道院長の書きたい放題

2002年02月08日(金) ◆(続・続) K1対 猪ノ木軍/異次元の戦い!

 相手の出方が判らない場合、どの様に闘うのでしょう。前例があれば参考になりますが、それが全く無いと恐怖でしょうね。昨年のNHK大河ドラマ『北条時宗』。蒙古襲来の場面を興味深く観ました。個人戦を主張する日本軍に集団で襲い掛かり、火薬、毒矢、馬の脚を切るのを卑怯としない等などの蒙古戦法に、一回目/文永の役で日本軍は惨敗しました…。

■ 打撃系と組み技/寝技系が激突する興行・アルティメット大会(組み技同士もある)が行われた当初、打撃系は全く歯が立たず、特に空手関係者は慌てたようです。この理由は明らかで、寝技に持ち込まれ、関節、締めで攻めるという戦法に対して無策であり、もうひとつは、組み技/寝技系側が打撃系の闘いを研究して挑んだ。闘い慣れしていたことが上げられます。出場した打撃系選手のレベルもどうでしたでしょうか。

現在、この差はだいぶ縮まってきましたか…。しかし、ミルコ選手にしてもプロレスラーには勝っていますが、柔術系の選手とは未対戦ですから…これからですね。

さて、技術的な問題を述べます。

◆ 相手が上半身に組み付いてくる場合、フックを打つと、むしろ相手をますます呼び込んでしまう形になるようです。レバンナ対安田戦にこれが認められました。

安田選手は予想を覆す勝ちですが、内容は決して誉められたものではありません。柔道経験者であるとはいえ、打撃系のレバンナ選手に1R袈裟固めを決められてしまうのではどうでしょう…。他の打撃系選手との対戦でも、上段に強烈な蹴りを受けて負けています。ガムシャラに前に出て組み付こうとするだけではパンチ、蹴りにあまりに無防備で人体への危険な感じがします。今回はレバンナ選手の異種格闘技戦、不慣れに助けられましたか…。

◆ タックルは掛ける直前まで相手を見ていて、外さないという確信の距離までギリギリ詰めて、急に沈むのが最上の様です。あたかも潜水艦が潜望鏡を使うのに似ています。

タックルは上半身、腰部、大腿部、下腿部を狙いに来ます。上半身を狙う場合は頭を低くして突っ込んで来ます。下腿部は床に伏すように来ます。腰部、大腿部について、潜望鏡と急潜水の状態が見られます。相手が潜望鏡/頭を下げた時点では、すでに間合いに入られているようです。その直前の無防備状態が一瞬のチャンスであり、沈もうとする刹那、永田選手の顔面に突きを決めたのがミルコ選手でした。

打撃系で対タックルを研究して実践出来るのが彼/ミルコ選手で、優れた身体能力がそれを可能とするのでしょう。ですから、(上方から硬い頭を打てる)肘打ち禁止は打撃系にとって不利であり、これがあればさらに有利さが増すでしょう。

◆ 非常に面白いのは、ゴングが鳴ると打撃系の選手はほとんど無意識(?)に前に出て来ます。出るというより、スーと近寄ってきます。アレはなんなのでしょう。グローブを会わせようとしているのでしょうか…? それに引替え、組み技/寝技系の選手は明らかに違うテンポで前に出て来て、一瞬に組み付いてしまいます。不慣れな打撃系の選手ほどこれをやられます。戦闘の「間」の違いなのでしょうか。ヒクソン選手が日本で初めての試合を披露した時、相手の西選手がこれ(すでに技?)を食いました。

元々組み技/寝技系は倒れたってかまわないのですから、重心は高くても良いのです。しかし、打撃系は倒されては不利なのですから、重心を安定して相手の突進/接近を警戒するスタートを切らなければなりません。

◆ 打撃系でメジャーな技であるローキックが、異種格闘技戦ではなかなか現れません。一時期、少林寺拳法の本部でも対ローキックを試行した時期がありました…。痛いですが…一発で決まり辛いローキックはあくまで試合用の技で、決まらなければ蹴りほど危険な技はありません。

◆ 結局、試合を観た最大の感想は、例えば、打撃系では金的が禁止されているので大きなモーションの技が可能です。したがって華麗な回し蹴りが放たれますが、時々カウンターの順蹴りが金的に当たり試合がストップするのを目撃します。

同様に、打撃系と組み技/寝技系の試合でも、もしあそこで金的を掴まれたら、もしあそこで噛み付かれたら、もしあそこで目を突かれたら、等などと考えると「本当の強さとは何だろう?」という結論に達せざるを得ません。いや、「強さの結論を出してどうするの?」という思いが湧き上がってきます。本音を言わしてもらえば…興行として観る分には面白いですが…。

宮本武蔵は晩年、「腕を切る!」と主張します。また、柳生新蔭流の極意「無刀取り」など、ノンルールを経た剣聖が辿りついた境地は「人を殺す虚しさ」であり、それよりも、人を教育する手段に(この場合は剣ですが)武術を活用する「道」だったのです。

我々、少林寺拳法の拳士は異種格闘技戦を観て、改めて活人拳の主張と技法の尊さを実感すべきと考えます。

以上、多少長くなりましたが終わります。


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あつみ [MAIL]