井口健二のOn the Production
筆者についてはこちらをご覧下さい。

2003年11月16日(日) ラストサムライ

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※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介しています。     ※
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『ラストサムライ』“The Last Samurai”        
明治10年頃の日本を舞台に、侍社会の終焉を描いたトム・ク
ルーズ主演の歴史ロマン。               
最初に一言で言えば、予想以上に良くできた作品だった。 
物語は、明治初期のいわゆるお雇い外国人としてやってきた
男が、消え行く日本の侍文化に触れ、自らも改革されて行く
というものだが、そこには男のロマンのようなものが高らか
に謳いあげられ、見終って久しぶりにカタルシスが感じられ
るような作品だった。                 
主人公は、明治9年6月に戦死したカスター将軍と共に、南
軍やインディアンとの闘いで数々の武勲を挙げたという男。
その男が皇軍の軍事指導のため日本にやって来る。それはま
た、銃器を日本に売り込もうとするアメリカ政府の意向にも
沿うものだった。                   
しかし、最初の闘いで作戦の失敗から敵将勝元の捕虜となっ
た主人公は、山間の隠れ里で一冬を過ごすことになる。そし
てその間に日本の侍文化に触れることにもなるのだが…。や
がて春となったとき、彼らは圧倒的な皇軍との闘いを強いら
れることになる。                   
原作はなく、『グラディエーター』のジョン・ローガンがス
トーリーとクレジットされている。ローガンは共同脚本にも
なっているが、物語を最終的に仕上げたのは、監督でもある
エドワード・ズウィックと製作も手掛けたマーシャル・ハー
スコヴィッツのようだ。                
その脚本は、主人公にカスターの最期を語らせることで、特
にアメリカの観客には物語の展開を判りやすくするという構
成にしていると思われる。そしてこの主人公が、第7騎兵隊
の軍服を着て登場するシーンは彼の心情を見事に表現したも
のだ。                        
一方、日本人の観客である僕には、日本文化に帰依して行く
主人公の生き方が、ある種の理想形のような描き方で心地よ
い感じがした。また点描的に刀鍛冶が日本刀を仕上げて行く
過程を描くなど、日本文化に対する配慮も良い感じだった。
確かに、ニュージーランドでロケされた山里の風景は見るか
らにU字谷であったり、日本とは明らかに植生が違うなど違
和感を感じるべきところはあるが、この映画には、それを上
回るドラマの力強さが感じられた。           
また、主人公が、アメリカでカスターの敗戦の原因とも言わ
れるウィンチェスター銃の宣伝に協力していたり、日本に来
てからの最初の任務がカスターと同じ鉄道警備だったりとい
うような、細かい点の配慮も行き届いている感じがした。 
日本人の扱い方も、互いに蛮人と呼びあっていながらも敬意
が感じられ、特に日本人女性に対する態度が終始敬意を持っ
て描かれている点も素晴らしかった。          
さらに日本語と英語の字幕が、画面下部に同等に横書きで表
示されるのも、ちょっと不思議な感じもしたが、平等を象徴
しているようで良い感じだった。なお、予告編で気になった
General Hasegawaに対する長谷川将軍という表記は、長谷川
大将に改められていた。



