井口健二のOn the Production
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2004年07月31日(土) LOVERS、珈琲時光、リディック、アラモ、最狂絶叫計画、ティラミス、お父さんのバックドロップ

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※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介しています。     ※
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『LOVERS』“十面埋伏”             
チャン・イーモウ監督の『HERO』に続く武侠映画。  
監督は、『HERO』の来日記者会見で、武侠映画は癖にな
りそうだと語っていたが、その発言通り第2作が誕生した。
しかも『HERO』のときは初めての武侠映画で、色使いな
どにイーモウらしさはあったものの、全体は明らかにアクシ
ョンに流されていたのに対し、本作『LOVERS』では、
主人公3人の感情の起伏が見事に描かれ、間違いなくイーモ
ウの映画になっている。                
時は西暦859年、中国は唐の時代。その朝廷を脅かす一大勢
力・飛刀門。しかしその組織は謎に包まれ、その本拠の所在
すらも知れなかった。                 
そこでその本拠を探るべく、罠が仕掛けられる。それは飛刀
門の頭目の娘と思われる盲目の踊り子を一旦逮捕し、官吏の
一人が彼女の脱走を手助けして信用させ、本拠地へと案内さ
せようというものだ。                 
その任に付くのは金。金は女性を救出し、彼女の言うままに
北へと馬を走らせる。しかしその後を追うのは事情を知らな
い朝廷の派遣した兵士たち。金は任務の遂行のため壮絶な闘
いを強いられる。そして彼女も見事な闘いを披露し始める。
この盲目の踊り子をチャン・ツィイー、金を金城武が演じて
いる。主人公にはもう一人、アンディ・ラウが演じる役柄が
あるが、上記の物語からも明らかなように、全体の展開の中
では、金城とツィイーの2人が主演と言っていい。    
また金城の役柄は、コミカルから壮絶なアクションまで幅広
い演技力が要求されるものだが、金城はイーモウ監督の初の
起用によく応えている。逆に彼の持っている演技の幅が、イ
ーモウに金城を起用させた理由のようにも感じられた。  
なお、アクションはワイヤーを多用したトリッキーなものだ
が、『グリーン・ディスティニー』を髣髴とさせそれを数段
上回る規模で行われる竹林での闘いや、遊郭でのツィイーの
踊りに絡ませたアクションなどが、随所に登場して息もつか
せず楽しませてくれる。                
『トロイ』のCGIアクションや、『キング・アーサー』の
物量を掛けた闘いのシーンも見事だが、本作のようにいろい
ろの仕掛けやワイヤーワークを駆使した生身の闘いも見応え
があった。                      
                           
『珈琲時光』“珈琲時光”               
小津安二郎生誕100年記念作品と銘打たれた台湾の侯孝賢監
督作品。歌手の一青窈を主演に、自立した女性のちょっとし
た日常が描かれる。                  
台湾で日本語教師をしながらフリーライターで生計を立てて
いる女性が主人公。彼女の、恋人と言っても良い古本屋の主
人(浅野忠信)や群馬県に住む両親(小林稔侍・余貴美子)
との交流が、淡々とした演出で描かれる。        
映画はワイド画面だが、巻頭スタンダードサイズの松竹のロ
ゴが登場する。                    
一方、物語の始めでは、鬼子母神近くの都電の走る風景から
写し出される。この都電は都内に住んでいる自分には意外性
はないが、都電が残っていることを知らない人が見たら、一
気に小津ワールドという感じなのだろうか。       
正直に言って、小津が描いた日本の風景など、現代の東京か
らは失われたものと考えがちだったが、この作品は、日本人
の目には写らない日本の風景を、外国人の監督の目によって
見事に写し出されてしまった感じだ。          
神田神保町の古本屋街の路地裏や、御茶ノ水駅での中央、総
武、丸の内3線の立体交差、これらは小津全盛の昭和20年代
から存在していたのだった、と今さらながら思い出された。
その一方で、風俗街なども写し出されるが、それも含めて東
京庶民の風景というところなのだろう。         
現代の東京を写したということでは、『ロスト・イン・トラ
ンスレーション』が比較の対象になりそうだが、あの訳の判
らない若者の生態より、僕はこの作品の方が納得できた。 
なお物語では、ちょっとした出来事はあるが、それでも時は
淡々と流れて行く。その出来事に対する父親の反応には、自
分も年頃の娘を持つ父親として共感するところもあり、全体
として良い感じの作品だった。             
                           
『リディック』“The Chronicles of Riddick”      
ヴィン・ディーゼル主演の2000年作品『ピッチ・ブラック』
の続編。                       
前作はディーゼルの出世作の1本だが、彼は、同様の『ワイ
ルド・スピード』『XXX』の続編への出演は断った上で、
本作では自身で製作も買って出て、前作のアンチヒーローを
再演している。                    
物語は前作の数年後。リディックは身を潜めて暮らす僻地の
惑星で刺客に襲われる。彼の所在を知るのは、前作で助けた
2人だけのはず。彼はその1人の住む惑星を訪れるが、その
惑星は未曾有の危機に直面していた。          
その危機とは、全宇宙の支配を狙う暗黒帝国の侵略。そして
悪を制するには悪を以てするとして、リディックに助けが求
められたのだ。そんな要望に応える彼ではなかったが、やは
り前作で助けた少女の行方を追う内に、徐々に事件に巻き込
まれて行くことになる。                
前作は一つの惑星が舞台で、暗黒となるその世界でただ1人
暗視の目を持つリディックが活躍したが、本作ではスケール
を大幅にアップして、かなり壮大な物語を展開する。   
今回は、暗視の目の効果は期待したほどには発揮されていな
かったが、異常な惑星の風景としては、日の出と同時に生物
を瞬時に焼滅させる焦熱地獄となる惑星が登場。そこでの昼
夜分岐線との競争などのアクションが、見事な迫力で描かれ
ていた。                       
この他にも、暗黒帝国の侵略の様子や敵の頭目との1対1の
対決なども、VFXを多用して見事に描かれている。また、
リディックに救援を要請する役を、デームの称号を持つ女優
ジュディ・デンチが演じて、物語を引き締めていた。   
なお、ホームページの第65回で、監督のデイヴィッド・トゥ
ーイが不規則発言をしたことを紹介したが、上映時間を2時
間前後とする上では、この編集で問題なかったと思う。  
トゥーイは、前作『ピッチ・ブラック』の時も、公開後にデ
ィレクターズ・カットを発表しており、今回もその目算があ
っての発言だったようだ。それが発表されたときには、それ
も楽しみたいというところだ。             
                           
『アラモ』“The Alamo”                
ジョン・ウェインの監督主演で1960年に映画化されたアラモ
砦を巡るテキサスとメキシコの闘いを描いた歴史ドラマの再
映画化。前作でウェインが演じたデイヴィ・クロケット役を
ビリー・ボブ・ソーントンが演じる。          
ウェインの描いたアラモでは、西部劇の英雄たちが馳せ参じ
た印象があるが、本作のクロケットは選挙に破れ、テキサス
は平和になっていると思い込んでアラモにやってくる。それ
でも闘いには進んで参加するのだが、毛皮の帽子はイメージ
を作るためだけと称して被らないし、多分真実はこんなもの
だったのだろうと思わせてくれる作品だ。        
実際、圧倒的なサンタアナ軍の前でアラモを守るなんてこと
は無謀だった訳で、でもやらなければならなかったことで、
しかもその結果は、これで勢いづいたサンタアナ軍を自滅に
追い込み、テキサス独立を成し遂げる。歴史とはそんなもの
だということだろう。                 
アラモはどうしても愛国心の発露のように捉えられるし、こ
の映画では両軍に別れて戦ったメキシコ人の存在や、奴隷の
存在なども描かれるが、結局反戦という思想には至らない。
つまり、この映画の撮影当時のイラク侵攻当初、勝ち戦の中
のアメリカでは格好の題材だったと言える。       
しかしこの映画で、圧倒的な武力を誇るのはメキシコ軍であ
り、テキサス(アメリカ)は侵攻される側、そしてそのメキ
シコ軍は結局敗北することになるという、かなり皮肉な展開
が待ち受ける。従ってイラク侵攻が勝ち戦のまま進んでいれ
ば、それに対する批判にもなったかも知れない。     
だが、現実のイラク侵攻が批判の的となっている状況では、
この映画は愛国心を高揚させようという目的にしか見て取れ
なくなる。これも皮肉な結果としか言いようがない。   
ソーントン演じるクロケットが、結構ひょうきんで愛すべき
人物だったり、デニス・クエイド演じるサミュエル・ヒュー
ストン将軍がしっかりした戦略を持っていたり、なるほどと
思える描き方も多く、歴史ドラマとしては面白かった。特に
ソーントンは、多分頬に含み綿を入れて風貌まで変えての出
演で、良い感じだった。                
                           
