井口健二のOn the Production
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2025年10月05日(日) 爆弾、プラハの春 不屈のラジオ報道

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※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※
※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※
※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※
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『爆弾』
2023年の「このミステリーがすごい」(宝島社)及び「ミステ
リが読みたい」(ハヤカワミステリマガジン)のランキングで
1位をダブル受賞した呉勝浩原作小説の映画化。
物語の発端は、酒に酔って自販機を破壊して逮捕された男の
取り調べ。男は従順に犯行を認めるが、突然事件の予感がす
ると言い出す。そしてその予言通りに爆弾が爆発、連続爆弾
事件が開幕する。
しかし男はあくまでも予感だとして証言をはぐらかし、取調
官と男との心理戦が始まる。そんな最中にも都内各所に仕掛
けられた爆発物が次々に炸裂し、死者も出始める。警察側が
謎を解いて未然に防ぐ事例もあったが…。
果たして男の真の狙いは何か。心理戦が続いて行く。

出演は、2022年9月紹介『夜、鳥たちが啼く』などの山田裕
貴と、2023年4月紹介『探偵マリコの生涯で一番悲惨な日』
などの伊藤沙莉、それに2023年6月紹介『ほつれる』などの
染谷将太。
他に坂東龍汰、寛一郎、片岡千之助、中田青渚、加藤雅也、
正名僕蔵。さらに夏川結衣、渡部篤郎。そして2024年2月紹
介『あんのこと』などの佐藤二朗らが脇を固めている。
脚本は2018年『ラプラスの魔女』などの八津弘幸と、2017年
『亜人』などの山浦雅大。監督は2017年『帝一の國』などの
永井聡が担当した。
主な舞台が中野区野方警察署。沼袋界隈も話に出て、以前に
中野区江古田に住んでいた自分としては親しみが湧いた。と
は言え物語は都内全域に広がる壮大なスケール。取り調べの
一室と都内各所との対比も魅力的なものになって行く。
それがストーリーの緩急にも繋がるから、この作劇はかなり
巧みなものだ。そしてその取調室では山田裕貴と佐藤二朗の
心理戦が繰り広げられ、他方で伊藤沙莉、染谷将太らのアク
ションも展開される。これは一粒で二度美味しい作品だ。
そして何と言っても佐藤二朗の演技が見事。ねちねちとした
態度で取調官をはぐらかし、仕掛けてくる。それはただの浮
浪者なのか知能犯なのか。そのどちらにも取れる演技が絶妙
だ。正に演技を堪能できる。
ただまあ佐藤二朗の演技を認めない人にはきついかな。その
辺で観客が選別されてしまうかもしれないが、そこは山田裕
貴や伊藤沙莉、染谷将太らの人気でカヴァーする算段かな。
でも佐藤二朗の演技は見ものだった。

公開は10月31日より全国ロードショウとなる。
なおこの紹介文は、配給会社ワーナー・ブラザーズ映画の招
待で試写を観て投稿するものです。

『プラハの春 不屈のラジオ報道』“Vlny”
1968年3月、新大統領の選出で始まった社会主義下での自由
化への道「プラハの春」。しかしその流れは8月21日のソビ
エト軍の侵攻で押し潰される。その最期の瞬間まで国民に向
け放送を続けたラジオ局の姿を事実に基づき描いた作品。
主人公は中央通信局に技術者として勤める男性。両親は亡く
学生の弟を彼一人で養っている。そんな弟は自由を求める学
生運動に参加しており、その弟がチェコスロバキア放送局の
オーディションを受けると言い出す。
その放送局では国際報道部の部長が国家による検閲に疑義を
唱えており、上層部とは対立しながらも正しい報道を続けよ
うとしていた。そして学生運動への警察の鎮圧を巡って決定
的な対立が生じてしまう。
一方、主人公は弟の行動を心配して参加したオーディション
で図らずも合格してしまう。しかし現在の職場に固執する主
人公に中央通信局の上層部から、合格を利用して部長の行動
を監視する職務が与えられる。
こうして止む無く国際報道部のメムバーとなった主人公に、
運命の波が押し寄せてくる。

出演は本作でチェコ・アカデミー賞主演男優賞ノミネート及
びスロバキア・アカデミー賞主演男優賞受賞に輝いたヴォイ
チェフ・ヴォドホツキーと、チェコ・アカデミー賞助演男優
賞受賞のスタニフラフ・マイエル。
さらに本作でチェコ・アカデミー賞助演女優賞受賞のタチア
ナ・パウホーフォヴァー。そして雑誌モデル出身で本作に抜
擢されたオンドレイ・ストゥプカらが脇を固めている。
脚本と監督は、俳優としてチェコ・アカデミー賞助演男優賞
の受賞歴もあるというイジー・マードルが担当した。
「プラハの春」とその終焉は当時予備校生で70年安保闘争を
目の当たりにしていた自分には衝撃だったが、この弾圧が共
産圏で起き、イデオロギー由来でないことにも考えさせられ
る出来事だった。
その中でさらにこんなドラマがあったことには驚きを禁じ得
なかったが、しかも主人公が当時の言葉でいわゆるノンポリ
であったことには自分自身に照らしていろいろ考えさせられ
た。因に自分も大学では通信を学んだ身であった。
そんなことで親近感も湧く作品だったが、現代に照らしても
何時このような弾圧が起きないとも限らない、そんな恐ろし
さも感じる作品だった。

公開は12月12日より、東京地区はヒューマントラストシネマ
有楽町、新宿武蔵野館他にて全国順次ロードショウとなる。
なおこの紹介文は、配給会社アットエンタテインメントの招
待で試写を観て投稿するものです。


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井口健二