく前日譚だが、
1987年ブライアン・デ=パルマ監督の“The Untouchables”
(アンタッチャブル)に関連して、同作でロバート・デ=ニ
ーロが演じたアル・カポネの若き日を描く計画が進められて
いる。
 オリジナルは、ケヴィン・コスナーのエリオット・ネス役
で、警官役で共演したショーン・コネリーにオスカー助演賞
をもたらしたものだが、今回はネスが登場する以前の物語と
いうことで、カポネがシカゴの暗黒街に君臨して行く姿が描
かれるということだ。これで“The Untouchables”かと言わ
れると、ちょっと考えてしまうところだが、今回の作品は、
前作を手掛けたアート・リンスンが製作するもので、題名も
“The Untouchables: Mother's Day”と付けられている。 
 脚本はまだ作られておらず、従って製作はごく初期の段階
ということだが、監督には『キング・アーサー』を手掛けた
アントワン・フークアがすでに名乗りを挙げているというこ
とで、脚本が完成すれば彼の次回作の可能性もある。また、
配役では、デ=ニーロが演じたカポネの若い日を誰が演じる
かも話題になりそうだ。
        *         *
 この春公開された“The Texas Chainsaw Massacre”でも
前日譚の計画が発表された。
 オリジナルは、言うまでもなく1974年トビー・フーパー監
督による『悪魔のいけにえ』(原題同じ)のリメイクだが、
このフーパー版からはその後に3本の続編が製作され、その
第4作ではマシュー・マコノヒーとルネ・ゼルウィガーが主
演していたことでも有名になった。しかしこのフーパー版か
らは前日譚が作られたという記録はない。
 といってもこれらの続編は、いずれも第1作のリメイクと
言ってもよいもので、その意味で、今回あえて前日譚と名乗
るのには、それなりの何かがありそうだ。
 そして、その脚本を手掛けるのは、MGM/ディメンショ
ン共同で進められている“The Amityville Horror”のリメ
イクで、スコット・コーサーのオリジナル脚本のリライトを
担当したシェルドン・ターナー。前日譚は彼自身のアイデア
によって描かれるということだ。因に、ターナーはパラマウ
ント/ソニー共同で進められている“The Longest Yard”の
リメイクの脚本も手掛けている。
 なお、製作は、先のリメイクも手掛けたマイクル・ベイ主
宰のプラティナム・デューンズと、ニューラインシネマ(N
LC)で行われるが、実はこの計画では、当初は1作のみの
リメイクの予定でシリーズの契約はされていなかった。この
ため今回の前日譚の製作では新たに契約が結び直されること
になったが、前作の時は100万ドル以下だった契約金は、一
気に4倍近くに跳ね上がったということで、NLCでは、最
初からシリーズの契約をしておけば良かったと、悔やむこと
頻りだったようだ。
        *         * 
 すでに情報はかなり流されているようだが、マーティン・
キャンベル監督、アントニオ・バンデラス、キャサリン・ゼ
タ=ジョーンズ共演の1998年作品“The Mask of Zorro”の
続編は、“The Legend of Zorro”という題名になり、監督
及び主演2人の再結集も決まって、2005年の公開を目指した
準備が進められている。
 そしてこの続編に、新登場のキャラクター=アーマンド役
として、2001年公開『Rock You!』などのルーファ
ス・スーウェルの共演が発表された。因にこの役柄は、ゼタ
=ジョーンズ演じるエレナの恋人ということで、ゾロには突
然のライヴァル出現となるようだ。
 また、この作品の製作には、先にコロムビアと優先契約を
結んだスパイグラス社が共同製作で参加することも発表され
ている。因にスパイグラスは、『シックスセンス』などの製
作でも知られるが、今回の優先契約を結ぶに当っては、特に
コロムビアが所有する高額製作費の企画に興味を持ったとい
うことで、それらの共同製作に参加する資金として、5年間
の総額で2億5000万ドルを用意しているということだ。
 ということで、他にもいろいろな大作を期待できそうな契
約だが、実は今回の発表ではもう1本、ロブ・マーシャル監
督が進めている“Memoirs of a Geisha”の題名も挙げられ
ていた。この作品も2005年の公開が予定されているもので、
最近ではチャン・ツィイーの主演も噂されているようだが、
こちらの実現も可能性が高くなってきたようだ。
        *         *
 最後は、本年度アカデミー賞に監督賞など4部門でノミネ
ートされたブラジル映画“Cidade de Deus”(シティ・オブ
・ゴッド)の続編の計画が発表されている。
 発表したのは、前作でオスカー候補にもなったフェルナン
ド・メイレレス監督で、続編の題名は、Variety紙には英語
題名しか紹介されていなかったが“City of Men”。ポルト
ガル語では、“Cidade dos Homens”となるようだ。さらに
主演には、前作にも出演していたダグラス・シルヴァとデュ
ラン・クンハが予定されているということだ。
 “City of God”の続編で“City of Men”というのは判り
やすい展開だが、実はこの題名は、前作の後を受けて2002年
にメイレレス主宰のO2フィルムスが製作し、ブラジルのテ
レビ局で放送されたミニシリーズの題名でもある。またシル
ヴァとクンハはこのミニシリーズでも主演していたようだ。
 つまり、今回の計画はこのテレビのミニシリーズから、さ
らに映画版を製作するというもののようだが、前作を生き抜
いた子供たちが成長した姿を見せてくれるというのもうれし
い話だ。今のところ、アメリカ配給を担当したミラマックス
からは、続編に関する正式のコメントは出されていないよう
だが、前作のような素晴らしい作品を期待したい。


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井口健二