井口健二のOn the Production
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2025年10月12日(日) 殺し屋のプロット、ヒグマ!!、ネタニヤフ調書 汚職と戦争、楓

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※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※
※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※
※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※
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『殺し屋のプロット』“Knox Goes Away”
2024年9月紹介『ビートルジュースビートルジュース』など
のマイクル・キートンが、自ら製作、監督そして主演に挑ん
だアメリカが舞台のノアール・アクションと呼べる作品。
主人公は表向き2つの博士号を持ち、大学で教鞭を執ったこ
ともあるという男性。しかしその裏の顔は、元陸軍偵察部隊
の将校で、犯行現場に全く証拠を残さず、脚の付いたことが
ないという敏腕の殺し屋だ。
そんな男が物忘れに気づき、自ら訪ねた精神科医から記憶を
失う病気が進行中で、残された時間は数週間と宣告される。
そして最後と決めた仕事で手違いから標的以外の人間を殺し
てしまい、元締めに引退を告げるが…。
そんな主人公の許に10数年前に真実を知ったことで母親と共
に離れて行った息子が訪ねてくる。そしてある事情から人を
殺してしまったので助けて欲しいと頼まれる。こうして記憶
喪失と競いながらの闘いが始まる。

共演は2008年1月紹介『魔法にかけられて』などのジェーム
ズ・マースデン。数多くのTVシリーズに出演のスージー・
ナカムラ。2019年2月10日付題名紹介『COLD WARあの歌、2
つの心』でヨーロッパ映画賞受賞のヨアンナ・クーリク。
他にレイ・マッキノン、ジョン・フーゲナッカー、リーラ・
ローレン。さらにマーシャ・ゲイ・ハーデン、アル・パチー
ノの2人のアカデミー賞🄬受賞者らが脇を固めている。
そしてオリジナルの脚本を、2005年11月紹介『サウンド・オ
ブ・サンダー』などのグレゴリー・ポイリアーが手掛けてい
る。
主人公が罹患しているのはクロイツフェルト・ヤコブ病。多
少聞きかじったことのある病名だが。自分も高齢者になって
記憶喪失と闘う立場になっている中で、これはある意味その
恐怖も見事に描かれている作品と言えそうだ。
そして本作には様々なノアール映画へのオマージュも織り込
まれているが、特筆すべきは物語の緻密さだろう。犯罪者側
と警察側、その両者が死力を尽くして犯罪を構築し解決させ
て行く。そこには外連もなく、正に人のなせる業なのだ。
しかもそこに観客も欺く仕掛けが施されているから、これは
見事としか言いようがない。正しく脱帽しましたと言える作
品だった。

公開は12月5日より、東京地区はkino cinéma 新宿他にて全
国ロードショウとなる。
なおこの紹介文は、配給会社キノフィルムズの招待で試写を
観て投稿するものです。

『ヒグマ!!』
プロデューサーが2020年頃に思い付いたという闇バイトとヒ
グマを組み合わせた企画を、2020年3月29日付題名紹介『許
された子どもたち』などの内藤瑛亮脚本・監督、鈴木福主演
で映画化した作品。
主人公は大学合格を手にした日に父親が特殊サギに掛かって
自死した若者。未来を閉ざされた彼が行きついたのは違法な
闇バイトだった。そこで彼が関ったのは1人の女性を拉致す
るというものだったが…。
同じく闇バイトで強奪した大粒の宝石を持ち逃げしたという
その女性を山奥に連れ込み、最初は脅して宝石を出させる算
段は、一瞬の隙に女が宝石を飲み込んでしまったことで頓挫
してしまう。
さらには女を殺して腹を裂いて宝石を取り戻せという指令に
躊躇する主人公らに1頭のエゾヒグマが襲い掛かる。それは
人間の血肉に味をしめた「19」と呼ばれる殺人クマだった。
斯くして闇バイトvs.ヒグマのサヴァイヴァルが始まる。

共演は、2025年『てっぺんの向こうにあなたがいる』などの
円井わん。元ジャニーズjrで2012年6月紹介『闇金ウシジマ
くん』などの岩永丞威。さらに『許された子どもたち』に出
演の上村侑と住川龍珠。
そして占部房子、清水伸、宇梶剛士らが脇を固めている。な
おもう1人芸人が出ているがシークレットキャスト(?)だそ
うだ。
本作は夏ごろにその惹句からSNSなどで話題になっていた
ものだが、作品はギャグはあるけどいたって真面目に社会問
題を扱っており、その辺はさすが『許された子どもたち』の
監督という感じがしたものだ。
その一方で内藤瑛亮監督は『ドロメ』や『ミスミソウ』など
の作品も撮っているもので、そのエグ味が程よく加味された
作品とも言えそうだ。特にヒグマの造型と操演は試写会での
トークショウでも語られたが、画期的なようだ。
そして鈴木福がいい味を出していたが、それに円井わんがア
クションは初めてという割にはしっかりと決めており、それ
も見ものになっている。しかもこの内容・映像で映倫G-rate
を勝ち取ったというのも見事。見逃せない作品だ。

公開は11月21日より、東京地区はTOHOシネマズ日比谷他にて
全国ロードショウとなる。
なおこの紹介文は、配給会社NAKACHIKA PICTURESの招待で試
写を観て投稿するものです。

