井口健二のOn the Production
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2025年04月20日(日) 囁きの河、「桐島です」

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※このページでは、試写で観せてもらった映画の中から、※
※僕に書く事があると思う作品を選んで紹介しています。※
※なお、文中物語に関る部分は伏字にしておきますので、※
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『囁きの河』
2020年7月の熊本豪雨で壊滅的な被害を受けた人吉球磨地域
を舞台に、未だ災害の傷跡が残る中で制作された作品。
2020年10月、一人の男が母親の訃報を聞いて22年ぶりに人吉
に帰ってくる。しかし仮設住宅に暮らす実の息子は自分を置
いて出て行った男につらく当たる。男に出奔した理由は借金
だったというが…。
一方、男に訃報を送った地元旅館の主人は目の前で父親を豪
雨で失った痛手で、長く連れ添う妻にも心を開けなくなって
いた。そんな妻は旅館の再開に奮闘していたのだが、その町
に行政から治水のための新たな計画が知らされる。
そして男の息子は、急流球磨川下りの船頭を目指して流れ着
いた船の修復に余念がなかったが、元々船頭だったらしい父
親が手を貸そうとしてもなかなか心を開かなかった。その中
で男は隣家の夫婦と共に農地の再開を目指す。
こんな物語ががれきに埋まった被災地を背景に繰り広げられ
る。

出演は地元人吉市出身で1992年映画デビューの中原丈雄。息
子役に渡辺裕太。他に清水美沙、三浦浩一、元AKB48篠崎
彩奈、お笑い芸人のカジ、文芸坐出身の輝有子、寺田路恵。
さらに不破万作、宮崎美子らが脇を固めている。
日本のグリーンツーリズム運動のリーダー的存在とされる東
洋大学社会学部名誉教授・青木辰司氏がエグゼクティブプロ
デューサーを務め、脚本と監督はNHK出身で朝ドラ『おし
ん』などを手掛けた大木一史が担当している。
時折牙をむく自然と対峙する人間の営みを描いた物語で、正
にここで描かれるべき作品だったと言える。それは自然と折
り合いをつけることでもあり、それが急流下りの操船に苦難
する息子の姿で象徴的にも描かれる。
多分その辺は「おしん」にも繋がるテーマかも知れない。そ
の辺を監督が巧みに描き切った作品とも言えそうだ。しかも
それが災害の後でも緑豊かな自然と瓦礫に埋もれた耕作地と
の対比でも描かれ、人の営みも描き出す。
いろいろな意味で大きなスケールの作品だった。

公開は6月27日から熊本県先行で上映され、東京地区は7月
11日より、池袋シネマ・ロサ他にて全国順次ロードショウと
なる。
なおこの紹介文は、配給会社渋谷プロダクションの招待で試
写を観て投稿するものです。

『「桐島です」』
2024年1月29日に神奈川県内の病院で死亡した桐島聡と名乗
る男の半生を、2022年7月紹介『夜明けまでバス停で』によ
り国内各所の映画賞で監督賞、脚本賞など数々の賞に輝いた
高橋伴明監督、梶原阿貴脚本のコンビで描いたドラマ作品。
映画の開幕は1974年8月30日に起きた三菱重工爆破事件。当
時のニュース映像なども挿入されるこのシーンで、事件の主
謀は東アジア反日武装戦線「狼」だったが、この爆破で8人
の死者が出たことに桐島は衝撃を受ける。
そこで桐島は宇賀神寿一らと共にグループ「さそり」を結成
して東アジア反日武装戦線に合流するも、爆弾闘争では人的
被害が出ない場所やタイミングを狙っていたという。しかし
一連の事件によって桐島も指名手配となる。
こうして地下に潜ることになった霧島は偽名「内田洋」にて
神奈川県藤沢市内の工務店に勤務。そこで数10年を過ごして
いた。その間には様々な出会いなどもあったが、身分を隠す
桐島に幸せが訪れることはなかった。

出演は、1人で20代から70歳で亡くなるまでを演じて見せた
2025年1月紹介『初級演技レッスン』などの毎熊克哉。他に
2024年6月紹介『心平、』などの奥野瑛太と2023年9月紹介
『春画先生』などの北香那。
さらに白川和子、下元史朗、甲本雅裕、高橋惠子らが脇を固
めている。
『夜明けまでバス停で』にも爆弾テロの話が出てきたが、同
作の公開は桐島発見の前。このどちらにも東アジア反日武装
戦線「狼」が出版した冊子「腹腹時計」が登場するが、これ
は高橋監督には運命だったのかもしれない。
そんな本作で高橋監督はかなり桐島に傾倒しているようにも
見えるが、監督と同い年の自分には桐島のような行動を起こ
せない今のネット依存症で言論だけが達者な若者への苛立ち
のような物も感じてしまう。
それは多分70年安保時代への郷愁でもあるのだろう。あの時
代の若者は間違いなく今の時代より活力があって、そんな時
代を謳歌していた。そんな見果てぬ夢を見ているような作品
でもあった。

公開は7月4日より、東京地区は新宿武蔵野館、アップリン
ク吉祥寺、MOVIX昭島他にて全国順次ロードショウとなる。
なおこの紹介文は、配給会社渋谷プロダクションの招待で試
写を観て投稿するものです。


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井口健二