道院長の書きたい放題

2001年11月30日(金) ■縦拳と横拳の話!

■ 縦拳と横拳の比較をしてみましょう。優劣を述べたものではありません。

□1.身体を自然な状態にして、すなわち、腕は真っ直ぐに垂れています。この状態から手を内旋/送り小手の方向に捻りますと、腕は身体の中心に寄って来ます。今度は、腕を90°に曲げてから同じ動作を試みると、肘が上がり出します。

次に、手を伸ばして外旋/小手投げの方向に捻ると、腕は身体の中心から離れます。腕を90°に曲げれば、肘は絞られる様に中心に寄ってきます。この身体の法則を理解して下さい。


□2.空手家と突きに関する話をしたことはありませんが、空手の突きは捻りながら突くのか、当たる瞬間に捻るのかは、この事実から明らかだと思います。すなわち、当たる瞬間に捻ると、拳は目標にグイとばかりに食い込みます。ボクサー(とは話をしました)はこの時、さらに手首のスナップを利かせます。空手も多分、同様でしょう…。

よく横拳が肘が浮き易いといわれるのは、捻る時期が中途半端なのです。厳密にいえば、拳甲を下に構えた状態から、早い段階で一端90°に捻ります。縦拳の状態で発射されるのです。そして、当たる直前で上述のように捻ります。

以前、空手の月刊誌にこの問題が論じられていました。探したのですが現物が見つかりません。確かに書いてあったのは事実です。内容は、「横拳といえども、接近した状態での中段突きには縦拳が有効であろう」というものでした。


□3.さて、問題はここからです。少林寺拳法の突きは“肩腰を入れる、ボクシングやタイ拳法などと同様な突き”と思われていますが、拳の形状、並びに腕の捻る動作は、実は、空手とボクシング、タイ拳法とが同種なのです。

この横拳/捻突きの突き方は、顔面に対して非常に特徴のある突き方で、面状のものを突くのに適しています。硬い二指、三指の拳頭を中心に当てることが容易です。いみじくも、空手では(面状の)巻き藁を突いて、拳頭を鍛えることからもうかがい知れます。

「少林寺拳法では拳頭を鍛えない!」のではなく、縦拳は形状から、面状のもの/例えば巻き藁を突くのに適していないのです。縦拳は(表現が難しい)、線状というか、やはり三日月、下顎のラインに十字に交差させるように突くのです。これに適しています。


□4.横拳で顔面を突くと、人体に対して多大な損傷が予想されます。突起部の鼻や歯、頬骨は骨折するでしょうし、眼窩に当たれば、出血します。しかし、これは歴史や環境からの必然性があるのです。

空手という武道は、薩摩藩から武器を取り上げられた沖縄島民が自衛の為に、素手/身体を武器化し、また農耕器具などを武器とした武術を源流としています。ですから空手では、“拳は武器”であることが正しいのです。したがって、試合は怪我を避ける為に寸止めにします。

これは、非常に優れた方法であると考えます。無意識に対して、軽々しく武技を使用しない、意識を通じてブレーキをかけることになるからです。

一方、古代から格闘を楽しむ(?)習慣を持っていた我々は、職業としての格闘士や、それに類するスポーツ/ボクシングなどを発生させました。危険を避ける為にグローブを着け、ルールを決め、そこでは思い切り顔面を殴っても、例え怪我をさせても、許される環境や立場が生まれたのです。


□5.しかし、少林寺拳法はそうは行きません。「宗門の行」として、仮に争い事になっても、傷害させないという制約があります。これはちょうど、軍人が拳銃で的を撃つ時、丸い的を人体の急所としてイメージしているのか、あるいは日本の警察のように、的は手足とイメージして撃つことに、ある意味、近いですか…。

まあ、縦拳で三日月を突くことが100%安全とは言いません。しかし、注意してみると、少林寺拳法の反撃方法は上中突き、あるいは目打ち中段突きが多いです。我々は上段を続けて二度叩くことを好みません。ある種、目打ちの効用のような上段突きから、中段を主に突くのが少林寺拳法、剛法の特徴のように思えます。


□6.少林寺拳法の基本では、開足中段構えから上段、中段を突かせることが非常に興味深いです。中段の突き方と上段の突き方の基本は全く一致/下方から急所を突き上げるのです。上段も下方から三日月に迫ります。傷害を避ける意識を持った、独特な突き方といえます。

この点、横拳は下方から迫って、上段/顔面直前で一挙に浮上します。肩腰を入れれば、縦拳より伸びるのではないでしょうか。無条件で顔を叩くなら、こちらの方が勝って(?)います。ただし、怪我をさせ難い武技(縦拳の用法)は、全力で使用出来る利点があります。


□7.注意すべき二点を上げます。

●開足中段の構え、拳の位置を高く取る人がいます。自身の少林寺拳法のイメージが格闘的になっています。顔を面状に捉えています。拳士は顔を的と考えてはいけません。

●教範には、「上段直突きは捻る」との記述があります。私は長いことこの意味が分からず、悩まされました。少林寺拳法の指導者の中にも、「だから捻るのだ!」といって、上段を横拳で突く人を見たことがあります。

これは順突きでも、逆突きでも、三日月に対して、直角、縦拳と三日月のラインを十字に合わせることに主眼を置いたもので、捻って、顔面を面状/的に突く意味ではありません。近年になって、活人拳の思想から来ている記述であると、ようやく得悟しました。


なお、突きに関してはまだ述べたいことがありますので、いずれ述べたいと思います。



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あつみ [MAIL]