『最狂絶叫計画』“Scary Movie 3”           
2000年と2001年にそれぞれキーネン・アイヴォリ・ウェイア
ンス監督によって発表されたホラーパロディシリーズの第3
弾。                         
ただし今回は、前作までの監督と、脚本を担当したマーロン
&ショーンを含むウェイアンス一家は映画会社との契約切れ
のため参加しておらず、替って監督を、『裸の銃(ガン)を
持つ男』シリーズなどのベテラン、デイヴィッド・ザッカー
が担当している。                   
このシリーズに関しては、僕は第1作は見たはずだが、基本
的にウェイアンス一家の下ネタオンパレードが耐えられず、
第2作は見に行かなかったと記憶している。従って今回の製
作スタッフが交替すると聞いたときには、僕的にはちょっと
喝采したものだ。                   
ということでザッカー監督による新生『絶叫計画』だが、当
然のことながら作品はかなり真面目に作られている。題材に
されるのは、『ザ・リング』と『サイン』を中心に、『8M
ile』『マトリックス・リローデッド』といった作品群だ
が、それぞれオリジナルのファンとしても不快になることは
なかった。                      
お話は、チャーリー・シーン扮する元神父の農夫のトウモロ
コシ畑にミステリーサークル(?)が現れ、その弟は最高の
ラッパーを目指してバトルに参加し、一方、第1作では女子
高生だったシリーズレギュラーのアナ・ファリスは今回はニ
ュースレポーターに成長して死のヴィデオの謎を追っている
が…、といった具合。これにクィーン・ラティファ扮する預
言者や、ザッカー作品には常連のレスリー・ニールセンも登
場する。                       
実は、前々作はパロディと言っても恐怖シーンの再現などは
それなりに丁寧で、その意味での楽しみもあったが、今回は
『ザ・リング』以外の元ネタはホラーではないし、しかも下
ネタが封じられている分、正直に言ってパンチ力は今一つか
も知れない。                     
しかし、登場するパロディはどれも判りやすいし、その意味
ではパロディ映画の入門編のような感じとも言える。少なく
とも上記の4本を見ている人には、そこそこ笑ってもらえそ
うだ。特に『ザ・リング』のヴィデオに対する突っ込みは、
いろいろと面白かった。                
                           
『ティラミス』“戀愛行星”              
ニコラス・ツェー主演のファンタスティック・ラヴストーリ
ー。耳の聞こえない青年がダンサー志望の女性に一目惚れす
るが、彼女はその直後に事故死してしまう。そして幽霊とな
った彼女は、青年を頼りに自分の仲間たちのコンテスト優勝
を見届けようとするが…。               
夜は独立に幽霊としていられるが、太陽の下では彼の身体に
乗り移っていなければならないとか、その間は青年の耳が聞
こえるようになるとか、いろいろな設定がされているが、そ
れらがうまく説明され、さらにそれを活かした物語の展開が
用意されている。                   
中国=香港映画で幽霊ものは定番だが、さすがに手慣れてい
るというか、うまく物語が作られていた。また、子供や老人
を使った展開もエピソードとしてうまく填っていた。後半に
ちょっと強引な展開もあるが、それも何となく許せるという
ところだ。                      
あばたもえくぼ的評価になってしまっているが、実際この種
の物語を破綻なく描き切るというのは容易なことではないも
ので、それをさり気無くやってしまっているところがこの映
画の素晴らしさとも言える。              
ツェーは、ダンスやピアノの演奏なども披露するが、どこか
らが吹き替えか判らないほどよくやっている。彼のファンに
は堪らない一編だろう。                
                           
『お父さんのバックドロップ』             
先日亡くなった中島らもが、1989年に発表した児童向け作品
の映画化。弱小プロレス団体のスターレスラーだが40歳の坂
を越えてしまった父親と、父親がプロレスラーであることが
恥ずかしくてならない小学4年生の息子が、親子の絆を取り
戻そうと苦闘する物語。                
原作がどのような展開かは知らないが、映画で盛りを過ぎた
格闘家が無謀な挑戦をするという物語は、『ロッキー』を思
い出さずにはいられない。それならもっと感動的な展開もあ
ったはずだが、そうしていないのは、わざとだろうか。  
実際、主人公の決め技がバックドロップであることは題名か
らも知れるが、僕は聞きかじりでその技のあり様を知ってい
るから了解できたが、そういう事前の知識の無い観客にこの
映画の説明で足りるのだろうか。            
またこの映画では、父親と息子の2人が主人公として描かれ
ているが、おかげで全体の印象が散漫になっていることも否
めない。やはり映画にするなら、どちらか1人に集中させる
べきだったようにも思える。              
いずれにしてもこの作品は、脚本に多少難があると考える。
脚本は、1993年『月はどっちに出ている』や1998年『愛を乞
うひと』で各賞を総嘗めにした鄭義信。         
実際この物語では、当然最後の闘いが盛り上げどころだが、
『ロッキー』以上に無謀なこの闘いで勝機を得るには、それ
なりの準備が必要だろう。               
ここで謀略などは願い下げだが、例えば策略に長けていそう
な生瀬勝久演じる菅原に、勝機を得るためのヒントをもらう
などの展開はあると考える。ただ鍛練のみの準備では話が甘
すぎるし、その辺の捻りを入れるところが映画を面白くする
ものだ。                       
逆に、息子の同級生にバックドロップの意味を説明させるの
でも良い。いずれにしても、この父親にも微かな勝機がある
ということを事前に観客に知らせておく必要がある。レスリ
ングはボクシングとは違う。その違いを活かした展開が必要
だったと思える。                   
苦言ばかり呈してしまった感じだが、僕はこの映画が嫌いで
はない。父親を演じる宇梶剛士も、息子を演じる神木隆之介
も、近所の焼肉屋の店主を演じる南果歩も、学友を演じる田
中優貴も、祖父を演じる南方英二をよくやっている。特に、
息子役の神木が良かった。               
だから逆に最後の一押しが足りないようで、残念に感じるも
のだ。                        



