TOM's Diary
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S氏は苦労の末、教習所の卒検を終えた。 路上試験に合格すると、さっそく高速教習などの 総仕上げが待っている。
今日の合格者は15名、ほとんどが高校生や大学生 など若い子ばかりだった。だがS氏一緒に高速教習を 受けることになったのはS氏と同世代の社会人ばかりの だった。一人はS氏と同い年の音楽家、もう一人は 少し年下のOLであった。3人とも卒検に合格した 開放感で陽気になっていた上、若い子達のノリについて いけずにうんざりしていたためか、すぐに意気投合した。
高速教習は、それまでの教習と違ってワキアイアイと した、まるで休日のドライブのような気分だった。 お天気もよく、風も心地よかった。 音楽家が運転しているときに何気なくとなりを見ると OLの笑顔がとても素敵に映った。 キラキラと輝く睫毛が印象的だ。 S氏は少し胸がドキドキして幸せな気分だった。 こんな風に胸がドキドキするのはとても久しぶりだった。
OLに心を奪われてしまったS氏だが、さすがにデートに 誘う勇気がでなかった。と、言うよりどうやって誘ったら 良いのか判らなかった。 「そうだ、やはり二人きりになれるシチュエーションで ないとなかなか誘いにくい。なんとか試験場に行く日を 聞き出して同じ日に行こう」
高速教習が終わった後、手続きが一通り済むまで3人で 雑談をしているときに、それとなく切り出した。 「試験上にはみんないつ行くんですか?」 どってことない質問だが、S氏的にはかなり勇気のいる 質問だった。なんとなく声が上ずってしまったような気が するが、咳払いをしてなんとかごまかした・・・うまく ごまかせただろうか、心臓が外に飛び出しそうなほど ドキドキしている。 「S氏はいついくんですか?」と、OLに言われ 赤面するS氏。 「え?あぁ、忘れないうちに・・・明日にでも」 「じゃぁ、私も明日行っちゃおうかな♪」 もう、倒れる寸前のS氏である。 「私も明日行こうと思っていたので、みんなで行きま しょう!」音楽家の提案に反対するわけにも行かず S氏はしぶしぶながら、だが顔には出さずに同意した。
すくなくとも明日もう一度OLさんに会うことができるのだ。 それだけで今晩は眠れないかもしれない。
翌朝、ほとんど眠れなかったS氏は朝早くから試験場へ向かった。 S氏の街の試験場はとても遠くて、電車とバスを乗り継がねば ならず、それでも試験の開始30分前だった。
さっそく、OLの姿を探すが見つからない。 それどころか音楽家の姿すら見えない。 バスは15分間隔であった。次のバスでこないと間に合わない。 落ち着かないS氏はうろうろとOLの姿を探しながら歩き回った。 15分後バスから降りる客を一人一人確認していたS氏は肩を落とした。
もう、受付をしなければ間に合わない。OLと並んで試験を受けたかった S氏はOLと一緒に受付をしようと思っていたのだが・・・
ひょっとしてタクシーで来るかもしれない。 試験開始の直前まで入り口で待ちつづけるS氏であったが、 ついにOLはあらわれなかった。
合格発表の後、笑顔の合格者の中、一人悲しげな顔で免許証の交付を 受けるS氏を気にとめる人は一人もいなかった。
******************************* その日の午後。 試験直前まで入り口でS氏を待っているOLの姿があった。 「S氏は私のこと好きじゃなかったのかしら」 音楽家はなんとかなぐさめようと思ったが、良い言葉が思い浮かばなかった。 そんなことよりもS氏のどこが良いのかが気になって仕方が無かった。
それはともかく、とことん運のないS氏であった。
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