| 2025年11月30日(日) |
ぼくの名前はラワン、モディリアーニ!、センチメンタル・バリュー |
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ ※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※ ※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※ ※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※ ※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※ ※スマートフォンの場合は、画面をしばらく押していると※ ※「全て選択」の表示が出ますので、選択してください。※ ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ 『ぼくの名前はラワン』“Name Me Lawand” イラク出身のろう(聾)者の少年が家族と共に難民としてイギ リスに渡り、イギリス手話(BSL)を学んで成長して行く姿 を描いたドキュメンタリー。 主人公のラワンはイラク・クルディスタンの生まれ。生まれ つき耳の聞こえないラワンは他人とのコミュニケーションが できず、常に家族の介助の許で成長してきた。しかしイスラ ムの国家では未来は閉ざされている。 そこでラワンの一家は西欧に渡ることを決意し、難民キャン プなどでの苦しい生活の末に支援者を得、危険なボートでの 航海などを経てイギリスに渡ることに成功する。そしてラワ ンは初めて手話を学ぶ。 それは最初はコミュニケーションの不慣れなどからなかなか 上手く行かなかったが、同じくろう(聾)者の指導者などにも 恵まれ、徐々に心が開かれて行く。ところがそこに一家の難 民申請を見直す通達が届き、国外退去の可能性も出る。 この時ラワンが取った手段は…。 監督は、2010年に北米のオオカミ生息地を巡るドキュメンタ リーで監督デビューし、2014年にはインディーズのミュージ シャンにスポットを当てた作品がロンドン映画祭などにも出 品されたというエドワード・ラブレース。 ラブレース監督はイギリスに到着した直後に撮られた1枚の 写真でラワン一家のことを知り、2019年からラワンが通って いたダービー王立聾学校の協力の許で彼の姿を撮り始めたと いうものだ。 折しもイギリスでは手話を言語として認めることを定めた法 律の制定(2022年に成立)などが絡み、正にろう(聾)者の権利 の獲得などの流れの中で映画は語られている。それは当然の 権利として認められるべきものだ。 ただラワンがクルド人であったことが様々な動きの中でどう 影響したのか。特に後半語られる国外退去の問題がどう絡ん でいるのかが少し曖昧に感じられた。もちろん本作のメイン はろう(聾)者の少年の話で、そこはそれでいいのだが。 日本では社会問題化しているクルド人の立場がイギリスでは どのように対処されているのか、本作とは別にその辺りが気 になってしまった。本作の結末がそれに絡んでもいるので、 余計に気になってしまったものだ。 公開は2026年1月9日より、東京地区は新宿武蔵野館、シネ スイッチ銀座他にて全国順次ロードショウとなる。 なおこの紹介文は、配給会社スターキャットアルバトロス・ フィルムの招待で試写を観て投稿するものです。
『モディリアーニ!』 “Modi:Three Days on the Wing of Madness” 1916年のパリ・モンマルトルを舞台に画家モディリアーニの 運命を変えた3日間を、1997年製作『ブレイブ』以来となる ジョニー・デップの監督で描いた作品。 第一次世界大戦下、時折遠くからの爆音も聞こえるパリ市街 だが、そこに暮らす若き芸術家たちはそれぞれの目標に向か って切磋琢磨していた。そんな中にモリディアーニは同じく 画家のモーリス・ユトリロらと共にいた。 ところがちょっとしたトラブルからモリディアーニは警察に 追われる身となり、一方のユトリロは軍隊に志願して生活の 安定を得ようとする。そんな中でモリディアーニはアメリカ 人コレクター来訪の情報を得る。 そこでモリディアーニはそのコレクターに面会して自らを認 めて貰おうと画策するが…。その3日間で画家の運命が回転 して行く。 