井口健二のOn the Production
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2002年04月15日(月) 第13回+スパイダー、ノット・ア・ガール、アトランティスのこころ、ザ・ワン、ナショナル7

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※このページは、キネマ旬報誌で連載中のワールドニュー※
※スを基に、いろいろな情報を追加して掲載しています。※
※キネ旬の記事も併せてお読みください。       ※
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 最初に記者会見の報告から。             
 4月5日に5月公開の『スパイダーマン』“Spider-Man”
のプロモーションで、サム・ライミ監督と主演の3人及び製
作者2人の記者会見が開かれた。実は、当初の予定ではその
前日に本編の完成披露試写が行われるはずだったが、映像が
完成していないという理由で特別映像のみの上映となった。
従って記者会見といっても本編を見ないでは質問もし辛い訳
で、僕はいつものように聞いていただけになってしまった。
 そんな中で、今回は製作者にビル街を跳び回るシーンの撮
影方法について質問した人がいて、僕はこの質問に興味を曳
かれた。この質問に対して製作者はグリーンスクリーンの合
成とか何とか、常識的なことを話していたのだが…。すると
突然監督のサム・ライミが、「スチル写真とムーヴィのプレ
ートをCG化して使っている」と発言したのだ。     
 確かに質問者の意図もそこにあって、それぞれに付いてい
た通訳の問題もあったのかも知れないが、監督が相手の意図
を汲んで技術的な質問にずばり答えたのには驚いた。実際、
映像が完成していないのに監督が日本に来てしまっていると
いうことに危惧を感じていた面もあったのだが、こういう発
言のできる監督がやっているなら、このシリーズも安心して
見ていられそうだという感じがしたものだ。映像の完成云々
というのは、多分純粋に技術的な問題だけなのだろう。  
 前日に上映された特別映像の出来も良かったし、これは好
い線に行けるかも知れないという感じがした。      
        *          *        
 後は製作情報を紹介しよう。             
 まずは続報で、前回紹介したクェンティン・タランティー
ノ監督の“Kill Bill”で、当初から報告されていたウォレ
ン・ベイティの配役が、デイヴィッド・キャラダインに変更
されることになった。                 
 この作品でベイティが演じる予定だったのは、タイトルロ
ールのビル。実はタランティーノは、ユマ・サーマンの主人
公と共に、このビル役も最初からベイティを念頭に置いて脚
本を書いていたというのだが、最終的に出来上がった脚本の
イメージがベイティと合わなくなってしまっていたそうだ。
 そこでタランティーノとベイティが会食して方針を検討、
その席でベイティから「何故、デイヴィッド・キャラダイン
を使わないんだ?」という発言が飛び出し、元々タランティ
ーノがキャラダインのファンだったこともあって直ちに交渉
の結果、キャラダインの出演が決定したということだ。  
 因にキャラダインは、70年代に放送されたテレビシリーズ
『燃えよ!カンフー』の主演で知られ、タランティーノはそ
の頃からのファンだったそうだ。            
 またビルという役柄は、サーマンが演じる主人公を裏切る
敵役ということだが、今回の情報では、このビルが刺客とし
てダリル・ハナとルーシー・リューをサーマンに差し向ける
のだそうだ。ということは、以前からの情報と総合すると、
少なくともこの内のハナは寝返るということになりそうだ。
 撮影は6月の開始の予定で、具体的にロサンゼルスと、メ
キシコと、東京、北京で撮影されることになっている。  
        *         *        
 ついでにもう1本続報で、4月15日撮影開始の“T3: The
Rise of the Machines”の配役で、新たにソフィア・ブッ
シュという女優の出演が発表されている。彼女の役柄はケイ
ト・ミラーという名前で、職業は病院の職員、ジョン・コナ
ーとT−800に協力して、未来から送られたT−Xに対抗
するということだが、恋人役という紹介もある。その相手は
コナー(?)、まさかT−800ではないだろう。    
        *         *        
 続いては新しい情報で、『ブレイド2』の全米公開では初
登場No.1のヒットを記録したギレルモ・デル=トロ監督が、
ドリームワークスで“At the Mountains of Madness ”と
いう作品を手掛けることが発表された。          
 この作品は、20〜30年代に活躍したアメリカのホラーファ
ンタシー作家、H・P・ラヴクラフトが創造したクトゥルー
神話の一部を成すもので、彼の著作の中では最長の作品とい
われる同名の小説(邦訳題・狂気の山にて)に基づく。物語
は、北極圏の地図もない地域を探検していた冒険家が、古代
のままの生活を続ける人々の集落を発見し、そこで誤って危
険な古代の生物を復活させてしまうというもの。     
 ラヴクラフト原作では、すでに“Re-animator”や“From
Beyond”などの作品がB級ホラー映画として映画化されてい
るが、元々はアメリカ文学史でエドガー・アラン・ポーの後
継者ともいわれる作家で、もっと本格的な映画化が期待され
ていた。これを受けて、今回の映画化に当るデル=トロは、