2004年07月15日(木) 第67回

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※このページは、キネマ旬報誌で連載中のワールドニュー※
※スを基に、いろいろな情報を追加して掲載しています。※
※キネ旬の記事も併せてお読みください。       ※
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 最初に前回の補足から。
 前回紹介したミュージカル作品“Time After Time”の記
事では、ウェブにアップする際に、全体の文書量との関係で
一部を端折ってしまった。このため多少判り難くなってしま
った面があるようなので、少し補足しておきます。
 この計画は、前回紹介したように、劇作家のブライアン・
ヨーキーが自作の映画化を目指して、私費を投じて出演者の
オーディションを行い、選ばれた俳優たちに歌唱、ダンスの
リハーサルも行ってきたもので、その成果をハリウッドの製
作担当者たちに披露したというものだ。
 ただし、そこで披露されたのはダンスを中心に30分ほどの
抜粋で、その際に全体の概要や音楽を納めたiPodが渡され、
オフィスに戻ってPCに差し込むとその全容が判る仕組みに
なっていた。なおこのiPodは、アップル社とのタイアップで
提供されたものだそうで、実はこの記事が掲載された同じ日
のVariety紙には、iPodの大きな広告も掲載されていた。
 そして、この抜粋とiPodの内容を見たユニヴァーサルの担
当者が、映画化権の獲得に乗り出したもので、その結果、最
高75万ドルの契約が結ばれたということだ。因にユニヴァー
サルは、最初に抜粋の披露を見せたスタジオだったそうだ。
 それからもう一つ、この作品の題名に関して、知人からシ
ンディ・ローパーの楽曲の題名であることをご教示いただい
た。つまりこの作品では、出演も予定されているローパーの
楽曲名を作品名にしていることになる訳だが、映画には音楽
とは別に題名の権利が存在しているもので、やはりワーナー
作品との問題は残りそうだ。
 なお、すでにユニヴァーサルでは、ローパー以外で作品に
登場している楽曲についても、映画で使用するための権利の
交渉に入っているということで、その交渉がまとまれば、映
画化の実現はかなり早いものになりそうだ。
 ということで補足は終了、以下はいつもの製作ニュースを
紹介しよう。
        *         *
 昨年11月15日付の第41回と今年4月15日付の第51回でも紹
介した『エクソシスト』の発端を描く新作“Exorcist: The
Beginning”が8月に全米公開されるレニー・ハーリン監督
の次回作として、古代から北欧で活躍してきたヴァイキング
たちを主人公にした映画に挑戦する計画が、モーガン・クリ
ーク社から発表された。
 この作品は、“The Northmen”という題名で、ショーン・
オキーフとウィル・ステイプルスの脚本を映画化するもの。
2人のヴァイキングの兄弟が、誘拐してきたイギリスの王女
に恋心を持ったことから始まるドラマを描くものだそうだ。
 元々スカンディナヴィアの出身で、幼い頃からいろいろな
民話などを聞かされて育ってきたハーリンにとって、ヴァイ
キングは言わば心のヒーローのようなもの。15年以上も前か
ら彼らの映画を撮りたいと考えていたということだ。そして
その夢がようやく実現するものだが、ハーリンは、「表面は
ラヴロマンスだが、映画では古代ヴァイキング社会の複雑な
内情を克明に描きたい」としている。
 因にハーリンは、1995年製作の『カットスロート・アイラ
ンド』で、当時夫人のジーナ・デイヴィスを主演に、時代も
のの海洋アクションを手掛けたことがあるが、このときは、
作品的な評価はされたものの、興行的には今一つだった。今
回はその分も含めて成果を期待したいものだ。
 なお、ハーリン監督の作品では、他にインターメディア製
作のサイコスリラー作品“Mindhunters”が来年公開予定に
なっている。また、今回の脚本を手掛けているオキーフ=ス
テイプルスのチームは、ローランド・エメリッヒ監督向けに
“King Tut”という作品も担当しているようだ。
        *         *
 1954年にジョージ・パル製作、バイロン・ハスキン監督、
チャールトン・ヘストン、エレノア・パーカー主演で映画化
された“The Naked Jungle”(黒い絨毯)を、『アルマゲド
ン』などの脚本家ジョナサン・ヘンスレイの脚本監督でリメ
イクする計画が発表されている。
 オリジナルは、カール・ステップヘンスンという作家の短
編小説を映画化したもので、1901年を時代背景にして、南米
奥地のジャングルで農園を経営する男(ヘストン)と、彼の
許に手紙だけを頼りにやってきた花嫁(パーカー)の愛憎ド
ラマを軸に、突如その農園に襲いかかる集団殺人蟻マラブン
タの恐怖を描いたもの。黒い絨毯のように野山を覆いながら
進む集団蟻を、当時最新の特撮技術で描いていた。
 因に、パル=ハスキンのコンビは、特撮映画として多様な
ジャンルの作品を手掛けたが、その中で本作は動物パニック
映画の走りとも呼べるものだ。そして今回リメイクを手掛け
るヘンスレイは、「オリジナルは、今見ても充分通用する作
品と思うが。リメイクでは最新のCGIエフェクトを導入し
て、さらに次元の違った作品にしてみせる」と抱負を語って
いる。
 なお、本作はパラマウント傘下のアルファヴィルというプ
ロダクションで製作されるが、同社では、先にマーヴェル・
コミックス原作の映画化で、ヘンスレイが監督デビューを飾
った“The Punisher”も手掛けている。 
        *         *
 もう1本、パラマウント映画のリメイクで、これもC・ヘ
ストン主演の1956年作品“The Ten Commandments”(十戒)
の再映画化が計画されている。
 旧約聖書の記述に基づくオリジナルは、ヘストンの他、ユ
ル・ブリナー、アン・バクスター、エドワード・G・ロビン
スンらが共演、セシル・B・デミルの監督で、同年のアカデ
ミー賞では、作品賞を含め7部門でノミネートされ、特殊効
果賞を受賞している。
 ファラオ支配のエジプトを舞台に、神の啓示を受けたモー
ゼが、圧制に苦しむユダヤの民を率いて紅海を渡り、彼らを
イスラエルへと導く。そしてその間に、神から十戒を授けら
れるという物語。これを、当時70ミリに対抗して開発された
ヴィスタ・ヴィジョン方式の大型画面で映像化したもので、
古代エジプトでの巨大な神殿を建設するシーンや、紅海を渡
る場面で海が2つに割れるシーンなどの、オスカーを受賞し
た特殊効果は圧巻だった。
 因に、デミルは、1923年にも同じ題材を映画化しており、
56年作品はそのリメイクということになっているが、23年作
は2部構成で、全体が146分の上映時間の中の古代エジプト
のシーンは第1部の35分間のみ、また製作もパラマウントで
はないために、今回の計画では1956年作品のリメイクとされ
ているようだ。
 そして今回の計画を進めるのは、『ザ・デイ・アフター・
トゥモロー』の製作者マーク・ゴードンと、『ライフ・オブ
・デビッド・ゲイル』の脚本家チャールズ・ランドルフ。こ
の2人の顔合せでは、かなり現実的な物語になりそうだとい
う観測もあるようだが、実はデミルの23年作の第2部では、
舞台を映画製作当時の現代にして、十戒と当時の人々との関
わりを描いていたということで、一体どんなリメイクになる
か楽しみというところだ。
        *         *
 “Astroboy”“Speed Racer”に続いて、こちらも待望久
しい日本アニメーションの実写ハリウッド版の計画で、フォ
ックスが進めている“Dragonball Z”(ドラゴンボールZ)
に、ベン・ラムゼイという脚本家の名前が発表された。
 ラムゼイは、1998年にコロムビアが公開した『ビッグ・ヒ
ット』などの作品で知られるが、現在コロムビアで進められ
ているマーヴェル・コミックスの映画化“Luke Cage”や、
同じくコロムビアで進行中の“Static”という作品も手掛け
ているようだ。つまり、コロムビア育ちの脚本家がフォック
ス作品に起用される訳で、彼が本作にどのような思い入れを
持っているかは不明だが、フォックスとして他社からの抜擢
はそれなりの意味があってのことだろう。
 なお、Variety紙の報道では、本作は“Dragonball”のシ
リーズを映画化する“Dragonball Z”となっていたが、タイ
トルに“Z”が付けられているということは、主人公の悟空
が地球壊滅を目論むサイヤ人の血を引くことが判明する青年
期の物語。展開やアクションのスケールも最大になる部分を
映画化する訳で、大いに期待したいところだ。
 因に今回の報道で、本作は、日本製のmangaを原作とした
animeシリーズからの映画化と紹介されていた。
        *         *
 4月1日付の第60回で報告したロベルト・ロドリゲス監督
のDGA脱退に発展した映画“Sin City”の製作で、テキサ
ス州オースティンのスタジオで進められている撮影に、クェ
ンティン・タランティーノが予告通りゲスト監督として参加
したことが報告された。
 この製作では、ロドリゲスが原作者のフランク・ミラーを
共同監督としたことが、DGA規定に違反しているとされた
ものだが、さらにタランティーノは、映画の最終章の中の1
シーンを担当、クライヴ・オーウェン、ベネチオ・デル=ト
ロ、ブリタニー・マーフィらの出演シーンを監督している。
 なお、これでタランティーノが受け取った監督料は1ドル
で、これは『キル・ビル vol.2』の音楽を、ロドリゲスが1
