井口健二のOn the Production
筆者についてはこちらをご覧下さい。

2003年12月31日(水) ヘブン・アンド・アース、恋する幼虫、悪霊喰、ブラザー・ベア、ハンター、ソニー、ギャザリング、ドッグヴィル

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介しています。     ※
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
『ヘブン・アンド・アース』“天地英雄”        
ソニー=コロムビア資本で製作された中国映画。     
唐と呼ばれていた時代の中国西域を舞台にした物語。シルク
ロードによる交易が盛んになる中、西域には仏教を基とした
諸国が成立している。しかしその間の争いは絶えず、さらに
西からはトルコによる侵略が始まっている。       
そんな中に一人の日本人・来栗がいた。彼は、遣唐使として
13歳で海を渡り、長安で武術、戦術を学び、その才能を認め
られて、皇帝の命により悪人を捕える官吏となっている。し
かし渡航して25年が経ち、望郷の念に苛まれている。   
その来栖に、帰国の許可と最後の任務が与えられる。その任
務とは、皇帝に任官された上官の命に背き、トルコ人処刑の
拒否とその逃亡を助けた男・李の逮捕または殺害。しかし李
の行った行為は人道に叶ったものだった。        
ところがその上官がトルコ軍に殺され、来栖は上官の娘を安
全な長安に送り届ける役を受ける。そしてその行程で、来栖
は隊商を護衛する李と遭遇、壮絶な闘いの中で李の人格に触
れた来栖は、李が隊商警護の任を全うした後、長安で決着さ
せることとして、旅を共にすることになる。       
しかしその隊商には、西域の将来を左右する重要なものが積
まれており、それをトルコ軍が執拗に狙っていた。    
この日本人・来栖役を中井貴一がある意味飄々と巧みにこな
している。実際には、李と上官の娘・文殊にもう少し焦点が
当てられてもいいし、多分三角関係になっているところも匂
わせるが、敢えてその辺を切り落としてアクション映画に徹
しているところは巧い。                
そのアクションは、来栖と李の1:1の闘いも良かったし、
町中での闘いや騎馬戦、そしてトルコ軍との壮絶な戦闘も巧
く描かれていた。実際、ほとんどのべつ幕無しに、手を変え
品を変えての闘いが続く構成も見事だった。       
上映時間は1時間59分。よく似た作品では、先に韓国映画の
『MUSA』があり、あの作品は2時間13分もあった割りに
はちょっと喰い足りない感じだったが、その点、本作の長さ
は丁度よいという感じだった。それだけ密度が濃いと言うこ
とだろうか。                     
                           
『恋する幼虫』(日本映画)              
前作『クルシメさん』が話題になった劇団・大人計画の俳優
でもある井口昇監督の新作。              
前作も見ていないし、特別に見る理由はなかったのだが、取
り敢えず同姓と言うことが気になって見に行ったというとこ
ろ。上映前に挨拶があり、自主映画のスタンスと言うことな
ので、評価もそこから出発したい。           
物語は男女のトラウマを背景に、それが引き起こす騒動を描
く。そして全体は、ちょっとH(Horror)なラヴコメディー
として展開する。テーマ自体は悪くないし、自主映画の割り
には、荒川良々、新井亜樹、乾貴美子といった俳優も揃って
いて、見ていて違和感はなかった。自主映画の中では水準は
高いと言える。                    
だが、構成がやはり弱い。劇団系の人の作品にはいつも同じ
ような感じを持つが、結局、映画と舞台の違いがそこにある
のかもしれない。1時間50分の作品だが、単純には後20分ほ
ど短くした方が良いように思う。全体にテンポが感じられな
いと言うか、映画のテンポではないのだ。        
それから結末は、やはりハッピーエンドはおかしい。この展
開では、アンハッピーエンドにするのがセオリーだろう。敢
えてセオリー外しをしたと言いたいかも知れないが、その域
に達してはいない。いろいろ苦言を呈したが、次回作も見た
いという気持ちは持った。               
                           
『悪霊喰』“The Sin Eater”              
最初に、配給会社の資料でこの映画の原題は“The Order”
となっている。確かに9月にアメリカで公開されたときに題
名も“The Order”だったようだ。しかし試写で上映された
フィルムの記載は“The Sin Eater”となっており、僕はそ
の原題を採用する。                  
原題の意味は、極悪人の罪をも喰ってしまい、罪びとを天国
に導いてしまう能力を指す。映画の中では、ゴルゴダの丘で
十字架に架けられたキリストも、隣に架けられた罪びとの罪
を喰ったと説明される。                
しかし現在のキリスト教では異端の存在であり、それを研究
することも異端とされる。そして主人公は、ニューヨークで
そのSin EaterやExocismなどを研究している司祭。しかし研
究の指導者だった先輩の司祭がローマの研究室で謎の死を遂
げてしまう。                        
主人公は、その調査を法王庁の枢機卿から依頼される。そし
てローマに飛んだ主人公は、現代に生きるSin Eaterの存在
に行き当たる。                    
Sin Eaterという言葉は以前から聞いていたが、その実際の
意味や歴史的な背景などを詳しくは知らなかった。この作品
は、その辺りを判りやすく説明してくれているもので、その
意味では勉強になる作品で興味深かった。        
と言っても、そんなことに興味を持つ人間がどれだけ居るか
ということで、興味がなければおしまいかもしれない。確か
に人間ドラマとしては中途半端なところもあるし、ちょっと
物足りないのだが、僕はそれなりに楽しめた感じだ。   
監督のブライアン・ヘルゲランドは、『ロック・ユー』など
でも知られるが、脚本家として『L.A.コンフィデンシャ
ル』や、最近ではクリント・イーストウッド監督の『ミステ
ィック・リバー』なども手掛けている。         
ただしこれらの作品では、共通して人間が描けていない印象
を持ち、僕は一部の作品では不満も感じている。しかし本作
では、逆に人間関係を排してSin Eaterの存在に迫っている
辺りが好ましく、こういう作品には向いているかも知れない
とも感じた。                     
それから本作では、現地ロケされたローマの風景が美しく、
映画の内容から見て内部の撮影は別なのだろうが、いろいろ
な寺院の映像も美しかった。              
                           
『ブラザー・ベア』“Brother Bear”          
Pixerやジブリではない、ディズニー本体が製作した2003年
度のアニメーション作品。               
舞台は、マンモスが生きている時代。腕力が優先するこの時
代に、シャーマンから愛の象徴のトーテム・熊を与えられた
若者が、そのトーテムに不満を持ったことから始まる人間と
熊の物語。                      
主人公は、自分のトーテムである熊を殺してしまったことか
ら、自然の掟を破った罰として熊に変身させられられてしま
う。そして母熊とはぐれた小熊と巡り会い、母熊を探す旅に
同行することになるのだが…。             
ディズニーのアニメーションでは、『バンビ』を始め野性の
動物を扱った作品にも秀作があったが、1994年の『ライオン
・キング』以来、ここ10年間は作られていなかったというこ
とだ。                        
と言ってもこの作品は、野生動物というよりは人間が主人公
のファンタシーの趣が強く、その意味では、動物を無理に擬
人化しているようなところもなく素直に楽しめた。逆に、コ
メディリリーフ的に登場する擬人化された部分も判りやすく
良い感じだった。                   
Pixer作品などのように、大人も楽しめるかと言われると、
ちょっと躊躇するところはあるが、元々お子様向けの作品と
して丁寧に作られたもので、ターゲットはしっかりと捉えて
いる。後は日本語吹き替え版の出来しだいというところだ。
なお、この作品では、画面サイズが最初1.85:1のヴィスタ
サイズで始まって、途中から2.35:1のスコープサイズにな
る。試写では、前半スクリーンの両サイドに黒みが出る状態
で上映されたが、出来ればちゃんとスクリーンのマスクを移
動してもらいたいものだ。予告編との切り替えでは出来てい
るのだから。                     
                           
『ハンター』(カザフスタン映画)           
今年のNHK主催のアジア・フィルム・フェスティバルのた
めに製作された作品。                 
2000年の東京国際映画祭シネマプリズムで、『3人兄弟』と
いう作品が上映されたセリック・アブリモフ監督の新作。前
作はソビエト時代に核実験場だった場所の近くに住む少年た
ちの成長を描いていた。                
この作品は完成が遅れ、事前の試写が行われなかったものだ
が、実は事前の資料に掲載された物語と映画の内容が異なっ
ており、何か未完成のような印象を受ける。       
物語は、カザフスタンの山岳地方の雄大な風景を背景に、一
人の少年の成長が描かれる。そこには性への目覚めや大人へ
の成長が描かれ、それなりにまとまっているようにも思える
が、資料に掲載された話はもっとドラマティックなものだっ
た。                         
それに、上映時間も事前の資料では110分となっていたが、
上映された作品は91分、特に後半が大幅に欠落している感じ
で、未完成の印象は拭えない。             
このフェスティバルは隔年開催で、今回を逃すと上映の機会
は2年後となってしまう訳だが、それにしても、この作品が
未完成だったとしたら、入場料を取って上映するのは正しい
ことではないと思う。                 
                           
ということで、以前の紹介も含めて今期の4作品を紹介した
が、1昨年の前回に比べて、作品のレヴェルは下がっている
感じがした。実際、今回の作品の中で、金を取って見せられ
るのは『恋之風景』だけのように思える。『OSAMA』は
かろうじて話題性があるという程度だろう。       
NHKも、ただ金をばらまいているだけではいけない時期に
来ているのではないか。製作者としての立場をもっと発揮す
るべきではないかと感じた。              
                           
