井口健二のOn the Production
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2025年10月26日(日) 潜行一千里 ILHA FORMOSA、無明の橋、少女はアンデスの星を見た、もしも脳梗塞になったなら、安楽死特区、もういちどみつめる

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※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※
※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※
※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※
※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※
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『潜行一千里 ILHA FORMOSA』
2019年7月14日付題名紹介『典座 TENZO』などの空族=富田
克也監督が、現在の台湾文化を記録したドキュメンタリー。
元々は『典座 TENZO』をカンヌやマルセイユの映画祭に出品
した際に知り合った台湾人プロデューサーから「次は台湾で
撮らないか」と誘われ、そのリサーチを兼ねて台湾の原住民
部族を取材したという作品。
題名の『潜行一千里』は何とも大袈裟だが、空族では以前の
作品でも同様のドキュメンタリーをこの題名で製作している
ものだそうだ。そして副題の『ILHA FORMOSA』はポルトガル
語で「美しき島」、台湾の別名とされる。
そんな作品は、現在も16あるとされる台湾の原住民を訪ね、
その祭りなどが取材されている。因に台湾では先住民は既に
消滅した部族を指し、現存するものを原住民と称している。
中ではアボリジニという言葉も使われていた。
そして祭りは収穫豊穣を祝うもので、多くは日本の盆踊りの
ような輪になって踊るものが撮影されているが、そこに登場
する民族衣装の華やかなこと。恐らくは伝統のものなのだろ
うが、そこは日本とは違う感覚でもあった。
その一方で祭りで歌われる曲の中には沖縄民謡に近いものも
あったりして、その辺は文化的なつながりも感じられたもの
だ。そこからさらに原住民出身の歌手やラッパーなども登場
して若者文化とのつながりも探られて行く。
その発言の中では失われつつあった原住民の言語の問題も提
示され、日本を含む外国の支配の下で消滅しかかった言語が
現在では国語教育の一環として復活し、最大種族のアミ族は
20万人を超える人口になっているとも紹介されていた。
さらには2013年2月及び2014年7月で紹介した映画に描かれ
た『セデック・バレ』にも言及され、実に様々な側面で台湾
文化が紹介されている。とは言え作品はあくまでも映画の準
備活動の一環で、あまり深くは追及しない。
そこは残念とも言えるかも知れないが、それは2026年に撮影
される予定の空族の次回作で明らかにされるのだろう。そん
な期待も抱かせる作品に仕上げられていた。壮大な予告編と
しても良くできている。
それにしてもこういう文化が中国に統一されると失われるの
かな。そんなことも考えてしまった。

公開は11月22日より、東京地区は新宿K's cinema他にて全国
順次ロードショウとなる。また新宿K's cinemaでは空族特集
も同時開催の予定だそうだ。
なおこの紹介文は、配給会社空族の招待で試写を観て投稿す
るものです。

『無明の橋』
2019年12月29日付題名紹介『もみの家』などの坂本欣弘監督
が、地元富山県立山連峰の麓にある芦峅寺集落で3年に一度
行われる布橋灌頂会をモティーフに描くドラマ作品。
主人公は都会の美術館に勤める女性。その美術館では山岳信
仰絡みの展示が行われており、そこに掛けられた立山の曼陀
羅絵に彼女は心を惹かれる。そしてその中に描かれた布橋灌
頂会に導かれる。
それは女人禁制だった立山の麓で女性のために開かれる祭礼
で、そこでは三途の川に見立てられた川を渡って現世と彼岸
の間を行き来するものとされる。そして心にある思いを秘め
た主人公は祭礼に参加する。
その祭礼で女性たちは白装束に身を包み、目隠しをして行列
する。その行列では地元の女子高生が介添えをしてくれた。
やがて祭礼を終えた主人公は、帰り道でその女子高生と再会
し…。女性の秘めた思いの沁みる物語が展開する。

出演は、『もみの家』にも出ていた渡辺真起子と、2005年生
まれで本作のオーディションで選ばれ、長編映画は初出演の
陣野小和。他に2018年5月13日付題名紹介『菊とギロチン』
などの木竜麻生。
さらに室井滋、吉岡睦雄、岩瀬亮、山口詩史、岩谷健司らが
脇を固めている。
ザ・女性映画と言う感じの作品だが、その主人公を渡辺真起
子が手堅く演じている。渡辺は日本のインディペンデンス映
画界では正に至宝という感じで、この人が出ていれば外れは
ないという安心感も湧く女優だ。
そんな本作は布橋灌頂会という聞き馴れない祭礼が背景とな
るが、この祭りは江戸時代に始まったものの明治期には一時
廃れていたそうだ。しかし平成8年から現代的な祭礼として
甦ったそうで、正に女性の祭りが繰り広げられる。
しかもそれが現世と彼岸の間で行われるというのは、現代人
には魅力的とも言えそうだ。そんな背景が見事に生かされた
作品とも言える。なお脚本は坂本監督と同じく富山県で撮影
された2024年『祝日』などの伊吹一の共同によるものだ。
ザ・女性映画と書いたが、男性の胸にも響く作品になってい
る。

