井口健二のOn the Production
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2025年10月19日(日) 終点のあの子、みんな、おしゃべり!、ボディビルダー、ベ・ラ・ミ 気になるあなた

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※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※
※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※
※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※
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『終点のあの子』
2024年10月紹介『私にふさわしいホテル』などの柚木麻子が
2010年に刊行したデビュー作の連作短編集を、2014年5月紹
介『女の穴』などの吉田浩太脚本・監督で映画化した作品。
主人公は小田急沿線で中高一貫の女子高に通う生徒。彼女は
中等部から通う内部生だが、彼女のクラスに高校から入学の
生徒が入ってくる。その外部生は父親が著名なカメラマンで
海外生活も長く経験しているようだ。
そんな外部生が主人公に声を掛けてくる。そして言葉を交わ
すようになった2人は、互いに学校への不満なども話し合う
ようになるが…。それが他の生徒との確執を生むようにもな
ってくる。
そんな状況に主人公は悩みを持つが、外部生の彼女は気にも
掛けていないようだ。そして下北沢のホームで、通学のため
には鈍行に乗るべきところを2人は急行に乗車する。その列
車は終点の片瀬江ノ島駅に向かって出発するが。

出演は2025年8月紹介『ストロベリームーン』も記憶に新し
い當真あみと、2019年3月3日付題名紹介『WE ARE LITTLE
ZOMBIES』などの中島セナ。他に平澤宏々路、南琴奈、新原
泰佑。さらに小西桜子、野村麻純、今森茉耶、陣野小和。そ
して深川麻衣、石田ひかりらが脇を固めている。
眩いばかりの女子高生の学園生活というところかな。原作は
4編からなる連作のようだが、映画化は第1作を重点に行わ
れており、それは2008年にオール讀物新人賞を受賞した作品
でもあるようだ。
そんな初心な物語は、高校生活なんて半世紀以上も前になっ
てしまった男性の身には夢のまた夢のようなものだが、それ
でも大人になったから判る心の琴線のようなものには見事に
触れて来てくれたものだ。
そんな面映ゆいような物語が展開されており、多分若い人に
は直に響くのだろうが、年を経た身にも心地よくその風景が
感じられた。男女の違いもあるし時代も違うけれど、青春は
不変不滅のようだ。
ただ、原作が20年近くも前の作品ということで、背景となる
小田急線下北沢駅の風情は随分と違ってしまった。ダイヤな
どは物語と一致しないところも多々あるけれど、そんなこと
は無視して物語に浸りたい作品だ。

公開は2026年1月23日より、東京地区はテアトル新宿他にて
全国ロードショウとなる。
なおこの紹介文は、配給会社グラスゴー15の招待で試写を観
て投稿するものです。

『みんな、おしゃべり!』
2020年2月紹介『なんのちゃんの第二次世界大戦』などの河
合健脚本・監督で、障碍者と外国人との共生について描いた
コメディ作品。
登場するのは聾唖者だが電気店を営む男性とその一家。母親
は死別し息子は聾唖だが、娘は健常で一家の手話通訳もして
いる。そして男性は家電の修理などではかなり腕の立つ技術
の持ち主のようだ。
そんな一家の電気店に近くで飲食店を開業する予定のクルド
人男性がやってきた日、ちょっとした誤解から諍いが始まっ
てしまう。それは町興しの名目でマイノリティの支援を目指
す行政も巻き込んでトラブルになって行く。

出演は2024年8月紹介『BISHU 世界でいちばん優しい服』な
どの長澤樹と、世界初ろうプロレス団体「闘聾門JAPAN」の
設立者で演技初挑戦の毛塚和義。他にろう役者の那須英彰、
今井彰人。
さらに2025年2月紹介『花まんま』などの板橋駿谷、2023年
5月紹介『Gメン』などの小野花梨。そしてトルコ出身で日
本で俳優として活動しているMurat Çiçek、ユードゥルム・
フラットらが脇を固めている。
監督自身がCODA(Childen of Deaf Adults)の環境で育ったそ
うで、作品の内容にはかなり様々な思いが籠っていそうだ。
でもそれを見事にコメディのオブラートにくるんで、しっか
りとしたエンターテインメントに仕上げている。
因に日本の手話は戦前には政治的に禁止令が出たこともある
もので、いわば絶滅寸前だった言語。一方のクルド語も今や
絶滅寸前の言語とされ、そんな2つの言語が登場するのも、
本作のポイントと言えるだろう。
聞いた話では地球上では年間30以上の言語が消滅しているそ
うで、本作はそんな時代に作られた作品とも言えるものだ。
そしてそこに新たな言語の創造も、一つのテーマとして見事
に提示されている。そこも素晴らしい。
他にもlost in translation の問題などいろいろな要素が現
代を象徴するように鏤められ、それらが巧みに縒り合された
作品とも言える。そして結末の壮大さも、本作を見事に締め
括っているものだ。

公開は11月29日より、東京地区は渋谷のユーロスペースと、
2022年7月24日付『こころの通訳者たち』にて紹介した東京
都北区のシネマ・チュプキ・タバタ他にて全国順次ロードシ
ョウとなる。
なおこの紹介文は、企画・配給・製作プロダクションGUM
株式会社の招待で試写を観て投稿するものです。

