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2022年11月27日(日)
高橋徹也、鹿島達也、脇山広介、宮下広輔 Live Recording『AO VIVO 2022』

高橋徹也、鹿島達也、脇山広介、宮下広輔 Live Recording『AO VIVO 2022』@Shimokitazawa 440


ラディカルな意志のスタイルズ、『鎌倉殿の13人』実朝暗殺の回と被ったのは予定外だったがそういうこともある…しかも同じ建物の地下(CLUB251)では高畠俊太郎のバンドLOOP LINE PASSENGERがやってたという……。結構地下の音響くんですよねここ。骨太のドラムが聴こえる度ああこれがカスミさんなんだと思ったりしてました。なんでこんなに被ったかねえ。

あとご本人がいちばん観たかったのではないか、サッカーW杯日本vsコスタリカ戦ともまるかぶり。「東京ドームではSEVENTEENがやってるのに! 僕は物販だけ並んできました」なんて冗談はいっていましたが、本編ではサッカーについて全く触れなかったところに気合いの程を感じました。

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高橋徹也(G, Vo)、鹿島達也(B)、脇山広介(Drs)、宮下広輔(Pedal Steel)
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2018年7月に行われた『The Endless Summer - revisited』をパッケージした『AO VIVO - Summer Soft Soul』に続く、440でのライヴレコーディングです。記憶が定かではないけれど、前回は事前にレコーディングしますというアナウンスはなかった気がする。今回は最初から発表されていたので、やる方も聴く方も緊張していた印象。勿論自分も。

今回はロックがキーワードのようで、選曲もロックリスナー・高橋徹也のルーツを俯瞰するようなセットリストでした。曲が進む毎にバンドがドライヴしていく。ステージとフロアのテンションがハードに、しかしハッピーに張り詰めていく。レコーディングだということを忘れて聴き入っていましたが、一曲だけイントロのリフがちょっと詰まり、思わず息を呑みました。あれは我に返った。ご本人もあっ、という様子を見せ、一瞬の静寂。誰も一言も発さず、ゆっくりとまた最初から。そしてその一連の空気が、とても心地よかった。

本人曰く「青春!」。9月のリクエストライヴのときにも思ったが、The Smith、The Style Councilに代表される80年代ブリティッシュロックに加え、PixiesからNirvanaの80〜90年代グランジ・オルタナティヴといったルーツが見えてくるリフやコード。しかしルーツは見えるのに、そこで演奏されるのは明らかに高橋徹也にしか成し得ない作品になっている。クリアな高音の声がその一端を担っているのは間違いないが、それにしても「Smells Like Teen Spirit」を彷彿とさせるハードなリフから、どうやったらこんな風光明媚な世界へ展開出来るのか? 不思議でならない。それが魅力。

今回はバンド編成だったこともあり、鹿島さんのグルーヴマスターっぷり、脇山さんのヴォーカルにジャストなフィルイン、宮下さんのソリッドなハンドリングぶりを堪能。特に鍵盤が不在の「チャイナ・カフェ」が、これぞロックバンドという骨太なアレンジになっていたのにはシビれた。全員にソロをまわすところにも、長年のトラベリングバンドのような風格がありました。そんなにライヴの本数自体は多くないと思うのですが、日々それぞれ鍛錬している手練れが集まりしっかりリハをすると、百戦錬磨の貫禄というものはするりと身に纏えるものなのだなと感嘆しきり。

演奏とMCのギャップも毎度のこと乍ら面白く、鹿島さんに「『真っ赤な車』やったあとにその話する?」と呆れられた(笑)スーパーのハシゴの話、「ホントはいい子なんですよ」発言には笑った。「脇山くんの叩いたフレーズは脳内で完コピ出来るくらい気に入っている」という発言を受けた脇山さんが「当初こうやればよかったんじゃないか、まだまだやれることはあったんじゃないかと反省があったんですけど、こういってもらえてとてもうれしい」と答えたところにはジーンときてしまった。メンバーを固定して長くやっていくことにより成長を感じられる素敵な関係。こういうところもロックバンド。