『ソニー』“Sonny”                  
ニコラス・ケイジの初監督作品。1980年代初め頃のニューオ
ルリンズを舞台に、一人の男の生き様が描かれる。    
兵役を終えた主人公が生まれ育った街に帰ってくる。そこは
売春宿の並ぶ歓楽街で、主人公はその街で12歳の時から客を
取ってきた男娼。実の母親に教え込まれたテクニックは伝説
とまで言われていた。                 
しかし兵役の中で堅気の生活を知った主人公は、そんな境遇
を抜け出したいと思うようになっていた。とは言うものの、
堅気の生活を全く知らない主人公は、そこを抜け出す手段す
ら判らぬまま、ずるずると元の生活に戻ってしまう。   
そんな主人公に、彼が居ない間に彼の母親が育て上げた一人
の娼婦が好意を寄せる。そして彼女は、主人公と共に堅気の
生活をすることを夢見るのだったが…。         
特殊な境遇の主人公の物語ではあるが、その根底にある人間
ドラマは普遍のものだ。物語自体が良くできていて、多分脚
本もしっかりしていたのだとは思うが、ケイジの演出は小細
工もせず、正面から物語を描き切っていて好感が持てた。 
主演は、『スパイダーマン』で主人公のライヴァルを演じた
ジェームス・フランコ、相手役には、『アメリカン・ビュー
ティ』のミーナ・スヴァーリ。ケイジも主人公が関わるヤク
中男の役で出演している。               
                           
『ギャザリング』“The Gathering”           
この作品を紹介する場合には、どうしてもネタばれが生じて
しまう。と言っても、これはこの作品の基本設定みたいなも
のだし、物語自体は別の展開なので、ご了承願いたい。  
物語は、イギリス南西部のグラストンベリーで始まる。その
町で若い男女が行方不明になり、それをきっかけに土砂に埋
められた古い教会が発見される。そしてその修復、調査に当
った学者は、そこに隠された大いなる謎を解き明かすことに
なる。                        
一方、学者の家に妻が起こした交通事故で記憶喪失になった
女性が暮らすことになる。やがて彼女は、町で老若男女を取
り混ぜた一団に遭遇し、言い知れぬ不安に駆られる。そして
彼らが、町を襲う災厄の前兆であることに気付く。    
よく似た作品では、1992年公開の『グランド・ツアー』が思
い出される。あの作品では未来人がタイムマシンで過去の災
害現場を観光旅行に来るというものだったが、本作では丁度
その逆の展開と言えそうだ。              
そして1992年の作品が、VFXを見せ場とした一種のディザ
スター映画であったのに対して、本作では見事に人間ドラマ
を展開している。また物語の展開にも破綻がなく、しかもか
なり強いメッセージ性を持っていることにも感心した。  
主演はクリスティーナ・リッチ。脚本は、作家でもあるアン
ソニー・ホロヴィッツ、監督を、1997年版『オスカー・ワイ
ルド』などのブライアン・ギルバートが手掛けている。小品
だが見逃したくない作品と言えそうだ。         
                           
『ドッグヴィル』“Dogville”             
『ダンサー・イン・ザ・ダーク』のラース・フォン・トリア
ー監督が、ニコール・キッドマン、ポール・ベタニー、ロー
レン・バコール、ジェームズ・カーン、ベン・ギャザラらを
招いて作った作品。                  
物語の舞台は、1930年代のロッキーの山懐に抱かれるような
町ドッグヴィル。その町は、街道の行き止まりに位置し、そ
こから先に行く道はない。元は金鉱があったらしいが、現在
は牧師のいない教会を中心に20人足らずの住人が暮らしてい
る。警察暑もない。                  
そんな町に、一人の女が迷い込んでくる。やがて警察が来て
尋ね人の張紙をするが、彼女はギャング団に追われていると
言い、匿ってくれるように頼み込む。そして住人たちは集会
を開き、彼女を匿うことに決めるのだが…。       
この物語を、広いスタジオの中に道路や家の配置を白線で描
いただけのセット(?)のみで描くというのだから、これは
かなり挑戦的な作品だ。しかも上映時間は177分。     
正直に言って、僕は見に行く前にはかなり躊躇した。まして
や、キッドマンが計画された続編に出演しないというニュー
スもあって、失敗作ではないかという印象も持ったのだ。し
かし、今は見に行って本当に良かったと思っている。   
セットの雰囲気から、全体は舞台劇のような印象になる。し
かも演技も、パントマイム的な部分も入るなど不自然なもの
にならざるを得ない。しかし監督はそれら全てを逆手にとっ
て、その中から人間の本質に迫る物語を搾り出してくる。 
しかも、監督自身が操作するステディカムが俳優の中に入り
込み、一方でナレーションも多用されて、全てが監督の視点
で物語られるという構成。この構成が巧みで、そこに飲み込
まれると3時間近くがあっという間の感じだった。    
確かに巧いし、極めて頭の良い人の作品と言える。しかし撮
影の困難さは、想像以上だったようだ。何しろ壁のないセッ
トでは、出演者は常にスクリーン上に写っている訳で、その
俳優たちがすべて演技していなければならない。     
それを演出し切れたか否かは、併映される52分のメイキング
のドキュメンタリーにも描かれているが、その点だけでも大
いなる挑戦だったと言えそうだ。しかも監督は続編も作ろう
としている。この挑戦はまだ続くと言うところだろう。  
なおキッドマンは、ドキュメンタリーでは、監督にシナリオ
の変更を提案して、監督がそれを受け入れるなど、2人の間
に確執があるようには見えなかった。他の俳優たちは別のよ
うだったが。                     
なお、このドキュメンタリーも含めて、ほぼ4時間の映像体
験は、観客としては心地よいものであった。       
                           
以上で、2003年に試写で見た長編映画の紹介を終了します。
最後に、僕のベスト10を選んでみたので紹介しておきます。
◎一般映画                      
1。ラスト・サムライ
2。LotR/二つの塔
3。シティ・オブ・ゴッド
4。シカゴ
5。パイレーツ・オブ・カリビアン
6。北京ヴァイオリン
7。ファム・ファタール
8。プルート・ナッシュ
9。ハルク
10。キル・ビルVol.1
◎SF/ファンタシー映画
1。LotR/二つの塔
2。プルート・ナッシュ
3。SIMONE
4。ザ・コア
5。パイレーツ・オブ・カリビアン
6。ハルク
7。スパイ・キッズ3−D
8。“アイデンティティー”
9。フレディvs.ジェイソン
10。ミッション・クレオパトラ
対象は2003年に公開された洋画作品です。また、一般映画と
SF/ファンタシー映画のそれぞれで選びましたが、順位が
入れ代わるのは、それぞれの立場で見た場合の評価の違いと
いうことです。特に、2〜3位の作品については、SF映画
ファンとして気に入った作品ということで、一般映画として
評価したい『パイレーツ』や『ハルク』より上にしました。
また『プルート・ナッシュ』は、不当に低く評価されている
ように思い、あえて一般映画にもランクインさせました。 
結局、『パイレーツ』以外の夏作品を落とすことになり、特
に『マトリックス』を2本とも落とすことになったのは残念
です。なお『レボリューション』については、巷では物語が
意味不明のように言われていますが、僕は全てがオラクルの
一人芝居と考えれば辻褄が合うと考えます。つまりハードウ
ェアの不具合を、ソフトウェアがウェットウェア(人間)を
操って修復する物語とすれば、話は合うはずですが…。  
来年もよろしくお願いします。             



2003年12月16日(火) 幸せになるための・、エル・アラメイン、ニューオーリンズ・トライアル、25時、みんなのうた、グッバイレーニン、ニュータウン物語

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介しています。     ※
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
『幸せになるためのイタリア語講座』          
             “Itailiensk for Begyndere”
デンマークを中心に活動する映画グループ・ドグマの作品。
芸術映画の指向の強いドグマ作品では、『しあわせな孤独』
などを先に紹介しているが、本作はドグマ作品の中では判り
やすいというか、良くできたアンサンブル・ラヴ・ストーリ
ーだった。                      
アンサンブル・ラヴ・ストーリーも、先にイギリス製の『ラ
ブ・アクチュアリー』を紹介したが、あれほど大掛かりでは
ないが、この作品も巧くまとめられていた。       
主人公たちは、デンマークのとある町に暮らす6人の男女。
男性は、横暴な牧師の代りに町の教会にやってきた代理神父
と、その神父が仮住まいにするホテルのフロント係の中年男
性、そしてそのホテルが経営するサッカー場のレストランを
任されていたがくびを言い渡される元サッカー選手。   
女性は、アル中の母親と暮らしながら元サッカー選手と出会
う美容師と、生き別れの母親がイタリアにいると聞きその地
に憧れている無器用なパン屋の店員、そしてレストランの料
理人でフロント係に思いを寄せているイタリア人女性。  
彼らが、さまざまな理由で市主催のカルチャースクールのイ
タリア語講座に集まり、そして恋が芽生えて行く。それぞれ
の物語は、別にイタリア語講座はなくても良いのだが、会員
不足で存続の危うい講座を中心に、いろいろな出来事が起き
るという展開だ。                   
それがちょっと切なかったり、行き違いがあったり、主人公
たちはいい加減若くもないのだから、もう少ししっかりしろ
と言いたくなるが、自分がその立場だったら、多分同じよう
なことをしてしまうだろうと思わせる。そんなところが愛し
い作品だった。                    
                           
『炎の戦線エル・アラメイン』             
           “El Alamein la linea del fuoco”
第2次世界大戦ヨーロッパ戦線の激戦地の一つで、ドイツ軍
ロンメル将軍と英国軍モントゴメリー将軍が対峙した北アフ
リカ、エル・アラメインの戦いを描いたイタリア映画。  
イタリア軍の侵攻で始まった北アフリカの戦線には、当然イ
タリア軍もいたのだが、非力な軍隊は結局ドイツ軍の指揮下
に編入され、圧倒的な兵力を持つイギリス軍に対しては、ほ
とんど捨て駒のように扱われてしまう。         
昼間の炎天下では気温50度を超え、夜は零下になるという過
酷な気象条件の下、弾薬や武器、食料、水の補給もほとんど
なく、一貫しない指令に従って砂漠を北へ南へと彷徨する彼
らの行き着く先は、無名戦士の墓所しかない。      
元々が反戦思想で描かれた作品だから、それなりの誇張はあ
るのだろうが、それにしても悲惨な有り様で、中で何箇所か
描かれる息抜きのシーンには、本当にほっとさせられた。逆
に言うと、そのくらいに戦いのシーンの緊張感は巧く描かれ
ていた。                       
なお、その息抜きシーンで、主人公たちが全裸になり海岸で
はしゃぐ場面の2カットが映倫の指摘を受けているそうだ。
公開では修正が入ることになるようだが、抗議運動も起きて
いる。このような修正はかえってグロテスクにしてしまうだ
けのようにも思えるが。                
                           
