| 2025年05月18日(日) |
それでも私は Though I'm His Daughter、アメリカッチ コウノトリと幸せな食卓 |
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ ※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※ ※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※ ※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※ ※読まれる方は左クリックドラッグで反転してください。※ ※スマートフォンの場合は、画面をしばらく押していると※ ※「全て選択」の表示が出ますので、選択してください。※ ※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※ 『それでも私は Though I'm His Daughter』 オウム真理教・麻原彰晃の三女でアーチャリーこと松本麗華 の姿を描いたドキュメンタリー。本作はロサンゼルスで開催 された第25回Life Fest Film FestivalにてSpirit of Capra 賞長編ドキュメンタリー部門などで受賞を果たしている。 映画の始まりは2018年2月、1人の男性が当時34歳の松本麗 華に面会を申し込む。その男性は34年前に起きた保険金殺人 事件の被害者の兄であり、その犯人の死刑が執行された直後 だった。 つまり男性は殺人被害者の親族であり、一方の松本は1995年 「地下鉄サリン事件」などの加害者(当時は死刑囚)の親族。 これは究極の立場の2人の対談ということになる。しかしそ の席で2人はある種和やかな会話を続けている。 それは男性には自分の弟が殺された真の理由が知りたいとい う思いもあったようだが、松本の口からは幼かった頃の優し かった父親の思い出などが語られるだけであり、そんな父親 が重罪を犯した理由は彼女にとっても謎だった。 そんな松本には国による「教団幹部」の認定が続いており、 希望する就学もままならず、銀行口座さえ開けない日々が続 いていた。そして精神に異常をきたしたと思われる父親の治 療も許されず、犯行の理由は不明のままだった。 しかし2018年7月、突然松本智津夫らの死刑が執行され、犯 行の理由は不明のまま事件は終結してしまう。そんな松本麗 華の日々が綴られて行く。 監督は、2017年大阪ABCテレビのドキュメンタリー『生き 直したい』で坂田記念ジャーナリズム賞受賞などの長塚洋。 近年は死刑問題を多く扱っているドキュメンタリストの究極 の作品とも言えるかも知れない。 「地下鉄サリン事件」は犯行現場となった築地駅や霞が関駅 が自分にとっては平生利用している駅だったこともあり、衝 撃を受けたものだったが、その犯行の意味は全く不明のまま 事件は死刑執行によって終結してしまった。 しかし本作は死刑囚の親族に焦点を当てたものであり、謎解 きよりは親族が置かれた状況などを多く描写している。それ は監督の観点としては当然と言えるものだろう。死刑廃止論 の主張としては解り易いものでもあった。 とは言え観終えてモヤモヤが残るものではある。特に突然の 死刑執行については、しかも13人が一気に執行されたことに は何か隠された裏があるようにも感じてしまうものだ。そん な疑問を炙り出してくれたような作品でもあった。 公開は6月14日より、東京地区は新宿K's cinema他にて全国 順次ロードショウとなる。 なおこの紹介文は、制作・配給会社Yo-Proの招待で試写を観 て投稿するものです。
『アメリカッチ コウノトリと幸せな食卓』 “Ամերիկացի/Amerikatsi” 旧ソヴィエト連邦の構成国だったアルメニアの歴史を基に、 その歴史に翻弄される1人の男性の姿を描いた作品。本作は ウッドストック映画祭やハンブルク映画祭など、世界各地の 映画祭で審査員賞や観客賞などの受賞を果たしている。 主人公は第1次大戦中の1915・16年に起きたオスマン帝国に よる大虐殺を逃げ延びてアメリカで暮らしていた男性。そん な男性がソ連併合後の1946〜48年にスターリンが提唱した祖 国帰還運動に誘われてアルメニアに戻ってくる。 しかし現地の言葉を喋れない男性は、ちょっとした発言や仕 草によってアメリカのスパイと誤解され、モスクワから派遣 されていた軍の司令官によって投獄、さらにシベリア送りの 刑が科されることになる。 ところが偶然の作用によって流刑は免れ、物置同然の独房に 収監されるが、そこでいろいろな知恵を働かせた男性は、高 窓から覗ける宿舎に暮らす夫婦に目を留める。そこから奇跡 のような物語が紡がれて行く。 脚本・監督・編集・主演はサンフランシスコ生まれでアルメ ニア系アメリカ人のマイクル・グールジャン。祖父母が大虐 殺の生き残りという監督が、祖父に捧げるとして作り上げた アメリカ・アルメニア合作の作品だ。 共演はアルメニアとスペインの血を引く元ヘヴィー級のプロ ボクサーでゴヤ賞ノミネートなどの経歴を持つホヴィク・ケ ウチケリアン。ロシアとアルメニアの血を引く舞台女優のネ リ・ウヴァロワ。 さらにロシア人のミハイル・トルヒン。アゼルバイジャン出 身のナリーヌ・グリゴリアン。アルメニアの芸術大学出身で 2005年12月紹介『ロード・オブ・ウォー』などに出演のジャ ン=ピエール・ンシャニアンらが脇を固めている。 お祖父さんに捧げられてはいるものの実話に基づくという作 品ではない。しかしオスマン帝国による大虐殺やスターリン 主義者による横暴な支配などは歴史に基づくものであり、そ んなアルメニアの厳しい歴史が描かれた作品ではある。 とは言え物語の展開はある種ファンタスティックと言えるも のでもあり、まあ何というかその辺が魅力的な作品とも言え る。そしてどんな逆境でもめげないアルメニア人の気骨のよ うな物も描かれている。その辺が献辞でもあるのだろう。 映画の舞台はアララト山が遠望される場所のようで、作中で も何度もその山の姿が登場する。この山は旧約聖書のノアの 方舟にも出てくるが実はアルメニアのお酒の銘柄で、僕自身 が若い頃に飲んで最高と思った銘柄でもある。 当時の日本では「アララトの3☆」しか輸入されていなかっ たが、1970年の万博絡みで「5☆」を飲む機会があり、若輩 ながらその美味しさに感激したものだ。作中にもコニャック の醸造所という言葉が出て来て嬉しくなった。 公開は6月13日より、東京地区はTOHOシネマズ日比谷シャン テ他にて全国順次ロードショウとなる。 なおこの紹介文は、配給会社彩プロの招待で試写を観て投稿 するものです。
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