井口健二のOn the Production
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2025年06月08日(日) 炎はつなぐ、ハオト、この夏の星を見る

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※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※
※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※
※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※
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『炎はつなぐ』
2007年『水になった村』などの大西暢夫監督が15年に亙って
日本の伝統技術を守る全国の職人を取材した中から、14人の
職人技を厳選して描いた日本の技の集大成とでも呼べそうな
長編ドキュメンタリー。
映画の始まりは愛媛県大洲市の養蚕農家。日本の産業の根幹
とも呼べる養蚕がやはり最初に紹介される。そこでは年4回
2家族で40万頭もの蚕を育てるという昼夜を分かたぬ不断の
技が紹介される。
続いては長崎県島原市の木蝋。ここでは原料となるハゼの実
を摘むちぎりこと呼ばれる職人や、収穫されたハゼの実を蒸
して木蝋を搾り取る工程などが紹介される。そしてその搾り
残りの用途として福岡県の絣工房が紹介される。
さらに徳島県の製藍所、岡山県のミツマタ農家、岡山県の和
紙職人、金箔職人、塗師屋、漆掻き、灯芯引き、墨職人、真
綿職人、和蠟燭職人など、様々な伝統工芸を支える職人の姿
が描かれる。

出演はそれぞれの職人たちだが、そこには取材に15年を費や
して信頼を勝ち得たという大西監督の姿も自然と登場する。
さらには撮影、スチール、ナレーションも監督が担当という
ワンマン作品だ。
作品のジャンルとしてはドキュメンタリーとなっているが、
上記のように出演やナレーションも監督自らが担当している
こともあって、どちらかというとフィルムセエッセーと言っ
た感じの作品だ。
その良し悪しは、例えばそれぞれの伝統工芸の工程などをも
う少し詳細に描いて欲しかったかな…という思いはするが、
観易さという点では本作の手法は正しい。特に次々に匠の技
が紹介されるから、それは息をのむような迫力だった。
正直に言って僕自身が技術系の出身なもので、それぞれの技
の巧みさは理解もしやすかった面はあるが。それを立て続け
に出されると目くるめくような面白さになっていた。その描
き方にも感動した。
そして言葉は悪いかもしれないが正しく芋づる式とでも言え
そうな展開も、実に面白く観させて貰えたものだ。久しぶり
に技術が持つ面白さを堪能させて貰えた。

公開は7月19日より、東京地区はポレポレ東中野他にて全国
順次ロードショウとなる。
なおこの紹介文は、配給会社シグロの招待で試写を観て投稿
するものです。

『ハオト』
1997−98年放送の『ウルトラマンダイナ』などに出演の俳優
丈(小野寺丈)が脚本監督を手掛けた「戦後80周年記念作品」
と銘打たれたかなり捻りのある戦争映画。
時代背景は昭和20年の春から初夏。舞台は山間に建つ精神病
院(?)。そこには戦争に従事したために精神に異常をきたし
た患者たちが収容されている。しかしその実態は軍の機密施
設でもあるようだ。
というのもそこには原子爆弾の完成間際に障碍となった博士
や、戦況を予言して虚言症と診断されたがその予言が尽く的
中している「閣下」と呼ばれる男性患者、それに伝書鳩で何
処かと交信している女性患者などがいて…。
そこにさらにハワイ生まれの日系人で二重スパイになるとい
う若者が現れて事態が動き始める。一方、軍の上層部ではソ
連を仲介とする和平の道も模索されて、病院でその交渉も始
まるが。

出演は原田龍二、長谷川朝晴、木之元亮、AKB48の倉野尾
成美と村山彩希。さらにマイケル富岡、三浦浩一、片岡鶴太
郎(特別出演)、高島礼子らが脇を固めている。因に丈監督も
出演している。
精神病院を舞台に戦争を戯画化するという作品は他にもいろ
いろあったと思うが、さらにそこに未来との交信というアイ
デアを盛り込んだのは新趣向かな。昭和 100年という節目の
年の作品とも言える。
ただそのアイデアが生かし切れたかというと少し物足りない
感じもする。どうせならもっと明確にその辺を描いても良か
ったのではないかな。せっかくのアイデアが少し埋もれてし
まったようにも感じられた。
特にソ連との交渉はソ連の再参戦という歴史上の事実もある
訳だから、もっといろいろな捻りがあっても良かった感じも
した。それに第2のアメリカ兵の登場やそれに伴うアクショ
ンなどはテーマを損なう気もした。
未来との交信があるのなら、歴史改変とまでは行かないにし
てももう少し何かが描けたようにも感じられたものだ。でも
まあこういう話が増えているのは、自分としては嬉しいとこ
ろではある。

公開は8月8日より、東京地区は池袋シネマ・ロサ他にて全
国順次ロードショウとなる。
なおこの紹介文は、配給会社渋谷プロダクションの招待で試
写を観て投稿するものです。

『この夏の星を見る』
直木賞作家の辻村深月が2021−22年に新聞連載でもって発表
した文庫本で上下巻という長編青春小説の映画化。
時代背景は2020年。COVID-19禍に見舞われた茨城、東京、長
崎県五島の高等学校を巡って物語は展開される。それは疾病
の影響で部活動もままならなくなった校内では、その影響で
の苛めなども始まっていた。
そんな中で県外の旅行客を受け入れたことで級友から疎まれ
るようになった五島列島の旅館の生徒が、友達から山頂にあ
る天文台の見学に誘われる。そこでは見学会そのものは規制
されていたが、ある提案がされる。
一方、茨城県の学校では天文部が毎年の夏合宿で行っていた
手作り望遠鏡によるスターキャッチのイヴェントが出来なく
なり失望感が募っていたが、そこに五島の高校から問い合わ
せのメールが届く。
こうしてネットを通じてのスターキャッチの構想が高まり、
それに東京に帰省中に島に戻れなくなった転校生も加わって
全国規模でのイヴェントがスタートする。そんな高校生たち
の活動が描かれて行く。

出演は、2024年10月紹介『大きな玉ねぎの下で』などの桜田
ひよりと、モデル出身でドラマ出演もしている水沢林太郎。
さらに黒川想矢、中野有紗、早瀬憩、星乃あんな、和田庵、
萩原護、秋谷郁甫、増井湖々、安達木乃、蒼井旬。
また松井彩葉、中原果南、工藤遥、小林涼子、上川周作、河
村花、朝倉あき、清水ミチコ、堀田茜、近藤芳正、岡部たか
しらが脇を固めている。
脚本は東京藝術大学大学院映像研究科映画専攻脚本領域修了
の森野マッシュ。監督は大阪芸術大学映像学科卒業で話題の
ドラマなども手掛ける山元環。共に映画デビューの気鋭が若
さ溢れる作品を作り上げている。
ようやくCOVID-19関連の作品が登場し始めてきたという感じ
の中で、本作は正面切って危機管理などを描くような大げさ
な作品ではないけれど、市井にあって本当に苦しんだ高校生
たちの姿をリアルに描いた作品と言える。
そしてそこに希望を描けたことも本作のあるべき姿という作
品だろう。しかもそこに天文学という科学がバックボーンと
して存在することにも、未来への夢が描ける作品だ。若い俳
優たちがしっかりと演じていることも素晴らしかった。

公開は7月4日より全国ロードショウとなる。
なおこの紹介文は、配給会社東映の招待で試写を観て投稿す
るものです。


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井口健二