井口健二のOn the Production
筆者についてはこちらをご覧下さい。

2002年05月15日(水) 第15回+ローラーボール、パニックルーム

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
※このページは、キネマ旬報誌で連載中のワールドニュー※
※スを基に、いろいろな情報を追加して掲載しています。※
※キネ旬の記事も併せてお読みください。       ※
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
 まずは訂正というか、その後に情勢が変化した関係の続報
で、第13回の記事で紹介した『ブレイド2』ギレルモ・デル
=トロ監督の次回作が、“At the Mountains of Madness”
ではなく“Hellboy”になるようだ。
 “Hellboy”は、最近のアメリカンコミックスをリードす
るダークホース・コミックスが発行する同名の作品を原作に
するもので、実は『ブレイド2』の撮影に当ってもこの作品
のイメージを参考にしたと言うほどデル=トロ監督が惚れ込
んだ作品。そしてこの映画化については、前回の記事でも紹
介したように、ユニヴァーサルで準備が進められていたもの
だったが、最近になって会社側の希望だった『ワイルド・ス
ピード』ヴィン・ディーゼルの主演が叶わないことになり、
計画の白紙撤回が発表されていた。
 ところが『ブレイド2』が、公開第1週の興行収入で3300
万ドルという大ヒットを記録したことから、各社が一斉に計
画の買い取りに動き出し、その中からリヴォルーション・ス
タディオが、デル=トロとの間で製作資金提供の契約を結ん
だということだ。因に“Hellboy”の製作は、デル=トロと
ローレンス・ゴードン、それにダークホース・コミックスの
マイク・リチャードスンが務めているということで、元々ユ
ニヴァーサルが中心の計画ではなかったようだ。
 物語は、オカルトに取り憑かれたナチスが地獄の呪縛を開
放することによって生み出した究極の人間兵器ヘルボーイ。
しかし実戦には使われなかったこのヘルボーイの生き残りの
主人公が、今は善行のために力を活用し、政府の超自然現象
の研究開発部門に所属して、狼男や吸血鬼と闘いを繰り広げ
るというものだそうだ。
 そしてこの褐色の肌を持ち、左腕は金属性で、悪魔のよう
な風貌というヘルボーイの主人公を、ディーゼルに替ってロ
ン・パールマンが演じるという情報が流れている。パールマ
ンは『ブレイド2』ではヴァンパイア側の警備隊長ラインハ
ルトを演じていたが、デル=トロ監督とは『クロノス』以来
のつき合いという、言わばデル=トロ組の俳優。ちょっと個
性的な顔つきのベテランで、アメリカでは今秋公開の“Star
Trek: Nemesis”にも敵ロミュラン人の役で出演している。
 なお第13回の記事は、『ブレイド2』の大ヒットの直後に
ドリームワークスがいち早く動き“At the Mountains…”の
計画を打ち出したものだったが、その後にリヴォルーション
・スタディオとの契約がまとまり、デル=トロとしては自ら
の企画である“Hellboy”を先行させることにしたようだ。
また“Hellboy”の計画では、ユニヴァーサルで進められて
いた当時にはいろいろな脚本家による原案が挙がっていたよ
うだが、今回の発表ではデル=トロが自分で脚本を執筆する
ということで、この辺は“At the Mountains…”と同様の計
画になっている。
 それから第13回の記事で紹介した『童夢』の映画化はその
後挫折したようだ。また、デル=トロ監督に対するオファー
では、前回紹介した作品以外にも、ジェーム・キャメロンの
製作で“Coffin”というホラー映画の計画もあるようだ。 
        *          *
 “Hellboy”に続いては“Helldorado”という、ちょっと
似た題名の計画が、ユニヴァーサルで進められている。
 この作品は、昨年『ハムナプトラ2』でスクリーンデビュ
ーし、新作のスピンオフ作品“The Scorpion King”(スコ
ーピオン・キング)も大ヒット中のプロレスラーThe Rockこ
とドウェイン・ジョンスンの主演が発表されているもので、
アマゾン川を舞台にした現代アクション。賞金の懸かったお
尋ね者を追ってアマゾン奥地にやってきた賞金稼ぎの主人公
が何者かに捕えられ、そこで実は追っていた男が本当の悪人
ではないことが判り、今度は彼とチームを組んでアマゾン脱
出を図るというもの。その間には貴金属の眠る鉱脈を発見し
たり、という冒険映画のようだ。
 そしてこの計画は、元々はR・J・スチュワートのオリジ
ナル脚本でソニーで進められていたものが頓挫。この権利を
ユニヴァーサルが買い取ってジョンスンを主演に据えた作品
として進めているもので、新たにジョン・トラヴォルタ、サ
ミュエル・L・ジャクスン共演、ジョン・マクティアナン監