『ニューオーリンズ・トライアル』“Runaway Jury”   
ジョン・グリシャム原作『陪審評決』の映画化。     
アメリカの裁判での陪審制度を非常に判りやすく映画いた作
品と言える。これを見て、陪審コンサルタントの役割や、現
実にここまでやるのかと思うような実体が理解できた。しか
も謎解きが見事に絡む辺りはさすがという感じだった。  
発端は2年前、証券会社をくびになった男がセミオートマテ
ィックの銃を乱射して11人を射殺、自分も自殺する。この事
件で夫を喪った女性が、その銃器の製造会社に対して損害賠
償を請求する裁判を起こす。              
陪審法廷となったこの裁判で、絶対に負けられない銃器会社
は、名うての陪審コンサルタントを雇い、無罪の陪審評決を
得られるように画策を始める。そして陪審員の選出では、問
題のありそうな人物を排除して行くのだが、一人の謎の男が
選出されてしまう。                  
そして裁判が始まった日、双方の弁護士の手元に「陪審員売
ります」と書かれたメモが届けられる。そして謎の男は、陪
審員を心理的に操り始める。              
この謎の男をジョン・キューザック、原告側の弁護士をダス
ティン・ホフマン、被告側の陪審コンサルタントをジーン・
ハックマン、そして連絡係となる謎の女をレイチェル・ワイ
ズという布陣で描くのだから申し分ない。        
裁判ものの面白さと謎解きのスリルを存分に楽しめた。  
なお原作はタバコ訴訟だったが、映画化では銃器訴訟に変え
られている。『ボウリング・フォー・コロンバイン』のオス
カー受賞などでタイムリーな変更にも見えるが、製作開始ま
でにかかった期間を考えると、ハリウッドでのタバコ産業の
ロビー活動もちらつくところだ。            
                           
『25時』“25th Hour”                
デイヴィッド・ベニオフが2001年に発表した小説を、原作者
自ら脚色、『ドゥ・ザ・ライト・シング』のスパイク・リー
監督、『レッド・ドラゴン』のエドワード・ノートンの主演
で映画化したドラマ。                 
主人公は麻薬取り引きで逮捕され、7年の刑となった男。し
かし若い白人の男が刑務所に入れられたら、7年の間にいろ
いろな男たちに弄ばれ、精神はずたずたにされる。それを避
けるには、逃げるか自殺するか。            
そんな男の最後の25時間が描かれる。          
男は自分の罪を判っている。しかし男には収監までにやって
おかなければならないことがある。その一つは、情報を警察
に売ったのが自分の恋人であるかどうか確かめること。そし
てもう一つは、瀕死の状態から助けた愛犬を預かってもらえ
る相手を探すこと。                  
そして男は、幼なじみで学校の先生をしている男と証券ブロ
ーカーで成功している男に、最後のパーティに来てくれるよ
うに頼む。そのパーティの会場となるクラブは、麻薬の元締
めが経営する店でもあった。              
この映画には、グラウンドゼロも登場するし、そこから空に
向けて発射されるサーチライトの映像もある。そんな現代の
ニューヨークのいろいろの姿が写される。2001年以降の映画
もいろいろ見たが、ここまではっきりとグラウンドゼロを見
せたのは初めてだろう。                
ノートンは、前半で感情を爆発させるシーン(映像表現が巧
い)を除いては、淡々と演じ切る。その演じ方が、後半のク
ライマックスに見事に繋がる。その他にも仕掛けはいろいろ
あって、さすが鬼才リー監督の作品と思わせた。     
なお、映画では画面のオフから聞こえる犬の吠え声がキーと
なるが、この吠え声をバウリンガルで確認したい気分にもな
った。                        
                           
『みんなのうた』“A Mighty Wind”           
2000年公開の『ドッグ・ショウ』が話題になったクリストフ
ァー・ゲストとユージーン・レヴィの共同脚本、主演、ゲス
ト監督によるフェイク・ドキュメンタリーのコメディ。  
このジャンルでは、ロブ・ライナーの脚本監督で、ゲストが
主演と共同脚本にも名を連ねた1984年の作品『スパイナル・
タップ』が嚆矢と言われ、今ではmock documentary(略して
モキュメンタリー)という名前も付けられているそうだ。 
という訳で、そのモキュメンタリーの旗手とも言えるゲスト
とその右腕レヴィの新作は、1960年代のアメリカフォークを
題材にしたもの。時制は現在で、その元締めとも言われたプ
ロモーターが亡くなり、その息子が父親の追悼コンサートを
開催しようとするお話だ。               
登場するのは、男女9人組コーラスグループのメイン・スト
リート・シンガースと、男性3人組のザ・フォークスメン、
そして伝説の男女デュオのミッチ&ミッキー。彼らの思い出
話とフォークに対する思い入れ、そして現在の様子などが描
かれる。                       
この内、9人組のグループは代替わりして現在に引き継がれ
ているものの、あとの2組は数10年ぶりの再会となるという
設定だ。そこには解散までの経緯や、現在も仲間に寄せる思
いなど、悲喜交々のドラマが存在するのだ。       
それそれのグループが、いろいろなフォークグループのパロ
ディになっているのはもちろんだが、その結成の経緯や解散
の理由などが如何にもありそうに語られる。また今も続くグ
ループの内情がかなり怪しげなのもありそうな話だ。   
一応、70年安保当時の日本で、反戦フォークからその後の青
春フォークブームに変っていく頃に、それなりに関心を持っ
て見ていた者としては、日本もアメリカも同じような話があ
ったものだと改めて思わされた。            
『ドッグ・ショウ』のときには、犬を飼っている者として成
程と思うところがある反面、多少どぎつい描写に退いてしま
ったところもあったが、今回は心底楽しめた感じだ。特にク
ライマックスなどは、フェイクと知りつつも目が潤んでしま
った。                        
といっても、ただでは済まないところがゲストとレヴィの凄
さだが。                       
それと、圧巻は中で歌われるフォークソングの数々。実に当
時の雰囲気を彷彿とさせる曲ばかりなのだが、これが全部フ
ェイクなのだ。エンディングロールによると出演者たちが自
分で作詞して歌っているようだが、歌唱演奏を含めていずれ
も見事なものだった。                 
また、作曲には、『オー・ブラザー!』のサウンドトラック
でマルチミリオンを達成したT・ボーン・バーネットが参加
しており、さすがという感じがした。          
                           
『グッバイ、レーニン』“Good Bye Lenin!”       
すでに何本か紹介したドイツのXフィルムの2003年作品。 
現代ドイツが抱える問題を鋭く描くXフィルムの今回の作品
は、1989年11月9日のベルリンの壁崩壊前後の人々の混乱を
描いている。                     
主人公の母親は、筋金入り社会主義者の小学校教師。しかし
1989年10月7日の東ドイツ建国40周年記念式典の日に心臓発
作で倒れて昏睡状態となる。そして8カ月後、奇跡的に回復
はするが、その間にドイツは統一され、社会主義の東ドイツ
は消滅してしまう。                  
その母親の病状について、医者は次のショックが来たら最後
だと告げる。母親にとって最大のショックとは、信じてきた
社会主義東ドイツの消滅。そう考えた主人公は、あらゆる手
段を使って母親に旧体制の存続を信じさせようとするが…。
ピクルスやジャムを東ドイツブランドの瓶に詰め替えたり、
映画監督志望の友人にフェイクのテレビニュースを作らせた
り、そんな奮闘ぶりがユーモラスに描かれる。      
しかしその主人公が、母親のために偽の歴史を作り続ける内
に、それが東ドイツという消滅した国家への鎮魂歌であるこ
とに気付いて行く。                  
主人公自身は、社会主義者ではないし、基本的には東ドイツ
の開放を喜んでいる方の人間だろう。それでも、失われた祖
国への思いはつのる。それは主義主張を超えた次元のものと
いえる。そんなしみじみした情感が素晴らしい作品だった。
                           
『ニュータウン物語』(日本映画)           
1968年生まれのドキュメンタリー作家・本田孝義監督が、自
ら4歳から18歳までを過ごしたという岡山県山陽団地を再訪
して撮った作品。                   
岡山駅からは13km、バスでも約30分掛かる郊外の住宅団地。
団地と言うと関東では4、5階建てのアパート群が思い浮ぶ
が、ここは一戸建ての住宅と、一部に2階建ての県営集合住
宅が並ぶ、いわゆる郊外の宅地造成地だ。        
そんな住宅団地も建設から30年以上が経ち、住民は2代目3
代目となって、監督が昔遊んだ公園からは子供の姿が消え、
高齢化の過疎の町になりつつある。そんな中で、彼が住んで
いた頃からの近所の住人や、同級生たちを訪ねて作品は綴ら
れて行く。                      
神社のない町に共同意識を作ろうと始められた小学校と地元
合同の祭りも、今はもう行われていない。そんな団地の抱え
る問題を、監督は敢えて深入りすることなく描き出す。そし
て後半には、監督が提唱した街を使ってのアート展が紹介さ
れる。                        
場所と、そこに暮らす人間を描いたドキュメンタリーでは、
最近見た中では『ヴァンダの部屋』が強烈だったが。ある意
味、編集や演出で見せられる最近のドキュメンタリーに対し
て、ここでは恐らくは冗漫な部分をカットする程度で、生の
ままの提示が行われている。              
それは、一面では稚拙にも見せてしまうし、実際、技術レヴ
ェルはそんなものかもしれない。しかしこの作品には、自分
自身の思い出に繋がるような懐かしさがあり、そこには魅か
れるものがあった。                  
なお、登場人物の中に門さんちの将平君という子供がいるの
だが、この子の名前は逆から読むと、平将門。親は気が付か
ずに付けたのかなあ。                 