公開は11月28日から富山県で先行上映の後、東京は12月19日
より新宿武蔵野館、シネスイッチ銀座他にて全国順次ロード
ショウとなる。
なおこの紹介文は、配給会社ラビットハウスの招待で試写を
観て投稿するものです。

『少女はアンデスの星を見た』“Yana-Wara”
2022年6月紹介『アンデス、ふたりぼっち』のオスカル・カ
タコラ監督がその記事でも書いたように急逝した後を、前作
のプロデューサーで監督の叔父にあたるティト・カタコラが
引き継いで完成させた作品。
映画の開幕はアンデスの高地とされる貧しい村落の集合体に
よる会議の席で1人の老人が裁かれる様子から。その老人は
孫娘殺害の罪に問われている。しかしなぜ老人は最愛だった
孫を殺すことになったのか?
ここから物語は時間を遡り、孫娘の誕生から13歳で老人に殺
されるまでの短い生涯が描かれる。それは誕生の時から「男
の子だったら」という発言に象徴されるものだ。そして少女
は失語症となり、性的暴力にも曝される。
時代背景は1980年、90年代とされるが、物語は実話に基づい
ているともされ、20世紀の末期でも南米のペルーはこんなだ
ったのだろう。そんな厳しい現実が前作と同様の厳しい自然
の中で描かれて行く。
中には呪術的な描写もあるが、全体はリアルな展開で描かれ
た作品だ。それが余計に恐ろしい。

出演はルス・ディアナ・ママミとセシリオ・キスペ。孫娘役
のママミは撮影の現地でスカウトされ、祖父役のキスペも監
督の友人からの紹介ということで、何れも演技経験はない。
その他の出演者も同様のようだ。
監督の前作も多分そんな感じだったと思うが、台詞の硬さな
どが却って物語の素朴さを表しているようにも感じられ、こ
の素材にこの演出方法は理解できるものだ。まあこの話で流
暢な演技をされても違和感だっただろう。
ただし映画の結末はかなり唐突にも感じてしまうものだった
が、このような男尊女卑の風潮は20世紀後半のペルーでは当
然だったもので、その点はしっかりと感じ取らなくてはいけ
ないようだ。犯罪者が追及されないのもその流れだ。
勿論モヤモヤ感は残るが、これが現実の世界ということだ。
そしてそれは多かれ少なかれ現代の世界中でも続いている流
れと言え、そんなことが訴えられている作品のようにも感じ
られた。そんなことも含めて名作と呼べる作品だ。

公開は12月20日より、東京地区は新宿K's cinema他にて全国
順次ロードショウとなる。
なおこの紹介文は、配給会社ブエナワイカの招待で試写を観
て投稿するものです。

『もしも脳梗塞になったなら』
2018年4月22日付題名紹介『明日にかける橋』などの太田隆
文監督が、自らの体験に基づいて描いた不慮の病への対処法
マニュアル映画。
主人公は映画監督。低予算作品が主体らしく、監督は脚本、
製作、編集など7役をこなして寸暇も惜しむ状況だ。でもそ
れで浮いた資金を制作につぎ込むなど、映画制作ファースト
の考えを貫いていた。
しかしその仕事ぶりがたたって突然視野が狭窄し、記憶力が
低下するなどの症状が出始める。そして下された診断は脳梗
塞。それはATMで操作ができず現金が引き出せないなど生
活にも困難を引き起こす。
そして撮影された映画のポストプロダクションの作業にも障
害が出始めて…。

出演は2017年10月紹介『花筐/HANAGATAMI』などの窪塚俊介
と、2018年1月紹介『風の色』などの藤井武美。他に水津亜
子、久場寿幸、冨田佳輔、並樹史朗、酒井康行、嵯峨崇司、
仁科貴、安部智凛。
さらに藤田朋子、田中美里、佐野史郎らが脇を固めている。
脳梗塞になった人の体験談の映画は他にもあったが、自分も
気を付けなければとは思うもののその症状などは十人十色の
ようで、予防法などもあまりないから参考になるものではな
かった感じがする。
それに対して本作では発症後の状況に焦点が当てられ、中に
は公的な支援の受け方なども丁寧に紹介されているから、そ
の点は大いに参考になった。これは聞かないとわからないも
のだし、その点は良いと思ったものだ。
マニュアル映画という表記は『マルサの女』や『スーパーの
女』などの伊丹十三作品に対して肯定的に使われていたもの
だが、最近は恋愛マニュアルや殺人マニュアルみたいな映画
はあっても実際に役立つものは少なかった気がする。
そんな中で本作は正しく役に立つ映画で、特に脳梗塞は突然
いつ発症するかも判らないものだから、そうなったときの準
備としてこれは本当に優れた作品だ。監督の苦労も察せられ
て、本当に応援したい作品だった。