ドルで引き受けてくれたことへのお返しだそうだ。またタラ
ンティーノには、今回の撮影に使用されているディジタルカ
メラを実地に使ってみたいという希望もあったようだ。
 なお本作には、上記3人の他に、ブルース・ウィリス、ミ
ッキー・ローク、イライジャ・ウッド、ニック・スタール、
カーラ・ギグノ、ジェイミー・キング、ジェシカ・アルバ、
ロザリオ・ドースン、マイクル・クラーク・ダンカン、アレ
クシス・ブレデル、ジョッシュ・ハートネット、マーリー・
シェルトンの共演が発表されている。
        *         *
 続いてもトラブル絡みの情報で、この秋の撮影開始予定で
製作準備が進められているワーナー製作の新生“Superman”
の計画が、またまた監督を探す事態になってしまった。
 この計画では、昨年のブレット・ラトナーの降板以後は、
McG監督で順調に進んでいるように見えたのだが、最終的
にニューヨークで撮影を行いたいとする監督と、製作費の削
減のためにオーストラリアでの撮影を要望する会社との意見
の調整が出来なかったようだ。
 因に、このシリーズの撮影では、以前のクリストファー・
リーヴが主演していた当時も、カナダのトロントをメトロポ
リスに見立てた撮影が行われていたものだが、今回は、さら
に海を渡って撮影をオーストラリアで行う計画で、すでに当
地のフォックススタジオには、セットの建設も始まっている
というものだ。
 しかし、撮影の準備のためにニューヨークを訪れたMcG
は、「こここそがメトロポリスであり、映画作家として、ア
メリカの心を他の大陸で描くのは不当なことだと感じた」と
して、ニューヨークでの撮影を主張したということだ。
 とは言うものの、現実にニューヨークでの撮影を行うため
には、すでに2億ドルといわれる製作費に、さらに数千万ド
ルの上積みが必要になるということで、とうてい実現不可能
なこと、結局McGの希望は叶えられないとして、降板が決
まったようだ。まあ、監督の我儘と言えないこともないが、
『スパイダーマン』のニューヨークシーンなどを見せられる
と、何故、自分は出来ないのかという気持ちも判る感じだ。
 ということで、以下は後任監督の話題だが、実は、McG
監督の降板が報じられる前から、ワーナー首脳が『Xメン』
シリーズのブライアン・シンガー監督と接触しているという
情報が流れていた。これは、シンガーとワーナー映画の社長
のアラン・ホーンが会食し、新“Superman”の監督を要請し
たというもので、これに対してシンガーは検討したいと答え
たということだが…。
 しかしシンガーには、今年3月15日付第59回でも紹介した
ように、ワーナーで“Logan's Run”のリメイクを進めるこ
とが予定されており、これはただちに中断できるものの、さ
らに来年の撮影予定で“X-Men 3”の計画がフォックスから
要請されていて、こちらは2006年5月5日の公開予定になっ
ている。となると、同時期の公開が予想される“Superman”
の監督は、ちょっと問題が生じることになるようだ。
 この他の監督リストには、『アルマゲドン』、『バッド・
ボーイズ』のマイクル・ベイ監督の名前も挙がっているよう
だが、すでに何度も報告しているように、本作の製作準備は
着々と進行しているもので、主演俳優も含めて早期の決着が
期待されるところだ。
 なお、降板したMcG監督の次回作には、ユニヴァーサル
で“Evel Knievel”と、コロムビアで“Cleopatra”と“Hot
Wheels”の計画が進行しているようだ。
        *         *
 いろいろな情報が錯綜したが、今度こそ実現となりそうな
計画で、ジョージ・A・ロメロ監督の“Land of the Dead”
が、今年の10月にウィニペグまたはピッツバーグで撮影され
ることが発表された。
 この話題に関しては、昨年12月1日付の第52回で紹介した
“Diamond Dead”の記事の中で、当時“Dead Reckoning”と
されていた題名の変更問題で、当時計画を進めていたフォッ
クス・サーチライトとの間でもめていることを報告したが、
今回の報道ではフォックスの名前が消されており、どうやら
ロメロ側が企画を一旦取り戻したということのようだ。
 そして今回の発表は、製作者のマーク・カントンが昨年末
に設立したアトモスフィアというプロダクションが行ったも
ので、正式のゴーサインが出たことが報告されている。また
製作は、アトモスフィアとパリに本拠を置くワイルド・バン
チという会社の共同で行われるということだ。
 なお、物語はロメロ自身の脚本によるもので、今回はゾン
ビが完全に世界を支配してしまった時代が描かれる。そして
生き残った人々は、壁に囲まれた都市に暮らしているが、脳
を持たず動きも鈍かったゾンビは、今回は少し進化して、よ
り危険なものになっているということだ。また、全体の流れ
は「ゾンビ meets マッド・マックス」と紹介されていた。
 ただしこの計画が発表されたことで、“Diamond Dead”に
ついては、実はスコット・フリーの製作で8月からの撮影も
発表されていたのだが、現状では頓挫ということになってし
まいそうだ。またロメロは、ライオンズ・ゲイトの製作で、
スティーヴン・キング原作による“The Girl Who Loved Tom
Gordon”という作品を、自ら監督する計画で脚色を行って
いたようだが、これも当面中断ということになりそうだ。
 まあ、一番期待される作品が進められる訳だから、他につ
いては我慢するしかないが、それらもできれば追々実現して
もらいたいものだ。因に60年代から、70年代、80年代に1作
ずつ発表されてきたシリーズが、90年代には作られなかった
ことについてロメロは、「自分では、伝統を守りたいという
気持ちを持っており、その一方でこの時代には、新しいもの
がどんどん出てきたためだ」と語っていたそうだ。
        *         *
 主演メル・ギブスン、監督リチャード・ドナーの『リーサ
ル・ウェポン』コンビの再結集で、アクション中心SF映画
の計画がパラマウントから発表されている。
 この作品は、“The Field”と題されたもので、ギブスン
が希望している主人公は、不当に25年間の刑務所生活をさせ
られた男。そしてようやく出所してきた男に、弁護士から救
いの手が差し伸べられるが、実はその弁護士は、自分の利益
のために彼の人格そのものを狙っていた…、というお話。
 これだけでSFかどうかは、ちょっと判断に窮するところ
だが、実はこの脚本を『ペイチェック』のディーン・ジョー
ガリスが手掛けているとなれば、かなり信用が置けそうだ。
と言ってもジョーガリスは、他の作品では“The Manchurian
Candidate”のリメイクや、ケヴィン・レイノルズが監督し
た“Tristan & Isolde”など、別段SFプロパーの脚本家で
はないのだが、少なくとも『ペイチェック』では、かなりの
SFマインドを感じたものだ。
 なお映画化は、パラマウント傘下で、ジョーガリスとパー
トナーのマイクル・アグリアが主宰するペンステーションと
いうプロダクションで進められるが、同プロダクションは、
前回紹介したジョージ・A・ロメロ原作の“The Crazies”
のリメイクも担当している。
        *         *
 久し振りに“Star Trek XI”の話題で、映画及びテレビシ
リーズ製作者のリック・バーマンとブラノン・ブラーガから
映画シリーズの新作を期待する発言が公表された。
 それによると、現在は2つのアイデアが検討されているよ
うで、その一つはカーク船長を中心としたオリジナルシリー
ズのメムバーが関わるもの。そしてもう一つは現在放送中の
“Enterprise”の劇場版だそうだ。しかし製作者に言わせる
と、どちらももう一つアイデアが足りないということで、そ
の新たなヒントが求められているそうだ。
 また、製作者の希望としては、ロミュラン帝国との戦いを
描きたいということで、その基本にはオリジナルシリーズの
第1シーズンに放送された“Balence of Terror”のエピソ
ードが考えられているようだ。因に、このエピソードは、ポ
ール・シュナイダーの脚本、ヴィンセント・マクエヴィーテ
ィの監督によるもので、初登場のロミュラン司令官には、後
にスポックの父親サレックを演じるマーク・レナードが扮し
ていた。
 ということは、必然的にオリジナルシリーズの物語になり
そうだが、実は、惑星連邦とロミュランとの間で最初の和平
が結ばれるのは2160年、そして現在放送中の“Enterprise”
の時代設定はすでに2154年になっているのだそうで、どちら
の物語も可能なアイデアのようだ。
        *         *
 最後は、夏の納涼という訳でもないだろうが、幽霊映画の
計画が続けて発表されている。
 1本目はソニー/コロムビアの計画で“Ghost Story”。
如何にもという題名だが、この幽霊の登場する場所がホワイ
トハウスというのが味噌で、大統領府を巡るいろいろな伝説
を、新大統領の11歳の息子の目を通して描くものだ。因に、
ジョン・フェルスンと共に本作の脚本を執筆したラスティ・
ゴーマンによると、ウェブで"White House" ghostと入れて
検索すると15000件以上ヒットするそうだ。
 もう1本はモーガン・クリークから、“The In-Between”
という計画が発表されている。お話は、高校生の少女が、死
んだ元ボーイフレンドの幽霊につきまとわれるというもの。
彼は死後の世界で一緒に暮らそうと言い寄るのだが…。ジョ
ン・グラスコーの脚本で、アメリカ配給はユニヴァーサルが
担当することになっている。



