おぎそんの日記
おぎそん



 いつか大人になる日

 「ねぇ瀬尾さん。ずっと前、こんな歌が流行ったじゃないですか。メダカの兄弟が川の中、大きくなったら何になるって。メダカたちは、コイやクジラになりたかったのに、結局、大きくなってもメダカのままなんです」

 「そりゃそうだろう」瀬尾さんが相槌を打つ。「コイはともかく、クジラは哺乳類だ。いくらなんでも、魚類から哺乳類にはなれないだろ」

 私はぽかんと相手の横顔を見やった。どうやら大真面目に言っているらしい。この人も、時々面白いことを言う。

 「・・・・・・そういうことじゃ、ないんですよ」私は笑いをこらえながら言った。「どうして人間は大きくなったら何かにならなきゃ、ならないんでしょうかね?」

 「別に他のものになる必要はないじゃないか。今のままでいいよ、君は君なんだから」

 たぶん私はそのとき、少しばかり赤くなっていた。だが暗闇では誰に知れる心配もない。

 「えっと、私が言っているのは、少し違うことなんです。私たちはどうしたって大人になっていかなきゃいけないでしょう?歳をとらなきゃいけないの。どうしたって、子どものままじゃいられないもの。回転木馬は逆向きには回らないんです」

 「ブラッドベリの『何かが道をやってくる』だね」
 そう言った相手の顔を見て、思わずにこりと笑ってしまった。ええ、とうなづき、
 「サリンジャーの『ライ麦畑でつかまえて』のラストにも、回転木馬が出てきますよね。妹のフィービィーが木馬に乗ってホールディングがそれを見てて。私、あのラストシーン大好き」

 「行こうか、今から」
 ふいに瀬尾さんが言った。

 「どこへ?」

 「遊園地」
 言いながら、彼はにやりと笑った。屈託のない、子どものような笑顔だった。

2003年09月07日(日)
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