そういえば昔の音楽雑誌を手にしたことで存在を知りライヴに来てみた、「90年代アーティストが好きなんです」といわれたという若いお客さんとのエピソードから「アーティストじゃねえし」という発言も印象的でした。やっぱりミュージシャン、山下達郎的にいえばアルチザンという自負があるのかな。80〜90年代リバイバルブーム(?)で、若いリスナーが増えるのはうれしいし、現在進行形のバンドを聴いて虜になってほしいものですね。

来年は『夜に生きるもの』25周年とのこと(てことは『夜に生きるもの/ベッドタウン -20th Anniversary Edition』からもう5年なの!? と時の早さに白目になる)。「使えるものは徹底的に使っていきたい(笑)」といっていたので、プランを色々考えているようです。「各駅停車の途中から乗ってきたひと」がまだライヴで聴いたことがない曲をやりたいという話も。今のバンドの充実と自信が感じられます。色褪せない名曲を、現在最高の布陣で。これからもますます楽しみです。

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・感謝┃夕暮れ 坂道 島国 惑星地球
W杯、やっぱり気になってましたよね(笑)。そして「私的な話」、ここにもバンドメンバーのパートナーシップ。個人事業主の働き方についても考えてしまった。別に高橋さんお金の話してる訳じゃないけどね……。ライヴが主な収入源のミュージシャンたちが、安心して創作活動に没頭し、安心して家族のためにスケジュールを空けられる社会であってほしい

・おまけ。ライヴ終了後の下北沢駅迄の道、乗り換えの新宿駅周辺。日曜の夜とはいえまあまあの人出だったのに、とても静かな空気。ニュースを確認することもなく「あ、こりゃ負けたな?」と試合結果が察せられたことを記録として残しておきます。街の空気って、そこに住む(いる)ひとの気持ちに敏感に反応しますよね

(20221216追記)
・ライブ後記 “AO VIVO 2022”┃夕暮れ 坂道 島国 惑星地球
「僕は時に一対一の音楽があってもいいと思う。」に深く頷く。セットリストもこちらに



2022年11月23日(水)
『奈落のマイホーム』

『奈落のマイホーム』@TOHOシネマズ新宿 スクリーン12


奈落が500mとか、突然のキャンプ飯とか、もはやおとぎ話めいてる。なのに演出のテンポが良くドキドキ、肩入れしたくなる登場人物たちの事情にハラハラ、このひとたちに絶対助かってほしい! と思わせる。しっかり笑わせると同時に厳しい現実も突きつける。助かることがまずだいじ、怒るのはそのあとだ! こういう「順番」てだいじですね。これからがたいへん。

原題『싱크홀(シンクホール)』、英題『SINKHOLE』。2021年、キム・ジフン監督作品。『なまず』でも取り上げられていたシンクホール。社会問題になってるんですね。日本でも博多駅前調布市住宅街で起こった陥没事故が記憶に新しい。自然現象の場合もあるそうですが、土地開発の影響により起こるものも少なくないようです。そのシンクホールが、やっと手に入れたマイホームの真下にあったら? 入居してすぐに陥没したら……? やってられるかあああああ!!!!!

しかし今作の登場人物たちはへこたれない。兎にも角にもまず、死んでたまるか。ニトリのCMに出てそうな、一見頼りないお父さんはがんばります。仕事を掛け持ちしまくっているうさんくさいお父さんもがんばります。興味深いのは、彼らは家族のため(だけ)にがんばるのではないところ。他人が他人のために、損得勘定なしに手を差し伸べる。そこには理由なんてないのです。困っているひとがいたら助けるのが当たり前。意外とこれ、「自己責任」が幅を利かせている今、忘れられてませんか?

同じ棟に分譲と賃貸の住人がいる。正社員には当然の福利厚生がインターンには与えられない。そんな立場の違いは、災害を前にすると何の意味も成さなくなる。隣人は危険な人物かもしれないので、近所づきあいを禁じる。こどもへの愛情による自衛策が、発見を遅らせることになる。それは社会が悪い。「あの顔を見てしまったんだ。忘れられない。助けないと、バチが当たるような気がする」──素直にそう思い、口に出来る世の中でありたい。

反面、冷徹なトリアージ。身体が弱く、意志の疎通が難しい者は助けるにも限界がある、と描いてしまっている。致し方ない、といい切るには辛すぎる。恐ろしいことでもある。

調べてみれば『光州5・18』を撮った監督なんですね。これ観たいんだよなー。エンタメに振り切れない迷いも感じましたが、冒頭のツイートにも書いたようにエンタメだからこそ、マスに訴えておきたい! 気付いて考えてほしい! という意志を感じました。これからどうしますか? 助けられるよう、考えてみませんか? 映画は観客に語りかけてくる。