2003年12月15日(月) 第53回

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
※このページは、キネマ旬報誌で連載中のワールドニュー※
※スを基に、いろいろな情報を追加して掲載しています。※
※キネ旬の記事も併せてお読みください。       ※
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
 今回は、前回に続いて動きが加速してきたこの話題から。
 前回、マイクル・ケインのアルフレッド役出演を報告した
デイヴィッド・ゴイヤー脚本、クリストファー・ノーラン監
督、クリスチャン・ベイル主演による“Batman 5”(仮題)
の配役について、さらにバットマンの恋人役と、今回の悪役
が発表されている。                  
 まず、恋人役には、今回はレイチェルという役名が紹介さ
れているが、そのレイチェル役に、ケイティ・ホームズの起
用が発表された。                   
 ホームズは、本年11月2日付映画紹介欄に掲載した『ケイ
ティ』で主人公のケイティ役を演じていた他、『フォーン・
ブース』などにも出演しているが、1996年にアン・リー監督
の『アイス・ストーム』で映画デビューの後、人気テレビシ
リーズ“Dawson's Creek”でブレイクした新進女優で、カー
ティス・ハンスン監督の『ワンダー・ボーイズ』や、サム・
ライミ監督の『ギフト』などにも出演している。また、近作
“The Singing Detective”にも出演しているようだ。   
 一方、今回の悪役には、6月16日付の映画紹介欄に掲載し
たイギリス映画『28日後...』に主演していたキリアン・
マーフィの出演が発表された。             
 バットマンの悪役では、第1作のジャック・ニコルスンに
よるThe Jokerから、ダニー・デ=ヴィートのThe Penguin、
ミシェル・ファイファーのCatwoman、トミー・リー・ジョー
ンズのTwo-Face、ジム・キャリーのThe Riddler、ユマ・サ
ーマンのPoison Ivy、アーノルド・シュワルツェネッガーの
Mr.Freezeと、ハリウッドの人気スターがヘヴィーなメイク
で演じるのが決まりとなっていたものだが、今回は1974年生
まれの、しかもイギリス人の俳優が演じるもので、かなり思
い切った改革が行われているようだ。          
 なお、ゴイヤーが執筆した脚本については、厳重に秘密が
守られていて、今回の悪役が何になるかは明らかにされてい
ないが、噂ではラズオルグル、あるいはスケアクロウという
説が強い。この内、スケアクロウは言うまでもなく案山子の
イメージだが、これに対してラズオルグルというのは、コミ
ックスでは1971年に初登場したキャラクターで、絵を見る限
りはバットマンと同様の筋骨隆々という感じのものだ。  
 そこで、そのキャラクターにマーフィのイメージが合致し
ているかどうかというところだが、実はマーフィは、最初は
バットマン役でスクリーンテストを受けたものの、それを見
たノーランが悪役への配役を決めたということで、監督の見
たマーフィのイメージは、一体どちらなのだろうか。因にこ
の悪役には、一時“The Lord of the Rings”のアラゴルン
役ヴィゴ・モンテンセンの名前も挙がっていたようだ。  
 ということで、2004年の撮影開始、2005年の公開予定で準
備は着々と進んでいるようだが、それにしても、監督以下、
見事にイギリス人の出演者で固められたものだ。映画の舞台
は当然ゴッサムシティのはずだし、台詞はアメリカ英語でな
ければ困る訳で、この辺りに多少の不安は残るところだが、
その中で、唯一のアメリカ人俳優のホームズには注目が集ま
りそうだ。                      
        *         *        
 続いては続編の情報で、第50回で報告した『パイレーツ・
オブ・カリビアン』の続編の題名がスクープされた。   
 この続編に関しては、先にゴア・ヴァービンスキー監督、
脚本のテリー・ロッジオ、テッド・エリオットの再登板と、
ジョニー・デップ、オーランド・ブルーム、キーラ・ナイト
レイの再登場、そして2部作で製作されることが発表されて
いるが、今回の情報で、その続編の題名が“Pirates of the
Caribbean: Treasures of the Lost Abyss”になると報告
されている。                       
 因に前作の原題“Pirates of the Caribbean: The Curse
of the Black Pearl”の中で、The Black Pearlというのは
デップ扮するジャック・スパロウ船長が乗船する海賊船の名
前だったが、今回の題名でThe Lost Abyssは、カリブ海に現
れた最初の海賊船の名前という設定だそうだ。      
 なおこの情報は、前作にも参加したFX工房ファンタシー
IIの下請けをしている会社から流れたようだが、すでにFX
合成用のスケッチ(それに付された題名のようだ)なども出
来てきているということで、準備は進んでいるようだ。  
 またデップは、2004年の10月以降のスケジュールを撮影の
ために空けているという情報もあり、2005年夏の公開に向け
て準備は着々という感じだ。              
 一方、ついでと言っては何だが、ヴァービンスキー監督の
情報で、監督の次回作の、2004年2月17日からシカゴで撮影
開始されるニコラス・ケイジ主演による“The Weatherman”
が、パラマウントで製作されることになった。      
 この作品は、シカゴのテレビ局でお天気キャスターを務め
いていた主人公が、疎遠になっていた妻と子供とのよりを戻
そうとシカゴを離れニューヨークにやってくるというもの。
“Wrestling Ernest Hemingway”などのスティーヴ・コンラ
ッドの脚本を、争奪戦の末にエスケイプアーチスツが獲得し
たもので、当初は本拠を置いているソニーで製作を進めてい
たが、ソニー側が計画を断念したために、パラマウントに移
して計画を進めることになっている。          
 ケイジの相手役には、『アバウト・シュミット』などのホ
ープ・デイヴィスも発表されており、『ザ・リング』『パイ
レーツ』に続くようなFX多用の作品ではなさそうだが、ヴ
ァービンスキーは、『ザ・リング』の続編を断ってこの作品
に参加しているものだ。そしてこの作品に続けて、『パイレ
ーツ』の続編ということになりそうだ。         
        *         *        
 お次は、“Kill Bill Vol.2”の公開が待たれるクェンテ
ィン・タランティーノ監督の次回作について、“Inglorious
Bastards”という作品の噂が広がっている。       
 この作品は、2001年の夏、当時ユマ・サーマンの妊娠が発
覚して『キル・ビル』の撮影が1年以上遅れると判明した頃
にも話題になったもので、実は、企画自体は『キル・ビル』
よりも前から立てられていた。             
 内容は、1968年の“Where Eagles Dare”(荒鷲の要塞)
や、1967年の“The Dirty Dozen”(特攻大作戦)のような
第2次世界大戦を背景に、特別な作戦に駆り出された男たち
を描く大型アクション映画ということで、2001年夏の時点で
タランティーノは、戦争映画についてのリサーチと、脚本も
半ば書き上げていたと言われている。しかしサーマンとの再
会で、一時脇に置かれてしまったということだ。     
 その企画が次回作として取り沙汰されているものだが、女
性中心の『キル・ビル』の後に男性中心の戦争映画というの
も、バランスが良いと言えそうだ。           
 因に『荒鷲の要塞』は、『ナバロンの要塞』などの冒険小
説作家アリステア・マクリーンの原作、脚本によるもので、
出入りの手段はケーブルカーのみというドイツ軍の山岳要塞
に閉じ込められたアメリカ軍将校の救出作戦を描いた作品。
リチャード・バートン、クリント・イーストウッドらの主演
で映画化され、連続活劇の復活と言われたものだ。    
 また、『特攻大作戦』については、6月16日付映画紹介欄
の『ミニミニ大作戦』の記事にも少し書いたが、元はE・M
・ネイザンスンという作家の小説を、『ミニミニ…』の脚本
家コンビが脚色したもので、12人の殺人犯を含む犯罪者が、
第2次大戦下の戦場で、自らの自由を勝ち取るために危険な
任務に取り組むというもの。『ミニミニ…』の流れで判るよ
うにコメディタッチで描かれた作品だ。         
 それにしても、これらの作品からタランティーノは一体ど
のような戦争映画を作ろうとしているのか、製作は優先権を
持つミラマックスになるはずだが、いずれにしてもかなり大
型の予算規模の作品になりそうで、楽しみだ。      
 なお、タランティーノの次回作ではもう1本、ジョン・ト
ラヴォルタとサミュエル・L・ジャクスンのパイロットに、
パム・グリアのステュワーデスで、“Airplane 2005!”とい
う情報もあったが、これは監督のジョークだったようだ。 
        *         *        
 ちょっと気になる話題で、1980年に公開されたタイムスリ
ップものの大作“The Final Countdown”(ファイナル・カ
ウントダウン)などを手掛けた製作者のピーター・ダグラス
が、フィラデルフィアに本拠を置くスポーツチャンネルなど
を経営する資産家のエド・スナイダーと手を組み、1本当り
3000万ドルから1億ドルの製作費の大作を中心とした製作会
社を設立。しかもこの新会社では、SF映画を中心に映画製
作を進める意向のようだ。               
 そして、その新会社の製作計画が発表されている。   
 まず1本目は、ローランド・エメリッヒの盟友ディーン・
デヴリンが主宰するエレクトリックと、『スチュアート・リ
トル』のロブ・ミンコフ主宰のスプロケットダインとの共同
製作で“Mysterious Planet”。             
 見るからにSFという感じの題名だが、お話は、宇宙探検
隊のメムバーが美しい景色の星を発見して降り立つがそこは
危険な惑星だったというもの。題名からは『禁断の惑星』や
ジュール・ヴェルヌの『神秘島』を連想するが、マルコ・シ
ュナベルという人の脚本から、ディズニーアニメーションの
『美女と野獣』を手掛けたカーク・ワイズが監督することに
なっている。                     
 お次は“Seven Days in May”。1963年製作、ジョン・フ
ランケンハイマー監督の『5月の7日間』のリメイクで、冷
戦時代の物語を現代に置き換えて再構築するということだ。
脚本はマット・マンフレディとフィル・ヘイ。      
 そしてもう1本SFは“Outward Bound”。マシュー・ウ
ェスという人の脚本で、遠隔の惑星に送り込まれた非行少年
たちの「矯正野外プログラム」を描いたものだそうだ。  
 この他、ロバート・デ=ニーロ主宰のトライベカと共同製
作するコメディ作品で、破産した主婦が犯罪に走る姿を描い
たアンドリュー・チャップマン脚本の“Number One”。  
 冬期オリムピックで大怪我をしたスキージャンパーの社会
復帰をコメディタッチで描いたクリス・フェイバー、ダニー
・バロン脚本の“The Agony of Defeat”。        
 デイヴィッド・モレルの原作をミッチ・ブライアンが脚色
し、ロバート・シュエンティケが監督する作品で、西部の小
さな町に隠された秘密を巡るスリラー“The Totem”。   
 ジェニー・スナイダーとヴィクトリア・ウェブスターの脚
本で、5人姉妹とその弟の婚約を巡るロマンティック・コメ
ディ“The Boy”などが計画されている。         
 なおこの新会社には、元CAAのタレントエージェントの
ロブ・パリスも参加しており、その伝ではいろいろなタレン
トも集まる可能性もあるということで期待したいところだ。
        *         *        
 後は、いろいろな話題を紹介しよう。         
 まずは、来春公開が予定されているラース・フォン・トリ
アー監督の『ドッグヴィル』に続く作品“Manderlay”に、
『ビューティフル・マインド』ロン・ハワード監督の娘で、
M・ナイト・シャマラン監督の“The Village”にも出演し
ているブライス・ダラス・ハワードの主演が発表された。 
 この作品は、『ドッグヴィル』を第1作とするフォン・ト
リアー監督のアメリカ3部作の第2作となるもので、当初は
前作に主演したニコール・キッドマンの再演が予定されてい
た。しかしスケジュールの都合などで叶わなかったもので、
その代役としてハワードの起用が発表されたものだ。   
 因にハワードは、“The Villege”でも当初“The Woods”
という題名だった作品にキルスティン・ダンストに代って起
用され、映画デビューとなったもので、続けての代役でビッ
グチャンスをつかんだという感じだ。          
 なお、フォン・トリアー監督の新作は、前作と同様30年代
のアメリカ中西部を舞台としたものだが、前作と同じく撮影
はすべてセットで行うもので、2004年3月1日からスウェー
デンのトロールハッタンのスタジオで開始されることになっ
ている。かなり実験的な作品だが、舞台経験もあるハワード
には向いていると言えそうだ。              
        *         *        
 またまた往年のテレビシリーズからの映画化の計画で、ア
メリカでは79〜85年の6年間に亙って放送された“Dukes of
the Hazzard”(爆発!デューク)の脚本に、“Starsky &
Hutch”の映画化にも参加しているジョン・オブライエンの
起用が発表された。                  
 お話は、南部の町ハザードを舞台に、ルークとボーのデュ
ーク兄弟が、町の顔役やその義兄弟の悪徳保安官と闘いを繰
り広げるというアクションコメディ。軽快なバンジョーの音
楽に乗せてクラシックカーがカーチェイスを行うなど、若者
にターゲットを絞った設定で人気を得ていた。      
 そして、この計画自体は数年前から公表されていたものだ
が、2004年3月5日の“Starsky …”の全米公開を控えて、
次なる計画のスタートとなったようだ。なお主演には、以前
の情報ではアシュトン・カッチャーとポール・ウォーカーが
予定されていた。                   
        *         *        
 2004年には“Pitch Black”の続編の“The Chronicles of
Riddick”が公開されるヴィン・ディーゼルの新作として、
“The Pacifier”という題名のアクションコメディへの出演
契約を結んだことが発表された。            
 この作品は、スパイグラス製作、ディズニーが配給するも
ので、お話は、潜入捜査官の主人公が重要な国家機関の科学
者の警護に失敗し、さらにその家族に危険が及ぶことからそ
の子供の警護を命じられるが、これが最もきつい仕事だった
というもの。                     
 子供を絡めたアクションコメディでは、シュワルツェネッ
ガーの『キンダーガートン・コップ』などが思い浮かぶが、
43歳で役に挑んだシュワルツェネッガーより7歳若いディー
ゼルが、どのような奮闘ぶりを見せてくれるか楽しみだ。脚
本はトーマス・レノン。監督は未定。撮影は04年春に開始の
予定になっている。                  
        *         *        
 『ニューオーリンズ・トライアル』のジョン・グリシャム
原作による“Skipping Christmas”というコメディ作品を、
クリス・コロムバスの脚色、ティム・アレン主演で、リヴォ
ルーション・スタディオ社長のジョー・ロスが監督すること
になった。                      
 お話は、商業主義のクリスマスに嫌気の差した主人公が、
その期間は妻と一緒に旅行に行くことを決めるが、最後の瞬
間に家出していた娘が帰宅して、急遽お祝いをしなければな
らなくなるというもの。                
 因にロスは、出発は監督だが、その後映画各社の社長を歴
任していたもので、コロムバスとはフォックス時代に『ホー
ム・アローン』で、アレンとはディズニー時代に『サンタ・
クローズ』で組んだ間柄。いつかまた一緒に仕事をしていた
いと思っていたそうだ。なおロス監督の近作には、01年製作
の『アメリカン・スウィートハート』がある。      
        *         *        
 ジョージ・クルーニーとスティーヴン・ソダーバーグが主
宰するワーナー傘下のプロダクション=セクション8から、
“Syriana”という作品を進めることが発表された。    
 この作品は、CIAの捜査官として20年間在籍したという
ロバート・ベアが発表した“See No Evil: The True Story
of a Foot Soldier in the CIA's War on Terrorism”とい
う実録本を映画化するもので、ワーナーとセクション8では
2年前にこの原作本の映画化権を契約していた。     
 そしてこの脚色を、『トラフィック』でオスカーを受賞し
たスティーヴン・ギャグハンが担当していたものだが、この
ほどそれが完成し、ギャグハンの監督で映画化を進めること
になったというものだ。また主演は、クルーニーが希望して
いるということだ。                  
 なお、クルーニーの計画では、ソダーバーグの監督による
“Ocean's Twelve”が年明けから撮影開始の予定だが、今回
の作品はそれに続けて撮影されるということだ。     
 因にギャグハンは、“Abandon”という作品で監督デビュ
ーを飾った他、ディズニー製作の大作西部劇“The Alamo”
の脚本にも参加している。               
        *         *        
 ダークキャッスル製作のゴシックホラー“Gothika”を担
当した脚本家セバスチャン・グティーレスが、1995年製作の
イギリス映画“Mute Witness”(ミュート・ウィットネス)
のリメイクを手掛けることになった。          
 この計画は、『17歳のカルテ』などのジェームズ・マンゴ
ールドが進めているもので、内容は、3人のアメリカ人がロ
シアを舞台にした映画を作ろうとし、その過程でロシアの裏
社会とつきあうことになるが、その中で口の聞けないメイク
アップアーチストが殺人事件を目撃してしまうというもの。
外国のしかもかなり危険な状態で事件に遭遇する恐怖を描い
た作品で、素晴らしい出来映えの作品ということだ。   
 しかしオリジナルは、マンゴールドに言わせると、「如何
にも低予算で作られたという作品で、もっと大がかりな作品
に作り直す価値がある」と判断したそうだ。       
 なお計画は、スパイグラスとマンゴールド主宰でソニー傘
下のツリー・ラインで行われるが、マンゴールドには次回作
が決まっており、本作の監督はしない予定だそうだ。   
        *         *        
 最後にちょっと残念なニュースで、 第30回と第36回でも
紹介したDCコミックス“Shazam !”の映画化で、第36回で
報告したウィリアム・ゴールドマンの脚色がまとまらず、デ
ィズニーで“Cheaper by the Dozen”のリメイクを手掛けた
ジョエル・コーエンとアレックス・ソコーロフに交代される
ことが発表された。
 因に、コーエンとソコーロフは、『トイ・ストーリー』の
脚本家としても知られており、コミックス系の作品には好適
と言えそうだ。ゴールドマンの脚本でなくなったことは残念
だが、これで早期の実現を期待したい。



