TOM's Diary
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S氏はお茶が好きであった。 家にいるときには常に傍らにはポットと急須と湯飲みが置いてある。 会社ではちょっとでも時間が開くとお茶を汲みに行く。
コーヒーや紅茶を飲むことはもちろんあるが、基本はお茶である。 会議の時でもなんでもみんながコーヒーを入れて貰っているのに S氏だけはお茶を入れて貰う。
そんなおS氏のお茶好きは、社内でも有名なほどである。
ある日、S氏のお茶好きの噂が会社の会長の耳に入った。 会長と言えば、会社の敷地内に茶室を造ったほどの茶道家である。 もちろん会社の茶道部は会長直属である。
S氏のもとに会長からのメールが届いたのは、俳句同好会の 見学に行った一週間後のことである。内容はもちろんお茶の お誘いであった。
S氏は社長には嫌われたかもしれないが、さらにその上の会長と 親しくなれるチャンスではないかと甘い考えを抱いたとしても無理はあるまい。 だが、さすがのS氏もただのお茶と茶道の違いくらいは知っている。 いや茶道がどんなことをするのかは全く知らない。だがいろいろ しきたりやお作法が大変そうだということくらいなら知っている。 丁重にお断りのメールを返したことは言うまでもない。
しかし、茶道家の会長は普通にお茶を飲むことも大好きだった。 S氏をお茶に誘ったのは、茶道ではなく純粋にお茶談義をしたかっただけなのだった。
なにをやってもだめなS氏であった。
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