それにしてもチャ・スンウォンのサバイバル力(というかアウトドア力?)よ。あれはやっぱ『三食ごはん』(後述)由来なんでしょうか……。『がんばれ!チョルス』といい、コミカルとシリアスの境目がすごい曖昧というかシームレスで面白い。容姿端麗でコメディ演技も巧く、しかしいつも陰がある。プロフィールを見るにつけ、いろいろ苦労しているところもあるようで、それがあの複雑な人物造形をつくりあげているのかなと思いました。不思議な魅力がある方ですね。

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・輝国山人の韓国映画 シンクホール
実はチャン・グァンとキム・ホンパがごっちゃになってて、「なんであの屋上のおじちゃんが陣頭指揮執ってんの!?」と混乱したのでした。出演作と役名を照会出来るこのサイト、いつもお世話になっております……『怪しい彼女』の魔法使いおじちゃんがチャン・グァン! 『マルモイ』で朝鮮語を集めてた先生がキム・ホンパ! またふたりとも『新しき世界』に出てるのよね。アニョアニョ理事がチャン・グァンです!

・「三食ごはん」のチャ・スンウォン、ゲストへのもてなし精神やギター演奏披露まで持ち前の万能ぶりを発揮┃wowKorea
料理上手で世話焼き上手。「チャ+アジュンマ=チャジュンマ」(チャ小母さん)と呼ばれるようになったきっかけがこの番組だそうです



2022年11月07日(月)
after FdF ft.billy woods & Sam Wilkes Quintet featuring Chris Fishman, Craig Weinrib, Dylan Day, & Thom Gill

after FdF ft.billy woods & Sam Wilkes Quintet featuring Chris Fishman, Craig Weinrib, Dylan Day, & Thom Gill@Shibuya WWW


皆さんフラッと現れて、ステージ上にリュック置いたりフーディーとかマフラーとか演奏途中にごそごそ脱ぎ着する自然体。音楽と日常が直結していて、お互いが出すどんな音をも聴き逃さず、ふわりと相手の演奏と握手し、ハグしていくようでした。

6月のFESTIVAL FRUEZINHOに続き、一年で二度もサム・ウィルクスを観られるとは!FESTIVAL de FRUEのヘッドライナーとしての来日、都内での公演はないかな〜と指を咥えて様子を窺っていたら、願ったり叶ったりでアフターパーティーが決まりました。しかもWWW。段差がある! 観やすい! 蓋を開けてみればクインテットは全員座奏だったので、WWW Xだったら全然見えなかったに違いない(低身長)。よかった……。

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先手はお初のビリー・ウッズ。リュックとラップトップを持ってぱっと現れ、トラックを次々にかけてキレキレのラップをかます。リハからそんな感じだったので、どこから開演? と戸惑いつつも、なんていうんでしょう、ストリートと地続きのようなその振る舞いにシビれる。

トラックもエクスペリメンタルといおうかアンビエントといおうか、とても個性的で美しい音。ビートは強いけど優しさも感じる。ラップ=語りたいことがまずあって、それにトラックを充てていくという感じで、ループの途中でもブツブツ切って次のトラックに行くこともしばしば。即興だったのかな。

ささっと自分で配線を片付け、ラップトップとリュックを抱えて帰って行った。格好よかった!


ロビーにはこんな張り紙が。日本に到着したときから「撮ってもいいけどアップするなら顔を隠してね」とアナウンスされていた。他者を信じるこういうスタンス、いいなーと思いました。

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さて、Sam Wilkes Quintet featuring Chris Fishman, Craig Weinrib, Dylan Day, & Thom Gill。長い。全員の名前を表記するところサムの人柄というか、共演者に対しての誠実さが顕れていていいですね。ルイス・コールやサンダーキャットもそうだけど、featuringをしっかり表記する。このあたりのLAシーンの繋がりを感じさせて好感が持てます。この編成は今回がお初とのこと、サムがバンドリーダーを勤めるのも初めてかな。

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Sam Wilkes(ba)
Chris Fishman (key)
Craig Weinrib (dr)
Dylan Day (gt)
Thom Gill (key+gt)
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不勉強乍ら知っているメンバーは、『One Theme & Subsequent Improvisation』やルイスの最新作『Quality Over Opinion』に参加していたクリス・フィッシュマンのみ。そのクリス、今回moogを現地レンタルするというドキドキハラハラな一件がありSNSで見守っていたのですが、その際パット・メセニーのバンドに参加しているひとだと知る。


これね。見つかってよかった!