2003年12月02日(火) ラブ・アクチュア、タイムライン、デッドロック、ショコラーデ、レジェンド・オブ・メキシコ、N.Y.式ハッピー・セラピー、牙吉、コール

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介しています。     ※
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
『ラブ・アクチュアリー』“love actually”       
九つか十の恋愛物語が同時進行するアンサンブルドラマ。 
アンサンブルドラマというと、最近作ではロバート・アルト
マン監督の『ゴスフォード・パーク』が話題になったが、一
応核になるストーリーのあったアルトマン作品に比べて、本
作は全くそういうものがなく、いくつもの物語が独立して見
事に進行する。                    
しかもそれぞれの物語は独立しているのだが、それらが着か
ず離れず微妙に連携しているところも見所で、全く関係ない
はずの人物がおやと思うようなところに登場したりする。そ
の辺りの組み立ても見事な作品だった。         
そしてこのアンサンブルドラマを、エマ・トムプスン、アラ
ン・リックマン、ヒュー・グラント、キーラ・ライトレイ、
ローワン・アトキンスン、リーアム・ニースンという、本当
の意味で、今のイギリス映画を代表する人たちの共演で描く
のだからたまらない。                 
特にグラントのイギリス首相なんか、出てくるなり「有り得
ない」という感じなのだが、その首相が、ビリー・ボブ=ソ
ーントン扮するアメリカ大統領と対立して、とんでもない反
撃の演説をする辺りは、イギリス国民ならずとも喝采してし
まうところだ。                    
実際これだけの恋愛ドラマを描いた脚本の良さもあるだろう
が、これだけの物語を混乱を生じることなく手際よく並べて
みせた演出の手腕も素晴らしい。そしてこれらの物語のどこ
かに自分がいるような、そんな気持ちにさせてくれるところ
も素晴らしかった。                  
物語の最初と最後は、空港の到着ロビーの風景で、一般の人
たち(?)のいろいろな再会のドラマが写し出されるが、特
に最後は一体どれだけの時間撮影したのだと言いたくなるよ
うな見事なコラージュが美しい。            
そしてその最後に、一瞬ハートが浮かび上がるところをお見
逃しないように。                   
                           
