井口健二のOn the Production
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2003年02月16日(日) トーク・トゥ・ハー、シカゴ、アルマーニ、ダブル・ビジョン、ダークネス

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※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介します。       ※
※一部はアルク社のメールマガジンにも転載してもらって※
※いますので、併せてご覧ください。         ※
※(http://www.alc.co.jp/mlng/wnew/mmg/movie/)   ※
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『トーク・トゥ・ハー』“Hable Con Ella”       
99年の『オール・アバウト・マイ・マザー』で、カンヌの監
督賞やアカデミー賞外国語映画賞などを受賞したスペインの
監督ペドロ・アルモドバルの02年の作品。        
受賞した前作も見てはいるが、感動作とは言っても普通の作
品だったという印象だ。しかし今回の作品は、かなり変わっ
ているというか、本当に不思議な作品。アメナーバルもそう
だが、スペインの監督というか映画作家は、すごい感覚の持
ち主が多いようだ。                  
物語の中心は、2人の昏睡した女性と、彼女達を介護する2
人の男。                       
女性の1人は元バレリーナ。彼女は4年前からその状態で、
彼女を介護しているのは元気な頃の彼女にストーカーまがい
の接近を試みていた男。しかし彼は看護士の資格を持ってお
り、その腕は彼女への思いも込められて優秀だ。     
もう1人は、女性闘牛士。ジャーナリストの男は彼女を取材
している内に親しくなった。しかし彼女は、彼に重要なこと
を告げると言った日に、闘牛場で牛の角に掛かって昏睡状態
になってしまう。                   
看護士の男は、彼女が好きと言っていたバレーの公演や、映
画を見に行っては、その話を昏睡した彼女の耳元で語り続け
ている。そしてそれは治療の一環だと言い、ジャーナリスト
の男にも、語りかけをするように勧める。        
しかしジャーナリストの男は、彼女が告げようとしたのが別
離であったことを知り、病院を去ってしまう。一方、看護士
の男は、彼女に語るために見に行った無声映画に興奮し、あ
る行動に出る。それは彼女に奇跡をもたらすことになるのだ
が…。                        
映画の巻頭と最後で、ピナ・バウシュとヴッパタール舞踊団
の舞台が紹介され、巻頭ではその奇妙な雰囲気がドラマへの
見事な導入になっている。また、物語の途中には『縮みゆく
恋人』というオリジナルの無声映画が挿入されるが、これが
また見事だった。                   
今回は、前作のような感動作とはちょっと違うが、これこそ
が映画だという素晴らしさを実感させてくれる作品だ。  
なお、バレリーナの先生の役でジェラルディン・チャップリ
ンが出演。物語の要所にポイントを作っている。     
                           
『シカゴ』“Chicago”                 
オリジナルはボブ・フォッシーが手掛け、最近再評価が高ま
っている同名のミュージカルプレイを、リチャード・ギア、
ルネ・ゼルウィガー、キャサリン・ゼタ=ジョーンズの共演
で映画化。                      
物語の舞台は1920年代のシカゴ。姉妹ダンサーとして人気の
高まっていたゼタ=ジョーンズ扮するヴェルマは妹殺しの容
疑で逮捕される。その最後の舞台を見詰めていたゼルウィガ
ー扮するロキシーは、数ヶ月後、愛人を殺した容疑で逮捕さ
れる。                        
そこに現れたギア扮する悪徳弁護士は、5000ドルを自分に払
えば、キリストだって桀にならずに済んだと豪語する。そし
て金を払ったロキシーをマスコミの寵児に祭り上げ、裁判を
有利に進めようと画策する。              
元々は実話に基づくもので、1927年に最初の映画化がされた
他、42年にはジンジャー・ロジャースの主演でも映画化され
た物語。それにしてもいろいろと現代に通じるのも面白いと
ころだ。僕は元々1920年代のアメリカに興味があるし、その
意味でもすごく楽しめた。               
それにミュージカルの構成も巧みで、舞台面としての歌と踊
りがある他は、基本的にロキシーの空想という設定になって
いる。従って、町中で突然歌い出すというようなところが無
いのも良いし、逆にその踊りなどがかなりファンタスティッ
クなのも気に入った。                 
ギアは『グリース』などのミュージカル舞台の経験があり、
ゼタ=ジョーンズも昔『42nd Street』に出演していたこと
があるそうだ。従ってこの2人のミュージカルシーンは危な
げが無い。得にゼタ=ジョーンズは見事だ。       
一方、ゼルウィガーはミュージカルは初体験だそうだが、歌
のシーンは、まるで彼女のために用意されたのではないかと
いうような楽曲でこれも素晴らしかった。        
そしてこの3人を文字通り支えているのが、ブロードウェイ
の舞台の出演者たちということで、バックダンサーたちの踊
りも素晴らしかった。                 
すでにゴールデングローヴではミュージカル作品賞と、ギア
が主演男優賞、ゼルウィガーが主演女優賞を受賞。ここでゼ
タ=ジョーンズが受賞できなかったのは、多分、彼女が上手
すぎて、誰も俳優の余技とは思えなかったというところだろ
う。                         
久しぶりにミュージカルを堪能できたという感じがした。 
                           
『アルマーニ』                    
       “Giorgio Armani: A Man for All Seasons”
ファッションデザイナー、ジョルジオ・アルマーニの1999年
から2000年に掛けての1年間を追った記録映画。     
1934年生れというから、撮影当時65歳。世界33カ国に249の
店舗を展開し、毎日億単位の金を稼ぐという初老の男の生活
を追っている訳だが、何しろこのおっさんが元気が良いとい
うか、常に動き回っている様は、見ている方にも元気を与え
てくれる感じだ。                   
ファッションショーのリハーサルで希望通りに行かず怒鳴り
散らす姿には、人間らしさを感じるし、一方、数週間前に母
親を亡くしたばかりということで、自分や会社の将来に悩む
姿などには、親近感が湧く。              
ファッション業界の人が見たら、アルマーニの成功の秘密み
たいなものについては、通り一遍な感じでしか語られないの
で、掘り下げは足りないのかも知れないが、それより映画で
は、アルマーニの人間味みたいなものをうまく表現していて
好感が持てた。                    
ファッションデザイナーというと、何かエキセントリックな
印象を持つが、そうばかりでもないようだ。       
一応、成功の秘密の一点としてハリウッドなどへの接近があ
るということで、映画スターや、サッカーの本場イタリアと
いうことでロナウド選手の姿なども見える。       
しかしその中でも圧巻は、元々親友でもあるというソフィア
・ローレンの美しさだ。アルマーニと同じ年の生れだが、全
く変らない容姿には感動した。             
                           