督の新作“Basic”を手掛けたジェームズ・ヴァンダービル
トをリライターに契約して、『リーサル・ウェポン』のよう
な男2人組の映画(buddy pic)に仕上げているそうだ。  
 なお監督には、テレビ出身で98年にキャメロン・ディアス
主演の『ベリー・バッド・ウェディング』を監督したピータ
ー・バーグが予定され、9月の撮影開始に向けて、2人組の
相手役の男優と、彼らに絡む女優の選考が進められていると
いうことだ。
 ところでジョンスンは、元々は大学フットボールの花形か
らプロレスに転じたということだが、先にテレビの人気番組
『サタディナイト・ライヴ』のホスト役を務めて注目され、
『ハムナプトラ2』の出演で一気に人気が上がったもの。本
人はコメディが好きだと語っていて、今回の作品にはその方
面の期待もあるようだ。そして今回の計画では出演料も1000
万ドルの大台に乗せるということだが、そんな彼には当然ア
クションスターとしてアーノルド・シュワルツェネッガーの
後継者という期待も高まっている。
 そこで“The Scorpion King”のプレミアには、シュワル
ツェネッガーも出席したという情報もあるようだが、ジョン
スンには、そのシュワルツェネッガーの出世作“Conan the
Barbarian”のリメイクへのオファーも噂されている。さら
に第14回で紹介した『ハムナプトラ』の製作チームが進めて
いる「火星」シリーズ“John Carter of Mars”にも主演の
噂があるようだ。しかし彼自身にはプロレスラーのパフォー
マンスにも多くのファンがおり、その合間の映画出演に限ら
れるということで、いろいろ難しい問題があるようだ。
        *         *
 Hell(地獄)の話題はこれくらいにして、お次は『モンス
ターズ・インク』が大ヒットしたCGIアニメーションのピ
クサーから今後の製作計画が発表されているので、その作品
を紹介しておこう。
 ディズニーに配給委託しているピクサーでは、03年以降、
3年連続で新作を発表する計画で、その1本目は03年夏の公
開が決定されている“Finding Nemo”。
 この作品は、『バグズ・ライフ』の共同脚本家で共同監督
でもあるアンドリュー・スタントンが手掛けている作品で、
オーストラリアのグレイトバリアリーフを舞台に、離れ離れ
になった魚の父子が繰り広げる冒険物語だそうだ。そしてこ
の作品には、アルバート・フィニー、エレン・デジニレス、
ウィレム・デフォー、ジョフリー・ラッシュ、オレアンダー
・グールドらの声の出演が発表されている。
 続いて、04年クリスマスに公開が予定されている作品が、
“The Incredibles”。この作品は、スーパーヒーローの一
家が、普通の生活をしようと試みるアクション・アドヴェン
チャー・コメディだそうで、監督は、『アイアン・ジャイア
ント』のブラッド・バード。
 そして05年の公開予定で、ピクサーの創設者ジョン・ラセ
ターが『トイ・ストーリー2』以来の監督を務める“Cars”
という作品が計画されている。この作品は、アメリカの中西
部のシカゴからロサンゼルスを結ぶルート66号線を舞台に、
自動車たちの冒険旅行を描いたものということだ。
 今までピクサーの作品は、2年に1作というペースだった
が、毎年1作とはいよいよ軌道に乗ってきたということだろ
うか。
        *         *
 ついでにもう少しCGIアニメーションの情報で、第6回
で題名だけ紹介したユニヴァーサルで計画されている99年に
発表されたジョン・ニックル原作“Ant Bully”のCGIア
ニメーション化で、先のアカデミー賞で新設された長編アニ
メーション賞の初の候補の1本に選ばれたパラマウント製作
の“Jimmy Neutron: Boy Genius”で脚本監督を担当したジ
ョン・A・デイヴィスの起用が発表された。
 この作品は、ユニヴァーサルとトム・ハンクスが主宰する
プレイトーンの共同製作で進められているもので、お話は、
水鉄砲を持ったまま昆虫の大きさに縮小されてしまった少年
が、蟻たちの社会での厳しい労働に耐え、敵との闘いに大活
躍をしながら元の大きさに戻るまでの冒険を描いたもの。こ
の作品を、前作と同じくスティーヴ・オーデカークとの共同
脚本で映画化することになるようだ。
 この他、プレイトーン社の計画では、クリス・ヴァン=オ
ールズバーグ原作の“Polar Express” と、モーリス・セン
ダク原作の“Where the Wild Things Are”の映画化も進行
している。
 このうち前者はトム・ハンクスの主演で、CGIアニメー
ションと実写の合成が計画されているもので、この計画には
ハンクスと『キャスト・アウェイ』で組み、88年の『ロジャ
ー・ラビット』で同様の作品の経験のあるロバート・ゼメキ
スの監督が発表されている。脚本は『キャスト・アウェイ』
のウィリアム・ボイル。
 また後者はオールCGIアニメーションでの製作が計画さ