2004年07月14日(水) ジャスティス/闇の迷宮、ロード88、IZO、マーダー・ライド・ショー、コウノトリの歌、キング・アーサー

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介しています。     ※
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『ジャスティス/闇の迷宮』“Imagining Argentina”   
クリストファー・ハムプトンの監督、アントニオ・バンデラ
ス、エマ・トムプスン共演による、ちょっと捻りのあるポリ
ティカルスリラー。                  
1976年のクーデターにより軍部が政権を握ったアルゼンチン
で起きた実話を基づく作品。              
ジャーナリストの妻と愛娘と共に暮らす主人公。その妻が、
軍政下で失踪した人々の謎に迫る記事を発表した途端、明ら
かに誘拐され失踪者となる。ところが警察は、確実な目撃者
がいるにも関わらず、まともな捜査を行おうとしない。  
その頃から主人公は幻覚を見るようになる。それは失踪者た
ちの姿が見えるもので、彼自身がそれは真実であると確信す
るようになる。そしてそれを人々に伝えるための集会を開く
が、彼には自分自身の妻の現在を見ることが出来ない。  
一方、誘拐された妻は、軍の監視下におかれ数々の陵辱を受
け続けるが、彼女は自分の信念を曲げない。そしてついに、
彼の集会も軍部の監視を受けるようになり、さらに彼の仲間
や娘までもが失踪者となってしまう。          
映画の最後には、70年代以降の現在までの世界中での政治
に関わる失踪者の数が次々に表示される。その総数がいくら
になるか、計算はしなかったが、物語の舞台のアルゼンチン
だけで3万人、他にコンゴで9万人などと書かれていたよう
に見えた。                      
映画の中では、アウシュヴィッツからの生還者のユダヤ人老
夫婦が出てきたり、軍政内にハーケンクロイツの腕章を付け
た男たちが居たりと、ちょっとやりすぎの感じのする描写も
あったが、全体的に告発したいことは分かり易い。    
主人公の持つ能力も、荒唐無稽かも知れないが、描きたいこ
との本質を描く意味では有効な手段だったように思った。 
なお、ここに描かれた失踪者に関しては、今もアルゼンチン
政府はその全ての事実は認めていないようだ。そして現在の
政治家のやり方を見ていると、日本もいつこうならないとは
言い切れない感じがした。               
                           
『ロード88』                    
映画の最後に骨髄バンクのドナー登録を訴えるテロップが表
示される。今も故夏目雅子さんが登場するテレビCMが流さ
れているが、この映画もその主旨に乗って作られた作品。 
2003年秋、骨髄性白血病と闘う少女が、徳島から、高知、愛
媛、香川へと巡る四国88ヶ所の遍路に挑む。日活や独立系の
成人映画を多く手掛けてきた中村幻児監督作品。     
監督はこの映画の実現のため、出資者の募集などに数年を費
やしたということだが、何が彼をそのような衝動に駆り立て
たかは明らかにされていない。しかし彼の思いが作品の隅々
まで横溢する、そんな感じの作品だった。        
難病の少女を囲む、過去の栄光にしがみつく落ちぶれた芸人
と、彼を再起させようとする製作プロダクションスタッフ、
そして犯罪に手を染めているらしい中年の男。こんな書いて
いても気恥ずかしくなるような人物設定を、いけしゃあしゃ
あと登場させる製作態度が、見事に映画を成功させてしまっ
ている。                       
重いテーマを、極力明るく、そして一種のメルヘンにして描
き上げる。そんな製作のコンセプトは容易に読み取れる。だ
から上述のような強引な人物設定も許されるし、御都合主義
満載の展開も許される。しかし、監督はそこに単純に甘えて
はいない、これらの設定や展開が破綻のないように丹念に描
いている。                      
台詞の端々や設定の端々が、背景の事情や登場人物たちの微
妙な心理を描き出す。そこから物語への想像が膨らむ。さす
がに大ベテランの作品という感じだった。        
主人公をヴォーカルグループBOYSTYLEの村川絵梨が演じ、脇
を、芸人=小倉久寛、スタッフ=須藤理彩、津田寛治、中年
男=長谷川初範らが固める。他に、高松英郎、黒田福美、川
上麻衣子。また、空海の化身らしい遍路役で神山繁が登場す
る。                         
お遍路を描いた映画も、『旅の重さ』や、『死国』なんての
もあったが、四国4県を全てロケした作品は史上初めてなの
だそうだ。かなりの数の寺の風景が実景で写されているのも
良い雰囲気だった。                  
                           
『IZO』                      
過激な暴力描写で話題となることの多い三池崇史監督作品。
1865年5月に処刑された人斬り以蔵の名で知られる岡田以蔵
の魂が、時空を超え、現代、過去を駆け巡って天誅を下しま
くる物語。その矛先は、政治家のみならず、官僚、宗教、財
閥、学会、遂にはその背後に居る御方にも向けられるが…。
一応、R−15指定にはなっているようだが、それは多分性描
写の影響と思われ、人斬りのシーン自体は同じ監督の『殺し
屋1』の方が過激だった。斬って斬って斬りまくる映画とい
うことで多少期待したが、今回はあまり奇想天外という訳に
は行かなかったようだ。                
しかし、物語として明らかに戦後民主主義を揶揄している辺
りは、ニヤリとさせられる。最後は…だが、これはまあ、い
ろいろ考えれば仕方のないところだろう。もっとも脚本家の
思想が左右のどちら側かは定かでないが。        
ただ、主人公のIZOが不死身という設定は判るが、ちょっ
と斬られ過ぎ撃たれ過ぎという感じは持つ。これでは、お互
い異界の存在であるはずの闘いの相手に対して、IZOだけ
が一方的に不死身の感じがして、ちょっと落ち着かない。 
もっと神掛かり的に敵の攻撃を受けないようにしても良かっ
た気もするが、それでは監督が狙う血みどろの映像が描けな
かったというところか。                
なお斬られ役には、実にいろいろな顔ぶれが登場するが、こ
れで話題になれば、それもそれでよしというところだろう。
                           
『マーダー・ライド・ショー』“House of 1000 Corpses”
ロックバンドWhite Zombiesを率いるミュージシャン、ロブ
・ゾンビが手掛けた長編劇映画の監督デビュー作。    
映画は2000年に完成していたが、製作を手掛けたユニヴァー
サルが公開を認めず、監督は権利を買い戻して配給先を探す
が、最初契約したMGMも土壇場でキャンセル。結局、昨年
4月にライオンズ・ゲイト社の手で全米公開されたが、興行
収入はトータル1100万ドルを記録したそうだ。      
お話は、旅行中の若者グループが立ち寄った家で、カルト教
団的な殺人集団の餌食になるという、まあ良く有るティーン
ズホラーのパターンの一つ。取り立てて殺しの手口に新奇性
が有る訳でもなく、全米でのヒットは監督個人の人気に拠る
ところが大きいのだろう。               
こういう人の作品だからもっとぐちゃぐちゃなものかと思っ
ていたが、思いのほかまともな作りで、映画をそれなりに真
剣に考えている点は認めてあげたい。ただもっと新しいもの
を出さなくては…。                  
続編の製作も進行しているようだが、2匹目のドジョウがど
れくらい大きいかは、正直に言って開けてみなければ判らな
い感じだ。                      
なお、殺人集団の母親役でカレン・ブラックが出演。『ファ
イブ・イージー・ピーセス』などで認められた女優だが、最
近はかなりジャンル作品への出演が多いようだ。     
                           
