TOM's Diary
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2005年02月23日(水) S氏のタコ

S氏が家を出ると、猛烈な風が吹いてきた。
そう言えば春一番が吹くと天気予報で言っていた。

砂粒が目に入って痛い。
S氏は目を細めながら歩きつづけた。
あたりを見ると、スカートを気にしながら歩く女性や
ネクタイをたなびかせているサラリーマンが目に付く中
風など意に介していないかのような小学生もいる。

S氏はふと考えた。
この風に乗って会社まで行ければ楽に違いない。

S氏は家に取って返し、キャンバス地の布とパイプフレームを
組み合わせてタコを作った。フレームにはS氏が乗れるように
足場と腰の部分にはベルトを取り付けた。

S氏はタコをあおって風をキャンバス地の布に導くと
ふわりと浮かび上がった。
これはいける!

しかしこのままでは風任せになってしまい、会社にたどり
つくことなど出来そうにない。
S氏は部屋に入り、PCを駆使して空力学的計算を行い、
制御翼の設計を行った。

さっそ制御翼をタコに取り付け、S氏は空に上がった。

空はとっても気持ちよかった。

下界は通勤ラッシュの喧騒が渦巻いているが、空は風の音以外は
とても静かである。空気も下界よりは綺麗な気がする。
S氏はゆったりと流れていく時間に魅了されていた。

そうだ、会社にこのタコで降り立ったたら同僚たちはなんて思うだろう。
羨望のまなざしで見られるに違いない。
それとも、タコ通勤は認められてないと言って注意されるかも知れない。
いや、タコ通勤を禁止するなどという規定は見た事がない。
ところで会社はどっちだ?

S氏はタコの快適さに会社に向かうことを忘れていた。
S氏はあたりを見回すと、会社とは反対方向に流されていた。
S氏は慌てて会社の方にタコを進めようとするが、逆風でどうしても
前に進めない。風に対向して進むには制御翼をもっと大きくして
前進する方向に力が働くようにしなければならなかったが、そこまで
設計していなかったのだ。

S氏はなんとか家にまででも戻ろうとするが、あっという間に見知らぬ
街の上空まで来てしまった。しかも、あまりの強風に高度はますます
上がる一方で降りることすら出来なかった。

S氏が500km離れた街の大きな交差点の真中に泣きそうになりながら
不時着したのはその日の夕方であった。
タコによる飛行距離新記録を祝う報道陣に囲まれたS氏は帰りの電車賃を
どうするかで頭がいっぱいだった。


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