れているもので、この監督に、95年のディズニー作品『ポカ
ホンタス』を共同で手掛けたエリック・ゴールドバーグと、
脚本には00年の『ラマになった王様』のデイヴィッド・レイ
ノルズの起用が発表されている。
 なお、第6回の記事では、“Curious George”の映画化が
先行されると報告したが、この作品はユニヴァーサルが独自
に進めているもの。これに対して、今回紹介した3作はプレ
イトーン社側の企画ということで、直接関係はないようだ。
ただしこれらの作品のCGIアニメーションの製作は、いず
れもILMが担当することになっている。
        *         *
 続いては、第4回で紹介した『ジュマンジ』の続編“Juma
nji 2”について新しい動きができたようだ。
 前回の記事では、脚本家のドン・ライマーが手掛けた脚本
と、原作者のクリス・ヴァン=オールズバーグが新たに執筆
した続編が登場したことを報告したが、今回の発表では、こ
の続編の監督に、99年に『ビッグ・ダディー』の大ヒットを
生み出したデニス・デュガンが契約したということだ。
 デュガン監督は、ここ4作ほどはソニー傘下のコロムビア
でプログラム・ピクチャーを作り続けていて、その内の『ビ
ッグ・ダディー』が大ヒットを記録したということだが。今
回の契約では、自身のストーリーアイデアで“Jumanji 2”
を描き出すというもの。実は彼自身、“Jumanji 2”を巡る
動きは横目で見ていたようだが、最近になって良いアイデア
を思いつき、これを提出したところ幹部たちに気に入られ、
このアイデアを活かすために、先にCGIアニメーションの
“Ice Age”をヒットさせた脚本家のピーター・アッカーマ
ンや、元ユナイトで脚本部門のトップを務めたリゼイ・ドラ
ンらを起用して脚本化を行うことになったものだ。
 なおデュガンのアイデアでは、彼自身が前作で感じた驚き
や感動をそのまま踏襲した作品にしたいということで、前作
よりも進んだf/xを駆使して、前作よりもコメディの要素
を増やした作品にするということだが、その前提が前作に主
演したロビン・ウィリアムスを再び主演に起用するというこ
とで、ウィリアムスが再び出演してくれるか否かに勝負が懸
かっているようだ。しかしデュガンは、「絶対にロビンの興
味を引く作品になる」ということで、コロムビア側も彼の意
見に賛同して今回の契約を結んだ訳で、それなりの賞賛は有
りということなのだろう。
 一方、ヴァン=オールズバーグが執筆した“Zathura”に
ついては、前回紹介したようにエリック・フォーゲルによる
脚本化が進められており、デュガンの“Jumanji 2”が成功
すれば、さらに“Jumanji 3”として進められることになる
ということだ。なお、映画の製作者にはヴァン=オールズバ
ーグ自身も名を連ねている。
        *         *
 後半は短いニュースをまとめておこう。
 まずは、新作“K-19: The Widowmaker”がアメリカでは
7月に公開されるハリスン・フォードの情報で、新作の計画
が2本発表されている。 
 その1本目は、『さよならゲーム』や『ティン・カップ』
などのロン・シェルトンの脚本、監督によるもので、題名は
未定だが、内容は、ハリウッドのミュージックビジネスの裏
側で起こった事件を追う2人の警官を主人 公にした物語と
いうことで、相手役にはジョッシュ・ハートネットが期待さ
れている。またこの作品では、シェルトンがスポーツ分野以
外でどんな手腕を見せるかにも期待が集まっているようだ。
製作会社はリヴォルーション・スタディオ。秋からの撮影で、
03年の公開が予定されている。 
 もう1本は、ローレンス・ブロック原作で、76年からすで
に15巻が発行されているマシュー・スカダーシリーズの第12
巻“A Walk Among the Tombstone”(獣たちの墓)を映画
化するもの。原作では、元警官で今はアル中の私立探偵とい
う主人公が、麻薬組織の大物の妻の誘拐事件に関わって行く
という内容だそうだ。製作会社はユニヴァーサル。ただしこ
ちらは監督が未定で、製作開始はシェルトン作品の後になる。
また脚色は、スコット・フランクが担当しているが、フォー
ドは出演の条件として、『トラフィック』でオスカーを受賞
したスティーヴン・ギャグハンの参加を求めているそうだ。
 最後はちょっと残念な情報で、10月からの撮影が予定され
ているユニヴァーサル製作、『ワイルド・スピード』の続編
“The Fast and the Furious 2”で、期待されていたヴィ
ン・ディーゼルの出演がキャンセルになった。この続編は、
前作と同じロブ・コーエンの監督で進められており、コーエ
ンとディーゼルはリヴォルーション・スタディオ製作“XXX”
でも協力しているので、それに続けての主演が期待されてい
たものだったが、先に『ピッチ・ブラック』の続編“The Ch