2003年11月15日(土) 第51回

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※このページは、キネマ旬報誌で連載中のワールドニュー※
※スを基に、いろいろな情報を追加して掲載しています。※
※キネ旬の記事も併せてお読みください。       ※
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 今回は続編の話題からで、まずは新作“Timeline”が今月
末に全米公開される監督リチャード・ドナーから、1985年に
監督した“The Goonies”(邦題:グーニーズ)の続編の計
画が発表されている。                 
 前作は、スティーヴン・スピルバーグの原案製作、スピル
バーグとクリス・コロンバスの脚本を、ドナーが監督したも
のだが、後に『ハリー・ポッター』を手掛けるコロンバスに
とっては前年の『グレムリン』に続く第2作であり、ドナー
も先に『オーメン』『スーパーマン』はあるものの、翌年の
『リーサル・ウェポン』で本格的にブレイクする直前の作品
といえる。                      
 物語は、海辺の小さな町に住むマイキー筆頭に、マウス、
データ、チャック、スルースの少年グループが、海賊「片目
のウィリー」の残した財宝の地図を手掛りに大冒険を繰り広
げるというもの。また公開当時は、撮影のために特別に設計
されたウォータースライダーなどの、まるで遊園地のような
セットも話題を呼んだものだ。             
 そしてこの主人公のマイキーを、最近では“The Lord of
the Rings”3部作のサムワイズ役などで活躍しているショ
ーン・アスティンが演じ、また中国系のデータ役は、前年に
『インディ・ジョーンズ/魔宮の伝説』でデビューしたキー
・ホイ=クワンが演じていた。             
 その続編の計画だが、実はこの続編に関しては、前作の公
開直後から報告されていた。しかしいろいろな事情で今まで
製作されなかったもので、その計画が約20年経ってようやく
実現することになりそうだ。              
 なお続編の題名は“The Groonies”。これは前作でのデー
タの中国風の発音がこのように聞こえたことから名付けられ
たもので、続編では成長して電気店を営むデータの店に集ま
る少年たちがそう名乗るグループを結成して冒険を繰り広げ
ることになっている。そしてこの冒険には、前作のメンバー
も登場するということだ。               
 因に、残りの3人の少年の内、マウスとスルース役を演じ
たコーリー・フェルドマンとジョッシュ・ブローリンは現役
の俳優だが、チャックを演じたジェフ・コーエンはその後は
学業に専念し、実はUCバークレーの法学部を首席で卒業、
現在はハリウッドで法律事務所を営業しているとのこと。そ
のコーエンも続編には出演するということだ。      
 さらにグループと共に行動した2人の少女役のマーサ・プ
リンプトンとジョー・パントリアーノも現役の女優で、彼女
らも続編に出演する計画だそうだ。           
 続編の脚本は出来上がっているようで、前作を製作したス
ピルバーグの了承はすでに得ており、現況は最後の関門の製
作権を所有するワーナーにアプローチしているところという
ことだが、この企画に断る理由があるのだろうか。    
        *         *        
 後2つスピルバーグ関連の続編の情報で、まずはドリーム
ワークスが製作した『ザ・リング』の続編“The Ring 2”の
来年1月の撮影開始が発表された。           
 日本製ホラー映画をリメイクした前作は、全米で1億2900
万ドルを興行収入を上げた他、海外でも1億2000万ドルを稼
ぎ出したということだ。また元々の日本版にも『リング2』
と『リング0』が製作されており、当初から続編の製作は自
明だったようだ。                   
 そして続編には、前作の主人公を演じたナオミ・ワッツ、
息子役のデイヴィッド・ドーフマンの再登場が発表されてい
る他、脚本は前作と同じアーレン・クルーガーが担当してい
る。しかしその内容は、ドリームワークスによって厳重に機
密保持されており、印刷物はすべて暗号化されたものしか持
ち出せないということだ。               
 一方、監督は、前作のゴア・ヴァビンスキーに替ってコマ
ーシャル出身のノアム・モロの起用が発表されている。因に
モロは“Got Milk?”と題されたダークな雰囲気の牛乳のコ
マーシャルで話題になり、それが今回の抜擢に繋がったとの
こと。この他にナイキやフォルクスワーゲンなどのコマーシ
ャルを担当し、今年のカンヌ広告映像祭では3部門で受賞の
他、アメリカ監督協会のコマーシャル部門も受賞している。
 なお、1月から撮影される映画の公開は、来年11月の予定
になっている。                     
        *         *        
 一方、1998年に当時のアムブリンで製作された『マスク・
オブ・ゾロ』の続編の計画も発表され、この続編には、アン
トニオ・バンデラス、キャサリン・ゼタ=ジョーンズ、アン
ソニー・ホプキンスの再登場と、マーティン・キャンベル監
督の再登板も発表されている。             
 この前作は、特にゼタ=ジョーンズがブレイクした作品と
して知られるが、これを見たマイクル・ダグラスが一目で彼
女と結婚したいと言い出し、その後2年間のアプローチでつ
いに念願を果たしたという伝説も生み出した作品だ。   
 そしてこの続編も、前作の公開直後から話題になっていた
ものだが、特にこの続編にはキャンベル監督が常に中心とな
って計画が進められていた。しかし製作者たちの期待に応え
る脚本が中々得られず製作に至らなかったものだ。    
 その計画に今回は、テレビシリーズ“Alias”の製作総指
揮を手掛けるロベルト・オーチとアレックス・カーツマンが
執筆した強力な脚本がもたらされ、一気に製作が決ったとの
こと。この作品も来年春からの撮影が予定されている。  
 因に監督のキャンベルは、アンジェリーナ・ジョリー主演
の『すべては愛のために』の全米公開が始まったところで、
これから準備を本格的に行えるようだ。また、ゼタ=ジョー
ンズは新作の撮影を完了しており、バンデラスはブロードウ
ェイのミュージカルに出演中だが、これらも含めてスケジュ
ールの調整は万全なようだ。              
 なお、続編の製作発表はコロムビア=ソニーの単独で行わ
れており、『メン・イン・ブラック2』のようにアムブリン
が復活することはないようだ。             
        *         *        
 お次は前編の話題で、来年の公開を目指してワーナー傘下
のモーガン・クリークで進められている『エクソシスト』の
前日譚“Exorcist: The Beginning”の製作で、当初監督を
担当していたポール・シュレイダーが降板し、引き継いだレ
ニー・ハーリンの下で6週間の再撮影を行うことが発表され
ている。                       
 1973年のアカデミー賞で作品賞を含む10部門にノミネート
され、脚色及び音響部門に輝いた第1作からは、77年と90年
に続編が製作されているが、本作は第1作でマック・フォン
・シドーが演じたメリン神父の事件に至るまでの足跡をたど
るもの。第1作のプロローグや第2作で描かれたアフリカの
遺跡調査での神父と悪魔との最初の遭遇の物語だ。    
 そしてこの作品の撮影は、昨年11月11日に開始され、今年
3月にはVariety紙に撮影終了の広告も掲載されて、来年2
月公開に向けてのポストプロダクションが行われていた。と
ころが9月になって、シュレイダーと製作会社との間で創造
上の意見の相違が発覚し、ポストプロダクションの半ばで監
督の降板としてしまった。               
 これに対してモーガン・クリーク側は、レニー・ハーリン
に監督の引き継ぎを依頼したのだが、今度はシュレイダーに
同調した俳優2人が降板を表明し、結局この2人の出演シー
ンの撮り直しのために6週間の再撮影が行われることになっ
た模様だ。                      
 それにしても、撮影が終った段階での監督の降板とは珍し
い事態だが、実はこのままではシュレイダーの名前も監督と
して残るということで、このままハーリンとの共同監督とい
うことになるのだろうか。また、再撮影が行われるローマの
チネチッタ撮影所では、急遽スケジュールの立直しなど、か
なりの混乱が生じたようだ。              
        *         *        
 続いてはリメイクの話題で、まずは1950年にアレック・ギ
ネス主演で製作されたイギリス映画“Last Holiday”を、今
年のオスカーで助演賞候補になったクィーン・ラティファの
主演で再映画化する計画が発表されている。       
 オリジナルはイギリスの作家、劇作家ジョン・プリースト
リーの原作に基づくもので、それまでは普通の生活をしてい
た主人公が、自分の死期の迫っていることを知らされ、最期
にリゾート地で散財を試みるが、それが騒動を巻き起こすと
いうもの。日本では未公開のようだが欧米のガイド本では、
星3つなどの高い評価を受けているコメディ作品だ。   
 このオリジナルでギネスが扮した主人公を、ラティファが
演じるという計画で、脚色には『ロジャー・ラビット』や、
昨年公開されたジム・キャリー主演の『グリンチ』などを手
掛けたピーター・シーマンとジェフリー・プライスが起用さ
れている。                      
 因にラティファは、現在撮影中の『Taxi』のリメイク
では、オリジナルのフランス映画でサミ・ナセリが扮したタ
クシー運転手を演じており、今回の計画はまたまたヨーロッ
パ映画からのリメイクで、しかもどちらもオリジナルは男性
の役を演じることでも話題になっているようだ。     
        *         *        
 もう1本リメイクの計画は、1987年にブレイク・エドワー
ズ監督、ブルース・ウィリス、キム・ベイシンガーの共演で
映画化されたコメディ作品“Blind Dates”(ブラインド・
デート)の再映画化が計画されている。         
 オリジナルの物語は、仕事中毒気味の男性がふと誘われた
ブラインドデートで羽目を外し過ぎたことから、会社絡みの
トラブルに見舞われるというもの。実は、『ダイ・ハード』
の前年にトライスターで製作された作品で、ウィリスの映画
主演デビュー作とも言われているもののようだ。     
 そして今回のリメイクでは、リヴォルーションでこの夏公
開したハリスン・フォード、ジョッシュ・ハートネット共演
の『ハリウッド的殺人事件』を手掛けたルー・ピットが製作
を担当し、この脚色もピーター・シーマンとジェフリー・プ
ライスが担当することになっている。          
 脚色以外のスタッフキャストや製作時期などは未定だが、
この作品のリメイク権はコロムビアが所有しており、最終的
にはリヴォルーションと同社の共同製作になりそうだ。  
        *         *        
 新しい話題で、昨年の東京国際映画祭で話題を呼んだブラ
ジル映画『シティ・オブ・ゴッド』のフェルナンド・メイレ
レス監督が英語作品に初挑戦することが報告され、その作品
としてジョン・ル=カレ原作“The Constant Gardener”の
映画化の計画が発表されている。            
 原作はアフリカのケニアを舞台に、イギリス人外交官が現
地の人権運動に関わっていた妻の謎の死を切っ掛けとして、
西欧製薬会社と現地政府との癒着を暴くというもの。そして
この脚色を、1995年の『007/ゴールデンアイ』を手掛け
たジェフリー・ケインが担当し、主人公のジョスティン・ク
ウェイル役にはレイフ・ファインズの配役も決定して、来年
3月からの撮影が予定されている。           
 因にこの計画、元はマイク・ニューウェルの監督で進めら
れていたものだが、彼が“Harry Potter and the Goblet of
Fire”の監督に決ったためにメイレレスの起用となったよ
うだ。しかし、前作で社会性の強い作品を手掛けたブラジル
人監督には、第3世界と西欧企業の関係を描いたこの原作の
テーマに最適との呼び声も高く、製作会社のフォーカス・フ
ューチャーズが所有する全世界の配給権には、すでにミラマ
ックスやUAなどから強い引合いが来ているということだ。
 なおル=カレ原作の映画化では、2001年に原作者自身の脚
色製作総指揮による『テイラー・オブ・パナマ』が公開され
ているが、今回の映画化は原作者が直接関わっているもので
はないようだ。                    
        *         *        
 前回に続いて、アイザック・アジモフ原作の映画化の情報
で、パラマウントとクルーズ/ワグナーの製作による“End
of Eternity”(邦訳:永遠の終り)の計画が報告された。
 1955年に発表された原作は、アジモフでは珍しい時間テー
マの作品で、時間移動の手段を手に入れた人類は、時間管理
機関を創設して正しい歴史が進むよう操作を行っているが、
その担当官が一人の女性を愛したことから問題が生じるとい
うもの。                       
 そしてこの原作の映画化の計画は数年前から立上げられ、
一時はゲイリー・ゴールドマン脚色で、リドリー・スコット
監督という話もあったようだが、立ち消えになっていた。 
 今回はこの作品の脚色に、“The Singing Detective”と
いう作品のパラマウント配給が決ったキース・ゴードンの起
用が発表されたもの。因にゴードンは、ジェニファー・コネ
リーの主演で2000年に発表した“Waking the Dead”という
作品が高い評価を受けているようだ。          
 なおこの計画で、トム・クルーズの出演は発表されていな
いが、パラマウントでは、“Timeline”に続く時間ものとし
て期待される。                    
        *         *        
 クルーズ/ワグナーの話題のついでに、来年1月からの撮
影が予定されている“Mission: Impossible 3”で、新たな
キャスティングの情報が紹介されている。        
 同作のキャスティングでは、先にヒロインの情報をお伝え
したが、今度は男優で、アンディという名前のチームメイト
が選考されている。役柄は、20代後半から30代前半、すでに
IMFのエージェントで、聡明で運動能力に優れ、コメディ
アンのようなウィットを持ち、コンピューターに対する知識
も豊富。さらにバイカーで、ヒップホッパー、高位の貴族の
称号を持つというもの。                
 こんな奴がいるのかと言われそうだが、役柄ということだ
から、別段本人がこの通りである必要はない。要はこのよう
な雰囲気を持っている俳優が選考されているということだ。
因に、女優の方にはアメリカ訛りが喋れることという条件が
あったが、男優は国籍を問わないということだ。     
 ただし、『ナーク』のジョー・カーハンが監督するシリー
ズ第3作は、最新の製作情報でもトム・クルーズ以外のキャ
スティングは明らかにされておらず、ヒロインの選考も進ん
でいないようで、さらに撮影開始が遅れるという情報もある
ようだ。                       
        *         *        
 クリス・ヴァン=オールズバーグの原作で、CGI/実写
合成による“Polar Express”の映画化を、キャッスルロッ
ク=ワーナーとの共同で完成したばかりのトム・ハンクス主
宰プレイトーンから、さらに絵本の映画化の計画が発表され
ている。                       
 新たに発表されたのは、モーリス・センダク原作“Where
The Wild Things Are”。1963年の文学賞受賞作でもある原
作は、元々キャラクターのユニークさなどで映画化が期待さ
れていたものだが、ユニヴァーサルとの共同で進められてい
るこの計画に、さらに『アダプテーション』などのスパイク
・ジョーンズ監督の契約が発表された。         
 原作の物語は、マックスという名前のいたずら好きの少年
が、夕食を取り上げられた日に、子供の想像力で自分の部屋
をジャングルに変え、怪物や野性の動物を造り出して自分が
その王様になるというもの。              
 この映画化にジョーンズ監督が挑戦する訳だが、元の計画
ではオールCGIで製作されることになっていた映画化は、
ジョーンズ監督の起用で、実写も考慮した体勢に作り替える
ということで、かなりユニークな作品になりそうだ。   
 なお、プレイトーンではもう1本、ワーナーとの共同によ
る“Ant Bully”の映画化の計画も進めており、こちらは、
昨年のアカデミー賞で第1回長編アニメーション作品賞候補
になったパラマウント製作“Jimmy Neutron: Boy Genius”
のジョン・デイヴィス監督で進められている。      
        *         *        
 最後に脚本家の話題を2つ。             
 まずは、ザ・ロック=ドウェイン・ジョンスン主演で計画
されている“Johnny Bravo”の脚本に、マシュー・ベリーと
エリック・エイブラムスのコンビの起用が発表されている。
 カートゥーンネットワークの人気アニメーションから、シ
リーズの大ファンだというジョンスンが自ら主演を買って出
ている今回の映画化は、ワーナーとカートゥーンの共同製作
で進められているが、計画されている物語では、ジョニーが
長く行方不明だった父親を探す展開になるということだ。 
 なお、起用される脚本家コンビは、“Undercover Elvis”
という脚本を発表している他、ヘンスン社が昨年フォックス
で計画した“New Muppet Show”のパイロット版なども手掛
けているそうだ。                   
        *         *        
 もう1本は、以前に紹介した“The Phantom”の再映画化
で、元オリンピック競泳の金メダリストから脚本家に転身し
たメル・スチュワートの起用が発表されている。     
 同名のコミックスの映画化は、最近では1996年に製作され
たビリー・ザーンと、ブレイク前のキャリン・ゼタ=ジョー
ンズの共演作があるが、今回の計画でスチュワートは、舞台
を現代にすることを希望しているそうだ。        
 因に、96年の映画化は舞台を1930年代に設定しているが、
コミックスの設定では、主人公は何代にも渡って人類を守り
続けてきたということで、物語の舞台が現代になることはな
んら問題ないそうだ。                 