『コウノトリの歌』“vu khuc con co”         
2001年製作のヴェトナム・シンガポール合作映画。    
ヴェトナム戦争をヴェトコン側から描いた作品。     
前回も『フォッグ・オブ・ウォー』を紹介したばかりだが、
あの中でも語られていた「全員が犠牲になっても国を開放す
る」というヴェトコンの思想が、この映画を見るとなるほど
本当だったのだと理解できる。             
もちろん、現在も共産主義国であるヴェトナムで作られた映
画だから、思想が変らないのは当然だが、家族も何もかもを
犠牲にして闘った人々の姿は、アメリカ人にはとうてい理解
できなかったものだろう。               
物語は、従軍カメラマンだったチュイと、南に潜入していた
諜報部員ヴァンの姿を追って描かれる。2人は今も健在で、
映画には本人たちも登場しているが、特に現在も映像作家で
あるチュイは、ナレーターとして映画の進行役も勤める。 
しかし戦闘シーンと言っても、アメリカ映画ほどの物量で描
ける訳もない本作では、主に人間ドラマに重きがおかれてい
るが、その意味では、いろいろな兵士のエピソードが語られ
るチュイのパートは印象が散漫になる。         
それに対して、諜報部員ヴァンのパートは、フィクションの
部分も多いのだろうがそれなりにドラマティックだ。特にサ
イゴン陥落後、初めて軍服姿で以前に暮らしていた家を訪れ
るシーンでは、彼を見つめる年老いたメイドの姿が印象的だ
った。                        
映画の全体的には、正直に言って素朴だし、しかも出演者が
アジア人なので、かなり昔の日本映画を見ているような感じ
だったが、このメイドの姿には、本当の当事者でしか表わせ
ない、そんな雰囲気が漂っていた。           
                           
『キング・アーサー』“King Arthur”          
『パイレーツ・オブ・カリビアン』のジェリー・ブラッカイ
マーが製作した歴史ドラマ。              
アーサー王伝説は、紀元6世紀ごろの物語と伝えられるが、
本作が描くのはその伝説の元になったとされる西暦415年ご
ろの物語。主人公は、ローマ支配下のブリテンに派遣された
ローマ人と中央アジアの戦士たち。           
映画の始まりでアーサーがローマ人、ランスロットが中央ア
ジアの出身者と言われたときには、正直かなりの違和感を覚
えた。しかし物語が進むにつれ、そのような違和感は消え、
純粋に物語として楽しむことが出来た。         
しかも物語の中には、エクカリバーの伝説や、円卓、マーリ
ン、またグウィネヴィアを巡るアーサーとランスロットの確
執などもそれとなく描かれるから、それなりに楽しむことも
出来るようになっている。               
中央アジアの国サルマート。ローマとの戦争に破れたこの国
の戦士たちは、ローマのために闘うことを義務づけられる。
そして子孫もその義務を負い、少年ランスロットは15年間の
兵役に着くことになる。                
任地はローマ支配下のブリテン。そこでランスロットは、ロ
ーマ人の血を引く司令官アーサーの下、同じサルマートの戦
士たちとともに数々の武勲を立てる。そして15年が経ち、ロ
ーマ法王からの兵役解除の指示書の届く日がやってくる。 
しかし先住民のウォードの反抗と、北からの侵入者サクソン
の脅威に、ローマ法王庁はブリテンからの撤退を決定。そし
て兵役の最後の日、アーサーたちに北の砦にいるローマ人一
家救出の命令が下される。それは、今までにない過酷な命令
だった。                       
脚本のデイヴィッド・フランゾーニは、2000年の『グラディ
エーター』でオスカーを獲得しているが、本作も受賞作と同
様、上からの命令に翻弄される男たちの悲劇が描かれる。こ
れを、『トレーニグ・デイ』のアントワン・フークワ監督が
力強く映像化した。                  
見せ場は戦闘シーンになるが、その描き方は、『タイムライ
ン』や『トロイ』より、まさに人間の戦闘という感じで、ど
ちらかというと『ラスト・サムライ』に近いものを感じた。
雪に包まれた風景などにも雰囲気があり、結構日本人の感覚
にも合いそうな感じもした。              
出演は、アーサーに『すべては愛のために』のクライヴ・オ
ーウェン、グウィネヴィアに『パイレーツ…』のキーラ・ナ
イトレイ、そしてランスロットには大作の主役級は初めての
ヨアン・グリフィズ。特に、ナイトレイにはかなりのアクシ
ョンシーンもあり、よく頑張っていた。         
                           
『・・・』                      
やはり、一応書いておかなければならないと思うので、書く
ことにしよう。                    
実はある作品の試写会で極めて不愉快な事態に遭遇した。 
この試写会はファミリー試写会と称して、1枚の試写状で招
待を受けた本人を含め3人が入場できるようになっていた。
このこと自体は、かく言う僕も家内と高2の息子を連れて行
ったし、いつも一人で試写を見に行っている身としては、家
族サーヴィスの意味でも有り難いものだった。      
ただし、試写会はあくまでも業務試写で、招待客はマスコミ
関係者。また試写状には上映が字幕で行われることが明記さ
れていたものだ。ところが当日の会場には、とうてい招待を
受けた本人が含まれていると思えない餓鬼の3人連れや、字
幕が読めるとは思えない幼児が入場していたのだ。    
そして上映が始まると、僕の左からは幼児の声で、「どうし
たの?どうしたの?」の連続攻撃と、それに答える女性の茶
の間を思わせる声高な会話。さらにしばらくすると、前に座
った3人組の間で、着信メールの回し読みが始まってしまっ
た。                         
この事態に堪忍袋の緒が切れた僕は、映画の途中で両者に注
意をしてしまった。その後はどちらもその行為を止めたのだ
から、特に幼児は最初から黙らせることもできたと思うのだ
が、それをしない神経がまったく理解できなかった。   
最近映画館では、上映前にマナー広告が流れるようだが、特
に業務試写では観客は関係者を想定している訳だし、そのよ
うなことは事前に承知という了解だろう。        
しかし私語や携帯電話以外にも、何のファッションのつもり
か髪をつんつんに立てたり、座席で背筋を伸ばして、わざと
しか思えない状態で、後ろの観客の視野を遮っている輩も目
立つようになってきた。                
僕らは長く映画を見てきているし、そういう関係者の間では
暗黙の了解のマナーが存在していると思う。しかし最近は何
の業界か判らないような連中の進出が多く、そういう連中の
中では、試写会でも連れ立って席取りをしたり、マナー違反
が目に余ってきた。僕はこの状態を由々しく思っている。 
なお、映画に関しては、申し訳ないが冷静でない状態で見て
しまったので、正当に評価をすることができない。従ってこ
の文が映画の紹介でなくなったことを、お詫びします。  