『ダブル・ビジョン』“雙瞳”             
道教の言伝えでは超能力を持つという、1つの眼球に2つの
瞳を持つ人間をテーマにした台湾製ホラー映画。     
高層ビルの一室で真夏に凍死した男、火の気のない部屋で焼
死した女、腸を抜かれて死んだ神父…。奇怪な事件の続発に
手を焼いた台北警察は、神父がアメリカ人だったことを理由
にFBIの救援を仰ぐ。                
そしてやって来た白人捜査官と、以前に正義感から警察内部
の腐敗を告発して国際課に転属させられた刑事とがコンビを
組み、事件の真相に迫って行く。一方、刑事には崩壊しかけ
た家庭があり、自閉症気味の一人娘が事件に絡んでいる気配
もあるのだが…。                   
謎解きは知られた手法ではあるが、背景にある道教の存在が
けっこうオカルトで、それなりに楽しめる作品ではあった。
なかなかアクションが出てこなくて、これはこのままかと思
いかけたところで突然の大アクションというのも、良いタイ
ミングで楽しめた。                  
ただ結末は今一つ不明瞭で、一応、表面的な事件は解決する
のだが、残された謎も多い。この結末は、いろいろな取り方
ができるようにしたつもりかも知れないが、やはりこれはす
っきりと終らせて欲しかった。             
                           
『ダークネス』“Darkness”              次々に話題作が登場するスペイン製ホラー映画。     
といっても、主な配役はアメリカ映画の俳優が中心だし、台
詞もすべて英語という作品だ。             
長くアメリカで暮らしていた一家が、父親の故郷であるスペ
インの町に引っ越してくる。高校生の長女はアメリカに戻り
たいと言っているし、小学生の長男も新しい生活に馴染んで
いない。しかも家の暗がりには何かがいる気配もある。  
物語の背景には、40年前に6人の子供が行方不明になったと
いう未解決の事件があり、その事件に引っ越してきた家が関
係しているらしい。長男はちょうどその年頃。そして家には
子供たちの霊がいて、何かを求めている。        
一方、父親が発作を起こし、それは長男が生まれる前に病ん
でいたという精神の病を再発させてしまう。そして父親は次
第に暴力的になり、40年前と同じ日食の日が近づいてくる。
長女はボーイフレンドと共に、家の真相を探り当てるが…。
結局、話はオカルト絡みで、日食の暗闇の中で7人の子供の
首を、愛する人の手で掻き切り、その血で円環を描くことで
邪悪なものを復活させようという説が出てくる。大量殺人の
理由づけに、この手のオカルトもいろいろな手法を考えるも
のだというところ。                  
『シックスセンス』や『アザーズ』などの流れの作品で、見
ていて背中がぞくぞくしてくる。ホラー(horror)というよ
りチラー(chiller)という呼び名がピッタリの作品。しか
もそのテクニックが実に上手い。この手の感じが好きな人に
はたまらない作品だろう。               
『X−メン』のアンナ・パキン、『ショコラ』のレナ・オリ
ン、『トゥーム・レイダー』のイアン・グレン、『ハンニバ
ル』のジャンカルロ・ジャンジーニらの共演もすごい。  