「私のホラー映画の代表作となる作品にしたい」と意気込み
を語っているそうだ。                 
 脚本は、デル=トロと『ミミック』を手掛けたマシュー・
ロビンスが共同で執筆する。              
 ただしデル=トロは、すでにユニヴァーサルで“Hellboy"
という作品が進行中の他、タッチストーンでは大友克洋原作
の和製コミックス『童夢』の映画化にも参加しており、さら
にはデイヴィッド・ゴイヤーが執筆中の“Blade 3”(『2』
の20年後が舞台のお話だそうだ)の監督にも再び招請されて
いるということだ。しかし先に紹介した本人の意気込みから
も伺えるように、デル=トロは今回の作品を重要と考えてお
り、今後は最優先で進める可能性もあるようだ。     
        *         *        
 お次は、またまたリメイクの話題がいくつか届いている。
 その1本目は“The Italian Job”。日本では『ミニミニ
大作戦』の邦題で公開された69年のイギリス映画を、現代化
してリメイクする計画が発表されている。        
 オリジナルは、99年のオスカーを受賞したマイクル・ケイ
ンの主演で、舞台はイタリアのトリノ。その地にある自動車
会社フィアットの本社に、中国から密かに金塊が届くという
情報を察知したイギリスの窃盗団が、マフィアの鼻先で、イ
ギリスの誇る小型車ミニクーパーを駆使してその金塊を盗み
出すというもの。その逃走経路にトリノの下水道網が利用さ
れ、丸い下水道の中を小型のミニクーパーが縦横に走り回る
カーチェイスが話題になった作品だ。          
 この作品を今回は、舞台を現代のロサンゼルスに移してリ
メイクするということだが、この作品の監督に、98年にサミ
ュエル・L・ジャクスンとケヴィン・スペイシー主演の『交
渉人』を撮ったF・ゲイリー・グレイが発表されている。キ
ャスティングは未発表だが、6月撮影開始の予定だ。   
        *         *        
 続いてもオリジナルはイギリス映画で、『ロード・オブ・
ザ・リング』のクリストファー・リーの主演で73年に発表さ
れたカルトホラー作品“The Wicker Man”の再映画化が、
ニコラス・ケイジの主演で計画されている。        
 オリジナルは、エドワード・ウッドワード扮する警官が、
若い女性ばかりの失踪事件を追う内に、スコットランド西岸
の小さな島にたどり着き、そこでリーが主宰する怪しげなコ
ミュニティーの謎に迫るというもの。この作品のカルト人気
については、今年の7月19−20日にも映画の撮影が行われた
場所で「ウィッカーマン・フェスティヴァル」が開かれてい
るほどだということだ。                
 なおリメイクは、ニール・ラビュートの脚本監督で、現代
のアメリカ西海岸に舞台を移して行うということだが、実は
オリジナルを撮ったロビン・ハーディ監督も、リーの再演で
別ヴァージョンの“The Riding of the Laddie”という作
品を計画(共演はショーン・オースティン)しているという
ことで、この競作はちょっと面白いことになりそうだ。   
        *         *        
 もう1本は、今年のオスカー特別賞を受けた黒人スター、
シドニー・ポアティエの監督、主演で74年に製作された“Up
town Saturday Night”を、今年のオスカー主演男優賞候補
に挙がっていたウィル・スミスの製作主演でリメイクする計
画が発表されている。                 
 オリジナルは、ポアティエとビル・コスビーの共演で、物
語は、下町に住む黒人の若者2人が、盗まれたロトの当りく
じを奪い返すために、山の手の高級住宅街に向かうというも
の。『ゴッドファーザー』のパロディなどもあるコメディ作
品で、“Let's Do It Again”と“A Piece of the Action”
という続編もあるそうだ。               
 そしてこの作品は、実は史上初の黒人同士による主演の映
画作品として意味のある作品だということで、その意義をス
ミスが引き継ぐというもの。なお、スミスは自らリメイクの
脚本も手掛けており、監督と共演には、95年『バッド・ボー
イズ』のマーティン・ローレンスとマイクル・ベイを希望し
ているということだ。そして前回紹介の“I Am Legend ”
でスミスとベイが再会し、今回の発表となったものだ。   
        *         *        
 最後にちょっとびっくりの情報で、昨年の夏に公開された
アンジェリーナ・ジョリー主演の『トゥームレイダー』の続
編を、『12モンキーズ』のテリー・ギリアムが手掛けるかも
しれないという話が伝わってきた。           
 ギリアムは、先に手掛けていた“Don Quixote ”がトラブ
ルに見舞われて頓挫し、現在はこの秋に撮影を開始する予定
の“Good Omens”という作品を準備中だが、パラマウントの
要請で前作を見たところ、「映像や技術は素晴らしいが、物
語の展開が面白くない」と感じ、「この技術を使って自分も
やってみたいと思った」ということだ。         
 今後どうなるかは判らないが、準備中の“Good Omens”も
コミックス原作で、この手の作品に抵抗感はないとのこと。
有り得ないとは言えないようだ。それにしてもギリアムは一
体どんな“Tomb Raider 2 ”を構想しているのだろうか。こ
れは実現したら大変な話題作になりそうだ。       
                           