という訳で、皆さん家から来ましたみたいな格好+佇まいで登場です。ドラムのクレイグはリュックからスティック等ごそごそと取り出し、上着を脱ぐとタンクトップ。おっ、いい筋肉。ロン毛だしメタラーのようないでたちです。真顔でセットやフロアをスマホ撮影してました。パワーヒッターかと思いきや、演奏を始めるとこれがまあ繊細なこと。ブラシとスティックを駆使して撫でるようにゴーストノートを鳴らし、いい塩梅でジャストなビートをかます。

クリスは賢者のような演奏。ソロとソロの数小節のあいだ両手を膝に置いて俯いてて、次の手を黙考する棋士みたい。もうひとりの鍵盤トムは声もギターもシームレスに演奏、全方位に目が利き全員に寄り添った音を鳴らす。ディランはスライドギターで西海岸の風を吹かせつつ、ブルーズの渋さも(これがアメリカーナ?)。皆オレがオレがというエゴがなく、今演奏されている曲に献身的ともいえる美しいフレーズを加えていく。そうすると、彼らにしか鳴らせない音が上空に立ち上がる。

そんな彼らと演奏するサムは、いつものごとくとても楽しそう。静かな曲でも激しい(のはそんなにないけど)曲でも豊かな表情で、美しいコードとメロディをベースでじわりふわりと浮かび上がらせる。そう、ベースで、アルペジオやハーモニーを演奏する。先日観たスクエアプッシャーの優しい部分、そう、「Iambic 9 Poetry」的な部分を凝縮して聴いているような気持ちになる。両者に接点はない筈だけど、ジャズというキーワードでは繋がっているのかもと思わせる、ベースの音の美しさ。

ペダルを駆使して音をフェイドイン/アウトさせ、その場でボイパをルーパーに仕込み、指パッチンでカウントを出し、足首だけでなく膝を上げ下げ、ドカンドカンとテンポを刻む。終始慌ただしく演奏しているのだけど、そうして鳴らされる音は淡い色彩の水彩画のように柔らかい。知っている曲は『WILKES』と『One Theme & Subsequent Improvisation』からの数曲で、それも聴き憶えがある……くらいの断片。セットリストはあったけど、ほぼインプロだったんだろうなあ。皆さん寡黙で静か、ときどき微笑み合う。トムはキャラクターも愛らしく、笑ってサムをどついたりしてたけどあれは何を話してたんだ?(笑)

リラックスしているように見えたけど緊張感は相当なものだったのか、本編終了後サムとクレイグはガッシとハグしていた。手応えがあったのでしょう、いや〜ほんと素晴らしい演奏でした……! FRUE大好き有難うと繰り返し、日本語のMCも。「こんにちは」「有難うございます」だけでなく、「メンバーを紹介します」のアクセントはフロアからどよめきが起こるくらい綺麗な発音でした。

最後にはFRUEの方(?)をステージに呼び込んで、見て見てこのひとたちが呼んでくれたんだよ〜! 一緒に感謝の気持ちを伝えよう〜! みたく拍手を贈ったんだけど、そのときサム、自分の機材の方に行ってカーペンターズの確か「We've Only Just Begun」(邦題「愛のプレリュード」!)を流したの。感動的なシーンだったんだけど、ふとこの曲はこのために仕込んでたのか、演奏用の素材としてもともと持っていたものなのかどっちなんだ? と思う。この曲名(とかいって違う曲だったらどうしよう・おぼろ)からして、やっぱり最後のために用意したのかなあ。だとしたらサム、なんていい子……! そう、FRUEとの関係はまだ始まったばかり。これからも末長く宜しくね。また来てね〜!!!