『タイムライン』“Timeline”             
マイクル・クライトンのベストセラーの映画化。     
『アンドロメダ…』で『宇宙戦争』、『ジュラシック・パー
ク』で『失われた世界』、『ターミナルマン』で『フランケ
ンシュタイン』、『スフィア』で『チャレンジャー海淵』な
ど、様々のSF名作に挑んできたクライトンが、ついに『タ
イムマシン』に挑戦した作品。             
と言ってもこの作品は、ウェルズのように遠い未来に行くの
ではなく、600年前の英仏百年戦争の時代が目的地になる。
そして、その地で行方不明になり、発掘中の遺跡を通じて救
援を求めてきた老考古学者の救出作戦が物語の中心だ。  
まあ、正直に言ってクライトンという作家は、アイデアは面
白いがストーリーテリングは巧い方ではない。この作品も、
原作は読んでいないが、映画を見た限りでは展開がかなり荒
っぽいというか、よく言ってテンポが良過ぎる。     
しかしこの荒い作品を、さすがにヴェテランのリチャード・
ドナー監督は見事にまとめ上げてみせる。特に、映画の後半
でフランス軍の総攻撃が始まった辺りからの畳み掛けるよう
な展開の巧さは、見事としか言いようのないものだ。   
前半、登場人物たちの馬鹿さ加減にちょっと退き気味だった
僕も、後半になって映画にのめり込めた感じがした。特に結
末に至るというか、現代と過去を絡めた伏線の敷き方が、タ
イムパラドックスも含めて巧くできている感じがして、好ま
しく思えた。                     
                           
『デッドロック』“Undisputed”            
監獄で行われるボクシング試合を題材にしたウォルター・ヒ
ル監督作品。                     
主人公は10年間67戦無敗の監獄ボクシングのチャンピオン。
彼のいる同じ監獄に、現役の世界ヘヴィー級チャンピオンが
収監されてくる。世界チャンピオンは有名であることを盾に
所長を手懐け、監獄を我が物にしようとするが…。果たして
真のチャンピオンはどちらなのか。           
このお話を、監獄チャンピオンに『ブレイド』のウェズリー
・スナイプス、世界チャンピオンを『コン・エアー』のヴィ
ング・レエム、その他、ピーター・フォーク、ウェス・ステ
ューディなどを脇に据えて描くのだから、さすがヒル監督と
いう感じの作品だ。                  
しかも、脱税で収監された元プロモーターという役柄のフォ
ークが、ボクシングの歴史を語り続け、それに実際の試合の
記録フィルムが挿入されるという念の入れようで、ファンが
見たらたまらない作品ということになりそうだ。     
まあ物語は、ご想像の通りスナイプスとレエムの壮絶な試合
へと向かうのだが、これが当然フェイクではあるものの、逆
に充分に演出された作品という感じで、巧い展開になってい
た。この辺もさすがウォルター・ヒルというところだろう。
なお、スナイプスが髭を落とし、冷静沈着な監獄チャンピオ
ンという、『ブレイド』とは全く違った演技を見せているの
も見物だった。                    
                           
『ショコラーデ』“Meschugge”             
世界大戦の終戦から60年近く経って、いまだに癒えていない
傷跡を描いたドイツ映画。               
ユダヤ人一家の経営するチョコレート工場がネオナチに襲撃
され放火される。その事件を切っ掛けに、ナチスの迫害を逃
れてアメリカに渡ったユダヤ人女性が自分の家族の消息を知
ろうとするが、それは戦後60年間隠されていた重大な秘密を
暴いてしまう。                    
実際にこのような話があったのかどうかは解からないが、実
に巧くできたお話で、本当にあってもおかしくないような感
じがした。それにしてもドイツは、いまだにこのような贖罪
の物語を描き続けている訳で、その辺の国民性には頭が下が
る。                         
製作は、以前に『ネレ&キャプテン』を紹介したXフィルム
ス。先の作品は東西分裂ドイツの問題を描いていたが、今度
はナチスに関わる問題で、一つの国でこんなにもいろいろな
問題を解決しなければならないということにも、今更ながら
ショックを受けた。                  
もちろんドイツにだって、アウシュヴィッツはなかったと主
張している連中はいるようだが、その類のことを記者会見で
平然と公言してはばからない政治家がいないだけ、国民性が
真摯だということだろう。               
すでに戦争があったのかどうかさえも解からないような日本
人との感覚の違いには、まるで異次元に迷い込んだような感
覚さえした。                     
                           
『レジェンド・オブ・メキシコ』            
            “Once Upon a Time in Mexico”
『スパイキッズ』のロベルト・ロドリゲス監督が1993年に発
表したデビュー作『エル・マリアッチ』から数えればシリー
ズ第3作、ただし2作目の『デスぺラード』は第1作のリメ
イクということになっているから、その意味では第2作とな
るアクション映画。                  
メキシコのクーデターを背景に、CIAの捜査官や麻薬王、
将軍、伝説のガンマンなどが入り乱れる。        
物語は、ジョニー・デップ扮するCIA捜査官サンズから始
まる。クーデターの動きを察知しているサンズは、それに乗
じてある作戦を巡らせている。そしてその手立てとして、2
つの町を一人で全滅させたという伝説のガンマン、エル・マ
リアッチを探し出す。                 
クーデターは麻薬王バリーリョとマルケス将軍が手を結んで
進めている。そこでサンズはマリアッチを雇い、首謀者マル
ケス将軍の殺害を依頼する。しかしマリアッチとマルケスの
間には、マリアッチの妻と娘を巡る因縁があった。    
マリアッチ役のアントニオ・バンデラスと、その妻カロリー
ヌ役のサルマ・ハエックは、『デスペラード』と同じ役を演
じている。その意味では続編としてのつながりはあるが、全
体的にはそのような経緯は余り関係がない。       
今回は、クーデターを巡って、その陰で上手く立ち回ろうと
する男たちと、実直に自分の意志を貫く男たちの物語だ。実
際の話、前作『デスぺラード』では後半のこれでもかという
銃撃戦が見所だったが、今回はもっとちゃんとしたドラマを
見せてくれる。                    
それでも、銃撃戦を中心としたアクションの凄まじさは、前
作の味わいをしっかりと再現している。それに加えてドラマ
とロドリゲス特有のユーモアが盛り込まれているのだ。  
なお原題はOnce Upon a Timeとなっているが、映画の中では
テレビはワイドスクリーンだし、携帯電話も使われている。
使用される銃器も現代のものということで、背景は現代なの
だが、それを敢えて原題のように言っている辺りがロドリゲ
スらしさと言える。                  
それにしても、デップが撮影に参加したのは9日間だけだっ
たという情報もあるのだが、映画は完全にバンデラスとデッ
プの2人主役。さすがにデップのシーンでは、周到な準備を
必要とするような大掛かりなアクションはないが、それが逆
にバンデラスの動と、デップの静の対比のようにもなってい
て、上手い構成になっていた。             
なお、音楽は全体がマリアッチで綴られるが、バンデラスと
デップ、それに元FBI捜査官役のルーベン・ブラデスは自
分の登場シーンの作曲も担当している。また、エンディング
の歌曲はハエックが歌っているなど、音楽も注目の作品だ。
                           
『N.Y.式ハッピー・セラピー』“Anger Management” 
アダム・サンドラー、ジャック・ニコルスン共演のコメディ
映画。                        
アメリカでは大人気のサンドラーのコメディで、この作品も
4月にナンバー1ヒットを記録している。ところが僕はどう
も彼のコメディが性に合わず、特に『リトル・ニッキー』や
『変心パワーズ』のようなファンタシー系の作品がお手上げ
だったものだ。                    
しかし『ウェディング・シンガー』にはそれなりに共感した
ところもあり、今回は共演がマリサ・トメイとニコルスンな
ら、そう酷くはなるまいという気分で見に行った。で、その
結果は、ちょっと期待以上という感じで、特に、クライマッ
クスではかなり良い気分に浸れた。           
主人公は全く自分を主張できない男。昇進を口約束されて企
画会社に勤めているが、仕事は上司の下働きばかり、しかも
上司に昇進の希望を言うことすらできない。       
そんな主人公が、ちょっとした誤解から、搭乗した旅客機の
フライトアテンダントに暴行したとして逮捕される。そして
裁判所の判事に、怒り抑制セラピー教室への参加を命じられ
たことから、彼の人生が狂い始める。          
その教室のセラピストは、彼の怒りを抑制するどころか、煽
りたて、彼は自分でも思いもよらない怒りに見舞われて、ど
んどん深みに引き摺り込まれてしまうのだ。       
セラピストと患者のコメディでは、続編も作られたロバート
・デ=ニーロ、ビリー・クリスタル共演の『アナライズ・ミ
ー』が思い浮かぶが、本作はニコルスンがセラピストなのだ
から話はちょうど逆。それにしてこのセラピストはかなりや
ばい。                        
確かにお話にはかなりの無理もある。それをニコルスンの演
技力などで強引に見せられてしまう感じだ。しかしそれぞれ
のギャグや展開には嫌みがなく、最後は見事にカタルシスを
感じさせるなど、上手く構成されていた。        
それとキーとなる音楽に、『ウェストサイド物語』のI Feel
Prettyが使われているのも良い感じだった。そういえば、
『アナライズ・ユー』でも『ウェストサイド』の楽曲が使わ
れていたが、やはりニューヨークには一番似合う音楽のよう
だ。                         
                           
『跋扈妖怪伝・牙吉』                 
『さくや妖怪伝』の原口智生監督による劇場映画第2作。 
前作は公儀妖怪討伐の侍の娘と河童の少年を主人公に、人間
の側から妖怪との戦いを描いたが、本作では、人狼の血を引
く男を主人公に妖怪側からの人間との戦いが描かれる。  
主人公の牙吉は腕の立つ浪人。今しも襲いかかった河童の一
味を難なく打ち倒し、近江百井藩のとある宿場町にやってく
る。                         
百井藩は国境に関所を設けず、往来を自由にしていたが、そ
れは藩の家老と手を結んだ妖怪が、諸国の悪人をおびき寄せ
ては喰らうための策略だった。そして家老は、悪人討伐の手
柄で筆頭家老になったときには、妖怪たちに安住の地を与え
ると約束していた。                  
そんな宿場にやって来た牙吉は、妖怪の頭目の鬼蔵から協力
を求められる。しかし過去に人間を信じたために仲間を失っ
た牙吉には、人間との約束などは信じられなかった。そして
牙吉の危惧が現実となる日がやってくる。        
元々特撮造形の第一人者として知られる原口監督は、本作の
特撮ではCGIを排して、特にクライマックスの闘いのシー
ンでは、ワイヤーから火薬まで、ほとんどが実写指向で映像
を造り出している。                  
この特撮をどう見るかは、見る側のスタンスにも拠るが、例
えば『マトリックス』では、1が一番、3が三番の順で好き
な僕としては、やはり生身の人間が演じていることの魅力は
大きいものがある。チープといえばチープだが、それも魅力
ということだ。                    
それから、京都撮影所を使った時代劇は、周囲が背景を熟知
している魅力もある。特にファンタシー系の日本映画では、
監督の指向はあっても周囲がそれを理解していない弱さを感
じることが多いが、本作はその点が時代劇でカヴァーされ、
安心してみていられる。                
主人公の牙吉は原田龍二、相手役に清水健太郎と『さくや』
の安藤希(殺陣が見られないのは残念)。他に元モンテディ
オ山形のJ2リーガー中山夢歩が敵役を演じている。   
ハリウッド映画のおかげもあって、チャンバラが見直されて
いる時期でもあり、良い成果を期待したい。なお本作は第1
部と記されており、第2部の製作も進んでいるようだ。  
                           
