| 2025年06月15日(日) |
こんな事があった、わたしは異邦人、原爆スパイ |
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ ※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※ ※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※ ※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※ ※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※ ※スマートフォンの場合は、画面をしばらく押していると※ ※「全て選択」の表示が出ますので、選択してください。※ ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ 『こんな事があった』 1979年にデビュー作を発表して以来、監督作は5本のみとい う寡作の松井良彦監督が、前作から18年を経て発表した渾身 の最新作。 時代背景は2021年夏。舞台は福島県の帰宅困難地区。そんな 立ち入りも制限されている場所を若者が徘徊している。その 若者の自宅は立ち入り禁止のロープで仕切られていたが、若 者は頓着しない。 そんな若者が警察に職質された時、近くにいた同級生が彼を 救う。そんな2人には様々な絡みがあるようだが…。やがて 若者は海岸で出会った男が営むサーフショップを訪ね、そこ で暮らすようになる。しかし若者の苦悩は終わらない。 出演はお笑いコンビ「まえだまえだ」の弟で2025年4月紹介 『リライト』などの前田旺志郎と、2024年10月紹介『大きな 玉ねぎの下で』などの窪塚愛流。他に柏原収史、八杉泰雅、 金定和沙、里内伽奈、大島葉子、山本宗介。 さらに波岡一喜、近藤芳正、井浦新らが脇を固めている。 前回最後に紹介した『この夏の星を見る』が2020年の話で、 本作の時代背景はその翌年。どちらも主人公は高校生で、未 曾有の災害に翻弄された若者を描いている。しかし前回紹介 の作品が多少の闇はあっても未来への希望を描いていたのに 対して、本作はどうだろう。 因にどちらも実話に基づくものではなく、飽く迄創作された 物語だが、ほんの5日開けて観た両作の落差には唖然として しまった。これはもちろん両作の優劣を語るものではなく、 どちらも真摯に描かれた作品だが。こんなにも違う2つの世 界が存在していることに驚愕したものだ。 そこは当然ながらネガティヴな世界を描いた本作の方がずし りと胸に来てしまうが、こんな両極端な世界を続けて観られ たことには感謝もしたくなってしまった。 それにしても本作に描かれた世界はフィクションとして凝縮 されているとはいえ、正しく日本の歪みが描かれているよう で、ちょうど「東電経営者に責任はない」とする逆転判決が 出た直後の鑑賞には一層重くも感じられた。 この被害者たちへの責任は何処にあるのか、そこを深く考え させられる作品だった。 公開は9月13日より、東京地区は新宿K's cinema他にて全国 順次ロードショウとなる。 なおこの紹介文は、配給会社イーチタイムの招待で試写を観 て投稿するものです。
『わたしは異邦人』“Gündüz Apollon Gece Athena” 2024年東京国際映画祭<アジアの未来>部門で横浜聡子監督 らの審査員により作品賞に選ばれたトルコの俊英エミネ・ユ ルドゥム脚本・監督による作品。なお映画祭時の上映邦題は 『昼のアポロン 夜のアテネ』というものだ。 主人公はイスタンブールで暮らす女性プログラマー。そんな 彼女が母親の姿を追って古代遺跡が残る地中海沿岸の都市シ デを訪れる。そんな彼女にはフセインという若い男性が付き 添っていたが…。 実は彼女には幽霊と会話する能力があり、フセインも実際は 幽霊。そして彼の幽霊仲間の情報で彼女の母親の姿がシデに あると伝わってきたのだ。そしてこの町で様々な幽霊と交流 する中で彼女は徐々に母親の足跡に近付いていく。 そんな母親は彼女が生まれて間もない頃に行方不明になって おり、残された手掛かりはシデの町で写されたはずの古びた 写真のみ。