2003年02月15日(土) 第33回

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※このページは、キネマ旬報誌で連載中のワールドニュー※
※スを基に、いろいろな情報を追加して掲載しています。※
※キネ旬の記事も併せてお読みください。       ※
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 まずは、この話題から。               
 ワーナー製作、ブレット・ラトナー監督で計画されている
“Superman”シリーズの再開で、主演にヴィクター・ウェブ
スターという俳優の起用が有力になっている。      
 ウェブスターはカナダ出身で、現在は“Mutant X”という
テレビシリーズに準主役としてレギュラー出演。また、人気
シリーズの“Days of Our Lives”に出演していた他、映画
では、ディズニー製作でスティーヴ・マーティンが主演した
“Bringing Down the House”という作品にちょい役で出て
いたようだ。                     
 ということで、はっきり言って無名に近い新人の抜擢とい
うことになるが、顧みれば78年に前の『スーパーマン』シリ
ーズがスタートしたときのクリストファー・リーヴも、以前
はテレビシリーズの出演がある程度の新人だった訳で、その
点の問題はない。ただし、今回紹介されたウェブスターは、
身体的にちょっと背が足りないという情報もあり、その辺で
まだ最終的な契約に至っていないようだ。なお、出演交渉は
2本の続編を含む複数本の契約で進められているそうだ。 
 もっとも、“Superman”の契約では、以前のリーヴの契約
でも、主契約期間中はキャラクターのイメージを傷つけるよ
うな行為をしてはならないなどの付帯条項があったと言われ
ている。3本の契約ということは少なくとも6年間はそれに
縛られることになる訳で、これは俳優の側もかなり慎重にな
るだろう。リーヴも、結局その間には『ある日どこかで』や
『デストラップ』といった作品にしか出ていなかった。  
 なおこの配役には、以前はニコラス・ケイジが契約してい
たが、当時検討されていたティム・バートン監督の降板など
でキャンセルされた。さらにワーナーは、一時期この配役に
大物スターを狙い、噂ではジョッシュ・ハートネット、ジュ
ード・ロウ、アシュトン・カッチャー、ブレンダン・フレー
ザーらをテストしたということだが、思い通りの成果は得ら
れなかったようだ。                  
 また、今回映画化が計画されているJ・J・エイブラムス
の脚本は、リーヴ主演で映画化された前のシリーズを元から
再構築するということだ。そして前シリーズの第1作でマー
ロン・ブランドが演じたスーパーマンの父親役には、『レッ
ド・ドラゴン』でラトナー監督と意気投合したアンソニー・
ホプキンスが出演をOKしたという情報もある。     
        *         *        
 一方“Superman”と来れば、ワーナーのもう一つの人気シ
リーズは“Batman”だが、こちらにも動きが出てきている。
 この2大シリーズでは、ウォルフガング・ペーターゼン監
督による“Batman vs.Superman”の計画が進められたことも
一時あったが、この計画はペーターゼンがブラッド・ピット
主演の“Troy”に走ったために頓挫してしまった。    
 それに代って今回報告されているのが、『インソムニア』
のクリス・ノーラン監督の起用。そして主人公バットマン=
ブルー・ウェイン役には、ガイ・ピアースが興味を示してい
るということだ。                   
 因にノーランは、「僕はバットマンと共に育った世代だ。
僕は彼にずっと魅せられてきたし、そのキャラクターの構築
に何か寄与できるとしたらこんなに素晴らしいことはない。
彼は現実的で信頼の置けるスーパーヒーローだ。彼は魔法使
いではない。人間的なコンプレックスを持って、内面から来
るスーパーヒーローの資質の持ち主だ。」と、自らのバット
マン像を語っており、かなり期待が持てそうな感じだ。  
 なおノーランの計画では、次回作にはジム・キャリー主演
によるハワード・ヒューズの伝記映画が予定されていたが、
同じ内容では、前々回紹介したようにマーティン・スコセッ
シ監督、レオナルド・ディカプリオ主演の“The Aviator”
の計画が先行しそうで、ちょっと実現のチャンスは失われか
けているようだ。また、この“The Aviator”にワーナーが
絡んでいるという状況もあるようだ。          
 さらにワーナーでは、以前第19回で紹介したダーレン・ア
ロノフスキー監督による次世代版“Batman: Year One”と、
傍系版の“Catwoman”の計画もアシュレー・ジャドの主演と
ピトフ監督で進んでいるということで、最初にどの作品が飛
び出してくるか判らない状況のようだ。         
        *         *        
 またまたテレビシリーズからの映画化で、57−63年に製作
され、日本では60年からNHKで放送された西部劇シリーズ
“Have Gun, Will Travel”(西部のパラディン)を、パラ
マウントで映画化する計画が発表された。        
 オリジナルは30分の白黒シリーズで、やはり西部劇の『ガ
ンスモーク』と共に土曜の夜9時台に放送されていた大人向
けの作品。主人公は陸軍士官学校の出身で南北戦争でも活躍
した元士官。1870年代を背景に、雇われガンマンとして西部
で起きるいろいろな問題を解決するというものだ。    
 そして主人公は、普段はサンフランシスコのホテルで優雅
な暮らしをしているが、仕事を依頼されると全身黒の衣装で
出かけて行く。また、彼の名刺には、チェスの白騎士(パラ
ディン)と連絡先と共に、題名の文章があしらわれていると
いうもの。                      
 なお、オリジナルの主演はリチャード・ブーン。他にレギ
ュラーは、「ヘイ・ボーイ」(1年だけ「ヘイ・ガール」だ
ったこともある)と呼ばれるホテルで働く東洋系の少年だけ
というシンプルな構成の作品だ。また、ブーンも歌った主題
歌の“The Ballad of Paladin”は60年代初期のヒット曲の
一つに数えられている。                
 そして今回の映画化だが、実はオリジナルシリーズを放送
していたCBSが、現在はパラマウントと共にヴァイアコム
を親会社とする兄弟会社の関係にあり、その辺から進み始め
たようだ。また脚本には、『トータル・フィアーズ』を手掛
けたダニエル・パインの起用が発表されている。     
 なお、映画化の物語は、1875年のサンフランシスコを舞台
に、パラディンが東部での暗い過去を捨てて、西部で生きる
目的を発見するまでを追ったものになるということで、つま
り、以後のシリーズ化も考えられる物語になるようだ。  
 製作はジョーダン・カーナーが担当。脚本家以外のスタッ
フ、キャストは未発表だが、主人公の配役と並んで、「ヘイ
・ボーイ」の東洋系の少年というのも気になるところだ。 
        *         *        
 お次は各国映画からのハリウッドリメイクの情報で、今度
はワーナーが、スティーヴン・ソダーバーグ監督とジョージ
・クルーニーが主宰するセクション・8プロダクションのた
めに、“Nueve reinas”というアルゼンチン映画のリメイク
権を獲得した。                    
 オリジナルの物語は、ベテランと新人の2人の詐欺師が、
知人の贋作者から預かった「9人の女王」と呼ばれる1枚の
古切手を巡って、国外追放前夜の切手コレクターを相手に大
勝負を仕掛けるというもの。2時間程度の作品のようだが、
この他の登場人物も多く、かなり入り組んだ物語が展開され
るということだ。                   
 そして映画は、アルゼンチン映画界で長年助監督として働
いていたファビアン・ビエリンスキーという監督が、初監督
作品として自らの脚本を映画化したもので、作品は、2001年
のアルゼンチンの映画賞を総嘗めにしたという話題作だそう
だ。なおアメリカでは、“Nine Queens”の題名で01年の春
に公開されている。                  
 この作品がワーナーでリメイクされる訳だが、このリメイ
ク版では、長年ソダーバーグの第1助監督として働き、新作
の“Solaris”では製作総指揮を担当したグレゴリー・ジェ
イコブスが、監督デビューをすることになっている。また脚
本は、ジェイコブスとソダーバーグが共同で執筆するという
ことだ。                       
 つまり助監督あがりの監督のデビュー作を、こちらも助監
督あがりの監督が初監督でリメイクするという訳だが、この
