TOM's Diary
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S氏はどこでも自動ドアの改良を考えていた。 どこでも自動ドアと言うのは数日前に開発したものだが、 大きな欠点があった。ドアを通り抜ければどこでも好きな ところに行けるのだが、行った先にどこでも自動ドアはない。 つまり帰りは電車か飛行機を使わなければならないことに なる。切符は片道になるので往復割引も効かない。
とにかくどこでも自動ドアが、目的地に一緒に移動して くれればいいのだが、ドアの開口部よりもどこでも自動 ドアの方が大きいのでその中を通すことは無理だ。
そこでS氏はドア枠を大きくすることを考えついた。
どこでも自動ドアは、ドアとドアの枠と制御板から成り 立っている。ドアにはいろいろな装置が付いていて とても重たいため自動ドアとなっている。ドア枠には ドアの部分の時空を曲げて直接目的地に繋げるための 装置が取り付けてある。
ドアはドア枠が時空を曲げる際のいろんな電磁波などを 防御するための仕掛けがついているのだが、引き戸タイプ になっていて、引き戸を開けたときにドアが収まる部分に はそれらの仕掛けは付いていない。そこで、その部分にも その仕掛けを追加し、ドア枠をそれより大きくするのだ。
どこでも自動ドアはとても大掛かりな装置なので、どこでも 自動ドア自体を簡単に動かせるように油圧で押し出す装置も 取り付けた。
S氏は完成したどこでも自動ドアをさっそく試してみる ことにした。
せっかくなので、目的地は暖かい地方がいいだろう。 S氏は常夏の島を目的地にセットした。 ドアの前に立つと自動ドアが開いた。 椰子の木や南国の花々、まばゆい太陽の光が目に入った。 S氏はコートを脱いで夏らしい格好でドアを通り抜けた。 リモコンのスイッチを押すとドアが油圧でこちら側に移動 してきた。成功!
S氏がドアから離れると自動ドアが閉まった。 さて、これからどこへ行こう。 まずは海だな。 S氏は海へ向かって歩こうとした。 どこでも自動ドアはどうしよう・・・とてもじゃないが 押して歩くわけには行かない。クレーンでもないと持ち上げ られないほど重たいのだ。
どうせ、盗まれることはないだろう。 S氏はそのまま海へ行こうとすると、警官がやってきた。 その警官は英語でS氏をまくしたてるのだが、言っていることが よく判らない。ジェスチャー交じりでようやく「こんなものを 道路の真中に置いていったら通行の邪魔だ」と言っているようだった。
S氏は仕方なく、どこでも自動ドアを使って一旦家に帰ることにした。 今度は小型化して持ち運べるようにしなくては。 なんなら四つんばいになってやっと通れるくらいのサイズだって十分だ。
そんなことを考えながらS氏は目的地を自宅にセットしドアを開けた。 しかし、ドアの向こうに家はなかった。 それどころか、今いる場所のままである。 時空がまったく曲げられていないのだ。
電源? いや、そんなこともあろうかと燃料電池で動くようにしてあるし、 燃料を確認すると満タンに入っている。 S氏はもう一度どこでも自動ドアをチェックした。
・・・ドア枠?
そう、どこでも自動ドアはドア枠内を移動してこちらに来たが ドア枠はドア枠の中を通りぬけることは出来ない。
S氏は結局、往復割引の効かない片道の飛行機の切符を買うことに なるのだった。
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