井口健二のOn the Production
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2025年11月23日(日) ペリリュー−楽園のゲルニカ−、チャップリン、アグリーシスター可愛いあの娘は醜いわたし

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※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※
※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※
※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※
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『ペリリュー−楽園のゲルニカ−』
1975年生まれの漫画家武田一義が、太平洋戦争末期のパラオ
諸島ペリリュー島で起きた日米の闘いを描いた全11巻に及ぶ
戦争マンガのアニメーション映画化。
主人公は南国の島に駐屯する21歳の日本兵士。漫画家志望の
彼は戦友たちの姿を優しく描き楽しませていていたが、そん
な彼にある任務が与えられる。それは戦死した兵士の最期の
勇姿を遺族に書き送る「功績係」という仕事だった。
そして昭和19年9月15日、駐屯する1万人の日本軍に対し、
4万人以上とされるアメリカ軍の猛攻が始まる。その闘いに
元々勝ち目はなかったが、軍司令部はそれまでの玉砕戦術に
替えて本土攻撃を遅らせるための持久戦を命じる。
こうして島中に張り巡らされたトンネルや地下壕を使って神
出鬼没のゲリラ戦が開始される。それは夜陰に乗じて米軍の
糧食を盗み出すなど、戦闘とはかけ離れた戦いだったが…。
戦況的には殆んど無意味な作戦が続けられて行く。

脚本は1985年『プロゴルファー猿』や1989年からの『らんま
1/2 熱闘篇』などの監督を手掛ける西村ジュンジと原作者が
共同で執筆し、本作の監督は2017年『妖怪ウォッチ』シリー
ズなどの久慈悟郎が長編デビューを飾っている。
声優は板垣李光人と中村倫也。他に天野宏郷、藤井雄太、茂
木たかまさ、三上瑛士。またキヨサク作詞、Kazuyo Suzuki
作曲による主題歌「奇跡のようなこと」を上白石萌音が歌唱
している。
キャラクターは原作の漫画に倣って3頭身にデフォルメされ
ており、現実の戦闘シーンは想起されないように描かれてい
る。従って戦争マニアが喜ぶような闘いのかっこよさなどは
皆無と言える作品だ。
これによって全く無意味だった闘いの中でただ疲弊するだけ
の兵士の姿が印象的に描かれているとも言える。それは戦争
を反省してその無意味さを伝える意味では正しい描き方と言
えるものだろう。
その一方で襲来するアメリカ軍の掲げる星条旗の星が整列し
たものであることには感心した。星条旗の星は合衆国の州の
数を表しており、現行のものはアラスカとハワイが州になっ
た1960年代以降のもの。太平洋戦争当時とは違っている。
それがしっかり描かれているのは、戦争を正しく理解してい
る証しとも言えそうだ。

公開は12月5日より全国ロードショウとなる。
なおこの紹介文は、配給会社東映の招待で試写を観て投稿す
るものです。

『チャップリン』“Chaplin: Spirit of the Tramp”
20世紀最高の映画スターと呼べるチャーリー・チャップリン
の姿を、その息子であるマイケル・チャップリンの目を通し
てさらに孫娘であるカルメン・チャップリンの監督で描いた
チャップリン家初の公認ドキュメンタリー。
チャーリーは1889年の生まれ、マイケルは1943年に再婚した
ウーナとの間の第2子(第1子はジェラルディン)ということ
でチャーリーが60歳近くなっての子供のようだ。従って父親
はすでに世界的な名優だった。
そんな訳でマイケルには常に父親の影が覆いかぶさることに
なるが、そんな息子の目を通して名優の姿が描かれる。そこ
には多分年を取っての子供であることの負い目もあったのだ
ろうが、それをカヴァーしようとする思いも感じられる。
その一方で、チャーリーには 1/8のロマの血が流れていたと
いう事実も紹介され、それはチャーリーが36歳の時に伝えら
れたとされるが、それ以前から気付いていた節も観られる。
そんな名優の出自も含めた生涯が描かれる。