2003年11月09日(日) 第16回東京国際映画祭(後半)

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※このページでは、東京国際映画祭で上映された映画の中※
※から僕が気に入った作品のみを紹介します。     ※
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<コンペティション>                 
『サンタスモークス』“Santa Smokes”         
ドイツ資本で作られたアメリカ映画。          
クリスマス間近のニューヨークを舞台に、俳優を目指す若者
の生活が描かれる。オーディションに失敗した主人公は、サ
ンタの衣装をしてビラ配りのアルバイトを始めるが、そこで
エンジェルと名乗る女性と巡り会う。          
別段ファンタスティックという物語ではないが、殺伐とした
ところも余りなく、中途半端と言われればその通りだが、見
終って不愉快ということもない。悪い映画ではないが、それ
以上でもない。                    
映画の中では、多分、ちょっとした奇跡は起きているのかも
知れないし、これがクリスマス・ムーヴィというものなのか
な。そんなジャンルがあるのなら。           
                           
『ヴァイブレータ』(日本映画)            
寺島しのぶ、大森南朋共演のドラマ。          
主人公は31歳のフリーライター。ちょっとアルコール依存症
気味で、過食したものを吐き戻す癖がある。そんな彼女が、
ある日、深夜のコンビニで長距離トラックの運転手と巡り会
い、東京−新潟を往復する行程を共にする。       
脚本、監督は、元々ピンク映画系の人たちということで、男
女の情愛が丁寧に描かれる。そして寺島は必要なところはち
ゃんと脱ぐし、その意味では偉いというか、よくがんばって
いると言えるだろう。                 
いわゆるロードムーヴィのスタイルだが、物語の中には、フ
リートラッカーの実情やCB無線のことなど、いろいろな情
報も語られていて結構面白かった。           
30代の女性の揺れ動く心情なども丁寧に描かれていて、優れ
た作品だったと思う。                 
                           
『ほたるの星』(日本映画)              
120年の歴史を持つ山村の小学校を舞台に、都会から来た新
米教師と生徒たちの交流が描かれる。教師は、生徒と共にホ
タルの羽化を試みるのだが、その前にはいろいろな障害が立
ちはだかる。しかし周囲の助けも得て、ついに羽化に成功す
るという感動作だ。                  
ホタルの飼育の話は全国的にいろいろあるようだが、そこに
は環境問題や河川管理の問題なども絡んで、社会的なテーマ
にも繋げ易い。ということで、見た目お手軽な話の割には、
いろいろ考えさせられる作品になっている。       
また、最後にはCGIでホタルの大群舞を見せてくれる。一
応、子供の頃に本物のホタルの飛ぶ姿を見たことのある人間
としては、ちょっとやりすぎの感じもしないではないが、そ
れはそれでよしとしなければいけない作品だろう。    
なお、「モーニング娘。」などと同じハロープロジェクト絡
みの作品ということで、ヒロインの転校生の役を、そのキッ
ヅに選ばれた女子が演じている他、数人が出演している。ま
た、挿入歌と主題歌をつんく♂が手掛けている。     
                           
『ドリーミング・オブ・ジュリア』“Cuba Libre”    
共産革命前夜のキューバを舞台にしたドラマ。      
主人公は小学生の少年、地主の家に育った彼が、革命前夜と
いう状況の中で成長して行く姿が描かれる。と言っても、僕
らにはピンと来ない部分もある。当時の情勢などはいろいろ
な映画での知識もあるが、それらとはまた違った状況もあっ
たということだろう。                 
物語で、主人公の一家は結局没落して行くことになるが、映
画は特にそれを描こうとしている訳ではない。主人公の家の
隣が映画館だったということで、当時映画のシーンが挿入さ
れ、ハリウッドから移り住んだという女性などが彩りを添え
る。                         
『影なき恐怖』『カサブランカ』『ヴァイキング』などの映
像は年配の映画ファンには懐かしいだろうし、それらの名台
詞が物語のキーに使われたりもしている。その辺を楽しめれ
ばいいという作品。                  
なお、添えられた英語題名が“Dreaming of Julia”となっ
ているが、『影なき恐怖』の原題は“Julie”、どうした訳
だろう。                       
                           
<特別上映作品>                   
『ミシェル・ヴァイヨン』“Michel Vaillant”      
45年以上の歴史を誇るフランスの人気コミックスの映画化。
2002年のル・マン24時間レースに2台の車を正式エントリー
し、実際のレース中の撮影を敢行したという作品。脚本と製
作をリュック・ベッソンが手掛けており、さすが現代フラン
ス映画の牽引車の力業という感じの作品だ。       
物語は、ヴァイヨンチームの新型エンジンが完成し、ル・マ
ンに参加を決めるところから始まる。しかしミシェルの母親
は、大事故の悪夢に悩まされていた。そしてそのレースに、
宿敵リーダーチームの5年振りの復帰も発表される。母親の
悪夢は正にそのチームとの争いで起きるものだった。        
映画はその悪夢のシーンから始まるが、実際のレース場を使
ってのデッドヒートのシーンは迫力だったし、オンボード・
カメラを駆使した事故の模様も見事だった。                 
それにしても、物語の中でのリーダーチームの妨害工作が、
犯罪すれすれというより、まるで犯罪行為ばかりで、その姑
息さといったら、アニメのブラック魔王並みなのだから笑っ
てしまう。さすがコミックスの映画化という感じがした。 
結末もそんな感じで、結局、その辺を許せるかどうかが評価
の分れ目になりそうだが、僕は許していいと思っている。 
なお、映画の前半では山岳ラリーの様子が描かれるが、これ
はTaxiシリーズで経験を積んでいる感じで見事だった。
                           
『ハードラックヒーロー』(日本映画)         
今年のベルリン映画祭に出品された『幸福の鐘』で、アジア
最優秀作品賞を獲得した監督SABUがジャニーズ系アイド
ルのV6を主演にして作った作品。           
元々はジャニーズ側から企画を持ち込んだようで、脚本も手
掛ける監督としては6人全員を主人公にするという、一種の
挑戦を試みた作品のようだ。しかも、V6を使える撮影期間
は3日間だったようで、それもまた挑戦だったという訳だ。
それにしてもSABU程の名のある監督が、よくこのような
企画に乗ったものだと思うが、結局、上記のような挑戦をし
てみたかったというところだろうか。そしてその挑戦には、
それなりの成果があったという感じだ。         
物語は、キックボクシングを使った賭博場に居合わせた2人
ずつ3組6人のメムバーが、それぞれの事情で逃走しなけれ
ばならなくなり、町中を疾駆および疾走するというもの。ほ
とんどのシーンがパニック状態という設定は、細い演技の必
要を無くす配慮だろう。                
とはいえ、V6の面々がそこそこの演技力の持ち主であるこ
とは、途中森田、三宅の組がチンピラに絡まれるシーンで、
チンピラ役の連中の演技との差ではっきりする。さすがアイ
ドルといっても侮れないというところだ。        
内容は、70数分で3つの物語を完結させる訳だから、深みは
ないし、物足りないが、製作の条件を考えると、逆に実験映
画としては良くできているという感じがした。夢を追い続け
ることの大事さみたいなテーマもそれなりに伝わってくる。
なお、本作もベルリンへの招待が決まったそうだ。    
                           
