井口健二のOn the Production
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2002年06月16日(日) クライム&ダイヤモンド+トータル・フィアーズ+ファイティングラブ

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※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介します。       ※
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『クライム&ダイヤモンド』“Who is Cletis Tout ?”  
この邦題で、試写状の紹介文が「ホテルの一室…。突きつけ
られた銃。語り始めた男。」というのでは、これはてっきり
カナダ版のフィルムノアールかと思いきや…。      
銃を突きつけているのが『ギャラクシー・クェスト』のティ
ム・アレンで、役柄は悪徳刑事なのだが、これが無類の映画
ファン。そしてクリスチャン・スレーター扮する詐欺師の男
が語る物語を、全て往年の映画の台詞に準えて行くという脚
本が、まずは映画ファンの心をくすぐってくれる。    
といっても、これが全て映画のタイトルと製作年度を言って
くれるので、あまり映画に詳しくない人でも大丈夫というの
が、この映画の親切なところだ。            
本筋の物語は、スレーター扮する詐欺師は服役中に知り合っ
たマジシャンの宝石泥棒の脱獄を手助けし、行きがかりで一
緒に脱獄してしまうのだが、逃亡のために名前を借りた死人
の男が、実は組織に狙われていたために、まだ生きていると
思い込んだ組織から命を狙われることになる。      
果たして主人公はマジシャンが隠したダイヤモンドを取り戻
し、組織の手から逃れ、さらにマジシャンの娘の愛を得るこ
とができるのか…というもので、これがマジシャンの盗みの
手口といい、落ちの付け方といい、結構しっかりしている。
つまりドラマもパロディも、どちらを取っても面白い作品な
のだ。映画ファンなら、題名は気にせずにぜひ見てもらいた
い。でも、実は泥棒マジシャン役がリチャード・ドレイファ
スなのだが、マスコミ試写の会場で、若い女性が「誰それ」
といっている声が聞こえたりして、映画を売り込むのもなか
なか大変な時代になっているようだ。          
なお巻頭で往年の映画について語るシーンがあり、その後に
時間が戻る形式は、昨年公開の『ソードフィッシュ』とそっ
くりだが、実は本編は00年製作のカナダ映画で、01年秋のト
ロント映画祭でも上映されている。つまりぱくりではないと
いうことだ。                     
                           
『トータル・フィアーズ』“The Sum of All Fears”   
トム・クランシー原作の『恐怖の総和』を原作者自らの製作
総指揮で映画化した架空事件アクション。        
ロシアの大統領が急死。それまで名前の挙がっていなかった
男が新大統領に就任する。アメリカ政府は謎の男の登場に混
乱を隠せない。そしてその直後にチェチェンに対する化学兵
器攻撃が行われる。その命令を下したのは誰か? 早くから
その男に注目し、分析していたCIAの情報分析官ジャック
・ライアンは、彼が命令を出すことはないと信じるが…。 
次いで、アメリカ大統領を迎えたスーパーボウルの会場が核
攻撃され、辛くも難を逃れた米大統領は、ロシアへの総攻撃
の命令を下してしまう。しかしその裏には、米露を直接対決
させ、その隙に勢力を拡大しようとするファシストの陰謀が
あった。                       
ジャック・ライアンシリーズの映画化は、アレック・ボール
ドウィン主演の『レッド・オクトーバーを追え!』、ハリス
ン・フォード主演の『パトリオット・ゲーム』『今そこにあ
る危機』に続いて4作目になるが、本作からライアン役はベ
ン・アフレックになり、一気に若返った。そして物語の展開
でも、まだライアンは駆け出しの分析官という設定で、シリ
ーズそのものが一から出直しという雰囲気になっている。 
物語は、ちょっとしたボタンの掛け違いから生じた恐怖の総
和が、最悪のシナリオへ進んで行く過程が、クランシーお得
意のハイテクを絡めた展開で見事に描かれている。原作は米
ソ対決の時代に書かれたはずだが、今でも通用する辺りはさ
すがと言える。                    
それにしても、プロローグのイスラエル戦闘機の墜落から、
ボルチモアの壊滅、露空軍の米空母攻撃まで、迫力に満ちた
映像のつるべ撃ちで、これもさすがに原作者自らが製作総指
揮を執っただけのことはあるという感じがした。     
アメリカではテロ攻撃を描いているということで、一旦は公
開が躊躇されたが、蓋を開けて見れば、興行成績2週連続の
トップという記録になっている。さて、8月10日公開の日本
は…?                        
                           
『ファイティングラブ』“同居蜜友”          
ウォン・カーウァイ監督『花様年華』でカンヌ主演男優賞を
獲得したトニー・レオン主演の香港製ラヴ・コメディ。  
レオンはカンヌ受賞後の第1作。日本に紹介されている他の
作品とは違ったコミカルな演技でファンは驚かされるという
ことだが、元々香港映画はアクションとコメディが中心で、
当然レオンにもこのような作品があっても不思議ではない。
ついでに言えば、レオンは、ウッチャンナンチャンの内村に
通じるような風貌だから、コメディをやっていても違和感は
なかった。真面目な演技では風貌も変ってくるのだろうが。 
物語は、繁盛している牛もつ鍋屋の若旦那とキャリアウーマ
ンが主人公。2人は互いの自動車の接触事故で最悪の出会い
をするが、その示談の交渉の席で和解、盛り上がった2人は
そのままホテルで関係を持ってしまう。         
そして女は男を気に入るが、男にはテレビタレントの恋人が
いた。果たして彼女は、彼の真心を獲得することができるの
か…。まあ他愛もないお話だが、展開は結構最後まで捻りが
あって、案外面白かった。               



