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ブーツィラの音楽雑記



 “今を生きる琵琶盲僧” 永田法順 − 銕仙会能楽研修所公演

500年もの時空を超えて今に伝わる、琵琶盲僧・永田法順師による祈り。祈りは、仏教の教えを説く釈文(しゃくもん)を物語りながら、法具でもある琵琶を伴奏楽器として用いる。やや高音に調弦されたその響きは、CDでの印象よりもさらに繊細な肌触り。どことなくシタールにも通じる音色で、陰影のある黄金色のようだ。強烈などら声で釈文を物語る永田法順師のリズミカルな琵琶の弾き語りに合わせ、いつの間にか私は控えめながら体でリズムを取っていた。国立歴史民俗博物館の小島美子名誉教授は、「東の横綱が津軽三味線の高橋竹山ならば、西の横綱は永田法順」と評している。

宮崎県延岡市にある天台宗の寺・長久山浄満寺の第十五世住職、永田法順(1935−)。琵琶を背負い、杖をつきながら、1年かけて約970の檀家廻りを今でも続けている。不浄を祓い、家内安全・五穀豊穣・無病息災などの祈願を、琵琶の弾き語りとともに行う。それは、何百年も前の琵琶盲僧そのままの形態らしい。永田法順師が「最後の琵琶盲僧」とも言われる所以だ。

宮崎県の無形文化財保持者に認定されている永田法順師の演奏会を、東京・表参道の銕仙会能楽研修所で観る。2005年10月に発売された全集『日向の琵琶盲僧 永田法順』(6CD+DVD[檀家廻りを中心とした映像]+写真集)のうちの6CD「日向の琵琶盲僧 永田法順の世界」が、平成17年度文化庁芸術祭大賞(レコード部門)を受賞した記念の演奏会で、前日の6/2(金)には大阪倶楽部でも開催されている。

元NHKチーフディレクターの川野楠己氏による「ごあいさつ」と、武蔵野音楽大学の薦田治子教授による「解説」、休憩を合間に挟み、永田法順師は、盲僧が何百年も前から口頭で伝承してきた釈文のうち、「琵琶の釈」(20数分)と「五郎王子の物語−《初段》王子の釈」(30数分)を演じてくださった。「琵琶の釈」の前に行われた、永田法順師による場を清める作法とお祓いの後には、八百万の神仏が鎮座されていたことだろう。開演から終演まで2時間弱。個人的な音楽史に残る貴重な音楽体験をさせてもらった。

私が問い合わせた時にはすでに「満席」だったにも関わらず、ご厚意によりチケットを送ってくださった、主催の中心となって尽力された東京公演担当の元NHKチーフディレクター・川野楠己氏に感謝している。

全集『日向の琵琶盲僧 永田法順』の詳細→右上の[進む]をクリック→永田法順プロフィール→左上のボタンをクリック→釈文(しゃくもん)の試聴(約33秒)
永田法順師による盲僧琵琶の弾き語りの動画が1分間ながら見られる『文化デジタルライブラリー』(「舞台芸術教材1」→「日本の伝統音楽 楽器編」→「楽器図鑑」→「盲僧琵琶」(一番右上)→永田法順師の画像をクリック)



2006年06月03日(土)
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