<アジアの風上映作品>                
『リング・ウィルス』(韓国映画)           
『リング』の韓国版リメイク。             
98年に公開された日本版の評判は韓国にも伝わったが、ワー
ルド杯以前の日本文化の流入が制限されていた中では、この
作品が韓国で上映される可能性はほとんどなく、このため同
国の映画人が国内のみの上映を前提とした権利を取得して99
年に製作した作品。                  
その作品を、今回は原権利者である角川書店などの特別許可
で上映したもので、従って今後、この作品が日本で再度上映
される可能性はほとんどないということだ。       
物語は、日本版とほとんど変わるところはなく、正しくリメ
イクという感じ、いくつか違いを挙げれば、主人公の子供が
女の子になっていることや、ヴィデオを見た後に掛かって来
る電話のシークェンスが最初を除いて省略されていた。  
特に後者に関しては、このシーンが除かれることで恐怖感は
かなり薄らいでいる感じがした。また結末に関しても、ハリ
ウッド版のような改変はなく、日本版より明確に以後の展開
を示している感じで、全体的に恐怖を煽るより物語をはっき
りさせる意志を感じた。                
つまりその辺りが、日本と韓国の映画作りの基本的な違いの
ような感じもして、興味深いものがあった。       



2003年11月05日(水) 第16回東京国際映画祭(前半)

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
※このページでは、東京国際映画祭で上映された映画の中※
※から僕が気に入った作品のみを紹介します。     ※
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
<コンペティション>                 
『カレンダー・ガールズ』“Calendar Girls”      
英国ヨークシャーの小さな村の婦人会で、慈善事業の資金集
めのために作った主婦たちのヌードカレンダーが、大反響を
巻き起こしたという実話に基づくヒューマンドラマ。   
元々は主婦仲間の一人の夫が白血病で亡くなり、その未亡人
の親友が、彼の残したメッセージに触発されて思い付くのだ
が、当然幹部会は大反対。それを掻い潜って撮影から発表に
漕ぎ着けるまでの顛末や、最後はアメリカにまで進出してし
まうお話などが描かれる。               
インスパイアと表記されているので、多分ほとんどの部分は
フィクションなのかも知れないが、実に人情味とユーモアに
あふれた物語で、しかもこれをへレン・ミレンを始めとする
ベテラン女優たちが見事に演じるのだから、それは素晴らし
い作品に仕上がっている。               
一つ一つのエピソードの積み上げ方も見事だし、主婦たちが
ヌードに挑戦する過程も自然に納得できる。また実現するま
での努力や、それによってちょっとしたことからお互いの間
に生まれる確執なども上手くドラマになっている。    
イギリス映画だが、すでにブエナヴィスタ(ディズニー)の
手でアメリカ配給も決まっている作品、それだけのことはあ
るという感じだった。                 
                           
『オーメン』(タイ映画)               
オキサイド&ダニー・パン兄弟が、製作、脚本、編集を手掛
けた作品。兄弟の作品は以前の映画祭の上映などで何本か見
ているが、今回の作品は兄弟の支援を受けて新人監督がデビ
ューを飾ったものだ。                 
物語は、幼なじみで成長しても一緒に広告業界で働く3人の
若者が、不思議な体験をして行くという、ちょっとオカルト
気味のお話。パン兄弟の作品もその傾向があるが、タイとい
うお国柄のせいか、因果応報といった感じのお話はそれなり
に様になっている。                  
3人の内の一人がちょっとした自動車事故の後で、謎めいた
老婆に巡り会う。そして彼女にいろいろ予言されるが、半信
半疑の彼はその言葉に従えない。しかしそれが徐々に仲間の
別の一人の生死に関わってくる辺りから、緊迫の度を増して
くる。                        
全体として良いお話なので、それはそれで構わないのだが、
ただちょっと結論と言うか、最後の部分が急ぎすぎていて、
一部釈然としない感じが残った。それがオカルトと言われれ
ばそれまでだが。                   
                           
『謎の薬剤師』“Le Pharmacien de Garde”       
世界中で続く環境破壊に、過激な方法で一人立ち向かった薬
剤師と、そうとは知らず彼の友人となった殺人課刑事を巡る
物語。                        
最初は、海洋汚染を引き起こした海運業者が、突然できた石
油溜まりで溺死体で発見される。次いで煙草会社の社長が、
数十本の煙草をくわえて肺の火傷で死亡する。      
この事件を追う刑事は、現場に残された印からドルイド教の
一派の仕業と割り出すが、それは過去のお話のはずだった。
娯楽作品としての完成度はかなり高い。薬剤師に超能力の雰
囲気を匂わせる辺りも巧みだし、薬剤師と刑事との関わりの
付け方もスムースに上手く描かれている。演出も良いが、脚
本もまた巧みな作りで面白い。             
謎解きや最後の詰めの部分も納得できる感じで、最近好調の
フランス映画らしい作品。日本の配給は決まっていないよう
だが、このまま消えるのは惜しい感じがした。      
なお、刑事役をジェラールの息子のギョーム・ドパルデュー
が演じている。また、海洋汚染のニュースフィルムには、数
年前の日本海沿岸のものも使われていた。        
                           
『暖〜ヌアン』“暖”                 
『山の郵便配達』が日本でも高い評価となったフォ・ジェン
チー監督の新作。第3作までというコンペティションの規定
が今年から撤廃されたことで出品された監督の第4作。  
「白狗秋千架」という短編小説の映画化ということだが、と
ても短編で描き切れる内容ではなく、映画のための脚色が相
当に入っていると思われる。そしてその映画としての素晴ら
しさが随所に見られる作品だった。           
歌と踊りが上手く村の花だった少女と、勉強ができてやがて
は都会の大学に進む若者。相思相愛で、周囲も認める中だっ
た二人が、10年の歳月で全く異なる人生を歩んでしまう。そ
れはちょっとした偶然の悪戯。             
田園の広がる中国の農村を舞台に、ちょっとした行き違いか
ら二人の幸せを掴み損ねた男女の青春時代と現在が見事に交
錯して描かれる。貧しいが、今が幸せだと思わざるを得ない
人生。決して悲劇ではないのだけれど、最後は本当に泣けて
しまった。                      
主人公の二人は中国人の俳優だが、キーとなる役で香川照之
が出演。はまり役と言えるような見事な演技を見せている。
                           
『ウィニング・チケット』“Telitalalát”        
1956年、共産主義政権下のハンガリーで起きた実話にインス
パイアされたという作品。               
共産主義の名の下に苦しい生活を強いられている民衆たち。
ところがある日、主人公はトトカルチョで100年分の給料を
上回る賞金を獲得する。しかし、その賞金を現金で鞄に詰め
て持ち帰ったことから、疑心暗鬼に陥り、やがて生活が破綻
していってしまう。                  
実話の当選者は、その後行方不明になったということだが、
映画の主人公も、ソ連軍の進駐や一時的な反政府活動の決起
などに翻弄される。映画らしい偶然もいろいろあって、実話
とは思えない部分も多いが、当時の悲惨な生活を垣間見せて
いるという感じもする。                
昔の東欧圏の国で、共産主義を批判することは、今もまだ危
険が伴うという話を聞いたこともあるが、この映画では、偶
然を重ねておとぎ話的に描くことで、その批判をかわす意図
があるのかも知れない。                
現代の日本を基準にして観ると、馬鹿馬鹿しく感じてしまう
かも知れないが、これが現実だった世界もあったということ
だ。                         
                           
『ゴッド・イズ・ブラジリアン』“Deus é Brasileiro”  
ブラジルのとある川岸に住む若者のもとに、神様がやってく
る。神様はちょっと休暇を取る為に、その間の代行となる聖
者を求めてやってきたのだ。ところが、その聖者になるはず
の男はすでに移り住んだ後だった。そこで若者と神様の、男
を探す旅が始まるのだが…。              
今の時期にこのテーマだと、どうしても『ブルース・オール
マイティ』が思い浮かんでしまうが、VFXで奇跡を起こし
まくるハリウッド映画とは違い、こちらの神様はいたって素
朴だ。しかも、胡散くさい宗教家にころりと騙されたりもし
てしまう。                      
でも最後まで出突っ張りの神様は、その間にろいろなことを
語り、人類とはいったい何なのかを考えさせる。全体はコメ
ディだし、別段深遠なことを語ろうという意図はないのだろ
うが、語られる話は結構面白かった。          
ちょっとだけあるVFXもそれなりに決まっていた。   
                           