2002年06月15日(土) 第17回

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※このページは、キネマ旬報誌で連載中のワールドニュー※
※スを基に、いろいろな情報を追加して掲載しています。※
※キネ旬の記事も併せてお読みください。       ※
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 まずはSF小説の映画化の話題で、またまたフィリップ・
K・ディック作品の映画化の情報が伝わってきた。    
 ディック作品の映画化では、第6回の記事で53年9月発表
の“The King of the Elves”の情報をお伝えしているが、
今回の作品も53年の6月に発表されたもので、“Paycheck”
という13,000語の小説の映画化の計画が報道されている。 
 原作の物語の背景は、政府と企業との対立が深まった未来
社会。2年間企業への潜入調査を行っていた政府の諜報機関
のエージェントが、その2年間の記憶を消去されて戻ってく
る。政府機関としては当然、その記憶を取り戻させようとす
るのだが…。そこにタイムトラヴェラーの存在が絡んで物語
が展開するというもの。因に、生前のディックの言葉による
と、「今日は25¢の価値だったコインロッカーの鍵が、次の
日には数千ドルの価値になるような、ちょっとしたことで起
こる価値の変化を、全てを見通すタイムトラヴェラーの存在
を絡めて描いた」ということだ。            
 記憶を消去されたエージェントというと、同じくディック
原作の『トータル・リコール』を思い出させるが、あの映画
の元になった“We Can Remember It For You Wholesale”
の発表は66年4月だから、今回の作品の方が古いことになる。
もっとも今回の作品は、これにタイムトラヴェラーが絡むと
いうのだから、お話はかなり違ったものになりそうだが…。
それでも、同じようなアクション映画になるのかな?   
 なおこの映画化については、元々はタッチストーンとキャ
ラヴァン・ピクチャーズが96年に権利を獲得したものだった
が製作には至らず。その後パラマウントに権利が移り、今回
は同社から発表されたものだ。             
 そして一緒に紹介された製作状況によると、ディーン・ゲ
オルガリスという脚本家による脚色がすでに完成していると
いうことだ。因にこの脚本家は、パラマウントでは、リチャ
ード・ドナー監督、メル・ギブスン主演の『リーサル・ウェ
ポン』コンビによる“Sam and George”という作品が進んで
いる他、ヤン・デ=ボンが監督するという情報もある“Lara
Croft: Tomb Raider”の第2作の脚本も担当している。ま
たミラマックスで“Fig Eater”という作品も手掛けている
ということで、ちょっと期待の脚本家のようだ。     
 一方、監督について、パラマウントでは、『ラッシュアワ
ー』とその続編でスマッシュヒットを飛ばし、現在はユニヴ
ァーサルで、10月4日公開予定の『羊たちの沈黙』の前日譚
“Red Dragon”の2度目の映画化を進めているブレット・ラ
トナーに交渉中だということだ。ただしラトナー監督に関し
ては、すでに“Rush Hour 3,4”という情報もあり、この内
“3”の公開は04年を目指すということなので、その間隙を
縫っての監督が可能か否かということになりそうだ。   
        *         *        
 お次はちょっと気になる情報で、ユニヴァーサルと、傘下
で数多くの大作を手掛けているイマジン・エンターテインメ
ントが、男性雑誌のプレイボーイ誌との間で、同誌に掲載さ
れた記事を題材にした映画を製作することについて、包括的
な契約を結んだことが発表された。           
 53年に創刊されたプレイボーイ誌は、日本ではヌードグラ
ビアで有名だが、それ以外にも同誌にはいろいろな事象を扱
った記事や、著名作家の短編小説などが掲載され、その中か
らはすでに61年にポール・ニューマンの主演で映画化された
『ハスラー』や、82年の『ガープの世界』『初体験リッジモ
ンド・ハイ』などの映画化が行われている。また数多くのテ
レビ番組や舞台劇の題材にもなっているそうだ。     
 しかしイマジンを主宰する製作者のブライアン・グレイザ
ーは、「50年近い歴史を持つ同誌には、まだまだ映画の元に
なる数多くのアイデアの金脈が残されている」と考え、1年
以上も前からプレイボーイ誌の創刊者のヒュー・M・ヘフナ
ーと過去の記事の利用に関する交渉を続けていたということ
で、ついにその契約がまとまり、これからそれらの金脈の掘
り起こしに掛かるということだ。            
 00年にラッセル・クロウとメグ・ライアンの共演で映画化
された『プルーフ・オブ・ライフ』は、ヴァニティ・フェア
誌の特集記事を元にした作品ということで話題になったが、
最近のハリウッド映画の動向として、ニューヨーク・タイム
ズやヴァニティ・フェア誌の記事からの映画化という計画が
数多く発表されている。つまり一般的な小説でない記事から
の映画化が増えているということだが、そういった記事の宝
庫ともいえるプレイボーイ誌から、この先どのような映画が
生まれるのか、楽しみに注目していきたい。       
 なおプレイボーイ誌には、SF作家のレイ・ブラッドベリ
や、『ガープの世界』『サイダーハウス・ルール』のジョン
・アーヴィング、映画化された『ラスト・ショー』の原作者
のラリー・マクマトリーらの小説も発表されているが、これ
らの作家が発表した作品についても今回の契約の対象になっ
ているようだ。といっても著作権に基づく映画化権は別に設
定されるはずだから、今回の契約はあくまでもプレイボーイ
誌を利用するという点に関してのものと思われる。    
        *         *        
 続いては、またもや往年のテレビシリーズからの映画化の
話題で、アメリカでは81年の3月から放送された“The Grea
test American Hero”(邦題:アメリカン・ヒーロー)を
映画化する計画がディズニーから発表されている。     
 この作品は、さえない高校の先生が、ふとしたことからエ
イリアンのスーパースーツを手に入れ、FBIの捜査官の協
力の下、スーパーヒーローとして活躍するというものだが、
このスーツが真赤な上に胸には漢字の「中」としか読めない
マークが付いていたり、しかも主人公はスーツの使用法の説
明書を無くして、毎回使い方を試行錯誤しながら話が進むと
いう、コメディ仕立ての作品だ。            
 つまり普通の人間がスーパーヒーローになるという点では
大ヒット中の『スパイダー・マン』と同系列ということ、ま
たオリジナルのテレビシリーズを放送したのが、現在はディ
ズニー傘下のABCだったこともあって、ディズニーが一気
に実現を許可したということのようだが、そうは言ってもオ
リジナルは、主演したウィリアム・カッツの人気もあって、
3月という中途半端な時期のスタートながら、その後3年に
渡って放送されるほどのヒットを記録した作品だ。    
 なお今回の計画は、ポール・ヘルナンデスという脚本家が
中心になって進めているものだが、彼はディズニー社内のラ
イティングプログラムというのに参加2年目という人物で、
すでに“Sky High”という脚本が取り上げられて現在この作
品は監督を選考中だそうだ。その他にも“Instant Karma”
という脚本が、ドリームワークス傘下で『シュレック』を手
掛けたテッド・エリオットとテリー・ロッソの製作者コンビ
に売られているということだ。             
 実はこのライティングプログラムというのが良く判らない
のだが、確か以前にも同様の肩書きを見た記憶がある。最近
のディズニー作品を見ているとエンディング・クレジットに
大量のライターの名前が出てくることがあるが、そういう仕
事をしている人たちなのだろうか。また今回、発表の席に登
場したヘルナンデスは、テレビシリーズの撮影でカッツが着
用したスーツを着込んで意気込みを語ったということだが、
今回の企画に当っては、当時のコスチュームデザイナーとも
交渉してデザインの使用許可を受けているそうだ。    
        *         *        
 ということで、お次は『スパイダー・マン』の大ヒットを
生み出したサム・ライミ監督の情報を紹介しよう。    
 『スパイダー・マン』の第2作の撮影は03年の初めからに
予定されているが、その前にライミと彼の長年のパートナー
の製作者ロブ・ターペットがファンタシー、ホラー、SF専
門のプロダクションを設立。中規模予算でこれらのジャンル
の作品を継続的に製作する計画が発表された。因にこのプロ
ダクションは、ドイツの大手エンターテインメント企業セネ
ターの協力の下に設立されたもので、今後は同社から100%
の出資を受けて映画製作に当り、製作された作品の全世界配
給権をドイツの会社が得るということだ。        
 そしてその第1作の計画が早くも発表されている。この第
1作の題名は“The Boogeyman”、見るからに中規模予算の
ホラーという感じの題名だが、脚本はエリック・クリプケと
いう脚本家が手掛けている。内容は、子供の頃の寝室での恐
怖体験がトラウマになっている若者が、父親の死後に生家に
戻り、自分のトラウマが想像によるものか、実際に恐怖の怪
物がいたのか調べるというもの。            
 何だか『モンスターズ・インク』の続きのような感じもす
るが、ライミは「自分が観客として映画館の座席に着いたと
きに、はらわたを締め上げられるような恐怖を体験できる映
画を目指したい」としている。また「最近はなかなかそうい
う作品を作れる環境になくなっているが、自分たちの会社を
持つことで創意に満ちたホラー作品を発表する場にしたい」
ということだ。                    
 情報から見てライミが自分で監督するものではないようだ
が、脚本のクリプケは、“Truly Committed”や“Battle
of the Sexes”といった受賞歴のある短編作品の脚本監督で
知られているということだ。また製作費には、1800〜2000万
ドルの「リーズナブルな予算」が予定されているそうだ。  
        *         *        
 もう1本、監督の情報で、『パーフェクト・ストーム』の
ウォルフガング・ペーターゼンがワーナーで、オースン・ス
コット・カード原作のヒューゴ・ネビュラ同時受賞シリーズ
“Ender”シリーズの映画化に乗り出すことが発表された。
 このシリーズは、今までに“Ender's Game”と“Ender's
Shadow”の2作が発表されているようだが、原作者のカード
自身が脚本の第1稿を手掛けることになっている。また同時
にゲームソフトの契約もされているということだ。    
 物語は、2種類のエイリアンの戦闘に巻き込まれて地球上
の人類のほとんどが消えてしまった世界を舞台に、残された
政府が子供たちを戦争のために訓練するといもので、子供た
ちに戦闘ゲームをさせ、その勝者の中からエイリアンとの戦
いの指導者を求めて行くというお話。オリジナルは77年に短
編小説で発表され、その後に長編化シリーズとなっている。
97年にポール・ヴァーホーヴェンが監督したロバート・A・
ハインライン原作の『スターシップ・トゥルーパーズ』を思
い出させる内容だが、アメリカの報道では、『ハリー・ポッ
ター』と『スター・ウォーズ』を合わせたような内容と紹介
されていた。                     
 この作品を、『Uボート』のペーターゼンが映画化する訳
だが、ペーターゼン自身は「小さな少年が世界を救うという
テーマは、『ネバーエンディング・ストーリー』で経験済み
だ」と語っており、一方、原作者のカードは「監督は私の物
語の意味を良く理解してくれている。私の子供は『ネバーエ
ンディング…』を見て育ったので、私自身が監督の手腕は良
く判っているし、彼に期待している」と語っているそうだ。
        *         *        
 後は短いニュースをまとめておこう。         
 まずは『スパイダー・マン』のソニーから、マーヴル・コ
ミックスの映画化の第2弾が発表されている。作品の題名は
“Ghost Rider”。実はこの作品、以前はディメンションで
企画が進められていたものだが、製作費の高騰が予想される
などの理由でキャンセルとなり、その後をソニーが引き継ぐ
ことになったもの。物語は、恋人の命を救うために悪魔と契
約した主人公が、悪魔に騙されて恋人を失った上に、自らも
悪魔の化身ゴーストライダーの姿にされてしまう。しかしそ
の姿になっても、彼は恋人のため、そして自らの魂のために
戦い続けるというものだ。なおソニーでは、ジョン・シング
ルトン監督の00年版『シャフト』のリメイクにも参加したシ
ェーン・サレルノと脚本の交渉をしているそうだ。因にディ
メンションでの計画では、主人公をニコラス・ケイジが演じ
ることになっていたが、こちらはどうなるのだろうか。  
 またまたヴィデオゲームからの映画化で、日本では3月に
発売された『Zero〜零』というプレイステーションゲー
ムの映画化の計画が発表されている。このゲームはアメリカ
では“Fatal Frame”のタイトルでゲームショウで発表され
たばかりのようだが、ストーリーは、幽霊屋敷の調査に行っ
たまま帰らない兄を捜して、妹がその屋敷を冒険するもの。
彼女の使える武器が幽霊を写して退治できる古い写真機とい
う設定がユニークな作品だ。そしてこの作品の映画化を、す
でにジャパニーズホラー『リング』のアメリカ版リメイクを
進めているドリームワークスが契約したということだ。内容
的にはすでに映画化された『バイオハザード』などの系統の
ようだが、あれほど過激ではなさそうで、比較的万人向けの
作品が期待できそうだ。                
 最後に、久しぶりにこの作品の話題で、アーサー・C・ク
ラーク原作“Rendezvous With Rama”(宇宙のランデブー)
の情報が入ってきた。この映画化はモーガン・フリーマンの
製作主演で企画され、監督にはデイヴィッド・フィンチャー
が予定されているものだが、製作のバックアップに半導体メ
ーカーのテキサスインスツルメンツが入るなど、ユニークな
体制が注目されているものだ。そして今回の情報は、この映
画化の脚本を、wowowからこの夏放送される『バンド・オブ
・ブラザース』でいくつかのエピソードを脚本を担当したブ
ルース・C・マッケナが担当しているというもので、当初の
予定では2年くらい前に作られているはずの計画だが、何と
か早く完成してもらいたいものだ。           
                           



