| 2009年10月03日(土) |
第九回 活人拳講義録/実技 閂は合掌形の極致？ |
■合掌形の極小形について説明しよう。
「合掌の極小形ですか？」
――ようするに手指の形状のことだね。以前、中野先生が機関紙であったか、月刊誌であったか、閂固めの写真を見ていて深くため息をつかれたことがあった。それでお尋ねしたところ、「親指が逆でしょう!?」と言われた。固めた両親指が逆に重なっていていたんだ。少林寺拳法の技が精妙というのは、例えばこのような指の位置ひとつで、技の効果が増したり薄れたりするところにあるようで、先生から見れば大きな問題であったのかもしれない…。
「以前から疑問なのですが、なぜ逆に重ねてはいけないのですか？」
――この質問は意外な感じがする。今まで説明不足だったかな。いやいや、長い拳法人生の宿題として考えても良いかもしれないね。まあ、私なりの答えを言おう。昔開祖が、「ワシは閂が得意なのだ！」と話されたのを、当時、御付をしていた山門の同僚が聞き、先生はこう攻められた＝手の形状をこうされた、と教えてくれた(『教範/第四章 五花拳 第三系 白欄 片手閂投』参照)。当時も、その後道院長になってからも、理解するのに膨大な時間を要したが、これが合掌形で、質問の答えに大きく関わる。
先生の閂投げは何度か拝見している。改めて教範の写真を検証すると、掛け手の形状は手首をしっかり生かされた合掌そのもの。翻って、自身の合掌のロックが甘い人は、閂＝逆技の効かしも甘いのかもしれない。合掌は奥が深い。自分だけ正しい合掌をしてもダメ。自他共に正しい合掌を行なって拝み合うのが理想形で、技もそうだ。閂の基準線とは言わないが然り。逆小手の基準線も然り。活人拳では合掌形ということになる。。
閂の掛け手＝合掌形＝基準線を順手逆手、交差非交差、甲側掌側、内旋外旋、活かし殺しで分類してみるとイイ。これは宿題としよう！
■合掌の意味すること
相手の左手を閂固めで捕るとして、我の左手は四指を曲げて母指球に掛ける。この時、どのような手の形状が具合が良いか、やってごらん。
―固めを行ないながら、お互いの手の観察する―
――合掌ということで何か気付かないかな？
「……？」
――合掌というのは手の掌を大きく広げている形でしょう!? だけど、何人か左手の四指を曲げるのは良いが掛け手が深過ぎて、掌が小さくなっている。むしろ熊手のように指と掌が反り返る様に掛ける。つまりどういうこと？
「掛け手は浅くすると言うことですか？」
――そう！で、右手は左手指の浅い掛かりを補完する。その際の右手の形状は、三指を掛けて親指と人差し指を張る＝鉄砲のような形と、四指を掛け親指を立てる形がある。どちらが正しいかは置いて、ここで指の機能解剖的な説明をしよう。まっ、専門家ではないので割り引いて欲しい。
親指と小指は対立筋と言い、片方が曲がれば片方は伸びる。逆に言えば、片方が伸びれば片方は曲がる関係にある。例えば、ティーカップを小指を立てて飲む人がいる。若い女性はイヤラシイ！などと言うが、実は自然な身体の動きなんだ。 ―一同笑い― また、赤ちゃんがモノを握る時、親指を立てるのも同様。新入門に正拳を握らせても、別な動作を加えると親指が立ってしまう事がある。後輩指導をおろそかにしてはいけない。人間の自然な動作や反応を、彼等や少年部から学ぶことが出来る。
■多角的視点
「私はボウリングをするんですが、球を掴むのに親指、中指、薬指と曲げ、人差し指、小指を伸ばすのも、何か関係がありますか？」
――他分野との共通点や関連性を考えることは大切な視点だ。ボウリングで人差し指を立てるのは手首を固定させる為。中指と薬指の穴はカーブを出しやすくする為。親指の掴みで安定させ、対立筋である小指を広げ、結果、掌を大きくして重い球体を支えやすくするのだろう。良く考えられているね。