『さよなら、将軍』“¡Buen Viaje, Excelercia!”    
1975年に亡くなったスペイン・フランコ政権末期の内幕を描
いた作品。                      
すでに老人性痴呆症の兆候を見せているフランコを、その存
在だけで政権に留まらせようとする取り巻きたちの姿を皮肉
たっぷりに描き出している。              
実際に、その頃の圧政は民衆をかなり困らせたようだが、30
年近く経って、ようやくそれを見直すことができたというと
ころのようだ。                    
テクニック的には、当時のニュースフィルムにフェイクの画
像を繋ぎ合わせるなどの手法もかなり効果的に使われている
が、映画の最後で明かされる、一人2、3役ずつをこなした
俳優たちの演技も面白かった。             
当事者でない我々には、ピンと来ない部分も多いが、首相が
掲げた選挙の定年制でのドタバタを見せられたばかりのとこ
ろでは、なるほどと思わせるところも多々あった。    
それからこの作品でも、スペインリーグのトトカルチョに興
じるシーンが描かれており、そこはそれなりに理解できた。
                           
『心の羽根』“Des Plumes dans la tête”        
ちょっと目を離した隙に、5歳の息子を死なせてしまった母
親の心が癒されるまでの1年を描いた作品。       
正直に言って、見ていて途中まで不快に感じていた。それは
例えば子供の死が描かれているはずのシーンで、ことさら陽
気なコーラスが流れたり、不必要な感じのセックスシーンが
描かれている点だった。                
しかし途中で、その不快感が、多分、遺族の気持ちを追体験
しているものであることに気づいた。恐らくは当事者にとっ
て、周囲のこのような無神経さが一番こたえるものなのだろ
う。それに気づいてこの映画が理解できた気がした。   
母親は精神に異状をきたしかけて、無感覚になっているのだ
が、その気持ちも何となく理解できる感じがした。その辺を
考えると、かなり良くできた脚本ということなのだろう。 
なお、死んでしまう子供が、生前のシーンでずっとゴジラの
ソフビ人形を持っている。本映画祭を意識してのことかどう
かは判らないが、ちょっと気になった。         
                           
<特別上映作品>                   
『スカイハイ劇場版』(日本映画)           
連載マンガを原作に、テレビ朝日系列で放送されたシリーズ
の映画版。テレビシリーズは見ていないが、その結末から新
たな物語が構築されたようだ。             
監督は北村龍平。以前にこの監督の長編第1作を評価した割
りには、その後は短編を1本見ているだけだったが、本作を
見て自分の評価が間違っていなかったと再確認した。   
心臓だけを抜かれて殺されるという連続猟奇殺人事件が起こ
り、その事件を追う刑事の婚約者も結婚式の式場でその被害
者となる。そしてその復讐を誓う刑事だったが、そこには現
世と来世を繋ぐ怨みの門を巡る闘いが待ち受けていた。  
現世で恨みを残して死んだ人間が、恨みを忘れて来世に生き
るか、霊魂となって現世に留まるか、恨みを晴らして地獄に
堕ちるかを選択する怨みの門。この基本設定が、映画ではさ
らに拡大され、その設定が見事に活かされていた。    
テレビはホラー仕立てだったようだが、映画版はアクション
中心、特にチャンバラをたっぷり見せてくれる趣向になって
いる。それを演じるのが、テレビで門の守護者を演じていた
釈由美子と、悪役大沢たかお。ワイアーワークも使ってかな
りのシーンが展開する。                
またコメディリリーフでありながら、キーマンともなる田口
浩正の役柄も上手く利いていて、脚本も良く練られている感
じがした。途中、女性観客が目を拭うシーンも見られた。 
上映ではすぐ後ろに、多分ファンタ系の雑誌記者らしい外国
人が2人いて、彼らが終るなり大興奮しているのが微笑まし
かった。                       
                           
『ゴジラ×モスラ×メカゴジラ 東京SOS』(日本映画)
恒例のゴジラは第27作。昨年の『ゴジラ×メカゴジラ』に続
く完結編となっている。                
監督は前作に続いて手塚昌明が担当、彼は思い入れたっぷり
の脚本も手掛けている。彼の脚本は、ある意味ゴジラとはい
ったい何なのかという辺りを懸命に模索したものだ。   
とは言っても、ゴジラ映画の本分は特撮シーンにある。従っ
て、91分の上映時間からその特撮シーンを除いた部分でのド
ラマとなると、どうしても駆け足にならざるを得ない。  
そこは、モスラの小美人にテーマを語らせるなど、工夫はさ
れているのだが、最後に主人公が翻意する辺りなどは、やは
りもう少し説明が欲しかったところだ。全体的にドラマが描
き切れない分、物足りなさは残る感じがした。      
でも、それは無い物ねだりと言うところかも知れない、この
短い上映時間の中で、しかも3体の闘いを描くのだから、無
理は承知というところだろう。実際今回の特撮では、東京タ
ワーをへし折り、国会議事堂を木端微塵にしてしまうのだ。
来年はいよいよゴジラ誕生50周年だが、どうなることだろう
か。                         



2003年11月02日(日) シービスケット、ニモ、ガーデン、すべては愛のために、ケイティ、戀之風景、気まぐれな唇、アンダーワールド、マトリックス

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介します。       ※
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
『シービスケット』“Seabiscuit”           
大恐慌時代のアメリカで、一般民衆に夢を与え続けた競争馬
シービスケットと、その馬に関わった3人の男の姿を描いた
ベストセラーの映画化。                
西海岸で最大の自動車ディーラーになりながらその自動車に
家族を奪われた男と、自動車の発達で仕事を失った荒馬の調
教師、そして大恐慌のために家族が離散したジョッキーの若
者。この3人が1頭の馬を巡ってドラマを作り上げる。  
時代も違えば国も違うこの物語には、正直に言ってピンと来
ない部分はある。しかし、かろうじてハイセイコーを記憶し
ている僕には、西海岸の田舎競馬(地方競馬)から東海岸の
名門レース(中央競馬)に乗り込んで行く話は理解できた。
レースシーンは迫力があるし、特に前半のティファナ競馬の
様子は、まるで馬上の格闘技と言いたいくらいの激しさで、
こんな時代もあったんだと認識を新たにした。その辺は面白
いし、競馬を知る人にはもっと楽しめるかも知れない。  
それからナレーションで、アメリカが不況から脱出できたの
は、公共事業のおかげではなく、人々が希望を持ち続けたか
らだったという言葉には激しく同意。この言葉を、人々の希
望を蔑ろにしてバカな経済政策ばかり続ける今の日本の施政
者たちに聞かせたいと思った。             
                           
『ハリウッド的殺人事件』“Hollywood Homicide”    
ハリスン・フォード、ジョッシュ・ハートネットの共演で、
ハリウッドを舞台にした警察コメディ。         
僕自身、昔は毎年行っていたハリウッドももう10年以上ご無
沙汰になってしまった。その間、ずいぶん風景も変ってしま
ったようだが、それでも、見覚えのあるビルなどが登場する
と嬉しくなる。そんな映画ファンのための映画と言える。 
ハリウッドのクラブでミュージシャンが殺される。目撃者も
発見できないこの殺人事件の捜査を、不動産屋を副業とする
ヴェテラン刑事と、自宅でヨガ教室を開き俳優を夢見る新米
刑事が担当することになる。              
これに、怪しげな超能力者を自称する占い師や、邸宅の売却
を希望する老映画プロデューサー、さらに主人公に敵意を持
つ内部査察官などが絡んで、大混乱のドラマが展開する。 
まあ、ハリウッドという土地のイメージは、アメリカでもこ
んなものだということを、次から次へと見せてくれる。それ
が楽しめればいいのではないか、そんな感じの作品だ。特に
後半のカーチェイスなどは、見事にアメリカそのものという
感じだった。                     
推理ドラマとしてはちょっと荒っぽいが、最後にはそれなり
にハードなアクションもあって、フォードもまだ健在という
ところ。でも、彼ももう61歳なのだと思うと、時代の流れを
感じてしまうところでもあった。            
                           
『ファインディング・ニモ』“Finding Nemo”      
ディズニー=ピクサーの最新作。アメリカでは、本年度興行
No.1がほぼ決定のようだ。               
卵の孵化を待っていたカクレクマノミの夫婦の住処が肉食魚
に襲われ、妻と大半の卵を喰われてしまう。しかし1個だけ
残った卵を父親が育て上げる子育ての物語。       
『チャーリーと14人のキッズ』も男の子育ての話だったが、
今、正にアメリカの目がそこに向いているということなのだ
ろう。そういう時流の掴み方に、この作品の成功の第1の鍵
があったようにも感じた。               
しかし子育ては大変で、反発した息子はあっと言う間にダイ
ヴァーにさらわれてしまう。そこから、子供を救うための父
親と、父親の許に帰ろうとする息子の大冒険が始まる。  
それにしても、話の作り方が上手い。人間と共通する悩みや
問題と、海の中特有のお話とを見事に交錯させて、ディズニ
ーのアニメーションにしては長い1時間41分のドラマを見事
に作り上げている。                  
特に、現実にはありえない異種の生物間のコミュニケーショ
ンや協調が嫌みなく描かれている点もそれなりに買いたいと
ころだ。また、そこに加わらない連中を描くことも、アメリ
カというところだろう。                
僕自身、息子を持つ父親として、主人公の気持ちは非常によ
く解かった。ただ、日本の映画人口のかなりの部分を占める
女性観客がどう見てくれるかが勝負になりそうだ。    
                           