2002年06月03日(月) プレッジ、燃ゆる月、少林サッカー、ボーンズ、スコーピオン・キング、金魚のしずく、月のひつじ、ピンポン、海辺の家、モンスーンW

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※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介します。       ※
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『プレッジ』“The Pledge”
今年のアカデミー賞では、俳優として主演男優賞候補にもな
っていたショーン・ペンの監督第3作。前作『クロッシング
・ガード』に続いてジャック・ニコルスンを主演に置いて、
ちょっと不思議な犯罪捜査ドラマを造り出した。
主人公は警察退職の当日に、幼女を対象にしたレイプ殺人事
件に遭遇し、被害者の両親に事件を告げる役を任される。し
かしそこで母親から犯人を捕えることを十字架に誓わされた
ことから、その後の人生が狂い始める。
事件は、知的障害を持つインディアンの男が連行され、自白
により解決するのだが、主人公はそれに納得できない。彼は
引退生活をあきらめて真相究明に邁進して行く。そしてそれ
は、自分を慕ってくれる少女を囮に使う究極の捜査へと向か
ってしまう。
頑固な主人公による犯罪の再捜査という映画は何本も見た記
憶があるが、それにまだこういう切り口が残されていたとは
思わなかった。フリードリッヒ・デュレンマットの原作はあ
るようだが、映画の特性を活かした脚色も上手い。
相手役は監督夫人のロビン・ライト=ペンが演じるが、その
他に逮捕されるインディアン役のベネチオ・デル=トロに始
まり、捜査の間に出会う人々の役で、ヴァネッサ・レッドグ
レーヴ、ミッキ・ローク、ハリー・ディーン・スタントン、
ヘレン・ミレン、警察関係者役で、サム・シェパード、アー
ロン・エッカートと、オールスター映画かというキャスティ
ングも面白かった。実際はペンを慕って集まった仲間たちと
いうことのようだが。
それにしても、何かに取り憑かれた男を演じるニコルスンは
上手すぎる。
題名のPledgeは辞書を引くと「固い約束」とあるが、映画の
中の台詞ではPromiseの方が使われていて、この言葉は出て
こなかったように思う。イメージとして宗教的な意味がある
ようにも感じたが、どうなのだろうか。

『燃ゆる月』(韓国映画)
『銀杏のベッド』の背景になっている伝説を描いたアクショ
ンドラマ。
英題名は“The Legend of Gingko”つまり「銀杏の伝説」。
因に、原題はハングルで表記できないが、読みは“タン・ジ
ョク・ピ・ヨン・ス”、これは登場する5人の主人公の名前
を繋いだものになっている。 
太古の時代。神山の麓に暮らすメ族とファサン族。あるとき
メ族はファサン族を襲い、神山の怒りに触れて住む土地は荒
野とされる。ファサン族が神山の怒りを解く方法は、両族の
血を継ぐ娘を生け贄にして天剣を作り上げ、神山を倒すしか
なかった。
それから500年、メ族の女族長スはファサン族の男ハンの
子を身籠もり、その娘を生け贄にして月食の夜、天剣を生み
出す儀式を行う。しかし娘に剣を突き立てようとした瞬間に
ハンが現れ、娘を奪還されてしまう。
そして15年後、ハンはピと名付けられた娘を連れてファサン
族の元に帰るが、自らは追放の身であるハンは部族に戻るこ
とは許されない。しかしピは迎えられ、そこで部族の指導者
になることを期待される2人の若者タン、ジョク、そして族
長の娘ヨンと共に成長して行くのだが…。そこへ再び、スの
魔の手が伸びてくる。
典型的なヒロイックファンタシーとしか言いようのない作品
で、これに4人の若者の青春ドラマと、ディジタルエフェク
トや剣戟シーンを交えて、1時間57分の堂々たる作品に作り
上げている。
実は一昨年の東京国際映画祭で招待上映されているのだが、
そのときは最後に唐突に銀杏の樹が出てくる辺りで意味が判
らず困ってしまった記憶がある。しかし今回は先に前作を見
ているので、その辺はよく理解できた。映画はやはり順番通
りに見なくてはいけない。
前作の監督で、その後に大ヒット作『シュリ』を作ったカン
・ジェギュが、製作者として思いのままに作ったということ
で、見ていて納得できる作品。中国映画のアクションファン
タシーとはまた違った感性で面白かった。
『銀杏のベッド』の所でも書いたが、日本では2本同時期の
上映になる。本作の方が見応えは充分だが、見るなら順番通
りに見ることをお勧めする。

『少林サッカー』“少林足球”
香港で昨年公開され、『ハリー・ポッター』を上回る成績を
残したというサッカー+クンフー・コメディ映画。
スポーツを題材にしたコメディというのはいろいろ有るけれ
ど、試合そのものを題材にするのはこれが結構難しい。第一
にルールそのものを蔑ろにすることは出来ない訳だし、その
制約の中でコメディを作るというのは至難の技とも言える。
僕自身、サッカーは年間20試合以上をスタジアムで観戦して
いる身で、ルールはそれなりに心得ているつもりだし、サッ
カーの試合の流れみたいなものも実感している立場からする
と、映画を見るまではその辺が一番気になっていたところだ
った。
それで映画を見た感想は、これが実に上手くできている。ル
ール上はちょっと疑問な点もない訳ではないが、末節的な部
分だし、手直しも効くものだから問題にするほどではない。
それより、クンフーを駆使して試合を展開して行く様が結構
セオリーに適っていて、よくサッカーを理解している印象だ
った。
物語は、少林寺拳法の普及を願う6人の兄弟弟子たちが、そ
のアピールの手段としてサッカーの全国大会に参加する。し
かしそこには当然汚い手を使う敵もいて、決勝戦の相手は薬
物で体力を増強して対抗してくる、というものだ。
そして両者の過激な対決ぶりが、少林寺やその他の拳法を駆
使したという設定で描き出される訳だが、結局のところは、
マンガでしか描けなかったような突拍子もない攻撃パターン
を、実写(VFX)映像で見事に描き出している訳で、今の
時代はこれが全部出来てしまうのだというところに、驚きと
言うか感動。そして涙が出るほど大笑いしてしまった。