『コール』“Trapped”                 
グレッグ・アイルズ原作『24時間』を原作者自身が脚色した
映画化。                       
特許権収入で裕福な麻酔医の幼い娘が誘拐される。犯人は3
人、講演旅行中の父親と自宅の母親のそれぞれに犯人が密着
し、身代金の受け渡しも被害者が直接行うという周到さで、
逃れる道はない。しかも彼らはすでに4件を同じ手口で成功
したと豪語する。                   
ところが今回は思わぬトラブルが発生する。娘が喘息だった
のだ。娘を死なせては元も子もない犯人は、その薬の受け渡
しのために母と娘の接触を認める。そして齟齬が次第に拡大
する。                        
30分ごとの連絡が絶えると娘を殺すと言うなど、被害者を精
神的に追い詰める犯行の手口は相当に説得力がある。また、
携帯電話やページャー(ポケットベル)、eメールなどを駆
使した展開もよく考えられていた。           
しかも、後半それがちょっと薄弱になり始めた辺りから、今
度は大掛かりなアクションを展開させて、否応なしのクライ
マックスに持ち込んで行く辺りの構成も見事だった。さすが
にヴェテラン、ルイス・マンドーキ監督の手腕というところ
だろう。                       
そしてもう一つ特筆すべきなのが、幼い娘を演じたダコタ・
ファニングの名演技だ。『アイ・アム・サム』や『TAKE
N』などでも定評のある子役だが、3つの場所が独立したド
ラマを展開する本作では、完全に主役として見事に演じてい
る。                         
他にシャーリズ・セロンやケヴィン・ベーコン、コートニー
・ラヴらが出演。クライマックスのクラッシュシーンも見も
のだ。                        