                           
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※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを公開に合わせて紹介します。※
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<5月11日封切り>                  
『スパイダー』“Along Came a Spider”         
ジェイムズ・パタースン原作“アレックス・クロス”シリー
ズ第1作の映画化。                  
同シリーズでは、97年に『コレクター』“Kiss the Girls”
が先に映画化されているが、本作では前作に主演したモーガ
ン・フリーマンが、同じ役は2度と演じないという自分に科
した禁を破って、自らの製作総指揮で映画化、さらに第3作
も計画されているということだ。            
上院議員の娘が、教師として2年間潜伏した男によって、シ
ークレットサーヴィスが監視する学校から誘拐される。そし
て男は、ワシントン市警の犯罪心理捜査官クロス博士を指名
して挑戦を仕掛けるのだが…。             
原題は『マザー・グース』から採られているようだが、リン
ドバーグ愛児誘拐事件が下敷きになっている辺りが実にアメ
リカらしく、以前にその辺の話を読んだことのある僕として
は結構楽しめた。アクションというよりは謎解き中心のお話
なので、その辺をすんなり了解できるかどうかが評価の分れ
目になりそうだ。                   
ただし字幕で、生徒が教師を呼ぶときの Mr.Sonejiを「ソン
ジさん」とするのは誤訳だと思う。この翻訳者はジェームズ
・ヒルトンの名作“Goodbye,Mr.Chips”(チップス先生さよ
うなら)を知らないのだろうか。            
                           
<5月18日封切り>                  
『ノット・ア・ガール』“Crossroads”         
人気アイドル歌手ブリトニー・スピアーズの初主演映画。 
子供時代に一緒にタイムカプセルを埋め、一生親友でいよう
と誓い合いながらも、今ではちょっと疎遠な3人の少女が、
それぞれは別の目的で家を飛び出しロサンゼルスに向かう旅
を、スピアーズの歌満載で描いた青春物語。       
スピアーズの役柄は、田舎町の高校で卒業生総代を務め、医
学部進学を目指す(!)ちょっとオクテの少女というものだ
が、元々スピアーズはミッキーマウスクラブの出身というこ
とで、演技のほどは心配なく、人気歌手である本人をなぞっ
た物語を上手く演じている。              
まあ、僕の年齢からすると取り立ててどうこうと言うような
作品ではないが、自分も昔はこんな作品に憧れていたかな、
というような懐かしさを感じることはできた。      
                           