『ボーンズ』“Bones”
『ロード・オブ・ザ・リング』のニューラインが製作した01
年の作品。元々低予算ホラーで成長したニューラインだが、
超大作を作る一方で、こういう作品もこつこつ作っていると
いうのが、ファンには嬉しいところだ。
発端は70年代、黒人街の顔役のボーンズは、自分なりの規律
で街を支配していた。しかしあるとき麻薬の取り引きを持ち
かけられ、それを断ったために仲間の裏切りもあって殺され
てしまう。そして自分の屋敷の地下に埋められて白骨となっ
ていたのだが…。
舞台は現在に移り、ボーンズの死後に財を成した裏切り者の
一人は、白人の街に住んでいる。しかしその息子が、父親に
認められる事業を興そうと、黒人街の廃屋を買ってクラブを
計画。父親の反対を押し切ってのオープンする。そしてその
オープニングのさ中、謎の黒犬の働きでついにボーンズが甦
り、自分を裏切ったものたちへの殺戮を開始する。
西海岸で人気のラッッパー、スヌープ・ドッグが初主演(ボ
ーンズ役)した作品ということで、半分はウィル・スミス主
演映画のようなノリの作品を期待していたのだが、劇中では
ドッグのラップは披露されない。
従って半分は期待外れだった訳だが、映画が結構まともなホ
ラー作品だったのに逆に驚いてしまった。といっても、低予
算ホラーだから、好きな人にしか推薦は出来ないが、その手
の作品の水準には達していると思う。
なお70年代ということで69年公開の『ジャワの東』という映
画に言及するシーンが有り、字幕ではシネスコとなっていた
ようだが、この作品はシネラマ社が製作したれっきとしたシ
ネラマ作品。この辺はちゃんと押さえて欲しかった。          

『スコーピオン・キング』“The Scorpion King”
『ハムナプトラ2』に登場したキャラクターの誕生の物語を
描いた古代アクション。前作で本格的な映画デビューをした
プロレスラーのザ・ロックが主役を務める。
良い意味でも、悪い意味でも典型的なプログラムピクチャー
なのだが、これが全米公開で4月の歴代1位の記録となった
のは、一重にザ・ロックのお陰。そのザ・ロックが今回試写
に合わせて来日し、試写会での舞台挨拶もあったのだが、日
本では1回しか試合をしたことはないはずなのに、会場は男
女を合わせたファンで一杯で、その人気に驚かされた。
作品自体は、上にも書いたようにプログラムピクチャーで、
多分製作費もあまり掛っていないのだろうが、こんな作品で
もVFXが満載なのには驚いてしまう。
ザ・ロックの演技はそこそこだが、それより共演者の元ミス
・アメリカ・ハワイ代表というケリー・ヒューに注目、空手
黒帯保持者ということだが、次はその腕も披露して貰いたい
ものだ。

『金魚のしずく』“玻璃、少女。”
反抗的な16歳の少女Pと、大陸出身の元刑事ウーの交流を描
いた香港映画。
家出した孫娘を探すために街にやってきたウーは、孫娘の携
帯電話の着信から友人Pを突き止め、彼女のボーイフレンド
のトーフと共に孫娘の捜索を始めるのだが…。
物語は多感な少女Pの行動を中心に描かれるのだが、これが
万国共通というか、僕自身ついこの間までこの年代だった娘
を持つ親として頷けるところが多々あった。その意味では、
良くできた風俗映画ということなのだろう。
構成は、中心の3人だけでなく、孫娘の両親などのエピソー
ドが羅列され、そこにカットバックが在ったりして結構トリ
ッキーなのだが、その繋ぎ方が上手いのか、見ていて違和感
はない。映像もしっかりしていて見ていて心地良かった。
それと、少女Pを演じたこの作品がデビュー作のゼニー・ク
ォックが素晴らしく、またウーを演じた元クンフースター、
ロー・リエの存在感も良かった。

『月のひつじ』“The Dish”
アポロ11号の月面からのテレビ中継を受信したオーストラリ
アの電波天文台の奮闘を描いた史実に基づくコメディ作品。
この中継は、当初はカリフォルニアの電波天文台が行うこと
になっていたが、スケジュールの変更により、バックアップ
用だったオーストラリアの片田舎の天文台に主要な中継が任
せられる。
その名誉に沸き立つ地元だったが、停電などのアクシデント
が続出。そして中継の当日には、パラボラの安全基準を越え
る強風が吹き荒れる。しかしその苦難を克服し、ついに月面
からの中継に成功するという物語だ。
確かに中継がアメリカ以外の国を経由して行われたというの
は、うっすらと記憶していたが、それがこんな場所で、しか
も強風の中、生命の危険を冒してまで行われたものとは知ら
なかった。
映画全体は、基本的に悪人は出てこないし、心暖まるコメデ
ィで、科学的な啓蒙の意味も考えれば文部科学省の推薦を取
ってもいいのではないかというような作品。当時を知るもの
としては、ノスタルジーも重なって面白かった。

『ピンポン』
松本大洋の人気コミックスの映画化。
主人公の天才ピンポンプレーヤー、ペコ役を、昨年『GO』
で主演賞を総嘗めにし、テレビの『漂流教室』にも主演した
窪塚洋介が演じる。
個人的には『少林サッカー』に続けてCGI利用のスポーツ
映画ということになったが、香港作品が常人には不可能な技
をCGIで実現して見せたのに対して、こちらはスポーツは
素人の俳優にプロ級の腕前をCGIで演じさせるということ
で、なるほどこういう使い方もあったのかということでは、
日本人の発想も捨てたものではないと感じた。
つまり卓球の壮絶なラリーを、多分俳優はポーズを決めるだ
けで、その間をCGIの球が行き交うという訳だが、以前な
ら俳優を猛特訓して演じさせたような苦労がない訳で、その
分落ち着いて見ていられるのは気持ちが良い。
なお監督の曽利文彦は『タイタニック』にも参加したという
CGIアーティスト、これに『チャーリーズ・エンジェル』
のミサイルのシーンなどを手掛けたという松野忠雄がCGI
ディレクターとして加わって、ハリウッド仕込の映像を見せ
ているという訳だ。
それから、巻頭に一発CGIでかましてくれる映像の感覚も
素晴らしい。この1シーンで映画に引き摺り込まれ、映画全
体の流れを決定する。こういう感覚も並の日本映画と違う感
じを与えてくれた。
『GO』は見ていないし、『漂流教室』も熱心な視聴者だっ
た訳ではないので、窪塚にどのくらいの実力が在るか判らな
かったが、本作でコミックスのキャラクターを苦もなく演じ
ているのには感心した。
元々コッミクス原作だから臭い演技が気にならないとえばそ
れまでだが、概して本作の配役は填っていたように思う。主
な配役の最年長が夏木マリと竹中直人というのも、良かった
のかも知れない。竹中はそこそこ臭いけれども。