第1助監督(first assistant director)という仕事は、
前回、試写作品で紹介した『ロスト・イン・ラ・マンチャ』
を見ても、とてつもなく大変な仕事のようで、そういう現場
からの叩き上げの人たちの成功を祈りたいものだ。     
        *         *        
 続いてはディズニーから、ロアルド・ダールの児童小説の
映画化の計画が発表されている。            
 ダール作品のディズニーでの映画化では、96年の“James
and the Giant Peach”(ジャイアント・ピーチ)が記憶さ
れるが、ダール作品というと児童向けとは言ってもかなり毒
のあるものが多く、その意味では面白い作品が期待できると
ころだ。                       
 そして、今回映画化が計画されているのは“The Twits”
という作品。この原作は、日本でも『いじわる夫婦が消えち
ゃった!』という題名で翻訳があるようだが、周囲には意地
悪で、お互いの間もいさかいの絶えない夫婦が、ある日恐ろ
しい仕返しを受けるというもの。いかにもダール作品らしい
内容と言えそうだ。                  
 しかもこの脚色を、元『モンティ・パイソン』で『ワンダ
とダイヤと優しい奴ら』などのジョン・クリースと、アニメ
ーション作品“Quest for Camelot”を手掛けたカーク・デ
・ミコが担当することになっており、特にクリースの手腕に
期待したい。因にクリースは、「娘のカーミラが8歳の頃か
ら2人で読むのが大好きな作品だった。素晴らしいキャラク
ターと見事なプロットを持っており、カークと共に脚色する
のが楽しみだ」と語っている。             
 製作は、『シュレック』や『タキシード』などを手掛けた
ジョン・H・ウィリアムスのヴァンガードが担当。なお同社
は、実写映画に関してはドリームワークスとの間で優先契約
を結んでおり、ディズニーとの間はCGIアニメーションの
契約ということで、それに従うと今回の作品はCGIアニメ
ーションということになる。              
 また、同社とディズニーとの契約は昨年の秋に結ばれたも
ので、すでにその第1作として“Valiant”というCGIア
ニメーション作品が製作に入っている。この作品は第2次世
界大戦を背景にしたもので、戦時下で軍に徴用された伝書鳩
の活躍を描いた物語。ノルマンディー上陸作戦のDデイに向
けて、フランスのレジスタンスから連合軍司令部に重要なキ
ーを届けた伝書鳩の冒険を描くものだが、『プライベート・
ライアン』よりは『プライベート・ベンジャミン』のような
コメディータッチの作品だそうだ。           
 さらにこの契約では、全部で4本となっており、その2本
目が今回発表された作品ということになりそうだが、一方、
同社ではすでに“Shrek 2”製作も進めており、今後はディ
ズニーとドリームワークスに対して50:50の比率で作品を供
給したいということだ。ハリウッド各社では、アニメーショ
ンの確保に躍起になってるのが現状だが、その中で最大手と
もいえる2社に作品供給というのもすごいところだ。因に、
同社では、1本当り3000〜4000万ドルの製作費で長編アニメ
ーションを仕上げるということで、この価格も有利なところ
かも知れない。                    
        *         *        
 後半は、発表されたばかりのアカデミー賞候補について書
いておこう。                     
 まず気になるのは長編アニメーション部門だが、大方の予
想通り、『アイス・エイジ』『リロ・アンド・スティッチ』
に『千と千尋の神隠し』、それに『スピリット』と『トレジ
ャー・アイランド』という5本になった。個人的には『スチ
ュアート・リトル2』にもちょっと期待したが、やはりアカ
デミーは保守的だったということだろう。        
 この内、『スピリット』はドリームワークスの作品で2年
連続というのはちょっと考えにくい。そこで興行成績No.1の
『アイス・エイジ』と他の3本ということになる訳だが、こ
こで日本のマスコミは、宮崎アニメとディズニーアニメの争
いなどと言い出している。               
 確かに、『アイス・エイジ』の日本公開はすでに終ってし
まっているので、これから公開されるディズニーの2本との
対決というのは話題を作りやすいのだが。実は『千と千尋』
のアメリカ配給はディズニー(ブエナ・ヴィスタ)が行って
おり、『リロ』『千』『トレジャー』は、アメリカではすべ
てディズニー作品の扱いなのだ。            
 ということで、今回の争いは『アイス・エイジ』対ディズ
ニー3作品となる訳だが、そうなるとディズニーが3本の内
のどの作品に力を入れるかが焦点になってくる。ここで『ト
レジャー』は一歩後退となりそうだが、さて『リロ』『千』
のどちらにディズニーは取らせたいかということだ。   
 まあ、その意味では、宮崎アニメとディズニーアニメの争
いというのはディズニー内部で激しそうだが、やはり外様の
難しさは感じてしまうところだ。先に『千と千尋』が受賞し
たアニー賞などは、作品の評価が素直に結果に現れるが、ア
カデミー賞というのはそういうものではない。      
 ディズニーとしても、『アイス・エイジ』に勝ちたいのな
ら、『千と千尋』の方を押すべきだとは思うが、人間関係が
関わってくるとなかなか難しい。その意味でも、最終結果が
どう出るかが面白いと言える。これでもし『千と千尋』が取
ったら、それは大事件ということだ。          
        *         *        
 この他の気になる部門では、視覚効果賞の候補は、『ロー
ド・オブ・ザ・リング/二つの塔』『スパイダーマン』『ス
ター・ウォーズ:エピソード2/クローンの襲撃』の3作品
になった。『SW』は何とか候補になったが、実は今回候補
になったのはこの1部門だけ。一方、『LOTR』は作品賞
を含む6部門の候補になっており、勢いの違いを感じるとこ
ろだ。なお、『スパイダーマン』は音響部門の候補にもなっ
ている。                       
 さて、賞の行方はということになると、まず『LOTR』
の2年連続はあるかというところが注目。一方、『SW』は
3年前の雪辱を果たしたいところだが、もし『スパイダーマ
ン』ということになると、ILMを追い出されたジョン・ダ
イクストラが『SW』を阻止することになる訳で、これも面
白いところだ。                    
 あとは、メイクアップ賞の候補に『タイムマシン』とサル
マ・ハエックが主演女優賞候補にもなっている“Frida”が
ノミネートされており、SF作品以外の候補は興味を引かれ
るところだ。                     
 また、外国語映画賞部門では、脚本賞と監督賞の候補にも
なっている『トーク・トゥ・ハー』が候補にならなかったの
が意外だった。もう1本の脚本賞候補の『天国の口、終りの
楽園』の方は、本国での公開が01年で権利がなかったようだ
が。『トーク・トゥ・ハー』は、別ページの試写作品の紹介
でも書いたように本国の公開も02年となっており、いきさつ
が知りたいところだ。                 
 全体的には、13部門で候補になっている『シカゴ』がどこ
まで受賞数を伸すかだが、これも別ページで書いているよう
に久しぶりの本格ミュージカル映画で、かなり行きそうな感
じだ。受賞式は日本時間3月24日に行われる。      
        *         *        
 最後に続報を2つ。                 
 一つ目は、前回紹介したハル・ベリー、ペネロペ・クルス
共演のダーク・キャッスル作品“Gothika”の監督に、昨年
日本でも公開されたフランス映画『クリムゾン・リバー』の
マチュー・カソヴィッツの起用が発表された。カソヴィッツ
は昨年の作品で大作志向に転向したと言われたが、そのまま
一気にハリウッド進出となったようだ。となると、前回予想
したゼメキス監督の線は外れたことになるが、それなら予定
の“Macabre”は、まだ生きているということだろうか。そ
の後も動いた形跡は見当たらないのだが…。       
 もう一つは、第27回で紹介したフランク・オズ監督、ニコ
ール・キッドマン主演による“The Stepford Wives”のリ
メイクで、相手役にトニー賞受賞の舞台俳優ロジャー・バー
トの起用が発表されている。なおバートの役柄は、ヒロイン
の親友ということだが、オリジナルの映画にはないもので、
今回の脚本家のポール・ルドニックが新たに造り出したコメ
ディーリリーフ的な役柄のようだ。因に、バートはブロード
ウェイで上演されたミュージカル版『ピーナッツ』のスヌー
ピー役で受賞しているそうだ。              