『ネタニヤフ調書 汚職と戦争』“The Bibi Files”
2025年10月現在イスラエル・ガザ地区で続いている戦争の背
景を描いたドキュメンタリー。本作はイスラエル・アメリカ
共同製作の作品だが、イスラエルでは上映禁止となり、アメ
リカでも一部劇場での限定上映だったそうだ。
映画の冒頭はベンヤミン(ビビ)・ネタニヤフ現イスラエル首
相に対する取り調べの映像。そこでネタニヤフはハリウッド
の映画プロデューサー、アーノン・ミルチャンからの贈答品
に対して賄賂との追及を受けている。
ミルチャンはイスラエルの出身で2018年10月28日付題名紹介
『ボヘミアン・ラプソディ』など数多くの作品で知られてい
る。しかし2013年にはアメリカの核技術をイスラエルに提供
したと告白するなど、スパイとしての実績もあるようだ。
そんなミルチャンはネタニヤフとは昵懇で、阿吽の呼吸で高
級シャンパンや葉巻などを贈り続ける。これは贈答なのか賄
賂なのか。しかし政権にいるものに対しては、いかなる事情
であっても贈答は賄賂と見做されるのが常識だ。
そこでイスラエル司法は2019年にイスラエルの首相では初め
ての在任中の起訴に踏み切るのだが、その裁判は現在も継続
中のままになっている。そしてそれが戦争を引き起こしたと
本作は訴える。
実際にイスラエルの首相では退任後に汚職などで起訴され実
刑判決を受けた人物も複数いるようで、ネタニヤフはそれを
避けるためには戦争を続けるしかない。それがガザや西岸地
区での戦争になっているようだ。
そしてさらに映画では戦争を引き起こすためのネタニヤフの
手立ても検証する。それは反イスラムの極右のテロリストと
手を組み、彼らが国民を煽って戦争を正当化し、戦争を継続
させていると告発もしている。
いや正に保守が極右と手を組んで戦争に走らせるというのは
早晩他の国でも起こりそうな話だが。日本の右翼は一部の跳
ね返りを除いては冷静だからこうはならないと思うものの、
その原因がシャンパン、葉巻というのは衝撃だった。
いずれにしてもイスラエル首相の悪辣ぶりが目の当たりにさ
れる作品で、しかもそれが現在も継続されている。その状況
には呆然とせざるを得ない感覚にさせられた。これもまた見
事な作品だ。

公開は11月8日より、東京地区は渋谷のシアター・イメージ
フォーラム他にて全国順次ロードショウとなる。
なおこの紹介文は、配給会社トランスフォーマーの招待で試
写を観て投稿するものです。

『楓』
1998年にリリースされたスピッツの楽曲を基に、2020年3月
8日付題名紹介『窮鼠はチーズの夢を見る』などの行定勲監
督で映画化した作品。
開幕はニュージーランドのテカポ湖に向かう道。そこはナミ
ビアのナミブ砂漠、アイルランドのアイベラ半島と並ぶ星空
保護区だ。そこに向かう道で星座について語り合うカップル
の乗ったレンタカーが事故に遭う。
そして物語は、同じに見えるカップルの日本での生活に繋が
る。2人は共に出勤するが、途中で男性は女性に隠れて着替
えをし、自分の職場へと向かう。そこで男性は星空とは関係
のない静物写真のカメラマンだった。
そんな2人の秘密が徐々に解き明かされて行く。

出演は、2024年1月紹介『湖の女たち』などの福士蒼汰と、
2019年2月24日付題名紹介『賭ケグルイ』などの福原遥。他
に宮沢氷魚、石井杏奈、宮近海斗。そして大塚寧々、加藤雅
也らが脇を固めている。
また脚本は、2024年10月紹介『大きな玉ねぎの下で』などの
高橋泉が担当している。
実は映画を観る前に試写状の惹句を観てしまって、物語の最
初の謎を知ってしまっていた。従ってそれを知らないで観た
人の気持ちは判らないが、映画はそこが巧みに隠されている
ようで、そこは少し悔しい思いもしたものだ。
しかしそこを知っていると何故その謎に気付かないのかとい
う新たな謎も出てくるもので、その点を巧みに隠す物語の進
展には感心したものだ。特にキーとなる屋上の写真と絵葉書
の内容にはその経緯が巧みだった。
しかもそこに天文観測が絡んでくるのは天文ファンとしても
興味が惹かれるもので、その辺のやり取りには嬉しくなる場
面も満載だった。一方で福士が演じる2役の片方が左利きと
いうのも見事な演出に繋がっていた。
そんな様々な謎解きが巧みに鏤められているのも面白く、さ
らにそこから素晴らしいラヴストーリーが紡がれるのも素敵
な作品になっている。絵葉書についてはちょっと誤解してい
たところが見事に解消されるのも良かった。
それにカップルが乗るレンタカーの繰り返しのサスペンスも
見事と言える。素晴らしい作品だ。

公開は12月19日より全国ロードショウとなる。
なおこの紹介文は、配給会社東映/アスミック・エースの招
待で試写を観て投稿するものです。


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井口健二