出演はマイケル、ジェラルディンに加えて第4子のヴィクト
リア、第6子のジェーン、第8子のクリストファーらが父親
の思い出を語る。
さらにロマ関係で俳優のジョニー・デップ、監督エミール・
クリストリッツァ、トニー・ガトリフ、ダンサーのファルキ
ートら。他に俳優のクレア・ブルーム、伝記作家デヴィッド
・ロビンソンらも登場して名優の姿が描かれる。
そして『ニューヨークの王様』や『キッド』『街の灯』『ラ
イムライト』『独裁者』『黄金狂時代』などの名場面も挿入
される作品だ。
それにしても挿入されたそれぞれの作品を観ると、それは本
作の監督の意図も反映されているとは思うが、かなり政治的
な側面も持つことが判る。それはアメリカへの再入国禁止の
処置にも象徴されるが、その意志は明確なものだ。
因に本作の副題は「Tramp の精神」だが、チャーリーは今の
アメリカ大統領をどんな目で見ているのかな? そんなこと
も考えてしまった。まあTramp には浮浪者以外の意味合いも
あるようだが。

公開は12月19日より、東京地区は角川シネマ有楽町他にて全
国順次ロードショウとなる。
なおこの紹介文は、配給会社アンプラグドの招待で試写を観
て投稿するものです。

『アグリーシスター可愛いあの娘は醜いわたし』
              “Den stygge stesøsteren”
ディズニーアニメでも知られる童話「シンデレラ」を敵役の
義姉妹の視線から描いた映倫R15+指定の作品。因に本作はベ
ルリン国際映画祭パノラマ部門に出品され、サンダンス映画
祭でも上映された。
主人公は落ちぶれた貴族の娘。彼女は妹と共に母親の再婚相
手の館のある王国にやってくる。そこは彼女の憧れ的である
王子が暮らす国でもあった。そして母親の再婚相手には美貌
の娘もいた。
ところが継父が急死、しかも遺産がほとんどないことが判明
する。従って一家には王子の目に留まって妃となることしか
道はなくなるが、そこに折よく舞踏会の案内が届き、その舞
踏会には主人公と義姉が招待されることになる。
そこで主人公は隆鼻術やまつ毛の植毛など過激な美容整形に
耐え、元々ダンスは才能があったらしく舞踏会で披露される
群舞のセンターに選ばれる。こうして義姉のドレスを引き裂
くなどの策謀を経て舞踏会に臨むことになるが…。

出演は子役出身でモデルとしても活動しているリア・マレイ
ンと、2014年11月2日付「第27回東京国際映画祭《コンペテ
ィション部門》」で紹介『1001グラム』に主演していたアー
ネ・ダール・トルプ。
他にテア・ソフィー・ロック・ネス、フロー・ファゲーリ、
イサーク・カムロート、マルテ・ゴーティンゲルらが脇を固
めている。
脚本と監督は、1991年生まれで2018年にノルウェー映画学校
での卒業制作だった短編作品が各国の映画祭に招待されるな
ど評価されたエミリア・ブリックフェルト。短編は大胆で挑
戦的な作品と言う女性監督の長編デビュー作だ。
映画では義姉の方にはちゃんと魔法使いが現れており、正に
視点を変えた作品ということになるが、本来は悪役の義姉妹
にしっかりとキャラクターを与えているところは見事な作品
だ。しかもかなりえぐい。
特に主人公が靴のサイズに足を合わせる下りは、僕の記憶で
原作は確か踵を削るということで、以前にそういう描写の作
品も観ているが、本作ではそこの改変が正にえぐいという感
じの映像になっていた。
ただしシンデレラのドレスを修復するシーンの描写では生物
学的に蚕の糸はそこからは出ない。ここは監督が『モスラ』
を観ていなかったようで、その点は少し残念だったかな。で
も今後も楽しみな監督が出てきたようだ。

公開は2026年1月16日より、東京地区は新宿ピカデリー他に
て全国ロードショウとなる。
なおこの紹介文は、配給会社スターキャットアルバトロス・
フィルムの招待で試写を観て投稿するものです。


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井口健二