2003年12月01日(月) 第52回

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
※このページは、キネマ旬報誌で連載中のワールドニュー※
※スを基に、いろいろな情報を追加して掲載しています。※
※キネ旬の記事も併せてお読みください。       ※
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
 今回はコミックスの映画化の話題から紹介しよう。   
 最初は続報で、デイヴィッド・ゴイヤー脚本、クリストフ
ァー・ノーラン監督、クリスチャン・ベイルの主演により、
2005年の公開が予定されている新作“Batman 5”(仮題)の
計画で、バットマンことブルース・ウェインの邸宅と地下基
地バットケイヴを守る忠実な執事アルフレッド役に、オスカ
ー俳優のマイクル・ケインの出演が発表された。     
 この役は、過去4作ではバットマン役者は替っても、一貫
してマイクル・ゴーフというイギリス出身の俳優が演じてい
たものだが、今回はバットマンもかなり若返ることから、一
緒に交代ということになったようだ。          
 といってもケインも今年70歳だそうだが、ゴーフは97年の
『バットマン&ロビン』でもカクシャクとはしていたが、見
た目高齢の感じがしたもので、ゴーフに比べれば見た目も若
いケインの出演になったとものと思われる。            
 因にゴーフは、一時死亡説も流れたようだが、本人はまだ
現役の俳優で、2002年にシャーロット・ランプリングの主演
で、マイクル・カコヤニスが監督したチェーホフ原作“The
Cherry Orchard”(桜の園)などにも出演していたようだ。
 また、本作の撮影は2004年の春からの予定だが、ケインは
同時期に撮影される計画になっているサンドラ・ブロック主
演の2000年のヒット作“Miss Congeniality”(デンジャラ
ス・ビューティー)の続編への出演も希望しているというこ
とで、両作はどちらも同じワーナー作品なのでスケジュール
の調整が行われるようだ。               
 それにしても、アカデミー賞では過去2度の助演賞受賞と
1度の主演賞候補に輝くケインが、一体どのようなアルフレ
ッド役を演じるのか楽しみだ。             
        *         *        
 お次は、ジャッキー・チェン主演のリメイク“Around the
World in 80 Days”なども製作しているウォルデン・メデ
ィアから、“Biblionauts”という計画が発表されている。
 この作品のオリジナルは、MTVなどでの番組製作にも関
わっているアダム・モーティマという作家が、グラフィック
ノヴェルシリーズとして計画しているもので、原作の出版は
まだされていないものだ。               
 お話は、2人の子供が、ちょっと変り者の科学者が発明し
た、人間をフィクションの世界に転送する機械を使って、い
ろいろな小説の世界に潜り込み、冒険を繰り広げるというも
の。ところが彼らの冒険によって物語が書き替えられ、その
影響で世界の歴史まで変ってしまうというものだそうだ。 
 物語の世界に入り込むというアイデアは過去にもいろいろ
ありそうだが、それで現実世界までが変化してしまうという
のは新機軸。これが過去の名作の影響ということだと、どち
らかというとタイムマシンもののような作品になりそうだ。
 そして物語の全体はコメディで描かれるということで、こ
れは『バック・トゥ・ザ・フューチャー』が連想される。 
 なお、映画化の経緯は、モーティマが、ドリームワークス
で進められている“At the Mountains of Madness”などの
製作者のスーザン・モントフォードに概要を話し、彼女がウ
ォルデンに企画を売り込んだということで、映画化と同時に
原作の出版も同社の出版部門が行うことになりそうだ。  
 因に、一時、パラマウントによる全米配給が発表されてい
た“Around the World・・・”については、その後、契約が
キャンセルされていたが、最近ディズニーが北米地区の配給
を契約したようだ。これで、アーノルド・シュワルツェネッ
ガーの最後の出演作がアメリカでも上映されることになる。
        *         *        
 もう1本は、『アステリックス/ミッション・クレオパト
ラ』や『ミシェル・ヴァイヨン』などのコミックの映画化の
続くフランスから、孤独なカウボーイLucky Lukeを主人公に
した“Les Dalton”の映画化の計画が発表されている。  
 Lucky Lukeのオリジナルは、ベルギーのコミックス作家モ
ーリスが1946年に執筆を開始した西部劇の世界を舞台にした
シリーズで、その後、1956年からは『アステリックス』など
のレネ・ゴッシーニが参加して、モーリスが亡くなる2001年
まで全69作が発表されている。中でもゴッシーニが亡くなる
1977年までに発表された37作は人気が高く、ヨーロッパ各国
や中国、韓国などでも出版され、その内フランス版だけで毎
巻60万部を売り切ったと言われている。         
 物語は、開拓時代のアメリカ西部を舞台に、カラミティ・
ジェーンやビリー・ザ・キッドなどの実在の人物も登場する
現実とフィクションが入り混じったもの。また映画化の題名
になっているドルトン兄弟も、西部に悪名を轟かした実在の
ギャング団だが、コミックスの中でもLucky Lukeを悩ませる
敵役としてレギュラーで登場していたものだそうだ。   
 そして今回の映画化では、主人公Lucky Lukeをドイツ人俳
優のティル・シュワイガーが演じ、またドルトン兄弟には、
フランスの人気コメディチームのエリック・ジュドアとラム
ジー・ベディアのコンビが扮することになっている。ミシェ
ル・ハザナヴィシウス脚本、フィリッペ・ハイムの監督で、
2500万ドルの製作費が計上され、フランスでの公開は2004年
12月に予定されている。                
 なお、フランスではこの他に、ジャン・ジロー=メビウス
原作で、同じく西部を舞台にしたコミックス“Blueberry”
の映画化も、ヴァンサン・カッセル、ジュリエット・ルイス
主演、ジャン・コウネンの監督で計画されている。    
        *         *        
 続いては、『ハリー・ポッター』に続けとばかりのユース
ファンタシーの計画を紹介しておこう。         
 まずは、こちらも続報からで、第42回で紹介したジェイス
ン・レスコー原作のグラフィックノヴェル“Zoom's Academy
for the Super Gifted”の映画化の脚色に、『スモール・
ソルジャーズ』や『マウスハント』のアダム・リフキンが、
6桁($)後半の金額で契約したことが発表された。   
 お話は、ごく普通の女子高生が謎の父親の指示でスーパー
ヒーローのための学校に入学し、そこで自分の才能に目覚め
るというもの。映画化はスザンヌ&ジェニファー・トッドの
製作で、リヴォルーション傘下で進められている。    
 因に、リフキンは第28回で紹介したパラマウント=ニッケ
ルオデオン製作“Where's Waldo?”(ウォーリーを探せ!)
の映画化の脚色も担当している他、ディズニー=スパイグラ
ス製作のアニメーション“Underdog”にも関わっている。さ
らにニューライン製作の“Detroit Rock City”では監督も
手掛けているそうだ。                 
        *         *        
 お次は小説の映画化で、T・A・バロン原作の“The Lost
Years of Merlin”の映画化が、ミラマックス傘下のジャン
ル・ブランド=ディメンションで進められている。    
 物語は、アーサー王伝説にも登場する魔法使いマーリンの
若き日々を描くもので、オーストリア出身の若者が、古代の
ウェールズの海岸に流れ着き、自分の本当の居所と自分自身
を求める旅を始めるというもの。原作は5巻からなり、アー
サー王との友情や、魅力的な土地を巡る旅が描かれている。
 そしてこの脚色を、ブラッド・ピット、アンジェリーナ・
ジョリーの主演が決った“Mr.and Mrs.Smith”や、アイス・
キューブ主演の“XXX2”などのサイモン・キンバーグが担当
することが発表されている。なお脚色は、原作の第1巻のみ
について行われるもので、当然シリーズ化が想定されている
ということだ。                    
 因に、本家のミラマックスでは、以前から紹介しているエ
オイン・コルファー原作の“Artemis Foul”(全3巻)や、
第35回で紹介したローレンス・イェップ原作“The Tiger's
Apprentice”(全3巻)などの映画化も進めており、後者に
ついては、ジョニー・デップ主演で『ピーター・パン』執筆
の背景を描く“J.M.Barrie's Neverland”を担当したデイヴ
ィッド・マギーの脚色が契約されている。        
        *         *        
 もう1本はオリジナル脚本で、ディズニーからシド・クァ
ジーという脚本家の“King of the Gods”という作品を、傘
下のマイヘム・ピクチャーズで製作することが発表された。
 この作品は、若き日の大神ゼウスが、自らの宿命を知り、
父神を倒して地上と天界を治めるまでを描くというもの。デ
ィズニーではこの脚本に、6桁($)中盤の契約金を支払っ
たということだ。                   
 それにしてもこの物語、最近どこかで聞いたような気がす
るが、第48回で紹介したニューライン製作の“Titans”がや
はり古代ギリシャ神話をモティーフにしていたものだった。
 ということは、競作になる可能性がある訳だが、ニューラ
インの計画は『ハルク』のマイクル・フランシスが脚本を契
約しているものの、スケジュール的には少し先になりそうだ
ったもので、今回の動きでどう対応するか楽しみだ。   
 なお、ディズニーの計画では、ゼウスが神々の王となるま
でを第1部、天界を平定するまでを第2部、そして自らの冒
した失敗により凋落して行くまでを第3部とする3部作の構
成を検討しているということだ。また、製作には大規模なセ
ットやCGIも駆使した大型の作品に仕上げる計画というこ
とで、夏休み向けのテントポール作品を目指すそうだ。  
 因に、ディズニーではもう1本、エヴァ・イボットスン原
作の“Which Witch”という作品が、長編アニメーションで
計画されている。                   
 この作品は、引退しようとした魔法使いが、その前に生涯
の伴侶を見つけようとし、彼はそのためのコンテストを開い
たりするのだが…、という童話が原作の作品のようだ。ただ
しこの映画化の製作を、『12モンキーズ』のロバート・コス
バーグが担当することになっているのが面白そうだ。   
        *         *        
 以下は単発の話題を紹介しよう。           
 といってもこれも続報からで、第42回に紹介の“Memoirs
of a Geisha”の計画で、『シカゴ』のロブ・マーシャル監
督の起用が本決まりになった。             
 この計画は、アーサー・ゴールデン原作の1997年のベスト
セラーを映画化するもので、原作の出版当初から映画化権を
獲得したコロムビアとドリームワークスが共同で計画を進め
ていた。そして一時は、スティーヴン・スピルバーグの監督
で、主なキャスティングまで発表されたものだ。     
 ところが、激動の20世紀を生きた日本人女性の生涯を描い
た歴史作品を英語で製作するとした計画に、故黒沢明監督が
苦言を呈するなどの問題が発生。01年にはスピルバーグが監
督断念を発表していた。                
 その後、後任の監督が選考されていたものだが、以前にも
紹介したロブ・マーシャル監督の起用が可能になったという
ものだ。というのも、実はマーシャル監督が『シカゴ』製作
に際して交わした契約の中に、次回作もミラマックスで撮る
という条項があったもので、このためミラマックスの了解な
しには、他社での計画への参加ができなかった。     
 しかし最終的にミラマックスを加えた3社の共同制作とす
ることで合意がなされたということで、これでマーシャル監
督での製作が可能になったものだ。なお、準備はすべて再ス
タートされることになるようだが、果たして台詞は英語なの
だろうか。                      
 因に、ミラマックスとコロムビアの間では、ラッセ・ハル
ストローム監督の『シッピング・ニュース』とビリー・ボブ
・ソーントーン監督の『すべての美しい馬』が、今回と同様
の契約のために共同製作され、ミラマックスとドリームワー
クスの間でもジョン・マッデン監督の新作“Tulip Fever”
が同様の理由で共同製作されているそうだ。       
        *         *        
 お次はファンには待望の情報で、1978年にセンセーション
となった“Dawn of the Dead”(ゾンビ)などのジョージ・
A・ロメロが、ゾンビテーマのミュージカル映画を監督する
ことが発表された。                  
 この計画は、1973年に初演され1975年に映画化もされたロ
ックミュージカル『ロッキー・ホラー・ショー』の作曲家リ
チャード・ハートレイの計画にロメロが参加するもので、題
名は“Diamond Dead”。ロメロは作詞家のブライアン・クー
パーが執筆したオリジナル脚本のリライトと監督を勤めるこ
とになっている。                   
 お話は、女性シンガーが自分以外は全部男性の1980年代ス
タイルのロックバンドを結成。自分の音楽を始めようとした
矢先にバンドのメンバーが交通事故で全滅してしまう。そこ
で彼女は死神と取り引きし、彼らを連れ戻すのだが、彼らは
ゾンビになっていた。それでも彼女は自分の音楽を追求して
行くというもの。ロメロはオリジナル脚本の死者に対する考
え方と、盛り込まれたユーモアに共感したと参加の理由を語
っているそうだ。                   
 一方、1968年の“Night of the Living Dead”、1978年の
『ゾンビ』、そして1985年の“Day of the Dead”に続く、
本家のゾンビシリーズの第4作もフォックスサーチライトで
準備中だが、この計画では映画の題名を巡って揉めていると
いう噂があるようだ。                 
 因に、この計画では、当初予定されていた題名は、“Dead
Reckoning”というものだったが、これを統一性を持たせた
“Land of the Dead”に変更したいとするロメロ側の申し入
れに映画会社が難色を示しているそうで、この辺のごたごた
も今回のミュージカル映画の根底にあるのかもしれない。 
 それにしてもこのシリーズは、まだ“Dusk of the Dead”
ではないようだ。                   
        *         *        
 続いては、トニー・スコット監督が12年間温めて来た大型
西部劇“Tom Mix and Pancho Villa”が、『T3』のインタ
ーメディアの製作とメキシコ政府の協力で実現されることに
なりそうだ。                       
 この計画は、クリフォード・アーヴィングの同名の原作を
映画化するもので、物語は1910年代から1935年まで活躍した
映画スターのトム・ミックスが、映画界を去った後にメキシ
コ革命に加わり、革命の英雄パンチョ・ヴィラと共に活躍し
たというもの。ドイツ製の戦闘機やタンクで攻撃してくる政
府軍に対して、ミックスは様々なアイデアを駆使した奇襲で
反撃を繰り返したということだ。そして映画では生い立ちの
違う2人の男が築き上げた深い友情も描くとされている。 
 なおスコットは、過去に2作品をメキシコで撮影したこと
から、先日メキシコ大統領府に招かれ、その席で大統領に夢
を語って賛同を得たということだ。           
 因にメキシコの映画事情は、過去に『007』なども撮影
されたチュルブスコスタジオの設備も近代化され、また最近
は、“Harry Potter and the Goblet of Fire”を監督中の
アルフォンソ・キュアロンなどの人材も輩出、また映画学校
も充実しているということで、スコットも、この地での映画
製作に期待を寄せているようだ。            
        *         *        
 もう1本はドイツ映画の話題で、リヒャルト・ワグナーの
歌劇『ニーベルンゲンの指輪』(英題名The Ring Cycle)か
らインスパイアされた作品が製作されている。      
 この物語は、元々は13世紀にまとめられたドイツ語の叙事
詩『ニーベルンゲンの詩』に基づくもので、ジーグフリード
のドラゴン退治やライン川に眠る財宝などが歌われている。
そしてラインの黄金で作られ、全てのものを統治するといわ
れる指輪の物語は、そのまま“The Lord of the Rings”の
基ともなったものだ。                 
 そしてこの物語を、今回はミュンヘンに本拠を置くタンデ
ム・コミュニケーションズが映画化しているもので、ダイア
ン・デュアン、ピーター・モーウッドの脚本から、ユーリ・
エデルが監督。11月17日から南アフリカのケープタウンで撮
影が開始されている。                 
 またこの映画化には、ジーグフリード役で、ブレイアン・
ヘルゲランド監督、ヒース・レジャー主演の“The Order”
などに出演しているベンノ・ファーマンが主演の他、クリー
ムヒルト役に『トゥー・ウィークス・ノーティス』のアリシ
ア・ウィット、そしてブリュンヒルト役で『T3』のクリス
ターナ・ロケンが出演。他にジュリアン・サンズやマックス
・フォン・シドーの出演も報告されている。       
 ジーグフリートやクリームヒルトの物語は、無声映画時代
からドイツでは繰り返し映画化されてきたものだが、今回映
画化しているタンデムは、テレビミニシリーズ版の“Dune”
や、ディスカヴァリー・チャンネルで放送されたCGIによ
る長編ドキュメンタリー“Dragons' World”を共同製作する
など、技術力も持ち合わせている会社で、ファンタシーアド
ヴェンチャーの色彩を濃くするという今回の映画化の完成が
期待されるところだ。                 
        *         *        
 最後に、去年も紹介したアカデミー賞長編アニメーション
作品賞部門の予備候補について紹介しておこう。     
 まず、今年の予備候補作は11本。従って予備候補作が16本
未満なので、最終候補は3本ということになる。     
 そしてその予備候補作11本の内容は、まずディズニーから
“Brother Bear”“Finding Nemo”“The Jungle Book 2”
“Pokemon Heroes”“Piglet's Big Movie”の5本。その他
では、ドリームワークスから“Millenium Actress”(千年
女優)、ワーナーから“Looney Tunes: Back in Action”、
パラマウントから“Rugrats Go Wild!”、ソニークラシック
スから“The Triplets of Belleville”、ソニーピクチャー
ズから“Tokyo Godfathers”、そしてドイツの作品で“Till
Eulenspiegel”となっている。
 まあ、何と言ってもディズニーからの5本というのが目を
引くが、その内1本も含めて各社から日本作品が3本挙げら
れているのも嬉しいところだ。
 最終候補は、“Finding Nemo”は受賞もほぼ決まりだろう
が、それに加えてさてどの2作品が選ばれるのだろうか。
 なお、全ての部門の候補の発表は2004年1月27日、受賞式
は2月29日の日程になっている。


 < 過去  INDEX  未来 >


井口健二