井口健二のOn the Production
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2025年06月29日(日) 愛はステロイド、ROPE、男神、キャンドルスティック、ディア・ストレンジャー、ラスト・ブレス、バレリーナ

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※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※
※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※
※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※
※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※
※スマートフォンの場合は、画面をしばらく押していると※
※「全て選択」の表示が出ますので、選択してください。※
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『愛はステロイド』“Love Lies Bleeding”
2011年12月などで紹介『トワイライト・サーガ』などのクリ
ステン・スチュアート主演で、ニューメキシコの荒野を舞台
にしたヒューマンサスペンス。
スチュアートが演じる主人公は荒野の町でトレーニングジム
を経営している。そこに1人の若い女性がやってくる。彼女
はオクラホマから来てラス・ヴェガスで開かれるボディビル
大会に出場するのだという。
そんな女性がジム内でトラブルを起こし、男に殴られた彼女
を介抱した主人公は彼女に惹かれ始め、ジムでまとめ買いし
ていたステロイドを彼女にプレゼント。それは彼女を理想の
肉体美に仕上げて行くが…。
一方、主人公の父親は射撃場を経営しているが、その裏では
かなり危ない橋を渡っているようだ。そして主人公の姉には
DVの夫がいるがそんな夫を姉はどんなに暴力を振るわれて
も溺愛していた。
そんな中で、オクラホマからきた女が事件を起こす。

共演は、『ミッション:インポッシブル/ファイナル・レコ
ニング』にも出ているケイティ・オブライアン。2008年5月
紹介『イントゥ・ザ・ワイルド』などのジェナ・マローン。
さらにアンナ・バリシニコフ、デイヴ・フランコ、エド・ハ
リスらが脇を固めている。
脚本と監督は本作が長編2作目のローズ・グラス。共同脚本
にヴェロニカ・トフィウスカ。また音楽を、2011年1月紹介
『ブラック・スワン』などのクリント・マンセルが担当して
いる。
男性の目で見るといやはや何とも…という感じだが、強烈な
内容の作品であることは間違いない。しかもその展開がとて
も冷静に考えられているとは思えないようなもので、男性の
脚本家にこれは太刀打ちできないなという感じだ。
女性による女性のための作品で、それにスチュアートが共鳴
したというところかもしれない。ご時世柄、これからこうい
う作品が増えて行くのかな。映画界が男性だけのモノではな
くなっていることを明確に示す作品だ。
そんな中でエド・ハリスが孤軍奮闘という感じなのも面白か
った。女性から男性への宣戦布告という感じもする作品だ。
男性は心して観るべき作品だろう。ニューメキシコとされる
異様な景観も楽しめた。

公開は8月29日より全国ロードショウとなる。
なおこの紹介文は、配給会社ハピネットファントム・スタジ
オの招待で試写を観て投稿するものです。

『ROPE/ロープ』
1999年生まれの俳優樹と、1998年生まれで日本大学芸術学部
出身のフリー助監督八木伶音による、共に初主演、初監督と
なる作品。
主人公は何をしても続かないと自称する男。そんな男が街中
に貼られた人探しのビラに目を向ける。そこには見覚えのあ
る女性の写真があり、有力な情報への報酬は10万円と記載さ
れていた。
そこでその女性を捜し始めた主人公は程なく彼女を発見する
が…。依頼主に連絡しつつも彼女と話をして行く中で、彼女
が人探しの対象となった理由などが判明して行く。それは彼
自身のトラウマにも繋がるものだった。

共演は2023年12月紹介『青春ジャック 止められるか、俺た
ちを2』などの芋生悠。他に藤江琢磨、中尾有伽、倉悠貴、
安野澄、村田凪、小川未祐、小川李奈。さらに前田旺志郎、
大東駿介、荻野友里、水澤紳吾らが脇を固めている。
タイトルのロープは劇中にも何度か登場するが、それが意味
するところは明確ではない。ただし首に巻き付く様子などか
らは母胎内のへその緒なのかな。そんなところから主人公の
トラウマ的なものも感じたものだ。
とは言え映画には主人公の母親が登場するものではなく、さ
らには年配者がほとんど出てこないのは、映画全体を象徴す
る思想があるようにも感じられる。でもそれらもほとんど明
確ではない。
さらには人探しのビラの張り紙というのは、最近ではほとん
ど見かけなくなったものだし、個人的な手段としてはSNS
の方が有効なものだろう。そこに敢えてビラというところに
も何らかの思いが感じられた。
そして全体的には背景世界はデストピアと主張されているよ
うで、それも明確な表現がある訳ではないが、全体の雰囲気
ではそんなイメージも湧いてくるところかな。そんな曖昧模
糊とした感覚の作品だった。
でも多分そんなところを面白いと感じてくれるファン層はい
そうな感じで、それなりのカルト的な評価を生みそうな作品
ではある。それが若い人にはアピールする所なのだろうし、
それを支えるだけの力量は感じられる作品ではあった。