<5月中旬封切り予定>                
『アトランティスのこころ』“Hearts in Atlantis”   
スティーヴン・キングが99年に発表し、いまだに売れ続けて
いるというロングセラーの映画化。           
現在はカメラマンとなって都会に暮らす主人公は、幼なじみ
の葬儀のために故郷に戻ってくる。そこには初恋の女性もい
たはずだったが、葬儀の場所で彼女も既に亡くなっているこ
とを知らされる。                   
そして今は廃屋となった実家を訪れた主人公は、その家で出
会った不思議な老人のことを思い出す。その老人は人の心を
読むことができ、未来を予知する能力を持っていたが、その
能力を利用しようとする謎の組織に追われていた。    
宣伝では『ショーシャンクの空に』と『グリーンマイル』に
続く作品とされているが、舞台は刑務所ではないし、導入部
で現在の主人公が語り始める構成は、『スタンド・バイ・ミ
ー』の手法に似ている。                
といってもそれは本筋とは全く関係なくて、何と言うかちょ
っとノスタルジックな雰囲気の中で、ちょっと不思議な老人
と11歳の少年の交流が、少女との淡い恋心とともに見事に描
かれて、キングとほぼ同世代の僕には堪らない作品だった。
謎の老人を演じたアンソニー・ホプキンスの演技が素晴らし
いのは当然だが、相手役の少年を演じたアントン・イェルチ
ンと、少女役のミカ・ブーレムが本当に上手い。なおこの2
人は、先に紹介した『スパイダー』でも同じような役回りで
共演している。                    
                           
<5月下旬封切り予定>                
『ザ・ワン』“The One”                
98年の『リーサル・ウェポン4』でハリウッドに進出、いき
なりブレイクした中国出身のカンフースター=ジェット・リ
ーと、テレビの『Xファイル』や00年の映画『ファイナル・
デスティネーション』で話題となったジェームズ・ウォン監
督が組んだSFアクション。              
物語は、パラレルワールドの自分自身を殺すとその力が自分
に乗り移り、自分1人だけになれば、その全員の力を集めて
全能になれるというアイデアを基にしたもので、 125あると
いうパラレルワールドで順番に自分を殺してきた男が、ゴア
が大統領に就任した宇宙で 123番目の自分を殺し、 124番目
の自分を求めてブッシュが大統領に就任した宇宙にやってく
るというもの。                    
ところが殺された自分の力というのが、殺した本人だけでな
く、残りの全員に均等に分けられていたことから、最後の2
人には全く同等の力が備わっているというのが味噌で、最後
は60数人分ずつの力を持った善と悪のジェット・リー同士が
闘うという筋書きだ。                 
まあアイデアは面白いし、ワイアーワークをやらせたら当代
一と言われるリーが演じるのだからそのアクションも決まっ
ている。惜しむらくは、最後にリー同士が闘っているところ
で、カメラが二人の周囲を回ってくれないところで、ここに
『マトリックス』ばりの演出があったら申し分なかったと思
えるのが残念ではある。                
しかし脚本も手掛けているウォンの演出は、テレビ出身らし
く90分以内の上映時間にきっちりと落ちまであるお話を収め
ており、これもまたお見事と言いたいところだ。     
                           
<5月中封切り予定>                 
『ナショナル7』“Nationale Sept”          
タイトルはフランスの国道7号線の意味で、その国道沿いに
ある身障者施設を舞台にした実話に基づく物語。     
筋ジストロフィーの男性ルネの介護は、新人女性介護士ジュ
リの役目。しかし病状と共に気難しくなっているルネは、皆
が手を焼く問題の患者だった。そんな彼を、あるときは突き
放しながらも献身的に世話するジュリに、ルネは次第に心を
開いて行く。                     
そしてついに彼は自分の悩みをジュリに打ち明ける。それは
女とセックスをしたいということ。国道沿いにはトレーラー
ハウスを並べた娼婦たちが居り、年金を受けているルネには
娼婦を買う金はあるのだった。             
この告白に施設側は、今までこの問題に見て見ぬ振りをして
きた非を認めるのだが、そこには大きな問題があった。もし
公務員であるジュリが彼を娼婦の元に連れて行くと、それは
売春斡旋の重罪になるというのだ。           
同じようなテーマの作品では、98年にケネス・ブラナー、ヘ
レナ・ボナム=カーター共演の『ヴァージン・フライト』と
いうイギリス映画があった。確かこの作品も実話に基づいて
いたと思うが、フィクションを入れてドラマティックにして
いたイギリス作品に対し、今回の作品はドキュメンタリータ
ッチで、これもまた素晴らしい作品になっている。    
エンディングは、多分こうなるだろうと予想はしていたが、
そこへの持って行き方が洒落ていて、上手く填められてしま
った。                        
                           
 この他、                      
4月27日封切りの『アザーズ』は第4回         
5月11日封切りの『華の愛』は、原題の“遊園驚夢”として
東京国際映画祭の特集                 
5月中旬公開予定の『ノー・マンズ・ランド』は第2回  
にそれぞれ紹介があります。              