『海辺の家』“Life as a House”
『ワイルド・ウエスト』のケヴィン・クライン主演のヒュー
マンドラマ。
主人公は42歳、20年間勤め上げた会社をリストラされ、しか
もその直後に癌が発見されて余命3カ月を宣告される。主人
公には離婚歴があり、すでに16歳の息子は妻が引き取ってい
るが、周囲の全てに反発する問題児になっている。
その主人公が、余命の全てを費やして海辺の断崖に建つ自宅
を建て直そうとし始める。それは病気の彼一人に出来ること
ではなく、彼は病気は隠して元の妻や夏休みの息子に協力を
求めるのだが、やがて周囲の住民も巻き込んだ騒動へと発展
して行く。
主人公の仕事は、建築会社のプレゼン用の模型制作者で、こ
れがコンピュータグラフィックスにとって替られるという辺
りは、今横行しているリストラの大半がこれに通じるという
点で現代を象徴している。
物語は、特に前半は父親と問題児の息子の関係を中心に描か
れるが、僕自身が同じ年代の息子を持つ父親としては(別に
自分の息子は問題児ではないが)、こんなに上手く行くのか
なという感じは否めない。多分今の子供たちはもっと複雑な
はずだ。
しかし家を建てることといい、元妻や周囲の人たちとの関係
といい、元々が男の夢物語なのだからこれも良いだろうとい
う感じだ。逆にそれをよしとするだけの魅力がこの作品には
ある。それが男の夢物語という点だ。
父親の思いを息子が受け継ぐ、そんな理想論でしかないかも
しれない物語が見事に描かれている。僕は父親の世代として
このように見たが、逆に息子の世代にも見て理解して欲しい
という風にも感じた。

『モンスーン・ウェディング』“Monsoon Wedding”
2001年ヴェネチア映画祭で金獅子賞を獲得したインドの女性
監督による作品。
舞台はニューデリーのとあるお屋敷、といっても飛び切りの
大金持ちという訳ではない父親が、一人娘のために一世一代
の結婚式を催そうとする。それは伝統に則ったもので、マリ
ーゴールドの花に飾られた華やかなものになるはずだった。
しかし準備の途中で資金は底をつきはじめ、一方、娘は不倫
相手との別れをきっかけに親の決めた婚約者との結婚をOK
したものの、まだ元の相手に未練があるようだ。そしてアメ
リカやオーストラリアからやってきた一族勢揃いの招待客の
中には、幼い少女に手を伸ばす良からぬ性癖の者もいたりし
て…。
そんなこんなの諸々が、結婚式を目前にして一気に噴き出し
てくる。果たして父親は無事に結婚式を行うことが出来るの
か?
ニューデリーを中心としたパンジャブ地方の人々は普段から
お祭り好きで、結婚式はその際たるものということのようだ
が、こんな大掛かりな式ではやるだけで大仕事だ。そんな中
で次々起こるトラブルが、映画の中では結構手際良く、判り
易く描かれている。
監督は、生まれも育ちもニューデリー、といってもハーヴァ
ード大学で映像学を学んだ才媛ということで、感覚的にはア
メリカ映画に近い雰囲気がある。しかし歌がふんだんに出て
くる辺りはインド映画特有の雰囲気も持っていて、ハリウッ
ド映画とインド映画の見事な融合と言うところだろうか。
上映時間は1時間54分。大抵が3時間を越えるインド映画に
しては短い方で、観客には見易い作品だ。



2002年06月02日(日) ニューヨークの恋人、プロミス、海は見ていた、ブレイド2、フューチャー、天国の口、銀杏のベッド、ガウディ、チョコレート

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※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを紹介します。       ※
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『ニューヨークの恋人』“Kate & Leopold”
ヒュー・ジャックマン、メグ・ライアンの共演で、19世紀の
イギリス貴族が現代に現れ、キャリアウーマンと恋に落ちる
というファンタスティックコメディ。
1876年、没落しかかった公爵のレオポルドは、金持ちの花嫁
を探すためにニューヨークを訪れていた。しかし建設途中の
ブルックリン橋の前で不思議な行動をする男を発見し、その
夜、花嫁選考のパーティーで再びその男を見付けたレオポル
ドは、その男を追跡して、未来への時間の裂け目をくぐって
しまう。
こうして現代にやってきたレオポルドは、次の時間の裂け目
が開くまで、その男のアパートで暮らすことになるのだが。
その階下にはその男の元恋人で、今や宣伝会社のトップの座
を目前にしたケートが住んでいた。彼女は、今までに何度も
男に裏切られ、これからは仕事一筋に生きようとしていたの
だが…。
まあ、SFと言うよりはラヴロマンスだから、余り多くは期
待しないほうが良いが、それでも巻頭の19世紀のニューヨー
クが描かれたシーンはなかなかの出来で、これならジャック
・フィニーの『ふりだしに戻る』もそろそろ行けるのではな
いかという感じがした。もっともフィニーの場合はほとんど
のシーンが過去の場面だから、もっと大変になることは判る
のだが。
なお、現代に来たばかりのレオポルドが間違ってTVを点け
てしまうシーンで、画面に出てくるのが『プリズナーNo.6』
(しかもオレンジ警報のシーン)というのがちょっと意外で
嬉しかった。

『プロミス』“The Promises”
パレスチナに暮らす子供たちの姿を追ったドキュメンタリー
作品。巻頭、1997年から2000年の比較的平穏だった時代に撮
影された、というコメントが入り、現実の厳しさが突きつけ
られる。
作品はイスラエル人、パレスチナ人双方の子供たちが述べる
意見が中心で、10歳台前半と思われる子供たちが大人顔負け
の歴史と文化に基づく主張を繰り広げる。しかもその何人か
は、実際に弟を殺されたり、投石抗争の当事者だったりする
のだから、いたたまれない気分になる。
映画ではその子供たちの何人かが互いに会うことを了承し、
パレスチナ人はイスラエル側に入ることが困難なため、イス
ラエル人の双子の兄弟がパレスチナ人のキャンプを訪れるこ
とになる。そして、ともに遊び、意見を述べ合い、そういう
交流をいつまでも続けることを約束するのだが…。
実際にはその2年後の取材で、パレスチナ人の少年(会見前
までは最も過激な意見を述べていた)からはイスラエル人の
双子にコンタクトがあるが、双子からは返事をしていないと
言い、しかもその理由がパレスチナ人に理解できないようだ
とも言う。
またユダヤ教の帽子を被って取材に応じていた別の少年は、
会見のときから参加を拒否し、パレスチナ人とは一切交渉は
しないと言い切る。やはりユダヤ教の帽子を被って、交渉は
大人に任せればいいのだと言う少年もいた。
アメリカ映画だから、どうしてもユダヤ寄りと思ってしまう
が、概してパレスチナ人の子供たち方が屈託がない。しかし
その子供たちが平然と武力抗争を唱える。
一方イスラエル人の子供の中には、会見に参加した双子のよ
うにユダヤ人らしく和平を望むものもいるが、ホロコースト
の歴史を引き摺って、頑なにユダヤ教の教えにすがっている
ものもいる。その根の深さが、問題の難しさを見事に表わし
ていると感じた。
アメリカでは昨年12月にテレビ放送された。それに合わせて
アメリカの配給会社がまとめたという9月11日までの歴史を
記した資料が試写会で配られ、勉強になった。

『海は見ていた』
黒沢明が最後に撮ろうとして出来なかった遺作脚本を、熊井
啓監督が完成させた江戸時代の遊郭を舞台にした時代劇。
江戸・深川、「川向う」と呼ばれた幕府非公認の私娼地・岡
場所に、女将と4人の遊女のいる茶屋があり、そこには善悪
いろいろな男達が出入りしていた。
ある日の夕刻、その店に一人の若侍が転がり込んでくる。遊
女のお新はその若侍を匿い、窮地を脱させるが、その後も若
侍はお新の元に通い続ける。そして「そんな仕事をしていて
も、仕事を止めればきれいな身体になる」と話す。その言葉
を信じた遊女達は、お新の将来を夢見て客を取らせないよう
にするのだが‥。
このお新を巡るもう一つの物語と、最後には深川が水害に襲
われるクライマックスを据えて、物語は綴られて行く。
黒沢監督の脚本で女性が主人公、しかもラヴ・ストーリー。
本人も「この年齢になって、やっと俺にも撮れるかなと思っ
たんだ。」と語っていたという、ある意味入魂のドラマを、
女性を撮らせたら実績のある熊井監督が引き継いだ。しかも
熊井監督には『黒部の太陽』のような水の猛威を描いた作品
もあるのだから、クライマックスを含めて、ベストの布陣で
作られた作品と言えそうだ。
黒沢の遺作脚本の映画化は、一昨年の『雨あがる』での侍の
妻の描き方もそうだったが、女性に暖かい目を向けているの
が印象的だ。試写会では、上に書いた前半の物語で男性が涙
を拭い、後半の物語では女性が涙を拭っていた。