『ガーデン』“Zahrada”                
スロヴァキアの映画作家マルティン・シュリークによる95年
の作品。同監督の作品3本が連続公開される内の1本で、僕
は時間の関係で1本の試写しか見られなかったが、他の2本
も見たくなる作風だった。               
本篇の主人公は30歳の独身男。一応、教師の職はあるが、仕
立て屋を営む父親との2人暮らしで、父親の客の年上の女性
の不倫相手になるなど、怠惰な生活を送っていた。    
しかしついに父親の逆鱗に触れ、家を追い出されて、祖父が
建て父親が昔住んでいた田園の廃屋へとやってくる。   
そしてそこを何とか住める場所にしようとする内、鏡文字で
書かれた日記を発見したり、不思議な雰囲気の少女や、いろ
いろな謎の人物が登場して、主人公を混乱させて行く。  
最終的には主人公の精神的浄化がなされる物語で、その間の
いろいろな物語が、いくつもの章に分けられ、スケッチのよ
うに描かれてゆく。                  
まあ、物語自体それほど深刻な訳ではないし、気楽に見てい
られる。そして最後にちょっと仕掛けがあって、何となく微
笑ましい感じで見終れる。               
メルヘンと言えばメルヘンだろうし、何とも不思議なムード
の作品だった。                    
                           
『すべては愛のために』“Beyond Borders”       
緒方貞子女史の活動で、日本でも名前を知られるようになっ
た国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)。その親善大使
も務めるアンジェリーナ・ジョリーが、ある意味、その活動
のPRの意図も込めて作り上げたと思われるドラマ作品。 
物語は、1984年エチオピアの大飢饉に始まり、1990年カンボ
ジア紛争、1994年チェチェン紛争を背景に、その危険な現地
で活動するNGOの医師と、それを支援するイギリス人女性
を中心に描かれる。                  
ほとんどが寄付によって賄われているUNHCRの活動の困
難さが克明に描写されるが、その一方でCIAの暗躍なども
描かれ、単に綺麗事だけに終らせていないところはさすがと
言うところだ。                    
また、医師と女性の道ならぬ恋を描いてドラマを盛り上げる
が、それも悲惨な現状を描く上での方策といった感じで、全
ての目が厳しい現実に向けられている点は、いわゆるハリウ
ッド映画と違うところだろう。             
大時代的な邦題に、大掛かりなメロドラマを想像したが、全
く予想に反して思わず居住まいを正すような作品だった。で
も日本では、ぜひともメロドラマの線で売って、観客に現実
を突きつける効果を上げてもらいたいものだ。      
                           
『ケイティ』“Abandon”                
『トラフィック』の脚本でアカデミー賞を受賞したスティー
ヴン・ギャガンが、自らの脚本を初監督したスリラー作品。
名門大学で優秀な成績を収め卒業目前の主人公ケイティは、
2年前に突然失踪した恋人のことを思い続けている。彼は大
金持ちの遺産相続者であり、また舞台演出でも話題を呼んだ
カリスマ的な男だった。                
そんな彼女の許へ1人の刑事が失踪事件の再捜査のために訪
れる。そして彼女や学生たちの証言を集め始めるが・・・。
一方、ケイティは自分が誰かに監視されているような感覚に
襲われ、その恐怖心から刑事に接近して行く。      
現実と幻想が入り混じり、さらに現在と過去が交錯する巧み
なプロットで、1時間39分の上映時間は厭きさせなかった。
また、結末に至る展開にも無理はなく、話は納得できた。 
途中で発生する別の失踪事件の下りはちょっとやり過ぎかな
という感じもするが、全体はまとまっていたと思う。   
次回作に期待したい脚本家、監督と言うところだろう。  
                           
『戀之風景』“戀之風景”               
アジア・フィルム・フェスティバルに出品されるNHKと香
港の共同制作作品。                  
同フェスティバル出品作品の試写はこれで3本目になるが、
本篇はさすが香港映画だけのことはあって、今回見た作品の
中では一番まとまりが良かった。            
亡き恋人が書き残した風景画を頼りに、彼の故郷で風景画の
場所を探す女性。彼女は彼との思い出を記憶に留めるため、
時間経過も表わすある作業を続けているが、旅先で巡り会っ
た青年との間で心は揺れ動く。             
この展開だけで充分なメロドラマとなる訳で、あとはこれに
如何に印象的な展開を持ち込むかと言うところだ。その点で
も、この監督は最後に効果的な手法を用いて、上手くまとめ
上げている。                     
監督は『金魚のしずく』のキャロル・ライ。前作はもっと子
供の話だったと記憶しているが、今回は成年男女の機微を切
なく描いて、女性監督らしい作品という感じだった。   
なお、前週一般公開された香港の興行では、『キル・ビル』
を上回る成績を上げているそうだ。           
                           
『気まぐれな唇』(韓国映画)             
00年の東京国際映画祭で、審査員特別賞を受賞した『オー!
スジョン』のホン・サンス監督の02年の作品。この作品まで
3作連続でカンヌ映画祭「ある視点部門」に招待されたが、
この3作目は招待を断ったことでも話題になったそうだ。 
ちょっと自意識過剰気味の男性俳優が、先輩の恋人に言い寄
られたり、逆に自分を知っている女性に言い寄ろうとして、
すったもんだする姿を描いたヒューマンコメディ作品。  
映画は、主人公以外は舞台も登場人物も変る2部構成になっ
ているが、さらに細かい物語の切れ目ごとに小見出しのよう
な字幕が入ったり、「人間が生きていくことは苦しいが、獣
になってはいけない」という警句(?)が繰り返し使われた
り、前半で説明された伝説が最後の落ちになっていたりと、
なかなか面白い構成になっていた。           
撮影は、台本無しで行われ、監督からはストーリーだけが提
示されて、俳優はほとんど即興で演じたということだが、そ
こからこれだけの構成の物語を造り出すというのは見事な才
能だ。                        
また、即興ということは、台詞も生の声というか俳優が感じ
たままが話されている訳で、確かに聞いていて頷いてしまう
ところが多いのは、このやり方が成功だったということだろ
う。まあ、日本も韓国も男女の関係はそれほど変らないとい
うことだ。                      
それにしても、韓国映画のベッドシーンの大胆さにはいつも
ながらに驚かされる。本作でも前後2回のベッドシーンがあ
るが、ちょっと恐れ入ったという感じだ。撮影中、酒は本物
が使われているそうだが・・・。            
                           
『アンダーワールド』“Underworld”          
今年9月にアメリカ公開され、No.1興行を達成したファンタ
シー映画。アメリカ公開は、ソニー・ピクチャーのジャンル
・レーヴェル<スクリーン・ジェムズ>で配給された。  
物語の背景は、長年続いてきた吸血鬼と狼人間の戦い。しか
し400年前、吸血鬼の1人が狼人間の君主を倒して戦いは終
結。そして現代、主人公の吸血鬼の女戦士セリーンは狼人間
の残党の掃討に当っていたが、その任務も終りが近いように
見えていた。                     
ところがある日、セリーンは、狼人間たちが1人の人間の男
性の後を追っていることに気づく。その男性に隠された謎、
それは戦い始まりよりもさらに以前に遡る吸血鬼と狼人間の
間の秘密の関係を暴くものだった。           
女性が活躍するアクション映画がブームだが、本編もその1
本。しかも監督はMTV出身のデビュー作というのだから、
最近の映画の見本のような感じの作品だ。        
映画では、基本的には不死身の設定の女性主人公が、飛んだ
り跳ねたり2丁拳銃をぶっ放したりと大活躍する訳で、特に
若年層に受ける要素は充分というところだ。       
しかも映画では、狼人間に向けられる銃弾が銀製というのは
定番だが、これを液体の硝酸銀にして除去し難くしたり、逆
に吸血鬼に向けられる銃弾は紫外線を発光する曳光弾だった
りと、細かいところがいろいろ押さえられているのも面白か
った。                        
さらに、昔の狼人間は吸血鬼の昼間の守護者で奴隷だったと
いう発言が出るなど、伝説もよく踏まえられていて、物語の
原案は、レイズ役で出演もしているケヴィン・クレヴォーだ
そうだが、かなり良く研究している感じだった。     
なお、第48回の製作情報で紹介した通り、本作は3部作とす
る計画で、すでに続編の準備開始が発表されている。   
                           