公開は7月25日より、東京地区は新宿武蔵野館他にて全国順
次ロードショウとなる。
なおこの紹介文は、配給会社S・D・Pの招待で試写を観て
投稿するものです。

『男神』
2020年「日本(美濃、飛騨等)から世界へ!映像企画」に入選
し、YouTube での朗読が評判を呼んだという八木商店の原作
を基に、2018年12月23日付題名紹介『ソローキンの見た桜』
などの井上雅貴脚本・監督で描いた作品。
主人公は建設会社に勤める男性。数年前に妻が失踪し、男手
一つで息子を育てている。そんな主人公が担当する新興住宅
地の工事現場に謎の深い穴が出現、時を同じくして彼の息子
が行方不明になる。
この状況で穴に疑いを持った主人公は危険を顧みず穴に入っ
て行くが…。その奥には深い森が広がり、そこでは巫女たち
が息子を生贄として捧げる謎の儀式を行っていた。果たして
その危機から息子を救い出すことができるのか?

出演は2024年12月紹介『室町無頼』などの遠藤雄弥、元宝塚
雪組の彩凪翔、元King&Princeの岩橋玄樹、元SKE48の須
田亜香里。さらにカトウシンスケ、沢田亜矢子、加藤雅也ら
が脇を固めている。
仏教伝来以前の日本の古代信仰では深い洞穴は主には黄泉の
国への伝達路として数多く登場しているようだ。またそれは
異次元への通路であったり、タイムトンネルのように時間を
超える存在であったりもする。
そんな古代信仰に基づく伝承を踏まえた物語で、そこには生
贄が関ることも多いとされ、そこからの発展形として本作が
形作られているとは言える。そこに新興住宅地が絡むのは時
代の成り行きとしては有り勝ちだろう。
ただそこからの物語の展開が多少平板かな。現代の巫女や山
伏の登場は、彼らがどちらの側に付くか判らないだけにこの
辺はもっと丁寧に描いて欲しかった感じもする。本来なら穴
底の巫女たちに敵対するものではないだろう。
もし敵対するならその経緯や来歴もあったはずで、その辺の
曖昧さが個人的には少し物語に乗り切れない感じがした。そ
こらをしっかり描けばもっと面白くできたと思えるし、物語
全体が崇高になったかな。そんな感じのする作品だった。
まあ最後の一発撮りのアクションシーンはそれなりに面白い
ものにはなってはいたが…。

公開は9月19日より、東京地区はヒューマントラストシネマ
渋谷他にて全国ロードショウとなる。
なおこの紹介文は、配給会社平成プロダクションの招待で試
写を観て投稿するものです。

『キャンドルスティック』
テレビ・映画で大活躍の阿部寛を主演に迎えて、FXとAI
の危うさを描いた日本台湾合作の経済アクションドラマ。
時代背景は2019年5月。平成から令和の改元に併せてネット
ワークの脆弱になるタイミングを狙って大掛かりな経済詐欺
が計画される。その主役は5年前に株価操作で検挙された元
は天才ホワイトハッカーと呼ばれた男。
彼は以前の仲間を再招集して5年前に彼を陥れた女性企業家
への復讐を目論む。そこに難民で無国籍の子供たちを支援す
る中東出身の女性や、イランの首都テヘランに暮らす凄腕の
ハッカーらが絡んで未曽有の詐欺が進められる。

共演は菜々緒、サヘル・ローズ、津田健次郎、YOUNG DAIS、
デビッド・リッジズ。そこにイランからマフティ・ホセイン
・シルディ。さらに台湾からタン・ヨンシュー、リン・ボー
ホン、アリッサ・チアらが脇を固めている。
川村徹彦の原作『損切り:FXシミュレーション・サクセス
ストーリー』から脚本はプロデューサーも務める2007年1月
紹介『蟲師』などの小倉悟。監督はモデル出身で映像クリエ
ーターに転身した米倉強太が長編デビューを飾っている。
近年はAI万能論みたいなものが蔓延していて、正直にはこ
の風潮に危惧を感じていたものだが、本作ではその危険性を
見事に描いていて、それは胸のすくような感覚だった。この
描き方には共感する。
ただ物語では菜々緒が演じる女性の共感覚などの設定が生か
し切れておらず、折角の面白さがちょっと物足りなかったか
な。上映時間が93分というのも海外ロケも敢行された作品に
しては短いもので、何となくもやもやした。
それでもそんな中に難民の子供の無国籍問題などもしっかり
と盛り込んだのは、その辺への問題意識も高い作品と感じら
れてそれは好感だった。しかもその役柄がサヘル・ローズと
いうのも良い見識と思われる。
出来たら本作に盛り込まれたいろいろな問題をもっと整理し
直して、再度挑戦して欲しいと思う作品だった。全体にもう
一歩の踏み込みが物足りなく、勿体なくも感じたものだ。
それと一点だけ、映画の後半でキャンドルスティックが描か
れるシーンに誤解があるように感じられた。為替の表現は面
倒くさいし殆んどの人は気にしないと思うが…。