『ブレイド2』“Blade 2”
アメリカンコミックスの映画化で、98年のスティーヴン・ノ
リントン監督作品の続編を、『ミミック』のギレルモ・デル
=トロ監督が手掛けた。脚本のデイヴィッド・ゴイヤー、主
演のウェズリー・スナイプス、共演のクリス・クリストファ
ースンは前作と同じで、ゴイヤーは総指揮、スナイプスは製
作も勤める。
前作の1年後、チェコのプラハで主人公はヴァンパイア相手
の孤独な戦いを続けている。そこに「クリーパーズ」と呼ば
れる新たなヴァンパイアの登場が告げられ、ヴァンパイア同
士も標的とする新種を前に、旧来のヴァンパイアの首領が主
人公に共闘を申し出る。
そして前作でヴァンパイアに連れ去られた主人公の知恵袋ウ
ィスラーも戻って、新たな敵への戦いが始まるのだが…。 
ほぼ全編がプラハで撮影され、主な舞台もヴァンパイアの巣
窟などに限定。その中で、CGIとワイアーを駆使して見事
なアクションが展開する。
元々CGIアクションが売りの作品だが、本作ではこれに加
えてドニー・ユンが振り付けた見事なマーシャルアートアク
ションも堪能できる。特にブレイドという名の通り日本刀ば
りの長剣も駆使され、そのチャンバラも良かった。
また、銀製の弾丸やニンニク、太陽光線などヴァンパイアも
のの定石も活かされ、これらがバランス良く描かれているの
にはゴイヤーの脚本の上手さがあるという感じがした。
なお、ユンはスノーマンという役で出演もしているが、その
胸に白字で「雪」と漢字が描かれている。実はユンは、釈由
美子主演の『修羅雪姫』のアクション監督も勤めており、そ
のためかとも思われるが。試写会でのユンの舞台挨拶では関
連する発言はなかった。

『フューチャー・ゲーム』“Gamer”
ヴィデオゲーム開発の裏話を扱ったフランス映画。
主人公はゲーム狂の街のちんぴらだったが、ある日警察に捕
まり、8カ月の収監中に究極の格闘技ゲームを思いつく。そ
して出所した主人公は元の親分に決別を告げ、アイデアの売
り込みを開始、とある女性社長のメーカーからデモ作品の開
発を求められる。
そして主人公は、堅気でコンピュータ会社に勤める元同級生
や、ポルノ配信で食いつなぐ元デザイナーなどを無理矢理集
めてデモを完成させるのだが…。女性社長との契約でだまさ
れ、全ての権利を奪われてしまう。
この事態に主人公とその仲間は復讐を計画、メーカーのゲー
ム発表が行われる8カ月後のゲームショウを目指して計画が
スタートする。
どうもフランスの若者映画というのには、ちょっとピントの
ずれを感じることが多い。本作でも前半の主人公のちんぴら
生活を描くシーンは何か違和感を感じていたのだが…。そこ
に突然CGIが入ってくる辺りから好い感じになってくる。
というのは、本作の前半と後半に1回ずつ実写の取り込みシ
ーンがあるのだが、これが上手い。前半のカーチェイスのシ
ーンではパリの中心街を取り込んだ中でゲームさながらのカ
ーアクションが展開し、後半の格闘シーンでは主人公の戦い
ぶりが見事に戯画化されている。
『ヴィドック』など最近のフランス映画のCGI技術には注
目するものがあるが、特に本作ではその扱い方に上手さを感
じた。

『天国の口、終りの楽園』“Y tu mama tambien”
ハリウッドで95年の『小公女』や97年の『大いなる遺産』な
どを監督したアルフォンソ・キュアロンが10年振りに母国メ
キシコに戻ってスペイン語で撮った作品。
物語は、高校卒業を控えた2人の若者が、それぞれのガール
フレンドも家族旅行で海外に出かけてしまって暇と身体を持
て余し、たまたまパーティで出会った従兄弟の妻を誘って、
幻の入り江「天国の口」を目指すというロードムーヴィ。
大人になり切れない2人の若者と、夫の浮気やいろいろな現
実の辛さから逃れようとする女の、切なくも何か心に残る旅
が綴られる。
ところがこの作品、実はアメリカではノン・レイティング、
つまりアダルト映画として公開されたということでも話題に
なっている。というのも映画の中で余りにも赤裸々にセック
スシーンが描写されるためなのだが…。映画自体はもっと純
粋だし、僕自身は青春映画として上の部類に入ると思うのだ
が、規制というのはどの国でも面倒なもののようだ。因に日
本では、ヘアや男性器が写る他に、久しぶりに画面の1/3
くらいがボケボケになるシーンがかなりある。
映画の中では、かなりの長廻しが行われて、これがまた素晴
らしい効果を上げている。上手い人が撮った長廻しの素晴ら
しさも堪能できる作品で、僕は今年のベスト作品に入れても
良いと思っている。

『銀杏のベッド』(韓国映画)
日本でも98年に大ヒットした『シュリ』のカン・ジェギュ監
督と、主演のハン・ソッキュが最初にコラボレーションした
96年の作品。
舞台は現代、美大講師も勤める画家のスヒョンは、外科医の
恋人ソニョンにも恵まれ、何不自由ない暮らしをしていた。
しかしスヒョンは不思議な夢を観るようになり、その夢に導
かれるように迷い込んだ路地で銀杏の古木から切り出したベ
ッドを購入する。
一方、彼の周辺では、不思議な事件が頻発していた。それは
心臓を抜かれた死体が発見されたり、ソニョンが手術を担当
して経過も良好だった患者が急死、葬儀の最中に突然蘇った
りというようなものだったが、その影は徐々にスヒョンにも
近づいてくる。
そしてスヒョンの前に謎の美女と古代戦士が現れる。戦士は
スヒョンを襲い、美女が助ける。その裏には、1000年も続く
悲恋の物語が隠されていた。
実は00年に、ジェギュの脚本、総指揮で製作された『燃ゆる
月』という作品があり、この作品はその年の東京国際映画祭
での上映で観ているのだが、ここで古代戦士達の物語が紹介
された。
その時から前編があると言われ、気になっていたのだが、よ
うやくその作品を観ることが出来たという訳だ。といっても
物語は完全に独立しているし、別々に観ても問題はないのだ
が、日本では同時公開(2本立てではない)になるらしい。

『ガウディアフタヌーン』“Gaudi Afternoon”
アントニオ・ガウディの生誕 150周年を記念した訳ではない
が、バルセロナを舞台に、ガウディが残したいろいろな建築
を背景に繰り広げられる、ちょっと奇妙な物語。
主人公は、18歳でミシガンの家を飛び出し、世界中を流れ歩
き、辿り着いたバルセロナでスペイン語の小説を英語に翻訳
して暮らしを立てている独身の女性。その主人公に、アメリ
カから失踪した夫を捜しにやってきたと言う女が助けを求め
てくる。
翻訳が上手く行かず煮詰まっていた彼女は、3000ドルの報酬
にも曳かれて、その仕事を引き受けるのだが…。仕事を依頼
した女が実は男性で、捜し当てた夫は女性だった。そして2
人の間には娘がいて…。
監督のスーザン・シーデルマンは、85年の『マドンナのスー
ザンを探して』で有名だが、85年の作品はマドンナの主演と
いうことで色眼鏡で観られているものの、実際の作品は一風
変った作風で面白かった記憶がある。
今回の作品もちょっと捻った人間関係が面白いし、これをジ
ュディ・デイヴィス、マルシア・ガイ・ハーデン、リリ・タ
イラー、ジリエット・ルイスというちょっと渋目の女優の共
演で、上手く纏め上げている。
映画に登場するガウディの建築や、バルセロナの町並もきれ
いで、行ってみたくなった。