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・アートとラップ、アート・ラップの再検討(Earl Sweatshirtとbilly woodsを例に)┃久世┃note
ビリー・ウッズについて、リリックの背景について。「いいたいことがある」という気迫をすごく感じたので、ラップを聴きとりきれず申し訳ない気持ちにもなりました。ちゃんとリリック読もう

・月見ル君想フのタカハシコーキさんによるとクリスは来月のルイスコールでまた来日するそう。楽しみ!

・それにしても今日出演の皆さん、揃ってステージに私物を持ち込むの微笑ましく見てたけど、ふと楽屋が狭いのか? とも思った(笑)



2022年11月03日(木)
川崎の菊地成孔&ぺぺ・トルメント・アスカラール

菊地成孔&ペペ・トルメント・アスカラール コンサート2022@カルッツかわさき ホール


『かわさきジャズ 2022』の1プログラムでもあるので(一見さんの客も結構いた模様)、運営の方といろいろ擦り合わせがあったのかもしれない(演奏曲目のいくつかは早くから発表されていたし)。オールタイムベストの選曲に思えました。とはいえ、そこに「Caravaggio」持ってくるのも相当ですよね……名演でしたけども。あと楽団名義がいつもの「と」じゃなくて「&」だった。何故だろう(開演前のアナウンスで気が付いた)。ちなみに早川純さんが事業企画の一員だった縁での出演だったそうです。「何、早川くんこのホールの社長? 下っ端?」「会社には社長と下っ端しかいない」。

なかなか聴ける機会が少ないPTA、今年は雪の日のBLUE NOTEと本日だけ。ホントは大阪と京都も行きたい。公開されているように今回全部セットリスト違うんですよね。スタンディングでも聴きたかったし<ジャン=リュック・ゴダールに捧げる>コンセールも聴きたかったよ〜。

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菊地成孔(cond/sax/vo/perc/cdj)/ 林正樹(pf)/ 鳥越啓介(cb)/ 早川純(bdn)/ 堀米綾(hpf)/ はたけやま裕(perc)/ 大儀見元(perc)/ 牛山玲名(vn1)、田島華乃(vn2)、舘泉礼一(va)/ 関口将史(vc)
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田中倫明さんは「葉加瀬太郎さんのツアーにとられました」。トラのはたけやまさんは、6月に行われたチルドレンワークショップでの“太鼓のお姉さん”。

・足立区制90周年記念 「ギャラクシティ 音楽の日」を家族・友達と楽しもう!
・足立区制90周年記念 ギャラクシティ 音楽の日 「菊地 成孔 ポリリズムワークショップ」
・6/12(日)開催の「菊地 成孔 ポリリズムワークショップ」の講師 菊地成孔 先生と、お手伝いいただく「太鼓のお姉さん」はたけやま裕 先生からメッセージ動画をいただきました✨
ごあいさつも見ものなので載せとく。

演奏曲目が記載された当日パンフレットが配られるというのも、PTAでは珍しい部類。隣席のおじいちゃんは演奏が始まるごとにパンフをとりだして曲目を確認し、アンコール曲はペンを取り出し書き加えていた。反対側の老夫婦は、おばあちゃんはノリノリ、おじいちゃんは身体を乗り出して見入っていた。後ろが空席で、他の客の視界を遮るということはなかった。こういうの見るとやっぱりうれしくなっちゃうのね。ときにはこういう無礼講、あっていいと思うの。音楽を楽しめるのがいちばん。奇妙なMCとともに刺さって忘れられない思い出になるといいな〜などとニコニコする。

テナーとソプラノ。歯のことがあるからSx減らして歌多めかな、なんて思っていたがそんなことはなかった。ですよね。そういうひとではなかった。しかし高音厳しそうだったなー。反面、面白いくらい声出るようになってて笑ってしまった。声量も、声の伸びも、ファルセットだけじゃなくて地声もスカーンと抜けるような響き。先述のおじいちゃんがぬぬ、といった様子で席から乗り出し始めたのが「嵐が丘」のスキャット辺りからだった。いい声ですよね。

もともとステージ前にダイエットするひとですが、ひとめ見て「痩せたなー!」と思う。それにしたって昨年から災難続き、思えば前厄じゃん。お祓いに行きなよ。儀礼を重んじる反面、それが自身に降りかかることとなると意図的に避けそうな方でもありますよね(…)。