2003年02月02日(日) 散歩する惑星、北京ヴァイオリン、二つの塔、クローサー、ロストイン、ノーグッド、レプリカントジョー、キャッチミー、ピノッキオ

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※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介します。       ※
※一部はアルク社のメールマガジンにも転載してもらって※
※いますので、併せてご覧ください。         ※
※(http://www.alc.co.jp/mlng/wnew/mmg/movie/)   ※
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
『散歩する惑星』“Sanger fran andra vaningen”    
スウェーデンの映画作家ロイ・アンダースンの2000年の作品
で、同年のカンヌ映画祭で審査員特別賞を受賞している。 
プレスに載っている監督インタヴューを読むと、物語に脈絡
のない映画を目指したかったのだそうだが、映画はかなり明
確なメッセージを持った理解し易い作品になっている。しか
もそのメッセージは、僕には納得できるし共感してしまうも
のだった。                      
30年勤め上げたサラリーマンが突然リストラされたり、道に
迷った人が謂れのない暴力を振るわれたり、いろいろな不条
理な出来事のはびこる世界。お偉方は不毛の論議を続け、し
かも状況を打開する方策は見当たらない。        
そんな中で行われているのは、若者に因果を含めて死をもた
らす儀式。その後老人たちは良心の呵責にさいなまれている
風は見せるが、実際にはゴルフバックを頂点に膨大な荷物の
載ったカートを押して幸せの国への搭乗チケットカウンター
に先を争っている。                  
主人公の男は、営業していた自分の店に火を付け、本当は放
火の罪を負うはずだったが、上手く行き過ぎて罪にもならず
保険金を得てしまう。しかし2人の息子の1人は本人の優し
さゆえに心の病に侵されている。            
そして主人公の前に、借りた金を踏み倒していた友人の霊が
現れる。主人公は前非を悔いているのだが、最早死んでしま
った友人に金を返す手段がない。その内、因果を含められて
殺された少女など、いろいろな霊が彼につきまとい始める。
不条理劇といえば不条理劇だが、カリカチャライズされた政
治や風俗は、今の日本にはほとんどそのまま当てはまり、風
刺と言うより今の日本の現実を見せつけられているような感
じがした。                      
2000年当時のスウェーデンは、今の日本と同じような不況の
最中だったはずだが、その後は急速に景気が回復した。どこ
が日本と違ったのか、そんなこともちょっと考えさせられる
作品だった。                     
なお、原題のSaとfraとvaのaの上に丸が付きます。    
                           