『チョコレート』“Monster's Ball”
ハル・ベリーが史上初のオスカー主演女優に輝いた作品。
白人至上主義の州刑務所の看守で死刑執行官でもある男と、
その男の手で死刑を執行された黒人死刑囚の妻の女。その2
人が共に息子を失ったことから巡り合い、互いに惹かれて行
く姿を描いたヒューマンドラマ。
男は息子の死を切っ掛けに自分の愚かさに気付き、女と出会
うのだが、自分が彼女の夫の死刑を執行したことを隠してい
る。そんな2人のぎこちない、まるで少年と少女のような愛
の育みが、ベリーとビリー・ボブ・ソーントンによって見事
に描き出される。
一方、男の父親役をピーター・ボイルが演じ、『ジョー』の
イメージそのままに、超保守的な老人役を熱演。本人がそう
いう主義者でないことは、出演作品の傾向を見ればわかる訳
だが、ハリウッドでこれほど見事にイメージの決まった俳優
も珍しい。
実際のところ物語は、男の贖罪が中心であって、女はその対
象なのだが、彼女が男の謝罪を受け入れるか否かに最大のド
ラマが作られている。そのドラマへ持って行くシーンの描き
方に映画の醍醐味を感じた。
物語自体は、大方の予想通りに進んで行き、意外な展開など
全く無いのだが、それでも感動してしまうのは、脚本の上手
さ、そして2人の演技と見事な演出の賜物だろう。ハル・ベ
リーのオスカー受賞には完全に納得した。
この作品は人種差別への批判を声高に言っている訳ではない
が、こういうドラマがいつまでも作られることに問題の根の
深さを感じさせられる。なお原題の意味は、死刑執行官たち
が処刑日の前日に、その重圧から逃れるために行うパーティ
のことだそうだ。



