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■ いつか大人になる日
「ねぇ瀬尾さん。ずっと前、こんな歌が流行ったじゃないですか。メダカの兄弟が川の中、大きくなったら何になるって。メダカたちは、コイやクジラになりたかったのに、結局、大きくなってもメダカのままなんです」
「そりゃそうだろう」瀬尾さんが相槌を打つ。「コイはともかく、クジラは哺乳類だ。いくらなんでも、魚類から哺乳類にはなれないだろ」
私はぽかんと相手の横顔を見やった。どうやら大真面目に言っているらしい。この人も、時々面白いことを言う。
「・・・・・・そういうことじゃ、ないんですよ」私は笑いをこらえながら言った。「どうして人間は大きくなったら何かにならなきゃ、ならないんでしょうかね?」
「別に他のものになる必要はないじゃないか。今のままでいいよ、君は君なんだから」
たぶん私はそのとき、少しばかり赤くなっていた。だが暗闇では誰に知れる心配もない。
「えっと、私が言っているのは、少し違うことなんです。私たちはどうしたって大人になっていかなきゃいけないでしょう?歳をとらなきゃいけないの。どうしたって、子どものままじゃいられないもの。回転木馬は逆向きには回らないんです」
「ブラッドベリの『何かが道をやってくる』だね」 そう言った相手の顔を見て、思わずにこりと笑ってしまった。ええ、とうなづき、 「サリンジャーの『ライ麦畑でつかまえて』のラストにも、回転木馬が出てきますよね。妹のフィービィーが木馬に乗ってホールディングがそれを見てて。私、あのラストシーン大好き」
「行こうか、今から」 ふいに瀬尾さんが言った。
「どこへ?」
「遊園地」 言いながら、彼はにやりと笑った。屈託のない、子どものような笑顔だった。
2003年09月07日(日)
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