2002年04月01日(月) 第12回+光の旅人、コラテラル・ダメージ、フィスト・オブ・フューリー、E.T.、パコダテ人

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※このページは、キネマ旬報誌で連載中のワールドニュー※
※スを基に、いろいろな情報を追加して掲載しています。※
※キネ旬の記事も併せてお読みください。       ※
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 まずは予告した情報から。              
 前回紹介の“T3: The Rise of the Machines”の配役で、
未定だったジョン・コナー役に、ニック・ストールという俳
優の抜擢が発表された。                
 ストールは22歳、先日のアカデミー賞で作品賞などの候補
に上がっていた“In the Bedroom”に、主人公の病気の息子
の役で出演している俳優ということだが、それ以前の作品で
は、98年の『シン・レッド・ライン』に出演、この作品の紹
介では、17人の出演者リストの16番目に名前が載っていた。
 “T3”では前作の10数年後が舞台ということで、22歳の俳
優はちょっと若い感じもするが、ジョナサン・モストウ監督
の下、アーノルド・シュワルツェネッガー、エドワード・ノ
ートン、ヴィン・ディーゼルを相手に、シシー・スペイセク
やマリサ・トメイのオスカー俳優と共演した演技力を見せて
もらいたいものだ。                  
 なお撮影は、前回の情報より少し遅れて、4月15日にロサ
ンゼルスで開始と発表されている。公開は03年7月4日。そ
れから原題ついては、最近送られてくるアメリカの報道では
“Terminator 3”ではなく“T3”に統一されているようだ。
        *         *        
 続けてシュワルツェネッガーの情報で、“T3”のアメリカ
配給を行うワーナーとの間で立て続けにリメイクの計画が発
表されている。                    
 その1本目は、73年にリチャード・ベンジャミン、ユル・
ブリナー主演で映画化された“Westworld ”(邦題:ウェス
トワールド)のリメイク。この映画は、今や大ベストセラー
作家のマイクル・クライトンが自らの脚本で監督デビューを
果たした作品で、ロボット技術を駆使して西部劇の世界を再
現したアミューズメントパークを舞台に、ロボットが暴走し
て観客を襲い始める恐怖を描いたもの。ブリナーが演じたロ
ボットガンマンが無気味で、またその視覚を表現したシーン
には初期のCGIが商業映画で初めて使用されるなど話題の
豊富な作品だ。                    
 そして今回のリメイク計画では、シュワルツェネッガーが
ブリナーが演じたロボットガンマン役を再現するというもの
で、ターミネーターの元祖とも言われるガンマン役をシュワ
ルツェネッガーがどのように演じてみせるか楽しみだ。なお
オリジナルには、76年製作でブリナーがゲスト出演している
“Futureworld ”という続編もある。          
 2本目は、リメイクと呼ぶのにはちょっと違うかも知れな
いが、シュワルツェネッガーが82年に主演した“Conan the
Barbarian”(コナン・ザ・グレート)の再映画化が計画さ
れている。この作品はロバート・E・ハワードの原作から、
ジョン・ミリウスがオリヴァ・ストーンと共に脚色し、ロン
・コブらのデザインを駆使してミリウスが監督、ヒロイック
ファンタシーの世界を見事に再現したもので、シュワルツェ
ネッガーにとっては『ターミネーター』と並ぶ出世作といえ
る作品だ。そして今回の計画は、ミリウスが再び脚本を手掛
けるもので、『マトリックス』のウォシャウスキー兄弟も製
作に協力していると言われている。           
 そして3本目は、リチャード・マシスン原作の“I Am Le
gend”の映画化だが、この計画は今年のオスカー候補にもな
ったウィル・スミスの主演で進められることになった。この
原作はすでに57年にヴィンセント・プライスの主演作と、71
年にチャールトン・ヘストン主演の『オメガマン』の2度の
映画化があり、今回が3度目となる作品だが、ワーナーでは
長年シュワルツェネッガーの主演で映画化を希望していた。
しかし“T3”に加えて上記の2本を先行させるということで
シュワルツェネッガーの主演は断念され、替って当初から共
演者として発表されていたスミスの主演が決まったものだ。
なお、シュワルツェネッガーは製作者として残ることになっ
ている。またこの結果、製作が早まることになり、マイクル
・ベイの監督で03年夏の公開を目指して製作されることにな
るということだ。                   
        *         *        
 お次は続報で、第9回で紹介したクェンティン・タランテ
ィーノ監督、ユマ・サーマン主演の“Kill Bill”で、報告
されていた共演のダリル・ハナとルーシー・リューの役柄が
発表された。                     
 それによると、ハナの役柄は、前回紹介した通り主人公に
協力する女殺し屋(報道ではネメシス=復讐の女神と紹介さ
れている)ということだが、面白いのはリューの役柄で、役
名がOren Ishi:Queen of Tokyo Yakuza だということだ。
Queen というのは、ただの姉御か、それとも女親分か。それ