『北京ヴァイオリン』“和你在一起”      
すでにハリウッド進出も果たした陳凱歌監督の02年作品。 
中国のとある田舎町。13歳のシャオチュンは料理人の父親の
男手一つで育てられてきた。              
彼は母親の形見というヴァイオリンを手に、人々の心に響く
演奏をする。そんな息子を連れて父親は北京の音楽院を訪ね
る。そこで少年は優秀な腕前を披露するが、北京に居住権が
ないために入学を断られる。              
しかし諦めない父親は、音楽院の教授に頼み込み、個人教授
を受けさせる。ところがその教授は、自分自身を見失った人
生の破綻者だった。この他、親子の周りには、娼婦まがいの
生活をしている女性や、いろいろな人生が巡っている。  
そんな環境の中で、少年はいろいろなことを学び成長して行
く。そしてその目標は、国際コンクールに中国代表として選
抜されることだったが…。               
音楽の国際コンクールでアジア系の若手音楽家が活躍を続け
ており、それを背景に中国でも音楽熱が高まっている。  
この物語も、そんな子どもの父親を描いた中国テレビのドキ
ュメンタリー番組で、練習場の窓から聞こえてくる我が子の
演奏に至福の表情を浮かべる父親の姿を見た監督が、思いつ
いたという。                     
もちろん映画の全体はフィクションだが、多分いろいろな実
話に基づくであろうエピソードが、現代の中国の実情を活写
し、その一方で深い感動を生み出している。特に父親の描き
方が、演出、演技ともに素晴らしい。          
なお、ヴァイオリン演奏は映画にも登場し、来日公演も予定
されている李伝韻が担当しているが、演じている少年も実際
に音楽院に学ぶヴァイオリニストということで、その演奏シ
ーンは見事だ。                    
                           
『ロード・オブ・ザ・リング/二つの塔』        
       “The Lord of the Rings: The Two Towers”
いよいよ第2部が登場した。              
最早ここまで作られると何も言う言葉がない。何しろ最初か
ら最後まで、見事の一言に尽きる映像が展開されている。 
原作は、時間の流れがかなりいい加減で、物語が先に進んだ
り戻ったりしていたが、映画ではその辺を整理して時間通り
に進められる。このため、実は今回の映画では、原作の第2
部の最後まで行っていないのだが、これは仕方ないことだろ
う。                         
また、いくつか落ちているエピソードも第3部を見ないと何
とも言えない。特に、第2部の最後をかなり積み残している
ので、第3部がちょっと心配になる。第2部の上映時間は2
時間59分だったが、第3部はさらに長くなるという噂もある
ようだ。                       
第2部では登場人物も増えるが、俳優が演じるキャラクター
はともかくとして、やはりゴラムとエントが見ものだった。
ゴラムについては、その特異なキャラクターが一般的な話題
にも上るだろうが、僕はエントの方に注目した。     
エントは、日本で原作が子供向けと誤解されている中で、特
に童話的なキャラクターだけにその描き方が気になっていた
ものだ。しかし、見事に童話的なキャラクターになっていて
嬉しくなった。この辺は監督が解かっているとしか言いよう
がない。                       
とにかく、映画史上最高の作品がここにあると言ってしまお
う。僕にとっては、ついに『2001年宇宙の旅』を超える
作品が出現したという感じだ。             
                           
『クローサー』“夕陽天使”              
台湾のスー・チー、香港のカレン・モク、中国のヴィッキー
・チャオ、中華3地域のトップ女優が顔を揃えたアクション
映画。                        
女優3人の主演で、しかもこの原題では、てっきり『チャー
リーズ・エンジェル』のパクリかと思いきや、当然のことな
がらアクションが一枚上手の上に、ストーリーにも捻りがあ
って見事な作品。第一、配給が『チャーリーズ…』と同じソ
ニーなのだから、なまじの作品であるはずがない。    
物語は、香港のセキュリティ会社のコンピュータシステムが
ウイルスに襲われるところから始まる。そこにワクチンソフ
トの売り込みが入り、そのワクチンでウイルスは駆除される
のだが…。その取り引きに現れた電脳天使と自称する女の目
的は、単なる取り引きではなかった。          
スー・チーとチャオの姉妹は、父親の残した盗視システムを
武器に、狙った相手を派手な手口で、しかも証拠を残さずに
始末する殺し屋。スー・チー扮する姉が実行者で、チャオ扮
する妹はシステムを駆使して姉をサポートする体制だ。  
しかし、今までは翻弄してきた香港警察に、カレン・モク扮
するアメリカ帰りの女性刑事が加わり、姉妹を追い詰め始め
る。一方、姉妹に殺しを依頼した組織も、証拠を完全に消す
ため、姉妹の抹殺に動き始める。            
何しろアクションがいい。『チャーリーズ…』の3人も頑張
ってはいるが、こちらの3人は最初からそういう訓練を受け
ているのだから、それは見事。しかも監督は、ジェット・リ
ーと共に『リーサル・ウェポン4』などのアクション監督を
務めたコーリー・ユンなのだから、その華麗さは、見てい
るだけで満足という感じだった。                    
                           
『ロスト・イン・ラ・マンチャ』“Lost in La Mancha”  
2000年9月に撮影開始されたテリー・ギリアム脚本、監督の
“The Man Who Killed Don Quixote”が、撮影開始6日間で
製作中止に至るまでを記録したドキュメンタリー。    
製作監督は、『12モンキーズ』のメイキングでギリアムの信
頼を得たというメムバーで、この作品も完成までのメイキン
グのはずだったのだが、思わぬ展開を記録することになって
しまったというものだ。                
記録は撮影開始の6カ月前から始まり、絵コンテの制作やロ
ケハンなどの映像からギリアムの思いの丈が伝わってくる。
しかし製作費の削減から、俳優の拘束時間が限定され、スケ
ジュールが厳しくなってくる。             
それでもギリアムの作品に賭ける熱意が、スタッフ達を動か
して行く。その中では、ギリアムが次々繰り出す難題を、最
初は無理だと言いながらも作り上げ、ギリアムが喜ぶ姿など
も写されている。                   
ところが、俳優の拘束時間の無理が祟り、主人公キホーテ役
のジャン・ロシュホールが体調不良で乗馬シーンの撮影が困
難になったことから、代役は考えられないとするギリアムの
意向もあって、製作は中止になってしまう。       
しかし、中で語られるギリアムのアイデアや、出演者のジョ
ニー・デップらの姿を見ていると、本当に素晴らしい作品に
なりそうで、それが中止されたことの悔しさを僕らも共有で
きるような作品だ。                  
それにしても、国立公園の中で撮影しているのに、上空をN
ATO軍のジェット戦闘機が爆音を轟かせて飛行したり、突
然の豪雨でロケ地が水浸しになったり、そんな映像を見てい
ると、本当にドン・キホーテの呪いとしか言いようがなくな
ってくる。                      
実際、この題材はオースン・ウェルズも試みて未完成に終わ
っているものだ。しかし、ギリアムは、今年の9月にデップ
のスケジュールが空くのを待って、再び挑戦する意向だそう
だ。願わくば、本作がその壮大な予告編になることを期待し
たい。                        
それにしても、ギリアムが常に前向きな素晴らしい人物であ
ることも解かったし、登場したデップが、いきなり脚本にア
イデアを出してギリアムを喜ばせるなど、全ての人が好人物
なのにも感動した。                  
                           
