TOM's Diary
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トラックに乗って帰ってきたS氏は、ソリなんてものを思いついた 自分の馬鹿さかげんに、失意の色を隠しきれなかった。
たとえば、あっという間にどこにでも行ける装置を作るとか もっと自分に向いた発明をするべきだったのだ。 そうか、あっという間にどこにでも行ける装置を作れば良いんだ。
S氏はさっそく設計図を書き始めた。 行きたいところをセットして玄関を開けると、その場所にいけるのがよい。 あたかも家がその場所に移動したかのようで、おもしろい。
行きたいところをセットする装置を設計するのには苦労したが、 設計図は比較的簡単に出来た。 あとは実際に作るだけである。 部品を買いに行こうと思ったS氏だが、こんなときに行きたいところに 行ける玄関があればとっても便利だと、改めて思った。
どうしても装置が大きくなってしまうため、今の玄関には取り付けられず、 玄関の外にもう一つ新しいドアを付けることにした。扉も重たくなって しまったので、自動ドアのように機械で自動で開くようにした。 家のドアを自動ドアにしたかったS氏にとっては一挙両得であった。
完成したドアをS氏はさっそく使ってみることにした。 目的地はタコで不時着したあの街にした。 あれからどのくらい雪が降り積もったのか見届けたかったからだ。
目的地をセットして、ドアが開くと雪で染まった真っ白な世界が 広がった。 「おぉ!」 S氏はコートも羽織らず外に飛び出した。 そこはまさに雪国だった。 真っ白な道路を真っ白に染まったクルマがゆっくりと行き交い 真っ白な街路樹や真っ白な建物の間を雪が舞い落ちる。
S氏が振り返ると、どこにでも行ける自動ドアが閉まるところだった。 S氏にはどこにでも行ける自動ドアが閉まる様子がスローモーションの ように見えた。
どこにでも行ける自動ドアは家にある。 ここにはない。 このドアが閉まったらどうやって家に帰ればいいのだろう?
S氏の身体はとっさには動かなかった。 ドアが閉まるとそこにはなにもなくなった。 自動ドアにしたこを非常に後悔したS氏だがあとの祭りである。
今度こそ、お財布も何も持っていない。 この寒さのなか、コートさえ羽織っていないのだ。
あまりにも途方に暮れたS氏は茫然自失といった感じで その場にへたり込んだ。
どのくらいたっただろうか、S氏はようやくこのままでは 凍え死んでしまうと思い、立ち上がって方の雪を払い退けた。 これからどうしよう・・・・ そのとき、クラクションの音がして、目の前でトラック が急ブレーキをかけた。一旦通り過ぎたそのトラックは バックでS氏の目の前に戻ってきた。
さっきS氏を家まで送ってくれた運転手が狐につままれた ような顔でS氏の顔を覗き込んだ。 「あんたさっきの人だよねぇ?あのあと荷物を下ろして すぐに引き返してきたのに・・・」
トラックはS氏を乗せたまま、新しい荷物を積み込むと、 S氏の家に向かって走り始めたのだった。
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