曲げると伸びるという関係以外に、親指が開けば小指も開く。古来からこの手の形状で身近な寸法を測ったのだろう。残り三指を曲げても同じかな。この形で手を振ると電話のサインだね。影絵の狐の形はボウリング形か。親指と人差し指を付けるＯＫサインは、機能解剖的にやり易い形だからだろう。親指を立てるグッドのサインもだ。五指を全部伸ばして指先を付ける少林寺拳法の鳥手もやり易い。しかしこの機能解剖的意味は分からない。小指を立てるのが彼女を指すのは分かる。―一同笑い―
話しはそれるけど、ボディランゲージは、やはり欧米が得意なのかな。日本で両人差し指をコメカミ辺りに立てると怒りを表すが、欧米ではサターンの意なのだそうだ。陰陽道とか真言密教に宇宙と会話できるという独特な手の形状があるらしいが、研究すると面白いだろうね。もっとも我々は合掌と結手という法形で、すでに実行している。ともかく、色々な形状を確認してごらん！
―皆それぞれ手指の形状を作り始める―
単純に開手の方が目一杯開きやすいでしょう!? ただし鈎手の場合、指が反る感じではなくて、手掌を円やかにする感じ。合気道に、もう少し掌を窪ませた朝顔という手形があるらしい。思うところがあるが他流のことなので避ける。
合掌の変化形である掛け手は手刀を基本とし、�，気蕕房蠅魍�く鈎手形(掛け手様に四部位の使用が可能)��二指屈曲形��三指屈曲形�せ融惷�曲形�ジ淹惷�曲形�Δ修梁召�あり、それぞれが技に対応して、深浅、手首の角度、反る丸める、曲げる伸ばす、の要素が加わって変化する。一技の中に、掛け手が素早くニ連変化する場合もある。例えば、小手投げ、押さえ閂投げがそう！―手形で示す―
■逆技は全てが合掌形？
話しが戻って、なぜ閂固めの指の重ねが逆ではいけないか、分かったかな。
「…分かりません」
――ではヒントを与えよう。合掌の意味とはなんだったかな？ それとボウリングの説明で言った、小指が対立筋によってあの形になるのはどういう意味があったかな？
「分かりました！(相手の左手を固めるとして)自分の左親指を開いて掌を大きくする為に、右親指の内側にしてはいけないのです」
――正解だね。補足すると、位置が逆になると、本来は左親指が開くよう操作する為、内側にあると右手の補完操作に反することになる。また閂固めをする場合、手首の急所＝陽谷を攻める人がいるが、掛け手本来の意味である（合）掌攻めを損なうので、私はさせない。掌が狭まるのは合掌形ではないんだよ。まあテーマが異なれば別だ。しかし開祖の閂攻めは、掌を広げた明らかな大拳頭攻めなんだ。ただし単純にそれだけでは無い。中野先生も閂は得意で、開祖の直伝なのだろう。先生の片手閂投はとても痛い！以前、先生にこの技の写真を何枚も撮らせて頂いたことがある。見事な技に感動したのと、資料にもなって合掌形を確信した。
■開祖の大拳頭攻め
開祖の大拳頭攻めを述べておこう。まだ第一修練道場しかない時代＝昭和44年頃だったかな、指導者講習会に参加した時の話。参加者が大勢で本山に収まりきれず、多度津中学の講堂に移動して実技の練習をしていた。すると開祖が現れ、田原先生を相手に逆小手の指導を始められ、こう言われた。
「皆の逆小手は99％できているのに、最後の1％で失敗している」
と、倒れる寸前ギリギリのところ＝逆小手の基準線で止め、
「いいか、このように極まれば、あとは指一本で倒れる！」と、相手の大拳頭を人差し指で軽くトン！と叩いて倒された。会場がオー！と沸いたね。この位置＝大拳頭と、軽く叩いた方向＝角度が閂のコツなのだろう！冒頭、同僚に教えてもらった開祖の攻め方＝掛け手の形と符合する。
ともかく掌を張り、我の手首を生かし、彼の手首を順逆たる閂形に殺し、大拳頭を攻める。捕りでも殺しでも、形状こそ異なるが逆技とは、「彼我の手が合掌している形」と映る。
言葉では分からないだろうから、閂固めの実技を行ない、合掌の精妙形を確認しよう！
「ハイ！」
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