ronicles of Riddick”が決まるなどで、スケジュールの調
整ができなくなったというのが公式の理由のようだ。
 なお、ディーゼルが抜けた後の続編は、ポール・ウォーカ
ー扮する捜査官ブライアン・オコーナーを中心に物語が再構
築されるということで、今回の舞台はマイアミのストリート
レーシングになるようだ。


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを公開に合わせて紹介します。※
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
<5月11日封切り>                  
『ローラーボール』“Rollerball”           
75年にノーマン・ジュイスンの監督で作られたウィリアム・
ハリスン原作の未来SF映画を、ジョン・マクティアナンの
監督でリメイクした作品。               
オリジナルは社会派監督による、ある意味デストピアを描い
た作品だったが、今回はローラーボールの試合そのものを中
心に据えたアクション映画になっている。このため映画の上
映時間も2時間2分から1時間37分と短くなっている。  
ここでSFファンとしては、未来ドラマからアクション映画
になってしまったリメイクには当然反対したいところだが、
実はマクティアナンの隠れファンである僕としては、結構楽
しんでしまった。                   
中でも、試合がワールドツアーということで、カザフスタン
からアゼルバイジャン、モンゴルと転戦して行く場面で、そ
れぞれの国の言葉が飛び交う辺りは、『レッド・オクトーバ
ーを追え!』や『13ウォリアーズ』で言葉フェチぶりを見せ
てくれた監督の面目躍如という感じで嬉しくなった。   
また、試合の途中で、ロックの音楽に合わせてプレーヤーが
1列になって滑るシーンは、実はゲームの元になっているロ
ーラーダービーのプレーぶりを髣髴とさせて、これも、監督
は判っているな、という感じを抱かせてくれたものだ。  
オリジナルの映画では、大型スクリーンでマルチ画面のテレ
ビ中継が未来のテレビの在り方を予言して注目されたが、す
でにそれが実現してしまった今回は、逆にシンプルなテレビ
画面でありながら、その裏でいろいろな手が加えられている
といった辺りで、テレビの現実が程よく描かれている。ゲー
ム以外にも、ど派手なアクションシーンがあったりして、気
軽に楽しむ分にはこんなもので良いのではないかという感じ
もした。                       
                           
<5月18日封切り>                  
『パニック・ルーム』“Panic Room”          
『セブン』『ファイト・クラブ』のデイヴィッド・フィンチ
ャー監督とジョディ・フォスターが組んだサスペンス作品。
マンハッタンに所在する古い邸宅。その邸宅には暴徒から家
人を守る退避室“パニック・ルーム”がしつらえられ、そこ
には、瞬時に開閉する重厚な扉や、邸内を監視するヴィデオ
システムが備えられていた。              
夫の浮気が原因で離婚した主人公は、その邸宅にティーンエ
イジャーの娘と引っ越してくる。ところがその当夜、3人の
男が邸宅に侵入してくる。男たちは邸宅を空き家だと思い込
み、前の持ち主が隠した遺産を盗みに来たのだったが…。気
付いた母子はパニックルームに退避。しかし、そこに備えら
れていた非常電話はまだ回線が接続されておらず、しかも娘
には定期的な注射を必要とする持病があった。      
フィンチャーの上に書いた2作は、かなり過激な描写が売り
だったが、オスカー女優を迎えた今回はそのような描写は多
少影を潜め、どちらかというとマイルドな仕上がりになって
いる。従ってフィンチャーのその手の描写を期待する向きに
は物足りないかも知れないが、僕は、正直に言ってその手の
描写には食傷気味だったので、かえって心地よく見られた。
試写会では、『ホームアローン』かという声も聞かれたが、
僕は『暗くなるまで待って』の方を思い出していた。女性の
強さが中心に描かれるし、上に書いたように過激な描写も少
ないので、特に女性の観客に見てもらいたい作品と言える。
巻頭のタイトルの出し方から、その後に続くCGIを駆使し
た連続撮影など、MTV出身のフィンチャーの映像感覚と遊
び心も存分に楽しめる作品になっていた。




2002年05月01日(水) 第14回+スパイダーマン

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
※このページは、キネマ旬報誌で連載中のワールドニュー※
※スを基に、いろいろな情報を追加して掲載しています。※
※キネ旬の記事も併せてお読みください。       ※
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