2004年07月01日(木) 第66回

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
※このページは、キネマ旬報誌で連載中のワールドニュー※
※スを基に、いろいろな情報を追加して掲載しています。※
※キネ旬の記事も併せてお読みください。       ※
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
 今回はリメイク(?)の話題から。
 1968年に故スティーヴ・マックィーンが演じたタフガイ刑
事“Bullitt”(ブリット)を、『トロイ』のウルフガング
・ペーターゼン監督で復活させる計画が、ワーナーから発表
された。
 オリジナルは、ロバート・L・パイク(『殺人同盟』シリ
ーズなどのロバート・L・フィッシュの別名)原作の“Mute
Witness”という小説を、ピーター・イェーツ監督で映画化
したものだが、今回の計画では、フランク・ブリットのキャ
ラクターは登場するものの、物語は原作に拠らないというこ
とで、ペーターゼンも、「これはリメイクではなく、偉大な
キャラクターの復活だ」としている。
 そして、その現代化させた脚本は、ワーナーでジョール・
シルヴァ製作の“The Brave One”などを手掛けるシンシア
・モートが執筆する。
 因に、オリジナルでは、サンフランシスコを舞台に、坂道
をジャンプしながら疾走するカーチェイスのダイナミックな
描写が話題となったものだが、今回の計画でそれは復活する
のかどうか。ペーターゼンなら、まずそこを再現しそうな感
じだが…、期待したいところだ。
 キャスティングは未定。ただし本作では、オリジナルの権
利の一部を故人が所有していたということで、共同製作には
遺児のチャド・マックィーンが参加している。俳優だったこ
ともあるチャドは、現在は40代半ばくらいのはずだが、父親
の跡目を継いで彼自身の復活ということはあるのだろうか。
        *         *
 「偉大なキャラクターの復活」ということではこれもワー
ナーから、前々回、前回も報告した“Superman”の続報で、
まだ会社側からの正式な製作発表はないが、実務を担当する
製作者との交渉が始まったという報告が届いている。
 この計画では、元々は初期の『バットマン』の映画化を手
掛けたジョン・ピータースが製作を担当していたものだが、
1998年にティム・バートン監督、ニコラス・ケイジ主演でス
タートした復活劇は頓挫。その後昨年には、ブレット・ラト
ナー監督で進めようとした計画も、ピータースとラトナーの
意見対立でご破算となっていた
 ということで、ワーナー側もこのままピータースには任せ
ておけないということになったのか、新たに別の製作者を据
えることになったようだ。
 そこで交渉されているのが、『ワイルド・スピード』や、
『XXX』、それに『SWAT』などを手掛けるニール・モ
リッツと、『ゴーストシップ』や、新作の“Constantine”
“Starsky & Hutch”などのギルバート・アドラー。彼らを
製作者に起用して、J.J.アダムス脚本、McG監督によ
る計画を一気に進めたい意向のようだ。
 ただし、ここで1つ問題があって、実はモリッツは、現在
もオーストラリアでロブ・コーエン監督の新作“Stealth”
(2003年1月15日付第31回に“Warrior”として紹介)を製
作中だが、今年の初めに同作を配給するソニー=コロムビア
と映画製作に関する優先契約を結んだばかりなのだ。
 従って、前回ジョン・ウー監督とパラマウントの関係でも
述べたように、今回のワーナーの計画に参加するためには、
コロムビア側の了解が必要になるということ。しかしモリッ
ツはすでに“Stealth”の製作も進めているということで、
この点は何とかなるのではないかという観測のようだが…。
 そしてこのモリッツの起用では、すごい噂が飛び出してき
ている。それは彼が、今回登場する敵レックス・ルーサー役
に、ヴィン・ディーゼルの出演を考えているというものだ。
このルーサー役には、当初はジョニー・デップが交渉され、
そのデップがジョー・エル役を希望していたことは前々回紹
介したが、それに代わるルーサー役としてディーゼルの出演
があるかも知れないということだ。
 因に、今回予定されている物語では、ルーサーと共にクリ
プトン星から飛来する謎の殺人者が、スーパーマンの直接対
決する相手となるようで、この展開ならジョー・エルもルー
サーも、出番はそれほど多くなさそうだ。ということで、こ
の豪華共演も何とか実現してもらいたいものだ。
 また、前回報告した主役のスクリーンテストでは、他に、
“Roswell”のジェイスン・ベア、“New York Minute”のジ
ェアード・パダレッキー、さらにマイクル・キャシディらが
参加していたということで、これで前回報告と合わせて判明
は5人。実際は6人が参加していたということだが、彼らの
中から、一体誰が選ばれることになるのだろうか。
 順調に行けば、年内にもオーストラリアで撮影開始という
ことで、すでに同地でのロケーションハンティングも開始さ
れたようだ。
        *         *
 後2つリメイクの続報で、
 まずは同じくワーナーから、すでに撮影の開始されたティ
ム・バートン監督、ジョニー・デップ主演の“Charlie and
the Chocolate Factory”に出演する子供たちの配役が発表
されている。
 その配役では、まずタイトルロールのチャーリーに、昨日
付の映画紹介でも報告した『トゥー・ブラザース』などのフ
レディ・ハイモア。12歳の彼は、“Finding Neverland”で
もバリー役のデップと共演しているので、相当に気に入られ
ての主役抜擢ということだろう。
 そして、どんなコンテストにも優勝しないと気が済まない
ヴァイオレット・ビュールガード役には、ウェイン・ウォン
監督の新作“Winn-Dixie”にも出演しているアナソフィア・
ロブ。彼女とハイモアで、子供たちの演技を引っ張っていく
ことになりそうだ。
 以下は新人で、食いしん坊のアウグスタス・グループ役は
フィリップ・ウェイグラッツ、テレビ狂のマイク・ティーヴ
ィー役はジョーダン・フライ、大金持ちの娘ヴェルーカ・ソ
ルト役はジュリア・ウィンターが演じることになっている。
 また、チャーリーと行動を共にするジョー爺さん役には、
デイヴィッド・ケリーの出演も発表されている。
 撮影は6月21日にロンドンで開始されたが、さらにこの映
画製作には、世界的なチョコレートメーカーのネスレが全面
協力するということで、来年7月15日に予定されている全米
公開時には、相当のキャンペーンが展開されることになりそ
うだ。なおネスレでは、原作に因んだウィリー・ウァンカの
チョコレート工場というのも所有しているそうだ。
        *        * 
 もう1つはパラマウントの計画で、前々回紹介したジョー
ジ・A・ロメロ原作“The Crazies”のリメイク脚本に、先
に公開された“The Texas Chainsaw Massacre”のリメイク
も担当したスコット・コーザーの起用が発表された。
 コーザーはこの他にも、MGM/ディメンションの共同製
作で進められている“The Amityville Horror”も担当して
おり、ホラー映画のリメイクでは、いきなりスペシャリスト
になってしまったようだが、“The Texas …”の評価も極め
て高いので期待が持てそうだ。なおコーザーは、パラマウン
ト・クラシックスで今秋公開予定の“The Machinist”や、
ソニーで計画中の“Salem”という作品も手掛けてる。
 そしてこの計画に、ロメロが製作総指揮として参加するこ
とも発表された。これでロメロがどのような役割を果たすの
かは不明だが、少なくともこの春公開された作品のような、
原作を蔑ろにしたリメイクだけは、彼の力で阻止してもらい
たいところだ。
        *         *
 続いては新作の情報で、ラッセ・ハルストロームの監督、
トム・ハンクス、ジュリアン・ムーア共演で、西部劇の計画
が発表されている
 この作品の題名は、“Boone's Lick”。ラリー・マクマト
リーの原作から、原作者とダイアナ・オサナの脚色で映画化
するもので、開拓時代にミズーリ州ブーンズ・リックから、
夫が居るはずのワイオミングの砦まで、その後を追って家族
を引き連れ、ぼろぼろの幌馬車で向かって行った女性を主人
公とした物語。
 この女性をムーアが演じ、ハンクスは行動を共にする夫の
弟役。さらにこの旅には、4人の子供と彼女の父親も加わっ
ているというものだ。そして物語は、彼女と義弟が恋に落ち
るという展開になるようだが…。
 なお計画は、ハンクス主宰のプレイトーンが進めているも
のだが、実は、監督と主演女優が決定されるまでは計画の存
在自体が秘密にされていたということで、それがようやく発
表されたもの。ただし監督には、先にヒース・レジャー主演
の“Casanova”の計画が発表されており、今回の計画が直ち
に実現という訳ではない。しかし監督からは、1年以内に実
現したいという意向も伝えられているようだ。
 因に、題名にもなっているブーンズ・リックは、町の名前
の他に、Boone's Lick Roadというのもあるようだが、これ
は西部の英雄ダニエル・ブーンが切り開いたとされる西部へ
の道筋ことで、1800年代の前半には数多くの西部開拓団がこ
れを辿って、サンタフェやオレゴン、カリフォニアへと向か
って行ったものだそうだ。
 そして今回の物語も、その道筋に沿って描かれるものにな