公開は12月20日より、東京地区は新宿K's cinema他にて全国
順次ロードショウとなる。
なおこの紹介文は、配給会社渋谷プロダクションの招待で試
写を観て投稿するものです。

『安楽死特区』
2025年4月紹介『「桐島です」』や、2022年7月紹介『夜明
けまでバス停で』などの高橋伴明監督が、日本尊厳死協会元
副理事長で医師の長尾和宏による2019年刊行の原作小説を映
画化した近未来が舞台の作品。
背景は日本で「安楽死法案」が可決された時代。その法案に
基づいて東京都に国家戦略特区が設定され、そこに安楽死を
行う施設「ヒトリシズカ」が設けられている。しかしそこは
状況に鑑みて簡単に入居できる場所ではない。
そこに若年性パーキンソン病を患うラッパーの男性が入居申
請をパスする。彼は病の進行に苦しみながらも言葉を紡ぎ続
けていた。そしてその病が不治で、余命も幾ばくも無いこと
から入居が許されたものだ。
ところが彼には以前の旅先のチベットで知り合ったという女
性のパートナーがおり、彼女は安楽死に疑問を感じて施設の
実態を探るべく潜入を試みていた。そしてその思惑通りの入
居に漕ぎ着けたのだが…。
施設内では様々な思惑が進行していた。

出演は『「桐島です」』などの毎熊克哉と、『夜明けまでバ
ス停で』などの大西礼芳。他に加藤雅也、筒井真理子、板谷
由夏、下元史朗。さらに友近、シンガーソングライターgb、
田島令子、鈴木砂羽、平田満、余貴美子、奥田瑛二らが脇を
固めている。
また脚本を、1979年『処刑遊戯』などの丸山昇一が手掛けて
いる。
高橋監督と長尾医師は2021年『痛くない死に方』でも組んで
おり他にもいろいろコラボしているようだから、友人という
か思想的に共鳴はしていると思うのだが、本作は安楽死礼賛
という風には描かれていない。
その辺は脚本の丸山昇一の考え方もあるのかもしれないが、
その脚本家を選ぶ辺りが高橋監督の見識とも言えるのかな。
いずれにしても問題提起という観点でしっかりとした作品に
仕上げられていた。
僕自身は安楽死には反対だが、その目で見ていても納得でき
る作品で、いろいろ考えさせられた。但し肯定論の部分は有
り勝ちの論理かな。それも考えての作品かもしれないが。

公開は2026年1月23日より、東京地区は新宿ピカデリー他に
て全国順次ロードショウとなる。
なおこの紹介文は、配給会社渋谷プロダクションの招待で試
写を観て投稿するものです。

『もういちどみつめる』
2019年2月10日付題名紹介『新宿タイガー』などの佐藤慶紀
監督が、2019年5月12日付題名紹介『よこがお』などの筒井
真理子を主演に招いて現代に生きることの難しさを描いた作
品。
筒井が演じるのは山間のキャンプ場を1人で営む女性。その
女性の許に1人の若者がやってくる。彼は主人公の甥で、母
親の連絡先を知りたいと訪ねてきたものだ。しかし彼女は口
籠り、何か事情がありそうだ。
そんな若者は財布を盗まれたので金を貸して欲しいと言い出
すが、その発言にも怪しさがある。そして彼女を手助けする
近所の男性が若者を諫めるような発言をし、険悪になりそう
なところを彼女はアルバイトをして欲しいと提案する。
こうしてキャンプ場の仕事を始めた若者だったが、主人公の
大学生の息子が友達を連れて現れた辺りから不穏な展開が起
き始める。

共演は2006年生まれで2021年の映画に主役デビュー、2024年
李相日監督のAppleTV+ドラマには主要キャストとして出演し
たという�眦痛�作。他ににしやま由きひろ、徳永智加来、中
澤実子、吉開湧気、リコ、内田周作、川添野愛らが脇を固め
ている。
監督は2022年の少年法の改正で、18、19歳への厳罰化が進ん
だことの危惧からこの物語に至ったとしているが、確かにそ
の年代の精神的に不安定な状況が作品の骨子になっているの
だろう。
それは大人になり切れない若者の苦難とも言えるが、同時に
大人であっても人付き合いの困難な女性の姿も描いて、精神
的なマイノリティの全般に亙って物語を描いているようにも
感じる。これも重大な問題提起の作品だ。
考えてみれば『新宿タイガー』もそんな感じの作品だったか
な。実は監督のドラマ作品は初めての鑑賞だったが、これは
監督にとっての永遠のテーマなのかもしれない。そんなこと
も考えてしまった。

公開は11月22日より、東京地区は新宿K's cinema他にて全国
順次ロードショウとなる。
なおこの紹介文は、配給会社渋谷プロダクションの招待で試
写を観て投稿するものです。


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井口健二