 まずは、僕としては待望だったこの情報から。     
 第9回のトム・クルーズの話題でもタイトルだけ紹介した
エドガー・ライス・バローズ原作「火星」シリーズの映画化
がついに発表された。                 
 この原作は、『ターザン』の原作者として知られるバロー
ズが12年に発表したデビュー作“A Princess of Mars”
(邦訳題・火星のプリンセス)に始まる長編10巻及び短編集
1巻からなる全11巻のシリーズで、特に最初の3巻(“The
Gods of Mars”(火星の女神イサス)、“The Warlord of
Mars”(火星の大元帥カーター)を含む)は、ファンタシー
冒険小説の原点として高く評価されている。          
 物語は、南北戦争に参戦した南軍の大尉ジョン・カーター
を主人公にしたもの。因に、『ER』でノア・ワイリーが演
じる医師の名前がこれに由来することは間違いない。   
 このカーターが、北軍に追われて身を潜めたアリゾナの洞
窟から、不思議な力によって火星に飛ばされる。そこは、当
時の地球を超える科学力を持ちながら、6本腕の緑の巨人の
支配する国や、地球人とそっくりの人種の国などが群雄割拠
する世界だった。この世界でカーターは、美しいプリンセス
と巡り合い、持前の精神力と地球より少ない重力の恩恵を駆
使して、火星全土を平和へと導いて行くというものだ。  
 とまあ、見事に願望充足型の夢物語が綴られたシリーズだ
が、明解な物語と、その一方で、火星の科学力や生物の姿な
どにいろいろなアイデアが盛り込まれて、現実逃避の文学と
しては最高の部類に入る作品と言えるだろう。      
 そしてこのシリーズの映画化については、ディズニーが長
年計画を進めていた。というのもディズニーでは、何と長編
アニメーションの第1作『白雪姫』を公開する前年の36年に
は、後にワーナー・カートゥーンで活躍するボブ・クランペ
ットをアニメーターに起用して「火星」シリーズの長編アニ
メーション化を計画していたということだ。結局、この計画
は実現しなかった訳だが、50年代から放送されたテレビシリ
ーズ“Disneyland”の中の“Mars and Beyond”というエ
ピソードでは、この「火星」シリーズを取り上げ、アニメー
ションで登場キャラクターを紹介するなどしていた。    
 さらに99年には、50年に死去したバローズの没後50年で著
作権が切れる直前に、バローズ原作の『ターザン』を劇場ア
ニメーションで製作するなど、遺族とのつながりを尊重し、
遺族を含めた映画化の計画を進めていたのだ。その中では、
『T2』などのマリオ・カサールとアンディ・ヴァイナが一
時期設立したシェナジーとの共同で、『アラジン』のテリー
・ロッソとテッド・エリオットの脚本、ジョン・マクティア
ナン監督、トム・クルーズ主演という計画もあったのだが、
これも実現はしなかった。               
 そして今回、ついにこの計画が実現に向けて動き出したも
のだが、実は計画を発表したのはディズニーではなくて、パ
ラマウントだった。パラマウントでは、傘下のジム・ジャッ
クスとショーン・ダニエルスが主宰するアルファヴィル・プ
ロダクションに対して、同社が提出した映画化の計画にGoサ
インを出したものだ。因にこのプロダクションは、先にユニ
ヴァーサルの大ヒット作『ハムナプトラ』も手掛けており、
その勢いを買っての今回のGoサインになったようだ。   
 なお、製作を担当するジャックスは、「少なくとも最初の
3部作は、『ロード・オブ・ザ・リング』や『スター・ウォ
ーズ』に匹敵する作品になる。これらはCGI技術が発達し
た今日になって初めて映画化が可能になったものだ。」と抱
負を語っている。                   
 また、上述の経緯を踏まえて、最終的に北米地区と、フラ
ンス、ドイツを含むいくつかの地域では、ディズニーが配給
を担当することになるかもしれないということだ。    
        *         *        
 お次は、傘下のディメンションが製作公開した『スパイ・
キッズ』の大ヒットに沸くミラマックスから、一気にファミ
リー路線を構築しようという製作計画が発表された。   
 元々ミラマックスはインディーズの映画会社として発足し
たものだが、数年前にディズニーの傘下に入り、その後はち
ょっと大人向けのアート系に近い作品を手掛けていた。しか
しインディーズ時代に培ったジャンル映画の実績を活かすべ
く、さらに傘下にディメンションを設立。ティーズホラーで
実績を上げる中から、今回のロベルト・ロドリゲス+アント
ニオ・バンデラス=『スパイ・キッズ』の大ヒットが誕生し
たものだ。                      
 ということで、グループの最上位にはファミリー映画の老
舗ディズニーがある訳だが、今回の動きについてディズニー
側は、「手掛ける映画の範囲を広げる意味で重要」と位置づ