公開は7月4日より、東京地区は新宿バルト9他にて全国ロ
ードショウとなる。
なおこの紹介文は、配給会社ティ・ジョイの招待で試写を観
て投稿するものです。

『Dear Stranger/ディア・ストレンジャー』
2021年『ドライブ・マイ・カー』などの西島秀俊と、2020年
3月29日付題名紹介『鵞鳥湖の夜』などのグイ・ルンメイの
共演で、2019年8月25日付題名紹介『宮本から君へ』などの
真利子哲也監督がニューヨークを舞台に描いた作品。
登場するのはニューヨークで暮らす日本人と台湾系アメリカ
人の夫婦。夫は大学で講師をしながら研究職を目指し、妻は
人形劇の公演を目指して頑張っている。そんな夫婦には幼い
一人息子がいたが…。
妻は実父が開業した雑貨店も切り盛りしており、そんな店が
強盗に襲われる。その現場には息子もいて怪我などはなかっ
たが、不穏な気持ちに襲われる。一方、夫の自動車に落書き
がされ、年式も古い車には買い替えも勧められる。
そんなニューヨークの現実が描かれる中で、夫婦の息子が誘
拐される。それは直ちに警察に届けられるが、凶悪犯罪の多
い街では警察の動きも遅い。それでも息子は発見されるが、
それは新たな犯罪に繋がっていた。
そんないろいろな事態が錯綜する中で、夫婦の関係が試され
て行く。夫は夫婦間では英語で会話し、妻の両親には片言の
中国語で話す。さらにスペイン語や手話も使われる。そして
夫が日本語で悪態をつく瞬間が訪れる。

共演者は、Fiona Fu、Christopher Mann、Everest Talde。
さらにJames Chu、Lanett Tachel、Michael Krysiewiczらが
脇を固めている。
なおポスターのデザインにも使われている劇中の人形劇は、
シカゴ出身でメリーランド大学にてジム・ヘンスンの名前を
冠したアーティスト・イン・レジデンスを務めたこともある
ブレア・トーマスが手掛けている。
異文化の坩堝のようなニューヨークで異なるルーツの夫婦が
そのアイデンティティを試される。それはある程度ストレー
トな話なのかなと思わせて、映画の後半ではとんでもない事
態に繋がって行く。
その辺の面白さが満載という感じの作品だ。ただ結末の解釈
がかなり難しくて、正直にはその解釈が纏まり切れていない
感覚だ。特には真犯人は誰なのか? 映画ではある1人に結
論付けられているが、果たしてそうなのかも判らない。
出来たらもう1回観たいとも思っているところだ。

公開は9月より、東京地区はTOHOシネマズ日比谷シャンテ他
にて全国ロードショウとなる。
なおこの紹介文は、配給会社東映の招待で試写を観て投稿す
るものです。

『ラスト・ブレス』“Last Breath”
2012年9月、北海の海底に敷設されたガス・パイプラインの
点検作業中に起きた究極の海難とも呼べる実際の事故の模様
を、ほぼ実時間の再現ドラマで描いた作品。
登場するのは通信ケーブルやパイプラインの整備点検など、
通常では辿り着けない海底で作業を行う飽和潜水士。その資
格を持つクリスは婚約者との別れを惜しみつつアバディーン
港から北海へと向かう。
その船内では気圧調整のチェンバーに入り徐々に加圧しなが
ら現場海上までの航海が続く。そして現場に到着するとチェ
ンバーごと北海に降ろされ、そこから設定された気圧=水圧
の海中に出て作業を行うものだ。
それは経験を積んだクリスたちには定例の仕事だったが…。
クリスらが作業を始めた頃、海上では大嵐が母船を襲いコン
ピュータの不調もあって船が流され始める。このため作業を
中断してチェンバーに戻る指示が出される。
ところがその途中でクリスの命綱が切れてしまう。この時ク
リスに残されたのは容量10分の補助タンクのみ。ここから絶
望的な救出活動の様子がほぼ実時間で、船上での支援活動の
動きと共に描かれて行く。