『ボディビルダー』“Magazine Dreams”
2019年6月16日付題名紹介『HOT SUMMER NIGHTS』 のイライ
ジャ・バイナム監督が、マーヴェル映画でヴィランを演じる
ジョナサン・メジャースを主演に迎えたボディビルがテーマ
のドラマ作品。
主人公はアメリカの片田舎の町で元ヴェトナム戦争の兵士と
いう祖父の介護をしながら暮らす黒人青年。低収入で友人も
恋人もいない彼には確固たる夢があった。それはボディビル
で名をあげ雑誌の表紙を飾るというものだ。
そんな彼は憧れボディビルのチャンピオンに手紙を送り続け
ているが返事は来ない。それでも勤務先のスーパーマーケッ
トでシフトの違う女性にようやく声を掛けた主人公はデート
に漕ぎ着けるが…。

共演は、2007年2月紹介『ラブソングができるまで』が映画
デビュー作というヘイリー・ベネット。
他に2024年『ビバリーヒルズ・コップ』のリブート作に出演
のテイラー・ページ、プロ・ボディビルダーで「ミスター・
ユニバース」4回優勝というブラッド・ヴァンダーホーンら
が脇を固めている。
プロテインをがぶ飲みしたり大量のゆで卵を黄身を抉り出し
て白味だけ食べるなど、ボディビルダーにありがちなシーン
が次々に登場する作品で、そんなストイックなボディビルの
世界を描いたところがアメリカでは評価されたようだ。
でもこれって日本人の目には案外常識の範囲かな。もっと強
烈な描写が見えるかとも思ったが、予想よりは大人しい作品
だった。ただその裏にある思想みたいなものが、日本人の考
えを超えている部分はありそうだ。
とは言えそれを突き詰めるとかなり右寄りになってしまうも
ので、映画の中でも戦争の英雄なんて言葉が出てくると、ま
あそんな感覚の作品なのだろうとは思ってしまう。こういう
思想が今のアメリカを支えている訳だ。
それは傍目から観るとかなり戯画っぽくも見えるもので、ど
うせならもっとコメディにしてくれたらとも思ったが、これ
がアメリカの現実というところなのだろう。そんなアメリカ
がリアルに描かれた作品とも言えそうだ。

公開は12月19日より、東京地区はシネマート新宿、ヒューマ
ントラストシネマ渋谷他にて全国ロードショウとなる。
なおこの紹介文は、配給会社トランスフォーマーの招待で試
写を観て投稿するものです。

『ベ・ラ・ミ 気になるあなた』“Bel Ami/漂亮朋友”
中国黒竜江省で20年に亙って映画を作り続けているというゲ
ン・ジュン監督が、2020年のCOVID-19禍の中で執筆したとい
う脚本を映画化した作品。
主人公はゲイの中年男性。若い美容師の男性と付き合ってい
たが最近別れ話が告げられた。そんな美容師は他の男性と付
き合っていたが、さらにレズのカップルから偽装結婚を持ち
掛けられ、体外受精での子作りが提案される。
ところが付き合っていた男性はその面談の状況が不満で席を
立つ、そこに主人公が通り掛かり2人はサウナなどで愛を交
わすようになるが…。そんな男たちの姿がコメディタッチで
描かれる。

出演はゲン・ジュン監督作品の常連とされるシュー・ガン、
ジャン・ジーヨン、シュエ・バオホー。他にワン・ズーシン、
チェン・シュエンユ、ワン・チンらが脇を固めている。
中国では1997年に同性愛は違法でなくなったそうだが、現実
は今も規制の対象とされ、本作も本国では上映不可能な状態
だそうだ。そんな作品は台湾金馬奨に出品されて主演男優、
撮影、編集、観客の4冠に輝いている。
という作品だが、正直に言ってノンケの自分にはなかなか判
り難い作品だ。とは言うもののまあそんなものかなあという
感じには理解出来たもので、その意味では良くできた作品な
のだろう。でもまあそっちに走ろうとは思わないが。
映画祭などでの出品国はフランス・ポルトガルとなっていて
中国映画とはされていない。一方、映画の中の台詞は中国語
と英語で、中々複雑な作品だ。でもこれが中国映画の現状な
のだろう。
そんな作品の原題となる“Bel Ami” はフランスの文豪ギ・
ド・モーパッサンが1885年に発表した長編小説の題名だが、
元は美貌の青年が上流社会のマダムたちを渡り歩くという話
で、それがこうなるとは文豪も驚きだろう。
でも「麗しの友」という意味合いは本作でも当ってはいる。
そんな友の周りを主人公たちは彷徨っているものだ。それは
COVID-19禍以降の希薄になりかかった人間関係への警鐘でも
ある訳で、そんな監督の意図は明確に表現されていた。

公開は11月15日より、東京地区は渋谷ユーロスペース他にて
全国順次ロードショウとなる。
なおこの紹介文は、配給会社パンドラの招待で試写を観て投
稿するものです。


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井口健二