けており、ディズニー・ブランドでは実現出来ない、多様な
ファミリーピクチャーの製作を望んでいるそうだ。    
 そしてミラマックスでは、今回の計画全体を「the Teddy
Projects」と命名して、8本の製作計画を発表している。 
 その作品を紹介すると:               
“The Firework-Maker's Daughter”は、第10回で紹介し
た“His Dark Material”の原作者フィリップ・プルマンの
同名の作品を映画化するもので、花火師を父親に持つ少女が、
男寡婦で仕事一途の父の技を継ごうと必死になる姿を描いた
コミックアドヴェンチャー(!)だそうだ。なおこの計画は、
“His Dark Material”の当初の計画にも関わっていたアン
ソニー・ミンゲラの製作で進められている。       
“Ella Enchanted”は、アメリカの優れた児童文学に与え
られるニューべリー賞で、98年に銀メダルを受賞したゲイル・
カースン・レヴィンの同名の原作を映画化するもの。『シン
デレラ』を下敷きにしたファンタシーということで、映画化
の主演には『プリティ・プリンセス』のアン・ハサウェイが
発表されている。脚色は、『キューティ・ブロンド』のケレ
ン・ルッツとキルスティン・スミスが担当。       
“Slugger”は、CBSの人気番組“King of Queens”に主
演しているケヴィン・ジェームズの主演が発表されている作
品で、10歳の少年が、野球を通じて父親の死を乗り越えて行
く姿を描いた物語。これにベイブ・ルースの幽霊が絡むとい
うお話だそうだ。『ゴースト/ニューヨークの幻』の女優の
デミ・モーアが製作を担当している。          
“Pinocchio”は、言わずと知れたカルロ・コロディの古典
を、『ライフ・イズ・ビューティフル』のロベルト・ベニー
ニの脚色、監督、主演で映画化したもの。なおこの映画の宣
伝では、本来はディズニーと提携しているハンバーガーチェ
ーンのマクドナルドが、ミラマックスと直接契約してワール
ドワイドのキャペーンを展開するそうだ。        
“Artemis Fowl”は、オーエン・コルファーの原作を映画化
するもので、製作はロバート・デ=ニーロが主宰するトライ
ベカ・フィルムスが担当する。原作は、僕も最近読み終えた
ところだが、代々泥棒の家系の少年が、祖先が残した財力と
インターネットを駆使した自分の知力で、地中深くに存在す
る妖精の世界に戦いを挑むというもの。ちょっと御都合主義
なところもあるが、近代化された妖精世界(科学力は人間よ
り進んでいる)の様子や、クライマックスの活劇などは子供
が喜びそうな展開の物語だった。10月製作開始予定。なお、
原作の続編を、関連のトーク・ミラマックス社が出版するこ
とになっているそうだ。                
“The Magic Brush”は、中国の伝説に基づくアニメーショ
ン作品で、孤児の少年が画家として大成するまでを描いたも
の。デイヴィッド・ヘンリー・ホンの脚色で、ジェームズ・
チョウが監督する。アニメーション製作は、最近の香港映画
のVFXで実績を上げているセントロ・ディジタル・ピクチ
ャーズが担当し、製作者にはチョウと共に、『シュレック』
の総指揮を手掛けたペニー・コックスとサンディ・ロビンス
が名を連ねている。                  
“A Cricket in Times Square”は、第6回で少し紹介した
が、ジョージ・セルデン原作の全6巻の児童文学を映画化す
るもので、ニューヨークの地下鉄を住処にする昆虫たちと人
間との関わりを描いた物語。前の紹介ではオールCGIのア
ニメーションということだったが、今回の発表では実写との
合成という計画に戻っているようだ。          
“Neverland”は、『ピーター・パン』の原作者ジェームズ
・バリーを主人公にした作品で、19世紀末のロンドンを舞台
に、母子家庭の4人の少年と彼らの母親との交流を通じて、
バリーが如何にして『ピーター・パン』の舞台劇を完成させ
たかが綴られているということだ。デイヴィッド・マギーの
脚色、『チョコレート』のマーク・フォスターの監督、『シ
ョコラ』のジョニー・デップの主演で今年後半の製作開始が
予定されている。                   
 というのが今回「the Teddy Projects」として発表された
計画だが、内の何本かはすでに計画が発表されていたり進行
しているもので、無理矢理でっち上げたという感じはなく、
これらの作品は多分1、2年以内に見ることができそうだ。
それにしても“Pinocchio”や“Neverland”はディズニー
とも関連の深い作品で、その辺の関係も気になるところだ。 
        *         *        
 続いては、キャスティングの情報をまとめて紹介しておこ
う。                         