しかしそこに隠された真実が驚愕の事態を生じさ せることになる。 出演はエズキ・チェリキ、バルシュ・ギョネネン、セレン・ ウチェル、デニズ・デュルカリ。馴染みのない名前ばかりだ が、新鮮な物語を鑑賞するにはそれも有り難い。 因に脚本・監督のユルドゥムは女流で、脚本家・プロデュー サーとしても活躍。過去には短編を複数本発表しており、本 作が長編デビューとなっている。 幽霊が見える設定というと『シックス・センス』などが思い 浮かぶが、そこからこのような進化が行われたという感じの 作品でもある。しかもそこにいろいろ現代的な視点が加わっ ているのも見どころになっている。 そこには家父長制度のようなトルコ=イスラム国に特徴的な ものも含まれるが、全体的には女性の立場の弱さのような普 遍的な部分もあって、日本人にも理解はしやすいものに表現 されている。 そしてもう一つの見どころは異国情緒あふれるシデの風景。 そこには古代遺跡を含めて邦題の「異邦人」も納得の見知ら ぬ風景が登場する。しかも僕はこのシデを含むアンタルヤと いう地名に聞き覚えがあって気になってしまった。 それで頭を捻って調べたら、その地は自分が応援しているJ リーグのチームがCOVID-19禍以前に3度ほどキャンプを張っ ていた場所だった。個人的にはそんなことでの親しみも湧い て楽しめる作品だった。 公開は8月23日より、東京地区は渋谷ユーロスペース他にて 全国順次ロードショウとなる。 なおこの紹介文は、配給会社パンドラの招待で試写を観て投 稿するものです。
『原爆スパイ』“A Compassionate Spy” 1997年にソ連のスパイと認定されるも生涯訴追されることの なかった物理学者セオドア・ホールの姿を、1994年『フープ ・ドリームス』などのスティーヴ・ジェームズ監督が再現ド ラマも交えて描いたドキュメンタリー。 セオドア“テッド”ホールは1925年のニューヨーク生まれ、 14歳でクイーンズカレッジに入学。1942年にハーバード大学 に編入して18歳で物理学の学位を取得。その前年からロスア ラモスに最年少科学者として勤務を始めていた。 しかし開発された核兵器の威力にその技術を一国が独占する ことの危険に気付いたホールは、1944年に休暇でニューヨー クを訪れた際にソ連の情報部と接触、以後その研究の成果を ソ連側に流すことになる。 そんなホールは、終戦後の1946年ににシカゴ大学に再入学。 そこで1944年に15歳でシカゴ大学に飛び級入学していた後の 妻ジョーンと出会う。そしてホールがジョーンにプロポーズ と共に告げたのは、ソ連への情報提供の告白だった。 その後は1953年に同じくソ連のスパイとされたローゼンバー グ夫妻の死刑執行を機にイギリスに移住。ケンブリッジ大学 に研究者として勤務して1999年に死去。その前にスパイと認 定されるも裁判には至らなかった。 そんなテッドとジョーンのホール夫妻の姿が、テッド本人の アーカイヴ映像やジョーンへのインタヴューと再現ドラマ。 さらに家族や関係者へのインタヴューと共に描かれる。 なおこの作品はヴェネツィア国際映画祭、アムステルダム国 際ドキュメンタリー映画祭などで公式上映されている。 アメリカは核兵器を戦争で使用した唯一の国であり、日本は 唯一の被爆国とされる。しかし終戦の直前ですでに日本に戦 意の無いことが判明しているにも拘らずなぜアメリカは原爆 を投下したのか。そこがテッドの最大の危惧だった。 そのためテッドはソ連に情報を流したのであり、アメリカだ けが強大化することへの危険を察知していたものだ。因に原 題の‘Compassionate ’は「慈悲深い」という意味。それが この作品の主張だろう。 今や原爆がアメリカ、ロシアの2国というより、2人の大統 領の玩具とされている時代に、この作品は最大の警鐘として 公開されるものだ。 公開は8月1日より広島市八丁座にて先行上映の後、東京地 区は8月2日から渋谷ユーロスペース他にて全国順次ロード ショウとなる。 なおこの紹介文は、配給会社パンドラの招待で試写を観て投 稿するものです。
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