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■ カッター・シャワー。
水が、私の服を濡らしていく。 その場に座り込んで、流れる水を手に取った。 かけている眼鏡が、鬱陶しい。
それをタイルの上に置いて、 代わりに、カッターを手に取り。
クス。
一つ笑って、 濡れた髪の毛をかきあげた。
別に何かがあったわけじゃなかった。 普段どおりの、日曜日。・・・そう、私以外は。
朝から記憶が飛んでいる。 布団の上に、ぬいぐるみが放り出してあるのを見て、 ああ、友紀か。と思った。 最近、ずっと出てきてなかったのになあ・・・。 特に、あきらが出てきたぐらいから。
あの子は、「怖い人」が嫌いだから。
意味もなく、カッターの刃を出し入れする。
カチ、カチ、カチ、カチ。
紙を切るのに使う道具。 自分を切るのに使う道具。 何かを剥がすのに使う道具。 自分を刺すのに使う道具。
・・・、 これは、道具か、はたまた、凶器か。
・・・どちらにせよ、私には必要なもの。
この間つけたばかりの、紅い線を見る。 すでに紅みは引いて、かさぶたもはがれかけていた。
「なんでこんなに治り早いんだろ・・・。」
切っても切っても、治ってしまう。 それはつける傷が浅いから。
・・・もっと、深く傷つければ? 一度だって血管を傷つけたことはないでしょう?
以前なら惑わされた誘惑にも、何も感じはしなかった。
あったはずの自傷理由は、どこかに行ってしまったし。 また、"なんとなく"に、逆戻り。
そして、今日も。
水に濡れたカッターの刃を、そっと肌に当てる。 軽く滑らせて、薄い線を残した。 紅くなった水が、ゆっくりと腕を伝い落ちていく。
「ああ・・・"キレイ"だ。」
もう、一本。
全身を、安堵感がつつむ。 "生きている実感"を感じたわけじゃない。 そんなもの、自傷なんかじゃ得られないって解かってる。
ただ。 血が、紅かった。
それだけ。
濡れた服が、肌にまとわりつく。 だけど、イヤな感触じゃなかった。
「・・・いい、気晴らしには、なるかな。」
意味を持たない行為。 そんな事は解かってる。 でも、一瞬だけ感じた「美」を、 また、得られるのなら・・・。 決して、高くは、ないんじゃないか?
2002年03月10日(日)
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