 まずは前回紹介した“The Italian Job”のリメイクで、
主演にマーク・ウォルバーグの契約が発表された。    
 オリジナルは前回も紹介したように小型車ミニクーパーの
機動性を駆使して金塊奪取を成功させるものだが、実はミニ
クーパーの製造会社は現在はBMWに買収されており、その
BMWでは03年を目指してニューモデルの投入を計画中。そ
こで今回のリメイクは、その戦略にもマッチしているという
ことで、これはかなり面白くなりそうだ。        
 なお、リメイクの物語はイタリアで開幕するが、その後は
舞台をロサンゼルスに移して、金塊の奪取後には、ロサンゼ
ルス市内に史上最悪の交通渋滞を引き起こし、その中を歩道
や地下鉄路線を縦横に走り回ってミニクーパーで逃走するも
のになるということだ。脚本はドナ&ウェイン・パワーズ。
製作はパラマウントで、撮影開始は8月3日の予定。   
 因にウォルバーグは、現在、ジョナサン・デミ監督で、サ
ンディ・ニュートン共演の『シャレード』のリメイク“The
Truth About Charlie”に出演中だが、Daily Variety紙の
記事によると、“The Italian Job”は彼がヨーロッパで主
演する2本目(!)の大型リメイク作品だそうだ。      
 お次は来年の5月と11月に連続して公開が予定されている
『マトリックス』の2本の続編“The Matrix Reloaded”と
“The Matrix Revolutions”の製作で、“Reloaded”に出
演していながら“Revolutions”の撮影前に事故死したアー
リアの代役に、『アリ』の2度目の妻役で注目されたノナ・
ゲイの出演が発表された。                
 ノナは60、70年代に活躍した作曲家・歌手のマーヴィン・
ゲイの娘で、本人も歌手として活躍しているが、『アリ』で
スクリーンデビューを飾ったもの。“The Matrix”での役柄
はズィーという名前で、“Reloaded”では顔見せ程度だが、
“Revolutions”から本格的に登場するということだ。なお
“Reloaded”についても、アリーアは全部のシーンを撮影し
ていた訳ではなかったようで、従って今回、ノナによって全
シーンが撮影されることになるようだ。撮影は4月中旬にシ
ドニーで開始されている。               
 もう1本は、アメリカでは今年の秋に公開予定の劇場版シ
リーズ第10作“Star Trek: Nemesis”で、『ダブル・ジョ
パディー』などのアシュレー・ジャドがゲスト出演するとい
う情報が流れてきた。実はジャドは、『新スター・トレック』
のテレビシリーズでは第5シーズンの始まりの部分で放送さ
れた、“Darmok”(謎のタマリアン星人)と、“The Game”
(エイリアン・ゲーム)のエピソードにロビン少尉という役
名で2度出演しており、この出演が彼女自身のブレイクの切
っ掛けになったとも言われているそうだ。        
 そして“The Game”のエピソードでは、ウィル・ウェザー
トン扮するウェズリー・クラッシャーとの関係がかなり親密
に描かれていた。ということで、今回のゲスト出演の役名は
ロビン・クラッシャー、つまりクラッシャーがその後に結婚
した妻の役だということだ。しかし一方で、すでに撮影され
たウェザートンの出演シーンがすべてカットされたという情
報もあるようで、一体どうなっているのだろうか。    
 なお、アシュレー・ジャドに関しては、ワーナーから92年
に公開された『バットマン・リターンズ』でミシェル・ファ
イファーが演じたキャットウーマンを主人公にした新シリー
ズに主演するという計画も発表されている。       
        *         *        
 最後は、短いニュースをまとめておこう。       
 まずは、『M:I−2』のジョン・ウー監督が、香港映画
時代の盟友チョウ・ユンファと再び組む計画が発表された。
といっても『男たちの挽歌』をリメイクするのではなくて、
題名は“Men of Destiny”というもの。19世紀のアメリカで
大陸横断鉄道の建設に夢を賭けた男たちの姿を描いた歴史物
語だそうだ。共演者には、ウー監督の『フェイス/オフ』、
それに近作の“Windtalkers”にも主演しているニコラス・
ケイジが発表されている。               
 なおケイジは現在、自身の監督デビュー作“Sonny”を制
作中だが、その後に予定されていたスーパーヒーローものの
“Constantine”と“Ghost Rider”の2作が共に監督の降
板で頓挫。一方、ウー監督作品についても以前からオファー
はあったものの、製作資金が集まらずにペンディングになっ
ていた。しかしここに来て本作品のディズニー配給が決定し、
一気に実現に向けて動き出したようだ。         
 もう一つは、今年のアカデミー賞で助演女優賞を獲得した