出演は、2021年『ワイルド・スピード/ジェットブレイク』
に出ていたというフィン・コールと、2023年『バービー』で
ケン役のシム・リウ。そしてウディ・ハレルスン。
他に、Cliff Curtis、Mark Bonnar、MyAnna Buring、Bobby
Rainsburyらが脇を固めている。
2019年に発表されたドキュメンタリーに基づく脚本はミッチ
ェル・ラフォーチュン、アレックス・パーキンソン、デビッ
ド・ブルックスが担当。監督は2019年のドキュメンタリーも
手掛けたアレックス・パーキンソンが再度挑戦している。
飽和潜水士という職業は数年前に北海道で起きた観光船沈没
事故の際に話題になったが、本作ではその実際の作業や準備
などが克明に描かれている。その過酷さも目の当たりにする
ことができるものだ。
自分がかなづちで川でおぼれた経験もあるものだから、こう
いう作品を観ると本当に息が詰まる思いがする。しかも本作
ではそれが実時間での再現だから、その緊迫感は予想以上の
作品だった。
因に映画の最後では科学的な根拠が不明というような記載が
出ていたが、この経緯自体はSFファンならコールドスリー
プとして既知のもの。『2001年宇宙の旅』にも描かれていた
が、それが実現できることの証左のようだ。

公開は9月26日より、東京地区は新宿バルト9他にて全国ロ
ードショウとなる。
なおこの紹介文は、配給会社キノフィルムズの招待で試写を
観て投稿するものです。

『バレリーナ The World of John Wick』
      “From the World of John Wick: Ballerina”
2023年6月紹介『ジョン・ウィック:コンセクエンス』など
キアヌ・リーヴス主演のアクションシリーズを基に、新たな
視線で描かれたスピンオフ・ストーリー。
登場するのはバレー団で厳しいダンスと暗殺術を学ぶ少女。
彼女は幼い頃に目の前で父親を殺され、父の友人らしい男の
手蔓でそのバレー団に入団した。そして父の復讐心に燃える
少女は着実に成長し、暗殺者としての仕事を開始する。
その仕事の中で少女は父を殺した一味と同じ印を持った男を
見付け、その印の意味を探り始める。しかしそれは彼女と同
業ながら互いは不戦協定を結んだ別の組織のものだった。こ
のため彼女にはそれ以上の接近が禁じられるが…。
物語はニューヨークからプラハ、そして厳冬のオーストリア
のスキーリゾートへと展開して行く。

出演は2019年12月29日付題名紹介『ナイブズ・アウト』など
のアナ・デ・アルマス。他にアンジェリカ・ヒューストン、
ガブリエル・バーン。
さらに2005年7月紹介『そして、ひと粒のひかり』などのカ
タリーナ・サンディノ・モレノ。2013年9月紹介『ウォーキ
ング・デッド』シリーズなどのノーマン・リーダス。
そしてオリジナルシリーズからランス・レディック(遺作)、
イアン・マクシェーン、キアヌ・リーヴスらも登場する。
監督は、2003年11月紹介『アンダーワールド』でシリーズの
立ち上げを手掛け、2012年8月紹介『トータル・リコール』
も担当したレン・ワイズマン。
脚本はオリジナルシリーズの後半2作で共同脚本を務め、本
作では単独でオリジナル脚本を担当したシェイ・ハッテン。
なおオリジナルシリーズの監督を務めたチャド・スタエルス
キは本作の製作を担当している。
実はオリジナルのシリーズではキアヌが所属する組織と、敵
対する組織との関係性が今一つ把握しきれていなかったのだ
が、本作でその辺がかなり明確になっている感じがした。そ
の辺は脚本家の手腕かな。
とは言うものの本シリーズの主眼はアクションにある訳で、
七面倒くさい関係性などはぶっ飛ばして見事なアクションが
展開される作品だ。その辺がしっかり押さえられているのも
脚本家の腕だろう。
しかも本作は主人公が女性ということで、腕力に頼らない華
麗なアクションも楽しめる。但し主眼は銃撃戦だが…。それ
らがのべつ幕なしで展開されるのも見事な作品だ。

公開は8月22日より、東京地区はTOHOシネマズ日比谷他にて
全国ロードショウとなる。
なおこの紹介文は、配給会社キノフィルムズの招待で試写を
観て投稿するものです。


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