| 2025年11月16日(日) |
架空の犬と嘘をつく猫、役者になったスパイ、Good Luck |
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ ※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※ ※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※ ※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※ ※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※ ※スマートフォンの場合は、画面をしばらく押していると※ ※「全て選択」の表示が出ますので、選択してください。※ ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ 『架空の犬と嘘をつく猫』 2014年「ピオレタ」でポプラ社小説新人賞を受賞などの寺地 はるなによる原作を、2011年5月紹介『乱反射』などの菅野 友恵が脚色、CM出身で各国映画祭での受賞歴のある森ガキ 侑大監督が映画化した作品。 登場するのは母親が心に疾患を負っている一家。その原因は 幼い子供の死にあるようで、そんな母親の心を亡くなった子 の兄である主人公が健気に支えている。しかし彼の姉はその 環境に耐え切れず家を出て行ってしまう。 そんな主人公は年上の女性に恋心を持つが彼女に受け入れて はもらえない。そして幼馴染みの女性の愛を受け入れ、結婚 も考えるようになるが、そこにも年上の女性の影が落ちてく る。それらは全て彼の優しさに起因するものだった。 そしてある事情から一家が顔を揃えることになった日、そこ には不倫で家を出て行った父親や姉も帰ってくる。そんな一 同が会した場所で彼が執った行為とは…。物語は20年の年月 に亙って描かれる。 出演は高杉真宙、伊藤万理華、深川麻衣、安藤裕子、向里祐 香、ヒコロヒー。他に鈴木砂羽、松岡依郁美、森田想、高尾 悠希、後藤剛範、長友郁真。そしてはなわ、安田顕、余貴美 子、柄本明らが脇を固めている。 物語は普遍的なものではないが、誰にでも降りかかってくる かもしれない状況が描かれる。そして登場する人物たちはご く普通に自分たちであるかもしれないように描かれており、 それが深みになっている。 僕自身は同じ男性として主人公に感情移入したが、観る人に よっては他の人物に感情移入することもできるようだ。集団 劇ではないが、そんな幅広い観客に受け入れられる作品にも なっている。 それにしても感情移入した目で見ていて主人公の優しさが心 に沁み渡る作品だ。実は主人公には隠された一面もあるのだ が、それも彼の優しさゆえであり、その辺の描き方も見事な 作品だった。 そして映画の結末では全ての人に優しさが溢れだす、そんな 描き方も素晴らしい。今年一番の優しい映画に出会えた感じ がした。 公開はロケ地の佐賀県唐津で先行上映の後、2026年1月9日 から東京地区はTOHOシネマズ日比谷他にて全国ロードショウ となる。 なおこの紹介文は、配給会社ポニーキャニオンの招待で試写 を観て投稿するものです。
『役者になったスパイ』“Moskau Einfach!” 1989年、冷戦下のスイスで起きた政治スキャンダルの実話に 基づく作品。 1989年11月9日にベルリンの壁が崩壊する冷戦最末期のスイ ス。永世中立国として成立するこの国では共産政権のソビエ ト連邦からの脅威に政治が揺れていた。そして国内では国民 皆兵の軍隊の廃止などが叫ばれ始める。 この事態に警察は秘密裏に国民の監視を開始。フィッシュと 呼ばれるカードに個人情報が記録されて行く。それはナチス ドイツのゲシュタポの所業にも通じる、民主主義の社会では あってはならないことだった。 そんな状況の中で主人公はとある劇団を監視する任に着いて いた警察官だったが、その主人公に劇団に潜入して内部情報 を集める指令が下される。そしてエキストラの募集に乗じて 劇団への潜入に成功するが…。 劇団の中には演出家との対立など様々な軋轢があり、その調 査の過程で主人公は主演女優に惹かれ始める。しかも主人公 には、ある事情で役者が降板した配役への抜擢も決まってし まう。選ぶべきは任務か恋か? 脚本と監督は2015年『まともな男』などのミヒャ・レビンス キー。なお脚本には監督の友人で舞台関係者というプリニオ ・バッハマンとバルバラ・ゾマーの2人が協力している。 出演は監督のデビュー作にも出ていたというフィリップ・グ ラバーと監督作に常連のミリアム・シュタイン。他にマイク ・ミュラー、ミヒャエル・マールテンス、ピーター・イェッ クリン。 さらにシュテファン・シェーンホルツァー、ゼバスティアン ・クレーヘンビュー、デニス・ビンチュ、ファビアン・クリ ューガー、エバ・バイ、オリアーナ・シュラーゲらが脇を固 めている。 演劇絡みのストーリーがどこまで実話に沿っているかは判ら ないが、日本でも演劇関係者には左翼系が多かったからこん な事もあったのだろう。現地では当時の関係者からコメディ タッチに批判もあったようだが、話はうまくできている。 しかもこれが現代社会に通じている感じがするのも見事なと ころで、特に戦時の接近が想定される社会では今でも有り得 る話として描かれている感じもした。ロマンスコメディの名 手と言われる監督の視線は鋭いものだ。 公開は2026年1月23日より、東京はYEBISU GARDEN CINEMA、 シネスイッチ銀座、UPLINK吉祥寺、新宿武蔵野館他にて全国 順次ロードショウとなる。 なおこの紹介文は、配給会社カルチュアルライフの招待で試 写を観て投稿するものです。
『Good Luck』 2014年『百円の恋』や2023年のテレビ小説『ブギウギ』など の脚本家足立紳が、2023年『雑魚どもよ、大志を抱け!』に 次いで脚本監督を手掛けた作品。 主人公は30歳間際の売れない映画監督。学生時代に撮った作 品が評価されてこの世界に飛び込んだが、以後は鳴かず飛ば ずという感じのようだ。そんな監督の新作が別府映画祭の佳 作に選ばれる。 その作品は同棲相手の日常を撮っただけの映像で監督自身も 納得していなかったが、同棲相手からは取り敢えず招待され た上映会に出席するよう背中を押される。こうして別府にや ってきた監督だったが、上映後のトークは散々だった。 そんな監督はふと上映会に参加していた観客の女性と巡り合 い、一人旅の彼女とその後の行動を共にすることになる。そ して2人は大分県の観光地を巡って行くことになるが…。豊 後大野の摩訶不思議な観光地が紹介される。 出演は、2019年3月3日付『ホモソーシャルダンス』の中で 紹介『老ナルキソス』などの佐野弘樹と、演劇やテレビでも 活躍中の天野はな。 他に映画監督としても活動している加藤紗希、2025年8月紹 介『じっちゃ!』などの篠田諒。さらに剛力彩芽、板谷由夏 らが脇を固めている。 元々は「別府短編プロジェクト」の依頼で制作されたが、出 来上がったら上映時間1時間44分の長編映画になっていたそ うだ。それが監督の意図だったかどうかは知らないが作品は 内外の映画祭への招待も勝ち取っている。 作中には本作のオーディションの模様も挿入されるなどメタ フィクション的な色合いもあって、中々凝った作品になって いる。しかもそこに水中洞窟などかなり不思議な風景も登場 し、それも物語にマッチして飽きさせない。 物語自体は監督の私小説のような感じもするが、そこにご当 地映画らしい観光要素もしっかりと織り込まれて、さすがベ テラン脚本家の作品と言う感じにもなっている。しかも撮影 は現地7日と追加の1日のみ。 いやはや平伏しましたと言いたくなる作品だった。 公開は12月13日より、東京地区は渋谷のシアター・イメージ フォーラム他にて全国順次ロードショウとなる。 なおこの紹介文は、配給会社MAPの招待で試写を観て投稿 するものです。
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