から名前(?)の「おれん」は、多分「お恋」か「お蓮」と
いうことになりそうだが、苗字(?)の「いし」というのは
「石」なのだろうか。                 
 そういえば、ドイツで発行されている超長編SFシリーズ
『ペリー・ローダン』には、昔「イシ・マツ」という日本人
女性がいたが、その流れだろうか。それに昨年アメリカで放
送開始された『スター・トレック』の新作でも、「ホシ・サ
ト」という日本人の役名があるが、こういう名前が西欧人に
とって判りやすい日本人女性の名前のようだ。      
 なお、撮影はカリフォルニアと、中国、日本、それにメキ
シコで行われる予定ということで、前回紹介したトム・クル
ーズの前に、タランティーノ監督とサーマン、リューらが来
日することになりそうだ。また、追加のキャスティングで、
ジャクリーヌ・ビセットの出演も発表されている。    
        *         *        
 続いてはまたもやテレビシリーズからの映画化の計画で、
49年の放送開始というから最も古い連続テレビドラマの一つ
で、50年から記録されている視聴率のランキングでは、最初
の50−51年シーズンに連続ドラマでは唯一ベスト10入りを果
たした30分西部劇シリーズ“The Lone Ranger”(ローン・
レンジャー)を映画化する計画が、『チャーリズ・エンジェ
ル』のコロムビアから発表されている。         
 ロッシーニ作曲の『ウイリアム・テル序曲』をテーマ音楽
にするこのシリーズは、先に映画化が進められている“The
Green Hornet”と同様、元々はラジオシリーズで始まり、そ
の後、連続活劇を経てテレビ化されたものだが、50−51年の
視聴率は平均で41.2%を記録するなど、大変な人気を誇って
いた。なおテレビシリーズの主演は、57年に終了するまで途
中2シーズンを除いてクレイトン・ムーアが勤め、このムー
アの主演で50年代に2本の劇場映画も製作されている。  
 物語はテキサスが合衆国に併合された頃、人々の生活を守
るため6人の男たちがテキサスレンジャーを組織した。しか
しある日、彼らは悪人たちの待ち伏せにあって倒されてしま
う。だがその内の一人ジョン・リードは、インディアンのト
ントに助けられ、その後はマスクを付けて顔を隠し、仲間を
襲った悪人たちを追いながら、トントと共に、ただ一人のレ
ンジャーとして人々を守り続けたのだ。         
 ということで、半分実話半分フィクションのような物語だ
が、テキサスレンジャー自体は今も組織されており、その精
神は現在も生き続けている。そこでこの映画化も、その組織
の支援の下に行われるということで、映画化に漕ぎ着けるま
でには、結構根回しが大変だったようだ。なお同テーマの映
画化では、81年にユニヴァーサルから“The Legend of the
Lone Ranger”という作品が発表されているが日本未公開に
終っている。                     
 また今回の映画化では、98年『マスク・オブ・ゾロ』で、
西部劇での女性の活躍を上手く描けたことに味を締めたコロ
ムビアが、トントに当るキャラクターを女性にするというア
イデアも検討しているということだ。          
        *         *        
 後半は短いニュースをまとめておこう。        
 00年の『グリンチ』に続くDrスースの原作で“The Cat
in the Hat”の映画化が、イマジン、ユニヴァーサル、ドリ
ームワークスの共同製作で進められることになった。そして
その主演にマイク・マイヤーズが発表されている。なお、マ
イヤーズとイマジン、ユニヴァーサルは、以前にマイヤーズ
が企画したコメディ映画“Dieter”の製作を巡ってトラブル
が発生、長らく絶縁状態にあったが、その関係がこれで修復
されたようだ。                     
 9月11日の事件以降、製作が中断していたコロムビア映画
“Dreadnought”について、問題のジェット旅客機の墜落シ
ーンを書き直して映画化を進める計画が報告されている。こ
のため『アリ』『ニクソン』の脚本家のクリストファー・ウ
ィルキンスンとスティーヴン・J・ライヴルが新たに契約し
ており、彼らはウィル・スミスの主演を前提にリライトを進
めるということだ。一方、当初計画を進めていた監督のMcG
は、ニューヨークの現状を考えて計画には戻らない意向とい
うことで、別の監督を検討する必要があるようだが、会社側
は時が傷を癒してくれるのを待って再び監督を要請すること
もあるとして、現在“Charlie's Angels 2: Halo”を準備
中の監督に対してそのタイミングを計っているようだ。   
        *         *        
 最後にまたもや訂正で、前回の“The Last Samurai”の
記事でトム・クルーズの計画としてアンソニー・ミンゲラ監
督の“Cold Mountain”を挙げたのは誤りだった。実際に
は、クルーズがミンゲラ作品からの降板を決め、そのためス
ケジュールが空白になって、そこにこの作品が入るというも
のだった。なお“Cold Mountain”のクルーズの後にはジョ
ニー・デップの出演が発表されており、また共演は、(『ザ
・エージェント』に抜擢した)ルネ・ゼルウィガーと、ニコ
ール・キッドマンということなので、これはクルーズは出演
する訳に行かなかったようだ。               
                           