りそうだ。いつも圧倒的な迫力でドラマを展開してみせるハ
ルストロームだが、今回は西部の荒野を背景に、一体どんな
作品となるのだろうか。
        *         *
 お次は、『ハリー・ポッター』の第3作以降は製作に廻っ
たクリス・コロンバスの、監督復帰の計画がユニヴァーサル
から発表された。
 計画されているのは、“Sub-Mariner”というマーヴェル
コミックス原作の映画化で、アトランティスの王子ナモーを
主人公とした海洋冒険物語。海洋汚染や、侵略、戦争などを
扱った壮大な内容ということだが、主人公は、あるときは人
類を助け、あるときは敵対するということで、必ずしも常に
味方というものではないようだ
 また、この主人公は、実はコロンバスが長年フォックスで
計画を進めていた“Fantastic Four”の登場人物でもあるよ
うだが、彼だけを主役にした独立したシリーズでも発表され
ているということで、今回はその独立シリーズの映画化とい
うことになる。
 そしてこの計画自体は、長年ユニヴァーサルで進められて
きたもので、すでに『ロード・トゥ・パーディション』など
のデイヴィッド・セルフによる脚色もできているようだ。
 因にコロンバスは、“Fantastic Four”の計画からはすで
に離れたようだが、それにしても、関連した計画を他社で進
めるとは、よほどこの原作に愛着があるということなのだろ
うか。ここまで来たら、“Fantastic Four”の映画化も彼の
手で実現してもらいたいものだ。
        *         *
 『シュレック2』では久々のマシンガントークを炸裂させ
て、活きの良い声を聞かせてくれたエディ・マーフィの出演
で、シェークスピアの“Romeo and Juliet”をモティーフに
したタイトル未定のコメディ作品の計画が、ドリームワーク
スから発表されている。
 『ロミオとジュリエット』と言えば、『ウェストサイド物
語』から『アンダーワールド』まで、数多くの作品で引用さ
れてきた恋人たちの悲恋を描いた名作だが、今回の計画は、
実は恋人たちの両親の視点から描いたお話ということで、最
近は『チャーリーと14人のキッズ』などで父親役が板に付い
てきたマーフィにはピッタリの作品になりそうだ。
 脚本は、1970年代のマーフィのSaturday Night Live時代
からの盟友で、『ナッティ・プロフェッサー』の2作なども
手掛けたバリー・ブラウスタインとデイヴィッド・シェフィ
ールド。息の合ったコメディを期待したい。因にこのコンビ
は、パラマウントがセドリック・ジ・エンタテイナーの主演
で劇場版リメイクを進めている“The Honeymooners”の脚本
も手掛けているようだ。
 なお、マーフィの次回作には、レヴォルーションで『チャ
ーリー…』の続編“Daddy Day Camp”が予定されている。 
        *         *
 ユニヴァーサルから、“Time After Time”という題名の
ミュージカル映画の計画が発表されている。
 この計画は、先にアン・リー監督の『ウェディング・バン
ケット』のステージミュージカル化などを手掛けた劇作家の
ブライアン・ヨーキーが進めてきたもので、実はヨーキーと
舞台監督のマルコス・シーガらは、今年1月にプロスペクト
というプロダクションを設立し、1万5000ドルの自費を
投じて、すでに出演者のオーディションや、歌唱やダンスの
リハーサルも、3カ月以上を掛けて行ってきている。
 そしてその成果を、ハリウッドの主なスタジオの製作担当
を招いて披露し、映画化権の売り込みを行ってきたもの。な
お、その場で披露されたのは、30分ほどの抜粋だそうだが、
帰り際にはアップル社の最新型iPodが手渡され、それをオフ
ィスのPCに差し込むと、そこから全体の概要と音楽が再生
される仕組みで、その中からユニヴァーサルが、最高75万
ドルの契約金で契約を結んだというものだ。
 内容は、現代の10代の少女が1985年にタイムスリップし、
その時代の音楽に触れると共に、彼女の母親の親友になって
しまうというもの。お話的には、同社の『バック・トゥ・ザ
・フューチャー』にも近い感じだが、これを1980年代のポッ
プミュージックに載せて描くということで、すでに当時の歌
姫シンディ・ローパーの協力を得て、彼女は映画への出演も
約束しているということだ。
 また、今回の出演者には、基本的に映画化権が売れるまで
は無給だったそうだが、すでにリハーサルを見にきた映画関
係者から声が掛かって、この秋公開の“Shall We Dance ?”
のハリウッドリメイクや、ディズニーランドのショウの主役
に抜擢された人もいるということだ。
 これも、アメリカンドリームということになりそうだが、
すでに“Monster-in-Law”などのアニヤ・ココフの製作総指
揮も決まって、映画化は早期に始まりそうだ。また、映画化
後にはステージミュージカル化の計画もあるようだ。
 ただこの題名は、1979年公開のニコラス・メイヤー監督、
マルカム・マクダウェル、メアリー・スティーンバージェン
共演のワーナー作品と同じだが、一体どうするのだろうか。
        *         *
 『ジョンQ』などのニック・カサヴェテスの監督で、SF
映画の計画が、ニューラインから発表されている。
 計画されているのは、“The Martian Child”という作品
で、SF作家のデイヴィッド・ジェロルド原作による短編小
説を、ジョナサン・トーリンとセス・バスの脚色で映画化す
るもの。父と子の関係を描いた『E.T.』と『バックマン家
の人々』を混ぜ合わせたような作品と紹介されていた。
 お話は、SF作家の主人公が婚約者の死に遭遇し、彼女の
6歳の息子を養子にするが、やがてその子が同じ世代の他の
子供と異なることに気付き始める。そしてついにはその子が
異星人の子供であると信じ込むようになるという展開。この
ままではちょっと精神異常者の話になってしまいそうだが、
原作者がSF作家なのだからそういうものではないだろう。
 そしてこの主人公を、『ニューオーリンズ・トライアル』
のジョン・キューザックが演じることも発表されている。
 なおカサヴェテスは、ニューラインで“The Notebook”と
いう作品を脚色監督したところだが、同社ではその脚色が出
来た直後から本作の計画を提案していたということで、優秀
な監督をがっちり押さえておこうという考えのようだ。撮影
開始は、今秋が期待されている。
        *         *
 後は続報で、
 まずは、以前から紹介している、クリス・ヴァン・オール
ズバーグ原作の“Zathura”の映画化で、主人公となる兄弟
の父親役に、今年のオスカー助演賞を受賞したティム・ロビ
ンスの出演が発表された。
 この作品は、当初は1995年に公開された『ジュマンジ』の
続編として計画されていたが、現在は独立した作品として考
えられているということで、すでにデイヴィッド・コープ、
ジョン・カンプス、エリック・フォーゲルらによって書かれ
た脚本から、ジョン・ファブローの監督も決まっている。
 ファブローは、ヴィンス・ヴォーンとの共演作などで俳優
としても知られるが、2001年にヴォーンの共演で、自ら主演
と監督を兼ねた“Made”という作品は、その演出でも高い評
価を得ており、同じく俳優で、監督としてもオスカー候補者
になったロビンスを迎えての監督ぶりも楽しみだ。
 撮影は8月に開始の予定。
        *         *
 もう1本、この夏に撮影されるシャーリズ・セロン、フラ
ンシス・マクドーマンド共演の“Aeon Flux”で、VFXを
フランスのBUF社が担当することが発表された。
 因にこの会社は、昨年公開された『ワイルドスピード2』
や、『アンダーワールド』のディジタルFXで知られるが、
『マトリックス・リローデッド/レボリューション』にも参
加しており、以前に書いたように、『マトリックス』ばりの
VFXアクションが大いに期待できそうになってきた。
        *         *
 最後に、一部日本でも報道されていたが、“Astroboy”に
続く日本製アニメーションのハリウッド版実写映画化の計画
で、“Speed Racer”(マッハGo!Go!Go!)に新しい動きが公
表された。
 因にこの計画は、ジョール・シルヴァとリチャード&ロー
レン・シュラー・ドナーというワーナーではトップクラスの
製作者が共同で進めており、元はトム・クルーズやジョニー
・デップらの出演も検討されていた。しかし、ファンタステ
ィックなレースシーンの再現に巨額の製作費が予想され、そ
のままでは実現困難として、そのようなシーンを最小限とす
る計画変更が迫られていた。
 そこで、今回公表されたのは、6月第3週に全米第1位を
記録した“Dodge Ball”(主演ベン・スティラー)の共演者
ヴィンス・ヴォーンが立てた企画で、原作アニメーションの
大ファンという彼は、主人公の長く行方不明だった兄(レー
サーX)を演じるという計画。そして物語は、兄の出現を巡
る家族ドラマを中心とするということで、これならレースシ
ーンを最小限にして映画化も可能になるというものだ。
 とは言え、レースを転戦する主人公を追ったこの作品に、
そのシーンは欠かせない筈で、それをどうするのか。ヴォー
ンのアイデアに沿った脚本は、これから脚本家を選定して作
られることになるが、まずは脚本の完成が第1関門になりそ
うだ。


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井口健二