で、満身創痍でも(だと?)演奏が冴える。指揮が冴える。楽団もそれにピタリと反応する。「(レパートリー曲の演奏は)難しくはない」といっていたけれど、違うひとがコンダクトしたらああはならないだろう。ソロのタイミング、戻りのタイミング。プレイヤー同士のケミストリー、聴衆の表面張力を見切る嗅覚。「ルペ・ベレスの葬儀」では今迄聴いたことがない、「大空位時代」に接続するような長調のハーモニーが顕れた。ストリングス四人の弓から松ヤニの粉が舞う。弓がちぎれてふわふわと揺れる。エレガントだけどスリリング。フィジカル直結の演奏は危うく儚い。この瞬間にしかない。

「元老院」の堀米さんと大儀見さんがいることの安心感、毎回チャレンジングなソロやリフをブッ込んでくる鳥越さんと林さん。「Killing Time」でディストーションをかけたギターのようなソロが聴こえてきて、鳥越さん何やってんの!? エフェクターかましてるの? と思って見てみれば、ネックと弦の間に紙を挟んでボウイングしている。これ以前もやってたなあ。でもそのときはギターと聴き間違うことはなかった、ここ迄激しくはなかった。それがまたすごく良くて。「小鳥たちのためにII」では流麗、「色悪」では跳ねまくる林さんのリフに、隣席のおばあちゃんはますます激しく身体を揺らす。着席のダンスフロア。牛山さんのカデンツァはますます切れ味鋭く、関口さんは演奏の激しさとは裏腹なアイドルっぷり。弦の四人が固まったのは大きい。

本編を終え、アンコール前に一気におしゃべりタイム。しかも「時間が余ったので」めちゃめちゃ喋る。内容ほぼ書けねえ。まあ大丈夫そうなとこをちょっと。「お客様の前で言い訳といいますか、てめえのことを晒すのもなんなのですがね」と前置き。

今年に入ってから靭帯を二度伸ばし、熱いカレーを喰って口蓋を火傷、行った歯医者で歯根がヤバい、インプラントにする? 自分の血液を培養して歯根を再生出来ます、あっそうします! てことで今は仮歯です。演奏なんてしちゃダメです、いや演奏しないなんて出来ませんという歯科医との押し問答の末、演奏したらその都度CT撮って経過を診ましょうということになっています。さっき演奏してたらミリッていって、血の味がしてきましたあっはっは。いつものあの話術でまあウケるウケる。

しかしそうしたオモシロ話のなかに、やっぱり芸能もんとしての真摯な姿勢と、聴衆に対する礼節がある。歌舞伎の話から、玉三郎丈の「お客様にああ今日来てよかった、生きていてよかったと思って頂けるものをお届けするために日々お稽古している」という言葉を引用し、「本日の公演がそうあれば幸甚に存じます」。

CDJがセッティングされていたので「大空位時代」はやるだろうと思っていた。「我々の楽団による演奏権(レパートリー権)を頂けたので」とのこと。いろいろ制約があるなか、演奏出来るのはうれしいこと。てかサントラ出してほしいわ〜。お願いしますよNHKさん。

本日最後の、この曲終盤に地震があった。なにせ両隣がノリノリだったため、座席はずっとゆさゆさ揺れていたので最初は気付かなかった。ズン、と突き上げるような揺れがありハッとする。客電がつく。それを知るや知らずや楽団は演奏を続け、やがて聴衆の動揺も静まった。「お客様にああ今日来てよかった、生きていてよかったと思って頂けるものをお届けするために日々お稽古している」。今日の演奏を象徴するような出来事だった。

アスリート的な面もある訳で、以前から60(65だったか?)になったら実演は引退みたいなことをいってるからなあ……。いつ迄も聴けると思うなよということで行けるときは行っておきたい。何しろこんな名手、他にはいないのだ。生きることの痛みと苦しみ、そして快楽を届けてくれる名手は。

その後メルマガが届く。やはり歯はヤバいことになったそうです。そりゃそうですよね……やっちゃった瞬間のことが書いてあったけど、序盤も序盤、「京マチ子の夜」1サビで派手にリードミスをして「わっ、大丈夫?」と思った箇所だった。そういう面倒全部診てくれるいい歯医者さんのようでよかったです。という訳でお祓いに行ってください(再)!