ジェニファー・コネリーが、助演男優賞の候補に上がってい
たベン・キングズレーと共演する計画が発表された。作品の
題名は“The House of Sand and Fog”。内容は、元イタリ
ア陸軍の縦隊長でアメリカに移住してきた老人と、彼が競売
で手に入れた屋敷の元の持ち主で屋敷の取り戻しを画策する
アル中気味の女を巡る物語。これをロシア出身で、GMや松
下、ナイキ、マイクロソフトなどのコマーシャル監督、ヴァ
ディム・ペレルマンがデビュー作として撮るものだ。   
 なお原作は、ブッククラブの推薦図書にもなっている小説
だが、ペレルマンはその前から注目して個人で映画化権を獲
得、自ら脚色してコネリーとキングズレーの出演を得、実現
に漕ぎ着けたということだ。製作はドリームワークス。  
                           
                           
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを公開に合わせて紹介します。※
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
<5月11日封切り>                  
『スパイダーマン』“Spider-Man”           
 前回記者会見を報告した作品が、ちょうど2週間遅れて、
ようやく本編の試写が行われた。今回はこの作品について、
ちょっと長めに書かせてもらいたい。          
 まず本編を見た感想はというと、大体予想通りというか、
良い意味で全く期待を裏切られなかった。正直言って僕は、
期待も込めてかなり高いところに予想を置いていたのだが、
その予想が全く裏切られなかったということだ。     
 中でもコミックスで描かれた華麗なスパイダーアクション
を、本当に見事に実写(もちろんVFXではあるけれども)
映像に移し変えているのには感心した。特にこの物語では、
ヒーローは空を飛ぶのではなく、ビルの間を蜘蛛の糸を繰り
出しながらブランコの要領で渡って行く訳だが、そのスピー
ド感が見事に描かれている。              
 基本的なアクションはこれだけなのだが、これを手を変え
品を変え、背景を変え小道具を変え、写し方を変えて全く飽
きさせないのは見事なものだ。まあ原作もこれだけで40年間
やっているのだから、そこにもいろいろなノウハウはあるの
だろうし、映画はそれを見事に映像化しているということか
もしれないが、とにかく満足できる描き方だった。    
 それから生身の若者がスーパーヒーローになって仕舞うこ
との悩みや、真のヒーローに目覚めるまでの過程も、そつな
くそして的確に描かれていて、納得して観ていられた。この
辺が独り善がりになっていないところも素晴らしい。そして
この悩めるヒーローを、『サイダーハウス・ルール』のトビ
ー・マクガイアが見事に演じている。『サイダー…』でも主
人公の若者は自分自身の存在の意味に悩み続けるのだが、そ
のイメージが今回の作品でも見事に活かされている。   
 この他のウィレム・デフォー、キルスティン・ダンスト、
クリフ・ロバートスンらのキャスティングも、決して大げさ
に演じることもなく素晴らしかった。特にデフォーは、敵役
のシーンでも自ら仮面とアーマーを付けて演技しており、ま
た2重人格の演技もさすがという感じがした。      
 またヒロイン役のダンストは、94年の『インタビュー・ウ
イズ・ヴァンパイア』から『ジュマンジ』、『スモール・ソ
ルジャーズ』、それに“The Crow: Salvation”とジャンル
クイーンの座を着実に登ってきている感じだが、94年製作の
『新スター・トレック』の最終シーズンにも12歳でゲスト出
演している彼女の存在感が良い雰囲気を出している。   
 それから『まごころを君に』でオスカーを受賞したロバー
トスンに、人が変って行くことについて語られては…。有名
な‘With great power comes great responsibility’の
台詞も決まっていた。                  
 普通の演技の中から一気にスーパーアクションに切り替わ
って行く、そのギャップみたいなものが、特にこの原作の映
画化には最適の構成だったと言える。この映画の成功は、そ
の構成を編み出した脚本デイヴィッド・コープと、監督サム
・ライミの勝利ともいえるだろう。           
 それからエンディングには、最近の映画らしくラップやハ
ードロックの音楽が添えられているのだが、最後の最後、一
般公開ならほとんどの観客は席を立った後ぐらいに、ファン
には堪らないプレゼントがある。アメリカでは当然大喝采に
なるところだろうし、僕も思わず拍手をしてしまった。最後
まで絶対に席を立たないように。            


 < 過去  INDEX  未来 >


井口健二