出演は2019年11月紹介『9人の翻訳家』などのリッカルド・ スカマルチョ。他にアントニア・デスプラ、ブリュノ・グエ リ、ライアン・マクパーランド。 さらに2012年2月紹介『裏切りのサーカス』などのスティー ブン・グレアム、2005年『マリア・カラス』などのルイーザ ・ラニエリ。そしてアル・パチーノらが脇を固めている。 元々はアクターズ・スタジオで作られた舞台劇があり、その 主演にはパチーノが想定されていたそうだがそれは実現しな かった。その後1997年にデップと共演した際にパチーノは自 らの監督でデップに主演を打診したが、これも頓挫。 そんな計画が2017年に今度はパチーノからデップに監督して 貰いたいと話が持ち掛けられた。それはデップの芸術家とし ての才能を見込んでの打診だったとされる。そこからさらに COVID-19禍などを経て映画は完成されたものだ。 そんなデップに渡された脚本がどんなものかは判らないが、 完成された作品は見事に映画を反映したものになっている。 そこには正に先週紹介した『チャップリン』など20世紀初頭 の映画へのオマージュが溢れているものだ。 正直に言って先週の作品との制作の時系列は判らないが、こ のような作品を2週連続で見られたことにも喜びを感じてし まった。改めてデップが映画スターであることを再認識でき る作品だった。 公開は2026年1月16日より、東京地区はTOHOシネマズシャン テ他にて全国ロードショウとなる。 なおこの紹介文は、配給会社ロングライド、ノッカの招待で 試写を観て投稿するものです。
『センチメンタル・バリュー』“Sentimental Value” 2016年10月紹介『母の残像』などのヨアキム・トリアー監督 の新作で2025年第78回カンヌ国際映画祭で史上最長とされる スタンディングオベーションを受け、忖度無しのグランプリ を受賞した作品。 主人公は開演前は極度に緊張しながらも、舞台に登場すれば 圧倒的な演技力を見せる舞台女優。その女優の母親が亡くな り、彼女は妹と共にお別れパーティを取り仕切る。しかし彼 女には家庭持ちの妹ほどの采配はできないようだ。 そのパーティに1人の男性が現れる。その男性は姉妹が幼い 頃に家を出て行った父親で、彼は各地で回顧上映が行われる ほどの世界的な映画監督だったが、その父親を彼女は許して いなかった。 そんな父親が彼女に出演のオファーを行う。その脚本は彼女 を想定して書いたもので、撮影は彼女らが育った家で行うと いう。その家の所有権は父親のままで、彼女は撮影を止めら れないが、出演は拒否、脚本も開くことなく突き返す。 そのためその映画は、ハリウッドから若手女優を招いて撮影 されることになるが…。回顧上映では姉妹が幼い頃に出演し たとされる映像や、一方でハリウッド女優出演の現在の撮影 風景なども織り込みながら、家族の物語が描かれる。 出演は、監督の前作『わたしは最悪。』でも主演のレナーテ ・レインスベと、2018年2月11日付題名紹介『男と女、モン トーク岬で』などのステラン・スカルスガルド。他に配信作 品に多く出演のインガ・イブスドッテル・リッレオース。そ してエル・ファニングらが脇を固めている。 監督はラース・フォン・トリアー監督の遠戚にあたるという ことで、登場する年配の監督が誰を想定しているのかは勘ぐ ってしまうところもあるが、互いにライヴァル視もありそう な親子の関係は普遍的なものでもある。 そんな共感もカンヌでのスタンディングオベーションやグラ ンプリの所以でもあるのだろう。おそらく自分もその場にい たら立っていただろうと思える作品だ。そんな巧みな物語が 展開される。 それはヨーロッパ人俳優の見事な演技力にも支えられている ものだが、そこに放り込まれたエル・ファニングも素晴らし く、特に作中での本読みのシーンでは動作を封じられた読む だけの演技には驚かされた。 ファニングは2011年6月紹介『スーパー8』のことから注目 してきた女優だが、これは本格的な大物になっていきそうな 雰囲気だ。 公開は2026年2月20日より、東京地区はTOHOシネマズ日比谷 他にて全国ロードショウとなる。 なおこの紹介文は、配給会社NOROSHI ギャガの招待で試写を 観て投稿するものです。
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