                           
                           
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※このページでは、試写で見せてもらった映画の中から、※
※僕が気に入った作品のみを公開に合わせて紹介します。※
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<4月13日封切り>                  
『光の旅人』“K-PAX”                 
ケヴィン・スペイシー、ジェフ・ブリッジス共演のヒューマ
ンドラマ。                      
ある日、ニューヨークのグランド・セントラル駅が不思議な
光に包まれ、その中から一人の男(スペイシー)が現れる。
プロートと名乗るその男は、1000光年の彼方にある K-PAX星
から光に乗ってやってきたと主張し、警察に逮捕されてパウ
エル博士(ブリッジス)のいる精神病院へと送られてくる。
その男は、バナナを皮ごと食べるといった以外には特段の異
状は見られないが、やがて男の存在が他の患者たちに影響を
与え始める。それはいずれも良い方向に見えたのだが…。 
その一方で、男はまだ一握りの天文学者しか知らない星の謎
を解き明かし、 K-PAX星では常識だと言い切る。     
やがて男は K-PAX星に帰る日が近いと言い出す。そしてその
日付からパウエル博士は、男の過去を探り当てるのだが…。
果たして男は本当に異星人なのだろうか。        
精神病院に限らず病院を描いたヒューマンドラマは名作を作
りやすいが、これが異星人を自称しているとなると、SFフ
ァンとしては微妙な感覚になってくる。つまり結末がSFフ
ァンとして納得できるか否かということなる訳だが、この作
品はその点が実に巧みで、なるほどアメリカでも高く評価さ
れた理由が判る気がした。               
物語の中で、子供たちが主人公を「データだ、データだ」と
囃すシーンがあって、『新スター・トレック』のデータ少佐
はアンドロイドであって異星人ではないのだが、いまだにア
メリカの子供にはこれで通るということに驚いた。    
それにしてもブリッジスも以前に『スターマン』で異星人を
演じていたが、それが巡ってこういう映画にこの役柄で出演
するというのも面白い。確か『スターマン』もテレビ化され
て、それなりに人気もあったはずだが、それはもう子供は覚
えていないのだろうか。                
                           
<4月20日封切り>                  
『コラテラル・ダメージ』“Collateral Damage”     
9月11日の事件のために公開延期になっていたアーノルド・
シュワルツェネッガー主演のアクション大作。      
消防隊長のブルーアは、日夜火災から市民を守るために活躍
していた。そのブルーアの妻子が、コロムビア領事館前で起
きた爆弾テロ事件に巻き込まれて死亡。しかしコロムビア政
府の和平交渉を支援する合衆国は、犯行声明をしたテロリス
トに対するCIAの捜査活動を禁止してしまう。Collateral
Damage=「目的のための犠牲」             
この事態にブルーアは、単身コロムビアのゲリラ支配地域に
潜入し、妻子の復讐を遂げようとするのだが…。     
確かに爆弾テロを克明に描いたシーンは、事件の直後には刺
激的過ぎたかも知れない。しかしそのテロリズムになりふり
構わず復讐を遂げようとする主人公の姿が、当時の世論を必
要以上に煽る恐れがあったとも言える作品で、当時公開した
らそういう受け入れ方がされていたかも知れない。結局、当
時公開しなかったことは正解だったのだろう。決して復讐を
肯定している作品ではないのだから。          
それにしても主人公が消防士というのは…。       
                           