『ノー・グッド・シングス』“No Good Deed”      
ハメット原作「コンチネンタル・オプ」シリーズの一編「タ
ーク通りの家」の映画化。               
主人公の刑事は、隣人の頼みで家出した娘を捜しにターク通
りへ向かう。しかし老女の帰宅の手助けをした刑事は、思い
も依らず犯罪の現場に入り込んでしまうことになる。そこで
は、5人の老若男女が銀行から大金を詐取する計画を練って
いたのだ。                      
手足を縛られて犯罪を傍観するしかない刑事。しかし犯行が
始まったとき、アジトに残った若い女との間で微妙な関係が
生まれ始める。ロシアからの移住者の女には、男を操ってし
か生きて行けない性があった。             
原作は19ページの短編だそうだが、ハードボイルドの元祖と
も言われるハメットの味を活かし、一方、監督ボブ・ラファ
エルスンが、特有の男女の機微を見事に描き出して素敵な作
品に仕上げている。                  
主演は、サミュエル・L・ジャジュスンとミラ・ジョヴォヴ
ィッチ。今、乗りに乗っている2人の共演も魅力だ。   
                           
『近未来蟹工船/レプリカント・ジョー』        
自主映画の松梨智子監督による最新作。過去にいろいろな受
賞歴もある監督のようだが、僕は今回初めて鑑賞させてもら
った。                        
監督はバカ映画の女王と呼ばれているようだが、この作品の
物語自体はそれほどバカとも思えないし、日本映画としては
むしろまともすぎる作品だろう。実際もっと意味不明の作品
を何度も見ているので、ほっとした感じがした。     
映画自体は悪いとは思わない。ただし、舞台俳優を起用した
演技は映画のものではない。この演技を舞台で見たのなら、
多分それほどの違和感はないのかも知れないが、特に外国映
画のナチュラルな演技を見慣れている目には、かなり辛いも
のがあった。                     
物語は、労働力をアルバイトで賄うことで成功した企業の社
長が、中国進出のために賃金のカットを通告する。これに対
して主人公は、組合を作って対抗しようとするのだが、その
設立総会の席上で手痛い仕返しを受ける。        
こうして会社を追われた主人公は、社長や自分を裏切った元
の同僚達への復讐のために、マッドサイエンティストの元で
最強のレプリカントとなる処置を受ける。        
一方、実は高校の同級生だった社長と主人公の間で翻弄され
た主人公の妻は、一人で生きようとするが、中国人マフィア
の首領などの間を流されて行く。            
そしてついに、主人公が復讐を遂げる日がやってくる。  
結局、何がバカなのかと問われれば、マッドサイエンティス
ト云々という辺りになるのだろうが、SF映画の観点から言
えば順当な感じだし、それを除いた物語は、日本映画ではよ
くあるレベルの話のように思える。           
結末だって、旅客機を乗取って高層ビルに突っ込む現実より
は、よほどまともだろう。正直に言って、もっと馬鹿な映画
を見たかった、そんな感じがした。           
                           
『キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン』        
                “Catch Me If You Can”
スティーヴン・スピルバーグ監督、レオナルド・ディカプリ
オ、トム・ハンクス主演の犯罪ドラマ。16歳から21歳までで
280万ドル(映画では400万ドルになっている)を稼いだとい
う天才詐欺師フランク・アバグネイルの実話に基づく作品。
主人公は、16歳の時に町の名士だった父親が没落し、両親が
離婚したこともあって家出、預金も使い果たした少年は、誕
生日に父親が開いてくれた口座の小切手帳を使って大手銀行
を相手に大胆な詐欺を始める。             
その手口は、大手航空会社Pan-Amのパイロットの制服を着る
ことで相手を信用させ、多額の小切手を現金化させるととも
に、他の飛行機会社の便に無料で乗り込み、全米を渡り歩く
ことで不渡りになるのを遅らせ、足が着かないようにすると
いうもの。                      
その大胆な手口に、FBIは大人の犯罪者を追うが、やがて
一人の捜査官が、犯人が子供である可能性に気付く。そして
捜査官の元へ犯人からの電話が掛かり始める。      
1960年代の、今とは違う時代の物語。その雰囲気が、また僕
らの気持ちを楽しませてくれる。何たって、ニューヨークの
Pan-Amビルは出てくるし、尾翼にPan-Amのマークの着いた飛
行機が離陸して行くシーンもある。それだけでも楽しくなっ
てしまう作品だ。                   
47年生まれのスピルバーグが、48年生まれのアバグネイルを
描いている点もポイントだろう。それに、ディカプリオとハ
ンクスの徐々に心が通じあって行くという話も温まる。  
正直言って、スピルバーグの演出は以前から上手いと思った
ことはなく、今回もかなりあざといのだが、SFを含めてこ
の手のファンタスティックな作品ではそれが通用してしまう
ということだろう。                  
                           
『ピノッキオ』“Pinocchio”              
『ライフ・イズ・ビューティフル』のイタリア人俳優ロベル
ト・ベニーニが、同作以来の脚本、監督、主演をした作品。
元々はフェデリコ・フェリーニとベニーニで企画されていた
ものだが、ベニーニがフェリーニの遺志を継いだという形の
ようだ。                       
何を言われようと、これが原作の味ということなのだろう。
冒険というよりも、ピノッキオの子供の考え方による行動を
描いている訳で、なんて馬鹿なと思いつつも、結局そうなん
だろうなと納得してしまう。そんな感じの展開だった。  
ベニーニが演じるピノッキオは、本人も自分はジェペット爺
さんの年代と言っているが、さほど違和感もなく見事。これ
も子供の考え方による行動を描くという根本を忠実に守って
いるせいだろう。つまり、コッローディの原作の思想に忠実
ということだ。                    
出だしの丸太がジェペット爺さんの家にたどり着くまでの展
開がすごくて、この調子で続けられたら大変だと思ったが、
その後は過激なこともなく安心してみられる。      
原作の問題となる部分も上手にカットされていて、家族連れ
向けの作品と言えるだろう。              