2002年06月01日(土) 第16回

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
※このページは、キネマ旬報誌で連載中のワールドニュー※
※スを基に、いろいろな情報を追加して掲載しています。※
※キネ旬の記事も併せてお読みください。       ※
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
 今回はリメイクの話題から紹介しよう。        
 旧作と同じ物語を再度映画化するのがリメイク(remake)
の定義だと思うが、最近では旧作のキャラクターで新しい物
語を造り出すという形式の作品が増えている。これで物語に
一貫性があればシリーズということになるが、間隔が開いた
り、出演者や製作スタッフが違ってくると、シリーズとは呼
び難いこともある。                  
 これに対して最近アメリカの報道でリドゥー(redo)とい
う言葉が目立つようになってきた。これなら、旧来のリメイ
クから、シリーズの再開、さらにテレビシリーズからの劇場
版映画化まで全てを対象にすることが出来るようだ。しかし
上記のようにカタカナ書きにすると何となく落ち着かないの
で、僕は当面リメイクという言葉で続けることにしたい。 
 ということで1本目は、僕は典型的なリメイクだと思うの
だが、アメリカの報道ではそうは呼ばれていないこの計画か
ら紹介しよう。                    
 H・G・ウェルズ原作の“The War of the Worlds”(宇
宙戦争)をトム・クルーズの製作主演で映画化する計画が、
パラマウントから発表されている。『宇宙戦争』の映画化で
は、53年に公開されたジョージ・パル製作の作品が有名で、
このパル作品の製作会社もパラマウントだった。従って今回
の映画化は、このパル作品の正統なリメイクと言えるはずだ
が。今回の発表では、敢えてリメイクとは報告されていない
ようだ。                       
 と言うのも、46年に亡くなったウェルズの死後50年以上が
経過して原作の著作権はすでになく、パル作品についても、
新作の製作が開始される予定の03年には、公開から50年が経
過して著作権が消滅するということで、敢えてリメイクを主
張する必要はなくなっている。とは言っても、マニアにとっ
てはリメイクであることは間違いない訳だが、実は今回の報
道では、パル作品に言及する替りに、38年のオースン・ウェ
ルズ演出のラジオドラマが紹介されていてちょっと奇異に感
じたものだ。                     
 そこでちょっと穿って考えると、実はパル作品は映画の製
作当時を背景にした脚色になっており、これはある意味では
ラジオドラマのリメイクとも言えるものだった。そして今回
の発表で敢えてパル作品に触れないということは、もしかす
ると新作は、原作に描かれた通りの19世紀末ヴィクトリア朝
時代を背景にしたものになるのではないかという期待が沸い
てくる。                       
 蒸気船が行き交うテムズ川を三本脚のウォーマシンが進ん
でくる、そんなパルの時代には不可能だった映像も、現代の
CGI技術を使えば可能になる訳で、新作にはそんな映画化
を期待したいものだ。そうでもしないと、単なる現代化では
先に『インディペンデンス・デイ(ID4)』もある。因に
『ID4』の結末で侵略者がコンピュータウィルスによって
倒されるのは、ウェルズの原作で風邪によって倒されること
を踏まえたものに他ならない。なお『ID4』の公開は96年
でウェルズの死後50年が経過していたものだ。      
 それから同じ原作の映画化では、昨年イギリスで企画が進
んでいたという情報もある。情報ではいろいろ準備も進んで
一部撮影も行われていたようだが、実は01年9月11日の事件
に絡んで、製作を自粛することが発表されてしまった。その
後この計画はどうなっているのだろうか。        
        *         *        
 この他、最近発表されたリメイクの計画で:      
 “The Reincarnation of Peter Proud”は、75年製作
J・リー・トムプスン監督のホラー・サスペンス(邦題:リ
ーインカーネーション)のリメイク。この計画がパラマウン
トから発表され、この計画にデイヴィッド・フィンチャー監
督の参加が報告されている。パラマウント=フィンチャーの
計画では、先にトム・クルーズ製作“Mission: Impossible
3”を契約したことが日本のマスコミでも報道されたが、今
回の計画はその次の作品とされている。オリジナルの物語は、
主人公の大学教授が美しい女性と出会う夢を繰り返し見る内、
現実の世界で夢の中とそっくりの女性が現れる。そして彼自
身が、その女性の亡き夫の生まれ変わり(reincarnation)
だと知るのだが…、というもの。新作『パニック・ルーム』
では華麗な撮影テクニックを駆使して、全米興行成績で1億
ドルに迫る大ヒットを記録したフィンチャーが、今度はどの
ような映像を見せてくれることか。           
 “The Texas Chainsaw Massacre”は、74年にトビー・
フーパー監督によってスタートしたスプラッターホラーの元
祖とも呼べる作品(邦題:悪魔のいけにえ)のリメイク。こ
の作品は、その後86年、90年に続編が作られ、97年にはブレ
イク直前のルネー・ゼルウィガー、マシュー・マコノヒー主
演で“Texas Chainsaw Massacre: The Next Generation”
という作品も作られている。お話は、テキサスの片田舎に遊
びに来た若者たちが、アイスホッケーのゴールキーパーが付
けるマスクを被り、電動のこぎりを持った殺人鬼に追われる
というもので、物語は変わりようがないので毎回がリメイク
とも言えるものだが、今回は正式にリメイクとして発表され
ている。一時『パールハーバー』のマイクル・ベイが監督す
るという情報もあったが、その後ベイは製作を担当し、監督
にはコカコーラのコマーシャルやミュージックヴィデオで実
績を上げているマーカス・ニスペルが抜擢されている。アメ
リカ配給はニューラインシネマで、7月に撮影開始の予定。  
 “Foxy Brown”は、74年に、当時の黒人向け娯楽映画の女
王と呼ばれたパム・グリアの主演で製作された作品(日本未
公開)。この作品を、今年のオスカー主演女優賞を獲得した
ハル・ベリーの主演でリメイクする計画がMGMから発表さ
れている。ベリーはMGMで製作中の007の新作にも出演
しているが、それに続いての契約が結ばれたということだ。
なおベリーはリメイクの製作も担当することになっている。
オリジナルの物語は、看護婦の主人公が、殺された恋人の復
讐のために麻薬組織に挑んで行くというもので、かなりの強
力なヴァイオレンスが注目された作品のようだ。一方、オリ
ジナルに主演したグリアは、近作の『ボーンズ』にも出演す
るなど、最近復活が目覚ましいが、本作は、そのグリアが演
じた役をベリーが演じるということでも注目されている。 
 “Billy Jack”は、67年製作の“Born Losers”(邦題:
地獄の天使)を第1作として71年に発表された作品(邦題:
明日の壁をぶち破れ)をリメイクするもの。このシリーズは
トム・ローリンの製作監督主演で、74年、77年にも続編が作
られている。物語は、カリフォルニアの田舎町を舞台に暴力
に立ち向かう若者ビリー・ジャックの姿を描いたもので、ア
メリカでは草の根的なヒットを記録したということだが、そ
の対決の仕方が暴力を容認しているということで、内容には
疑問を挟む向きもあるようだ。そしてこの作品のリメイクが
ドリームワークスで計画されているもので、主演にはキアヌ
・リーヴスが予定されている。             
        *         *        
 さらにテレビシリーズからの劇場版リメイクでは、これも
ドリームワークスから“Hawaii Five-O”の計画が発表され
ている。この作品(邦題:ハワイ5−0)は、題名通りハワ
イのホノルルを舞台に、州政府所属の特別捜査班のメムバー
を主人公にした犯罪捜査もの。放送は68年から80年まで13年
も続いた人気シリーズで、この映画化はかなり以前から期待
されていたものだ。ということでドリームワークスでは、シ
リーズ創案者の遺族との間で数100万ドルの権利金を用意し
て交渉を続け、すでにロジャー・タウンの手になる脚本も提
示していたというのだが…。実はこの計画がここに来てちょ
っとトラブっているようだ。というのも遺族側のエージェン
トが独自に製作チームを作って、そのチームを採用するよう
にドリームワークス側に迫っているというのだが、先に紹介
した“Billy Jack”でも同様の経緯があり、結局ドリームワ
ークスが再契約しているということで、新興の会社がちょっ
と甘く見られているのかも知れない。          
 もう1本テレビシリーズから“Miam Vice”の劇場版の計
画がユニヴァーサルから発表されている。この作品(邦題:
マイアミ・バイス)は、85年から89年まで放送されたものだ
が、このシリーズの製作総指揮を担当したのが、『アリ』の
マイクル・マン監督。そして今回の計画で、マンは映画化用
の脚本をすでに書き上げている他、製作と監督も手掛ける意
向だということだ。因にテレビシリーズは、マンの感性が存
分に活かされたスタイリッシュな作品ということで、その延
長線で86年にマンが監督したトマス・ハリス原作ハンニバル
・レクター・シリーズ第1作の『レッドドラゴン』の映画化
“Manhunter”(邦題:刑事グラハム)が生まれたとも言わ
れている。今回のリメイクでは、さらに磨きの掛ったマンの
感性に期待が持たれているようだ。なおこのテレビシリーズ
にはパム・グリアもレギュラー出演していた。      
        *         *        
 一方、キネマ旬報6月上旬号の特集でも紹介した日本映画
のハリウッドリメイクだが、その後も同様の計画が続々と発
表されている。                    
 まず“Chaos”は、『リング』の中田秀夫監督が00年に発
表した『カオス』をリメイクするもの。オリジナルは萩原聖
人と中谷美紀の主演だが、この内の荻原が演じた役を、リメ
イクでは昨年のオスカー受賞者ベネチオ・デル=トロが演じ
ることになっている。製作はユニヴァーサルとロバート・デ
=ニーロが主宰するトライベカ。デ=ニーロにはヒロインの
夫役での出演も期待されているようだ。また、このリメイク
の監督と脚本には、ベン・キングズレーが今年のオスカー候
補になった“Sexy Beast”のジョナサン・グレイザーとアン
ドリュー・ボーヴェルの起用が決まったようだ。     
 もう1本“Turn”は、00年の東京国際映画祭で上映され、
01年に公開された平山秀幸監督の『ターン』をリメイクする
もので、こちらはすでにファンリー・フィリップスによる脚
本が出来上がっているようだ。製作はディメンションフィル
ムス傘下のプロダクションで、キャスティングは未定。因に
オリジナルは、『恋はデジャ・ブ』と『アザーズ』をクーブ
リック的にミックスした作品と評されているそうだ。   
        *         *        
 後はその他の情報を紹介しておこう。         
 まずは監督の交替で、前回も紹介した10月からの撮影が予
定されているユニヴァーサル製作『ワイルド・スピード』の
続編“The Fast and the Furious 2”で、前作主演のヴィ
ン・ディーゼルに続いて監督のロブ・コーエンの降板も発表
された。降板の理由は明らかにされていないが、ディーゼル
の降板が引き金になっていることは間違いなさそうだ。しか
しこの計画は、すでにポール・ウォーカーの単独主演で製作
されることが決定されており、もはや中止には出来ない。そ
こでその計画を引き継ぐ監督としてジョン・シングルトンの
名前が挙がってきた。シングルトンについては第6回の『シ
ンドバット』シリーズの再開の情報でも紹介したが、黒人監
督の代表格ともいえる人物で、その監督が黒人スターのディ
ーゼルの降板の後に入ってくるというのも不思議な感じだ。 
 一方、この続編の脚本には2本が用意され、その1つはオ
リジナルを手掛けたゲイリー・スコット・トムプスンが執筆
したもの、もう1つはマイクル・ブラーントとデレク・ハー
スが執筆したものということだっが、この内、ブラーントと
ハースの脚本が映画化されることになったようだ。ただしこ
の脚本は、ディーゼルが演じたドミニクを主人公にしたもの
だということで、一体どういうことになるのだろうか。  
 なお、シングルトンの予定では、『シンドバット』の前に
『ワイルド・スピード2』の順番のようだ。       
        *         *        
 もう1人監督の交替といっても少し先の話だが、現在第2
作の“The Chamber of Secrets”が製作中の『ハリー・ポ
ッター』シリーズの映画化で、04年の公開が予定されている
第3作の“The Prisoner of Azkaban”の監督からクリス・
コロムバスが降板することが発表され、その後任監督が選考
されている。こちらの降板の理由も明らかにされていないが、
シリーズを同じ監督で撮り続けることの弊害は指摘されてい
たようだ。そしてその後任監督に『天国の口、終りの楽園』
のアルフォンソ・キュアロンが取り沙汰されている。   
 キュアロン監督の新作については別掲の試写の紹介でも書
いたように、アメリカではノン・レイティングで公開される
など、かなり際どい描写が話題になっているが、内容的には
優れた青春映画であり、一方、彼自身が95年に『リトル・プ
リンセス 小公女』をハリウッドで撮っていることからも適
任と考えられているようだ。              
        *         *        
 続いても交替劇で、すでに撮影が始まった“T3: The Rise
of the Machines”で、ジョン・コナーの恋人役に配役され
ていたソフィア・ブッシュに替ってクレア・デインズの出演
が発表された。この発表は5月7日に行われたもので、すで
に撮影が開始されてからの交替となったようだが、監督のジ
ョナサン・モストウによるとブッシュの容姿があまりにも幼
すぎ、20歳台半ばとされる設定にあわなかったということだ
しかし彼女自身の演技力などは申し分なく、モストウは次回
作で彼女を使いたいとも語っている。そして交替のデインズ
については改めて書くまでもないだろうが、子役時代からの
人気スターで、日本では94年の『若草物語』、96年『ロミオ
&ジュリエット』などが評判になった。ここ数年は大学に通
うために映画出演を控えていたが、昨年からそれも解禁とな
り本格再始動したところだ。              
 ついでに出演者の情報で、今回もマイクル・ビーンのカメ
オ出演があるようだ、ビーンは第1作の『ターミネーター』
に未来から来た戦士の役で主演、劇場公開時にはカットされ
たが『T2』にもカメオ出演しており、アーノルド・シュワ
ルツェネッガーとともに、3作連続出演ということになる。
        *         *        
 最後にちょっと注目の情報で、ジョージ・ルーカス製作、
スティーヴン・スピルバーグ監督、ハリスン・フォード主演
による“Indiana Jones”シリーズ第4作の計画で、新たに
脚本家として『マジェスティック』などのフランク・ダラボ
ンが呼ばれたことが報道された。この計画に関しては93年頃
から報告され、製作、監督、主演の3人が第4作を作ること
では合意しているものの、その脚本は3人が揃って納得した
物でなければならないとされて、今まで『シックスセンス』
のM・ナイト・シャマランや『恋におちたシェイクスピア』
のトム・ストッパードなどの名前が取り沙汰されていた。 
 その新しい名前としてダラボンが挙がってきた訳だが、実
はダラボンは90年代に製作されたテレビシリーズ『インディ
ー・ジョーンズ/若き日の大冒険』でいくつかのエピソード
の脚本を担当していたということで、ルーカスらの信頼も厚
く、かなり可能性は高くなってきたようだ。なお、配給を担
当するパラマウントの希望では05年7月の公開を目指してい
るということだ。                   
                           
                           
 今回から試写会の報告は別ページにします。      



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井口健二