『マトリックス/レボリューションズ』         
                “Matrix Revolutions”
初夏に公開された『リローデッド』に続く完結編。    
一般公開は、11月5日の日本時間午後11時に、全世界同日・
同時刻封切される。                  
巻頭、話が突然始まるのにまず面食らった。確かに前作の公
開は半年前だから、憶えているのが当然と言われればそれま
でだが、余計なことは一切排するという潔さも気持ちの良い
ものだった。                     
という訳で、物語は前作の終ったところから始まる。つまり
マシン軍団のザイオン突入まであと20時間余りというところ
から、人類とマシンとの雌雄を決する戦いが描かれるという
訳だ。                        
正直に言って、この手の映画を見慣れて来た者にとっては、
今回の話の展開には、これはと言うような意外性は余りなか
った。と言うか、予想通りの結末に向かって、まあこれ以外
の展開はないというところだろう。それだけに安心して見て
いられた感じだ。                   
とは言え、タイムリミットに向かってのハラハラドキドキの
展開はあるし、女性客の涙腺を刺激するようなシーンも用意
されているという具合で、何しろサーヴス精神の旺盛さには
頭が下がった。よくこれだけの展開を2時間9分に納めたも
のだ。                        
お決まりのネオとスミスの死闘も、たっぷりとしかし長過ぎ
ることなく良い感じで見せてくれるし、バランス感覚も見事
な感じだ。                      
これでこのシリーズは完結、次に兄弟監督はどんな物語を見
せてくれるか、楽しみだ。               