2003年02月01日(土) 第32回

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
※このページは、キネマ旬報誌で連載中のワールドニュー※
※スを基に、いろいろな情報を追加して掲載しています。※
※キネ旬の記事も併せてお読みください。       ※
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
 今回は、最初に2つの記者会見の報告から。      
 まず、『ボーン・アイデンティティー』の日本公開に合せ
て主演のマット・デイモンの来日記者会見が行われた。例に
よって、ここでは完成した映画に関する話題は扱わないが、
一応、会見の中で続編についての質問が出ていたので報告し
ておこう。                      
 といってもデイモンの答えは、「契約は1本だけなので、
続編に関しては未定だ」というものだったのだが…。実は、
今回映画化されたロバート・ラドラムの原作『暗殺者』には
2作の続編がある。それぞれ『殺戮のオデッセイ』『最後の
暗殺者』の題名で翻訳もあるようだが、今回の映画化を製作
したユニヴァーサルでは、すでにこれらの続編の映画化権も
契約しており、さらに監督のダグ・リーマンとも、2本の続
編映画化の契約を結んだということだ。そしてもちろん主演
にはマット・デイモンが期待されている。        
 因に、デイモンとリーマンは共にニューヨーク在住という
ことで、その点では共通する部分も持っている感じだが、本
作公開時の監督インタヴューでは、デイモンを絶賛している
部分もあり、デイモンも今回の会見で、最初に「自分が誇れ
る作品」と述べているのだから、これはぜひとも続編を作っ
てもらいたいものだ。                 
        *         *        
 もう一つは、『レッド・ドラゴン』の主演のエドワード・
ノートンと監督のブレット・ラトナー、それにディノ&マー
サ・デ・ラウレンティスのプロデューサー夫妻による記者会
見も行われた。                    
 この会見には、僕は続編のことが聞きたくて、他から質問
が出なければ自分ででもと思って出席したのだが、各人が質
問に丁寧に答えてくれたおかげで、機会を逸してしまった。
ところが、会見の終り近くなって突然ラトナーがアンソニー
・ホプキンスから託されたというメッセージを披露、その中
でホプキンスは、「“Hannibal vs.Godzilla”になら出て
もいい」という意向なのだそうだ。            
 このメッセージは、これだけ聞くとジョークのようにも聞
こえるが、実は前回、ホプキンスも同席して同じ場所で行わ
れた『ハンニバル』の記者会見で、ディノ・デ・ラウレンテ
ィスは、はっきりと「『ハンニバル』の結末でレクターは東
京行きの飛行機に乗っており、東京を舞台にした続編を作り
たい」と言っていたのだ。その際には、「トマス・ハリスの
原作を待っていたら自分の寿命がもたないからオリジナルで
作る」とまで言っていた。               
 ということを考えると、このホプキンスのメッセージは、
日本が舞台の『ハンニバル』の続編になら出演するというメ
ッセージにも聞こえてくる。今回の記者会見では、ノートン
もラトナーも日本びいきであることを強調していたし、これ
はひょっとして、クラリス+グレアムvsハンニバルというの
も面白そうに思えてきた。               
 因にノートンは、自身の監督作品の『僕たちのアナ・バナ
ナ』が出品された2000年の東京国際映画祭の舞台挨拶で、流
暢な日本語を披露して驚かせてくれたが、今回の会見による
と、実は俳優になる以前の12年ほど前に大阪で仕事をしてい
たことがあり、その時には天保山ハーバービレッジの「海遊
館」を作っていたのだそうだ。確か「海遊館」は、アメリカ
のコンサルタント会社に依頼した演出された構成が人気を呼
んだものだが、その関係なのだろうか。         
        *         *        
 さて、ここからはいつもの製作ニュースを紹介しよう。 
 まずは、前回最後に紹介したジョージ・クルーニー製作、
主演、スティーヴン・ソダーバーグ監督による『オーシャン
ズ11』の続編“Ocean's Twelve”の情報で、この続編の撮
影を04年3月に開始して、同年のクリスマスに公開するとい
う計画が発表された。                  
 もちろん製作はクルーニー、監督はソダーバーグで、出演
者には、クルーニーは当然のことブラッド・ピットの参加も
決定、その他の共演者も全員が前作と同じ顔ぶれで揃い、さ
らに新しい12番目の共演者も登場するということだ。
 あのオールスターキャストがまた見られるというのも楽し
みなことだが、実はこの計画、元々の脚本は“Honor Among
Thieves”という題名で、ジョン・ウーの監督作品として2
年程前にワーナーが購入したもの。しかしその後、ウーのス
ケジュールの関係などで実現の可能性が低くなり、それなら
再利用ということで今回の計画になったようだ。     
 なお、ウー監督関係のサイトによると、この作品は、当初
は“King's Ransom”という題名で、ラリー・オニールとい
う脚本家と、『マスク』のミルゼ・ワーブ、『フェイス・オ
フ』のマイクル・コレアリーらが脚本を執筆しており、元々
はチョウ・ユン・ファの主演が予定されていたようだ。  
 そして00年6月に、ワーナーが“Honor Among Thieves”
の題名で映画化権を契約して製作準備を開始、その準備期間
中、共演者にはブラッド・ピットの名前も公表されていた。
しかし昨年の6月、『ウインド・トーカーズ』に続くウー監
督の次回作が“Men in Destiny”に決まったために、ウー
は自分で監督することを諦め、他の監督に任せることになっ
たと発表していた。                   
 ということで、ピットはクルーニーらより先に参加してい
たようで、それなら今回の共演者に名を連ねるのは当然とい
う感じもするが、いずれにしても今回は『オーシャンズ11』
の続編に衣更えということで、脚本にはかなり手が入れられ
ることになりそうだ。そしてその脚本家として“Timeline”
などのジョージ・ノルフィの契約が発表されている。   
 なお、オリジナルの物語は、2人の泥棒が1人の女性に恋
してしまったことから展開するロマンティック・コメディだ
そうで、これをユン・ファとピットの共演でというのは面白
そうだが、さて『オーシャン』の顔ぶれではどのような展開
になるのだろうか。それに12番目の共演者は誰かというのも
気になるところだ。                  
        *         *        
 お次は、製作ニュースとはちょっと違うが、04年、05年の
tentpoleと呼ばれる夏の超大作の公開予定が紹介されていた
の報告しておこう。なお、今回報告するのは04年、05年の作
品で、03年の公開予定ではないのでご注意。       
 まずは04年5月7日の公開予定で、“The Amazing Spider
-Man”。ソニーの昨年の記録的ヒット作の続編は、今年の4
月から撮影開始の予定だ。               
 続いて5月21日にユニヴァーサルの“Van Helsing”。元
祖ヴァンパイアキラーの活躍が、『ハムナプトラ』の監督の
手で甦る。                      
 さらに5月28日にフォックスの“Tomorrow”。『インディ
ペンデス・デイ』のローランド・エメリッヒ監督が、地球温
暖化をテーマに再び地球を壊滅の危機に追い込む。    
 この他、5月最終週のメモリアルデイを含む週末に、パラ
マウントの“Mission: Impossible 3”。トム・クルーズは
今年の年末のワーナー作品“The Last Samurai”に続いての
tentpoleだ。                     
 また、6月中には半年遅れでワーナーの“Harry Potter
and the Prisoner of Azkaban”と、6月18日にドリームワ
ークスの“Shrek 2”も予定されている。         
 一応、学生の休み中の動員を目指す夏向け公開作品だが、
その封切りのタイミングは年々早まって、最近ではほとんど
が5月、6月からの公開になってしまった。それに、特に最
近は5月公開に大ヒット作が生まれる可能性が高いようだ。
 そして05年の予定では、5月のメモリアルデイ前週に、フ
ォックスの“Star Wars: Episode III”。ついにシリーズ
最終作となるのか?                   
 この他、6〜7月に、パラマウントから“Indiana Jones
4”。この作品は、前3作のDVDの発売に合せて公開され
るということで、可能性はかなり高くなっているようだ。 
 さらに夏の予定で、ユニヴァーサルから“Jurassic Park
IV”。“Indiana Jones”と重なるとなると、今回もスピル
バーグの監督はなさそうだ。              
 また、ワーナーから往年のコメディ・チームを復活させる
“The Three Stooges”と、ディズニー/ピクサーからCG
Iアニメーション“Cars”の公開も予定されている。   
 それにしても相変わらずシリーズものが目に付くが、中で
も05年には第4作が並ぶようだ。順調に行けば“Harry
Potter and the Goblet of Fire”もこの時期になるはず
だが、どうなるのだろうか。                 
        *         *        
 ついでと言っては何だが、今年夏の期待作“The Matrix:
Reloaded”と、その続きの“The Matrix: Revolutions”
について状況が報告されていたので紹介しておこう。    
 製作者ジョール・シルヴァの報告によると、この2作の総
撮影期間は294日で、総製作費は3億ドル。また、VFXの
総カット数は3000カットで、そのために1億ドルが使われた
ということだ。                    
 ただし今回のVFXに関しては、99年の前作『マトリック
ス』を手掛けたマネックスが、その後に内部分裂を起こし、
このため今回は、旧マネックスの一部スタッフによる新会社
を設立したために、その設立費用の一部も1億ドルの中から
拠出されているようだ。なお、これによってワーナーでは、
96年に廃止した社内の視覚効果部門を再び持つことになった
とも報告されている。                 
 また、今回の2作を手掛けるに当って新会社には、ILM
やディジタル・ドメイン、ソニー・イメージワークスなどか
らスタッフが集められたそうだ。そして今回のVFXでは、
前作に勝るスピードと、特に予告編にも出ているキアヌ・リ
ーヴスと敵役のエージェントのコピー100人と壮絶な戦いの
シーンに注目してもらいたい、とシルヴァは語っている。 
 とは言うものの、半年を開けずに2作を公開するというこ
とはかなりの冒険(メイジャーでは『バック・トゥ・ザ・フ
ューチャー2、3』以来のこと)のようで、しかも3億ドル
もの費用を掛けていることに不安はあるようだ。しかし、前
作が6500万ドルの製作費で全世界で4億5800万ドルの興行収
入を稼ぎ出したこと、また10万ドル以下の費用で製作したメ
イキングのDVDが2000万ドルの売り上げを記録したことな
どで、今回の成功を信じているそうだ。         
 また、今回のプロモーションのために“The Animatrix”
と題された9本の短編アニメーションが製作されており、そ
の内の4本が2月からインターネット上で公開される他、上
映時間9分の“Flight of the Osiris”という作品は、日
本ではゴールデン・ウィーク公開予定、スティーヴン・キン
グ原作のワーナー作品“Dreamcatcher”の前に、併映として
上映されることになっている。              
 なお、“Reloaded”と“Revolutions”は、全くの1つの
物語として製作されており、全米5月15日、日本では6月7
日に公開される“Reloaded”の最後は、完璧なクリフハンガ
ーとなる。そしてその続きの“Revolutions”の公開は、全
世界一斉、同時刻の封切りを目指すということだ。    
 一般的に日本の映画の封切りは土曜日、アメリカは金曜日
だが、日本のワーナーから発表されている予定では“Revolu
tions”の公開日は11月22日の土曜日となっており、これは
アメリカでは11月21日金曜日となる訳で、この日に全世界一
斉、同時刻の公開となるのだろうか。          
        *         *        
 再び製作ニュースで、別ページでテリー・ギリアム監督の
“The Man Who Killed Don Quixote”が、撮影開始6日間
で製作中止に至るまでを記録したドキュメンタリー“Lost
in La Mancha”を紹介しているが、この作品に主演予定だっ
たジョニー・デップの新作の計画が発表されている。    
 この計画は、以前にこのページの第18回で紹介したスティ
ーヴン・キング原作“Two Past Midnight: Secret Window,
Secret Garden”の映画化で、『スパイダー・マン』などの
デイヴィッド・コープが脚本、監督を手掛けるコロムビア作
品。これにデップの主演が契約されたものだ。      
 なお、前回の記事で、本作をコープの監督デビューと書い
たが、コープは、どちらも日本では劇場未公開の作品で96年
にエリザベス・シュー主演“The Trigger Effect”と、99
年にケヴィン・ベーコン主演“Stir of Echoes”の2作の
監督を手掛けており、本作が3作目になるということだ。   
 そして今回の計画は、以前にも紹介したように、コープが
“The Amazing Spider-Man”の脚本を降板してまで進めて
いるもので、かなり気合いの入った作品になりそうだ。   
 なお物語は、離婚したばかりの作家が、アイデアを盗まれ
たと主張するストーカーに付き纏われるというもの、キング
原作で作家が主人公というと、キャシー・ベイツがオスカー
を受賞した90年の『ミザリー』を思い出すが、さて今回はど
うなるだろうか。                   
 ただし、ここでちょっと心配なのは、この作品の撮影時期
がいつになるかということだ。別ページでも書いたように、
テリー・ギリアムは“The Man Who Killed Don Quixote”
を今年9月に再開する意向で、その時期にデップの身体が空
くと言っているのだが、ひょっとして、その時期のデップの
スケジュールがこれで塞がってしまった可能性もある。   
 実は、別情報ではギリアムがプラハの撮影所で“Brothers
Grimm”という作品の準備に入ったという話もあり、そうな
ると、“The Man Who Killed Don Quixote”の計画は、さ
らに先伸ばしということになるのだろうか。        
 因に、コープはアメリカNBCテレビで、デニス・ホッパ
ーがホストを務める30分の短編ドラマシリーズを製作する計
画も進めており、そのパイロット版をコープ自身が監督する
契約もあるということなので、その辺のスケジュールがやや
こしくなっているようだ。               
        *         *        
 後半は短いニュースをまとめておこう。        
 まずはリメイクの情報からで、65年イタリア製作のSF映
画“La Decima Vittima”(華麗なる殺人)のリメイクに、
ブレンダン・フレイザーの主演が発表されている。オリジナ
ルは、殺人が公認されたゲームとして行われている未来社会
を舞台にしたロバート・シェクリーの原作を、マルチェロ・
マスロトヤンニとウルスラ・アンドレスの主演で映画化した
もので、お互いが賞金が懸かる10番目の標的となった男女の
挑戦者を巡る物語。オリジナルでは、マストロヤンニのイタ
リア男の雰囲気が良かったが、フレイザーではどうなるか。
監督はドミニク・セナ。                
        *         *        
 もう1本、オリジナルは73年の製作で2本の続編やテレビ
シリーズ化もされた“Walking Tall”(ウォーキング・トー
ル)のリメイクが、ザ・ロックことドウェイン・ジョンスン
の主演で計画されている。オリジナルは、ジョー・ドン・ベ
イカーの主演で、リンチを行おうとする群集にただ一人で立
ち向かったシェリフを主人公にしたかなり硬派な物語。ジョ
ンスンの演技力が試されることになりそうだ。監督はデイヴ
ィッド・クラス。                
        *         *        
 以前から紹介しているトライベカ、ミラマックス製作、オ
ーエン・コルファー原作“Artemis Fowl”の映画化でようや
く監督が決定、製作準備が正式にスタートするようだ。今回
監督に決まったのは、01年公開の『キャッツ&ドッグス』を
手掛けたローレンス・グーターマン。前作は、犬と猫が秘密
の地下組織を持って対決しているというものだったが、今度
は最先端兵器で武装化されて組織化された妖精を相手にする
お話となる。グーターマンは、多分VFXにも馴れているだ
ろうし的を得た人選といえそうだが、他にニュー・ラインで
計画中の“Son of the Mask”にも関わっているということ
で、その辺がちょっと気がかりなところだ。       
        *         *        
 最後に、20数年前、僕自身も関わったSF映画『さよなら
ジュピター』のDVDが3月21日に発売されることになり、
付録のメイキングディスク用のオーディオ・コメンタリーに
出演させてもらった。今にして思うと、かなり先走ってしま
った作品だったとも言えるが、メイキングには、当時は若手
スタッフだった02年版『ゴジラ×メカゴジラ』の手塚昌明監
督など意外な顔も見えて、いろいろ感じさせてくれるものに
なっていますので、よろしくお願いします。       


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井口健二