『フィスト・オブ・フューリー』“重振精武門”     
ブルース・リー生誕60周年記念と銘打たれた香港映画。  
リーが創設した拳法ジークンドーを独学で、ということは、
つまり映画から学んで会得し、中国国際ジークンドー連盟ま
で設立してしまったという石天竜が主演している。    
こう書くと何だか怪しげな人物だが、元は北京警察の特殊部
隊に所属して、その間の84年には、ミャンマー国境でヴィエ
トナムの特殊部工作員4人を素手のカンフーで拘束したこと
もあるというのだから、その経歴が詐称でなければこれは本
物といえそうだ。                   
物語は、リーの主演作品『ドラゴン怒りの鉄拳』の後日談を
描いたもので、20世紀初頭の上海で武術道場・精武門の創始
者・元甲の仇を討った弟子陳真は、追求を逃れて故郷・雲南
省に身を隠すが、遂に追手に発見されて闘わざるを得なくな
るというもの。                    
お話はブルース・リー全盛期のカンフー映画そのものという
感じで、最近のジャッキー・チェンやジェット・リーの作品
とは一味違ったレトロなものだが、それに合わせて演じられ
るカンフーも、特撮やワイアーワークを極力廃して生身で闘
っているのは、それなりの意気込みというところだろう。 
なお共演に、午馬や林威といった香港映画でお馴染みの顔ぶ
れが登場するのは、見ていて安心感があった。      
                           
<4月27日封切り>                  
『E.T.』“E.T. The Extra-Terrestrial”       
<20周年アニバーサリー特別版>と題されたスペシャルエデ
ィション。                      
シリーズものや、妙な勢いで実力以上に大ヒットしてしまっ
た作品を除けば、真の意味でのハリウッド映画最大のヒット
作だと呼びたいこの名作が、最新のデジタル技術を駆使して
見事に甦った。スピルバーグ本人がこれが決定版だと言い切
る作品の登場だ。                   
オリジナルの上映時間は1時間55分だったが、復活したシー
ンなどもあって、今回は2時間になっている。      
加えられた主なシーンは、ETがエリオットの家に来てから
直ぐの部分で、2人がお風呂で遊ぶというもの。今回はET
の表情がCGIによって多彩になっているが、このシーンで
のETの活き活きとした表情は、その効果が最も活かされた
シーンと言えるだろう。                
これ以外にも、喜びの笑顔や悲しげな表情が随所にあって、
その効果は素晴らしい。                
この他、スピルバーグが一番拘わったという拳銃の消去は、
「ウォーキートーキーをそんな風には持たないだろう」と、
突っ込みを入れたくなるような場面もあったが、逆にスピル
バーグの気持ちが伝わってくるシーンになっていた。   
なお、当初計画されていた小学校の校長室のシーン(校長は
ハリスン・フォードの特別出演)は、結局復活しなかった。
                           
『パコダテ人』                    
1999年に開催された第4回函館港イルミナリオン映画祭のシ
ナリオ部門で準グランプリを受賞した作品の映画化。   
函館に住むごく普通の女子高生に、ある朝突然しっぽが生え
る。思いを寄せる男子もいる彼女はそれを隠そうとするが、
地元紙のカメラマンに偶然発見され、廃刊寸前で発行部数倍
増を目指す彼らに追い回されることに…。        
追いつめられた彼女はTVの生番組でカミングアウト。パコ
ダテ人を自称して一躍地元のアイドルになるのだが…。しっ
ぽの形がキタキツネに似ていたために、エキノコックス感染
の噂が広まり、今度は一気に排斥される羽目に陥る。   
シナリオ段階で準グランプリということは、それなりに他人
の目を通っている訳で、日本映画に良くあるような独り善が
りのようなこともなく、実際『ET』と対比してもいいよう
な、若年向けの可愛らしい作品になっている。      
特に後半、政府が動き出して、少女の住む家を自衛隊(陸自
が撮影協力している)が包囲する辺りは、『ET』の後半を
髣髴とさせる。他にも類似点はいろいろあり、『ET』と同
様に脚本家は女性だが、感性が似ているのか、皮肉でなく本
当に良く勉強しているのだとも感じた。         
アイドルを勝手に作り上げて、一気に落とし込むと言うよう
なマスコミ批判的な部分も程よく効いているし、風評被害と
いったニュアンスもある。解決の部分もそれなりにカタルシ
スめいたものもあるし、今井雅子というこの脚本家にはちょ
っと注目しておきたい。                


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井口健二