2003年11月01日(土) 第50回

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
※このページは、キネマ旬報誌で連載中のワールドニュー※
※スを基に、いろいろな情報を追加して掲載しています。※
※キネ旬の記事も併せてお読みください。       ※
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
 今回は意外な展開となったこの話題から。       
 ちょうど1年前の第26回で紹介した70年代の人気テレビシ
リーズ“The Six Million Dollar Man”(600万ドルの男)
の映画化の計画で、主演をジム・キャリーとし、コメディタ
ッチで映画化する計画が発表された。          
 元々この計画は、2年程前から、マーティン・ケイディン
の原作“Cyborg”の映画化権を購入したディメンションと、
テレビシリーズに基づく権利を所有するユニヴァーサルとの
間で共同製作による計画が進められていたものだが、1年前
の報告ではトレヴァー・サンズという若手作家の脚本が採用
され、サンズの監督で映画化するものとされていた。また製
作には、ケヴィン・スペイシーが主宰するプロダクションが
参加し、スペイシーの主演も期待されていた。      
 しかしこの計画は結局キャンセルされたようで、新たに、
キャリーの主演と、今年2月に公開されて最終的に7500万ド
ルの興行を記録したウィル・フェレル主演のコメディ“Old
School”を手掛けた監督トッド・フィリップス、脚本スコッ
ト・アームストロングのコンビの起用が発表されたものだ。
 因に経緯は、キャリー側からテレビシリーズに基づくアク
ションとコメディを結合するアイデアが先に提出され、これ
によりキャリーの主演が決まった時点で、フィリップスとの
契約が結ばれたということだ。             
 それにしても、『600万ドルの男』のコメディ化とは大胆
な計画が建てられたものだが、ユニヴァーサルとしてはこの
夏の『ハルク』がちょっと期待外れの結果に終ったことで、
真面目な映画化には躊躇があったのかも知れない。また、い
ずれにしても映画化にはかなりの製作費が見込まれることか
ら、キャリーの主演とすることで、ある程度の興行が保障さ
れるという効果はあるようだ。             
 ただし、フィリップスとアームストロングは、現在はディ
メンションで、1960年にイギリスで製作されたコメディ映画
“School for Scoudrels”という作品のリメイク計画に携わ
っており、それが終了次第、本作の脚色に取り掛かるという
ことだ。                       
 一方、キャリーも、現在はチャーリー・カウフマン脚本の
“Eternal Sunshine of the Spotless Mind”の撮影が終っ
て、ブラッド・シルバーリング監督の“Lemony Snicket's A
Series of Unfortunate Events”の準備中、その後には、
前回紹介した“Fun With Dick and Jane”の撮影が控えてお
り、今回の計画が実現するのは、来年の秋ごろになるという
こと。この分では公開は05年夏になりそうだ。      
 なお、フィリップスとアームストロングは、ワーナーとデ
ィメンションの共同製作で、これも70年代の人気テレビシリ
ーズ“Starsky & Hutch”を、ベン・スティラーとオーウェ
ン・ウィルスンの共演でコメディ映画化する計画にも参加し
ているようだ。                    
        *         *        
 もう1つジム・キャリーの情報で、リヴォルーションが製
作する“The Hypnotist”という作品に主演する計画が発表
されている。                     
 この作品は、スティーヴン・スピルバーグの監督、トム・
ハンクス、キャサリン・ゼータ=ジョーンズ共演で撮影中の
“Terminal”の脚本家サシャ・ジャヴォージが発表した脚本
を映画化するもので、お話は、世界的に著名な催眠術師が、
ある日突然その力を失い、それを回復するためには、女性に
求愛して恋に落ちなければならなくなるというもの。   
 見るからにキャリー向きの作品だが、実は前職ジャーナリ
ストのジャヴォージが、実際に催眠術師を取材しているとき
に思いついたアイデアで、脚本執筆の段階からキャリーとの
話し合いが持たれたというものだ。そして完成された脚本は
キャリーの主演がセットされてセールスされ、各社争奪戦の
末、リヴォルーションが100万ドル以上の金額で獲得した。
 因に、ジャヴォージは、93年に自死した俳優ハーヴ・ヴィ
レチェイズについて、彼の死の1週間前に行ったインタヴュ
ーに基づいて執筆した“My Dinner With Herve”という脚本
で評価されているようだ。また、上記の“Terminal”は、当
初は『SIMONE』のアンドリュー・ニコルのために書か
れた脚本だったそうだ。                
 なお、同様のキャリー主演の計画では、ニューラインにも
“I Know That You Know That I Know”という81年製作イタ
リア映画をリメイクする計画が契約されているそうだが、上
にも書いたキャリーのスケジュールで、一体、何時これらの
作品は実現されるのだろうか。             
        *         *        
 続いては、ファンにはうれしい話題で、今年の夏の大ヒッ
ト作“Pirates of the Caribbean: The Curse of the Black
Pearl”(パイレーツ・オブ・カリビアン)の続編が製作さ
れ、しかも2部作で公開されるという計画が発表された。 
 この続編については、前作のエンディングロールの後に、
見るからに何かありそうな映像が付いていたことから、そこ
そこの興行成績が上がれば続編が製作されることは自明とい
う感じもしていたが、アメリカでの興行成績が3億ドルを突
破し、“Finding Nemo”に次ぐ実写ではトップという成績で
は、もはや確定という感じになっていたものだ。     
 そしてその3億ドル突破の週に、正式に続編製作の発表が
あったもので、しかも2本分を同時に撮影して、2部作で公
開するというものだ。                 
 なお、同様の同時撮影2部作公開の作品では、古くは89、
90年に公開された“Back to the Future II, III”などもあ
るが、最近では、3部作が同時に撮影された“The Lord of
the Rings”や、2部作の“Matrix”、それに状況はちょっ
と違うが“Kill Bill vol.1, 2”など、一種のブームのよう
な感じにもなって来ている。              
 ということで、この計画もかなり早い時期から検討されて
いたと思われるが、実は今回の発表は、監督のゴア・ヴァー
ビンスキーが続編の監督も担当することになったというもの
で、脚本家のテリー・ロッジオとテッド・エリオットはすで
に参加が決まっているということだ。ただし脚本の完成は未
だのようだ。                     
 一方、出演者では、主演トリオのジョニー・デップ、オー
ランド・ブルーム、キーラ・ナイトレイについては、ディズ
ニーの公式発表で言及されており出演は確定のようだ。敵役
のジョフリー・ラッシュの名前がないのがちょっと気になる
が、別段断る理由があるとも思えないし、隠し玉のような感
じになるのかも知れない。               
 いずれにしても、撮影時期も続編の題名も決まってはいな
いということだが、“Back to the Future”のように、正編
から5年も待たせるようなことはしないで欲しいものだ。 
        *         *        
 続けて、続編の話題をまとめて紹介しよう。      
 まずはロンドンで撮影中のシリーズ第3作“Harry Potter
and the Prisoner of Azkaban”で、新たな先生役にエマ・
トムプスンの出演が発表された。            
 今回の映画化では、新登場のSirius Black役にゲイリー・
オールドマンや、Professor Lupin役のデイヴィッド・チュ
ーリスなどが先に発表されているが、トムプスンが演じるの
は、Proffesor Sybill Trelowney。ホグワーツ魔法学校の占
い学の先生で、原作の最新巻“The Order of the Phoenix”
にも登場しているレギュラー・キャラクターだ。ちょっとエ
キセントリックな印象もあるキャラクターだが、アカデミー
賞主演女優賞の他に脚色賞も受賞している才媛の演技に期待
したい。                       
 因にトムプスンは、第2作の『秘密の部屋』でProfessor
Lockhartを演じたケネス・ブラナーとは一時期結婚していた
間柄で、実は最新巻にはそのLockhartも登場している。2人
が一緒に登場するシーンではないが、映画化がそこまで進む
と、一応そういうこともあるということだ。       
        *         *        
 もう1本は、続編と呼んで良いかどうかはちょっと問題の
ような気もするが、98年にテリー・ギリアム監督、ジョニー
・デップの主演で映画化された“Faer and Loathing in Las
Vegas”(ラスベガスをやっつけろ)の原作者ハンター・S
・トムプスンの足跡を、30年後に同じホテルに宿泊した作家
ジェームズ・マクマナスの目で追ったノンフィクション作品
“Positively Fifth Street”の映画化が進められることに
なった。                       
 内容は、同ホテルで開催されたポーカー・ワールドシリー
ズの取材で訪れたマクマナスが、トムプスンと彼の作品の足
跡を追うという形式のようだが、その一方で、マクマナスは
出版社から貰った取材費を注ぎ込んで自ら試合に参加し、5
位に入賞してしまったり、試合中にカジノの経営者の息子が
殺され、その婚約者だったストリッパーとその男友達が逮捕
されたりという、とてもノンフィクションとは思えないお話
が展開する。そしてこの原作から、『スリー・キングス』や
『アンダーカバー・ブラザー』のジョン・リドリーが脚色し
て監督も手掛ける計画ということだ。          
 ギリアム作品は、「原作の味わいは随所に見られるが、全
体としては失敗作」と言われたものだが、リドリー監督で今
度はどうなることか。製作は、ニューヨーク所在の独立系の
プロダクション2社の共同で行われることになっている。 
        *         *        
 前回も1本紹介したが、またまたザ・ロックことドウェイ
ン・ジョンスン主演作品の計画が発表されている。    
 今回の作品は、『タイタニック』でアカデミー賞を受賞し
たVFXスタジオのディジタル・ドメインが、ニューライン
と共同製作するもので、題名は“Instant Karma”。    
 内容は、ジョンスン扮する金庫破りの主人公が死亡し、そ
の後にいろいろな生物に転生して、食物連鎖を辿って行くと
いうお話で、CGIと実写の合成技術が使用され、その実写
シーンには、ピアーズ・ブロスナン、ミラ・ソルヴィノ、デ
イヴィッド・アラン・グリア、アーサー・キットらが出演す
る一方、動物たちの声優として、バート・レイノルズ、ドム
・デ=ルイス、ジーン・ワイルダー、そしてコメディ劇団の
ブロークン・リザードなどが出演するということだ。   
 脚本、監督は、これがデビュー作となるポール・ヘルナン
デス。彼の作品では、“Sky High”と題されたスーパーヒー
ロー養成学校を舞台にした脚本がすでにディズニーと契約さ
れているということだが、今回の計画は来年4月からの撮影
が予定されているということで、この作品の方が先に実現さ
れることになるようだ。なお、今回の製作費には7000万ドル
が予定されている。                  
 また、この作品は、『パイレーツ・オブ・カリビアン』の
脚本家チーム、テリー・ロッジオとテッド・エリオットが製
作者として参加しているが、彼らはディジタル・ドメインと
親密な繋がりを持って、他にも“Shadowplay”というスリラ
ー作品の計画を進めているということだ。        
 なお、ディジタル・ドメインの映画製作はこれが第2作と
なるが、第1作の“Secondhand Lions”(実写によるファミ
リーコメディ)は今年9月に公開され、4週間で3500万ドル
の興行成績を上げている。               
 この他のジョンスンの話題では、第46回で紹介したように
F・ゲイリー・グレイ監督で進められることになった『ゲッ
ト・ショーティ』の続編“Be Cool”に、ジョン・トラヴォ
ルタ扮するチリ・パルマーのボディガード役で出演する計画
も発表されており、この作品は11月に撮影開始されることに
なっているようだ。                  
        *         *        
 そろそろシーズンということで、クリスマステーマの映画
の話題が2本届いている。               
 まずは、『女神が家にやってきた』のアダム・シャンクマ
ンの監督で、“Four Christmases”というコメディ作品がス
パイグラスで計画されている。             
 内容は、共に両親が離婚してそれぞれ別の結婚をしている
という経験を持つ若いカップルが、クリスマスの日にその4
つの家族を訪問するというもの。オリジナルは、マット・ア
レンとケイレブ・ウィルスンという脚本家コンビが執筆し、
今年6月にスパイグラスが最低65万ドルから、最高100万ド
ルの契約金で購入した作品だが、現在はこれをテレビ出身の
ハワード・グールドがリライトしているということだ。  
 そしてこの映画化にシャンクマンが契約を結んだというも
ので、さらに映画の配給を新たに契約したコロムビアで行う
ことも発表されている。因に、スパイグラスは、元はディズ
ニーと、02年からはドリームワークスと配給契約を結んでい
るが、今年からさらにコロムビアとも契約を結んだもので、
その第1作としてこの作品が選ばれたということだ。   
 一方、コロムビアでは、01年にジェニファー・ロペスが主
演した『ウェディング・プランナー』でシャンクマン監督作
品を配給したことがあり、その繋がりでも好適の作品となっ
たようだ。                      
 ただし、シャンクマン監督のスケジュールでは、次回作に
はディズニーで“Enchanted”が予定されており、同社でリ
メイクの“Topper”と、さらにワーナーで“The Jetsons”
の計画にもタッチしているということで、一応、第1作と明
言されている限りは、この内のどこかに割り込むことになる
のだろうが、前作が1億ドル突破の監督では、その交渉も大
変になりそうだ。                   
        *         *        
 もう1本は、『ブロードウェイと銃弾』などの名バイプレ
イヤー、チャズ・パルミンテリが長編映画監督に初挑戦する
作品で“Noel”。                   
 内容は、いろいろな問題を抱えるマンハッタンの人々が、
クリスマスの季節の魔法によって、それぞれの問題に向かう
勇気を持つようになる姿を描くもの。デイヴィッド・ハバー
ドという作家の脚本にパルミンテリが目を止め、自らの監督
で映画化を進めたというものだ。            
 因に、パルミンテリは、93年にロバート・デ=ニーロが初
監督した『ブロンクス物語』の脚本でも知られるが、元々こ
の作品はパルミンテリがブロードウェイで上演した一人芝居
を映画化したもので、劇作家及び演出家としての評価は以前
から高いようだ。                   
 そして今回の映画化には、パルミンテリ自身の他、ポール
・ウォーカー、スーザン・サランドン、ペネロペ・クルスら
が出演を熱望し、特にウォーカーは、脚本を呼んだ後でエー
ジェントに連絡し、以前に紹介した“Into the Blue”への
出演スケジュールを再調整して、その撮影前に本作への出演
ができるようにしたということだ。           
 撮影は、11月3日にモントリオールとニューヨークで開始
され、04年のクリスマスシーズンに公開できるように計画さ
れている。製作はニューヨークのネヴァーランドという会社
が担当し、配給権は同社の管轄でこれから交渉される。  
        *         *        
 お次は待望の情報で、スティーヴン・キングとピーター・
ストローブが共作し、84年に発表された異世界ファンタシー
小説“The Talisman”の映画化がようやく実現することにな
った。                        
 この映画化については、元々はスティーヴン・スピルバー
グが監督を希望し、長く期待されていたものだったが、結局
スピルバーグは監督を断念し、製作総指揮として参加するこ
とになっている。そして監督には、ドリームワークス製作の
“The House of Sand and Fog”でデビューを飾ったばかり
のヴァディム・パールマンが抜擢されることになった。  
 内容は、12歳の少年が病弱で余命いくばくの母親の命を救
うための謎のタリスマンを求めて、現実世界と並行世界の両
方を旅して冒険を繰り広げるというもの。僕も以前に翻訳を
読んでいるが、かなり前のことで記憶は定かでない。しかし
かなり長大で込み入った物語だったという印象はある。  
 そして今回の映画化では、この原作から『ザ・リング』を
手掛けたアーレン・クルーガーが脚色を担当し、製作準備は
すでにプレプロダクションの段階にあるようだ。また、製作
はドリームワークスとユニヴァーサルの共同で行われ、配給
はアメリカ国内をドリームワークス、海外をユニヴァーサル
が担当することになっている。             
        *         *        
 もう1本待望の情報で、アイザック・アジモフ原作の大河
SF“Foundation”の映画化が動き始めた。       
 この原作は、元々は1942年から49年に雑誌連載で発表され
た長編小説で、その後3部作として出版されたものだが、人
類が作り上げた壮大な宇宙帝国の滅亡とその再興を数100年
の単位で描いて、そのスケールでは当時黄金時代と言われた
アメリカSFの中でも群を抜く作品といえる。そしてこの映
画化についても、10年以上も前から計画が発表され、最初は
トライスター、次いでフォックスが計画を進めていた。  
 因に、アジモフの原作は、80年代以降にさらに書き継がれ
ているが、今回の映画化はその最初の3部作に基づいて行わ
れるもの。そしてその脚色を、来年公開される“I, Robot”
の脚色も手掛けたジェフ・ヴィンターが担当することが発表
された。なお、脚色は3部作の全体を1つの物語として行わ
れるが、映画は2本に分けて公開されるということだ。  
 ただし、ヴィンターは、その前にニューラインでデイヴィ
ッド・ゴイヤーが製作するDCコミックスの映画化“Y: The
Last Man”の脚色を担当することも発表されており、差し
当ってはニューライン作品が先行するということで、『銀河
帝国の興亡』が見られるのは少し先になりそうだ。    


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井口健二