TOM's Diary
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2005年02月24日(木)

春一番に飛ばされ、見知らぬ街に降り立ったS氏は途方にくれていた。
なにしろ、会社に行くつもりでお財布には社員証と小銭がわずかに
入っているだけで、帰るに帰れなかったからだ。

会社では社員証さえあれば、お金など必要ない。
お昼ご飯もジュースも社員証を機械にかざすだけで済んでしまう。
しかし、見知らぬ街ではそうもいかない。

不時着したときにはタコによる飛行時間、飛行距離、飛行高度の
三つの世界記録を樹立したと言うことで報道陣に囲まれ、そして
無許可飛行の容疑で警察に連れて行かれ、厳重注意を受け、ようやく
解放されたときには、外は真っ暗で雪が降り始めていた。

報道陣が待ち構えていれば、取材を受けてなにがしかの
謝礼でも貰い、それでなにか食べて帰りの電車に乗ろうと考えて
いたのだが、報道陣はだれも残っていなかった。
挙句に冷たい雪である。しかもどんどん積もっていく。
寒くてたまらない。踏んだり蹴ったりの一日だった。

S氏は今日は帰るのを断念した。
タコを解体してテントを作り朝まで一休みすることにした。
テントを組み立てていると、そばに小さなソリが落ちていた。
子供が忘れていったのだろう。

そうか、南風に乗ってこの街までやってきたのだから、ここは北国に
違いない。よく見ると公園の済には除雪したあとの雪の山がたくさん
あった。

そうだ、ソリを作ろう。
S氏は作りかけたテントに足をつけて、テントをソリにした。
あたりは良い感じに雪が降り積もっている。
S氏は雪のなかを、テント型ソリ引っ張り始めた。
目指すは、高速道路のサービスエリアだ。
不時着する直前にサービスエリアが見えたのを覚えている。

サービスエリア内にテント型ソリを持ち込むのに苦労したが
1時間ほどでなんなくサービスエリアに到着した。

サービスエリアでS氏はトラックのナンバープレートを
チェックし始めた。S氏の家があるのはT市である。
T市のナンバーをつけたトラックはなかなか見つからなかったが
ちょうどサービスエリアに入ってきたばかりのトラックに
T市のナンバーがついているのを見つけた。
S市は運転手にばれないようにそのトラックの荷台にテントを
結びつけた。

テントに入って待つこと10分。運転手が戻ってきたようだ。
S氏は運転手に見つからないように祈っていた。
トラックはエンジンをかけて動き始めた。どうやらばれずに
済んだようである。

ソリにはサスペンションは付いていなかったが、テントの床は
キャンパス地で張ってあり、それが衝撃を吸収して乗り心地は
それほど悪くなかった。
トラックが本線にでると、ぐんぐんスピードが上がり、これなら
あっという間に家に帰れそうである。

しかし、実際にはあっと言う間に雪国を出てしまった。
雪の無くなった高速道路はソリには過酷であった。
ソリはあっと言う間に壊れ、あっと言う間に運転手に見つかって
しまった。

運転台から降りてきた運転手は怒るのを通り越して、呆れていた。
「ソリなんか繋がないで、言ってくれりゃぁ、乗せてやったのに」
とにかく、S氏はそのトラックに便乗して無事に家にたどりつく
ことが出来たのだった。


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